(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】粘着性シリコーンゲルシート及び物品
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20240312BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20240312BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20240312BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20240312BHJP
C09J 7/20 20180101ALI20240312BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J183/07
C09J183/05
C09J11/04
C09J7/20
(21)【出願番号】P 2021020569
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015865(JP,A)
【文献】特開2019-206658(JP,A)
【文献】特開2012-215057(JP,A)
【文献】特開2000-26733(JP,A)
【文献】特開2015-108147(JP,A)
【文献】特開2020-83920(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063693(WO,A1)
【文献】特開2012-246359(JP,A)
【文献】特開2012-041505(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112608713(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に、下記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなる粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性シリコーンゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつ
23℃×24時間及び80℃×30分の2つの硬化条件にて作製されたシリコーンゲル硬化物の
両方の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である片面粘着性シリコーンゲルシート。
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基であり、同一シロキサン単位中の2個のR
1のうち少なくとも1個はフェニル基である。xは150~800の整数、yは0~50の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。)
で表され、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであるケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)
2SiO
1/2)単位とSiO
4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01~10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化2】
[式中、mは0又は1であり、nは10~500の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。Zは下記式(3)で示される基である。
【化3】
(式中、nは上記の通りである。)]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン:0.1~50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量
【請求項2】
(D)成分の付加反応触媒が白金族金属系触媒である請求項1に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項3】
(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)が0.6~1.5である請求項1又は2に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項4】
シリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)がせん断周波数0.1~50Hzにおいて0.3~1.0である請求項1~3のいずれか1項に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項5】
粘着性シリコーンゲル層の23℃での表面粘着力の最大点強度が1.0~10.0gf/mmである請求項1~4のいずれか1項に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項6】
基材が、プラスチックフィルム、ラミネートフィルム、不織布及び布から選ばれるものである請求項1~5のいずれか1項に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項7】
基材の厚さが1~2,000μmであり、粘着性シリコーンゲル層の厚さが2~2,000μmである請求項1~6のいずれか1項に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項8】
粘着性シリコーンゲル層を粘着対象基材に粘着させたのち、粘着対象基材から剥離する際に粘着性シリコーンゲル層を破壊せず剥離することができるものである請求項1~7のいずれか1項に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項9】
下記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物である粘着性シリコーンゲル層からなる単層構造の両面粘着性シリコーンゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつ
23℃×24時間及び80℃×30分の2つの硬化条件にて作製されたシリコーンゲル硬化物の
両方の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である両面粘着性シリコーンゲルシート。
(A)下記一般式(1)
【化4】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基であり、同一シロキサン単位中の2個のR
1のうち少なくとも1個はフェニル基である。xは150~800の整数、yは0~50の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。)
で表され、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであるケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)
2SiO
1/2)単位とSiO
4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01~10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化5】
[式中、mは0又は1であり、nは10~500の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。Zは下記式(3)で示される基である。
【化6】
(式中、nは上記の通りである。)]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン:0.1~50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量
【請求項10】
(D)成分の付加反応触媒が白金族金属系触媒である請求項9に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項11】
(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)が0.6~1.5である請求項9又は10に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項12】
シリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)がせん断周波数0.1~50Hzにおいて0.3~1.0である請求項9~11のいずれか1項に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項13】
粘着性シリコーンゲル層の23℃での表面粘着力の最大点強度が1.0~10.0gf/mmである請求項9~12のいずれか1項に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項14】
厚さが0.1~300mmである請求項9~13のいずれか1項に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項15】
粘着対象基材に粘着させたのち、粘着対象基材から剥離する際に粘着性シリコーンゲル層を破壊せず剥離することができるものである請求項9~14のいずれか1項に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の片面粘着性又は両面粘着性シリコーンゲルシートを用いた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある特定の成分にて構成された硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させて得られる粘着性シリコーンゲル層を有する粘着性シリコーンゲルシートに係り、特に粘着性シリコーンゲル層の表面粘着性が高いため、粘着性シリコーンゲルシートを貼ったあとは剥がれにくく、剥がす時には粘着性シリコーンゲル層を破壊することなく剥がすことができる片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシート及び該シリコーンゲルシートを用いた物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬化性シリコーンゲル組成物は、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン及び付加反応触媒を含有し、前記ケイ素原子に結合した水素原子のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物として調製される。この硬化性シリコーンゲル組成物を加熱することにより硬化したシリコーンゲル硬化物は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、低弾性率かつ低応力であることにより、車載電子部品、民生用電子部品等の電子部品の保護に用いられている。シリコーンゲル硬化物の特徴である低弾性率かつ低応力であることは、他のエラストマー製品には見られない。
【0003】
また、近年では、車載電子部品や民生用電子部品の高信頼性化などの要求から、封止に用いられるシリコーンゲル硬化物に対しては、広い温度領域でも低弾性率を維持できる材料の要求が高まっている。これら従来のシリコーンゲル硬化物は、液状シリコーン組成物を部材に充填もしくはポッティングし、加熱硬化させて使用するため、一度硬化させたシリコーンゲル硬化物を部材から容易に剥がすことができず、部品の再利用や部品の交換作業ができないというデメリットを有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、通常、アルケニル基を有する分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、ケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、及びヒドロシリル化反応用白金系触媒からなる硬化性シリコーン組成物、さらには任意の成分としてシリカ粉末等の無機充填剤を含有する硬化性シリコーン組成物(特開昭58-7452号公報、特開昭62-181357号公報、特開昭63-246856号公報、特開平5-70693号公報、及び特開平10-212413号公報(特許文献1~5))を用い、シリカ粉末等の無機充填剤によりシリコーンゲルの強度を持たせることが提案されている。このような硬化性シリコーン組成物は、IC(Integrated Circuit)、MPU(Micro Processing Unit)、トランジスター等の電気・電子部品の封止・充填剤として使用されている(特開昭63-246856号公報、及び特開平10-212413号公報(特許文献3、5)参照)が、硬化して得られるシリコーンゲルは亀裂を生じやすいため、きれいに剥がすことができず、リペア性が悪いという問題があった。
【0005】
そこで、特開2000-327921号公報(特許文献6)においては、上記のようなヒドロシリル化反応により硬化する硬化性組成物にアルミナ粉末を添加し、シリコーンゲルの強度を高めることで剥離性を高めることが提案されている。しかしながら、用いるアルミナ粉末量が多すぎるため、シリコーンゲル(ゲル状の硬化物)とはならないことや、重量が重いなどの問題点が生じていた。
【0006】
また、近年では医療分野やヘルスケア分野においても、経皮吸収製剤や化粧品用途として粘着性を有するシートの要望が高まっており、いろいろな皮膚貼付用シート材の提案がなされている。その中でも、近年、皮膚貼付用途では、従来使用されていたアクリル系やゴム系の粘着剤に変わって、架橋もしくは未架橋のシリコーン粘着剤を用いた検討が行われている(特許文献7:特開平3-200885号公報)。しかしながら、シリコーン粘着剤を架橋させた場合においては、シリコーン粘着剤が本来有する粘着物性(タック、粘着力)が低下してしまい、皮膚貼付用粘着剤の適性が低下する問題を生じ、一方、シリコーン粘着剤の架橋を行わない場合は、剥離後に粘着剤が皮膚面に残存する問題を抱えていた。
【0007】
そのような問題を解決するため、官能基が異なる2種のポリシロキサンを特定比率で使用したベースポリマーと、特定のオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと、白金族金属系触媒とを含有する付加硬化型シリコーン粘着剤組成物が提案されている(特許文献8:特開2020-011919号公報)。しかしなから、このシリコーン粘着剤組成物は、脂肪族炭化水素系溶剤にて希釈する必要があった。また、このような分野において、シリコーン組成物を硬化させた硬化物を使用した場合は、皮膚への貼付持続性が乏しく経時で剥がれてしまう問題があるため使用することができなかった。
なお、本発明に関連する従来技術として、上述した文献と共に下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭58-7452号公報
【文献】特開昭62-181357号公報
【文献】特開昭63-246856号公報
【文献】特開平5-70693号公報
【文献】特開平10-212413号公報
【文献】特開2000-327921号公報
【文献】特開平3-200885号公報
【文献】特開2020-011919号公報
【文献】米国特許第3,220,972号明細書
【文献】米国特許第3,159,601号明細書
【文献】米国特許第3,159,662号明細書
【文献】米国特許第3,775,452号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させて得られる粘着性シリコーンゲル層を有する片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシートにおいて、粘着性シリコーンゲル層の表面粘着性が高く、粘着性シリコーンゲルシートを貼ったあとは剥がれにくいと同時に、なおかつ、剥がす時には粘着性シリコーンゲル層を破壊することなく剥がすことができる、片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシート及び該シリコーンゲルシートを用いた物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ベースポリマーとして(A)ケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン、(B)ジオルガノハイドロジェンシロキシ単位((H(R)2SiO1/2)単位)とSiO4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。)、及び(C)ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖の末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサンを特定の配合割合に調整し、(D)付加反応触媒存在下で硬化させることで得られるシリコーンゲル硬化物からなる粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつシリコーンゲル硬化物の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシートが、表面粘着性が高いと同時に、なおかつ、低周波数領域における損失係数(tanδ)の低下が抑制されると共に、低周波数領域から高周波数領域まで幅広いせん断周波数領域にわたって、該シリコーンゲル硬化物が比較的大きな損失係数(tanδ)を保持したまま、該損失係数(tanδ)の周波数依存性が小さいため、人肌や金属、プラスチックなど幅広い基材に対して良好な粘着性を有する粘着性シリコーンゲルシートとなり、かつフィラーを含有せずとも剥がす時には粘着性シリコーンゲル層を破壊することなく剥がすことができることを見出した。
また、硬化前の硬化性シリコーンゲル組成物は、流動性が良好であり、かつ比較的低温においても素早く反応が進行して短時間でシリコーンゲル硬化物を得ることができるため、医療用途へ使用した場合は薬剤の熱劣化などを防止でき、幅広い分野へ使用することができる粘着性シリコーンゲルシートとなることを知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシート及び該シリコーンゲルシートを用いた物品を提供するものである。
[1]
シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に、下記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなる粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性シリコーンゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつ
23℃×24時間及び80℃×30分の2つの硬化条件にて作製されたシリコーンゲル硬化物の
両方の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である片面粘着性シリコーンゲルシート。
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基であり、同一シロキサン単位中の2個のR
1のうち少なくとも1個はフェニル基である。xは150~800の整数、yは0~50の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。)
で表され、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであるケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)
2SiO
1/2)単位とSiO
4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01~10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化2】
[式中、mは0又は1であり、nは10~500の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。Zは下記式(3)で示される基である。
【化3】
(式中、nは上記の通りである。)]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン:0.1~50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量
[2]
(D)成分の付加反応触媒が白金族金属系触媒である[1]に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[3]
(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)が0.6~1.5である[1]又は[2]に記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[4]
シリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)がせん断周波数0.1~50Hzにおいて0.3~1.0である[1]~[3]のいずれかに記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[5]
粘着性シリコーンゲル層の23℃での表面粘着力の最大点強度が1.0~10.0gf/mmである[1]~[4]のいずれかに記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[6]
基材が、プラスチックフィルム、ラミネートフィルム、不織布及び布から選ばれるものである[1]~[5]のいずれかに記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[7]
基材の厚さが1~2,000μmであり、粘着性シリコーンゲル層の厚さが2~2,000μmである[1]~[6]のいずれかに記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[8]
粘着性シリコーンゲル層を粘着対象基材に粘着させたのち、粘着対象基材から剥離する際に粘着性シリコーンゲル層を破壊せず剥離することができるものである[1]~[7]のいずれかに記載の片面粘着性シリコーンゲルシート。
[9]
下記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物である粘着性シリコーンゲル層からなる単層構造の両面粘着性シリコーンゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつ
23℃×24時間及び80℃×30分の2つの硬化条件にて作製されたシリコーンゲル硬化物の
両方の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である両面粘着性シリコーンゲルシート。
(A)下記一般式(1)
【化4】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基であり、同一シロキサン単位中の2個のR
1のうち少なくとも1個はフェニル基である。xは150~800の整数、yは0~50の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。)
で表され、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであるケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)(H(R)
2SiO
1/2)単位とSiO
4/2単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。):0.01~10質量部、
(C)下記一般式(2)
【化5】
[式中、mは0又は1であり、nは10~500の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。Zは下記式(3)で示される基である。
【化6】
(式中、nは上記の通りである。)]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン:0.1~50質量部、
(D)付加反応触媒:有効量
[10]
(D)成分の付加反応触媒が白金族金属系触媒である[9]に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[11]
(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)が0.6~1.5である[9]又は[10]に記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[12]
シリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)がせん断周波数0.1~50Hzにおいて0.3~1.0である[9]~[11]のいずれかに記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[13]
粘着性シリコーンゲル層の23℃での表面粘着力の最大点強度が1.0~10.0gf/mmである[9]~[12]のいずれかに記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[14]
厚さが0.1~300mmである[9]~[13]のいずれかに記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[15]
粘着対象基材に粘着させたのち、粘着対象基材から剥離する際に粘着性シリコーンゲル層を破壊せず剥離することができるものである[9]~[14]のいずれかに記載の両面粘着性シリコーンゲルシート。
[16]
[1]~[15]のいずれかに記載の片面粘着性又は両面粘着性シリコーンゲルシートを用いた物品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシートは、シリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)が、表面粘着性が高いと同時に、なおかつ、低周波数領域から高周波数領域まで幅広いせん断周波数領域にわたって損失係数(tanδ)の低下が抑制され、幅広いせん断周波数領域にわたって比較的大きな損失係数(tanδ)を保持し、該損失係数(tanδ)の周波数依存性が小さいため、粘着性シリコーンゲルシートを貼ったあとは剥がれにくく、剥がす時には粘着性シリコーンゲル層を破壊することなく剥がすことができる粘着性シリコーンゲルシートとなる。そのため、片面のみ粘着する粘着性シリコーンゲルシートは、医療・ヘルスケア用途への使用が期待される。医療・ヘルスケア用途に使用する際は、適度な粘着性維持による経時剥がれ防止ができ、剥がす際に粘着性シリコーンゲル層が破壊せず、肌に粘着性シリコーンゲル層が残存しない。その上、剥がす時に皮膚の角質が過度に剥がされることなく、体毛が引っ張られたりして、痛みや不快感、さらには皮膚に対する過度な刺激により、二次的な炎症を引き起こすようなこともない粘着性シリコーンゲルシートとなる。また両面が粘着する粘着性シリコーンゲルシートは、車載電子部品、民生用電子部品等への使用が期待される。車載電子部品、民生用電子部品用途に使用する際は、部品の再利用や部品の交換作業が容易となるため、生産性の向上や廃棄物削減などにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例に用いるせん断接着試験のテストピース作製工程を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の実施例1~3において測定した損失係数(tanδ)の周波数依存性を示すグラフである。
【
図3】本発明の比較例1~3において測定した損失係数(tanδ)の周波数依存性を示すグラフである。
【
図4】本発明の比較例4~7において測定した損失係数(tanδ)の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粘着性シリコーンゲルシート(以下、粘着性ゲルシートという場合がある)は、下記の(A)~(D)成分を必須成分として含有し、フィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させてなる粘着性シリコーンゲル層を有する片面粘着性又は両面粘着性の粘着性ゲルシートであって、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)が0.10~1.50であり、かつシリコーンゲル硬化物の針入度(JIS K2220に準拠)が30~80である片面粘着性又は両面粘着性のシリコーンゲルシートである。係る粘着性ゲルシートは、片面のみ粘着性を有する2層構造の粘着性ゲルシート、又は両面に粘着性を有する単層構造の粘着性ゲルシートである。なお本発明において、粘着性ゲルシートとは、下記の(A)~(D)成分を必須成分として含有し、フィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させた硬化物に由来する粘着性を有するものを指し、粘着性シリコーンゲル層を構成する硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル硬化物)とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)に準拠した方法により測定される稠度(即ち、cone penetration。なお、JIS K2220に規定する1/4コーンは該コーン本体の先端部に先針(硬さがロックウェルCスケールの45~50の焼入鋼製先針)が装着されている構造であることから、本発明においては、稠度を針入度(needle penetration)と記載する場合がある。以下、同じ。)が10~100、好ましくは30~80のものを意味する。これは、JIS K6253によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程低硬度(即ち、低応力性であり、軟らか)であるものに相当するものであって、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(シリコーンゴム状弾性体、シリコーンエラストマー)とは別異のものである。また、ここで述べる粘着性とは、基材に粘着性ゲルシートを貼り付けた後、剥がす際に引き剥がし方向に応力を加えないと剥がれないものを意味する。
【0015】
以下、本発明の粘着性ゲルシートに用いられる硬化性シリコーンゲル組成物の各成分について詳細に説明する。なお、本明細書において、粘度は23℃における値である。
【0016】
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
(A)成分は、硬化性シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である。該(A)成分は、下記一般式(1)で表され、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであるケイ素原子に結合したビニル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有する直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【化7】
(式中、R
1はメチル基又はフェニル基であり、同一シロキサン単位中の2個のR
1のうち少なくとも1個はフェニル基である。xは150~800の整数、yは0~50の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。)
【0017】
上記式(1)中、xは150~800の整数であることが必要であり、好ましくは300~600の整数である。xが150未満であると、(A)成分のベースポリマー粘度が低くなってしまい、反応性ビニル基の量が多くなってしまうため、得られる粘着性シリコーンゲル層(シリコーンゲル硬化物)の粘着性が悪化してしまうことがある。またxが800を超える数値であると、(A)成分のベースポリマー粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える。
【0018】
yは0~50の整数であることが必要であり、-40℃以下の条件においても弾性率変化が小さい粘着性シリコーンゲル層が必要な場合は、yの値が好ましくは3~30の整数であり、より好ましくは5~20の整数である。ここでyが3未満となると、期待する耐寒性能を得ることができない可能性がある。上記のような低温条件下での使用が想定されない場合は、yの値は0であることが好ましい。また、yが50を超える数値であると、(A)成分のベースポリマー粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える他、フェニル基が多すぎるため泡抜けが悪い、即ち脱泡性が悪くなるおそれがある。なお、フェニル基は分子中に0~50個有することが好ましく、-40℃以下の条件においても弾性率変化が小さい粘着性シリコーンゲル層が必要な場合は、3~30個、特には5~20個有することが好ましい。なお、本発明において、分子量(又は分子中のシロキサン単位の繰り返し数(重合度))は、例えば、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量(又は数平均重合度)等として求めることができる(以下、同じ)。
【0019】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は、組成物の取扱作業性、流動性、及び得られる粘着性シリコーンゲル層の強度が良好となる点から、23℃における粘度が500~50,000mPa・sであり、2,000~10,000mPa・sであることが好ましい。なお、粘度は、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる(以下、同じ)。
【0020】
また(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
〔(B)三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサン〕
(B)成分は、硬化性シリコーンゲル組成物が架橋する際の架橋点を形成する成分であり、本発明の粘着性ゲルシートを粘着対象の基材から剥がす際に、粘着性ゲルシートにおける粘着性シリコーンゲル層が破壊しないように該粘着性シリコーンゲル層に適度な強度を備えるための必須成分である。
【0022】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(H(R)2SiO1/2)単位(以下、MH単位と略記する)とSiO4/2単位(以下、Q単位と略記する)を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(式中、Rは脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換1価炭化水素基を示す。)であって、分子内に必ず2つ以上のMH単位と分子内に1つ以上のQ単位を含有する三次元網目構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのことを指す。ここで、MH単位とQ単位は分子内必須単位であるが、分子内に(R)3SiO1/2単位(以下、M単位と略記する、Rは上記と同じ)、(R)SiO3/2単位(以下、T単位と略記する、Rは上記と同じ)、HSiO3/2単位(以下、TH単位と略記する)を任意に含有する三次元網目構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いても、本発明の効果を十分得ることが可能である。また(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
なお、分子中におけるQ単位に対するMH単位のモル比;[MH]/[Q]は、0.3~2.0、特に0.5~1.6程度であることが好ましく、また、分子中における全シロキサン単位に対するMH単位とQ単位との合計は、50モル%以上(即ち、50~100モル%)、特に75モル%以上(75~100モル%)であることが好ましい。
従って、前記の任意構成単位であるM単位、T単位及びTH単位の合計は、50モル%以下(0~50モル%)、特に25モル%以下(0~25モル%)であることが望ましい。
【0024】
上記式中、Rは独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1~10、好ましくは1~6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基が好ましい。
【0025】
(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量は、0.001~0.1mol/gであることが好ましく、0.003~0.05mol/gであることがより好ましい。SiH基量が0.001mol/g未満であると得られる硬化性シリコーンゲル組成物が十分に架橋することができなくなったり、得られる粘着性シリコーンゲル層の強度が低くなったりする場合があり、0.1mol/gより多いと架橋点が多すぎるため得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなったりする場合がある。
【0026】
なお、(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるSiH基(Hb)は、後述する(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖中の末端に有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるSiH基(Hc)とのモル比が、0.10≦(Hb/Hc)≦1.50の範囲内であることが必要であり、0.20≦(Hb/Hc)≦1.20の範囲内であることがより望ましい。これは、(Hb/Hc)が0.10未満の場合、架橋点として(B)成分が導入される比率が少なくなるため、得られる硬化性シリコーンゲル組成物が十分に架橋することができなくなり、得られる粘着性シリコーンゲル層の強度が低くなる。また、逆に(Hb/Hc)が1.50を超える場合、得られる粘着性シリコーンゲル層が有する特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下したり、架橋点が多すぎるため得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなる。
【0027】
(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの23℃における粘度は、5~300mPa・sであることが好ましく、10~200mPa・sであることがより好ましい。粘度が低すぎると、得られる硬化性シリコーンゲル組成物の粘度が低くなり、作業性が悪くなるほか、架橋点が密になるため得られる粘着性シリコーンゲル層の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下することで粘着性が低下するおそれがあり、高すぎると得られる硬化性シリコーンゲル組成物の粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える場合がある。
【0028】
(B)成分の添加量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.01~10質量部であり、そのなかでも0.1~5質量部の範囲がより好ましい。0.01質量部未満であると、得られる粘着性シリコーンゲル層の強度が不足し、貼り付けた後に剥がす際、粘着性シリコーンゲル層が破壊してしまったり、最悪の場合は硬化物が得られないおそれがある。また、10質量部を超えると得られる粘着性シリコーンゲル層が有する特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下したり、架橋点が多くなりすぎるため、得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなる。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
〔(C)ケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖の末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサン〕
次に、(C)成分は、上記(A)、(B)成分と反応し、相互を架橋させる架橋剤として作用するものである。(C)成分は、下記一般式(2)
【化8】
[式中、mは0又は1であり、nは10~500の整数であり、括弧が付された各シロキサン単位の配列は任意であってよい。Zは下記式(3)で示される基である。
【化9】
(式中、nは上記の通りである。)]
で表される、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサンである。
【0030】
上記式(2)中、mは0もしくは1のどちらかである。これは、使用する(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサンの含有SiH量や三次元網状構造の違いにより、得られる粘着性シリコーンゲル層(シリコーンゲル硬化物)の硬さを調整しやすくするためである。mが2以上の場合、架橋間が密になってしまうため、得られる粘着性シリコーンゲル層の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下するほか、得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなってしまうおそれがある。
また、上記式(2)、(3)中、nは独立に10~500の整数であることが必要であり、好ましくは20~300の整数である。nが10未満であると、(C)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサンの粘度が低くなり、作業性が悪くなるほか、架橋点が密になるため得られる粘着性シリコーンゲル層の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下することで粘着性が低下するおそれがある。また、nが500を超える数値であると、(C)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサンの粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える。
(C)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いてもよいし、mもしくはnの数値が全く異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(C)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサン中に含まれるケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量は、0.0001~0.01mol/gであることが好ましく、0.0003~0.005mol/gであることがより好ましい。SiH基量が0.0001mol/g未満であると目的とする低周波数領域における損失係数(tanδ)の低下抑制効果を達成するために多量の(C)成分を配合する必要があるため、得られる硬化性シリコーンゲル組成物の粘度が低下するほか、硬化させたとしてもシリコーンゲル硬化物が所定の損失係数を達成できない場合があり、またコスト的にも不利となる。0.01mol/gより多いと架橋点間距離が狭くなってしまうため、得られる粘着性シリコーンゲル層の低周波数領域における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下したり、架橋点が多すぎるため得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなったりする場合がある。
【0032】
(C)成分のメチルハイドロジェンポリシロキサンの23℃における粘度は、5~300mPa・sであることが好ましく、10~200mPa・sであることがより好ましい。粘度が低すぎると、得られる硬化性シリコーンゲル組成物の粘度が低くなり、作業性が悪くなるほか、架橋点が密になるため得られる粘着性シリコーンゲル層の低周波数領域における損失係数(tanδ)が低下することで粘着性が低下するおそれがあり、高すぎると得られる硬化性シリコーンゲル組成物の粘度が高くなってしまうため、作業性に悪影響を与える場合がある。
【0033】
(C)成分の添加量は、(A)成分であるオルガノポリシロキサン100質量部に対し、0.1~50質量部であり、0.5~20質量部の範囲がより好ましい。0.1質量部未満であると、得られる粘着性シリコーンゲル層が軟らかすぎて、貼り付け後に剥がす際、粘着性シリコーンゲル層が破壊してしまったり、最悪の場合は粘着性シリコーンゲル層が得られない可能性もある。また、50質量部を超えると、得られる粘着性シリコーンゲル層の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下するほか、得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなったり、粘着性シリコーンゲル層の硬度が高くなりすぎたりする。
【0034】
ここで、(A)成分中のビニル基(Vi)に対し、前述した(B)成分のMH単位とQ単位を含有する三次元網状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖の末端のみに有するメチルハイドロジェンポリシロキサンに含まれる合計SiH基(H)の比が、モル比でH/Vi=0.6~1.5の範囲内が好ましく、その中でも特にH/Vi=0.7~1.1の範囲内がより好ましい。H/Vi=0.6未満の場合、得られる粘着性シリコーンゲル層が軟らかすぎて、貼り付け後に剥がす際、粘着性シリコーンゲル層が破壊してしまったり、最悪の場合は粘着性シリコーンゲル層が得られない可能性もある。また、H/Vi=1.5を超えると、得られる粘着性シリコーンゲル層の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下するほか、得られる粘着性シリコーンゲル層が脆くなってしまう可能性が高く、さらにH/Viが高値となると、SiH基が大過剰となるため、得られる粘着性シリコーンゲル層が軟らかくなったり、経時で発泡したり、粘着性が低下したりする場合がある。
【0035】
〔(D)付加反応触媒〕
次に、(D)成分の付加反応触媒については、前記ビニル基とケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)との付加反応を促進するための触媒であり、ヒドロシリル化反応に用いられる触媒として白金族金属系触媒等の周知の触媒が挙げられる。
【0036】
この白金族金属系触媒としては、ヒドロシリル化反応触媒として公知のものが全て使用できる。例えば、白金黒、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・wH2O、H2PtCl6・wH2O、NaHPtCl6・wH2O、KHPtCl6・wH2O、Na2PtCl6・wH2O、K2PtCl4・wH2O、PtCl4・wH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・wH2O(式中、wは0~6の整数であり、好ましくは0又は6である)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(例えば、前掲の特許文献9参照)、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス(例えば、前掲の特許文献10~12参照)、白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィンコンプレックス;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸又は塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサン、特にビニル基含有環状シロキサンとのコンプレックス等が挙げられる。これらの中で、好ましいものとして、相溶性の観点及び塩素不純物の観点から、塩化白金酸をシリコーン変性したものが挙げられ、具体的には例えば塩化白金酸をテトラメチルジビニルジシロキサンで変性した白金触媒が挙げられる。
【0037】
(D)成分の添加量は有効量であり、通常、(A)、(B)、(C)成分の合計量に対し、白金原子の質量換算で0.1~1,000ppm、好ましくは0.5~300ppm、より好ましくは1~100ppmである。
【0038】
〔その他の任意成分〕
本発明に用いられる硬化性シリコーンゲル組成物には、上記(A)~(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。但し、通称でフィラーと呼ばれる無機充填剤やカーボンなどは除く。この任意成分としては、例えば、車載電子部品、民生用電子部品等に使用する際は反応抑制剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基非含有オルガノポリシロキサン、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、染料等が挙げられる。また医療・ヘルスケア用途に使用する際は、反応抑制剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基非含有オルガノポリシロキサン、ポリエーテル変性オルガノポリシロキサンやアクリル変性オルガノポリシロキサンなどの変性シリコーンオイル、不飽和基を含有しないカルボン酸やエステル、流動パラフィンなどの長鎖炭化水素、ツロブテロールやアセトアミノフェン、イブプロフェン等の医療用薬剤などが挙げられる。
【0039】
ここで、反応抑制剤は、上記組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、エチニルメチルデシルカルビノール等のアセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。しかし、これら反応抑制剤は、添加量を多くすると高温加熱が必須となるため、添加量には注意しなければならない。反応制御剤の添加量については、反応制御剤の構造や、硬化までに必要な作業時間等を考慮して、その目的に応じた配合量となる。その配合量は特に制限されないが、目的を達成するための反応が制御(抑制)される有効量の添加が好ましい。具体的には、(A)成分100質量部に対して0.0001~10質量部程度が好ましい。
【0040】
〔硬化性シリコーンゲル組成物の調製、硬化〕
本発明の粘着性ゲルシートに用いられる硬化性シリコーンゲル組成物は、上記(A)~(D)成分(任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部及び(D)成分からなるパートと、(A)成分の残分と、(B)成分、(C)成分からなるパートとに分割した材料を混合することで得ることも可能である。
【0041】
混合にて得られた未架橋の硬化性シリコーン組成物は、必要に応じた基材に塗布もしくは充填することでシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)を得ることができる。その際、加熱するとより短時間で目的とするシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)を得ることが可能となるが、無加熱においても十分な硬化時間を有すれば目的とするシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)を得ることができる。加熱する場合は用いる基材の耐熱温度に注意する必要があるが、150℃以下で行うことがよい。
【0042】
〔硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル硬化物)〕
上記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、フィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させて得られるシリコーンゲル硬化物は、その23℃での損失係数(tanδ)の値が、せん断周波数0.1~50Hzにおいて0.3以上1.0以下の範囲内であることが、このシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)を用いた粘着性ゲルシートを貼り付けたときに十分な粘着性を有し、かつ剥がす際には粘着性シリコーンゲル層が破壊されることなく剥がすことか可能となる。ここで、せん断周波数0.1~50Hzにおいて、23℃での損失係数(tanδ)が0.3を下回る場合、つまり低周波領域におけるシリコーンゲル硬化物の粘性項が低すぎるため、シリコーンゲル硬化物の粘着性が低く、振動や衝撃により剥がれたり脱落する可能性が大きくなる。また逆に、せん断周波数0.1~50Hzにおいて、23℃での損失係数(tanδ)が1.0を上回る場合、つまり低周波領域におけるシリコーンゲル硬化物の粘性項が高すぎるため、このシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)を用いた粘着性ゲルシートを貼り付け時は良好であるものの、剥がす際に粘着性シリコーンゲル層が破壊してしまったり、皮膚に粘着性が残って不快になる場合がある。このように、せん断周波数0.1~50Hzにおけるシリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)の値が0.3以上1.0以下の範囲内であることが本発明の重要点となる。なお、シリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)の値を上記範囲内とするためには、上述した(A)、(B)、(C)成分の配合量や、(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)等を上記の範囲内とすることで達成される。
シリコーンゲル硬化物の損失係数(tanδ)の値は、市販されている粘弾性測定機により得られた値となるが、本発明においては、以下に示す測定機・測定条件にて測定された数値を記載している。
粘弾性測定機:(株)ユービーエム Rheogel-E4000
測定条件:スリットせん断法(幅:13mm、深さ:10mm、間隔:0.25mm)
測定温度:23℃
歪制御:30μm、12%
歪波形:正弦波
【0043】
上記硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させて得られるシリコーンゲル硬化物は、JIS K2220に記載のちょう度試験方法に基づいて1/4コーンで測定される針入度が30~80であることが必要であり、好ましくは30~75、より好ましくは35~70である。針入度が30未満になると、得られるシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)の特定周波数における損失係数(tanδ)が低下して粘着性が低下するほか、シリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)の硬さが硬すぎるため、これを用いた粘着性ゲルシートが振動により脱落したり、擦れ落ちたり、振動吸収性が低下したりする。また逆に、針入度が80を超えると、得られるシリコーンゲル硬化物(粘着性シリコーンゲル層)が軟らかすぎるため、これを用いた粘着性ゲルシートを貼り付け後に剥がす際、粘着性シリコーンゲル層(シリコーンゲル硬化物)が破壊してしまったり、皮膚に粘着性が残って不快になる場合がある。なお、針入度を上記範囲内とするためには、上述した(A)、(B)、(C)成分の配合量や、(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)等を上記の範囲内とすることで達成される。
【0044】
[粘着性シリコーンゲルシート]
本発明の粘着性ゲルシートは、用途に制限を設ける必要はないが、粘着・密着信頼性が重要とされる用途(電気電子用部品、防水シール用途、車載用途、建築用防振用途など)や手芸用途(ホビー用途、玩具用途など)、医療用途(経皮吸収製剤、絆創膏、サージカルテープ、プラスター剤、心電図測定用の電極固定用シート等)に用いることが好適である。
【0045】
[片面粘着性シリコーンゲルシート]
ここで、シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に、上記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなる粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性シリコーンゲルシートにおいては、医療用途(経皮吸収製剤、絆創膏、サージカルテープ、プラスター剤、心電図測定用の電極固定用シート等)に好適に用いられる。
【0046】
その際、シート状又はフィルム状基材としては、プラスチックフィルム、ラミネートフィルム、不織布、布から選ばれるものを好適に用いることができる。基材の厚さは1~2,000μmの範囲が適切であり、好ましい基材の厚さは5~1,000μmであり、より好ましい基材の厚さは10~300μmである。基材が厚すぎると、医療用途の場合は貼り付けた後の感触悪化、運動不具合など日常生活における運動を行う際に不具合を生じる場合があり、薄すぎると得られる粘着性シリコーンゲルシート自体の強度が低くなったり、貼り付ける際に適度な形状保持ができなくなったりする場合がある。
【0047】
シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に、粘着性シリコーンゲル層を積層する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、基材の片方の外表面上に未硬化状態の硬化性シリコーンゲル組成物を塗布し、ロールもしくはコーター、アプリケーター等を用いて厚さを一定(所定の厚み)としたのち、加温もしくは室温(23℃±10℃)にて所定時間反応させることで、シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性シリコーンゲルシートを得ることができる。ここで、加温を必要とする場合は、シート状又はフィルム状基材の耐熱性を考慮し、基材の耐熱温度以下の温度にて未硬化状態の硬化性シリコーンゲル組成物を硬化させる必要がある。なお、必要に応じて、最後に粘着性を有する粘着性シリコーンゲル層の粘着性表面を該粘着性シリコーンゲル層が粘着しない離型材料(剥離性ライナー等)で被覆してもよい。
【0048】
片面粘着性シリコーンゲルシートにおいて、粘着性シリコーンゲル層の厚さは2~2,000μmの範囲が適切であり、好ましい粘着性シリコーンゲル層の厚さは5~1,000μmであり、より好ましい粘着性シリコーンゲル層の厚さは10~300μmである。粘着性シリコーンゲル層が厚すぎると完成した片面粘着性シリコーンゲルシートの重量が重くなってしまうため、医療用途の場合は貼り付けた後の感触悪化、運動不具合など日常生活における運動を行う際に不具合を生じる場合があり、薄すぎると医療用途の場合は粘着性シリコーンゲルシート中に添加できる薬剤量が少なくなってしまい、期待される薬剤効果が得られなくなるほか、粘着性の低下や剥離時に粘着性シリコーンゲル層が破壊してしまうなどの不具合を生じる場合がある。シート状又はフィルム状基材と粘着性シリコーンゲル層からなる片面粘着性シリコーンゲルシートは、薄ければ薄いほど皮膚等へ貼り付けた後の違和感が少なくなる。
片面粘着性シリコーンゲルシート(全体)の厚さは、3~4,000μmの範囲が適切であり、好ましくは10~2,000μmであり、より好ましくは20~600μmである。
【0049】
また、シート状又はフィルム状基材の片方の外表面上に、上記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなる粘着性シリコーンゲル層を積層してなる片面粘着性ゲルシートにおいて、該粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度は、1.0~10.0gf/mmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0~8.0gf/mmの範囲内であることが好ましい。これは、粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度が、1.0gf/mmを下回ると貼り付けた粘着性ゲルシートが剥離してしまうおそれが強くなり、逆に10.0gf/mmを超えると、皮膚等への粘着力が高すぎて剥離時に皮膚の角質が過度に剥離されたり、体毛が引っ張られたりして、痛みや不快感、さらには皮膚に対する過度な刺激により、二次的な炎症を引き起こす場合がある。なお、片面粘着性ゲルシートにおいて、粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度を上記範囲内とするためには、上述した(A)、(B)、(C)成分の配合量や、(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)、粘着性シリコーンゲル層の厚み等を上記の範囲内とし、硬化したシリコーンゲル硬化物の23℃での損失係数(tanδ)の値を所定の範囲内とすることで達成される。
片面粘着性ゲルシートにおける粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度の測定方法は、特に制限されるものではないが、例えば、接着剤等の接着力を試験するために用いる引張せん断接着試験機にて測定することができる。なお、引張せん断接着試験機としては、例えば、(株)島津製作所製の精密万能試験機オートグラフ(登録商標)AGX-VD5kN等が挙げられる。
【0050】
[両面粘着性シリコーンゲルシート]
また、上記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物である粘着性シリコーンゲル層からなる単層構造の両面粘着性ゲルシートにおいては、粘着・密着信頼性が重要とされる用途(電気電子用部品、防水シール用途、車載用途、建築用防振用途など)や手芸用途(ホビー用途、玩具用途など)に好適に用いることができる。
粘着させる基材(粘着対象基材)としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリフェニレンサルファイド(PPS)等のエンジニアリングプラスチックや、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等の汎用プラスチックなどの有機樹脂、アルミニウムや鉄などの金属、ガラス、陶器など、種々の材質の基材が適用できる。
【0051】
粘着性シリコーンゲル層からなる単層構造の両面粘着性ゲルシートの調製方法は、プレス成型により得ることができ、鋳型の上下に両面粘着性剤ゲルシートが非粘着となる材料(ライナー)を使用することで製品となる。
【0052】
その際、両面粘着性ゲルシートの厚さは0.1~300mmの範囲が適切であり、好ましくは0.5~200mmの範囲であり、より好ましくは1~100mmの範囲である。両面粘着性ゲルシートが厚すぎると重量が重くなったり、振動や膨張により硬化した粘着性シリコーンゲル層が変形した際、硬化した粘着性シリコーンゲル層に亀裂が入ったり、最悪の場合破壊してしまう場合があり、薄すぎると例えば、両面粘着性ゲルシートの好適な用途である防水シール材としてのシール機能性低下や、車載用途、建築用防振用途などにおいて振動耐久性の悪化、変異追従性の低下などが起こる場合がある。
【0053】
また、上記(A)~(D)成分を必須成分として含有し、かつフィラーを含有しない硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物である粘着性シリコーンゲル層からなる単層構造の両面粘着性ゲルシートにおいて、該粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度は、1.0~10.0gf/mmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1.0~8.0gf/mmの範囲内であることが好ましい。これは、粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度が、1.0gf/mmを下回ると貼り付けた両面粘着性ゲルシートが剥離してしまうおそれが強くなり、逆に10.0gf/mmを超えると、両面粘着性ゲルシートが古くなって交換する際や設置のやり直し作業時に粘着力が高すぎて作業性が低下するほか、両面粘着性ゲルシートが最悪の場合破壊して基材表面に残ってしまう場合がある。なお、両面粘着性ゲルシートにおいて、粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度を上記範囲内とするためには、上述した(A)、(B)、(C)成分の配合量や、(A)成分中のビニル基(Vi)に対する(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の合計(H)のモル比(H/Vi)、(C)成分中のSiH基(Hc)に対する(B)成分中のSiH基(Hb)のモル比(Hb/Hc)、粘着性シリコーンゲル層の厚み等を上記の範囲内とすることで達成される。
両面粘着性ゲルシートにおける粘着性シリコーンゲル層の表面粘着力の最大点強度の測定方法は、特に制限されるものではないが、例えば、接着剤等の接着力を試験するために用いる引張せん断接着試験機にて測定することができる。なお、引張せん断接着試験機としては、例えば、(株)島津製作所製の精密万能試験機オートグラフ(登録商標)AGX-VD5kN等が挙げられる。
【0054】
本発明の片面又は両面粘着性シリコーンゲルシートは、適度な粘着性を有し、かつ硬化した粘着性シリコーンゲル層は、低周波数領域から高周波数領域まで幅広いせん断周波数領域にわたって損失係数(tanδ)の低下が抑制され、幅広いせん断周波数領域にわたって比較的大きな損失係数(tanδ)を保持し、該損失係数(tanδ)の周波数依存性が小さく、応力緩和に優れた強度の高い粘着性シリコーンゲル層を有していることから、粘着性シリコーンゲル層を粘着対象基材に粘着させたのち、粘着対象基材から剥離する際に粘着性シリコーンゲル層を破壊せず剥離することができるものである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表し、「Vi」は「ビニル基」を表す。また、MH単位は(H(CH3)2SiO1/2)単位を示し、Q単位はSiO4/2単位を示す。粘度は、23℃の条件において回転粘度計により測定を行った。針入度、粘着力、損失係数(tanδ)は、下記に示す方法により測定した。なお、粘着力(表面粘着力)の最大点強度は、引張せん断接着試験機として(株)島津製作所製の精密万能試験機オートグラフ(登録商標)AGX-VD5kNを用いて測定した。
【0056】
[針入度]
粘着性ゲルシートに用いるシリコーンゲル硬化物の針入度は、未硬化の硬化性シリコーンゲル組成物を、円筒状容器(内寸法:直径30mmφ×深さ15mm)に入れて23℃×24時間及び80℃×30分の2つの硬化条件にて硬化物サンプルを作製し、JIS K2220で規定される1/4コーンにより測定した。その際、針入度は、(株)離合社製自動針入度計RPM-101を用いて測定し、30~80のものを合格、30未満であるもの、80を超えるもの、また未硬化のものを不合格と判定した。
【0057】
[粘着力]
得られる粘着性ゲルシートに用いる粘着性シリコーンゲル層の粘着力は以下のように測定した。その際、未硬化の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化条件は23℃×24時間及び80℃×30分の2条件で行った。また、各種試験の合否判定は下記のように行った。
【0058】
粘着力(1);
人肌に対する最大粘着力(片面のみ粘着する粘着性ゲルシートの最大粘着力測定)
幅30mm×長さ20cm×厚さ20μmのPETフィルム上に未硬化の硬化性シリコーンゲル組成物を厚さ約70μmになるようにアプリケーターを用いて塗布し、硬化させ、PETフィルムの片面に粘着性シリコーンゲル層を有する片面粘着性ゲルシートを得た。その後、作製した片面粘着性ゲルシートの粘着面を右手上腕部に貼り付け、23℃にて約30分放置した後、引張せん断接着試験機にて測定温度23℃、引張スピード60mm/minの条件にて90度ピールを行い、剥離する際に得られた最大点強度を測定した。その際、1.0~10.0gf/mmであったものを合格、上記数値から逸脱する値、又は引張試験後の肌上に粘着剤(粘着性シリコーンゲル層)が残り、不快に感じたものを不合格と判定した。
【0059】
粘着力(2);
金属に対する粘着力(両面粘着する粘着性ゲルシートの粘着力測定)
硬化性シリコーンゲル組成物を長さ1.0cm×幅2.5cm×厚み2mmになるようにプレス成型にて硬化させて両面粘着性ゲルシートを得、それを
図1に示すように長さ5.0cm×幅2.5cm×厚み1.0mmのアルミニウム基板1上に載せた。その後、粘着面積が2.5cm
2となるように両面粘着性ゲルシート2表面にもう1つのアルミニウム基板1を載せ、1時間以上放置して、せん断接着試験のテストピースを作製した。その後、引張せん断接着試験機にて測定温度23℃においてテストピースをせん断方向に引張スピード50mm/minの条件にて引っ張ることで得られるせん断力を粘着力(最大点強度)として測定した。その際、アルミニウム基板上の片側のみに両面粘着性ゲルシートが粘着しているものを合格、両面粘着性ゲルシートが破壊され、両側のアルミニウム基板上にあるものを不合格とした。
【0060】
粘着力(3);
プラスチックに対する粘着力(両面粘着する粘着性ゲルシートの粘着力測定)
硬化性シリコーンゲル組成物を長さ1.0cm×幅2.5cm×厚み2mmになるようにプレス成型にて硬化させて両面粘着性ゲルシートを得、それを
図1に示すように長さ5.0cm×幅2.5cm×厚み2.0mmのポリカーボネート基板1上に載せた。その後、粘着面積が2.5cm
2となるように両面粘着性ゲルシート2表面にもう1つのポリカーボネート基板1を載せ、1時間以上放置して、せん断接着試験のテストピースを作製した。その後、引張せん断接着試験機にて測定温度23℃においてテストピースをせん断方向に引張スピード50mm/minの条件にて引っ張ることで得られるせん断力を粘着力(最大点強度)として測定した。その際、ポリカーボネート基板上の片側のみに両面粘着性ゲルシートが粘着しているものを合格、両面粘着性ゲルシートが破壊され、両側のポリカーボネート基板上にあるものを不合格とした。
【0061】
[損失係数(tanδ)]
粘着性ゲルシートに用いるシリコーンゲル硬化物の損失係数(tanδ)は、未硬化の硬化性シリコーンゲル組成物を下記条件にて硬化・測定することで得た。
粘弾性測定機:(株)ユービーエム Rheogel-E4000
測定条件:スリットせん断法(幅:13mm、深さ:10mm、間隔:0.25mm)
硬化温度:80℃×30分
測定温度:23℃
歪制御:30μm、12%
歪波形:正弦波
【0062】
[実施例1]
(A)成分である、下記式(4)
【化10】
で示される23℃での粘度が5,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを100部と、エチニルメチルデシルカルビノール(任意成分)を0.01部加え、室温(23℃)にて均一になるまで攪拌した。その後、(B)成分である、23℃での粘度が40mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.0102mol/gであるM
H単位とQ単位をモル比;[M
H]/[Q]=1.60で含有する三次元網状メチルハイドロジェンポリシロキサンを0.14部、(C)成分である、下記式(5)
【化11】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを5.7部加えて均一に混合したのち、(D)成分である、白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.07部入れ、真空脱泡機にて脱気し、組成物1を得た。得られた組成物1を23℃で24時間硬化したところ、針入度61の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.35、H/Vi=0.85)
【0063】
[実施例2]
実施例1において、(C)成分である、下記式(5)
【化12】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を4.8部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物2を得た。得られた組成物2を23℃で24時間硬化したところ、針入度76の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.41、H/Vi=0.75)
【0064】
[実施例3]
実施例1において、(C)成分である、下記式(5)
【化13】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を7.4部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物3を得た。得られた組成物3を23℃で24時間硬化したところ、針入度30の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.27、H/Vi=1.04)
【0065】
[比較例1]
実施例1において、(B)成分である、23℃での粘度が40mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.0102mol/gであるM
H単位とQ単位をモル比;[M
H]/[Q]=1.60で含有する三次元網状メチルハイドロジェンポリシロキサンを0.30部とし、(C)成分である、下記式(5)
【化14】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを除いた以外は同様の方法にて調製し、組成物4を得た。得られた組成物4を23℃で24時間硬化したところ、針入度55の硬化物を得た。
((C)成分非含有、H/Vi=0.47)
【0066】
[比較例2]
実施例1において、(B)成分である、23℃での粘度が40mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.0102mol/gであるM
H単位とQ単位をモル比;[M
H]/[Q]=1.60で含有する三次元網状メチルハイドロジェンポリシロキサンの配合量を0.05部、(C)成分である、下記式(5)
【化15】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を9.2部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物5を得た。得られた組成物5を23℃で24時間硬化したところ、針入度51の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.08、H/Vi=1.10)
【0067】
[比較例3]
実施例1において、(B)成分である、23℃での粘度が40mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.0102mol/gであるM
H単位とQ単位をモル比;[M
H]/[Q]=1.60で含有する三次元網状メチルハイドロジェンポリシロキサンの代わりに、下記式(6)
【化16】
で示される23℃での粘度が100mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00545mol/gである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチル・メチルハイドロジェンポリシロキサンを0.30部用い、(C)成分である、下記式(5)
【化17】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を4.8部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物6を得た。得られた組成物6を23℃で24時間硬化したところ、針入度60の硬化物を得た。
((B)成分非含有、H/Vi=0.78)
【0068】
[比較例4]
実施例1において、(B)成分である、23℃での粘度が40mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.0102mol/gであるM
H単位とQ単位をモル比;[M
H]/[Q]=1.60で含有する三次元網状メチルハイドロジェンポリシロキサンの代わりに、下記式(6)
【化18】
で示される23℃での粘度が100mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00545mol/gである両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチル・メチルハイドロジェンポリシロキサンを0.50部用い、(C)成分である、下記式(5)
【化19】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを除いた以外は同様の方法にて調製し、組成物7を得た。得られた組成物7を23℃で24時間硬化したところ、未硬化であった。そこで80℃×30分にて硬化させたところ、針入度51の硬化物を得た。
((B)及び(C)成分非含有、H/Vi=0.42)
【0069】
[比較例5]
実施例1において、得られた組成物1に、BET法による比表面積が約130m2/gである煙霧質シリカ(商品名;アエロジルR-972(エボニック社製))を1.0部加え、分散混合して組成物8を得た。得られた組成物8を23℃で24時間硬化したところ、針入度63の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.35、H/Vi=0.85)
【0070】
[比較例6]
実施例1において、(C)成分である、下記式(5)
【化20】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を8.3部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物9を得た。得られた組成物9を23℃で24時間硬化したところ、針入度19の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.24、H/Vi=1.14)
【0071】
[比較例7]
実施例1において、(C)成分である、下記式(5)
【化21】
で示される23℃での粘度が35mPa・s、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)量が0.00072mol/gである両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンの配合量を3.8部とした以外は同様の方法にて調製し、組成物10を得た。得られた組成物10を23℃で24時間硬化したところ、針入度90の硬化物を得た。
((Hb/Hc)=0.52、H/Vi=0.64)
【0072】
上記実施例1~3、比較例1~7で得られた組成物を用いて片面及び両面粘着性ゲルシートを作製し、上述した粘着力の測定を行い、合否判定を行った。また、上記実施例1~3、比較例1~7で得られた組成物を硬化させて得られた硬化物の針入度及び損失係数(tanδ)を上述した方法により測定し、合否判定を行った。
図2~4にせん断周波数0.1~50Hzにおける23℃での損失係数(tanδ)の測定結果を示す。これら粘着力、針入度、損失係数(tanδ)の結果を表1に示す。また、実施例1~3、比較例1~7で得られた組成物の(Hb/Hc)及びH/Viを表1に併せて示す。
【0073】
【0074】
[評価]
実施例1~3で得られた組成物を用いて作製した片面及び両面粘着性ゲルシートは、本発明の要件を満たすものであり、人肌に対して適度な粘着力の最大点強度を有し、また金属、プラスチックに対しても優れた粘着力の最大点強度を示すことが分かる。その上、剥離時に粘着性ゲルシート(粘着性シリコーンゲル層)を破壊することもないため、粘着性ゲルシートの張り直しや再利用、交換作業等の取り扱いも容易で非常に有用な粘着性ゲルシートであることが分かる。
【0075】
これに対し、比較例1は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、(B)成分であるMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのみ配合されており、(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサンが未添加であるため、架橋点が密集しており、またH/Viが0.47と0.6~1.5の範囲から逸脱している。そのような組成物では、粘着性ゲルシートを作製した場合、人肌に対しては適度な粘着力の最大点強度を有する粘着性ゲルシートとなるが、目標とする損失係数(tanδ)からも逸脱するため、金属やプラスチックに対して粘着させると、せん断変位によって粘着性ゲルシートが破壊されてしまう結果であった。そのため、粘着性ゲルシートの再利用ができなくなったり、交換作業する場合、両面に付いた粘着性ゲルシートを剥がす工程が必要となる。
【0076】
比較例2は、(B)成分であるMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンのSiH基(Hb)と(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサンのSiH基(Hc)のモル比が0.08であり、0.10≦(Hb/Hc)≦1.50の範囲から逸脱している。よって、架橋点となる(B)成分の量が少ないため、人肌に粘着させたのちに剥がす際、粘着性ゲルシートの粘着剤(粘着性シリコーンゲル層)が破壊されて皮膚へ移行してしまい、不快となる。また、金属やプラスチックに対して粘着させた場合も、せん断変位によって粘着性ゲルシートが破壊されてしまう結果であった。
【0077】
比較例3は、(B)成分であるMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの代わりとして、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いたものとなっている。このような組成物を用いて粘着性ゲルシートを作製したとしても、適度な粘着力の最大点強度を有する粘着性ゲルシートを得ることができるが、MH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いたときよりも架橋点がさらに密集するため、目標とする損失係数(tanδ)からも逸脱し、人肌に粘着させたのちに剥がす際、粘着性ゲルシートの粘着剤(粘着性シリコーンゲル層)が破壊されて皮膚へ移行してしまうほか、金属やプラスチックに対して粘着させた場合も、せん断変位によって粘着性ゲルシートが破壊されてしまう結果であった。
【0078】
比較例4は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、(B)成分であるMH単位とQ単位を必須構成単位として含有する三次元網状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと(C)成分であるケイ素原子に結合した水素原子を分子鎖末端にのみ有する直鎖状又は分岐鎖状メチルハイドロジェンポリシロキサンを配合せずに、側鎖にSiH基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンを用いたものとなっている。このような組成物を用いて粘着性ゲルシートを作製した場合は、H/Viが0.42と0.6~1.5の範囲から逸脱してしまうほか、23℃の条件では未硬化であるため、加温しないと粘着性ゲルシートを得ることはできない。また、加温して粘着性ゲルシートを得たとしても、目標とする損失係数(tanδ)も逸脱しているため人肌に対する適度な粘着力の最大点強度が低く、貼付後に剥離する可能性が高くなるため不適となる。
【0079】
比較例5は、実施例1の組成物にフィラーを添加した組成物を用いて粘着性ゲルシートを作製した結果であるが、フィラーを配合することにより粘着性ゲルシートの粘着性シリコーンゲル層が変位により破壊されやすくなったと思われるような挙動となり、人肌に粘着させたのちに剥がす際、粘着性ゲルシートの粘着剤(粘着性シリコーンゲル層)が破壊されて皮膚へ移行して不快となるほか、金属やプラスチックに対して粘着させた場合も、せん断変位によって粘着性ゲルシートが破壊されてしまう結果であった。
【0080】
比較例6、7は、目標とする針入度30~80の範囲から逸脱している。そのため、比較例6においては、針入度が19、即ち粘着性ゲルシートの粘着性シリコーンゲル層が硬く、目標とする損失係数(tanδ)も逸脱しているため、人肌に粘着させたのちに剥がす際、適度な粘着力の最大点強度まで到達せず、貼付後に剥離する可能性が高くなる。逆に、比較例7においては、針入度が90、即ち粘着性ゲルシートの粘着性シリコーンゲル層が軟らかすぎるため、目標とする損失係数(tanδ)も逸脱してしまい、人肌に粘着させたのちに剥がす際、粘着性ゲルシートの粘着剤(粘着性シリコーンゲル層)が破壊されて皮膚へ移行してしまい、不快となる。
上記の結果から、本発明の有効性が確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の粘着性ゲルシートは、特に粘着性シリコーンゲル層の表面粘着性が高いため、粘着性ゲルシートを貼ったあとは剥がれにくく、剥がす時には粘着性シリコーンゲル層を破壊することなく剥がすことができる。そのため、医療・ヘルスケア用途に使用する際は、片面が粘着する粘着性ゲルシートを用いることにより、適度な粘着性維持による経時剥がれ防止ができ、剥がす際に粘着性シリコーンゲル層が破壊せず、肌に粘着性シリコーンゲル層が残存しない。その上、剥がす時に皮膚の角質が過度に剥がされることなく、体毛が引っ張られたりして、痛みや不快感、さらには皮膚に対する過度な刺激により、二次的な炎症を引き起こすようなこともない粘着性ゲルシートとなる。また、両面が粘着する粘着性ゲルシートは、車載電子部品、民生用電子部品等への使用が期待される。車載電子部品、民生用電子部品用途に使用する際は、部品の再利用や部品の交換作業が容易となるため、生産性の向上や廃棄物削減などにつながる。よって、本発明の粘着性ゲルシートは、幅広い分野へ使用できる可能性を秘めている。
【符号の説明】
【0082】
1 基材
2 両面粘着性ゲルシート