(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-07
(45)【発行日】2024-03-15
(54)【発明の名称】水硬性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/14 20060101AFI20240308BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240308BHJP
【FI】
C04B7/14
E02D3/12
(21)【出願番号】P 2023555262
(86)(22)【出願日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2023011452
(87)【国際公開番号】W WO2023182415
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2022049312
(32)【優先日】2022-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】森 明義
(72)【発明者】
【氏名】茶林 敬司
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105648(JP,A)
【文献】特開2014-097918(JP,A)
【文献】特開2010-235381(JP,A)
【文献】JISハンドブック8 建築I 材料,財団法人日本規格協会,2001年01月31日,P.136
【文献】門田浩史ら,少量混合成分を10%まで増加させたセメントの圧縮強さに及ぼすベースセメントのC3Sの影響,第74回,2020年,P.186-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00-32/02, C04B40/00-40/06, C04B103/00-111/94
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式により算出されたC
3AおよびC
4AFの合計量が24質量%以上、C
3S量が63質量%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14以上1.27以下であるセメントクリンカーと、石膏と、高炉スラグと石灰石
のみから成り、
該高炉スラグの含有量が全組成物当たり
5.0質量%で、かつ石灰石の含有量が全組成物当たり
5.0質量%で、石膏の含有量がSO
3
換算で全組成物当たり2±0.2質量%であり、
セメントクリンカーと高炉スラグと石灰石と石膏の総量が100質量%である水硬性組成物。
【請求項2】
該セメントクリンカーがC
3A、C
4AF、C
3S、及びC
2Sから成り,
かつ該セメントクリンカーは、ボーグ式により算出された組成で、
C
3AおよびC
4AFの合計量が24質量%以上32質量%以下で、C
4AF量が15質量%以上、
C
3S量が63質量%以上65質量%以下であり、かつ
C
2S量が3質量%以上~13質量%以下であることを特徴とする、
請求項1の水硬性組成物。
【請求項3】
CaO源と、SiO
2源、Al
2O
3源、及びFe
2O
3源を、1300℃以上1400℃以下で焼成し、ボーグ式により算出されたC
3AおよびC
4AFの合計量が24質量%以上、C
3S量が63質量%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14以上1.27以下である、セメントクリンカーを製造すると共に、
冷却後の該セメントクリンカーに、石膏と、高炉スラグと、石灰石
のみを、高炉スラグの含有量が全組成物当たり
5.0質量%で、かつ石灰石の含有量が全組成物当たり
5.0質量%、石膏の含有量がSO
3
換算で全組成物当たり2±0.2質量%となり、セメントクリンカーと高炉スラグと石灰石と石膏の総量が100質量%となるように添加する、水硬性組成物の製造方法。
【請求項4】
該セメントクリンカーがC
3A、C
4AF、C
3S、及びC
2Sから成り,
かつ該セメントクリンカーは、ボーグ式により算出された組成で、
C
3AおよびC
4AFの合計量が24質量%以上32質量%以下で、C
4AF量が15質量%以上、
C
3S量が63質量%以上65質量%以下で、かつ
C
2S量が3質量%以上~13質量%以下となるように、該セメントクリンカーを製造することを特徴とする、
請求項3の水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカーと、石膏と、高炉スラグと石灰石との合計が全組成物当たり5質量%を超え、14質量%以下の石灰石と高炉スラグとを含んでなる水硬性組成物に関する。詳しくは、従来よりも低温で焼成したセメントクリンカーを含んだ場合において、良好な長期強度発現性を示す水硬性組成物に関する。本発明はまた、このような水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業は、大量生産・大量消費型産業であり、省資源・省エネルギーは、それまでも、そしてこれからも最重要課題であり続けると考えられる。例えば、最も大量に製造されているポルトランドセメントを製造するためには、所定の化学組成に調製された原料を、1450℃~1550℃もの高温で焼成してクリンカーとする必要がある。この温度を得るためのエネルギーコストは膨大なものとなる。
【0003】
一方、近年の地球環境問題と関連して、廃棄物、副産物等の有効利用は重要な課題となっている。セメント産業、セメント製造設備の特徴を生かし、セメント製造時に原料や燃料として廃棄物を有効利用あるいは処理を行うことは、安全かつ大量処分が可能という観点から有効とされている。
【0004】
廃棄物、副産物等の中で、都市ごみ焼却灰、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ等、特に石炭灰等は、通常のセメントクリンカー組成に比べ、Al2O3含有量が多い。Al2O3含有量が多い廃棄物、副産物等の使用量を増加させた場合、セメントクリンカー成分のうち3CaO・Al2O3(以下、C3A)含有量が増加することになる。
【0005】
当該C3Aは、4CaO・AlO3・Fe2O3(以下、C4AF)と並び、間隙相と呼ばれ、その量が多くなるとクリンカーの焼成温度を低くできるという利点がある。一方で、セメントの強度に対して重要なクリンカーを構成する他の鉱物(3CaO・SiO2(C3S)、2CaO・SiO2(C2S))の量に影響を与え、セメント物性に影響が生じる。
【0006】
本発明者等は、上記間隙相の含有割合を多くして低温焼成を可能にしつつ、かつ強度等の物性も良好なセメントクリンカーを提案した(特許文献1)。このセメントクリンカーでは、C3AおよびC4AFの合計量が22質量%以上、C3S量が60質量%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.3以下である。
【0007】
低I.M.クリンカーを用いた場合、5質量%以下の特定の混合材(高炉スラグ、石灰石)を用いた場合、初期の強度発現性の促進効果が得られることが知られている(特許文献2)。一方、従来の普通ポルトランドセメントでは5質量%を超え、10質量%以下の混合材(石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ)が使用された場合、単独の混合材では長期の強度発現性促進は確認されていない(非特許文献1)。しかし、石灰石微粉末とフライアッシュを併用した場合には長期強度発現性の促進効果が得られることが報告されている( 非特許文献2)。
【0008】
しかしながら本発明者等の検討によれば、前記非特許文献に記載されるような単一の少量混合成分もしくは石灰石微粉末とフライアッシュを混合した物を低I.M.クリンカーに用いた場合では、長期強度発現性が十分なものにならないとういう問題があることが明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-224504号公報
【文献】特開2014-097918号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】中口ら、「少量混合成分を増量したセメントの品質評価」、第72回セメント技術大会講演要旨、2018年、p.p. 270-271
【文献】門田ら、「少量混合成分を10質量%まで増加させたセメントの圧縮強さに及ぼすベースセメントのC3Sの影響」、第74回セメント技術大会講演要旨、2020年、p.p. 186-187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記低I.M.クリンカーを用いれば、従来のセメントに比べ、廃棄物使用量を増やすことが可能であり、しかも、製造する際の焼成温度を低減することが可能である。しかしよりいっそう良好な長期強度発現を示す水硬性組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討を進め、低I.M.クリンカーに対して混合材として石灰石および高炉スラグを特定の割合で添加することで、混合材を使用しない場合および混合材を単体として使用した場合よりも良好な強さ発現を示すことを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
即ち本発明は、ボーグ式により算出されたC3AおよびC4AFの合計量が24質量%以上、C3S量が63質量%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14~1.27であるセメントクリンカーと、石膏と石灰石と高炉スラグとを含んでなり、該石灰石と高炉スラグとの合計が、全組成物当たり5質量%を超え、好ましくは8質量%以上で、14質量%以下である水硬性組成物である。
【0014】
本発明の水硬性組成物の製造方法では、CaO源と、SiO2源、Al2O3源、及びFe2O3源を、1300℃以上1400℃以下で焼成し、ボーグ式により算出されたC3AおよびC4AFの合計量が24質量%以上、C3S量が63質量%以上であり、かつ鉄率(I.M.)が1.14以上1.27以下である、セメントクリンカーを製造すると共に、冷却後の該セメントクリンカーに、石膏と、高炉スラグと、石灰石とを、高炉スラグと石灰石との合計含有量が、全組成物当たり5質量%を超え14質量%以下となるように添加する。水硬性組成物に関する明細書の記載は、その製造方法にもそのまま当てはまる。
【0015】
好ましくは、セメントクリンカーがC3A、C4AF、C3S、及びC2Sから成り,
かつ該セメントクリンカーは、ボーグ式により算出された組成で、
C3AおよびC4AFの合計量が24質量%以上32質量%以下で、C4AF量が15質量%以上、
C3S量が63質量%以上65質量%以下であり、かつ
C2S量が3質量%以上~13質量%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来のセメントクリンカーよりも廃棄物使用量を増量することが可能となり、かつ焼成温度を1300~1400℃程度まで低減することが可能であり、かつ極めて良好な長期強さ発現性を有する水硬性組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明におけるC3A、C4AFおよびC3S量は、ボーグ(Bogue)式によって求められるものである。
【0018】
ボーグ式は、係数・諸比率とならんで利用され、主要化学成分値を用いておよその主要化合物組成を算出する計算式であり、当業者には周知の式であるが、念のため、以下にボーグ式によるクリンカー中の各鉱物量の求め方を記しておく。
C3S量 =(4.07×CaO)-(7.60×SiO2)-(6.72×Al2O3)-(1.43×Fe2O3)
C2S量 =(2.87×SiO2)-(0.754×C3S)
C3A量 =(2.65×Al2O3)-(1.69×Fe2O3)
C4AF量=3.04×Fe2O3
【0019】
また鉄率(I.M.)は、水硬率(H.M.)、ケイ酸率(S.M.)、活動係数(A.I.)および石灰飽和度(L.S.D.)とならんで、主要化学成分値を用いて求められ、クリンカー製造管理のための特性値として、係数・諸比率の一つとして利用されており、当業者には周知の係数である。念のため、以下に当該鉄率の計算方法を他の係数値と併せて記しておく。
水硬率(H.M.) =CaO/(SiO2+Al2O3+Fe2O3)
ケイ酸率(S.M.) =SiO2/(Al2O3+Fe2O3)
活動係数(A.I.) =SiO2/Al2O3
鉄率(I.M.) =Al2O3/Fe2O3
石灰飽和度(L.S.D.)=CaO/(2.8×SiO2+1.18×Al2O3+0.65×Fe2O3)
【0020】
なお、上記式中の「CaO」「SiO2」「Al2O3」および「Fe2O3」は、それぞれJISR 5202「ポルトランドセメントの化学分析法」やJISR 5204「セメントの蛍光X線分析法」などに準拠した方法により測定できる。この明細書で、A~Bのように範囲を指定した場合、A以上B以下などのように、上限と下限を含むものとする。%は特に指定がなければ質量%を表す。
【0021】
上述の通り、本発明で使用するセメントクリンカーにおいては、C3A、C4AFの量はその合計が24質量%以上でなくてはならない。これらの量が24質量%を下回ると強度発現性などの物性の良好なセメントクリンカーを1300~1400℃の温度で焼成して得ることが困難になる。なお、後述するように高い強度発現性を得るためにはC3Sが63質量%以上必要である。よって、C3AおよびC4AFの合計量は37質量%が上限となる。好ましくは35質量%以下、より好ましくは32質量%以下、特に好ましくは28質量%以下である。またこの両成分のうち、C4AFは、低温でも十分に焼結させることができ、かつクリンカー中の f-CaO量(遊離CaO量)を少なくできる点で、単独で15質量%以上存在することが好ましい。
【0022】
C3S量は本発明のセメント組成物(以下、単に「セメント」)の強度発現性に対して極めて重要である。この量が63質量%を下回るとC3AおよびC4AFの合計量および後述する鉄率を所定の範囲にしても良好な強度発現性を得られない。なお上述したC3AおよびC4AFの合計量は少なくとも24質量%であるから、C3S量の上限は76質量%となる。凝結の開始から終結までの時間をある程度確保するために、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
【0023】
本発明で使用するセメントクリンカーにはさらにC2Sが含まれていてもよい。その量は13質量%以下で、10質量%以下であることが好ましく、また3質量%以上であることが好ましい。長期強度を得るという観点から、特に好ましくはC3S量との合計量が69質量%以上となる量である。
【0024】
本発明で使用するセメントクリンカーにおいて最も重要なことは鉄率(I.M.)を1.14~1.27とすることにある。鉄率が1.3を超えると、本発明で使用するセメントクリンカーにおける他の要件を満足していても十分な強度発現性(より具体的には、例えばモルタル強さ発現)を得ることができない。さらに鉄率が1.3を超える場合、凝結開始から終結までの時間が長くなりすぎる傾向にあり、この点からも鉄率は1.3以下とする。本発明においては1.14~1.27とする。
【0025】
水硬率及びケイ酸率は特に限定されるものではないが、各種物性のバランスに優れたものとするために、水硬率は好ましくは1.8~2.2、特に好ましくは1.9~2.1であり、またケイ酸率は好ましくは1.0~2.0、特に好ましくは1.1~1.7である。
【0026】
本発明で使用する上記セメントクリンカーを製造する方法は特に限定されることがなく、公知のセメント(クリンカー)原料を、上記各鉱物比率及び係数となるように所定の割合で調製混合し、公知の方法(例えば、SPキルンやNSPキルン等)で焼成することにより容易に得ることができる。
【0027】
当該セメント原料の調製混合方法も公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、事前に廃棄物、副産物およびその他の原料(石灰石、生石灰、消石灰等のCaO源、珪石等のSiO2源、粘土等のAl2O3源、製鋼スラグ等のFe2O3源など)の組成を測定し、これら原料中の各成分割合から上記範囲になるように各原料の調合割合を計算し、その割合で原料を調合すればよい。
【0028】
なお、本発明で使用するセメントクリンカーの製造に用いる原料は、従来セメントクリンカーの製造において使用される原料と同様なものが特に制限なく使用される。廃棄物、副産物等を利用することも、無論可能である。
【0029】
本発明で使用するセメントクリンカーの製造において、廃棄物、副産物等から一種以上を使用することは、廃棄物、副産物等の有効利用を促進する観点から好ましいことである。使用可能な廃棄物・副産物をより具体的に例示すると、高炉スラグ、製鋼スラグ、非鉄鉱滓、石炭灰、下水汚泥、浄水汚泥、製紙スラッジ、建設発生土、鋳物砂、ばいじん、焼却飛灰、溶融飛灰、塩素バイパスダスト、木屑、廃白土、ボタ、廃タイヤ、貝殻、都市ごみやその焼却灰等が挙げられる。(なお、これらの中には、セメント原料になるとともに熱エネルギー源となるものもある)。
【0030】
特に本発明で使用するセメントクリンカーは、C3AおよびC4AFというアルミニウムをその構成元素とする鉱物を多く含む。そのため、従来のセメントクリンカーに比べて、アルミニウム分の多い廃棄物・副産物をより多く使用して製造できるという利点を有する。
【0031】
本発明の水硬性組成物は、上記セメントクリンカーに加えて、石膏と石灰石と高炉スラグを必須成分として含む。
【0032】
使用する石膏については、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ等のセメント製造原料として公知のセッコウが特に制限なく使用できる。石膏の添加量は、水硬性組成物中のSO3量が1.5~5.0質量%となるように添加することが好ましく、1.8~3質量%となるような添加量がより好ましい。
【0033】
本発明の水硬性組成物に用いる石灰石は、セメント混合材として公知の石灰石を用いることができる。例えば天然の石灰石や合成の炭酸カルシウムを使用することができる。石灰石を配合することにより、配合しない場合に比べて良好な強さ発現を示す。これは従来汎用されてきたC3AとC4AFの合計量が18~20質量%程度のクリンカーでは、石灰石の配合により強度低下する傾向があったことに比べて、全く逆の傾向であり驚くべきことである。
【0034】
本発明の効果をより良好に発現させるために、石灰石の含有量は5質量%以上が好ましい。
【0035】
本発明の組成物においてはさらに高炉スラグを含む。本発明の水硬性組成物に用いる高炉スラグは、セメント混合材として公知の高炉スラグを用いることができる。石灰石に加えて高炉スラグを含むことにより、石灰石のみ、或いは高炉スラグのみを含む場合に比べ、その配合量が同等であれば、より良好な長期強度発現性を得ることができる。石灰石と高炉スラグとの合計量は、全組成物当たり5質量%を超え、14質量%以下であり、より好ましくは8質量%以上、12質量%以下である。また石灰石と高炉スラグの合計量の割合が100質量%中、高炉スラグの割合が30~70質量%であることが好ましい。
【0036】
本発明の水硬性組成物は、上記石灰石及び高炉スラグに加えて、フライアッシュ及び/又はシリカ質混合材を含んでいてもよい。この場合、石灰石及び高炉スラグと、フライアッシュ及び/又はシリカ質混合材との合計量は全組成物中14質量%以下とする。フライアッシュ及びシリカ質混合材の合計量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下とする。またフライアッシュ量は1質量%以下が好ましく、特に好ましくはフライアッシュを含まない。
【0037】
上記セメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ及びその他の混合材は、粉末度が、ブレーン比表面積で2800~4500cm2/gとなるように調整されていることが好ましい。
【0038】
当該粉末度に調製するための粉砕方法については、公知の技術が特に制限なく使用でき、各成分を個別に粉砕後、混合しても良いし、混合後に粉砕してもよい。粉砕機としてはボールミル、竪型ミル等が使用できる。
【0039】
本発明の水硬性組成物はポルトランドセメント、特にJIS規格に合致したポルトランドセメントとして使用できる。当該ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメントが挙げられる。またポルトランドセメントとする以外にも、各種混合セメントや、土壌固化材等の固化材の構成成分として使用することも可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
石灰石、石炭灰及び建設発生土等の廃棄物を含む工業原料を用いて、ボーグ式による鉱物組成および係数値が表1に示される組成のクリンカーを得た。クリンカーは本発明において使用されるクリンカーであり、電気炉で比較的低温の1350℃で90分間焼成してセメントクリンカーを得た。
【0042】
このセメントクリンカーに、SO3換算で2±0.2質量%(二水石膏換算で4.3±0.43質量%)となるように石膏を添加、および所定の混合材(石灰石、高炉スラグ)を添加し、Blaine法による比表面積が3200±50cm2/gとなるように混合粉砕し、各セメントを製造した。得られたセメントのモルタル圧縮強さを測定した。各実施例の混合材添加量、モルタル圧縮強さの結果を表2に示す。
【0043】
なお、各種測定方法は以下の方法による。
(1)原料およびセメントクリンカーの化学組成の測定:JISR5204に準拠する蛍光X線分析法により測定した。
(2)モルタル圧縮強さの測定:JISR5201に準拠する方法により測定した。
【0044】
【0045】
【0046】
以下、長期強度発現性の指標として材齢28日モルタル圧縮強さについて述べる。
【0047】
高炉スラグと石灰石との合計が全組成当たり5質量%以下である比較例1、参考例1及び参考例2においては、高炉スラグを含まない参考例1の組成物の材齢28日圧縮強さが最も良好である。また、高炉スラグのみである比較例2が最も低い値を示している。そして、高炉スラグの割合が50質量%である参考例2はその間の値を示している。この石灰石と高炉スラグを合計で5.0質量%含む参考例2の組成物の材齢28日圧縮強さは、何も混合していない比較例1に比べて良好であるが十分なものとはいえない。
【0048】
一方、高炉スラグと石灰石との合計が全組成当たり5質量%を超えた10.0質量%である比較例3、実施例1及び比較例4においては、高炉スラグと石灰石の合計に対する高炉スラグの割合が50質量%である実施例1材齢28日圧縮強さが、最も良好である。この圧縮強さは、比較例1と比較して、十分に良好である。それに対して、高炉スラグを含まない又は高炉スラグのみの、比較例3や比較例4は低い値を示しており、高炉スラグと石灰石とを併用し、かつ高炉スラグと石灰石との合計が全組成当たり5質量%を超えた場合に、極めて良好な長期強度発現性を生じることが示されている。
【0049】
比較例5、比較例6は、石灰石と高炉スラグを合計で14質量%を超えて添加した例である。合計で12.0質量%である実施例2と比較して、比較例5、比較例6の材齢28日圧縮強さは低い値を示しており、比較例1と同等若しくは比較例1より低い値を示している。
【0050】
CaO源とSiO2源、Al2O3源、及びFe2O3源を、ロータリーキルンにより最高温度1500℃で焼成した、普通ポルトランドセメントクリンカーを用い、比較例7~13の水硬性組成物を調製した。普通ポルトランドセメントクリンカーの組成は、C3S量が64質量%、C2S量が16質量%、C3A量が10質量%、C4AF量が9質量%であった。
【0051】
このセメントクリンカー91質量%に、石灰石とフライアッシュ、及び高炉スラグを合計5質量%、二水石膏を4質量%添加し、粉砕して水硬性組成物を得た(比較例7~11)。さらに、セメントクリンカー86質量%に、石灰石とフライアッシュ、及び高炉スラグを合計10質量%、二水石膏を4質量%添加し、粉砕して水硬性組成物を得た(比較例12,13)。実施例1,2等と同様にして、材齢28日目のモルタル圧縮強度を測定した。結果を表3に示す。
【0052】
表3
普通ポルトランドセメントクリンカーの圧縮強度
石灰石 フライアッシュ スラグ モルタル圧縮強度(N/mm
2
)
材齢28日(比較例7に対する相対値)
比較例7 5 0 0 100%
比較例8 0 5 0 98%
比較例9 0 0 5 94%
比較例10 2.5 2.5 0 104%
比較例11 0 2.5 2.5 98%
比較例12 5 5 0 106%
比較例13 5 5 0 99%
* 添加物量は質量%単位。
【0053】
普通ポルトランドセメントクリンカーを用いた場合、石灰石と高炉スラグの組み合わせ(比較例13)が28日目の強度に有効であるとの兆候はなく、石灰石とフライアッシュの組み合わせ(比較例10,12)で28日目の材齢強度が高くなった。