(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】二水石膏粒子の析出方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/46 20060101AFI20240311BHJP
【FI】
C01F11/46 D
(21)【出願番号】P 2020121811
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】平中 晋吾
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-13304(JP,A)
【文献】特開2000-143239(JP,A)
【文献】特開2006-143503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/46
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半水及び/又は無水III型の石膏を水性媒体と混合し、多段直列に配置した複数の反応槽中を上流側から下流側へ移動させながら、水性媒体中に二水石膏粒子を析出させる方法において、
前記複数の反応槽中の2以上の反応槽に、前記石膏を供給することを特徴とする、二水石膏粒子の析出方法。
【請求項2】
前記2以上の反応槽に、前記石膏と水性媒体とを供給することを特徴とする、請求項1の二水石膏粒子の析出方法。
【請求項3】
前記石膏を水性媒体と予め混合する混合槽を経由せずに、前記石膏を粒体の状態で前記2以上の反応槽に供給することを特徴とする、請求項1または2の二水石膏粒子の析出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、石膏スラリーからの二水石膏粒子の析出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
廃石膏ボード由来の半水及び/又は無水III型石膏をスラリーとし、二水石膏粒子をスラリー中に析出させ、固液分離すると、二水石膏を回収できる。回収した二水石膏は石膏ボード原料、セメント原料等に利用できる。析出させた二水石膏は、平均粒径が大きなものが工業的に好ましい。
【0003】
石膏スラリーからの二水石膏粒子の析出では、半水及び/又は無水III型石膏の粒体を混合槽で水等の水性媒体と混合することにより石膏スラリーとする。石膏スラリーは反応槽中で例えば撹拌下で熟成させ、スラリー中に二水石膏粒子を析出させ、反応槽は1段でも多段でも良い。なお特許文献1(特開2020-65965)は、石膏粒体を混合槽ではなく反応槽へ直接供給しても良いことを記載している([0022])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、大きな平均粒径の二水石膏を析出させることができる、二水石膏粒子の析出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の二水石膏粒子の析出方法は、半水及び/又は無水III型の石膏を水性媒体と混合し、多段直列に配置した複数の反応槽中を上流側から下流側へ移動させながら、水性媒体中に二水石膏粒子を析出させる方法において、
複数の反応槽中の2以上の反応槽に、半水及び/又は無水III型の石膏を供給することを特徴とする。
【0007】
二水石膏の結晶核の生成は過飽和度がある値を超えると急激に進行し、石膏を全量一度に水性媒体と混合すると、大量の結晶核が生成し、析出する二水石膏粒子の平均粒径は小さくなる。
【0008】
これに対して、半水及び/または無水III型の石膏を複数の反応槽に分散して供給すると、二水石膏の結晶核の合計生成個数が減少する。例えば2段目、3段目等の反応槽では、上流側の反応槽で二水石膏粒子が既に析出し、過飽和度が低下したスラリーが供給される。このスラリーに石膏を供給しても、過飽和度の上昇を抑制できる。
【0009】
好ましくは、2以上の反応槽に、半水及び/又は無水III型の石膏に加えて水性媒体(石膏スラリーから二水石膏粒子を分離したもの、水など)を共に供給する。反応槽に上流側から1段目、2段目と番号を振ると、1段目の反応槽では過飽和度は高いが、石膏スラリーの槽内の滞留時間が長くなり、二水石膏粒子が成長する。2段目以降の反応槽では、上流側で過飽和度が低下したスラリーに、水性媒体と石膏とが追加される。このため過飽和度の上昇が制限され、結晶核の生成個数は少なくなる。上流側で成長した二水石膏粒子は下流側の反応槽で石膏をスラリーから吸収し成長する。
【0010】
石膏は複数の反応槽に供給するが、水性媒体は、極端な場合、全量1段目の反応槽に供給しても良い。この場合、1段目の反応槽での過飽和度は低く、結晶核の生成個数は減少し、槽内の滞留時間は短いものの、結晶核は二水石膏粒子へと大きく成長する。2段目以降の反応槽では、上流側で過飽和度が低下したスラリーに石膏を追加するので、混合槽で石膏と水性媒体を一度に混合する場合よりも、過飽和度は低くなる。このため結晶核の生成個数は減少し、上流側で成長済みの二水石膏粒子がさらに成長する。
【0011】
好ましくは、石膏を水性媒体と予め混合する混合槽を経由せずに、半水及び/又は無水III型の石膏粒体を、2以上の反応槽に供給する。
【0012】
反応槽は好ましくは3段以上とし、最下段の反応槽(石膏スラリーを固液分離装置へ供給する槽)には、石膏を供給しないことが好ましい。最下段の反応槽では、結晶核を生成させずに、上流側の反応槽で析出した二水石膏粒子をさらに成長させる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施するための実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。この発明の範囲は実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
図1に実施例での二水石膏粒子の析出方法を示す。廃石膏ボード等の石膏原料を破砕機2で破砕し、粉砕機4で粉砕し、石膏粒体とする。必要に応じ磁選機6で金具等の金属異物を除去し、か焼機8でか焼し、半水及び/または無水III型の石膏粒体とする。か焼温度は例えば130℃とし、好ましい範囲は100℃以上140℃以下である。
【0016】
例えば直列4段の反応槽11~14(最上流側が反応槽11,最下流側が反応槽14)を設け、反応槽は例えば3段以上とし、好ましくは4段あるいは5段とする。上流側3段の反応槽11~13,あるいは上流側2段の反応槽11,12に、か焼により得られた半水及び/または無水III型の石膏粒体と、固液分離装置18からのろ液を、等量ずつ供給する。特に好ましくは、最下流側の反応槽14を除く、上流側の全反応槽11~13に石膏粒体とろ液を供給する。
【0017】
石膏粒体は上流側の複数の反応槽に例えば等量ずつ供給するが、等量ずつに限られるものではなく、ろ液はこれらの反応槽に等量ずつ供給する必要はない。極端な場合、最上流側の反応槽11のみにろ液を供給し、石膏粒体は複数の反応槽11~13、あるいは11,12に供給しても良い。
【0018】
反応槽11~14内の石膏スラリーの温度は例えば60℃±20℃とし、反応槽11~14では図示しない撹拌羽根により石膏スラリーを撹拌する。石膏スラリーの濃度は、最下段の反応槽14において例えば40wt%で、20wt%以上50wt%以下が好ましい。反応槽11~14の合計内容積を、1時間当たりに供給するろ液および石膏(真比重は約2.3)の合計容積で割ると、4個の反応槽11~14での石膏スラリーの合計滞留時間が求まる。この時間は例えば5時間以上20時間以下とし、好ましくは10時間以上15時間以下とする。
【0019】
最下段の反応槽14の石膏スラリーを篩16に掛け、紙粉と固形異物を分離する。次いで石膏スラリーをフィルタープレス等の固液分離装置18で処理し、二水石膏粉体とろ液とに分離する。篩16,固液分離装置18で失われる水を補うように、工業用水等を補充し、反応槽11~13,あるいは反応槽11,12に還流させる。
【0020】
実験装置
試薬グレードの二水石膏を130℃でか焼し、半水石膏とした。水性媒体として上水を使用し、容積400mLの攪拌機付き反応槽を直列4段に配置し、水と半水石膏を連続供給し、オーバーフローした石膏スラリーを下流側の反応槽へ流した。また最下段の反応槽からオーバーフローした石膏スラリーを反応系から排出し、二水石膏粒子の粒径を測定した。反応条件の差が二水石膏粒子の平均粒径に反映されるように、石膏スラリー濃度を低くし、半水石膏の供給量を合計で12g/h、上水の供給量を合計で720mL/hとし、石膏スラリー温度は50℃に保った。
【0021】
実験例1
4段の反応槽中の最上段と2段目の反応槽に、半水石膏をそれぞれ6g/hずつ、上水を360mL/hずつ連続供給した。供給開始の24時間後から48時間、最下段の反応槽からオーバーフローした石膏スラリー中の二水石膏粒子の平均粒径を、レーザ光散乱法により測定した。48時間の測定値の平均値は92μmであった。
【0022】
実験例2
4段の反応槽中の最上段から3段目の反応槽に、半水石膏をそれぞれ4g/hずつ、上水を240mL/hずつ連続供給し、他は実験例1と同様にして、二水石膏粒子の平均粒径を測定した。48時間の測定値の平均値は104μmであった。
【0023】
比較例
最上段の反応槽のみに、半水石膏を12g/h、上水を720mL/hで連続供給し、他は実験例1と同様にして、二水石膏粒子の平均粒径を測定した。48時間の測定値の平均値は79μmであった。
【0024】
実験例と比較例を比較すると、複数の反応槽に石膏を分散して供給することにより、二水石膏の平均粒径を大きくできることが分かった。次に、実験例1と実験例2を比較すると、最下段を除く各反応槽に石膏を供給する方が、より大きな平均粒径の二水石膏が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0025】
2 破砕機
4 粉砕機
6 磁選機
8 か焼機
11~14 反応槽
16 篩
18 固液分離装置