(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】ハブ型の切削ブレード
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240311BHJP
B24B 1/04 20060101ALI20240311BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240311BHJP
B24D 5/12 20060101ALI20240311BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24B1/04 B
B24B27/06 M
B24D5/12
(21)【出願番号】P 2020093566
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 元彰
【審査官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-302435(JP,A)
【文献】特開2007-073586(JP,A)
【文献】特開平09-267268(JP,A)
【文献】特開2007-290046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 1/04
B24B 27/06
B24D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ型の切削ブレードであって、
ブレードマウントを介してスピンドルに装着される該切削ブレードに超音波振動を付与した状態で、チャックテーブルで保持された被加工物を切削する切削装置で用いられる該切削ブレードは、
ボンドで固定された砥粒を有する環状の切り刃と、
該ブレードマウントの中央ボス部に嵌合する貫通開口と、該貫通開口よりも外周側に設けられ、該切り刃の環状の一面の一部に接着剤で固定される環状面と、を有する環状基台と、を備え、
該環状基台の該環状面には、凹部が設けられておらず、
該切り刃の該環状面に対応する領
域には、該接着剤が収容される凹部が設けられており、
該切り刃の該凹部には、該接着剤の層が形成されていることを特徴とするハブ型の切削ブレード。
【請求項2】
該凹部は、
該切り刃の内周から外周に向けて放射状に該切り刃に設けられた複数のスリット、又は、
該切り刃の周方向に沿って離散的に該切り刃に設けられた複数のスリットであることを特徴とする請求項1に記載のハブ型の切削ブレード。
【請求項3】
円環状の押え基台を更に備え、
該切り刃に接する該押え基台の環状面は凹部を有さず、該押え基台及び該環状基台が該切り刃を挟持していることを特徴とする請求項1又は2に記載のハブ型の切削ブレード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動が付与されるハブ型の切削ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、ガリウムヒ素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、タンタル酸リチウム(略称、LT)、ニオブ酸リチウム(略称、LN)、ガラス、サファイア、セラミックス等の各種の材料で形成された板状の被加工物を、個々のデバイスチップに分割する場合、例えば、切削装置が用いられる。
【0003】
切削装置には、切り刃を備える切削ブレードが装着される。切り刃は、複数の砥粒と、各砥粒を互いに固定するためのボンドと、を有する。ところで、切削ブレードで被加工物を切削加工すると、デバイスチップにチッピングと呼ばれる欠けが生じる場合や、切削抵抗によって切削ブレードが被加工物の表面に対して斜めに傾く場合がある。
【0004】
チッピングの数や大きさ、切削ブレードの傾き等を低減するために、被加工物を加工する際の加工条件が調整される。例えば、砥粒やボンドの種類を変更したり、加工速度を変更したり、超音波の周波数で切削ブレードを振動させたりすることにより、加工条件が調整される。
【0005】
切削ブレードには、環状の切り刃で構成されるハブレス(ワッシャー)型の切削ブレードと、切り刃の環状の一面が環状基台(ハブ)の環状面に接着剤で固定されて切り刃と環状基台とが一体化されたハブ型の切削ブレードと、がある。超音波の周波数で切削ブレードを径方向に振動させる場合、切り刃に対して確実に超音波を付与するために、比較的振動させやすいハブ型の切削ブレードが採用される。
【0006】
しかし、ハブ型の切削ブレードにおいて、切り刃が#800以上の(即ち、比較的小さいサイズの)砥粒で形成されている場合、切り刃が#800未満の(即ち、比較的大きいサイズの)砥粒で形成されている場合に比べて、切り刃の環状の一面の凹凸が減少する。なお、粒度の表示では、#に続く数字が大きいほど、砥粒の最大粒子径は小さくなり、#に続く数字が小さいほど、砥粒の最大粒子径は大きくなる。
【0007】
切り刃の環状の一面の凹凸が減少する(即ち、環状の一面における砥粒の突出量が小さくなる)と、切り刃の一面に接着剤を塗布し、切り刃の一面と環状基台の環状面とが近づく様に環状基台及び切り刃を押圧した場合、接着剤が、一面と環状面との間の隙間から逃げてしまう。それゆえ、固定に必要な量の接着剤が、切り刃と環状基台との間に残らない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
切り刃と環状基台との間に必要な量の接着剤が充填されない場合、切り刃と環状基台とが充分に固定されないので、環状基台を振動させても切削ブレードが充分に振動しない、切削中に切り刃が基台から剥離してしまう等の恐れがある。
【0010】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、ハブ型の切削ブレードにおいて砥粒のサイズに関わらず基台と切り刃とを充分に固定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、ハブ型の切削ブレードであって、ブレードマウントを介してスピンドルに装着される該切削ブレードに超音波振動を付与した状態で、チャックテーブルで保持された被加工物を切削する切削装置で用いられる該切削ブレードは、ボンドで固定された砥粒を有する環状の切り刃と、該ブレードマウントの中央ボス部に嵌合する貫通開口と、該貫通開口よりも外周側に設けられ、該切り刃の環状の一面の一部に接着剤で固定される環状面と、を有する環状基台と、を備え、該環状基台の該環状面には、凹部が設けられておらず、該切り刃の該環状面に対応する領域には、該接着剤が収容される凹部が設けられており、該切り刃の該凹部には、該接着剤の層が形成されているハブ型の切削ブレードが提供される。
【0012】
好ましくは、該凹部は、該切り刃の内周から外周に向けて放射状に該切り刃に設けられた複数のスリット、又は、該切り刃の周方向に沿って離散的に該切り刃に設けられた複数のスリットである。
【0013】
また、好ましくは、ハブ型の切削ブレードは、円環状の押え基台を更に備え、該切り刃に接する該押え基台の環状面は凹部を有さず、該押え基台及び該環状基台が該切り刃を挟持している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係るハブ型の切削ブレードは、ボンドで固定された砥粒を有する環状の切り刃と、環状基台と、を備える。環状基台は、ブレードマウントの中央ボス部に嵌合する貫通開口と、貫通開口よりも外周側に設けられ、切り刃の環状の一面の一部に接着剤で固定される環状面と、を有する。
【0015】
また、環状基台の環状面と、切り刃の当該環状面に対応する領域と、の少なくとも一方には、接着剤が収容される凹部が設けられており、当該凹部には、接着剤の層が形成されている。凹部に形成されている接着剤の層により、環状基台と切り刃とを固定するために充分な接着剤の量を確保できる。従って、切削ブレードを超音波の周波数で充分に振動させることができ、切り刃が環状基台から剥離することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】
図4(A)は切削ブレードを組み立てる様子を示す図であり、
図4(B)は組み立て後の切削ブレードの断面図である。
【
図5】
図5(A)は第1の実施形態に係る凹部の拡大断面図であり、
図5(B)は比較例に係る切削ブレードの拡大断面図である。
【
図6】
図6(A)は第1の変形例に係る環状基台の正面図であり、
図6(B)第2の変形例に係る環状基台の正面図である。
【
図7】
図7(A)は第3の変形例に係る切り刃の正面図であり、
図7(B)は第4の変形例に係る切り刃の正面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る切削ブレード等の一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、切削装置2の斜視図である。なお、以下の説明に用いられるX軸方向(加工送り方向)、Y軸方向(割り出し送り方向)及びZ軸方向(鉛直方向、切り込み送り方向)は、互いに垂直である。
【0018】
切削装置2は、各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の前方の角部には、開口4aが形成されており、この開口4a内には、昇降機構(不図示)によって昇降するカセットエレベータ6が設けられている。
【0019】
カセットエレベータ6の上面には、カセット8が載せられる。なお、説明の便宜上、
図1では、カセット8の輪郭のみを示す。カセット8には、複数の被加工物11が収容されている。被加工物11の各々は、樹脂製のダイシングテープ15を介して金属製の環状フレーム13に支持された被加工物ユニット21の状態で、カセット8に収容されている。
【0020】
開口4aの側方には、X軸方向に長手部を有する矩形形状の開口4bが形成されている。開口4b内には、ボールネジ式のX軸移動機構(加工送り機構)10が配置されている。X軸移動機構10の上部は、テーブルカバー10aで覆われている。
【0021】
テーブルカバー10aのX軸方向の両側の各々には、蛇腹状カバー12が配置されている。テーブルカバー10a上には、被加工物11を吸引保持するためのチャックテーブル14が配置されている。テーブルカバー10aの下方には、モータ等の回転駆動源(不図示)が配置されている。
【0022】
チャックテーブル14の下部は、回転駆動源の出力軸に連結されており、チャックテーブル14は、Z軸方向に概ね平行な回転軸の周りに回転可能である。チャックテーブル14、テーブルカバー10a及び回転駆動源は、X軸移動機構10によってX軸方向に移動可能である。
【0023】
チャックテーブル14の上部には、多孔質材料で形成された円盤状のポーラス板が設けられている。ポーラス板は、チャックテーブル14の内部に形成された吸引路(不図示)を介して吸引源(不図示)に接続されている。
【0024】
吸引源を動作させれば、ポーラス板の上面には負圧が作用する。それゆえ、チャックテーブル14の上面は、被加工物11を吸引保持するための保持面14aとして機能する。なお、チャックテーブル14の周囲には、環状フレーム13を四方から固定するための4個のクランプ16が設けられている。
【0025】
開口4bの上方には、被加工物ユニット21をチャックテーブル14等へと搬送するための搬送ユニット(不図示)が配置されている。搬送ユニットで搬送された被加工物ユニット21は、例えば、被加工物11の表面が上方に露出する態様で保持面14aに載せられる。
【0026】
開口4bの側方には、被加工物11を切削する切削ユニット18を支持するための片持ち梁状の支持構造20が配置されている。支持構造20の表面上部には、切削ユニット18をY軸及びZ軸方向に移動させる切削ユニット移動機構(割り出し送り機構、切り込み送り機構)22が設けられている。
【0027】
切削ユニット移動機構22は、支持構造20の表面に固定され且つY軸方向に概ね平行な一対のY軸ガイドレール24を備える。Y軸ガイドレール24には、Y軸移動プレート26がスライド可能に取り付けられている。
【0028】
Y軸移動プレート26の裏面側(Y軸ガイドレール24側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール24に概ね平行なY軸ボールネジ28が回転可能な態様で連結されている。
【0029】
Y軸ボールネジ28の一端部には、Y軸パルスモータ(不図示)が連結されており、Y軸パルスモータでY軸ボールネジ28を回転させれば、Y軸移動プレート26は、Y軸ガイドレール24に沿って移動する。
【0030】
Y軸移動プレート26の表面には、Z軸方向に概ね平行な一対のZ軸ガイドレール30が固定されている。Z軸ガイドレール30には、Z軸移動プレート32がスライド可能に取り付けられている。
【0031】
Z軸移動プレート32の裏面側(Z軸ガイドレール30側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Z軸ガイドレール30に平行なZ軸ボールネジ34が回転可能な態様で連結されている。
【0032】
Z軸ボールネジ34の一端部には、Z軸パルスモータ36が連結されており、Z軸パルスモータ36でZ軸ボールネジ34を回転させれば、Z軸移動プレート32は、Z軸ガイドレール30に沿って移動する。
【0033】
Z軸移動プレート32の下部には、切削ユニット18を構成する筒状のスピンドルハウジング38(
図2参照)が固定されている。ここで、
図2及び
図3を参照して、切削ユニット18の構造について説明する。
【0034】
図2は、切削ユニット18の分解斜視図であり、
図3は、切削ユニット18等の一部断面側面図である。スピンドルハウジング38は、略直方体状のハウジング本体40を含む。ハウジング本体40の内部には、略円柱状のスピンドル40aの一部が回転可能な態様で収容されている。
【0035】
スピンドル40aの先端部は、ハウジング本体40から外部に突出している。スピンドル40aの先端部には、開口40bが形成されており、この開口40bの内壁には、ネジ溝が形成されている。スピンドル40aの基端部には、モータ(不図示)が連結されている。
【0036】
ハウジング本体40の先端部には、円柱状のハウジングカバー42が固定される。ハウジングカバー42の中央部には、貫通開口42aが形成されており、ハウジングカバー42の外周部には、係止部42bが設けられている。
【0037】
係止部42bには、ネジ孔42cが形成されている。スピンドル40aの先端部を貫通開口42aに挿入した状態で、ネジ孔42cにネジ44(
図3参照)を締結すれば、ハウジングカバー42は、ハウジング本体40に固定される。
【0038】
ハウジングカバー42をハウジング本体40に固定した後、スピンドル40aの先端部には、略円筒状のブレードマウント(即ち、ハブマウント)46が装着される。ブレードマウント46は、径方向の外側に突出する様に設けられた円環状のフランジ部48を有する。
【0039】
フランジ部48の表面側には、切削ブレード60に接触する略平坦な環状面48aが形成されている。ブレードマウント46の中心部には、環状面48aよりも突出する態様で、第1のボス部(中央ボス部)50が形成されている。また、フランジ部48に対して第1のボス部50の反対側には、第2のボス部52が形成されている。
【0040】
ブレードマウント46の中心軸近傍には、第1のボス部50、フランジ部48及び第2のボス部52を貫通する貫通開口46aが形成されている。貫通開口46aのうち第2のボス部52側の内部には、スピンドル40aの先端部が嵌合する。
【0041】
貫通開口46aのうち第1のボス部50側には、ワッシャー56を受けるための段差部が環状に形成されている(
図3参照)。段差部にワッシャー56を配置し、ワッシャー56を介してスピンドル40aの開口40bにボルト58を締結すれば、ブレードマウント46は、スピンドル40aに固定される。
【0042】
第1のボス部50の外周部には、略円盤状のハブ型の切削ブレード60が配置される。ここで、
図2及び
図3を参照し、切削装置2で用いられる切削ブレード60について説明する。切削ブレード60は、アルミニウム合金等の金属で形成された円環状の環状基台62を有する。
【0043】
環状基台62は、円環状の中央部62aを有する。中央部62aの中心軸近傍には、第1のボス部50の外周面50aと略同じ径を有する貫通開口60aが形成されている。貫通開口60aよりも外周側には、中央部62aを囲む様に、中央部62aよりも厚さが薄い円環状のフランジ部62bが設けられている。
【0044】
フランジ部62bは、環状の切り刃64に接する環状面62cを有する。第1の実施形態に係る環状面62cの内周側には、フランジ部62bの周方向に沿って連続的に環状の凹部62dが設けられている。凹部62dは、接着剤66を収容するための空間である。
【0045】
切り刃64の一面64aの内周側に接着剤66を塗布した状態で、一面64aを環状面62cに押し当て、一面64a側を環状面62cに接触させると、環状面62c及び凹部62dにそれぞれ接着剤66の層が形成される(
図4(A)、
図4(B)及び
図5(A)参照)。切り刃64は、接着剤66の層により環状面62cに固定される。
【0046】
環状基台62の中央部62aの外周には、円環状の押え基台68が装着される。押え基台68は、フランジ部62bの環状面62cと共に、切り刃64を挟持する略平坦な環状面68aを有する。
【0047】
第1の実施形態に係る環状面68aの内周側には、押え基台68の周方向に沿って連続的に環状の凹部68bが設けられている。凹部68bは、接着剤66を収容するための空間である。
【0048】
切り刃64の他面64bの内周側に接着剤66を塗布した状態で、環状面68aを他面64bに押し当て、他面64b側を環状面68aに接触させると、環状面68a及び凹部68bにそれぞれ接着剤66の層が形成される(
図4(A)及び
図4(B)参照)。切り刃64は、接着剤66の層により、環状面68aに固定される。
【0049】
切り刃64は、ダイヤモンドやcBN(cubic boron nitride)等で形成された複数の砥粒64cを、金属や樹脂等のボンド64dで固定することで形成されている(
図5(A)等参照)。切り刃64を環状基台62及び押え基台68で挟持することにより、切削ブレード60が形成される。
【0050】
図4(A)は、切削ブレード60を組み立てる様子を示す図であり、
図4(B)は、組み立て後の切削ブレード60の断面図である。
図5(A)は、第1の実施形態に係るフランジ部62bの凹部62dの拡大断面図である。
【0051】
図5(A)では、一面64a側に位置する砥粒64cが環状面62cに接することで、一面64aと環状面62cとの距離が規定されている。本実施形態では、凹部62dに形成されている接着剤66の層により、環状基台62と切り刃64とを固定するために充分な接着剤66の量を確保できる。それゆえ、砥粒64cのサイズに関わらず、接着剤66の量を確保できる。
【0052】
図5(B)は、比較例に係る切削ブレード60の拡大断面図である。比較例のフランジ部62bには凹部62dが形成されていない。それゆえ、一面64a側に位置する砥粒64cが環状面62cに接した場合、一面64aと環状面62cとの距離は、砥粒64cの突出量により規定される。
【0053】
その結果、一面64aと環状面62cとの間の空間が狭くなり、接着剤66が一面64aと環状面62cとの間の隙間から逃げてしまう。従って、比較例に係るフランジ部62bを採用した場合には、切り刃64と環状基台62との固定に必要な量の接着剤66が切り刃64と環状基台62との間に残らない場合がある。
【0054】
再び、
図3を参照し、本実施形態に係る切削ブレード60等について説明する。切削ブレード60の貫通開口60aをブレードマウント46の第1のボス部50に嵌合させ、且つ、中央部62aの裏面側を環状面48aに接触させた状態で、第1のボス部50には、円環状のマウントナット70が配置される。
【0055】
マウントナット70の貫通開口70aの内壁面には、外周面50aに形成された雄ネジに噛み合う雌ネジが形成されている。マウントナット70を外周面50aに締結すると、切削ブレード60は、マウントナット70とブレードマウント46とに挟持され、ブレードマウント46を介してスピンドル40aに装着される。
【0056】
次に、切削ブレード60を径方向に振動させる超音波振動発生機構を説明する。環状基台62の中央部62aの裏面側には、中央部62aの中心軸を囲む様に円環状の超音波振動子72が配置されている。
【0057】
超音波振動子72は、円環状の圧電体を有する。圧電体は、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)等の材料で形成されている。
【0058】
円環状の圧電体の一面には、金属で形成された第1電極が設けられており、圧電体の他面には金属で形成された第2電極が設けられている。つまり、第1電極及び第2電極は、圧電体の厚さ方向で圧電体を挟む様に配置されている。
【0059】
切削ブレード60がブレードマウント46に装着されたとき、第1電極は、環状面48aの周方向の一部に配置されている第1給電端子74aに接続し、第2電極は、環状面48aの周方向の他の一部に配置されている第2給電端子74bに接続する。
【0060】
例えば、第1の電極がブレードマウント46側に配置されているとき、絶縁体(不図示)を介して第2電極の一部を第1電極側に重ねることにより、第2の電極の一部をブレードマウント46側に配置できる。
【0061】
第1給電端子74aは、フランジ部48に設けられている第1配線76aを介して、フランジ部48の裏面側に配置されている第1のコイル78の一端に接続している。同様に、第2給電端子74bは、フランジ部48に設けられている第2配線76bを介して、第1のコイル78の他端に接続している。
【0062】
第1のコイル78は、フランジ部48の周方向に沿って巻回されている。フランジ部48の裏面側には、微小な空間を介して、ハウジングカバー42の先端部が対面している。ハウジングカバー42の先端部には、第1のコイル78と共にロータリートランスを構成する第2のコイル80が設けられている。
【0063】
第2のコイル80は、貫通開口42aの周方向に沿って巻回されている。第2のコイル80には、配線を介して交流電源82接続されている。交流電源82は、電圧のピーク値及び電圧の周波数が調整可能な電源装置で構成されている。
【0064】
交流電圧の電圧値及び周波数は、切り刃64の種類、被加工物11の種類(材質、大きさ、重量等)等に応じて、適宜調整される。交流電圧の電圧値は、例えば、10V以上100V以下の範囲で調整され、交流電圧の周波数は、例えば、20kHz以上500kHz以下の範囲で調整される。
【0065】
交流電源82から第2のコイル80に印加された交流電圧が第1のコイル78等を介して超音波振動子72へ供給されると、圧電体が径方向に振動する。これにより、切り刃64は、環状基台62と共に、切り刃64の径方向に振動する。
【0066】
上述の様に、本実施形態では、環状基台62と切り刃64とを固定するために充分な接着剤66の量が確保されるので、切削ブレード60を超音波の周波数で充分に振動させることができる。更に、切り刃64が環状基台62から剥離することを防止できる。
【0067】
切削装置2を用いて、被加工物11を切削する場合には、まず、保持面14aで被加工物11の裏面側を吸引保持する。次いで、被加工物11の分割予定ラインがX軸方向と略平行になる様に、被加工物11の向きを調整する。
【0068】
そして、切削ブレード60が分割予定ラインの延長線上に位置する様にチャックテーブル14を配置し、高速に回転させた切削ブレード60の下端の高さを調整する。次いで、切削ブレード60に超音波振動を付与した状態で、切削ブレード60とチャックテーブル14とをX軸方向に沿って相対的に移動させる。これにより、被加工物11は、相対的な移動の経路に沿って切削される。
【0069】
ここで、
図1に戻り、切削装置2の他の構成要素について説明する。ハウジング本体40の側方には、チャックテーブル14で吸引保持された被加工物11を撮像するための撮像ユニット84が設けられている。
【0070】
撮像ユニット84は、イメージセンサー等の撮像素子(不図示)と、被加工物11からの反射光を撮像素子に集光するための集光レンズと、を含む。開口4bに対して開口4aと反対側の位置には、円形の開口4cが形成されている。
【0071】
開口4c内には、切削加工後の被加工物11等を洗浄するための洗浄ユニット86が設けられている。洗浄ユニット86で洗浄された被加工物11は、上述の搬送ユニット等を用いてカセット8へ収容される。
【0072】
本実施形態では、凹部62dに形成されている接着剤66の層により、たとえ砥粒64cのサイズが比較的小さくても、環状基台62と切り刃64とを固定するために充分な接着剤66の量を確保できる。それゆえ、切削ブレード60を超音波の周波数で充分に振動させることができ、更に、切り刃64が環状基台62から剥離することを防止できる。
【0073】
次に、フランジ部62bの第1の変形例について説明する。
図6(A)は、第1の変形例に係る環状基台62の正面図である。第1の変形例の環状面62cは、各々同心円状に配置された外側部分及び内側部分を有する。外側部分及び内側部分の間には、環状面62cの周方向に沿って連続的に環状の凹部62dが設けられている。
【0074】
次に、フランジ部62bの第2の変形例について説明する。
図6(B)は、第2の変形例に係る環状基台62の正面図である。第2の変形例に係るフランジ部62bでは、環状面62cの周方向において凹部62dが離散的に設けられている。具体的には、環状面62cを周方向に8等分した各位置において環状面62cの外側部分及び内側部分を接続する様に、複数の追加の支持面62eが設けられている。
【0075】
但し、凹部62dは、環状面62cの周方向で必ずしも8等分されていなくてもよく、任意の数に区切られていてもよい。また、追加の支持面62eの長手方向は、必ずしも環状面62cの径方向と平行でなくてもよい。また、押え基台68の凹部68bにも、第1及び第2の変形例の形状が適用されてもよい。
【0076】
ところで、第1の実施形態、並びに、第1及び第2の変形例では、フランジ部62b等に凹部62dを形成した。しかし、フランジ部62b等に凹部62dを形成せずに、切り刃64のうち環状面62cに対応する領域に、接着剤66が収容される凹部64eを形成してもよい。
【0077】
図7(A)は、第3の変形例に係る切り刃64の正面図である。切り刃64の凹部64eは、各々短冊形状を有し、切り刃64の内周から外周に向けて放射状に設けられた複数のスリットである。各スリットは、切り刃64の一面64aから他面64bまで貫通している。
【0078】
また、各スリットは、切り刃64を環状基台62に装着した場合に、環状面62cの内周端部62f(破線で示す)から、環状面62cの外周端部62g(破線で示す)には至らない所定の範囲に対応する領域に形成されている。
【0079】
ここで、スリットの数と、切り刃64の径方向の振幅との関係を確認するために行われた実験について説明する。当該実験では、環状面62cに凹部62dを有しないフランジ部62bと、環状面68aに凹部68bを有しない押え基台68とで、
図7(A)に示す複数のスリット(凹部64e)を有する切り刃64を挟持することにより形成した切削ブレード60を用いた。
【0080】
切り刃64の砥粒64cには、粒度#1000のダイヤモンド砥粒を用い、ボンド64dにはメタルボンドを用いた。切り刃64の外径は58mmとし、内径は40mmとし、切り刃64の厚さは0.1mmとした。
【0081】
切り刃64における各スリットの形状は、切り刃64の径方向に長手部を有する短冊形状とし、短冊の長手部を5mm、短冊の幅を2mmとした、また、環状基台62、切り刃64及び押え基台68を固定するための接着剤66には、エポキシ系接着剤を用いた。
【0082】
[実験例1]実験例1では、32個のスリットを有する切り刃64で、切削ブレード60を形成し、40kHzの周波数及び73Vのピーク値を有する交流電圧を交流電源82から超音波振動子72に印加した。このとき、切り刃64の径方向の振幅は4.5μmとなった。しかし、切り刃64の径方向の振幅は、5.0μm以上であることが好ましい。
【0083】
[実験例2]そこで、切り刃64をより強固に固定するために、64個のスリットを有する切り刃64で、切削ブレード60を形成し、40kHzの周波数及び60Vのピーク値を有する交流電圧を交流電源82から超音波振動子72に印加した。このとき、切り刃64の径方向の振幅は5.0μmとなった。
【0084】
[実験例3]切り刃64を更に強固に固定するために、100個のスリットを有する切り刃64で、切削ブレード60を形成し、40kHzの周波数及び40Vのピーク値を有する交流電圧を交流電源82から超音波振動子72に印加した。このとき、切り刃64の径方向の振幅は5.0μmとなった。実験例1から実験例3の結果を、表1に示す。
【0085】
【0086】
実験例2及び実験例3に示す様に、64個以上のスリットを有する切り刃64を用いれば、印加電圧のピーク値を60V以下としても、切り刃64の径方向の振幅を5.0μmにできた。印加電圧のピーク値を高くしすぎると超音波振動子72が焦げてしまうので、所定の振幅を達成するために、スリットの数を増やして切り刃64を強固に固定することは有効な手法であると言える。
【0087】
なお、発明者は、砥粒64cの集中度が高いほど、切り刃64が径方向に振動し難いことを見出した。それゆえ、印加電圧のピーク値を低減するためには、砥粒64cの集中度を低くしてもよい。
【0088】
ところで、切り刃64の凹部64eの形状は、
図7(A)に示す例に限定されない。
図7(B)は、第4の変形例に係る切り刃64の正面図である。切り刃64の凹部64eは、切り刃64の周方向に沿って離散的に設けられた複数のスリットである。
【0089】
各スリットは、切り刃64を環状基台62に装着した場合に、環状面62cの内周端部62f(破線で示す)から、環状面62cの外周端部62g(破線で示す)までの所定の範囲に対応する領域に形成されている。
【0090】
各スリットは、切り刃64の一面64aから他面64bまで貫通している。また、凹部64eは、複数のスリットにより周方向に8等分する様に形成されているが、必ずしも8等分されていなくてもよく、任意の数に区切られていてもよい。
【0091】
上述の第1の実施形態と、第1から第4の変形例と、では、環状面62c及び切り刃64のいずれか一方に、凹部62d又は凹部64eが設けられる場合について述べた。しかし、環状面62cに凹部62dが設けられ、更に、切り刃64にも凹部64eが設けられてもよい。
【0092】
次に、第2の実施形態に係るハブ型の切削ブレード90について説明する。
図8は、第2の実施形態に係る切削ブレード90等の一部断面側面図である。切削ブレード90は、環状基台62に代えて、環状基台(環状基台)92を有し、押え基台68を有さない。係る点が、主として第1の実施形態とは異なる。
【0093】
環状基台92は、円環状の中央部92aを有する。中央部92aの中心軸近傍には、第1のボス部50の外周面50aと略同じ径を有する貫通開口90aが形成されている。貫通開口90aよりも外周側には、中央部92aを囲む様に円環状のフランジ部92bが設けられている。
【0094】
フランジ部92bは、環状の切り刃64をそれぞれ支持する内側及び外側の環状面92cを有する。第2の実施形態に係るフランジ部92bの環状面92cには、
図6(A)と同様に、フランジ部92bの周方向に沿って連続的に環状の凹部92dが設けられている。
【0095】
凹部92dは、接着剤66を収容するための空間である。切り刃64の一面64aに環状に接着剤66を塗布した状態で、一面64aが環状面92cに接すると、環状面92c及び凹部92dのそれぞれに形成された接着剤66の層で、切り刃64が環状面92cに固定される。
【0096】
なお、
図6(B)に示す様に、凹部92dは、環状面92cの周方向においてが離散的に設けられてもよい。また、
図7(A)及び
図7(B)に示す切り刃64を、環状面92cに凹部92dを有しないフランジ部92bを備える環状基台92で固定してもよい。その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0097】
2:切削装置
4:基台、4a,4b,4c:開口
6:カセットエレベータ
8:カセット
10:X軸移動機構、10a:テーブルカバー
11:被加工物
12:蛇腹状カバー
13:環状フレーム
14:チャックテーブル、14a:保持面
15:ダイシングテープ
16:クランプ
18:切削ユニット
20:支持構造
21:被加工物ユニット
22:切削ユニット移動機構
24:Y軸ガイドレール、26:Y軸移動プレート、28:Y軸ボールネジ
30:Z軸ガイドレール、32:Z軸移動プレート、34:Z軸ボールネジ
36:Z軸パルスモータ
38:スピンドルハウジング
40:ハウジング本体、40a:スピンドル、40b:開口
42:ハウジングカバー、42a:貫通開口、42b:係止部、42c:ネジ孔
44:ネジ
46:ブレードマウント、46a:貫通開口
48:フランジ部、48a:環状面
50:第1のボス部、50a:外周面
52:第2のボス部
56:ワッシャー、58:ボルト
60:切削ブレード、60a:貫通開口
62:環状基台、62a:中央部、62b:フランジ部、62c:環状面、62d:凹部
62e:支持面、62f:内周端部、62g:外周端部
64:切り刃、64a:一面、64b:他面、
64c:砥粒、64d:ボンド、64e:凹部
66:接着剤
68:押え基台、68a:環状面、68b:凹部
70:マウントナット、70a:貫通開口
72:超音波振動子
74a:第1給電端子、74b:第2給電端子
76a:第1配線、76b:第2配線
78:第1のコイル、80:第2のコイル
82:交流電源
84:撮像ユニット
86:洗浄ユニット
90:切削ブレード、90a:貫通開口
92:環状基台、92a:中央部、92b:フランジ部、92c:環状面、92d:凹部