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特許7452190光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20240312BHJP
   G02F 1/03 20060101ALI20240312BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20240312BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20240312BHJP
   H04B 10/516 20130101ALI20240312BHJP
【FI】
G02F1/035
G02F1/03 505
G02B6/122
G02B6/26
H04B10/516
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020062129
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162643
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【弁理士】
【氏名又は名称】藤松 正雄
(72)【発明者】
【氏名】一明 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 徳一
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209206(JP,A)
【文献】特開2011-141386(JP,A)
【文献】特開2016-004224(JP,A)
【文献】特開2020-008778(JP,A)
【文献】特開平08-068917(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0096702(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101458364(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
H04B 10/00 - 10/90
H04J 14/00 - 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光導波路を形成した基板と、該基板上に配置される補強ブロックであり、該光導波路の入力部又は出力部が配置された該基板の端面と該補強ブロックの端面が同一面になるように配置された補強ブロックとを備えた光導波路素子において、
該基板及び該補強ブロックの端面に接合される光学部品を有し、
該基板及び該補強ブロックと該光学部品とは接合面で接合されており、
少なくとも該光学部品における前記接合に使用される前記接合面を構成する材料と、該基板又は該補強ブロックに使用される材料とは、前記接合面に平行な方向の線膨張係数が異なり、
該基板又は該補強ブロックに斜め方向に切除した切欠き部を設け、前記接合面の面積を、該基板と該補強ブロックの前記接合面に平行な断面の面積に関し、両者の総和の面積の最大値よりも、小さくなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路素子において、
該光学部品における前記接合に使用される前記接合面を構成する材料と、該基板に使用される材料とは、前記接合面に平行な方向の線膨張係数が異なり、
該補強ブロックの厚みは、該基板の厚みより薄くなるように設定されていることを特徴とする光導波路素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路素子において、前記光導波路を形成した基板とは、光導波路を形成した薄板と、該薄板を支持する補強基板との接合体であることを特徴とする光導波路素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路を伝搬する光波を変調する電極を備え、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入力又は出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする光変調デバイス。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置に関し、特に、光導波路を形成した基板と、該光導波路の入力部又は出力部が配置された該基板の端面に沿って該基板上に配置された補強ブロックとを備えた光導波路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光計測技術分野や光通信技術分野において、光変調器など、光導波路を形成した基板を用いた光導波路素子が多用されている。ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板を用いた光導波路素子に、光導波路を伝搬する光波を制御するための制御電極を形成し、光変調素子(LNチップ)が形成される。LNチップは、金属等の筐体内に実装されると共に、光導波路素子の光導波路に光波を入力又は出力するため、光導波路素子の端面に光学レンズが接着固定される。
【0003】
光学レンズを用いることで、入力光又は出力光と、光導波路との結合効率の良い光変調器を提供することが可能である。仮に、LNチップと筐体との実装の位置がずれた場合においても、レンズの位置・角度を調整することで、挿入損失の低い構成を実現することができる。
【0004】
図1は、特許文献1又は2のように、偏波合成機能を備えた光変調器の一例を示したものである。基板1に光導波路2や該光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極(不図示)が形成されている。光導波路2にはマッハツェンダー型光導波路を入れ子構造に配置した2組のネスト型光導波路が用いられている。
【0005】
また、図1には、光ファイバF1から光学レンズ11を介して単一偏波の光波を入力し、ビームスプリッター5で2つの光波に分け、その後、光学レンズ30を介して、光導波路2の入力部に導入される。また、光導波路2から光学レンズ40を介して出力した2つの光波の一方は、波長板6で偏波面を回転し、当該2つの光波は偏波ビームコンバイナ7で偏波合成され、その後、光学レンズ12を介して、光ファイバF2に導入される。なお、符号91,92は、筐体の気密性を確保するために筐体8の側面に設けられた光学窓である。
【0006】
光学レンズ30(40)を保持する(又は光学レンズを一体成型した)光学ブロック3(4)は、基板1の端面に接着剤を使用して貼り付けられている。また、基板1の端面側の上部には該端面側の接着面積を増大して光学ブロックとの接着強度を高めると共に、基板1の端面側の機械的強度を高めるための補強ブロックが貼り付けられている。
【0007】
特許文献3のように、近年では、光導波路素子を筐体内に実装した光変調デバイスにおいて、筐体の一側面から、光波の入力や出力を行うため、図2に示すように、光導波路素子の一側面に光導波路2の入力部と出力部を配置する構成が提案されている。このような光導波路素子の一側面に、光学レンズ(31,32)を保持する光学ブロック3が貼り付けられる。図3は、光導波路素子(基板1)と光学ブロック3を貼り付けた様子を示す、側面方向から見た図であり、基板1の端面側の上部には補強ブロック10が接着剤(不図示)により接着固定されている。基板1と補強ブロック10の端面には光学ブロック3が接着剤Aにより接着固定されている。
【0008】
光学ブロックとしては、上述したような光学レンズの保持に限らず、反射部材や偏光子などの他の光学部材を一体的に保持するものがある。また、基板1と補強ブロック10に接着固定される光学部品は、光学ブロックに限らず、スリーブ(円筒)状の保持部材やV溝基板に固定した光ファイバを、基板1の端面に直接貼り付けるような構成も含まれる。
【0009】
光導波路素子を構成する基板としてLNなどの強誘電体材料が使用され、補強ブロックにも基板1と線膨張係数を合わせるために、LNなどの材料が使用される。これに対し、光学部品の素材としては、ガラス(有機ガラスや光学ガラスなど)やプラスチックが使用される。このため、基板や補強ブロックと光学ブロックでは、線膨張係数が、5×10-6/℃以上異なる場合もある。
【0010】
また、光導波路素子のサイズは、チップ幅が0.5~3mm程度、補強ブロックと光導波路素子の基板の厚さの合計は1~2mm程度である。特に、図1に示すような複数のマッハツェンダー構造や、図2に示すような入出力が同一端面にある折り返し構造の場合では、チップ幅が1.5mmよりも大きくなり、光学ブロック3と基板1との接着面積がより大きくなるため、基板や補強ブロックと光学ブロックとの線膨張係数の差の影響を受けやすい。
【0011】
光導波路素子自体や環境雰囲気が温度変化すると、上述した線膨張係数の差により、基板や補強ブロックと光学ブロックとの接合面に内部応力が発生する。発生した応力が大きい場合や温度変化の繰り返しによる応力変化で接合面が疲労劣化した場合には、光学ブロックに保持された光学部品が最適位置からずれ、損失が大きくなり、最悪の場合には、光学ブロックが光導波路素子の端面から脱落するなどの弊害を生じる。しかも、図1に示すような複数のマッハツェンダー構造や、図2に示すような入出力が同一端面にある折り返し構造の場合では、光学ブロック3と基板1や補強ブロック10との接着面積が大きくなり、これらの問題はより顕著となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-163993号公報
【文献】特開2016-212127号公報
【文献】特開2020-003701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、基板や補強ブロックと光学ブロックとの接合部に発生する内部応力を減少させた光導波路素子を提供すること
である。また、その光導波路素子を利用した光変調デバイス及び光送信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の光導波路素子及びそれを用いた光変調デバイス並びに光送信装置は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 光導波路を形成した基板と、該基板上に配置される補強ブロックであり、該光導波路の入力部又は出力部が配置された該基板の端面と該補強ブロックの端面が同一面になるように配置された補強ブロックとを備えた光導波路素子において、該基板及び該補強ブロックの端面に接合される光学部品を有し、該基板及び該補強ブロックと該光学部品とは接合面で接合されており、少なくとも該光学部品における前記接合に使用される前記接合面を構成する材料と、該基板又は該補強ブロックに使用される材料とは、前記接合面に平行な方向の線膨張係数が異なり、該基板又は該補強ブロックに斜め方向に切除した切欠き部を設け、前記接合面の面積を、該基板と該補強ブロックの前記接合面に平行な断面の面積に関し、両者の総和の面積の最大値よりも、小さくなるように設定されていることを特徴とする。
【0018】
(2) 上記(1)に記載の光導波路素子において、該光学部品における前記接合に使用される前記接合面を構成する材料と、該基板に使用される材料とは、前記接合面に平行な方向の線膨張係数が異なり、該補強ブロックの厚みは、該基板の厚みより薄くなるように設定されていることを特徴とする。
【0019】
) 上記(1)又は(2)に記載の光導波路素子において、前記光導波路を形成した基板とは、光導波路を形成した薄板と、該薄板を支持する補強基板との接合体であることを特徴とする。
【0020】
) 上記(1)乃至()のいずれかに記載の光導波路素子は、該光導波路を伝搬する光波を変調する電極を備え、該光導波路素子は筐体内に収容され、該光導波路に光波を入出力する光ファイバを備えることを特徴とする光変調デバイスである。
【0021】
) 上記()に記載の光変調デバイスにおいて、該光導波路素子に入力する変調信号を増幅する電子回路を該筐体の内部に有することを特徴とする。
【0022】
) 上記()又は()に記載の光変調デバイスと、該光変調デバイスに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路とを有することを特徴とする光送信装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、光導波路を形成した基板と、該基板上に配置される補強ブロックであり、該光導波路の入力部又は出力部が配置された該基板の端面と該補強ブロックの端面が同一面になるように配置された補強ブロックとを備えた光導波路素子において、該基板及び該補強ブロックの端面に接合される光学部品を有し、該基板及び該補強ブロックと該光学部品とは接合面で接合されており、少なくとも該光学部品における前記接合に使用される前記接合面を構成する材料と、該基板又は該補強ブロックに使用される材料とは、前記接合面に平行な方向の線膨張係数が異なり、(a)該基板又は該補強ブロックに斜め方向に切除した切欠き部を設け、前記接合面の面積を、該基板と該補強ブロックの前記接合面に平行な断面の面積に関し、両者の総和の面積の最大値よりも、小さくなるように設定されている、また(b)該補強ブロックの厚みは、該基板の厚みより薄くなるように設定されているため、前記接合面の面積を少なくすることができ、接合面に働く内部応力を減少させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来の光変調デバイスの一例を示す平面図である。
図2】従来の光導波路素子の一例を示す平面図である。
図3図2の光導波路素子の側面図である。
図4】本発明の光導波路素子に係る第1の実施例を説明する側面図である。
図5】本発明の光導波路素子に係る第2の実施例を説明する側面図である。
図6】本発明の光導波路素子に係る第3の実施例を説明する側面図である。
図7】本発明の光導波路素子に係る第4の実施例を説明する側面図である。
図8】本発明の光導波路素子に係る第5の実施例を説明する平面図である。
図9】本発明の光導波路素子に係る第6の実施例を説明する平面図である。
図10】本発明の光導波路素子に係る第7の実施例を説明する平面図である。
図11】本発明の光導波路素子に係る第8の実施例を説明する側面図である。
図12】本発明の光導波路素子に係る第9の実施例を説明する側面図である。
図13】本発明の光変調デバイス及び光送信装置を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の光導波路素子について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光導波路素子は、図4図12に示すように、光導波路を形成した基板と、該光導波路の入力部又は出力部が配置された該基板の端面に沿って該基板上に配置された補強ブロックとを備えた光導波路素子において、該基板及び該補強ブロックの端面に接合される光学部品を有し、少なくとも該光学部品における前記接合する面に使用される材料と、該基板又は該補強ブロックに使用される材料とは、前記接合する面に平行な方向の線膨張係数が異なり、(a)前記接合する面の面積は、該基板と該補強ブロックの前記接合する面に平行な断面の面積に関し、両者の総和の面積の最大値よりも、小さくなるように設定されている、又は(b)該補強ブロックの厚みは、該基板の厚みより薄くなるように設定されていることを特徴とする。
【0026】
本発明の光導波路素子に使用される基板1の材料としては、電気光学効果を有する強誘電体材料、具体的には、ニオブ酸リチウム(LN)やタンタル酸リチウム(LT)、PLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)などの基板や、これらの材料による気相成長膜などが利用可能である。また、半導体材料や有機材料など種々の材料も光導波路素子の基板として利用可能である。
【0027】
光導波路を形成した基板1の厚さは、変調信号のマイクロ波と光波との速度整合を図るため、10μm以下、より好ましくは5μm以下に設定される場合がある。このような場合には、基板1の機械的強度を補強するため、0.2~1mm厚の補強基板を、直接接合又は接着剤を介して貼り合わせることが行われる。
本発明の光導波路素子において、「光導波路を形成した基板」とは、単に1枚の基板のみを意味するのではなく、光導波路を形成した薄板(例えば、10μm以下の厚み)と、該薄板を支持する補強基板との接合体をも含む概念である。
また、「光導波路を形成した基板」には、補強基板上に気相成長膜を形成し、当該膜を光導波路の形状に加工するような基板も含む。
【0028】
基板1に光導波路を形成する方法としては、Tiなどの高屈折率材料を基板に熱拡散する方法や、プロトン交換法により高屈折率部分を形成する方法を使用することが可能である。また、光導波路以外の基板部分をエッチングする方法や、光導波路の両側に溝を形成する方法などで、基板の光導波路に対応する部分を凸状としたリブ型光導波路を形成することも可能である。さらに、リブ型光導波路と、熱拡散法などの光導波路を一緒に使用することも可能である。
【0029】
基板1の端面側の上部には、基板1と同じ材料のLNなどを使用した補強ブロックが配置固定される。補強ブロック10の端面(基板1の端面と同じ側の面)は、光学ブロックなどの光学部品を接着するための接合面として利用される。
【0030】
光学部品は、光学レンズ、反射部材、偏光子などを保持する光学ブロックや、光ファイバの端部付近を保持するスリーブ(円筒)状の保持部材またはV溝基板などが含まれる。光学部品を構成する材料は、有機ガラスや光学ガラスなどのガラス材料や、プラスチック材料が使用される。
【0031】
LN基板はZ軸方向に対して線膨張係数が4.0×10-6/℃であり、X軸(Y軸)方向には、14.0×10-6/℃である。光学部品を例えば光学ガラス材料で構成する場合には、線膨張係数は6.4×10-6/℃となる。LN基板に光学部品を貼り付けた場合には、LN基板の接合面にX軸又はY軸が存在する場合に、両者の線膨張係数の差が、5.0×10-6/℃以上となり、差異が顕著となる。その結果、基板や環境等の温度変化に伴い、光学部品の位置ずれや、光学部品の剥離あるいは脱落が発生する。
【0032】
また、光導波路素子を収容する金属等の筐体は、光導波路素子に使用される基板に近い線膨張係数を持つ材料が選択される。LN基板の場合にはステンレス鋼が多く用いられるが、ステンレス鋼の線膨張係数は、17.3×10-6/℃で光学部品との線膨張係数の差が大きくなることから、光学部品は筐体には接合されず、専ら基板1や補強ブロック10に接合して保持されている。
【0033】
本発明の光導波路素子の特徴は、図4図6図12に示すように、基板1や補強ブロック10と光学部品3とが接合する面Aの面積が、該基板と該補強ブロックの前記接合する面に平行な断面(図中の符号Sにおける断面)の面積に関し、両者の総和の面積の最大値よりも、小さくなるように設定されていることである。また、図5に示すように、補強ブロック10の厚みW1は、基板1の厚みW0より薄くなるように設定されてもよい。
【0034】
図4図6図12に示す符号Sの位置は、本発明に係る「切欠き部」が設けられない位置であり、符号Sの場所における断面の面積が基板1や補強ブロック10において最も大きくなる位置であれば、特に制限されない。
【0035】
また、接合する面で基板に線膨張係数の異方性がある場合には、光学部品との線膨張係数の差が大きい軸方向の寸法が小さくなるように面積を小さくすると、より効果的である。特に光変調器に用いられるX板(Y伝搬)のLN基板を用いてガラス材料と貼り合わせる場合では、結晶Z軸(幅方向)よりも結晶X軸(厚さ方向)で線膨張係数の差が大きくなる。このため、厚さ方向の寸法が小さくなるようにして面積を小さくするのがより効果的である。
【0036】
このように、接合する面Aの面積をより小さくすることで、当該接合面に発生する内部応力を減少することができる。図4では、具体的な方法として、基板1に切欠き部Bを形成し、基板1の接合(符号A部分)に係る面積を減少させている。切欠き部は、個別の素子チップに切り分ける前のウエハ状態に、一括で裏面に溝加工した後にチップ化することで形成することも可能である。このような手法は生産性を高めるのに好適である。図4のように、切欠き部Bが形成された位置は、基板1の厚みを減らすように設定されている。また、図8では、基板1及び補強ブロックの幅を減らすように、切欠き部(E1,E2)が形成されている。図11及び図12では、基板1、補強ブロック10又は補強基板100を斜め方向に切除した切欠き部(I1,I2,J)を設けている。このような切欠き部は、基板や補強ブロック等の側面(接合面を除く。底面又は上面を含む)から切削器具を接触させて容易に加工ができるため生産性を高めるために好適である。
【0037】
図11又は12に示すように、斜め方向に切除した切欠き部の場合は、図4と比較して基板1、補強ブロック10又は補強基板100の平均的厚さを厚くできより機械的強度を確保することができる。しかも、図4のように切欠き部に凹状の角部が存在しないため、角部への応力の集中を抑制することができ基板1、補強ブロック10又は補強基板100の割れの発生頻度を抑制することができる。
【0038】
また、接合面の内部に接合に寄与しない空洞(溝等)も形成されないため、狭い接合面積でより確実に固定することができる。図5の補強ブロック10は、予め厚みの薄い板を用意しても良いし、補強ブロックとなる厚手の板を基板1に貼り合わせた後、切削加工して薄くしてもよい。
【0039】
図6では、基板1の端面(接合面A)側からブレード等で切り込み、切欠き部Cを形成したものである。図7は、補強ブロック10の端面に切り込みを行っている。図9は、基板1と補強ブロックの幅方向の内側に図面に垂直な方向に、切欠き部(G1,G2)を形成している。なお、図9乃至11では切欠き部やスリットが複数形成されているが、これらは、1つでも良い。
【0040】
図6,7,及び9に示すように、切欠き部が形成された位置は、基板1や補強ブロック10の点線S部分の断面における最大幅又は最大厚みを残すように設定されている。この構成により、接合面Aでは、最大幅又は最大厚みの領域に接合面が広がりながら、それぞれの接合面の接合面積を減少させることが可能となる。広い範囲で光学部品を保持できるため、光学部品の貼り合わせ時の傾きの発生を抑えながら、接合に係る機械的強度を高めることも可能となる。
【0041】
切欠き部は、線膨張係数の差が大きい方向における基板1や補強ブロック10の幅や高さが小さくなるような位置に切り込みを行い設けられる。例えば図6及び図7では、基板1の厚み方向の線膨張係数の差に対応するための処置を示している。また、図9は、基板1の幅方向の線膨張係数の差に対応するための処置である。図4,5,8,11及び12についても、同様の考え方ができる。
【0042】
図10は、接合面A側からの切り込みを、スリット状(H1,H2)に設けたものである。接合面Aは、スリット(H1,H2)の間に形成され、スリットが接着剤の幅方向の拡がりを抑制している。このように、接着剤を塗布する面積を狭くし、接合する面積を小さくすることも可能である。この場合には図9の場合よりも接着強度は低下するものの、応力の発生をより減少させることができる。また、図8のような構成と比較すると、広い範囲で光学部品と基板が近接するため、光学部品の貼り合わせ時に部品傾きの発生を抑えることができる。
【0043】
図12では、「光導波路を形成した基板」として、LNの薄板3と補強基板100とを接着層101で一体的に接合した、接合体を構成している。そして、切欠き部Jを補強基板100に形成している。切欠きの角度は、例えば45度等の任意の角度に設定することができる。
【0044】
光学部品である光学ブロック3は、吸着治具300で吸着して搬送され、接着剤を塗布した基板1や補強ブロック10の端面に接触される。吸着治具300による光学ブロック3の吸着部はφ0.5mmからφ1.0mmであるため、光学ブロック上面の面積を多く占め、光学部品のハンドリングが難しくなることもある。
【0045】
このため、光学ブロック3の上面と補強ブロック10の上面との境界で段差がないようにしてもよい。これにより吸着治具300が補強ブロックに当たることがなくなるため光学部品の接合作業が容易になる。また、補強ブロック10の上面の位置より光学部品(光学ブロック)3の上面の位置を高くすると更に好ましい。この場合、光学ブロック3を張り付ける際にはみ出た接着剤が光学ブロック3の上面に進むことができなくなるため、吸着治具300による接着剤の吸引を抑制することができ、光学部品の接合作業が更に容易になる。
【0046】
加重センサー付き押圧手段301で、光学ブロックを基板1の方向に軽く押し、光学ブロック3を基板1等の端面の適正な位置に接合させる。このように、光学ブロックを取り扱う治具が接触する面積を確保するため、光学ブロック自体を小型化することが難しい。このため、本発明の光導波路素子のように、基板1や補強ブロック10を加工して接合面積を小さくする技術は、特に有用である。
【0047】
本発明の光導波路素子は、基板1に光導波路を伝搬する光波を変調する変調電極を設け、図1又は図13のように、筐体8内に収容される。さらに、光導波路に光波を入出力する光ファイバ(F1,F2,又はF)を設けることで、光変調デバイスMDを構成することができる。光ファイバは、図1又は図13のように筐体8の外側に配置するだけでなく、筐体の側壁を貫通する貫通孔を介して筐体内に導入して配置固定することも可能である。
【0048】
光変調デバイスMDに変調動作を行わせる変調信号を出力する電子回路(デジタル信号プロセッサーDSP)を、光変調デバイスMDに接続することにより、光送信装置OTAを構成することが可能である。光導波路素子に印加する変調信号は増幅する必要があるため、ドライバ回路DRVが使用される。ドライバ回路DRVやデジタル信号プロセッサーDSPは、筐体4の外部に配置することも可能であるが、筐体4内に配置することも可能である。特に、ドライバ回路DRVを筐体内に配置することで、ドライバ回路からの変調信号の伝搬損失をより低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、基板や補強ブロックと光学ブロックとの接合部に発生する内部応力を減少させた光導波路素子を提供することが可能となる。また、その光導波路素子を利用した光変調デバイス及び光送信装置を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2 光導波路
3 光学ブロック(光学部品)
10 補強ブロック
A 接合面(接着剤)
MD 光変調デバイス
OTA 光送信装置

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