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  • 特許-金属成分の分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】金属成分の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/00 20060101AFI20240308BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240308BHJP
【FI】
G01N31/00 S
G01N27/62 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020065652
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021162496
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】野内 勇雄
(72)【発明者】
【氏名】野村 俊夫
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-126502(JP,A)
【文献】特開2001-215217(JP,A)
【文献】特開2017-156332(JP,A)
【文献】特開2006-184109(JP,A)
【文献】特開平01-149804(JP,A)
【文献】特開平09-072882(JP,A)
【文献】特開平09-034127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 27/62
G01F 7/004
H01J 49/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び有機溶剤を含有するポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分の分析方法であって、
前記ポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する工程(i)、
前記分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属成分を含む分散媒層とに分離する工程(ii)、並びに
前記分散媒層に含まれる前記金属成分の定量を行う工程(iii)
を有し、
前記工程(i)における前記ポリマー組成物と前記酸水溶液との混合比は、質量比として、ポリマー組成物/酸水溶液=0.80~1.25であり、
前記酸水溶液は、少なくとも硝酸が水に溶解した液体である、金属成分の分析方法。
【請求項2】
前記工程(ii)における前記分離の操作を、遠心分離により行う、請求項1に記載の金属成分の分析方法。
【請求項3】
前記工程(iii)における前記金属成分の定量の操作を、誘導結合プラズマを利用した方法により行う、請求項1又は2に記載の金属成分の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成分の分析方法、及びポリマー精製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィー技術においては、例えば、基板の上に、レジスト材料からなるレジスト膜を形成し、当該レジスト膜に対して選択的露光を行い、現像処理を施すことにより、前記レジスト膜に所定形状のレジストパターンを形成する方法が用いられている。
【0003】
半導体素子や液晶表示素子の製造では、リソグラフィー技術の進歩により急速にパターンの微細化、基板の多層化が進んでいる。これに伴い、レジスト材料に混入する異物(不純物)排除の要求が高まっている。
特に、不純物として含まれる金属成分(金属不純物)は、半導体素子等の電気特性を悪化させる点で問題となる。また、金属不純物は、ディフェクト発生の原因となるおそれもある。そのため、レジスト材料に不純物として含まれる金属成分濃度の管理が重要とされる。
【0004】
レジスト材料中の金属不純物の分析方法には、従来、定量等の前処理に希釈法が用いられている。
例えば、有機溶剤に固体ポリマーを溶かしてポリマー溶液とした後、当該ポリマー溶液を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)に直接導入して、固体ポリマー中の金属元素濃度を分析する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-184109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、更なるパターンの微細化、基板の多層化に伴い、半導体等の製造工程では、レジスト材料に含まれる金属不純物の低減化に対する要求がよりいっそう厳しくなっている。
これに対して、従来の分析方法よりも検出限界(Detection Limit:DL)が低濃度であり、レジスト材料中の微量な金属成分の分析を可能とする方法が必要である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、定量可能な最下限の値をより低くできる、金属成分の分析方法を提供することを課題とする。また、金属不純物がより低減されたポリマー精製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討により、ポリマー及び有機溶剤を含有するポリマー組成物中の金属不純物の分析方法における前処理に、従来の希釈法を採用した場合では検出限界(DL)が2桁pptであったところ、液液抽出法を採用することによって、検出限界(DL)を1桁ppt、特には5ppt以下にまで低くできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は、ポリマー及び有機溶剤を含有するポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分の分析方法であって、前記ポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する工程(i)、前記分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属成分を含む分散媒層とに分離する工程(ii)、並びに前記分散媒層に含まれる前記金属成分の定量を行う工程(iii)を有することを特徴とする、金属成分の分析方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、ポリマー、有機溶剤及び金属不純物を含有するポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する工程(I)、前記分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属不純物を含む分散媒層とに分離する工程(II)、並びに前記分散質層に含まれる前記ポリマーを回収してポリマー精製品を得る工程(III)を有することを特徴とする、ポリマー精製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る金属成分の分析方法によれば、定量可能な最下限の値をより低くでき、ポリマー組成物中の金属元素種ごとの検出限界(DL)5ppt以下を実現することができる。
また、本発明の他の態様に係る製造方法によれば、金属不純物がより低減されたポリマー精製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】添加回収試験の結果を示すグラフである。縦軸は回収率(%)を表している。横軸は各金属元素を表している。1つの金属元素につき、2回の定量結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(金属成分の分析方法)
本実施形態の金属成分の分析方法は、ポリマー及び有機溶剤を含有するポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分の分析方法であって、下記の工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)を有する。
工程(i):前記ポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する工程
工程(ii):前記分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属成分を含む分散媒層とに分離する工程
工程(iii):前記分散媒層に含まれる前記金属成分の定量を行う工程
【0013】
本実施形態におけるポリマー組成物は、ポリマー及び有機溶剤を含有するものであれば特に限定されず、例えば、レジスト組成物、塗料等が挙げられる。
特に、金属不純物の低減化に対する要求が厳しいレジスト組成物を分析対象物とする場合には、本実施形態の金属成分の分析方法は有用である。
【0014】
ポリマーとしては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、ヒドロキシスチレン系樹脂、又はこれらの共重合樹脂が挙げられる。
【0015】
有機溶剤としては、前記ポリマーを溶解し得るものであればよく、例えば、ラクトン類、ケトン類、多価アルコール類;エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、又はジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物;多価アルコール類もしくは前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテル又はモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];ジオキサンのような環式エーテル類;乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;芳香族系有機溶剤、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0016】
本実施形態におけるポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分としては、例えば、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、モリブデン、錫、鉛、銀、カドミウム、ルビジウム、バナジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、セシウム、バリウム、ゲルマニウム、タングステン等が挙げられる。
【0017】
以下、工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)について説明する。
【0018】
一例として、半導体素子や液晶表示素子の製造で用いられるレジスト材料は、金属不純物について厳しく管理されている。このため、分析対象物であるポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分濃度は、分析の前処理時点で、各金属元素種において数ppb以下であることが多い。
このため、本実施形態における各工程の操作は、通常は室温(20~25℃)下、好ましくはクリーンルーム内で行う。
用いる容器、その蓋、ピペット等の器具については、金属汚染を防止する観点から、予め酸洗浄したものを用いることが好ましい。
【0019】
<工程(i)>
本実施形態における工程(i)では、前記ポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する。
例えば、金属汚染を防止する観点から、予め酸洗浄した容器に、それぞれ所定量のポリマー組成物と酸水溶液とを採取する。
【0020】
本実施形態において、前記ポリマー組成物は、粘度が低目のものから高目のものまで分析対象物となり得る。
前記ポリマー組成物の固形分(溶剤以外の成分)濃度は、ポリマー組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1~80質量%である。
【0021】
本実施形態において、酸水溶液は、1種以上の酸が水に溶解した液体をいう。
酸は、無機酸でもよいし有機酸でもよいし、これらの中では無機酸が好ましい。酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化水素、りん酸、過塩素酸、酢酸、蟻酸、又はこれらの2種以上を含む混酸が挙げられる。混酸としては、塩酸と硝酸との混酸が挙げられる。また、酸としては、塩酸と過酸化水素とを混合したものでもよい。
酸水溶液は、ポリマー組成物からの金属成分の抽出性が高い点から、硝酸、塩酸、硫酸及びフッ化水素からなる群より選択される少なくとも1種が水に溶解した液体であることが好ましく、少なくとも硝酸が水に溶解した液体であることがより好ましい。
【0022】
酸水溶液における酸濃度は、例えば、0.1~20質量%が好ましく、0.2~10質量%がより好ましく、0.3~5質量%がさらに好ましく、0.5~1.5質量%が特に好ましい。
【0023】
本実施形態における酸水溶液は、水以外の溶剤を含有してもよい。
水以外の溶剤としては、水に可溶なものが挙げられ、例えば、アルコール、ケトン、エステル等が挙げられる。
水以外の溶剤の含有量は、酸水溶液の総質量(100質量%)に対して、好ましくは20質量%以下である。
【0024】
前記工程(i)における前記ポリマー組成物と前記酸水溶液との混合比は、ポリマーの種類、酸濃度等に応じて適宜決定すればよく、例えば、質量比として、ポリマー組成物/酸水溶液=0.80~1.25であることが好ましい。
当該質量比が、前記の好ましい範囲内であれば、両者を同量(質量比1.0)としてもよいし、ポリマー組成物の方を多くしてもよいし(1.0<質量比≦1.25)、酸水溶液の方を多くしてもよい(0.80≦質量比<1.0)。
当該質量比が、前記の好ましい範囲内であることにより、従来の希釈法を採用した場合に比べて、分散液に占めるポリマー組成物の割合を高められて、金属不純物濃度をより高い状態とすることができる。
【0025】
前記ポリマー組成物と酸水溶液との混合方法としては、特に限定されないが、金属汚染を防止する観点から、ポリマー組成物と酸水溶液とを採取した容器に蓋をし、当該容器ごと回転させながら混合する方法が挙げられる。
【0026】
<工程(ii)>
本実施形態における工程(ii)では、工程(i)で調製された分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属成分を含む分散媒層とに分離する。
前記工程(ii)における前記分離の操作としては、例えば、遠心分離、濾過、長時間の静置が挙げられる。金属汚染の防止、効率化の観点から、前記分離の操作を、遠心分離により行うことが好ましい。遠心分離の操作であれば、工程(i)で用いた容器をそのまま遠心機にセットすることもできる。
【0027】
分離の操作後における分散液の状態は、ポリマー組成物中の有機溶剤の種類等に応じて異なるが、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属成分を含む分散媒層とに分離する。
例えば、分散質層と分散媒層とに分離し、分散質層は沈殿している。あるいは、分散質層と分散媒層とに分離し、分散質層は沈殿し、分散媒層が2層(水層、有機溶剤層)を形成している。
いずれの層分離の状態においても、ポリマー組成物から抽出した金属不純物は、分散媒層(水層)に溶解している(後述の<分析方法の妥当性評価>にて、この妥当性を確認している)。
【0028】
<工程(iii)>
本実施形態における工程(iii)では、工程(ii)で分離した分散媒層に含まれる金属成分の定量を行う。
例えば、工程(ii)で分散質層と分散媒層とに分離した分散液から、予め酸洗浄した容器に、当該分散媒層を採取する。
【0029】
当該分散媒層に含まれる金属成分の定量方法は、特に限定されず、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)を利用した方法、原子吸光分光法などが挙げられる。
本実施形態では、一度に複数種類の元素分析が可能なことから、前記工程(iii)における前記金属成分の定量の操作を、ICPを利用した方法により行うことが好ましい。
ICPを利用した方法として、ICP発光分光分析、ICP質量分析が挙げられる。これらの中でも、1桁pptレベルの超高感度分析が可能であることから、ICP質量分析(ICP-MS)を行うことが好ましい。
ICP発光分光分析、及びICP質量分析による金属成分の定量は、それぞれ、公知の方法で行うことができる。
【0030】
以上説明した本実施形態の金属成分の分析方法、すなわち、上記の工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)を有する分析方法によれば、ポリマー組成物に不純物として含まれる金属成分について、定量可能な最下限の値をより低くできる。具体的には、ポリマー組成物中の金属元素種ごとの検出限界(DL)5ppt以下を実現することができる。
本実施形態では、ポリマー組成物から、不純物として含まれる金属成分を抽出する方法として、ポリマー組成物と酸水溶液とを併用した液液抽出を採用する。これによって、本実施形態においては、ポリマー組成物から、不純物として含まれる金属成分を、従来の有機溶剤による希釈法に比べて多く抽出することができる。
また、金属成分の定量に際し、定量下限値がpptレベルであるため、分析装置の検出能力の観点から、前処理後の試料溶液中の金属成分濃度が低くならないようにすること、ポリマー組成物をなるべく希釈しないようにすることが好ましい。本実施形態においては、液液抽出を採用することによって、ポリマー組成物の希釈倍率を小さくできる。このため、金属成分の定量に供する試料溶液中の金属成分濃度を、従来の有機溶剤による希釈法に比べて高めることもできる。
【0031】
上述した実施形態に係る金属成分の分析方法は、工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)を有する方法であったが、本発明はこれに限定されず、その他工程をさらに有する方法でもよい。例えば、工程(ii)と工程(iii)との間に、試料溶液中の金属成分濃度をより高めるため、分散媒層を濃縮する工程(濃縮工程)を有していてもよい。
尚、その他工程を設ける場合には、金属汚染に留意する必要がある。
本実施形態によれば、上述した工程(i)、工程(ii)及び工程(iii)からなる方法であっても、ポリマー組成物中の金属元素種ごとの検出限界(DL)を1桁ppt、特には5ppt以下にまで低くできる。
【0032】
上述した実施形態に係る金属成分の分析方法は、ポリマー及び有機溶剤を含有するポリマー組成物を用いる産業分野において、広く利用することができる。例えば、半導体等の製造で用いられるレジスト材料、特に、金属不純物の低減化に対する要求が厳しいレジスト組成物の製造方法の一工程(検査工程)に、実施形態に係る金属成分の分析方法を好適に利用することができる。
具体的には、かかる検査工程において、各金属元素種の規定値と、試料であるポリマー組成物中の金属成分の分析結果とを対比することにより、全ての金属元素種が規定値以下のポリマー組成物を「製品」と判断し、規定値超の金属元素種を含むポリマー組成物を「製品としない」と判断する。
【0033】
(ポリマー精製品の製造方法)
本実施形態のポリマー精製品の製造方法は、ポリマー、有機溶剤及び金属不純物を含有するポリマー組成物と、酸水溶液とを混合して分散液を調製する工程(I)、前記分散液を、前記ポリマーを含む分散質層と、前記金属不純物を含む分散媒層とに分離する工程(II)、並びに前記分散質層に含まれる前記ポリマーを回収してポリマー精製品を得る工程(III)を有する。
【0034】
本実施形態における工程(I)、工程(II)についての説明は、それぞれ、上記の工程(i)、工程(ii)と同様である。
【0035】
本実施形態における工程(III)では、工程(II)で分離した分散質層に含まれる前記ポリマーを回収してポリマー精製品を得る。
例えば、工程(II)で分散質層と分散媒層とに分離した分散液から、沈殿している分散質層を採取して回収し、これを洗浄することによりポリマー精製品を得る。
【0036】
以上説明した本実施形態のポリマー精製品の製造方法によれば、金属不純物がより低減されたポリマー精製品を製造することができる。例えば、このポリマー精製品をレジスト組成物に配合することによって、半導体素子等の電気特性の向上や安定化が図れる。また、パターン形成においてディフェクト発生が抑制される。
【実施例
【0037】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0038】
<分析方法の妥当性評価>
以下に示すポリマー組成物、酸水溶液、金属試薬を用いた。
【0039】
ポリマー組成物として、特開2016-075904号公報に記載された下記第1のレジスト組成物を用いた。
第1のレジスト組成物:基材成分である高分子化合物100質量部と、光酸発生剤成分10.1質量部と、サリチル酸2.0質量部と、塩基成分7.29質量部と、フッ素成分である高分子化合物2.0質量部と、溶剤成分4000質量部とを含有するポジ型レジスト組成物
【0040】
酸水溶液として、1質量%硝酸水溶液を用いた。
【0041】
金属試薬として、SPEX社の多元素混合標準液XSTC-622(金属元素濃度10mg/L)1質量部と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)99質量部と、を混合して得た溶液(金属元素濃度100質量ppb)を用いた。
【0042】
[試料溶液の調製]
酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)に、前記ポリマー組成物99質量部と、金属試薬として前記溶液(金属元素濃度100質量ppb)1質量部と、を採取して混合することにより、試料溶液(1)を得た。
また、別途、酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)に、前記ポリマー組成物のみを採取して、これを試料溶液(2)とした。
【0043】
[添加回収試験]
前記の試料溶液(1)、試料溶液(2)及び酸水溶液をそれぞれ用い、以下の工程(i-1)~(iii-1)の操作を、室温(25℃)下のクリーンルーム内で行った。
【0044】
工程(i-1):
前記容器内で、質量比として、試料溶液(1)/酸水溶液=1.0となるように、前記試料溶液(1)に前記酸水溶液を添加した。次に、前記容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記試料溶液(1)と前記酸水溶液とを混合して分散液(1)を調製した。
【0045】
同様に、前記別途の容器内で、質量比として、試料溶液(2)/酸水溶液=1.0となるように、前記試料溶液(2)に前記酸水溶液を添加した。次に、前記別途の容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記試料溶液(2)と前記酸水溶液とを混合して分散液(2)を調製した。
【0046】
工程(ii-1):
遠心機を用いて、前記分散液(1)を、分散質層と分散媒層とに遠心分離した。
同様に、遠心機を用いて、前記分散液(2)を、分散質層と分散媒層とに遠心分離した。ここでの遠心分離は以下の条件で行った。
【0047】
遠心分離の条件:回転数2000rpm、回転時間60分間
【0048】
工程(iii-1):
別の酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)を用意し、この容器に、分散質層と分散媒層とに分離した前記分散液(1)から、当該分散媒層(1)を採取した。
【0049】
同様に、別の酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)を用意し、この容器に、分散質層と分散媒層とに分離した前記分散液(2)から、当該分散媒層(2)を採取した。
【0050】
次に、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)により、当該分散媒層(1)及び当該分散媒層(2)にそれぞれ含まれる金属元素の定量を2回ずつ行った。ここでのICP-MSによる定量分析には、装置としてICP-MS 8900(アジレント・テクノロジー製)を用いた。
【0051】
各金属元素について、下式より、それぞれの回収率を算出した。
【0052】
回収率(%)=[(分散媒層(1)中の金属元素量)-(分散媒層(2)中の金属元素量)]/(試料溶液(1)に添加された金属元素量)×100
【0053】
図1は、添加回収試験の結果を示すグラフである。
縦軸は回収率(%)を表している。横軸は各金属元素を表している。1つの金属元素につき、1回目の定量及び2回目の定量の各結果を示している。
「upper」が示す線は、回収率100+25(%)であることを表している。
「lower」が示す線は、回収率100-25(%)であることを表している。
【0054】
図1より、いずれの金属元素についても、回収率が100±25%の範囲となった。
したがって、分散媒層に金属元素が存在していたことが確認できる。
加えて、本実施例における、工程(i-1)~(iii-1)を有する分析方法は、妥当性が有ることが確認された(SEMI C10-1109MDL(定量下限値)決定に関するガイド参照)。
【0055】
<金属成分の分析方法(1)>
(実施例1)
酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)に、前記ポリマー組成物を採取して、これを試料溶液(2)とした。
また、別途、酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)に、前記ポリマー組成物99.95質量部と、金属試薬として前記溶液(金属元素濃度100質量ppb)0.05質量部と、を採取して混合することにより、試料溶液(3)を得た。
また、別途、酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)に、前記ポリマー組成物99.9質量部と、金属試薬として前記溶液(金属元素濃度100質量ppb)0.1質量部と、を採取して混合することにより、試料溶液(4)を得た。
【0056】
前記の試料溶液(2)、試料溶液(3)、試料溶液(4)及び酸水溶液をそれぞれ用い、以下の工程(i-2)~(iii-2)の操作を、室温(25℃)下のクリーンルーム内で行った。
【0057】
工程(i-2):
前記容器内で、質量比として、試料溶液(2)/酸水溶液=1.0となるように、前記試料溶液(2)に前記酸水溶液を添加した。次に、前記容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記試料溶液(2)と前記酸水溶液とを混合して分散液(2)を調製した。
【0058】
同様に、前記別途の容器内で、質量比として、試料溶液(3)/酸水溶液=1.0となるように、前記試料溶液(3)に前記酸水溶液を添加した。次に、前記別途の容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記試料溶液(3)と前記酸水溶液とを混合して分散液(3)を調製した。
【0059】
同様に、前記別途の容器内で、質量比として、試料溶液(4)/酸水溶液=1.0となるように、前記試料溶液(4)に前記酸水溶液を添加した。次に、前記別途の容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記試料溶液(4)と前記酸水溶液とを混合して分散液(4)を調製した。
【0060】
工程(ii-2):
遠心機を用いて、前記分散液(2)を、分散質層と分散媒層とに遠心分離した。
同様に、遠心機を用いて、前記分散液(3)を、分散質層と分散媒層とに遠心分離した。また、同様に、遠心機を用いて、前記分散液(4)を、分散質層と分散媒層とに遠心分離した。ここでの遠心分離は以下の条件で行った。
【0061】
遠心分離の条件:回転数2000rpm、回転時間60分間
【0062】
工程(iii-2):
別の酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)を用意し、この容器に、分散質層と分散媒層とに分離した前記分散液(2)から、当該分散媒層(2)を採取した。
【0063】
同様に、別の酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)を用意し、この容器に、分散質層と分散媒層とに分離した前記分散液(3)から、当該分散媒層(3)を採取した。
【0064】
また、同様に、別の酸洗浄済みの容器(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)製、容量30mL)を用意し、この容器に、分散質層と分散媒層とに分離した前記分散液(4)から、当該分散媒層(4)を採取した。
【0065】
次に、ICP-MSにより、当該分散媒層(2)、当該分散媒層(3)及び当該分散媒層(4)にそれぞれ含まれる金属元素の定量を、1日当たり3回ずつ2日間(3水準×3回×2日、合計n=18)行った。ここでのICP-MSによる定量分析には、装置としてICP-MS 8900(アジレント・テクノロジー製)を用いた。
【0066】
前記の定量分析の結果から、各金属元素の検出限界(DL)を、「SEMI C10-1109MDL(定量下限値)決定に関するガイド」に従って算出した。その結果を表1に「Mean MDL(ppt)」として示した。
【0067】
【表1】
【0068】
<金属成分の分析方法(2)>
(比較例1)
前記の試料溶液(2)、試料溶液(3)及び試料溶液(4)をそれぞれ用い、以下の操作を、室温(25℃)下のクリーンルーム内で行った。
【0069】
前記の酸洗浄済みの容器内で、質量比として、PGME/各試料溶液=4.0となるように、前記の各試料溶液にPGMEを添加した。次に、前記容器に蓋をし、ローターで撹拌して、前記の各試料溶液とPGMEとを混合して分散液(5)、分散液(6)及び分散液(7)をそれぞれ調製した。
次に、ICP-MSにより、当該各分散液に含まれる金属元素の定量を、1日当たり3回ずつ2日間(3水準×3回×2日、合計n=18)行った。ここでのICP-MSによる定量分析には、装置としてICP-MS 8800(アジレント・テクノロジー製)を用いた。
【0070】
前記の定量分析の結果から、各金属元素の検出限界(DL)を、「SEMI C10-1109MDL(定量下限値)決定に関するガイド」に従って算出した。その結果を表2に「Mean MDL(ppt)」として示した。
【0071】
【表2】
【0072】
表1及び表2に示す結果より、アルミニウム(Al)の定量下限値について、実施例1では3ppt、比較例1では6pptであり、本発明の適用によって、定量可能な最下限の値をより低くできることが確認された。
表2に記載の金属元素(Alを除く)について、実施例1では1~5ppt、比較例1では22~92pptであり、本発明の適用によって、定量可能な最下限の値を既存の方法より低くできること、定量可能な最下限5ppt以下を実現できることが確認された。
【0073】
また、上記(実施例1)の工程(i-2)の操作において、各試料溶液(2)~(4)と酸水溶液との混合比を、質量比として、各試料溶液(2)~(4)/酸水溶液=0.80~1.25の範囲でそれぞれ変更した以外は、上記の工程(i-2)~(iii-2)の操作を、室温(25℃)下のクリーンルーム内で同様にして行い、金属元素の定量を行った。
そして、かかる金属元素の定量の結果から、各金属元素の検出限界(DL)を、「SEMI C10-1109MDL(定量下限値)決定に関するガイド」に従って算出した。
【0074】
これらの結果、試料溶液と酸水溶液との混合比を、質量比として、試料溶液/酸水溶液=0.80~1.25の範囲で変化させた場合でも、実施例1の場合と同等の検出限界(DL)を示すこと、すなわち、定量可能な最下限の値を既存の方法より低くできること、定量可能な最下限5ppt以下を実現できることが確認された。
図1