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特許7452534パウダー分散液、パウダー分散液の製造方法及び樹脂付基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】パウダー分散液、パウダー分散液の製造方法及び樹脂付基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20240312BHJP
   H05K 3/28 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C08L27/18
H05K3/28 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021513624
(86)(22)【出願日】2020-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2020015541
(87)【国際公開番号】W WO2020209223
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019075499
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】特開平02-079391(JP,A)
【文献】特開2003-119426(JP,A)
【文献】特開昭52-068230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
H05K 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が140~320℃のテトラフルオロエチレン系ポリマーの平均粒子径が40μm以下であるパウダーと、沸点が80~260℃の第1液体化合物と、前記第1液体化合物と異なり、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした場合の蒸発速度が0.01~0.3、かつ沸点が140~260℃の第2液体化合物とを含むパウダー分散液であって、前記パウダー分散液に含まれる前記第1液体化合物の質量に対する前記第2液体化合物の質量の比が1未満である、パウダー分散液。
【請求項2】
前記第1液体化合物が、ケトン、エステル、アミド又は芳香族炭化水素である、請求項1に記載のパウダー分散液。
【請求項3】
前記第2液体化合物が、ジイソブチルケトン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、イソホロン、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、酢酸-2-エトキシエチル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピネート又はジエチレングリコールモノブチルエーテルである、請求項1又は2に記載のパウダー分散液。
【請求項4】
前記第2液体化合物が、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、イソホロン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート又は3-メトキシブチルアセテートである、請求項1~3のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項5】
前記パウダー分散液に含まれる前記パウダーの量が、10質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項6】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び官能基を有するポリマーである、請求項1~5のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項7】
前記ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び官能基を有するモノマーに基づく単位を有するポリマーである、請求項6に記載のパウダー分散液。
【請求項8】
さらに、ポリオキシアルキレン基又は水酸基を有する親水性基と、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する疎水性基とを有する分散剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項9】
前記パウダー分散液の25℃における粘度が、1000mPa・s以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のパウダー分散液を製造する方法であって、前記パウダーと、前記第1液体化合物及び前記第2液体化合物を含み、前記第1液体化合物の質量に対する前記第2液体化合物の質量の比が1未満である液状組成物とを混合して、パウダー分散液を得る、パウダー分散液の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のパウダー分散液を、基板の表面に塗布し、加熱して前記第1液体化合物及び前記第2液体化合物を除去するとともに、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成し、前記基板と前記ポリマー層とを備える樹脂付基板を得る、樹脂付基板の製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー層の厚さが、20μm未満である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウダーが少なくとも2種の液体化合物に分散したパウダー分散液及びその製造方法、並びに、かかるパウダー分散液を使用した樹脂付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、その物性を活用して、種々の産業用途に利用されている。
中でも、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含むパウダー分散液は、各種基材の表面に塗布すれば、その表面にフルオロオレフィン系ポリマーの物性を付与できるため、コーティング剤として有用である(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2016/159102号パンフレット
【文献】国際公開2018/016644号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなパウダー分散液には、調製時の効率性を高める観点からより優れた消泡性が求められる他、塗膜を形成する際の成膜性の更なる向上も求められている。
本発明者らは、鋭意検討した結果、蒸発速度が比較的低い液体化合物(溶媒)を使用したパウダー分散液は、消泡性及び成膜性に優れることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、沸点が80~260℃の第1液体化合物と、前記第1液体化合物と異なり、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした場合の蒸発速度が0.01~0.3、かつ沸点が140~260℃の第2液体化合物とを含む、パウダー分散液。
<2>前記パウダー分散液に含まれる前記第1液体化合物の質量に対する前記第2液体化合物の質量の比が1未満である、<1>のパウダー分散液。
<3>前記第1液体化合物が、ケトン、エステル、アミド又は芳香族炭化水素である、<1>又は<2>のパウダー分散液。
<4>前記第2液体化合物が、ジイソブチルケトン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、イソホロン、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、酢酸-2-エトキシエチル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピネート又はジエチレングリコールモノブチルエーテルである、<1>~<3>のいずれかのパウダー分散液。
<5>前記第2液体化合物が、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、イソホロン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート又は3-メトキシブチルアセテートである、<1>~<4>のいずれかのパウダー分散液。
【0006】
<6>前記パウダーの平均粒子径が、40μm以下である、<1>~<5>のいずれかのパウダー分散液。
<7>前記パウダー分散液に含まれる前記パウダーの量が、10質量%以上である、<1>~<6>のいずれかのパウダー分散液。
<8>前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、溶融温度が140~320℃の熱溶融性ポリマーである、<1>~<7>のいずれかのパウダー分散液。
<9>前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び官能基を有するポリマーである、<1>~<8>のいずれかのパウダー分散液。
<10>前記ポリマーが、テトラフルオロエチレンに基づく単位及び官能基を有するモノマーに基づく単位を有するポリマーである、<9>のパウダー分散液。
【0007】
<11>さらに、ポリオキシアルキレン基又は水酸基を有する親水性基と、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有する疎水性基とを有する分散剤を含む、<1>~<10>のいずれかに記載のパウダー分散液。
<12>前記パウダー分散液の25℃における粘度が、1000mPa・s以下である、<1>~<11>のいずれかのパウダー分散液。
<13>上記<1>~<12>のいずれかのパウダー分散液を製造する方法であって、前記パウダーと、前記第1液体化合物及び前記第2液体化合物を含む液状組成物とを混合して、パウダー分散液を得る、パウダー分散液の製造方法。
<14>上記<1>~<12>のいずれかのパウダー分散液を、基板の表面に塗布し、加熱して前記第1液体化合物及び前記第2液体化合物を除去するとともに、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成し、前記基板と前記ポリマー層とを備える樹脂付基板を得る、樹脂付基板の製造方法。
<15>前記ポリマー層の厚さが、20μm未満である、<14>の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパウダー分散液は消泡性及び成膜性に優れる。本発明のパウダー分散液の製造方法によれば、そのようなパウダー分散液を製造できる。本発明の樹脂付基板の製造方法によれば、表面平坦性が高いポリマー層を備える樹脂付基板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を、0.7MPaの荷重をかけて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「パウダーの平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD90」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積90%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径である。
粒子のD50及びD90は、粒子を水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「パウダー分散液の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「パウダー分散液のチキソ比」とは、回転数が30rpmの条件で測定される粘度ηを回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
ポリマーを構成する「単位」とは、モノマーの重合により直接形成された、上記モノマー1分子に基づく原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。特定のモノマーに基づく単位は、そのモノマー名に「単位」を付して表すことがある。
【0010】
本発明のパウダー分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダーと、沸点が80~260℃の第1液体化合物と、この第1液体化合物と異なり、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした場合の蒸発速度が0.01~0.3、かつ沸点が140~260℃の第2液体化合物とを含む。
なお、以下、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした場合の液体化合物の蒸発速度を、単に「蒸発速度」という。
かかるパウダー分散液は、消泡性及び成膜性に優れる。この理由は必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。
【0011】
第2液体化合物は、蒸発速度が低く、かつ沸点が比較的高い化合物であり、概して、疎水部と極性部とを有する分子量の大きい化合物である。かかる第2液体化合物は、Fポリマー及び第1液体化合物の両方と相互作用が生じうる。このため、第2液体化合物は、それ自体がパウダーの分散剤として機能すると考えられる。また、パウダー分散液が別途の分散剤を含む場合には、前記分散剤によるパウダーの分散作用を高めるように機能すると考えられる。その結果、パウダー分散液全体としての表面張力を効果的に低下させるので、パウダーの分散を促進し、パウダー分散液の泡立ちを抑制(良好な消泡性を発現)したと推察される。
【0012】
また、第2液体化合物は、蒸発速度が低く、遅乾性溶媒とも言える。第1液体化合物は、パウダー分散液に良好な流動性を付与し、塗膜(液状被膜)形成時に均一な厚さの塗膜の形成を促すと考えられる。一方、遅乾性溶媒である第2液体化合物は、徐々に揮発するため、揮発に伴う急激な気泡の発生等による塗膜の表面荒れを防止し、塗膜の表面平坦性を高めると考えられる。また、第2液体化合物は、レベリング剤としても機能して、塗膜乾燥時に塗膜の平坦性を高める(丸みを帯びた角部の形成を防止する)とも考えられる。これらの相乗効果により、パウダー分散液は優れた成膜性を発揮したと推察される。
特に、Fポリマーのパウダーは、その粒子同士の相互作用が弱く、それらの間に第2液体化合物が介在した状態が形成されやすいため、本発明のパウダー分散液を使用すれば、上記効果がより顕著に発揮されると考えられる。
【0013】
本発明の樹脂付基板の製造方法では、上記パウダー分散液を、基板の表面に塗布し、加熱して第1液体化合物及び第2液体化合物を除去するとともに、Fポリマーを焼成して、Fポリマーを含むポリマー層を形成し、基板とポリマー層とを備える樹脂付基板を得る。
本発明により得られる樹脂付基板のポリマー層は、本発明のパウダー分散液を使用して形成されるので、表面平坦性に優れる。
以上のような効果は、後述する本発明の好ましい態様において、より顕著に発現する。
【0014】
本発明におけるパウダーのD50は、40μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、8μm以下が特に好ましい。パウダーのD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。また、パウダーのD90は、80μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましい。この範囲のD50及びD90において、パウダーの流動性と分散性とが良好となり、ポリマー層の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が最も発現し易い。また、パウダー分散液の消泡性及び成膜性がより向上する。
パウダーの疎充填嵩密度は、0.08~0.5g/mLがより好ましい。パウダーの密充填嵩密度は、0.1~0.8g/mLがより好ましい。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が上記範囲にある場合、パウダーのハンドリング性が優れる。
【0015】
本発明におけるパウダーはFポリマー以外の樹脂を含んでいてもよいが、本発明におけるパウダーとしては、Fポリマーを主成分とするパウダーが好ましい。パウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
上記樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0016】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位を含むポリマーである。Fポリマーは、TFEのホモポリマーであってもよく、TFEと、TFEと共重合可能なコモノマーとのコポリマーであってもよい。
Fポリマーとしては、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~100モル%含むFポリマーが好ましい。また、Fポリマーのフッ素含有量は、70~76質量%が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
【0017】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFEとエチレンとのコポリマー(ETFE)、TFEとプロピレンとのコポリマー、TFEとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)とのコポリマー(PFA)、TFEとヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)とのコポリマー(FEP)、TFEとフルオロアルキルエチレン(以下、「FAE」とも記す。)とのコポリマー、TFEとクロロトリフルオロエチレンとのコポリマーが挙げられる。コポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
なお、PTFEとしては、フィブリル性を有する高分子量PTFE、低分子量PTFE、変性PTFEが挙げられる。また、低分子量PTFE又は変性PTFEには、TFEと極微量のコモノマー(HFP、PAVE、FAE等)のコポリマーも包含されるものとする。
【0018】
Fポリマーとしては、TFE単位及び官能基を有するFポリマーが好ましい。官能基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基が好ましい。
官能基は、Fポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。また、Fポリマーを、プラズマ処理や電離線処理して得られる、官能基を有するFポリマーも使用できる。
官能基を有するFポリマーとしては、パウダー分散液中におけるパウダーの分散性の観点から、TFE単位及び官能基を有する単位を有するFポリマーが好ましい。官能基を有する単位としては、上述した官能基を有する単位が好ましい。
官能基を有するモノマーとしては、酸無水物残基を有するモノマーが好ましく、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸。以下、「NAH」とも記す。)及び無水マレイン酸がより好ましい。
【0019】
官能基を有するFポリマーの好適な具体例としては、TFE単位と、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを有するFポリマーが挙げられる。
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFFが挙げられる。
FAEとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられる。
かかるポリマーFの具体例としては、ポリマーを構成する全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、HFP単位、PAVE単位又はFAE単位を0.5~9.97モル%、官能基を有する単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するFポリマーが挙げられる。かかるポリマーFの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0020】
Fポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
Fポリマーとしては、熱溶融性ポリマーが好ましく、溶融温度が第1液体化合物の沸点及び第2液体化合物の沸点のいずれよりも高い溶融温度を有する熱溶融性ポリマーがより好ましい。熱溶融性ポリマーの溶融温度としては、140~320℃が好ましく、200~320℃がより好ましく、260~320℃がさらに好ましい。かかるFポリマーを使用すれば、表面平坦性により優れるポリマー層が形成されやすい。
【0021】
本発明における第1液体化合物及び第2液体化合物は、いずれも25℃で液体の化合物であり、水性溶媒であってもよく、非水性溶媒であってもよい。
第1液状化合物としては、蒸発速度が比較的高い一方で、瞬間的に揮発しない化合物が好ましい。第1液体化合物の蒸発速度は、第2液体化合物の蒸発速度より高いのが好ましい。言い換えれば、第1液体化合物は0.3を超える蒸発速度を有するのが好ましい。第1液状化合物の沸点は、80~260℃であり、100~250℃が好ましく、120~240℃がより好ましい。この範囲において、パウダー分散液を基板の表面に塗布する際には、パウダー分散液に良好な流動性が付与され、パウダー分散液から液性成分(溶媒等)を加熱留去する際には、第1液状化合物の揮発が効果的に進行する。
また、パウダーの流動性とパウダー分散液の粘度とを良好にバランスさせる観点から、第1液状化合物の20~25℃における粘度は、5.0mPa・s以下が好ましく、4.0mPa・s以下がより好ましい。前記粘度の下限は、通常、0.1mPa・sである。
【0022】
第1液状化合物としては、ケトン、エステル、アミド、アルコール、スルホキシド、グリコールエーテル及び芳香族炭化水素が好ましく、ケトン、エステル、アミド及び芳香族炭化水素がより好ましい。かかる第1液状化合物を使用すれば、パウダー分散液の成膜性が向上しやすい。なお、第1液状化合物は、2種以上を併用してもよい。
第1液状化合物の好適な具体例としては、メチルエチルケトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、トルエン、キシレン、1,2,4-トリメチルベンゼン及び1,2,3-トリメチルベンゼンが挙げられ、メチルエチルケトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びシクロヘキサノンがより好ましい。なお、これら化合物は、その蒸発速度の具体的数値が不明のものもあるが、後述の第2液状化合物よりも高い蒸発速度を有することは、定性的に明らかである。
【0023】
第2液状化合物は、上記第1液状化合物と異なる化合物であり、蒸発速度が比較的低い化合物である。具体的には、第2液状化合物の蒸発速度は、酢酸ブチルの蒸発速度を1とした場合、0.01~0.3であり、0.03~0.20が好ましく、0.05~0.15がより好ましい。
また、第2液状化合物の沸点は、140~260℃であり、160~240℃が好ましく、180~220℃がより好ましい。
蒸発速度及び沸点が上記範囲内の第2液状化合物を使用すれば、第1液状化合物が加熱留去された後においても、充分な量の第2液状化合物が塗膜中に残存し、その後適度な速度で加熱留去される。このため、第2液状化合物は、ポリマー層の表面平坦性を向上させる効果をより好適に発揮できる。
また、第1液状化合物の沸点と第2液状化合物の沸点との差は、±40℃以内であることが好ましく、±30℃以内であることがより好ましい。
【0024】
かかる第2液状化合物としては、ジイソブチルケトン(蒸発速度:0.2、沸点:168℃)、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(蒸発速度:0.15、沸点:168℃)、イソホロン(蒸発速度:0.026、沸点:215℃)、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル(蒸発速度:0.08、沸点:170℃)、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル(蒸発速度:0.19、沸点:153℃)、酢酸2-エトキシエチル(蒸発速度:0.21、沸点:156℃)、3-メトキシ-3-メチルブタノール(蒸発速度:0.07、沸点:174℃)、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート(蒸発速度:0.10、沸点:188℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(蒸発速度:0.22、沸点:150℃)、3-メトキシブチルアセテート(蒸発速度:0.14、沸点:171℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピネート(蒸発速度:0.19、沸点:160℃)、及び、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(蒸発速度:0.004、沸点:230℃)が挙げられる。なお、これらの化合物は、2種以上を併用してもよい。
中でも、第2液体化合物としては、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、イソホロン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート及び3-メトキシブチルアセテートが好ましい。
これらの化合物は、界面活性剤(パウダーの分散剤)、可塑剤として機能できる化合物であるとも言え、ポリマー層の平坦性をさらに向上させやすい。
【0025】
パウダー分散液に含まれる第1液体化合物の質量に対する第2液体化合物の質量の比(第2液体化合物の含有量/第1液体化合物の含有量)は、1未満が好ましく、0.1~0.9がより好ましく、0.2~0.8がさらに好ましい。このように第1液体化合物と第2液体化合物とを適度な量比で含む場合、パウダー分散液は、良好な消泡性と優れた成膜性とをバランスよく発揮できる。
【0026】
本発明のパウダー分散液は、パウダーの分散性をより向上させる観点から、さらに分散剤を含有するのが好ましい。分散剤は親水性基と疎水性基を有する化合物であり、分散剤としては、フッ素系分散剤、シリコーン系分散剤及びアセチレン系分散剤が好ましく、フッ素系分散剤がより好ましい。また、分散剤としては、ノニオン性の分散剤が好ましい。
上記親水性基としては、ポリオキシアルキレン基及び水酸基が好ましい。ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、及び、オキシエチレン基と炭素数3以上のポリオキシアルキレン基とを有するポリオキシアルキレン基、が好ましい。一方、疎水性基は、分散剤の種類に応じて適宜選択される。フッ素系分散剤の場合、疎水性基としては、ペルフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を有するペルフルオロアルキル基及びペルフルオロアルケニル基が好ましい。
この場合、各成分に対する分散剤の親和性がバランスして、パウダー分散液中におけるパウダーの分散性に加えて、その成膜性がさらに向上しやすい。
【0027】
フッ素系分散剤としては、フルオロモノオール及びフルオロポリオールが好ましく、フッ素含有量が10~50質量%かつ水酸基価が40~100mgKOH/gのフルオロモノオールであるか、フッ素含有量が10~50質量%かつ水酸基価が10~35mgKOH/gのフルオロポリオールであることがより好ましい。
フルオロモノオールとしては、F(CFCH(OCHCH-(OCHCH(CH))OH、F(CFCH(OCHCH12-(OCHCH(CH))OH、F(CFCHCH(OCHCH-(OCHCH(CH))OH、F(CFCHCH(OCHCH12-(OCHCH(CH))OH、F(CFCHCH(OCHCH-(OCHCH(CH))OH、F(CFCHCH(OCHCH12-(OCHCH(CH))OHが挙げられる。
【0028】
フルオロポリオールとしては、フルオロ(メタ)アクリレートに基づく単位とポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートに基づく単位とを含むポリマーが挙げられる。なお、このポリマーは、Fポリマー以外のポリマーである。
【0029】
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CClC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)が挙げられる。
【0030】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH90OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH120OH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))13OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH・(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH10・(OCHCHCHCHOHが挙げられる。
【0031】
パウダー分散液に対するパウダーの割合は、10質量%以上が好ましく、20~50質量%がより好ましい。この場合、物性(特に、電気特性)に優れたポリマー層を形成しやすい。
パウダー分散液に対する第1液状化合物と第2液状化合物との合計での割合(溶媒の割合)は、15~55質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。この場合、パウダー分散液の塗布性が優れ、かつ成膜性も向上しやすい。
また、パウダー分散液が分散剤を含む場合、そのパウダー分散液に対する割合は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましい。この場合、パウダー分散液中におけるパウダーの分散性がより高まり、ポリマー層の物性がより向上しやすい。
【0032】
さらに、パウダー分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の材料を含んでいてもよい。他の材料は、パウダー分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
かかる他の材料は、非硬化性樹脂であってもよく、硬化性樹脂であってもよい。
非硬化性樹脂としては、熱溶融性樹脂、非溶融性樹脂が挙げられる。熱溶融性樹脂としては、熱可塑性ポリイミドが挙げられる。非溶融性樹脂としては、硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。
【0033】
硬化性樹脂としては、反応性基を有するポリマー、反応性基を有するオリゴマー、低分子化合物、反応性基を有する低分子化合物が挙げられる。反応性基としては、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基が挙げられる。
硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸、硬化性アクリル樹脂、フェノール樹脂、硬化性ポリエステル樹脂、硬化性ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、多官能シアン酸エステル樹脂、多官能マレイミド-シアン酸エステル樹脂、多官能性マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂が挙げられる。
【0034】
エポキシ樹脂の具体例としては、ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
ビスマレイミド樹脂としては、特開平7-70315号公報に記載される樹脂組成物(BTレジン)、国際公開第2013/008667号に記載される樹脂が挙げられる。
ポリアミック酸は、通常、Fポリマーが有する上記官能基と反応し得る反応性基を有している。
ポリアミック酸を形成するジアミン、多価カルボン酸二無水物としては、特許第5766125号公報の[0020]、特許第5766125号公報の[0019]、特開2012-145676号公報の[0055]、[0057]等に記載の化合物が挙げられる。
【0035】
熱溶融性樹脂としては、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂の熱溶融性の硬化物が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート、熱可塑性ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテルが挙げられ、熱可塑性ポリイミド、液晶性ポリエステル及びポリフェニレンエーテルが好ましい。
また、かかる他の材料としては、チキソ性付与剤、消泡剤、無機フィラー、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤も挙げられる。
【0036】
パウダー分散液の25℃における粘度は、1000mPa・s以下が好ましく、50~1000mPa・sがより好ましく、100~500mPa・sがさらに好ましい。この場合、パウダー分散液が分散性に優れるだけでなく、塗工性や異種の樹脂材料のワニスとの相溶性にも優れる。また、本発明によれば、このように比較的低い粘度のパウダー分散液を調製(製造)しやすい。
また、パウダー分散液のチキソ比(η/η)は、1~2.5が好ましく、1.2~2がより好ましい。この場合、パウダー分散液が分散性に優れるだけでなく、ポリマー層の均質性が向上しやすい。
【0037】
本発明のパウダー分散液は、前記パウダーと第1液体化合物と第2液体化合物とを混合して製造できる。パウダーと第1液体化合物と第2液体化合物とを一括して混合してもよく、それらを任意の組み合わせで順に混合してもよい。本発明のパウダー分散液は、予め、第1液体化合物と第2液体化合物とを混合して、それらを含む液状組成物を得た後、この液状組成物にパウダーを混合して調製するのが好ましい。すなわち、本発明のパウダー分散液の製造方法としては、パウダーと、第1液体化合物及び第2液体化合物を含む液状組成物とを混合する方法が好ましい。この順で、パウダーと第1液体化合物と第2液体化合物とを混合すれば、パウダー分散液に泡立ちが生じにくい。
【0038】
本発明の樹脂付基板の製造方法における基板としては、金属箔が好ましく、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔がより好ましい。金属箔の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜等)、耐熱層、粗化処理層、シランカップリング剤処理層が設けられていてもよい。
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.2~2.5μmが好ましい。この場合、金属箔とポリマー層との剥離強度(密着性)が向上しやすい。
パウダー分散液の基板表面への塗布は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の方法によって実施できる。
【0039】
パウダー分散液を基板表面に塗布することにより、基板表面にパウダー分散液の膜が形成される。次いで第1液体化合物及び第2液体化合物の沸点以上に加熱することにより、パウダー分散液の膜から第1液体化合物及び第2液体化合物が除去され、さらにFポリマーの焼成温度に加熱することにより、焼成されたFポリマーを含むポリマー層が形成される。
液体化合物を揮発除去するための温度はFポリマーの溶融温度未満であることが好ましく、Fポリマーの焼成温度はFポリマーの溶融温度以上であることが好ましい。液体化合物の沸点とFポリマーの溶融温度は通常異なることより、加熱は少なくとも2段階の温度で行われることが好ましい。なお、Fポリマーの焼成温度は、Fポリマーの溶融温度によるが、400℃以下が好ましい。
加熱の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。
加熱は、常圧下および減圧下のいずれの状態で行ってもよい。
また、加熱雰囲気としては、酸化性ガス雰囲気(酸素ガス等)、還元性ガス雰囲気(水素ガス等)、不活性ガス雰囲気(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)のいずれであってもよい。
【0040】
本発明の樹脂付基板の製造方法により、基板と基板の一方の表面に接するポリマー層とを有する2層構成の樹脂付基板が得られる。また、得られた2層構成の樹脂付基板を用いて本発明の製造方法を繰り返すことにより、基板の両表面にポリマー層を有する3層構成の樹脂付基板を得ることもできる。
本発明により得られる樹脂付基板において、ポリマー層の厚さは、20μm未満が好ましく、10μm未満がより好ましく、0.1~8μmが特に好ましい。本発明によれば、かかる薄いポリマー層であっても、高い表面平坦性で形成できる。
本発明により得られる樹脂付基板は、ポリマー層と基板との剥離強度も高い。この剥離強度は、7N/cm以上が好ましく、10N/cm以上がより好ましく、13N/cm以上がさらに好ましい。
【0041】
また、本発明により得られる樹脂付基板は、そのポリマー層表面を積層面として他の基板と積層し、3層以上の層構成を有する積層体とすることができる。そのような積層体としては、例えば、基板/ポリマー層/他の基板なる層構成を有する積層体、基板/ポリマー層/他の基板/ポリマー層/基板なる層構成を有する積層体、が挙げられる。他の基板としては、金属箔や樹脂板等が挙げられる。
【0042】
本発明により得られる樹脂付基板や前記積層体は、Fポリマーのパウダーから形成されたポリマー層を備えるため、耐熱性、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)等の物性に優れ、フレキシブルプリント配線基板、リジッドプリント配線基板等のプリント配線基板材料として有用である。
例えば、樹脂付基板の基板や前記積層体の他の基板が金属箔であれば、その金属箔をエッチング処理して所定パターンの金属導体配線(伝送回路)に加工する方法や、金属箔を電解めっき法(セミアディティブ法、モディファイドセミアディティブ法等)で金属導体配線に加工する方法によって、プリント配線基板を製造できる。
【0043】
かかるプリント配線基板は、金属導体配線とポリマー層とをこの順に有する。その構成としては、金属導体配線/ポリマー層、金属導体配線/ポリマー層/金属導体配線が挙げられる。
プリント配線基板においては、金属導体配線上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに金属導体配線を形成してもよい。層間絶縁膜は、上記パウダー分散液によっても形成してもよい。また、金属導体配線上にソルダーレジストやカバーレイフィルムを積層してもよい。ソルダーレジストやカバーレイフィルムも、上記パウダー分散液によって形成してもよい。
【0044】
プリント配線基板の具体的な態様としては、上述した層構成を多層化した多層プリント配線基板が挙げられる。
多層プリント配線基板の好適な態様としては、多層プリント配線基板の最外層がポリマー層であり、金属導体配線/ポリマー層の層構成を1以上有する態様が挙げられる。
かかる態様の多層プリント配線基板は、最外層の耐熱性に優れており、加工時の加熱、例えば、はんだリフロー工程における300℃の加熱によっても、不具合が発生しにくい。
【0045】
本発明のポリマー分散液を織布に含浸し、さらに織布を加熱してパウダーを焼成すれば、パウダーの焼成物で被覆された被覆織布が得られる。
織布は、加熱に耐える耐熱性織布であり、織布としては、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布及び金属繊維織布が好ましく、ガラス繊維織布及びカーボン繊維織布がより好ましく、電気絶縁性の観点から、JIS R 3410:2006で定められる電気絶縁用Eガラスヤーンより構成される平織のガラス繊維織布がさらに好ましい。織布は、焼成物との密着接着性を高める観点から、シランカップリング剤で処理されていてもよい。
【0046】
本発明のパウダー分散液を織布に含浸させる方法としては、パウダー分散液中に織布を浸漬する方法や、パウダー分散液を織布に塗布する方法が挙げられる。本発明のパウダー分散液は、他の材料との接着性に優れるFポリマーを含むため、浸漬回数又は塗布回数が少なくとも、織布とFポリマーとが強固に接着した、ポリマー含有量が高い被覆織布が得られる。
織布を加熱させる方法は、パウダー分散液に含まれる液性成分の種類によって適宜決定でき、80~260℃の雰囲気にて乾燥させ、さらに300~400℃の雰囲気にてパウダーを焼成させる方法が通常は採用される。
【0047】
得られる被覆織布は、焼成物がFポリマーを含むため、焼成物と織布との密着接着性が高い、表面平坦性が高い、歪が少ない等の特性に優れている。かかる織布と金属箔とを熱圧着させて得られる積層体は、剥離強度が高く、反りにくいため、プリント基板材料として好適に使用できる。
また、織布を含む本発明のパウダー分散液を、基材の表面に塗布し加熱すれば、パウダーの焼成物と織布とを含む被覆織布層を形成でき、基材と被覆織布層とが、この順に積層された積層体も製造できる。
【0048】
以上、本発明のパウダー分散液、パウダー分散液の製造方法及び樹脂付基板の製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明のパウダー分散液は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明のパウダー分散液の製造方法及び樹脂付基板の製造方法は、それぞれ上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例
【0049】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
Fポリマー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含むコポリマー(溶融温度:300℃、380℃の溶融粘度:3×10Pa・s)
Fポリマー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含むコポリマー(溶融温度305℃、380℃の溶融粘度:3×10Pa・s)
[パウダー]
パウダー1:D50が1.8μm、D90が5.2μmである、Fポリマー1からなるパウダー
パウダー2:D50が18.8μm、D90が52.3μmである、Fポリマー2からなるパウダー
[分散剤]
フッ素系分散剤1:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFに基づく単位とCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHに基づく単位とを、この順に81モル%、19モル%含み、フッ素含有量が35質量%かつ水酸基価が19mgKOH/gのポリマー
【0050】
2.パウダー分散液の製造
(例1)
まず、フッ素系分散剤1と3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート(蒸発速度:0.10、沸点:188℃)とを含む分散剤溶液を準備した。なお、分散剤溶液中に含まれるフッ素系分散剤1の量を33質量%とした。
次に、この分散剤溶液とN-メチル-2-ピロリドン(NMP。沸点:202℃、粘度(20℃):1.89mPa・s)とを混合して、液状組成物を調製した。
次に、この液状組成物とパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがし、パウダー1を液状組成物に分散させてパウダー分散液1(粘度:120mPa・s)を得た。
なお、パウダー分散液1中に含まれるパウダー1の量を40質量%、フッ素系分散剤1の量を5質量%、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートの量を10質量%、NMPの量を45質量%とした。
【0051】
(例2(比較例))
3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートに代えて、NMPを使用した以外は、例1と同様にしてパウダー分散液2(粘度:100mPa・s)を得た。
なお、パウダー分散液2中に含まれるパウダー1の量を40質量%、フッ素系分散剤1の量を5質量%、NMPの量を55質量%とした。
【0052】
(例3)
パウダー1に代えて、パウダー2を使用した以外は、例1と同様にしてパウダー分散液3(粘度:180mPa・s)を得た。
【0053】
(例4(比較例))
3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートに代えて、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(蒸発速度:0.01未満、沸点:271℃)を使用した以外は、例3と同様にしてパウダー分散液4(粘度:1500mPa・s)を得た。
【0054】
(例5(比較例))
3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートに代えて、エチレングリコールモノエチルエーテル(蒸発速度:0.38、沸点:136℃)を使用した以外は、例3と同様にしてパウダー分散液5(粘度:800mPa・s)を得た。
【0055】
(例6(比較例))
3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートに代えて、NMPを使用した以外は、例3と同様にしてパウダー分散液6(粘度:80mPa・s)を得た。
なお、パウダー分散液6中に含まれるパウダー2の量を40質量%、フッ素系分散剤1の量を5質量%、NMPの量を55質量%とした。
【0056】
3.評価
3-1.消泡性の評価
パウダー分散液を調製(製造)する際に、泡立ちが消失するまでの時間を確認し、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○:3時間未満
△:3時間以上、6時間未満
×:6時間以上
【0057】
3-2.成膜性の評価
まず、厚さが18μmの銅箔(基板)の表面に、パウダー分散液をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。
次いで、この液状被膜が形成された銅箔を、120℃の乾燥炉にて5分間、通し、加熱により乾燥させた。その後、窒素雰囲気下の遠赤外線オーブン中で、乾燥被膜を380℃にて3分間、加熱した。
これにより、銅箔の表面にポリマー層が形成された樹脂付銅箔を製造した。なお、ポリマー層の厚さは4μmであった。
【0058】
次に、得られた樹脂付銅箔から銅箔の全てを酸溶液で除去して、ポリマー層単体を得た。
そして、このポリマー層の中央部を蛍光灯下において目視で観察するとともに、ポリマー層表面の中央部と端部とを光干渉顕微鏡で観察し、厚さのムラ(平坦性の良否)について、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
○:蛍光灯下においてポリマー層の厚さにムラが観察されず、光干渉顕微鏡で観察したポリマー層表面の中央部と端部の膜厚差が10%以下である。
△:蛍光灯下においてポリマー層の厚さにムラが観察されず、光干渉顕微鏡で観察したポリマー層表面の中央部と端部の膜厚差が10%超である。
×:蛍光灯下においてポリマー層の厚さにムラが観察され、光干渉顕微鏡で観察したポリマー層表面の中央部と端部の膜厚差が10%超である。
【0059】
以上の結果を表1に示す。
【表1】
例1及び例3のパウダー分散液は、消泡性及び成膜性の双方が良好であった。これに対して、例2及び例4~例6のパウダー分散液は、消泡性及び成膜性の少なくとも一方が不良であった。また、例4のパウダー分散液を使用して「3-2.成膜性の評価」の条件にて形成した塗膜は乾燥が不充分であり、評価不能であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のパウダー分散液は、フィルム、含浸物(プリプレグ等)、積層体(樹脂付銅箔等の樹脂付基板)等の製造に使用でき、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性、滑り性、耐摩耗性等が要求される用途に使用できる。また、樹脂付基板は、アンテナ部品、プリント配線板、パワー半導体の絶縁層、航空機用部品、自動車用部品等に加工して使用できる。
なお、2019年04月11日に出願された日本特許出願2019-075499号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。