(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】高分子複合体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240311BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240311BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240311BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240311BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240311BHJP
C08J 5/06 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K7/02
C08L1/02
C08K3/08
C08K3/34
C08J5/06
(21)【出願番号】P 2022516709
(86)(22)【出願日】2021-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2021006743
(87)【国際公開番号】W WO2021242069
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0065204
(32)【優先日】2020-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0086346
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0069785
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0069786
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0069787
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】チ・スン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ミンスン・パク
(72)【発明者】
【氏名】クワン・ソウン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハリム・ジョン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/163873(WO,A1)
【文献】特開2010-143992(JP,A)
【文献】特開2010-221622(JP,A)
【文献】特開2020-070379(JP,A)
【文献】国際公開第2018/105174(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08K 7/02
C08L 1/02
C08K 3/08
C08K 3/34
C08J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維;ならびに
ポリエステル樹脂を含む高分子マトリックスを含み、
前記
ポリエステル樹脂は、ポリ(エチレンアジペート-コ-テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)、ポリ(エチレンサクシネート-コ-テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート-コ-テレフタレート)、ポリ(エチレンアジペート-コ-サクシネート-コ-テレフタレート)、およびポリ(ブチレンアジペート-コ-サクシネート-コ-テレフタレート)からなる群から選択される1種以上
であり、
前記微細粒子は、銅及び亜鉛からなる群から選択される1種以上の元素を含む、高分子複合体。
【請求項2】
前記ナノフィブリルは、前記マイクロセルロース繊維の表面に結合され、
前記微細粒子は、前記ナノフィブリルと結合するか、または前記マイクロセルロース繊維の表面または内部に結合される、請求項1に記載の高分子複合体。
【請求項3】
前記微細粒子は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して1~30重量部含まれる、請求項1
または2に記載の高分子複合体。
【請求項4】
前記微細粒子は、直径が0.01μm~10μmである球状粒子;一軸の直径が0.01μm~10μmであり、他軸の直径が0.02μm~30μmである柱状粒子;またはこれらの混合物を含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項5】
前記マイクロセルロース繊維は1μm~30μmの短軸径を有し、
前記ナノフィブリルは10nm~400nmの短軸径を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項6】
前記高分子マトリックス60~95重量%;および
前記マイクロセルロース繊維5~40重量%を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項7】
相溶化剤をさらに含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項8】
前記高分子複合体から製造されたASTM D638-5規格の試験片に対してASTM D638-5により測定された降伏強度が8MPa~30MPaである、請求項1から
7のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項9】
前記高分子複合体から製造されたASTM D638-5規格の試験片に対してASTM D638-5により測定された引張強度が15MPa~30MPaである、請求項1から
8のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【請求項10】
前記高分子複合体から製造されたASTM D638-5規格の試験片に対してASTM D638-5により測定された弾性係数が120MPa~800MPaである、請求項1から
9のいずれか一項に記載の高分子複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年5月29日付の韓国特許出願第10-2020-0065204号、2020年7月13日付の韓国特許出願第10-2020-0086346号、2021年5月31日付の韓国特許出願第10-2021-0069785号、2021年5月31日付の韓国特許出願第10-2021-0069786号、および2021年5月31日付の韓国特許出願第10-2021-0069787号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を含む高分子複合体に関する。
【背景技術】
【0003】
パルプ(Pulp)は、木材(wood)、繊維作物(fiber crops)、廃紙、または布(rags)などからセルロース繊維を化学的または機械的に分離して得られたリグノセルロース繊維物質(lignocellulosic fibrous material)である。セルロース繊維は主に製紙分野に使われており、ナノセルロースの原材料として活用されている。
【0004】
ナノセルロースは、高分子との複合化により高分子の物性を改善するための研究に応用されている。補強材としてグラスファイバーが適用されたものとは異なり、環境にやさしいナノセルロースが適用された高分子複合体は、リサイクルが容易である長所がある。
【0005】
しかし、セルロース繊維からナノセルロースを製造する工程が複雑で、多くの費用が必要とされる。そして、セルロース繊維は、高分子との複合化過程で高い工程温度によって劣化する問題がある。また、セルロース繊維およびナノセルロースは高分子複合体内で容易に凝集(aggregation)してしまうため、ナノスケールで分散させることが非常に難しく、したがって、十分な補強効果が得られにくい限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、補強剤にセルロース繊維を含み環境にやさしく、かつ優れた機械的物性を示すことができる高分子複合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明の実施形態による高分子複合体について説明する。
【0008】
本明細書で明示的な言及がない限り、専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。
【0009】
本明細書で使用される単数形は、文脈上明らかに逆の意味を示さない限り複数形も含む。
【0010】
本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/または群の存在や付加を除外させるものではない。
【0011】
本明細書で「ナノ繊維」または「ナノフィブリル」は、ナノメートルスケールの短軸径を有する繊維を意味し、「マイクロ繊維」は、マイクロメートルスケールの短軸径を有する繊維を意味する。例えば、前記マイクロ繊維は、前記ナノ繊維の束からなる。
【0012】
本明細書で「パルプ」は、木材(wood)、繊維作物(fiber crops)、廃紙または布(rags)などからセルロース繊維を化学的または機械的に分離して得られたリグノセルロース繊維物質(lignocellulosic fibrous material)を意味する。
【0013】
本明細書で「パルプ繊維」、「セルロース繊維」または「マイクロセルロース繊維」は、セルロースからなるマイクロ繊維を意味する。本明細書で「セルロースナノ繊維」は、セルロースからなるナノ繊維を意味する。
【0014】
本明細書で「フィブリル化」は、マイクロセルロース繊維の内部組織を形成しているナノフィブリルが解れて、マイクロセルロース繊維上にナノフィブリルが毛羽立ってくる現象を意味する。
【0015】
本明細書で「フィブリル化されたセルロース繊維」は、前記フィブリル化によってマイクロセルロース繊維上にナノメートルスケールの短軸径を有するナノフィブリルが毛羽立ってくる状態のマイクロセルロース繊維を意味する。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維;およびポリエステル樹脂を含む高分子マトリックスを含む、高分子複合体が提供される。
【0017】
近来、プラスチックの補強材料として生分解性を有し、環境にやさしい天然高分子材料であるセルロースナノ繊維が注目されている。しかし、マイクロセルロース繊維をナノ化(微細化)してナノ繊維を得る工程が複雑かつ多くの費用を必要とするため、セルロースナノ繊維を補強材として含む高分子複合体の費用を上昇させる問題を招いている。
【0018】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、マイクロセルロース繊維をナノ化せず、マイクロセルロース繊維上に微細粒子を成長させてマイクロセルロース繊維をフィブリル化した後、高分子マトリックスと複合化する場合、セルロースナノ繊維を適用したものと同等の優れた機械的物性を示すことが確認された。また、前記マイクロセルロース繊維上に含まれた微細粒子から多様な物性を発現できることが確認された。さらに、前記高分子マトリックスにポリエステル樹脂を適用することによって環境にやさしく、かつ優れた機械的物性を発現できることが確認された。このような高分子複合体は、高分子マトリックスの含有量に応じて広いスペクトルの機械的物性を有するので、より広い分野で多様に活用されると期待される。
【0019】
前記高分子複合体は、ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維;およびポリエステル樹脂を含む高分子マトリックスを含む。
【0020】
好ましくは、前記高分子複合体は、前記高分子マトリックスおよび前記高分子マトリックスに分散した前記マイクロセルロース繊維を含み、前記マイクロセルロース繊維はナノフィブリルおよび微細粒子を含む。
【0021】
前記高分子マトリックスは、ポリエステル樹脂を含む。好ましくは、前記高分子マトリックスは、脂肪族-芳香族コポリエステル樹脂を含み得る。
【0022】
具体的には、前記高分子マトリックスは、ポリ(エチレンアジペート-コ-テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)、ポリ(エチレンサクシネート-コ-テレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート-コ-テレフタレート)、ポリ(エチレンアジペート-コ-サクシネート-コ-テレフタレート)、およびポリ(ブチレンアジペート-コ-サクシネート-コ-テレフタレート)からなる群から選択される1種以上を含み得る。好ましくは、前記高分子マトリックスとして、ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)を用いることができる。
【0023】
前記高分子マトリックスは生分解性を有して環境にやさしく、かつ優れた機械的物性を示すことができる。特に、前記高分子マトリックスは、高い弾性係数と強度を示すことができ、前記高分子複合体は軟質素材分野から硬質素材分野まで多様に活用される。
【0024】
上述した特性の発現のために、前記高分子マトリックスは、1.0g/ml~2.0g/mlあるいは1.2g/ml~1.5g/mlの密度;および2.0g/10min~4.0g/10minあるいは2.5g/10min~3.5g/10minの溶融流れ指数(190℃、荷重2160g)を有することが好ましい。
【0025】
前記マイクロセルロース繊維は、針葉樹、広葉樹などの木材から得られる天然セルロース繊維である。一例として、前記マイクロセルロース繊維は、苛性ソーダ、硫酸ソーダなどを使用して針葉樹や広葉樹などの天然原料からセルロース以外の成分を溶かして得られたパルプ繊維である。
【0026】
一般的にマイクロセルロース繊維のフィブリル化(fibrillation)は、叩解(beating)などの工程によりセルロース繊維の膜およびその内部組織を形成する比較的大きなフィブリルが解れてその表面に微細なフィブリルが毛羽立ってくる現象を意味する。
【0027】
本発明において、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維は、前記マイクロセルロース繊維を形成するフィブリルの一部が前記微細粒子の成長によって解れた状態の繊維であり得る。
【0028】
図1は、(a)マイクロセルロース繊維および(b)ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を拡大して模式的に示す図である。
【0029】
図1の(a)において、マイクロセルロース繊維100は、マイクロメートルスケールの短軸径を有する繊維である。
図1の(b)を参照すると、前記マイクロセルロース繊維上に微細粒子を成長させると、マイクロセルロース繊維100を形成するフィブリルの一部が前記微細粒子20の成長によって解れてマイクロセルロース繊維100’上にナノフィブリル11が毛羽立ってくる状態の繊維が形成される。また、前記微細粒子20の成長によるフィブリル化により前記マイクロセルロース繊維100’の内部にも前記ナノフィブリル11が存在し得る。
【0030】
一例として、前記マイクロセルロース繊維は、ナノフィブリルおよび微細粒子を含む。ここで、前記ナノフィブリルは、前記マイクロセルロース繊維の表面に結合されている。また、前記ナノフィブリルは、前記マイクロセルロース繊維の内部に存在する。そして、前記微細粒子は、前記ナノフィブリルと結合するか、または前記マイクロセルロース繊維の表面または内部に結合されている。
【0031】
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維において、前記マイクロセルロース繊維は1μm以上;および30μm以下、あるいは25μm以下、あるいは20μm以下、あるいは15μm以下、あるいは10μm以下の短軸径を有する。具体的には、前記マイクロセルロース繊維は1μm~30μm、あるいは1μm~25μm、あるいは1μm~20μm、あるいは1μm~15μm、あるいは1μm~10μmの短軸径を有する。
【0032】
そして、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維において、前記ナノフィブリルは10nm以上、あるいは20nm以上、あるいは30nm以上、あるいは50nm以上;および400nm以下、あるいは350nm以下、あるいは300nm以下、あるいは250nm以下、あるいは200nm以下、あるいは150nm以下、あるいは100nm以下の短軸径を有する。具体的には、前記ナノフィブリルは10nm~400nm、あるいは10nm~350nm、あるいは10nm~300nm、あるいは20nm~300nm、あるいは20nm~250nm、あるいは30nm~250nm、あるいは30nm~200nm、あるいは40nm~200nm、あるいは40nm~150nm、あるいは50nm~150nm、あるいは50nm~100nmの短軸径を有する。
【0033】
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維は、マイクロセルロース繊維、微細粒子前駆体および溶媒を含む混合物に還元剤、触媒、リガンド、またはこれらの混合物を添加して、セルロース繊維上に分布した微細粒子前駆体から微細粒子を成長させる工程により製造される。
【0034】
一例として、前記工程ではマイクロセルロース繊維、微細粒子前駆体および溶媒を含む混合物を準備する。
【0035】
前記溶媒としては、前記微細粒子前駆体を溶解させ、マイクロセルロース繊維を膨潤させる化合物が用いられる。一例として、前記溶媒としては、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール)、ジメチルスルホキシド、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液、尿素水溶液、またはこれらの混合物が使用される。
【0036】
前記溶媒は、マイクロセルロース繊維100重量部に対して1000~10000重量部で使用される。前記溶媒の含有量の範囲内でマイクロセルロース繊維が十分に膨潤し、前記微細粒子前駆体の流動性が確保されて、前記微細粒子前駆体が前記マイクロセルロース繊維上に均一に分散する。
【0037】
前記マイクロセルロース繊維上に成長する微細粒子の種類によって多様な物性を有する高分子複合体を提供することができる。すなわち、前記微細粒子前駆体は、高分子複合体に付与しようとする物性に応じて適宜選択することができる。非制限的な例として、高分子複合体に抗菌性および耐熱性を付与する目的であれば酸化亜鉛を成長させる微細粒子前駆体が選択される。
【0038】
一例として、前記微細粒子は、銅、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデンおよびガリウムからなる群から選択される1種以上の元素を含み得る。前記微細粒子の成分は1種または2種以上であり得る。
【0039】
前記微細粒子前駆体としては、銅、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウム、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデンおよびガリウムからなる群から選択される1種以上の元素の塩が使用される。前記塩は、酢酸塩、塩化塩、硝酸塩などであり得る。また、前記微細粒子前駆体としては、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)などの酸化シリコン前駆体が使用される。
【0040】
前記微細粒子の含有量は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して1~30重量部であり得る。したがって、前記混合物に含まれる前記微細粒子前駆体の含有量は、前記マイクロセルロース繊維上に最終的に生成される微細粒子の含有量が上記の範囲を満たすように制御される。このような範囲内でマイクロセルロース繊維に微細粒子前駆体が均一に分布して十分なフィブリル化を誘導することができる。
【0041】
前記混合物は、前記溶媒に前記微細粒子前駆体を溶解させた後、マイクロセルロース繊維を添加して準備する。前記混合物を攪拌してマイクロセルロース繊維を膨潤させると同時に膨潤されたマイクロセルロース繊維上に前記微細粒子前駆体が均一に分布するようにする。前記微細粒子前駆体は、水素結合またはイオン結合により前記マイクロセルロース繊維上に付着する。
【0042】
前記混合物に添加される還元剤、触媒およびリガンドの種類および含有量は、添加された微細粒子前駆体および成長させようとする微細粒子の種類と含有量に応じて適宜選択することができる。一例として、前記還元剤としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、金属ハイドライド系、ボロヒドリド系、ボラン系、シラン系、ヒドラジン、またはヒドラジド系の還元剤が使用される。前記触媒としては、アンモニアまたは尿素などが使用される。前記リガンドとしては、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸が使用される。
【0043】
図3は、下記の実施例1による、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維に対する走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
図3を参照すると、セルロース繊維上に微細粒子が成長してフィブリル化を起こしたことを確認することができる。
【0044】
選択的に、前記微細粒子を前記マイクロセルロース繊維上に成長させた後、前記微細粒子を改質して追加的な物性を付与することができる。一例として、前記マイクロセルロース繊維上に前記微細粒子を成長させた後、チオール基を有する親油性化合物を添加して前記微細粒子を改質する工程をさらに行うことができる。前記微細粒子を親油性改質することによって、前記マイクロセルロース繊維と高分子マトリックスの相容性がさらに向上する。前記チオール基を有する親油性化合物としては、1-デカンチオール(1-decanethiol)、1-ウンデカンチオール(1-undecanethiol)、1-ドデカンチオール(1-dodecanethiol)、1-テトラデカンチオール(1-tetradecanethiol)、1-ペンタデカンチオール(1-pentadecanethiol)、1-ヘキサデカンチオール(1-hexadecanethiol)、1-オクタデカンチオール(1-octadecanethiol)などが使用される。
【0045】
前記工程によって前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維が得られる。
【0046】
本発明の実施形態によれば、前記微細粒子は0.01μm以上、あるいは0.03μm以上、あるいは0.05μm以上;および10μm以下、あるいは7μm以下、あるいは5μm以下である短軸径を有する。好ましくは、前記微細粒子は0.01μm~10μm、あるいは0.03μm~7μm、あるいは0.05μm~5μmの短軸径を有する。
【0047】
前記マイクロセルロース繊維上に含まれた前記微細粒子の粒径が過度に大きい場合、前記微細粒子が欠陥(defect)として作用して、高分子複合体の機械的物性が低下することがある。したがって、前記微細粒子の粒径は10μm以下、あるいは7μm以下、あるいは5μm以下であることが好ましい。
【0048】
そして、前記微細粒子の成長によるマイクロセルロース繊維のフィブリル化が十分に行われるようにするために、前記微細粒子の粒径は0.01μm以上、あるいは0.03μm以上、あるいは0.05μm以上であることが好ましい。
【0049】
前記微細粒子は0.01μm~10μmの直径を有する球状粒子であり得る。また、前記微細粒子は0.01μm~10μmの一軸の直径と0.02μm~30μmの他軸の直径を有する柱状粒子であり得る。前記微細粒子の直径は、走査電子顕微鏡を用いて測定することができる。非制限的な例として、走査電子顕微鏡を用いて20個の微細粒子に対する直径、短軸径、または長軸径をそれぞれ測定した後、その最大値および最小値を除いて計算した平均値を得ることができる。
【0050】
好ましくは、前記マイクロセルロース繊維は、粒径0.01μm~10μmである微細粒子を含み、短軸径が1μm~30μmであるマイクロセルロース繊維上に短軸径が10nm~400nmであるナノフィブリルが形成される。
【0051】
本発明の実施形態によれば、前記微細粒子は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して1重量部以上、あるいは5重量部以上、あるいは8重量部以上、あるいは10重量部以上;および30重量部以下、あるいは25重量部以下、あるいは20重量部以下で含まれる。好ましくは、前記微細粒子は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して1~30重量部、あるいは5~30重量部、あるいは5~25重量部、あるいは8~25重量部、あるいは10~25重量部、あるいは10~20重量部で含まれる。
【0052】
前記微細粒子の成長によるマイクロセルロース繊維のフィブリル化効果を十分に発現させるために、前記微細粒子は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して1重量部以上、あるいは5重量部以上、あるいは10重量部以上で含まれることが好ましい。
【0053】
ただし、前記微細粒子が、前記マイクロセルロース繊維上に過剰に含まれる場合、前記高分子マトリックスとの相容性が低下し、これによって高分子複合体の機械的物性が悪くなる。また、前記微細粒子が過剰に含まれる場合、微細粒子が凝集して不均一な凝集体を形成し、これによって様々な物性が悪くなる。したがって、前記微細粒子は、前記マイクロセルロース繊維100重量部に対して30重量部以下、あるいは25重量部以下、あるいは20重量部以下で含まれることが好ましい。
【0054】
本発明の実施形態によれば、前記高分子複合体は、前記高分子マトリックス60~95重量%;および前記マイクロセルロース繊維5~40重量%を含み得る。
【0055】
好ましくは、前記高分子複合体は、前記高分子マトリックス65~95重量%;および前記マイクロセルロース繊維5~35重量%を含み得る。
【0056】
より好ましくは、前記高分子複合体は、前記高分子マトリックス70~95重量%;および前記マイクロセルロース繊維5~30重量%を含み得る。
【0057】
適切な量のマトリックスを含む高分子複合体が提供されるためには、前記高分子マトリックスは、前記高分子複合体に60重量%以上、あるいは65重量%以上、あるいは70重量%以上含まれることが好ましい。そして、前記マイクロセルロース繊維による向上した補強効果の発現のために、前記高分子マトリックスは、前記高分子複合体に95重量%以下含まれることが好ましい。
【0058】
本発明による向上した補強効果の発現のために、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維は、前記高分子複合体に5重量%以上含まれることが好ましい。ただし、過剰の補強剤は、前記高分子マトリックスとの相溶性を阻害し、これによって高分子複合体の機械的物性が低下することがある。したがって、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維は、前記高分子複合体に40重量%以下、あるいは35重量%以下、あるいは30重量%以下で含まれることが好ましい。
【0059】
一方、前記高分子複合体は、前記高分子マトリックス上に分散した相溶化剤をさらに含み得る。前記相溶化剤は、前記高分子マトリックスと前記マイクロセルロース繊維が互いにうまく配合されるように助ける成分である。
【0060】
前記相溶化剤としては、前記高分子マトリックスの具体的な種類を考慮して本発明が属する技術分野で知られているものを使用することができる。
【0061】
好ましくは、前記相溶化剤は、変性ポリオレフィンであり得る。前記変性ポリオレフィンは、不飽和カルボン酸またはその誘導体でポリオレフィンを変性した樹脂を意味する。
【0062】
前記変性ポリオレフィンを形成する前記ポリオレフィンは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、およびヘプテンなどの鎖状オレフィン;シクロペンテン、シクロヘキセン、および1,3-シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;スチレンなどの芳香族環で置換されたオレフィンであり得る。
【0063】
前記変性ポリオレフィンを形成する前記不飽和カルボン酸は、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、およびこれらの無水物であり得る。
【0064】
非制限的な例として、前記変性ポリオレフィンはマレイン酸無水物で0.1~10重量%がグラフトされたポリプロピレンまたはポリエチレンであり得る。
【0065】
このような変性ポリオレフィンは、セルロース繊維の高分子マトリックスに対する相容性をさらに向上させて、高分子複合体の機械的物性をさらに向上させる。
【0066】
前記相溶化剤は、前記高分子複合体に対して0.1~15重量%含まれる。適切な相容性を発現させるためには、前記相溶化剤は、前記高分子複合体に0.1重量%以上、あるいは1重量%以上、あるいは5重量%以上含まれる。ただし、過剰の相溶化剤は、前記高分子複合体の機械的物性を劣化させる。したがって、前記相溶化剤は、前記高分子複合体に15重量%以下含まれることが好ましい。
【0067】
本発明の実施形態によれば、前記高分子複合体は、上述した成分をミキサーで混合した後、硬化して得ることができる。非制限的な例として、上述した成分を100~180℃のバッチミキサーで混合した後、ペレット形態にマスターバッチを製造し、前記マスターバッチを押出機に投入して押出および射出することによって、前記高分子複合体が得られる。
【0068】
本発明の実施形態によれば、前記高分子複合体は、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を含むことで、環境にやさしく、かつ優れた機械的物性を示すことができる。
【0069】
一例として、前記高分子複合体は、前記高分子複合体からASTM D638-5により製造されたドッグボーン(dog-bone)形態の試験片(またはダンベル形態の試験片(dumbbell-shaped specimen);
図7参照)に対してASTM D638-5により測定された8MPa以上、あるいは9MPa以上、あるいは10MPa以上;および30MPa以下、あるいは27MPa以下、あるいは25MPa以下の降伏強度(yield strength)を示すことができる。好ましくは、前記高分子複合体は8MPa~30MPa、あるいは9MPa~30MPa、あるいは9MPa~27MPa、あるいは10MPa~27MPa、あるいは10MPa~25MPaである降伏強度を示すことができる。
【0070】
他の一例として、前記高分子複合体は、前記高分子複合体からASTM D638-5により製造されたドッグボーン(dog-bone)形態の前記試験片に対してASTM D638-5により測定された15MPa以上、あるいは16MPa以上、あるいは16.5MPa以上;および30MPa以下、あるいは27MPa以下、あるいは25MPa以下の引張強度(tensile strength)を示すことができる。好ましくは、前記高分子複合体は15MPa~30MPa、あるいは16MPa~30MPa、あるいは16MPa~27MPa、あるいは16.5MPa~27MPa、あるいは16.5MPa~25MPaである引張強度を示すことができる。
【0071】
さらに他の一例として、前記高分子複合体は、前記高分子複合体からASTM D638-5により製造されたドッグボーン(dog-bone)形態の前記試験片に対してASTM D638-5により測定された120MPa以上、あるいは130MPa以上、あるいは140MPa以上;および800MPa以下、あるいは790MPa以下、あるいは785MPa以下の弾性係数(elastic modulus)を示すことができる。好ましくは、前記高分子複合体は120MPa~800MPa、あるいは130MPa~800MPa、あるいは130MPa~790MPa、あるいは140MPa~790MPa、あるいは140MPa~785MPaである弾性係数を示すことができる。
【0072】
ASTM D638は、プラスチックの引張特性を決定するための標準試験法を提供する。前記高分子複合体に対する引張特性は、ASTM D638の試験片タイプ5により行われる。ASTM D638は前記試験片に引張力を加え、応力下で試験片の引張特性を測定することで行われる。これは、通常の引張試験機で前記試験片が破損(降伏または破断)するまで1~500mm/minの範囲の一定の引張速度で行われる。前記引張強度は、前記試験片が降伏または破断するまで加えられる力の量である。
【0073】
前記高分子複合体は、環境にやさしく、かつ向上した機械的物性を示すことができ、自動車軽量素材、家電製品、包装材など多様な用途に適用できる。
【発明の効果】
【0074】
本発明によれば、補強剤としてセルロース繊維を含み、環境にやさしく、かつ優れた機械的物性を示すことができる高分子複合体が提供される。前記高分子複合体は、ナノ化されないセルロース繊維を含むにもかかわらず、高分子本来の特性を維持しながら、向上した機械的物性を示すことができる。特に、前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維は、複雑で高費用のナノ化工程を経ずとも、高分子マトリックスに均一に分散して経済的かつ効率的に高品質である高分子複合体を提供することができる。前記高分子複合体は、前記マイクロセルロース繊維に含まれた微細粒子の種類によって機械的物性以外にも抗菌特性など追加的な特性を発現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】(a)マイクロセルロース繊維と(b)ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を拡大して模式的に示す図である。
【
図2】実施例1で使用されたパルプ繊維の走査電子顕微鏡(SEM)イメージである。
【
図3】実施例1で得られたナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維のSEMイメージである。
【
図4】実施例2で得られたナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維のSEMイメージである。
【
図5】(a)実施例1によるフィブリル化されたマイクロセルロース繊維と(b)比較例4による粒子と複合化された微細化セルロースのSEMイメージを比較して示す図である。
【
図6】
図5による(a)と(b)をさらに高倍率で撮影したSEMイメージである。
【
図7】ASTM D638のタイプ5(Type V)による引張強度測定用ドッグボーン(dog-bone)形態の試験片(またはダンベル形態の試験片(dumbbell-shaped specimen))の規格を示す図である(単位:mm)。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下、発明の具体的な実施例を通じて発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の理解を助けるための例示として提示され、発明の権利範囲はこれによっていかなる意味でも限定するものではない。
【0077】
実施例1
1)ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維の製造
セルロース原料として針葉樹クラフトパルプ繊維(セルロース繊維)を準備した。そして、走査電子顕微鏡を用いてパルプの形状を観察した(
図2のSEMイメージ)。
【0078】
蒸留水1000gに酢酸亜鉛20gを溶解させた水溶液に前記パルプ繊維20gを添加し、500rpmで2時間攪拌して混合物を準備した。前記混合物で、膨潤されたパルプ繊維上には酢酸亜鉛が水素結合またはイオン結合により付着した。
【0079】
前記混合物に水酸化ナトリウム(NaOH)3.6gを常温で添加し、500rpmで2時間攪拌してパルプ繊維上に微細粒子を成長させた。走査電子顕微鏡により確認した結果、
図3、
図5(a)および
図6(a)のように粒子(ZnO)が成長したパルプ繊維部分はフィブリル化が起きたことを確認することができた。
【0080】
上記の方法でナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を得た。
【0081】
2)高分子複合体の製造
バッチミキサー(Batch mixer)に前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維5重量%、およびポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)95重量%を投入し、170℃で20分間混合してペレット形態にマスターバッチを製造した。前記ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)は、SOLTECH社製のSolpol 1000N(MFI 3g/10min、密度1.26g/ml)が使用された。
【0082】
前記マスターバッチをツインスクリュー押出機に投入してコンパウンディング工程を行って押出した。このように得られた高分子複合体を再び射出機に投入した後、射出してASTM D638のタイプ5(Type V)によるドッグボーン(dog-bone)形態の試験片(
図7参照)を製造した。
【0083】
実施例2
1)ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維の製造
蒸留水に酢酸銅9.08g(0.05mol)を溶解させた0.05Mの水溶液1Lに前記実施例1と同じパルプ繊維20gを添加し、500rpmで2時間攪拌して混合物を準備した。前記混合物で、膨潤されたパルプ繊維上には酢酸銅が水素結合またはイオン結合により付着した。
【0084】
前記混合物にベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート(benzene-1,3,5-tricarboxylate(BTC))0.05molを常温で添加し、500rpmで2時間攪拌してパルプ繊維上に微細粒子を成長させた。走査電子顕微鏡により確認した結果、
図4のように粒子(HKUST-1:Cu-BTC)が成長したパルプ繊維部分はフィブリル化が起きたことを確認することができた。
【0085】
上記の方法でナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を得た。
【0086】
2)高分子複合体の製造
バッチミキサー(Batch mixer)に前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維5重量%、およびポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)95重量%を投入し、170℃で20分間混合してペレット形態にマスターバッチを製造した。前記ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)は、SOLTECH社製のSolpol 1000N(MFI 3g/10min、密度1.26g/ml)が使用された。
【0087】
前記マスターバッチをツインスクリュー押出機に投入してコンパウンディング工程を行って押出した。このように得られた高分子複合体を再び射出機に投入した後、射出してASTM D638のタイプ5(Type V)によるドッグボーン(dog-bone)形態の試験片(
図7参照)を製造した。
【0088】
実施例3
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維とポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)の含有量の比率を20:80(重量%)に変更したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で高分子複合体および試験片を製造した。
【0089】
実施例4
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維とポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)の含有量の比率を30:70(重量%)に変更したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で高分子複合体および試験片を製造した。
【0090】
比較例1
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維を添加しないことを除いて、ポリ(ブチレンアジペート-コ-テレフタレート)を使用して前記実施例1と同様の方法で試験片を製造した。前記試験片は、ニート(neat)高分子試験片である。
【0091】
比較例2
1)微細粒子を含む微細化セルロース繊維の製造
セルロース原料として、前記実施例1と同じ針葉樹クラフトパルプ繊維を準備した。2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル(TEMPO)を触媒として使用して前記パルプ繊維の表面を酸化して、酸化パルプを得た。
【0092】
前記酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ミキサーで30分間微細化(解繊)処理して、濃度1%の微細化セルロース水分散液を得た。
【0093】
蒸留水1000gに酢酸亜鉛20gを溶解させた酢酸亜鉛水溶液を準備した。水酸化ナトリウム(NaOH)3.6gを蒸留水10mlに溶解させて水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
【0094】
前記微細化セルロース水分散液100gを15℃下で攪拌しながら前記酢酸亜鉛水溶液50mlおよび前記水酸化ナトリウム水溶液10mlを添加し、500rpmで2時間攪拌して酸化亜鉛(ZnO)粒子と微細化セルロースの複合体を製造した。
【0095】
走査電子顕微鏡を用いて確認した結果、
図5(b)および
図6(b)のように、比較例4による酸化亜鉛粒子と微細化セルロースの前記複合体は、微細化セルロース間の結合力と凝集が強いのでナノ繊維が固まっており、粒子の分散度が低下することを確認することができた。
【0096】
2)高分子複合体の製造
前記ナノフィブリルおよび微細粒子を含むマイクロセルロース繊維の代わりに前記酸化亜鉛(ZnO)粒子と微細化セルロースの複合体を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法で高分子複合体および試験片を製造した。
【0097】
試験例
実施例および比較例で製造された試験片の物性を次の方法で評価し、その結果を下記表1に記載した。
【0098】
1)繊維の短軸径
走査電子顕微鏡を用いて実施例によるマイクロセルロース繊維の短軸径(繊維の断面で最も短い直径)を測定した。
【0099】
具体的には、マイクロセルロース繊維の場合、各サンプル当たりのマイクロ繊維10個の短軸径を測定して最大値および最小値を除いて範囲で表し;ナノフィブリルの場合、各サンプル当たりのナノフィブリル20個の短軸径を測定して最大値および最小値を除いて範囲で表した。
【0100】
さらに、実施例とは異なり、比較例2はパルプ繊維を微細化(解繊)処理した後粒子と複合化したものであり、下記表2で比較例4のナノフィブリルの短軸径は粒子と複合化した後の微細化セルロースの短軸径を意味する。
【0101】
2)引張試験
ASTM D638の試験片タイプ5(Type V)の規格による下記の試験片(
図7)を準備した。前記試験片は、23℃の温度および50%の相対湿度に調整した恒温恒湿室に24時間放置した後、引張試験に提供された。
【0102】
前記試験片に対してインストロン(Instron)社製の万能試験機(UTM)を用いてASTM D638により降伏強度(yield strength)、引張強度(tensile strength)、弾性係数(elastic modulus)を測定した。ASTM D638に基づいて前記試験片の両端を掴むグリップ(grip)の間隔は25.4mmに設定し、クロスヘッド速度5mm/minの一定の引張速度下で行われた。
【0103】
【0104】
前記表1を参照すると、実施例の試験片は比較例の試験片に比べて同等以上の機械的物性を示すことが確認された。特に、実施例で前記マイクロセルロース繊維の含有量比率が増加することで降伏強度の値と引張強度の値が類似した挙動を示した。このような挙動は、弾性変形(elastic deformation)が増加し、塑性変形(plastic deformation)が減少することによるものである。つまり、前記マイクロセルロース繊維の含有量比率が増加するほど軟性が減り、硬質化が進行してハードな環境にやさしい素材として活用可能である。
【0105】
比較例2で製造されたセルロース繊維は、微細化セルロース上に粒子が成長しているにもかかわらず、高分子マトリックスと複合化するとき、かえって微細化セルロースと粒子の再凝集が過度に発生した。再凝集により劣る分散性を示す比較例2の試験片は、相対的に劣悪な機械的物性を示した。
【符号の説明】
【0106】
100、100’:マイクロセルロース繊維
11:ナノフィブリル
20:微細粒子