(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20240312BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B32B15/08 A
B32B37/00
(21)【出願番号】P 2020138390
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-004843(JP,A)
【文献】特開2015-224336(JP,A)
【文献】特開平05-095190(JP,A)
【文献】特開2005-103989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る電解めっき工程と、
前記銅張積層板をロールツーロールにより搬送しつつ加熱する加熱工程と、を備え、
前記加熱工程における加熱温度を85~150℃の範囲で調整することで、前記銅張積層板の寸法変化率を調整する
ことを特徴とする銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
前記加熱温度を低くすることで前記銅張積層板のTD方向の寸法変化率を小さくし、前記加熱温度を高くすることで前記銅張積層板のTD方向の寸法変化率を大きくする
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項3】
前記加熱温度を低くすることで前記銅張積層板のMD方向の寸法変化率を大きくし、前記加熱温度を高くすることで前記銅張積層板のMD方向の寸法変化率を小さくする
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
前記加熱温度を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のTD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも大きい場合は、前記加熱温度を低くして第2の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のTD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも小さい場合は、前記加熱温度を高くして第2の銅張積層板を製造する
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記加熱温度を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のMD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも大きい場合は、前記加熱温度を高くして第2の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のMD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも小さい場合は、前記加熱温度を低くして第2の銅張積層板を製造する
ことを特徴とする請求項1記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程における搬送張力を調整することで、前記銅張積層板の寸法変化率を調整する
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項7】
前記搬送張力を低くすることで前記銅張積層板のTD方向の寸法変化率を小さくし、前記搬送張力を高くすることで前記銅張積層板のTD方向の寸法変化率を大きくする
ことを特徴とする請求項6記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項8】
前記搬送張力を低くすることで前記銅張積層板のMD方向の寸法変化率を大きくし、前記搬送張力を高くすることで前記銅張積層板のMD方向の寸法変化率を小さくする
ことを特徴とする請求項6記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項9】
前記搬送張力を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のTD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも大きい場合は、前記搬送張力を低くして第2の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のTD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも小さい場合は、前記搬送張力を高くして第2の銅張積層板を製造する
ことを特徴とする請求項6記載の銅張積層板の製造方法。
【請求項10】
前記搬送張力を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のMD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも大きい場合は、前記搬送張力を高くして第2の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板のMD方向の寸法変化率が目標寸法変化率よりも小さい場合は、前記搬送張力を低くして第2の銅張積層板を製造する
ことを特徴とする請求項6記載の銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)に半導体チップを実装したチップオンフィルム(COF)などの製造に用いられる銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板や、フレキシブルプリント配線板に半導体チップを実装したチップオンフィルムが用いられる。
【0003】
フレキシブルプリント配線板は銅張積層板から製造される。銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を形成する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を形成する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
サブトラクティブ法、セミアディティブ法(特許文献1参照)などにより、銅張積層板に配線パターンを形成することで、フレキシブルプリント配線板が得られる。また、フレキシブルプリント配線板にスズめっきを行なった後、ソルダーレジスト、カバーレイなどにより保護膜を形成し、半導体チップを実装すれば、チップオンフィルムが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅張積層板は配線パターンの形成過程において伸縮する。配線パターンを形成するために導体層の一部を除去すると樹脂フィルムにたまった応力が解放されて伸縮する。また、スズめっき後のアニール処理、ソルダーレジストの熱硬化処理では、フレキシブルプリント配線板に熱が加わることで伸縮する。
【0007】
チップオンフィルムに用いられるフレキシブルプリント配線板は、半導体チップを実装するために配線の位置が厳密に定められる。位置精度の高い配線を得るために、配線パターンの形成過程における銅張積層板の伸縮を補正した露光マスクが作成される。そのため、銅張積層板の寸法変化率が変化すると露光マスクを作り直す必要がある。また、同一の製品の製造に複数メーカーの銅張積層板を用いる場合、メーカーごとに寸法変化率が異なると、共通の露光マスクを使うことができない。そこで、銅張積層板は予め定められた寸法変化率を有することが求められることがある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、所望の寸法変化率を有する銅張積層板が得られる銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の銅張積層板の製造方法は、ベースフィルムの表面に直接または下地金属層を介して成膜された銅薄膜層の表面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得る電解めっき工程と、前記銅張積層板をロールツーロールにより搬送しつつ加熱する加熱工程と、を備え、前記加熱工程における加熱温度を85~150℃の範囲で調整することで、前記銅張積層板の寸法変化率を調整することを特徴とする。
前記加熱工程における搬送張力を調整することで、前記銅張積層板の寸法変化率を調整してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱工程における加熱温度または搬送張力を調整することで、所望の寸法変化率を有する銅張積層板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図2】加熱工程の条件を搬送張力60N、加熱温度35~75℃として得られた銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を示すグラフである。
【
図3】加熱工程の条件を搬送張力30N、加熱温度70~150℃として得られた銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を示すグラフである。
【
図4】加熱工程の条件を搬送張力60N、加熱温度70~150℃として得られた銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を示すグラフである。
【
図5】加熱工程の条件を搬送張力90N、加熱温度70~150℃として得られた銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る方法により製造される銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。
図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜されてもよい。
【0013】
基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が成膜されたものである。ベースフィルム11としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12は、例えば、スパッタリング法により成膜される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、ベースフィルム11の厚さは30~40μmが一般的であり、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0014】
なお、下地金属層13はなくてもよい。銅薄膜層14はベースフィルム11の表面に下地金属層13を介して成膜されてもよいし、下地金属層13を介さずベースフィルム11の表面に直接成膜されてもよい。
【0015】
銅めっき被膜20は銅薄膜層14の表面に成膜されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは、サブトラクティブ法により加工される銅張積層板1の場合8~12μmが一般的であり、セミアディティブ法により加工される銅張積層板1の場合0.1~5μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0016】
本実施形態に係る銅張積層板1の製造方法は、電解めっき工程と、加熱工程とを有している。
【0017】
(電解めっき工程)
銅めっき被膜20は、特に限定されないが、ロールツーロール方式のめっき装置により成膜される。めっき装置は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置とを有する。
【0018】
基材10の搬送経路には、前処理槽、めっき槽、および後処理槽が配置されている。基材10はめっき槽内を搬送されつつ、電解めっきよりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0019】
めっき槽には銅めっき液が貯留されている。銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を成膜できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0021】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0022】
(加熱工程)
銅めっき被膜20の成膜後、銅めっき被膜20の乾燥を目的とした温風加熱を行なう。この加熱工程は、銅張積層板1をロールツーロールにより搬送しつつ銅めっき被膜20に温風を吹き付けて加熱することにより行なわれる。
【0023】
銅めっき被膜20の乾燥が目的であるので、通常の加熱温度(銅張積層板1の温度)は60~80℃、処理時間は1分程度である。ところが、本願発明者が、通常は行なわない高温での加熱を行なったところ、加熱温度により銅張積層板1の寸法変化率が変化することが確認された。これより、本願発明者は、加熱工程における加熱温度を調整することで銅張積層板1の寸法変化率を調整することの着想を得た。具体的には、加熱工程における加熱温度を85~150℃の範囲で調整することで、銅張積層板1の寸法変化率を調整する。
【0024】
銅張積層板1のTD方向(Transverse Direction、銅張積層板1の幅方向、ロールツーロールによる搬送方向に対し垂直方向)の寸法変化率と加熱温度とは、加熱温度が高いほど寸法変化率が大きくなるという関係にある。そこで、銅張積層板1のTD方向の寸法変化率を調整するには、加熱温度を低くすることで寸法変化率を小さくし、加熱温度を高くすることで寸法変化率を大きくする。
【0025】
加熱温度の調整は、製造された銅張積層板1の寸法変化率をフィードバックすることで行なわれる。例えば、TD方向の寸法変化率が目標寸法変化率Dtの銅張積層板1を得たいとする。まず、加熱温度を所定値に設定して第1の銅張積層板1を製造する。そして、第1の銅張積層板1のTD方向の寸法変化率D1を測定する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも大きい場合は、加熱温度を低くして第2の銅張積層板1を製造する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも小さい場合は、加熱温度を高くて第2の銅張積層板1を製造する。これを繰り返し行なうことで、目標寸法変化率Dtの銅張積層板1が得られる加熱温度を特定する。そうすれば、加熱温度を調整することで、所望の寸法変化率を有する銅張積層板1を製造できる。
【0026】
また、銅張積層板1のMD方向(Machine Direction、銅張積層板1の長さ方向、ロールツーロールによる搬送方向)の寸法変化率と加熱温度とは、加熱温度が高いほど寸法変化率が小さくなるという関係にある。そこで、銅張積層板1のMD方向の寸法変化率を調整するには、加熱温度を低くすることで寸法変化率を大きくし、加熱温度を高くすることで寸法変化率を小さくする。
【0027】
例えば、MD方向の寸法変化率が目標寸法変化率Dtの銅張積層板1を得たいとする。まず、加熱温度を所定値に設定して第1の銅張積層板1を製造する。そして、第1の銅張積層板1のMD方向の寸法変化率D1を測定する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも大きい場合は、加熱温度を高くして第2の銅張積層板1を製造する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも小さい場合は、加熱温度を低くして第2の銅張積層板1を製造する。
【0028】
なお、加熱温度は、TD方向の寸法変化率にもMD方向の寸法変化率にも影響を及ぼす。そのため、TD方向の寸法変化率およびMD方向の寸法変化率の両方がそれぞれの目標値に近づくように加熱温度を調整する。
【0029】
また、本願発明者は、高温(85~150℃)での加熱を行なう場合、銅張積層板1の搬送張力によっても銅張積層板1の寸法変化率が変化することを見出した。これより、本願発明者は、加熱工程における搬送張力を調整することで銅張積層板1の寸法変化率を調整することの着想を得た。なお、搬送張力は30~90Nの範囲で調整することが好ましい。
【0030】
銅張積層板1のTD方向の寸法変化率と搬送張力とは、搬送張力が高いほど寸法変化率が大きくなるという関係にある。そこで、銅張積層板1のTD方向の寸法変化率を調整するには、搬送張力を低くすることで寸法変化率を小さくし、搬送張力を高くすることで寸法変化率を大きくする。
【0031】
搬送張力の調整は、製造された銅張積層板1の寸法変化率をフィードバックすることで行なわれる。例えば、TD方向の寸法変化率が目標寸法変化率Dtの銅張積層板1を得たいとする。まず、搬送張力を所定値に設定して第1の銅張積層板1を製造する。そして、第1の銅張積層板1のTD方向の寸法変化率D1を測定する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも大きい場合は、搬送張力を低くして第2の銅張積層板1を製造する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも小さい場合は、搬送張力を高くて第2の銅張積層板1を製造する。これを繰り返し行なうことで、目標寸法変化率Dtの銅張積層板1が得られる搬送張力を特定する。そうすれば、搬送張力を調整することで、所望の寸法変化率を有する銅張積層板1を製造できる。
【0032】
また、銅張積層板1のMD方向の寸法変化率と搬送張力とは、搬送張力が高いほど寸法変化率が小さくなるという関係にある。そこで、銅張積層板1のMD方向の寸法変化率を調整するには、搬送張力を低くすることで寸法変化率を大きくし、搬送張力を高くすることで寸法変化率を小さくする。
【0033】
例えば、MD方向の寸法変化率が目標寸法変化率Dtの銅張積層板1を得たいとする。まず、搬送張力を所定値に設定して第1の銅張積層板1を製造する。そして、第1の銅張積層板1のMD方向の寸法変化率D1を測定する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも大きい場合は、搬送張力を高くして第2の銅張積層板1を製造する。寸法変化率D1が目標寸法変化率Dtよりも小さい場合は、搬送張力を低くして第2の銅張積層板1を製造する。
【0034】
なお、搬送張力は、TD方向の寸法変化率にもMD方向の寸法変化率にも影響を及ぼす。そのため、TD方向の寸法変化率およびMD方向の寸法変化率の両方がそれぞれの目標値に近づくように搬送張力を調整する。
【0035】
以上のように、加熱工程における加熱温度および搬送張力のいずれか一方または両方を調整することで、所望の寸法変化率を有する銅張積層板1を製造できる。
【実施例】
【0036】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの両面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ100nmの銅薄膜層を形成した。
【0037】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0038】
前記銅めっき液が貯留されためっき槽に基材を供給した。電解めっきにより基材の両面に厚さ2.0μmの銅めっき被膜を成膜した。電解めっきにおける電流条件は、電流密度1.0A/dm2で1分、3.0A/dm2で1分、5.0A/dm2で1分とした。ここで、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきを施す間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。電解めっき中の搬送張力は60Nに設定した。
【0039】
加熱工程は循環式温風加熱炉により実施した。加熱炉の前後には、搬送張力をカットできるサクションローラーを備えており、炉内の搬送張力を任意に設定できる。加熱処理時間は1分とした。
【0040】
得られた銅張積層板の寸法変化率の測定は、IPC-TM-650.2.2.4に準拠した方法により行なった。以下、測定手順を簡単に説明する。
【0041】
まず、試験片を27×29cmに切断し、四隅に直径0.889mmの孔A、B、C、Dを形成する。ここで、孔A-Bおよび孔C-Dは試験片のDM方向に並べて25±1.25cm離れた位置に形成する。孔A-Cおよび孔B-Dは試験片のTD方向に並べて23±1.25cm離れた位置に形成する。
【0042】
試験片を23±2℃、相対湿度50±5%で24時間安定させる。孔A-B間、孔C-D間、孔A-C間および孔B-D間の距離(孔の中心間の距離)を測定し、初期測定値とする。
【0043】
メソッドB:
試験片の導体層のうち13×13mmのターゲット領域を除く部分をエッチング液により除去した後、試験片を洗浄し、乾燥させる。つぎに、試験片を23±2℃、相対湿度50±5%で24時間安定させる。再度、孔間の距離を測定し、エッチング後の最終測定値とする。
【0044】
メソッドC:
メソッドBによる測定の後の試験片を150±2℃に維持されたオーブンで、30±2分加熱する。試験片を23±2℃、相対湿度50±5%で24時間安定させる。再度、孔間の距離を測定し、エッチングおよび加熱後の最終測定値とする。
【0045】
以下の式(1)、(2)により、寸法変化率を求める。
【数1】
【数2】
ここで、D
MDはMD方向の寸法変化率である。D
TDはTD方向の寸法変化率である。A-Bは孔A-B間の距離である。A-Cは孔A-C間の距離である。C-Dは孔C-D間の距離である。B-Dは孔B-D間の距離である。添字Iは初期測定値を意味する。添字FはメソッドBまたはメソッドCの最終測定値を意味する。
【0046】
(試験1)
加熱工程における搬送張力を60Nとした。また、加熱温度を35、45、55、65、75℃のいずれかとした。各条件で製造した銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を
図2に示す。
【0047】
(試験2)
加熱工程における搬送張力を30Nとした。また、加熱温度を70、85、100、110、130、150℃のいずれかとした。各条件で製造した銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を
図3に示す。
【0048】
(試験3)
加熱工程における搬送張力を60Nとした。また、加熱温度を70、85、100、110、130、150℃のいずれかとした。各条件で製造した銅張積層板の寸法変化率(メソッドC)を
図4に示す。
【0049】
(試験4)
加熱工程における搬送張力を90Nとした。また、加熱温度を70、85、100、110、130、150℃のいずれかとした。各条件で製造した銅張積層板の寸法変化率を
図5に示す。
【0050】
図2のグラフから分かるように、加熱温度が35~75℃の範囲では、銅張積層板の寸法変化率はTD方向、MD方向ともに加熱温度により変化することはない。これに対し、
図3~5から分かるように、加熱温度を85℃以上とすれば(少なくとも85~150℃の範囲では)、銅張積層板の寸法変化率は加熱温度により変化する。具体的には、加熱温度が高いほどTD方向の寸法変化率が大きくなり、MD方向の寸法変化率が小さくなる。
【0051】
また、加熱温度を85℃以上とすれば(少なくとも85~150℃の範囲では)、銅張積層板の寸法変化率は搬送張力によっても変化する。具体的には、搬送張力が高いほどTD方向の寸法変化率が大きくなり、MD方向の寸法変化率が小さくなる。
【0052】
本実施例の場合、加熱温度を85~150℃の範囲で調整し、搬送張力を30~90Nの範囲で調整することで、TD方向の寸法変化率(メソッドC)を0.036~0.070%の範囲で調整可能である。また、MD方向の寸法変化率(メソッドC)を0.028~0.037%の範囲で調整可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 銅張積層板
10 基材
11 ベースフィルム
12 金属層
13 下地金属層
14 銅薄膜層
20 銅めっき被膜