(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】鉱物分析用観察試料の作製用研磨紙及びこれを用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/32 20060101AFI20240312BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20240312BHJP
G01N 23/2208 20180101ALI20240312BHJP
G01N 23/2251 20180101ALI20240312BHJP
G01N 23/2252 20180101ALI20240312BHJP
G01N 23/2202 20180101ALI20240312BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20240312BHJP
B24B 19/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
G01N1/32 A
G01N1/28 F
G01N23/2208
G01N23/2251
G01N23/2252
G01N23/2202
B24D11/00 B
B24B19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020099400
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大典
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-150193(JP,A)
【文献】特開2014-126546(JP,A)
【文献】特開2004-340851(JP,A)
【文献】特開平10-151572(JP,A)
【文献】特開昭53-126593(JP,A)
【文献】特開昭54-137788(JP,A)
【文献】実開昭58-184260(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/32
G01N 1/28
G01N 23/2208
G01N 23/2251
G01N 23/2252
G01N 23/2202
B24D 11/00
B24B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂に包埋された鉱石試料を手作業で乾式研磨する方法であって、砥粒が埋没しない程度に表面側にロウが塗布された研磨紙を使用して鉱石試料を研磨した後、ロウが塗布されていないより細かな砥粒サイズの研磨紙を使用して該鉱石試料を仕上げ研磨することを特徴とする鉱物分析用観察試料の研磨方法。
【請求項2】
前記ロウが塗布された研磨紙を使用して研磨する前に、該ロウが塗布された研磨紙の砥粒サイズ以上の砥粒サイズを有し且つロウが塗布されていない研磨紙を使用して粗研磨をすることを特徴とする、請求項1に記載の鉱物分析用観察試料の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨紙が耐水研磨紙であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鉱物分析用観察試料の研磨方法。
【請求項4】
前記ロウが塗布された研磨紙に、JISR6253で規定する番手番号が#1000、#1200、#1500、#2000、及び#2500の研磨紙の中から選んだ少なくとも1種類を使用することを特徴とする、請求項3に記載の鉱物分析用観察試料の研磨方法。
【請求項5】
前記ロウが塗布された研磨紙を複数種類を使用する場合は、前記番手番号の小さい方から順に使用することを特徴とする、請求項4に記載の鉱物分析用観察試料の研磨方法。
【請求項6】
樹脂に包埋された鉱石試料の研磨に使用する
耐水研磨紙であって、砥粒が埋設しない程度に
基部の表面側にロウが
直接塗布されていることを特徴とする研磨紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱物分析用の観察試料を作製するための研磨紙及びこれを用いた研磨方法に関し、より詳しくは、鉱物分析装置(MLA)の分析対象となる鉱石が樹脂に埋包された埋包試料を研磨する研磨紙及びこれを用いて観察試料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山から採掘される鉱石は、銅、鉛、亜鉛、ニッケル等の金属の酸化物や硫化物等を含んだ鉱物が複数種類混在しており、該鉱石を原料とする金属製錬においては、該鉱石に対して破砕、選鉱、製錬、電解等の一連の処理を施すことで、対象となる有価金属を所定の品位まで段階的に高めることが行われている。上記の鉱石の処理においては、処理対象となる鉱石原料やある程度処理された中間物に含まれる鉱物の種類、含有量、粒度分布、単位鉱の存在割合、不用鉱物の存在割合等の情報を予め把握しておくことが好ましい。これにより、より効率のよい処理プロセスや処理条件を定めることができるので、製錬コストを抑えることが可能になる。
【0003】
上記の鉱石原料や中間物の情報を予め把握する方法としては、サンプリングした鉱石試料に対して光学顕微鏡を用いて撮像し、その光学的性質の違いから鉱物種を同定したり面積比から定量分析を行なったりする方法や、走査型電子顕微鏡SEM及びエネルギー分散型X線分光分析装置EDSを用いる鉱物分析装置MLA(Mineral Liberation Analyzer)による分析が知られている。いずれの方法を採用する場合においても、分析対象となる鉱石試料を樹脂に包埋することで固結させた後、得られた埋包試料を鉱石試料を含む断面で平滑に研磨した観察試料が使用される。
【0004】
上記の埋包試料の研磨には、湿式で研磨を行なう自動研磨装置が一般的に使用されている。この自動研磨装置は、例えばストルアス社製の回転式の研磨装置Tegramin-25のように、回転可能に設けられているターンテーブルに耐水研磨紙をセットすると共に、これに対向しながら回転するアーム部に埋包試料を取り付け、例えば砥粒サイズ5μm程度まで水を供給しながら研磨するものであり、その後必要に応じてバフ研磨装置や砥粒サイズ1μm程度のダイヤモンド粒子を使用して、いわゆる鏡面状態になるまで研磨することが行われる。
【0005】
上記の湿式の研磨装置で大抵の鉱石試料を研磨することができるが、鉱石試料の中には水に弱い鉱物を含むものや、鉱石全体として脆い種類のものがあり、これらの鉱石試料を含む埋包試料は、上記の湿式の自動研磨装置で研磨するのは難しい。そこで、水に弱い鉱物を含む鉱石試料や脆い鉱石試料の場合は、手作業による乾式研磨が好適に行われている。すなわち、乾式研磨では研磨紙に水を供給することなく埋包試料を手で把持して研磨紙に擦り付けて研磨するので、水に弱い鉱物でも良好に研磨することができる。なお、水に弱い鉱石とは、鉱石中に水溶性成分を含むため、水と接触すると鉱石の一部が溶出し、これに伴い周辺の鉱物に脱落が生じやすい鉱石のことである。
【0006】
また、手作業による乾式研磨では、埋包試料を手で押さえ付ける力を自在に調整することができるので、研磨面に加わる摩擦力を鉱石試料が破損しない程度に抑えることができる。ょって、脆い鉱石でも良好に研磨することができる。これに対して、上記の湿式の自動研磨機では、前述したようにターンテーブル上にセットした耐水研磨紙に対して埋包試料の観察面をアーム部で押し付けながら研磨するので、微妙な力加減ができず、また、回転数は調節できるものの毎分数十回転以上の速度で研磨することが普通であるため、脆い鉱石の場合は容易に破損して鉱物の一部又は全部が脱落してしまうことがあった。
【0007】
上記の乾式研磨法に適した埋包試料の作製方法として、特許文献1には脆弱試料薄片を作製する技術が開示されている。具体的には、脆弱試料を樹脂により包埋固化して得た埋包試料を直方体形状に切断した後、少なくとも研磨面に直交する4面に岩石又は鉱物を貼り付けて研磨を行なうものであり、薄片表面であっても高度の平滑性を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1の技術は、埋包試料に対して、その観察面の平面性を保ちつつ且つ該埋包試料の厚さを判断しながら研磨を可能とする方法であるため、試料の厚さには特に制限がなく、且つ鏡面研磨までは要しないMLA用の観察試料の作製には過剰であった。また、特許文献1の埋包試料を用いても、手作業による乾式研磨の場合は観察試料の出来栄えが作業者の熟練度に左右されることが多かった。
【0010】
よって、作業者の熟練度に左右されることがなく、比較的簡単にMLA等の鉱物分析用の観察試料作製する方法が求められていた。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、水に弱い鉱石試料や脆い鉱石試料であっても、作業員の熟練度に左右されることなく比較的簡単にMLA等の鉱石分析用の観察試料を作製できる研磨方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉱物分析用の観察試料の作製のための研磨方法は、樹脂に包埋された鉱石試料を手作業で乾式研磨する方法であって、砥粒が埋没しない程度に表面側にロウが塗布された研磨紙を使用して鉱石試料を研磨した後、ロウが塗布されていないより細かな砥粒サイズの研磨紙を使用して該鉱石試料を仕上げ研磨することを特徴としている。
【0012】
また、本発明の研磨紙は、樹脂に包埋された鉱石試料の研磨に使用する耐水研磨紙であって、砥粒が埋設しない程度に基部の表面側にロウが直接塗布されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水に弱い鉱石試料や脆い鉱石試料が埋包された埋包試料であっても、作業員の熟練度に左右されずに比較的簡単に乾式研磨を行なうことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の研磨方法が対象とする埋包試料の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るロウの塗布された研磨紙及び該ロウの塗布前の研磨紙の模式的な部分拡大縦断面図である。
【
図3】ロウの塗布前及び塗布後の顕微鏡写真である。
【
図4】本発明の一具体例の研磨紙を用意するために研磨紙にロウを塗布する手順を示す写真である。
【
図5】本発明の実施例1で作製した観察試料の観察面の顕微鏡写真であり、白丸で囲んだ部分が脱落した部分である。
【
図6】本発明の比較例で作製した観察試料の観察面の顕微鏡写真であり、白丸で囲んだ部分が脱落した部分である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、鉱物分析用の観察試料の作製のための本発明の実施形態に係る研磨方法について詳細に説明する。この本発明の実施形態に係る研磨方法は、鉱石試料を樹脂で埋包することで固結させた埋包試料を対象にしている。この埋包試料は、例えば
図1に示すような円柱形状を有しており、紙面上側の観察面に鉱石1が露出するように、好適にはフェノール系樹脂からなる樹脂2によって包埋された円板状の固化ペレット部3と、該固化ペレット部3をその観察面を除いて覆う好適にはフィラーを含んだフェノール系樹脂からなる被覆部4とから構成される。なお、上記の円柱形状の埋包試料のサイズには特に限定はないが、一般的には外径が25~30mm程度、高さが10~20mm程度である。また、上記の埋包試料は、例えばストルアス社製の熱間固結機であるシトプレスにより作製することができる。
【0016】
本発明の実施形態の研磨方法は、上記埋包試料に対して、水を使わない乾式法で手作業により研磨を行なう。具体的には、ガラス板などの平坦な基板の表面に研磨紙を載せ、上記埋包試料の被覆部を把持して鉱石が露出している観察面側を下に向けて該研磨紙に当接させる。この状態で該埋包試料を一方向にスライドさせるか、あるいは円を描くように回転させることにより該観察面を研磨する。上記のように、研磨紙をガラス板の上に載せる理由は、ガラス板は局部的な傾きや凸凹部がなく全面に亘ってほぼ平坦であるからであり、これにより手作業による研磨であっても極めて平滑な研磨面を形成することができる。これに対して、研磨紙を載せる基台が平坦でなければ、平滑な研磨面が得られないばかりか、固結した試料が脱落するおそれがある。
【0017】
上記の研磨紙には耐水研磨紙を用いるのが好ましく、特にJISR6253で規定する番手番号が#1000、#1200、#1500、#2000、#2500及び#4000の研磨紙の中から選んだ研磨紙を使用するのが好ましい。以下、これら研磨紙の中から#1200を用いて粗研磨を行い、いずれもロウが塗布された#1200、#2000、及び#2500を用いてそれぞれ第1、第2及び第3の研磨を行い、#4000を用いて仕上げ研磨を行なう場合を例に挙げて説明する。
【0018】
1.粗研磨工程
粗研磨工程は、埋包試料の観察面にできるだけ多くの鉱石が露出するように、この粗研磨前の段階で樹脂の中にほぼ完全に埋没している鉱物を出すことを目的にしている。このように、粗研磨では、とにかく観察面に多くの鉱石を露出させることが重要なので、一部の鉱石が脱落してもかまわない。そのため、後工程の第1研磨で使用する研磨紙の砥粒サイズ以上の砥粒サイズである#1200(粒径15μm)の研磨紙をそのまま使用し、埋包試料を後工程の第1、第2、及び第3研磨よりも少し強めに研磨紙に押し付けて研磨する。なお、観察試料の作製に時間を掛けても良いのであれば、この粗研磨工程を省いて後工程の第1研磨から始めてもよい。
【0019】
2.研磨紙表面へのロウの塗布工程
塗布工程では、後工程の第1~第3研磨工程でそれぞれ使用する#1200(粒径約15μm)、#2000(粒径約12μm)、及び#2500(粒径約8μm)の研磨紙の表面側にロウを塗布する。その際、ロウを研磨紙の表面に擦り付けるように塗り、ロウが砥粒を覆いつくさない程度に、すなわち砥粒が見えなくなるまでロウ内に埋没することのないように薄くロウを塗布する。具体的には、
図2に示すように、研磨紙の基部10から突出している砥粒11の高さの約1/3~1/2程度が埋まるようにロウ12を塗布するのが好ましい。
【0020】
図3のロウの塗布前(紙面左)及び塗布後(紙面右)のように、研磨紙の表面の全面積の1/3~1/2程度の領域にのみ砥粒がちょうど見えなくなる程度の厚さでロウを擦り付けてもよい。このように研磨紙の全面にロウを塗布しなくてもよい理由は、ロウが部分的に塗布されている研磨紙に対して埋包試料を擦り付けて研磨を始めると、ロウは容易に変形しながら砥粒の間を押し広げられていくので、結果的に
図2の右図に示すように、ほぼ全ての砥粒がロウの層から突出する状態にできるからである。
【0021】
研磨紙に塗布したロウの量が適切か否かは、ロウの塗布後の研磨紙に実際に埋包試料を滑らせてみることで容易に判断できる。すなわち、埋包試料から鉱石の脱落が継続して生じる場合は塗布量が少なく、埋包試料がまったく研磨されない場合は塗布量が過多であることが分かる。研磨紙の砥粒のサイズやロウの種類によって、研磨紙に塗布する際のロウを押し付ける力の加減を調整してもよい。なお、
図4には、研磨紙にロウを塗布する手順の一例が示されており、ここではパラフィンワックスからなる一般的なロウソクを持ちやすいサイズに切断して使用している。
【0022】
3.ロウが塗布された研磨紙による研磨工程
(1)第1研磨
上記の塗布工程でロウの塗布を行なった#1200の研磨紙を上記ガラス板などの基板の上に置き、好ましくは片方の手で研磨紙が動かないように押さえ付けながら、もう片方の手で埋包試料を把持してその観察面側を下に向けて研磨紙に当接させ、この状態で埋包試料を左右等の一方向に15cm程度のストローク距離を往復動させるか、あるいは直径15cm程度の円を描くように回転させることで研磨を行なう。
【0023】
この研磨の際、前工程の粗研磨のときよりも埋包試料を研磨紙に押し付ける力を弱めにするのが好ましい。この第1研磨で使用する研磨紙は、ロウの塗布により意図的に砥粒の隙間を埋めて目詰まりさせることで研磨紙表面の凸凹の高低差を低くしているので、研削力は研磨紙本来のものよりも低下している。これにより、脆弱な鉱物を殆ど脱落させずに研磨することができる。また、前工程の粗研磨で生じた脱落による穴を効率よく消し去ることができる。
【0024】
(2)第2研磨
第2研磨は、上記の塗布工程でロウの塗布を行なった#2000の研磨紙を使用する以外は上記の第1研磨と同様にして埋包試料の研磨を行なう。この第2研磨で使用する研磨紙は、その砥粒のサイズが粗研磨や第1研磨で使用した研磨紙のものより細かいので、埋包試料の観察面上に生じる研磨傷がこれら粗研磨や第1研磨の場合より細くなり、よって顕微鏡で見たときの見栄えが綺麗になる。
【0025】
(3)第3研磨
第3研磨は、上記の塗布工程でロウの塗布を行なった#2500の研磨紙を使用する以外は上記の第1研磨や第2研磨と同様にして埋包試料の研磨を行なう。この第3研磨で使用する研磨紙は、その砥粒のサイズが第2研磨で使用した研磨紙のものより細かいので、埋包試料の観察面上に生じる研磨傷が第2研磨の場合より細くなり、よって顕微鏡で見たときの見栄えが更に綺麗になる。
【0026】
なお、上記のロウが塗布された研磨紙による研磨工程では、#1200、#2000、及び#2500の砥粒サイズの3種類の研磨紙を用いて3段階に分けて研磨を行なった例を説明したが、後工程の仕上げ研磨工程で使用する研磨紙の砥粒サイズよりも粗い砥粒サイズの研磨紙を用いるのであればこれに限定されるものではなく、1~2種類の研磨紙を用いて研磨を行なってもよいし、4種類以上の研磨紙を用いて研磨を行なってもよい。複数種類の研磨紙を用いる場合は、番手番号が小さいものから順に使用するのが好ましい。
【0027】
3.仕上げ研磨工程
最終工程である仕上げ研磨は、第3研磨で使用した研磨紙の砥粒サイズよりも小さい#4000(粒径約5μm)の研磨紙をロウを塗布せずにそのまま使用して研磨を行なう。その際、埋包試料を研磨紙に押し付ける力の加減は前工程の第1研磨~第3研磨のときよりもやや強めにするのが好ましい。また、往復動させるときはそのストローク距離を短く(5cm程度)し、円を描くように回転運動させるときはその直径を小さく(5cm程度)するのが好ましい。
【0028】
これにより、観察面上に生じる研磨傷を極めて微細にでき、また、
図1に示す固化ペレット3と、これを囲む被覆部4との境界線5をはっきり視認することが可能になる。このように観察面に生じる研磨傷が微細になることで、見栄えが綺麗になることに加えて、MLAで分析する際、研削傷に電子線が当たることによるチャージアップ現象を防止することができ、MLA用として好適な観察試料を作製することができる。
【0029】
なお、乾式研磨では水を供給しながら研磨を行なうバフ研磨は行なわないので、上記のように砥粒サイズ約5μm程度の研磨紙番手#4000程度の研磨紙が最終的な仕上げ研磨用の研磨紙になる。このため、鏡面研磨まで仕上げることは困難であるが、MLAにより分析を行なう観察試料であれば、#4000の研磨紙で研磨することで実用的な分析精度を担保することができる。
【0030】
上記のように、粗研磨、第1~第3研磨、及び仕上げ研磨は全て手作業による乾式研磨であるため、作業員が埋包試料を1個ずつ研磨する必要があり、複数の埋包試料をアーム部にセットして一括して研磨することが可能な湿式の自動研磨機を用いた研磨に比べて観察試料1個当たりの作製に必要な時間は長くなる。更に、脆い鉱石の場合は、鉱物の脱落が起きないように観察面に掛かる力を加減したり、埋包試料を擦り付けて動かす速度を増減したりする必要がある。
【0031】
そのため、第1~第3研磨、及び仕上げ研磨を全てロウが塗布されていない従来の研磨紙で行なう場合は、熟練した作業員であっても埋包試料から観察試料を作製するまでの作業時間が90分程度であった。これに対して、上記したように、粗研磨を行なってから第1~第3研磨にロウを塗布した研磨紙を使用して研磨を行なうことで、バラつきの少ない観察試料を埋包試料から約60分程度で作製することが可能になる。
【0032】
上記のようにバラつきの少ない観察試料を作製できる理由は、研磨紙の表面側にロウを塗布することで、砥粒群の基部側をロウ層内に埋めることができ、よって、研磨紙表面の凹凸の高さをロウが塗布されていないものに比べて低くできるので、埋包試料を研磨紙に強く押さえ付けながら擦り付けても、過度に削られにくく、よって鉱物が容易に脱落するのを抑制することができるからである。一方、研摩時間を1個当たり約30分程度短縮できる理由は、目地に相当する砥粒の間の隙間部分にロウが層状に充填されているため、摩擦抵抗が小さくなるので、滑りがよくなって研磨の作業性が向上するうえ、ロウを塗布しない最も粗い砥粒の研磨紙を用いて粗研磨を行なうからである。
【0033】
更に、研磨紙に塗布するロウは疎水性であって環境中の水分をはじくので、水に弱い鉱物を含む鉱石試料に及ぼす悪影響を抑制することができる。加えて、耐水研磨紙を用いることで砥粒を支持する基部が耐水性を備えるので、研磨作業中に摩擦熱でロウが溶解したとしても、基部に浸透することがない。よって、砥粒の凸凹の高低差が顕著に大きくなることがないので、研削力を抑えた研磨をある程度維持することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明に係る鉱物分析用の観察試料の作製のための研磨方法は、水に弱い鉱石試料や脆い鉱石試料であっても、研磨作業員の熟練度に左右されることなく比較的簡単にMLA等の鉱物分析用の観察試料を作製することができる。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
埋め込み装置であるストルアス社製の熱間固結機「シトプレス」にストルアス社製の熱間固結樹脂である「マルチファスト」を装入し、更に水酸化鉄などの水に溶解しやすい鉱物を含む脆い鉱石が主成分の鉱石試料を装入することで、
図1に示すような円柱状の埋包試料を作製した。この埋包試料に対して、熟練した作業員が、粗研磨、第1~第3研磨、及び仕上げ研磨をこの順に乾式の手作業で行なって観察試料を作製した。
【0036】
これら研磨には、ストルアス社製の耐水研磨紙「SiC-Paper」を複数種類使用した。具体的には、粗研磨にはJIS規格の番手#1200を使用し、第1、第2及び第3研磨にはそれぞれJIS規格の番手#1200、#2000、及び#2500にロウを塗布したものを使用し、仕上げ研磨にはJIS番手#4000を使用した。
【0037】
なお、上記第1、第2及び第3研磨で使用した研磨紙に塗布したロウには、光陽社蝋燭工業所製のロウソク(直径約40mm)を、高さ20mm程度の円柱状にカットしたもの(固体状)を使用した。このようにして、
図5に示すような観察試料を得ることができた。なお、この観察試料を作製するために埋包試料の研磨に要した作業時間は1個当たり約60分だった。得られた観察試料に対して、FEI社製のMLA装置であるMLA650FEGを用いて分析したところ、特に問題なく分析結果を得ることができた。
【0038】
(実施例2)
熟練作業員でない一般的な作業員が、手作業による乾式研磨について熟練作業員から指導を受けた後に研磨を行なったこと以外は、上記実施例1と同様にしてMLA用の観察試料を作製した。その結果、実施例1と同程度のMLA装置で分析を行なっても特に問題の生じない観察試料を作製することができた。この実施例2の観察試料の作製のために埋包試料の研磨に要した作業時間は1個当たり約60分だった。
【0039】
(比較例)
第1~第3研磨に使用した研磨紙にロウを塗布しなかった以外は上記実施例1と同様にして熟練した作業員がMLA用の観察試料を作製した。その結果、
図6に示すようなMLA用の分析に使用すると信頼性の高い情報を得ることが期待できない脱落の極めて多い観察試料しか作製することができなかった。この比較例の観察試料の作製のために埋包試料の研磨に要した作業時間は1個当たり約60分だった。
【符号の説明】
【0040】
1 鉱石
2 樹脂
3 固化ペレット部
4 被覆部
5 境界線
10 基部
11 砥粒
12 ロウ