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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/30 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
H01B7/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020157054
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050882
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-108654(JP,A)
【文献】特開昭58-023106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n次集合線(n:自然数、n>1)であるケーブルであって、
前記n次集合線は、1本に束ねられた複数のn-1次集合線を備え、
前記複数のn-1次集合線のそれぞれは、1本に束ねられた複数の素線を備え、
前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-1次集合線の最外層の素線は、導体および絶縁被膜を備えた絶縁導体素線であり、
前記n-1次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-1次集合線の前記最外層の素線より内側に位置する前記複数の素線の一部は、誘電体素線であり、
前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線は、1本に束ねられた複数の前記誘電体素線と、複数の前記誘電体素線の周囲を覆う複数の前記絶縁導体素線と、により構成されている、ケーブル。
【請求項2】
請求項1記載のケーブルにおいて、
前記絶縁導体素線の導体の直径は、前記ケーブルの使用周波数における表皮厚さよりも小さい、ケーブル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のケーブルにおいて、
n>2である場合に、
前記n次集合線を構成する前記複数のn-1次集合線のうち、前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線は、1本に束ねられた複数のn-2次集合線を備え、
前記n-1次集合線の最外層の前記n-2次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-2次集合線の最外層の素線は、前記絶縁導体素線であり、
前記n-2次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-2次集合線の前記最外層の素線より内側に位置する前記複数の素線の一部は、前記誘電体素線である、ケーブル。
【請求項4】
請求項3に記載のケーブルにおいて、
前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線よりも内側の前記n-1次集合線は、1本に束ねられた複数の前記誘電体素線により構成されている、ケーブル。
【請求項5】
請求項3に記載のケーブルにおいて、
前記n-1次集合線の最外層の前記n-2次集合線よりも内側の前記n-2次集合線は、1本に束ねられた複数の前記誘電体素線により構成されている、ケーブル。
【請求項6】
請求項1または2に記載のケーブルにおいて、
前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線よりも内側の前記n-1次集合線は、1本に束ねられた複数の前記誘電体素線により構成されている、ケーブル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のケーブルにおいて、
前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-1次集合線の前記最外層の素線と、前記n-1次集合線の前記最外層の素線の1つ内側の層の素線とは、前記絶縁導体素線である、ケーブル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のケーブルにおいて、
複数の前記絶縁導体素線の配列は、前記ケーブルの延在方向において変化している、ケーブル。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のケーブルにおいて、
前記ケーブルの使用周波数は、10kHz~1MHzである、ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電力の伝送に用いられるケーブルには、絶縁導体線の高周波抵抗(交流抵抗)を低減するため、複数本の絶縁導体素線を束ねたケーブルを用いることが知られている。特許文献1(特開2011-124129号公報)および特許文献2(特開平5-263377号公報)には、高周波抵抗を低減するための構造として、導体の外周がエナメル等の絶縁被膜で被われた絶縁導体素線を、複数本束ねて撚ると共に、外皮シースにて絶縁被覆した所謂リッツ線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-124129号公報
【文献】特開平5-263377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リッツ線は、ケーブルのコストおよび重量を低減する観点から、ケーブルに使用する導体量を減らすことが望ましい。しかし、単にケーブルの導体量を減らすと、高周波抵抗のベースになる直流抵抗が増加するため、リッツ線による高周波抵抗の抑制効果を利用しても、高周波抵抗を十分に小さくすることは困難である。
【0005】
本発明の目的は、高周波における電気抵抗を小さくすることが可能で、かつ、導体の使用量を小さくすることが可能なケーブルを提供することにある。
【0006】
その他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0008】
一実施の形態であるケーブルは、n次集合線(n:自然数、n>1)であるケーブルであって、前記n次集合線は、1本に束ねられた複数のn-1次集合線を備え、前記複数のn-1次集合線のそれぞれは、1本に束ねられた複数の素線を備えるものである。ここで、前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-1次集合線の最外層の素線は、導体および絶縁被膜を備えた絶縁導体素線であり、前記n-1次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-1次集合線の前記最外層の素線より内側に位置する前記複数の素線の一部は、誘電体素線である。
【発明の効果】
【0009】
本願において開示される一実施の形態によれば、高周波における電気抵抗を小さくすることが可能で、かつ、導体の使用量を小さくすることが可能なケーブルを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態であるケーブルの断面図である。
図2】実施の形態の変形例1であるケーブルの断面図である。
図3】実施の形態の変形例2であるケーブルの断面図である。
図4】実施の形態の変形例3であるケーブルの断面図である。
図5】実施の形態の変形例4であるケーブルの断面図である。
図6】実施の形態の変形例5であるケーブルの断面図である。
図7】比較例1であるケーブルの断面図である。
図8】比較例2であるケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0012】
(実施の形態)
<改善の余地の詳細>
高周波電力の伝送に用いられるケーブルでは、伝送する電力の周波数が高くなるほど、表皮効果により絶縁導体線の電気抵抗(高周波抵抗)が増加するという課題がある。すなわち、交流電流は周波数が高くなるほど、発生する交番磁束と電流との相互作用により、電流は電線の表面側を流れ易くなり、電流密度が電線の表面側に集中する。その結果、高周波交流は電線の全断面積のうちの一部、つまり表面側の薄い肉厚部に集中的に流れるようになり、通電面積の低下により交流抵抗値が増加する。
【0013】
このような課題を解決するため、リッツ線と呼ばれるケーブルを用いることが考えられる。図7に、比較例1としてリッツ線であるケーブル36を示す。ケーブル36は、線径200μ以下程度に細分化された、絶縁被膜付きの素線(絶縁導体素線)、つまり外周面(表面)を絶縁被膜に覆われた導体から成る絶縁導体素線1aを、例えば千本以上束ねた構造を有している。例えば、ここでは、図7の左側に示すように、37本の絶縁導体素線1aを1本に束ねて構成される1次集合線13を、図7の中央に示すように、7本束ねて1本の2次集合線24を構成している。さらに、集合線24を7本束ねることで、1本の3次集合線であるケーブル36を構成している。
【0014】
本願では、最初の集合工程で作製された集合線を「1次集合線」と呼び、n回目の集合工程で作製された集合線を「n次集合線」と呼ぶ。ここで、nは0より大きい自然数である。n+1次集合線は、n+1回目の集合工程において、n次集合線を束ねて作製されている。
【0015】
このように、細い絶縁導体素線1aを複数束ねることで、ケーブル36全体での絶縁導体線の表面積を増大させている。ケーブル36では、このように絶縁導体線の表面側・外周面の数を増し、その分だけ表面積を増大させることにより、表皮効果による電流密度集中を、分散、分断、軽減することが考えられる。
【0016】
しかし、リッツ線は、構造が複雑であり、使用される導体量が大きいことから、高価である。また、リッツ線は、使用される導体量が大きいため重量が大きいという問題もある。したがって、ケーブルのコストおよび重量を低減する観点から、ケーブルに使用する導体量を減らすことが望ましい。
【0017】
しかし、単にケーブルの導体量を減らすと、高周波抵抗のベースになる直流抵抗が増加するため、リッツ線による高周波抵抗の抑制効果を利用しても、高周波抵抗を十分に小さくすることは困難である。
【0018】
ここで、比較例2として、上記リッツ線に比べて導体量を低減した構造を有するケーブル25を図8に示す。2次集合線であるケーブル25を、誘電体により構成される誘電体素線1fを、例えば37本束ねて構成される1次集合線14の周囲に、6本の1次集合線13を撚り合わせることで構成している。
【0019】
このように、ケーブル25の中心の絶縁導体線を誘電体素線に置き換えることで、絶縁導体線の使用量を低減することが考えられる。しかし、誘電体から成る1次集合線14の周囲の6本の1次集合線13のそれぞれは、全体が絶縁導体素線1aにより構成されている。このため、1次集合線13の中心部の絶縁導体素線1aには表皮効果により電流が殆ど流れないものが多く、導体の使用量に無駄が生じる。
【0020】
このように、ケーブルにおいては、製造コストおよび重量を低減する観点から、ケーブルに使用する導体量を減らすことが改善の余地として存在する。
【0021】
<ケーブルの構造>
以下に、図1を用いて、本実施の形態のケーブルについて説明する。本実施の形態のケーブルは、例えば、高周波電力伝送用ケーブルとして用いられる。図1は、本実施の形態のケーブルの断面図である。図1では、図の右側に3次集合線を示し、3次集合線の構成要素である2次集合線を図の中央に示し、2次集合線の構成要素である1次集合線を図の左側に示している。また、図1では、図を見易くするため、誘電体素線の断面にハッチングを付していない。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態のケーブル30は、複数の素線を束ねた集合線である。当該複数の素線とは、すなわち、外周面(表面)を絶縁被膜に覆われた導体から成る絶縁導体素線(絶縁導体線)1a、誘電体から成る誘電体素線(誘電体線)1b、1cおよび1dを指す。絶縁導体素線1aは、延在する導体と、導体の外周を覆う絶縁被膜とにより構成されている。
【0023】
絶縁導体素線1aを構成する導体は、例えば銅(Cu)またはアルミニウム(Al)などである。また、絶縁被膜の材料は、例えばエナメルである。つまり、絶縁導体素線1aは例えばエナメル線である。また、絶縁被膜の材料には、ポリウレタンまたはフッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))を使用可能である。誘電体素線1b、1cおよび1dの材料は、例えばレーヨン繊維(スフ線)、ポリエステル繊維、パラ系アミド繊維、ポリプロピレン線、フッ素樹脂線(テフロン(登録商標)線)である。誘電体素線1b、1cおよび1dを構成する材料の比重は、絶縁導体素線1aを構成する材料の比重より小さい。上記の導体、絶縁被膜および誘電体素線の材料は、後述する変形例で説明する導体、絶縁被膜および誘電体素線のそれぞれの材料に適用可能である。
【0024】
ここで、1次集合線10は、複数の誘電体素線1bから成る集合線と、当該集合線の表面を覆うように配置された複数の絶縁導体素線1aとにより構成されている。ここでは、例えば、18本の絶縁導体素線1aが、19本の誘電体素線1bから成る集合線の外周を囲むように配置されている。つまり、1次集合線10の最外層は絶縁導体素線1aにより構成されており、1次集合線10を構成する素線のうち、最外層より内側の素線には誘電体素線1bが用いられている。このため、1次集合線10の表面において、露出しているのは絶縁導体素線1aであり、誘電体素線1bは露出していない。
【0025】
1次集合線10は、撚線であってもよい。この場合、撚り合わせによって、絶縁導体素線1aの配列(配置)は、ケーブル30の長手方向において変化している。また、1次集合線10は、直線状に延在する各素線を単純に束ねたものであってもよい。また、最外層の複数の絶縁導体素線1aは、19本の誘電体素線1cから成る集合線の外周を囲む編組を構成していてもよい。
【0026】
また、2次集合線20は、複数の誘電体素線1cから成る1次集合線11と、1次集合線11の表面を覆うように配置された複数の1次集合線10とにより構成されている。1次集合線11は、例えば、37本の誘電体素線1cを1本に束ねた構造を有している。1次集合線11は撚線であってもよく、直線状に延在する各素線を単純に束ねたものであってもよい。このように、2次集合線20の最外層の1次集合線10よりも内側の1次集合線11は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1cにより構成されている。
【0027】
また、ここでは例えば、6本の1次集合線10が、1本の1次集合線11の外周を囲むように配置されている。つまり、2次集合線20を構成する1次集合線のうち、最外層は1次集合線10により構成されており、最外層より内側には1次集合線11が用いられている。このため、2次集合線20の表面において、露出しているのは絶縁導体素線1aであり、1次集合線11は露出していない。
【0028】
2次集合線20は、1次集合線11を中心として1次集合線10を撚り合わせた撚線であってもよい。この場合、撚り合わせによって、1次集合線10の配列(配置)は、ケーブル30の長手方向において変化している。また、2次集合線20は、直線状に延在する各1次集合線を単純に束ねたものであってもよい。また、最外層の1次集合線10は、1次集合線11の外周を囲む編組を構成していてもよい。
【0029】
また、ケーブル(3次集合線)30は、複数の誘電体素線1dから成る2次集合線21と、2次集合線21の表面を覆うように配置された複数の2次集合線20とにより構成されている。2次集合線21は、例えば、259本の誘電体素線1dを1本に束ねた構造を有している。2次集合線21は撚線であってもよく、直線状に延在する各素線を単純に束ねたもの(マルチ化ケーブル)であってもよい。このように、3次集合線であるケーブル30の最外層の2次集合線20よりも内側の2次集合線21は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1dにより構成されている。
【0030】
また、ここでは例えば、6本の2次集合線20が、1本の2次集合線21(中心束線)の外周を囲むように配置されている。つまり、ケーブル30を構成する2次集合線のうち、最外層は2次集合線20により構成されており、最外層より内側には2次集合線21が用いられている。このため、ケーブル30の表面において、露出しているのは絶縁導体素線1aであり、2次集合線21は露出していない。
【0031】
ケーブル30は、2次集合線21を中心として2次集合線20を撚り合わせた撚線であってもよい。この場合、撚り合わせによって、2次集合線20の配列(配置)は、ケーブル30の長手方向において変化している。また、ケーブル30は、直線状に延在する各2次集合線を単純に束ねたものであってもよい。また、最外層の2次集合線20は、2次集合線21の外周を囲む編組を構成していてもよい。
【0032】
上記のように、ケーブル30は、3次集合線であり、2次集合線21の周囲を囲むように複数の2次集合線20を配置することで構成されている。また、2次集合線20は、1次集合線11の周囲を囲むように複数の1次集合線10を配置することで構成されている。また、1次集合線10は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように複数の絶縁導体素線1aを配置することで構成されている。つまり、ケーブル30は、3回の集合工程により絶縁導体素線1aと誘電体素線1b、1cおよび1dとを集合させたものである。ここでは図示していないが、ケーブル30は、外周を覆う絶縁層を備えていてもよい。
【0033】
ケーブル30の基本構成要素である素線のうち、絶縁導体素線1aの導体の直径は、ケーブル30の使用周波数における表皮厚さ(表皮深さ)より小さい。表皮厚さとは、ある材質に入射した電磁界が、1/e(≒1/2.718)に減衰する距離である。ケーブル30が使用される周波数は、例えば10kHz~10MHzである。本実施の形態では、ケーブル30が使用される周波数を85kHzとした。ケーブル30が使用される周波数が85kHzである場合、銅の表皮厚さは0.227mmである。また、絶縁素線1aにおける導体の直径を0.1mm、絶縁被膜の厚さを0.017mmとし、絶縁素線1aの直径を0.134mmとした。1次集合線10の直径(1次集合線10の外周に接するように包絡円を描いたときの包絡円の直径)は0.938mmとし、2次集合線20の直径(2次集合線20の外周に接するように包絡円を描いたときの包絡円の直径)は2.814mmとし、ケーブル30の直径(ケーブル30の外周に接するように包絡円を描いたときの包絡円の直径)は8.174mmとした。また、絶縁素線1aの直径は、ケーブル30の直径の1/90以上、つまり0.091mm以上である。したがって、絶縁素線1aの導体は、上記表皮厚さよりも小さい直径を有し、絶縁素線1aの直径は、ケーブル30の直径の1/90以上の直径を有している。また、誘電体素線の直径を0.134mmとした。
【0034】
ケーブル30は、例えばコイルの巻線または給電ケーブルなどに使用することが考えられる。ケーブル30を使用して出力する電力は、例えば11kWまたは100kWなどが考えられる。
【0035】
また、ここでは、1次集合線、2次集合線および3次集合線のそれぞれの断面形状は六角形である。これにより、各集合線を構成する要素(素線または集合線)同士の隙間を小さくすることができる。すなわち、ケーブル30の直径を縮小することができる。
【0036】
また、複数の誘電体素線1bから成る束、誘電体から成る1次集合線11、および、2次集合線21は、断面形状が六角形ではなく、それぞれの中心軸に向かって圧縮されていてもよい。このように、誘電体素線1b、1cまたは1dのそれぞれから成る束を圧縮することで、ケーブル30の直径を縮小することができる。
【0037】
上記のように、本実施の形態のケーブルは、n次集合線(n:自然数、n>1)であり、1本に束ねられた複数のn-1次集合線を備えており、複数のn-1次集合線のそれぞれは、1本に束ねられた複数の素線を備えている。また、n次集合線の最外層のn-1次集合線を構成する複数の素線のうち、n-1次集合線の最外層の素線は、導体および絶縁被膜を備えた絶縁導体素線であり、n-1次集合線を構成する複数の素線のうち、n-1次集合線の最外層の素線より内側に位置する複数の素線の一部は、誘電体素線である。
【0038】
より具体的には、本実施の形態ではn>2であり、この場合、前記n次集合線を構成する複数の前記n-1次集合線のうち、前記n次集合線の最外層の前記n-1次集合線は、1本に束ねられた複数のn-2次集合線を備えている。前記n-1次集合線の最外層の前記n-2次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-2次集合線の最外層の素線は、前記絶縁導体素線であり、前記n-2次集合線を構成する前記複数の素線のうち、前記n-2次集合線の前記最外層の素線より内側に位置する前記複数の素線の一部は、前記誘電体素線である。
【0039】
<実施の形態の効果>
ケーブルの基本構成要素である絶縁導体素線の直径がケーブルの使用周波数における表皮厚さよりも大きい場合、ケーブルの最外層にある絶縁導体素線以外の絶縁導体素線は、表皮効果により、局所的に見て高抵抗の状態にある。そのため、比較例1として図7に示したリッツ線のように、複数回の撚り合わせにより絶縁導体素線の配置をケーブルの長手方向において変化させたとしても、1度も最外層に出ない絶縁導体素線には電流が殆ど流れない。
【0040】
つまり、リッツ線は伝送用ケーブルとして無駄な絶縁導体素線を有し、導体量に無駄がある。したがって、上述したように、ケーブルにおいては、製造コストおよび重量を低減する観点から、ケーブルに使用する導体量を減らすことが改善の余地として存在する。また、図8に比較例2として示すように、2次集合線において中心束線を誘電体素線1fから成る1次集合線14に置き換えたとしても、1次集合線13の内部には外部に露出しない素線1aが多く、依然として上記改善の余地を有している。
【0041】
そこで、本発明者は、一度も最外層に出ない素線に誘電体素線を用いることで、高周波抵抗の増加を最小限に抑えられることを見出した。
【0042】
本実施の形態では、ケーブル30の基本構成要素である絶縁導体素線1aの導体の直径が、ケーブル30の使用周波数における表皮厚さよりも小さい。これにより、ケーブル30の最外層に位置する各絶縁導体素線1aにおいて、表皮効果により内部の電気抵抗(高周波抵抗)が増加することを防ぐことができる。また、絶縁素線1aの直径が、ケーブル30の直径の1/90以上の直径を有している。これにより、絶縁素線1aの直径が過剰に小さくなり、絶縁素線1aの本数が増えすぎることを防ぎ、ケーブル30の製造コストが増大することを抑えることができる。
【0043】
また、本実施の形態では、絶縁導体素線1aをn回の集合工程を経て集合させている。具体的には、ここでは3回の集合工程を経て絶縁導体素線1aおよびその他の誘電体素線を集合させることで、ケーブル30を構成している。ここで、少なくとも2回以上の集合工程において、使用される集合線は、次の第1および第2の基準により選択される。
【0044】
第1の基準として、n回目の集合工程が完了した時点で最外層に露出する集合線には、n-1回目の集合工程で作成したn-1次集合線を使用する。言い換えれば、n次集合線は、n-1次集合線を束ねて構成される。
【0045】
第2の基準として、n回目の集合工程が完了した時点で最外層に露出しない構成要素の少なくとも一部には、誘電体素線を使用する。言い換えれば、n次集合線を構成する要素のうち、最外層に露出しない構成要素の一部には、誘電体素線が使用される。
【0046】
このようにして、本実施の形態では、一度も最外層に出ない素線に誘電体素線を用いることで、高周波における電気抵抗を小さくすることが可能で、かつ、導体の使用量を小さくすることが可能なケーブルを実現できる。また、絶縁導体素線を構成する導体よりも軽い誘電体から成る誘電体素線を用いることで、ケーブルの重量を低減できる。このように、上記工夫点によって、改善の余地を解消することができる。
【0047】
例えば、図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図1に示す本実施の形態のケーブル30の絶縁導体素線比は36%であり、比較例1、2に比べて大きく導体の使用量を低減できる。ここでは、使用する導体量を比較例1の1/2以下に抑えられる。
【0048】
なお、比較例1と本実施の形態とのそれぞれのケーブルを構成する各素線の直径が同程度である場合、本実施の形態では比較例1よりも高周波抵抗が若干大きくなる場合がある。しかし、ケーブル30の外径を大きくし、使用する導体量を2倍以下程度まで増やすことで、比較例1よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブル30を実現できる。
【0049】
本実施の形態では、撚り合わせ、マルチ化、または編組工程により集合線を製造する場合に、上記基準に従うことで実用的な集合線を得ることができる。ここで、1次集合線10、2次集合線20またはケーブル(3次集合線)30が撚線であれば、撚り合わせによって、絶縁導体素線1aの配列(配置)は、ケーブル30の長手方向において変化する。したがって、所定の箇所の断面において外部に露出していない絶縁導体素線1aであっても、他の箇所の断面ではケーブル30の最外層に位置している。つまり、ケーブル30に使用されている絶縁導体素線1aの全てにおいて、高周波抵抗を低減し、電流を流すことができる。
【0050】
また、1次集合線10、11、2次集合線20、21およびケーブル30のそれぞれの断面形状は、略6角形である。断面形状が6角形であることにより、構成要素である素線または集合線を隙間なく束ねることができ、ケーブルの直径を縮小することができる。
【0051】
<変形例1>
図2に、本変形例のケーブル31の断面図を示す。本変形例のケーブル31の構成は、誘電体から成る2次集合線21を中心束線として有し、1次集合線10を有している点で、図1に示すケーブル30の構成と同じである。ただし、ケーブル31の最外層の2次集合線22の中心束線には、2次集合線22の最外層と同じ構造の1次集合線10を用いている点で、ケーブル31は図1に示すケーブル30と異なる。つまり、2次集合線22は、複数の1次集合線10のみにより構成されている。
【0052】
すなわち、ケーブル31は、3次集合線であり、1本に束ねられた複数の誘電体素線1dから成る2次集合線21の周囲を囲むように、複数の2次集合線22を配置することで構成されている。また、2次集合線22は、1次集合線10の周囲を囲むように複数の1次集合線10を配置することで構成されている。また、1次集合線10は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように複数の絶縁導体素線1aを配置することで構成されている。
【0053】
このように、ケーブル31の最外層の2次集合線22の中心束線が、最外層に絶縁導体素線1aを有していても、比較例1よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブルを実現できる。2次集合線22の導体量が図1に示す2次集合線20よりも大きいため、図1に示すケーブル30とケーブル31との外形が同じである場合に、ケーブル31はケーブル30よりも高周波抵抗を低減できる。
【0054】
図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図2に示すケーブル31の絶縁導体素線比は42%である。つまり、比較例1に比べて、使用する導体量を1/2以下に抑えられる。
【0055】
<変形例2>
図3に、本変形例のケーブル32の断面図を示す。本変形例のケーブル32の構成は、2次集合線20を中心束線として有する点を除き、図1に示すケーブル30の構成と同じである。つまり、ケーブル32は、2次集合線20のみにより構成されている。
【0056】
すなわち、ケーブル32は、3次集合線であり、2次集合線20の周囲を囲むように複数の2次集合線20を配置することで構成されている。また、2次集合線20は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1cから成る1次集合線11の周囲を囲むように、複数の1次集合線10を配置することで構成されている。また、1次集合線10は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように、複数の絶縁導体素線1aを配置することで構成されている。
【0057】
このように、ケーブル32の中心束線が、絶縁導体素線1aを含む1次集合線10を最外層に有していても、比較例1、2よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブルを実現できる。ケーブル32の中心束線である2次集合線20の導体量が図1に示す2次集合線21よりも大きいため、図1に示すケーブル30とケーブル32との外形が同じである場合に、ケーブル32はケーブル30よりも高周波抵抗を低減できる。
【0058】
図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図3に示すケーブル32の絶縁導体素線比は42%である。つまり、比較例1に比べて、使用する導体量を1/2以下に抑えられる。
【0059】
<変形例3>
図4に、本変形例のケーブル33の断面図を示す。本変形例のケーブル33は、複数の1次集合線10のみで構成された2次集合線22を複数束ねた構造を有している。
【0060】
すなわち、ケーブル33は、3次集合線であり、2次集合線22の周囲を囲むように複数の2次集合線22を配置することで構成されている。また、2次集合線22は、1次集合線10の周囲を囲むように、複数の1次集合線10を配置することで構成されている。また、1次集合線10は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように、複数の絶縁導体素線1aを配置することで構成されている。
【0061】
このように、全ての1次集合線が、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bと、当該複数の誘電体素線1bの外周を囲む複数の絶縁導体素線1aとにより構成されていても、比較例1、2よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブルを実現できる。ケーブル33には誘電体素線のみにより構成される1次集合線、および、誘電体素線のみにより構成される2次集合線がないため、図1に示すケーブル30とケーブル33との外形が同じである場合に、ケーブル33はケーブル30よりも高周波抵抗を低減できる。
【0062】
図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図4に示すケーブル33の絶縁導体素線比は49%である。つまり、比較例1に比べて、使用する導体量を1/2以下に抑えられる。
【0063】
<変形例4>
図5に、本変形例のケーブル34の断面図を示す。本変形例のケーブル34は、2次集合線であり、その構成は、図1に示す2次集合線20の構成と同じである。
【0064】
すなわち、ケーブル34は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1cから成る1次集合線11の周囲を囲むように、複数の1次集合線10を配置することで構成されている。また、1次集合線10は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように、複数の絶縁導体素線1aを配置することで構成されている。
【0065】
このように、ケーブル34が2次集合線であっても、比較例1、2よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブルを実現できる。
【0066】
図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図8に示すケーブル25の絶縁導体素線比は86%であり、図5に示すケーブル34の絶縁導体素線比は49%である。つまり、比較例1に比べて、使用する導体量を1/2以下に抑えることができ、比較例2と比べても、使用する導体量を低減できる。
【0067】
<変形例5>
図6に、本変形例のケーブル35の断面図を示す。本変形例のケーブル35の構成は、誘電体から成る2次集合線21を中心束線として有している点で、図1に示すケーブル30の構成と同じである。ただし、ケーブル35の最外層の2次集合線23の最外層を構成する1次集合線12は、最外層およびその1つ内側の層が、複数の絶縁導体素線1aにより構成されている。
【0068】
すなわち、ケーブル35は、3次集合線であり、1本に束ねられた複数の誘電体素線1dから成る2次集合線21の周囲を囲むように、複数の2次集合線23を配置することで構成されている。また、2次集合線23は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1cから成る1次集合線11の周囲を囲むように、複数の1次集合線12を配置することで構成されている。また、1次集合線12は、1本に束ねられた複数の誘電体素線1bの周囲を囲むように複数の絶縁導体素線1aを2層配置することで構成されている。すなわち、2次集合線23の最外層の1次集合線12を構成する複数の素線のうち、1次集合線12の最外層の素線と、1次集合線12の最外層の素線の1つ内側の層の素線とは、絶縁導体素線1aである。
【0069】
このように、1次集合線12の最外層と、最外層から1つ内側の層とが複数の絶縁導体素線1aにより構成されていても、比較例1よりも高周波抵抗が低く、導体の使用量が小さいケーブルを実現できる。1次集合線12の導体量が図1に示す1次集合線10よりも大きいため、図1に示すケーブル30とケーブル35との外形が同じである場合に、ケーブル35はケーブル30よりも高周波抵抗を低減できる。
【0070】
図7に示すリッツ線の絶縁導体素線比を100%とすると、図6に示すケーブル34の絶縁導体素線比は69%である。つまり、比較例1に比べて、使用する導体量を低減できる。
【0071】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0072】
1a 絶縁導体素線
1b、1c、1d、1f 誘電体素線
10~12 1次集合線
20~23 2次集合線
30~36 ケーブル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8