(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240312BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240312BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240312BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240312BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240312BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C38/00 303D
C22C38/00 304
C22C28/00 A
(21)【出願番号】P 2020053406
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】江口 徹
(72)【発明者】
【氏名】野澤 宣介
(72)【発明者】
【氏名】國吉 太
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142640(JP,A)
【文献】特開2011-101043(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054845(WO,A1)
【文献】特開平10-032133(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
B22F 3/00
B22F 3/24
C22C 38/00
C22C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径D
50が2.0μm~3.5μmの微粉末から焼結体を作製してR-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含む。)を準備する工程と、
RL-RH-M系合金(RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、およびAlからなる群から選択された少なくとも1つである)を準備する工程と、
前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記RL-RH-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、
を含み、
前記R-T-B系焼結磁石素材において、Rの含有量は、R-T-B系焼結磁石素材全体の27mass%以上35mass%以下であり、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上であり、
前記RL-RH-M系合金において、RLの含有量は、RL-RH-M系合金全体の
70mass%以上82mass%以下であり、RHの含有量は、RL-RH-M系合金全体の13mass%以上23mass%以下であり、Mの含有量は、RL-RH-M系合金全体の5mass%以上
9.9mass%以下であり、
前記拡散工程における前記R-T-B系焼結磁石素材への前記RL-RH-M系合金の付着量は1mass%以上2.5mass%以下である、
R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記拡散工程における前記R-T-B系焼結磁石素材への前記RL-RH-M系合金の付着量は1.5mass%以上2.5mass%以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はR-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Tは主にFeであり、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
【0003】
R-T-B系焼結磁石は、主としてR2T14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR2T14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R-T-B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR-T-B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
【0005】
R2T14B型化合物相中の軽希土類元素(主にNd、Pr)を重希土類元素(主にDy、Tb)で置換すると、HcJが向上することが知られている。しかし、HcJが向上する一方、R2T14B型化合物相の飽和磁化が低下するために残留磁束密度Br(以下、単に「Br」という)が低下してしまうという問題がある。
【0006】
特許文献1には、R-T-B系合金の焼結磁石の表面にDy等の重希土類元素を供給しつつ、重希土類元素RHを焼結磁石の内部に拡散させることが記載されている。特許文献1に記載の方法は、R-T-B系焼結磁石の表面から内部にDyを拡散させてHcJ向上に効果的な主相結晶粒の外殻部にのみDyを濃化させることにより、RHの使用量を低減し、さらにBrの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることができる。
【0007】
特許文献2には、R-T-B系焼結体の表面に特定組成のR-Ga-Cu合金を接触させて熱処理を行うことにより、R-T-B系焼結磁石中の粒界相の組成および厚さを制御してHcJを向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2007/102391号
【文献】国際公開第2016/133071号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、近年特に電気自動車用モータなどにおいて高価な重希土類元素の使用量を低減しつつ、更に高いBrと高いHcJを得ることが求められている。
【0010】
本開示の様々な実施形態は、重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、粒径D50が2.0μm~3.5μmの微粉末から焼結体を作製してR-T-B系焼結磁石素材(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含む。)を準備する工程と、RL-RH-M系合金(RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、およびAlからなる群から選択された少なくとも1つである)を準備する工程と、前記R-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、前記RL-RH-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程と、を含み、前記R-T-B系焼結磁石素材において、Rの含有量は、R-T-B系焼結磁石素材全体の27mass%以上35mass%以下であり、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上であり、前記RL-RH-M系合金において、RLの含有量は、RL-RH-M系合金全体の57mass%以上82mass%以下であり、RHの含有量は、RL-RH-M系合金全体の13mass%以上23mass%以下であり、Mの含有量は、RL-RH-M系合金全体の5mass%以上20mass%以下であり、前記拡散工程における前記R-T-B系焼結磁石素材への前記RL-RH-M系合金の付着量は1mass%以上2.5mass%以下である。
【0012】
ある実施形態において、前記拡散工程における前記R-T-B系焼結磁石素材への前記RL-RH-M系合金の付着量は1.5mass%以上2.5mass%以下である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の実施形態によれば、重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
【
図2】本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本開示によるR-T-B系焼結磁石の基本構造について説明をする。R-T-B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR2T14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0016】
図1Aは、R-T-B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図であり、
図1Bは
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。
図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、R-T-B系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図1Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR
2T
14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R-T-B系焼結磁石では、主相12であるR
2T
14B化合物の存在比率を高めることによってB
rを向上させることができる。R
2T
14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R
2T
14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
また、主相であるR
2T
14B化合物のRの一部をDy、Tb、Hoなどの重希土類元素で置換することによって飽和磁化を下げつつ、主相の異方性磁界を高められることが知られている。特に二粒子粒界相と接する主相外殻は磁化反転の起点となりやすいため、主相外殻に優先的に重希土類元素を置換できる重希土類拡散技術は、飽和磁化の低下を抑制しつつ効率的に高いH
cJが得られる。
一方、二粒子粒界相14aの磁性を制御することによっても、高いH
cJが得られることが知られている。具体的には二粒子粒界相中の磁性元素(Fe、Co、Ni等)の濃度を下げることによって、二粒子粒界相を非磁性に近づけることで、主相同士の磁気的な結合を弱めて磁化反転を抑制することができる。
【0017】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法では、R-T-B系焼結磁石素材表面から粒界を通じて磁石素材内部へ、RL-RH-M系合金に含有されるRHと共に、RLおよびMを拡散させている。本発明者らによる検討の結果、粒径D50が2.0μm~3.5μmの範囲にある微粉末の焼結体を作製して準備したR-T-B系焼結磁石素材に対して、RL-RH-M系合金の付着量及びRH濃度を狭い特定の範囲にして拡散処理を行うことで高価なRHを削減しつつ、高いBrと高いHcJを得ることができることを見出した。
【0018】
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とRL-RH-M系合金を準備する工程S20とを含む。R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程S10とRL-RH-M合金を準備する工程S20との順序は任意である。
本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、
図2に示すように、更に、R-T-B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にRL-RH-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程S30を含む。前記拡散工程S30における前記R-T-B系焼結磁石素材への前記RL-RH-M系合金の付着量は1mass%以上2.5mass%以下である。
【0019】
なお、本開示において、拡散工程前および拡散工程中のR-T-B系焼結磁石を「R-T-B系焼結磁石素材」と称し、拡散工程後のR-T-B系焼結磁石を単に「R-T-B系焼結磁石」と称する。
【0020】
(R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程)
R-T-B系焼結磁石素材において、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、Rの含有量は、R-T-B系焼結磁石素材全体の27mass%以上35mass%以下である。TはFe、Co、Al、Mn、およびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である。
Rが27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、焼結体を充分に緻密化することが困難になる可能性がある。一方、Rが35mass%を超えると焼結時に粒成長が起こり、HcJが低下する可能性がある。Rは28mass%以上33mass%以下であることが好ましい。
【0021】
R-T-B系焼結磁石素材は例えば、以下の組成範囲を有する。
R:27~35mass%、
B:0.80~1.20mass%、
Ga:0~1.0mass%、
X:0~2mass%(XはCu、Nb、Zrの少なくとも一種)、
T:60mass%以上を含有する。
【0022】
好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材において、Bに対するTのmol比[T]/[B]が14.0超15.0以下である。より高いHcJを得ることができる。本開示における[T]/[B]とは、Tを構成する各元素(Fe、Co、Al、MnおよびSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tは必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上)の分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの[T]と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの[B]との比である。mol比[T]/[B]が14.0を超えるという条件は、主相(R2T14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを示している。mol比[T]/[B]は14.3以上15.0以下であることがさらに好ましい。さらに高いHcJを得ることができる。Bの含有量はR-T-B系焼結体全体の0.9mass%以上1.0mass%未満が好ましい。
【0023】
R-T-B系焼結磁石素材は、Nd-Fe-B系焼結磁石に代表される一般的なR-T-B系焼結磁石の製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法等で作製された原料合金を、ジェットミルなどを用いて粒径D50が2.0μm以上3.5μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより焼結体を作製して準備することができる。粒径D50が2.0μm未満であると、生産性が大幅に悪化する可能性があり、3.5μmを超えると、本開示の拡散工程を行っても所望の効果を得ることができない可能性がある。これは、粉末の粒径が焼結体の結晶粒径に反映され、それが拡散にも影響するからだと考えられる。好ましくは、粒径D50は、2.5μm以上3.3μm以下である。生産性の悪化を抑制した上で貴重なRHを削減しつつ、より高いBrと高いHcJを得ることができる。なお、前記D50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られる粒度分布において、小径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%になる粒径である。また、D50は、例えば、Sympatec社製の粒度分布計測装置「HELOS&RODOS」を用いて、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計測モード:HRLDの条件にて測定することができる。
【0024】
(RL-RH-M系合金を準備する工程)
前記RL-RH-M系合金において、RLは軽希土類元素のうちの少なくとも1つであり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、RLの含有量は、RL-RH-M系合金全体の57mass%以上82mass%以下である。軽希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Euなどが挙げられる。RHは、Tb、DyおよびHoからなる群から選択された少なくとも1つであり、RHの含有量は、RL-RH-M系合金全体の13mass%以上23mass%以下である。Mは、Cu、Ga、Fe、Co、Ni、およびAlからなる群から選択された少なくとも1つであり、Mの含有量は、RL-RH-M系合金全体の5mass%以上20mass%以下である。RL-RH-M系合金の典型例は、TbNdPrCu合金、TbNdCePrCu合金、TbNdGa合金、TbNdPrGaCu合金などである。
【0025】
RLが57mass%未満であると、RHおよびMがR-T-B系焼結磁石素材内部に導入されにくくなり、HcJが低下する可能性があり、82mass%を超えるとRL-RH-M系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になる。その結果、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じる可能性がある。好ましくは、RLの含有量はRL-RH-M系合金全体の70mass%以上80mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。
【0026】
RHが13mass%未満であると、RHによる高いHcJ向上効果が得られない可能性があり、23mass%を超えるとRLおよびMによるHcJ向上効果が低下する可能性があるため、重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができない可能性がある。好ましくは、RHの含有量は、RL-RH-M系合金全体の13mass%以上20mass%以下である。より高いBrと高いHcJを得ることができる。
【0027】
Mが5mass%未満であるとRLおよびRHが二粒子粒界相に導入されにくくなり、HcJが十分に向上しない可能性があり、20mass%を超えるとRLおよびRHの含有量が低下しHcJが十分に向上しない可能性がある。好ましくは、Mの含有量は、RL-RH-M系合金全体の7mass%以上15mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。また、MはGaを含有した方が好ましく、さらにCuを含有した方が好ましく、より高いHcJを得ることができる。
【0028】
RL-RH-M系合金の作製方法は、特に限定されない。ロール急冷法によって作製してもよいし、鋳造法で作製してもよい。また、これらの合金を粉砕して合金粉末にしてもよい。遠心アトマイズ法、回転電極法、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法などの公知のアトマイズ法で作製してもよい。
【0029】
(拡散工程)
前記によって準備したR-T-B系焼結磁石素材の表面の少なくとも一部に、準備したRL-RH-M系合金の少なくとも一部を付着させ、真空(非酸化性雰囲気)又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上1100℃以下の温度で加熱する拡散工程を行う。これにより、RL-RH-M合金からRL、RHおよびMを含む液相が生成し、その液相がR-T-B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。拡散工程におけるR-T-B系焼結磁石素材へのRL-RH-M系合金の付着量を1mass%以上2.5mass%以下にする。これにより、高いHcJ向上効果を得ることができる。R-T-B系焼結磁石素材へのRL-RH-M系合金の付着量が1mass%未満であると、磁石素材内部へのRHおよびRLおよびMの導入量が少なすぎて高いHcJを得ることができない可能性があり、2.5mass%を超えると、Brが低下する可能性がある。好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材へのRL-RH-M系合金の付着量は1.5mass%以上2.2mass%以下である。より高いHcJを得ることができる。また、RL-RH-M系合金によるR-T-B系焼結磁石素材へのRHの付着量を0.1mass%以上0.4mass%以下が好ましい。この範囲にすることにより、より確実に重希土類元素の使用量を低減しつつ、高いHcJを有するR-T-B系焼結磁石を得ることができる。なお、RHの付着量は、R-T-B系焼結磁石素材に付着しているRHの量であり、RL-RH-M系合金におけるRH濃度とRL-RH-M系合金のR-T-B系焼結磁石素材の付着量から算出することができる。RH付着量は、R-T-B系焼結磁石素材の質量を100mass%としたときの質量比率によって規定される。
【0030】
拡散工程における加熱する温度が700℃未満であると、RH、RLおよびMを含む液相量が少なすぎて高いHcJを得ることができない可能性がある。一方、1100℃を超えるとHcJが大幅に低下する可能性がある。好ましくは、拡散工程における加熱する温度は800℃以上1000℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、好ましくは、拡散工程(700℃以上1100℃以下)が実施されたR-T-B系焼結磁石に対し、拡散工程を実施した温度から15℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。
【0031】
拡散工程は、R-T-B系焼結磁石素材表面に、任意形状のRL-RH-M合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R-T-B系焼結磁石素材表面をRL-RH-M合金の粉末層で覆い、拡散工程を行うことができる。例えば、塗布対象の表面に粘着剤を塗布する塗布工程と、粘着剤を塗布した領域にRL-RH-M合金を付着させる工程を行ってもよい。粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルブチラール)、PVP(ポリビニルピロリドン)などが挙げられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~200℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。また、例えばRL-RH-M合金を分散媒中に分散させたスラリーをR-T-B系焼結磁石素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させRL-RH-M合金とR-T-B系焼結磁石素材とを付着させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。ま
また、RL-RH―M合金の少なくとも一部がR-T-B系焼結磁石素材の少なくとも一部に付着していれば、その配置位置は特に問わないが、好ましくは、RL-RH-M合金は、少なくともR-T-B系焼結磁石素材の配向方向に対して垂直な表面に付着させるように配置する。より効率よくRL、RHおよびMを含む液相を磁石表面から内部に拡散導入させることができる。この場合、R-T-B系焼結磁石素材の配向方向のみにRL-RH-M合金を付着させても、R-T-B系焼結磁石素材の全面にRL-RH-M合金を付着させてもよい。
【0032】
(熱処理を実施する工程)
好ましくは、拡散工程が実施されたR-T-B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、400℃以上750℃以下で、かつ、前記拡散工程で実施した温度よりも低い温度で熱処理を行う。熱処理を行うことにより、より高いHcJを得ることができる。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0034】
実験例1
[R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程]
表1のNo1に示すR-T-B系焼結磁石素材の組成になるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法により原料合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、前記粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉100mass%に対して0.035mass%添加し混合した。潤滑剤を含有した粗粉砕粉を以下に説明するA及びBの条件で、それぞれジェットミルにより微粉砕を行った。
条件Aは、粉砕により粒径D50:4.2μm、粒径D99:12.5μmの微粉末を得た。尚、前記D50およびD99は、それぞれ、気流分散法によるレーザー回折法で得られる粒度分布において、小径側からの積算粒度分布(体積基準)が50%になる粒径および小粒径側からの積算粒度分布(体積基準)が99%となる粒径である。また、D50およびD99は、Sympatec社製の粒度分布計測装置「HELOS&RODOS」を用いて、分散圧:4bar、測定レンジ:R2、計測モード:HRLDの条件にて測定した。
条件Bは、粒径D50:3.3μm、粒径D99:8.5μmになるように微粉砕を行った。
【0035】
得られた条件AおよびBそれぞれの微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後に磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中で4時間焼結(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)した後、急冷しR-T-B系焼結磁石素材を得た。得られたR-T-B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m3以上であった。
条件AおよびBから得られたR-T-B系焼結磁石素材の成分を求めるために、Nd、Pr、Fe、Co、Al、Si、Ga、Cu、Zr、Bの含有量を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)により測定した。なお、R-T-B系焼結磁石素材の酸素量はガス融解―赤外線吸収法、窒素量はガス融解―熱伝導法、炭素量は焼結―赤外線吸収法、によるガス分析装置を使用して測定した。条件Aおよび条件Bともに同じ組成であった。分析した結果を表1に示す。なお、R-T-B系焼結磁石素材の成分は合計で100mass%にならない場合がある。これは、上述したように測定方法が異なるためと、不可避的不純物で他の元素を含有する場合があるからである。
【0036】
【0037】
[RL-RH-M系合金を準備する工程]
表2のNo1-A、1-Bに示すRL-RH-M系合金の組成になるように、各元素を秤量し、それらの原料を溶解して、単ロール超急冷法によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られたRL-RH-M系合金の組成を表2に示す。なお、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を使用して測定した。
【0038】
【0039】
[拡散工程]
表1の符号1のR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、7.2mm×7.2mm×7.2mmの立方体にした。加工後のR-T-B系磁石素材にディッピング法により粘着剤としてPVAをR-T-B系磁石素材の全面に塗布した。次に表3に示す作製条件で粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材の全面にRL-RH-M系合金を付着させた。なお、RL-RH-M系合金付着量は、乳鉢を用いてRL-RH-M系合金をアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き45~1000μmの数種類の篩を通過させ、粒度の異なるRL-RH-M系合金を用いることにより調整した。そして、真空熱処理炉を用いて、100Paに制御した減圧アルゴン雰囲気中で、表3の拡散工程に示す条件でRL-RH-M系合金およびR-T-B系焼結磁石素材を加熱した後、冷却した。
【0040】
[熱処理を実施する工程]
前記拡散工程で加熱したR-T-B系焼結磁石素材に対し、真空熱処理炉を用いて100Paに制御した減圧アルゴン中にて500℃の加熱する熱処理を行った。熱処理後の各サンプルに対し表面研削盤を用いて、全面を切削加工し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体形状のサンプル(R-T-B系焼結磁石)を得た。なお、拡散工程におけるRL-RH-M系合金およびR-T-B系焼結磁石素材の加熱温度、ならびに、拡散工程後の熱処理を実施する工程におけるR-T-B系焼結磁石の加熱温度は、それぞれ熱電対を用いて測定した。
【0041】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B-Hトレーサによって残留磁束密度Brおよび保磁力HcJを測定した。また、R-T-B系焼結磁石素材のHcJと拡散工程および熱処理工程後のR-T-B系焼結磁石のHcJとの差(△HcJ)を求めた。結果を表3に示す。なお、実験例において、R-T-B系焼結磁石素材へのRL-RH-M系合金の付着量が2.5mass%以下で、かつ、得られたR-T-B系焼結磁石の磁気特性がBr:1.35T以上、HcJ:1925kA/m以上を本発明例として評価した。表3の通り、前記条件Bで微粉砕した微粉砕粉から得たR-T-B系焼結磁石素材を使用し、表2の符号1-A、1-Bに示す組成のRL-RH-M系合金を用いた本発明例のサンプルNo.1-4~1-6は、高いBrと高いHcJを得ることができ、さらに△HcJも高いことがわかる。これに対し、前記条件Aで粉砕した微粉砕粉から得たR-T-B系焼結磁石素材を使用し、表2の符号1-A、1-Bに示す組成のRL-RH-M系合金を用いたサンプルNo.1-1~1-3では、本発明例と比べHcJが低く、拡散工程および熱処理工程による効果を示す△HcJも低い。
【0042】
【0043】
実験例2
[R-T-B系焼結磁石素材を準備する工程]
表4の符号2に示すR-T-B系焼結磁石素材の組成になるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法により原料合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、前記粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉100mass%に対して0.035mass%添加、混合して潤滑剤含有微粉砕粉を得た。得られた潤滑剤含有粗粉砕粉をジェットミル装置を用いて粉砕し、粒径D50が3.3μm、D99:8.5μmの微粉砕粉を得た。
得られた微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後に磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交する、いわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
得られた成形体を、真空中で4時間焼結(焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)した後、急冷し焼結磁石素材を得た。得られたR-T-B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m3以上であった。
得られたR-T-B系焼結磁石素材の結果を表4に示す。なお表4における各成分は、実験例1と同様の方法で測定した。
【0044】
【0045】
[RL-RH-M系合金を準備する工程]
表5の符号2-A、2-B、2-Cに示すRL-RH-M系合金の組成になるように、各元素を秤量し、それらの原料を溶解して、単ロール超急冷法によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られたRL-RH-M系合金の組成を表5に示す。なお、表5における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いて測定した。
【0046】
【0047】
[拡散工程]
表4の符号2のR-T-B系焼結磁石素材を切断、切削加工し、7.2mm×7.2mm×7.2mmの立方体にした。加工後のR-T-B系磁石素材にディッピング法により粘着剤としてPVAをR-T-B系磁石素材の全面に塗布した。次に表6に示す作製条件で粘着剤を塗布したR-T-B系焼結磁石素材の全面に前記RL-RH-M系合金を付着させた。なお、前記RL-RH-M系合金付着量は、乳鉢を用いて前記RL-RH-M系合金をアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き45~1000μmの数種類の篩を通過させ、粒度の異なるRL-RH-M系合金を用いることにより調整した。そして。真空熱処理炉を用いて、100Paに制御した減圧アルゴン雰囲気中で、表6の拡散工程に示す条件で前記RL-RH-M系合金およびR-T-B系焼結磁石素材を加熱した後、冷却した。
【0048】
[熱処理を実施する工程]
拡散工程の後のR-T-B系焼結磁石素材に対し、真空熱処理炉を用いて100Paに制御した減圧アルゴン中にて490℃の加熱する熱処理を行った。熱処理後の各サンプルに対し表面研削盤を用いて、全面を切削加工し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体形状のサンプル(R-T-B系焼結磁石)を得た。なお、拡散工程を実施する工程にけるRL-RH-M系合金およびR-T-B系焼結磁石素材の加熱温度、ならびに、拡散工程後の熱処理を実施する工程におけるR-T-B系焼結磁石の加熱温度は、それぞれ熱電対を用いて測定した。なお、拡散工程におけるRL-RH-M系合金およびR-T-B系焼結磁石素材の加熱温度は、実験例1と同様に900℃×10Hで全て行った。
【0049】
[サンプル評価]
表6に示す通り、サンプルNo.2-1~2-4では、RL-RH-M系合金付着量が1.6mass%未満の範囲でB
rとH
cJの比較をした。RL-RH-M系合金のRH量が13mass%未満のサンプルNo.2-1では高いB
rが得られているが、高いH
cJは得られていない。一方、本発明例であるサンプルNo.2-2~2-4では高いB
rと高いH
cJがともに得られている。
【表6】