(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、吐出ユニット、液体を吐出する装置、貼り合わせ基板
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240312BHJP
B41J 2/045 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 611
B41J2/045
(21)【出願番号】P 2020106205
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】230100631
【氏名又は名称】稲元 富保
(72)【発明者】
【氏名】三輪 圭史
(72)【発明者】
【氏名】平林 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌央
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-353870(JP,A)
【文献】特開2021-84373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルに通じる圧力室を加圧する圧力発生手段と、
前記圧力発生手段に接続された端子電極と、を含む第1基板と、
前記第1基板に接合され、前記端子電極を露出させる端子電極開口部を有する第2基板と、を備え、
前記第1基板には、前記第1基板を貫通する貫通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板の前記貫通孔に通じる連通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板との接合面とは反対側に、前記端子電極開口部と前記連通孔とを通じる外気連通路を有し、
前記外気連通路は、前記第2基板の四隅のいずれか一箇所、又は、対角の二箇所に設けられている
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記外気連通路は、断面積をS、長さをL、とするとき、L/Sが0.50~20.00の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記外気連通路は、断面積をS、長さをL、とするとき、L/Sが1.00~10.00の範囲内である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1基板の前記貫通孔は、前記液体の流路とは独立している
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第2基板の前記外気連通路には、前記外気連通路の幅以上のガス侵入検知室が連通している
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記ガス侵入検知室は、所定の間隔で複数配置されている
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液体吐出ヘッドを備えている
ことを特徴とする吐出ユニット。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の液体吐出ヘッド、又は、請求項7に記載の吐出ユニットを備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項9】
端子電極を含む第1基板と、
前記第1基板に接合され、前記端子電極を露出させる端子電極開口部を有する第2基板と、を備え、
前記第1基板には、前記第1基板を貫通する貫通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板の前記貫通孔に通じる連通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板との接合面とは反対側に、前記端子電極開口部と前記連通孔とを通じる外気連通路を有し、
前記外気連通路は、前記第2基板の四隅のいずれか一箇所、又は、対角の二箇所に設けられている
ことを特徴とする貼り合わせ基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体吐出ヘッド、吐出ユニット、液体を吐出する装置、貼り合わせ基板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液体吐出ヘッドとして、液体を吐出するノズルに通じる圧力室や圧力発生手段及び圧力発生手段に通じる端子電極を設けた第1基板と、第1基板の圧力室に液体を供給する流路などを設けた第2基板とを接合した接合基板(貼り合わせ基板)を使用するものがある。
【0003】
従来、ノズルプレートと、流路基板と、駆動手段と、振動板と、流路基板のノズルプレートとは反対側に接合された保持基板とを備え、保持基板は、流路基板側の駆動手段に対向する位置に、保持基板と流路基板とで囲まれる空間部を有し、空間部は、保持基板に設けられた溝部を介して大気と連通しているものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、液体吐出ヘッドの流路には耐液性を高めるための保護膜が成膜するが、保護膜が圧力発生手段に通じる端子電極に形成されると、電気的接続の信頼性が低下するという課題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、電気的接続の信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体吐出ヘッドは、
液体を吐出するノズルに通じる圧力室を加圧する圧力発生手段と、
前記圧力発生手段に接続された端子電極と、を含む第1基板と、
前記第1基板に接合され、前記端子電極を露出させる端子電極開口部を有する第2基板と、を備え、
前記第1基板には、前記第1基板を貫通する貫通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板の前記貫通孔に通じる連通孔が設けられ、
前記第2基板には、前記第1基板との接合面とは反対側に、前記端子電極開口部と前記連通孔とを通じる外気連通路を有し、
前記外気連通路は、前記第2基板の四隅のいずれか一箇所、又は、対角の二箇所に設けられている
構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電気的接続の信頼性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する貼り合わせ基板の平面説明図である。
【
図2】同貼り合わせ基板の第1基板及び第2基板の平面説明図である。
【
図3】同じく第2基板の外気連通路部分の詳細を示す説明図である。
【
図4】同じく外気連通路及びガス侵入検知室の説明に供する説明図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する貼り合わせ基板の平面説明図である。
【
図6】各実施形態の具体例の説明に供する説明図である。
【
図7】本発明の第3実施形態に係る液体吐出ヘッドをノズル面側から見た外観斜視説明図である。
【
図8】同じくノズル面と反対側から見た外観斜視説明図である。
【
図10】同じく流路構成部材の分解斜視説明図である。
【
図13】本発明に係る液体を吐出する装置の一例の概略説明図である。
【
図14】同装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。本発明の第1実施形態について
図1ないし
図3を参照して説明する。
図1は同実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する貼り合わせ基板の平面説明図、
図2は同貼り合わせ基板の第1基板及び第2基板の平面説明図である。
図3は第2基板の外気連通路部分の詳細を示す説明図であり、(a)は平面説明図、(b)は(a)のA-A線に沿う断面説明図である。
【0011】
貼り合わせ基板200は、第1基板201と第2基板202とを接着剤などで貼り合わせた(接合した)基板である。
【0012】
第1基板201は、液体を吐出するノズルに通じる圧力室を加圧する圧力発生手段である複数の圧電素子40の列を2列備えている。圧電素子40は、圧電体41と、圧電体41を挟む共通電極としての下電極42及び個別電極としての上電極43とで構成されている。第1基板201には、上電極43に接続された端子電極44が設けられている。
【0013】
第1基板201には、複数の圧力室にそれぞれ液体を供給する複数の供給口となる開口32が設けられている。
【0014】
第1基板201には、第2基板202と貼り合わせる土台28が設けられ、貼り合わせ土台28の部分に第1基板201を貫通する貫通孔29が設けられている。
【0015】
第2基板202には、共通供給流路58と、共通供給流路58と第1基板201の開口32とを通じる供給口54とが設けられている。
【0016】
第2基板202には、第1基板201の圧電素子40を収容する収容部251と、第1基板201の端子電極44を露出する端子開口部252とを有する。
【0017】
第2基板202には、第1基板201の貫通孔29に通じる連通孔253が設けられている。また、第2基板202には、第1基板201との接合面とは反対側に、端子開口部252と連通孔253とを通じる外気連通路254を有している。
【0018】
ここで、外気連通路254は、第2基板202の四隅のいずれか一箇所に設けている。第2基板202の四隅とは、平面形状において、端子開口部252に臨むほぼ矩形状の領域の4つの隅部分である。言い換えれば、本実施形態では、第2の基板202の複数の収容部251の並び方向(圧電素子の並び方向、ノズルの並び方向)における端部の収容部251に並ぶ部分である。
【0019】
外気連通路254は、
図3(a)に示すように、連通孔253と端子開口部252との間で折れ曲がりながら蛇腹状に形成されたパターン形状を有している。外気連通路254の断面積をS(
図3(b)参照)、長さをLとするとき、本実施形態では、L/Sが0.50~20.00の範囲内になるようにしている。
【0020】
そして、外気連通路254には、所定の間隔で、複数のガス侵入検知室255が連通している。ガス侵入検知室255の幅W1、W2は外気連通路254の幅W3よりも大きくしている。
【0021】
次に、本実施形態の作用について
図4も参照して説明する。
図4は第1基板及び第2基板の多数個取りを行う場合の説明に供する説明図である。
【0022】
第1基板201は、例えば、6インチのシリコン基板203を使用して、CVD法、スパッタリング法、スピンコート法などにより所要の薄膜を形成し、フォトリソグラフィー法により加工して多数個の第1基板201を作製して、個々の第1基板201に分割する。第2基板202についても、同様に、Si基板200上に多数個の第2基板202を作製して、個々の第2基板202に分割する。
【0023】
そして、第1基板201と第2基板202とを接合した(貼り合わせた)状態で、流路の壁面を保護する耐液性の保護膜を形成する。この場合、生産性を向上させるため、保護膜形成は、複数の貼り合わせ基板(接合基板)200を、保護膜形成装置のチャンバー内に配置し、バッチ処理する。
【0024】
バッチ処理では、第1基板201、第2基板202の全面に膜が付着するが、保護膜は絶縁膜であり、端子電極44に保護膜が付着すると外部接続がとれなくなる。そのため、第2基板202の第1基板201と貼り合わせる面と対向する面に、基板形状に切り抜いた保護テープを貼った状態で、保護膜を成膜する。
【0025】
これにより、端子電極44には保護膜が形成されず、流路である共通供給流路58、供給口54、開口32、圧力室に保護膜を形成することができる。
【0026】
しかしながら、保護テープを第2基板202に貼るときは、ボイドのかみ込みを抑制するために真空状態で行うことが好ましい。保護テープを貼り付け後に真空から大気圧に戻すとき、保護テープと第2基板202と第1基板201に囲まれて、第2基板202、第1基板201を貫通していない部分は真空状態になる。
【0027】
本実施形態では、端子開口部252が真空状態のまま大気開放されるが、大気圧下では真空状態の端子電極44の保護テープが第1基板201側に押されて大きく変形する。
【0028】
この保護テープの変形により、例えば共通供給流路58と端子開口部252の保護テープが剥離してしまう場合、保護膜を成膜するときに、成膜ガスが供給口54から侵入し、端子電極44に保護膜が形成される。
【0029】
また、大気圧下の保護テープの変形で、保護テープの剥離を起こさずに保護膜の成膜工程に移行できても、保護膜の成膜時は保護テープ貼り付け時よりもさらに高真空で行う必要があり、今度は端子開口部252が膨張し、保護テープが剥離することがある。
【0030】
これを解消するために、例えば粘着力の高い保護テープを採用し、保護テープの圧力差による変形を抑制することが考えられる。しかしながら、粘着力の高い保護テープは、真空下でアウトガスが多く、保護膜の膜質の低下、及びアウトガス成分の基板への付着により保護膜の密着強度が低下することがある。
【0031】
一方、保護テープの変形が起こらないように剛性の高い保護テープを採用しようとすると、変形の抑制と耐熱性を両立できない。さらに、保護テープの剛性を高くするために厚みが厚くなると、保護テープ自体の加工が難しくなり、貼り付け時に気泡が噛み込みやすいなどの不都合が生じる。
【0032】
そこで、本実施形態では、第2基板202の外気連通路254及び連通孔253により、保護テープ貼り付け後に真空状態になる端子開口部252と第1基板201の貫通孔29を連通する。
【0033】
これにより、大気圧に戻した場合、貫通孔29、連通孔253、外気連通路254を介して端子開口部252も大気圧になるため、保護テープの変形を抑制できる。また、保護膜を成膜するときの高真空チャンバー内で端子開口部252が膨張する場合も、貫通孔29、連通孔253、外気連通路254を介して端子開口部252も高真空になるため保護テープの変形を抑制できる。
【0034】
したがって、端子電極に保護膜が成膜されることが防止され、電気的接続の信頼性が向上する。
【0035】
外気連通路254の形状、長さ、深さは容易に設定することができ、保護テープの材料や保護テープ貼り付け及び保護膜成膜時の真空度、真空開放時間などに応じて適切に設定する。また、外気連通路254の流路長さ、深さは、貫通孔253から成膜ガスができる限り侵入しないよう設定する。
【0036】
次に、外気連通路254に通じるガス侵入検知室255の作用について説明する。
【0037】
保護膜を形成した後、成膜ガスの端子開口部252への侵入の有無について確認する必要がある。成膜ガスの侵入の有無の確認には、端子電極44上に成膜ガス成分が付着しているか成分分析する、端子電極44の抵抗試験を行う、端子電極44や連通流路の成膜ガス付着による変色の確認などを行うことが考えられる。
【0038】
しかしながら、成膜ガスの成分分析には時間がかかる。抵抗試験は、異物を発生させるおそれがある。端子電極44の変色判別は付着する成膜ガスが微量であるため判別困難である。連通流路部の変色確認は、連通流路の幅や深さによっては光が乱反射し、変色の有無を確認できない。
【0039】
そこで、本実施形態では、ガス侵入検知室255を外気連通路254に連通させている。ガス侵入検知室255は、外気連通路254よりも幅を広くし、光の乱反射を抑制し、変色が見やすい大きさとする。
【0040】
このガス侵入検知室255を、外気連通路254の連通孔253から端子開口部252の間に所定の間隔で複数接続する。
【0041】
これにより、成膜ガスの侵入による変色が外気連通路254のいずれの位置にあるかを確認でき、端子開口部252への成膜ガスの侵入を容易に判別できる。
【0042】
次に、本発明の第2実施形態について
図5を参照して説明する。
図5は同実施形態に係る液体吐出ヘッドを構成する貼り合わせ基板の平面説明図である。
【0043】
本実施形態では、第2基板202の四隅の対角部分の2箇所に外気連通路254を設け、各外気連通路254は連通孔253及び端子開口部252にそれぞれ連通させている。
【0044】
本実施形態でも、前記第1実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0045】
次に、成膜ガスの侵入に関する具体例について
図6を参照して説明する。
図6は同具体例の説明に供する説明図である。
【0046】
ここでは、第1基板201を50枚製作した。一方、第2基板202について、前述したように、外気連通路254の断面積をS、流路の長さをL(
図3参照)としたとき、L/Sを
図5に示すように振った第1実施形態及び第2実施形態の各第2基板202をそれぞれ5枚ずつ製作した。
【0047】
実施例1は、外気連通路254が最も狭く長い構成になるため、外気と連通するのに最も時間がかかり、その間、保護テープの変形が発生しやすいが、成膜ガスは最も端子開口部252に入りづらい構成である。
【0048】
一方、実施例9は、保護テープの変形は最も発生しづらいが、成膜ガスが侵入しやすい構成である。
【0049】
接続数は、子開口部252に対する外気連通路254の接続数である。接続数「1」は前記第1実施形態のように、1つのチップに対して1つの外気連通路254を配置した状態である(実施例1-9)。接続数「2」は前記第2実施形態ように1つのチップに対して対角に2つの外気連通路254、254を配置し、端子開口部252にそれぞれ外気連通路254が配置された状態である(実施例10)。第2実施形態の構成(接続数2)では、L/Sの値は1つの外気連通路254の値を記載している。
【0050】
ガス侵入検知室255については、100μm×100μm(
図3のW1×W2)の大きさが必要であることが事前の評価で判明した。
【0051】
そこで、100μm×100μmの大きさのガス侵入検知室255を外気連通路254の折り返し部と接続した。ガス侵入検知室255の接続数は、外気連通路254の折り返し部の数により適宜設定した。
【0052】
外気連通路254の効果を確認するために、比較対象として外気連通路254を配置しない比較例1の第2基板202を5枚製作した。
【0053】
各実施形態では、外気連通路254は1チップ当たり、
図1に示すように1つ配置し、又は、
図5に示すように2つ配置し、外気連通路254のパターン形状は折り返しパターンとしている。なお、所望のテープ貼り付け条件、保護膜成膜条件などのプロセス条件に応じて形状は適宜設定できる。
【0054】
外気連通路254の配置数及び配置箇所は、四隅のうちのいずれかに一箇所、又は四隅の対角の二箇所とすることで、外気連通路254を設けることによる第2基板202の強度低下を抑えることができる。
【0055】
また、実施形態では液体が通らない連通孔253を端子開口部252に接続したが、レイアウトに余裕がなく、液体が通らない連通孔253を設けることができない場合もある。この場合、後工程で外気連通路254を封止する工程を設ければ、本実施形態における共通供給流路58を連通孔として端子開口部252を接続しても、同様の効果を得ることができる。
【0056】
保護テープを貼りつけた際に、端子開口部252が閉空間にならず、テープの変形によるテープ剥離を抑制できる。第1基板201と貼り合わせる面にパターンを形成してもよいが、貼り合わせる際に接着剤などで埋まらないように注意する必要がある。
【0057】
次に、第2基板202の圧電素子収容部151を形成した面に、フレキソ印刷により接着剤を薄膜転写し、ウェハ接合装置を用いて、第1基板201と第2基板202を加圧/加熱接合し、貼り合わせ基板を50枚製作した。
【0058】
そして、製作した基板を用いて、保護テープ貼り付け後の保護テープ変形の有無、保護膜形成後の外気連通路254を介した成膜ガス侵入の有無、接続抵抗、流動時の基板破損の有無を評価した。
【0059】
保護テープ変形有無の評価に関しては、微小なテープの変形状態をとらえるために、端子開口エリアをマイクロスコープで詳細に観察した。そして、僅かでも保護テープの変形が見られたものに関しては、
図6の保護テープ変形欄に、「若干の変形あり」と結果を記載している。
【0060】
保護テープの貼り付けは、25℃、100Paの条件で行い、保護膜の形成は、120℃、2Pa、8hの条件で行った。この結果を
図6に示している。
【0061】
外気連通路254を設けない比較例1の5枚に関しては、すべてのチップに保護テープの変形、及び、変形部からの成膜ガスの侵入があり、すべてのチップが接続抵抗不良(NG)となった。
【0062】
一方で、外気連通路254を設けた基板に関しては、L/Sの値により差が見られた。
【0063】
L/Sの値が1.00~10.00の実施例5~7に関しては、保護テープ変形無し、成膜ガス侵入無し、接続抵抗OK、基板の破損無し、という良好な品質が得られた。
【0064】
L/Sの値が0.50の実施例8に関しては、保護テープ変形、基板の破損はなく、接続抵抗もOKであるが、端子開口部252にわずかに成膜ガスの侵入がみられた。
【0065】
L/Sの値が15.00、20.00の実施例4、3に関しては、成膜ガス侵入、基板の破損はなく、接続抵抗もOKであるが、わずかに保護テープの変形が見られた。
【0066】
L/Sの値が0.25の実施例9に関しては、保護テープの変形、基板の破損はなかったが、端子開口部252にわずかに成膜ガスの侵入がみられ、接続抵抗もOKではあったが、規格の上限付近であった。
【0067】
L/Sの値が30.00の実施例2に関しては、外気連通路254を介した成膜ガス侵入、基板の破損はなかったが、わずかに保護テープが変形し、そこからわずかに端子開口部252への成膜ガス侵入が見られた。接続抵抗に関してはOKではあったが、規格の上限付近であった。
【0068】
L/Sの値が50.00の実施例1に関しては、外気連通路254を介した成膜ガス侵入、基板の破損はなかったが、わずかに保護テープが変形し、そこからわずかに端子開口部252への成膜ガス侵入が見られた。接続抵抗に関してはOKではあったが、実施例2と比べると、さらに上限ぎりぎりOKであった。
【0069】
以上から、L/Sの値を0.50~20.00の範囲内にすることで所望の接続抵抗が得られることが分かる。また、L/Sの値を1.00~10.00の範囲内にすることでよりマージンのある外気連通路254にできることが分かる。また、L/Sの値が0.25~10.00の範囲内にすることで、マイクロスコープによる観察でも保護テープの僅かの変形も認められない状態にすることができることが分かる。
【0070】
また、外気連通路254の配置を一箇所、又は対角の2箇所にすることで、いずれの基板にも破損はみられなかった。
【0071】
次に、本発明の第3実施形態について
図7ないし
図12を参照して説明する。
図7は同実施形態に係る液体吐出ヘッドをノズル面側から見た外観斜視説明図、
図8は同じくノズル面と反対側から見た外観斜視説明図、
図9は同じく分解斜視説明図、
図10は同じく流路構成部材の分解斜視説明図、
図11は
図10の要部拡大斜視説明図、
図12は同じく流路部分の断面斜視説明図である。
【0072】
液体吐出ヘッド1は、ノズル板10と、流路板(個別流路部材)20と、振動板部材30と、共通流路支流部材50と、ダンパ部材60と、共通流路本流部材70、フレーム部材80と、第2基板となる配線部材(フレキシブル配線基板)101などを備えている。配線部材101にはヘッドドライバ(ドライバIC)102が実装されている。本実施形態では、個別流路部材20と振動板部材30とによって第1基板となるアクチュエータ基板2を構成している。
【0073】
ノズル板10には、液体を吐出する複数のノズル11を有している。複数のノズル11は、二次元状にマトリクス配置されている。
【0074】
個別流路部材20は、複数のノズル11に各々連通する複数の圧力室(個別液室)21と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別回収流路23とを形成している。1つの圧力室21及びこれに通じる個別供給流路22と個別回収流路23を併せて個別流路25と称する。
【0075】
振動板部材30は、圧力室21の変形な可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0076】
なお、個別流路部材20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定さるものではない。例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を使用して個別流路部材20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を個別流路部材20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は個別流路部材20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0077】
そして、個別流路部材20に設けた貫通孔29Aと振動板部材30に設けた貫通孔29Bによって第1基板であるアクチュエータ基板2を貫通する貫通孔29を形成している。
【0078】
共通流路支流部材50は、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを交互に隣接して形成している。
【0079】
共通流路支流部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔が形成されている。
【0080】
また、共通流路支流部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1又は複数の共通供給流路本流56の一部56aと、複数の共通回収流路支流53に通じる1又は複数の共通回収流路本流57の一部57aを形成している。
【0081】
共通流路支流部材50は、第1基板であるアクチュエータ基板2と接合する第2基板である。共通流路支流部材50には、アクチュエータ基板2の圧電素子40を収容する収容部151と、アクチュエータ基板2の圧電素子40の端子電極(前記第1実施形態の端子電極44)を露出する端子開口部252とを有する。
【0082】
また、共通流路支流部材50には、アクチュエータ基板2の貫通孔29に通じる連通孔253が設けられ、アクチュエータ基板2との接合面とは反対側に、端子開口部252と連通孔253とを通じる外気連通路254を有している。
【0083】
外気連通路254は、連通孔253と端子開口部252との間で折れ曲がりながら蛇腹状に形成されたパターン形状を有し、外気連通路254には、所定の間隔で、複数のガス侵入検知室255が連通している。
【0084】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63を有している。
【0085】
ここで、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路支流部材50に交互に並べて配列された溝部を、変形可能な壁面を形成するダンパ部材60で封止することで構成している。
【0086】
共通流路本流部材70は、複数の共通供給流路支流52に通じる共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる共通回収流路本流57を形成する。
【0087】
フレーム部材80には、通供給流路本流56の一部56bと、共通回収流路本流57の一部57bが形成されている。共通供給流路本流56の一部56bはフレーム部材80に設けた供給ポート81に通じ、共通回収流路本流57の一部57bはフレーム部材80に設けた回収ポート82に通じている。
【0088】
このように構成したので、前記第1実施形態と同様に、圧力発生手段に通じる端子電極に保護膜が成膜されることが防止され、電気的接続の信頼性が向上する。
【0089】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について
図13及び
図14を参照して説明する。
図13は同装置の概略説明図、
図14は同装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0090】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連帳紙、シート材などの連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503と、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509などを備えている。
【0091】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。
【0092】
この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上を吐出ユニット550及び吐出ユニット555に対向して搬送され、吐出ユニット550から吐出される液体によって画像が形成され、吐出ユニット555から吐出される処理液で後処理が行われる。
【0093】
ここで、吐出ユニット550には、例えば、搬送方向上流側から、4色分のフルライン型ヘッドアレイ551A、551B、551C、551D(以下、色の区別しないときは「ヘッドアレイ551」という。)が配置されている。
【0094】
各ヘッドアレイ551は、液体吐出手段であり、それぞれ、搬送される連続体510に対してブラックK,シアンC、マゼンタM、イエローYの液体を吐出する。なお、色の種類及び数はこれに限るものではない。
【0095】
ヘッドアレイ551は、例えば、本発明に係る液体吐出ヘッド(これを、単に「ヘッド」ともいう。)100をベース部材552上に千鳥状に並べて配置したものであるが、これに限らない。
【0096】
なお、上記実施形態においては、貼り合わせ基板が液体吐出ヘッドを構成部材である例で説明しているが、これに限るものではない。つまり、端子電極を含む第1基板と、第1基板の端子電極を露出させる端子電極開口部を有する第2基板とを接合した貼り合わせ基板において、第1基板には、第1基板を貫通する貫通孔が設けられ、第2基板には、第1基板の貫通孔に通じる連通孔が設けられ、第2基板には、第1基板との接合面とは反対側に、端子電極開口部と連通孔とを通じる外気連通路を有し、外気連通路は、第2基板の四隅のいずれか一箇所、又は、対角の二箇所に設けられている構成とする。
【0097】
このような貼り合わせ基板としては、例えば半導体基板などを挙げることができる。
【0098】
これにより、電気的接続の信頼性を向上できる。
【0099】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0100】
液体を吐出するエネルギー発生源(圧力発生手段)として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0101】
「吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0102】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0103】
例えば、吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0104】
また、吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0105】
また、吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0106】
また、吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0107】
また、吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0108】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0109】
なお、ここでは、「吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0110】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を 気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0111】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0112】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0113】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0114】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0115】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0116】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0117】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0118】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0119】
1 液体吐出ヘッド
2 アクチュエータ基板(第1基板)
10 ノズル板
11 ノズル
20 個別流路部材
21 圧力室
22 個別供給流路
23 個別回収流路
30 振動板部材
40 圧電素子
50 共通流路部材
52 共通供給流路支流
53 共通回収流路支流
56 共通供給流路本流
57 共通回収流路本流
101 配線部材(第2基板)
201 第1基板
202 第2基板
203 異方性導電膜
212 配線電極
213 第1絶縁膜
214 第2絶縁膜
222 配線電極
500 印刷装置(液体を吐出する装置)
550 吐出ユニット