IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図1
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図2
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図3
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図4
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図5
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図6
  • 特許-複合成形体及びその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】複合成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/16 20060101AFI20240312BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20240312BHJP
   B29C 45/37 20060101ALI20240312BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/26
B29C45/37
B29C45/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020015564
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021122959
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄田 広明
(72)【発明者】
【氏名】中村 匡徳
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝宏
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-277284(JP,A)
【文献】特開2002-134945(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117711(WO,A1)
【文献】特開2006-015738(JP,A)
【文献】特開2002-301738(JP,A)
【文献】特開平08-183116(JP,A)
【文献】特開2018-202722(JP,A)
【文献】特開2015-142943(JP,A)
【文献】特開2015-142960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材を成形する成形工程と、
前記第一の金型に前記樹脂部材が保持された状態で、前記第一の接合縁と、前記第二の金型に保持された、第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有する金属部材における前記第二の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記樹脂部材及び前記金属部材により中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで形成された空間を、前記第一の接合縁と前記第二の接合縁との接触箇所に形成する移動工程と、
前記空間に、第二の樹脂材料を二次射出して、前記空間を前記第二の樹脂材料で充填する接合工程と、
を有し、
前記樹脂部材が、前記第一の接合縁の前記第一の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第一の嵌合部である嵌合凸部を有し、
前記金属部材が、前記第二の接合縁の前記第二の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第二の嵌合部である嵌合凹部を有し、
前記第一の嵌合部と前記第二の嵌合部とが嵌合した状態で、前記空間に前記第二の樹脂材料を充填する複合成形体の製造方法。
【請求項2】
底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材と、
第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有し、前記樹脂部材とで中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで空間を形成するように、前記第二の接合縁が前記第一の接合縁と接触して配置された金属部材と、
前記空間を満たす樹脂接合材と、
を有し、
前記樹脂部材が、前記第一の接合縁の前記第一の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第一の嵌合部である嵌合凸部を有し、
前記金属部材が、前記第二の接合縁の前記第二の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第二の嵌合部である嵌合凹部を有し、
前記第一の嵌合部と前記第二の嵌合部とが嵌合している複合成形体。
【請求項3】
第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、第三の接合縁を有する第一ケース部材と第四の接合縁を有する第二ケース部材とを一括して形成する成形工程と、
前記第一の金型に前記第一ケース部材が保持され、前記第二の金型に前記第二ケース部材が保持された状態で、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記第一ケース部材と前記第二ケース部材とにより中空部を形成する移動工程と、
前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所を、第二の樹脂材料を二次射出することで接合する接合工程と、を有し、
前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、
前記移動工程において、前記固定用孔に前記金属製インサート部材が保持され、
前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所であって、前記粗化面の設けられた箇所よりも前記中空部側に、前記金属製インサート部材の周方向に設けられた溝である嵌合凹部が設けられており、前記第三の接合縁が前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部を有し、前記第四の接合縁が前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部を有し、前記嵌合凹部と前記嵌合凸部とが嵌合して嵌合部が形成された状態で、前記金属製インサート部材が前記固定用孔で保持された箇所を、前記接合工程において前記第二の樹脂材料で接合する複合成形体の製造方法。
【請求項4】
第三の接合縁を有する樹脂製の第一ケース部材と、第四の接合縁を有し前記第四の接合縁が前記第三の接合縁と接触して中空部を形成する樹脂製の第二ケース部材と、前記中空部内に少なくとも一部が配置される金属製インサート部材と、を有し、
前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで前記金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、
前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、
前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所であって、前記粗化面の設けられた箇所よりも前記中空部側に、前記金属製インサート部材の周方向に設けられた溝である嵌合凹部が設けられており、
前記第三の接合縁が前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部を有し、前記第四の接合縁が前記嵌合凹部と嵌合する嵌合凸部を有し、前記嵌合凹部と前記嵌合凸部とが嵌合して嵌合部が形成された状態で、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所、及び、前記金属製インサート部材の前記固定用孔で保持された箇所が、樹脂接合材で接合される複合成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられる各種成形体では、軽量化を目的として、鉄鋼材料とアルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽量金属材料との異種金属接合、鉄鋼材料又は軽量金属材料と樹脂材料との異種材料接合などが検討されている。鉄鋼材料又は軽量金属材料と樹脂材料との異種材料接合により、さらなる軽量化が期待できる。
【0003】
そのため、金属成形体と樹脂成形体とを接合して一体化することで新たな複合成形体を製造する方法が検討されている。
例えば、加工速度を高めることができ、かつ異なる方向の接合強度も高めることができる方法として、金属成形体の表面に対して、連続波レーザーを使用して2000mm/sec以上の照射速度でレーザー光を連続照射することで金属成形体の表面を粗面化する、金属成形体の粗面化方法及び複合成形体の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
特許文献1及び特許文献2では、金属成形体の表面を粗化した後、射出成形により金属成形体と樹脂成形体とを接合して一体化することで複合成形体を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5774246号
【文献】特許第5701414号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に記載の方法で形成された複合成形体は、成形後において樹脂の成形収縮による残留応力が発生しやすい傾向がある。成形収縮による残留応力が発生すると、金属成形体と樹脂成形体との接合強度が低下する場合がある。
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、残留応力の生じにくい複合成形体の製造方法、及び、接合強度の高い複合成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材を成形する成形工程と、
前記第一の金型に前記樹脂部材が保持された状態で、前記第一の接合縁と、前記第二の金型に保持された、第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有する金属部材における前記第二の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記樹脂部材及び前記金属部材により中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで形成された空間を、前記第一の接合縁と前記第二の接合縁との接触箇所に形成する移動工程と、
前記空間に、第二の樹脂材料を二次射出して、前記空間を前記第二の樹脂材料で充填する接合工程と、
を有する複合成形体の製造方法。
<2> 前記樹脂部材が、前記第一の接合縁の前記第一の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第一の嵌合部を有し、
前記金属部材が、前記第二の接合縁の前記第二の凹部の設けられた箇所よりも前記中空部側に第二の嵌合部を有し、
前記第一の嵌合部と前記第二の嵌合部とが嵌合した状態で、前記空間に前記第二の樹脂材料を充填する<1>に記載の複合成形体の製造方法。
<3> 底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材と、
第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有し、前記樹脂部材とで中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで空間を形成するように、前記第二の接合縁が前記第一の接合縁と接触して配置された金属部材と、
前記空間を満たす樹脂接合材と、
を有する複合成形体。
<4> 第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、第三の接合縁を有する第一ケース部材と第四の接合縁を有する第二ケース部材とを一括して形成する成形工程と、
前記第一の金型に前記第一ケース部材が保持され、前記第二の金型に前記第二ケース部材が保持された状態で、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記第一ケース部材と前記第二ケース部材とにより中空部を形成する移動工程と、
前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所を、第二の樹脂材料を二次射出することで接合する接合工程と、を有し、
前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、
前記移動工程において、前記固定用孔に前記金属製インサート部材が保持され、
前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、前記金属製インサート部材が前記固定用孔で保持された箇所を、前記接合工程において前記第二の樹脂材料で接合する複合成形体の製造方法。
<5> 第三の接合縁を有する樹脂製の第一ケース部材と、第四の接合縁を有し前記第四の接合縁が前記第三の接合縁と接触して中空部を形成する樹脂製の第二ケース部材と、前記中空部内に少なくとも一部が配置される金属製インサート部材と、を有し、
前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで前記金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、
前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、
前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所、及び、前記金属製インサート部材の前記固定用孔で保持された箇所が、樹脂接合材で接合される複合成形体。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、残留応力の生じにくい複合成形体の製造方法、及び、接合強度の高い複合成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ウォータージャケット10における、ヒートシンク12の設けられた箇所を、冷媒の流れ方向と直交する方向に切断したときの切断面からみた断面図である。
図2】ウォータージャケット本体14を形成するための金型であって、型開きされた状態を示す端面図である。
図3】ウォータージャケット本体14を形成するための金型であって、一次射出時に型閉じされた状態を示す端面図である。
図4】移動工程を説明するための端面図であり、第二の金型52が矢印A方向へスライド移動した後の状態を示す図である。
図5】移動工程を説明するための端面図であり、第二の金型52がスライド移動した後に第一の金型50と第二の金型52とが型閉じされた状態を示す図である。
図6】複合成形体110の斜視図である。
図7図6におけるAA線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の複合成形体及びその製造方法を、図面を参照しながら説明する。なお、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。また、実質的に同一の機能を有する部材には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0011】
<第一実施形態>
第一実施形態の複合成形体は、底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材と、第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有し、前記樹脂部材とで中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで空間を形成するように、前記第二の接合縁が前記第一の接合縁と接触して配置された金属部材と、前記空間を満たす樹脂接合材と、を有する。
第一実施形態の複合成形体では、樹脂接合材と樹脂部材との間で樹脂-樹脂接合が形成されている。また、樹脂接合材と金属部材との間で樹脂-金属接合が生じている。そのため、第一実施形態の複合成形体は、接合強度の高いものである。
【0012】
図1は、第一実施形態の複合成形体の一例であるウォータージャケット10における、金属部材の一例であるヒートシンク12の設けられた箇所を、冷媒の流れ方向と直交する方向に切断したときの切断面からみた断面図である。
【0013】
ウォータージャケット10は、ヒートシンク12と、樹脂部材の一例であるウォータージャケット本体14とを有する。ヒートシンク12とウォータージャケット本体14とが一体化されて、中空部16が形成されている。
【0014】
ウォータージャケット本体14は、底部18と、底部18の周縁部に設けられ、底部18の周縁部から底部18の厚み方向に向けて張り出した側壁部20とを有する。側壁部20の先端には、第一の凹部22を含む第一の接合縁24が設けられている。
【0015】
ヒートシンク12は、板状の支持部26と、支持部26から中空部16方向に立設し板状を成す複数のフィン28とによって構成されている。複数のフィン28は、冷媒の流れ方向に沿って略水平に配列されている。
【0016】
支持部26の周囲には、第二の凹部30を含む第二の接合縁32が設けられている。第二の凹部30の表面の少なくとも一部は、凹凸を有する粗化面33とされている。
【0017】
ウォータージャケット本体14の第一の接合縁24とヒートシンク12の第二の接合縁32とは、互いに接触して接合部34が形成されている。また、接合部34には、第一の凹部22と第二の凹部30とで、空間36が形成されている。なお、図1では、空間36は後述の樹脂接合材40で満たされている。
【0018】
第一の凹部22は、第一の接合縁24の全周に設けられている。また、第二の凹部30は、第二の接合縁32の全周に設けられている。そのため、空間36は、接合部34の全周に形成される。
【0019】
支持部26には、空間36と連通するゲート口38が設けられており、空間36は、ゲート口38を介して外部と通じている。
【0020】
なお、第一実施形態では、空間36が接合部34の全周に形成された態様について言及するが、空間36は、接合部34の少なくとも一部に形成されていればよい。また、空間36は、1つであっても、互いに独立した複数の空間であってもよい。接合部34が互いに独立した複数の空間36を有する場合、各空間36の各々と連通する複数のゲート口38が、支持部26に設けられる。接合部34が互いに独立した複数の空間36を有する場合、各空間36に対応する第一の凹部22及び第二の凹部30が、各々、第一の接合縁24及び第二の接合縁32に設けられる。
【0021】
空間36には、ウォータージャケット本体14とヒートシンク12とを接合する樹脂接合材40が充填されている。樹脂接合材40は、樹脂で形成されるウォータージャケット本体14と強固に接合する。また、第二の凹部30の表面の少なくとも一部は、凹凸を有する粗化面33とされているため、樹脂接合材40は、ヒートシンク12と粗化面33を介して強固に接合する。その結果、空間36に充填された樹脂接合材40が、ウォータージャケット本体14とヒートシンク12とを強固に接合する。
【0022】
第一の接合縁24において、第一の凹部22の設けられた箇所よりも中空部16側には、第一の嵌合部である嵌合凸部42が設けられている。また、第二の接合縁32において、第二の凹部30の設けられた箇所よりも中空部16側には、第二の嵌合部である嵌合凹部44が設けられている。嵌合凸部42と嵌合凹部44とは互いに嵌合して嵌合部45を形成している。
【0023】
嵌合凸部42は、第一の凹部22の設けられた箇所に沿って設けられていればよい。例えば、第一の凹部22が第一の接合縁24の全周に設けられている場合には、嵌合凸部42は、第一の接合縁24の全周に設けられることが好ましい。一方、第一の凹部22が第一の接合縁24の一部に設けられている場合、嵌合凸部42は、第一の凹部22に隣り合う箇所に設けられていればよい。
また、嵌合凹部44は、第二の凹部30の設けられた箇所に沿って設けられていればよい。例えば、第二の凹部30が第二の接合縁32の全周に設けられている場合には、嵌合凹部44は、第二の接合縁32の全周に設けられることが好ましい。一方、第二の凹部30が第二の接合縁32の一部に設けられている場合、嵌合凹部44は、第二の凹部30に隣り合う箇所に設けられていればよい。
【0024】
ウォータージャケット本体14の側壁部20における中空部16と接する面とは反対側の面には、断面L字状のフランジ46が設けられている。フランジ46は、側壁部20の全周に設けられていても、側壁部20の一部に設けられていてもよい。
【0025】
ウォータージャケット10の中空部16には、不図示の冷媒供給手段から冷媒が供給され、ヒートシンク12の支持部26におけるフィン28の設けられた側とは反対側に配置されたパワー半導体、キャパシタ等の電子部品、これら電子部品を接合するバスバーなどが冷却される。第一実施形態の複合成形体は接合強度が高いため、複合成形体の変形等が生じても、接合部34における樹脂部材と金属部材との剥離が抑制される。そのため、接合部34からの冷媒の漏出等が生じにくい。
【0026】
金属部材の粗化面は、第二の凹部30の表面の全面に設けられていても、第二の凹部30の表面の一部に設けられていてもよい。なお、金属部材の粗化面は、第二の凹部30の表面以外の箇所にも設けられていてもよいし、第二の凹部30の表面以外の箇所に設けられていなくてもよい。
粗化面が第二の凹部30の表面の一部に設けられる場合、第二の凹部30の表面は粗化されていない平滑部と粗化面に該当する凹凸部とを有し、平滑部の表面を基準面としたときに、凹凸部が、基準面よりも高い位置まで突出する複数の凸部分を有するものであることが好ましい。凹凸部が、基準面よりも高い位置まで突出する複数の凸部分を有することで、凸部分を介して、ヒートシンク12が樹脂接合材40と強固に接合することができる。
【0027】
凸部分の基準面からの高さは、15μm~1000μmの範囲であってもよく、15μm~50μmの範囲であってもよく、50μm~500μmの範囲であってもよく、500μm~1000μmの範囲であってもよい。
凹凸部における凸部分の密度は、5個/mm~50個/mmであることが好ましく、10個/mm~30個/mmであることがより好ましく、10個/mm~25個/mmであることがさらに好ましい。
【0028】
金属部材に凹凸を有する粗化面を形成する方法は特に限定されるものではない。金属部材に粗化面を形成する方法としては、エッチング等の化学処理による方法、金属部材の表面にレーザー光を照射して凹凸を設けるレーザー粗化法等が挙げられる。これらの中でも、基準面よりも高い位置まで突出する凸部分を容易に形成可能なレーザー粗化法が好ましい。
【0029】
以下に、金属部材の表面にレーザー光を照射して粗化面を形成する方法を採用した際の各種条件について説明する。
なお、下記各種条件は、金属部材を構成する金属の種類、凸部分の基準面からの平均高さ等に鑑みて適宜設定されるものである。
【0030】
金属部材の表面にレーザー光を照射して粗化面を設ける場合、パルスレーザーを用いても、連続発振(CW、Continuous Wave)レーザーを用いてもよい。CWレーザーを用いる場合、CWレーザーは周期的にレーザーの出力を変化させる変調CWレーザーであってもよい。
【0031】
CWレーザーを用いる場合、CWレーザーの照射速度(スキャン速度)は特に限定されるものではない。
CWレーザーの照射速度としては、100mm/sec~2000mm/secであることが好ましい。
【0032】
レーザーの照射出力は特に限定されるものではない。
例えば、CWレーザーを用いる場合、レーザー出力は6W~500Wであることが好ましい。
【0033】
レーザーのスポット径は特に限定されるものではない。
例えば、レーザーのスポット径としては、10μm~50μmであることが好ましい。
【0034】
変調CWレーザーを用いる場合、変調方式としては正弦波であってもよく三角波であってもよく矩形波であってもよい。
変調CWレーザーの周波数としては、1000Hz~10000Hzであることが好ましい。
変調CWレーザーにおいて、レーザー出力の最大値を100としたときのレーザー出力の最小値は、30以上100未満であることが好ましく、50~95であることがより好ましく、80~90であることがさらに好ましい。
【0035】
金属部材の表面にレーザー光を照射する場合、ワブリング加工により粗化面を設けてもよい。
また、レーザー光を一度照射された箇所に、レーザー光を繰り返し照射してもよい。レーザー光を繰り返して照射する場合、繰り返しの回数としては、1回~40回であることが好ましい。
【0036】
レーザーとしては、ルビーレーザー、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザー、チタンサファイアレーザー等の固体レーザー、色素レーザー等の液体レーザー、ヘリウムネオンレーザー、アルゴンイオンレーザー、炭酸ガスレーザー、窒素レーザー、エキシマーレーザー等の気体レーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザーなどを用いることができる。
レーザーとしては、グリーンレーザーであってもよい。
【0037】
金属部材の表面にレーザー光を照射して粗化面を設ける場合、金属部材表面におけるレーザー光の照射される箇所に、圧縮空気を供給してもよい。供給される圧縮空気の圧力としては、レーザー光の照射により発生する金属粉を効率的に除去する観点から、0.2MPa~0.5MPaであることが好ましい。
【0038】
レーザー光が直線状に照射された場合、レーザー光の走査間隔としては、レーザー光のスポット径よりも大きいことが好ましい。
【0039】
第一実施形態で用いられる金属部材を構成する金属は、複合成形体の用途に応じて適宜選択することができる。
金属部材を構成する金属としては、例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、チタン、銅及びマグネシウム並びにこれらを含む合金を挙げることができる。合金としては、例えば、各種ステンレス及び銅-亜鉛合金(黄銅)を挙げることができる。
金属部材における第二の接合縁には、メッキ処理、アルマイト処理等の表面処理を施してもよい。
【0040】
第一実施形態で用いられる樹脂部材を構成する樹脂は、金属部材との接合が可能なものであれば特に限定されるものではなく、複合成形体の用途に応じて従来から公知の樹脂を適宜選択して用いることができる。
樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー等が挙げられる。
【0041】
熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、不飽和イミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂、レゾルシノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)等が挙げられる。
エラストマーの具体例としては、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0042】
樹脂部材には、複合成形体の用途に応じて従来から公知の樹脂以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、粒子状の充填材、繊維状の充填材、離型剤等が挙げられる。
【0043】
その他の成分としては、さらに、熱硬化性樹脂を硬化する硬化剤、熱硬化性樹脂の硬化を促進する硬化促進剤、無機材料の表面を改質する表面処理剤等を挙げることができる。
【0044】
樹脂部材に含まれる樹脂以外のその他の成分の含有量は、複合成形体の用途に応じて適宜設定されてもよい。
【0045】
第一実施形態の複合成形体は、いかなる方法により製造されてもよいが、残留応力を少なくする観点から、後述する第一実施形態の複合成形体の製造方法により製造されたものであることが好ましい。
【0046】
第一実施形態の複合成形体の製造方法は、第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、底部と、前記底部の周縁部に設けられ、前記周縁部から前記底部の厚み方向に向けて張り出した側壁部と、を有し、前記側壁部の先端に第一の凹部を含む第一の接合縁が設けられた樹脂部材を成形する成形工程と、前記第一の金型に前記樹脂部材が保持された状態で、前記第一の接合縁と、前記第二の金型に保持された、第二の凹部を含み、前記第二の凹部の表面の少なくとも一部が凹凸を有する粗化面とされた第二の接合縁を有する金属部材における前記第二の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記樹脂部材及び前記金属部材により中空部を形成し、且つ、前記第一の凹部と前記第二の凹部とで形成された空間を、前記第一の接合縁と前記第二の接合縁との接触箇所に形成する移動工程と、前記空間に、第二の樹脂材料を二次射出して、前記空間を前記第二の樹脂材料で充填する接合工程と、を有する。
第一実施形態の複合成形体の製造方法によれば、複合成形体の残留応力が生じにくい。
【0047】
始めに、第一実施形態の複合成形体の製造方法に用いられる金型について説明する。
図2は、第一実施形態の複合成形体の製造方法に用いられる、ウォータージャケット本体14を形成するための金型であって、型開きされた状態を示す端面図である。図3は、第一実施形態の複合成形体の製造方法に用いられる、ウォータージャケット本体14を形成するための金型であって、一次射出時に型閉じされた状態を示す端面図である。
【0048】
図2及び図3に示すように、金型48は、ダイスライドインジェクション(DSI)成形を行う不図示の成形機に設けられている。金型48は、第一の金型50と第二の金型52とを備えている。第一の金型50及び第二の金型52は、ステンレス鋼等の金属材料から形成されている。
【0049】
第一の金型50には、ウォータージャケット本体14の外部形状を形成するためのキャビティ部54が設けられている。キャビティ部54には、ウォータージャケット本体14の外部形状に対応した凹部が形成されている。
第二の金型52には、ウォータージャケット本体14の内部形状及び第一の接合縁24を形成するためのコア部56と、ヒートシンク12を保持するための収容部58が設けられている。コア部56には、ウォータージャケット本体14の内部形状及び第一の接合縁24に対応した凸部が形成されている。なお、図2図5において、ヒートシンク12を構成するフィン28は、割愛している。
【0050】
図3に示すように、一次射出前において、第一の金型50と第二の金型52とが型閉じされると、第一の金型50のキャビティ部54と第二の金型52のコア部56とによってウォータージャケット本体14用のキャビティ60が形成される。
【0051】
第一の金型50には、キャビティ60に一次射出用の第一の樹脂材料を射出するためのゲート62が形成されている。ゲート62の射出口の位置は特に限定されるものではなく、ウォータージャケット本体14におけるフランジ46の設けられた箇所、底部18、側壁部20等が挙げられる。
【0052】
さらに、第一の金型50には、二次射出用の第二の樹脂材料を射出するためのゲートが形成される。本実施形態では、一次射出用の第一の樹脂材料を射出するためのゲート62が二次射出用の第二の樹脂材料を射出するためのゲートを兼ねる構成としているが、二次射出用の第二の樹脂材料を射出するためのゲートは、一次射出用の第一の樹脂材料を射出するためのゲート62とは独立して設けられていてもよい。
【0053】
成形機は、金型48のほか、ゲート62から一次射出用の第一の樹脂材料及び二次射出用の第二の樹脂材料を射出する射出機64、第一の金型50及び第二の金型52の型閉じ及び型開きを切り替えるための第一駆動手段、並びに、第一の金型50及び第二の金型52が型開きの状態で第二の金型52を第一の金型50に対してスライド移動させる第二駆動手段を備える。
さらに、成形機は、射出機64、第一駆動手段、第二駆動手段等の各種装置の動作を制御するための制御部を備えている。制御部は、プログラムが格納された不揮発性メモリ、プログラムを実行するための一時的な記憶領域である揮発性メモリ、入出力ポート、プログラムを実行するプロセッサ等により構成される。
【0054】
次に、第一実施形態の複合成形体の製造方法を実施するために用いられる成形機の動作について説明する。
第一実施形態では、成形機の制御部がプログラムを実行して第一駆動手段、第二駆動手段、射出機64等の動作を制御することで、複合成形体の製造方法が実施される。
【0055】
成形機によりウォータージャケット本体14を形成する形成工程の前段階では、図2に示すように、第一の金型50と第二の金型52とは型開きされた状態である。この段階で、第二の金型52における収容部58には、ヒートシンク12が、ヒートシンク12の支持部26におけるフィン28の設けられた側が第一の金型50側を向くようにして保持されている。
【0056】
次いで、形成工程が実施される。つまり、ウォータージャケット本体14の樹脂成形の開始にともなって、図3に示すように第一の金型50と第二の金型52とが型閉じされる。
【0057】
型閉じされた後、第一の樹脂材料が射出機64からゲート62を介してキャビティ60内に一次射出される。これにより、ウォータージャケット本体14が形成される。
【0058】
次いで、移動工程が実施される。移動工程では、第一の金型50にウォータージャケット本体14が保持された状態で、ウォータージャケット本体14の第一の接合縁24と、ヒートシンク12の第二の接合縁32とを、第一の金型50及び第二の金型52の相対移動によって接触させる。本実施形態においては、第一の金型50及び第二の金型52の相対移動は、具体的には、図4に示す第二の金型52の矢印A方向へのスライド移動、及び、図5に示す第一の金型50と第二の金型52との型閉じである。
【0059】
図5に示す第一の金型50と第二の金型52との型閉じが行われることで、ヒートシンク12とウォータージャケット本体14とにより中空部16が形成される。
また、ウォータージャケット本体14の第一の接合縁24とヒートシンク12の第二の接合縁32とが互いに接触して接合部34が形成される。これにより、接合部34には、第一の凹部22と第二の凹部30とで、空間36が形成される。
【0060】
形成工程においてウォータージャケット本体14が形成された後、移動工程においてウォータージャケット本体14の第一の接合縁24とヒートシンク12の第二の接合縁32とが接触するまでの間に、射出成形されたウォータージャケット本体14の温度は、射出機64からゲート62を介してキャビティ60内に一次射出された際の樹脂温度よりも低下する。ウォータージャケット本体14の温度が低下することでウォータージャケット本体14が収縮し、ウォータージャケット本体14が変形することがある。
【0061】
本実施形態では、ウォータージャケット本体14には断面L字状のフランジ46が設けられているため、フランジ46が第一の金型50に引っ掛かり、側壁部20が中空部16側に倒れ込むのが抑制される。そのため、ウォータージャケット本体14及びヒートシンク12の、第一の接合縁24及び第二の接合縁32を介した接合の精度が向上し、第一の凹部22と第二の凹部30とで構成される空間36が精度よく形成可能となる。
【0062】
次いで、接合工程が実施される。接合工程では、樹脂接合材40に相当する第二の樹脂材料が、射出機64からゲート62及び支持部26のゲート口38を介して空間36内に二次射出される。二次射出された樹脂接合材40が空間36を充填することでウォータージャケット本体14とヒートシンク12とが接合され、ウォータージャケット10が得られる。
【0063】
また、本実施形態では、嵌合凸部42と嵌合凹部44とが嵌合して嵌合部45となった状態で空間36に第二の樹脂材料を充填することで、二次射出の圧力により側壁部20の変形又は破壊が防止される。
【0064】
第二の樹脂材料としては、樹脂部材を構成する樹脂として既述された熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー等が挙げられる。
樹脂接合材40として用いられる第二の樹脂材料は、第一の樹脂材料と同じであっても異なっていてもよい。
【0065】
<第二実施形態>
第二実施形態の複合成形体は、第三の接合縁を有する樹脂製の第一ケース部材と、第四の接合縁を有し前記第四の接合縁が前記第三の接合縁と接触して中空部を形成する樹脂製の第二ケース部材と、前記中空部内に少なくとも一部が配置される金属製インサート部材と、を有し、前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで前記金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所、及び、前記金属製インサート部材の前記固定用孔で保持された箇所が、樹脂接合材で接合されるものである。
第二実施形態の複合成形体では、樹脂接合材と金属製インサート部材との間で樹脂-金属接合が生じている。そのため、第二実施形態の複合成形体は、接合強度の高いものである。
【0066】
以下、図6及び図7に基づいて第二実施形態の複合成形体110を詳細に説明する。図6は、複合成形体110の斜視図であり、図7は、図6におけるAA線端面図である。
【0067】
複合成形体110は、樹脂製の第一ケース部材114と、樹脂製の第二ケース部材116と、金属棒112とを備える。
第一ケース部材114は、底部118と、底部118の周縁部に設けられ、底部118の周縁部から底部118の厚み方向に向けて張り出した側壁部119とを有する。側壁部119の先端には、第三の接合縁124が設けられている。
第二ケース部材116は、第一ケース部材114と同様に、底部121と、底部121の周縁部に設けられ、底部121の周縁部から底部121の厚み方向に向けて張り出した側壁部120とを有する。側壁部120の先端には、第四の接合縁128が設けられている。
【0068】
第一ケース部材114の第三の接合縁124と第二ケース部材116の第四の接合縁128とは、互いに接触して接合部130が形成されている。また、第一ケース部材114と第二ケース部材116とが接合部130で一体化されて、中空部132が形成されている。
【0069】
第一ケース部材114の接合縁124及び第二ケース部材116の接合縁128の各々には、接合縁124と接合縁128とが接触することで金属棒112の少なくとも一部を中空部132内に配置するための固定用孔134を形成する、切り欠き部136及び切り欠き部137が設けられている。第一ケース部材114の接合縁124と第二ケース部材116の接合縁128とが接触することで、切り欠き部136及び切り欠き部137により固定用孔134が形成される。
固定用孔134は、金属棒112を保持する。固定用孔134で保持された金属棒112の一部が、中空部132内に配置される。
【0070】
側壁部119及び側壁部120における中空部132と接する面とは反対側の面には、断面L字状のフランジ142及びフランジ144が設けられている。第二実施形態では、フランジ142及びフランジ144は、側壁部119及び側壁部120の全周に設けられている。なお、フランジ142及びフランジ144は、側壁部119及び側壁部120の一部に設けられていてもよい。
フランジ142及びフランジ144には、各々、第三の凹部122及び第四の凹部126が設けられている。
接合縁124及び接合縁128において、第三の凹部122及び第四の凹部126の設けられた箇所よりも中空部132側であって金属棒112と接触する箇所には、各々、嵌合凸部146及び嵌合凸部148が設けられている。また、金属棒112における嵌合凸部146及び嵌合凸部148に対応する箇所には嵌合凹部150が設けられており、嵌合凸部146及び嵌合凹部150、並びに、嵌合凸部148及び嵌合凹部150は互いに嵌合して嵌合部152を形成している。嵌合凹部150は、金属棒112の周方向に設けられた溝である。
【0071】
接合部130における固定用孔134の形成された箇所以外の箇所には、第三の凹部122と第四の凹部126とで、不図示の空間が形成される。固定用孔134で保持された金属棒112の周囲には、図7に示すように、金属棒112を取り囲むように第三の凹部122及び第四の凹部126が配置される。そのため、金属棒112の周囲には、第三の凹部122と金属棒112の表面とで空間が形成され、第四の凹部126と金属棒112の表面とで空間が形成される。第三の凹部122と第四の凹部126とで形成された不図示の空間、第三の凹部122と金属棒112の表面とで形成された空間、及び、第四の凹部126と金属棒112の表面とで形成された空間は、第二の樹脂材料に該当する既述の樹脂接合材40で満たされている。つまり、第三の接合縁124と第四の接合縁128とは、接触箇所である接合部130において、第二の樹脂材料である樹脂接合材40の二次射出により接合される。第二の樹脂材料は、これら空間と連通する不図示のゲート口を介して空間内に充填される。
【0072】
第三の凹部122は、フランジ142の全周に設けられている。第四の凹部126は、フランジ144の全周に設けられている。そのため、不図示の空間は、接合部130の全周に形成される。なお、第二実施形態では接合部130の全周に空間が形成された態様について言及するが、第一実施形態と同様に、空間は、接合部130の少なくとも一部に形成されていればよい。また、空間は、1つであっても、互いに独立した複数の空間であってもよい。
【0073】
金属棒112における固定用孔134で保持される箇所の少なくとも一部は、凹凸を有する粗化面139とされている。そのため、樹脂接合材40は、金属棒112と粗化面139を介して強固に接合する。また、樹脂接合材40は、樹脂で形成される第一ケース部材114及び第二ケース部材116と強固に接合する。その結果、空間に充填された樹脂接合材40により、金属棒112の固定用孔134で保持される箇所が、第一ケース部材114及び第二ケース部材116と強固に接合する。
なお、金属棒112における粗化面139の物性、形成方法等は、第一実施形態と同様である。
【0074】
第二実施形態では、金属製インサート部材として金属棒112を用いたが、金属製インサート部材は特に限定されるものではなく、固定用孔134で保持される箇所が凹凸を有する粗化面とされているものであればよい。金属製インサート部材としては、例えば、棒ヒーター等が挙げられる。
【0075】
第二実施形態の複合成形体は、いかなる方法により製造されてもよいが、残留応力を少なくする観点から、後述する第二実施形態の複合成形体の製造方法により製造されたものであることが好ましい。
【0076】
第二実施形態の複合成形体の製造方法は、第一の金型と第二の金型とで形成されるキャビティ内に第一の樹脂材料を一次射出して、第三の接合縁を有する第一ケース部材と第四の接合縁を有する第二ケース部材とを一括して形成する成形工程と、前記第一の金型に前記第一ケース部材が保持され、前記第二の金型に前記第二ケース部材が保持された状態で、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とを、前記第一の金型及び前記第二の金型の相対移動によって接触させて、前記第一ケース部材と前記第二ケース部材とにより中空部を形成する移動工程と、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁との接触箇所を、第二の樹脂材料を二次射出することで接合する接合工程と、を有し、前記第一ケース部材及び前記第二ケース部材の少なくとも一方が、前記第三の接合縁と前記第四の接合縁とが接触することで金属製インサート部材の少なくとも一部を前記中空部内に配置するための固定用孔を形成する切り欠き部を有し、前記移動工程において、前記固定用孔に前記金属製インサート部材が保持され、前記金属製インサート部材における前記固定用孔で保持される箇所の少なくとも一部が、凹凸を有する粗化面とされており、前記金属製インサート部材が前記固定用孔で保持された箇所を、前記接合工程において前記第二の樹脂材料で接合するものである。
【0077】
第二実施形態の複合成形体の製造方法における成形工程、移動工程及び接合工程は、DSI成形により実施することができる。また、移動工程において固定用孔に金属製インサート部材を保持させるには、例えば、ロボットアーム等で金属製インサート部材を第一ケース部材又は第二ケース部材における切り欠き部に配置し、次いで、第一の金型及び第二の金型の相対移動によって第一ケース部材の第三の接合縁と第二ケース部材の第四の接合縁とを接触させることで固定用孔を形成すると共に固定用孔で金属製インサート部材を保持すればよい。
第二実施形態の複合成形体の製造方法における金型等の構成、金型等の動作、樹脂材料の種類などは、公知のDSI成形技術、並びに、第一実施形態の複合成形体の製造方法の内容を参照することができる。
【実施例
【0078】
以下、金属部材における第二の接合縁に含まれる第二の凹部の表面が粗化面とされていない場合を例に、複合成形体の歪みの程度をコンピュータシミュレーションで解析した。
【0079】
下記複合成形体の解析モデルの応力発生状況を、コンピュータシミュレーションにより求めた。
解析モデル1として、フランジ46、ゲート口38及びフィン28が存在しないこと以外は断面形状が図1と同様の、中空部を有し寸法が200mm×150mm×30mmの直方体を採用した。直方体の一面を、200mm×150mm×3mmの銅材とし、他の5面を、肉厚が5mmでガラスフィラーを30質量%含むPPS製の筐体とした。図1の空間36の断面における直径は2mmとした。空間36を充填する樹脂接合材(第二の樹脂材料)は、PPSとした。接合部34における第一の凹部22及び第二の凹部30の表面(接合面)で筐体と銅材とが樹脂接合材40を介して接合しており、その他の箇所では筐体と銅材とが接触しているものの接合していない(固定化されていない)こととした。
樹脂部(筐体)及び銅材の温度が150℃、樹脂部(樹脂接合材)が320℃である状態で接合面を拘束し、樹脂部(筐体及び樹脂接合材)及び銅材の温度を20℃に変化させたときの接合部34で生じた応力を、シミュレーション用ソフト(DASSAULT SYSTEMES社製、SOLIDWORKS Simulation)で求めたところ、最大で112.8MPaであり、最大変形量は0.07mmであった。
【0080】
解析モデル2として、空間36を設けず、筐体と銅材とが接触する箇所の全てを接合面とした以外は解析モデル1と同様の直方体を採用した。樹脂部(筐体)の温度を320℃、銅材の温度が150℃である状態で接合面を拘束し、樹脂部(筐体)及び銅材の温度を20℃に変化させたときの接合部で生じた応力を、解析モデル1の場合と同様にして求めたところ、最大で291.6MPaであり、最大変形量は0.55mmであった。
1回の成形で筐体と銅材とを接合した解析モデル2の場合、樹脂の成形収縮による応力が全て接合部にかかる。一方、本開示では、第二の樹脂材料(樹脂接合材)で接合する時点で、一次成形品である筐体の収縮が進んでいる状態で筐体が拘束されるため、残りの収縮分の応力だけが接合部にかかる。
従って、金型から取り出した成形品は、本開示の製造方法で成形することで、残留応力が少なくできる。解析結果から、291.6MPaから112.8MPaまで応力が低減していた。
【符号の説明】
【0081】
10 ウォータージャケット
12 ヒートシンク
14 ウォータージャケット本体
16 中空部
34 接合部
36 空間
40 樹脂接合材
45 嵌合部
46 フランジ
48 金型
54 キャビティ部
56 コア部
58 収容部
60 キャビティ
62 ゲート
64 射出機
110 複合成形体
112 金属棒
114 第一ケース部材
116 第二ケース部材
132 中空部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7