(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】FZ用シリコン原料結晶の製造方法及びFZ用シリコン原料結晶の製造システム
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240312BHJP
C30B 13/28 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C30B29/06 501A
C30B13/28
(21)【出願番号】P 2020129812
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
(72)【発明者】
【氏名】児玉 義博
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117177(JP,A)
【文献】特開2010-280531(JP,A)
【文献】特開2017-191800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 13/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用した、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造方法であって、
前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度測定を行い、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定し、
前記決定した製造条件で前記最終シリコン結晶棒を引き上げて製造することを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造方法。
【請求項2】
前記製造条件として、結晶成長速度、結晶回転数、及び結晶固化率の少なくとも1つに関する条件を決定することを特徴とする請求項1に記載のFZ用シリコン原料結晶の製造方法。
【請求項3】
前記製造条件を予め準備された複数の製造条件の中から選択して決定し、
前記最終シリコン結晶棒の製造に、前記決定した製造条件を適用することを特徴とする請求項1又は2に記載のFZ用シリコン原料結晶の製造方法。
【請求項4】
FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造システムであって、
CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を前記FZ用シリコン原料結晶として取得するように構成された、マルチプーリング法を使用するシリコン結晶棒引き上げ装置と、
前記シリコン結晶棒引き上げ装置で引き上げる前記複数本のシリコン結晶棒のうち、前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度を測定するように構成された炭素濃度測定装置と、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定するように構成され、且つ前記シリコン結晶棒引き上げ装置による前記最終シリコン結晶棒の製造を前記決定した製造条件に制御するように構成された製造条件制御手段と
を具備したものであることを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造システム。
【請求項5】
前記製造条件制御手段は、前記決定する製造条件を予め準備された複数の製造条件の中から選択するように構成され且つ選択して決定した前記製造条件を前記最終シリコン結晶棒の製造に適用するように構成されたものであることを特徴とする請求項4に記載のFZ用シリコン原料結晶の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ法(フローティングゾーン法または浮遊帯溶融法)によるシリコン単結晶製造に使用する原料結晶を、チョクラルスキー(Czochralski、以下CZと略称する)法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用して製造する、FZ用シリコン原料結晶の製造方法及びFZ用シリコン原料結晶の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
FZ法は、例えば、現在半導体素子として最も多く使用されているシリコン単結晶等の半導体単結晶の製造方法の一つとして、使用される。
【0003】
図3に、一般的に用いられるFZ法による単結晶製造装置の概略断面図を示す。
【0004】
FZシリコン単結晶の製造装置100のチャンバー11内には、上軸12及び下軸13が設けられている。上軸12は、原料棒であるFZ用シリコン原料結晶24が取り付けられるように構成されている。下軸13は、種結晶14が取り付けられるように構成されている。さらに、FZシリコン単結晶の製造装置100は、FZ用シリコン原料結晶24を溶融する高周波コイル15を備え、溶融帯域17をFZ用シリコン原料結晶24に対して相対的に移動させながら晶出側半導体棒(シリコン単結晶)18を成長させることができる。また、成長中に、ドーパントガスドープノズル19(ドーパントガス供給手段19)からドーパントガスを供給できるようになっている。図中の下向き矢印Aは結晶移動の方向を示す。
【0005】
以下、
図3に示すFZ単結晶の製造装置100を用いて、シリコン単結晶18を製造する方法について説明する。
【0006】
まず、上軸12には原料棒であるFZ用シリコン原料結晶24として、例えば所定の直径のシリコン多結晶棒を取り付け、また下軸13に種結晶14を取り付ける。FZ用シリコン原料結晶24を高周波コイル15等で溶融した後、種結晶14に融着させる。種結晶14から成長させる晶出側半導体棒18を絞り16により無転位化し、両軸12及び13を回転させながらFZ用シリコン原料結晶24を高周波コイル15に対して相対的に下降させ、溶融帯域17をFZ用シリコン原料結晶24に対して相対的に上へと移動させながら、シリコン単結晶(晶出側半導体棒)18を成長させる。
【0007】
シリコン単結晶18の成長では、絞り16を形成した後に所望の直径まで拡径させながら成長させてコーン部を形成し、所望の直径に達した後にその直径を維持するよう制御しつつ成長させて直胴部を形成する。次いで、溶融帯域17をFZ用シリコン原料結晶24の上端まで移動させてから、シリコン単結晶18の直径を縮径させて該シリコン単結晶18を前記FZ用シリコン原料結晶24から切り離して成長を終え、半導体単結晶製造の工程を終了する。
【0008】
前記の原料棒であるFZ用シリコン原料結晶24には、FZ用多結晶原料棒だけでなく、CZ法により製造されたシリコン結晶棒(以下、CZ結晶棒とも呼ぶ)を用いる場合が増えている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0009】
図4に、一般的に用いられるCZ法によるシリコン結晶製造装置であるシリコン結晶棒引き上げ装置の概略図を示す。
【0010】
CZシリコン結晶棒引き上げ装置200のチャンバー21内には、石英ルツボ22が設置されている。この石英ルツボ22は、原料としてのシリコン結晶を収容できるように構成されている。CZシリコン結晶棒引き上げ装置200は、石英ルツボ22を上下方向に変位させるように構成された機構(図示せず)と石英ルツボ22内の原料を加熱するように構成された加熱手段(図示せず)が設けられている。また、石英ルツボ22の上方には、種結晶23及び結晶の引上機構(図示せず)が配置されている。
【0011】
以下、
図4に示す製造装置を用いて、シリコン結晶棒を製造する方法について説明する。
【0012】
CZ結晶棒24を製造する際には、まず石英ルツボ22内の原料シリコン結晶を加熱、溶融し、原料融液25とする。次いで、種結晶23を原料融液25に接触させ、その後、種結晶23を上方に引き上げながら所望の大きさとなるまで直径を拡大し(コーン部成長)、その後に所望の長さの円柱状直胴部を成長させ(直胴部成長)、最終的には徐々に直径を減少させて(テール部成長)原料融液25と切り離し結晶成長を終える。引き上げの際、種結晶23及び/又は石英ルツボ22を回転させて、種結晶23を原料融液25に対して相対的に回転させる。テール部の形成の際に、急激に直径を減少させると縮径が十分になされない段階で原料融液25とCZ結晶棒24が切り離されてしまい、大きな熱ショックによりスリップ転位が導入される危険性が高まる。このため、縮径は比較的ゆっくり行われ、テール部長さは長くなる。
【0013】
このようにCZ結晶棒は、円柱状の直胴部の両端部にコーン部とテール部を有している。そのため、FZ法によりシリコン単結晶を製造する際には、FZ単結晶製造装置の上部保持治具にCZ結晶棒を保持するための措置が取られる。例えば、特許文献2には、テール部付近の直胴部の外周方向に沿って凸部を形成し、この形成した凸部を把持する方法が開示されている。
【0014】
CZ結晶棒のコーン部についても、FZ単結晶製造に用いる際により使用しやすくなるような工夫が適用されることもあり、例えば特許文献3には、コーン部の先端形状を所定の角度とする方法が開示されている。
【0015】
近年、省エネルギーの面からパワー半導体デバイスが脚光を浴びているが、その中でも電気自動車やハイブリット自動車用を中心に使用されているIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)では、ライフタイムコントロールのために電子線等の照射が行われている。この際、照射に対して炭素の影響が原因となるリーク不良が発生し、デバイス製造上の問題となることがある。このような背景から、デバイス作製に用いられるシリコン単結晶中の炭素濃度を、特に1×1015atoms/cm3以下に低減する要求がある。
【0016】
CZ結晶棒を使用して製造されたFZシリコン単結晶もパワー半導体デバイス用途に用いられており、FZシリコン単結晶中の炭素濃度を所望の低レベルに抑えること、更にはその原料であるCZ結晶棒の炭素濃度を所望の低レベルに抑えることが肝要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2005-306653号公報
【文献】特開2013-139388号公報
【文献】特開2015-117177号公報
【文献】特開2011-157239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
CZ法によりFZ用原料結晶となるシリコン結晶棒を成長させる時に、偏析現象により結晶中の炭素濃度は結晶終端側(テール部側)で最大級となる。特に一つの石英ルツボから複数本のCZシリコン結晶棒を成長させるマルチプーリング法で前記の結晶を取得しようとする場合は、マルチプーリング最終取得結晶のテール部側で炭素濃度が最大級となるため、この部分まで所望の炭素濃度以下に抑えられ、かつ生産性、歩留ができるだけ高くなる製造条件を適用するのが望ましい。
【0019】
しかしながら、通常は要求品質が得られる製造条件を適用して結晶を取得したとしても、工程のバラツキにより取得したCZ結晶の品質バラツキが発生することで、炭素濃度の上振れによっては当該結晶の炭素濃度が所望の値を超える結晶が出る可能性がある。
【0020】
このため、従来は、ある程度炭素濃度が低減される製造条件を適用して不合格品発生を回避していた。例えば特許文献4にはCZ結晶成長中の結晶引上速度や結晶回転数を変化させ、シリコン結晶への不純物取り込まれ量を変化させる方法が開示されている。また、偏析現象を考慮すると、固化率が低い段階で結晶製造を終える、すなわち結晶とならずに残った原料融液の量(残湯量)を増加させることでも、結晶中の不純物濃度が低減される。
【0021】
前述したように、CZ原料棒の炭素濃度低減に有効な結晶製造条件は、成長速度を遅くする、固化率を下げる、といったものになるが、このような条件は同時に生産性、歩留が低下するものであり、必要以上の適用は好ましくない。
【0022】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる、マルチプーリング法を使用したCZ法によるFZ用シリコン原料結晶の製造方法、及びマルチプーリング法を使用したCZ法によるFZ用シリコン原料結晶の製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明では、CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用した、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造方法であって、
前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度測定を行い、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定し、
前記決定した製造条件で前記最終シリコン結晶棒を引き上げて製造することを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造方法を提供する。
【0024】
このような製造方法であれば、マルチプーリング法によるCZシリコン結晶棒製造中に、通常とは異なるレベルの炭素の混入があったとしても、最終シリコン結晶棒製造前に検知することができ、最終シリコン結晶棒の炭素濃度を要求される範囲内で製造することができる。他方、通常の炭素濃度レベルである場合も検知することができ、この場合は、生産性及び歩留の高い製造条件を適用することができる。
【0025】
従って、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法によれば、生産性及び歩留の高い製造条件の最大限の適用と、要求範囲内の炭素濃度である最終シリコン結晶棒の取得との両方を達成することができる。すなわち、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法によれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。
【0026】
また、前記製造条件として、結晶成長速度、結晶回転数、及び結晶固化率の少なくとも1つに関する条件を決定することができる。
【0027】
これらの製造条件項目を調整することにより、最終シリコン結晶棒の炭素濃度の低減を特に簡便に行うことができる。
【0028】
また、前記製造条件を予め準備された複数の製造条件の中から選択して決定し、前記最終シリコン結晶棒の製造に、前記決定した製造条件を適用することができる。
【0029】
このような方法を取ることで、炭素濃度が要求範囲内である最終シリコン結晶棒の製造を、より確実、かつ効率的に行うことができる。
【0030】
また、本発明は、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造システムであって、
CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を前記FZ用シリコン原料結晶として取得するように構成された、マルチプーリング法を使用するシリコン結晶棒引き上げ装置と、
前記シリコン結晶棒引き上げ装置で引き上げる前記複数本のシリコン結晶棒のうち、前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度を測定するように構成された炭素濃度測定装置と、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定するように構成され、且つ前記シリコン結晶棒引き上げ装置による前記最終シリコン結晶棒の製造を前記決定した製造条件に制御するように構成された製造条件制御手段と
を具備したものであることを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造システムを提供する。
【0031】
このような製造システムを用いることにより、マルチプーリング法によるCZシリコン結晶棒製造中に、通常とは異なるレベルの炭素の混入があったとしても、最終シリコン結晶棒製造前に検知することができ、最終シリコン結晶棒の炭素濃度を要求される範囲内で製造することができる。他方、通常の炭素濃度レベルである場合も検知することができ、この場合は、生産性及び歩留の高い製造条件を適用することができる。
【0032】
従って、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いれば、生産性及び歩留の高い製造条件の最大限の適用と、要求範囲内の炭素濃度である最終シリコン結晶棒の取得との両方を達成することができる。すなわち、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。
【0033】
前記製造条件制御手段は、前記決定する製造条件を予め準備された複数の製造条件の中から選択するように構成され且つ選択して決定した前記製造条件を前記最終シリコン結晶棒の製造に適用するように構成されたものであってもよい。
【0034】
このような製造システムであれば、炭素濃度が要求範囲内である最終シリコン結晶棒の製造を、より確実、かつ効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0035】
以上のように、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法であれば、生産性及び歩留の高い製造条件の最大限の適用と、要求範囲内の炭素濃度である最終シリコン結晶棒の取得との両方を達成することができる。すなわち、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法によれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。従って、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法を適用すれば、例えばパワー半導体デバイス用途で要求される炭素濃度を満足するシリコン単結晶をFZ法によって高い生産性及び高い歩留まりで製造することができる。
【0036】
また、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いれば、生産性及び歩留の高い製造条件の最大限の適用と、要求範囲内の炭素濃度である最終シリコン結晶棒の取得との両方を達成することができる。すなわち、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。また、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いることにより、確実で簡便に最終シリコン結晶棒の製造条件の決定を行うことができ、要求された品質を満足する最終シリコン結晶棒を製造できる。従って、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いれば、例えばパワー半導体デバイス用途で要求される炭素濃度を満足するシリコン単結晶をFZ法によって高い生産性及び高い歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法の一例のフローチャートである。
【
図3】一般的に用いられるFZ法による単結晶製造装置の概略断面図である。
【
図4】一般的に用いられるCZ法によるシリコン結晶製造装置であるシリコン結晶棒引き上げ装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
前述したように、FZシリコン単結晶製造の原料となるCZ結晶棒の製造を行う際に、取得したCZ結晶棒の炭素濃度が所定の上限値を超えないことは、このCZ結晶棒を元として育成されるFZ結晶を用いて最終的に製造される半導体デバイスの特性悪化を防ぐことに繋がり、非常に重要なことである。このため、CZ結晶棒の製造条件は元より、材料に用いられるシリコン原料の品質、製造装置・部材の品質、製造装置の設計、製造その他の環境管理、など様々な対象において炭素濃度低減策を講じ、求められる品質レベルを維持している。
【0039】
一方で、CZ結晶棒は、半導体デバイスの材料となるFZシリコン単結晶製造の、更に原料の段階であり、できる限り製造コストを低く抑えるのが望ましい。このため、取得したCZ結晶棒に機械加工などでのロスをできるだけ生じさせることなく、FZシリコン単結晶製造に投入するための工夫を行う、石英ルツボ内の残湯量をできるだけ小さくし製造歩留を上げる、またマルチプーリング法を適用し、1つの石英ルツボから複数のCZ結晶棒を取得する、などのコストを下げる試みを行っている。
【0040】
しかしながら、低コスト化の方策には得られるシリコン結晶棒中の炭素濃度の低減に逆行する内容が多く、低コスト化に寄り過ぎた製造条件では、工程の変動が生じた場合には炭素濃度が所定の上限値を超える可能性が高まる。そうでなくとも突発的に結晶中の炭素濃度が所定の上限値を超える事象が低頻度ながら見られ、この発生を完全に防ぐための比較的簡便で即効性のある方策は、結晶炭素濃度低減に大きく寄った製造条件とする、すなわちコストアップを許容するものが挙げられる。
【0041】
本発明者らは、このような問題について鋭意検討を重ねたところ、以下のような着想を得た。
【0042】
まず、本発明の対象であるCZ結晶棒について、不純物濃度自体は重要であるが、半導体デバイス向けとして製造されたCZシリコン単結晶とは異なり、ウェーハに加工して使用するものではなく再度溶融してFZシリコン単結晶を製造するためのものであるから、抵抗率や酸素濃度の断面内分布、或いは結晶欠陥の分布はさほど問題とはならない。このため、CZ結晶棒の製造条件には比較的制約が少ない。
【0043】
また、マルチプーリング法を使用していれば、最終シリコン結晶棒の製造前にそれ以前の取得結晶の炭素濃度値を知ることが可能であるため、最終シリコン結晶棒の炭素濃度を推定し、その推定値が所定の上限を超える場合のみ特定の炭素濃度を低減するための製造条件を用いることとすれば、一律で生産性及び歩留が低下する製造条件を使用する必要は無い。
【0044】
本発明者らは、以上の着想に基づいて、本発明を完成させた。
【0045】
即ち、本発明は、CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用した、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造方法であって、
前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度測定を行い、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定し、
前記決定した製造条件で前記最終シリコン結晶棒を引き上げて製造することを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造方法である。
【0046】
また、本発明は、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造システムであって、
CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を前記FZ用シリコン原料結晶として取得するように構成された、マルチプーリング法を使用するシリコン結晶棒引き上げ装置と、
前記シリコン結晶棒引き上げ装置で引き上げる前記複数本のシリコン結晶棒のうち、前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度を測定するように構成された炭素濃度測定装置と、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定するように構成され、且つ前記シリコン結晶棒引き上げ装置による前記最終シリコン結晶棒の製造を前記決定した製造条件に制御するように構成された製造条件制御手段と
を具備したものであることを特徴とするFZ用シリコン原料結晶の製造システムである。
【0047】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[FZ用シリコン原料結晶の製造システム]
本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムは、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造システムであって、
CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を前記FZ用シリコン原料結晶として取得するように構成された、マルチプーリング法を使用するシリコン結晶棒引き上げ装置と、
前記シリコン結晶棒引き上げ装置で引き上げる前記複数本のシリコン結晶棒のうち、前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度を測定するように構成された炭素濃度測定装置と、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定するように構成され、且つ前記シリコン結晶棒引き上げ装置による前記最終シリコン結晶棒の製造を前記決定した製造条件に制御するように構成された製造条件制御手段と
を具備したものである。
【0049】
以下、
図1を参照しながら、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムの一例を具体的に説明する。
【0050】
図1に示すFZ用シリコン原料結晶の製造システム1000は、シリコン結晶棒引き上げ装置200と、炭素濃度測定装置300と、製造条件制御手段400とを具備する。
【0051】
シリコン結晶棒引き上げ装置200は、CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を前記FZ用シリコン原料結晶として取得するように構成された、マルチプーリング法を使用するシリコン結晶棒引き上げ装置である。シリコン結晶棒引き上げ装置200は、例えば、
図4を参照しながら具体的に説明した構成を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0052】
炭素濃度測定装置300は、シリコン結晶棒引き上げ装置200で引き上げる複数本のシリコン結晶棒24のうち、マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前にこのマルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒24aの炭素濃度を測定するように構成されたものである。炭素濃度測定装置300は、例えばFT-IRのような測定装置である。炭素濃度測定装置300は、最終シリコン結晶棒の炭素濃度を測定することもできる。
【0053】
製造条件制御手段400は、炭素濃度測定装置300によるシリコン結晶棒24aの炭素濃度の測定値の情報を炭素濃度入力配線301を介して受け取って、この測定値の情報に応じて、最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように最終シリコン結晶棒の製造条件を決定するように構成されたものである。また、製造条件制御手段400は、更に、制御信号入力配線401を介して製造条件の信号をシリコン結晶棒引き上げ装置200に入力し、シリコン結晶棒引き上げ装置200による最終シリコン結晶棒の製造を、先に決定した製造条件に制御するように構成されたものである。
【0054】
製造条件制御手段400は、決定する製造条件を予め準備された複数の製造条件の中から選択するように構成され且つ選択して決定した製造条件を最終シリコン結晶棒の製造に適用するように構成されたものであってもよい。
【0055】
本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いて行うことができるFZ用シリコン原料結晶の製造の製造方法は、後述する。
【0056】
[FZ用シリコン原料結晶の製造方法]
本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法は、CZ法により同一の石英ルツボから複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用した、FZ法によるシリコン単結晶製造で使用するFZ用シリコン原料結晶の製造方法であって、
前記マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度測定を行い、
前記炭素濃度の測定値に応じて、前記最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、前記最終シリコン結晶棒の製造条件を決定し、
前記決定した製造条件で前記最終シリコン結晶棒を引き上げて製造することを特徴とする。
【0057】
本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法は、例えば先に説明した本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造システムを用いて行うことができるが、他の製造システムにおいて行っても構わない。
【0058】
以下、
図1に示したFZ用シリコン原料結晶の製造システム1000を用いて行う、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法の例を、
図2を参照しながら説明する。
【0059】
図2に示すように、この例のFZ用シリコン原料結晶の製造方法は、
(a)マルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒の炭素濃度測定を行う工程、
(b)(a)工程で測定した炭素濃度の測定値に応じて、最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、最終シリコン結晶棒の製造条件を決定する工程、
(c)(b)工程で決定した製造条件で最終シリコン結晶棒を引き上げて製造する工程
を経て、要求品質を満たすシリコン結晶棒(CZ結晶棒)を取得する方法である。
【0060】
この例の製造方法では、シリコン結晶棒引き上げ装置200を用いて、CZ法により同一の石英ルツボ22から、FZ用シリコン原料結晶として、複数本のシリコン結晶棒を取得するマルチプーリング法を使用する。マルチプーリング法は、例えば、石英ルツボに初期チャージされた原料から1本目の結晶棒を引き上げ、その後減少した原料分を石英ルツボに補充して溶融した後、2本目の結晶棒を引き上げ、これを繰り返す方法である。最終結晶引き上げは、石英ルツボの寿命がくる前に行なわれ、通常、石英ルツボ内に原料の残湯が多く残らないようにして長尺の結晶棒が引き上げられる。
【0061】
(a)工程では、このマルチプーリング法における最終結晶引き上げにより製造する最終シリコン結晶棒より前に該マルチプーリング法で製造された少なくとも一つのシリコン結晶棒24aの炭素濃度測定を行う。
【0062】
マルチプーリング法では、一般的には、予め要求された結晶品質を有するシリコン結晶棒24が得られることが確認されている所定の製造条件を適用してシリコン結晶棒24の製造を行うが、(a)工程で炭素濃度を測定するシリコン結晶棒24aは、マルチプーリング法で最終シリコン結晶棒より前に製造される途中の結晶であり、シリコン結晶棒24aの製造の段階の残湯量が当該バッチの最終的な残湯量にはならないため、この時点で歩留の低下を心配する必要は無い。従って、ここでは低固化率の条件を適用し、取得結晶の炭素濃度を比較的簡便に低い値に抑えることができる。
【0063】
(a)工程では、以上のようにして取得したシリコン結晶棒24aの炭素濃度を測定する。炭素濃度測定は、例えばFT-IRのような炭素濃度測定装置300を用いて行う。
【0064】
この時に、測定サンプルであるシリコン結晶棒24aは断面切断してWAFER形状にサンプリングするのが簡便だが、偏析現象の影響により結晶成長後半のテール側で結晶炭素濃度が上昇すること、また取得したシリコン結晶棒24aはFZシリコン単結晶製造用の原料結晶であるから、できるだけ長尺であることが好ましいことを考慮すると、サンプリングはシリコン結晶棒24aの終端部付近から行うのが好ましい。
【0065】
次に、(b)工程で、(a)工程で測定した炭素濃度の測定値に応じて、最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、最終シリコン結晶棒の製造条件を決定する。
【0066】
最終シリコン結晶棒の製造においても、それまでの途中のシリコン結晶棒24aの製造の場合と同様に要求される結晶品質を有するシリコン結晶棒が得られることが予め確認されている所定の製造条件を適用して結晶製造を行うのが一般的である。
【0067】
最終シリコン結晶棒の炭素濃度をより低いレベルに抑えようとすれば、(a)工程で取得されている途中のシリコン結晶棒24aの炭素濃度も必然的に低レベルとするべきである。
【0068】
しかしながら、もし(a)工程で測定された炭素濃度が、当該製造方法での通常レベルより高い場合は、何らかの要因で通常より炭素含有量が多くなっているということが想定され、その後に製造され偏析により最も炭素濃度が高くなる最終シリコン結晶棒を通常使用している所定の条件で製造した場合は取得される該最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲を逸脱する可能性がある。
【0069】
このため、(b)工程では、(a)工程で測定された炭素濃度に応じて、最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように、最終シリコン結晶棒の製造条件を決定する。
【0070】
(b)工程は、(a)工程で測定した炭素濃度の測定値を確認するサブステップと、確認した炭素濃度の値から、製造条件を変えない場合の最終シリコン結晶棒の炭素濃度を、予測炭素濃度として算出するサブステップとを含む。これらのサブステップの目的は、その時点で得られている炭素濃度からマルチプーリングにおける最終シリコン結晶棒の予測炭素濃度を算出し、製造条件の決定に繋げることである。
【0071】
(a)工程で測定された炭素濃度から推測される最終シリコン結晶棒の予測炭素濃度が要求される範囲から逸脱する場合、最終シリコン結晶棒の製造条件を変更及び/又は調整した製造条件を、最終シリコン結晶棒の製造条件として決定する。
【0072】
一方、(a)工程で測定された炭素濃度から推測される最終シリコン結晶棒の予測炭素濃度が要求される範囲内となる場合、最終シリコン結晶棒の製造条件を予め決定された所定の最終シリコン結晶棒の製造条件として決定する。
【0073】
本発明において、(b)工程で製造条件の変更及び/又は調整が必要となった場合、簡便な製造条件変更が適用されることが好ましい。すなわち、製造装置内の部材の交換、追加や装置の改造等の方法による炭素濃度低減よりも比較的簡単に適用可能な結晶成長の条件調整にて行うのが好ましい。
【0074】
例えば、シリコン結晶への不純物導入には偏析現象が作用することを利用することができる。
【0075】
Burton、Plim、Slichterらによれば、見かけの偏析係数である有効偏析係数Keffは、以下の式(1)により導かれる。
Keff = K0/{K0+(1-K0)exp(-δ×V/D1)}…式(1)
ここでK0は対象元素の平衡偏析係数、Vは結晶成長速度、D1は融液中の拡散係数である。またδは拡散境界層の厚さで、結晶の回転数ωと以下の式(2)で結ばれる。
δ = 1.6×D1
1/3×η1/6×ω-1/2×d-1/6…式(2)
ここで、ηとdは各々融液の粘度と密度である。
【0076】
上記式(1)及び(2)で示される通り、成長速度が小さくなれば有効偏析係数は小さくなり、また回転数が大きくなればδは小さくなるため有効偏析係数も小さくなり、これらはいずれも結晶への不純物導入量が減少する傾向である。すなわち、(b)工程で炭素濃度を低減するように製造条件を変更する場合、結晶成長速度を小さくする、並びに回転数を大きくする、という製造条件の変更が有効である。結晶成長速度は結晶引上速度と置き換えてもよい。
【0077】
そして、CZ法での結晶中不純物濃度Csは、有効偏析係数Keffに関する下式(3)により求められる。
Cs = Keff×C0×(1-s)Keff-1…式(3)
ここでC0は融液中の初期不純物濃度、sは固化率である。
【0078】
式(3)の通り、結晶が成長し融液の量が減少するにつれて結晶中不純物濃度が上昇するため、(b)工程で炭素濃度を低減するように製造条件を決定しようとする場合、結晶成長を通常より早く終了し残湯量を多くする、言い換えると結晶固化率を下げた条件への変更が有効である。
【0079】
つまり、(b)工程において、製造条件として、結晶成長速度、結晶回転数、及び結晶固化率の少なくとも1つに関する条件を決定することで、炭素濃度が低減された最終シリコン結晶棒をより簡便に製造できる製造条件を決定することができる。
【0080】
なお、前記に挙げた条件変更を行えば取得炭素濃度の低減には有効であるが、その反面デメリットも存在する。成長速度を下げれば製造所要時間が増加し、生産性低下を引き起こす。また回転数を上げると結晶形状の悪化を引き起こしがちであり、結晶取得失敗に繋がる可能性がある。さらに固化率を下げる=残湯量を増やすということは単純にロス増加ということであり歩留低下となる。ことに固化率を下げる方法については、通常の製造条件で最終シリコン結晶棒を取得し炭素濃度が所定の上限値を超えたときに、結晶テール部側から切り込んでいき所定の炭素濃度上限値内である結晶部分のみを製品とする方法に比べ、作業工数を減らすことができ効率的であるが、歩留の面ではあまり変わらないと言える。
【0081】
これらの事情を鑑みて、特に商業生産であれば生産性、歩留低下になる要因の発生は必要最小限に収める必要があり、上記のような条件変更の結晶製造全体への適用は避けることが好ましい。よって、本発明の方法では、この例のように、(a)工程で測定された炭素濃度から推測される最終シリコン結晶棒の予測炭素濃度が要求される範囲内となる場合には、最終シリコン結晶棒の製造条件を、通常通りの所定の最終シリコン結晶棒の製造条件として決定することが好ましい。
【0082】
続く(c)工程で最終シリコン結晶棒を製造する際に、製造条件の調整が必要な場合はその都度調整することもできるが、予め複数の製造条件を準備しておきその中から(c)工程での製造条件を選択して決定し、決定した製造条件を適用して最終シリコン結晶棒の製造を行うのがより簡便な方法である。すなわち、(b)工程において、最終シリコン結晶棒の製造条件を、予め準備された複数の製造条件の中から選択して決定し、最終シリコン結晶棒の製造に、この決定した製造条件を適用することが好ましい。
【0083】
なお、所望の品質の最終シリコン結晶棒を取得するために、予め準備される複数の製造条件は、(a)工程で測定された、同一石英ルツボ22から最終シリコン結晶棒の製造より前に製造したシリコン結晶棒24aの炭素濃度値に応じて、最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように調整されたものであることが肝要である。
【0084】
(b)工程の製造条件決定のプロセスは、作業者の確認、判断、製造条件の選択等の作業により行うこともできるが、同一石英ルツボ22から最終シリコン結晶棒の製造より前に製造したシリコン結晶棒24aの炭素濃度の測定値を入力することにより、その値に応じて最終シリコン結晶棒の炭素濃度が要求される範囲内となるように製造条件を決定するシステム、例えば
図1に示す製造条件制御手段400によって実行することで、所望品質の最終シリコン結晶棒を取得する確実性をより高められる。この時もやはり、予め製造条件制御手段に複数の条件を設定しておき、その中から適正な製造条件を選択して決定し、決定した製造条件を(c)工程に適用する方法を取ることが効率的である。
【0085】
前述したように、マルチプーリング法での最終シリコン結晶棒製造より前の途中のシリコン結晶棒24aの製造段階では、この途中のシリコン結晶棒24aの取得時点の固化率を低くすることで、比較的簡便に取得結晶の炭素濃度を低い値に抑えることができるため、他の製造条件、とりわけ結晶成長速度は結晶取得に支障のない範囲内でできる限り大きくすることが生産性向上の面において有利である。
【0086】
ただし、作業者が異常有無の判断を行う場合は、途中のシリコン結晶棒24aの炭素濃度が測定装置の検出下限以内に収まるような条件設定としておくと、更に都合がよい。途中のシリコン結晶棒24aの炭素濃度測定から算出される予測炭素濃度が通常通り検出下限を超えない場合は所定の設定製造条件をそのまま適用すれば所望品質の結晶取得が可能であり、一方で検出下限を超えた場合はそれに応じた製造条件を選択して決定し、決定した製造条件を適用すればよいので、間違いが減る。製造条件制御手段400が、シリコン結晶棒引き上げ装置200と炭素濃度測定装置300までオンラインで接続し、炭素濃度測定結果をフィードバックして製造条件を自動選択できるように構成されたものとすれば、更に間違いを少なくすることができる。
【0087】
続く(c)工程では、(b)工程で決定した製造条件で最終シリコン結晶棒を引き上げて製造する。
【0088】
少なくとも最終シリコン結晶棒の製造が終了するまでに製造条件を変更・調整すれば、要求する品質の最終シリコン結晶棒が得られる可能性はあるが、より安定、確実かつ効率的に本発明の方法を行うためには、(a)工程及び(b)工程までを最終シリコン結晶棒の製造前までに実施し、その後最終シリコン結晶棒の製造工程である(c)工程を実施する。
【0089】
このような製造方法であれば、マルチプーリング法によるCZシリコン結晶棒製造中に、通常とは異なるレベルの炭素の混入があったとしても、最終シリコン結晶棒製造前に検知することができ、最終シリコン結晶棒の炭素濃度を要求される範囲内で製造することができる。他方、通常の炭素濃度レベルである場合も検知することができ、この場合は、生産性及び歩留の高い製造条件を適用することができる。
【0090】
従って、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法によれば、生産性及び歩留の高い製造条件の最大限の適用と、要求範囲内の炭素濃度である最終シリコン結晶棒の取得との両方を達成することができる。すなわち、本発明のFZ用シリコン原料結晶の製造方法によれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(実施例)
実施例では、FZ法によるシリコン単結晶製造用の原料棒(シリコン結晶棒;CZ結晶棒)の製造を、マルチプーリングCZ法を用いて行った。実施例では、以下の標準製造条件を適用し、シリコン結晶棒の製造を行った。
【0093】
CZ結晶棒の炭素濃度は4.7×1015atoms/cm3以下であることが要求されており、これに対して1つのルツボからの(1バッチの)マルチプーリング本数は3本とし、バッチのトータル固化率は95%とした。シリコン結晶棒の炭素濃度測定には、検出下限が1.0×1015atoms/cm3であるFT-IRを用いた。事前にこの条件で製造した場合の結晶炭素濃度を確認しておき、途中のシリコン結晶棒の通常レベルが検出下限未満(1.0×1015atoms/cm3未満)であり、最終シリコン結晶棒の通常レベルは3.4×1015atoms/cm3であった。
【0094】
100バッチの製造分について本発明の方法、すなわち1バッチの途中のシリコン結晶棒2本の炭素濃度を最終シリコン結晶棒の製造前に測定して、確認し、確認した炭素濃度の測定値に応じて、最終シリコン結晶棒の製造条件を決定する方法を適用した。
【0095】
この時の途中のシリコン結晶棒の炭素濃度測定結果は、通常レベルの1.0×1015atoms/cm3未満であったものが99バッチであり、残り1バッチは2.2×1015atoms/cm3であった。
【0096】
前者のバッチでは、元々適用する予定の標準製造条件をそのまま最終シリコン結晶棒の製造条件として決定し、この決定した製造条件を用いて最終シリコン結晶棒を引き上げて製造した。その結果、前者のバッチで取得したシリコン結晶棒の炭素濃度は全て要求範囲内であった。
【0097】
後者の1バッチに関しては、予め準備しておいた、元々の標準製造条件よりも結晶引上速度を下げた製造条件を最終シリコン結晶棒の製造条件として決定し、この決定した製造条件を用いて最終シリコン結晶棒を引き上げて製造した。その結果、このバッチで取得したシリコン単結晶棒の炭素濃度もやはり、要求範囲内であった。
【0098】
つまり、実施例においては、全ての取得結晶が要求品質を満たすものであった。そのため、実施例においては、得られたシリコン結晶棒がFZ用シリコン原料結晶とするのに切り込み等を必要とせず、また、ロスの増加をもたらす処理を最低限に抑えたため、ロスの増加は無かった。
【0099】
また、実施例においては、99バッチは、標準製造条件で最終シリコン単結晶棒の製造を行ったので、生産性や歩留まりの低下を抑えて、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン単結晶棒の製造を行うことができた。
【0100】
(比較例)
比較例では、実施例と同様の標準製造条件を用いて、FZ法によるシリコン単結晶製造用の原料棒(シリコン結晶棒;CZ結晶棒)の製造を、マルチプーリングCZ法を用いて200バッチ実施した。
【0101】
取得各シリコン結晶棒の炭素濃度測定を行った結果、通常の炭素濃度レベル3.4×1015atoms/cm3を超えた最終シリコン結晶棒の発生が4本あり、うち3本が所定の炭素濃度要求範囲上限の4.7×1015atoms/cm3を超えたことが分かった。そのため、炭素濃度要求範囲上限を超えた当該の最終シリコン結晶棒3本のテール側を切り込んで、炭素濃度が要求範囲内にある部分のみを原料棒とした。その結果、切り込んで得られた原料棒は、通常より短くなり、ロスが発生した。
【0102】
以上の結果から明らかなように、本発明によれば、FZシリコン単結晶製造用原料棒の製造の際に、生産性や歩留まりが低下するのを防ぎながら、取得する全てのCZシリコン結晶棒の炭素濃度を要求範囲内に収め、ロスの発生を防ぐことができる。すなわち、本発明によれば、生産性や歩留まりを高いレベルで維持しながら、炭素濃度が要求される範囲内にある最終シリコン結晶棒を製造することができる。
【0103】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0104】
11及び21…チャンバー、 12…上軸、 13…下軸、 14及び23…種結晶、 15…高周波コイル、 16…絞り、 17…溶融帯域、 18…シリコン単結晶(晶出側半導体棒)、 19…ドープノズル(ドーパントガス供給手段)、 22…石英ルツボ、 24…シリコン結晶棒(CZ結晶棒、FZ用シリコン原料結晶)、 24a…炭素濃度を測定するシリコン結晶棒、 25…原料融液、 100…FZシリコン単結晶の製造装置、 200…シリコン結晶棒引き上げ装置(CZシリコン結晶棒引き上げ装置)、 300…炭素濃度測定装置、 301…炭素濃度入力配線、 400…製造条件制御手段、 401…制御信号入力配線、 1000…FZ用シリコン原料結晶の製造システム。