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特許7451961電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/50 20100101AFI20240312BHJP
   C01G 45/02 20060101ALI20240312BHJP
   C25B 1/21 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M4/50
C01G45/02
C25B1/21
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019211465
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021039930
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018223660
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019156545
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直人
(72)【発明者】
【氏名】江下 明徳
(72)【発明者】
【氏名】庄司 孝之
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-289728(JP,A)
【文献】特開2014-131947(JP,A)
【文献】特開2004-047445(JP,A)
【文献】特表2005-520290(JP,A)
【文献】特開2011-068552(JP,A)
【文献】加納 源太郎,電解二酸化マンガンの品質特性に及ぼす硫酸濃度の影響,電気化学および工業物理化学,1970年12月05日,38,12,PP.932-938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 45/02
C25B 1/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソ細孔の平均径が6.5nm以上10nm以下であり、アルカリ電位が290mV以上350mV以下であることを特徴とする電解二酸化マンガン。
【請求項2】
硫酸根(SO)の含有量が1.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項3】
ナトリウム含有量が10重量ppm以上5,000重量ppm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項4】
構造水量が3.70重量%以上であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項5】
ミクロ細孔の面積が46m/g以上60m/g以下であることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガン。
【請求項6】
硫酸-硫酸マンガン混合電解液中の電解により二酸化マンガンを製造する方法であって、電解液中のマンガン/硫酸濃度比を電解開始時から電解終了時まで0.50以下の一定に保持しつつ、電解液中の硫酸濃度を低濃度から高濃度へ連続的に増加させることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項7】
電解時の電解液の温度を80℃以上98℃以下とすることを特徴とする請求項6に記載の電解二酸化マンガンの製造方法。
【請求項8】
請求項1~請求項5のいずれかの項に記載の電解二酸化マンガンを含むことを特徴とする電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項8に記載の電池用正極活物質を含むことを特徴とする電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途に関するものであり、より詳しくは、例えば、マンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池において、正極活物質として使用される電解二酸化マンガン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化マンガンは、例えば、マンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として知られており、保存性に優れ、かつ安価であるという利点を有する。特に、電解二酸化マンガンを正極活物質として用いたアルカリマンガン乾電池は、低負荷放電・中負荷放電・高負荷放電と幅広い負荷における放電特性に優れていることから、電子カメラ、携帯情報機器、さらにはゲーム機や玩具にまで幅広く使用されており、近年では高負荷及び中負荷用途での更なる性能向上が望まれている。
【0003】
これまで、アルカリマンガン乾電池の高負荷特性を高くするため、CuKα線を光源とするXRD測定による(110)面の半値幅が1.8°以上2.2°未満で、かつX線回折ピーク(110)/(021)のピーク強度比が0.70以上1.00以下であり、さらにJIS-pH(JIS K1467)が1.5以上5.0未満であることを特徴とする電解二酸化マンガンが提案されている(特許文献1)。また、40wt%KOH水溶液中で水銀/酸化水銀参照電極を基準として測定した時の電位(以下、アルカリ電位)が高い電解二酸化マンガンも提案されている(特許文献2~4)。
【0004】
また、アルカリマンガン乾電池の中負荷特性を高くするため、40重量%KOH水溶液中で水銀/酸化水銀参照電極を基準として測定したときの電位が280mV以上310mV未満であり、CuKα線を光源とするXRD測定における(110)面の半価全幅(FWHM)が2.2°以上2.9°以下であることを特徴とする電解二酸化マンガンが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-179583号公報
【文献】特許4827501号公報
【文献】米国特許6527941号公報
【文献】特許5428163号公報
【文献】特許5909845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~5の特徴を有する電解二酸化マンガンでも高負荷特性及び中負荷特性は十分ではなく、高負荷特性及び中負荷特性をより高くすることができる電解二酸化マンガンが望まれていた。
【0007】
本発明の目的は、電池性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性に優れるマンガン乾電池及びアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される電解二酸化マンガンであって、従来とは異なりメソ細孔の平均径が大きく、かつ、アルカリ電位が高い電解二酸化マンガン及びその製造方法並びにその用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用される電解二酸化マンガンについて鋭意検討を重ねた結果、メソ細孔の平均径が6.5nm以上10nm以下であり、アルカリ電位が290mV以上340mV以下であることで、電池性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性に優れる正極材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、メソ細孔の平均径が6.5nm以上10nm以下であり、アルカリ電位が290mV以上350mV以下である電解二酸化マンガン及びその製造方法である。
【0009】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の電解二酸化マンガンは、メソ細孔の平均径が6.5nm以上10nm以下である。メソ細孔の平均径が6.5nmよりも小さいと、放電時に電解二酸化マンガン粒子内に保持されている電解液の濃度分極が大きくなって電圧降下が大きくなり、その結果、電池性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性が低くなり易くなるため好ましくない。メソ細孔の平均径が10nmよりも大きくなると、電解二酸化マンガン粒子の密度が低下し易くなり、その結果、乾電池への充填性が低下し易くなるため好ましくない。高負荷放電特性及び中負荷放電特性をより高くするため、メソ細孔の平均径は6.5nm以上9.5nm以下であることが好ましく、6.5nm以上9.0nm以下であることがより好ましい。メソ細孔の平均径の測定方法は、実施例の<メソ細孔の平均径の測定>により行う。
【0011】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリ電位が290mV以上350mV以下である。アルカリ電位が290mVより低いと、電池性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性が低くなり易くなるため好ましくない。アルカリ電位が350mVよりも高くなると、電池性能、特に保存特性が低くなり易くなるため好ましくない。アルカリ電位は295mV以上335mV以下であることが好ましく、300mV以上330mV以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリマンガン乾電池とした際に高負荷放電特性がより優れるとともに、乾電池の保存特性を高く維持するため、硫酸根(SO)の含有量が1.5重量%以下であることが好ましく、1.3重量%以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリマンガン乾電池とした際に缶体等の金属材料に対する腐食性がより低くなるとともに、アルカリマンガン乾電池とした際の高負荷放電特性をより維持できるため、ナトリウム含有量が10重量ppm以上5,000重量ppm以下であることが好ましく、10重量ppm以上3,000重量ppm以下であることがより好ましい。電解二酸化マンガンに含まれるナトリウムは主に中和剤として使用される水酸化ナトリウムに由来する。
【0014】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリマンガン乾電池とした際の高負荷放電特性をより維持できるため、構造水量が3.70重量%以上であることが好ましく、4.10重量%以上であることがより好ましい。ここに、構造水量とは、熱重量分析における110℃~320℃でのHO脱離量で定量されるものを指す。熱重量分析の温度範囲を110℃以上とすることにより低い温度で脱離する物理吸着のHO(付着水)を除外し、上限を320℃とすることでMnOが還元されて放出されるOとも区別される。構造水量の測定方法は、実施例の<構造水量の測定>により行う。
【0015】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリマンガン乾電池とした際の高負荷放電特性をより維持できるため、ミクロ細孔の面積が46m/g以上60m/g以下であることが好ましく、46m/g以上53m/g以下であることがより好ましい。メソ細孔の平均径の測定方法は、実施例の<ミクロ細孔の面積の測定>により行う。
【0016】
本発明の電解二酸化マンガンは、乾電池の高負荷放電特性をより高く維持し、乾電池正極合剤の充填性をより高く維持するため、BET比表面積が20m/g以上30m/g以下であることが好ましく、24m/g以上27m/g以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリマンガン乾電池とした際の高負荷・中負荷・低負荷放電特性をより向上させやすくなるため、平均粒子径が20μm以上80μm以下であることが好ましく、20μm以上70μm以下であることがより好ましい。
【0018】
次に、本発明の電解二酸化マンガンの製造方法について説明する。
【0019】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解液中のマンガン/硫酸濃度比を電解開始時から電解終了時まで0.50以下の一定に保持しつつ、電解液中の硫酸濃度を低濃度から高濃度へ連続的に増加させる。このことにより、メソ細孔の平均径が6.5nm以上10nm以下であり、アルカリ電位が290mV以上350mV以下である電解二酸化マンガンを製造することができる。
【0020】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法では、電解液中の硫酸濃度を低濃度から高濃度へ連続的に増加させるものであるが、低濃度として、電解開始時に硫酸濃度を15g/L以上40g/L以下とし、高濃度として、電解終了時に硫酸濃度を45g/L以上75g/L以下とすることが好ましく、電解開始時に硫酸濃度を20g/L以上40g/L以下とし、高濃度として、電解終了時に硫酸濃度を45g/L以上65g/L以下とすることがより好ましい。
【0021】
電解槽内の電解液には硫酸-硫酸マンガン混合溶液を使用する。なお、ここでいう硫酸濃度とは、硫酸マンガンの硫酸イオンは除いた値である。
【0022】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、特に限定するものではないが、電解時の電流効率を高くするとともに電解液の蒸発を抑制するため、電解液の温度が80℃以上98℃以下であることが好ましく、90℃以上97℃以下であることがより好ましい。
【0023】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解補給液中のマンガン濃度には限定はないが、例えば、20g/L以上60g/L以下が好ましく、30g/L以上50g/L以下がさらに好ましい。
【0024】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解電流密度には限定はないが、生産効率を高くして電解二酸化マンガンの電着状態を良好にするため、0.2A/dm以上0.7A/dm以下とすることが好ましく、0.3A/dm以上0.6A/dm以下とすることがより好ましい。
【0025】
本発明の電解二酸化マンガンの製造方法は、電解で得られた電解二酸化マンガンを粉砕する。粉砕には、例えば、ローラーミル、ジェットミル等が使用できる。ローラーミルとしては、例えば、遠心式ローラーミル、竪型のロッシェミル等が挙げられる。ローラーミルのうち、コストや耐久性に優れ、工業的な使用に適しているため、マイクロビッカース硬度が400HV(JIS Z 2244)以上の硬度を有する原料を粉砕可能で、20kW以上150kW以下のミルモーターを有するローラーミルが好ましい。
【0026】
本発明の電解二酸化マンガンをアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用する方法には特に制限はなく、周知の方法で添加物と混合して正極合剤として用いることができる。例えば、電解二酸化マンガン(正極活物質)に導電性を付与するための黒鉛、電解液等を加えた混合粉末を調製し、円盤状またはリング状に加圧成型した粉末成型体として正極合剤とすることができる。正極合剤と負極、負極集電体、セパレータ、電解液を正極缶内に入れ、封止することにより電池(乾電池)となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の電解二酸化マンガンは、アルカリ乾電池の正極材料として用いた場合に電池性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性に優れ、さらに、本発明の製造方法により本発明の電解二酸化マンガンを得ることができる。
【実施例
【0028】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
<メソ細孔の平均径の測定>
電解二酸化マンガンのメソ細孔の平均径は、次のように測定した。
【0030】
高精度・多検体ガス吸着量測定装置(商品名:Autosorb-iQ、アントンパール社製)を使用してメソ細孔径を測定した。電解二酸化マンガンを真空排気しながら150℃、4時間脱水処理を行った後、アルゴンを吸着媒として87K、0.0001~760Torrの圧力範囲でアルゴン吸着量を測定した。得られた吸着等温線にNLDFT法を適用して細孔分布を算出し、2.02~49.03nmの範囲の細孔の細孔体積及び細孔面積をそれぞれメソ細孔体積及びメソ細孔面積とした。NLDFT法ではゼオライト/シリカのシリンダー状細孔モデルを用いてフィッティングを行った。メソ細孔の平均径は、(4×メソ細孔体積/メソ細孔面積)から算出した。
【0031】
<アルカリ電位の測定>
電解二酸化マンガンのアルカリ電位は、40wt%KOH水溶液中で次のように測定した。
【0032】
電解二酸化マンガン3gに導電剤として黒鉛を0.9g加えて混合粉体とし、この混合粉体に40wt%KOH水溶液4mlを加え、電解二酸化マンガンと黒鉛とKOH水溶液の混合物スラリーとした。この混合物スラリーの電位を水銀/酸化水銀参照電極を基準として測定し、得られた値を電解二酸化マンガンのアルカリ電位とした。
【0033】
<硫酸根、ナトリウム含有量の測定>
電解二酸化マンガンの硫酸根、ナトリウム含有量は、電解二酸化マンガンを硝酸と過酸化水素水に溶解し、この溶解液をICPで測定して定量した。
【0034】
<構造水量の測定>
電解二酸化マンガンの構造水量は、熱重量分析装置(商品名:TG/DTA6300、セイコーインスツルメンツ製)を使用して次のように測定した。
【0035】
電解二酸化マンガンを熱重量分析装置内において窒素流通下、110℃まで昇温して16時間保持することで吸着水を除去した。次に240℃まで昇温し12時間保持し、さらに320℃まで昇温し12時間保持し、110℃~320℃までの重量減少を構造水の重量とした。次に620℃まで昇温し1時間保持することで電解二酸化マンガンから脱離できる物質を除去し、乾燥後の重量とした。構造水の重量を乾燥後の重量で除することにより、電解二酸化マンガンの構造水量を求めた。なお、測定における昇温速度は10℃/分とした。110℃から320℃までの脱離物がHOであることは、脱離物の質量分析により確認した。
【0036】
<ミクロ細孔の面積の測定>
電解二酸化マンガンのミクロ細孔の面積は、次のように測定した。
【0037】
上述のNLDFT法によって算出された細孔分布において、0.41~2.02nmの範囲の細孔の細孔面積をミクロ細孔の面積とした。
【0038】
<BET比表面積の測定>
電解二酸化マンガンのBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。測定装置にはガス吸着式比表面積測定装置(商品名:フローソーブIII、島津製作所製)を用いた。測定に先立ち、150℃で1時間加熱することで電解二酸化マンガンを脱水処理した。
【0039】
<平均粒子径の測定>
電解二酸化マンガンの平均粒子径(50%径)は、粒度分布測定装置(商品名:マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラックベル製)を使用してHRAモードで測定した。測定時は超音波分散等の分散処理は行わなかった。
【0040】
<高負荷放電特性、中負荷放電特性の測定>
高負荷放電特性及び中負荷放電特性は次のように測定した。
【0041】
電解二酸化マンガン65gと黒鉛2.9gと37wt%水酸化カリウム水溶液5.1gをV型混合器で20分間混合した後、ローラーコンパクタを使用して圧力30MPaで圧延し、さらに篩で180μm~1mmに分級して正極合剤顆粒を得た。正極合剤顆粒3.5gを、外径13mmφ、内径9mmφの金型を使用して2.7t/cmで加圧してリング状成型体を作製した。リング状成型体3個を単三乾電池用の正極缶に入れた後、2.7t/cmで加圧して二次成型を行った。
【0042】
リング状に二次成型した正極合剤の内側に円筒状セパレータをセットし、乾電池底部に37wt%水酸化カリウム水溶液を1.6g滴下して30分間静置し、ポリアクリル酸を溶解した37wt%水酸化カリウム水溶液にZn粒子を68wt%混合した負極ゲル6gを円筒状セパレータの内側に注入した後、集電棒を備えた負極缶で封止し乾電池を作製した。乾電池を20℃の恒温器内に保管して7日間静置した後、米国国家標準協会(ANSI)の定める1.5W放電方法に従い1.5Wパルス回数を測定して高負荷放電特性とし、0.25A放電方法に従い放電容量を測定して中負荷放電特性とした。測定は20℃で行った。
【0043】
実施例1
加温装置を有し、陽極としてチタン板、陰極として黒鉛板をそれぞれ向かい合うように懸垂せしめた電解槽を用いて電解を行った。
【0044】
電解補給液をマンガン濃度45g/Lの硫酸マンガン水溶液とし、電解電流密度0.34A/dmで電解液中のマンガン/硫酸濃度比を0.25に保持しつつ、電解液の硫酸濃度を電解開始時と電解終了時でそれぞれ38g/L、63g/Lと連続的に増加させて15日間電解を行った。電解液の温度は硫酸濃度が40g/Lに到達するまでは93℃とし、40g/Lに到達した時点で97℃に変更した。
【0045】
電解後、電着した板状の電解二酸化マンガンを純水にて洗浄後、粉砕して電解二酸化マンガンの粉砕物を得た。次に、この電解二酸化マンガン粉砕物を水槽に入れて撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を添加し、そのスラリーのpHを4.2となるようにして中和処理を行った。次に、電解二酸化マンガンの水洗、ろ過分離、乾燥を行った後、目開き63μmの篩を通し、電解二酸化マンガン粉末を得た。得られた電解二酸化マンガンの評価結果(メソ細孔の平均径、アルカリ電位、硫酸根の含有量、ナトリウム含有量、構造水の含有量、ミクロ細孔の面積、BET比表面積、平均粒子径、高負荷放電特性、中負荷放電特性をいう、以下同じ)を表1に示した。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例2
電解開始時の硫酸濃度を30g/Lとしたことと、電解終了時の硫酸濃度を49g/Lとしたこと以外は実施例1と同様な方法で電解を行った。得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表1に示した。
【0048】
実施例3
電解液のマンガン/硫酸濃度比を0.34に保持したことと、電解開始時の硫酸濃度を38g/Lとしたことと、電解終了時の硫酸濃度を56g/Lとしたこと以外は実施例1と同様な方法で電解を行った。得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表1に示した。
【0049】
比較例1
電解液中のマンガン/硫酸濃度比を前半10日間を0.75、後半5日間を0.34としたことと、電解液の温度を電解開始時から終了時まで97℃に保持したこと以外は実施例3と同様な方法で電解を行った。得られた電解二酸化マンガンの評価結果を表1に示した。
【0050】
表1から、実施例1~3のマンガン/硫酸濃度比及び硫酸濃度で電解二酸化マンガンを製造することにより、比較例1と比較してメソ細孔の平均径が大きく、アルカリ電位が高く、高負荷放電特性及び中負荷放電特性が高い電解二酸化マンガンを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の電解二酸化マンガンは特異的なメソ細孔の平均径及びアルカリ電位を有するため、放電性能、特に高負荷放電特性及び中負荷放電特性に優れたマンガン乾電池、特にアルカリマンガン乾電池の正極活物質として使用することができる。