(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】保護シートの配設方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240311BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H01L21/304 622J
(21)【出願番号】P 2019239415
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】関家 一馬
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-121646(JP,A)
【文献】特開2008-288238(JP,A)
【文献】特開2019-220550(JP,A)
【文献】特開2016-122763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に
バンプによる凹凸を備えた基板の該表面に糊層を備えない保護シートを配設する保護シートの配設方法であって、
上部筐体及び下部筐体に分離可能であり、該下部筐体の内部に設けられ該基板が載置される支持テーブルと、ともに該下部筐体に接続された第1の減圧ユニット及び第1の大気開放ユニットと、ともに該上部筐体に接続された第2の減圧ユニット及び第2の大気開放ユニットと、を備える減圧チャンバーの該下部筐体及び該上部筐体を分離した状態において該支持テーブルの上に該表面を上方に向けて該基板を載置する基板載置ステップと、
該保護シートを該支持テーブルに載置された該基板の該表面に対面させて該基板及び該下部筐体上に載置し、該下部筐体と該上部筐体で該保護シートを挟みつつ該下部筐体及び該上部筐体を一体化させ、該減圧チャンバー内の空間を該下部筐体及び該保護シートで囲まれた第1の部屋と、該上部筐体及び該保護シートで囲まれた第2の部屋と、に分離する空間分離ステップと、
該第1の減圧ユニットにより該第1の部屋を所定の気圧に減圧するとともに該第2の減圧ユニットにより該第2の部屋を減圧する減圧ステップと、
減圧された該第2の部屋を該第2の大気開放ユニットで大気開放することで該基板の該表面の該凹凸に倣うように該保護シートを該基板に所定の強さで密着させる保護シート密着ステップと、
該保護シート密着ステップの後、減圧された該第1の部屋を該第1の大気開放ユニットで大気開放し、該下部筐体及び該上部筐体を分離し、該保護シートが密着した該基板を該減圧チャンバーから搬出する基板搬出ステップと、を備え、
該空間分離ステップの後、かつ、該保護シート密着ステップの前に、該保護シート及び該基板の一方または両方を加熱する加熱ステップをさらに備え
、
該減圧ステップで該第1の減圧ユニットにより減圧される該第1の部屋の該所定の気圧は、該保護シート密着ステップで該基板に密着する該保護シートの密着力が、該保護シートを該基板から剥離する際に該バンプが該保護シートとともに該表面から剥離しない強さとなるように設定されることを特徴とする保護シートの配設方法。
【請求項2】
該保護シートは、ポリオレフィンまたはポリエステルを含む樹脂シートであることを特徴とする請求項1記載の保護シートの配設方法。
【請求項3】
該減圧ステップで該第1の減圧ユニットにより減圧される該第1の部屋の該所定の気圧は、予め実施された該第1の部屋の圧力を様々に変化させて該保護シートと該基板の
該密着力を試す試験の結果から決定されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の保護シートの配設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸のある基板の該表面に保護シートを配設する保護シート配設装置、及び保護シートの配設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やコンピュータ等の電子機器に使用されるデバイスチップは、複数のデバイスが並べて配設された基板を裏面側から研削して薄化し、デバイス毎に該基板を分割することで形成される。基板の研削は、研削装置で実施される。研削装置では、裏面側を上方に露出させた状態で基板をチャックテーブルで保持し、円環軌道上を移動する研削砥石を該基板の裏面側に接触させて該基板を研削する。このとき、基板の表面側を保護するために、基板の表面には基材層及び糊層が積層された保護テープが予め貼着される。
【0003】
基板の表面側には、デバイスや配線を構成するパターン等が配設されている。また、基板の表面側には、デバイスの電極となるバンプが予め形成される場合がある。そのため、各種のパターンやバンプ等により基板の表面に凹凸が形成される。基板の表面の凹凸の高低差が大きい場合、基板の表面の凹凸を十分吸収できるように糊層の厚い保護テープを使用することが考えられる。しかしながら、この場合、保護テープを基板から剥離する際に凹凸に糊層の残渣が残りやすく、デバイスチップの不良の原因となる。
【0004】
そのため、基板の外周部のデバイスが形成されない外周余剰領域に対応する領域にのみ糊層を有し、基板のデバイスが形成されるデバイス形成領域に対応する領域に糊層を有さない保護テープが開発された(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、該保護テープでは、基板に貼着されない領域が広くなるため、基板への固定が不安定になるという課題が残った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-123382号公報
【文献】特開2013-239564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、糊層を備える保護テープに代えて、糊層のない樹脂製の保護シートを基板に配設する方法が考えられる。表面に凹凸を有する基板の該表面上に保護シートを載せ、該保護シートを加熱して軟化させ、基板の表面の凹凸に保護シートを密着させると、保護シートを基板の表面に固定できる。該保護シートは基板の表面の広い領域で固定されるため、基板への固定が不安定になることはない。また、保護シートは糊層を備えないため、基板から剥離した後に該基板に糊層の残渣が残ることもない。
【0007】
しかしながら、保護シートが基板の表面に強力に密着していると、保護シートを基板から剥離する際に、基板表面に配設されたバンプが保護シートとともに基板から剥離してしまうとの問題が生じる。その一方で、保護シートの基板表面への密着力が弱いと、基板を研削している間に基板等に供給される研削水や基板等から生じる加工屑が保護シートと基板の間に侵入するとの問題が生じる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、保護シートの基板への密着力を制御して基板に保護シートを適切に配設できる保護シート配設装置及び保護シートの配設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によると、表面側にバンプによる凹凸を備えた基板の該表面に糊層を備えない保護シートを配設する保護シートの配設方法であって、上部筐体及び下部筐体に分離可能であり、該下部筐体の内部に設けられ該基板が載置される支持テーブルと、ともに該下部筐体に接続された第1の減圧ユニット及び第1の大気開放ユニットと、ともに該上部筐体に接続された第2の減圧ユニット及び第2の大気開放ユニットと、を備える減圧チャンバーの該下部筐体及び該上部筐体を分離した状態において該支持テーブルの上に該表面を上方に向けて該基板を載置する基板載置ステップと、該保護シートを該支持テーブルに載置された該基板の該表面に対面させて該基板及び該下部筐体上に載置し、該下部筐体と該上部筐体で該保護テープを挟みつつ該下部筐体及び該上部筐体を一体化させ、該減圧チャンバー内の空間を該下部筐体及び該保護シートで囲まれた第1の部屋と、該上部筐体及び該保護シートで囲まれた第2の部屋と、に分離する空間分離ステップと、該第1の減圧ユニットにより該第1の部屋を所定の気圧に減圧するとともに該第2の減圧ユニットにより該第2の部屋を減圧する減圧ステップと、減圧された該第2の部屋を該第2の大気開放ユニットで大気開放することで該基板の該表面の該凹凸に倣うように該保護シートを該基板に所定の強さで密着させる保護シート密着ステップと、該保護シート密着ステップの後、減圧された該第1の部屋を該第1の大気開放ユニットで大気開放し、該下部筐体及び該上部筐体を分離し、該保護シートが密着した該基板を該減圧チャンバーから搬出する基板搬出ステップと、を備え、該空間分離ステップの後、かつ、該保護シート密着ステップの前に、該保護シート及び該基板の一方または両方を加熱する加熱ステップをさらに備え、該減圧ステップで該第1の減圧ユニットにより減圧される該第1の部屋の該所定の気圧は、該保護シート密着ステップで該基板に密着する該保護シートの密着力が、該保護シートを該基板から剥離する際に該バンプが該保護シートとともに該表面から剥離しない強さとなるように設定されることを特徴とする保護シートの配設方法が提供される。
【0013】
好ましくは、該保護シートは、ポリオレフィンまたはポリエステルを含む樹脂シートである。
【0014】
また、好ましくは、該減圧ステップで該第1の減圧ユニットにより減圧される該第1の部屋の該所定の気圧は、予め実施された該第1の部屋の圧力を様々に変化させて該保護シートと該基板の該密着力を試す試験の結果から決定されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、減圧チャンバーの内部に設けられた支持テーブル上に基板が載せられ、該基板の上に保護シートが配置される。そして、保護シートの下側の第1の部屋と、該保護シートの上側の第2の部屋と、が減圧される。その後、第2の部屋が大気開放され基板に保護シートが密着される。
【0016】
ここで、保護シートと基板の密着力の強さは、大気開放したときに保護シートを基板に向けて押圧する力の大きさにより決まる。この力の大きさは、減圧された第1の部屋の気圧で決まる。そのため、第1の減圧ユニットで減圧される第1の部屋の気圧を調整することで保護シートと基板の密着力を所望の状態に制御できる。
【0017】
例えば、表面にバンプが配設された基板表面に密着する保護シートを基板から剥離させる際に該バンプが該保護シートとともに剥離しないように、保護シートと基板の密着力を制御することもできる。また、基板を研削している間に基板等に供給される研削水や基板等から生じる加工屑が保護シートと基板の間に侵入しないように、保護シートと基板の密着力を制御することもできる。
【0018】
したがって、本発明の一態様によると、保護シートの基板への密着力を制御して基板に保護シートを適切に配設できる保護シート配設装置及び保護シートの配設方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図2(A)は、保護シート配設装置を模式的に示す断面図であり、
図2(B)は、基板載置ステップを模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(A)は、空間分離ステップを模式的に示す断面図であり、
図3(B)は、減圧ステップを模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(A)は、保護シート密着ステップを模式的に示す断面図であり、
図4(B)は、基板搬出ステップを模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、基板の表面に強い力で密着する保護シートを模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、基板の表面に弱い力で密着する保護シートを模式的に示す断面図である。
【
図6】保護シートの配設方法の各ステップの流れを模式的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、表面に複数のデバイスが形成された半導体ウェーハ等の基板の表面に保護シートが配設される。まず、表面に保護シートが配設される基板について説明する。
図1は、基板1を模式的に示す斜視図である。
図2(B)等には、基板1を模式的に示す断面図が含まれている。そして、
図5(A)等には、基板1の表面1a側を拡大して模式的に示す断面図が含まれている。
【0021】
基板1は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料から形成されるウェーハである。または、基板1は、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。
【0022】
基板1の表面1aには、互いに交差する複数の分割予定ライン3が設定される。分割予定ライン3で区画された各領域には、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイス5が形成されている。基板1を裏面1b側から研削して薄化し、分割予定ライン3に沿って基板1を分割すると、個々のデバイスチップを形成できる。
【0023】
基板1の表面1aには、金属で形成された複数のバンプ7と呼ばれる凸部が設けられる。バンプ7は、それぞれ、デバイス5に電気的に接続されており、基板1が分割されてデバイスチップが形成されたとき、デバイス5に電気信号を入出力する際の電極として機能する。バンプ7は、例えば、金、銀、銅、又はアルミニウム等の金属材料で形成される。ただし、基板1の表面1aには必ずしもバンプ7が設けられていなくても良い。
【0024】
基板1の表面1aの複数のデバイス5が形成される領域を囲む外周側の領域は、外周余剰領域11と呼ばれている。基板1の表面1aの外周余剰領域11には、デバイス5が形成されておらず、デバイス5の電極となるバンプ7も形成されない。基板1の表面1aの外周余剰領域11に囲まれた領域は、デバイス形成領域9と呼ばれる。基板1の表面1aのデバイス形成領域9は平坦ではなく、デバイス5を構成する各パターンやバンプ7に起因した凹凸を有する。
【0025】
なお、保護シートが配設される基板1はこれに限定されない。例えば、平面上に並べられた複数のデバイスが封止樹脂により封止されて形成されるパッケージ基板でもよい。パッケージ基板の裏面側の封止樹脂を研削することでパッケージ基板を薄化し、該パッケージ基板をデバイス毎に分割すると、封止樹脂で封止された所定の厚さの個々のデバイスチップを形成できる。パッケージ基板の表面には個々のデバイスの電極となるバンプが形成されるため、パッケージ基板の表面も平坦ではなく凹凸を備える。
【0026】
基板1を研削装置で裏面1b側から研削して薄化すると、基板1を分割したときに所定の厚さに薄化されたデバイスチップが得られる。基板1を裏面1b側から研削する際、表面1a側を保護するために予め保護シートが表面1a側に配設される。保護シートが表面1aに配設された基板1を研削装置に搬入すると、該保護シートを介して支持テーブルに基板1が適切に支持される。
【0027】
次に、本実施形態に係る保護シート配設装置について説明する。
図2(A)は、保護シート配設装置2を模式的に示す断面図である。保護シート配設装置2は、上部筐体8と、下部筐体6と、に分離可能な減圧チャンバー4を備える。
【0028】
例えば、上部筐体8は昇降可能である。下部筐体6の開口6aと、上部筐体8の開口8aと、は同形状である。互いの開口6a,8aが重なるように上部筐体8を下部筐体6に下降させると、上部筐体8及び下部筐体6の内部に外部とは遮断された空間を形成できる。なお、それぞれの該開口6a,8aは基板1よりも大きく、減圧チャンバー4の内部の空間内には基板1を収容できる。
【0029】
下部筐体6には、基板1を支持する支持テーブル10が設けられている。支持テーブル10の上面は、基板1を支持する平坦な支持面10aである。支持面10aには、基板1の径に対応した径のフレーム10bが固定されている。基板1は、支持面10a上のフレーム10bに囲まれた領域に載置される。
【0030】
支持テーブル10の高さは、基板1を支持面10aに載せたときに基板1の表面1aと、下部筐体6の開口6aと、の高さが略同一又は開口6aの方が僅かに高くなるように調整されている。または、支持テーブル10の高さは、基板1の表面1aよりも下部筐体6の開口6aの方が高くなるように調整されている。これらの場合、後述の通り保護シート13を基板1に密着させる際、保護シート13が不必要に広く基板1の側面1c等に密着しにくくなる。
【0031】
下部筐体6の内部には、支持テーブル10に載置された基板1上に配置される保護シート13を支持テーブル10の周囲において支持する保護シート支持部12が設けられてもよい。保護シート支持部12の上面の高さは、支持テーブル10に載置された基板1の表面1aの高さ以上とされる。下部筐体6の内部に保護シート支持部12が配されていると、保護シート13がより一層不必要に広く基板1に密着しにくくなる。
【0032】
下部筐体6の底壁または側壁には、第1の減圧ユニット16aが接続されている。第1の減圧ユニット16aは、一端が下部筐体6に接続され他端が吸引源20aに接続された減圧路18aを備える。そして、減圧路18aには、該減圧路18aの連通状態と遮断状態とを切り替える切り替え弁22aが設けられている。また、減圧路18aまたは下部筐体6には、下部筐体6の内部の空間の気圧を測定できる気圧計24aが接続されている。
【0033】
また、上部筐体8の天井または側壁には、第2の減圧ユニット16bが接続されている。第2の減圧ユニット16bは、一端が上部筐体8に接続され他端が吸引源20bに接続された減圧路18bを備える。そして、減圧路18bには、該減圧路18bの連通状態と遮断状態とを切り替える切り替え弁22bが設けられている。また、減圧路18bまたは上部筐体8には、上部筐体8の内部の空間の気圧を測定できる気圧計24bが接続されている。
【0034】
さらに、下部筐体6の底壁または側壁には、第1の大気開放ユニット26aが接続されている。第1の大気開放ユニット26aは、一端が下部筐体6に接続され他端が減圧チャンバー4の外部の雰囲気に接続された給気路28aを備える。そして、給気路28aには、該給気路28aの連通状態と遮断状態とを切り替える切り替え弁30aが設けられている。
【0035】
また、上部筐体8の天井または側壁には、第2の大気開放ユニット26bが接続されている。第2の大気開放ユニット26bは、一端が上部筐体8に接続され他端が減圧チャンバー4の外部の雰囲気に接続された給気路28bを備える。そして、給気路28bには、該給気路28bの連通状態と遮断状態とを切り替える切り替え弁30bが設けられている。
【0036】
次に、基板1の表面1aに配設される保護シート13について説明する。保護シート13は、糊層を備えないシートである。従来、研削装置等の加工装置で加工される基板1の表面1aには、該表面1aを保護する糊層を備える保護テープが貼着されていた。しかし、バンプ等の凹凸が表面1aに設けられた基板1の該表面1aに保護テープを貼着すると、基板1の加工を終えて保護テープを剥離したときに糊層の一部が残渣として該表面1aに残ることがある。
【0037】
そこで、本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、糊層を備える保護テープに代えて、糊層のない保護シート13を基板1の表面1aに配設する。保護シート13は糊層を備えないため、基板1から剥離した後に該基板1に糊層の残渣が残ることはない。
【0038】
保護シート13は、例えば、ポリオレフィンまたはポリエステルを材料として含む樹脂シートである。ポリオレフィンは、アルケンをモノマーとして合成されるポリマーであり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、または、ポリスチレンである。ポリエステルは、ジカルボン酸(2つのカルボキシル基を有する化合物)と、ジオール(2つのヒドロキシル基を有する化合物)と、をモノマーとして合成されるポリマーである。例えば、ポリエチレンテレフタレート、または、ポリエチレンナフタレートである。
【0039】
保護シート13は糊層を備えないため、そのままでは保護シート13を基板1の表面1aに配設できず、保護シート13付きの基板1を形成できない。しかしながら、保護シート13を融点近傍の温度まで加熱して軟化させつつ基板1の表面1aに接触させると、表面1aに保護シート13を密着でき、保護シート13を基板1に固定して配設できる。
【0040】
保護シート配設装置2の減圧チャンバー4の内部には、保護シート13または基板1の一方また両方を加熱する加熱ユニット14が設けられる。例えば、加熱ユニット14は、支持テーブル10の支持面10aに近接する内部に設けられており、電熱線等の熱源を備える。または、加熱ユニット14は、熱風を送ることができるヒートガンでもよく、下部筐体6または上部筐体8の内壁に設けられていてもよい。さらに、加熱ユニット14は、赤外線を保護シート13等に照射できる赤外線ランプでもよい。
【0041】
保護シート13が保護シート配設装置2で基板1に配設されるとき、保護シート配設装置2の減圧チャンバー4の下部筐体6及び上部筐体8に保護シート13を挟ませ、減圧チャンバー4の内部の空間を保護シート13で分離させる。そこで、保護シート13は、下部筐体6の開口6a及び上部筐体8の開口8aを塞げる大きさとされる。例えば、保護シート支持部12の内径よりも大きい径とされる。または、開口6a,8aよりも大きい径とされる。
【0042】
ここで、保護シート13が基板1の表面1aに強力に密着していると、保護シート13を基板1から剥離する際に、基板1の表面1aに配設されたバンプ7が保護シート13とともに基板1から剥離してしまうとの問題が生じる。その一方で、保護シート13の基板1の表面1aへの密着力が弱いと、基板1を研削している間に基板1等に供給される研削水や基板等から生じる加工屑が保護シート13と基板1の間に侵入するとの問題が生じる。
【0043】
そこで、これらの問題が生じないように、保護シート13の基板1への密着力を制御することが望まれる。以下に説明するように、本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、制御された所望の強さで保護シート13を基板1へ密着できるため、これらの問題が生じない。
【0044】
次に、保護シート配設装置2を使用して保護シート13を基板1の表面1aに密着させる本実施形態に係る保護シートの配設方法について説明する。
図6は、本実施形態に係る保護シートの配設方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。
【0045】
本実施形態に係る保護シートの配設方法では、まず、基板1を支持テーブル10に載置する基板載置ステップS10を実施する。
図2(B)は、基板載置ステップS10を模式的に示す断面図である。基板載置ステップS10では、減圧チャンバー4の下部筐体6及び上部筐体8を分離した状態において支持テーブル10の支持面10a上に基板1を載置する。このとき、基板1の表面1a側を上方に向け、裏面1b側を支持テーブル10の支持面10aに向けておく。
【0046】
なお、支持テーブル10の支持面10aに基板1を載置したときに基板1の表面1aの高さ位置が下部筐体6の上端の高さ位置以下となるように、予め支持テーブル10の高さが調整されるとよい。ただし、本実施形態に係る保護シートの配設方法はこれに限定されず、支持テーブル10の支持面10aに基板1を載置したとき、基板1の表面1aの高さ位置が下部筐体6の上端の高さ位置を超えてもよい。
【0047】
基板載置ステップS10を実施した後、保護シート13を下部筐体6と上部筐体8で挟み、減圧チャンバー4の内部の空間を保護シート13で分離させる空間分離ステップS20を実施する。
図3(A)は、空間分離ステップS20を模式的に示す断面図である。空間分離ステップS20では、まず、保護シート13で下部筐体6の開口6aを塞ぐように、該保護シート13を支持テーブル10に載置された基板1の表面1aに対面させて基板1及び下部筐体6上に載置する。
【0048】
このとき、基板1の表面1aの外側で、かつ、開口6aの内側の領域において、保護シート13が保護シート支持部12に支持される。そのため、保護シート13が下部筐体6の内部の空間に垂れ下がりにくく、基板1の側面1cに接触しにくい。そのため、基板1に保護シート13を配設する際に、保護シート13が不必要に広く基板1に密着するのを防止できる。
【0049】
そして、空間分離ステップS20では、次に、下部筐体6と上部筐体8を互いに近づけ、下部筐体6と上部筐体8で保護シート13を挟みつつ下部筐体6と上部筐体8を一体化させる。すると、減圧チャンバー4内の空間が下部筐体6及び保護シート13で囲まれた第1の部屋6bと、上部筐体8及び保護シート13で囲まれた第2の部屋8bと、に分離される。
【0050】
空間分離ステップS20を実施した後、減圧ステップS30を実施する。減圧ステップS30では、第1の減圧ユニット16aにより第1の部屋6bを所定の気圧に減圧するとともに第2の減圧ユニット16bにより第2の部屋8bを減圧する。第1の部屋6bを減圧する際には、切り替え弁22aを作動させて吸引源20aと、第1の部屋6bと、を給気路28aで接続する。そして、第2の部屋8bを減圧する際には、切り替え弁22bを作動させて吸引源20bと、第2の部屋8bと、を給気路28bで接続する。
【0051】
ここで、第1の部屋6bと第2の部屋8bを減圧する際には、気圧計24aで第1の部屋6bの気圧を監視するとともに気圧計24bで第2の部屋8bの気圧を監視する。そして、第1の部屋6bの気圧を所定の気圧にするとともに、第2の部屋8bの気圧を該所定の気圧に対応する気圧にする。
【0052】
このとき、第1の部屋6bの気圧は、第2の部屋8bの気圧と略同一か、第2の部屋8bの気圧よりも低いとよい。第1の部屋6bの気圧が第2の部屋8bの気圧よりも大幅に高いと、保護シート13が第2の部屋8b側に膨らみ基板1の表面1aから離れてしまうおそれがある。
【0053】
減圧ステップS30を実施した後、減圧された第2の部屋8bを第2の大気開放ユニット26bで大気開放することで基板1の表面1aの凹凸に倣うように保護シート13を基板1に密着させる保護シート密着ステップS50を実施する。
図4(A)は、保護シート密着ステップS50を模式的に示す断面図である。
【0054】
保護シート密着ステップS50では、予め、第2の減圧ユニット16bの切り替え弁22bを制御して減圧路18bを遮断しておく。そして、第2の大気開放ユニット26bの切り替え弁30bを制御して第2の部屋8bと、減圧チャンバー4の外部の雰囲気と、を接続し、第2の部屋8bの気圧を大気圧に戻す。このとき、第2の部屋8bの気圧の上昇が急峻であるほど、基板1の表面1aに保護シート13を均一に密着できる。
【0055】
なお、基板1の表面1aに密着する保護シート13の密着力の強さは、保護シート密着ステップS50において大気圧に昇圧される第2の部屋8bの気圧(大気圧)と、第1の減圧ユニット16aで減圧されている第1の部屋6bの気圧と、の差に左右される。すなわち、第2の部屋8bの気圧が保護シート13の密着力の強さを決める要素の一つとなる。
【0056】
そこで、本実施形態に係る保護シートの配設方法では、保護シート13の基板1への密着力が適切な強さとなるように、減圧ステップS30において減圧する第2の部屋8bの気圧を所定の気圧に制御する。第2の部屋8bを所定の気圧にしておくことで保護シート13の基板1への密着力の強さを所定の程度とする。すなわち、第2の部屋8bの気圧を制御することで保護シート13の密着力を制御できる。
【0057】
該所定の気圧は、例えば、基板1に密着する保護シート13の密着力が、保護シート13を基板1から剥離する際にバンプ7が保護シート13とともに表面1aから剥離しない程度の強さとなるように設定される。さらに、該所定の気圧は、例えば、基板1に密着する保護シート13の密着力が、基板1を加工する際に基板1と保護シート13の間に隙間が生じて加工屑や加工水が該隙間に侵入することのない強さとなるように設定される。
【0058】
図5(A)及び
図5(B)には、基板1の表面1aに配設された保護シート13を拡大して模式的に示す断面図である。
図5(A)には、比較的強い密着力で保護シート13が基板1の表面1aに配設されている様子が模式的に示されており、
図5(B)には、比較的弱い密着力で保護シート13が基板1の表面1aに配設されている様子が模式的に示されている。
【0059】
保護シート13の基板1への密着力の適切な強さは、例えば、基板1の表面1aに形成された凹凸の形状や、表面1aに露出した部材の物性、保護シート13の物性、基板1及び保護シート13の厚さや硬さ等の様々な要素に左右される。そこで、基板1と、保護シート13と、を用意し、第1の部屋6bの圧力を様々に変化させて保護シート13を基板1に密着させ、密着力を試す試験を実施し、最も適切な密着力を提供できる第1の部屋6bの気圧が予め探索されるとよい。
【0060】
本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、減圧ステップS30において第1の部屋6bの気圧を所定の気圧とすることで保護シート13を所定の強さの密着力で基板1に配設できる。すなわち、第1の部屋6bの気圧を制御することで保護シート13の基板1への密着力を制御し、基板1に保護シート13を適切に配設する。
【0061】
なお、空間分離ステップS20の後、かつ、後述の基板搬出ステップS60の前に、保護シート13及び基板1の一方または両方を加熱する加熱ステップS40が実施される。加熱ステップS40では、例えば、基板1の表面1aに保護シート13が接している状態で加熱ユニット14を作動させて保護シート13とともに基板1を加熱し、保護シート13を軟化させる。ここで、基板1及び保護シート13の加熱温度は、保護シート13の融点近傍の温度とするとよい。
【0062】
本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法では、保護シート133を所定の温度に加熱した状態で基板1の表面1aに向けて所定の力で押圧して、保護シート13を基板1の表面1aに密着させる。または、保護シート13を基板1の表面1aに所定の力で押圧している状態で保護シート13を所定の温度に加熱して、保護シート13を基板1の表面1aに密着させる。
【0063】
または、基板1と保護シート13を離間させている状態で基板1を加熱し、保護シート13を基板1に接触させつつ所定の力で押圧すると同時に基板1から保護シート13に熱を伝達させて該保護シート13を所定の温度に加熱してもよい。
【0064】
なお、加熱ステップS40は、好ましくは、空間分離ステップS20の後、かつ、保護シート密着ステップS50の前に実施される。より好ましくは、加熱ステップS40は、減圧ステップS30の後、かつ、保護シート密着ステップS50の前に実施される。
【0065】
本実施形態に係る保護シートの配設方法では、保護シート密着ステップS50の後、基板搬出ステップS60を実施する。
図4(B)は、基板搬出ステップS60を模式的に示す断面図である。基板搬出ステップS60では、減圧された第1の部屋6bを第1の大気開放ユニット26aで大気開放し、下部筐体6及び上部筐体8を分離し、保護シート13が密着した基板1を減圧チャンバー4から搬出する。
【0066】
第1の大気開放ユニット26aで第1の部屋6bを大気開放する際には、予め、第1の減圧ユニット16aの切り替え弁22aを作動させて減圧路18aを遮断しておく。そして、第1の大気開放ユニット26aの切り替え弁30aを作動させて、第1の部屋6bと、減圧チャンバー4の外部の雰囲気と、を接続し、第1の部屋6bの気圧を大気圧に戻す。すると、第1の部屋6b及び第2の部屋8bがいずれも大気圧となるため、下部筐体6及び上部筐体8を分離できるようになる。
【0067】
下部筐体6及び上部筐体8を分離すると、保護シート13付きの基板1を減圧チャンバー4から搬出できる。その後、保護シート13の基板1の側面1cの外側の部分をカッター等の切断ユニットにより切除する余剰領域切除ステップが実施されてもよい。さらに、その後、表面1aに保護シート13が配設された基板1の裏面1b側に研削等の加工を実施する加工ステップが実施されてもよい。さらにその後、加工された基板1の表面1aから保護シート13を剥離する剥離ステップが実施されてもよい。
【0068】
本実施形態に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法によると、制御された密着力で基板1の表面1aに保護シート13を配設できる。そのため、基板1から保護シート13を剥離する際に、表面1aに形成されたバンプ7が剥離する等の問題を生じさせないように該密着力を制御できる。
【0069】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、表面1a側に凹凸が設けられた基板1の該表面1aに保護シート13を配設する場合について説明したが、本発明の一態様に係る保護シート配設装置及び保護シートの配設方法はこれに限定されない。
【0070】
すなわち、保護シート13は、基板1の裏面1bに配設されてもよい。また、保護シート13が配設される表面1aには、バンプ7等の凹凸が設けられていなくてもよく、デバイス5が設けられていなくてもよい。
【0071】
その他、上記実施形態及び変形例に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0072】
1 基板
1a 表面
1b 裏面
1c 側面
3 分割予定ライン
5 デバイス
7 バンプ
9 デバイス形成領域
11 外周余剰領域
13 保護シート
2 保護シート配設装置
4 減圧チャンバー
6 下部筐体
8 上部筐体
6a,8a 開口
6b,8b 部屋
10 支持テーブル
10a 支持面
10b フレーム
12 保護シート支持部
14 加熱ユニット
16a,16b 減圧ユニット
18a,18b 減圧路
20a,20b 吸引源
22a,22b 切り替え弁
24a,24b 気圧計
26a,26b 大気開放ユニット
28a,28b 給気路
30a,30b 切り替え弁