(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】放熱部材用組成物、放熱部材、電子機器、および放熱部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/10 20060101AFI20240312BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240312BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20240312BHJP
C08K 9/00 20060101ALI20240312BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240312BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240312BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240312BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240312BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240312BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240312BHJP
C08G 77/44 20060101ALI20240312BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L83/10
C08K3/013
C08L83/06
C08K9/00
C08K9/06
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/08
C08K3/04
C08K3/34
C08G77/44
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2020123592
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】氏家 研人
(72)【発明者】
【氏名】山梨 裕介
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 さや香
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 和宏
(72)【発明者】
【氏名】國信 隆史
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-116462(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150589(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/116199(WO,A1)
【文献】特表2015-523456(JP,A)
【文献】特開2014-101478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性の無機フィラーと;
式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位および式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位からなるポリシロキサン共重合体と;
を含む、放熱部材用組成物。
式(A)中、
R
0は独立して、炭素数6~20のアリールまたは炭素数5~6のシクロアルキルであり、炭素数6~20のアリールおよび炭素数5~6のシクロアルキルにおいて、少なくとも1つの水素が、ハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく;
R
1は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール
、および炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルは、少なくとも1つの水素が、ハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
xは1以上であり;
式(B)中、
R
2は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール
、および炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
yは1以上である。
【請求項2】
熱伝導性の無機フィラーが、表面処理剤により表面処理されている、請求項1に記載の放熱部材用組成物。
【請求項3】
熱伝導性の無機フィラーが、熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーからなり、
熱伝導性の第1の無機フィラーは、第1の表面処理剤の一端と結合しており、
熱伝導性の第2の無機フィラーは、第2の表面処理剤の一端と結合しており、
硬化処理により、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端とがポリシロキサン共重合
体に結合する、または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがその構造中にポリシロキサン共重合体を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端が互いに結合する、
請求項1に記載の放熱部材用組成物。
【請求項4】
架橋剤または遷移金属触媒をさらに含む、請求項1に記載の放熱部材用組成物。
【請求項5】
架橋剤が、式(2-1)または式(2-2)で表される化合物である、請求項4に記載の放熱部材用組成物。
R
3O-[Si(OR
3)
2-O-]
m-R
3 (2-1)
R
3O-[Si(OR
3)
2]-A
1-[Z]
n-A
2-[Si(OR
3)
2]-OR
3 (2-2)
式(2-1)および(2-2)中、
R
3は独立して、メチルまたはエチルであり;
A
1およびA
2は独立して、単結合または炭素数1~10のアルキ
レンであり、炭素数1~10のアルキ
レンにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-は、-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
Zは独立して炭素数6~20のアリー
レンであり;
mは1~10であり;
nは1~4である。
【請求項6】
熱伝導性の無機フィラーが、表面処理剤により表面処理されている、請求項5に記載の放熱部材用組成物。
【請求項7】
熱伝導性の無機フィラーが、熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーからなり、
第1の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第1の無機フィラーと;
第2の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第2の無機フィラーと;を含み、
硬化処理により、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端がそれぞれポリシロキサン共重合体および架橋剤に結合する、または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがポリシロキサン共重合体または架橋剤を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端が互いに結合する、
請求項6に記載の放熱部材用組成物。
【請求項8】
表面処理剤がカップリング剤である、請求項2、3、6、および7のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項9】
表面処理剤がシロキサン化合物である、請求項2、3、6、および7のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項10】
ポリシロキサン共重合体の重量平均分子量が2,000~10,000,000の範囲にある、請求項1~9のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の式(A)および式(B)において、R
0が独立して、フェニルまたはシクロヘキシルであり、R
1およびR
2が独立して、メチルまたはフェニルである、請求項1~10のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項12】
熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーが、窒化物、金属、金属酸化物、珪酸塩化合物、または炭素材料である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項13】
熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素炭素、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アルミナ、酸化亜鉛、金、銀、コーディエライトから選ばれる少なくとも一つである、
請求項1~12のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項14】
熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーおよび熱伝導性の第2の無機フィラーに結合していない、重合性化合物または高分子化合物;をさらに含む、
請求項1~13のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の放熱部材用組成物が硬化した、放熱部材。
【請求項16】
請求項15に記載の放熱部材と;
発熱部を有する電子デバイスと;を備え、
前記放熱部材が前記発熱部に接触するように前記電子デバイスに配置された、
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子基板等の電子機器に用いる放熱部材を形成可能な組成物に関する。特に、樹脂の持つ加工性と極めて高い耐熱性を併せ持ち、さらに電子機器内部に生じた熱を効率よく伝導、伝達することにより放熱できる放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電車、ハイブリッド自動車や電気自動車などの電力制御用の半導体素子などにおいて、ワイドギャップ半導体の利用などにより、その動作温度が上昇している。特に注目されている炭化ケイ素(SiC)半導体などでは、動作温度が200℃以上になるため、そのパッケージ材料には、250℃以上の高耐熱性が求められている。さらに、動作温度の上昇により、パッケージ内に使用されている材料間の熱膨張率の差により熱歪が発生し、配線の剥離などによる寿命の低下も問題になっている。
【0003】
このような耐熱問題を解決する方法としては、窒化アルミニウムや窒化ケイ素などの高熱伝導セラミックス基板や、熱伝導率を向上させるための無機フィラーと複合化させた高耐熱の有機樹脂やシリコーン樹脂が開発され、特にオキサジンなどの高耐熱樹脂や、高耐熱シリコーン樹脂の開発が進んでいる。特許文献1には、耐熱性に優れたポリベンゾオキサジン変性ビスマレイミド樹脂が開示されている。しかしながら、これらの化合物も充分な耐熱性と耐久性を示すものはまだ実用化されておらず、そのため、さらに高耐熱な材料の開発が行われている。
【0004】
部材の耐熱問題を解消するためのもう一つの方法として、熱伝導率を向上させて温度ムラを減らし、結果として局部的な高温を減少させることが挙げられる。また熱伝導率が高いと接触している部品の温度が上がりにくいという効果も見込まれる。樹脂成分の高熱伝導化には、一般的に、分子の主鎖に環状構造を多く導入することが検討されている。また、これらの樹脂の熱伝導率を向上させるには分子鎖の直線性が高いほうがよいといわれている。環状の構造が多く、直線性のよい化合物としては、液晶化合物が考えられる。
特許文献2には、樹脂の熱伝導率を向上させる方法として、両末端に重合基を持つ液晶化合物を含む液晶組成物を配向制御添加剤やラビング処理法などにより配向制御し、配向状態を保った状態で重合することにより、高熱伝導の樹脂フィルムを得られる方法が開示されている。
【0005】
かご型構造を有するシルセスキオキサンを含むポリマーは、特異な構造を有し、またそれによる特異な効果が期待されるため、様々な分野から注目されている。このようなシルセスキオキサン骨格を含むポリマーには、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素系重合体が知られている(例えば、特許文献3参照。)。また、かご型構造を有するシルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素化合物に架橋性官能基を導入して架橋ポリマーとすることにより耐熱性に優れるシリコーン膜が開発されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-97207号公報
【文献】特開2006-265527号公報
【文献】特開2006-33307号公報
【文献】特開2010-116464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、高温で使用される半導体デバイスの基板には、耐熱性と熱伝導率の高い材料が望まれている。
そこで本発明は、耐熱性が高く熱伝導率も高い放熱部材を形成可能な組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機化合物と無機材料の複合化において、シルセスキオキサン化合物と鎖状シロキサン構造を含む化合物とを反応させ主鎖にヒドロキシル基を含むシロキサンポリマーを用いる事で、耐熱性(1%または5%重量減少温度)が概ね350℃以上と極めて高く、熱伝導率が高い放熱部材を形成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の態様に係る放熱部材用組成物は、
熱伝導性の無機フィラーと;
式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位および式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位からなるポリシロキサン共重合体と;
を含む。
式(A)および(B)中、
R
0は独立して、炭素数6~20のアリールまたは炭素数5~6のシクロアルキルであり、炭素数6~20のアリールおよび前記炭素数5~6のシクロアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく;
R
1は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、および炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
R
2は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、および炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素が、ハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
xおよびyは独立して、1以上である。
【0010】
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラーが金属部材との密着性の高いポリシロキサン共重合体を介して、効率よく熱を伝えることができ、高い熱伝導性を有することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1の態様に係る放熱部材用組成物において、熱伝導性の無機フィラーが、表面処理剤により表面処理されている。
このように構成すると、ポリシロキサン共重合体と熱伝導性の無機フィラーとの親和的に複合体を形成することができ、熱伝導性の無機フィラーが金属部材との密着性の高いポリシロキサン共重合体を介して、効率よく熱を伝えることができ、高い熱伝導性を有することができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る放熱部材用組成物は、第1の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第1の無機フィラーと;
第2の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第2の無機フィラーと;を含み、
硬化処理により、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端がポリシロキサン共重合体に結合する、または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがその構造中にポリシロキサン共重合体を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端が互いに結合する。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラー同士を表面処理剤およびポリシロキサン共重合体を介して直接結合させて放熱部材を形成することができる。そのため、直接的に、熱伝導の主な要素であるフォノンを伝播することができる。さらに、ポリシロキサン共重合体と熱伝導性の無機フィラーとが親和的に複合体を形成することができ、熱伝導性の無機フィラーが金属部材との密着性の高いポリシロキサン共重合体を介して、効率よく熱を伝えることができ、硬化後の放熱部材は高い熱伝導性を有することができる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1の態様に係る放熱部材用組成物において、架橋剤または遷移金属触媒をさらに含むシロキサンポリマーである。
このように構成すると、放熱部材は、シロキサンポリマーが架橋剤を介した状態で熱伝導性の無機フィラーと複合するため、より好ましい化合物を含有することができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第4の態様に係る放熱部材用組成物において、前記架橋剤が、式(2-1)または式(2-2)で表される化合物である。
R3O-[Si(OR3)2-O-]m-R3 (2-1)
R3O-[Si(OR3)2]-A1-[Z]n-A2-[Si(OR3)2]-OR3 (2-2)
式(2-1)および(2-2)中、
R3は独立して、メチルまたはエチルであり;
A1およびA2は独立して、単結合、または炭素数1~10のアルキルであり、炭素数1~10のアルキルにおいて、少なくとも1つの水素はフッ素で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-は-O-または-CH=CH-で置き換えられてもよく;
Zは独立して炭素数6~20のアリールであり;
mは1~10であり;
nは1~4である。
このように構成すると、放熱部材は、シロキサンポリマーが架橋剤と強固に結合し、さらに金属などとの密着性が良好な部材となる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第5の態様に係る放熱部材用組成物において、熱伝導性の無機フィラーが、表面処理剤により表面処理されていることを特徴とする。
このように構成すると、放熱部材用組成物から得られる放熱部材は、シロキサンポリマーが架橋剤と強固に結合し、さらに金属などとの密着性が良好な部材となる。さらに、ポリシロキサン共重合体と熱伝導性の無機フィラーとが親和的に複合体を形成することができ、熱伝導性の無機フィラーが金属部材との密着性の高いポリシロキサン共重合体を介して、効率よく熱を伝えることができ、硬化後の放熱部材は高い熱伝導性を有することができる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第6の態様に係る放熱部材用組成物において、第1の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第1の無機フィラーと;
第2の表面処理剤の一端と結合した熱伝導性の第2の無機フィラーと;を含み、
硬化処理により、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端がそれぞれポリシロキサン共重合体および架橋剤に結合することを特徴とする、または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがポリシロキサン共重合体または架橋剤を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端が互いに結合することを特徴とする。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラーの熱伝導率が高く、熱膨張率が非常に小さい放熱部材が得られる。
【0017】
本発明の第8の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第2から第3および第6から第7のいずれかの態様に係る放熱部材用組成物において、表面処理剤がカップリング剤であることを特徴とする。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラーの熱伝導率が高く、熱膨張率が非常に小さい放熱部材が得られる。
【0018】
本発明の第9の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第2から第3および第6から第7のいずれかの態様に係る放熱部材用組成物において、表面処理剤がシロキサン化合物であることを特徴とする。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラーの熱伝導率が高く、熱膨張率が非常に小さい放熱部材が得られる。
【0019】
本発明の第10の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1から第9のいずれかの態様に係る放熱部材用組成物において、ポリシロキサン共重合体の重量平均分子量が2,000~10,000,000の範囲にあることを特徴とする。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラーとの密着性をより向上させることができ、熱伝導性の無機フィラーの熱伝導率を向上させることができる。
【0020】
本発明の第11の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1から第10のいずれかの態様に係る放熱部材用組成物において、式(A)および式(B)において、R0が独立して、フェニルまたはシクロヘキシルであり、R1およびR2が独立して、メチルまたはフェニルである化合物であることが好ましい。
このように構成すると、耐熱性の高い放熱部材となる。
【0021】
本発明の第12の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1から第11のいずれかの態様に係る放熱部材用組成物において、熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーが、窒化物、金属、金属酸化物、珪酸塩化合物、または炭素材料である。
このように構成すると、高い熱伝導性を有する放熱部材となる。
【0022】
本発明の第13の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1から第12のいずれかの態様に係る放熱部材において、熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーと熱伝導性の第2の無機フィラーが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素炭素、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アルミナ、酸化亜鉛、金、銀、コーディエライトから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする。
このように構成すると、高い熱伝導性を有する放熱部材となる。
【0023】
本発明の第14の態様に係る放熱部材用組成物は、上記本発明の第1から第13の態様のいずれかの態様に係る放熱部材において、熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーおよび熱伝導性の第2の無機フィラーに結合していない、重合性または高分子化合物;をさらに含むことを特徴とする。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラー同士が表面処理剤とシロキサンポリマーと結合した放熱部材となる。
【0024】
本発明の第15の態様に係る放熱部材は、上記本発明の第1から第14のいずれかの態様に係る放熱部材において、放熱部材用組成物が硬化した、放熱部材である。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラー同士が表面処理剤とシロキサンポリマーと結合した放熱部材となる。
【0025】
本発明の第16の態様に係る電子機器は、上記本発明の第15の態様に係る放熱部材と;発熱部を有する電子デバイスと;を備え、前記放熱部材が前記発熱部に接触するように前記電子デバイスに配置された、電子機器である。
このように構成すると、放熱部材が、耐熱性がよく熱膨張率を高温まで制御できるため、電子機器に生じ得る熱歪を抑制することができる。
【0026】
本発明の第17の態様に係る放熱部材用組成物の製造方法は、熱伝導性の第1の無機フィラーを、第1の表面処理剤の一端と結合させる工程と;
熱伝導性の第2の無機フィラーを、第2の表面処理剤の一端と結合させる工程と;を備え、さらに、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端をそれぞれポリシロキサン共重合体に結合させる工程;または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがその構造中にポリシロキサン共重合体を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端を互いに結合させる工程;を備える。
このように構成すると、熱伝導性の無機フィラー同士が表面処理剤とシロキサンポリマーと結合した放熱部材となる。
【0027】
本発明の第18の態様に係る放熱部材用組成物の製造方法は、熱伝導性の第1の無機フィラーを、第1の表面処理剤の一端と結合させる工程と;
熱伝導性の第2の無機フィラーを、第2の表面処理剤の一端と結合させる工程と;を備え、さらに、
前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端をそれぞれ第1のポリシロキサン共重合体および第2のポリシロキサン共重合体に結合させる工程;または、
前記第1の表面処理剤と前記第2の表面処理剤の少なくとも1つがその構造中に第1のポリシロキサン共重合体または第2のポリシロキサン共重合体を含み、前記第1の表面処理剤の他端と前記第2の表面処理剤の他端を互いに結合させる工程;を備える このように構成すると、熱伝導性の無機フィラー同士が表面処理剤とシロキサンポリマーと結合した放熱部材となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の放熱部材用組成物から形成された放熱部材は、極めて高い熱伝導性と耐熱性を有する。さらに、熱膨張率の制御性、化学的安定性、硬度および機械的強度などの優れた特性をも有する。当該放熱部材は、例えば、放熱基板、放熱板(面状ヒートシンク)、放熱シート、放熱塗膜、放熱接着剤などに適している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の放熱部材において、窒化ホウ素を例として、熱伝導性の無機フィラー同士の結合を示す概念図である。
【
図2】放熱部材用組成物の硬化処理により、第1の表面処理剤11に結合したポリシロキサン共重合体21の他端が、第2の表面処理剤12の他端と結合することを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部分には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0031】
本発明で用いる用語について説明する。式(1)で表わされる化合物を化合物(1)と表記することがある。他の式で表される化合物についても同様である。「少なくとも1つのAはBまたはCで置き換えられてもよい」という表現は、少なくとも1つのAがBで置き換えられる場合および少なくとも1つのAがCで置き換えられる場合に加えて、少なくとも1つのAがBで置き換えられると同時に、その他のAの少なくとも1つがCで置き換えられる場合があることを意味する。本明細書に記載される化学式において、Meはメチルであり、そしてPhはフェニルである。実施例においては、電子天秤の表示データを質量単位であるg(グラム)を用いて示した。重量%や重量比はこのような数値に基づくデータである。
【0032】
[放熱部材用組成物]
本発明の放熱部材用組成物は、熱伝導性の無機フィラーとポリシロキサン共重合体を含み、熱硬化などにより放熱部材を形成できる組成物である。
図1は熱伝導性の無機フィラーとしての窒化ホウ素を用いた場合の例である。窒化ホウ素(h-BN)を表面処理剤で処理すると、窒化ホウ素は粒子の平面に反応基がないため、その周囲のみに表面処理剤が結合する。表面処理剤で処理された窒化ホウ素は、ポリシロキサン共重合体または架橋剤との結合を形成できる。したがって、窒化ホウ素に結合した表面処理剤の他端と、窒化ホウ素に結合した表面処理剤にさらに結合したポリシロキサン共重合体または架橋剤の他端とを結合させることにより(
図2参照)、窒化ホウ素同士を
図1のように互いに結合させる。
このように、熱伝導性の無機フィラー同士を表面処理剤およびポリシロキサン共重合体または架橋剤により結合させることにより、直接的にフォノンを伝播することができるので、硬化後の放熱部材は極めて高い熱伝導を有し、無機成分の熱膨張率を直接反映させた複合材の作製が可能になる。
【0033】
<ポリシロキサン共重合体>
ポリシロキサン共重合体は、式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位および式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位を有する。
【0034】
式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位
【0035】
式(A)中、
R0は独立して、炭素数6~20のアリールまたは炭素数5~6のシクロアルキルであり、炭素数6~20のアリールおよび炭素数5~6のシクロアルキルにおいて、少なくとも1つの水素が独立してハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく;
R1は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルを表し、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルおよび炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルは、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
xは1以上である。
【0036】
(式(A)におけるR0)
R0は独立して、炭素数6~20のアリールまたは炭素数5~6のシクロアルキルである。
炭素数6~20のアリールとしては、例えば、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、トリフェニレニル、ピレニル、クリセニル、ナフタセニル、ペリレニルなどがあげられる。これらの中では、フェニル、ナフチル、アントリル、およびフェナントリルが好ましく、フェニル、ナフチルおよびアントリルがより好ましい。
炭素数5~6のシクロアルキルとしては、シクロペンチル、シクロヘキシルが挙げられる。
R0は、好ましくは、フェニルまたはシクロヘキシルである。
【0037】
(式(A)におけるR1)
R1は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルである。
炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルは、R0で説明したものと同様のものが挙げられる。
炭素数7~40のアリールアルキルとしては、例えば、ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、1-ナフチルメチル、2-ナフチルメチル、2,2-ジフェニルエチル、3-フェニルプロピル、4-フェニルブチル、5-フェニルペンチルが挙げられる。
炭素数1~40のアルキルとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、sec-ペンチル、iso-ペンチル、tert-ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、ドデシル、オクタデシルが挙げられる。
R1は、好ましくは、フェニル、シクロヘキシル、および炭素数1~5のアルキルから選ばれ、好ましくはフェニルまたはメチルである。
【0038】
(式(A)におけるx)
xは1以上であり、ポリシロキサン共重合体における式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位の総数としては、例えば、1~500である。
【0039】
【0040】
式(B)中、R2は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルおよび炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素が独立してハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルは、少なくとも1つの水素が、ハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく;
yは1以上である。
【0041】
(式(B)におけるR2)
R2は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであるが、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルは、R0で説明したものと同様のものが挙げられ、炭素数7~40のアリールアルキル、炭素数1~40のアルキルは、R1で説明したものと同様のものが挙げられる。
【0042】
(式(B)におけるy)
yは1以上であり、ポリシロキサン共重合体における式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位の総数(後述のy1+y2)としては、例えば、1~3000である。
【0043】
前記ポリシロキサン共重合体は、式(B)で表される鎖状シロキサンを介して無機物質および有機物質から選択される物質の表面に結合している。ここで、結合は化学結合が好ましい。例えば、前記物質表面に水酸基などの官能基を付与し、該官能基と式(B)で表される鎖状シロキサンの末端水酸基との化学反応により化学結合を形成してもよい。式(B)で表される鎖状シロキサンは前記物質の表面に直接結合していてもよいし、スペーサーなどを介して結合していてもよい。
【0044】
「ポリシロキサン共重合体が、式(B)で表される鎖状シロキサンを介して無機物質および有機物質から選択される物質の表面に結合する」とは、式(B)で表される鎖状シロキサン(リンカー部分)がまず前記物質の表面に結合し、続いて、式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位と式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位が任意の割合および任意の順序で結合していることを意味する。
[無機物質および有機物質から選択される物質]-By1-(AxBy2)
前記物質表面に結合する式(B)で表される鎖状シロキサン(リンカー部分)における繰り返し数y1は例えば1~1000である。
(AxBy2)における、連続する式(A)で表されるかご型シルセスキオキサン繰り返し単位の数(x)の数は例えば1~5であり、連続する式(B)で表される鎖状シロキサン繰り返し単位の数(y2)の数は例えば1~30である。
【0045】
本発明に係るポリシロキサン共重合体において、無機物質および有機物質から選択される物質に結合する末端と異なる末端は、特に限定されず、水酸基であってもよいが、下記の基を有してもよい。
式(3)中、R
4は独立して、水素、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、炭素数1~40のアルキル、炭素数1~40のアルコキシ、ビニル、またはアリルであり、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルおよび炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素が、ハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルは、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルコキシは、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0046】
炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキルは、式(A)においてR0で説明したものと同様のものが挙げられる。
炭素数7~40のアリールアルキル、炭素数1~40のアルキルは、式(A)においてR1で説明したものと同様のものが挙げられる。
炭素数1~40のアルコキシとしては、特に制限されないが、炭素数1~10が好ましく、メトキシ、エトキシ、プロポキシなどが例示される。
R3は好ましくは水素、メチルフェニル、ビニル、アリル、または水酸基である。
【0047】
本発明に用いられるポリシロキサン共重合体におけるポリシロキサンにおいては、式(A)で表される繰り返し単位と式(B)で表される繰り返し単位の割合(x:y)は特に制限されないが、例えば、1:1~1:30である。
なお、ポリシロキサン共重合体におけるポリシロキサンにおいては、式(A)および式(B)で表される繰り返し単位が占める質量%は、通常10%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上であり、通常100%未満、好ましくは99%以下である。すなわち、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、式(A)で表される繰り返し単位以外のユニットを含んでいてもよい。そのようなユニットとしては、例えば、-(CH2-CH2)-、-(CH=CH)-、-(O-SiMe2-C6H4-SiMe2)-が挙げられる。
【0048】
本発明に用いられるポリシロキサン共重合体におけるポリシロキサンの重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましくは2,000以上、より好ましくは10,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは200,000以下である。重量平均分子量は、後述の実施例に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて得られたクロマトグラムを、分子量標準サンプルにて得られた検量線により計算して求める。
多分散度は、例えば、1~4である。
【0049】
これらのポリシロキサン共重合体は、例えば、以下の工程により製造することができる。
(i)無機物質および有機物質から選択される物質の表面に鎖状または環状シロキサンを平衡重合させる工程、次いで、
(ii)かご型シルセスキオキサンを平衡重合させる工程
【0050】
例えば、表面が水酸基である無機酸化物(シリカ)を鎖状または環状シロキサン、酸触媒、溶媒で反応させることにより、シリカ表面に鎖状シロキサンがグラフトされる。次いで、重合中の溶液に末端シラノール型のかご型シルセスキオキサンを加えることで、グラフトされたシロキサンポリマーと平衡重合し、鎖状シロキサンの途中にかご状シルセスキオキサンが組み込まれ、分子ネックレスポリマーがグラフトされたシリカが得られる。
【0051】
鎖状または環状シロキサンとしては、式(b)または式(c)で表される化合物が挙げられる。これらのいずれか一方または両方を使用することができる。なお、無機物質および有機物質から選択される物質の表面には水酸基など反応性官能基が存在することが好ましく、このような反応性官能基を導入するために表面処理を施してもよい。
【0052】
式(b)および式(c)におけるR2は、式(A)におけるR2と同様に定義され、好ましい例も同様である。nは2~30の整数である。
【0053】
式(b)で表される化合物としては、例えば、2,2,4,4,6,6-ヘキサメチルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリエチル-2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサエチルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリプロピルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリエチル-2,4,6-トリプロピルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサプロピルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(1-メチルエチル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリエチル-2,4,6-トリス(1-メチルエチル)シクロトリシロキサン2,2,4,4,6,6-ヘキサキス(1-メチルエチル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリブチル-2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリブチル-2,4,6-トリエチルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサブチルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(1,1-ジメチルエチル)シクロトリシロキサン、2,46-トリエチル-2,4,6-トリス(1,1-ジメチルエチル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリス(1,1-ジメチルエチル)-2,4,6-トリプロピルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,66-ヘキサキス(1,1-ジメチルエチル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(トリフルオロメチル)シクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサキス(トリフルオロメチル)シクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサキス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサキス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリフェニルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサフェニルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリシクロへキシル-2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサシクロへキシルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6-ヘキサビニルシクロトリシロキサン、2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリビニルシクロトリシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラエチル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタエチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラプロピルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラエチル-2,4,6,8-テトラプロピルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタプロピルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラキス(1-メチルエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラエチル-2,4,6,8-テトラキス(1-メチルエチル)シクロテトラシロキサン2,2,4,4,6,6,8,8-オクタキス(1-メチルエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラブチル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラブチル-2,4,6,8-テトラエチルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタブチルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラエチル-2,4,6,8-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)-2,4,6,8-テトラプロピルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタキス(1,1-ジメチルエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラキス(トリフルオロメチル)シクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタキス(トリフルオロメチル)シクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタキス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラキス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタキス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラフェニルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタフェニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラシクロへキシル-2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタシクロへキシルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8-オクタビニルシクロテトラシロキサン、2,4,6,8-テトラメチル-2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン、2,6-ジエチニル-2,4,4,6,8,8-ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタエチル-2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカエチルシクロトリシロキサン、2,4,6,8.10-ペンタメチル-2,4,6,8-ペンタプロピルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタエチル-2,4,6,8,10-ペンタプロピルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカプロピルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタメチル-2,4,6,8,10-ペンタキス(1-メチルエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタエチル-2,4,6,8,10-ペンタキス(1-メチルエチル)シクロペンタシロキサン2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカキス(1-メチルエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタブチル-2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタブチル-2,4,6,8,10-ペンタエチルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカブチルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10,10-ペンタメチル-2,4,6,8,10,10-ペンタキス(1,1-ジメチルエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタエチル-2,4,6,8,10-ペンタキス(1,1-ジメチルエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタキス(1,1-ジメチルエチル)-2,4,6,8,10-ペンタプロピルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカキス(1,1-ジメチルエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタメチル-2,4,6,8-ペンタキス(トリフルオロメチル)シクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10.10-デカキス(トリフルオロメチル)シクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカキス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10,10-ペンタメチル-2,4,6,8-ペンタキス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカキス(3,3,3-トリフルオロプロピル)シクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタメチル-2,4,6,8-ペンタフェニルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカフェニルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタシクロへキシル-2,4,6,8,10-ペンタメチルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカシクロへキシルシクロペンタシロキサン、2,2,4,4,6,6,8,8,10,10-デカビニルシクロペンタシロキサン、2,4,6,8,10-ペンタメチル-2,4,6,8,10-ペンタビニルシクロペンタシロキサンが挙げられ、中でも、R2が炭素数1~40のアルキルである低分子環状シロキサンが好ましく、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)等の環状シロキサンがより好ましく、入手の容易さ、コスト面、取扱いの観点から、オクタメチルシクロテトラシロキサンが特に好ましい。
【0054】
式(c)で表される化合物としては、例えば、
1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジシロキサンジオール、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-トリシロキサンジオール、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチル-1,7-テトラシロキサンジオール、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9-デカメチル-1,9-ペンタシロキサンジオール、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ジシロキサンジオール、1,1,3,3,5,5-ヘキサフェニル-1,5-トリシロキサンジオール、DMS-S12(商品名、Gelest製)、DMS-S14(商品名、Gelest製)、DMS-S15(商品名、Gelest製)
1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシロキサン、1,1,1,3,3,5,5,5-オクタメチルトリシロキサン、1,1,1,3,3,5,5,7,7-デカメチルテトラシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジアリル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,5-ジビニル-1,1,3,3,5,5-へプタメチルトリシロキサン、1,5-ジアリル-1,1,3,3,5,5-へプタメチルトリシロキサン、DMS-V00(商品名、Gelest製)、DMS-V03(商品名、Gelest製)、DMS-V05(商品名、Gelest製)
1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7,9,9-デカメチルペンタシロキサン、 1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11-ドデカメチルヘキサシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジフェニルジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン、1,3-シクロへキシル-1,3-ジメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラシクロへキシルジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラエチルジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジプロピルジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ジプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラプロピルジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ビス(1-メチルエチル)ジシロキサン、1,3-ジエチル-1,3-ビス(1-メチルエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラキス(1-メチルエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジシロキサン、1,3-ビス(1,1-ジメチルエチル)-1,3-ジメチルジシロキサン、DMS-Hm15(商品名、Gelest製)、DMS-Hm25(商品名、Gelest製)、DMS-H03(商品名、Gelest製)、DMS-H11(商品名、Gelest製)、FM 1105(商品名、JNC(株)製)、FM 1111(商品名、JNC(株)製)、1,3-ジフルオロ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,5-ジフルオロ-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(トリフルオロメチル)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(トリフルオロメチル)ジシロキサン、1,3-ジメトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,5-ジメトキシ-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,3-ジエトキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,5-ジエトキシ-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジプロポキシジシロキサン 、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ジプロポキシトリシロキサン、1,1,3,5,7,7-ヘキサメトキシ-1,3,5,7-テトラメチルテトラシロキサン、3,3,11,11-テトラメトキシ-6,6,8,8-テトラメチル-2,7,12-トリオキサ-3,6,8,11-テトラシラトリデカン、4,4,12,12-テトラエトキシ-7,7,9,9-テトラメチル-3,8,13-トリオキサ-4,7,9,12-テトラシラペンタデカン、1,3-ジエチニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,5-ジエチニルl-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、FM 2205(商品名、JNC(株)製)、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジ-2-プロパン-1-イルジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ジ-2-プロパン-1-イルトリシロキサン、FM-4411(商品名、JNC(株)製)、FM-4421(商品名、JNC(株)製)、FM-4425(商品名、JNC(株)製)、DMS-C15(商品名、Gelest製)、DMS-C16(商品名、Gelest製)、DMS-C21(商品名、Gelest製)、DMS-CA21(商品名、Gelest製)が挙げられる。
【0055】
かご型シルセスキオキサンとしては、式(a)で表される化合物が挙げられる。
R
0は式(A)におけるR
0と同様に定義され、好ましい例も同様である。
R
1は式(A)におけるR
1と同様に定義され、好ましい例も同様である。
式(a)で表される化合物は、例えば、特開2006-022207号公報の記載を参照して合成することができ、以下に示される化合物が好ましい。この化合物において、Phはフェニルを示し、C-Hexはシクロヘキシルを示す。
【0056】
【0057】
また、上記工程(ii)において得られるポリシロキサン共重合体において、ポリシロキサンの無機物質および有機物質から選択される物質の表面に結合する末端と異なる末端に式(d)で表される化合物を反応させることにより、ポリシロキサンの前記物質の表面に結合する末端とは異なる末端を修飾してもよい。
【0058】
<式(d)で表される化合物>
式(d)におけるR
3は、式(c)におけるR
3と同様に定義され、好ましい基も同様である。
R
4は独立して、水素、ビニル、アリル、水酸基、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、炭素数7~40のアリールアルキル、または炭素数1~40のアルキルであり、炭素数6~20のアリール、炭素数5~6のシクロアルキル、および炭素数7~40のアリールアルキル中のアリールにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1~20のアルキルで置き換えられてもよく、炭素数7~40のアリールアルキル中のアルキレンにおいて、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-、-CH=CH-、または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよく、炭素数1~40のアルキルは、少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられてもよく、少なくとも1つの-CH
2-が、-O-または炭素数5~20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
nは1~30である。
式(d)で表される化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、オクタフェニルトリシロキサン、デカフェニルテトラシロキサン、Gelest製 DMA-T07Rが挙げられる。
【0059】
上記工程(i)、(ii)においては、平衡重合を採用することができる。
平衡重合については、例えば、特開2017-014320に記載されている方法を参考にして行うことができる。反応には、下記のような溶剤と酸触媒を使用することが好ましい。また、窒素(N2)等の不活性雰囲気下で反応を行うことが好ましい。また、攪拌しながら反応を行うことが好ましい。反応温度は例えば、25~120℃である。
【0060】
<溶剤>
反応に使用する溶剤としては、前記原料化合物(a)、(b)および/または(c)を溶解可能であれば、特に限定されない。好ましい溶剤は、ブタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤;酢酸エチルなどのエステル系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などのグリコールエステル系溶剤;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ピリジンなどの含窒素系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶剤などである。好ましくは、トルエン、メシチレン、アニソール、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸2-(2-エトキシエトキシ)エチルであり、より好ましくはトルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)である。溶剤は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。また、溶剤は脱水して用いてもよい。溶剤の使用量は、特に限定されないが、前記原料化合物に対して、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、通常1000質量%以下、好ましくは500質量%以下で用いることができる。
【0061】
<触媒>
平衡重合には、酸触媒を用いることが好ましい。
酸触媒としては、例えば、リン酸、トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸、硝酸、酢酸および安息香酸、DIAION(商標)RCP-160M(強酸性イオン交換樹脂、三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
触媒の添加量は、前記ポリシロキサンに対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。触媒を2種以上使用する場合は、合計含有量が上記範囲内にあることが好ましい。
【0062】
<熱伝導性の無機フィラー>
熱伝導性の無機フィラーとは、熱伝導率が1W/m・K以上である無機フィラーのことである。
熱伝導性の無機フィラー、熱伝導性の第1の無機フィラー、および熱伝導性の第2の無機フィラーとしては、窒化物、金属、金属酸化物、珪酸塩化合物、または炭素材料等を挙げることができる。熱伝導性の第1の無機フィラーおよび熱伝導性の第2の無機フィラーは、同一であってもよく異なったものでもよい。
具体的には、熱伝導性の第1の無機フィラー、熱伝導性の第2の無機フィラーには、高熱伝導性で熱膨張率が非常に小さいか負である熱伝導性の無機フィラーとして、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素炭素、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アルミナを挙げることができる。または、シリカ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、金、銀、酸化鉄、フェライト、ムライト、コーディエライト、窒化珪素、および炭化珪素を挙げることができる。
または、熱伝導性の第1または熱伝導性の第2の無機フィラーのどちらか一方に下記の熱伝導率が高く熱膨張率が正である熱伝導性の無機フィラーを用いてもよい。
第3のフィラーとしては、熱伝導率が高い、熱膨張率が正、または熱伝導性の第1、第2の無機フィラーよりもサイズが小さい等、アルミナ、シリカ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素、ダイアモンド、カーボンナノチューブ、黒鉛、グラフェン、珪素、ベリリア、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化珪素、酸化銅、酸化チタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化錫、酸化ホルミニウム、酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、金、銀、銅、白金、鉄、錫、鉛、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、モリブデン、ステンレスなどの無機充填材および金属充填材を挙げることができる。
ポリシロキサン共重合体の構造はこれら熱伝導性の無機フィラーの間を効率よく結合できる形状および長さを持っていることが望ましい。熱伝導性の無機フィラーの種類、形状、大きさ、添加量などは、目的に応じて適宜選択できる。得られる放熱部材が絶縁性を必要とする場合、所望の絶縁性が保たれれば導電性を有する熱伝導性の無機フィラーであっても構わない。熱伝導性の無機フィラーの形状としては、板状、球状、無定形、繊維状、棒状、筒状などが挙げられる。
【0063】
好ましくは、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素炭素、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アルミナ、酸化亜鉛、金、銀、コーディエライトである。特にアルミナや六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)、黒鉛が好ましい。窒化ホウ素、黒鉛は平面方向の熱伝導率が非常に高く、窒化ホウ素は誘電率も低く、絶縁性も高いため好ましい。例えば、板状結晶の窒化ホウ素を用いると、成型および硬化時に、原料のフローや圧力によって、板状構造が金型に沿って配向され易いため好ましい。アルミナはポリシロキサン共重合体とさらなる複合体を形成する際にパッキングが良いため好ましい。
【0064】
熱伝導性の無機フィラーの平均粒径は、0.1~500μmであることが好ましい。より好ましくは、1~100μmである。0.1μm以上であると熱伝導率がよく、500μm以下であると充填率を上げることができる。
なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定に基づく。すなわち、フランホーファー回折理論およびミーの散乱理論による解析を利用して、湿式法により、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量(体積基準)となる径をメジアン径とした。
【0065】
<カップリング剤>
熱伝導性の無機フィラーに結合させるカップリング剤は、2官能以上のシルセスキオキサンが有する官能基がオキシラニルや酸無水物等である場合は、それらの官能基と反応することが好ましいので、アミン系反応基を末端に持つものが好ましい。例えば、JNC(株)製では、サイラエース(登録商標)S310、S320、S330、S360、信越化学工業(株)製では、KBM903、KBE903などが挙げられる。
なお、2官能以上のシルセスキオキサンの末端がアミンであった場合には、オキシラニル基等を末端に持つカップリング剤が好ましい。例えば、JNC(株)製では、サイラエース(登録商標)S510、S530などが挙げられる。なお、カップリング剤による熱伝導性の無機フィラーの修飾は、多ければ多いほど結合が増えるため好ましい。
第1のカップリング剤と第2のカップリング剤は、同一であってもよく異なったものでもよい。
【0066】
<シロキサン>
表面処理剤としてシロキサンが挙げられる。シロキサンは、主骨格が-Si-O-(Si-O)n-Si-である化合物であり、熱伝導性の無機フィラーやシルセスキオキサンとの共有結合を形成可能な、Si-O-Rなどの基を有する化合物であることが好ましい。nは、0~40であり、好ましくは、1~30であり、より好ましくは、2~15である。nがこの範囲であれば、前記シロキサンは揮発しにくい、及び、熱伝導性の無機フィラーと反応しやすい。なお、本発明の効果を奏する限り、第1のシロキサン~第3のシロキサンはアルコキシ基「-OR」以外の構造を有するSiを含んでいてもよい。第1のシロキサン~第3のシロキサンは複数の官能基を有し、官能基としては例えば(Si-O-R)が挙げられる。Rはアルキルであり、メチル、エチル、プロピルなどの基が挙げられる。具体的には、メチルシリケート(三菱ケミカル(株)製、(商品名)M・KCシリケートMS51)、ポリジエトキシシロキサン(Gelest製、(商品コード)PSI-021)などが挙げられる。メチルシリケートの構造は下記のとおりである。
【0067】
【0068】
熱伝導性の無機フィラーに直接結合させるシロキサンの割合は、使用する熱伝導性の無機フィラーの種類と結合させるシロキサンの量に依存する。例えば熱伝導性の無機フィラーとして窒化ホウ素を用いた場合、前述のように窒化ホウ素は平らな面に反応基がなく、側面にのみ反応基が存在する。その少ない反応基にできるだけ多くのシロキサンを直接結合させる。
熱伝導性の無機フィラーへのシロキサンの反応量は、主に熱伝導性の無機フィラーの大きさやシロキサンの反応性により変化する。例えば、窒化ホウ素が大きくなるほど、窒化ホウ素の側面の面積比が減少するので結合量(修飾量)は少ない。適切な量のシロキサンを反応させたいが、粒子を小さくすると生成物の熱伝導率が低くなるのでバランスを取ることが好ましい。
熱伝導性の無機フィラーに直接結合させるシロキサンの反応量は、熱伝導性の無機フィラーが窒化ホウ素の場合、例えば重量比で0.5~5%、好ましくは1~3%とすることができる。また、熱伝導性の無機フィラーが酸化チタンの場合、例えば重量比で0.5~15%、好ましくは1~10%とすることができる。
【0069】
<その他の構成要素>
放熱部材用組成物は、さらに、熱伝導性の無機フィラー、または熱伝導性の第1の無機フィラーおよび熱伝導性の第2の無機フィラーに結合していない、すなわち結合に寄与していない有機化合物(例えば重合性化合物または高分子化合物)を含んでいてもよく、重合開始剤や溶媒等を含んでいてもよい。
【0070】
<結合していない重合性化合物>
放熱部材用組成物は、熱伝導性の無機フィラーに結合していないポリシロキサン共重合体または架橋剤を構成要素としてもよい。このようなシルセスキオキサンとしては、熱伝導性の無機フィラーの熱硬化を妨げず、加熱により蒸発やブリードアウトがないものが好ましい。または、熱伝導性の無機フィラーに結合していない他の重合性化合物を構成要素としてもよい。この重合性化合物は、液晶性を有しない化合物と液晶性を有する化合物とに分類される。液晶性を有しない重合性化合物としては、ビニル誘導体、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸誘導体、ソルビン酸誘導体、フマル酸誘導体、イタコン酸誘導体、などが挙げられる。含有量は、まず結合していない化合物を含まない、放熱部材用組成物を作製し、その空隙率を測定して、その空隙率を埋められる量の化合物を添加することが望ましい。
【0071】
<結合していない高分子化合物>
放熱部材用組成物は、熱伝導性の無機フィラーに結合していない高分子化合物を構成要素としてもよい。このような高分子化合物としては、膜形成性および機械的強度を低下させない化合物が好ましい。この高分子化合物は、熱伝導性の無機フィラー、表面処理剤、およびシロキサン複合体または架橋剤と反応しない高分子化合物であればよく、例えばシルセスキオキサンがオキシラニル基でシランカップリング剤がアミノ基を持つ場合は、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、シリコーン樹脂、ワックスなどが挙げられる。含有量は、まず結合していない重合性化合物を含まない、放熱部材用組成物を作製し、その空隙率を測定して、その空隙率を埋められる量の高分子化合物を添加することが望ましい。
【0072】
<溶媒>
放熱部材用組成物は溶媒を含有してもよい。重合させる必要がある構成要素を該組成物中に含む場合、重合は溶媒中で行っても、無溶媒で行ってもよい。溶媒を含有する該組成物を基板上に、例えばスピンコート法などにより塗布した後、溶媒を除去してから光重合させてもよい。また、光硬化後適当な温度に加温して熱硬化により後処理を行ってもよい。
好ましい溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、PGMEAなどが挙げられる。上記溶媒は1種単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、重合時の溶媒の使用割合を限定することにはあまり意味がなく、重合効率、溶媒コスト、エネルギーコストなどを考慮して、個々のケースごとに決定すればよい。
【0073】
<その他>
放熱部材用組成物には、取扱いを容易にするために、安定剤を添加してもよい。このような安定剤としては、公知のものを制限なく使用でき、例えば、ハイドロキノン、4-エトキシフェノールおよび3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)などが挙げられる。
さらに、放熱部材用組成物の粘度や色を調整するために添加剤(酸化物等)を添加してもよい。例えば、白色にするための酸化チタン、黒色にするためのカーボンブラック、粘度を調整するためのシリカの微粉末を挙げることができる。また、機械的強度をさらに増すために添加剤を添加してもよい。例えば、ガラスファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブなどの無機繊維やクロス、または高分子添加剤として、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどの繊維または長分子を挙げることができる。
【0074】
<製造方法>
以下、放熱部材用組成物を製造する方法、および該組成物から放熱部材を製造する方法について具体的に説明する。
(1)カップリング処理を施す
熱伝導性の無機フィラーにカップリング処理を施し、カップリング剤の一端と熱伝導性の無機フィラーを結合させたものを熱伝導性の第2の無機フィラーとする。カップリング処理は、公知の方法を用いることができる。
一例として、まず熱伝導性の無機フィラーとカップリング剤を溶媒に加える。スターラー等を用いて撹拌したのち、乾燥する。溶媒乾燥後に、真空乾燥機等を用いて、真空条件下で加熱処理をする。この熱伝導性の無機フィラーに溶媒を加えて、超音波処理により粉砕する。遠心分離機を用いてこの溶液を分離精製する。上澄みを捨てたのち、溶媒を加えて同様の操作を数回行う。オーブンを用いて精製後のカップリング処理を施した熱伝導性の無機フィラーを乾燥させる。
(2)シロキサン複合体または架橋剤で修飾する
カップリング処理を施した熱伝導性の無機フィラー(上記熱伝導性の第2の無機フィラーと同じであってもよく、異なっていてもよい)の、カップリング剤の他端にシロキサン複合体または架橋剤を結合させる。このようにシロキサン複合体または架橋剤で修飾した熱伝導性の無機フィラーを熱伝導性の第1の無機フィラーとする。
一例として、カップリング処理された熱伝導性の無機フィラーとシロキサン複合体または架橋剤を、メノウ乳鉢等を用いて混合したのち、2軸ロール等を用いて混練する。その後、超音波処理および遠心分離によって分離精製する。
(3)放熱部材を製造する
一例として、放熱部材用組成物を用いて、放熱部材としてのフィルムを製造する方法を説明する。放熱部材用組成物を、圧縮成形機を用いて加熱板中にはさみ、圧縮成形により配向・硬化成形する。さらに、オーブン等を用いて後硬化を行い、本発明の放熱部材を得る。なお、圧縮成形時の圧力は、50~200kgf/cm2が好ましく、より好ましくは70~180kgf/cm2である。硬化時の圧力は基本的には高い方が好ましい。しかし、金型内での流動性や、目的とする物性(どちら向きの熱伝導率を重視するかなど)によって適宜変更し、適切な圧力を加えることが好ましい。
【0075】
以下、溶媒を含有する放熱部材用組成物を用いて、放熱部材としてのフィルムを製造する方法について具体的に説明する。
まず、基板上に該組成物を塗布し、溶媒を乾燥除去して膜厚の均一な塗膜層を形成する。塗布方法としては、例えば、スピンコート、ロールコート、カテンコート、フローコート、プリント、マイクログラビアコート、グラビアコート、ワイヤーバーコート、ディップコート、スプレーコート、メニスカスコート法などが挙げられる。
溶媒の乾燥除去は、例えば、室温での風乾、ホットプレートでの乾燥、乾燥炉での乾燥、温風や熱風の吹き付けなどにより行うことができる。溶媒除去の条件は特に限定されず、溶媒がおおむね除去され、塗膜層の流動性がなくなるまで乾燥すればよい。
【0076】
上記基板としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄などの金属基板;シリコン、窒化ケイ素、窒化ガリウム、酸化亜鉛などの無機半導体基板;アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスなどのガラス基板、アルミナ、窒化アルミニウムなどの無機絶縁基板;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース、トリアセチルセルロースもしくはその部分鹸化物、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノルボルネン樹脂などのプラスティックフィルム基板などが挙げられる。
【0077】
上記フィルム基板は、一軸延伸フィルムでも、二軸延伸フィルムであってもよい。上記フィルム基板は、事前に鹸化処理、コロナ処理、プラズマ処理などの表面処理を施してもよい。なお、これらのフィルム基板上には、上記放熱部材用組成物に含まれる溶媒に侵されないような保護層を形成してもよい。保護層として用いられる材料としては、例えばポリビニルアルコールが挙げられる。さらに、保護層と基板の密着性を高めるためにアンカーコート層を形成させてもよい。このようなアンカーコート層は保護層と基板の密着性を高めるものであれば、無機系および有機系のいずれの材料であってもよい。
【0078】
以上、熱伝導性の無機フィラー同士の結合を、カップリング処理を含む表面処理された熱伝導性の無機フィラーと、表面処理され、さらにシロキサン複合体または架橋剤で修飾された熱伝導性の無機フィラーで構成する場合を説明した。
【0079】
[放熱部材]
本発明の第2の実施の形態に係る放熱部材は、放熱部材用組成物を硬化させ、用途に応じて成形したものである。この硬化物は、高い熱伝導性を有するとともに、熱膨張率が負かまたは非常に小さい正にすることができ、耐熱性、化学的安定性、硬度および機械的強度などに優れている。なお、前記機械的強度とは、ヤング率、引っ張り強度、引き裂き強度、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度などである。放熱部材は、放熱板、放熱シート、放熱フィルム、放熱接着材、放熱成形品などに有用である。
【0080】
熱重合により放熱部材用組成物を硬化させるための前硬化の条件としては、熱硬化温度が、室温~350℃、好ましくは室温~250℃、より好ましくは120℃~220℃の範囲であり、硬化時間は、5秒~10時間、好ましくは1分~8時間、より好ましくは5分~5時間の範囲である。重合後は、応力ひずみなど抑制するために徐冷することが好ましい。また、再加熱処理を行い、ひずみなどを緩和させてもよい。
【0081】
放熱部材は、シート、フィルム、薄膜、繊維、成形体などの形状で使用する。好ましい形状は、板、シート、フィルムおよび薄膜である。なお、本明細書におけるシートの膜厚は1mm以上であり、フィルムの膜厚は3μm以上、好ましくは5~999μm、より好ましくは20~300μmであり、薄膜の膜厚は3μm未満である。膜厚は、用途に応じて適宜変更すればよい。放熱部材用組成物は、そのまま接着剤や充填剤として使用することもできる。
【0082】
[電子機器]
本発明の第3の実施の形態に係る電子機器は、上記第2の実施の形態に係る放熱部材と、発熱部または冷却部を有する電子デバイスとを備える。放熱部材は、前記発熱部に接触するように電子デバイスに配置される。放熱部材の形状は、放熱電子基板、放熱板、放熱シート、放熱フィルム、放熱接着材、放熱成形品などのいずれであってもよい。
例えば、電子デバイスとして、半導体モジュールを挙げることができる。低熱膨張部材は、低熱膨張性に加え、高熱伝導性、高耐熱性、高絶縁性を有する。そのため、半導体素子の中でも高電力のためより効率的な放熱機構を必要とする絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor、IGBT)に特に有効である。IGBTは半導体素子の一つで、MOSFETをゲート部に組み込んだバイポーラトランジスタであり、電力制御の用途で使用される。IGBTを備えた電子機器には、大電力インバータの主変換素子、無停電電源装置、交流電動機の可変電圧可変周波数制御装置、鉄道車両の制御装置、ハイブリッドカー、エレクトリックカーなどの電動輸送機器、IH調理器などを挙げることができる。
【0083】
以上、本発明を熱伝導性の無機フィラーと、ポリシロキサン共重合体とにより形成し、高い熱伝導性と高い耐熱性を有する放熱部材を得るとして説明したが、本発明はこれに限られない。
すなわち、本発明は、無機材料と有機化合物の複合化において、無機材料間に有機化合物で結合を形成し、熱伝導性を著しく向上させ、さらに耐熱性を向上させたものである。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。しかし本発明は、以下の実施例に記載された内容に限定されるものではない。
【0085】
本発明の実施例に用いた、放熱部材を構成する材料は次のとおりである。
【0086】
<ポリシロキサン共重合体>
[合成例1]
ケイ素化合物1の作製
100mLフラスコに、冷却管、マグネチックスターラー、温度計保護管を取り付け、フラスコ内部を窒素置換した。式(A)におけるR0がフェニルでありR1がメチルである化合物 10.0g、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)2.3g、メタンスルホン酸 0.47g、脱水トルエン 10.2g、4-メチルテトラヒドロピラン 2.6gをフラスコに入れた。80℃で7時間撹拌した後、水 30.0g、酢酸エチル56.3gを加え、水層を抜き出した。有機層をブラインで3回洗浄後、硫酸ナトリウム 5.0 g、キョーワード500 4.2gを加え、終夜撹拌した。減圧ろ過により固体をろ別し、ろ液を濃縮した。濃縮液にヘプタンとメタノールを加え、得られた沈殿を80℃で減圧乾燥することにより、白色固体9.9gを得た。1H-NMR及びGPC分析により、得られた白色固体は式(1’)で表されるケイ素化合物であり、式(1’)中の各構成単位(シルセスキオキサンユニットとジメチルシロキサンユニット)が交互に結合してなるポリマーであり、DMSユニット数nは平均2.7であることがわかった。GPC分析よりケイ素化合物1の数平均分子量はMn=45,300、重量平均分子量はMw=110,000であった。
【0087】
【0088】
[合成例2]
ケイ素化合物2の作成
100mLフラスコに、冷却管、メカニカルスターラー、温度計保護管を取り付け、フラスコ内部を窒素置換した。式(A)におけるR0がフェニルでありR1がメチルである化合物 10.0g、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)4.50g、メタンスルホン酸0.681g、脱水トルエン 12.1g、4-メチルテトラヒドロピラン3.04gをフラスコに入れた。80℃で5時間撹拌した。反応混合物を水へ注ぎ込み、水層を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムとキョーワード500を加え撹拌した。無水硫酸ナトリウムとキョーワード500をろ別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をヘプタンで再沈殿させて精製した。得られた白色固体を80℃で真空乾燥することにより白色固体9.53gを得た。1H-NMR及びGPC分析により、得られた白色固体は式(1’)で表されるケイ素化合物であり、式(1’)中の各構成単位(シルセスキオキサンユニットとジメチルシロキサンユニット)が交互に結合してなるポリマーでありDMSユニット数nは平均3.8であることがわかった。GPC分析よりケイ素化合物2の数平均分子量はMn=40,000、重量平均分子量はMw=93,500であった。
【0089】
[合成例3]
ケイ素化合物3の作製
100mLフラスコに、冷却管、マグネチックスターラー、温度計保護管を取り付け、フラスコ内部を窒素置換した。式(A)におけるR0がフェニルでありR1がメチルである化合物 10.0g、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)2.3g、メタンスルホン酸 3.2g、脱水トルエン 12.6g、4-メチルテトラヒドロピラン 3.2gをフラスコに入れた。80℃で2時間撹拌した後、5時間還流した。水 30.0g、酢酸エチル46.6gを加え、水層を抜き出した。有機層をブラインで2回洗浄後、硫酸ナトリウム 5.0g、キョーワード500 32.0gを加え、終夜撹拌した。減圧ろ過により固体をろ別し、ろ液を濃縮した。濃縮液にヘプタンとメタノールを加え、得られた沈殿を80℃で減圧乾燥することにより、白色固体9.5gを得た。1H-NMR及びGPC分析により、得られた白色固体は式(1’)で表されるケイ素化合物であり、1H-NMR及びGPC分析により、得られた白色固体は式(1’)で表されるケイ素化合物であり、式(1’)中の各構成単位(シルセスキオキサンユニットとジメチルシロキサンユニット)が交互に結合してなるポリマーであり、DMSユニット数nは平均3.2であることがわかった。GPC分析よりケイ素化合物3の数平均分子量はMn=10,300、重量平均分子量はMw=15,100であった。
【0090】
[合成例4]
ケイ素化合物4の作製
1000mLフラスコに、冷却管、メカニカルスターラー、温度計保護管を取り付け、フラスコ内部を窒素置換した。式(A)におけるR0がフェニルでありR1がメチルである化合物 100g、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)30.0g、メタンスルホン酸5.35g、脱水トルエン 108g、4-メチルテトラヒドロピラン27.1gをフラスコに入れた。80℃で5時間撹拌した。反応混合物を水へ注ぎ込み、水層を酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムとキョーワード500を加え撹拌した。無水硫酸ナトリウムとキョーワード500をろ別し、得られた溶液を減圧下で濃縮した。得られた粗生成物をヘプタンで再沈殿させて精製した。得られた白色固体を80℃で真空乾燥することにより白色固体107gを得た。1H-NMR及びGPC分析により、得られた白色固体は式(1’)で表されるケイ素化合物であり、式(1’)中の各構成単位(シルセスキオキサンユニットとジメチルシロキサンユニット)が交互に結合してなるポリマーでありDMSユニット数nは平均2.6であることがわかった。GPC分析よりケイ素化合物4の数平均分子量はMn=43,600、重量平均分子量はMw=141,400であった。
【0091】
GPC測定の測定条件を以下に示す。
<測定条件>
カラム:Shodex KF-804L 300×8.0mm
Shodex KF-805L 300×8.0mm 2本直列
移動相:THF
流速:1.0ml/min
温度:40℃
検出器:RI
分子量標準サンプル:分子量既知のPMMA
【0092】
<熱伝導性の無機フィラー>
・窒化ホウ素:h-BN粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン(合)製、(商品名)PolarTherm PTX-25)(PTX-25)
・アルミナ:DAW-20(デンカ)
【0093】
<シランカップリング剤1>
・東京化成工業(株)製、デシルトリエトキシシラン、(DTES)
<シランカップリング剤2>
・東京化成工業(株)製、フェニルトリエトキシシラン、(PhTES)
【0094】
<架橋剤化合物>
・メチルシリケート、三菱ケミカル(株)製、(商品名)MS-51
・1,4-ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、Gelest製、(1,4-BTESB)
【0095】
<触媒>
・ラウリン酸ジブチル錫(東京化成工業(株)製)(DBTDL)
【0096】
<溶剤>
・メタノール(富士フイルム和光純薬((株)製)
・1-メチル-2-ピロリドン(富士フイルム和光純薬((株)製)
【0097】
<カップリング剤の処理 1>
窒化ホウ素(PTX-25) 20.0gと、メタノール 70.0gと、DTES 2.0gとをガラス容器に入れ、攪拌した後に、超純水17.5gを加え、12時間常温で攪拌した。これを減圧濾過し、固形分を得た。フィラーの洗浄として、ガラス容器に入れ、メタノール 100gを加え、数分攪拌した。減圧濾過してフィラーの洗浄をする工程は3回行った。洗浄された固形分を減圧濾過し、ガラス容器に入れ、真空乾燥機で、120℃で5時間乾燥させ、粉末状の<フィラー1>を得た。
【0098】
<カップリング剤の処理 2>
<カップリング剤の処理 1>と同様の手法で、DTESの代わりにPhTESを用いて、粉末状の<フィラー2>を作製した。
【0099】
[実施例1]
<放熱部材の調製>
以下に、放熱部材の調製例を示す。
<ケイ素化合物1>1gを、NMP1mLに加え、終夜攪拌した。その後、DAW-20を2g加え、真空泡取練太郎を用いて、無加圧条件下で2000rpmにて回転処理を1分、その後100.3kPaに減圧した条件で2000rpmにて回転処理を1分行った。
【0100】
φ2.5cmの穴が開いた厚さ3mmのステンレス製の板に、φ2.5cmに加工した1mmのPTFE板を押し込み固定したものを作製し、上記組成物を一杯になる様に入れた。これを70℃にて30分加熱し、その後、110℃にて30分、220℃で4時間加熱した。その後、放熱部材としての厚みが602μmの円形片を取り出した。
【0101】
熱伝導率評価
熱伝導率は、予め放熱部材の25℃における比熱((株)リガク製DSC型高感度示差走査熱量計Thermo Plus EVO2 DSC-8231で測定した)と25℃における比重(新光電子(株)製比電子はかり式比重計DME-220により測定した)を求めておき、その値を(株)アイフェイズ製ai-Phase Mobile 1u熱拡散率測定装置により求めた25℃における熱拡散率を掛け合わせることにより厚み方向の熱伝導率を求めた。
【0102】
<評価>
熱重量(TG)測定
放熱部材のシランカップリング剤の熱伝導性の無機フィラーに対する被覆量は、熱重量・示差熱測定装置((株)リガク製TG-8121)を用いて、その901℃における加熱減量から算出した。
また、放熱部材の5%重量減少温度は、前記の測定装置を用いて、140℃から900℃への減少量を100重量%とした際の5重量%減少した時の温度から算出した。
【0103】
[実施例2]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー2>をDAW-20の代わりに用いた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0104】
[実施例3]
<ケイ素化合物2>1gを、NMP4mLに加え、終夜攪拌した。その後、MS-51を36mg、DBTDLを1.26mg、さらにDAW-20を2g加えた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0105】
[実施例4]
<ケイ素化合物1>1gを、NMP4mLに加え、終夜攪拌した。その後、MS-51を32mg、DBTDLを1.12mg、さらにDAW-20を2g加えた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0106】
[実施例5]
<ケイ素化合物3>1gを、NMP4mLに加え、終夜攪拌した。その後、MS-51を140mg、DBTDLを4.91mg、さらにDAW-20を2g加えた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0107】
[実施例6]
<ケイ素化合物4>1gを、NMP1mLに加え、終夜攪拌した。その後、MS-51を33mg、DBTDLを1.15mg、さらにDAW-20を1g加えた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0108】
[実施例7]
DAW-20を2g用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0109】
[実施例8]
DAW-20を5g用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0110】
[実施例9]
DAW-20を10g用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0111】
[実施例10]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー1>2gをDAW-20の代わりに用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0112】
[実施例11]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー2>2gをDAW-20の代わりに用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0113】
[実施例12]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー1>2gおよびDAW-20を13g混ぜたものをDAW-20の代わりに用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0114】
[実施例13]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー2>2gおよびDAW-20を13g混ぜたものをDAW-20の代わりに用いた以外は、実施例6と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0115】
[実施例14]
架橋剤として、1,4-BTESB44mgを用いた以外は、実施例5と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0116】
[比較例1]
KR-515を1g、NMP1mLに加え、終夜攪拌した。その後、MS-51を33mg、DBTDLを1.15mg、さらにDAW-20を2g加えた以外は、実施例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0117】
[比較例2]
DAW-20を5g用いた以外は、比較例1と同様に試料を作製し、測定を行った。
【0118】
[比較例3]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー1>2gを用いた以外は、比較例1と同様に試料を作製したが、硬化物は熱拡散率を測定できる程の強度がなかった。
【0119】
[比較例4]
熱伝導性の無機フィラーとして、<フィラー2>2gを用いた以外は、比較例1と同様に試料を作製したが、硬化物は熱拡散率を測定できる程の強度がなかった。
【0120】
【0121】
表1からは、ポリシロキサン共重合体と汎用のシリコーン材料との比較では、ポリシロキサン共重合体の方が同じアルミナを用いたとき、熱伝導率はやや劣るものの、5%重量減少温度が著しく高いことがわかる。また、汎用のシリコーンでは窒化ホウ素を用いて硬化することはできないが、ポリシロキサン共重合体においては、硬化ができ、高い熱伝導率である。汎用のシリコーンは窒化ホウ素との相溶性が悪く、表面処理を行ったものに対してもその効果はなく、反応基となる部位が窒化ホウ素の凝集体の内部に入ってしまったため硬化しない。一方で、ポリシロキサン共重合体の構造は窒化ホウ素に表面処理を施すと相溶性がある程度上がることで、硬化がより強固となった模様である。また、ケイ素化合物の分子量による熱伝導率や5%重量減少温度での差はあまり見られなかった。有機無機ハイブリッド材である本発明の放熱部材用組成物は、耐熱性が高く熱伝導率も高い材料であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の放熱部材用組成物は、樹脂の持つ加工性と極めて高い耐熱性を併せ持ち、さらに電子機器内部に生じた熱を効率よく伝導、伝達することにより放熱できるので、電子基板等の電子機器に用いることができる。
【符号の説明】
【0123】
1 熱伝導性の第1の無機フィラー
2 熱伝導性の第2の無機フィラー
11 第1の表面処理剤
12 第2の表面処理剤
21 ポリシロキサン共重合体