(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G03G15/20 510
(21)【出願番号】P 2019222672
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】本多 春之
【審査官】稲荷 宗良
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148779(JP,A)
【文献】登録実用新案第3111095(JP,U)
【文献】特開平03-206148(JP,A)
【文献】特開2019-168626(JP,A)
【文献】特開2014-164245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に構成され記録媒体の未定着像を定着させる定着部材と、
前記定着部材を外周側で加圧する加圧部材と、
前記定着部材の内周側で前記加圧部材と対向してニップを形成するニップ形成部材と、
前記定着部材と前記ニップ形成部材との間に配置され、前記ニップ形成部材に巻き付けられ、前記定着部材と摺動する摺動領域に潤滑剤が塗布された摺動部材と、を備え、
前記摺動部材は、前記定着部材に当接する側の面を構成する第一の繊維と前記ニップ形成部材に当接する側の面を構成する第二の繊維を有する織物からなり、
前記定着部材に当接する側の面における前記定着部材と摺動しない非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維が露出して織り込まれ、
前記定着部材の摺動方向に対して略平行に配置された経糸と、前記定着部材の摺動方向に対して略垂直に配置された緯糸とにより構成され、
前記定着部材に当接する側の面の前記非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれ、
複数の前記経糸と複数の前記摺動部材の緯糸とは交互に織り込まれ、複数の前記経糸が複数の前記摺動部材の緯糸に対して織り込み間隔が広くなっていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
複数の前記経糸が前記摺動部材の緯糸より太くなっていることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記摺動部材は、前記第一の繊維の色と前記第二の繊維の色とが互いに異なることを特徴とする請求項1
または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記摺動部材は、前記非摺動領域に、前記第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれた箇所を複数有することを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
前記摺動部材の前記緯糸は、長手方向に対して湾曲して配置されることを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載の定着装置。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれかに記載の定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、複写機、ファクシミリなど、定着装置を備えた画像形成装置に対し、近年、省エネルギー化や画像形成の高速化についての市場要求が強くなってきている。この画像形成装置では、電子写真記録、静電記録、磁気記録などの画像形成プロセスにより、画像転写方式もしくは直接方式により未定着トナー画像が記録材シート、印刷紙、感光紙、静電記録紙などの記録媒体に形成される。この画像形成装置においては、記録媒体に形成された未定着トナー画像は、定着装置により加熱、加圧されて記録媒体に定着するようになっている。
【0003】
定着装置としては、無端筒状の定着部材(定着ベルト)と加圧部材とを備えたものが知られている。このような定着装置では、定着部材と加圧部材とによってニップ部が形成され、ニップ部においてトナーを加圧及び加熱することにより、記録紙に定着させるようになっている。
定着部材の内側には、加圧部材からの圧力を支えるための部材(以下、「ニップ形成部材」という)が設けられており、該部材には、無端ベルト内側面との摺動負荷を軽くするため潤滑剤の塗布された摺動部材が取り付けられている。
【0004】
加熱されるとともに高速で回転する定着部材の場合、該定着部材の内周面に潤滑剤を塗布することにより、ニップ部における接触抵抗を低減させ、滑り性や耐久性を高めるように構成されている。
しかしながら、摺動部材は経時で潤滑剤が減少し、摩擦負荷が増加して寿命となる。無端ベルトと摺動シートとの摩擦力が高いと負荷トルクが大きくなり、駆動部の破損や当接する他の部材の表面を傷つけることがある。
【0005】
これに対し、特許文献1には、定着ベルトの摺動抵抗を低く保ちつつ、潤滑剤の漏れを防止することができ、高い耐久性を有する定着装置を構成する摺動部材として、複数の態様の摺動部材が開示されている。
特許文献1のように、織物からなる摺動部材は、所望の機能を得るために繊維の配置や織り方を適宜選択することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の態様の摺動部材が用意される環境下、例えば同一工場内で仕様変更前後の異なる摺動部材が並行して生産されている場合等においては、所定の定着装置に対する摺動部材の組付け時に取り違えや、誤組付けを防止する必要がある。特に、仕様変更前後において摺動部材の形状自体が同じである場合や、外観による識別が困難な場合は対策が必要となる。
【0007】
摺動部材の取り違えや誤組付けを防止するために、従来は、摺動部材自体の形状変更や、摺動部材を巻き付ける対象部材(例えば、ニップ形成部材等)の形状変更等の対策がとられてきた。
【0008】
しかしながら従来の対応では、設計変更による工数やコストの増大、さらに組付け性の変化に対応するための調整が必要になる等の課題がある。また、摺動部材の形状を変更することにより、異なる機種間での部材の共用が出来なくなるという課題がある。
【0009】
そこで本発明は、外観による識別が容易であり、取り違えや誤組付けを防止可能な摺動部材を備えた定着部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の定着装置は、回転可能に構成され記録媒体の未定着像を定着させる定着部材と、前記定着部材を外周側で加圧する加圧部材と、前記定着部材の内周側で前記加圧部材と対向してニップを形成するニップ形成部材と、前記定着部材と前記ニップ形成部材との間に配置され、前記ニップ形成部材に巻き付けられ、前記定着部材と摺動する摺動領域に潤滑剤が塗布された摺動部材と、を備え、前記摺動部材は、前記定着部材に当接する側の面を構成する第一の繊維と前記ニップ形成部材に当接する側の面を構成する第二の繊維を有する織物からなり、前記定着部材に当接する側の面における前記定着部材と摺動しない非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維が露出して織り込まれ、前記定着部材の摺動方向に対して略平行に配置された経糸と、前記定着部材の摺動方向に対して略垂直に配置された緯糸とにより構成され、前記定着部材に当接する側の面の前記非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれ、前記経糸が前記摺動部材の緯糸に対して織り込み間隔が広くなっていることを特徴とする。
また、本発明の定着装置は、回転可能に構成され記録媒体の未定着像を定着させる定着部材と、前記定着部材を外周側で加圧する加圧部材と、前記定着部材の内周側で前記加圧部材と対向してニップを形成するニップ形成部材と、前記定着部材と前記ニップ形成部材との間に配置され、前記ニップ形成部材に巻き付けられ、前記定着部材と摺動する摺動領域に潤滑剤が塗布された摺動部材と、を備え、前記摺動部材は、前記定着部材に当接する側の面を構成する第一の繊維と前記ニップ形成部材に当接する側の面を構成する第二の繊維を有する織物からなり、前記定着部材に当接する側の面における前記定着部材と摺動しない非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維が露出して織り込まれ、前記定着部材の摺動方向に対して略平行に配置された経糸と、前記定着部材の摺動方向に対して略垂直に配置された緯糸とにより構成され、前記定着部材に当接する側の面の前記非摺動領域の少なくとも一部に、前記第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれ、前記経糸のみが前記定着部材側に出ていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外観による識別が容易であり、取り違えや誤組付けを防止可能な摺動部材を備えた定着部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る定着装置の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る画像形成装置の一例を示す断面模式図である。
【
図3】従来の定着装置の断面模式図(A)及び要部平面図(B)である。
【
図4】本発明の実施形態に係る定着装置の断面模式図(A)及び要部平面図(B)である。
【
図5】本発明の実施形態に係る定着装置の摺動部材の表面と裏面を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る定着装置の摺動部材の一例を示す説明図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る定着装置の摺動部材の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る定着装置及び画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
本実施形態に係る定着装置を
図1に、画像形成装置を
図2に示す。
本実施形態の画像形成装置100に設けられる定着装置1は、回転可能に構成され記録媒体の未定着像を定着させる定着部材2と、定着部材2を外周側で加圧する加圧部材4と、定着部材2の内周側で加圧部材4と対向してニップを形成するニップ形成部材5と、定着部材2とニップ形成部材5との間に配置され、ニップ形成部材5に巻き付けられ、定着部材2と摺動する摺動領域に潤滑剤が塗布された摺動部材51と、を備える。
【0015】
定着部材2は、例えばニッケルやSUSなどの金属ベルトやポリイミドなどの樹脂材料によって、無端筒状に形成されたベルトであり、フィルムであってもよい。ベルトの表層はPFAまたはPTFE層などの離型層を有し、トナーが付着しないように離型性を有している。ベルトの基材とPFAまたはPTFE層の間にはシリコーンゴムの層などで形成する弾性層が設けられていてもよい。シリコーンゴム層がない場合は、熱容量が小さくなり定着性が向上する一方、未定着画像を押し潰して定着させるときにベルト表面の微小な凹凸が画像に転写されて画像のベタ部にユズ肌状の光沢ムラ(ユズ肌画像)が残りやすくなる。これを改善するために、シリコーンゴム層を100μm以上設けることが好ましい。シリコーンゴム層の変形により、微小な凹凸が吸収されユズ肌画像が改善する。
【0016】
定着部材2の内部にはニップ形成部材5を支持するための支持部材(ステー)6が設けられ、加圧部材4により圧力を受けるニップ形成部材5の撓みを防止し、軸方向で均一なニップ幅を得られるようになっている。
【0017】
また、定着装置1は、加熱源3と支持部材6との間に反射部材8を備え、加熱源3からの輻射熱などにより支持部材6が加熱されてしまうことによる無駄なエネルギー消費が抑制されている。ここで、反射部材8を設ける代わりに支持部材6表面に断熱もしくは鏡面処理を行っても同様の効果を得ることが可能となる。
【0018】
加熱源3は、図示したハロゲンヒータでも良いが、IHであっても良いし、抵抗発熱体、カーボンヒータ等であっても良い。加熱源3により、定着部材2が内周側から直接加熱される。加熱源3がハロゲンヒータである場合、定着装置1は遮光板を有していてもよい。遮光板は、記録紙サイズに応じた範囲で定着部材2が加熱されるように、ハロゲンヒータが照射した光を遮るものである。遮光板は、各種の記録紙サイズに応じた光通過部を有し、例えば回動することにより、適宜な光通過部が加熱源3と定着部材2との間に位置付けられるようになっている。
【0019】
加圧部材4は、芯金4Aの外側に弾性ゴム層4Bが設けられており、離型性を得るために弾性ゴム層4Bの表面に図示しない離型層(PFAまたはPTFE層)が設けられている。加圧部材4は、
図2に示す画像形成装置100に設けられたモータなどの駆動源からギヤを介して駆動力が伝達され回転する。また、加圧部材4は、スプリングなどにより定着部材2側に押し付けられており、弾性ゴム層4Bが押し潰されて変形することにより、所定のニップ幅を有している。
【0020】
加圧ローラは、中空のローラであっても良く、ハロゲンヒータなどの加熱源を有していても良い。弾性ゴム層は、ソリッドゴムでも良いが、加圧ローラ内部にヒータが無い場合には、スポンジゴムが用いられていても良い。スポンジゴムを用いた方が、断熱性が高まり定着スリーブの熱が奪われにくくなるので、より望ましい。
【0021】
ニップ形成部材5は、定着部材2の内側に配置されており、即ち、定着部材2を挟んで加圧部材4の反対側に配置されている。これにより、対向配置された定着部材2と加圧部材4とによってニップ部Nが形成される。トナー像が転写された記録紙がこのニップ部Nを通過し、加熱及び加圧されることにより、トナー像が記録紙に定着するようになっている。
【0022】
図1ではニップ部Nの形状が平坦状であるが、凹形状やその他の形状であっても良い。(ニップ部の形状は凹形状の方が、記録紙先端の排出方向が加圧ローラ寄りになり、分離性が向上するのでジャムの発生が抑制される。)
【0023】
定着部材2とニップ形成部材5との間には、摺動部材51が定着部材2の内面(ニップ形成部材5側の面)に接触するように配置されている。摺動部材51はニップ形成部材5に巻き付けられ、ニップ形成部材5に対して粘着手段及び締結手段の少なくともいずれかにより固定されている。前記粘着手段は、例えば、両面テープであり、前記締結手段は、例えば、ネジである。
また、摺動部材51は潤滑剤が含浸され、定着部材2の内面21に潤滑剤を供給する。尚、潤滑剤としては、シリコーンオイルやグリスが例示される。
摺動部材51の詳細については後述する。
【0024】
定着部材2は、加圧部材4が回転することにより、連れ回り回転する。
図1に示す形態では、加圧部材4が駆動源により回転し、ニップ部Nでベルトに駆動力が伝達されることにより定着部材2が回転する。定着部材2は、ニップ部Nで挟み込まれて回転し、ニップ部N以外では両端部に保持部材が挿入されてガイドされ、走行する。
【0025】
図2に示した画像形成装置100は、複数の色画像を形成する作像部がベルトの展張方向に沿って並置されたタンデム方式を用いるカラープリンタある。本発明はこの方式に限ることはなく、またプリンタだけではなく複写機やファクシミリ装置などを対象とすることも可能である。
【0026】
図2において画像形成装置100は、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色に色分解された色にそれぞれ対応する像としての画像を形成可能な像担持体としての感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkを並設したタンデム構造が採用されている。
【0027】
図2に示す構成の画像形成装置100では、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対峙しながら矢印A1方向に移動可能な無端ベルトが用いられる中間転写体(以下、転写ベルトという)11に対して1次転写行程を実行してそれぞれの画像が重畳転写される。その後、記録シートなどが用いられる記録紙Sに対して2次転写行程を実行することで一括転写されるようになっている。
【0028】
各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの周囲には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの回転に従い画像形成処理するための画像形成手段が配置されている。ここで、ブラック画像形成を行う感光体ドラム20Bkを対象として説明すると、感光体ドラム20Bkの回転方向に沿って画像形成処理を行う帯電装置30Bkと、現像装置40Bkと、1次転写ローラ12Bkと、クリーニング装置50Bkと、が配置されている。帯電後に行われる書き込みは、光書込装置60が用いられる。
【0029】
転写ベルト11に対する重畳転写は、転写ベルト11がA1方向に移動する過程において、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに形成された可視像が、転写ベルト11の同じ位置に重ねて転写される。即ち、転写ベルト11を挟んで各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対向して配設された1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkによる電圧印加によって、A1方向上流側から下流側に向けてタイミングをずらして行われる。
【0030】
各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、A1方向の上流側からこの順で並んでいる。各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkは、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの画像をそれぞれ形成するための画像ステーションに備えられている。
【0031】
画像形成装置100は、色毎の画像形成処理を行う4つの画像ステーションと、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkの上方に対向して配設され、転写ベルト11及び1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkを備えた転写ベルトユニット10と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11に従動し、連れ回りする転写部材としての転写ローラである2次転写ローラ14と、転写ベルト11に対向して配設され転写ベルト11上をクリーニングする中間転写ベルト用のクリーニング装置13と、これら4つの画像ステーションの下方に対向して配設された光書き込み装置としての光書込装置60と、を有している。
【0032】
光書込装置60は、光源としての半導体レーザ、カップリングレンズ、fθレンズ、トロイダルレンズ、折り返しミラーおよび偏向手段としての回転多面鏡などを装備している。光書込装置60は、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに対して色毎に対応した書き込み光Lb(
図2では、便宜上、ブラック画像の画像ステーションのみを対象として符号が付けてあるが、その他の画像ステーションも略同様である)を出射して感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkに静電潜像を形成する構成とされている。
【0033】
画像形成装置100には、感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間に向けて搬送される記録紙Sを積載した給紙カセットとしてのシート給送装置70と、シート給送装置70から搬送されてきた記録紙Sを、画像ステーションによるトナー像の形成タイミングに合わせた所定のタイミングで、各感光体ドラム20Y、20C、20M、20Bkと転写ベルト11との間の転写部に向けて繰り出すレジストローラ対81と、記録紙Sの先端がレジストローラ対81に到達したことを検知する図示しないセンサと、が設けられている。
【0034】
画像形成装置100には、トナー像が転写された記録紙Sにトナー像を定着させるためのローラ定着方式の定着手段としての定着装置1と、定着済みの記録紙Sを画像形成装置100の本体外部に排出する排紙ローラ82と、画像形成装置100の本体上部に配設されて排紙ローラ82により画像形成装置100の本体外部に排出された記録紙Sを積載する排紙トレイ83と、排紙トレイ83の下側に位置し、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの各色のトナーを充填されたトナーボトル9Y、9C、9M、9Bkと、が設けられている。
【0035】
転写ベルトユニット10は、転写ベルト11、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkの他に、転写ベルト11が掛け回されている駆動ローラ15及び従動ローラ16を有している。
【0036】
従動ローラ16は、転写ベルト11に対する張力付勢手段としての機能も備えており、このため、従動ローラ16には、バネなどを用いた付勢手段が設けられている。このような転写ベルトユニット10と、1次転写ローラ12Y、12C、12M、12Bkと、2次転写ローラ14と、クリーニング装置13と、で転写装置10Aが構成されている。
【0037】
シート給送装置70は、画像形成装置100の本体下部に配設されており、最上位の記録紙Sの上面に当接する給紙ローラとしての給送ローラ84を有している。給送ローラ84が反時計回り方向に回転駆動されることにより、最上位の記録紙Sをレジストローラ対
81に向けて給送するようになっている。
【0038】
転写装置10Aに装備されているクリーニング装置13は、詳細な図示を省略するが、転写ベルト11に対向、当接するように配設されたクリーニングブラシとクリーニングブレードとを有している。転写ベルト11上の残留トナー等の異物をクリーニングブラシとクリーニングブレードとにより掻き取り、除去して、転写ベルト11をクリーニングするようになっている。
【0039】
クリーニング装置13は、転写ベルト11から除去した残留トナーを搬出し廃棄するための図示しない排出手段を有している。
【0040】
画像形成装置100は、装置全体を操作するための図示しない操作パネルと、装置全体を制御する図示しない制御手段と、をさらに備える。
制御手段は、通紙枚数や運転時間、定着部材2の回転数等が所定の値以上となると、定着部材2のメンテナンスが必要であること(メンテナンス表示)を操作パネルに表示させ、操作パネルが表示手段として機能する。即ち、制御手段は、所定の運転間隔で操作パネルにメンテナンスの要否を表示させる。メンテナンスが行われると、制御手段は、メンテナンス表示を停止させ、通紙枚数や運転時間、定着部材2の回転数等のカウントを再開する。
【0041】
次に、定着装置1における摺動部材51の詳細について、
図3及び
図4に基づいて説明する。
図3は従来の定着装置の例、
図4は本実施形態に係る定着装置の例を示している。
図3(A)及び
図4(A)は定着装置1の要部断面図であり、
図3(B)及び
図4(B)は、
図3(A)及び
図4(A)中の符号Cで示す方向から見た摺動部材51及びニップ形成部材5の平面図である。
摺動部材51は、定着部材2と摺動する摺動領域51a、及び定着部材2と摺動しない非摺動領域51bを有する。
【0042】
図3の従来の定着装置は、摺動部材51の誤組付防止用の突起部52が設けられ、摺動部材51を突起部52に対応する形状とすることにより、誤組付けを防止している。
しかしながら、形状の異なる摺動部材51を取付けることが出来ず、また突起部52の有無や形状の差異に応じた設計変更による工数やコストの増大、組付け性の変化に対応するための調整が必要になる。
【0043】
これに対し、本実施形態の定着装置1は、
図4に示すように摺動部材51が複数の色の繊維を有する織物からなり、定着部材2と摺動しない非摺動領域51bに、摺動領域51aとは異なる色の繊維(識別繊維53)が識別可能に織り込まれている(第一の実施態様)。
【0044】
また、摺動部材51は、
図5に示すように定着部材2に当接する側の面(以下、「表面」ともいう)Fを構成する第一の繊維とニップ形成部材5に当接する側の面(以下、「裏面」ともいう)Bを構成する第二の繊維を有する織物からなり、定着部材2に当接する側の面(表面)Fの定着部材2と摺動しない非摺動領域51bの少なくとも一部に、第二の繊維(識別繊維53)が露出して織り込まれている(第二の実施態様)。
例えば、第一の繊維の色と第二の繊維の色とが互いに異なることにより、表面Fの非摺動領域51bに露出して織り込まれた第二の繊維が識別繊維53となる。
【0045】
このように、本実施形態の定着装置1は、特別な構造を設けることなく摺動部材51の誤組付けを防止することができる。また、摺動部材51の外観による識別が容易であるため、取り違えを防止することができるとともに、摺動部材51が仕様通りの織り方となっているか等の検査も行うことができる。
【0046】
図6に本実施形態に係る定着装置の摺動部材51の例を示す。
摺動部材51は
図5に示すように表面Fを構成する第一の繊維と裏面Bを構成する第二の繊維を有する二層の織物からなる。表面Fと裏面Bは二重織等の公知の方法で一体的に形成されている。表面Fには第一の繊維が露出し、表面Fの一部と裏面Bには第二の繊維が露出している。第一の繊維の色と第二の繊維の色とが互いに異なるため、表面Fの非摺動領域51bに露出して織り込まれた第二の繊維が識別繊維53となる。
【0047】
図6中、定着部材2の摺動方向を上流側Uから下流側Dに向かう矢印で示している。
摺動部材51は、定着部材2の摺動方向に対して略平行に配置された経糸と、定着部材2の摺動方向に対して略平行に配置された緯糸とにより構成され、表面Fの非摺動領域51bの少なくとも一部に、第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれている。
また、摺動部材51は、非摺動領域51bに、第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれた箇所を複数有する。
【0048】
本実施形態の摺動部材51において、表面Fを構成する第一の繊維としては耐熱性や摺動性が優れた繊維が好ましく、例えばPTFE等が挙げられる。一方で裏面Bを構成する第二の繊維は、第一の繊維よりも耐熱性や摺動性は劣る繊維であってもよく、例えば低コストであるPPS等が挙げられる。上述のとおり、第一の繊維と第二の繊維とは、異なる色の組み合わせであり、第二の繊維は表面Fに露出して識別繊維53として機能する。
【0049】
第一の繊維よりも耐熱性や摺動性が劣る第二の繊維を摺動領域51aに露出させた場合、熱と摺擦により劣化が進み、摺動部材51の寿命が短くなってしまうため、第二の繊維は非摺動領域51bにのみ露出させることが好ましい。
すなわち、表面Fの非摺動領域51bには、第二の繊維の緯糸が露出して織り込まれていることが好ましい。
また第二の繊維の緯糸は、複数箇所に露出して織り込まれることにより、識別性が高くなる。
図6の例では3列の識別繊維53が示されているが、識別繊維53の露出位置及び数はこれに限定されない。
【0050】
図7に本実施形態に係る定着装置の摺動部材51の第二の例を示す。
摺動部材51は
図5に示すように表面Fを構成する第一の繊維と裏面Bを構成する第二の繊維を有する二層の織物からなる。表面Fと裏面Bは二重織等の公知の方法で一体的に形成されている。表面Fには第一の繊維が露出し、表面Fの一部と裏面Bには第二の繊維が露出している。第一の繊維の色と第二の繊維の色とが互いに異なるため、表面Fの非摺動領域51bに露出して織り込まれた第二の繊維が識別繊維53となる。
図7(A)及び
図7(B)に示すように、識別繊維53である緯糸は、長手方向に対して湾曲して配置されている。
【0051】
本実施形態において、識別繊維53の緯糸を長手方向に対して湾曲して配置することにより、
図7(B)に破線で示す経糸の配向54が定着部材2の摺動方向(矢印UからD)に対して傾斜するように配置される。
摺動部材51に含浸した潤滑剤は経糸の配向54に沿って流れるため、本実施形態の構成によれば、潤滑剤が長手方向の外側に流出するのを防ぐ効果が得られる。
【0052】
図7に示す摺動部材51の量産工程において、経糸54の傾斜を識別繊維53の湾曲量から測定することができる。経糸54は位置によって傾斜量が異なり、また測定可能な長さも短く測定結果のばらつきが大きくなるため、緯糸である識別繊維53の湾曲量を測定することが好ましい。
また、緯糸の湾曲量を適宜調整することにより、潤滑剤の種類や対象の装置の要求される性能に応じた摺動部材51を製造することができる。繊維の配向は摺動部材51の機能に影響する因子であるため、一定の傾斜量となるように管理する必要がある。従来の識別繊維53を設けない態様においては、目視による繊維の配向の確認・検査は困難であったが、本実施形態の摺動部材51によれば、識別繊維53により容易に識別が可能であるため、目視による簡易検査を行うことができる。
同様に、上述の
図6に示す実施形態では、繊維の配向の真直度(非湾曲性)等の品質に関し、目視による簡易検査が可能である。
【0053】
摺動部材51の経糸及び緯糸の配置例を
図8に示す。図中矢印Aは定着部材2の摺動方向を示し、矢印Bは摺動方向に垂直な向き(潤滑剤の移動方向)を模式的に示している。
本実施形態の摺動部材51は、複数の色の繊維を有する織物からなり、定着部材2と摺動しない非摺動領域51bに、摺動領域51aとは異なる色の繊維(識別繊維53)が識別可能に織り込まれている、または定着部材2に当接する表面Fを構成する第一の繊維とニップ形成部材5に当接する裏面Bを構成する第二の繊維を有する織物からなり、表面Fの定着部材2と摺動しない非摺動領域51bの少なくとも一部に、第二の繊維(識別繊維53)が露出して織り込まれている態様であれば、経糸及び緯糸の配置(織り方)は特に限定されない。
【0054】
摺動部材51は
図8(A)に示すような経糸61と緯糸62が同じ割合(例えば、単位面積当たりの繊維数が同じ)、かつ経糸61と緯糸62の太さが同じように織り込まれている態様とすることができる。しかしながら、潤滑剤が摺動部材51の端部から漏れ出しやすく、摺動領域51aの潤滑剤が減ってしまうという課題があるため、以下に説明する
図8(B)~
図8(E)のような摺動部材51が好ましい。
【0055】
図8(B)に示す摺動部材51は、摺動方向Aに対して、平行な経糸61が緯糸62に対して織り込み間隔が広くなっている。緯糸62による拘束力が小さいため緯糸62方向に広がり、結果的に経糸61部分の方が緯糸62部分よりも面積が広くなり、潤滑剤保持量が増える。すなわち、ニップ面の潤滑剤が沿って流れる摺動方向に対して平行な経糸61が、摺動方向Aに対して垂直に配置された緯糸62よりも、単位面積当たり多くの潤滑剤を保持するように織り込まれている。経糸61に保持された潤滑剤は、ストレス無く摺動方向に進むため、横方向に移動しにくく、潤滑剤漏れが発生しにくくなる。なお、
図8(C)に示す例と組み合わせることにより、潤滑油漏れの発生を防止しつつ、一層、経糸61が緯糸62よりも、単位面積当たり多くの潤滑剤を保持するように構成してもよい。
【0056】
図8(C)に示す摺動部材51は、
図8(B)と同様、摺動方向Aに対して平行な経糸61が緯糸62に対して織り込み間隔が広く、さらに経糸61が緯糸62よりも太くなっている。
図8(C)の例では、経糸61と緯糸62の間に潤滑剤が保持されやすく、定着部材2の進行方向に向かって潤滑剤が流れるため、矢印B方向に流れる潤滑剤量はごくわずかとなり、漏れ出しを防止することができる。
【0057】
図8(D)に示す摺動部材51は、摺動方向Aに対して平行な経糸61の比率が緯糸62に対して多く(単位面積当たりの経糸61の数が緯糸62の数より多く)なっている。
図8(D)の例では、
図8(C)の例よりもさらに緯糸62による拘束力が小さくなるため、経糸61が横方向に移動しにくくなり、より一層潤滑剤の漏れ出しが発生しにくくなる。
なお、
図8(D)の例と、上述の
図8(B)および/または
図8(C)の例とを組み合わせることにより、潤滑材の漏れ出しを防止しつつ、経糸61が保持できる単位面積当たりの潤滑剤量を増大させることができる。
【0058】
図8(E)に示す摺動部材51は、畳の一般的な織り方を真似て繊維が織り込まれている。繊維は摺動方向に平行な経糸61のみ表側(すなわち、定着部材2側)に出てこないため、摺動方向に垂直な向きBへの潤滑剤の移動はほぼ無くなる。また、緯糸62の割合が少なく、経糸61が多くの潤滑剤を保持するため、潤滑剤の漏れ出しを抑制することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 定着装置
2 定着部材
3 加熱源
4 加圧部材
5 ニップ形成部材
6 支持部材
8 反射部材
51 摺動部材
51a 摺動領域
52b 非摺動領域
52 誤組付防止用の突起部
53 識別繊維
54 経糸の配向
61 経糸
62 緯糸
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】