IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240308BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240308BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240308BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
B24B37/00 H
C09G1/02
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020510492
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008022
(87)【国際公開番号】W WO2019187969
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2018069647
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
(72)【発明者】
【氏名】浅田 真希
(72)【発明者】
【氏名】市坪 大輝
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-082237(JP,A)
【文献】国際公開第2016/129215(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043504(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176122(WO,A1)
【文献】特開2016-056220(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150158(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046164(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/129408(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150118(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と水とを含む研磨用組成物であって、
前記砥粒の含有量は、0.10重量%以上であり、
ポリビニルアルコール系ポリマーと、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤とをさらに含み、
前記分散剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含み、
前記ポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量が8×10 以下であり、
前記ポリビニルアルコール系ポリマーの濃度が0.01重量%以下であり、
前記分散剤の含有量に対する前記ポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比が、0.01以上0.1以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量が3×10以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記分散剤の重量平均分子量は、前記ポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量よりも小さい、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記分散剤の重量平均分子量が1500以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒はシリカ粒子である、請求項1からのいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
シリコンからなる表面の研磨に用いられる、請求項1からのいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨用組成物に関する。本出願は、2018年3月30日に出願された日本国特許出願2018-69647号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
金属や半金属、非金属、その酸化物等の材料表面に対して、研磨用組成物を用いた精密研磨が行われている。例えば、半導体装置の構成要素等として用いられるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程(粗研磨工程)とポリシング工程(精密研磨工程)とを経て高品位の鏡面に仕上げられる。上記ポリシング工程は、典型的には、予備ポリシング工程(予備研磨工程)と仕上げポリシング工程(最終研磨工程)とを含む。シリコンウェーハ等の半導体基板を研磨する用途で主に使用される研磨用組成物に関する技術文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許出願公開2010-34509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仕上げポリシング工程(特に、シリコンウェーハ等の半導体基板その他の基板の仕上げポリシング工程)に用いられる研磨用組成物には、研磨後においてヘイズが低くかつ表面欠陥の少ない表面を実現する性能が求められる。かかる用途向けの研磨用組成物は、砥粒および水に加えて、研磨対象物表面の保護や濡れ性向上等の目的で水溶性高分子を含むものが多い。例えば、特許文献1には、水溶性高分子としてヒドロキシエチルセルロースやポリビニルアルコール(PVA)を含むシリコンウェーハ用の研磨用組成物が開示されている。
【0005】
水溶性高分子としてポリビニルアルコール系ポリマーを用いることにより、研磨後の表面の濡れ性を安定して向上させることができる。しかしながら、研磨後の表面品位に対する要求レベルの高度化に伴い、ポリビニルアルコール系ポリマーを用いた従来の研磨用組成物では表面欠陥の低減効果が不足しがちであった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ポリビニルアルコール系ポリマーを含む研磨用組成物でありながら、表面欠陥を効果的に低減可能な研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が上記表面欠陥を発生させる要因となっているのではないかと考え、かかる凝集の抑制に適した研磨用組成物を見出して本発明を完成した。
本発明によると、砥粒と水とを含む研磨用組成物が提供される。上記研磨用組成物は、ポリビニルアルコール系ポリマーと、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤と、をさらに含む。上記分散剤は、分子中にエーテル結合を含む。また、上記分散剤の含有量に対する上記ポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比が、0.01以上10以下である。かかる構成によると、上記ポリビニルアルコール系ポリマーと上記ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤とが適当な混合比で含まれているため、研磨用組成物中のポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が該分散剤の作用により適切に抑制される。このように凝集が抑制されたポリビニルアルコール系ポリマーを含む研磨用組成物によると、研磨後の研磨対象物の表面欠陥が適切に低減される。
【0008】
なお、本明細書において「ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤」とは、研磨用組成物に配合することにより、当該分散剤を含まない研磨用組成物に比べてポリビニルアルコール系ポリマーの分散性を向上させる性能を有する剤(化合物)のことを指す。典型的には、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤は、水溶液中におけるポリビニルアルコール系ポリマーの分散安定性を向上させる性能を有する化合物である。本明細書においては、別段の定めがない限り、単に「分散剤」と記載されたものは、「ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤」を意味する。また、本明細書における「表面欠陥」は、一般にパーティクルと呼ばれる異物を意味するLPD(Light Point Defects)を含む。かかる表面欠陥の発生は、後述する実施例で使用するウェーハ検査装置で検出するLPDの数を測定することにより評価することができる。
【0009】
好ましい一態様において、上記ポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量は、3×10以上である。かかる重量平均分子量を有するポリビニルアルコール系ポリマーは、より凝集しやすい傾向があるため、本発明を、上記重量平均分子量を有するポリビニルアルコール系ポリマーを含む研磨用組成物に適用することは有意義である。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい他の一態様では、上記分散剤の重量平均分子量は、上記ポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量よりも小さい。かかる構成によると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が適切に抑制されて、研磨対象物の表面欠陥を低減させ得る研磨用組成物が実現し得る。
【0011】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい他の一態様では、上記分散剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを含む。かかる分散剤を含む構成によると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集がより適切に抑制されて、表面欠陥の低減性がより向上した研磨用組成物が実現し得る。
【0012】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい他の一態様では、上記分散剤の重量平均分子量が1500以下である。かかる分散剤を含む構成によると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集がより適切に抑制されて、表面欠陥の低減性がより向上した研磨用組成物が実現し得る。
【0013】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい他の一態様では、上記砥粒はシリカ粒子である。砥粒としてシリカ粒子を用いる研磨において、研磨レートを維持しつつ、研磨対象物表面欠陥の低減性がより効果的に発揮され得る。
【0014】
ここに開示される好ましい一態様に係る研磨用組成物は、シリコンからなる表面の研磨に用いられる。ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物がシリコンからなる表面である研磨において、上記分散剤の作用により凝集が抑制されたポリビニルアルコール系ポリマーの作用により研磨対象物の表面が保護されて、該表面の欠陥が適切に低減し得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
<砥粒>
ここに開示される研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きをする。砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子(ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。)、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。このような砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。後述するシリコンウェーハ等のようにシリコンからなる表面を有する研磨対象物の研磨(例えば仕上げ研磨)に用いられ得る研磨用組成物では、砥粒としてシリカ粒子を採用することが特に有意義である。ここに開示される技術は、例えば、上記砥粒が実質的にシリカ粒子からなる態様で好ましく実施され得る。ここで「実質的に」とは、砥粒を構成する粒子の95重量%以上(好ましくは98重量%以上、より好ましくは99重量%以上であり、100重量%であってもよい。)がシリカ粒子であることをいう。
【0018】
シリカ粒子の具体例としては、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。シリカ粒子は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。研磨後において表面品位に優れた研磨面が得られやすいことから、コロイダルシリカの使用が特に好ましい。コロイダルシリカとしては、例えば、イオン交換法により水ガラス(珪酸Na)を原料として作製されたコロイダルシリカや、アルコキシド法コロイダルシリカ(アルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されたコロイダルシリカ)を好ましく採用することができる。コロイダルシリカは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
砥粒構成材料(例えば、シリカ粒子を構成するシリカ)の真比重は、1.5以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.7以上である。砥粒構成材料(例えばシリカ)の真比重の上限は特に限定されないが、典型的には2.3以下、例えば2.2以下である。砥粒構成材料(例えばシリカ)の真比重としては、置換液としてエタノールを用いた液体置換法による測定値を採用し得る。
【0020】
砥粒(典型的にはシリカ粒子)のBET径は特に限定されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上である。より高い研磨効果(例えば、ヘイズの低減、欠陥の除去等の効果)を得る観点から、上記BET径は、15nm以上が好ましく、20nm以上(例えば20nm超)がより好ましい。また、スクラッチ防止等の観点から、砥粒のBET径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。ここに開示される技術は、高品位の表面(例えば、LPD数が少ない表面)が得られやすいことから、研磨後に高品位の表面が求められる研磨に適用されることが好ましい。かかる研磨用組成物に用いる砥粒としては、BET径が35nm以下(典型的には35nm未満、より好ましくは32nm以下、例えば30nm未満)の砥粒が好ましい。
【0021】
なお、本明細書においてBET径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ粒子の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0022】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす粒子の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。例えば、粒子の多くがピーナッツ形状または繭型形状をした砥粒を好ましく採用し得る。
【0023】
特に限定するものではないが、砥粒の長径/短径比の平均値(平均アスペクト比)は、原理的に1.0以上であり、好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上である。平均アスペクト比の増大によって、より高い研磨能率が実現され得る。また、砥粒の平均アスペクト比は、スクラッチ低減等の観点から、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。
【0024】
砥粒の形状(外形)や平均アスペクト比は、例えば、電子顕微鏡観察により把握することができる。平均アスペクト比を把握する具体的な手順としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、独立した粒子の形状を認識できる所定個数(例えば200個)の砥粒粒子について、各々の粒子画像に外接する最小の長方形を描く。そして、各粒子画像に対して描かれた長方形について、その長辺の長さ(長径の値)を短辺の長さ(短径の値)で除した値を長径/短径比(アスペクト比)として算出する。上記所定個数の粒子のアスペクト比を算術平均することにより、平均アスペクト比を求めることができる。
【0025】
<ポリビニルアルコール系ポリマー>
ここに開示される研磨用組成物は、ポリビニルアルコール系ポリマーを含む。ここで、ポリビニルアルコール系ポリマーとは、その繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む水溶性有機化合物(典型的には水溶性高分子)である。ここで、ビニルアルコール単位(以下「VA単位」ともいう。)とは、次の化学式:-CH-CH(OH)-;により表される構造部分である。VA単位は、例えば、酢酸ビニルがビニル重合した構造の繰返し単位(-CH-CH(OCOCH)-)を加水分解(けん化)することにより生成し得る。ポリビニルアルコール系ポリマーを含む研磨用組成物によると、研磨対象物の表面の濡れ性が向上して、研磨後においてヘイズが低くかつ表面欠陥の少ない表面が実現しやすい。
【0026】
ポリビニルアルコール系ポリマーは分子中にヒドロキシ基(OH基)を有する。このためポリビニルアルコール系ポリマーは、分子内または分子間における水素結合の作用により凝集しやすい性質を有する。研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコール系ポリマーの一部が凝集して該組成物の分散安定性が低下すると、研磨後の表面欠陥の低減性能が低下することがある。ここに開示される技術によると、ポリビニルアルコール系ポリマーと後述するポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤とが併用されることにより、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が適切に抑制されて分散安定性が向上した研磨用組成物が実現し得る。
【0027】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えてVA単位以外の繰返し単位(以下「非VA単位」ともいう。)を含んでいてもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーが非VA単位を含む態様において、該非VA単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エーテル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。あるいは、上記非VA単位は、オキシアルキレン基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、水酸基、アミド基、イミド基、ニトリル基、エステル基、およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1つの構造を有する繰返し単位であり得る。ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位と非VA単位とを含むランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーは、非VA単位として、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。
【0028】
ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば5%以上であってよく、10%以上でもよく、20%以上でもよく、30%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位のモル数の割合は、50%以上であってよく、65%以上でもよく、75%以上でもよく、80%以上でもよく、90%以上(例えば95%以上、または98%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーに非VA単位を含有させないことをいう。例えば、けん化度が98%以上であるポリビニルアルコール(PVA)(いわゆる完全けん化PVA)を含む研磨用組成物によると、研磨対象物の表面の濡れ性が高く、研磨後において表面欠陥の少ない表面が実現しやすい。また、けん化度が高いPVAはより凝集しやすい傾向があるため、本発明をけん化度が高いPVA(例えば、けん化度98%以上のPVA)に適用することは有意義である。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する全繰返し単位のモル数に占めるVA単位のモル数の割合は、例えば95%以下であってよく、90%以下でもよく、80%以下でもよく、70%以下でもよい。
【0029】
ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量(重量基準の含有量)は、例えば5重量%以上であってよく、10重量%以上でもよく、20重量%以上でもよく、30重量%以上でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記VA単位の含有量は、50重量%以上(例えば50重量%超)であってよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上(例えば90重量%以上、または95重量%以上、または98重量%以上)でもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。ここで「実質的に100重量%」とは、少なくとも意図的にはポリビニルアルコール系ポリマーを構成する繰返し単位として非VA単位を含有させないことをいう。他のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーにおけるVA単位の含有量は、例えば95重量%以下であってよく、90重量%以下でもよく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよい。
【0030】
ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量の異なる複数のポリマー鎖を同一分子内に含んでいてもよい。ここでポリマー鎖とは、一分子のポリマーの一部を構成する部分(セグメント)を指す。例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーは、VA単位の含有量が50重量%より多いポリマー鎖Aと、VA単位の含有量が50重量%より少ない(すなわち、非VA単位の含有量が50重量%より多い)ポリマー鎖Bとを、同一分子内に含んでいてもよい。
【0031】
ポリマー鎖Aは、繰返し単位としてVA単位のみを含んでいてもよく、VA単位に加えて非VA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖AにおけるVA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Aを構成する繰返し単位の実質的に100重量%がVA単位であってもよい。
【0032】
ポリマー鎖Bは、繰返し単位として非VA単位のみを含んでいてもよく、非VA単位に加えてVA単位を含んでいてもよい。ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、60重量%以上でもよく、70重量%以上でもよく、80重量%以上でもよく、90重量%以上でもよい。いくつかの態様において、ポリマー鎖Bにおける非VA単位の含有量は、95重量%以上でもよく、98重量%以上でもよい。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に100重量%が非VA単位であってもよい。
【0033】
ポリマー鎖Aとポリマー鎖Bとを同一分子中に含むポリビニルアルコール系ポリマーの例として、これらのポリマー鎖を含むブロック共重合体やグラフト共重合体が挙げられる。上記グラフト共重合体は、ポリマー鎖A(主鎖)にポリマー鎖B(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよく、ポリマー鎖B(主鎖)にポリマー鎖A(側鎖)がグラフトした構造のグラフト共重合体であってもよい。一態様において、ポリマー鎖Aにポリマー鎖Bがグラフトした構造のポリビニルアルコール系ポリマーを用いることができる。
【0034】
ポリマー鎖Bの例としては、N-ビニル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖や、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖が挙げられる。なお、本明細書において主繰返し単位とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる繰返し単位をいう。
【0035】
ポリマー鎖Bの一好適例として、N-ビニル型のモノマーを主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわちN-ビニル系ポリマー鎖が挙げられる。N-ビニル系ポリマー鎖におけるN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-ビニル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0036】
N-ビニル型のモノマーの例には、窒素を含有する複素環(例えばラクタム環)を有するモノマーおよびN-ビニル鎖状アミドが含まれる。N-ビニルラクタム型モノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルモルホリノン、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。N-ビニル鎖状アミドの具体例としては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオン酸アミド、N-ビニル酪酸アミド等が挙げられる。ポリマー鎖Bは、例えば、その繰返し単位の50重量%超(例えば70重量%以上、または85重量%以上、または95重量%以上)がN-ビニルピロリドン単位であるN-ビニル系ポリマー鎖であり得る。ポリマー鎖Bを構成する繰返し単位の実質的に全部がN-ビニルピロリドン単位であってもよい。
【0037】
ポリマー鎖Bの他の例として、N-(メタ)アクリロイル型のモノマーに由来する繰返し単位を主繰返し単位とするポリマー鎖、すなわち、N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル系ポリマー鎖におけるN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bの実質的に全部がN-(メタ)アクリロイル型モノマーに由来する繰返し単位であってもよい。
【0038】
N-(メタ)アクリロイル型モノマーの例には、N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドおよびN-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドが含まれる。N-(メタ)アクリロイル基を有する鎖状アミドの例としては、(メタ)アクリルアミド;N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(n-ブチル)(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;等が挙げられる。N-(メタ)アクリロイル基を有する環状アミドの例としては、N-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-(メタ)アクリロイルピロリジン等が挙げられる。
【0039】
ポリマー鎖Bの他の例として、オキシアルキレン単位を主繰返し単位として含むポリマー鎖、すなわちオキシアルキレン系ポリマー鎖が挙げられる。オキシアルキレン系ポリマー鎖におけるオキシアルキレン単位の含有量は、典型的には50重量%超であり、70重量%以上であってもよく、85重量%以上であってもよく、95重量%以上であってもよい。ポリマー鎖Bに含まれる繰返し単位の実質的に全部がオキシアルキレン単位であってもよい。
【0040】
オキシアルキレン単位の例としては、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、オキシブチレン単位等が挙げられる。このようなオキシアルキレン単位は、それぞれ、対応するアルキレンオキサイドに由来する繰返し単位であり得る。オキシアルキレン系ポリマー鎖に含まれるオキシアルキレン単位は、一種類であってもよく、二種類以上であってもよい。例えば、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを組合せで含むオキシアルキレン系ポリマー鎖であってもよい。二種類以上のオキシアルキレン単位を含むオキシアルキレン系ポリマー鎖において、それらのオキシアルキレン単位は、対応するアルキレンオキサイドのランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体やグラフト共重合体であってもよい。
【0041】
ポリマー鎖Bの他の例として、アルキルビニルエーテル単位、ポリビニルアルコールとアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位等を主繰返し単位として含むポリマー鎖が挙げられる。これらの中でも、炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位(アルキルビニルエーテル単位)、炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位(モノカルボン酸ビニルエステル単位)、および、ポリビニルアルコールと炭素原子数1以上7以下のアルキル基を有するアルデヒドとをアセタール化して得られた構成単位からなる群から選択されると好ましい。
【0042】
炭素原子数1以上10以下のアルキル基を有するビニルエーテル単位の例としては、プロピルビニルエーテル単位、ブチルビニルエーテル単位、2-エチルヘキシルビニルエーテル単位等が挙げられる。炭素原子数1以上7以下のモノカルボン酸に由来するビニルエステル単位の例としては、プロパン酸ビニル単位、ブタン酸ビニル単位、ペンタン酸ビニル単位、ヘキサン酸ビニル単位等が挙げられる。
【0043】
ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーは、変性されていないPVA(非変性PVA)であってもよく、VA単位および非VA単位を含む共重合体である変性PVAであってもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーは、エーテル結合を含まないことが好ましい。
【0044】
ここに開示される技術によると、ポリビニルアルコール系ポリマーとして非変性PVAを用いた場合においても、該非変性PVAの凝集が好適に抑制された研磨用組成物が得られる。このため、本発明は、非変性PVAを含む研磨用組成物に対して適用することがより有意義である。例えば、ポリビニルアルコール系ポリマーとして、変性PVAと非変性PVAとを併用して用いる場合において、変性PVAの含有量はポリビニルアルコール系ポリマー全量に対して50重量%未満であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、非変性PVAのみを含むポリビニルアルコール(PVA)を好ましく採用し得る。
【0045】
ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwは、通常は2×10以上であり、5×10以上であってもよく、1×10以上であってもよい。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwの増大につれて、研磨後の表面の濡れ性が高まる傾向にある。また、ポリビニルアルコール系ポリマーのMwが高くなるとポリビニルアルコール系ポリマーの分散安定性は低下する傾向にあるので、本発明の適用意義が大きくなる。かかる観点から、ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーのMwは3×10以上であることが好ましく、より好ましくは4×10以上であり、さらに好ましくは5×10以上であり、特に好ましくは6×10以上(例えば6.5×10以上)である。
【0046】
ここに開示される研磨用組成物に使用されるポリビニルアルコール系ポリマーのMwの上限は特に限定されない。ポリビニルアルコール系ポリマーのMwは、通常、100×10以下が適当であり、30×10以下が好ましく、20×10以下(例えば15×10以下)であってもよい。研磨レートと研磨対象物の表面保護とを両立させる観点からは、ポリビニルアルコール系ポリマーのMwは10×10以下であってもよく、8×10以下であってもよい。
【0047】
なお、本明細書においてポリビニルアルコール系ポリマー、分散剤、水溶性高分子および界面活性剤の重量平均分子量(Mw)としては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0048】
<ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤>
ここに開示される研磨用組成物は、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散剤(以下、単に「分散剤」ともいう。)を含む。ここに開示される技術によると、上記分散剤は分子中に少なくとも一つのエーテル結合を有する。かかる分散剤とポリビニルアルコール系ポリマーとを併せて含む研磨用組成物によると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が抑制されて分散安定性が向上した研磨用組成物が実現し得る。ここに開示される技術を実施するにあたり、分子中にエーテル結合を含む分散剤がポリビニルアルコール系ポリマーの凝集抑制に寄与するメカニズムを解明することは必要とされないが、かかる分散剤によると、分散剤に含まれるエーテル結合の酸素原子とポリビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基とが水素結合することにより、ポリビニルアルコール系ポリマーのヒドロキシ基同士の水素結合を阻害するためであると考えられる。ただし、このメカニズムのみに限定解釈されるものではない。
【0049】
ここに開示される研磨用組成物に含まれる分散剤としては、分子中にエーテル結合を含む限りにおいて、特に制限なく種々の化合物を適切な含有量で用いることができる。ここに開示される研磨用組成物に含まれる分散剤は、分子中に1つのエーテル結合を有する化合物であってもよいし、分子中に2以上のエーテル結合を有するポリエーテルであってもよい。また、上記分散剤は、高分子化合物であってもよいし、高分子ではない化合物であってもよい。上記分散剤が高分子化合物である場合において、エーテル結合は高分子の主鎖に含まれていてもよいし、側鎖に含まれていてもよいし、主鎖と側鎖の両方に含まれていてもよい。また、上記分散剤が高分子ではない化合物である場合において、該分散剤は、一般に、界面活性剤として把握され得る化合物であってもよい。上記分散剤は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。上記分散剤は水溶性であることが好ましい。
【0050】
分子中に1つのエーテル結合を有する化合物の例としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。水系の研磨用組成物中で適当な分散性を有し、かつポリビニルアルコール系ポリマーの分散安定性を向上させる観点から、上記分散剤は、分子中に2以上のエーテル結合を有するポリエーテルであることが好ましい。
【0051】
例えば、好適に用いられ得る分散剤として、主鎖にエーテル結合を有するポリエーテルが挙げられる。主鎖にエーテル結合を有するポリエーテルとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン誘導体(例えば、ポリオキシアルキレン付加物);複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等が挙げられる。あるいは、他の例として、セルロース誘導体、デンプン誘導体等が挙げられる。
【0052】
具体的には、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体(ジブロック型共重合体、PEO(ポリエチレンオキサイド)-PPO(ポリプロピレンオキサイド)-PEO型トリブロック体、PPO-PEO-PPO型のトリブロック共重合体等)、EOとPOとのランダム共重合体等のオキシアルキレン共重合体;
ポリエチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンペンチルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン-2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジオレイン酸エステル、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルチミン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のオキシアルキレン誘導体;が挙げられる。
【0053】
あるいは他の具体例として、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等のデンプン誘導体;等が挙げられる。
【0054】
また、好適に用いられ得る他の分散剤として、側鎖にエーテル結合を有するポリエーテルが挙げられる。側鎖にエーテル結合を有するポリエーテルとしては、ポリアクリロイルモルホリン(PACMO)等が例示される。
【0055】
なかでも、ここに開示される研磨用組成物に好適に使用される分散剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HECおよびPACMOが挙げられる。なかでもポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
【0056】
ここで用いられ得るポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素原子数は、特に限定されない。例えば、上記アルキル基の炭素原子数は、5以上であることが好ましく、より好ましくは6以上、さらに好ましくは7以上である。例えば、上記アルキル基の炭素原子数は、12以下であることが好ましく、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下、特に好ましくは9以下である。上記アルキル基の炭素原子数は、例えば8である。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルにおけるエチレンオキサイド付加モル数は、特に限定されないが、4以上であることが好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、10以下であることが好ましく、より好ましくは9以下であり、さらに好ましくは8以下であり、特に好ましくは7以下である。研磨後の表面欠陥低減の観点から、ここに開示される研磨用組成物に使用される分散剤としては、エチレンオキサイド付加モル数が4~10(例えば6)であるポリオキシエチレンオクチルエーテルが好ましく用いられ得る。
【0057】
ここに開示される研磨用組成物において、ポリビニルアルコール系ポリマーの分散安定性を好適に向上させる観点から、研磨用組成物に含まれるポリビニルアルコール系ポリマーと分散剤の含有量の比は、適切な範囲となるように設計されることが好ましい。例えば、研磨用組成物における分散剤の含有量に対するポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比は、0.01以上10以下となることが好ましく、より好ましくは0.02以上5以下(例えば0.04以上4以下)である。
【0058】
例えば、分散剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体を含む態様において、研磨用組成物における分散剤の含有量に対するポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比は、1以下であることが好ましく、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.1以下(例えば0.07以下)である。また、かかる態様における分散剤の含有量に対するポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比は、通常、0.01以上であり、0.02以上であることが好ましく、より好ましくは0.03以上であり、さらに好ましくは0.04以上である。かかる配合比でポリビニルアルコール系ポリマーと分散剤とを含有させると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が適切に抑制されて、研磨後の表面欠陥が低減し得る研磨用組成物が実現しやすい。
【0059】
例えば、分散剤がエーテル結合を有する繰返し単位を含む水溶性高分子(典型的には、HECまたはPACMO)を含む態様において、研磨用組成物における分散剤の含有量に対するポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比は、15以下であることが好ましく、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは5以下(例えば4以下)である。また、かかる態様における分散剤の含有量に対するポリビニルアルコール系ポリマーの含有量のモル比は、通常、0.1以上であり、0.3以上であることが好ましく、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1以上である。かかる配合比でポリビニルアルコール系ポリマーと分散剤とを含有させると、ポリビニルアルコール系ポリマーの凝集が適切に抑制されて、研磨後の表面欠陥が低減し得る研磨用組成物が実現しやすい。
【0060】
分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。分散剤のMwは、通常、100以上であり、好ましくは200以上であり、より好ましくは300以上である。また、分散剤のMwは、通常、100×10以下であり、好ましくは70×10以下であり、より好ましくは50×10以下である。
【0061】
例えば、分散剤がポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体である場合、分散剤のMwは3000以下が好ましく、より好ましくは1500以下であり、さらに好ましくは700以下であり、特に好ましくは500以下である。また、分散剤がポリオキシアルキレン誘導体である場合、分散剤のMwは100以上が好ましく、より好ましくは200以上であり、さらに好ましくは300以上である。かかる範囲のMwを有する分散剤を含む研磨用組成物によると、研磨後の表面欠陥が高度に低減し得る。
【0062】
分散剤がエーテル結合を有する繰返し単位を含む水溶性高分子(典型的には、HECまたはPACMO)である場合において、分散剤のMwは1×10以上であってもよく、5×10以上であってもよく、10×10以上であってもよく、20×10以上であってもよい。また、分散剤のMwは100×10以下であってもよく、50×10以下であってもよく、45×10以下であってもよく、40×10以下であってもよい。
【0063】
好ましい一態様において、分散剤のMwはポリビニルアルコール系ポリマーのMwよりも小さい。かかるMwを有する分散剤を含む研磨用組成物によると、研磨面が適切に保護されて研磨後の表面欠陥が高度に低減し得る。
【0064】
ここに開示される研磨用組成物に用いられる分散剤としては、Mwが1×10未満である化合物と、Mwが1×10以上である化合物とを併用して用いてもよい。例えば、上記分散剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体と、エーテル結合を有する繰返し単位を含む水溶性高分子(典型的には、HECまたはPACMO)とを併用して用いてもよい。ここに開示される研磨用組成物に用いられる分散剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体を含むことが好ましい。分散剤として上記ポリオキシアルキレン誘導体と上記水溶性高分子とを併用する場合において、分散剤全体に対する水溶性高分子の含有量は50重量%より大きいことが好ましく、より好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上であり、85重量%以上であってもよく、90重量%以上であってもよい。
【0065】
ここに開示される研磨用組成物に用いられる分散剤としては、Mwが1×10未満である化合物を一種単独で用いてもよい。例えば、分散剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体のみを使用する態様でも実施することができる。
【0066】
<水溶性高分子>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、上述したポリビニルアルコール系ポリマーおよび分散剤以外の水溶性高分子を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記水溶性高分子は、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであり得る。上記水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、スルホ基、第1級アミド構造、複素環構造、ビニル構造等を有するものであり得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、上記水溶性高分子としてノニオン性のポリマーを好ましく採用し得る。
【0067】
上記水溶性高分子の例としては、窒素原子を含有するポリマー等が挙げられる。窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体等を採用し得る。
【0068】
ここに開示される研磨用組成物は、ポリビニルアルコール系ポリマーおよび分散剤以外の水溶性高分子を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0069】
<界面活性剤>
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、上述した分散剤以外の界面活性剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性のいずれのものも使用可能である。ここに開示される研磨用組成物は、分散剤以外の界面活性剤を実質的に含まない態様で実施することができる。
【0070】
<水>
ここに開示される研磨用組成物に含まれる水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。使用する水は、研磨用組成物に含有される他の成分の働きが阻害されることを極力回避するため、例えば遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下であることが好ましい。例えば、イオン交換樹脂による不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって水の純度を高めることができる。
【0071】
<塩基性化合物>
ここに開示される研磨用組成物は、塩基性化合物を含有する。本明細書において塩基性化合物とは、水に溶解して水溶液のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物としては、窒素を含む有機または無機の塩基性化合物、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、各種の炭酸塩や炭酸水素塩等を用いることができる。窒素を含む塩基性化合物の例としては、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物、アンモニア、アミン(好ましくは水溶性アミン)等が挙げられる。このような塩基性化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
アルカリ金属の水酸化物の具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。炭酸塩または炭酸水素塩の具体例としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン、イミダゾールやトリアゾール等のアゾール類等が挙げられる。第四級ホスホニウム化合物の具体例としては、水酸化テトラメチルホスホニウム、水酸化テトラエチルホスホニウム等の水酸化第四級ホスホニウムが挙げられる。
【0073】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラアルキルアンモニウム塩、ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩(典型的には強塩基)を好ましく用いることができる。かかる第四級アンモニウム塩におけるアニオン成分は、例えば、OH、F、Cl、Br、I、ClO 、BH 等であり得る。なかでも好ましい例として、アニオンがOHである第四級アンモニウム塩、すなわち水酸化第四級アンモニウムが挙げられる。水酸化第四級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム;水酸化2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム(コリンともいう。)等の水酸化ヒドロキシアルキルトリアルキルアンモニウム;等が挙げられる。
【0074】
これらの塩基性化合物のうち、例えば、アルカリ金属水酸化物、水酸化第四級アンモニウムおよびアンモニアから選択される少なくとも一種の塩基性化合物を好ましく使用し得る。なかでも水酸化テトラアルキルアンモニウム(例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム)およびアンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。
【0075】
<その他の成分>
その他、ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、キレート剤、有機酸、有機酸塩、無機酸、無機酸塩、防腐剤、防カビ剤等の、研磨スラリー(典型的には、シリコンウェーハのポリシング工程に用いられる研磨スラリー)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0076】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。研磨用組成物中に酸化剤が含まれていると、当該組成物が供給されることでシリコン基板の表面が酸化されて酸化膜が生じ、これにより研磨レートが低下してしまうことがあり得るためである。ここで、研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しないとは、少なくとも意図的には酸化剤を配合しないことをいい、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれることは許容され得る。上記微量とは、研磨用組成物における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下(好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下)であることをいう。好ましい一態様に係る研磨用組成物は、酸化剤を含有しない。ここに開示される研磨用組成物は、例えば、過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムをいずれも含有しない態様で好ましく実施され得る。
【0077】
<pH>
ここに開示される研磨用組成物のpHは、典型的には8.0以上であり、好ましくは8.5以上、より好ましくは9.0以上、さらに好ましくは9.3以上、例えば9.5以上である。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨能率が向上する傾向にある。一方、砥粒(例えばシリカ粒子)の溶解を防いで機械的な研磨作用の低下を抑制する観点から、研磨用組成物のpHは、12.0以下であることが適当であり、11.0以下であることが好ましく、10.8以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。
【0078】
pHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0079】
<用途>
ここに開示される技術における研磨用組成物は、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材質は、例えば、シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等であり得る。これらのうち複数の材質により構成された研磨対象物であってもよい。
【0080】
ここに開示される技術における研磨用組成物は、シリコンからなる表面の研磨(典型的にはシリコンウェーハの研磨)に特に好ましく使用され得る。ここでいうシリコンウェーハの典型例はシリコン単結晶ウェーハであり、例えば、シリコン単結晶インゴットをスライスして得られたシリコン単結晶ウェーハである。
【0081】
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシング工程に好ましく適用することができる。研磨対象物には、ここに開示される研磨用組成物によるポリシング工程の前に、ラッピングやエッチング等の、ポリシング工程より上流の工程において研磨対象物に適用され得る一般的な処理が施されていてもよい。
【0082】
ここに開示される研磨用組成物は、例えば、上流の工程によって表面粗さ0.1nm~100nmの表面状態に調製された研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)のポリシングにおいて好ましく用いられ得る。研磨対象物の表面粗さRaは、例えば、Schmitt Measurement System Inc.社製のレーザースキャン式表面粗さ計「TMS-3000WRC」を用いて測定することができる。ファイナルポリシング(仕上げ研磨)またはその直前のポリシングでの使用が効果的であり、ファイナルポリシングにおける使用が特に好ましい。ここで、ファイナルポリシングとは、目的物の製造プロセスにおける最後のポリシング工程(すなわち、その工程の後にはさらなるポリシングを行わない工程)を指す。
【0083】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。上記研磨液は、例えば、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を希釈(典型的には、水により希釈)して調製されたものであり得る。あるいは、該研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(すなわち、研磨液の原液)との双方が包含される。ここに開示される研磨用組成物を含む研磨液の他の例として、該組成物のpHを調整してなる研磨液が挙げられる。
【0084】
(研磨液)
研磨液における砥粒の含有量は特に制限されないが、典型的には0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.10重量%以上、例えば0.15重量%以上である。砥粒の含有量の増大によって、より高い研磨速度が実現され得る。研磨用組成物中粒子の分散安定性の観点から、通常、上記含有量は、10重量%以下が適当であり、好ましくは7重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下、例えば1重量%以下であり、0.7重量%以下であってもよい。好ましい一態様において、上記含有量は、0.5重量%以下であってもよく、0.2重量%以下であってもよい。
【0085】
研磨液におけるポリビニルアルコール系ポリマーの濃度は特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができる。ヘイズ低減等の観点から、好ましい濃度は0.0005重量%以上であり、より好ましくは0.001重量%以上、例えば0.003重量%以上であり、0.005重量%以上であってもよい。また、研磨速度等の観点から、ポリビニルアルコール系ポリマーの濃度は、通常、0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下(例えば0.01重量%以下)であってもよく、0.008重量%以下であってもよい。
【0086】
研磨液における分散剤の濃度は特に制限されず、例えば0.0001重量%以上とすることができ、好ましくは0.0003重量%以上である。また、研磨液における分散剤の濃度は、通常、0.2重量%以下とすることが好ましく、0.1重量%以下とすることがより好ましく、0.05重量%以下であってもよい。好ましい一態様において、研磨液における分散剤の濃度は0.0001重量%以上0.002重量%以下であってもよく、0.0002重量%以上0.001重量%以下であってもよい。また、他の好ましい一態様において、研磨液における分散剤の濃度は0.005重量%以上0.03重量%以下であってもよい。
【0087】
ここに開示される研磨用組成物が塩基性化合物を含む場合、研磨液における塩基性化合物の濃度は特に制限されない。研磨速度向上等の観点から、通常は、上記濃度を研磨液の0.001重量%以上とすることが好ましく、0.003重量%以上(例えば0.005重量%以上)とすることがより好ましい。また、ヘイズ低減等の観点から、上記濃度は、0.3重量%未満とすることが適当であり、0.1重量%未満とすることが好ましく、0.05重量%未満(例えば0.03重量%未満)とすることがより好ましい。
【0088】
(濃縮液)
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態であり、研磨液の原液としても把握され得る。)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は特に限定されず、例えば、体積換算で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度(例えば10倍~40倍程度)が適当である。
【0089】
このような濃縮液は、所望のタイミングで希釈して研磨液(ワーキングスラリー)を調製し、該研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、例えば、上記濃縮液に水を加えて混合することにより行うことができる。
【0090】
上記濃縮液における砥粒の含有量は、例えば50重量%以下とすることができる。上記濃縮液の取扱い性(例えば、砥粒の分散安定性や濾過性)等の観点から、通常、上記濃縮液における砥粒の含有量は、好ましくは45重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。また、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から、砥粒の含有量は、例えば0.5重量%以上とすることができ、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。
【0091】
(研磨用組成物の調製)
ここに開示される技術において使用される研磨用組成物は、一剤型であってもよく、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、研磨用組成物の構成成分のうち少なくとも砥粒を含むパートAと、残りの成分の少なくとも一部を含むパートBとを混合し、これらを必要に応じて適切なタイミングで混合および希釈することにより研磨液が調製されるように構成されていてもよい。
【0092】
研磨用組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物を構成する各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0093】
<研磨>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。以下、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物(例えばシリコンウェーハ)を研磨する方法の好適な一態様につき説明する。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。
【0094】
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、シリコンウェーハの仕上げ研磨を行う場合、典型的には、ラッピング工程を経たシリコンウェーハを一般的な研磨装置にセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて上記シリコンウェーハの研磨対象面に研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、シリコンウェーハの研磨対象面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0095】
上記研磨工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ等の研磨パッドを用いることができる。各研磨パッドは、砥粒を含んでもよく、砥粒を含まなくてもよい。通常は、砥粒を含まない研磨パッドが好ましく用いられる。
【0096】
ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨された研磨対象物は、典型的には洗浄される。洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、例えば、半導体等の分野において一般的なSC-1洗浄液(水酸化アンモニウム(NHOH)と過酸化水素(H)と水(HO)との混合液)、SC-2洗浄液(HClとHとHOとの混合液)等を用いることができる。洗浄液の温度は、例えば室温(典型的には約15℃~25℃)以上、約90℃程度までの範囲とすることができる。洗浄効果を向上させる観点から、50℃~85℃程度の洗浄液を好ましく使用し得る。
【0097】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。また、以下の説明におけるPVAは、いずれも、ポリ酢酸ビニルのけん化物である。
【0098】
<分散安定性の評価>
以下の実施例に使用した分散剤または分散剤以外の水溶性高分子を含む水溶液の分散安定性を、次のようにして評価した。まず、以下のようにして分散安定性評価用の試験液を調製した。
【0099】
(例1A)
ポリビニルアルコール(PVA)と分散剤と水を混合し、PVAを0.11%含み、残部が水からなる水溶液を調製し、例1Aに係る試験液とした。PVAとしては、Mwが7×10であり、けん化度98%以上のものを使用した。分散剤としては、エチレンオキサイド付加モル数6のポリオキシエチレンオクチルエーテル(以下、「C8PEO6」とも表記する。)を使用した。
【0100】
(例2A)
C8PEO6に代えて、分散剤としてMwが39×10のポリアクリロイルモルホリン(PACMO)を使用したこと以外は、例1Aで使用したのと同じ成分を同濃度で含む水溶液を調製し、例2Aに係る試験液とした。
【0101】
(例3A)
C8PEO6に代えて、分散剤としてMwが26×10のヒドロキシエチルセルロース(HEC)を使用したこと以外は、例1Aと同様の方法で例3Aの試験液を調製した。例3Aに係る試験液におけるPVAの濃度は0.10%とした。
【0102】
(例4A)
分散剤を使用しないこと以外は、例3Aで使用したのと同じ成分を同濃度で含む水溶液を調製し、例4Aに係る試験液とした。
【0103】
(例5A)
C8PEO6に代えて、Mwが1.7×10のポリビニルピロリドン(PVP)を使用したこと以外は、例1Aと同様の方法で例5Aの試験液を調製した。例5Aに係る試験液におけるPVAの濃度は0.10%、PVPの濃度は0.05%とした。
【0104】
(例6A)
PVAを使用しないこと以外は、例5Aで使用したのと同じ成分を同濃度で含む水溶液を調製し、例6Aに係る試験液とした。
【0105】
例1A~例3Aの各試験液における、エーテル結合を有する分散剤の含有量に対するPVAの含有量のモル比は、それぞれ表1の該当欄に表示する通りとした。
【0106】
次いで、例1A~6Aの各試験液を20ml採取し、これを容量80mlの蓋付き容器に入れて、23℃の環境下において、振とう強度300spmで振とうした。容器を振とうしている間、目視で容器中における析出物の発生の有無を12時間おきに確認した。各試験液の分散安定性は、上記試験条件における振とう試験において、72時間以上の振とうによっても析出物が生じなかったものを良(○)、24時間以上72時間未満の振とうで析出物が生じたものを可(△)、24時間未満の振とうで析出物が生じたものを不良(×)とする3段階で評価した。評価結果を表1の分散安定性の欄に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1に示されるように、分子中にエーテル結合を有する分散剤を含んだ例1A~例3Aの試験液は、分散剤を含まない例4A~例5Aの試験液と比較して、溶液の分散安定性が明らかに向上した。また、PVAを含まない例6Aの試験液が良好な分散安定性を示したことから、試験液の分散安定性を損なう要因がPVAの凝集に由来することが示唆された。また、例4Aの試験液で使用したPVAを、分子量が1.1×10であり、けん化度98%以上であるPVAに代えたこと以外は同じように調製した試験液について同様に分散安定性の評価を行ったところ、この試験液の分散安定性の評価は可(△)であり、この試験液に比べて例4Aの試験液は分散安定性が低いことがわかった。このことから、分子量が高いPVAを含む試験液によるとPVAの凝集が起こりやすい傾向があることが示された。
【0109】
<前段研磨工程>
次に、以下の実施例に適用した前段研磨工程の内容を示す。
(前段研磨工程)
砥粒0.9%および塩基性化合物0.1%を含み、残部が水からなる前段研磨用組成物を調製した。砥粒としては、BET径35nmのコロイダルシリカを使用した。塩基性化合物としては水酸化カリウム(KOH)を使用した。
この前段研磨用組成物をそのまま研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、研磨対象物としてのシリコンウェーハを下記の前段研磨条件で研磨した。シリコンウェーハとしては、ラッピングおよびエッチングを終えた直径300mmの市販シリコン単結晶ウェーハ(伝導型:P型、結晶方位:<100>、抵抗率:1Ω・cm以上100Ω・cm未満、COPフリー)を使用した。
【0110】
[前段研磨条件]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:20kPa
定盤回転数:20rpm
キャリア回転数:20rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製、製品名「FP55」
研磨液供給レート:1リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:2分
【0111】
<研磨用組成物の調製と仕上げ研磨>
(例1B)
砥粒と、ポリビニルアルコール(PVA)と、分散剤と、塩基性化合物とを含み、残部が水からなる研磨用組成物を調製し、例1Bに係る研磨用組成物とした。砥粒としては、BET径25nmのコロイダルシリカを使用した。PVAとしては、Mwが7×10であり、けん化度98%以上のものを使用した。分散剤としては、エチレンオキサイド付加モル数6のポリオキシエチレンオクチルエーテル(C8PEO6)を使用した。塩基性化合物としてはアンモニアを使用した。例1Bに係る研磨用組成物における各成分の濃度は、砥粒が3.3%、PVAが0.11%、塩基性化合物が0.21%であった。
この研磨用組成物を脱イオン水(DIW)で20倍に希釈した希釈液を研磨液(ワーキングスラリー)として使用して、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハを、下記の仕上げ研磨条件で研磨した。
【0112】
[仕上げ研磨条件]
研磨装置:株式会社岡本工作機械製作所製の枚葉研磨機、型式「PNX-332B」
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
キャリア回転数:30rpm
研磨パッド:フジボウ愛媛社製の研磨パッド、商品名「POLYPAS27NX」
研磨液供給レート:2リットル/分
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:4分
【0113】
研磨後のシリコンウェーハを研磨装置から取り外し、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=2:5.3:48(体積比)の洗浄液を用いて洗浄した(SC-1洗浄)。より具体的には、周波数720kHzの超音波発振器を取り付けた洗浄槽を用意し、洗浄槽に上記洗浄液を収容して70℃に保持し、研磨後のシリコンウェーハを洗浄槽に6分浸漬し、その後超純水よるリンスを行った。この工程を2回繰り返した後、シリコンウェーハを乾燥させた。
【0114】
(例2B)
C8PEO6に代えて、分散剤としてMwが39×10のPACMOを使用したこと以外は、例1Bと同じ成分を同じ濃度で含むようにして、例2Bの研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物を用いた他は例1Bと同様にして、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハの仕上げ研磨、洗浄および乾燥を行った。
【0115】
(例3B)
C8PEO6に代えて、分散剤としてMwが26×10のHECを使用したこと以外は、例1Bと同様の方法で例3Bの研磨用組成物を調製した。例3Bに係る研磨用組成物における各成分の濃度は、砥粒が3.3%、PVAが0.10%、塩基性化合物が0.23%であった。この研磨用組成物を用いた他は例1Bと同様にして、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハの仕上げ研磨、洗浄および乾燥を行った。
【0116】
(例4B)
分散剤を使用しないこと以外は、例1Bと同様の方法で例4Bの研磨用組成物を調製した。例4Bに係る研磨用組成物における各成分の濃度は、砥粒が3.3%、PVAが0.10%、塩基性化合物が0.21%であった。この研磨用組成物を用いた他は例1Bと同様にして、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハの仕上げ研磨、洗浄および乾燥を行った。
【0117】
(例5B)
C8PEO6に代えて、Mwが1.7×10のPVPを使用したこと以外は、例1Bと同様の方法で例5Bの研磨用組成物を調製した。例5Bに係る研磨用組成物における各成分の濃度は、砥粒が3.3%、PVAが0.10%、PVPが0.05%、塩基性化合物が0.21%であった。この研磨用組成物を用いた他は例1Bと同様にして、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハの仕上げ研磨、洗浄および乾燥を行った。
【0118】
(例6B)
PVAを使用しないこと以外は例5Bと同じ成分を同じ濃度で含むようにして、例6Bの研磨用組成物を調製した。この研磨用組成物を用いた他は例1Bと同様にして、上記前段研磨工程を終えたシリコンウェーハの仕上げ研磨、洗浄および乾燥を行った。
【0119】
例1B~例3Bの各研磨用組成物における、エーテル結合を有する分散剤の含有量に対するPVAの含有量のモル比は、それぞれ表2の該当欄に表示する通りとした。
【0120】
<表面欠陥の評価>
上記の各例により得られたシリコンウェーハについて、以下の評価を行った。
(LPD数測定)
シリコンウェーハの表面(研磨面)に存在する32nmよりも大きいLPDの個数を、ウェーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「SURFSCAN SP2 xp」)を用いて計測した。計測されたLPDの個数を以下の3段階で表2の該当欄に示した。LPDの個数が小さいほど、研磨面の表面欠陥が低減していることを示す。
◎:100個以下
○:101個以上1000個以下
×:1001個以上
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示されるように、PVAと、分子中にエーテル結合を有する分散剤と、を含む例1B~例3Bの研磨用組成物によると、分散剤を含まない例4B~例5Bの研磨用組成物と比較して、明らかにLPD数が減少し、研磨面の表面欠陥が低減された。特に、分散剤としてC8PEO6を使用した例1Bの研磨用組成物によると、表面欠陥が顕著に低減された。
【0123】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。