IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社の特許一覧

特許7451969樹脂組成物、硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/04 20060101AFI20240312BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20240312BHJP
   C08K 5/3472 20060101ALI20240312BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240312BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20240312BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L79/04 Z
C08K5/3445
C08K5/3472
C08G73/10
C09D179/08
C09D7/63
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019216358
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021084992
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】398008295
【氏名又は名称】HDマイクロシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 篤太郎
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-194677(JP,A)
【文献】特開2000-212280(JP,A)
【文献】特開2007-310201(JP,A)
【文献】特開2019-123864(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209177(WO,A1)
【文献】特開2012-141447(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/04
C08K 5/3445
C08K 5/3472
C08G 73/10
C09D 179/08
C09D 7/63
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体と、
(B)ベンゾトリアゾール構造を含む化合物及び
テトラゾール構造を含む化合物と
を含有する樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Xは1以上の芳香族基を有する4価の基であって、-COOR基と-CONH-基とは互いにオルト位置にあり、-COOR基と-CO-基とは互いにオルト位置にある。Yは2価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基である。)
【請求項2】
及びRが水素原子である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
が1~3の芳香族基を有する4価の基である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記テトラゾール構造を含む化合物が、5-アミノ-1H-テトラゾール、及び5-メチル-1H-テトラゾールからなる群から選択される1以上である請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記テトラゾール構造を含む化合物が、5-アミノ-1H-テトラゾールである請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ベンゾトリアゾール構造を含む化合物がベンゾトリアゾールである請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
さらに溶剤を含む請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を基板上に塗布、乾燥して樹脂膜を形成する工程と、
前記樹脂膜を加熱処理する工程と、を含む硬化物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化した硬化物。
【請求項10】
請求項9に記載の硬化物を用いて作製されたカバーコート層又は表面保護膜。
【請求項11】
請求項10に記載のカバーコート層又は表面保護膜を含む電子部品。
【請求項12】
パワーモジュールである請求項11に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、その耐熱性から主に半導体素子の絶縁体として使用されており、現在ではパソコン、スマートフォン、自動車、テレビ等の電子機器に欠かせない化学材料となっている。
近年、ポリイミド樹脂はパワーモジュールへの適用が期待されている。
パワーモジュールは、民生機器用途のDC-DCコンバータ、車載用途又はエアコン用途等のインバータ、電車又は新幹線といった乗り物及びその送配電など多くの製品に適用され、その適用範囲と市場規模は増加している。
【0003】
特許文献1には、ポリイミド前駆体、プリン誘導体及び感光剤を含む樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-194520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、保存安定性に優れる樹脂組成物あって、硬化後及びプレッシャークッカー試験後の外観の変色を抑制した硬化物を形成できる樹脂組成物を提供することである。また、その硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
パワーモジュールでは、小型化、低熱抵抗及び高信頼性を達成するために、半導体チップとDirect Copper Bonding(DBC)基板と、を銅ピンで接続し、エポキシ樹脂等で封止する構造が検討されている。
この構造ではDCB基板上に形成された銅配線、硬化物を含む半導体チップ及び銅ピンで配線経路が形成されている。そのため、その周辺材料にはパワーモジュールの高電圧、高温条件に晒されて、銅上の硬化物の変色及び銅の変色の少なくとも一方を起こすことを、本発明者らは見出した。
また、本発明者らは、上記変色について対策する際に、樹脂組成物の保存安定性が低下する可能性があることを見出した。
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の成分の組み合わせにより、保存安定性を向上し、銅上の硬化物又は銅の変色を抑制する樹脂組成物を発明するに至った。
【0007】
本発明によれば、以下の樹脂組成物等が提供される。
1.(A)下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体と、
(B)トリアゾール構造を含む化合物及びテトラゾール構造を含む化合物からなる群から選択される1以上と、
を含有する樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、Xは1以上の芳香族基を有する4価の基であって、-COOR基と-CONH-基とは互いにオルト位置にあり、-COOR基と-CO-基とは互いにオルト位置にある。Yは2価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基である。)
2.R及びRが水素原子である1に記載の樹脂組成物。
3.前記(B)成分がテトラゾール構造を含む化合物を含む1又は2に記載の樹脂組成物。
4.前記テトラゾール構造を含む化合物が、5-アミノ-1H-テトラゾール、及び5-メチル-1H-テトラゾールからなる群から選択される1以上である1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
5.前記(B)成分がトリアゾール構造を含む化合物及びテトラゾール構造を含む化合物を含む1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
6.前記トリアゾール構造を含む化合物がベンゾトリアゾールである5に記載の樹脂組成物。
7.さらに溶剤を含む1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8.1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を基板上に塗布、乾燥して樹脂膜を形成する工程と、
前記樹脂膜を加熱処理する工程と、を含む硬化物の製造方法。
9.1~7のいずれかに記載の樹脂組成物を硬化した硬化物。
10.9に記載の硬化物を用いて作製されたカバーコート層又は表面保護膜。
11.10に記載のカバーコート層又は表面保護膜を含む電子部品。
12.パワーモジュールである11に記載の電子部品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、保存安定性に優れる樹脂組成物あって、硬化後及びプレッシャークッカー試験後の外観の変色を抑制した硬化物を形成できる樹脂組成物を提供することである。また、その硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の樹脂組成物、硬化物の製造方法、硬化物、カバーコート層、表面保護膜及び電子部品の実施の形態を詳細に説明する。尚、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0010】
本明細書において「A又はB」とは、AとBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。また、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに、例示材料は特に断らない限り単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、(A)下記式(1)で表される構造単位を有するポリイミド前駆体(以下、「(A)成分」ともいう。)と、
(B)トリアゾール構造を含む化合物及びテトラゾール構造を含む化合物からなる群から選択される1以上(以下、「(B)成分」ともいう。)と、
を含有する。
【化2】
(式(1)中、Xは1以上の芳香族基を有する4価の基であって、-COOR基と-CONH-基とは互いにオルト位置にあり、-COOR基と-CO-基とは互いにオルト位置にある。Yは2価の有機基である。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~4の脂肪族炭化水素基である。)
【0012】
これにより、保存安定性に優れることができる。そして、硬化後及びプレッシャークッカー試験後の外観の変色を抑制した硬化物を形成できる。
任意の効果として、接着性(例えばCuとの接着性)に優れる硬化物を形成できる。
【0013】
式(1)のXの1以上(好ましくは1~3、より好ましくは1又は2)の芳香族基を有する4価の基において、芳香族基は、芳香族炭化水素基でもよく、芳香族複素環式基でもよい。芳香族炭化水素基が好ましい。
【0014】
式(1)のXの芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環から形成される2~4価(2価、3価又は4価)の基、ナフタレンから形成される2~4価の基、ペリレンから形成される2~4価の基等が挙げられる。
【0015】
式(1)のXの1以上の芳香族基を有する4価の基としては、例えば以下の式(6)の4価の基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【化3】
(式(6)中、X及びYは、それぞれ独立に、各々が結合するベンゼン環と共役しない2価の基又は単結合を示す。Zは、カルボニル基(-C(=O)-)、エーテル基(-O-)又はスルフィド基(-S-)である(-C(=O)-が好ましい)。)
【0016】
式(6)において、X及びYの、各々が結合するベンゼン環と共役しない2価の基は、-O-、-S-、メチレン基、ビス(トリフルオロメチル)メチレン基、又はジフルオロメチレン基であることが好ましく、-O-であることがより好ましい。
【0017】
式(1)のYの2価の有機基としては、ジシロキサン構造を有する2価の基、2価の脂肪族炭化水素基及び2価の芳香族基等が挙げられる。
【0018】
ジシロキサン構造を有する2価の基は、さらに(好ましくは2以上の、より好ましくは2つの)2価の脂肪族炭化水素基を含むことが好ましい。
ジシロキサン構造を有する2価の基は、置換基を有してもよい。ジシロキサン構造を有する2価の基の置換基としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0019】
式(1)のYの2価の芳香族基は、2価の芳香族炭化水素基でもよく、2価の芳香族複素環式基でもよい。2価の芳香族炭化水素基が好ましい。
【0020】
また、式(1)のYの2価の有機基は、2つの2価の芳香族炭化水素基が、
単結合、
酸素原子、硫黄原子、窒素原子及び珪素原子等のヘテロ原子、
2価の脂肪族炭化水素基、又は
ケトン基、エステル基及びアミド基等の有機基で結合された2価の基でもよい。
【0021】
式(1)のYの2価の有機基について、2価の脂肪族炭化水素基及び2価の芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよい。2価の脂肪族炭化水素基及び2価の芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、アミド基(例えば、-C(=O)-NH)等が挙げられる。
【0022】
式(1)のYの2価の有機基について、2価の脂肪族炭化水素基(好ましくは、炭素数1~30、より好ましくは1~5の、又は5~18の)は、例えば、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、デシレン基、ドデシレン基)、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロオクチレン基及び2価のビシクロ環等が挙げられる。
【0023】
また、式(1)のYの2価の有機基について、上記の2価の芳香族炭化水素基(好ましくは炭素数6~30)としては、例えば、フェニレン基(例えば、m-フェニレン基、p-フェニレン基)、ナフチレン基等が挙げられる。
【0024】
式(1)のR及びRは、水素原子であることが好ましい。
【0025】
式(1)のR及びRの炭素数1~4(好ましくは1又は2)の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。
【0026】
(A)成分の分子量について、ポリスチレン換算での重量平均分子量が10,000~200,000であることが好ましく、15,000~150,000がより好ましく、17,000~120,000がさらに好ましい。
上記範囲の場合、樹脂組成物の粘度を適切にすることができる。
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算することによって求める。
また、重量平均分子量を数平均分子量で除した分散度は1.0~4.0が好ましく、1.0~3.5がより好ましい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、(B)成分を含有する。これにより、銅の酸化を抑制することができる。
【0028】
(B)成分は、低温で銅の表面と反応し、酸化を抑制する観点から、テトラゾール構造(炭素原子1つ及び窒素原子4つを含む5員環の芳香族複素環構造)を含む化合物を含むことが好ましい。
テトラゾール構造を含む化合物としては、5-アミノ-1H-テトラゾール、5-メチル-1H-テトラゾール、1H-テトラゾール、5-(メチルチオ)-1H-テトラゾール、5-(エチルチオ)-1H-テトラゾール、5-フェニル-1H-テトラゾール、5-ニトロ-1H-テトラゾール、1-メチル-1H-テトラゾール、5,5’-ビス-1H-テトラゾール等が挙げられる。
テトラゾール構造を含む化合物は、保存安定性の(例えば、室温で(A)成分の反応を抑制する)観点から、5-アミノ-1H-テトラゾール、及び5-メチル-1H-テトラゾールからなる群から選択される1以上であることが好ましい。
【0029】
(B)成分は、トリアゾール構造(炭素原子2つ及び窒素原子3つを含む5員環の芳香族複素環構造)を含む化合物及びテトラゾール構造を含む化合物を含むことが好ましい。
【0030】
トリアゾール構造を含む化合物としては、ベンゾトリアゾール(例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール)、1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,5-トリアゾール、3-メルカプト-4-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジメチル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジプロピル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-イソプロピル-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3-メルカプト-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-3,5-ジメチル-1,2,4-トリアゾール、4-アミノ-5-メチル-4H-1,2,4-トリアゾール-3-チオール、3,5-ジアミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチルベンゾトリアゾール、5-アミノ-1H-ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール-4-スルホン酸等が挙げられる。
トリアゾール構造を含む化合物は、高温で加熱したときに分解及び揮発を起こしにくいという観点から、ベンゾトリアゾールであることが好ましい。
【0031】
(B)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.3~4質量部がさらに好ましい。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、(C)酸化防止剤(以下、「(C)成分」ともいう。)を含有してもよい。これにより、銅の酸化をより抑制することができる。
【0034】
(C)成分は、銅の酸化を抑制する観点から、下記式(11)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【化4】
(式(11)中、R11は、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~30の芳香族炭化水素基である。)
【0035】
(C)成分は、銅への接着性の観点から、下記式(12)で表される化合物であることが好ましい。
【化5】
(式(12)中、R11は、水素原子、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~30の芳香族炭化水素基である。R12は、炭素数1~10の脂肪族炭化水素基又は炭素数6~30の芳香族炭化水素基である。R12が2以上存在する場合、2以上のR12は同一でもよく、異なっていてもよい。nは、0~3(好ましくは1又は2)の整数である。)
【0036】
11は、銅への接着性向上の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0037】
式(11)及び式(12)のR11について、また、式(12)のR12について、炭素数1~10(好ましくは1又は2、また、好ましくは3又は4)の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0038】
式(11)及び式(12)のR11について、また、式(12)のR12について、炭素数6~30(好ましくは6~10)の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0039】
式(11)で表される構造を有する化合物は、銅の酸化を抑制する観点から、式(11)で表される構造を、2以上(好ましくは2~4つ、より好ましくは2つ)有する化合物であることが好ましい。
【0040】
(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0041】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.1~15質量部がより好ましく、0.3~11質量部がさらに好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、さらに、溶剤を含有してもよい。
【0043】
溶剤としては、通常、他の成分を充分に溶解できるものであれば特に制限はないが、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸ベンジル、n-ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、3-メチルメトキシプロピオネート、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド、テトラメチレンスルホン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン等が挙げられる。
中でも、各成分の溶解性の観点及び塗布性の観点から、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0044】
溶剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。
【0045】
溶剤の含有量に、特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して、通常1~1000質量部であり、50~600質量部が好ましく、100~500質量部がより好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するアミン化合物を、架橋剤として含有してもよい。
【0047】
アクリロイル基又はメタクリロイル基を有するアミン化合物としては、例えば、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられるが、これらに限られない。
【0048】
本発明の樹脂組成物にネガ型の感光性を付与する場合、一般的にはさらに、ラジカル重合開始剤等の光重合開始剤を含有することが好ましい。
これにより、樹脂組成物にネガ型の感光性を付与することができる。
光重合開始剤は、(A)成分100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、より好ましくは0.1~15質量部であり、さらに好ましくは0.2~10質量部である。
【0049】
また、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、耐熱性と機械特性を損なわない範囲で、密着助剤、酸発生剤等のその他成分を含有してもよい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、溶剤を除いて、本質的に、(A)成分及び(B)成分、並びに任意に、(C)成分、架橋剤、光重合開始剤、密着助剤及び酸発生剤からなっており、本発明の効果を損なわない範囲で他に不可避不純物を含んでもよい。
本発明の樹脂組成物の、例えば、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は100質量%が、溶剤を除いて、
(A)成分及び(B)成分、又は
(A)成分及び(B)成分、並びに任意に、(C)成分、架橋剤、光重合開始剤、密着助剤及び酸発生剤からなっていてもよい。
【0051】
本発明の硬化物は、上述の樹脂組成物の硬化することで得ることができる。
本発明の硬化物の膜厚は、5~30μmが好ましい。
【0052】
本発明の硬化物の製造方法では、上述の樹脂組成物を基板上に塗布、乾燥して樹脂膜を形成する工程と、樹脂膜を加熱処理する工程と、を含む。さらに、露光(例えば、パターンなしで)する工程を備えてもよい。
これにより、本発明の硬化物を得ることができる。
【0053】
基板としては、
ガラス基板、
炭化ケイ素基板、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、Si基板(シリコンウエハ)等の半導体基板、
TiO基板、SiO基板等の金属酸化物絶縁体基板、
Cuめっきウエハ、窒化ケイ素基板(例えば、SiN層形成ウエハ)、アルミニウム基板、銅基板、銅合金基板などが挙げられる。
【0054】
塗布方法に特に制限はないが、スピナー等を用いて行うことができる。
【0055】
乾燥は、ホットプレート、オーブン等を用いて行うことができる。
乾燥温度は90~150℃が好ましく、塗布膜の平坦性の観点から、90~120℃がより好ましい。乾燥時間は、30秒間~5分間が好ましい。
乾燥は、2回以上行ってもよい。これにより、上述の樹脂組成物を膜状に形成した樹脂膜を得ることができる。
【0056】
樹脂膜の膜厚は、5~100μmが好ましく、8~50μmがより好ましく、10~30μmがさらに好ましい。
【0057】
露光する工程において、照射する活性光線は、ブロードバンド光(波長350~450nm)、i線等の紫外線、可視光線、放射線などが挙げられるが、i線であることが好ましい。
露光装置としては、平行露光機、投影露光機、ステッパ、スキャナ露光機、プロキシミティ露光機等を用いることができる。
【0058】
樹脂膜を加熱処理することにより、硬化物を得ることができる。
(A)成分のポリイミド前駆体が、加熱処理する工程によって、脱水閉環反応を起こし、対応するポリイミドとなってもよい。
【0059】
加熱処理の温度は、400℃以下が好ましく、180~370℃がより好ましい。
上記範囲内であることにより、基板又はデバイスへのダメージを小さく抑えることができ、デバイスを歩留り良く生産することが可能となり、プロセスの省エネルギー化を実現することができる。
【0060】
加熱処理の時間は、5時間以下が好ましく、30分間~3時間がより好ましい。
上記範囲内であることにより、架橋反応又は脱水閉環反応を充分に進行することができる。
加熱処理の雰囲気は大気中であっても、窒素等の不活性雰囲気中であってもよいが、樹脂膜の酸化を防ぐことができる観点から、窒素雰囲気下が好ましい。
【0061】
加熱処理に用いられる装置としては、石英チューブ炉、ホットプレート、ラピッドサーマルアニール、縦型拡散炉、赤外線硬化炉、電子線硬化炉、マイクロ波硬化炉等が挙げられる。
【0062】
本発明の硬化物は、パッシベーション膜、バッファーコート膜、カバーコート層又は表面保護膜等として用いることができる。
上記パッシベーション膜、バッファーコート膜、カバーコート層及び表面保護膜等からなる群から選択される1以上を用いて、信頼性の高い、半導体装置、多層配線板、各種電子デバイス、パワーモジュール等の電子部品などを製造することができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。尚、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0064】
合成例1(A1の合成)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、4,4’-オキシジアニリン13.0g、1,3-ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン0.9g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)140gを入れ、15分間、室温で撹拌しモノマーを溶解させた。その後、ピロメリット酸二無水物(PMDA)7.8gと3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物11.5gを加え、さらに60分間撹拌し、ポリイミド前駆体A1を得た。
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法を用いて、標準ポリスチレン換算により、以下の条件で、重量平均分子量を求めた。A1の重量平均分子量は106,000であった。
【0065】
0.5mgのA1に対して溶剤[テトラヒドロフラン(THF)/ジメチルホルムアミド(DMF)=1/1(容積比)]1mLの溶液を用いて測定した。
【0066】
測定装置:検出器 株式会社日立製作所製L4000UV
ポンプ:株式会社日立製作所製L6000
株式会社島津製作所製C-R4A Chromatopac
測定条件:カラムGelpack GL-S300MDT-5×2本
溶離液:THF/DMF=1/1(容積比)
LiBr(0.03mol/L)、HPO(0.06mol/L)
流速:1.0mL/min、検出器:UV270nm
【0067】
実施例1~4及び比較例1~5
(樹脂組成物の調製)
表1に示した成分及び配合量にて、実施例1~4及び比較例1~5の樹脂組成物を調製した。表1の配合量は、100質量部のA1に対する、各成分の質量部である。
【0068】
用いた各成分は以下の通りである。(A)成分として、合成例1で得られたA1を用いた。
【0069】
(B)成分
B1:5-アミノ-1H-テトラゾール(東京化成工業株式会社製)
B2:1,2,3-ベンゾトリアゾール(東京化成工業株式会社製)
B3:5-メチル-1H-テトラゾール(東京化成工業株式会社製)
【0070】
防錆剤
b1:2-アミノピリミジン
b2:尿酸
b3:2,4-ジアミノ-6-メチル-1,3,5-トリアジン
b4:フタラゾン
【0071】
溶剤
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0072】
(保存安定性)
得られた樹脂組成物について、粘度を、樹脂組成物の調製後3時間以内に、E型粘度計VISCONICEHD(東機産業株式会社製)を用い、23℃で測定し、調製後の粘度を求めた。
上述の樹脂組成物について、調製後、23℃又は-20℃で14日間静置した後、粘度を、VISCONICEHDを用い、23℃で測定し、14日間静置後の粘度を求めた。
14日間静置後の粘度から調製後の粘度を引いた値の絶対値を、調製後の粘度を除して、百分率にした値が15%以下の場合を〇とした。15%超の場合を×とした。14日間静置後に析出物があり、上記計算を行わなかったものを「××」とした。
結果を表1に示す。表中、「‐」は測定しなかったことを示す。
【0073】
(硬化物の製造1:硬化温度200℃)
得られた樹脂組成物を、塗布装置Act8(東京エレクトロン株式会社製)を用いて、Cuめっきウエハ(厚さ0.5μmのCuめっきを形成したSiウエハ)上に、硬化後の膜厚が10μmになるようにスピンコートし、100℃で2分間乾燥後、110℃で2分間乾燥して樹脂膜を形成した。
次いで、得られた樹脂膜を、縦型拡散炉μ-TF(光洋サーモシステム株式会社製)を用いて、窒素雰囲気下、200℃で2時間加熱し、硬化物(硬化温度200℃)(硬化後膜厚10μm)を得た。
【0074】
(硬化物の製造2:硬化温度250℃)
縦型拡散炉μ-TFの加熱温度を250℃にした以外、硬化物の製造1と同様に製造し、硬化物(硬化温度250℃)(硬化後膜厚10μm)を得た。
【0075】
(硬化物の製造3:硬化温度350℃)
縦型拡散炉μ-TFの加熱温度を350℃にした以外、硬化物の製造1と同様に製造し、硬化物(硬化温度350℃)(硬化後膜厚10μm)を得た。
【0076】
(PCT1)
上述の硬化物の製造1で得られた硬化物(硬化温度200℃)を、PCT(プレッシャークッカー試験)試験装置HASTEST(株式会社平山製作所製、PC-R8D)を用いて、121℃、100%RH(Relative Humidity)、2atmで100時間処理した。
PCT試験装置から硬化物を取り出し、PCT後の硬化物(硬化温度200℃)を得た。
【0077】
(PCT2)
上述の硬化物の製造2で得られた硬化物(硬化温度250℃)を、PCT1と同様に処理し、PCT後の硬化物(硬化温度250℃)を得た。
【0078】
(PCT3)
上述の硬化物の製造3で得られた硬化物(硬化温度350℃)を、PCT1と同様に処理し、PCT後の硬化物(硬化温度350℃)を得た。
【0079】
(外観評価1)
上述の硬化物(硬化温度200℃)、及び硬化物(硬化温度350℃)について、目視にて、外観を評価した。硬化物の製造1において、スピンコートし、110℃で2分間乾燥した後のCuめっきウエハ上の樹脂膜の色と比べて、変化しなかったものを〇とした。黄緑色になったものを△とした。黒色になったものを×とした。
結果を表1に示す。表中、「‐」は測定しなかったことを示す。
【0080】
(外観評価2(PCT後))
上述のPCT後の硬化物(硬化温度200℃)、及びPCT後の硬化物(硬化温度350℃)について、それぞれを、外観評価1と同様に評価した。
結果を表1に示す。表中、「‐」は測定しなかったことを示す。
【0081】
(Cu接着性評価1)
上述の硬化物(硬化温度200℃)、硬化物(硬化温度250℃)、及び硬化物(硬化温度350℃)について、それぞれを、アルミニウム製スタッドの先端にあるエポキシ樹脂層を硬化物表面に固定して、120℃のオーブン中で1時間加熱してエポキシ樹脂層と硬化物を接着した。そして、薄膜密着強度測定装置ロミュラス(QUAD Group社製)を用いて、スタッドを引張り、剥離時の荷重を測定し、剥離時の剥離モードを観察した。
凝集破壊であったもの(硬化物とCuめっきウエハとの間での剥離なし)を○とした。硬化物とCuめっきウエハとの間で剥離したものを×とした。
凝集破壊の場合、硬化物の凝集破壊強さよりも、硬化物とCuめっきウエハの接着強さが強いことを示す。
結果を表1に示す。表中、「‐」は測定しなかったことを示す。
【0082】
(Cu接着性評価2(PCT後))
上述のPCT後の硬化物(硬化温度200℃)、PCT後の硬化物(硬化温度250℃)、及びPCT後の硬化物(硬化温度350℃)について、それぞれを、Cu接着性評価1と同様に評価した。
結果を表1に示す。表中、「‐」は測定しなかったことを示す。
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の樹脂組成物は、カバーコート層又は表面保護膜等に用いることができ、本発明のカバーコート層又は表面保護膜は、電子部品等に用いることができる。本発明の電子部品は、パワーモジュール等として用いることができる。