(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】フッ素樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 16/24 20060101AFI20240312BHJP
C08F 2/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08F16/24
C08F2/06
(21)【出願番号】P 2019014119
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岩永 和也
(72)【発明者】
【氏名】下野 智弥
(72)【発明者】
【氏名】坂口 孝太
(72)【発明者】
【氏名】田靡 正雄
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147230(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104380(WO,A1)
【文献】特開2000-001518(JP,A)
【文献】特開2000-159948(JP,A)
【文献】特公昭43-029154(JP,B1)
【文献】The effect of fluorine substituents on the polymerization mechanism of 2-methylene-1,3-dioxolane and properties of the polymer products,Journal of Fluorine Chemistry,2007年,128,202-206
【文献】Free-Radical Polymerization of Dioxolane and Dioxane Derivatives: Effect of Fluorine Substituents on the Ring Opening Polymerization,Journal Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry,2004年,Vol. 42,5180-5188
【文献】Synthesis and Characterization of an Amorphous Perfluoropolymer: Poly(perfluoro-2-methylene-4-methyl-1,3-dioxolane),Macromolecules,2005年,38,4237-4245
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される単量体、ラジカル重合開始剤、及び有機溶媒の存在下、反応系中の水分量1000質量ppm以下で沈殿重合させる沈殿重合工程を有することを特徴とする
、下記一般式(1)で表される残基単位を含み、クロム、鉄及び、ニッケルの含有量の合計が500質量ppb以下であるフッ素樹脂の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rf
1
、Rf
2
、Rf
3
、Rf
4
はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していても良い直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示し、かつ少なくともいずれか1種が炭素数1~7の直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基である。また、Rf
1
、Rf
2
、Rf
3
、Rf
4
は互いに連結して炭素数4以上8以下のエーテル性酸素原子を有していてもよいパーフルオロ脂肪族環を形成してもよい。)
【化2】
(式(2)中、Rf
5、Rf
6、Rf
7、Rf
8はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していても良い直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基を示し、かつ少なくともいずれか1種が炭素数1~7の直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基である。また、Rf
5、Rf
6、Rf
7、Rf
8は互いに連結して炭素数4以上8以下のエーテル性酸素原子を有していてもよいパーフルオロ脂肪族環を形成してもよい。)
【請求項2】
ラジカル重合開始剤、上記一般式(2)で表される単量体および上記一般式(2)で表される単量体を溶解し、上記一般式(1)で表される残基単位を含む樹脂を析出させる有機溶媒中で重合させる工程を有する請求項
1に記載の樹脂の製造方法。
【請求項3】
ハンセン溶解度パラメーターから下記の式(3)によって計算される樹脂との溶解指標Rが4以上である有機溶媒を用いることを特徴とする請求項
1乃至2いずれか一項に記載の樹脂の製造方法。
R=4×{(δD
1-δD
2)
2+(δP
1-δP
2)
2+(δH
1-δH
2)
2}
0.5
・・・(3)
(ここでδD
1、δP
1、δH
1はそれぞれ前記樹脂粒子のハンセン溶解度パラメーターの分散項、極性項および水素項、δD
2、δP
2、δH
2はそれぞれ前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメーターの分散項、極性項および水素項である。)
【請求項4】
分子内にフッ素原子と水素原子を含む有機溶媒を用いることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか一項に記載のフッ素樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(2)で表される単量体、ラジカル重合開始剤、及び有機溶媒の存在下反応系中の水分量1000質量ppm以下で溶液重合させる溶液重合工程、溶液重合で得られたフッ素樹脂を含む溶液を貧溶剤と接触させて、系内の水分量を100質量ppm以下に保持しながらフッ素樹脂を析出させる析出工程を有することを特徴とする
、下記一般式(1)で表される残基単位を含み、クロム、鉄及び、ニッケルの含有量の合計が500質量ppb以下であるフッ素樹脂の製造方法。
【化3】
(式(1)中、Rf
1
、Rf
2
、Rf
3
、Rf
4
はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していても良い直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示し、かつ少なくともいずれか1種が炭素数1~7の直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基である。また、Rf
1
、Rf
2
、Rf
3
、Rf
4
は互いに連結して炭素数4以上8以下のエーテル性酸素原子を有していてもよいパーフルオロ脂肪族環を形成してもよい。)
【化4】
(式(2)中、Rf
5
、Rf
6
、Rf
7
、Rf
8
はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していても良い直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基を示し、かつ少なくともいずれか1種が炭素数1~7の直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基である。また、Rf
5
、Rf
6
、Rf
7
、Rf
8
は互いに連結して炭素数4以上8以下のエーテル性酸素原子を有していてもよいパーフルオロ脂肪族環を形成してもよい。)
【請求項6】
上記一般式(2)で表される単量体、開始剤、有機溶媒の少なくともいずれか一つを濾過フィルター、イオン交換樹脂、金属イオン除去フィルター又は金属イオン除去剤の少なくともいずれか一つで精製した後に重合を行うことを特徴とする請求項
1乃至5いずれか一項に記載のフッ素樹脂の製造方法。
【請求項7】
フッ素樹脂は、クロム、鉄及び、ニッケルの含有量の合計が5質量ppb以上500質量ppb以下である、請求項1乃至6いずれか一項に記載の樹脂の製造方法。
【請求項8】
フッ素樹脂は、ナトリウムの含有量が1000質量ppb以下である、請求項1乃至7いずれか一項に記載の樹脂の製造方法。
【請求項9】
フッ素樹脂は、体積平均粒子径が5μm以上500μm以下であり粒子形状を有する、請求項1乃至8いずれか一項に記載の樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不純物が少なく、光学特性に優れたフッ素樹脂及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりフッ素系樹脂は電気特性、光学特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性に優れるため半導体をはじめとする電子部品の保護膜、インクジェットプリンテッドの撥水膜、フィルタの防水防油コート、光学分野の部材などに用いられている。
【0003】
なかでもオキソラン環を含むフッ素樹脂は嵩高い環構造を有するため非晶質で高い透明性および高い耐熱性を有する。また炭素、フッ素、酸素からのみ構成されることで高い光学特性、電気特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性を有する。さらに非晶性であることから溶融成形加工が可能である。
【0004】
非特許文献1にはオキソラン環を含むフッ素樹脂に関する記載があり、大気中で2週間以上保存すると樹脂の透明度が下がり、260~290℃で加熱した場合黄色く着色する記述がある。この樹脂を再沈殿精製することで、重合時の副反応で生成するカルボン酸基をもつ不純物を除去し大気中に保管しても透明度が低下しないと記載があるものの、加熱時の着色については記載がない。本発明者らによると前記フッ素樹脂を再沈殿生成した場合、樹脂中に含まれる金属成分が十分に除去できず、加熱時に着色が生じるという課題があった。
【0005】
又、特許文献1には懸濁重合や乳化重合等の手段によりフッ素樹脂粒子を得ることが可能であることが記述されている。しかし、重合助剤として用いる分散剤、乳化剤が樹脂粒子の内部に残存し、加熱時に着色の原因となるため本樹脂の特性である透明性および耐熱性を損なってしまう。また、本発明者らによると、フッ素樹脂が特定の金属を含有することによっても加熱時に着色が生じるという課題があった。
【0006】
成形加工の際過熱する必要があることから、前述のフッ素樹脂の加工品は着色が生じる可能性があるものであった。そこで、光学的な用途で使用する観点から加熱時の着色が低減されたフッ素樹脂が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2014/156996号広報
【文献】Macromolecules、2005、38、4237-4245
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、加熱時の着色が低減されたフッ素樹脂及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、下記一般式(1)で表される残基単位を含み、クロム、鉄及び、ニッケルの含有量の合計が500質量ppb以下であるフッ素樹脂が、加熱時の着色が少ないことを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
【0011】
(式(1)中、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示す。また、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよい。)
【0012】
以下に発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、一般式(1)で表される残基単位を含み、クロム、鉄、及びニッケルの金属の含有量の合計が500質量ppb以下の樹脂である。
【0014】
本発明のフッ素樹脂は一般式(1)に含まれる嵩高い環構造を有するため非晶質で高い透明性および高い耐熱性を有する。また炭素、フッ素、酸素からのみ構成されることで高い電気特性、耐薬品性、防水性、撥液發油性を有する。
【0015】
本発明における一般式(1)で表される残基単位中のRf1、Rf2、Rf3、Rf4基はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群の1種を示す。また、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよい。炭素数1~7の直鎖状パーフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、ウンデカフルオロペンチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ペンタデカフルオロヘプチル基等が挙げられ、炭素数3~7の分岐状パーフルオロアルキル基としては、例えば、ヘプタフルオロイソプロピル基、ノナフルオロイソブチル基、ノナフルオロsec-ブチル基、ノナフルオロtert-ブチル基等が挙げられ、炭素数3~7の環状パーフルオロアルキル基としては、例えば、ヘプタフルオロシクロプロピル基、ノナフルオロシクロブチル基、トリデカフルオロシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状パーフルオロアルキル基としては、例えば、-CF2OCF3基、-(CF2)2OCF3基、-(CF2)2OCF2CF3基、炭素数3~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい環状パーフルオロアルキル基としては、例えば、2-(2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ)-ピリニル基、4-(2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ)-ピリニル基、2-(2,3,3,4,4,5,5-ヘプタフルオロ)-フラニル基等が挙げられる。
【0016】
優れた耐熱性となるため、Rf1、Rf2、Rf3、Rf4の少なくともいずれか1種が炭素数1~7の直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基であることが好ましい。
【0017】
そして、具体的な一般式(1)で表される残基単位としては、例えば以下の残基単位が挙げられる。
【0018】
【0019】
このなかでも、耐熱性、成型加工性に優れるため以下の残基単位を含む樹脂が好ましく、一般式(3)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位を含む樹脂がより好ましい。
【0020】
【0021】
本発明の樹脂はクロム、鉄及び、ニッケルの金属の含有量の合計が500質量ppb以下である。これにより、加熱時の着色が低減されたフッ素樹脂が得られる。前記含有量は好ましくは300質量ppb以下、さらに好ましくは120質量ppb以下である。これにより、より加熱時の着色が低減される。通常、前記含有量は5質量ppb以上と表記するが、これは分析下限によるものであり、測定可能であれば5質量ppbを下回ることもある。
【0022】
ここで、クロム、鉄及び、ニッケルの金属の含有量はそれぞれ一般的な組成分析により計測することが可能であり、例えばIPC-MSを例示することができる。
【0023】
さらに、より着色が低減されたフッ素樹脂が得られることからクロムとニッケルの金属の含有量は各々100質量ppb以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の樹脂は、ナトリウムの含有量は1000質量ppb以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂は流動性・成形性に優れることから、粒子形状であることが好ましく、さらに好ましくはその体積平均粒子径は5μm以上500μm以下である。これにより、当該樹脂を加工する際に、成型加工機等に対する連続した供給が可能となるため好ましい。体積平均粒子径が5μm以上であることにより気流により飛散しにくく、取り扱い性が向上する。また体積平均粒子径が500μm以下である場合、流動性が高く、成型加工機などに対する連続した供給が可能になり、取扱い性が向上する。
【0026】
本発明の樹脂が粒子形状を有する場合の体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒子径分布測定(体積分布)で評価することができる。レーザー回折散乱法による粒子径分布は、樹脂粒子を水中に分散させて、超音波式ホモジナイザーで結晶粒子の分散状態を均一化にする処理を施した後に測定することで、再現性良く定量化することができる。レーザー散乱計として、マイクロトラック社製MT3000を例示することができる。
【0027】
本発明の樹脂が粒子形状を有する場合は、乳化剤・分散剤を含まず透明性、耐熱性に優れることから、好ましくは沈殿重合物である。
【0028】
本発明の樹脂が粒子形状を有する場合の嵩密度は充填性の観点から0.2g/cm3以上1.5g/cm3以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の樹脂は他の単量体残基単位が含まれていても良く、他の単量体残基単位としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VDF)、パーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール(PDD)、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)およびペルフルオロ(ブテニルビニルエーテル)などが挙げられる。
【0030】
本発明において、樹脂の分子量には何ら制限はなく、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるPMMA換算の重量平均分子量が2,500~2,000,000等が挙げられる。樹脂の溶融粘度、および機械強度の観点から10,000~1,000,000(g/モル)であることが好ましい。
【0031】
本発明のフッ素樹脂の黄色度は3.0以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.0以下である。これにより、その成形品を光学用途としてより好適に使用することができる。黄色度は、例えばフッ素樹脂を所望の形状にプレス成型して測定することができる。
【0032】
ここで、黄色度は一般的な分光色彩計により測定することができる。
【0033】
次に本発明の樹脂の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の樹脂の製造方法の第1の態様としては、
下記一般式(4)で表される単量体、ラジカル重合開始剤、及び有機溶媒の存在下、反応系中の水分量1000質量ppm以下で沈殿重合させる沈殿重合工程を有するフッ素樹脂の製造方法を挙げることができる。
【0035】
また、流動性・成形性に優れる粒子形状の樹脂が得られることから、有機溶媒が下記一般式(4)で表される単量体を溶解し、下記一般式(5)で表される残基単位を含む樹脂を析出させる有機溶媒であることが好ましい。
【0036】
【0037】
(式(4)中、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示す。また、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよい。)
【0038】
【0039】
(式(5)中、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示す。また、Rf5、Rf6、Rf7、Rf8は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよい。)
【0040】
本発明の樹脂の製造方法において、重合溶媒として一般式(4)で表される単量体を溶解し、一般式(5)で表される残基単位を含む樹脂を析出させる有機溶媒(以下、「沈殿重合溶媒」と記載する)を用いることにより、重合反応によって生成した樹脂を、特定の体積平均粒子径を有する粒子として析出させることができ、結果として成形性・充填性に優れる粒子形状の樹脂を製造することができる。また、乳化剤および分散剤などの重合助剤を用いることがないため、透明性や耐熱性を損なう原因となる乳化剤および分散剤を含まない樹脂粒子を製造することができる。
【0041】
ある有機溶媒が、ある樹脂を析出させる有機溶媒であるかどうかは、該有機溶媒が有する極性がある特定の範囲にあるかどうかで判断できる。本発明においては、沈殿重合溶媒としてハンセン溶解度パラメーター(Hansensolubilityparameters)に基づいて、ある特定の範囲の極性を有する有機溶媒を選択することが好ましい。
【0042】
ハンセン溶解度パラメーターは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーターを、ハンセン(Hansen)が分散項δD、極性項δP、水素結合項δHの3成分に分割し、3次元空間に示したものである。分散項δDは、分散力による効果を示し、極性項δPは、双極子間力による効果を示し、水素結合項δHは、水素結合力の効果を示す。3次元空間において、ある樹脂の座標とある有機溶媒の座標とが離れるほど、該樹脂は該有機溶媒で析出しやすい。
【0043】
ハンセン溶解度パラメーターの定義および計算方法は、下記の文献に記載されている。CharlesM.Hansen著、「HansenSolubilityParameters:AUsersHandbook」、CRCプレス、2007年。また、文献値が知られていない有機溶媒については、コンピュータソフトウエア(HansenSolubilityParametersinPractice(HSPiP))を用いることによって、その化学構造から簡便にハンセン溶解度パラメーターを推算できる。
【0044】
本発明においては、HSPiP 5th Edditionを用い、データベースに登録されている有機溶媒についてはその値を、登録されていない有機溶媒については推算値を用いる。
【0045】
樹脂のハンセン溶解度パラメーターについては、通常、該樹脂を、ハンセン溶解度パラメーターが確定している数多くの異なる有機溶媒に溶解させて溶解度を測る溶解度試験を行うことによって決定される。具体的には、溶解度試験に用いたすべての有機溶媒のハンセン溶解度パラメーターの座標を3次元空間に示した際、樹脂Aを溶解した有機溶媒の座標がすべて球の内側に内包され、析出させる有機溶媒の座標が球の外側になるような球(溶解度球)を探し出し、溶解度球の中心座標を樹脂のハンセン溶解度パラメーターとする。
【0046】
そして、溶解度試験に用いられなかったある有機溶媒のハンセン溶解度パラメーターの座標が(δD、δP、δH)であった場合、該座標が溶解度球の内側に内包されれば、該有機溶媒は樹脂を溶解すると考えられる。一方、該座標が溶解度球の外側にあれば、該有機溶媒は樹脂を析出させると考えられる。
【0047】
本発明において樹脂のハンセン溶解度パラメーターとしては、下記一般式(6)で表される化合物(一般式(5)で表される化合物の五量体)のハンセン溶解度パラメーターを、HSPiPを用いて推算した値を用いた。この方法により、たとえば、一般式(3)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位を含む樹脂粒子のハンセン溶解度パラメーターδD、δP、δHは、それぞれ、11.6、3.5、1.4(MPa1/2)である。
【0048】
【0049】
(式(6)中、Rf9、Rf10、Rf11、Rf12はそれぞれ独立してフッ素原子または炭素数1~7のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖状、分岐状または環状のパーフルオロアルキル基からなる群から選択される基を示す。また、Rf9、Rf10、Rf11、Rf12は互いに連結して炭素数4以上8以下の環を形成してもよい。)
【0050】
そして本発明における沈殿重合溶媒としては、ハンセン溶解度パラメーターから式(7)によって計算される、樹脂の溶解指標Rが4以上である有機溶媒を選択することが好ましい。
R=4×{(δD1-δD2)2+(δP1-δP2)2+(δH1-δH2)2}0.5・・・(7)
ここでδD1、δP1、δH1はそれぞれ前記樹脂粒子のハンセン溶解度パラメーターの分散項、極性項および水素項、δD2、δP2、δH2はそれぞれ前記有機溶媒のハンセン溶解度パラメーターの分散項、極性項および水素項である。
【0051】
たとえば、パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位を含む樹脂との親和性Raが4以上である有機溶媒として下記の表1に記載の有機溶媒を挙げることができる。
【0052】
【0053】
さらに、沈殿重合溶媒としてはラジカル重合において連鎖移動反応が生じにくく、重合収率に優れ、高分子量体を得やすいことから分子内にフッ素原子と水素原子を含む有機溶媒が好ましい。具体的な、分子内にフッ素原子と水素原子を含む沈殿重合溶媒としては1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、2,2,2-トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、1,2,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロシクロペンタンなどが挙げられる。
【0054】
ラジカル重合を行う際のラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-tetr-ブチルパーオキサイド、tetr-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tetr-ブチルパーオキシアセテート、パーフルオロ(ジ-tetr-ブチルパーオキサイド)、ビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド、tetr-ブチルパーオキシベンゾエート、tetr-ブチルパーピバレート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0055】
本発明の製造方法は、前記一般式(4)で表される単量体が下記一般式(8)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)であり、前記一般式(5)で表される残基単位が下記一般式(9)で表されるパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)残基単位であることが好ましい。
【0056】
【0057】
【0058】
本発明の樹脂の製造方法の第2の態様として、
下記一般式(4)で表される単量体、ラジカル重合開始剤、及び有機溶媒の存在下反応系中の水分量1000質量ppm以下で溶液重合させる溶液重合工程、溶液重合で得られたフッ素樹脂を含む溶液を貧溶剤と接触させて、系内を100ppm以下に保持しながらフッ素樹脂を析出させる析出工程を有することを特徴とするフッ素樹脂の製造方法により製造することができる。
【0059】
ここで貧溶剤とは、前記本発明の樹脂の製造法の第1の態様における有機溶媒と同じ溶媒であること好ましい。
【0060】
第2の態様における有機溶媒は、本発明のフッ素樹脂に対する良溶剤または貧溶剤のいずれであってもよいが、良溶剤であることが好ましい。
【0061】
本発明の製造方法は、第1の態様及び第2の態様に共通して、前記一般式(4)で表される単量体、開始剤、有機溶媒の少なくともいずれか一つを濾過フィルター、イオン交換樹脂、金属イオン除去フィルター又は金属イオン除去剤の少なくともいずれか一つで精製した後に重合を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、着色を低減したフッ素樹脂およびフッ素樹脂の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0064】
<体積平均粒子径>
マイクロトラック社製MT3000を用い、分散媒としてメタノ-ルを使用して体積平均粒子径(単位:μm)を測定した。
<金属成分含有量>
フッ素樹脂をヘキサフルオロベンゼンに溶解した後に希酸水溶液で抽出し、Perkin Elmer製 ELAN DRC IIを用いて、金属成分(単位ppb)を測定した。
<黄色度(YI)>
窒素雰囲気下、フッ素樹脂を230℃で50分加熱プレスして厚さ200nmのプレスシートを作成し、日本電色工業製SD5000を用いて黄色度(YI)を測定した。
【0065】
(実施例1)パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子の製造
SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド1.215g(0.00288モル)、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、沈殿重合溶媒としてアサヒクリンAE-3000(旭硝子製、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)を1250gを加え、攪拌下55℃で24時間保持することで沈殿重合を行った。室温まで冷却し、精製した樹脂粒子を含む液を濾別し、アセトンで洗浄することよりパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子(樹脂A)を得た(収率:63%)。得られた樹脂粒子の体積平均粒子径、金属成分、黄色度を表2に示す。得られた樹脂粒子は流動性、充填性に優れ、金属成分が低く黄色度が低く透明性も良好であった。
【0066】
【0067】
(比較例1)パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂の製造
以下、非特許文献1に準拠してフッ素樹脂を製造した。SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド0.476g(0.00113モル)、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、重合溶媒としてヘキサフルオロベンゼン230gを入れ、攪拌下55℃で24時間保持することでラジカル溶液重合を行ったところ樹脂が溶解した粘稠な液が得られた。室温まで冷却し、粘度調整のため樹脂溶液をヘキサフルオロベンゼン1000gで希釈して樹脂希釈溶液を作成した。バット中にヘキサン3Lを加え、前記の樹脂希釈溶液をシリンジで前記ヘキサン中に押し出すことで樹脂を析出させ、パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂を得た(収率:68%)。
【0068】
得られた樹脂が不定形であるため、体積平均粒子径は測定できなかった。得られた樹脂の金属成分、黄色度を表2に示す。得られた樹脂粒子は流動性、充填性、に劣り、金属成分が多く、黄色度も高いため透明性にも課題があった。又、析出工程で使用した貧溶剤中には、貧溶剤の気化熱により凝集した水滴が確認され、系内の水分は100ppm以上あった。
【0069】
(比較例2)パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子の製造
SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1LのSUS316製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド0.775g(0.00184モル)、分散安定剤としてニューコール714SN(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩)5.289g、連鎖移動剤としてのメタノール16.300g、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、懸濁重合溶媒としてイオン交換水190.0gを加え、攪拌下55℃で24時間保持することで懸濁重合を行った。室温まで冷却し、精製した樹脂粒子を含む液を濾別し、アセトンで洗浄することよりパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子を得た(収率:85%)。得られた樹脂粒子の体積平均粒子径、金属成分、黄色度を表2に示す。得られた樹脂粒子は流動性、充填性、に優れるが金属成分が多く、黄色度も高いため透明性に課題があった。
【0070】
(実施例2)パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子の製造
SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1Lのガラス製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド1.190g(0.00282モル)、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)140.0g(0.574モル)、沈殿重合溶媒としてアサヒクリンAE-3000(旭硝子製、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル)を1250g加え、攪拌下55℃で24時間保持することで沈殿重合を行った。室温まで冷却し、精製した樹脂粒子を含む液を濾別し、アセトンで洗浄することよりパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子(樹脂A)を得た(収率:66%)。得られた樹脂粒子の体積平均粒子径、金属成分、黄色度を表2に示す。得られた樹脂粒子は金属成分が少なく、黄色度、流動性、充填性、に優れるものであった。
【0071】
(比較例3)パーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子の製造
SUS316製パドル型攪拌翼、窒素導入管および温度計を備えた1Lのガラス製オートクレーブの内部を窒素置換した。開始剤としてビス(2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンゾイル)パーオキサイド0.726g(0.00172モル)、分散安定剤としてニューコール714SN(日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩)5.314g、連鎖移動剤としてのメタノール16.280g、単量体としてパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)140.0g(0.573モル)、懸濁重合溶媒としてイオン交換水186.7gを加え、攪拌下55℃で24時間保持することで懸濁重合を行った。室温まで冷却し、精製した樹脂粒子を含む液を濾別し、アセトンで洗浄することよりパーフルオロ(4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン)樹脂粒子を得た(収率:85%)。得られた樹脂粒子の体積平均粒子径、金属成分、黄色度を表2に示す。得られた樹脂粒子は流動性、充填性、に優れるが、金属成分が多く、黄色度も高いため透明性に課題があった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、加熱時の着色を低減したフッ素樹脂およびフッ素樹脂の製造方法を提供することができる。