(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】Cu合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20240312BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20240312BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C22C9/00
C22F1/08 B
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 630M
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
(21)【出願番号】P 2019214405
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2019005123
(32)【優先日】2019-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】山本 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】外木 達也
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢一
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202261(JP,A)
【文献】国際公開第2011/036804(WO,A1)
【文献】特開2015-206075(JP,A)
【文献】特開2016-125093(JP,A)
【文献】特許第5427971(JP,B1)
【文献】特許第5380621(JP,B1)
【文献】特許第4550148(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、導電率が98%IACS以上であり、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径が50μm以上300μm以下であるCu合金板。
【請求項2】
0.003質量%以上0.010質量%未満のZrと、0.03質量%以上0.08質量%以下のAgを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、導電率が98%IACS以上であり、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径が50μm以上300μm以下であるCu合金板。
【請求項3】
0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu合金を鋳造し、または、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrと、0.03質量%以上0.08質量%以下のAgを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu合金を鋳造し、熱間圧延を行なった後、熱処理を挿んだ冷間圧延により、最終的な製品板厚の1.4倍以上2.0倍以下の板厚
まで加工して得た素材を、750℃以上950℃未満で加熱した後、毎分50℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する熱処理を行ない、平均結晶粒径を50μm以上300μm以下にした後、前記素材を前記製品板厚まで圧延する請求項1または請求項2に記載のCu合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック配線基板等の配線パターンに用いられるCu合金板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイスの半導体素子を実装する基板として、セラミック配線基板が広く用いられている。このセラミック配線基板は、セラミック基板と、セラミック基板上に設けられ、例えば、エッチングにより所定箇所が除去されて配線パターン(Cu配線)になるCu板とを備えている。このCu板としては、無酸素銅やタフピッチ銅等の純Cu板が用いられる他、Ni、Zn、ZrまたはSnの何れかを含むCu合金板等が用いられている。
【0003】
そして、セラミック基板とCu板との接合方法は、例えば、Tiなどの活性金属を含有したろう材を用いて接合する活性金属ろう付け法がある。また、別の接合方法として、ろう材を用いずにセラミック基板と表面を酸化させたCu板とを接触配置して加熱して、界面に酸化Cuからなる融液層を形成することで接合する直接接合法がある。
上記の各接合方法は、セラミック基板とCu板とを、ろう材もしくは酸化Cuを介して積層して積層体とし、この積層体を、加熱炉中で、例えば、500℃以上1050℃以下の条件で加熱接合される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、セラミック基板とCu板の接合は、上述の加熱接合によって実施されるため、その処理中にCu板の結晶粒が成長して粗大化するという現象が起こる場合がある。例えば、純Cu板の場合は、上述の加熱接合を経ると、配線パターンとなる圧延面の平均結晶粒径が粗大化し、目視で確認できるほどの大きさになる場合がある。
粗大化したCuの結晶粒は、配線パターンの外観検査等で結晶粒界を欠陥であると誤認される不具合が生じる。このため、セラミック配線基板に用いられるCu板は、上述の加熱接合を受けた後でも結晶粒の粗大化を抑える必要がある。
【0006】
本発明の目的は、セラミック基板との接合で実施される加熱接合を経ても、Cu板の圧延面における結晶粒の粗大化を抑制できる、セラミック配線基板等の配線パターンに好適な新規のCu合金板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は次のように構成される。
本発明のCu合金板は、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、導電率が98%IACS以上であり、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径が50μm以上300μm以下である。
【0008】
また、本発明のCu合金板は、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrと、0.03質量%以上0.08質量%以下のAgを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、導電率が98%IACS以上であり、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径が50μm以上300μm以下である。
【0009】
本発明のCu合金板は、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu合金を鋳造し、または、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrと、0.03質量%以上0.08質量%以下のAgを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu合金を鋳造し、熱間圧延を行なった後、熱処理を挿んだ冷間圧延により、最終的な製品板厚の1.4倍以上2.0倍以下の板厚まで加工して得た素材を、750℃以上950℃未満で加熱した後、毎分50℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する熱処理を行ない、平均結晶粒径を50μm以上300μm以下にした後、前記素材を前記製品板厚まで圧延することで得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セラミック基板とCu合金板との接合のための加熱接合を経ても、Cu合金板の圧延面における結晶粒が粗大化を抑制することができ、セラミック配線基板等の配線パターンの製造に有用な技術となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCu合金板は、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、導電率が98%IACS以上であり、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径が50μm以上300μm以下である。
【0012】
上述したように、セラミック配線基板の配線パターンを形成するCu板として、従来から用いられている純Cu板は、セラミック基板との接合のための加熱接合を経ると、結晶粒が粗大化する場合がある。ここで、本発明で規定する900℃で1時間加熱する条件は、セラミック基板とCu合金板とを接合する際の加熱接合を想定した温度で、十分な時間加熱する条件として選択したものである。
【0013】
Cu合金板の圧延面における結晶粒が粗大化した場合は、結晶粒が目視で確認できるほどの大きさになり、Cu合金板の表面は結晶粒界が目立った外観を呈するようになる。このような状態のCu合金板の表面について、外観検査を機械的な画像処理で実施した場合は、結晶粒界と疵との判別が難しくなり、結晶粒界をCu合金板表面の疵と誤認することが数多く発生する。
本発明のCu合金板は、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径を300μm以下にする。これにより、本発明のCu合金板は、その圧延面の結晶粒が目視で確認することの困難な程に十分細かく、外観検査の画像処理において、結晶粒界と疵との判別が容易になる。また、上記と同様の理由から、本発明の実施形態にかかるCu合金板は、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径を280μm以下が好ましく、260μm以下がより好ましい。
【0014】
本発明のCu合金板は、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径を50μm以上にすることで、過度な硬さの上昇が抑制され、Cu合金板の割れや欠けの誘発を抑制できる。
また、セラミック基板とCu合金板では熱膨張率が異なるため、上述の加熱接合により接合されたセラミック基板とCu合金板との接合体が冷却される際に、Cu合金板がセラミック基板よりもより大きく収縮しようとする。本発明のCu合金板は、上述の平均結晶粒径を50μm以上にすることで、加熱接合後の冷却における、セラミック基板とCu合金板の収縮量の差を吸収させることができ、接合部の剥がれやセラミック基板の破損を抑制することができる。
【0015】
また、セラミック配線基板は、パワーデバイス等に使用される場合において、搭載した半導体素子が通電によって発熱して温度上昇した際に、セラミック基板とCu合金板との熱膨張差や、Cu合金板における結晶粒成長の助長化によって、接合部に剥がれようとする力が生じる場合がある。
これに対し、本発明のCu合金板は、Cu合金板の900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径を50μm以上にすることで、半導体素子の発熱によって生じる、セラミック基板とCu合金板との熱膨張差を緩和できることに加え、Cu合金板における結晶粒成長の助長化を抑制できる。このため、本発明のCu合金板は、セラミック基板との接合部の剥がれや、セラミック基板の破損を抑制できる。また、過度な硬さの上昇を抑え、Cu合金板を製造する際のハンドリング時に生じる割れや欠けを抑制する観点から、本発明の実施形態にかかるCu合金板は、900℃で1時間加熱した後の圧延面における平均結晶粒径を200μm以上にすることが好ましく、220μm以上がより好ましい。
【0016】
本発明のCu合金板は、導電率が98%IACS以上である。セラミック配線基板の配線パターンに用いられるCu板として、上述した純Cu板の導電率は、100%IACS前後であり、本発明のCu合金板は、これに近似した優れた導電性を維持する。ここで、導電性の良否は、熱伝導性の良否と強い相関関係があるため、本発明のCu合金板は、熱伝導性においても純Cu板と同等の優れた特性を維持するものである。
そして、パワーデバイスの実装基板として用いられるセラミック配線基板では、Cu配線に大きな電流が流れるため、上述した純Cu板に相当する優れた導電性や熱伝導性を具備する材料を、配線パターンの材料として用いることが求められる。このため、本発明のCu合金板は、こうした要求に合ったものであるといえる。そして、本発明のCu合金板は、導電率が99%IACS以上であることが好ましい。
【0017】
本発明のCu合金板は、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
Cu合金板中に含まれる微量成分の種類とその含有量は、Cu合金板の導電率や加熱接合した後の結晶粒径に大きく影響を及ぼす。一般に、微量成分の含有量が多くなるほど導電率は低下する一方、同時に、加熱接合において結晶粒が粗大化することを抑制する効果が得られる。
本発明のCu合金板は、上記の特性を得るためにZrを採用する。そして、Cu合金板におけるZrの含有量は、0.003質量%以上にすることで、900℃で1時間加熱した後の平均結晶粒径を300μm以下に抑えることができる。また、上記と同様の理由から、Zrの含有量は、0.005質量%以上にすることが好ましい。
一方、Cu合金板へのZrの含有量は、0.010質量%未満にすることで、98%IACS以上の導電率を安定して維持することができる。また、Cu合金板へのZrの含有量は、0.010質量%未満にすることで、過度な硬さの上昇が抑制され、Cu合金板の切断時のバリの発生を抑制できる上、割れや欠けの誘発を抑制できる。また、上記と同様の理由から、Zrの含有量は、0.009質量%以下にするこが好ましい。
【0018】
また、本発明の実施形態にかかるCu合金板は、上記のZrに加えて、0.03質量%以上0.08質量%以下のAgを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
Agは、Zrよりも含有量に対する導電率の低下が少ない元素である。また、Agは、高温加熱において結晶粒が粗大化することを抑制する効果も持つ。本発明の実施形態にかかるCu合金板は、Zrと共にAgを複合で含有させることにより、導電率のさらなる低下を抑制しつつ、結晶粒の粗大化を抑制する効果を高めることができる。
ここで、Cu合金板へのAgの含有量は、0.03質量%以上にすることで、結晶粒の粗大化を抑制する効果を維持することができる。上記と同様の理由から、Agの含有量は、0.04質量%以上にすることが好ましい。
一方、Cu合金板へのAgの含有量は、0.08質量%以下にすることで、導電率の低下を抑制できる。また、上記と同様の理由から、Agの含有量は、0.06質量%以下にすることが好ましい。
【0019】
次に、本発明のCu合金板の製造方法について説明する。
本発明のCu合金板は、上述した添加元素の含有量を調整し、0.003質量%以上0.010質量%未満のZrを含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなるCu合金を鋳造し、これに熱間圧延を行なった後、熱処理を挿んだ冷間圧延を行ない、目的の製品板厚まで加工することにより得る。ここで、本発明の意図する特性を安定して得るためには、先ず、熱間圧延を行なった後、熱処理を挿んだ冷間圧延により、最終的な製品板厚の1.4倍以上2.0倍以下の板厚まで加工して素材を得る。そして、この素材を750℃以上950℃未満に加熱してから、毎分50℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する熱処理を行ない、圧延面における平均結晶粒径を50μm以上300μm以下に調整する。そして、この素材を製品板厚まで冷間圧延することで、本発明のCu合金板を得ることができる。
【0020】
本発明のCu合金板の製造方法において、熱処理を行なう素材の板厚を、製品板厚の1.4倍以上2.0倍以下にするのは、熱処理後の冷間圧延において、Cu合金板に蓄積される歪みの量を適正な範囲にするためである。
ここで、結晶粒の粗大化に影響する因子の一つとして、Cu合金板の内部に蓄積された歪みがあり、この歪みの蓄積量が多くなると、結晶粒が粗大化しやすくなる。一方、歪みの蓄積量が少なくなると、Cu合金板は軟らかくなるため、切断時にバリを発生させたり、ハンドリング時に変形を誘発させたりする等、製造する際の取り扱いが難しくなる。
【0021】
本発明の製造方法において、熱処理を行なう素材の板厚は、得ようとする製品板厚の2.0倍以下にすることで、冷間圧延でCu合金板に蓄積される歪みの量を抑制でき、得られるCu合金板を加熱接合した際にも結晶粒の粗大化を抑制できる。
また、本発明の製造方法において、熱処理を行なう素材の板厚は、得ようとする製品板厚の1.4倍以上にすることで、Cu合金板に蓄積される歪みの量を適性化でき、Cu合金板の硬さを適正に維持でき、切断時のバリの発生を抑制できる上、ハンドリング時の変形を抑制できる等、製造する際の取り扱いが容易になる。
【0022】
本発明の製造方法では、素材に施す熱処理を、750℃以上950℃未満の条件で行なう。熱処理の加熱温度は、750℃以上にすることで、その目的である加工中の歪みの開放を促進することができ、続く冷間圧延で疵が発生することを抑制できる他、加熱接合時の結晶粒粗大化を抑制できる。
一方、熱処理の加熱温度は、950℃未満にすることで、Zrの析出物を微細にすることができ、加熱接合時の結晶粒粗大化を抑制できることに加え、導電率の低下を抑えることもできる。
【0023】
Cu合金板中のZrは、Cuに固溶した状態、もしくはZr単体や化合物として析出した状態で存在する。ここで、析出した状態で存在するZrは、微細な析出物として存在する場合には加熱接合での結晶粒粗大化を抑える効果に寄与する一方、粗大に成長した析出物として存在する場合には結晶粒粗大化を抑える効果に寄与することは困難となる。
本発明の主旨である、加熱接合後の結晶粒粗大化を抑制する効果を安定して得るためには、Zrの析出物を大きく成長させないことが重要である。ここで、Cu中のZrは、400℃以上600℃以下の範囲で加熱保持されると析出し、析出物の成長が進む。このため、本発明の製造方法において、400℃以上600℃以下の温度領域で加熱される時間をなるべく短くすることが重要である。
したがって、本発明の製造方法において、素材に施す熱処理は、毎分50℃以上の降温速度で300℃以下まで冷却する。これにより、本発明の製造方法は、得られるCu合金板のZrの析出物の成長を抑制でき、加熱接合後の結晶粒粗大化を抑制できる。
【0024】
本発明のCu合金板は、セラミック配線基板の配線パターンとなる部材として好適である。セラミック配線基板は、Cu板またはCu合金板と、セラミック基板とが接合されている。ここで、セラミック基板としては、例えば、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)等で構成されるセラミック焼結体が用いられる。
本発明のCu合金板は、セラミック基板との間に、接合層を介して接合される。そして、その接合層は、直接接合法または活性金属ろう付け法等によって形成できる。
【0025】
直接接合法は、接合面を酸化させたCu合金板と、セラミック基板を積層して所定の条件(例えば、500℃以上1100℃以下の温度で1分加熱)で加熱して、接合界面に酸化Cuからなる融液層を形成した後に冷却することで接合する方法である。そして、本発明のCu合金板に、この直接接合法を適用すると、Cu合金板とセラミック基板の間に形成される接合層は、酸化Cu合金となる。
また、活性金属ろう付け法は、Cu板とセラミック基板をTiなどの活性金属を含むろう材を挿んで積層し、所定の条件(例えば800℃以上1000℃以下の温度で5分加熱など)で加熱して、ろう材を溶融した後に冷却することで接合する方法である。そして、本発明のCu合金板に、この活性金属ろう付け法を適用すると、Cu合金板とセラミック基板の間に形成される接合層は、ろう材層となる。
【実施例】
【0026】
無酸素銅を母材にして、表1に示すZr、Agを添加し、高周波溶解炉を用いて窒素雰囲気下で溶製し、厚さ25mm、幅30mm、長さ150mmのインゴットを得た。
このインゴットを加熱して、厚さ5mmまで熱間圧延した後、冷間圧延によって厚さ0.5mmまで加工して、Cu合金素材を得た。各Cu合金素材に対して、表1に示す条件で加熱した後、各降温速度で300℃以下まで冷却する熱処理を行なった。
熱処理後の各Cu合金素材の結晶組織を観察し、熱処理後の圧延面における平均結晶粒径を測定した。
【0027】
平均結晶粒径の測定は、JIS-H0501「伸銅品結晶粒度試験方法」に規定された切断法によって実施した。具体的には、被測定試料の圧延面を研磨後にエッチングして結晶組織を鮮明化し、その結晶組織を金属顕微鏡で25倍に拡大して撮影した。そして、その結晶組織の写像(写真)上において、その写像(写真)の中心を通り互いが直交するように、その写像(写真)の水平方向(圧延方向)および上下方向(圧延幅方向)に直線を引いた。次いで、水平方向の直線の写像(写真)内の線分の長さL1と、上下方向の直線の写像(写真)内の線分の長さL2を求め、線分の全長L(L1+L2)を算定した。また、長さL1の線分が通過する結晶粒の個数P1および長さL2の線分が通過する結晶粒の個数P2を求め、結晶粒の総数P(P1+P2)を算定した。そして、結晶粒1個あたりの切断長さ、つまり、全長L/総数Pの値を求め、その値を平均結晶粒径とした。
【0028】
そして、上記で得た各Cu合金素材について、表1の板厚比欄に示した熱処理前板厚/製品板厚の値に合わせて冷間圧延をして、本発明例となる試料No.1~No.10、従来例となる試料No.11、および比較例となる試料No.12~No.24のCu合金板を得た。
【0029】
各Cu合金板の導電率を測定した。また、各Cu合金板を900℃で1時間加熱し、圧延面の結晶組織を観察し、平均結晶粒径を測定した。その結果を表1に示す。
従来例となる試料No.11の純CuからなるCu板は、900℃で1時間加熱後の平均結晶径が700μmを超える程度まで大きく成長していた。
比較例となる試料No.12、No.13、No.15、No.22~No.24は、いずれも、導電率が96%IACS以下であった。また、比較例となる試料No.14、No.16~No.24は、いずれも、900℃で1時間加熱後の平均結晶粒径が300μmを超えていた。
【0030】
これに対して、本発明例となるCu合金板は、セラミック基板とCu合金板とを接合する際の熱処理を想定した900℃で1時間の加熱接合を経ても、平均結晶粒径が300μm以下であった。このため、本発明のCu合金板は、圧延面の結晶粒の粗大化が抑えられ、外観検査の画像処理において、結晶粒界が欠陥であると誤認される不具合が抑制できる。
また、本発明のCu合金板は、従来の純Cu板に相当する優れた導電性を維持できることも確認できた。
【0031】