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特許7450439研磨用組成物および磁気ディスク基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】研磨用組成物および磁気ディスク基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20240308BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240308BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240308BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
G11B5/84 A
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020064154
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163508
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】大山 貴治
【審査官】松元 伸次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174009(JP,A)
【文献】特開2019-117904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00-3/60
21/00-39/06
C06B21/00-49/00
C06C5/00-15/00
C06D3/00-7/00
C06F1/00-5/04
C09F1/00-11/00
C09G1/00-3/00
C09K3/14
C10F5/00-7/08
C10H1/00-21/16
G11B5/84-5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板研磨用組成物であって、
砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水とを含み、
さらに、繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性高分子Aを含み、
前記水溶性高分子Aのけん化度は90%以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記水溶性高分子Aのけん化度は90%未満である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子Aの含有量は、重量基準で、前記シリカ粒子の含有量の1/200未満である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子Aの含有量は200ppm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子Aの重合度は50以上2000以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子はコロイダルシリカである、請求項1~5のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記シリカ粒子の平均一次粒子径は1nm以上50nm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記酸としてリン酸を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
pHが1~4の範囲内である、請求項1~8のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および該研磨用組成物を用いた磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高精度な表面が要求される基板の製造プロセスには、研磨液を用いて該基板の原材料である研磨対象基板を研磨する工程が含まれる。例えば、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(以下、Ni-P基板ともいう。)の製造においては、一般に、より研磨効率を重視した研磨(一次研磨)と、最終製品の表面精度に仕上げるために行う最終研磨(仕上げ研磨)とが行われている。Ni-P基板を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する技術文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/177251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板研磨用組成物には、該研磨用組成物による研磨によって基板表面に発生する欠陥(例えばスクラッチ)が少ないことが求められる。そのような欠陥低減を実用的な研磨速度とともに実現することが、工業的観点から重要である。上記欠陥低減に関し、例えば特許文献1では、湿式法シリカと、酸化剤と、キレート剤と、加水分解度99%(すなわち、けん化度99%)のポリビニルアルコールと、水とを含む研磨用組成物を用いて上記磁気ディスク基板の研磨を実施し、スクラッチや微粒子付着の低減を検討している。しかし、特許文献1では研磨速度の検討はなされていない。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながらスクラッチを効果的に低減することのできる研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、そのような研磨用組成物を用いて磁気ディスク基板を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書によると、ニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水とを含み、さらに、繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性高分子Aを含む。そして、前記水溶性高分子Aのけん化度は90%以下である。かかる構成によると、Ni-P基板の研磨に用いられて、実用的な研磨速度を維持しながらスクラッチを効果的に低減することができる。
【0007】
いくつかの態様において、前記水溶性高分子Aのけん化度は90%未満である。けん化度が90%未満である水溶性高分子Aの使用により、実用的な研磨速度の維持とスクラッチ低減とを好ましく実現することができる。
【0008】
いくつかの好ましい態様において、前記水溶性高分子Aの含有量は、重量基準で、前記シリカ粒子の含有量の1/200未満(200分の1よりも小さい)である。水溶性高分子Aの濃度をシリカ粒子の量に対して所定値未満とすることで、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。また、上記組成の研磨用組成物は、シリカ粒子の分散安定性も良好となりやすい。
【0009】
いくつかの好ましい態様において、前記水溶性高分子Aの含有量は200ppm以下である。水溶性高分子Aの濃度を200ppm以下とすることで、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。また、水溶性高分子Aの濃度が200ppm以下である研磨用組成物は、当該研磨用組成物中のシリカ粒子の分散安定性も良好となりやすい。
【0010】
いくつかの態様において、前記水溶性高分子Aの重合度は50以上2000以下である。上記重合度を有する水溶性高分子Aを用いることで、ここに開示される技術による効果は好ましく発揮される。また、上記重合度を有する水溶性高分子Aを含む研磨用組成物において、シリカ粒子は良好な分散安定性を示しやすい。
【0011】
いくつかの態様において、前記シリカ粒子としてコロイダルシリカが用いられる。砥粒としてコロイダルシリカを用いることで、スクラッチ低減を実現しやすい。
【0012】
上記シリカ粒子としては、平均一次粒子径が1nm以上50nm以下のものを好ましく採用し得る。上記範囲の平均一次粒子径を有するシリカ粒子を含む構成によると、優れたスクラッチ低減効果が得られやすい。そのような研磨用組成物は、研磨後に高い表面品位が要求される研磨工程において好ましく使用され得る。
【0013】
いくつかの態様において、前記酸としてリン酸が用いられる。酸としてリン酸を含む組成において、研磨速度維持とスクラッチ低減との両立が好ましく実現される。
【0014】
いくつかの態様に係る研磨用組成物は、pHが1~4の範囲内である。かかるpH環境下において、研磨速度維持とスクラッチ低減との両立が好ましく実現される。
【0015】
また、この明細書によると、磁気ディスク基板の製造方法が提供される。その製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて研磨対象物(Ni-P基板)を研磨する工程を含む。かかる製造方法によると、スクラッチが少ない高品位な表面を有する磁気ディスク基板(Ni-P基板)を効率よく製造し得る。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<研磨用組成物>
(シリカ粒子)
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてシリカ粒子を含む。シリカ粒子は、Ni-P基板の表面を機械的に研磨する働きを有する。ここに開示される研磨用組成物に含まれるシリカ粒子は、シリカを主成分とする各種のシリカ粒子であり得る。ここで、シリカを主成分とするシリカ粒子とは、該粒子の90重量%以上、例えば95重量%以上、さらには98重量%以上がシリカである粒子をいう。使用し得るシリカ粒子の例としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ(例えば、ケイ酸ソーダ法シリカ、アルコキシド法シリカ等)、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。表面改質としては、例えば、官能基の導入、金属修飾等の化学的修飾が挙げられる。ここに開示される技術における砥粒は、このようなシリカ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0018】
ここに開示される技術におけるシリカ砥粒の構成成分として使用し得るシリカ粒子の一好適例として、コロイダルシリカが挙げられる。なかでも、ケイ酸ソーダ法シリカやアルコキシド法シリカのように、水相での粒子成長を経て合成されたコロイダルシリカの使用が好ましい。この種のコロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、高い研磨速度と良好な面精度とが好適に達成され得る。ここに開示されるシリカ砥粒がコロイダルシリカを含む場合、該シリカ砥粒に含まれるコロイダルシリカは、1種であってもよく、製造条件および/または物性の異なる2種以上であってもよい。また、上記シリカ砥粒は、1種または2種以上のコロイダルシリカからなる構成であってもよく、コロイダルシリカと、他のシリカ粒子すなわちコロイダルシリカ以外のシリカ粒子とを組み合わせて含む構成であってもよい。いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物に含まれる砥粒が、コロイダルシリカを単独で含む。コロイダルシリカを単独で用いることにより、高い研磨速度を保ちつつ、より良好な面精度(例えばスクラッチ数の低減された表面)が実現され得る。
【0019】
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、例えば球形であってもよく、非球形であってもよい。ここに開示される研磨用組成物をNi-P基板の仕上げ研磨工程に使用する場合は、球形に近い形状が好ましい。
【0020】
シリカ粒子の平均一次粒子径は特に限定されない。いくつかの態様において、BET法により測定されるシリカ粒子の平均一次粒子径は1nm以上である。平均一次粒子径の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。研磨効率等の観点から、上記平均一次粒子径は、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは15nm以上である。また、より面精度の高い表面を得るという観点から、上記平均一次粒子径は、例えば100nm未満であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下、特に好ましくは35nm以下である。いくつかの好ましい態様において、上記平均一次粒子径は、例えば30nm以下としてもよく、例えば25nm以下(例えば20nm以下)としてもよい。
【0021】
なお、ここに開示される技術において、シリカ粒子の平均一次粒子径は、BET法に基づいて求められる平均粒子径をいう。シリカ粒子の平均一次粒子径は、BET法により測定される比表面積(BET値)から、D1(nm)=(6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される。上記比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0022】
特に限定するものではないが、シリカ粒子の個数基準の累積粒度分布における粒子全体の平均アスペクト比は、原理上1.0以上であり、研磨能率の観点から、例えば1.03以上であってもよく、1.06以上でもよく、1.08以上でもよい。また、面精度を効率よく高めやすくする観点から、いくつかの態様において、上記粒子全体の平均アスペクト比は、1.30以下であることが適当である。シリカ粒子全体の平均アスペクト比の低減によって、シリカ粒子が転がり移動しやすくなるため加工が安定し、スクラッチがより好ましく低減され得る。シリカ粒子全体の平均アスペクト比は、好ましくは1.28以下、より好ましくは1.25以下(例えば1.20以下)である。ここで、シリカ粒子の平均アスペクト比とは、該シリカ粒子を構成する個々の粒子の長径/短径比の平均値、すなわち個数平均アスペクト比をいう。以下、特記しない場合、本明細書において平均アスペクト比とは、上記個数平均アスペクト比を意味するものとする。
【0023】
また、シリカ粒子の小径側からの累積粒度分布における累積0~5%のD0-5粒子の平均アスペクト比は、原理上1以上であり、その下限値は特に限定されないが、例えば1.05以上、典型的には1.08以上であってもよい。ここでD0-5粒子とは、砥粒(シリカ粒子)の個数基準の累積粒度分布(小径側からの累積個数分布)において、小径側からの累積が0~5%の範囲内に該当する粒子径を有する粒子のことをいう。上記累積個数分布は、典型的には、横軸を粒子径とし、縦軸を累積個数(%)とするグラフにおいて、累積0%および粒子径の小径側の端(左下)から右上に延びて、累積100%および粒子径の大径側の端(右上)に到達する曲線によって表される。D0-5粒子は、小径側から個数基準で5%を占める小径粒子である。スクラッチをより良く低減する等の観点から、いくつかの態様において、D0-5粒子の平均アスペクト比は、通常1.25以下であることが適当である。一般的に球形のシリカであっても小径側には形状が球形から歪んだ異形粒子を含むことがあり、小径の異形粒子が球形粒子に対する楔(くさび)の役割を果たすことで、球形粒子であっても局所的に砥粒が転がりにくくなり、研磨後の表面にスクラッチが生じやすくなる。D0-5粒子の平均アスペクト比の低減によって、上記楔となり得る小径の粒子がより球形に近い形状となる。球形度の高い小径粒子は、研磨時において上記楔になりにくいため、局所的に砥粒が転がりにくくなる事象が生じにくくなるため、スクラッチがより好ましく低減され得る。D0-5粒子の平均アスペクト比は、好ましくは1.24以下、より好ましくは1.23以下、さらに好ましくは1.22以下である。
【0024】
シリカ粒子の個数平均アスペクト比は、例えば次の方法で測定される。すなわち、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM、日立ハイテクノロジーズ社製STEM HD-2700)を用いて、測定対象のシリカ粒子に含まれるTEMにて観察可能な所定個数の(1000個以上の)粒子を、1視野内に100個程度観察可能な倍率(例えば200000倍~400000倍)で撮影し、TEM画像を取得する。そして、各粒子画像に外接する最小の長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を各粒子の長径/短径比(アスペクト比)として算出する。また、各粒子の画像から各粒子の面積を算出し、算出された面積と同一の面積を有する理想円(真円)の直径を各粒子の粒子径として算出する。すなわち、測定対象とするシリカ粒子の累積粒度分布は、当該シリカ粒子を構成する個々の粒子について上記算出された粒子径を横軸に、累積個数(%)を縦軸にプロットすることにより求められる。そして、上記所定個数の粒子のアスペクト比から、小径側からの上記累積粒度分布における所定の累積範囲の粒子の個数平均アスペクト比を算術平均することにより、D0-5粒子、および全粒子の平均アスペクト比を求めることができる。上記各アスペクト比は、マウンテック社製画像解析ソフトウエアMacViewを用いて求めることができる。
なお、上記所定個数、すなわち粒子毎のアスペクト比を算出する粒子の個数は、測定精度や再現性を高める観点から、1000個以上とすることが適当であり、1500個以上とすることが好ましい。上記所定個数の上限は特に制限されない。測定効率の観点から、上記所定個数は、例えば5000個以下であってよく、2500個以下でもよい。
【0025】
研磨用組成物におけるシリカ粒子の含有量は特に制限されず、例えば0.1重量%以上であり、0.5重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、3重量%以上であることがさらに好ましい。上記含有量は、複数種類のシリカ粒子を含む場合には、それらの合計含有量である。シリカ粒子の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現される傾向にある。研磨後の基板の表面平滑性や砥粒の分散安定性の観点から、上記含有量は、25重量%以下が適当であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下、例えば8重量%以下である。
【0026】
ここに開示される研磨用組成物において、該研磨用組成物に含まれる固形分に占めるシリカ粒子の含有量は、本発明による効果を発揮しやすくする観点から、上記固形分全体の10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上である。なお、本明細書において研磨用組成物に含まれる固形分とは、結合水が除去されない程度の温度、例えば60℃で研磨用組成物から水分を蒸発させた後の残留分すなわち不揮発分をいう。
【0027】
いくつかの好ましい態様では、研磨用組成物は、砥粒として実質的にシリカ粒子のみを含むものであり得る。ここで、実質的にシリカ粒子のみを含むとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうちシリカ粒子の割合が99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.9重量%以上であることをいう。このような態様において、ここに開示される技術の適用効果が好適に発揮され得る。
【0028】
(非シリカ砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で、上記シリカ粒子以外の粒子を含有してもよい。シリカ粒子以外の粒子としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれも利用可能である。無機粒子の具体例としては、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩;等が挙げられる。上記アルミナ粒子としては、α-アルミナ、α-アルミナ以外の中間アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。中間アルミナとは、α-アルミナ以外のアルミナ粒子の総称であり、具体例としてはγ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、κ-アルミナおよびこれらの複合物が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。これらシリカ粒子以外の粒子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0029】
ここに開示される研磨用組成物は、アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。アルミナ粒子としては、例えばα-アルミナ粒子が挙げられる。かかる研磨用組成物によると、アルミナ粒子の使用に起因する品質低下が防止される。ここでいう品質低下としては、例えば、スクラッチや窪みの発生、アルミナの残留、砥粒の突き刺さり欠陥等が挙げられる。なお、本明細書において、所定の砥粒、例えばアルミナ粒子を実質的に含まないとは、研磨用組成物に含まれる固形分全量のうち当該砥粒の割合が1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下であることをいう。アルミナ粒子の割合が0重量%である研磨用組成物、すなわちアルミナ粒子を含まない研磨用組成物が特に好ましい。また、ここに開示される研磨用組成物は、α-アルミナ粒子を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0030】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は、酸を含む。酸は、Ni-P基板を化学的に研磨する働きをする。酸としては、無機酸および有機酸のいずれも使用可能である。酸は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
無機酸の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、硝酸、硫酸、塩酸、ホウ酸、スルファミン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、ヘキサメタリン酸、炭酸、フッ化水素酸、亜硫酸、チオ硫酸、塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、ヨウ化水素酸、過ヨウ素酸、ヨウ素酸、臭化水素酸、過臭素酸、臭素酸、クロム酸、亜硝酸等が挙げられる。
【0032】
有機酸の例としては、有機カルボン酸、有機ホスホン酸、有機スルホン、アミノ酸等が挙げられる。これらの有機酸に含まれる炭素原子数は、例えば1~18程度であり、例えば1~10程度であることが好ましい。
有機酸の具体例としては、マロン酸、クエン酸、イソクエン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、グリコール酸、コハク酸、イタコン酸、イミノ二酢酸、グルコン酸、乳酸、マンデル酸、酒石酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アジピン酸、シュウ酸、吉草酸、エナント酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、クロトン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレン酸、メタクリル酸、グルタル酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ安息香酸、サリチル酸、メチレンコハク酸、没食子酸、アスコルビン酸、ニトロ酢酸、オキサロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ニコチン酸やピコリン酸等のピリジンカルボン酸、等の有機カルボン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、エチルグリコールアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタンヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸、α-メチルホスホノコハク酸、アミノポリ(メチレンホスホン酸)等の有機ホスホン酸;エタンスルホン酸、アミノエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸、10-カンファースルホン酸、タウリン等の有機スルホン酸;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、プロリン、シスチン、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン等のアミノ酸;等が挙げられる。
【0033】
研磨効率の観点から好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、フィチン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等が例示される。なかでも好ましい酸として、リン酸、ホスホン酸、マロン酸、クエン酸、マレイン酸が挙げられる。
【0034】
酸は、該酸の塩の形態で用いられてもよい。塩の例としては、上述した無機酸や有機酸の、金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩等が挙げられる。金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。アルカノールアミン塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩が挙げられる。
【0035】
ここに開示される研磨用組成物に含有させ得る塩の具体例としては、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩;上記で例示した有機酸のアルカリ金属塩;その他、グルタミン酸二酢酸のアルカリ金属塩、ジエチレントリアミン五酢酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸のアルカリ金属塩、トリエチレンテトラミン六酢酸のアルカリ金属塩;等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩におけるアルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり得る。
【0036】
いくつかの態様において、上記塩として、無機酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩等の無機酸塩を好ましく採用し得る。例えば、上述したアルカリ金属リン酸塩やアルカリ金属リン酸水素塩の他、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等を好ましく使用し得る。なかでも好ましい例として、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。アルカリ金属リン酸水素塩が特に好ましい。
【0037】
酸およびその塩は、1種を単独でまたは2種以上(例えば2種または3種)を組み合わせて用いることができる。いくつかの好ましい態様において、酸と、該酸とは異なる酸の塩とを組み合わせて用いることができる。上記酸は、好ましくは無機酸である。上記酸の塩は、好ましくは無機酸の塩である。
【0038】
研磨用組成物における酸の含有量は特に限定されない。酸の含有量は、0.1重量%以上が適当であり、0.5重量%以上が好ましく、0.8重量%以上がより好ましく、例えば1.2重量%以上である。酸の含有量を増加することで、実用的な研磨速度が得られやすい傾向がある。酸の含有量は、15重量%以下が適当であり、10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましく、例えば3重量%以下である。酸の含有量を制限することにより、研磨対象物の面精度は向上しやすい。
【0039】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を含有する。酸化剤の例としては、過酸化物、硝酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩、ペルオキソ酸またはその塩、過マンガン酸またはその塩、クロム酸またはその塩、酸素酸またはその塩、金属塩類、硫酸類等が挙げられるが、これらに限定されない。酸化剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、硝酸、硝酸鉄、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ一硫酸アンモニウム、ペルオキソ一硫酸金属塩、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸金属塩、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸ナトリウム、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、過マンガン酸カリウム、クロム酸金属塩、重クロム酸金属塩、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄等が挙げられる。好ましい酸化剤として、過酸化水素、硝酸鉄、過ヨウ素酸、ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸および硝酸が例示される。少なくとも過酸化水素を含むことが好ましく、過酸化水素からなることがより好ましい。
【0040】
研磨用組成物における酸化剤の含有量は、研磨対象物を酸化する速度、ひいては研磨速度を考慮して、有効成分量基準で0.01重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上であり、0.2重量%以上でもよく、0.3重量%以上でもよい。また、研磨対象物の面精度を高める観点から、研磨用組成物における酸化剤の含有量は、有効成分量基準で5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。
【0041】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、水を含む。水としては、イオン交換水、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。上記イオン交換水は、脱イオン水であり得る。
【0042】
(水溶性高分子A)
ここに開示される研磨用組成物は、繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性高分子Aを含む。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分である。また、上記水溶性高分子Aのけん化度は90%以下である。けん化度が90%以下であるVA単位含有水溶性高分子Aを含む研磨用組成物を用いることにより、Ni-P基板の研磨において、実用的な研磨速度を維持しながらスクラッチを効果的に低減することができる。水溶性高分子Aは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
上記のような効果が得られる理由は、例えば以下のように考えられる。シリカ粒子を含む研磨用組成物を用いたNi-P基板研磨において、当該研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコール(PVA)等のVA単位含有高分子Aは、シリカ粒子に吸着する傾向を示す。シリカ粒子に吸着した上記高分子Aは、シリカ粒子同士の接触の妨げとなり、シリカの凝集による粗大粒子の生成を抑制し、スクラッチの低減に貢献し得る。また、けん化度が90%以下であるVA単位含有水溶性高分子Aは、分子中に非けん化の繰返し単位を有する。この非けん化の繰返し単位は、VA単位と比べて疎水性が高いため、けん化度が90%以下であるVA単位含有水溶性高分子がシリカ粒子に吸着すると、その疎水性部分が別のシリカの親水性部分と反発し、この反発により、シリカ粒子同士の接触が妨げられ、シリカの凝集による粗大粒子の生成が抑制されてスクラッチを効果的に低減するものと考えられる。なお、上記のメカニズムは、実験結果に基づく本発明者の考察であり、ここに開示される技術は、上記のメカニズムに限定して解釈されるものではない。
【0044】
いくつかの態様において、水溶性高分子Aのけん化度は90%未満であり得る。より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、上記けん化度は、好ましくは89%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは82%以下であり、80%以下であってもよく、70%以下でもよく、60%以下でもよく、50%以下でもよい。また、水溶性高分子Aのけん化度は特定の範囲に限定されず、例えば20%以上であり、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、30%以上が適当であり、45%以上であってもよく、55%以上でもよく、65%以上でもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上(例えば85%以上)でもよい。
【0045】
なお、本明細書における水溶性高分子Aのけん化度は、当該水溶性高分子A一分子に含まれるVA単位とモノカルボン酸ビニル単位(典型的には酢酸ビニル単位)のモル数の比から求められる。具体的には、水溶性高分子Aのけん化度[%]は、当該水溶性高分子A一分子中、上記VA単位のモル数aと、モノカルボン酸ビニル単位(典型的には酢酸ビニル単位)のモル数bとから得られる比:a/(a+b)×100;で表わされる。上記より、上記けん化度はモル基準の比率であり、単位[%]は「モル%」と言い換えることができる。なお、モノカルボン酸ビニル単位(典型的には酢酸ビニル単位)とは、水溶性高分子Aの重合に用いられたモノカルボン酸ビニル(典型的には酢酸ビニル)に由来する水溶性高分子A中の繰返し単位をいう。例えば、水溶性高分子Aが、酢酸ビニルを用いて重合したポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)して得たポリビニルアルコールである場合、重合後の水溶性高分子Aにおいて、重合前の酢酸ビニルに由来する繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)が酢酸ビニル単位となる。水溶性高分子Aのけん化度は、JIS K 6726:1994に基づいて、あるいはJIS K 6726:1994を参考にして必要な場合適宜条件を変更して測定することができる。あるいは、水溶性高分子Aのけん化度はH-NMRから算出してもよい。具体的には、測定によって得られたH-NMRスペクトルにおいて、水溶性高分子A主鎖のエチレンのピーク(a+bに対応)と、モノカルボン酸ビニル単位(典型的には酢酸ビニル単位)に対応するピーク(bに対応)とから、上式:a/(a+b)×100;に基づくけん化度[%]を求めることができる。
【0046】
水溶性高分子Aは、VA単位と、VA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含むものであり得る。例えば、水溶性高分子Aは、上記のように、モノカルボン酸ビニル単位を含む非VA単位を含むものであり得る。水溶性高分子Aは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。水溶性高分子Aは、1種類の非VA単位のみを含んでもよく、2種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0047】
水溶性高分子Aを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合(モル%)は、例えば90%未満であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、好ましくは89%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは82%以下であり、80%以下であってもよく、70%以下でもよく、60%以下でもよく、50%以下でもよい。また、上記VA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってもよく、10%以上でもよく、20%以上でもよい。いくつかの好ましい態様において、上記VA単位のモル数の割合は、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、30%以上が適当であり、45%以上であってもよく、55%以上でもよく、65%以上でもよく、70%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上(例えば85%以上)でもよい。なお、水溶性高分子Aが非変性ポリビニルアルコールである場合、けん化度と上記VA単位のモル数とは概ね同じ値となる。
【0048】
水溶性高分子Aを構成する全繰返し単位のモル数に占める非VA単位のモル数の割合(モル%)は、例えば10%超であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、好ましくは11%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上であり、20%以上であってもよく、30%以上でもよく、40%以上でもよく、50%以上でもよい。また、上記非VA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってもよく、90%以下でもよく、80%以下でもよい。いくつかの好ましい態様において、上記非VA単位のモル数の割合は、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、70%以下が適当であり、55%以下であってもよく、45%以下でもよく、35%以下でもよく、30%以下でもよく、25%以下でもよく、20%以下(例えば15%以下)でもよい。
【0049】
水溶性高分子Aは、変性されていないポリビニルアルコール(非変性PVA)であってもよく、変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であってもよい。ここで非変性PVAとは、ポリ酢酸ビニル等のポリモノカルボン酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成し、モノカルボン酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(モノカルボン酸ビニル単位)およびVA単位からなり、それ以外(モノカルボン酸ビニル単位およびVA単位以外)の繰返し単位を実質的に含まないポリビニルアルコール系ポリマーをいう。水溶性高分子Aとして、ポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより生成したものを用いる場合、当該水溶性高分子Aは、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)およびVA単位からなり、それ以外(酢酸ビニル単位およびVA単位以外)の繰返し単位を実質的に含まないポリビニルアルコール系ポリマーである。いくつかの好ましい態様において、水溶性高分子Aとして、けん化度が90%以下である非変性PVAが用いられる。上記非変性PVAは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
いくつかの好ましい態様において、水溶性高分子Aとして非変性PVAが用いられる。上記非変性PVAのけん化度は、例えば90%未満であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、好ましくは89%以下、より好ましくは85%以下、さらに好ましくは82%以下であり、80%以下であってもよく、78%以下でもよく、75%以下でもよい。また、上記非変性PVAのけん化度は、例えば20%以上であり、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、50%以上(例えば60%以上)が適当であり、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上であり、80%以上(例えば85%以上)でもよい。
【0051】
水溶性高分子Aとして非変性PVAが用いられる態様において、水溶性高分子Aは、VA単位と、非VA単位としてのモノカルボン酸ビニル単位(例えば酢酸ビニル単位)とからなるものであり得る。この態様においては、高分子の調製や入手性、特性の制御しやすさ等の観点から、水溶性高分子Aを構成する非VA単位として酢酸ビニル単位が好ましく採用される。
【0052】
他のいくつかの好ましい態様において、水溶性高分子Aとして変性ポリビニルアルコール系ポリマー(以下「変性PVA」ともいう。)が用いられる。変性PVAは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。変性PVAのけん化度は、例えば90%未満であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、好ましくは89%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下であり、60%以下であってもよく、50%以下でもよい。また、上記変性PVAのけん化度は、例えば5%以上(例えば10%以上)であってもよく、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、20%以上が適当であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、40%以上(例えば45%以上)でもよく、50%以上でもよく、70%以上でもよく、80%以上(例えば85%以上)でもよい。
【0053】
変性PVAに含まれ得る非VA単位としては、例えば後述するN-ビニル型のモノマーやN-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位、エチレンに由来する繰返し単位、アルキルビニルエーテルに由来する繰返し単位、炭素原子数3以上のモノカルボン酸のビニルエステルに由来する繰返し単位、等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
水溶性高分子Aとして変性PVAが用いられる態様において、水溶性高分子Aは、VA単位と、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基(スルホン酸基)、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する非VA単位とを含む変性PVAであり得る。また、水溶性高分子Aは、VA単位の一部がアルデヒドでアセタール化された変性PVAであってもよい。上記アルデヒドとしては、例えばアルキルアルデヒドを用いることができ、炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルキルアルデヒド、例えばn-ブチルアルデヒドを用いることができる。水溶性高分子Aとして、第四級アンモニウム構造が導入された変性PVAを使用してもよい。そのような変性PVAとしては、例えば、ジアリルジアルキルアンモニウム塩、N-(メタ)アクリロイルアミノアルキル-N,N,N-トリアルキルアンモニウム塩等に由来する有機基が導入されたものが挙げられる。
【0055】
いくつかの好ましい態様において、水溶性高分子Aは、オキシアルキレン単位を含む水溶性高分子であり得る。上記水溶性高分子Aは、オキシアルキレン単位を繰返し単位として含む水溶性高分子、または(ポリ)オキシアルキレン基を有するアルキレンオキシド変性水溶性高分子であり得る。上記水溶性高分子Aは、オキシアルキレン構造を有する水溶性高分子と言い換えることができる。ここに開示される技術による効果は、上記のようなオキシアルキレン構造を有する水溶性高分子Aを用いる態様で好ましく発揮される。オキシアルキレン構造を有する水溶性高分子は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記オキシアルキレン構造を有する水溶性高分子Aは、例えば、アルキレンオキシドで変性された変性PVAであり得る。上記アルキレンオキシドの例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。水溶性高分子Aは、上記アルキレンオキシドの1種を単独でまたは2種以上を含むものであってもよい。上記水溶性高分子A中のオキシアルキレン構造におけるオキシアルキレン単位(例えばオキシエチレン単位、オキシプロピレン単位)の数は特に限定されず、例えば1~30であり、1~20であってもよく、1~10程度であり得る。
【0056】
水溶性高分子Aとして、オキシアルキレン構造を有する水溶性高分子が用いられる態様において、オキシアルキレン構造含有水溶性高分子Aのけん化度は、例えば90%未満であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下であり、55%以下であってもよく、50%以下でもよい。また、上記オキシアルキレン構造含有水溶性高分子Aのけん化度は、例えば5%以上(例えば10%以上)であってもよく、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、20%以上が適当であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上であり、40%以上(例えば45%以上)でもよい。
【0057】
他のいくつかの態様において、水溶性高分子Aは、カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性基を有する水溶性高分子であり得る。ここに開示される技術による効果は、上記のようなアニオン性基を有する水溶性高分子Aを用いる態様でも好ましく発揮される。上記アニオン性基を有する水溶性高分子Aは、カルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性基で変性された変性PVAであり得る。アニオン性基の例としては、カルボキシ基、スルホン酸基等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を含む水溶性高分子Aが用いられ得る。
【0058】
水溶性高分子Aとして、アニオン性基(例えばスルホン酸基)を有する水溶性高分子が用いられる態様において、アニオン性基含有水溶性高分子Aのけん化度は、例えば90%未満であり、より効果的なスクラッチ低減を実現する観点から、89%以下であってもよい。また、上記アニオン性基含有水溶性高分子Aのけん化度は、例えば20%以上であり、シリカ粒子への吸着性やシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、50%以上が適当であり、好ましくは70%以上であり、80%以上でもよく、85%以上でもよい。
【0059】
水溶性高分子Aの重合度は、特定の範囲に限定されない。水溶性高分子Aの重合度は、20000以下であってもよく、例えば10000以下でもよく、5000以下でもよい。研磨用組成物中のシリカ粒子の分散安定性、研磨速度等の観点から、水溶性高分子Aの重合度は、2000以下が適当であり、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは400以下であり、350以下でもよく、300以下でもよく、250以下でもよい。また、水溶性高分子Aの重合度は、10以上(例えば30以上)であり得る。スクラッチ低減の観点から、水溶性高分子Aの重合度は、50以上が適当であり、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは200以上、特に好ましくは250以上であり、300以上であってもよく、400以上でもよい。なお、重合度とは、水溶性高分子Aを構成するモノマー単位(繰返し単位)の個数をいう。
【0060】
水溶性高分子Aの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。水溶性高分子AのMwは、100×10以下が適当であり、30×10以下が好ましく、20×10以下でもよい。水溶性高分子AのMwが小さくなると、水溶性高分子Aの分散安定性は向上する傾向にある。かかる観点から、いくつかの態様において、水溶性高分子AのMwは、15×10以下でもよく、10×10以下でもよい。また、水溶性高分子AのMwは、2×10以上であることが適当であり、5×10以上であってもよく、1×10以上であってもよい。
【0061】
なお、本明細書において、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)としては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定は、例えば下記の条件で行うことができる。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0062】
ここに開示する技術において、研磨用組成物における水溶性高分子Aの含有量(2種以上の水溶性高分子Aを用いる場合は、その合計含有量)は、発明の効果を発揮する範囲で他の成分(例えばシリカ粒子)等との関係から適切に設定され得るので、特定の範囲に限定されない。研磨用組成物におけるシリカ粒子の分散安定性の観点から、水溶性高分子Aの使用は制限されていることが好ましい。一方、ここに開示される技術によると、研磨用組成物における水溶性高分子Aの含有量を減少させても、優れたスクラッチ低減性能が発揮され得る。研磨用組成物における水溶性高分子Aの含有量は、例えば250ppm(重量基準)未満とすることができ、研磨用組成物中のシリカ粒子の分散安定性向上や研磨速度等の観点から、200ppm以下(例えば200ppm未満)が適当であり、好ましくは100ppm以下(例えば100ppm未満)、より好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下(例えば50ppm未満)、特に好ましくは40ppm以下(例えば30ppm以下)であり、20ppm以下であってもよく、10ppm以下でもよく、7ppm以下でもよい。上記のような水溶性高分子Aの少量使用により、実用的な研磨速度の維持とスクラッチ低減との両立が好ましく実現される。上記研磨用組成物における上記水溶性高分子Aの含有量は、例えば0.01ppm以上とすることができ、水溶性高分子Aの作用を効果的に発揮させる観点から、0.1ppm以上が適当であり、好ましくは1ppm以上、より好ましくは3ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、特に好ましくは20ppm以上であり、30ppm以上であってもよく、40ppm以上でもよい。
【0063】
ここに開示される研磨用組成物に含まれる水溶性高分子Aの量は、当該研磨用組成物に含まれるシリカ粒子との相対的関係によっても特定され得る。いくつかの態様において、水溶性高分子Aの含有量は、重量基準で、シリカ粒子の含有量の1/50よりも小さく(50分の1よりも小さく)、例えば1/100よりも小さくてもよい。いくつかの好ましい態様において、水溶性高分子Aの含有量は、重量基準で、シリカ粒子の含有量の1/200よりも小さく、より好ましくは1/500よりも小さく、さらに好ましくは1/1000よりも小さく、特に好ましくは1/1500よりも小さく、1/2000よりも小さくてもよい。水溶性高分子Aの濃度をシリカ粒子の量に対して所定値未満とすることで、研磨用組成物中のシリカ粒子の分散安定性は向上する傾向があり、研磨速度も維持しやすい。また、ここに開示される技術によると、シリカ粒子量に対する水溶性高分子Aの量を減少させても、優れたスクラッチ低減性能が発揮され得る。水溶性高分子Aの含有量は、重量基準で、シリカ粒子の含有量の1/100,000以上とすることが適当であり、水溶性高分子Aの作用を効果的に発揮する観点から、好ましくは1/50,000以上、より好ましくは1/20,000以上、さらに好ましくは1/8000以上、特に好ましくは1/3000以上であり、1/1500以上であってもよい。
【0064】
(水溶性高分子B)
ここに開示される研磨用組成物は、発明の効果が著しく損なわれない範囲で、任意成分として水溶性高分子Bを含んでもよい。ここでいう水溶性高分子Bは、重量平均分子量(Mw)が凡そ2000以上、例えば3500以上、好ましくは5000以上、例えば6000以上の化合物であり、上述の水溶性高分子Aとは異なる化合物として定義される。水溶性高分子Bは、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。水溶性高分子Bとしては、アニオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー、カチオン性ポリマー、両性ポリマーのいずれも使用可能である。いくつかの態様において、水溶性高分子Bとして、例えばアニオン性ポリマーが用いられる。アニオン性ポリマーとしては、カルボン酸系重合体、スルホン酸系重合体などが挙げられる。
【0065】
水溶性高分子Bの具体例としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物;ポリスチレンスルホン酸系化合物;その他、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリビニルアルコール(水溶性高分子Aに該当しない完全けん化PVA)、変性ポリビニルアルコール(水溶性高分子Aに該当しない変性PVA)、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン等が挙げられる。水溶性高分子Bは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
研磨用組成物における水溶性高分子B(好ましくは、スルホン酸系重合体)の濃度は、特に限定されず、例えば0.0001重量%以上であり得る。研磨中における基板の保護効果を高める観点から、上記濃度は、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.001重量%以上であり、0.002重量%以上でもよく、0.0025重量%以上でもよく、0.003重量%以上でもよい。また、研磨中における基板の保護性と研磨後の基板からの洗浄除去性とを好適に両立しやすくする観点から、水溶性高分子Bの濃度は、0.2重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.15重量%以下、例えば0.1重量%以下であり、0.07重量%以下でもよく、0.05重量%以下でもよい。
【0067】
(塩基性化合物)
研磨用組成物には、pH調整等の目的で、必要に応じて塩基性化合物を含有させることができる。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物の例としては、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウム等の第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン等が挙げられる。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(例えば、Ni-P基板等のような磁気ディスク基板用の研磨用組成物)に使用され得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0069】
界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用可能である。界面活性剤の使用により、研磨用組成物の分散安定性が向上し得る。界面活性剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、アルキル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリアクリル酸、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤の他の具体例としては、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メチルナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、アントラセンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ベンゼンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のポリアルキルアリールスルホン酸系化合物;メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等のメラミンホルマリン樹脂スルホン酸系化合物;リグニンスルホン酸、変成リグニンスルホン酸等のリグニンスルホン酸系化合物;アミノアリールスルホン酸-フェノール-ホルムアルデヒド縮合物等の芳香族アミノスルホン酸系化合物等が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミン塩等が挙げられる。
両性界面活性剤の具体例としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0070】
界面活性剤を含む態様の研磨用組成物では、界面活性剤の含有量を、例えば0.0005重量%以上とすることが適当である。上記含有量は、研磨後の表面の平滑性等の観点から、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上である。また、研磨レート等の観点から、上記含有量は、1重量%以下とすることが適当であり、好ましくは0.5重量%以下、例えば0.1重量%以下である。
【0071】
キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてエチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0072】
防腐剤および防カビ剤の例としては、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0073】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されず、例えば0.5~6.5の範囲から選択し得る。研磨効率等の観点から、研磨用組成物のpHは、例えば4.0以下であり、好ましくは3.7以下、より好ましくは3.5以下であり、3.2以下でもよく、3.0以下でもよく、2.5以下でもよく、2.2以下でもよい。また、研磨用組成物のpHは、例えば1.0以上とすることができ、1.0より高くすることが適当であり、研磨後の基板表面の荒れを抑制する観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上(例えば1.5超)であり、1.7以上でもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物のpHが1.0以上4.0以下(例えば1.5以上3.7以下)である態様で好ましく実施され得る。上述したpHは、Ni-P基板の仕上げ研磨用の研磨用組成物において特に好ましく適用され得る。
【0074】
なお、ここに開示される技術において、研磨用組成物のpHは、pHメーターを用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて測定することにより把握することができる。標準液は、例えば、シュウ酸塩pH標準液:pH1.68(25℃)、フタル酸塩pH標準液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH標準液:pH6.86(25℃)、炭酸塩pH標準液:pH10.01(25℃)である。
【0075】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えば磁気ディスク基板)に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物(濃縮液)は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で1.5倍~20倍程度とすることができる。濃縮液の貯蔵安定性等の観点から、例えば2倍~10倍程度の濃縮倍率が適当である。かかる濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨用組成物(研磨液)を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0076】
<多剤型研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(例えば水以外の成分)のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。いくつかの好ましい態様に係る多剤型研磨用組成物は、砥粒を含むパートA(例えば該砥粒の分散媒をさらに含む分散液)と、砥粒以外の成分の少なくとも一部(例えば、酸、水溶性高分子等)を含むパートBとを含んで構成されている。これらは、例えば使用前は分けて保管されており、使用時に混合して一液の研磨用組成物が調製され得る。混合時には、例えば過酸化水素等の酸化剤や、希釈用の水等がさらに混合され得る。
【0077】
<研磨プロセス>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物(ここではNi-P基板)の研磨に好適に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液(ワーキングスラリー)を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)やpH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0078】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨液を供給する。例えば、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0079】
その後、研磨対象物を洗浄する。例えば、研磨対象物をアルカリ性洗浄液で洗浄するアルカリ洗浄工程を実施する。アルカリ洗浄工程は、例えば、研磨対象物の少なくとも研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることを含む。例えば、研磨対象物をアルカリ性洗浄液に浸漬することにより、研磨対象面にアルカリ性洗浄液を接触させることができる。上記アルカリ性洗浄液に浸漬した研磨対象物に超音波を付与する超音波処理を行ってもよい。上記超音波の付与に加えて、あるいは上記超音波の付与に代えて、ポリビニルアルコール製スポンジ、不織布、ナイロンブラシ等を用いるスクラブ洗浄を行ってもよい。
アルカリ洗浄工程に使用するアルカリ性洗浄液のpHは、例えば7.5以上であってよく、洗浄性向上の観点から、好ましくは8.0以上であり、より好ましくはpH8.5以上、例えば8.8以上である。また、洗浄による基板表面の荒れを防ぐ観点から、上記アルカリ性洗浄液のpHは、11以下が適当であり、10以下が好ましく、9.5以下がより好ましい。アルカリ性洗浄液としては、上述した塩基性化合物の1種または2種以上を含む水溶液を用いることができる。なかでもアルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、例えば水酸化カリウム水溶液を好ましく使用し得る。アルカリ洗浄工程は、市販のアルカリ洗浄液を用いて行ってもよい。
【0080】
なお、研磨液を用いて行う研磨の終了後、アルカリ洗浄工程に移行する前に、研磨対象物を非アルカリ性のリンス液で洗浄してもよい。リンス液としては、純水やイオン交換水等の水や、酸性水溶液(例えば、研磨液から砥粒を除いた組成の水溶液)を用いることができる。
【0081】
<用途>
ここに開示される研磨用組成物は、ニッケルリンめっきが施された磁気ディスク基板(Ni-P基板の研磨に用いられて、該Ni-P基板の表面の欠陥数を効果的に低減し得る。上記Ni-P基板は、基材の表面にニッケルリンめっき層を有する磁気ディスク基板である。上記基材の材質は、例えば、アルミニウム合金、ガラス、ガラス状カーボン等であり得る。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、アルミニウム合金製の基材上にニッケルリンめっき層を有するNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。
この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いた研磨工程と、該研磨工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。
【0082】
ここに開示される研磨用組成物は、Ni-P基板表面の欠陥(スクラッチ等)を高度に低減し得ることから、Ni-P基板のファイナルポリシング工程(仕上げ研磨工程)に特に好ましく使用され得る。この明細書によると、ここに開示される研磨用組成物を用いたファイナルポリシング工程と、該ファイナルポリシング工程後に行われるアルカリ洗浄工程と、を備えるNi-P基板の製造方法および該方法により製造されたNi-P基板が提供され得る。なお、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。上記基板の製造方法は、上記研磨工程の前に行われる粗研磨工程や予備研磨工程をさらに含み得る。
【0083】
ここに開示される研磨用組成物は、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程に用いられてもよい。ここで、ファイナルポリシングよりも上流のポリシング工程とは、粗研磨工程と最終研磨工程との間の予備研磨工程を指す。予備研磨工程は、少なくとも1次ポリシング工程を含み、さらに2次、3次・・・等のポリシング工程を含み得る。上記研磨用組成物は、いずれのポリシング工程にも使用可能であり、これらのポリシング工程において同一のまたは異なる研磨用組成物を用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、ファイナルポリシングの直前に行われるポリシング工程に用いられてもよい。
【0084】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程により表面粗さ20Å以下に調整されたNi-P基板の研磨に好ましく用いられ得る。ここで表面粗さとは、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))という。表面粗さ10Å以下に調整されたNi-P基板の研磨への適用が特に好ましい。これにより、高品位の表面を有するNi-P基板を生産性よく製造し得る。
【実施例
【0085】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0086】
なお、以下の実施例では水溶性高分子として以下の化合物を使用した。
部分けん化PVA-A:部分けん化ポリビニルアルコール(製品名「PVA-203」、クラレ社製、けん化度87~89%、重合度300)
部分けん化PVA-B:部分けん化ポリビニルアルコール(製品名「PVA-205」、クラレ社製、けん化度87~89%、重合度500)
部分けん化PVA-C:部分けん化ポリビニルアルコール(製品名「PVA-403」、クラレ社製、けん化度78~82%、重合度300)
部分けん化PVA-D:部分けん化ポリビニルアルコール(製品名「PVA-505」、クラレ社製、けん化度72~75%、重合度500)
EO変性PVA-A:エチレンオキシド変性ポリビニルアルコール(製品名「ゴーセネックス LW-200」、三菱ケミカル社製、けん化度46~53%、重合度200)
EO変性PVA-B:エチレンオキシド変性ポリビニルアルコール(製品名「ゴーセネックス LW-100」、三菱ケミカル社製、けん化度39~46%、重合度200)
スルホン酸変性PVA-A:スルホン酸変性ポリビニルアルコール(製品名「ゴーセネックス L-3266」、三菱ケミカル社製、けん化度87~89%、重合度200)
スルホン酸変性PVA-B:スルホン酸変性ポリビニルアルコール(製品名「ゴーセネックス CKS-50」、三菱ケミカル社製、けん化度99%以上、重合度200)
完全けん化PVA-A:ポリビニルアルコール(製品名「PVA-103」、クラレ社製、けん化度98~99%、重合度300)
完全けん化PVA-B:ポリビニルアルコール(製品名「PVA-105」、クラレ社製、けん化度98~99%、重合度500)
完全けん化PVA-C:ポリビニルアルコール(製品名「PVA-124」、クラレ社製、けん化度98~99%、重合度2400)
【0087】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1~11および比較例1~8)
砥粒(5重量%)、酸(1.5重量%)、表1に示す水溶性高分子(表1に示す濃度。比較例1を除く。)、過酸化水素(0.4重量%)および脱イオン水を含み、水酸化カリウムでpH2.0に調整された研磨用組成物を調製した。砥粒としては、平均一次粒子径18nmのコロイダルシリカを使用した。酸としては、リン酸(オルトリン酸)を用いた。比較例1では水溶性高分子を用いなかった。
【0088】
<Ni-P基板の研磨>
各例に係る研磨用組成物をそのまま研磨液に使用して、下記の条件で研磨対象物の研磨を行った。研磨対象基板としては、表面に無電解ニッケルリンめっき層を備えたハードディスク用アルミニウム基板を、Schmitt Measurement System社製レーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」により測定される表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))の値が6Åとなるように予備研磨したものを使用した。上記研磨対象物の直径は3.5インチ(外径約95mm、内径約25mmのドーナツ型)、厚さは1.27mmであった。
【0089】
(研磨条件)
研磨装置:スピードファム社製の両面研磨機の両面研磨機、型式「9B-5P」
研磨パッド:スウェードノンバフタイプ
研磨対象基板の投入枚数:10枚((2枚/キャリア)×5キャリア×1バッチ))
研磨液の供給レート:130mL/分
研磨荷重:120g/cm
下定盤回転数:20rpm
研磨時間:5分
【0090】
<洗浄>
研磨後のNi-P基板を純水に浸漬して周波数170kHzで超音波処理を行い、続いてアルカリ性洗浄液(スピードファム(株)から入手可能な洗浄液「CSC-102B」を体積基準で200倍に希釈したもの)に浸漬し、周波数170kHzの超音波を付与しながらポリビニルアルコール製スポンジによるスクラブ洗浄を行った。次いで上記基板を純水に浸漬して周波数950kHzで超音波処理を行った後、イソプロピルアルコール雰囲気中に引き上げて乾燥させた。
【0091】
<研磨速度>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計6枚(3枚/1バッチ)を無作為に選択し、各基板の研磨による基板の重量減少量を測定することにより研磨速度を算出し、これを平均することにより各例の研磨速度とした。具体的には、研磨速度は、次の計算式に基づいて求めた。
研磨速度[μm/分]=研磨による基板の重量減少量[g]/(基板の片面面積[cm]×ニッケルリンめっきの密度[g/cm]×研磨時間[分])×10
ここで、基板の片面面積は66cm、ニッケルリンめっきの密度は7.9g/cmとして計算した。得られた値を、比較例1の値を100とする相対値に換算して、表1の「研磨速度」の欄に示した。研磨速度が90以上であれば、実用的な研磨速度を維持していると判定される。
【0092】
<スクラッチ評価>
各例に係る研磨用組成物により研磨し、洗浄を行って得られた基板の中から計5枚を無作為に選択し、各基板の両面にあるスクラッチを下記条件で検出した。5枚(計10面)のスクラッチ数の合計を10で除して基板片面あたりのスクラッチ数(本/面)を算出した。このようにして求めたスクラッチ数を、比較例1のスクラッチ数を100とする相対値に換算して表1の「スクラッチ」の欄に示した。「スクラッチ」が90以下であれば、スクラッチが効果的に低減されていると判定される。
【0093】
(スクラッチ検出条件)
測定装置:ケーエルエー・テンコール株式会社製 Candela OSA7100
Spindle speed:10000rpm
測定範囲:17000-47000μm
Step size:4μm
Encoder multiplier:×16
検出チャンネル:P‐Sc channel
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示されるように、けん化度が90%以下であるPVAを含む実施例1~11の研磨用組成物を用いた研磨によると、水溶性高分子を含まない比較例1の研磨用組成物と比較して、実用的な研磨速度(研磨速度90以上)を維持しながら、研磨後の基板表面のスクラッチが有意に低減した。また、実施例1~3,6~8,11、比較例2,6~8の結果から、けん化度が90%以下である部分けん化PVAは、けん化度が90%超であるPVAと比較して、研磨速度の低下をよりよく抑制し、かつスクラッチ低減性にも優れることが確認された。なお、けん化度が90%超であるPVAを250ppm、500ppm、1000ppmで含む比較例3~5の研磨用組成物は、凝集発生による相分離のため研磨を実施できず、したがって研磨速度およびスクラッチの評価に至らなかった。
【0096】
上記の結果から、砥粒としてのシリカ粒子と、酸と、酸化剤と、水とを含み、さらに、繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性高分子Aを含み、当該水溶性高分子Aのけん化度が90%以下である研磨用組成物によると、Ni-P基板の研磨において、実用的な研磨速度を維持しながらスクラッチを効果的に低減し得ることがわかる。
【0097】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。