IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平洋セメント株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特許7452794セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法
<>
  • 特許-セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法 図1
  • 特許-セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法 図2
  • 特許-セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 9/00 20060101AFI20240312BHJP
   B09C 1/10 20060101ALI20240312BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240312BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/03 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C12P9/00 ZNA
B09C1/10 ZAB
C02F3/34 Z
C02F11/04 Z
C12N15/03 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020038000
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021136935
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】七尾 舞
(72)【発明者】
【氏名】森 喜彦
(72)【発明者】
【氏名】肥後 康秀
(72)【発明者】
【氏名】松山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】守屋 政彦
(72)【発明者】
【氏名】羽部 浩
(72)【発明者】
【氏名】堀 知行
(72)【発明者】
【氏名】青柳 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由也
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 知大
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-058198(JP,A)
【文献】特開平09-248595(JP,A)
【文献】FEMS Microbiology Ecology,2004年,Vol.49,pp.145-150
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
B09C 1/00- 1/10
B09B 1/00- 5/00
C02F 3/28- 3/34
C02F 11/00-11/20
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セレン還元菌を含むセレン汚染試料を、乳酸の存在下、嫌気的条件下で静置又は撹拌する、セレン汚染試料のセレンの還元処理方法であって、セレン還元菌が、配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Aである、方法。
【請求項2】
セレン還元菌が、さらに配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C、配列番号:4の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌D、配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌E、配列番号:6の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌F、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G、配列番号:8の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌H、及び配列番号:9の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
嫌気的条件の下で10~40℃で、12時間以上静置又は撹拌する工程を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
セレン還元菌が、さらに、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、及び配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C、及び配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Eからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
処理されるセレン汚染試料が、セレンを含む掘削ずり、土砂、汚泥、水、焼却灰及び工場廃水から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
処理されるセレン汚染試料にリン酸、乳酸以外の有機酸、アルコール類及び糖類から選ばれる1種以上を加える工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
セレン汚染試料のセレン還元化能を評価する方法であって、試料中の配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Aの存在を確認する工程を含む、方法。
【請求項8】
さらに、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C、配列番号:4の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌D、配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌E、配列番号:6の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌F、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G、配列番号:8の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌H、及び配列番号:9の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種の存在を確認する工程を含む、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規セレン還元菌を含むセレン汚染試料を用いたセレンの還元処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは自然界に存在する元素であり、硫化物又は硫黄の鉱床に含有されている。当該元素は人体にとって必須元素の一つである一方、多量に摂取した場合には健康被害をもたらすことから、環境基本法の水質汚濁に係る環境基準や土壌汚染対策法の第二種特定有害物質に指定されている。そのため、基準値以上の汚染地下水やセレンが溶出する汚染土壌への対策として、原位置における汚染水の浄化処理や不溶化処理の措置が取られる場合がある。自然由来のセレンが問題となるケースの一つとして、トンネル工事において発生する掘削ずりや、涌水等により発生するトンネルの廃水処理、搬出や運搬及び保管中に掘削ずりから飛散や流出したことによる周辺土壌や地下水及び河川の汚染対策、産廃処理場や汚泥処理等のプラントで処理する際の廃水の処理が挙げられる。しかし、既存の処理材のセレンに対する効果は低く、また汚染水を浄化するためには煩雑な処理設備が必要となるため、セレン汚染試料に対する効果の高い処理技術が求められている。
【0003】
自然環境中のセレンの形態は4価の亜セレン酸(SeO 2-)或いは6価のセレン酸(SeO 2-)であり、自然環境下では混在しているケースが多い。このうち6価セレンの還元処理が難しいことが、セレンの処理を困難にしていると考えられている。6価セレンを処理する場合、まず4価セレンに還元してから処理する方法が一般的であるが(例えば特許文献1)、二段階の処理が必要になるため、いずれの価数にも効果的な還元処理方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-205697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なセレン還元菌を含むセレン汚染試料を利用したセレンの還元処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、セレンの還元処理について鋭意検討を行ったところ、新規なセレン還元菌を含むセレン汚染試料を、乳酸の存在下、嫌気的条件下で静置又は撹拌することにより、極めて低い相対存在量(%)である当該セレン還元菌が活動することで、4及び6価のセレンを還元できるという知見を得、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の1)~7)に係るものである。
1)セレン還元菌を含むセレン汚染試料を、乳酸の存在下、嫌気的条件下で静置又は撹拌する、セレン汚染試料のセレンの還元処理方法であって、セレン還元菌が、配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌A、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C、配列番号:4の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌D、配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌E、配列番号:6の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌F、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G、配列番号:8の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌H、及び配列番号:9の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種である、方法。
2)嫌気的条件の下で10~40℃で、12時間以上静置又は撹拌する工程を含む、1)に記載の方法。
3)セレン還元菌が、配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌A、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C及び配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Eからなる群から選択される少なくとも1種を含む、1)又は2)に記載の方法。
4)セレン還元菌が、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G及び配列番号:9との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種を含む、1)~3)のいずれかに記載の方法。
5)処理されるセレン汚染試料が、セレンを含む掘削ずり、土砂、汚泥、水、焼却灰及び工場廃水から選ばれる1種以上である、1)~4)のいずれかに記載の方法。
6)処理されるセレン汚染試料にリン酸、乳酸以外の有機酸、アルコール類及び糖類から選ばれる1種以上を加える工程を含む、1)~5)のいずれかに記載の方法。
7)セレン汚染試料のセレン還元化能を評価する方法であって、試料中の配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌A、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B及び配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C、配列番号:4の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌D、配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌E、配列番号:6の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌F、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G、配列番号:8の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌H、及び配列番号:9の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種の存在を確認する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セレン汚染試料中のセレン還元菌に基づくセレン還元力を利用することにより、処理材を用いることなくセレンの還元処理が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】乳酸添加したセレン汚染試料中のセレン濃度の減少を示す図。
図2】乳酸添加したセレン汚染試料(汚染試料1)中の微生物4種の相対存在量。
図3】乳酸添加したセレン汚染試料(汚染試料2)中の微生物7種の相対存在量。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温cv(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0011】
後述する実施例に記載のとおり、異なる2箇所のトンネル建設現場から採掘された掘削ずりにおける微生物群集の状態と4及び6価セレンの還元活性との関係を検討したところ、微生物群集から、セレンの還元に関与する新規な3菌種を含む9種の微生物(セレン還元菌)が同定された。これらのセレン還元菌は、微生物群集全体に対して、極めて低い相対存在量(例えば1%以下)であったが、乳酸の存在によりその相対存在量が増加し、当該掘削ずりのセレン還元活性が上昇することが見出された。
したがって、9種のセレン還元菌を含むセレン汚染試料は、セレン還元能を有していると考えられ、試料中の当該セレン還元菌のセレン還元力を利用することによりセレンの還元処理が可能となる。また、試料中のセレン還元菌の存在を指標として、当該試料のセレン還元能を評価することができる。
【0012】
[セレン還元菌]
本発明において、セレン還元菌とは、4及び6価セレンを電子受容体基質として還元できる菌を意味する。
本発明に係るセレン還元菌としては、配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌A(本明細書中、単に「セレン還元菌A」とも称す)、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌B(本明細書中、単に「セレン還元菌B」とも称す)、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌C(本明細書中、単に「セレン還元菌C」とも称す)、配列番号:4の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌D(本明細書中、単に「セレン還元菌D」とも称す)、配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌E(本明細書中、単に「セレン還元菌E」とも称す)、配列番号:6の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌F(本明細書中、単に「セレン還元菌F」とも称す)、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌G(本明細書中、単に「セレン還元菌G」とも称す)、配列番号:8の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌H(本明細書中、単に「セレン還元菌H」とも称す)、及び配列番号:9の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有する菌I(本明細書中、単に「セレン還元菌I」とも称す)からなる群から選択され菌が挙げられる。
【0013】
本発明において、塩基配列との同一性とは、特に記載した場合を除き、いずれの塩基配列においても、2つの配列を最適の態様で整列させた場合に、2つの配列間で共有する一致したヌクレオチドの個数の百分率を意味する。すなわち、同一性(%)=(一致した位置の数/位置の全数)×100で算出でき、市販されているアルゴリズムを用いて計算することができる。また、このようなアルゴリズムは、Altschul et al., J. Mol. Biol. 215(1990)403-410に記載されるNBLAST及びXBLASTプログラム中に組込まれている。より詳細には、塩基配列の同一性に関する検索・解析は、当業者には周知のアルゴリズム又はプログラム(例えばBLASTN、ClustalWなど)により行うことができる。プログラムを用いる場合のパラメータは、当業者であれば適切に設定することができ、また各プログラムのデフォルトパラメーターを用いてもよい。これらの解析方法の具体的な手法もまた、当業者には周知である。
【0014】
配列番号:1~9の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌を表1に示す。これらのセレン還元菌は、後述する「セレン還元菌の同定」で示した方法により同定された菌である。下記表1において、「相同性(%)」は、配列番号:1~9の塩基配列について、NCBI(The National Center for Biotechnology Infomation)の塩基配列データベースのBLASTプログラムを用いて決定した。
【0015】
【表1】
【0016】
配列番号:4、配列番号:5又は配列番号:6の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌(OTU3234、OTU12206、OTU7833)は、それぞれ、ヒ酸耐性菌として知られているバチルス・チオパランス(Bacillus thioparans)、乳酸発酵細菌として知られているペロサエナス・ファーメンタンス(Pelosinus fermentans)、酢酸利用菌として知られているブレビバチルス・ジンセンジソイル(Brevibacillus ginsengisoli)であると考えられる。
【0017】
配列番号:1又は配列番号:3の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌(OTU26314、OTU16025)は、それぞれ既知の硫酸還元菌であるデサルフォスポロサエナス・ブルネンシス(Desulfosporosinus burensis)、デサルフォスポロサエナス・ナイトロレデゥーセンス(Desulfosporosinus nitroreducens)と系統学的に同一又は近縁の微生物であると考えられる。
また、配列番号:8を含む16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌(OTU24704)は、既知の重金属等の還元菌として知られているデサルフィトバクテリウム・ハフニエンス(Desulfitobacterium hafniense)と系統学的に近縁の微生物であると考えられる。
【0018】
配列番号:2、配列番号:7又は配列番号:9の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌(OTU33786、OTU31065、OTU9628)は、データベース上で最も近縁な微生物種に対して、配列相同性がそれぞれ94.1%、88.3%、93.7%である。16S rRNA遺伝子の塩基配列を用いた解析では、既知種と相同性97%以上を示す場合、同種であると定義できる。つまり、これらのセレン還元菌は、既知の微生物種とは種が異なる微生物であると考えられる。
【0019】
本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料は、その微生物群集中に、上記のセレン還元菌を含むものである。
本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料は、本発明のセレン還元菌を含む限りその由来は限定されないが、当該セレン還元菌の生育に適した環境、すなわちセレンを含有し嫌気状態が維持され得る地下水、地盤や岩盤等の土壌(具体的にはトンネル等の地中構造物を建設する際の掘削ずり)、及び地下構造物の建設工事で発生する土砂や汚泥、廃水が挙げられる。本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料は、上記セレン還元菌を含む微生物群集を含んでいれば、細菌に加えて糸状菌、原生動物が混在していてもよい。
【0020】
本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料は、セレン還元能の観点から、好ましい実施態様として、配列番号:1の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌A、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:3の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌C及び配列番号:5の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Eからなる群から選択される少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0021】
また、更に好ましい実施形態として、セレン汚染試料は、セレン還元能の観点から、セレン還元菌Aを含むものが挙げられ、より好ましくはセレン還元菌A、セレン還元菌B及びセレン還元菌Cを含むもの、又はセレン還元菌A、セレン還元菌C及びセレン還元菌Eを含むものが挙げられる。さらに好ましくはセレン還元菌A、セレン還元菌B、セレン還元菌C及びセレン還元菌Eを含むものが挙げられる。
【0022】
また、別の実施形態として、セレン汚染試料は、配列番号:2の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌B、配列番号:7の塩基配列との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌G及び配列番号:9との同一性が97%以上である16S rRNA遺伝子を有するセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種を含むものが挙げられる。
【0023】
本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料には、約4,000種~約5,000種の微生物種が含まれ、これらの微生物種において、本発明の上記セレン還元菌の相対存在量は特に制限されず、微生物種全体に対して、極めて低くてもよい。セレン還元菌の相対存在量(%)は、微生物群集全体に対して、例えば0.001%以下~0.025%である。相対存在量の値は、実施例に記載の方法により求めた値である。
【0024】
なお、上記セレン還元菌は、試料中の存在量が極めて少ないため、これらを単離することは、技術的理由により困難である。そのため、寄託機関に寄託を行っていない。しかし、本出願人は、本発明に係るセレン還元菌を含むセレン汚染試料について、日本国特許法施行規則第27条の3各号に該当する場合、各法令の順守を条件に、第三者に分譲することを保証する。
【0025】
[セレン還元菌の同定]
複数の微生物を含む試料(例えばセレン汚染土壌)中のセレン還元菌の同定は、以下に示す工程A~Cによって行うことができる。
工程A:セレンを含有する未培養の試料から核酸を回収すること;及び、当該核酸に存在する標的遺伝子の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析し、各微生物の相対存在量(1)を求める工程、
工程B:4及び6価セレン並びに乳酸の存在下で前記試料の嫌気培養を開始し、培養物を得ること;当該培養物から核酸を回収すること;及び、当該核酸に存在する標的遺伝子の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析し、各微生物の相対存在量(2)を求める工程、
工程C:前記相対存在量(2)が前記相対存在量(1)より多い微生物をセレン還元菌であると判断する工程。
【0026】
4及び6価セレンを還元したセレン還元菌は、還元が起こる前に比べて相対存在量が大きくなる。すなわち、未培養時点の試料と4及び6価セレン並びに乳酸により培養した試料とを用意し、それぞれの試料から得られたDNAの解析・比較を行う。セレン還元が観察された試料において、未培養時点の試料のDNAにおける相対存在量よりも、4及び6価セレン並びに乳酸による培養後の試料における相対存在量が大きい微生物は、乳酸の存在下で4及び6価セレンを還元して生育した微生物であると解される。これにより、乳酸の存在下で4及び6価セレンを還元する微生物(セレン還元菌)を同定することができる。
【0027】
工程A及び工程Bにおいて、セレン含有試料中の微生物の相対存在量を求めるには、以下の3つの工程が行われる。
(i)4及び6価セレン並びに乳酸をセレン含有試料に追添加して、試料に含まれる微生物を培養すること;
(ii)未培養時点と4及び6価セレン並びに乳酸添加による培養後のそれぞれの試料から核酸(例えばDNA)を回収すること;
(iii)回収した核酸に存在する標的遺伝子(例えば16S rRNA遺伝子)の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析すること。
【0028】
以下、上記(i)~(iii)について具体的に説明する。
(i)4及び6価セレン並びに乳酸をセレン含有試料に添加して、試料に含まれる微生物を培養すること
培養に用いるセレン含有試料は、微生物と4及び6価セレンとの反応性を良くするとの観点から、水分を添加するのが好ましい。
微生物の培養は、還元的な雰囲気、すなわち嫌気的条件を形成するとの観点から、CO/N2、又はNで曝気をした後に、気密容器内で行われる。これにより生物学的なセレン還元が誘導される。
【0029】
微生物の培養は、セレン含有試料と4及び6価セレン並びに乳酸とを混合して、4及び6価セレン並びに乳酸の存在下で行われる。
微生物の培養は、微生物群集の状態を維持できるとの観点から、セレン含有試料に対して、4及び6価セレンと共に、乳酸を添加して培養することが挙げられるが、必要に応じて、リン酸等その他の成分を適宜添加してもよい。特に、リン酸(リン酸水素カリウム等)、乳酸以外の有機酸(酢酸等)、アルコール類(エタノール等)、糖類(グルコース等)を添加することがセレン還元菌の増殖に好ましい。
【0030】
4及び6価セレンは、実環境での濃度変動(0.000015~0.04mM)を踏まえて、適宜調整することができる。本発明の一実施形態では、0.000127~0.02mMの4及び6価セレンの存在下で前記複数の微生物の培養を開始することが挙げられる。未培養の時点において、前記4及び6価セレンの濃度が0.000127mM以上であることにより、セレン還元菌が下記の好ましい培養時間においても、4及び6価セレンを還元できる。前記4及び6価セレンの濃度が0.02mM以下であることにより、微生物群集の状態変化を抑制できる。よって、本発明のセレン還元菌を同定する方法において、0.000127~0.02mMの前記4及び6価セレンの存在下で前記の微生物の培養を開始することが好ましい。
また、化学量論として1Mの6価セレンを0価までに還元するために必要とされる乳酸は1.5Mであるが、汚染試料への乳酸の添加は、化学量論の必要濃度に対して1倍~500倍とするのが好ましい。
【0031】
微生物の培養温度は、実環境での年間温度変化を踏まえて、設定すればよい。微生物の培養温度は、実環境で活動するセレン還元菌を検出できるとの観点から、好ましくは10~40℃の範囲、より好ましくは20~30℃である。培養温度が10℃以上であることにより、4及び6価セレンの還元を確認できる。培養温度が40℃以下であることにより、微生物群集の変化を抑制できる。
【0032】
微生物を培養する間、培養液を静置又は撹拌してもよい。微生物の培養には、従来公知の培養器具を用いることができる。
微生物の培養時間は、例えば12時間以上であり、好ましくは24時間以上である。
【0033】
(ii)培養物から核酸を回収すること
(i)で得られた培養物から核酸を回収する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができる。回収する核酸としては、DNA及びRNAのいずれであってもよい。
DNAを回収する方法としては、例えば、ビーズ(ガラスビーズ、ジルコニアとシリカの混合ビーズなど)による物理的破砕方法、超音波処理による破砕方法、フレンチプレスによる破砕方法、液体窒素で凍結した試料を乳鉢と乳棒とで破砕する方法などを用いて、微生物細胞を破壊し、その後、従来公知の方法(フェノール・クロロホルム抽出など)を用いて、タンパク質を除去し、RNaseを用いてRNAを消化し、DNAを回収することが挙げられる。
【0034】
(iii)回収した核酸に存在する標的遺伝子の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析すること
セレン還元菌を同定するために用いる標的遺伝子としては、大規模な系統解析に適するとの観点から、好ましくは16S rRNA遺伝子V4領域である。
次世代シークエンサーとは、サンガー法を利用した蛍光キャピラリーシークエンサーである「第1世代シークエンサー」と対比させて用いられている用語であり、DNAポリメラーゼ又はDNAリガーゼによる逐次的DNA合成法を用いて、数千万から数億のDNA断片に対して数十~数千bpのリード長の断片を網羅的に解析することによって超並列的に塩基配列を決定するための装置を意味する。次世代シークエンサーでは、ジデオキシヌクレオチドを用いてDNAポリメラーゼの伸長を止めるサンガー法を用いた第1世代シークエンサーと異なるシーケンシング原理が用いられている。このような原理として、合成シーケンシング法、パイロシーケンシング法、リガーゼ反応シーケンシング法などが挙げられる。これまでに、多くの企業や研究機関などから、多様な次世代シークエンサーが提供されており、例えば、HiSeq2500(イルミナ株式会社)、MiSeq(イルミナ株式会社)、5500xl SOLiD(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Ion Proton(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、Ion PGM(登録商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック)、GS FLX+(ロシュ・ダイアグノスティックス社)などが挙げられる。
次世代シークエンサーによる解析方法としては、付属説明書に従って実施することができる。これにより、数万から数十万の微生物種(OTU)を同定、及び各微生物種の相対存在量(%)を解析できる。
【0035】
工程Cのセレン還元菌であるとの判断は、未培養の時点における微生物の相対存在量(1)と4及び6価セレン並びに乳酸添加による培養後における微生物の相対存在量(2)とを対比することで行うことができる。
例えば、OTUのうち、セレン還元が観察された培養物において、培養後で培養開始時点よりも有意に70倍以上に上昇している微生物を特定する。
4及び6価セレン還元が観察された培養物において、未培養の時点よりも有意に70倍以上に上昇している微生物は、乳酸の存在下で4及び6価セレンを還元して生育したため、そのような微生物をセレン還元菌であると判断できる。
【0036】
[セレン汚染試料のセレンの還元処理]
本発明によれば、上記本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料を、乳酸の存在下、嫌気的条件下で静置又は撹拌する工程を含む、セレン汚染試料のセレンの還元処理方法が提供される。
ここで、処理されるセレン汚染試料としては、前述したセレン還元菌を含むセレン汚染試料自体であってもよく、それとは別のセレン汚染試料(例えば、セレン還元菌を含まない別のセレン汚染試料、本発明のセレン還元菌とは異なるセレン還元菌を含む別のセレン汚染試料)が含まれていてもよい。また、単離・抽出し培養した上記セレン還元菌を、セレン汚染試料(例えば、セレン還元菌を含まない別のセレン汚染試料、本発明のセレン還元菌とは異なるセレン還元菌を含む別のセレン汚染試料)に添加したものでもよい。ここで、セレン汚染試料としては、セレンが含まれるものであれば特に限定されず、掘削ずり、土砂、汚泥、水、焼却灰等の廃棄物、工場廃水等いずれでもよい。
【0037】
斯かるセレン汚染試料のセレンの還元処理は、乳酸の存在下に行われる。乳酸は汚染試料中の本発明のセレン還元菌が十分に増殖し還元力を発揮できる量であれば、その使用量は限定されないが、汚染試料中(乾燥状態)の乳酸の含有量が0.000285質量%以上となるように行われるのが好ましい。
例えば、乳酸の汚染試料中の含有量を、好ましくは0.000285~0.23質量%、より好ましくは0.000285~0.17質量%、さらに好ましくは0.00285~0.114質量%とすることが挙げられる。
【0038】
乳酸を汚染試料に添加する方法は、特に制限はなく、乳酸をそのまま散布機等で汚染試料に散布する方法や、水等の溶媒に溶解させた溶液状のものを、散水ノズル、灌注機等で汚染試料に散布したりする方法が採用できる。
乳酸を水等の溶媒に溶解させる場合には、例えば0.005~1.14g/L、好ましくは0.005~0.856g/L、より好ましくは0.005~0.57g/L濃度の溶液とするのが好ましい。
【0039】
処理条件は、本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料中のセレン還元菌が増殖し還元力を発揮できる条件であればよく、嫌気的条件下で静置又は撹拌すればよいが、好ましくは、嫌気槽中、好ましくは10~40℃、より好ましくは20~30℃で、12時間以上、好ましくは18時間以上、より好ましくは24時間以上静置又は撹拌することが挙げられ、また、好ましくは、4500時間以下、より好ましくは1500時間以下である。
また、上記セレン汚染試料には、セレン還元菌の還元力が発揮されやすいように、鉄塩や亜硫酸塩、シュウ酸、その他の還元剤を添加して、還元状態に変化させてもよい。
【0040】
例えば、本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料を嫌気槽中に収容し、乳酸を添加した後、10~40℃で、12時間以上静置又は撹拌することにより、当該試料中のセレンを還元処理できる。また、本発明のセレン還元菌を含むセレン汚染試料及び乳酸を添加して収容した嫌気槽に、それとは別のセレン汚染試料を加えることで、当該別のセレン汚染試料についてもセレンの還元処理が可能である。
【0041】
また、当該還元処理には、必要に応じて、リン酸等その他の成分を適宜添加してもよい。特に、リン酸(リン酸水素カリウム等)、乳酸以外の有機酸(酢酸等)、アルコール類(エタノール等)、糖類(グルコース等)の1種以上を添加する工程を含むのがセレン還元菌の増殖を促進する点から好ましい。
【0042】
[セレン汚染試料のセレン還元化能の評価]
本発明の一実施形態によれば、セレン汚染試料のセレン還元化能を評価する方法であって、試料中の、セレン還元菌A、セレン還元菌B、セレン還元菌C、セレン還元菌D、セレン還元菌E、セレン還元菌F、セレン還元菌G、セレン還元菌H及びセレン還元菌Iからなる群から選択される少なくとも1種の存在を確認する工程を含む、方法が提供される。
【0043】
当該セレン還元菌の確認手段は、特に限定されないが、好適には、前述した菌叢ゲノムDNAに含まれる16S rRNA遺伝子の塩基配列に基づいて、試料中に存在する菌種を解析する方法が挙げられる。
すなわち、上述したとおり、試料から核酸を回収し、当該核酸に存在する標的遺伝子の塩基配列を次世代シークエンサーにより解析することにより、相対存在量(%)を確認することが挙げられる。
【0044】
これにより、セレン汚染試料のセレン還元化能を評価することができる。ここで、試料のセレン還元化能とは、当該試料が有するセレン還元菌に基づくセレン還元能を意味する。
【実施例
【0045】
以下に、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
<セレン汚染試料の評価>
セレン汚染試料のセレン溶出量は、環境庁告示第18号「土壌溶出量調査に係る測定方法を定める件」に記載されている方法に準拠して検液作成を行い、「JIS K 0102:2013(工場排水試験方法)」に準拠して測定した。
【0047】
実施例1 セレン還元菌の同定
(1)6価セレンによる汚染試料微生物群の培養
サンプルとして、建設工事で発生した産地が異なるトンネル掘削ずり2種を用いた。
具体的には、汚染試料5gを滅菌水又は乳酸(10mM)を添加した滅菌水で10ml容量にして、50ml容ガラスバイアル瓶に収容した。気相部分はNCO(N/CO=80/20)とした。汚染試料に対して、6価セレン溶液(亜セレン酸ナトリウム;和光純薬工業株式会社製)を6価セレンの終濃度0.0127mMとなるように添加した。その後、25℃、暗所にて2週間静置培養を行った。
【0048】
(2)化学分析
培養開始時点及び6価セレン培養物において液相を採取し、上記の方法により化学分析に供し、セレン濃度を測定した。
結果を図1に示す。汚染試料1及び汚染試料2において、セレンのみを添加した試験区では、培養2週間でセレン濃度が減少傾向にあったが、乳酸及びセレンを添加した試験区では、培養2週間でセレン濃度が顕著に減少した。
これにより、掘削ずり中に存在する微生物によりセレン還元が起こり、乳酸の添加によりその還元反応が加速されることが確認された。
【0049】
(3)微生物学解析
未培養時点及び6価セレンによる培養後の試料について、試料を遠心分離し、遠心沈殿物を得た。前記遠心沈殿物に対して、ジルコニアとシリカの混合ビーズ(Zirconia/Silica Beads;平均粒子径0.1mm)を加え、シェイクマスターオート(株式会社バイオメディカルサイエンス製)を用いて固相中の微生物細胞を破砕した後、フェノールとクロロホルムとを用いた精製ステップを経ることで共存するタンパク質を除去した。その後、RNase A(ベックマン社製)の処理を行うことでRNAを消化し、DNAを精製した。
この精製DNAを鋳型に用い、16S rRNA遺伝子V4領域(約300塩基対)を標的として、Q5 High-Fidelity DNA Polymerase・Q5
DNAポリメラーゼ(NEB社)による遺伝子増幅反応(Polymerase chain reaction[PCR])を行った。得られたPCR産物をAMPure XP キット(ベックマン・コールター社製)及びWizard(登録商標)SV gel
and PCR clean-upキット(プロメガ社製)を用いて精製し、その濃度をQuant-iT PicoGreen dsDNA 試薬・キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)と蛍光定量装置Nanodrop 3300(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)とにより測定した。
【0050】
最適量の精製産物をMiSeq Reagent キット300サイクルと次世代シークエンサーMiSeq(イルミナ株式会社製)を用いた大規模塩基配列解析に供した。各試料から遺伝子断片を数万リード解読し、ソフトウエアmothur(ver 1.31.2)を用いて、非特異的配列を除去し、ソフトウエアQIIME(ver 1.6.0)を用いて、微生物系統解析を行い、微生物種(OTU:Operational taxonomic unit)の同定と相対存在量(%)の解析を行った。
【0051】
得られたOTUのうちセレン還元が観察された乳酸及びセレンを添加して培養した培養物において、培養後に、培養前と比べて相対存在量が有意に70倍以上に増加し、かつ相対存在量が1%以上にまで上昇しているファーミキューテス(Firmicutes)門に属する9種の微生物を特定した(図2及び3)。OTUの近縁種と遺伝子配列相同性をNCBI塩基配列データベースのBLASTプログラムにより決定した。
【0052】
OTU3234(セレン還元菌Dに属する)、OTU12206(セレン還元菌Eに属する)、OTU7833(セレン還元菌Fに属する)は、ヒ酸耐性菌として知られているバチルス・チオパランス(Bacillus thioparans)、乳酸発酵細菌として知られているペロサエナス・ファーメンタンス(Pelosinus fermentans)、酢酸利用菌として知られているブレビバチルス・ジンセンジソイル(Brevibacillus ginsengisoli)と系統学的に同一であった(16S rRNA遺伝子配列相同性は、いずれも100%を示した)。
【0053】
OTU26314(セレン還元菌Aに属する)、OTU16025(セレン還元菌Cに属する)は、いずれも硫酸還元菌として知られているデサルフォスポロサエナス・ブルネンシス(Desulfosporosinus burensis)、デサルフォスポロサエナス・ナイトロレデゥーセンス(Desulfosporosinus nitroreducens)と系統学的に同一又は近縁であった(16S rRNA遺伝子配列相同性は、それぞれ99.6%、98.4%を示した)。
【0054】
OTU24704(セレン還元菌Hに属する)は、重金属等の還元菌として知られているデサルフィトバクテリウム・ハフニエンス(Desulfitobacterium hafniense)と系統学的に近縁であった(16S rRNA遺伝子配列相同性は、97.2%を示した)。
【0055】
OTU33786(セレン還元菌Bに属する)、OTU9628(セレン還元菌Iに属する)は、データベース上で最も近縁な微生物種であるシンボバクテリウム・テラクリティア(Symbiobacterium terraclitae)、シンボバクテリウム・トゥルビニス(Symbiobacterium turbinis)に対して、低い配列相同性(16S rRNA遺伝子配列相同性は、それぞれ94.1%、93.7%を示した)を示し、系統学的に新規な微生物であることが示唆された。
【0056】
OTU31065(セレン還元菌Gに属する)は、データベース上で最も近縁な微生物種ルミニクロストリジウム・セロビパルム(Ruminiclostridium cellobioparum)に対して、極めて低い配列相同性(88.3%)を示し、これまで報告されているいずれの微生物とも系統学的に異なり極めて新規な微生物であることが示唆された。
【0057】
汚染試料1及び汚染試料2の微生物群集において、セレン還元菌は、いずれも培養開始時点では相対存在量が1%以下(汚染試料1:0.001%以下から0.025%;汚染試料2:0.001%から0.022%)の稀少微生物種であることが明らかになった。
【0058】
汚染試料1では培養2週間でOTU26314が最大の相対存在量であった(全体に対し67.6%)。続いてOTU33786の相対存在量が大きかった(全体に対し16.8%)。
【0059】
汚染試料2では培養2週間でOTU26314が最大の相対存在量であった(全体に対し63.7%)。続いて相対存在量が大きくなったのは、OTU12206(全体に対し12.1%)であった。
【0060】
以上から、嫌気的な雰囲気にした汚染試料中のセレン還元菌は、それぞれの試料及び乳酸の存在下で劇的に増加し、4及び6価セレンの還元に関与していることが強く示唆される。
図1
図2
図3
【配列表】
0007452794000001.app