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特許7452140非水系二次電池用黒鉛系負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】非水系二次電池用黒鉛系負極材、非水系二次電池用負極及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20240312BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240312BHJP
   C01B 32/20 20170101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/133
C01B32/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020047970
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2020167153
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019066186
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆
(72)【発明者】
【氏名】関 敬一
(72)【発明者】
【氏名】平原 聡
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-128973(JP,A)
【文献】特開2016-213204(JP,A)
【文献】国際公開第2006/003858(WO,A1)
【文献】特開2015-167118(JP,A)
【文献】特開2003-092136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/05-0587
C01B 32/20-23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定された電子スピン共鳴法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2が2.7(mT)以上であり、下記式1で表されるラマンR値が0.21以上である非水系二次電池用黒鉛系負極材。
式1:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPの強度I
【請求項2】
Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定された電子スピン共鳴法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度280Kで測定された当該スペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が1.0以上である、請求項1に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
【請求項3】
下記式2で表されるO/C値が0.4mol%以上である、請求項1又は2に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
式2:[O/C値(mol%)]={[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]}×100
【請求項4】
人造黒鉛を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
【請求項5】
集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が請求項1から4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材を含有する非水系二次電池用負極。
【請求項6】
正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が請求項5に記載の非水系二次電池用負極である非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急速充電特性に優れる非水系二次電池用黒鉛系負極材に関する。また、本発明は、この非水系二次電池用黒鉛系負極材を含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、高容量の二次電池に対する需要が高まってきている。特に、ニッケル・カドミウム電池や、ニッケル・水素電池に比べ、よりエネルギー密度が高く、急速充放電特性に優れた非水系二次電池、とりわけリチウムイオン二次電池が注目されている。特に、リチウムイオンを吸蔵・放出できる正極及び負極、並びにLiPFやLiBF等のリチウム塩を溶解させた非水電解液からなる非水系リチウム二次電池が開発され、実用化されている。
【0003】
この非水系リチウム二次電池の負極材としては種々のものが提案されているが、高容量であること、放電電位の平坦性に優れていること等の理由から、天然黒鉛やコークス等の黒鉛化で得られる人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズピッチ、黒鉛化炭素繊維等の黒鉛質の炭素材が用いられている。また、一部の電解液に対して比較的安定しているなどの理由で非晶質の炭素材も用いられている。更には、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素を被覆あるいは付着させ、黒鉛による高容量かつ不可逆容量が小さいという特性と、非晶質炭素による電解液との安定性に優れるという特性との2つの特性を併せ持った炭素材も用いられている。
【0004】
特許文献1には、粒子表面に露出するエッジ面が少なく、且つエッジ面の状態が複数存在する負極材が良好な寿命特性を示すことが開示されている。また、特許文献2には、粒子表面に露出するエッジ面が少なく、且つエッジ面に存在する局在電子密度が高い人造黒鉛材料は、良好な寿命特性を維持したまま、内部抵抗を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5657348号公報
【文献】特許第6242716号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】炭素 1966 No.47 30-34
【文献】炭素 1996 No.175 249-256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者等の検討によれば、特許文献1では、炭化温度が1200~1400℃と低く、非晶質系炭素材料であることから、放電容量の点で不十分である。また特許文献2では、粒子表面に露出するエッジ面が少なく、急速充放電特性が不十分である。
【0008】
本発明の課題は、急速充電特性に優れる非水系二次電池用黒鉛系負極材を提供することにある。また、本発明の課題は、この非水系二次電池用黒鉛系負極材を用いて得られる非水系二次電池用負極及び非水系二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等が上記課題に対して検討した結果、黒鉛表面に露出するエッジ面が多く、かつ黒鉛表面の結晶性を低下させた負極材により上記課題が解決され得ることを見出した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定された電子スピン共鳴法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2が2.7(mT)以上であり、下記式1で表されるラマンR値が0.21以上である非水系二次電池用黒鉛系負極材。
式1:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPの強度I
【0011】
[2] Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定された電子スピン共鳴法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度280Kで測定された当該スペクトルの吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が1.0以上である、[1]に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
【0012】
[3] 下記式2で表されるO/C値が0.4mol%以上である、[1]又は[2]に記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
式2:[O/C値(mol%)]={[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]}×100
【0013】
[4] 人造黒鉛を含む、[1]から[3]のいずれか1つに記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材。
【0014】
[5] 集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が[1]から[4]のいずれか1つに記載の非水系二次電池用黒鉛系負極材を含有する非水系二次電池用負極。
【0015】
[6] 正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、該負極が[5]に記載の非水系二次電池用負極である非水系二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、急速充電特性に優れる非水系二次電池用黒鉛系負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0018】
〔非水系二次電池用黒鉛系負極材〕
本発明の非水系二次電池用黒鉛系負極材(以下、「本発明の黒鉛系負極材」と称す場合がある。)は、Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定された電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance:ESR)法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有し、温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2が2.7(mT)以上であり、下記式1で表されるラマンR値が0.21以上であることを特徴とする。即ち、急速充電特性に優れる非水系二次電池用黒鉛系負極材を実現する上で、半値幅ΔH1/2が2.7(mT)以上と、ラマンR値0.21以上の双方を満たすことが重要である。
式1:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPの強度I
【0019】
[ESR]
ESR測定は、不対電子が磁場中に置かれたときに生じる準位間の遷移を観測する分光分析である。測定は、マイクロ波照射下で磁場を掃引して行う。印加する磁場が大きくなるに従ってゼーマン効果により二分されたエネルギー間隔ΔEが増大し、ΔEがマイクロ波のエネルギーに等しくなったときに共鳴吸収が観測される。ESRスペクトルは、通常1次微分曲線で得られ、1回積分すると吸収曲線、もう1回積分すると信号強度が得られる。
【0020】
炭素材料中には、伝導電子と局在電子の2種の不対電子が存在する。したがって、炭素材料のESRスペクトルは、伝導電子と局在電子のスペクトルが重なりあって観測される。伝導電子による共鳴吸収の信号強度は、ほぼ温度に依存しない(Pauliの常磁性)のに対して、局在電子による共鳴吸収の信号強度は、温度の逆数に比例して増加する(Currie則)。4.2Kから300Kの温度範囲における炭素材料のESR測定において、300Kから徐々に温度を下げて測定を行うと、100K付近までは吸収強度の温度依存性がほとんどなく、ほぼ一定値が得られる。このことから、100~300Kの温度範囲では、伝導電子がESR吸収の原因であると結論づけられている(非特許文献1)。100K以下では、50K以下の低温度領域において、Currie則に従い、局在電子による信号強度が測定温度に逆比例して大きくなることが報告されている(非特許文献2)。
【0021】
具体的なESRの測定方法は、後述の実施例の項に示す通りである。
【0022】
Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定されたESR法において、g=2.0付近に出現する炭素ラジカル由来の吸収スペクトルを有するとは、本発明の黒鉛系負極材が不対電子を有することを示す。
【0023】
[ΔH1/2
本発明の黒鉛系負極材のESR測定において、温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2は、エッジ面上に存在する局在電子の状態数を反映しており、その大きさにより黒鉛表面に露出するエッジ面の量を見積もることができる。ΔH1/2が、2.7(mT)より小さいと黒鉛表面に露出するエッジ面の量が少なく、急速充電しようとするとLiが電析しやすいため、本発明の黒鉛系負極材のΔH1/2は2.7(mT)以上、好ましくは3.0(mT)以上、より好ましくは3.1(mT)以上、さらに好ましくは3.2(mT)以上、特に好ましくは3.3(mT)以上、最も好ましくは3.4(mT)以上である。一方で、ΔH1/2が大きすぎると、電解液との副反応の増大により、初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を招き、電池容量が低下する傾向があることから、通常、ΔH1/2(4.8K)の上限は10(mT)以下、好ましくは9(mT)以下、さらに好ましくは8(mT)以下、より好ましくは7(mT)以下、特に好ましくは5(mT)以下、最も好ましくは4.2(mT)以下である。
【0024】
[ラマンR値]
本発明の黒鉛系負極材の下記式1で表されるラマンR値は、0.21以上、好ましくは0.22以上、より好ましくは0.23以上、さらに好ましくは0.25以上、特に好ましくは0.28以上、最も好ましくは0.30以上である。このラマンR値が小さすぎることは負極材表面の結晶性が高すぎることを示しており、Liイオンが挿入・脱離しにくくなることにより急速充放電特性が低下する場合がある。一方、ラマンR値が大き過ぎると非晶質炭素の持つ不可逆容量の影響の増大により、リチウムイオン二次電池の初期充放電効率の低下を招き、電池容量が低下する傾向があることから、本発明の黒鉛系負極材のラマンR値は、好ましくは0.80以下、より好ましくは、0.70以下、さらに好ましくは0.60以下、特に好ましくは0.50以下、最も好ましくは0.45以下である。
式1:[ラマンR値]=[ラマンスペクトル分析における1360cm-1付近のピークPの強度I]/[ラマンスペクトル分析における1580cm-1付近のピークPの強度I
【0025】
ラマンR値の測定方法は、後述の実施例の項に示す通りである。
【0026】
[相対吸収強度比(I4.8K/I280K)]
ESR測定における炭素由来の吸収スペクトルにおいて、280Kでの共鳴吸収の信号強度は、主として伝導電子のスピン量を反映し、4.8Kでの共鳴吸収の信号強度は、主として局在電子のスピン量を反映する。
測定温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の測定温度280Kでの吸収強度(I280K)に対する信号強度比である相対吸収強度比(I4.8K/I280K)は、伝導電子スピン量に対する局在電子スピン量の割合とみなすことができ、本発明ではこの値を局在電子密度量を定量する指標とした。
【0027】
共鳴吸収の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が1.0より大きいと、Liのインターカレーション時の抵抗が低くなり、急速充電時にLiが電析する可能性が低くなることから、相対吸収強度比(I4.8K/I280K)は好ましくは1.0以上、より好ましくは2.0以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは15以上、最も好ましくは20以上である。一方で、相対吸収強度比(I4.8K/I280K)が80.0以下であれば、電解液との副反応が少なく、初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を避けることができ、電池容量が低下することを避けることができることから、相対吸収強度比(I4.8K/I280K)は通常80.0以下であることが好ましく、70.0以下であることがより好ましく、60.0以下であることがさらに好ましく、50.0以下であることが特に好ましく、40.0以下であることが最も好ましい。
【0028】
[O/C値(mol%)]
本発明の黒鉛系負極材のX線光電子分光法分析(XPS)より下記式2で求められるO/C値は、好ましくは0.4mol%以上、より好ましくは0.5mol%以上、さらに好ましくは0.55mol%以上、特に好ましくは0.6mol%以上、最も好ましくは0.8mol%以上である。O/C値は、表面官能基量を反映するものであり、O/C値が上記下限以上であれば、負極表面におけるLiイオンと電解液溶媒の脱溶媒和反応性が促進され急速充放電特性が良好となり、電解液との副反応が抑制され充放電効率が良好となる傾向がある。一方で、O/C値の上限は好ましくは5.0mol%以下、より好ましくは4.5mol%以下、さらに好ましくは4.0mol%以下、特に好ましくは3.5mol%以下、最も好ましくは3.0mol%以下である。O/C値が上記上限値以下であれば、電解液との副反応が抑制でき、初期充放電効率の低下やガス発生量の増大を避けることができ、電池容量の低下を避けることができる。
式2:[O/C値(mol%)]={[X線光電子分光法分析におけるO1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたO原子濃度]/[X線光電子分光法分析におけるC1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたC原子濃度]}×100
【0029】
O/C値の算出にあたっては、X線光電子分光法測定としてX線光電子分光器を用い、測定対象を表面が平坦になるように試料台に載せ、アルミニウムのKα線をX線源とし、C1s(280~298eV)とO1s(526~542eV)のスペクトルを測定する。得られたC1sのピークトップを284.6eVとして帯電補正し、C1sとO1sのスペクトルのピーク面積を求め、更に装置感度係数を掛けて、CとOの表面原子濃度をそれぞれ算出する。得られたそのOとCの原子濃度比O/C(O原子濃度/C原子濃度)を黒鉛系負極材の表面官能基量O/C値と定義する。
【0030】
[黒鉛系負極材の製造方法]
本発明の黒鉛系負極材の製造方法は、前述の特性を満たす黒鉛系負極材を製造することができる方法であればよく、特に制限はないが、例えば、コールタールピッチをか焼し、か焼コークスを製造し、これを粉砕、分級してか焼コークス粉としてから黒鉛化を行い、更に粉砕、分級後に非晶質炭素前駆体を混合、加熱することによる非晶質炭素の被覆処理を行うことで製造することができる。なお、黒鉛化後に粉砕、粗面化処理等により表面を非晶質化することにより、非晶質炭素の被覆処理を実施しないことも可能である。
【0031】
<本発明の黒鉛系負極材を製造するための制御方法>
本発明の黒鉛系負極材を製造するための制御方法としては、以下に説明する黒鉛系負極材の製造方法において、次のような条件や処理を採用することが挙げられる。
(1) か焼コークス、黒鉛の粉砕に、シェアの多くかかる粉砕方法や粉砕強度の大きい粉砕方法を採用する。これにより、粒子表面に露出するエッジ面の量を制御して温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2を2.7(mT)以上にすることができる。
(2) 粉砕処理、黒鉛化、粗面化処理、非晶質層コートの条件を調整する。これにより、表面の結晶性を制御してラマンR値を0.21以上にすることができる。
【0032】
<コールタールピッチ>
本発明において、「コールタールピッチ」とは、石炭の乾留によって得られるコールタールを蒸留、精製して得られる混合物を意味する。コールタールピッチの成分としては通常、ナフタレン、アセナフテン、フェノキシベンゼン、メチルナフタレン、その他、三環以上の多環芳香族化合物等が含まれる。また、原料として用いるコールタールピッチのキノリン不溶分は通常5重量%未満であり、好ましくは3重量%以下であり、より好ましくは1重量%以下である。
【0033】
<か焼>
コールタールピッチを400~700℃でか焼することにより炭化し、か焼コークスを得ることができる。この工程での加熱温度は好ましくは450~600℃であり、加熱時間は加熱温度にもよるが、通常0~10時間である。また、この加熱処理は通常、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。なお、「か焼」とは、水分及び有機性の揮発分を除去するめに行われる加熱を意味する。また、コールタールピッチのか焼により得られたものを本発明において、「か焼コークス」と称する。
【0034】
<粉砕及び分級>
得られたか焼コークスは粉砕、分級を行い、粒度を調整し、か焼コークス粉とすることが好ましい。
【0035】
粉砕処理に使用する粗粉砕機としては、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コ-ンクラッシャー等が挙げられ、中間粉砕機としてはロールクラッシャー、ハンマーミル等が挙げられ、微粉砕機としてはボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、ジェットミル等が挙げられる。
【0036】
分級処理の条件としては、目開きが、好ましくは15μm以下であるものを用いて実施される。また、後の工程で異なる粒度分布の人造黒鉛を混合する場合には、この段階で目開きの異なるものを用い、予め粒度分布の異なるか焼コークス粉を準備してもよい。
【0037】
分級処理に用いる装置としては特に制限はないが、例えば、乾式篩い分けの場合:回転式篩い、動揺式篩い、旋動式篩い、振動式篩い等を用いることができ、乾式気流式分級の場合:重力式分級機、慣性力式分級機、遠心力式分級機(クラシファイア、サイクロン等)等を用いることができ、湿式篩い分けの場合:機械的湿式分級機、水力分級機、沈降分級機、遠心式湿式分級機等を用いることができる。
【0038】
<黒鉛化>
か焼コークス粉を2800~3300℃に加熱して黒鉛化することにより、人造黒鉛を得ることができる。即ち、本発明の黒鉛系負極材は、人造黒鉛を含むことが好ましい。このとき、加熱条件は、2800℃以上であることが原料由来の不純物を揮発させて結晶性の高い人造黒鉛を得る観点で好ましく、この観点から加熱温度はより好ましくは2900℃以上である。また、加熱温度は3300℃以下であることが、黒鉛化の進行が停止した後での余剰なエネルギー消費を防ぐ観点で好ましく、この観点から加熱温度はより好ましくは3200℃以下である。黒鉛化の加熱時間は加熱温度にもよるが、通常0~100時間である。
【0039】
<非晶質炭素の被覆処理>
黒鉛化により得られた人造黒鉛を非晶質炭素前駆体(非晶質炭素の原料)と混合して焼成することにより、黒鉛表面の結晶性を低下させることができる。
【0040】
非晶質炭素前駆体としては、特に限定されないが、コールタール、コールタールピッチ、乾留液化油等の石炭系重質油;常圧残油、減圧残油等の直留系重質油;原油、ナフサ等の熱分解時に副生するエチレンタール等の分解系重質油等の石油系重質油;アセナフチレン、デカシクレン、アントラセン等の芳香族炭化水素;フェナジンやアクリジン等の窒素含有環状化合物;チオフェン等の硫黄含有環状化合物;アダマンタン等の脂肪族環状化合物;ビフェニル、テルフェニル等のポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール等のポリビニルエステル類、ポリビニルアルコール等の熱可塑性高分子等の有機物が挙げられる。これらの非晶質炭素前駆体は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
非晶質炭素の被覆処理を行う際の焼成は通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス中で行われる。このときの熱処理温度は、通常600℃以上、好ましくは700℃以上であり、一方、通常1400℃以下、好ましくは1300℃以下である。また、熱処理時間は、非晶質炭素前駆体が非晶質炭素化するまで行えばよく、通常10分~24時間である。
【0042】
<粒度分布の調整>
得られた黒鉛について、篩を用いて粒度を調整することが好ましい。更に、粒度分布を調整するために異なる粒度分布を有するものと混合して粒度を調整してもよい。
【0043】
〔非水系二次電池用負極〕
本発明の非水系二次電池用負極(以下、「本発明の負極」と称する場合がある。)は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備え、該活物質層が本発明の黒鉛系負極材を含有するものである。
【0044】
本発明の黒鉛系負極材を用いて負極を作製するには、黒鉛系負極材に結着樹脂を配合したものを水性又は有機系媒体でスラリーとし、必要によりこれに増粘剤を加えて集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0045】
結着樹脂としては、非水電解液に対して安定で、かつ非水溶性のものを用いるのが好ましい。例えば、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム及びエチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアクリル酸、及び芳香族ポリアミド等の合成樹脂;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体やその水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン、スチレン共重合体、スチレン・イソプレン及びスチレンブロック共重合体並びにその水素化物等の熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及びエチレンと炭素数3~12のα-オレフィンとの共重合体等の軟質樹脂状高分子;ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニデンフルオライド、ポリペンタフルオロプロピレン及びポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素化高分子等を用いることができる。有機系媒体としては、例えば、N-メチルピロリドン及びジメチルホルムアミドを用いることができる。
【0046】
結着樹脂は、黒鉛系負極材100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは0.2重量部以上用いるのが好ましい。結着樹脂の使用量を黒鉛系負極材100重量部に対して0.1重量部以上とすることで、負極材相互間や負極材と集電体との結着力が十分となり、負極から負極材が剥離することによる電池容量の減少及びリサイクル特性の悪化を防ぐことができる。
【0047】
また、結着樹脂の使用量は黒鉛系負極材100重量部に対して10重量部以下とするのが好ましく、7重量部以下とするのがより好ましい。結着樹脂の使用量を黒鉛系負極材100重量部に対して10重量部以下とすることにより、負極の容量の減少を防ぎ、かつリチウムイオン等のアルカリイオンの負極材への出入が妨げられる等の問題を防ぐことができる。
【0048】
スラリーに添加する増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロース類、ポリビニルアルコール並びにポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも好ましいのはカルボキシメチルセルロースである。増粘剤は黒鉛系負極材100重量部に対して、通常0.1~10重量部、特に0.2~7重量部となるように用いるのが好ましい。
【0049】
負極集電体としては、従来からこの用途に用い得ることが知られている、例えば、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、チタン及び炭素等を用いればよい。集電体の形状は通常はシート状であり、その表面に凹凸をつけたもの、ネット及びパンチングメタル等を用いることも好ましい。
【0050】
集電体に黒鉛系負極材と結着樹脂のスラリーを塗布・乾燥した後は、加圧して集電体上に形成された活物質層の密度を大きくして負極活物質層の単位体積当たりの電池容量を大きくするのが好ましい。活物質層の密度は1.2~1.8g/cmの範囲にあることが好ましく、1.4~1.7g/cmであることがより好ましい。活物質層の密度を上記下限値以上とすることで、電極の厚みの増大に伴う電池の容量の低下を防ぐことができる。また、活物質層の密度を上記上限値以下とすることで、電極内の粒子間空隙が減少に伴い空隙に保持される電解液量が減り、リチウムイオン等のアルカリイオンの移動性が小さくなり急速充放電性が小さくなるのを防ぐことができる。
【0051】
本発明の黒鉛系負極材を用いて形成した負極活物質層の水銀圧入法による10nm~100000nmの範囲の細孔容量は、0.05mL/gであることが好ましく、0.1ml/g以上であることがより好ましい。細孔容量を0.05mL/g以上とすることによりリチウムイオン等のアルカリイオンの出入りの面積が大きくなる。
【0052】
〔非水系二次電池〕
本発明の非水系二次電池は、正極及び負極、並びに電解質を備える非水系二次電池であって、負極として、本発明の非水系二次電池用負極を用いたものである。特に、本発明の非水系二次電池は、Liイオンを吸蔵、放出可能な正極及び負極を用いたリチウムイオン二次電池であることが好ましい。
【0053】
本発明の非水系二次電池は、上記の本発明の非水系二次電池用負極を用いる以外は、常法に従って製造することができる。特に、本発明の非水系二次電池は、[負極の容量]/[正極の容量]の値を1.01~1.5に設計することが好ましく、1.2~1.4に設計することがより好ましい。
【0054】
[正極]
本発明の非水系二次電池の正極の活物質となる正極材としては、例えば、基本組成がLiCoOで表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNiOで表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiMnO及びLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物、二酸化マンガン等の遷移金属酸化物、並びにこれらの複合酸化物混合物等を用いればよい。更にはTiS、FeS、Nb、Mo、CoS、V、CrO、V、FeO、GeO及びLiNi0.33Mn0.33Co0.33、LiFePO等を用いればよい。
【0055】
前記正極材に結着樹脂を配合したものを適当な溶媒でスラリー化して集電体に塗布、乾燥することにより正極を製造することができる。なお、スラリー中にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の導電材を含有させることが好ましい。また、必要に応じて増粘剤を含有させてもよい。なお、結着材及び増粘剤としては、この用途に周知のもの、例えば負極の製造に用いるものとして例示したものを用いることができる。
【0056】
導電材の配合量は正極材100重量部に対し、0.5~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましい。また、増粘剤の配合量は正極材100重量部に対し、0.2~10重量部が好ましく、0.5~7重量部がより好ましい。更に、正極材100重量部に対する結着樹脂の配合量は、結着樹脂を水でスラリー化する場合には0.2~10重量部が好ましく、0.5~7重量部がより好ましく、一方、結着樹脂をN-メチルピロリドン等の結着樹脂を溶解する有機溶媒でスラリー化する場合には0.5~20重量部が好ましく、1~15重量部がより好ましい。
【0057】
正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びタンタル等並びにこれらの合金が挙げられる。これらの中でもアルミニウム、チタン及びタンタル並びにその合金が好ましく、アルミニウム及びその合金が最も好ましい。
【0058】
[電解液]
電解液は、従来周知の非水溶媒に種々のリチウム塩を溶解させたものを用いることができる。
【0059】
非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート及びビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、クラウンエーテル、2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメチルテトラヒドロフラン及び1,3-ジオキソラン等の環状エーテル、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル等を用いればよい。通常はこれらの2種以上を混合して用いる。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネート、又はこれに更に他の溶媒を混合して用いることが好ましい。
【0060】
電解液には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン及びジエチルスルホン等の化合物やジフルオロリン酸リチウムのようなジフルオロリン酸塩等が添加されていてもよい。更に、ジフェニルエーテル及びシクロヘキシルベンゼン等の過充電防止剤が添加されていてもよい。
【0061】
非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)及びLiC(CFSO等が挙げられる。電解液中の電解質の濃度は通常0.5~2mol/Lであり、好ましくは0.6~1.5mol/Lである。
【0062】
[セパレータ]
正極と負極との間には通常セパレータを介在させる。このようなセパレータとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの多孔性シートや不織布を用いることが好ましい。
【0063】
[本発明が効果を奏する理由]
本発明が効果を奏する理由の詳細は未だ明らかでないが、以下のように推察される。すなわち、結晶性がほど良く低下した黒鉛表面に露出するエッジ面の量が増加することにより、電解液との副反応を抑制しつつLiがインターカレートしやすくなり、急速充電特性が良好となったと推察される。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0065】
以下の実施例及び比較例で製造した負極材の各特性の測定方法は下記のとおりである。
【0066】
<ESR測定>
120℃で3時間、真空乾燥した負極材約5mgをESR用試料管に入れ、-0.05MPaGまで真空引きした後、Heガスを封入し、試料管を封緘した。測定条件の詳細は以下の通りであった。
装置 :BRUKER社製EMX Plus、E500
キャビティー :4mmφキャビティー
測定法 :CW法
マイクロ波平均周波数:9.436~9.674GHz(装置の構成・状態による)
中心磁場 :336.0mT
掃引磁場幅 :±50.0mT
マイクロ波出力 :1mW
磁場変調 :100kHz
変調磁場幅 :0.2mT
掃引時間 :120s
積算回数 :1回
測定温度 :280K(ER4131VT)、4.8K(ESR900)
実施例及び比較例で得られた負極材について、温度4.8Kでの共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2、温度280Kで測定された吸収強度(I280K)に対する、温度4.8Kでの吸収強度(I4.8K)の相対吸収強度比(I4.8K/I280K)を算出した。
結果を後掲の表1に示す。
共鳴吸収曲線の半値幅ΔH1/2は、共鳴吸収の極大値と極小値の平均値を取る2点の磁場間隔とした。表1に示した相対吸収強度比(I4.8K/I280K)は、α-Si(宇部興産社製SN-E10)を標準物質として、サンプル重量およびQ値で規格化して求めた値である。標準物質は、局在電子のみを有する(信号強度は温度(K)の逆数に比例する)と仮定し、4.8Kの信号強度を280Kの信号強度で補正した。なお、試料管を少しづつ回転させたときに1次微分曲線のスペクトル形状の変化の大きい異方性の強いサンプルにおいては、1次微分曲線の右端と左端を結んだ直線をベースラインとし、ベースラインより下の280Kのスペクトルピークがベースラインから最短の位置で測定した値を採用する。
Xバンド領域のマイクロ波を用いて測定される電子スピン共鳴法において出現する炭素ラジカル由来のピークは、いずれの実施例および比較例の負極材においても、g=2.0付近に出現することを確認した。
【0067】
<ラマンR値>
Thermo Fisher Science社製「Nicolet Almega XR」を用い、波長532nmの半導体レーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580cm-1の付近のピークPの強度I、1360cm-1の範囲のピークPの強度Iを測定し、その強度の比R=I/Iを求めた。
試料の調製にあたっては、粉末状態のものを自然落下によりセルに充填した。セル内のサンプル表面にレーザー光を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させて下記条件で測定を行った。

試料上のレーザーパワー :2mW以下
分解能 :約10cm-1
測定範囲 :400cm-1~4000cm-1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、複数スペクトルの平均化
【0068】
<O/C値(mol%)>
ULVAC-PHI社製 XPS光電子分光装置「Quantum 2000」を用い、下記条件で行った。
X線源:単色化AlKα、出力 16kV-34W
分析面積:170mm径
取り出し角:45°
定量方法:C1s,O1sナロースペクトルを測定し、各元素の光電子ピークについて、シャーリー法に基づきバックグラウンド除去処理を行った後、面積強度を求め、装置メーカーから提供された相対感度補正係数を用いて元素濃度を算出した。
【0069】
<負極シートの作製>
以下の実施例及び比較例で調製した負極材を負極材料として用い、活物質層密度1.50±0.03g/cmの活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材料20.00±0.02gに、1重量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を加えて、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0070】
このスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が10.0±0.3mg/cm付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.50±0.03g/cmになるよう調整し負極シートを得た。
【0071】
<リチウムイオン二次電池(2016コイン型電池)の作製>
上記方法で作製した負極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(容量比=3:7)に助剤としてビニレンカーボネートを0.5重量%添加し、LiPFを1mol/Lになるように溶解させた電解液を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、2016コイン型電池をそれぞれ作製した。
【0072】
<急速充電特性の評価>
上記リチウムイオン二次電池(2016コイン型電池)を用いて、下記の測定方法で急速充電特性を測定した。
0.15mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して5mVまで充電し、更に、5mVの一定電圧で電流密度が0.015mA/cmになるまでCC-CV充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.30mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して1.5Vまで放電を行なった。同様のサイクルを3回繰り返した。続く4サイクル目は、11.5mA/cmの電流密度で充電容量値が360mAh/gとなるまでCC充電し、負極中にリチウムをドープした後、0.30mA/cmの電流密度でリチウム対極に対して、1.5Vまで放電を行った。4サイクル目の放電容量を初回サイクルの放電容量で割った値(%)から急速充電特性を評価した。
【0073】
<人造黒鉛A~Dの製造>
コールタールピッチ(キノリン不溶分:1重量%未満)を500℃で24時間加熱して、か焼コークスAを得た。
か焼コークスAをローラーミルで粉砕し、平均粒子径19μmとしたものを3000℃で40時間加熱して黒鉛化させた。さらにジェットミルで平均粒子径8μmとし、45μmの篩を通過させ、人造黒鉛A、サイクロンミルで平均粒子径8μmとし、45μmの篩を通過させ、人造黒鉛Bとした。
か焼コークス粉Aを球形化装置で粉砕、分級を行い、平均粒子径12μmとしたものを3000℃で40時間加熱して黒鉛化させ、45μmの篩を通過させ、人造黒鉛Cとした。
平均粒子径8μmとしたものを3000℃で40時間加熱して黒鉛化させ、45μmの篩を通過させ、人造黒鉛Dとした。
【0074】
[実施例1]
人造黒鉛Aと石油系重質油を混合し、不活性ガス中で1300℃の熱処理を施し焼成物を粉砕・分級処理をすることにより、人造黒鉛表面に非晶質炭素が被覆された負極材1を得た。焼成収率から、負極材1は、2重量%の非晶質炭素で被覆されていることを確認した。負極材1について各種特性を評価した。また、負極材1を用いて負極シートの作成及びリチウムイオン二次電池の作製を行い、急速充電特性の評価を行った。表1にその結果を示す。
【0075】
[実施例2]
人造黒鉛Aの代りに人造黒鉛Bを用いた以外は実施例1と同様の処理を実施し、負極材2を得た。特性評価及び急速充電特性の結果を表1に示す。
【0076】
[実施例3]
人造黒鉛Cをサイクロンミルで平均粒子径8μmとし、45μmの篩を通し、人造黒鉛Eとし、人造黒鉛Aの代りに用い、実施例1と同様の処理を実施し、負極材3を得た。特性評価及び急速充電特性の結果を表1に示す。
【0077】
[比較例1]
人造黒鉛Cをクリプトロンを用いて粗面化処理し、負極材4を得た。特性評価及び急速充電特性の結果を表1に示す。
【0078】
[比較例2]
人造黒鉛Aの代りに負極材4を用い、非晶質炭素の被覆量を1重量%とした以外は実施例1と同様の処理を実施し、負極材5を得た。特性評価及び急速充電特性の結果を表1に示す。
【0079】
[比較例3]
人造黒鉛Dを負極材6とした。特性評価及び急速充電特性の結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[結果の考察]
ΔH1/2が2.7(mT)より低く、ラマンR値が0.21未満である比較例1の黒鉛系負極材は、黒鉛表面に露出しているエッジ面の量が少なく、黒鉛表面の結晶性が低いため、急速充電特性が低い。ΔH1/2が2.7(mT)より低く、ラマンR値が0.21以上である比較例2の黒鉛系負極材は、黒鉛表面に露出しているエッジ面の量が少なく、急速充電特性が低い。ΔH1/2が2.7(mT)以上で、ラマンR値が0.21未満の比較例3の黒鉛系負極材は、黒鉛表面の結晶性が高く、急速充電特性が低い。これに対して、ΔH1/2が2.7(mT)以上で、ラマンR値が0.21以上の本発明の黒鉛系負極材によれば、黒鉛表面に露出しているエッジ面の量が多く、黒鉛表面の結晶性が低いことにより、良好な急速充電特性を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の黒鉛系負極材、並びにこれを含む非水系二次電池用負極及び非水系二次電池は、急速充電特性に優れるため、車載用途;パワーツール用途;携帯電話、パソコン等の携帯機器用途等に好適に用いることができる。