IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 株式会社スーパーナノデザインの特許一覧

<>
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図1
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図2
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図3A
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図3B
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図3C
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図3D
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図4
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図5
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図6
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図7
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図8
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図9
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図10
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図11
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図12
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図13
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図14
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図15
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図16
  • 特許-メタノール合成システム及びその方法 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】メタノール合成システム及びその方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/152 20060101AFI20240312BHJP
   C01B 3/06 20060101ALI20240312BHJP
   C01B 3/24 20060101ALI20240312BHJP
   C07C 29/151 20060101ALI20240312BHJP
   C07C 31/04 20060101ALI20240312BHJP
   C01F 17/235 20200101ALN20240312BHJP
   C01G 37/00 20060101ALN20240312BHJP
   C01G 49/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C07C29/152
C01B3/06
C01B3/24
C07C29/151
C07C31/04
C01F17/235
C01G37/00
C01G49/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021502249
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007378
(87)【国際公開番号】W WO2020175444
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019034368
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「低温改質によるC1化学の低エネルギー化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願 平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「新規反応技術及び誘発されるプロセスシステムオプションの生成とシミュレーション・評価」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】笘居 高明
(72)【発明者】
【氏名】横 哲
(72)【発明者】
【氏名】成 基明
(72)【発明者】
【氏名】福島 康裕
(72)【発明者】
【氏名】菊池 康紀
(72)【発明者】
【氏名】清水 輝之
(72)【発明者】
【氏名】野口 多紀郎
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-219068(JP,A)
【文献】特開2015-131892(JP,A)
【文献】国際公開第2002/100773(WO,A1)
【文献】阿尻 雅文,超臨界水熱合成法による連続大量ナノ粒子合成-ナノ粒子合成・コンポジット材料合成・界面制御触媒-,粉砕,2017年,No. 60,pp. 24-32
【文献】小河 脩平ほか,メタン 二酸化炭素・水素のための触媒,化学と教育,2018年,66巻2号,pp. 68-71
【文献】YOKO, A et al.,Process assessments for low-temperature methane reforming using oxygen carrier metal oxide nanoparti,Chemical Engineering and Processing - Process Intensification,2019年05月15日,Vol. 142,107531
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/152
C01B 3/06
C01B 3/24
C07C 29/151
C07C 31/04
C01F 17/235
C01G 37/00
C01G 49/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素及び合成ガスの製造システムと、
前記水素及び前記合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するメタノール合成システムとを備え、
前記水素及び合成ガスの製造システムは、
酸化された酸素キャリアと炭化水素系材料とを反応させ、水素と炭素酸化物とを生成する第1反応器と、
還元された酸素キャリアと水とを反応させ、前記酸化された酸素キャリアと水素とを生成する第2反応器とを有し、
前記酸素キャリアは、前記第1反応器と前記第2反応器とを循環流動する、メタノール合成装置。
【請求項2】
水素及び合成ガスの製造システムと、
前記水素及び前記合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するメタノール合成システムとを備え、
前記水素及び合成ガスの製造システムは、
酸素キャリアが充填された複数の反応器を備え、
前記複数の反応器は、炭化水素系材料又は水を導入可能に構成され、
前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが酸化された状態にある反応器には、前記炭化水素系材料が導入され、前記炭化水素系材料を酸化させることが可能であり、
前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが還元された状態にある反応器には、前記水が導入され、水素を合成することが可能であり、
前記複数の反応器のそれぞれに充填された前記酸素キャリアの状態によって、前記反応器の導入する材料を前記炭化水素系材料と前記水との間で切り替え可能である、メタノール合成装置。
【請求項3】
反応温度が600℃以下である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記酸素キャリアは、酸化セリウム(CeO)、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)、酸化鉄(Fe)、酸化インジウム(In)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ランタンガリウム(LaGaO)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd-CeO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化マンガン(MnO)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、四酸化三コバルト(Co)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V)、及びセリア・ジルコニア固溶体からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記反応器の内部に前記酸素キャリア及び金属助触媒が共存されている、及び/又は前記酸素キャリアに金属助触媒が担持されている、請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記酸素キャリアの一次粒子の平均粒子径が1μm以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記酸素キャリアの形状が最も活性な露出面を有する形状である、請求項1から6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
酸化された酸素キャリアと炭化水素系材料とを反応させ、水素と炭素酸化物とを生成する第1反応工程と、
還元された酸素キャリアと水とを反応させ、前記酸化された酸素キャリアと水素とを生成する第2反応工程と、
前記第1反応工程及び前記第2反応工程の反応生成物である水素の少なくとも一部と、前記第1反応工程の反応生成物である炭素酸化物の少なくとも一部とを原料としてメタノールを合成する第3反応工程と、
を含み、
前記酸素キャリアは、前記第1反応工程と前記第2反応工程との間で循環流動する、メタノール合成方法。
【請求項9】
酸素キャリアが充填された複数の反応器を備え、
前記複数の反応器は、炭化水素系材料又は水を導入可能に構成され、
前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが酸化された状態にある反応器では、前記炭化水素を導入し、前記炭化水素系材料を酸化させる第1反応工程を行い、
前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが還元された状態にある反応器には、前記水が導入され、前記水を還元させる第2反応工程を行い、
前記複数の反応器のそれぞれに充填された前記酸素キャリアの状態によって、前記反応器の導入する材料を前記炭化水素系材料と酸化剤との間で切り替える切替工程と、
前記第1反応工程及び前記第2反応工程の反応生成物である水素の少なくとも一部と、前記第1反応工程の反応生成物である炭素酸化物の少なくとも一部とを原料としてメタノールを合成する第3反応工程と、
をさらに含む、メタノール合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノール合成システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノール合成は、エチレン1.2億t、プロピレン0.8億tに匹敵する生産量がある。メタンを改質し、CO及びHを合成し、その合成ガスから、メタノール合成される(270℃~300℃)。メタン改質反応は、吸熱反応であり、高温場での反応が求められ、その熱供給のためにメタン燃焼および副生する水素の燃焼が行われる。そのため、大きなCO排出を伴なうプロセスとなっている。
【0003】
炭化水素系材料から水素を製造する方法として、改質反応技術が知られている。改質反応技術として、水蒸気改質、COを用いるドライリフォーミング、空気・酸素による部分酸化等がある。しかしながら、CO+2H→CHOHの反応式から分かるとおり、メタノール合成については、COと水素の生成比が1:2以上である必要があり、水蒸気改質が必要である。
【0004】
ところで、炭化水素材料から水蒸気で、水素、COを製造するための改質反応は吸熱性であり、そして反応は平衡条件下で進行するために高温を必要とする。したがって、従来の方法では、燃料の燃焼によってもたらされる極めて高いエネルギー入力が必要とされ、その結果、大量のCO排出量が生じる。
【0005】
プロセス温度を下げることで、炭化水素材料から水素への改質反応に必要なエネルギーを減らすことができる。そして、プロセス温度を下げることで、低温廃熱のエネルギーを、炭化水素材料から水素への改質反応のエネルギーに利用することも可能になり得る。メタノール合成まで含めたトータルのシステムにおけるCO排出を大幅な削減も期待される。
【0006】
これまで、500℃を超える高温の廃熱を回収し、廃熱エネルギーを他のプロセスに利用することが提案されている(非特許文献1参照)。しかしながら、500℃未満の低温廃熱は、ほとんど利用されることなく化学プロセスの系外に放出されており、低温廃熱の利用技術を提案することで、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる余地がある。
【0007】
日本国内での500℃未満の低温廃熱の総量は年間1,018ペタジュール(PJ)と試算されている。これは、日本国内で消費される総エネルギーの約10%に相当する(非特許文献1参照)。低温廃熱の損失は、日本国内のみならず世界中で共通の課題である。
【0008】
炭化水素材料から水素への改質反応を低温で実現するには、化学平衡の課題を克服する必要がある。本改質反応は、以下の反応式による。
+HO → CO(orCO)+H
【0009】
しかしながら、上記反応は、吸熱反応であり、かつ、同一反応場に全ての物質(C、HO、CO、CO、H)が存在する。反応平衡の制約から、700℃以上の高温状態でないと炭化水素材料から水素への反応が進行しづらい。メタノール合成まで含めたトータルのシステムからのCO排出は、低温化により削減できるが、改質反応の転化率が下がるために、リサイクル量が多くなり、そのポンプ仕事量が多くなり、結局、低すぎるとCO排出が進む。その最適値が、900℃前後となる。そのため、現在、改質反応は900℃近くで行われている。
【0010】
もしも、改質反応を低温化しても反応率を上げることができれば、メタノール合成まで含めたトータルのシステムの効率は向上し、CO削減も期待でき、副生するHの回収量も増大する。
【0011】
反応を促進するため、種々の触媒が提案されてはいるが、反応系に触媒を加えたとしても、反応平衡の制約を受けることに変わりはない。そのため、700℃未満の低温廃熱、とりわけ500℃未満の低温廃熱を熱エネルギーとして利用したとしても、水素を効率よく得ることができない。
【0012】
この課題を解決するため、膜反応器を利用することが考えられる。膜反応器を用いることで、反応器内の反応場を分離することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】The Energy Conservation Center, Japan. https://www.asiaeec-col.eccj.or.jp/ (accessed 26 December 26, 2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、膜反応器を利用したとしても、膜反応器は、炭化水素材料の大量処理には適しておらず、他のアプローチによる課題解決が望ましい。
【0015】
また、特許文献1に記載の技術では、改質触媒を使用したとしても、70分間の反応時間を要しており、炭化水素材料から水素への改質反応の効率をよりいっそう高めることが望ましい。
【0016】
ところで、ケミカルループという手法が古くから知られている。これにより、反応を2つに分けることが可能となり、生成物を高純度ガスとすることが可能となる。改質反応についての報告もある。また全体として弱発熱となる部分酸化についても可能である。
【0017】
しかしながら、低温でこれらの反応を行うためには、低温で駆動する酸素キャリアが必要である。それが達成できていなかったため、低温でのケミカルループによる、低温吸熱的改質反応は検討されてこなかった。
【0018】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、700℃未満の低温廃熱を利用して、炭化水素系材料を低温で水蒸気改質することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、炭化水素系材料から水素と炭素酸化物とを生成する反応と、水から水素を生成する反応とを個別に実行することで、上記の目的を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0020】
第1の特徴に係る発明は、水素及び合成ガスの製造システムと、前記水素及び前記合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するメタノール合成システムとを備え、前記水素及び合成ガスの製造システムは、酸化された酸素キャリアと炭化水素系材料とを反応させ、水素と炭素酸化物とを生成する第1反応器と、還元された酸素キャリアと水とを反応させ、前記酸化された酸素キャリアと水素とを生成する第2反応器とを有し、前記酸素キャリアは、前記第1反応器と前記第2反応器とを循環流動する、水素併産メタノール合成装置を提供する。
【0021】
第1の特徴に係る発明によると、第1反応器において、炭化水素系材料の酸化反応と、酸素キャリアの還元反応とが起きる。このとき、酸素キャリアの格子酸素が炭化水素系材料の酸化反応に使用され、その酸化反応によって水素と炭素酸化物とが生成される。第1反応器では、水を原料としていないため、単一の反応器で炭化水素材料と水とを反応させたときに生じ得る全ての物質(C、HO、CO、CO、H)が同一反応場に存在することはない。したがって、同一反応場に全ての物質(C、HO、CO、CO、H)が存在することに起因する反応平衡の制約を回避できる。
【0022】
第2反応器では、水に含まれる酸素成分が酸素キャリアを酸化し、それによって水素が生成する。
【0023】
ところで、第2反応器での反応は、酸素キャリア材の種類にもよるが(酸化剤との酸化還元ポテンシャルの大きさで決まる)、例えばCeOを用いる場合には、発熱反応であり、第2反応器での反応生成物の1つである酸化された酸素キャリアは、発熱反応によって生じた熱を熱容量回収することが可能である。そして、酸素キャリアが第2反応器から第1反応器に向けて循環流動し、第1反応器にて廃熱を吸収した酸素キャリアと炭化水素系材料とを接触させることで、炭化水素系材料との吸熱反応に必要な熱が供給される。また、他のプロセスからの外部からの廃熱も利用できる。すなわち、第1の特徴に係る発明では、酸素キャリアを酸素の輸送源として機能させるだけでなく、熱の輸送源として機能させることも可能であり、これにより、外部から第1反応器に供給する熱量を抑えることが可能である。
【0024】
逆に、第一反応器で発熱、第二反応器で吸熱となるような材料・酸化剤の組み合わせの場合にも、同様であり、発熱を酸素キャリア材の熱容量として蓄え、その熱を吸熱反応に提供することが可能となる。
【0025】
加えて、膜反応器ではなく、ケミカルループ式のシステムを採用しているため、膜内の物質移動速度に律されることなく、粒子循環量で酸素移動を制御できるため、大量の炭化水素材料を処理することが可能である。
【0026】
よって、第1の特徴に係る発明によると、700℃未満の低温廃熱を利用して、炭化水素材料から水素への改質を短時間で大量に処理することが可能である。
【0027】
第2の特徴に係る発明は、水素及び合成ガスの製造システムと、前記水素及び前記合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するメタノール合成システムとを備え、前記水素及び合成ガスの製造システムは、酸素キャリアが充填された複数の反応器を備え、前記複数の反応器は、炭化水素系材料又は水を導入可能に構成され、前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが酸化された状態にある反応器には、前記炭化水素系材料が導入され、前記炭化水素系材料を酸化させることが可能であり、前記複数の反応器のうち、前記酸素キャリアが還元された状態にある反応器には、前記水が導入され、水素を合成することが可能であり、前記複数の反応器のそれぞれに充填された前記酸素キャリアの状態によって、前記反応器の導入する材料を前記炭化水素系材料と前記水との間で切り替え可能である、メタノール合成装置を提供する。
【0028】
第2の特徴に係る発明によっても、第1の特徴に係る発明と同様に、700℃未満の低温廃熱を利用して、炭化水素材料の改質反応を短時間で大量に処理することが可能である。
【0029】
第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明における反応温度が600℃以下である装置を提供する。
【0030】
第3の特徴に係る発明によると、600℃以下の低温廃熱を炭化水素材料から水素への改質反応に利用することができ、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる。
【0031】
第4の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれかの特徴に係る発明における酸素キャリアが、酸化セリウム(CeO)、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)、酸化鉄(Fe)、酸化インジウム(In)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ランタンガリウム(LaGaO)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd-CeO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化マンガン(MnO)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、四酸化三コバルト(Co)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V)、及びセリア・ジルコニア固溶体からなる群から選択される1種以上を含む、装置を提供する。
【0032】
炭化水素材料から水素への改質反応において、低温状態では反応速度が小さいことが知られている。反応速度が小さいと、より大きな反応器が必要になるため、低温状態であっても反応速度をできるだけ大きくすることが好ましい。
【0033】
第4の特徴に係る発明によると、酸素キャリアが特定の材料であり、600℃以下の低温領域であっても酸素キャリアの酸素移動、すなわち、第1反応器における酸素キャリアの還元反応と、第2反応器における酸素キャリアの酸化反応とを実現することができる。これにより、第3の特徴に係る発明によると、メタノール合成あるいはアンモニア合成をはじめとした公知の発熱反応によって生成された低温廃熱を炭化水素材料から水素への改質反応に利用でき得るため、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる。
【0034】
第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれかの特徴に係る発明において、前記反応器の内部に前記酸素キャリア及び金属助触媒が共存されている、及び/又は前記酸素キャリアに金属助触媒が担持されている装置を提供する。
【0035】
第5の特徴に係る発明によると、金属助触媒の作用によって炭化水素系材料の改質反応をより効率的に進めることができる。
【0036】
第6の特徴に係る発明は、第1から第3のいずれかの特徴に係る発明における酸素キャリアの平均一次粒子径が1μm以下である装置を提供する。
【0037】
第6の特徴に係る発明によれば、第1反応器での反応物質である炭化水素系材料及び第2反応器での反応物質である水との暴露表面積(接触可能性)が大きくなるため、酸素キャリアの酸素移動の効率が上がり、低温でも炭化水素材料から水素への改質反応を進められるため、結果として、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる。
【0038】
第7の特徴に係る発明は、第1から第6のいずれかの特徴に係る発明における酸素キャリアの形状が最も活性な露出面を有する形状であるシステムを提供する。
【0039】
例えば、CeOの場合、酸素キャリアの形状が略八面体及び/又は略立方体であると、酸素キャリアは、(111)面及び/又は(100)面を主な露出面として有する。酸素キャリアの(100)面は不安定であり、より大きな酸素移動性(酸素貯蔵放出能)を有する。したがって、第9の特徴に係る発明によると、低温でも炭化水素材料から水素への改質反応を進められるため、結果として、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる。
【0040】
また、例えば、酸素キャリアがFeの場合、最も不安定な、そして最も活性な面は(110)面であり、その面を露出させることで同様の効果が得られる。
【0041】
第8の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明とのカテゴリー違いに相当する。また、第9の特徴に係る発明は、第2の特徴に係る発明とのカテゴリー違いに相当する。第8及び第9の特徴に係る発明によると、700℃未満の低温廃熱を利用して、炭化水素材料から水素への改質を短時間で大量に処理することが可能である。
【発明の効果】
【0042】
本発明によると、700℃未満の低温廃熱を利用して、炭化水素材料から水素への改質を短時間で大量に処理することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1図1は、本実施形態に係るメタノール合成装置のうち、水素及び合成ガスの製造システム1の構成例である。
図2図2は、酸素キャリアの酸素吸蔵放出能(OSC)と酸素放出速度定数との関係を示す図である。
図3A図3Aは、システム1を用いてメタン改質反応を900℃で行ったときのiso-CO排出量マップである。
図3B図3Bは、システム1を用いてメタン改質反応を600℃で行ったときのiso-CO排出量マップである。
図3C図3Cは、システム1を用いてメタン改質反応を400℃で行ったときのiso-CO排出量マップである。
図3D図3Dは、システム1を用いてメタン改質反応を300℃で行ったときのiso-CO排出量マップである。
図4図4Aは、従来技術に係るシステムを用いてメタン改質反応を行ったときの反応温度と転化率及びCO排出量との関係を示す。図4Bは、本実施形態に係る水素製造システム1を用いてメタン改質反応を行ったときの反応温度と転化率及びCO排出量との関係を示す。
図5図5は、直径10m及び高さ30mの規模の反応器にて1500t-CH/日のメタン改質を実現可能にするための酸素キャリア粒子M(O)のOSCと酸素放出速度定数との関係をシミュレートした結果である。
図6図6は、水素製造システム1における各反応器での各化合物及びエネルギーの流れである。
図7図7は、メタンからメタノールへの改質反応における当量比を示す。
図8図8は、従来のメタン改質プロセスの一例である。
図9図9は、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)を合成する際に用いた合成装置30の概略模式図である。
図10図10は、試験例2-1における低温域での酸素貯蔵放出能(OSC)の評価の結果を示す図である。
図11図11は、試験例2-2におけるセリウム元素の原子カラムと粒子内の酸素空孔形成性との関係を示す図である。
図12図12は、試験例2-2におけるセリウム元素のTEM像を示す。
図13図13は、試験例2-2におけるセリウム元素の空隙が拡張する割合を示す図である。
図14図14は、試験例2-2でのセリウムナノ粒子における格子の拡張が認められる割合と、セリウム原子間に酸素空孔を形成するのに必要なエネルギーとの関係を示す図である。
図15図15は、試験例2-3において、酸素キャリアがCeOナノキューブであるときのバッチ反応器でのメタン-酸素キャリア反応実験を行ったときの結果を示す図である。
図16図16は、試験例2-3において、酸素キャリアが酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)であるときのバッチ反応器でのメタン-酸素キャリア反応実験を行ったときの結果を示す図である。
図17図17は、図1に示したケミカルループ式製造システム1の工業的に適した装置規模をシミュレートした結果である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0045】
<<<メタノール合成装置>>>
本実施形態におけるメタノール合成装置は、水素及び合成ガスの製造システムと、該製造システムから得られる水素及び合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するメタノール合成システムとを備える。
【0046】
<<水素及び合成ガスの製造システム>>
本実施形態における水素及び合成ガスの製造システム(以下、単に「システム」ともいう。)は、第1反応器と、第2反応器とを備える。システムは、酸素キャリアが第1反応器と第2反応器とを循環流動するケミカルループ式のシステムであってもよいし、ガスを交互に切り替えてスイッチングさせるサイクリックオペレーションシステムであってもよい。
【0047】
システムの形態は特に限定されず、2塔循環型流動層であってもよいし、固定相反応器をスイッチングオペレーションする形態であってもよい。中でも、炭化水素材料から水素への改質をより大量に処理可能であることから、システムの形態は、2塔循環型流動層であることが好ましい。
【0048】
以下、一例として、システムがケミカルループ式の2塔循環型流動層接触反応装置である場合について図面を参照しながら説明するが、これに限るものではない。図1は、システム1が2塔循環型流動層接触反応装置である場合におけるシステム1の構成例を示す。システム1は、第1反応器10と、第2反応器20とを備える。
【0049】
<第1反応器10>
第1反応器10は、第1入口11と第1出口12とを有する。第1入口11からは、炭化水素系材料が供給される。そして、炭化水素系材料が第1入口11から第1出口12に向けて移動するにつれて、炭化水素系材料と、第1反応器10の内部にある酸化された酸素キャリアM(O)とが反応し、還元された酸素キャリアM( )と水素と炭素酸化物とを生成する。そして、水素と炭素酸化物は、第1出口12から排出される。一方、還元された酸素キャリアM( )は、第2反応器20の第2入口21に向けて循環流動する。
【0050】
簡単のため、炭化水素系材料がメタンである場合で説明すると、第1反応器10では、以下の反応が進行する。
mM(O)+CH→mM( )+2H+CO
【0051】
上記式において、M(O)は酸化された酸素キャリアを示し、M( )は還元された酸素キャリアを示す。
【0052】
本実施形態に記載の発明によると、第1反応器10において、炭化水素系材料の酸化反応と、酸素キャリアの還元反応とが起きる。このとき、酸素キャリアの格子酸素が炭化水素系材料の酸化反応に使用され、その酸化反応によって水素と炭素酸化物とが生成される。第1反応器10では、水を原料としていないため、単一の反応器で炭化水素材料と水とを反応させたときに生じ得る全ての物質(C、HO、CO、CO、H)が同一反応場に存在することはない。したがって、同一反応場に全ての物質(C、HO、CO、CO、H)が存在することに起因する反応平衡の制約を回避できる。
【0053】
〔酸素キャリア〕
本実施形態では、酸素キャリアの酸化還元サイクルを利用する。700℃未満で酸化還元サイクルを実現可能にするため、酸素キャリアは、固体電解質であることが好ましい。
【0054】
固体電解質は、ナノ粒子サイズに微細化した材料であることが好ましく、長周期型周期表で第IIIB族のホウ素(B)- 第IVB族のケイ素(Si)-第VB族のヒ素(As)-第VIB族のテルル(Te)の線を境界としてその線上にある元素並びにその境界より、長周期型周期表において左側ないし下側にあるものを例示できる。具体的には、第VIII族の元素ではFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等、第IB族の元素ではCu、Ag、Au等、第IIB族の元素ではZn、Cd、Hg等、第IIIB族の元素ではB、Al、Ga、In、Tl等、第IVB族の元素ではSi、Ge、Sn、Pb等、第VB族の元素ではAs、Sb、Bi等、第VIB族の元素ではTe、Po等、そして第IA~VIIA族の元素等を例示できる。
【0055】
酸素キャリアの具体例として、酸化セリウム(CeO)、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)、酸化鉄(Fe)、酸化インジウム(In)、イットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)、酸化スカンジウムドープ酸化ジルコニウム(ScSZ)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ランタンガリウム(LaGaO)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)、ガドリニウムドープ酸化セリウム(Gd-CeO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化マンガン(MnO)、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)、四酸化三コバルト(Co)、酸化コバルトII(CoO)、酸化バナジウム(V)、及びセリア・ジルコニア固溶体からなる群から選択される1種以上を含むことが挙げられる。これらの酸素キャリアを使用すると、メタノール合成あるいはアンモニア合成をはじめとした公知の発熱反応によって生成された低温廃熱を外部から第1反応器10への熱供給源として利用でき得るため、省エネルギー及びCO排出量削減に繋がる。
【0056】
中でも、酸素キャリアは、酸化セリウム(CeO)、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)及びランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0057】
これらの酸素キャリアは、一種単独であってもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0058】
ここで、第1反応器10の内部において、酸素キャリア及び金属助触媒が共存されているか、あるいは酸素キャリアに金属助触媒が担持されていることが好ましい。第1反応器10での反応では、炭化水素系材料からの改質反応として、反応生成物であるHの生成のほか、Hがさらに酸化されてHOが生成する反応も生じる。金属助触媒の存在により、Hを金属に逃がすことができ、HからHOへの酸化を抑制させ、H回収量を増大させることができる。
【0059】
金属助触媒の種類は特に限定されず、遷移金属、貴金属及びこれらの合金を例示できる。具体的には、Ni、Co、Rh、Pt、FeCo、FeNi、NiCo等を例示できる。
【0060】
[酸素吸蔵放出能(OSC)]
本実施形態において、酸素キャリアの酸素吸蔵放出能(OSC)とは、単位質量の酸素キャリアに含まれるの酸素のモル数をいう。酸素キャリアのOSCの値は、特に限定されるものではないが、第1反応器10及び第2反応器20を大型化することなく、第1反応器10及び第2反応器20での反応時間の短縮化を実現するため、酸素吸蔵放出能(OSC)は、できるだけ大きい方が好ましい。
【0061】
例えば、100万ton/yearのメタノール合成を想定した場合、メタンには、その生産量に相当する酸素原子が付与されなければならない。その量が、2塔間の酸素移動量となる。
【0062】
第1反応器10の大きさが直径10m及び高さ30m程度の通常の大きさの反応器にて、700℃未満の低温廃熱を利用して1500t-CH/日のメタン改質反応を実現でき得ることから、第1反応器10での反応温度におけるOSCは、0.2mol/kg(200μmol/g)以上であることが好ましく、0.3mol/kg(300μmol/g)以上であることがより好ましく、0.4mol/kg(400μmol/g)以上であることがさらに好ましく、0.5mol/kg(500μmol/g)以上であることが特に好ましい。
【0063】
例えば、CeO-100((100)面を主な露出面とする略立方体のCeO)の350℃におけるOSCは、0.545mol/kg(545μmol/g)であり、CeO-111((111)面を主な露出面とする略八方体のCeO)の350℃におけるOSCは、0.210mol/kg(210μmol/g)である。また、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)の350℃におけるOSCは、1.15mol/kg(1,150μmol/g)である。また、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF)の350℃におけるOSCは、0.783mol/kg(783μmol/g)である。
【0064】
酸素キャリアのOSCは、以下の方法1又は方法2にて測定される。
(方法1)
ガス吸着装置を用い、試料を測定セルにセットし、次いで所定の2次圧(常圧、あるいは1気圧以上3気圧以下程度)でHeガスを導入しながら試料を反応温度、すなわち300℃~700℃の温度まで昇温する。次に、HeガスにOガス5%を混合したO5%ガス/He95%混合ガス(キャリアガス)を導入し、このキャリアガス中にCO4%ガス/He96%混合ガスをパルスで導入し、MS(Mass Spectrometry:質量分析法)で分析する。試料がOを吸収すると、キャリアガス中のO量は減少する。減少が無くなるまでパルス導入を繰り返し行い、Oガスの減少量の総和から試料1gあたりの酸素モル数を求めてOSCとする。
【0065】
(方法2)
(1)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(2)500℃にて測定系内にOガスを流し、試料に十分量吸着させる。
(3)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(4)500℃にて測定系内にHガスを流し、試料を還元し吸着Oを取り除く。
(5)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(6)反応温度すなわち検出温度、例えば350℃にて測定系内にHeガスを流す(ここまでが前処理である。)
(7)検出温度(350℃)にて、Heガスをキャリアガスとして、Oガスをパルスで測定系内に流す。
(8)流したパルスのOガスが検出器によって検出されなくなるまで、Oガスをパルスで測定系内に流す。
(9)Oガスの全流出量から全検出量を引いた値が、Oガスの全吸着量(cm)として見積もられる。
(10)上記(9)で求めたOガスの全吸着量(cm)と試料の仕込み量(g)からOガスの単位吸着量(cm/g)を算出し、試料1gあたりの酸素モル数を求めてOSCとする。
【0066】
[酸素放出速度定数]
本実施形態において、酸素放出速度定数は、酸素キャリアが第1反応器10の内部に滞在する時間に対応する。
【0067】
先の例と同様、メタノール合成100万トン/yearを考えれば、その処理に必要な改質プロセスが必要となる。その際、リアクターは小さい方が、設備コストが低減できる。
【0068】
酸素放出速度定数の下限は特に限定されないが、第1反応器10での反応時間の短縮化を実現するため、酸素放出速度定数は、0.02min-1以上(反応時間:50分以下)であることが好ましく、0.03min-1以上(反応時間:33分以下)であることがより好ましく、0.04min-1以上(反応時間:25分以下)であることがさらに好ましく、0.05min-1以上(反応時間:20分以下)であることがよりさらに好ましく、0.1min-1以上(反応時間:10分以下)であることが特に好ましい。
【0069】
酸素放出速度定数の上限も特に限定されないが、第1反応器10での反応を確実に進めるため、酸素放出速度定数は、0.25min-1以下(反応時間:4分以上)であることが好ましく、0.2min-1以下(反応時間:5分以上)であることがより好ましい。
【0070】
[OSCと酸素放出速度定数との積]
OSCと酸素放出速度定数との積は、第1反応器での反応効率を示す有効な指標であり、単位は、mol・kg-1・min-1である。
【0071】
この積の値は、特に限定されるものではないが、先のメタノール大量合成を一例として考えた場合には、0.041mol・kg-1・min-1以上であると、OSCが0.41mol/kgである酸素キャリアを利用すれば、酸素放出速度定数:0.1min-1(反応時間:10分)の条件にて操作することで、第1反応器10の大きさが直径10m及び高さ30m程度の通常の大きさの反応器にて、700℃未満の低温廃熱を利用して1500t-CH/日のメタン改質反応を実現でき得る。
【0072】
図2は、OSCと酸素放出速度定数との関係を示す図であり、横軸(x軸)が酸素放出速度定数であり、縦軸(y軸)がOSCである。OSCと酸素放出速度定数に関し、曲線y≧0.041/xと、直線x≦0.25に囲まれる領域(図2の白い領域)に入るよう条件を設定することで、第1反応器の装置を大型化することなく、700℃未満の低温廃熱を利用してより短時間で大量のメタン改質反応を実現でき得る。
【0073】
[平均一次粒子径]
酸素キャリアの平均一次粒子径の上限は、特に限定されないが、反応物質との暴露表面積(接触可能性)の最大化、また格子歪による酸素空孔易形成性の観点から、1μm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましく、30nm以下であることがよりさらに好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。
【0074】
酸素キャリアの平均一次粒子径の下限も特に限定されない。一般には、ナノ粒子は、圧粉成型によって二次粒子化され、二次粒子を、サイクリックオペレーション用の充填層リアクターで用いられるか、あるいは循環流動層粒子として用いられる。
【0075】
本実施形態において、酸素キャリアの平均一次粒子径は、TEM(透過型電子顕微鏡)により酸素キャリア粒子の画像を撮像し、そのTEM像を画像解析・画像計測ソフトウェアにより解析して求めた値であるものとする。
【0076】
[形状]
酸素キャリアの形状は、低温でのより大きな酸素移動性(OSC)を有することから、最も活性な面を露出させることが必要であり、それによって粒子形状が決まる。最活性面は酸素キャリア材の種類によって異なるが、熱力学的に最も不安定な面であり、その情報は材料データベース等から容易に入手できる。例えばCeOの場合の酸素キャリアの形状は、略立方体であり、(100)面を主な露出面とすることが好ましい。Feの場合、(110)面を主な露出面とするのが好ましい。
【0077】
一例として、酸素キャリアがCeOのナノ粒子である場合について説明する。CeOのナノ粒子触媒は、八面体又は立方体の形態をとりうる。また、このとき、CeOのナノ粒子触媒は、(111)面、110面 及び/又は(100)面を主な露出面として有する。
【0078】
ここで、酸素キャリアとしては、粒子表面の30%以上に活性面が露出している金属酸化物ナノ粒子が好ましい。なお、活性面とは、エネルギー的に最も不安定な面であり、CeOでは(100)面である。それにより、低温での酸素移動が可能となる。
【0079】
CeOナノ粒子の表面における(100)面が露出している割合は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。なお、CeOナノ粒子の表面における(100)面が露出している割合は、TEMにより測定される。
【0080】
活性を高めるため、CeOナノ粒子には、遷移元素がドープされていることが好ましい。CeOナノ粒子にドープされる遷移元素としては、Cr、Gd、Zr等を例示できる。中でも、Cr、Gdが好ましい。
【0081】
CeOナノ粒子における遷移元素のドープ量は、CeOの総質量に対して、0.1mol%以上が好ましく、4mol%以上がより好ましく、10mol%以上がさらに好ましく、15mol%以上がよりさらに好ましく、20mol%以上がいっそう好ましく、25mol%以上が特に好ましい。遷移元素のドープ量は、多ければ多いほどよいが、ドープであるには50mol%までである。
【0082】
CeOのナノ構造について、6つの(100)面が低インデックスの結晶面の中でも最も大きな表面エネルギーを有することが明らかにされている。この高い表面エネルギーは、セリウムイオン間の架橋位置になる頂部層の酸素の不安定性に起因するものである。この酸素の不安定性によって、有機物の高い転化率が達成されると考えられる。立方体CeOの頂部層の酸素が、温度及び圧力に依存して放出される。この酸素種は、反応物に移動し、これを生成物に分解することが可能である。第1反応器10での反応により、4+価状態のCeは3+価状態のCeへと転化され、不安定になる。Ce3+によってセリア酸素の空位が発生することから、後述する第2反応器での反応では、還元されたセリア表面にて形成された空位が水分子との反応を引き起こし、酸素と結合して4+価状態のCeになる。場合によって、この放出された水素分子は、分解化合物へと移送されて、水素化反応を起こす。
【0083】
(酸素キャリアの製造方法)
酸素キャリアの製造方法は、特に限定されるものでないが、酸素キャリアが金属酸化物ナノ粒子である場合、例えば、特許第3047110号(当該特許の発明者の一人は本発明者である)に開示されている方法によって製造することができる。
【0084】
当該文献には、金属塩(IB属金属、IIA属金属、IIB属金属、IIIA属金属、IIIB属金属、IVA属金属、IVB属金属、VA属金属、VB属金属、VIB属金属、VIIB属金属、遷移金属等の金属塩)の水溶液を、水の亜臨界乃至超臨界条件である温度200℃以上、圧力160kg/cmの以上の反応帯域としての流通型反応器に連続的に供給するとともに、この金属塩の水溶液に還元性ガス(例えば水素)或いは酸化性ガス(例えば酸素)を導入することによって、金属酸化物微粒子が製造されることが開示されている。
【0085】
微粒子の製造法の別法の例として、例えば、特許第3663408号(当該特許の発明者の一人は本願の発明者である)に開示されている方法が挙げられる。
【0086】
当該文献には、水を加圧手段と加熱手段とを経由させて超臨界状態または亜臨界状態の高温高圧水にし、流体原料を、この高温高圧水と合流させる前に、水の臨界温度よりも低温に冷却し、次いで、高温高圧水と流体原料とを混合部で合流させ混合したのち反応器へ案内する、高温高圧水を用いる微粒子製造方法が開示されている。
【0087】
また、金属酸化物ナノ粒子は、例えば、特許第3925936号(当該特許の発明者の一人は本願の発明者である)に開示されている方法によって製造後に回収・収集することができる。
【0088】
当該文献に記載の方法によれば、
(i)高温高圧水を反応場として、金属化合物を水熱反応に付してCeO等の金属酸化物ナノ粒子を形成し、
(ii)高温高圧水を反応場として、金属酸化物ナノ粒子表面と有機修飾剤とを反応せしめ、置換されていてもよいし非置換のものであってよい炭化水素基を共有結合、あるいはエーテル結合、エステル結合、N原子を介した結合、S原子を介した結合、金属-C-の結合、金属-C=の結合及び金属-(C=O)-の結合からなる群から選ばれたものを介してナノ粒子の表面に結合せしめてナノ粒子の表面を有機修飾し、
(iii)(1)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を沈殿させて回収すること、(2)水溶液に分散させた金属酸化物ナノ粒子を有機溶媒中へ移行せしめて回収すること、又は(3)有機溶媒相-水相界面に金属酸化物ナノ粒子を集めることによって、金属酸化物ナノ粒子が得られる。
【0089】
以下、代表的な酸素キャリアであるCeOのナノ粒子の合成について、説明する。
【0090】
八面体CeOのナノ粒子は、公知の方法で合成されうる。
【0091】
立方体CeOのナノ粒子は、(1)トルエン中にて原料溶液を調製すること、(2)有機改質剤を使用し、超臨界水条件下で立方体CeOナノ粒子を合成すること、及び(3)立方体CeO2の形態を変化させずに有機改質剤を除去することを含む方法によって合成される。
【0092】
具体的には、立方体CeOのナノ粒子の調製は、以下のように行うことができる。これは非限定的な例である。
【0093】
トルエン中に、有機改質剤としてヘキサン酸及びCe(OH)を溶解させることにより、立方体酸化セリウムのナノ粒子前駆体溶液を調製する。その後、前駆体溶液を、清澄な溶液を得るために連続的に攪拌しつつ混合する。前駆体溶液を、脱イオン水と混合し、炉の使用により600~700Kに急速に加熱する。次いで、その混合物を冷却する。立方体酸化セリウムのナノ粒子が、水、トルエンおよび未反応の原料の混合物中の分散物として得られる。トルエン相中のナノ粒子に、エタノールを加え、遠心分離と傾瀉により精製し、それによって未反応の有機分子を除去する。この粒子をシクロヘキサンの中で分散させた後、真空下で冷凍乾燥する。粒子の表面からいかなる有機配位子も取り除くために、収集したナノ粒子を、空気中で数時間にわたり、300℃程度の高温でか焼する。か焼されたナノ粒子を、遠心分離と傾瀉によって清浄化し、次いで減圧乾燥し、それによって立方体CeOのナノ粒子を得ることができる。
【0094】
[炭化水素系材料]
炭化水素系材料とは、分子中に炭素と水素とを含む化合物若しくはそれらの混合物をいい、分子中に酸素等、他の元素を含んでいてもよい。炭化水素系材料の例として、炭化水素類、アルコール類、エーテル類、バイオ燃料等が挙げられる。
【0095】
炭化水素類は、脂環式炭化水素、環式、非環式の脂肪族炭化水素を単一成分又は混合成分として含む材料である。脂環式炭化水素には、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン等の単環性脂環式化合物、デカリン、メチルデカリン、テトラリン(テトラヒドロナフタレン)、メチルテトラリン等の二環性脂環式化合物、テトラデカヒドロアントラセン等の三環性脂環式化合物、等が含まれる。非環式脂肪族炭化水素には、CHからなるアルカン類(メタン、エタン、プロパン、ブタン等)が含まれる。また、炭化水素類として、天然ガス、LPG(液化石油ガス)、都市ガス、ガソリン、ナフサ、灯油、軽油等も挙げられる。
【0096】
アルコール類として、メタノール、エタノール、2-プロパノ-ル等が挙げられる。エーテル類として、ジメチルエーテル等が挙げられる。バイオ燃料として、バイオガス、バイオエタノール、バイオディーゼル、バイオジェット等が挙げられる。
【0097】
[第1反応器10での反応温度]
反応温度の上限は、特に限定されないが、低温廃熱を利用するため、上限は、600℃以下であることが好ましく、550℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることがさらに好ましく、450℃以下であることがよりさらに好ましく、400℃以下であることが特に好ましい。
【0098】
反応温度の下限は、酸素キャリアが十分な酸素移動性(酸素貯蔵放出能)を有していればよく、低温廃熱を有効に活用する観点からすると、反応温度は、低ければ低いほど好ましい。反応温度の下限の一例として、室温以上、100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上等が挙げられる。
【0099】
[第1反応器10での反応時間]
反応時間の上限は、特に限定されないが、よりいっそうの短縮化を実現するため、反応時間は、50分以下であることが好ましく、33分以下であることがより好ましく、25分以下であることがさらに好ましく、20分以下であることがよりさらに好ましく、10分以下であることが特に好ましい。
【0100】
反応時間の下限は、特に限定されないが、第1反応器10での反応を確実に進めるため、反応時間は、4分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましい。
【0101】
[第1反応器10の材質]
第1反応器10の材質は、特に限定されるものでなく、クロム-モリブデン鋼、ステンレス鋼のような温度耐性の高い材料に限らず、普通鋼であってもよい。
【0102】
従来、炭化水素材料から水素への反応は、700℃以上の高温状態であることを要し、反応器の材質も、クロム-モリブデン鋼、ステンレス鋼のような温度耐性の高い材料であることを要する。しかしながら、本実施形態に記載の発明では、低温廃熱を利用可能であり、比較的温度耐性の小さな普通鋼も利用可能である。
【0103】
一般に、温度耐性の高い材料は、材料を製造する際に環境に与える負荷が大きい。例えば、クロムモリブデン鋼及びステンレス鋼の製造のライフサイクル(LC-GHG)における温室効果ガス排出量は、それぞれ、2.42及び4.35kg-CO当量/kg-鋼である(非特許文献2参照)。それに対し、普通鋼の製造のライフサイクル(LC-GHG)における温室効果ガス排出量は、2.11kg-CO当量/kg-鋼にとどまる(非特許文献2参照)。
〔非特許文献2〕Inventory Database for Environmental Analysis (IDEA), TCO2 Co. Ltd., 2017. http://idea-lca.com/?lang=en (accessed 26 December 2018)
【0104】
第1反応の低温化を実現することで、低温廃熱の利用に加え、第1反応器10の材質見直しによる環境負荷低減も実現でき得る。
【0105】
〔第2反応器20〕
第2反応器20は、第2入口21と第2出口22とを有する。第2入口21からは水が供給される。そして、水が第2入口21から第2出口22に向けて移動するにつれて、水と、第2反応器20の内部にある還元された酸素キャリアM( )とが反応し、酸化された酸素キャリアM(O)と水素とを生成する。そして、水素は、第2出口22から排出される。一方、酸化された酸素キャリアM(O)は、第1反応器10の第1入口11に向けて循環流動する。
【0106】
簡単のため、炭化水素系材料がメタンである場合で説明すると、第2反応器20では、以下の反応が進行する。
M( )+H2O→M(O)+H
【0107】
上記式において、M( )は還元された酸素キャリアを示し、M(O)は酸化された酸素キャリアを示す。第2反応器20では、還元された酸素キャリアにて形成された空位が水分子との反応を引き起こし、酸素と結合して酸化状態の酸素キャリアになる。そして、放出された水素分子は、分解化合物へと移送されて、水素化反応を起こす。
【0108】
したがって、第2反応器20の出口から水素が排出されるため、システム全体として、高純度の水素と、CO(CO)及びHの混合ガスとを回収できる。
【0109】
なお、第2反応器20の内部においてもまた、酸素キャリア及び金属助触媒が共存されているか、あるいは酸素キャリアに金属助触媒が担持されていることが好ましい。金属助触媒の存在により、Hを金属に逃がすことができ、HからHOへの酸化を抑制させ、H回収量を増大させることができる。
【0110】
[第2反応器20での反応温度]
第2反応器20では、水に含まれる酸素成分が酸素キャリアを酸化し、それによって水素が生成する。第2反応器20での反応は発熱反応であり、低温でも好適に反応が進行する。したがって、第2反応器20において、反応温度は特に限定されない。
【0111】
ところで、第2反応器20での反応は発熱反応であり、第2反応器20での反応生成物の1つである酸化された酸素キャリアM(O)は、発熱反応によって生じた廃熱を回収可能である。そして、酸素キャリアM(O)が第2反応器20から第1反応器10に向けて循環流動し、第1反応器10にて廃熱を吸収した酸素キャリアM(O)と炭化水素系材料とを接触させることで、炭化水素系材料の吸熱反応に必要な熱が供給される。すなわち、本実施形態に記載のシステム1は、酸素キャリアを酸素の輸送源として機能させるだけでなく、熱の輸送源として機能させることも可能であり、これにより、外部から第1反応器10に供給する熱量を抑えることが可能である。
【0112】
<<メタノール合成システム>>
本実施形態に係るメタノール合成装置の一構成要素であるメタノール合成システム(図示せず)は、水素及び合成ガスの製造システム1から得られた水素及び合成ガスの少なくとも一部を原料としてメタノールを合成するシステムである。このシステムの構成は特に限定されない。
【0113】
例えば、一酸化炭素(CO)に、酸化銅-酸化亜鉛/アルミナ複合酸化物を触媒として、50~100気圧、240~260℃で水素と反応させるシステムが知られている。
【実施例
【0114】
以下、本実施形態での試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
<<試験例1>> メタノール合成プロセスの評価
<酸素キャリア>
〔酸化された酸素キャリア〕
酸化された酸素キャリアとして、超臨界法により合成されたヘキサン酸修飾CeOナノキューブ(株式会社アイテック製,CASNo.1306-38-3,平均一次粒子径:10nm±3nm)を使用した。このナノキューブは、酸素移動性(酸素貯蔵放出能)を高めるため、有機修飾剤(本実施例ではヘキサン酸)を用いて(100)面が主な露出面になるように制御されている。そこで、ナノキューブを300℃で2時間燃焼し、ナノキューブから有機修飾剤を除去した。以下では、有機修飾剤除去後の(100)面が露出したCeOをCeOナノキューブという。なお、CeOナノキューブの色は黄色であった。
【0116】
〔還元された酸素キャリア〕
水素ガスを用い、600℃にてCeOナノキューブの還元反応を行い、Ceナノキューブを得た。Ceナノキューブの色は灰色であった。色の変化は、セリウムの価数が4+から3+に変化することに起因する。
【0117】
<第1反応:メタンから水素の生成反応>
CeOナノキューブとメタンとを反応させ、Ceナノキューブと水素と二酸化炭素とを生成する第1反応を行った。
【0118】
第1反応では、SUS304製のバルブ付きバッチ式反応器を使用した。反応器の内容積は5mLであった。反応前に、0.1gのCeOナノキューブをグローブボックス内のAr雰囲気下でバッチ反応器に入れた。その後、メタン(純度:99.99995%,株式会社田沼酸素商会製)を0.6MPaの圧力で反応器に導入した。反応器を表1に記載の温度に加熱した電気炉に入れた。10~60分の反応後、反応器を水浴中で冷却し、次いでガスバッグを用いてガス生成物を反応器に装備された弁を通じて回収した。
【0119】
そして、ガスバッグ中に回収されたガス生成物を、熱伝導率検出器を備えたガスクロマトグラフ(装置名:GC-TCD,GC-2014,充填剤:SHINCARBON ST 50/80)を用いて分析した。
【0120】
<第2反応:水から水素の生成反応>
第1反応で用いた反応器と同じバッチ反応器にCeナノキューブを装填した。さらに63μLの純水(大和薬品株式会社製)を装填し、ガス生成物を容易に回収するため、0.3MPaの圧力でNガスをバッチ反応器に導入した。反応は、表1に記載の温度で行った。反応後(5~60分)、反応器を急冷しそしてガス生成物を回収し、第1反応での分析手法と同じ手法で分析した。
【0121】
【表1】
【0122】
<結果及び考察>
〔プロセス評価〕
まず、第1反応及び第2反応の反応温度を変化させることによってCO排出量をどの程度削減できるかを評価した。
【0123】
図3A図3Dは、参考例1-1及び実施例1-1~1-3におけるiso-CO排出量マップを示す。図3におけるライン上の数値は、従来のプロセスと比較したときのCO排出量の割合を示す。ここで、本試験例で比較対象とする従来のプロセスは、図8に示すメタン改質プロセスである。また、従来のプロセスでのCO排出量は、0.432kg-CO当量/kg-CHOHであり、この数値は、下記非特許文献3を参考にした。
〔非特許文献3〕A. Primas, Methanol, at plant, GLO, ecoinvent database version 2.0, ecoinvent report 8 (2007) 432-442.
【0124】
図3Aに示すように、従来のプロセスと同じ温度(900℃)であっても、本実施形態での試験例のプロセスでは変換率が増加し、CO排出量を削減できる。従来のプロセスでは、反応温度が低くなるにつれて、メタンから水素への転化率が低くなり、転化率の低さがCO排出量の増加に繋がる。本試験例では、従来のプロセスと同じ温度(900℃)である場合だけでなく(参考例1、図3A)、従来のプロセスよりも低い温度にてCO排出量を削減することが可能である(実施例1-1~1-3、図3B~D)。
【0125】
図3B~Dにおけるライン上の数値に着目すると、0.4との数値が示されている。これは、本実施形態での試験例のプロセスを利用すると、反応温度を低くしているにも関わらず、従来のプロセスに比べてCO排出量を60%削減できることを示している。
【0126】
図4は、第1反応における反応温度と転化率及びCO排出量との関係を示す。図4は、従来のプロセスにおける当該関係を示し、図4Bは、本試験例に係るプロセスにおける当該関係を示す。
【0127】
従来のプロセスにおける転化率は化学平衡によって決定される。そして、図4Aから、従来のプロセスでは、反応温度が900℃であることが最も効率的であることが分かる。反応温度が900℃よりも低くなるにつれて転化率が減少する。メタンは生成物とともにメタノール合成反応器に入る。メタノール合成反応器出口では未反応ガスをリサイクルさせるが、メタンが入っているため、一部パージをする必要がある。そのパージガスは燃焼されて改質反応に使われる。メタン転化率が下がれば、その燃焼割合すなわちCO排出が増大する。また、その分、メタノール生成量は減少する。
【0128】
他方、反応温度が900℃を超えると、メタン改質プロセスにおけるメタンの改質反応はほぼ飽和し、反応温度を900℃より高くした場合、熱ロスにつながり、その熱を燃料の燃焼によって補わなければならず、CO排出につながる。
【0129】
それに対し、図4Bから分かるとおり、本実施形態での試験例に係るケミカルループ式水素製造システムを用いたプロセスでは、第1反応での反応温度が下がるにつれてCO排出量を有意に減少させることができる。
【0130】
〔酸素キャリアに要求される特性〕
ここでは、酸素キャリアに要求される特性を考察する。
【0131】
本試験例でのプロセスでは、以下の化学反応を考慮する必要がある。
mM(O)+CH→mM( )+aH+bCO+cCO+dHO ・・・(1)
M( )+HO→M(O)+H ・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
【0132】
第1反応における反応器内では、式(1)に示すように、酸素キャリア粒子M(O)がメタンによって還元され、部分還元酸素キャリア粒子M( )が形成される。そして、部分還元酸素キャリア粒子M( )は、第2反応における反応器に輸送され。そして、第2反応における反応器内では、式(2)に示すように、被還元酸素キャリア粒子M( )は、水蒸気によって酸化され、酸素キャリア粒子M(O)及びHが形成される。そして、酸素キャリア粒子M(O)は、第1反応における反応器に再び輸送される。
【0133】
酸素キャリアの要求特性を検討するにあたり、実用的な反応器サイズの一例として、ここでは、反応器の大きさが直径10m及び高さ30mであるものとして検討する。また、理想的な転化率、すなわちCH中のC及びHのCO及びHへの変換の転化率が100%であると仮定し、式(1)での化学量論係数a~dの値がa=2、b=0、c=1及びd=0であるものとして検討する。
【0134】
また、酸素キャリア粒子M(O)がCeOであり、その物性は、密度7.2gcm-3、粒子多孔度0.25、空隙率0.5であるものとして検討する。
【0135】
また、式(1)での酸素キャリア粒子M(O)は、CHに対する化学量論的供給速度の1.67倍であるものと仮定する。すなわち、第1反応における反応器の出口にてCO及びHへの転化率100%を実現できるようにするため、酸素キャリア粒子M(O)から被還元酸素キャリア粒子M( )への転化率が60%であるものと仮定する。
【0136】
第1反応が行われる間、酸素キャリア粒子M(O)は、第1反応における反応器の内部に存在する。すなわち、酸素キャリア粒子M(O)から被還元酸素キャリア粒子M( )への反応時間は、酸素キャリア粒子M(O)からの酸素放出の一次反応速度定数の逆数に等しい。
【0137】
また、第2反応における水蒸気の供給速度は、被還元酸素キャリア粒子M( )から酸素キャリア粒子M(O)に酸化するための化学量論的供給速度の2倍であると仮定する。
【0138】
酸素キャリア粒子M(O)による酸素放出の速度定数によって、第1反応で処理可能なメタン量が決定される。ここでは、(酸素キャリア粒子M(O)中のメタン改質のために利用可能な酸素量)×(酸素放出速度定数)に等しい酸素キャリア粒子M(O)の反応性指標:mol-Okg-1min-1を使用する。1×10t-CHOH/年のメタノール合成に相当する1500t-CH/日のメタン改質を実現するためには、上記反応性指標において0.041mol-Okg-1min-1を達成することが必要である。
【0139】
図5は、直径10m及び高さ30mの規模の反応器にて1500t-CH/日のメタン改質を実現可能にするための酸素キャリア粒子M(O)の酸素放出速度定数とOSCとの関係を示す図である。例えば、酸素キャリア粒子M(O)の酸素放出速度定数が0.1min-1である場合(酸素キャリア粒子M(O)の第1反応器10の内部の滞留時間が10分である場合)、第1反応のために酸素キャリア粒子M(O)に求められるOSCは0.41mol-O kg-1である(図5の点A)。
【0140】
また、本試験例でのケミカルループ式水素製造システムにおいて考慮を要する他の要素は、固体循環速度である。非特許文献4は、粒子として珪砂を用いた低温モデルを用いて、循環流動層システムで最大336kgm-2-1の固体質量フラックスを達成できたことを報告する。この固体質量フラックスは、図5に示す曲線の(x,y)=(0.25,0.16)における座標点にて達成可能である。酸素キャリア粒子M(O)のOSCは、必ずしも0.16モルkg-1よりも高いことを要するわけではない。他方、酸素キャリア粒子M(O)による第1反応器10での酸素放出時間は、4分(酸素放出速度定数=0.25min-1に相当)より長いことを要する。酸素放出速度定数を横軸(x軸)とし、酸素キャリア粒子M(O)のOSCを縦軸(y軸)としたときの座標が、曲線y≧0.041/xと、直線x≦0.25に囲まれる領域(図2の白い領域)のいずれかであれば、酸素キャリア粒子M(O)は、本試験例でのケミカルループ式水素製造システムを利用するのに適している。
〔非特許文献4〕G. Guan, C. Fushimi, M. Ikeda, Y. Nakamura, A. Tsutsumi, T. Suda, M. Ishizuka, H. Hatano, S. Matsuda, Y. Suzuki, Flow behaviors in a high solid flux circulating fluidized bed composed of a riser, a downer and a bubbling fluidized bed, in: S.D Kim, J. Kang, J.K. Lee, Y.C. Seo (Eds.), Proceedings of the 13th International Conference on Fluidization - New Paradigm in Fluidization (Gyeong-ju, Korea), Paper 57, 2010.
【0141】
図6は、0.23mol-O/kg-CeOの酸素キャリア能力を有する酸素キャリア粒子M(O)を用いたときの第1反応器10及び第2反応器20での各化合物及びエネルギーの流れを示す。図6(A)は、第1反応器10での各化合物及びエネルギーの流れを示し、図6(B)は、第2反応器20での各化合物及びエネルギーの流れを示す。
【0142】
CeOの原子価状態は、CeOとCeとの混合物を用いてモデル化され、これらの物質の量はセリウムの原子価状態に対応する。第1反応器10に熱を供給し、第2反応器20を冷却することによって、熱収支を確立できる。加えて、酸素キャリア粒子M(O)の酸素移動によって生じる顕熱をシステムの熱収支に利用できる。したがって、酸素キャリア粒子M(O)のOSCを改善することで、システム外部からシステム内部に供給する外部熱量を抑えることが可能である。
【0143】
図7は、メタンからメタノールへの改質反応における当量比を示す。比較例1-1は、従来のプロセス、すなわち図8に示すメタン改質プロセスにおける当量比である。比較例1-1は現状プロセスであり、原料メタン1に対し、燃料としてのメタンを加えており、右辺の生成物としてはメタノールが0.793、COが0.268生成する。水素は生成しない。一方、実施例1-2では、燃料としてのメタンを新たに加える必要はなく、生成物としてメタノールは0.88とより高く、COは0.12とより低く、さらに水素が0.13生成する。
【0144】
図8では、まず、メタンから炭素酸化物と水素とを生成する。反応温度は900℃、反応圧力は35bar(=3.5×10Pa)である。ここでは、次の反応が行われる。
(反応1)CH+2HO→CO+4H
(反応2)CH+ HO→CO +3H
【0145】
なお、反応温度を900℃にするため、メタン改質装置には、メタンと空気との燃焼熱が加わる。そのため、メタン改質装置に供給される原料としてのメタンのほか、燃焼熱を生成させるためのメタン燃料も用いられる。
【0146】
続いて、炭素酸化物と水素からメタノールを合成する。反応温度は250℃、反応圧力は80bar(=8.0×10Pa)である。ここでは、次の反応が行われる。
(反応1)CO+3H→CHOH+H
(反応2)CO +2H→CHOH
【0147】
比較例1-1に係るプロセスでは、反応系の全体として以下の式が得られる。
1.072CH+3.57HO+0.943O
→0.793CHOH+0.268CO+4.117H
【0148】
他方、実施例1-2では、図8におけるメタン改質装置がケミカルループ装置に置き換えられる。そのときの反応温度は400℃であり、比較例1-1での反応温度に比べて低温である。そのため、ケミカルループ装置に供給される熱は、低温廃熱で足りるため、燃焼熱を生成させるためのメタン燃料を要しない。
【0149】
本実施例において、炭素酸化物と水素からメタノールへの合成反応は、従来のプロセスと同一としてシミュレートしている。
【0150】
その結果、実施例1-2に係るプロセスでは、反応系の全体として以下の式が得られる。
1.0CH+3.57HO+0.61O
→0.88CHOH+0.12CO+3.68HO+0.13H
【0151】
実施例1-2では、1モルのメタンから0.88モルのメタノールを生成できる一方、比較例1-1では、1モルのメタンから0.74モル(=0.793/1.072)のメタノールを生成できるにとどまる。そのため、本実施例によると、従来のメタノール生成システムに比べて、低温であるため燃料としてのメタンを使うことなく、CO排出を大幅に削減し、かつ高効率でメタノールを生成できる。
【0152】
また、実施例1-2では、比較例1-1に比べて二酸化炭素生成量を抑えることができ、環境保護にも寄与し得る。
【0153】
本来であれば、炭化水素材料から水素への改質反応は吸熱反応であり、反応平衡の制約から、700℃以上の高温状態でないと炭化水素材料から水素への反応が進行しづらい。しかしながら、実施例1-2に係るプロセスでは、反応温度が400℃であるにも関わらず、メタノール合成まで含めたトータルのシステムの効率が向上することに加え、CO削減も期待でき、副生するHの回収量も増大する。
【0154】
<<試験例2>> 酸素キャリア粒子M(O)の改良
<試験例2-1> 低温域での酸素貯蔵放出能の評価
〔実施例2-1-1〕 市販の酸化セリウムナノ粒子
酸素キャリアとして、酸化セリウムナノ粒子(一次粒子径:<25nm,製品番号:544841-25G,CAS番号:1306-38-3,アルドリッチ社)を使用した。
【0155】
そして、CeOナノキューブについて、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃のそれぞれについて、酸素貯蔵放出能(OSC)を測定した。結果を図10に示す。なお、OSCとは、単位質量の酸素キャリアに含まれるの酸素のモル数をいう。
【0156】
ここで、酸素キャリアのOSCは、以下の方法にて測定するものとする。
【0157】
(1)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(2)500℃にて測定系内にOガスを流し、試料に十分量吸着させる。
(3)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(4)500℃にて測定系内にHガスを流し、試料を還元し吸着Oを取り除く。
(5)500℃にて測定系内にHeガスを流す。
(6)反応温度すなわち検出温度(200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃及び500℃)にて測定系内にHeガスを流す(ここまでが前処理である。)
(7)上記検出温度にて、Heガスをキャリアガスとして、Oガスをパルスで測定系内に流す。
(8)流したパルスのOガスが検出器によって検出されなくなるまで、Oガスをパルスで測定系内に流す。
(9)Oガスの全流出量から全検出量を引いた値が、Oガスの全吸着量(cm)として見積もられる。
(10)上記(9)で求めたOガスの全吸着量(cm)と試料の仕込み量(g)からOガスの単位吸着量(cm/g)を算出し、試料1gあたりの酸素モル数を求めてOSCとする。
【0158】
〔実施例2-1-2〕 (100)面が露出したCeOナノキューブ
酸素キャリアとして、超臨界法により合成されたヘキサン酸修飾CeOナノキューブ(株式会社アイテック製,CASNo.1306-38-3,平均一次粒子径:10nm±3nm)を使用した。このナノキューブは、酸素移動性(酸素貯蔵放出能)を高めるため、有機修飾剤(本実施例ではヘキサン酸)を用いて(100)面が主な露出面になるように制御されている。そこで、ナノキューブを300℃で2時間燃焼し、ナノキューブから有機修飾剤を除去した。以下では、有機修飾剤除去後の(100)面が露出したCeOをCeOナノキューブという。
【0159】
そして、酸素キャリアが当該CeOナノキューブであること以外は、実施例2-1-1と同じ手法にて酸素キャリアのOSCを測定した。結果を図10に示す。
【0160】
〔実施例2-1-3〕 クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO
[Cr-CeOの合成]
クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)は、報告されている流通式超臨界水熱合成法により合成した。Cr-CeOの合成にあたっては、図9に示す装置30を用いた。
【0161】
装置30は、原料供給部31と、超臨界水供給部32と、原料及び超臨界水を混合する混合部33と、原料及び超臨界水の混合液を冷却し、容器に収容する冷却部34とを備える。
【0162】
原料供給部31は、原料が収容される原料収容容器31Aと、原料収容容器31Aに収容された原料を混合部33に向かって汲み上げるポンプ31Bとを有する。原料収容容器31Aとポンプ31Bとの間、ポンプ31Bと混合部33との間は、それぞれ配管で接続されている。
【0163】
原料収容容器31Aには、0.010mol/lのCe(OH)/Cr(OH)(Ce:Cr=9:1(モル比))を含有する水溶液が収容されている。また、ナノ粒子の表面を修飾し、それらの異方性成長を誘導するため、原料収容容器31Aには、0.13gのデカン酸も収容されている。
【0164】
超臨界水供給部32は、水が収容される水収容容器32Aと、水収容容器32Aに収容された水を混合部33に向かって汲み上げるポンプ32Bと、ポンプ32Bと混合部33との間に設けられ、水を超臨界状態にする加熱部32Cとを有する。水収容容器32Aとポンプ32Bとの間、ポンプ32Bと加熱部32Cとの間、加熱部32Cと混合部33との間は、それぞれ配管で接続されている。
【0165】
本実施例では、水を超臨界状態にし、その後、超臨界水を混合部33に供給するため、原料と水との混合物を徐々に加熱して最終的に超臨界状態にするのではなく、原料に超臨界水を直接接触させることで、極めて短時間、混合の速度で原料を超臨界状態にまで昇温させることで、昇温中の粒子生成、成長を抑制し、超臨界場での高い過飽和度でナノ粒子を合成することができる。
【0166】
混合部33では、温度及び圧力を制御可能である。
【0167】
本実施例では、超臨界水供給部32にて予め加熱した超臨界水を、原料収容容器31Aに設けられた配管とは別の別配管から混合部33に供給し、原料と超臨界水とを急速混合させることで、原料を超臨界状態にまで昇温した。原料には有機分子であるデカン酸が含まれているにも関わらず、超臨界状態では有機分子も無機水溶液も均一相を形成し、そこで粒子合成が生じる。混合部33における反応管出口では、冷却部34に設けられた外部水冷装置34Aにより急速冷却し、圧力はその後背圧弁(図示せず)により制御した。混合部33での反応温度は400℃、反応圧力は30MPa、反応時間は2秒以下であった。水熱反応後、反応後液が収容された容器34Bを水浴中室温で冷却した。5mlのヘキサンを用い、デカン酸変性生成物からナノ粒子(ヘキサン相)を抽出した。そして、ヘキサン相に、貧溶媒試薬として10mlのエタノールを添加し、ヘキサン相から沈殿物を沈殿させた。そして、遠心分離を行い、立方晶CrドープCeOナノ粒子を得た。
【0168】
この非平衡系の合成法により、通常の低速昇温でのオートクレーブによる平衡系合成では数mol%しかドープできないCrを、数10mol%まで増大させることができた。
【0169】
[OSCの測定]
酸素キャリアが上記の立方晶CrドープCeOナノ粒子であること以外は、実施例2-1-1と同じ手法にて酸素キャリアのOSCを測定した。結果を図10に示す。
【0170】
〔実施例2-1-4〕 酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO
[FeOx-ZrOの合成]
酸素キャリアが酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)である場合についても、図9と同様の流通系のシステムで合成した。FeSO・7HO(0.45M)及びZrO(NO・2HO(0.18M)を含有する水溶液を室温で供給し、もう一方の流路から超臨界水を供給し、急速昇温反応させた。反応温度は400℃、反応圧力は30MPa、反応時間は2秒以下であった。
【0171】
得られたナノ粒子を回収し、脱イオン化された純水を用いて遠心分離とデカンテーションのサイクルを3回繰り返すことで、ナノ粒子を洗浄した。その後、回収物を48時間かけて凍結乾燥し、FeOx-ZrOを得た。
【0172】
[OSCの測定]
酸素キャリアが上記の酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物粒子であること以外は、実施例2-1-1と同じ手法にて酸素キャリアのOSCを測定した。結果を図10に示す。
【0173】
〔結果〕
図10は、試験例2-1における低温域での酸素貯蔵放出能(OSC)の評価の結果を示す図である。実施例2-1-1の市販のCeOと比較すると、露出面制御酸化セリウム(実施例2-1-2)はより高く、Crドープ酸化セリウム(実施例2-1-3)はさらに高く、鉄ジルコニア(実施例2-1-4)では、4桁近くも高い値を示している。
【0174】
また、いずれの酸素キャリアについても、400℃以上の温度領域で10μmol-O/g-catを超えるOSCを有することが確認された。特に、実施例2-1-2~2-1-4については、200℃であっても10μmol-O/g-catを超えるOSCを有することが確認された。
【0175】
また、250℃以上の温度領域において、FeOx-ZrOが特にOSCに優れ、次いで、クロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、CeOナノキューブの順に優れることが確認された。
【0176】
酸素移動度は、結晶格子の歪みと関係しており、CeOにCrがドープされたことで格子歪ができ酸素空孔を作りやすくする。これがクロムドープにより、ドープされていないCeOよりも大きな酸素移動度が得られた理由と推察される。
【0177】
そして、CeOと比較して、マグネタイト構造のFeの2価と3価との間の遷移はより生じやすいことが知られており、還元場では0価にまで還元される。これは、自動車触媒開発においても見出されていたが、さらに、Zrのドープにより、より酸素空孔が生じやすくなっているものと推察される。
【0178】
以上の結果から、実施例の酸素キャリアは、いずれも、600℃以下の低温廃熱レベルでも十分なOSCが得られるといえる。
【0179】
<試験例2-2> 酸素キャリアにおける平均一次粒子径と粒子内の酸素空孔形成性との関係
〔試験方法〕
実施例2-1-2で用いたCeOナノキューブについて、TEM(透過型電子顕微鏡)により酸素キャリア粒子の画像を撮像し、そのTEM像を画像解析・画像計測ソフトウェアにより解析することで、平均一次粒子径と粒子内の酸素空孔形成性との関係を調べた。結果を図11図14に示す。
【0180】
〔結果〕
図11は、上段から平均一次粒子径が11nm、10nm、9nm、8nm、7nm、6nm、5nmであるときのセリウム元素の原子カラム(横軸)と、Ce3+/(Ce3++Ce4+)、すなわち粒子内の酸素空孔形成性(縦軸)との関係を示す。図11によると、平均一次粒子径が11nmである場合、表面付近で酸素欠陥が現れているのに対し、平均一次粒子径が小さくなればなるほど、セリウム元素の中心にまで酸素欠陥が現れていることが分かる。セリウム元素の内部にまで酸素空孔が広がることは、酸素原子が移動しており、ナノ粒子表面だけでなく、粒子全域の酸素が使えていることを意味する。これにより、酸素キャリアの平均一次粒子径が小さいほど、反応物質との暴露表面積(接触可能性)の最大化と、格子歪による酸素空孔易形成性とを実現できるといえる。そして、高いOSCが得られた要因がここに見られる。
【0181】
図12(A)は、試験例2-2におけるセリウム元素のTEM像を示す。図12(B)は、原子間の歪を示す。明るく見えている部分は大きな歪を持っている部分である。
【0182】
図12の(A)のうち、左の画像は、平均一次粒子径が11nmであるセリウム元素のTEM像であり、右の画像は平均一次粒子径が6nmであるセリウム元素のTEM像である。左右それぞれのTEM像にある点がセリウム原子を示し、4つのセリウム原子に囲まれた領域が分子内に酸素を取り込み得る領域である。
【0183】
図12の(B)は、図6の(A)で示したTEM像を解析し、セリウム原子間の歪みを可視化したものである。色がグレーである場合(数値が0に近い色である場合)、原子間の歪みが小さいことを示す。そして、色が薄いほど(白色に近いほど)、原子間の空隙が拡張し、空隙に酸素を取り込み易い状態にあることを示す。他方、色が濃いほど(黒色に近いほど)、原子間の空隙が縮んでおり、空隙に酸素を取り込みづらい状態にあることを示す。図12(B)によると、平均一次粒子径が11nmであるセリウムナノ粒子では、粒子の表面では原子間の空隙の拡張が認められる一方、粒子の中心では原子間の空隙の拡張がほとんど認められない。他方、平均一次粒子径が6nmであるセリウムナノ粒子では、粒子の全体で原子間の空隙の拡張が認められる。これにより、酸素キャリアの平均一次粒子径が小さいほど、格子歪による酸素空孔易形成性を実現できるといえる。
【0184】
図13は、図12の(A)で示したTEM像について、セリウム元素の左から右に向かうときの格子が拡張する割合を示す。図13の(A)は、平均一次粒子径が11nmであるセリウム元素についての状態であり、図13の(B)は、平均一次粒子径が6nmであるセリウム元素についての状態である。図13からも、酸素キャリアの平均一次粒子径が小さいほど、原子間における格子の拡張が認められ、格子歪による酸素空孔易形成性を実現できることが裏付けられる。
【0185】
図14は、セリウムナノ粒子における格子の拡張が認められる割合と、セリウム原子間に酸素空孔を形成するのに必要なエネルギーとの関係を示した図である。図14によると、格子の拡張が認められる割合が大きい粒子ほど、セリウム原子間に酸素空孔を形成するのに必要なエネルギーが小さいことが分かる。したがって、酸素キャリアの平均一次粒子径が小さく、セリウム原子間における格子の拡張が元素全体に広く認められるほど、セリウム原子間に酸素空孔を形成し易いといえる。これが、図10で極めて高いOSCが得られた要因である。
【0186】
図12及び図13で確認できた歪ができれば、酸素空孔を作りやすいこと酸素が移動しやすいことを示しており、図10で示した高いOSCが得られたのは、露出面制御されたナノサイズの粒子が、さらに小さくなることで粒子内全体に歪が生じ、それにより酸素移動が促進されたからであることがわかる。
【0187】
<試験例2-3> バッチ反応器でのメタン-酸素キャリア反応実験
〔試験例2-3-1〕 酸素キャリアが酸化セリウム(CeO)の場合
[CO生成]
実施例2-1-1で使用した酸化セリウム(CeO)を酸化状態にし、1台の反応器に充填した。そして、CHを導入し、300℃でCHを酸化させ、二酸化炭素の生成量の経時変化を測定した。その際、反応圧力は、0.6MPaであった。結果を図15(A)に示す。
【0188】
[H生成]
実施例2-1-1で使用した酸化セリウムを還元状態にし、1台の反応器に充填した。そして、水蒸気を導入し、300℃で還元状態の酸化セリウムを酸化させ、水素の生成量の経時変化を測定した。その際、反応圧力は、8MPaであった。結果を図15(B)に示す。
【0189】
〔試験例2-3-2〕 酸素キャリアが酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)の場合
[CO生成]
実施例2-1-4で使用した酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)を酸化状態にし、1台の反応器に充填した。そして、CHを導入し、400℃でCHを酸化させ、二酸化炭素の生成量の経時変化を測定した。その際、反応圧力は、0.6MPaであった。結果を図16(A)に示す。
【0190】
[H生成]
実施例2-1-4で使用した酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物を還元状態にし、1台の反応器に充填した。そして、水蒸気を導入し、400℃で還元状態の複合酸化物を酸化させ、水素の生成量の経時変化を測定した。その際、反応圧力は、8MPaであった。結果を図16(B)に示す。
【0191】
〔結果〕
酸素キャリアが酸化セリウム(CeO)の場合、CHから二酸化炭素の生成反応における反応速度定数kは、0.060[min-1]であり、水蒸気から水素の生成反応における反応速度定数kは、0.044[min-1]であった。それに対し、酸素キャリアが酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物の場合、CHから二酸化炭素の生成反応における反応速度定数kは、0.07[min-1]であり、水蒸気から水素の生成反応における反応速度定数kは、0.135[min-1]であった。このことからも、本反応系において、酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物が酸素キャリアとして特に優れることが裏付けられる。
【0192】
<試験例2-4> プロセススケールのシミュレーション
酸素キャリアとして、実施例2-1-1で使用した酸化セリウム(CeO)、実施例2-1-3で使用したクロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)、実施例2-1-4で使用した酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)のそれぞれについて、プロセススケールをシミュレートした。メタノール合成装置のうち、メタンから水素と炭素化合物とを生成する第1装置については、図1に示したケミカルループ式の製造システム1であるものとした。また、水素と炭素化合物からメタノールを合成する第2装置については、図8に例示される従来公知の態様とした。メタノールを1年間に100万トン製造するのに十分な水素及び炭素化合物を製造するの必要なケミカルループ式製造システム1(図1)の容量を検討した。結果を図17に示す。
【0193】
図17は、図1に示したケミカルループ式製造システム1の工業的に適した装置規模をシミュレートした結果である。図17の横軸は、ケミカルループ式製造システム1(図1)の運転温度であり、縦軸は、想定量のメタノールを製造するのに必要なケミカルループ式製造システム1(図1)の容量を示す。図10でOSCが得られ、図15及び図16で反応の速度が得られるので、ケミカルループプロセスのリアクターのサイズが計算できる。ここでは、年間100万トンのメタノール生産を行う場合に必要なリアクターサイズを示している。
【0194】
運転温度が500℃である場合、酸素キャリアが酸化セリウム(CeO)であるとき、ケミカルループ式製造システム1(図1)の容量は、約5000mである。
【0195】
それに対し、酸素キャリアがクロムドープ酸化セリウム(Cr-CeO)であるとき、ケミカルループ式製造システム1(図1)の容量は、約1000mで足り、酸素キャリアが酸化鉄-ジルコニア系複合酸化物(FeOx-ZrO)であるとき、ケミカルループ式製造システム1(図1)の容量は、約100mで足りる。
【0196】
このことから、酸素キャリアの種類を適切に選択することで、従来の合成システムに比べて装置を小型化できることが期待される。
【符号の説明】
【0197】
1 水素及び合成ガスの製造システム
10 第1反応器
11 第1入口
12 第1出口
20 第2反応器
21 第2入口
22 第2出口

図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17