(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】硫酸ニッケル溶液の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 53/10 20060101AFI20240312BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240312BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C01G53/10
C22B23/00 102
C22B3/08
(21)【出願番号】P 2020065637
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸司
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-067863(JP,A)
【文献】特開2017-186589(JP,A)
【文献】国際公開第2017/212937(WO,A1)
【文献】特開2019-137879(JP,A)
【文献】特開2019-034281(JP,A)
【文献】特開2013-166984(JP,A)
【文献】特開2018-171562(JP,A)
【文献】特開2017-128785(JP,A)
【文献】特開2019-093365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
C22B 1/00-61/00
B01J 8/00-8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル溶液の製造装置であって、
ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、
前記槽内で発生した
硫酸と水の溶解液を投入されたニッケルブリケットの周囲で循環させる循環装置とからな
り、
前記循環装置は、前記槽内の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなる
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶液の製造装置
。
【請求項2】
前記槽は、四辺の壁面をもつ平面視で四角形の槽であり、
前記ノズルは4本用いられ、前記槽の四隅において、各ノズルが前記壁面に沿って配置されている
ことを特徴とする請求項
1記載の硫酸ニッケル溶液の製造装置。
【請求項3】
硫酸ニッケル溶液の製造装置であって、
該装置は高濃度の硫酸溶液でニッケルブリケットを溶解する浸出槽と、
残存するフリー硫酸によりニッケルを溶解させる浸出調整槽と、
前記浸出槽および/または前記浸出調整槽に設けられた請求項1記載の循環装置とからなる
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶
液の製造装置。
【請求項4】
硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、
ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、
前記槽内で発生した硫酸と水の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなる循環装置とを用い、
前記ニッケルブリケット
を硫酸と水
の溶解液で浸出して硫酸ニッケル溶液を得る工程において、
前記
ノズルから吐出する溶解液
をニッケルブリケットの
山の回りで循環させ
て山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させる
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項5】
硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、
ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、
前記槽内で発生した硫酸と水の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなる循環装置とを用い、
浸出槽にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る第1溶解工程と、
浸出調整槽に前記一次硫酸ニッケル溶液とニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸でニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る第2溶解工程とを含み、
前記第1溶解工程および/または前記第2溶解工程において、
前記ノズルから吐出する溶解液
をニッケルブリケットの
山の回りで循環させ
て山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させる
ことを特徴とする硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケル溶液の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
負極および正極用の活物質の材料としては、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。
【0004】
リチウムニッケル複合酸化物を製造するプロセスでは、ニッケル原料には主に硫酸ニッケルが用いられる。硫酸ニッケルは、原料であるニッケルを硫酸で溶解して硫酸ニッケル溶液の形態にするのが一般的である。したがって、硫酸ニッケル溶液を大量に、低コストで用意することが、リチウムニッケル複合酸化物を製造する上での課題となっている。
【0005】
特許文献1には、ニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケルを製造する方法が開示されている。この方法は、ニッケル粉を焼結したニッケルブリケットを硫酸で溶解して硫酸ニッケル溶液を得るものである。この製法では、溶解用タンクにニッケルブリケットを山積みされるように投入し、その回りに硫酸を送り込んで溶解を行わせる。この方法では、硫酸は山積みされたニッケルブリケットの表面には接触するが、表面より下層のニッケルブリケットには接触しにくい。また、硫酸とニッケルブリケットが接触すると、水素が発生しニッケルブリケットの山の表面で小さな流れを生じさせるが、時間の経過と共にニッケルブリケット表面に生成する溶解残渣(溶け難いNi粉)によってニッケルブリケット表面およびニッケルブリケット間の隙間を溶解残渣が埋めてしまう。このことにより硫酸がニッケルブリケットと接触するのが防げられ、ニッケルブリケットの溶解に時間がかかり、生産性が劣るという問題があった。
【0006】
特許文献2では、金属溶解塔に金属ニッケル塊を充填し、金属溶解塔の上部から加熱した硫酸を供給するとともに、金属溶解塔の下部から酸化剤を供給する硫酸ニッケル溶液の製造方法が開示されている。しかし、この製法でも反応時間が長く、効率的にニッケルを溶解できないという問題があった。また、設備費が高いという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-67483号公報
【文献】特開2011-126757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、ニッケルブリケットを短時間で溶解できる生産性の高い硫酸ニッケル溶液の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の硫酸ニッケル溶液の製造装置は、硫酸ニッケル溶液の製造装置であって、ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、前記槽内で発生した硫酸と水の溶解液を投入されたニッケルブリケットの周囲で循環させる循環装置とからなり、前記循環装置は、前記槽内の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなることを特徴とする。
第2発明の硫酸ニッケル溶液の製造装置は、第1発明において、前記槽は、四辺の壁面をもつ平面視で四角形の槽であり、前記ノズルは4本用いられ、前記槽の四隅において、各ノズルが前記壁面に沿って配置されていることを特徴とする。
第3発明の硫酸ニッケル溶液の製造装置は、硫酸ニッケル溶液の製造装置であって、該装置は高濃度の硫酸溶液でニッケルブリケットを溶解する浸出槽と、残存するフリー硫酸によりニッケルを溶解させる浸出調整槽と、前記浸出槽および/または前記浸出調整槽に設けられた請求項1記載の循環装置とからなることを特徴とする。
第4発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、前記槽内で発生した硫酸と水の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなる循環装置とを用い、前記ニッケルブリケットを硫酸と水の溶解液で浸出して硫酸ニッケル溶液を得る工程において、前記ノズルから吐出する溶解液をニッケルブリケットの山の回りで循環させて山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させることを特徴とする。
第5発明の硫酸ニッケル溶液の製造方法は、硫酸ニッケル溶液の製造方法であって、ニッケルブリケットと硫酸と水が投入される槽と、前記槽内で発生した硫酸と水の溶解液を吸引して排出する循環ポンプと、該循環ポンプから供給を受けた溶解液を前記槽内で吐出するノズルとからなる循環装置とを用い、浸出槽にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る第1溶解工程と、浸出調整槽に前記一次硫酸ニッケル溶液とニッケルブリケットを投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸でニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る第2溶解工程とを含み、前記第1溶解工程および/または前記第2溶解工程において、前記ノズルから吐出する溶解液をニッケルブリケットの山の回りで循環させて山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、循環ポンプにより槽内の溶解液を吸引して、その溶解液をノズルから吐出させて旋回流を発生させるので、同じ溶解液を用いてニッケルブリケットと硫酸の接触を増進できる。また、ノズルから吐出する溶解液がニッケルブリケットの山の表面の水素気泡および溶解残渣を効率的に除去するのでニッケルの溶解速度が向上する。このため、硫酸ニッケル溶液を短時間で溶解でき、生産性が高くなる。
第2発明によれば、ノズルによる溶解液の吐出が四角形の層の四隅で行われるので、ニッケルブリケットが四隅に溜ることを防止できる。
第3発明によれば、浸出槽と浸出調整槽の双方またはいずれか一方でノズルから吐出する溶解液がニッケルブリケットの山の回りで流動して山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させるので、ニッケルブリケット表面の水素気泡および溶解残渣を効率的に除去するので、ニッケルの溶解速度が向上する。
第4発明によれば、槽内でニッケルブリケットに硫酸溶液を接触させる製造方法において、ノズルから吐出する溶解液がニッケルブリケットの山の回りで流動して山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させるので、ニッケルブリケット表面の水素気泡および溶解残渣を効率的に除去するのでニッケルの溶解速度が向上する。
第5発明によれば、浸出槽と浸出調整槽の双方またはいずれか一方でノズルから吐出する溶解液がニッケルブリケットの山の回りで流動して山の表面のニッケルブリケットを剥ぎ取ったり流動させるので、フレッシュな硫酸とニッケルブリケットを接触させるとともに、ニッケルブリケット表面の水素気泡および溶解残渣を効率的に除去するのでニッケルの溶解速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る硫酸ニッケル溶液製造装置を構成する溶解装置30の要部説明図である。
【
図2】
図1に示す溶解装置30の側面図で示す溶解作用説明図である。
【
図3】
図1に示す溶解装置30の平面図で示す溶解作用説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る硫酸ニッケル溶液製造装置の説明図である。
【
図5】
図4の製造装置を用いた硫酸ニッケル溶液製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0013】
(本発明における硫酸ニッケル溶液の溶解装置)
図1~3に基づき、本発明に係る硫酸ニッケル溶液製造装置を構成する溶解装置30を説明する。
図1は溶解装置30の斜視図、
図2は側面図、
図3は平面図である。なお、
図1ではニッケルブリケットの表示は省略している。また、
図2では手前側の供給パイプ42の裏に奥側の供給パイプ42が位置するので、本来は見えないが、分かりやすくするため位置を少しズラして示している。
【0014】
図1~3において、31は溶解槽であって、平面視で四角形の槽である。四辺の壁と床は内面に耐熱レンガが貼られ、外面は鋼板で構成されている。
この溶解槽31の内部には、ニッケルブリケットnbと硫酸と水が投入される。ニッケルブリケットnbは、
図2および
図3に明示するように、投入されると溶解槽31内で山積みされた状態となる。
【0015】
この溶解槽31には、槽内で発生した溶解液を循環させる循環装置40が付設されている。循環装置40は、循環ポンプ41と供給パイプ42とノズル43を備えている。循環ポンプ41は溶解槽31内で発生している溶解液を吸引して供給パイプ42を経由してノズル43に供給するためのポンプである。循環ポンプ41は、吸引口が溶解槽31内に臨むように設置され、吸引口にはストレーナ44が取付けられている。ストレーナ44は主にニッケルブリケットnbの吸い込みを防止することを主たる目的としている。
【0016】
溶解槽31内には4本の供給パイプ42が立てられ、各供給パイプ42の下端にはそれぞれノズル43が取付けられている。そして、各供給パイプ42と循環ポンプ41の吐出口とは適宜の送液パイプ45で連通されている。送液パイプ45は、循環ポンプ41に連結された元パイプ46と、元パイプ46から分岐した4本の分岐パイプ47とからなる。4本の分岐パイプ47の先端は前記4本の供給パイプ42に連結されている。
4本の分岐パイプ47のそれぞれには、流量調整弁48が介装されている。流量調整弁48は、4個の分岐パイプ47から4個のノズル43までの流路抵抗が異なっても等分の溶解液rを供給できるようにするために設けられている。元パイプ46には圧力計49が取付けられている。この圧力計49は循環ポンプ41からの吐出を圧力監視して、循環ポンプ41の不具合、さらには供給パイプ42やノズル43の閉塞等の不具合を監視するために設けられている。
【0017】
上記構成に基づき、循環ポンプ41で溶解槽31内の溶解液を吸引して、供給パイプ42に向けて排出するとノズル43から溶解液rを吐出することができる。ノズル43は溶解槽31内において、循環ポンプ41から供給された溶解液rを溶解槽31内で旋回するように吐き出す方向に設けられている。より具体的には、ノズル43の吐出方向は溶解槽31の内壁に沿う方向であり、4個のノズル43から溶解液が吐出されると、溶解槽31内に溶解液rの旋回流Aが発生する。なお、溶解液rは溶解槽31内のニッケルブリケットnbに硫酸と水が接触してできた液であり、運転中はニッケルブリケットnbの山を浸漬するに足る容積がある。
【0018】
図示の溶解槽31は平面視で四角形の槽であり、その四隅に前記供給パイプ42とノズル43が配置されている。四角形の溶解槽31の四隅において、4本のノズル43が四辺の壁面に沿って配置されていると、ノズル43から吐出される溶解液rが壁面に沿った流れを作り、溶解槽31内で旋回する流れとなる。この旋回流Aは、投入されてできたニッケルブリケットnbの山の回りを流れ、ニッケルブリケットnbを剥ぎ取ったり移動させることになる。
【0019】
本実施形態のように、ノズル43を平面視四角形の溶解槽1の四隅に配置しておけば溶解槽1の四隅にニッケルブリケットnbが溜まることはない。また、供給パイプ42を溶解槽1の四隅に立てておけば、溶解液rの旋回流Aが当って多少の乱流が生じ、この現象によっても、ニッケルブリケットnbの山の表面のニッケルブリケットnbを剥ぎ取ることができる。
さらに、循環ポンプ41により槽内の溶解液rを吸引して、その溶解液rをノズル43から吐出させて旋回流Aを発生させるので、同じ溶解液rを用いてニッケルブリケットnbと硫酸の接触を増進できる。さらに、硫酸との接触によって発生した熱も外部に逃がすことなく利用できるので、加温に必要な蒸気量を低減することが可能となる。
【0020】
図示の実施形態では、供給パイプ42は槽内で立てられているが、必ずしも立てる必要はなく、水平に延ばし溶解槽31の壁を貫いて設け、循環ポンプ41に送液パイプ45で連結してもよい。
図示の実施形態では、溶解槽31は平面視で四角形であったが、これに限られない。たとえば、平面視で円形の槽も本発明に適用できる。
図1では供給パイプ42は4本を示しているが、これに限られない。たとえば、槽内で周方向に間隔をあけて配置された3本以下の供給パイプ42や4本以上の供給パイプ42を用いてもよい。この場合、ノズル43も供給パイプ42の本数に合わせればよい。
なお、溶解槽31の上部には、排気ダクトやファンが取付けられる。排気ダクトとファンは、吹込んだガスや発生した水素を槽外に排出するために設けられる。
【0021】
(
図1~3の溶解装置による硫酸ニッケル溶液の製造方法)
図1~3の装置を用いるとき、溶解槽31にニッケルブリケットnbと硫酸と水を投入する。ニッケルブリケットnbは溶解槽31内で山積みにし、硫酸と水はニッケルブリケットnbの山を浸漬するように入れる。そして、ニッケルブリケットnbに硫酸が接触すると溶解液rが発生するが、この溶解液rを溶解槽31で吸引してノズル43から吐出させる。
【0022】
溶解槽31内では、投入されたニッケルブリケットnbの山と硫酸とが接触すると、硫酸との接触により発生した水素は小さな流れを生じさせ、これによってニッケルブリケットnbを動かし新しい表面を露出させる。しかし、時間の経過と共に溶解残渣がニッケルブリケットnbの表面に付着してフレッシュな硫酸がニッケルブリケットnbと接触するのを妨げようとする。
しかるに、本実施形態の溶解装置30では、ノズル43の開口端から溶解液r(硫酸溶液でもある。以下同じ)が吐出されるので、溶解槽31内の溶解液rが矢印Aで示すように旋回しながら流動する。この結果、ニッケルブリケットnbにフレッシュな硫酸が接触することとなり、また溶解液rの流動によって山積み表面のニッケルブリケットnbが剥がされたり動いていくことによって、ニッケルブリケットnb表面に付着している溶解残渣が洗い流される。これにより、常に下層側の新しいニッケルブリケットnbが露出すると共にニッケルブリケットnb間の隙間が確保される。
この結果、フレッシュなニッケルブリケットnbにフレッシュな硫酸が常時接触することとなり、ニッケルブリケットnbの溶解が短時間で行われることになる。
【0023】
ノズル43からの溶解液rの吐出量にはとくに制限はなく、溶解槽31の容量やニッケルブリケットnbの量によって適切な範囲に定めればよい。一般的には、槽容量が5m3~20m3であるなら、ノズル43の1本あたりで25~100L/min位とするのが現実的である。この範囲の流量であると、ニッケルブリケットnbの山に溶解液rが接触あるいは衝突して、ニッケルブリケットnbが山の表面から剥がれたり流動して、常時新しいニッケルブリケットnbが硫酸溶液と接触することになる。
【0024】
一般に、ニッケルブリケットnbの溶解速度を上げるには、フレッシュな硫酸とニッケルブリケットを接触させるようにすればよい。そのために、溶解槽31中で撹拌することも考えられるが、溶解槽31内にニッケルブリケットnbの山が有るため、大きな撹拌機は設置できず撹拌効果が余り期待できない。また、ニッケルブリケットnbの山を機械的に撹拌することも考えられるが、この場合は数トンレベルの重量があるニッケルブリケットnbの山を撹拌することになるので、動力エネルギーを大きく消費することになる。しかるに、本発明の溶解装置30によれば、このような問題も解決される。
【0025】
(製造設備の一実施形態)
図4に基づき、本発明の一実施形態である製造装置を説明する。
本実施形態に係る硫酸ニッケル溶液の製造設備は、
図4に示すように、浸出槽1と浸出調整槽2を直列に連結した構成である。本発明における溶解装置30は、
図1に示す溶解槽31を単独で使用してもよいが、溶解槽31を前段工程用の浸出槽および/または後段工程用の浸出調整槽に使用してもよい。以下では、浸出槽1と浸出調整槽2の双方に溶解槽31を適用した実施形態を説明する。
【0026】
図4の装置では、浸出槽1と浸出調整槽2の両方に
図1の溶解槽31の役目を負わせているため、浸出槽1と浸出調整槽2に、溶解装置30が設けられている。なお、
図4では、図の煩雑を避けるため循環装置40の図示を省略している。ただし、発生した溶解液rの旋回流は矢印Aで表示している。
【0027】
浸出槽1は、ニッケルブリケットnbと硫酸と水を投入してニッケルブリケットnbを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得るための槽である。そして、ニッケルブリケットを投入するためのパイプ13とこれに介装された計量バルブV3、硫酸を投入するためのパイプ11とこれに介装されたバルブV1、水を投入するためのパイプ12とこれに介装されたバルブV2を備えている。また、浸出槽1内の液を加温するための蒸気導入パイプ15を備えている。
【0028】
浸出調整槽2は、浸出槽1内の一次硫酸ニッケル溶液と新たなニッケルブリケットnbを投入し、一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸でニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得るための槽である。
浸出調整槽2と浸出槽1との間には、浸出槽1内のフリー硫酸を多く含む硫酸ニッケル溶液を浸出調整槽2に導入するための送液パイプ21が接続され、この送液パイプ21にはポンプP1が介装されている。また、浸出調整槽2には、新たなニッケルブリケットを投入するためのパイプ24とこれに介装された計量バルブV4、水を注入するためのパイプ22とこれに介装されたバルブV2を備えている。
【0029】
浸出調整槽2には、得られた硫酸ニッケル溶液を系外に取り出すための送液パイプとこれに介装したポンプP2を備えている。さらに、浸出調整槽2内の液を加温するための蒸気導入パイプ25を備えている。また、浸出調整槽2は浸出調整槽2内のpHを検出するpHセンサーS1、浸出調整槽2内のニッケル濃度を検出する濃度計S2を備えている。
【0030】
(
図4の製造設備による製造方法)
図4の製造設備を用いた硫酸ニッケル溶液の製造方法を
図5に基づき説明する。
この製造方法は、第1溶解工程Iと第2溶解工程IIとからなり、これら各工程I,IIを順に実行し連続操業することを特徴とする。
【0031】
第1溶解工程Iは、浸出槽1にニッケルブリケットと硫酸と水を投入してニッケルブリケットnbを溶解させて一次硫酸ニッケル溶液を得る工程である。第2溶解工程IIは、浸出調整槽2に前記一次硫酸ニッケル溶液を投入すると共に新たにニッケルブリケットと水を投入し、前記一次硫酸ニッケル溶液中のフリー硫酸で新たに投入されたニッケルブリケットを溶解して硫酸ニッケル溶液を得る工程である。
【0032】
上記製造方法では、
図4に示すように第1溶解工程I用の溶解槽(浸出槽1)と第2溶解工程II用の溶解槽(浸出調整槽2)が2段直列につないで用いられる。そして、1槽目の浸出槽1を高フリー硫酸濃度として、多くのニッケルブリケットnbを溶解すると共に、2槽目の浸出調整槽2では浸出槽1において余剰であったフリー硫酸だけで少量のニッケルブリケットnbを溶解して目的濃度のニッケル溶液を得るようにしている。
【0033】
つまり、浸出調整槽2にはニッケル濃度を上げて、フリー硫酸濃度を下げるという濃度調整槽的な役割を持たせている。このため、硫酸を浸出槽1にだけ供給することで、滞留時間を大きくすることなく、また、装置を無駄に大きくすることなく、短時間で高濃度のニッケル溶液を得ることができるようにしている。
本明細書でいうフリー硫酸とは、浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸を意味する。なお、フリー硫酸は遊離硫酸とも称される。
【0034】
上記製法では、浸出槽1において多量のニッケルを溶解させるため、ニッケルブリケットnbを槽内において山積みしている。しかしながら、第1溶解工程Iにおいて反応初期ではニッケルが溶解するものの、時間が経過するとニッケルの溶解速度が低下しかねない。そこで、本実施形態では、第1溶解工程Iにおいて、溶解液rをニッケルブリケットnbの山の回りで旋回する旋回流Aを発生させ、フレッシュな硫酸とニッケルブリケットを接触させるとともにニッケルブリケット表面の水素気泡を効率的に除去するようにしている。
【0035】
さらに、浸出調整槽2においても、溶解液rの旋回流Aを発生させ、ニッケルブリケットnbにフレッシュな硫酸を供給する。溶解液rの旋回流Aを発生させると、ニッケルブリケットnbにフレッシュな硫酸を供給し、さらにニッケルブリケットnb表面の水素気泡を効果的に除去することができる。こうすることでニッケルブリケットnbの溶解速度を上げることができる。
【0036】
(他の実施形態)
上記実施形態のほか、浸出槽1に溶解装置30を設け浸出調整槽2に溶解装置30を設けない実施形態や、浸出槽1に溶解装置30を設けずに浸出調整槽2に溶解装置30を設けた製造装置も本発明に含まれる。
上記実施形態のいずれにおいても、ニッケルブリケットnbを短時間で溶解できるので生産性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、所定濃度の硫酸ニッケル溶液が得られるが、得られた硫酸ニッケル溶液はどのような用途にも利用できる。
電池材料等に用いられるニッケル酸リチウムを製造する場合は、処理量確保の観点から、硫酸ニッケル溶液中のニッケルは高濃度であり、フリー硫酸は低濃度であるほうが好ましいが、このような用途に本発明は好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 浸出槽
2 浸出調整槽
30 溶解装置
31 溶解槽
40 循環装置
41 循環ポンプ
42 供給パイプ
43 ノズル
45 送液パイプ
46 元パイプ
47 分岐パイプ
48 流量調整弁
nb ニッケルブリケット