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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】小型超音波リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/06 20060101AFI20240311BHJP
   H02N 2/02 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
B06B1/06 A
H02N2/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022503039
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008470
(87)【国際公開番号】W WO2021171600
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月1日 2019年度精密工学会春季大会学術講演会予稿集CD-ROMで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月13日 東京電機大学において開催された2019年度精密工学会春季大会学術講演会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年5月16日 第31回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(SEAD31)予稿集ウェブサイトに掲載 https://www.jsme.or.jp/conference/sead31/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年5月23日 東京工業大学において開催された第31回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(SEAD31)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月23日 ウェブサイトに掲載 https://doi.org/10.1016/j.sna.2019.111764
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月25日 第40回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム(USE2019)予稿集USBで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年11月27日 明治大学において開催された第40回超音波エレクトロニクスの基礎と応用に関するシンポジウム(USE2019)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 剛
(72)【発明者】
【氏名】田上 裕太郎
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-032351(JP,A)
【文献】特開2010-246277(JP,A)
【文献】特開2009-148086(JP,A)
【文献】実開昭62-104593(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/06
H02N 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料により駆動方向に対する対称性を有する板状に形成された圧電駆動部に金属材料により形成された金属作用部を接着した振動子と、前記振動子に押圧された移動部材と、を有し、前記圧電駆動部の4辺に平行する二方向のうちの一方向に前記圧電駆動部を伸縮振動させる第1伸縮振動と前記圧電駆動部の前記一方向の両端部を前記二方向のうちの他方向に逆位相で伸縮振動させる第2伸縮振動とを用いて前記移動部材を前記一方向に移動させる小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記圧電駆動部と略同形の天板を有する四脚のテーブル状に形成され、前記天板が前記圧電駆動部に接着されており、
前記移動部材は、一対のスライダとして構成されており、前記一対のスライダにより前記金属作用部の少なくとも前記四脚の端部を挟持するように配置されている、
小型超音波リニアモータ。
【請求項2】
請求項1記載の小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記四脚の端部の前記一対のスライダに接触する部位に前記一対のスライダ側に突出する4つの突出摩擦部を有する、
小型超音波リニアモータ。
【請求項3】
請求項1または2記載の小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記天板の裏面中央に前記振動子を外部に固定する固定部を有する、
小型超音波リニアモータ。
【請求項4】
圧電材料により駆動方向に対する対称性を有する板状に形成された圧電駆動部に金属材料により形成された金属作用部を接着した振動子と、前記振動子に押圧された移動部材と、を有し、前記圧電駆動部の4辺に平行する二方向のうちの一方向に前記圧電駆動部を伸縮振動させる第1伸縮振動と前記圧電駆動部の前記一方向の両端部を前記二方向のうちの他方向に逆位相で伸縮振動させる第2伸縮振動とを用いて前記移動部材を前記一方向に移動させる小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記圧電駆動部と略同形の天板を有する四脚のテーブル状に形成され、前記天板が前記圧電駆動部に接着されており、
前記移動部材は、棒状に形成されており、前記金属作用部の前記四脚の端部の内側を押圧するように配置されている、
小型超音波リニアモータ。
【請求項5】
請求項4記載の小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部の前記四脚の端部の前記移動部材に接触する部位は、前記移動部材が略正接するように傾斜部として形成されている、
小型超音波リニアモータ。
【請求項6】
請求項5記載の小型超音波リニアモータであって、
前記移動部材は、円形断面に棒状に形成されており、
前記圧電駆動部の前記移動部材の移動方向に対して直交する方向の長さをMとし、前記四脚の前記移動部材の移動方向に対して直交する方向の長さをwとし、前記傾斜部の傾斜角をθとし、前記移動部材の断面の半径をrとし、前記傾斜部の前記四脚からの高さをlとし、tanα=l/rとしたときに、次式(1)で表わされる傾斜角θの範囲を前記傾斜部の傾斜角とする、
小型超音波リニアモータ。
【数1】
【請求項7】
請求項4ないし6のうちのいずれか1つの請求項に記載の小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記一方向に沿った両側面の中央に前記他方向に突出するように形成され、前記振動子を外部に固定する2つのフランジを有する、
小型超音波リニアモータ。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちのいずれか1つの請求項に記載の小型超音波リニアモータであって、
前記振動子は、前記第1伸縮振動の共振周波数と前記第2伸縮振動の共振周波数とが略一致するように構成されている、
小型超音波リニアモータ。
【請求項9】
請求項1ないし7のうちのいずれか1つの請求項に記載の小型超音波リニアモータであって、
前記振動子は、前記移動部材が押圧されたときに前記第1伸縮振動の共振周波数と前記第2伸縮振動の共振周波数とが略一致するように構成されている、
小型超音波リニアモータ。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちのいずれか1つの請求項に記載の小型超音波リニアモータであって、
前記振動子は、前記圧電駆動部と前記金属作用部との接着面が中立面となるように構成されている、
小型超音波リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型超音波リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、圧電材料により略矩形の板状に形成された圧電振動部に下部中央に長手方向に直線状の溝を有する断面がコ字型の金属作用部を接着した振動子と、振動子に押圧された移動部材と、を有する小型超音波リニアモータが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この小型超音波リニアモータは、長手方向に圧電振動部を伸縮振動させる第1伸縮振動と圧電振動部の長手方向の両端部を溝と直交する方向に逆位相で伸縮振動させる第2伸縮振動とを用いて移動部材を長手方向に移動させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】"対向予圧付与可能な小型リニア超音波モータの設計と試作",田上裕太郎,森田剛,2018年度精密工学会春季大会プログラム,アブストラクト集 第50頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした小型超音波リニアモータを用いる技術では、小型超音波リニアモータの更なる小型化や軽量化、ハイパワー化が望まれている。特に、技手用ロボットハンド、歩行アシストロボット、介護用パワーアシストロボットなどのロボットやカメラのオートフォーカス機構、医療機器、検査装置などの精密機器に用いられる小型超音波リニアモータでは、この課題は顕著なものとなる。
【0005】
本発明の小型超音波リニアモータは、超音波リニアモータの小型化、軽量化、ハイパワー化を図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の小型超音波リニアモータは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の小型超音波リニアモータは、
圧電材料により駆動方向に対する対称性を有する板状に形成された圧電駆動部に金属材料により形成された金属作用部を接着した振動子と、前記振動子に押圧された移動部材と、を有し、前記圧電駆動部の4辺に平行する二方向のうちの一方向に前記圧電振動部を伸縮振動させる第1伸縮振動と前記圧電振動部の前記一方向の両端部を前記二方向のうちの他方向に逆位相で伸縮振動させる第2伸縮振動とを用いて前記移動部材を前記一方向に移動させる小型超音波リニアモータであって、
前記金属作用部は、前記圧電駆動部と略同形の天板を有する四脚のテーブル状に形成され、前記天板が前記圧電振動部に接着されている、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の小型超音波リニアモータでは、金属作用部は、金属材料により圧電駆動部と略同形の天板を有する四脚のテーブル状に形成され、天板が前記圧電振動部に接着されている。四脚は連結されていないから、各脚の自由度が大きくなり、四脚のうちの二脚ずつを連結した形状(下部中央に直線状の溝を有する断面がコ字型の形状)の金属作用部を有する従来例の振動子に比して、振動子の第1伸縮振動や第2伸縮振動の励振が容易なものなる。この結果、従来例の振動子を有する超音波リニアモータに比して、モータの小型化、軽量化、ハイパワー化を図ることができる。ここで、「駆動方向に対する対称性」とは、圧電駆動部において移動部材の移動方向の中心軸に対して線対称に形成されていることを意味している。
【0009】
本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記移動部材は、一対のスライダとして構成されており、前記一対のスライダにより前記金属作用部の少なくとも前記四脚の端部を挟持するように配置されているものとすることもできる。こうすれば、一対のスライダを一方向に移動させることができる。
【0010】
この移動部材が一対のスライダとして構成された態様の本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記金属作用部は、前記四脚の端部の前記一対のスライダに接触する部位に前記一対のスライダ側に突出する4つの突出摩擦部を有するものとすることもできる。こうすれば、第1伸縮振動と第2伸縮振動とによる移動部材の移動の際の摩擦を小さくし、移動部材の移動をより効率的に行なうことができる。
【0011】
また、移動部材が一対のスライダとして構成された態様の本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記金属作用部は、前記天板の裏面中央に前記振動子を外部に固定する固定部を有する、ものとすることもできる。天板の裏面中央は、第1伸縮振動のノード点となると共に第2伸縮振動のノード点となるから、振動子が固定部によって外部に固定されても、振動子の第1伸縮振動や第2伸縮振動は阻害されない。
【0012】
本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記移動部材は、棒状に形成されており、前記金属作用部の前記四脚の端部の内側を押圧するように配置されているものとすることもできる。こうすれば、棒状の移動部材を一方向に移動させることができる。
【0013】
この移動部材が棒状に形成された態様の本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記金属作用部の前記四脚の端部の前記移動部材に接触する部位は、前記移動部材が略正接するように傾斜部として形成されているものとすることもできる。こうすれば、第1伸縮振動と第2伸縮振動とに伴って金属作用部の四脚から移動部材に作用する押圧力を移動部材の軸心に近い方向とすることができる。この結果、高推力とすることができる。この場合、前記移動部材は、円形断面に棒状に形成されており、前記圧電駆動部の前記移動部材の移動方向に対して直交する方向の長さをMとし、前記四脚の前記移動部材の移動方向に対して直交する方向の長さをwとし、前記傾斜部の傾斜角をθとし、前記移動部材の断面の半径をrとし、前記傾斜部の前記四脚からの高さをlとし、tanα=l/rとしたときに、次式(1)で表わされる傾斜角θの範囲とするものとすることもできる。また、傾斜角は、式(1)で表わされる範囲のうち中央値よりも小さい角度とするものとすることもできる。振動軌跡が水平方向になす角ψと傾斜角θとの角度差(θ-ψ)が値0に近いほど傾斜角の設計は適切となるが、傾斜角θに対する角度差(θ-ψ)の変化をFEM(有限要素法)シミュレーションと計算から求めると、傾斜角θが小さくなるほど角度差(θ-ψ)も小さくなることが解る。したがって、傾斜角θは、移動部材の半径rや傾斜部の高さlを定めれば、取り得る範囲の中央値より小さい角度とするのが好ましい。
【0014】
【数1】
【0015】
移動部材が棒状に形成された態様の本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記金属作用部は、前記一方向に沿った両側面の中央に前記他方向に突出するように形成され、前記振動子を外部に固定する2つのフランジを有するものとすることもできる。金属作用部の一方向に沿った両側面の中央は、第1伸縮振動のノード点となると共に第2伸縮振動のノード点となるから、振動子がフランジによって外部に固定されても、振動子の第1伸縮振動や第2伸縮振動は阻害されない。
【0016】
本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記駆動部材は、前記第1伸縮振動の共振周波数と前記第2伸縮振動の共振周波数とが略一致するように構成されているものとすることもできる。また、前記駆動部材は、前記移動部材が押圧されたときに前記第1伸縮振動の共振周波数と前記第2伸縮振動の共振周波数とが略一致するように構成されているものとすることもできる。これらのようにすることにより、第1伸縮振動と第2伸縮振動とを位相差をもって同一周波数で励振する際に、励振を容易なものとすることができる。
【0017】
本発明の小型超音波リニアモータにおいて、前記振動子は、前記圧電駆動部と前記金属作用部との接着面が中立面となるように構成されているものとすることもできる。こうすれば、接着面に不要な力が作用するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態の小型超音波リニアモータ20の構成の概略を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の小型超音波リニアモータ20を図1の下方から見た説明図である。
図3】第1実施形態の小型超音波リニアモータ20が備える振動子22の構成の概略を示す斜視図である。
図4】位相差φを90度としたときの位相0度(0 deg)、90度(90 deg)、180度(180 deg)、270度(270 deg)のときの振動子22の変位の様子を模式的に示す説明図である。
図5】4つの脚42a~42dの高さhと幅wを変化させたときのL1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数の変化を図5に示す。
図6】振動子22に作用する予圧とアドミタンスと周波数との関係の一例を示す説明図である。
図7】位相差φと一対のスライダ60の移動スピードとの関係の一例を示す説明図である。
図8】第2実施形態の小型超音波リニアモータ120の構成の概略を示す斜視図である。
図9】第2実施形態の小型超音波リニアモータ120を図8の下方から見た説明図である。
図10】第2実施形態の小型超音波リニアモータ120を図8の左側から見た説明図である。
図11】傾斜部144a~144dの傾斜角θで高さlのときに正接する最大半径rmaxおよび最小半径rminのスライダ160を示す説明図である。
図12】振動軌跡が水平方向になす角ψと傾斜角θとその法線との関係を示す説明図である。
図13】傾斜角θに対する角度差(θ-ψ)の変化をFEM(有限要素法)シミュレーションと計算から求めた一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。図1は、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20の構成の概略を示す斜視図である。図2は、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20を図1の下方から見た説明図である。図3は、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20が備える振動子22の構成の概略を示す斜視図である。
【0020】
第1実施形態の小型超音波リニアモータ20は、図1および図2に示すように、振動子22と、振動子22を挟持する一対のスライダ60とにより構成されている。
【0021】
振動子22は、図2および図3に示すように、圧電駆動部30と、圧電駆動部30の下面に接着された金属作用部40と、圧電駆動部30の上面に取り付けられた電極32,34,36とを備える。
【0022】
圧電駆動部30は、圧電材料(例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)など)により矩形(長さL、幅M、厚みtp)の板状に形成されている。圧電駆動部30の上面には、長さ方向に略同一幅の3つの電極32,34,36が形成されている。実施形態では小型の超音波リニアモータを想定しているため、長さLは50mm以下で幅Mは40mm以下、好ましくは長さLは20mm以下で幅Mは10mm以下が望ましい。なお、厚みtpは、3mm以下が好ましい。
【0023】
金属作用部40は、金属材料(例えばジュラルミンやチタン合金など)により圧電駆動部30と略同形(長さL、幅M、厚みtm)の天板にその四隅に断面が矩形の脚42a~42dが取り付けられた四脚テーブル状に形成されている。4つの脚42a~42dは、高さh、幅w、奥行きdの断面が矩形形状に形成されており、その端部の外側(スライダ60側)の奥行きd方向の端部にはスライダ60側に突出する箱状の突出摩擦部44a~44dが取り付けられている。突出摩擦部44a~44dは、例えば金属作用部40と同一の材料や、アルミニウム、樹脂などにより形成することができる。実施形態の振動子22では、図2に示すように、突出摩擦部44a~44dが一対のスライダ60に当接する。金属作用部40は、天板の上面が圧電駆動部30の下面に導通可能に接着されている。このため、圧電駆動部30に対して、電極32,34,36と金属作用部40の4箇所の電気的な境界条件を設定することができる。また、図2に示すように、金属作用部40の裏面中央(四脚42a~42dの間の中央)には中央に円筒状の孔52が形成された円筒形状の固定部50が形成されている。振動子22は、この固定部50を用いて外部に固定される。
【0024】
一対のスライダ60は、金属材料や樹脂、木材などにより板状に形成されており、図2に示すように、振動子22を挟持する部位で振動子22に対して押圧力としての予圧を作用させる力が外部から加わっている。図1および図2に示すように、一対のスライダ60は、直線状の板状に形成されているが、振動子22を挟持する部位で部分的に直線状にみなすことができればよいから、曲線を描く棒状としたり円環状としても構わない。
【0025】
次に、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20の作動原理について説明する。第1実施形態の小型超音波リニアモータ20では、圧電駆動部30の長さL方向に伸縮する第1伸縮振動と、圧電駆動部30の長さL方向の端部が幅M方向に逆位相で伸縮する第2伸縮振動と、によるインチワーム動作により一対のスライダ60を長さL方向に移動させる。第1伸縮振動は、縦1次振動モード(L1モード)を用いることができ、次式(2)に示す駆動電圧を電極32に印加することにより実現することができる。ここで、式(2)中、「A]は振幅であり、「f」は周波数であり、「φ」は第2伸縮振動に対する位相差である。第2伸縮振動は、屈曲2次振動モード(B2モード)のうち長辺方向のノード線の数mがm=1で短辺方向のノード線の数nがn=2のB1-2モードを用いることができ、式(3),(4)に示す駆動電圧を電極34,36に印加することにより実現することができる。式(3),(4)中、「B」は振幅である。金属作用部40は天板と四脚42a~42dとを有する四脚構造としていることにより、脚42aと脚42bとを連結してリブとすると共に脚42cと脚42dとを連結してリブとする構造(金属作用部の中央に長さL方向に沿った溝を形成した構造、以下、「比較例」という。)に比して、各脚42a~42dの自由度が大きい。振動子22の第2伸縮振動では、リブ構造ではないため、比較例のリブに作用する振動を抑制する剪断力は作用しない。この結果、比較例に比して、振動子22の第2伸縮振動の励振が容易になる。また、振動子22の第1伸縮振動では、リブ構造ではないから、振動方向に作用する力は天板にのみ作用し、その応力は2つのリブの断面積の分に相当するだけ比較例に比して大きくなる。金属材料の歪み(伸縮)は作用する応力に比例するから、振動子22の第1伸縮振動は比較例に比して大きくなる。この結果、比較例に比して、振動子22の第1伸縮振動の励振が容易になる。即ち、実施形態の小型超音波リニアモータ20では、金属作用部40を天板と四脚42a~42dとを有する四脚構造とすることにより、振動子22の第1伸縮振動や振動子22の第2伸縮振動の励振を容易なものとすることができる。また、第1実施形態では、圧電駆動部30と金属作用部40との接着面が中立面となるように設計した。これにより、圧電駆動部30と金属作用部40との接着面に不要な力が作用するのを抑制することができる。
【0026】
【数2】
【0027】
図4は、位相差φを90度としたときの位相0度(0 deg)、90度(90 deg)、180度(180 deg)、270度(270 deg)のときの振動子22の変位の様子を模式的に示す説明図である。位相0度(0 deg)では、振動子22は長さL方向に伸張する。位相90度(90 deg)では、振動子22は長さL方向の一方の端部(図中右端部)では幅M方向に収縮し、反対側の他方の端部(図中左端部)では幅M方向に伸張する。位相180度(180 deg)では、振動子22は長さL方向に収縮する。位相270度(270 deg)では、振動子22は長さL方向の他方の端部(図中左端部)では幅M方向に収縮し、反対側の一方の端部(図中右端部)では幅M方向に伸張する。このため、位相180度(180 deg)から位相270度(270 deg)を介して位相0度(0 deg)では、振動子22の図中右側の端部の突出摩擦部44b,44cによって一対のスライダ60を保持しながら長さL方向に伸張する。また、位相0度(0 deg)から位相90度(90 deg)を介して位相180度(180 deg)では、振動子22の図中左側の端部の突出摩擦部44a,44dによって一対のスライダ60を保持しながら長さL方向に収縮する。振動子22は固定部50によって外部に固定されているから、一対のスライダ60は図中右方向に長さL方向の伸縮に応じてスライドする。これを繰り返すことにより、一対のスライダ60を図中右方向にスライドさせることができる。また、位相差φを270度(-90度)とすれば、図4の動作が逆回転方向となるため、一対のスライダ60を図中左方向にスライドさせることができる。なお、振動子22の振動は、L1モードによる第1伸縮振動とB1-2モードによる第2伸縮振動とを重ね合わせたものであるから、楕円振動となる。また、振動子22は、L1モードのノード点となると共にB1-2モードのノード点となる位置に形成された固定部50により外部に固定されているから、振動子22の第1伸縮振動や第2伸縮振動(重ね合わせた楕円振動)は阻害されない。
【0028】
上述のインチワーム動作を効率的に行なうためには、振動子22のL1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数が実質的に一致していることが好ましい。振動子22のL1モードの共振周波数やB1-2モードの共振周波数は、振動子22の材質や形状に左右される。このため、振動子22の圧電駆動部30や金属作用部40の材質を設定した場合、振動子22の形状を調整することによりL1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数とを実質的に一致させるのが好ましい。いま、振動子22として、圧電駆動部30をチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)により長さLを20mm、幅Mを10mm、厚みtpを2mmとして形成し、金属作用部40をジュラルミンにより天板の長さLを20mm、幅Mを10mm、厚みtmを2mm、4つの脚42a~42dの高さhを2.5mm~3.0mm、幅wを2.7mm~3.2mm、奥行きdを7mmとしたときを考える。4つの脚42a~42dの高さhと幅wを変化させたときのL1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数の変化を図5に示す。図5に示すように、脚42a~42dの高さhや幅wを変化させると、L1モードやB1-2モードの共振周波数が変化する。そのうち、脚42a~42dの高さhの変化に対するB1-2モードの共振周波数の変化が著しい。このことから、L1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数とを位置させるためには脚42a~42dの高さhを調整するのが容易であることが解る。
【0029】
図6は、振動子22に作用する予圧とアドミタンスと周波数との関係の一例を示す説明図である。図6に示すように、予圧を加えることにより共振周波数が高い方にシフトするの解る。このことから、一対のスライダ60を介して振動子22に予圧を作用させたときに、振動子22のL1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数とが実質的に一致するように振動子22の形状を設定するのが好ましいことが解る。
【0030】
これらのことを踏まえて、第1実施形態の実施例として、脚42a~42dの高さhを2.7mm、幅wを3.0mm、奥行きdを7mmとした。また、電極32,34,36については、長さL方向の長さを6mmとした。この場合、L1モードの共振周波数とB1-2モードの共振周波数は、85kHz近傍となった。この実施例のL1モードの位相差φと一対のスライダ60の移動速度との関係を図7に示す。図示するように、位相差が0度から180度までの移動方向と180度から360度までの移動方向が逆になることが解る。また、位相差が90度と270度で移動速度が最大速度近傍となることが解る。
【0031】
以上説明した第1実施形態の小型超音波リニアモータ20では、金属作用部40を天板と四脚42a~42dを有する四脚構造としたことにより、四脚42a~42dの自由度が大きくなり、脚42aと脚42bとを連結してリブとすると共に脚42cと脚42dとを連結してリブとする構造(金属作用部の中央に長さL方向に沿った溝を形成した構造)に比して、L1モードによる第1伸縮振動やB1-2モードによる第2伸縮振動の励振が容易なものなる。この結果、従来例の振動子を有する超音波リニアモータに比して、モータの小型化、軽量化、ハイパワー化を図ることができる。
【0032】
第1実施形態の小型超音波リニアモータ20では、金属作用部40に突出摩擦部44a~44dを設けるものとしたが、突出摩擦部44a~44dを設けないものとしても構わない。
【0033】
次に、第2実施形態の小型超音波リニアモータ120について説明する。図8は、第2実施形態の小型超音波リニアモータ120の構成の概略を示す斜視図である。図9は、第2実施形態の小型超音波リニアモータ120を図8の下方から見た説明図である。図10は、第2実施形態の小型超音波リニアモータ120を図8の左側から見た説明図である。
【0034】
第2実施形態の小型超音波リニアモータ120は、図8ないし図10に示すように、振動子122と、振動子122に押圧された棒状のスライダ160とにより構成されている。
【0035】
振動子122は、図8ないし図10に示すように、圧電駆動部130と、圧電駆動部130の下面に接着された金属作用部140と、圧電駆動部130の上面に取り付けられた電極132,134,136とを備える。
【0036】
圧電駆動部130は、第1実施形態の圧電駆動部30と同様に、圧電材料(例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)など)により矩形(長さL、幅M、厚みtp)の板状に形成されている。圧電駆動部130の上面にも、同様に、長さ方向に略同一幅の3つの電極132,134,136が形成されている。
【0037】
金属作用部140は、第1実施形態の金属作用部40と同様に、金属材料(例えばジュラルミンやチタン合金など)により圧電駆動部130と略同形(長さL、幅M,厚みtm)の天板にその四隅に断面が矩形の脚142a~142dが取り付けられた四脚テーブル状に形成されている。4つの脚142a~142dは、第1実施形態の脚42a~42dと同様に、高さh、幅w、奥行きdの断面が矩形形状に形成されており、その先端部の内側には、スライダ60が正接するように傾斜部144a~144dが形成されている。第2実施形態の振動子122では、図10に示すように、傾斜部144a~144dがスライダ160に当接する。また、金属作用部40の長さL方向に沿った辺の側面の中央には、天板の厚みの矩形で中央に貫通孔152a,152bが形成されたフランジ150a,150bが形成されている。振動子22は、このフランジ152a,152bにより外部に固定される。
【0038】
スライダ160は、金属材料や樹脂、木材などにより棒状に形成されており、振動子122の脚142aと脚142dとの間および脚142bと脚142cとの間に4つの脚142a~142dの傾斜部144a~144dに押圧力を作用するように配置されている。なお、スライダ60は直線状の棒状に形成されているが、振動子122に当接する部位で部分的に直線状にみなすことができればよいから、曲線を描く棒状としたり円環状としても構わない。
【0039】
第2実施形態の小型超音波リニアモータ120は、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20と同様に、圧電駆動部130の長さL方向に伸縮する第1伸縮振動と、圧電駆動部130の長さL方向の端部が幅M方向に逆位相で伸縮する第2伸縮振動と、によるインチワーム動作によりスライダ160を長さL方向に移動させる。第1伸縮振動は、L1モードを用いることができ、上述の式(2)に示す駆動電圧を電極132に印加することにより実現することができる。第2伸縮振動は、B1-2モードを用いることができ、式(3),(4)に示す駆動電圧を電極134,136に印加することにより実現することができる。第2実施形態の小型超音波リニアモータ120も図4に示すように動作する。位相180度(180 deg)から位相270度(270 deg)を介して位相0度(0 deg)では、振動子122の図中左側の脚142a,142dの傾斜部144a,144bによってスライダ160を保持しながら長さL方向に伸張する。また、位相0度(0 deg)から位相90度(90 deg)を介して位相180度(180 deg)では、振動子122の図中右側の脚142b,142cの傾斜部144b,144cによって一対のスライダ60を保持しながら長さL方向に収縮する。振動子122はフランジ150によって外部に固定されているから、スライダ160は図中左方向に長さL方向の伸縮に応じてスライドする。これを繰り返すことにより、スライダ160を図中左方向にスライドさせることができる。また、位相差φを270度(-90度)とすれば、図4の動作が逆回転方向となるため、スライダ160を図中右方向にスライドさせることができる。なお、振動子122の振動は、L1モードによる第1伸縮振動とB1-2モードによる第2伸縮振動とを重ね合わせたものであるから、楕円振動となる。また、振動子122は、L1モードのノード点となると共にB1-2モードのノード点となる位置に形成されたフランジ150a,150bにより外部に固定されているから、振動子122の第1伸縮振動や第2伸縮振動(重ね合わせた楕円振動)は阻害されない。また、第2実施形態では、圧電駆動部130と金属作用部140との接着面が中立面となるように設計した。これにより、フランジ150は中立面近傍に配置されることになり、フランジ150により振動子122を外部に固定しても振動子122の第1伸縮振動や第2伸縮振動(重ね合わせた楕円振動)を阻害しない。もとより、圧電駆動部130と金属作用部140との接着面に不要な力が作用するのを抑制することができる。
【0040】
第2実施例の小型超音波リニアモータ120では、4つの脚142a~142dの傾斜部144a~144dとスライダ160とが略正接することが肝要である。図11は、傾斜部144a~144dの傾斜角θで高さlのときに正接する最大半径rmaxおよび最小半径rminのスライダ160を示す説明図である。図示するように、振動子122の傾斜部144a~144dに正接可能なスライダ160の最大半径rmaxおよび最小半径rminは次式(5),(6)により表わすことができる。ここで、M=10mm、h=2.7mm、w=3mm、l=1mm、θ=30度とすると、スライダ160の半径rは2.31mm~2.89mmとなる。また、スライダ160の半径rと傾斜部144a~144dの高さlを決めたときに傾斜角θのとることができる範囲は、tanα=l/rとすれば、式(5),式(6)より上述の式(1)を得ることができる。スライダ160の半径r=2.5mmとし、傾斜部144a~144dの高さl=1mmとすると、傾斜角θは20.33度~36.86度の範囲となる。
【0041】
【数3】
【0042】
第2実施形態の小型超音波リニアモータ120の振動子122とスライダ160の接触面の設計では、余計な摩擦損失を避けるため予圧制御用の振動モードの駆動点における振動軌跡の方向が傾斜面の法線方向とできるだけ一致することが望ましい。したがって、傾斜部144a~144dの傾斜角θは重要なものとなる。図12は、振動軌跡が水平方向になす角ψと傾斜角θとその法線との関係を示す説明図である。振動軌跡が水平方向になす角ψと傾斜角θとの角度差(θ-ψ)が値0に近いほど傾斜角の設計は適切となる。図13は、傾斜角θに対する角度差(θ-ψ)の変化をFEM(有限要素法)シミュレーションと計算から求めた一例を示す説明図である。図示するように、傾斜角θが小さくなるほど角度差(θ-ψ)も小さくなることが解る。したがって、傾斜角θは、スライダ160の半径rや傾斜部144a~144dの高さlを定めれば、取り得る範囲の中央値より小さい角度とするのが好ましい。上述のスライダ160の半径r=2.5mmとし、傾斜部144a~144dの高さl=1mmn場合、傾斜角θは20.33度~28.60度が好ましい。
【0043】
以上説明した第2実施形態の小型超音波リニアモータ120では、第1実施形態の小型超音波リニアモータ20と同様に、金属作用部140を天板と四脚142a~142dを有する四脚構造としたことにより、四脚142a~142dの自由度が大きくなり、脚142aと脚142bとを連結してリブとすると共に脚142cと脚142dとを連結してリブとする構造(金属作用部の中央に長さL方向に沿った溝を形成した構造)に比して、L1モードによる第1伸縮振動やB1-2モードによる第2伸縮振動の励振が容易なものなる。この結果、従来例の振動子を有する超音波リニアモータに比して、モータの小型化、軽量化、ハイパワー化を図ることができる。
【0044】
第1実施形態の小型超音波リニアモータ20や第2実施形態の小型超音波リニアモータ120では、圧電駆動部30,130を矩形の板状に形成するものとした。しかし、スライダを移動させるためには、圧電駆動部はスライダの駆動方向の中心軸に対して線対称となるように形成されていればよいから、圧電駆動部を「H」字形の板状に形成したり、矩形の中央が括れた形状(同一形状の2つの台形を上底で接続した形状)の板状に形成したりしてもよい。この場合、金属作用部の天板も圧電駆動部と同形に形成すればよい。
【0045】
金属作用部140は、第1実施形態の圧電駆動部30と同様に、金属材料(例えばジュラルミンやチタン合金など)により圧電駆動部130と略同形(長さL、幅M,厚みtm)の天板にその四隅に断面が矩形の脚142a~142dが取り付けられた四脚テーブル状に形成されている。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、小型超音波リニアモータの製造産業などに利用可能である。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図10
図11
図12
図13