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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の動員に基づく疾患治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240312BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K38/17
C07K14/47 ZNA
A61P1/00
A61P1/04
A61P9/00
A61P11/00
A61P17/06
A61P29/00
A61P37/02
A61P37/06
A61P43/00 105
C12N15/12
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020551097
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2019039231
(87)【国際公開番号】W WO2020071519
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018190089
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506364400
【氏名又は名称】株式会社ステムリム
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】玉井 克人
(72)【発明者】
【氏名】新保 敬史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 尊彦
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】BTF3_HUMAN, Accession No. P20290, entry version 166,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P20290.txt?version=166>
【文献】SP16H_HUMAN, Accession No. Q9Y5B9, entry version 157,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9Y5B9.txt?version=157>
【文献】YBOX1_HUMAN, Accession No. P67809, entry version 164,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P67809.txt?version=164>
【文献】NPM_HUMAN, Accession No. P06748, entry version 228,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P06748.txt?version=228>
【文献】PA2G4_HUMAN, Accession No. Q9UQ80, entry version 189,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q9UQ80.txt?version=189>
【文献】PFD5_HUMAN, Accession No. Q99471, entry version 167,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/Q99471.txt?version=167>
【文献】PRS6A_HUMAN, Accession No. P17980, entry version 204,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P17980.txt?version=204>
【文献】HNRPK_HUMAN, Accession No. P61978, entry version 183,UniProtKB/Swiss-Prot[online](retrieved on 2019 Oct 29),2018年09月12日,retrieved from the Internet<URL:https://www.uniprot.org/uniprot/P61978.txt?version=183>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核タンパク質の一部からなるペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物であって、
核タンパク質が、
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;または
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質のホモログであり、
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド
より選択される、組成物。
【請求項2】
核タンパク質の一部からなるペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための組成物であって、
核タンパク質が、
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;または
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質のホモログであり、
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド
より選択される、組成物。
【請求項3】
疾患または病的状態の治療が、炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
疾患または病的状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
疾患または病的状態が、炎症性腸疾患および乾癬から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
核タンパク質の一部からなるペプチドを含有する、炎症性腸疾患および乾癬から選択される疾患の治療に用いるための組成物であって、
核タンパク質が、
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;または
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質のホモログであり、
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド
より選択される、組成物。
【請求項7】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチドであって、
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなるペプチド;
(e)配列番号:1から2より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:36に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(g)配列番号:4に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:37から39より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(h)配列番号:5から7より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:40から41より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(i)配列番号:8に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(j)配列番号:9に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(k)配列番号:10に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:44に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(l)配列番号:11から16より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(m)配列番号:17から18より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:46に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(n)配列番号:19に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:47に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(o)配列番号:20に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:48から50より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(p)配列番号:21、23および24より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(q)配列番号:21から26より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:52に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(r)配列番号:27に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:53に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(s)配列番号:28から29より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:54に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(t)配列番号:30に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:55に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;および
(u)配列番号:31から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:56に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、
より選択される、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と93%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド、
より選択される、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と96%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド、
より選択される、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
核タンパク質の一部からなるペプチドであって、
核タンパク質が、
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;または
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質のホモログであり、
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド
より選択される、ペプチド。
【請求項12】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチドであって、
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなるペプチド;
(e)配列番号:1から2より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(f)配列番号:3に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:36に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(g)配列番号:4に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:37から39より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(h)配列番号:5から7より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:40から41より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(i)配列番号:8に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(j)配列番号:9に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(k)配列番号:10に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:44に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(l)配列番号:11から16より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(m)配列番号:17から18より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:46に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(n)配列番号:19に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:47に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(o)配列番号:20に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:48から50より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(p)配列番号:21、23および24より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(q)配列番号:21から26より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:52に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(r)配列番号:27に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:53に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(s)配列番号:28から29より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:54に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;
(t)配列番号:30に記載のアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:55に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;および
(u)配列番号:31から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなり、配列番号:56に記載のアミノ酸配列を含むペプチド、
より選択される、請求項11に記載のペプチド。
【請求項13】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1から2個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と93%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド、
より選択される、請求項11に記載のペプチド。
【請求項14】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、
(a)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド;および
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と96%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するペプチド、
より選択される、請求項11に記載のペプチド。
【請求項15】
核タンパク質の一部からなるペプチドが、配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項11に記載のペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、間葉系幹細胞の動員用組成物および間葉系幹細胞の動員に基づく疾患治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄液等に含まれている間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、神経、上皮等、種々の組織に分化できる能力(多分化能)を有していることから、近年、培養により増殖させた骨髄由来間葉系幹細胞を用いて再生医療(細胞移植治療)を行う試みが広くなされている。しかし、間葉系幹細胞を含有する骨髄血の採取は、腸骨に太い針を何度も刺入する観血的手法で行われるためドナーへの負担が大きい。また、間葉系幹細胞は体外で継代培養を続けると次第に増殖能力や多分化能を失ってしまう。さらに、生体内移植の安全性を保証する高品質管理に基づいた間葉系幹細胞の培養はCPC(cell processing center)等の特殊培養設備を必要とするため、限られた大学や企業でしか実施できないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】PNAS 2011 Apr 19;108(16):6609-14
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2008/053892
【文献】WO2009/133939
【文献】WO2012/147470
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願は、細胞移植治療の問題点を克服できる新たな再生医療の技術を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、皮膚組織の抽出液に含まれる核タンパク質を質量分析で多数同定し、当該同定した核タンパク質の部分アミノ酸配列をランダムに複数選択し、当該部分アミノ酸配列からなるペプチドを化学合成して、間葉系幹細胞の動員活性を調べた。その結果、これら複数のペプチドは互いに全くアミノ酸配列が異なるにもかかわらず、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を示すことを見出した。また、該核タンパク質の断片ペプチドが炎症や免疫系の異常を特徴とする疾患(例えば炎症性腸疾患および乾癬)に対して治療効果を示すことを見出した。これら知見に基づき、細胞移植治療の問題点を克服できる新たな再生医療の技術を提供する。
【0007】
すなわち、本願は以下を提供する。
〔1〕
核タンパク質またはその断片ペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物。
〔2〕
核タンパク質またはその断片ペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための組成物。
〔3〕
疾患または病的状態の治療が、炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択される、〔2〕に記載の組成物。
〔4〕
疾患または病的状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択される、〔2〕に記載の組成物。
〔5〕
疾患または病的状態が、炎症性腸疾患および乾癬から選択される、〔2〕に記載の組成物。
〔6〕
核タンパク質またはその断片ペプチドを含有する、炎症性腸疾患および乾癬から選択される疾患の治療に用いるための組成物。
〔7〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、核移行シグナルを含むものである、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の組成物。
〔8〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、転写調節に関与する核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の組成物。
〔9〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の組成物:
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;および
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
〔10〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の組成物:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(b)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;および
(c)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質。
〔11〕
核タンパク質の断片ペプチドが、以下から選択される断片ペプチドである、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の組成物:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;および
(e)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド。
〔12〕
以下から選択される核タンパク質の断片ペプチド:
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;および
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
〔13〕
核移行シグナルを含むものである、〔12〕に記載の断片ペプチド。
〔14〕
以下から選択される核タンパク質の断片ペプチドである、〔12〕または〔13〕に記載の断片ペプチド:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(b)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;および
(c)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質。
〔15〕
以下から選択される、〔12〕から〔14〕のいずれかに記載の断片ペプチド:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;および
(e)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド。
〔A1〕
核タンパク質またはその断片ペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、末梢血へ間葉系幹細胞を動員する方法。
〔A2〕
核タンパク質またはその断片ペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、末梢血への間葉系幹細胞の動員により、対象における疾患または病的状態を治療する方法。
〔A3〕
疾患または病的状態の治療が、炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択される、〔A2〕に記載の方法。
〔A4〕
疾患または病的状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択される、〔A2〕に記載の方法。
〔A5〕
疾患または病的状態が、炎症性腸疾患および乾癬から選択される、〔A2〕に記載の方法。
〔A6〕
核タンパク質またはその断片ペプチドの有効量を対象に投与する工程を含む、炎症性腸疾患および乾癬から選択される対象における疾患を治療する方法。
〔A7〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、核移行シグナルを含むものである、〔A1〕から〔A6〕のいずれかに記載の方法。
〔A8〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、転写調節に関与する核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔A1〕から〔A7〕のいずれかに記載の方法。
〔A9〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔A1〕から〔A8〕のいずれかに記載の方法:
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;および
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
〔A10〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔A1〕から〔A9〕のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(b)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;および
(c)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質。
〔A11〕
核タンパク質の断片ペプチドが、以下から選択される断片ペプチドである、〔A1〕から〔A10〕のいずれかに記載の方法:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;および
(e)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド。
〔B1〕
末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための、核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B2〕
末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための、核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B3〕
疾患または病的状態の治療が、炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択される、〔B2〕に記載の核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B4〕
疾患または病的状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択される、〔B2〕に記載の核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B5〕
疾患または病的状態が、炎症性腸疾患および乾癬から選択される、〔B2〕に記載の核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B6〕
炎症性腸疾患および乾癬から選択される疾患の治療に用いるための、核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B7〕
核移行シグナルを含むものである、〔B1〕から〔B6〕のいずれかに記載の核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B8〕
転写調節に関与する核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔B1〕から〔B7〕のいずれかに記載の核タンパク質またはその断片ペプチド。
〔B9〕
以下から選択される、〔B1〕から〔B8〕のいずれかに記載の核タンパク質またはその断片ペプチド:
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;および
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
〔B10〕
以下から選択される、〔B1〕から〔B9〕のいずれかに記載の核タンパク質またはその断片ペプチド:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(b)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;および
(c)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質。
〔B11〕
以下から選択される、〔B1〕から〔B10〕のいずれかに記載の核タンパク質またはその断片ペプチド:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;および
(e)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド。
〔C1〕
末梢血への間葉系幹細胞の動員のための医薬または試薬の製造における、核タンパク質またはその断片ペプチドの使用。
〔C2〕
末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療のための医薬の製造における、核タンパク質またはその断片ペプチドの使用。
〔C3〕
疾患または病的状態の治療が、炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択される、〔C2〕に記載の使用。
〔C4〕
疾患または病的状態が、炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択される、〔C2〕に記載の使用。
〔C5〕
疾患または病的状態が、炎症性腸疾患および乾癬から選択される、〔C2〕に記載の使用。
〔C6〕
炎症性腸疾患および乾癬から選択される疾患の治療のための医薬の製造における、核タンパク質またはその断片ペプチドの使用。
〔C7〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、核移行シグナルを含むものである、〔C1〕から〔C6〕のいずれかに記載の使用。
〔C8〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、転写調節に関与する核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔C1〕から〔C7〕のいずれかに記載の使用。
〔C9〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔C1〕から〔C8〕のいずれかに記載の使用:
(1)BTF3タンパク質;
(2)SUPT16Hタンパク質;
(3)YBX1タンパク質;
(4)NPM1タンパク質;
(5)PA2G4タンパク質;
(6)PFDN5タンパク質;
(7)PSMC3タンパク質;
(8)HNRNPKタンパク質;および
(9)(1)から(8)より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
〔C10〕
核タンパク質またはその断片ペプチドが、以下から選択される核タンパク質またはその断片ペプチドである、〔C1〕から〔C9〕のいずれかに記載の使用:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(b)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;および
(c)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質。
〔C11〕
核タンパク質の断片ペプチドが、以下から選択される断片ペプチドである、〔C1〕から〔C10〕のいずれかに記載の使用:
(a)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(b)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(c)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(d)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;および
(e)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】生理食塩水またはペプチドの投与14時間後の末梢血を培養して得られたコロニーの数をプロットした図である。コロニー数は、採取した末梢血1mLあたりに換算した値として示した。横棒は長いものが平均値、短いものが標準偏差を表す。
図2】生理食塩水またはペプチドの投与14時間後の末梢血を培養して得られたコロニーの数をプロットした図である。コロニー数は、採取した末梢血1mLあたりに換算した値として示した。横棒は長いものが平均値、短いものが標準偏差を表す。
図3】生理食塩水またはペプチドの投与16時間後の末梢血を培養して得られたコロニーの数をプロットした図である。コロニー数は、マウス1匹から採取した末梢血量(約800μL)あたりの値として示した。横棒は長いものが平均値、短いものが標準偏差を表す。
図4】生理食塩水またはペプチドの投与24時間後の末梢血を培養して得られたコロニーの数をプロットした図である。コロニー数は、マウス1匹から採取した末梢血量(約800μL)あたりの値として示した。横棒は長いものが平均値、短いものが標準偏差を表す。
図5】マウスの体重変化を示すグラフである。グラフ中、「saline」が対照群、「NP-1」がペプチドNP-1投与群をそれぞれ示す。横軸において、日数はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の飲水開始後の日数を示しており、三角印は生理食塩水(対照群)またはペプチド(NP-1投与群)の投与日を示している。
図6】マウスの体重変化を示すグラフである。グラフ中、「saline」が対照群、「NP-2」がペプチドNP-2投与群をそれぞれ示す。横軸において、日数はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の飲水開始後の日数を示しており、三角印は生理食塩水(対照群)またはペプチド(NP-2投与群)の投与日を示している。
図7】マウスの体重変化を示すグラフである。グラフ中、「saline」が対照群、「NP-3」がペプチドNP-3投与群をそれぞれ示す。横軸において、日数はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の飲水開始後の日数を示しており、三角印は生理食塩水(対照群)またはペプチド(NP-3投与群)の投与日を示している。
図8】マウスの体重変化を示すグラフである。グラフ中、「saline」が対照群、「NP-4」がペプチドNP-4投与群をそれぞれ示す。横軸において、日数はデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)水溶液の飲水開始後の日数を示しており、三角印は生理食塩水(対照群)またはペプチド(NP-4投与群)の投与日を示している。
図9】マウスの耳介厚の変化を示すグラフである。「Non treat」が正常マウス、「IMQ/saline」が対照群、「IMQ/NP-3」がペプチドNP-3投与群を示す。横軸はイミキモド塗布開始後の日数を示し、縦軸(Δthickness)はイミキモド塗布開始前(Day 0)における耳介厚(A0)とイミキモド塗布開始後の各日における耳介厚(An; n=1-7)との差(An-A0)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らはこれまでに、生体内の幹細胞を活性化あるいは末梢循環を介して損傷組織へ動員する作用を持った物質を見出しており、当該物質は細胞治療の弱点を克服できる新しいタイプの医薬として有望であると考えている。具体的には、本発明者らは、壊死組織から放出される核タンパク質であるHigh mobility group box 1(HMGB1)が、生体内で組織再生を誘導する役割を担うPlatelet-derived growth factor receptor α (PDGFRα)陽性細胞(間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell:MSC)と考えられる)を、末梢循環を介して壊死組織に動員することにより、壊死組織の炎症を抑制し、組織再生を促進することを見出している。また、本発明者らは、HMGB1の断片ペプチドが間葉系幹細胞の末梢血動員活性および組織再生誘導活性を示すことも見出している。したがって、HMGB1断片ペプチドが示す当該活性は3次元構造に依存しないと考えられる。
【0010】
HMGB1は生理的には血中に存在せず、壊死性損傷が生じた際にのみ壊死細胞より血中に放出される。このことから、間葉系幹細胞は、HMGB1またはその断片に暴露されることにより生体内壊死組織の存在を認識し、末梢血中へ動員され、壊死組織の炎症を抑制し再生を促進していると考えられる。
【0011】
ここで、本発明者らは、HMGB1以外の核タンパク質もまた壊死性損傷により血中に放出されると考え、HMGB1以外の核タンパク質またはその断片にもHMGB1タンパクまたはその断片ペプチドと同様の間葉系幹細胞動員作用があると考えた。即ち、「間葉系幹細胞は生理的に血中に存在しない核タンパク質又はその断片ペプチドを認識して血中に動員される」という理論の提供が可能であると考えた。
【0012】
かかる理論の証明のため、本発明者らは、皮膚組織の抽出液に含まれる核タンパク質を質量分析で多数同定し、当該同定した核タンパク質の部分アミノ酸配列をランダムに複数選択し、当該部分アミノ酸配列からなるペプチドを化学合成して、間葉系幹細胞の動員活性を調べた。その結果、これら複数のペプチドは互いに全くアミノ酸配列が異なるにもかかわらず、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を示したことから、上記理論は正しいことが確認できた。
【0013】
また、本発明者らは、上記核タンパク質の断片ペプチドが、炎症や免疫系の異常を特徴とする疾患(例えば炎症性腸疾患および乾癬)に対して治療効果を示すことを見出した。具体的には、核タンパク質の断片ペプチドが、マウスの炎症性腸疾患モデルにおいて体重減少を抑制し、乾癬モデルにおいて皮膚の肥厚を抑制することを確認した。
【0014】
間葉系幹細胞が、抗炎症作用、免疫調節作用、抗線維化作用を発揮することは当業者には周知である。また、間葉系幹細胞は、種々の組織に分化できる多能性も有していることから、損傷組織の再生促進作用を発揮することもまた当業者には周知である。そのため、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を持つ核タンパク質またはその断片ペプチドを対象に投与すると、末梢血中に間葉系幹細胞が動員され、当該間葉系幹細胞の抗炎症作用、免疫調節作用、抗線維化作用、組織再生促進作用(間葉系幹細胞の分化および/または炎症抑制作用による)によって、種々の疾患に対する治療効果がもたらされると考えられる。
【0015】
本願は、核タンパク質またはその断片ペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物を提供する。
【0016】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物は、医薬組成物または試薬組成物として利用できる。本願において、「医薬組成物」という用語は、「医薬」、「薬剤」または「薬学的組成物」と互換的に用いられ、「試薬組成物」という用語は、「試薬」と互換的に用いられる。
【0017】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物は、例えば末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いることができる。
【0018】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物を利用して末梢血中に動員させた間葉系幹細胞を体外へ回収後、濃縮して、対象における疾患または病的状態の治療に用いることも可能である。本願は、間葉系幹細胞を体外へ回収するための医薬または試薬の製造における、核タンパク質またはその断片ペプチドの使用もまた提供する。
【0019】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物は、例えば基礎研究、臨床研究等にも用いることができる。基礎研究および臨床研究としては、例えば試験管内での間葉系幹細胞の動員研究、実験動物での間葉系幹細胞の動員研究などが挙げられるが、これらに制限されない。本願は、基礎研究または臨床研究のための医薬または試薬の製造における、核タンパク質またはその断片ペプチドの使用もまた提供する。
【0020】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員に用いるための組成物には、1もしくは複数の核タンパク質、1もしくは複数の断片ペプチド、または、それらの組み合わせを含めることができる。
【0021】
本願において、「間葉系幹細胞」とは、骨髄またはその他の組織(血液、例えば臍帯血、および皮膚、脂肪、歯髄等)から採取され、培養皿(プラスチックあるいはガラス製)への付着細胞として培養・増殖可能であり、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織への分化能を有する細胞である。一つの態様において、間葉系幹細胞は、上皮系組織や神経組織への分化能をも有する。一つの態様において、間葉系幹細胞は、コロニー形成能を有する細胞である。本願における間葉系幹細胞は、狭義の幹細胞(自己複製能と分化能を有する細胞)のみならず前駆細胞をも含む不均一な細胞集団として存在してもよく、培養条件下では狭義の幹細胞、または狭義の幹細胞および前駆細胞に加えて分化した細胞をも含み得る。一つの態様において、間葉系幹細胞は狭義の幹細胞のみによって構成されていてもよい。
【0022】
本願において、前駆細胞は、血液系以外の特定組織細胞への一方向性分化能を持つ細胞と定義され、間葉系組織、上皮系組織、神経組織、実質臓器、血管内皮への分化能を有する細胞を含む。
【0023】
本願において、間葉系幹細胞としては、骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞も挙げられるが、これに制限されない。「骨髄間葉系幹細胞」とは、骨髄内に存在する細胞であって、骨髄から採取され、培養皿(プラスチックあるいはガラス製)への付着細胞として培養・増殖可能であり、骨、軟骨、脂肪、筋肉などの間葉系組織への分化能を有するという特徴を持つ細胞である。一つの態様において、骨髄間葉系幹細胞は、上皮系組織や神経組織への分化能をも有する。一つの態様において、骨髄間葉系幹細胞は、コロニー形成能を有する細胞である。本願において、「骨髄間葉系幹細胞」という用語は、「骨髄間葉系間質細胞」、「骨髄多能性幹細胞」または「骨髄多能性間質細胞」と互換的に用いられる。
【0024】
また、「骨髄由来間葉系幹細胞」とは、骨髄から骨髄外に動員された骨髄間葉系幹細胞をいい、末梢血採血、さらには脂肪などの間葉系組織、皮膚などの上皮組織、脳などの神経組織からの採取によって取得することができる細胞である。本願において、「骨髄由来間葉系幹細胞」という用語は、「骨髄由来間葉系間質細胞」、「骨髄由来多能性幹細胞」または「骨髄由来多能性間質細胞」と互換的に用いられる。
【0025】
一つの態様において、骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞は、採取後直接、あるいは一度培養皿へ付着させた細胞を生体の損傷部に投与することにより、例えば皮膚を構成するケラチノサイトなどの上皮系組織、脳を構成する神経系の組織への分化能も有するという特徴も持つ。
【0026】
骨髄間葉系幹細胞および骨髄由来間葉系幹細胞は、骨芽細胞(分化を誘導するとカルシウムの沈着を認めること等で特定可能)、軟骨細胞(アルシアンブルー染色陽性、サフラニン-O染色陽性等で特定可能)、脂肪細胞(ズダンIII染色陽性等で特定可能)の他に、例えば線維芽細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、ストローマ細胞、腱細胞などの間葉系細胞、神経細胞、色素細胞、表皮細胞、毛包細胞(サイトケラチンファミリー、ヘアケラチンファミリー等を発現する)、上皮系細胞(たとえば表皮角化細胞、腸管上皮細胞はサイトケラチンファミリー等を発現する)、内皮細胞、さらに肝臓、腎臓、膵臓等の実質臓器細胞に分化する能力を有することが好ましいが、分化後の細胞は上記細胞に限定されるものではない。
【0027】
ヒト間葉系幹細胞のマーカーとしては、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、Lin陰性、CD45陰性、CD44陽性、CD90陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD105陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD71陽性、Stro-1陽性、CD106陽性、CD166陽性、CD31陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0028】
マウス間葉系幹細胞のマーカーとしては、CD44陽性、PDGFRα陽性、PDGFRβ陽性、CD45陰性、Lin陰性、Sca-1陽性、c-kit陰性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、Flk-1陰性、CD271陽性、CD11b陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0029】
ラット間葉系幹細胞のマーカーとしては、PDGFRα陽性、CD44陽性、CD54陽性、CD73陽性、CD90陽性、CD105陽性、CD29陽性、CD271陽性、CD31陰性、CD45陰性の全部または一部が例示できるが、これらに制限されるものではない。
【0030】
本願において、間葉系幹細胞としては、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞、PDGFRα陽性の骨髄由来間葉系幹細胞、PDGFRα陽性の骨髄由来細胞であって、骨髄採取(骨髄細胞採取)または末梢血採血により得られた血液中の単核球分画細胞培養により、付着細胞として得られる細胞などが例示できるが、これらに制限されるものではない。PDGFRα陽性の間葉系幹細胞の例としては、PDGFRαおよびCD44が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD90が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD105が陽性である細胞、PDGFRαおよびCD29が陽性である細胞等が挙げられる。一つの態様において、PDGFRα陽性の間葉系幹細胞は、CD44が陰性の細胞であってもよい。
【0031】
本願は、核タンパク質またはその断片ペプチドを含有する、末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための組成物を提供する。
【0032】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための組成物は医薬組成物として利用できる。
【0033】
本願における対象としては、特に制限はなく、哺乳類、鳥類、魚類等が挙げられる。哺乳類としては、ヒト又は非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウマ、ヒツジ、クジラなどが例示できるが、これらに限定されるものではない。本願において、「対象」という用語は、「患者」、「個体」または「動物」と互換的に用いられる。
【0034】
本願の末梢血への間葉系幹細胞の動員による、対象における疾患または病的状態の治療に用いるための組成物には、1もしくは複数の核タンパク質、1もしくは複数の断片ペプチド、または、それらの組み合わせを含めることができる。
【0035】
本願において、疾患または病的状態の治療は、例えば炎症抑制治療、免疫調節治療、組織の再生誘導治療、および組織の線維化抑制治療から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本願において、疾患または病的状態は、例えば炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血もしくは壊死を伴う疾患、および線維性疾患から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本願において、炎症性疾患または自己免疫疾患は、例えば炎症性腸疾患および乾癬から選択されるが、これらに限定されるものではない。線維性疾患は、例えば肺線維症、肝線維症、および肝硬変から選択されるが、これらに限定されるものではない。組織の損傷、虚血または壊死を伴う疾患としては、例えば炎症性腸疾患が挙げられるが、これに限定されるものではない。炎症性腸疾患としては、潰瘍性大腸炎およびクローン病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本願において、「核タンパク質」とは、核内において一定の機能を発揮するタンパク質であって、以下の1)から6)以外のタンパク質を意味する:
1) High mobility group box 1(HMGB1)タンパク質;
2) High mobility group box 2(HMGB2)タンパク質;
3) High mobility group box 3(HMGB3)タンパク質;
4) S100 calcium-binding protein A8(S100A8)タンパク質;
5) S100 calcium-binding protein A9(S100A9)タンパク質;および
6) Interleukin-1(IL-1)ファミリーのサイトカイン。一つの態様において、本願の核タンパク質は、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するタンパク質である。
【0039】
本願において、「間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性」という用語は、「末梢血中における間葉系幹細胞の存在量を増大させる活性」と互換的に用いられる。
【0040】
本願における核タンパク質には、例えば転写調節に関与する核タンパク質が含まれるが、これに限定されない。「転写調節に関与するタンパク質」とは、核タンパク質のうち、転写のいずれかの過程を調節する機能を持ったタンパク質を意味し、例えば転写因子および転写共役因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本願において、転写因子とは、単独で又は他のタンパク質との複合体の形でDNAに結合し、転写を制御するタンパク質であり、基本転写因子(転写装置を構成するタンパク質)、転写調節因子、転写伸長因子、転写終結プロセスへの関与によって転写を調節する因子等を含む。
【0042】
本願において、転写共役因子とは、直接DNAには結合せず、タンパク質間の相互作用によって転写を調節するタンパク質であり、例えば転写調節因子と基本転写因子との間に介在(両者に結合)して転写を調節するコアクチベーターやコリプレッサー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本願において、「核タンパク質の断片ペプチド」とは、上記核タンパク質に由来する断片ペプチドを意味する。一つの態様において、核タンパク質の断片ペプチドは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有する断片ペプチドである。
【0044】
本願における核タンパク質の断片ペプチドから、HMGB1タンパク質の断片ペプチド、HMGB2タンパク質の断片ペプチド、HMGB3タンパク質の断片ペプチド、S100A8タンパク質の断片ペプチド、S100A9タンパク質の断片ペプチド、および、IL-1ファミリーのサイトカインの断片ペプチドは除外される。
【0045】
本願において、「核タンパク質の断片ペプチド」という用語は、「核タンパク質に由来する断片ペプチド」、「核タンパク質に由来する部分ペプチド」、「核タンパク質の一部からなる断片ペプチド」、「核タンパク質の一部からなる部分ペプチド」、または、「核タンパク質の部分ペプチド」と互換的に用いられる。
【0046】
本願における核タンパク質またはその断片ペプチドの間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性は、i)核タンパク質またはその断片ペプチドを投与した個体、および、核タンパク質またはその断片ペプチドを投与していない個体から末梢血を回収し、culture dishに播種して培養し(数日~10日)、形成されたコロニーの数をカウントすること、および、ii)形成されたコロニーが、固相への付着性および増殖能(自己複製能)を有し、且つ、骨芽細胞、軟骨細胞および脂肪細胞への分化能を有することを確認することによって、評価することができる。上記i)においては、回収した末梢血をculture dishに播種する前に、所望の方法により当該末梢血から赤血球を除去してもよい。
【0047】
本願における核タンパク質またはその断片ペプチドは、それをコードするDNAを適当な発現系に組み込んで遺伝子組換え体(recombinant)として得ることができるし、または、人工的に合成することもできる。よって、本願における核タンパク質またはその断片ペプチドには、細胞を用いて製造された核タンパク質またはその断片ペプチド、および、人工的に合成された核タンパク質またはその断片ペプチド(すなわち、人工の(synthetic)核タンパク質またはその断片ペプチド)も含まれる。
【0048】
本願における核タンパク質またはその断片ペプチドを遺伝子工学的な手法によって得るためには、該ペプチドをコードするDNAを適当な発現系に組み込んで発現させればよい。
【0049】
本願に応用可能なホストとしては、原核生物の細胞、真核生物の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。また、本願に応用可能なホストとしては、細菌(例えば大腸菌)、酵母、動物細胞(例えばHEK293細胞やCHO細胞などの哺乳動物細胞、カイコ細胞などの昆虫細胞)、植物細胞などもまた挙げられるが、これらに制限されない。
【0050】
本願に応用可能なホスト/ベクター系としては、例えば、発現ベクターpGEXと大腸菌を示すことができる。pGEXは外来遺伝子をグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させることができる(Gene, 67:31-40, 1988)ので、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドをコードするDNAを組み込んだpGEXをヒートショックでBL21のような大腸菌株に導入し、適当な培養時間の後に isopropylthio-β-D-galactoside(IPTG)を添加してGST融合ペプチドの発現を誘導する。本願におけるGSTはグルタチオンセファロース4Bに吸着するため、発現生成物はアフィニティークロマトグラフィーによって容易に分離・精製することが可能である。
【0051】
本願の核タンパク質またはその断片ペプチドの遺伝子組換え体を得るためのホスト/ベクター系としては、この他にも次のようなものを応用することができる。まず細菌をホストに利用する場合には、タグ等を利用した融合タンパク質の発現用ベクターが市販されている。また、本願の遺伝子組換え体には、タグやその一部のペプチドが付加した状態のものも含まれる。
【0052】
本願の核タンパク質またはその断片ペプチドに付加されるタグとしては、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドの活性に影響しない限り、特に制限はなく、例えば、ヒスチジンタグ(例えば6×His、10×His)、HAタグ、FLAGタグ、GSTタグ、T7-タグ、HSV-タグ、E-タグ、lckタグ、B-タグなどが挙げられる。
【0053】
酵母では、Pichia属酵母が糖鎖を備えたタンパク質の発現に有効なことが公知である。糖鎖の付加という点では、昆虫細胞をホストとするバキュロウイルスベクターを利用した発現系も有用である(Bio/Technology, 6:47-55, 1988)。更に、哺乳動物の細胞を利用して、CMV、RSV、あるいはSV40等のプロモーターを利用したベクターのトランスフェクションが行われており、これらのホスト/ベクター系は、いずれも本願の核タンパク質またはその断片ペプチドの発現系として利用することができる。また、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターセンダイウイルスベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、パピローマウイルスベクター等のウイルスベクターを利用して遺伝子を導入することもできるが、これらに限定されるものではない。該ベクターには、遺伝子発現を効果的に誘導するプロモーターDNA配列や、遺伝子発現を制御する因子、DNAの安定性を維持するために必要な分子が含まれてもよい。
【0054】
得られた本願の核タンパク質またはその断片ペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればタンパク質を分離、精製することができる。
【0055】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Marshak et al., Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0056】
また、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドは、実質的に精製されたペプチドであることが好ましい。ここで「実質的に精製された」とは、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドの精製度(タンパク質成分全体における本願の核タンパク質またはその断片ペプチドの割合)が、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、100%若しくは100%に近いことを意味する。100%に近い上限は当業者の精製技術や分析技術に依存するが、例えば、99.999%、99.99%、99.9%、99%などである。
【0057】
また、上記の精製度を有するものであれば、如何なる精製方法によって精製されたものでも、実質的に精製された核タンパク質またはその断片ペプチドに含まれる。例えば、上述のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、または組み合わせることにより、実質的に精製された核タンパク質またはその断片ペプチドを例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
一方、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドを人工的に合成することも出来る。本願におけるペプチド合成法では、ペプチド液相合成法およびペプチド固相合成法等の方法によってペプチドを化学合成することができる。ペプチド固相合成法はペプチドを化学的に合成する際に、一般的に用いられる方法のひとつである。表面をアミノ基で修飾した直径0.1mm程度のポリスチレン高分子ゲルのビーズなどを固相として用い、ここから脱水反応によって1つずつアミノ酸鎖を伸長していく。目的とするペプチドの配列が出来上がったら固相表面から切り出し、目的の物質を得る。固相合成法により、バクテリア中で合成させることの難しいリボソームペプチドの合成や、D体や安定同位元素(2H、13C、15N等)置換体などの非天然アミノ酸の導入、重原子置換体(例えばセレノメチオニンなどのセレノアミノ酸)の導入、ペプチド及びタンパク質主鎖の修飾なども可能である。固相法において70から100個を超える長いペプチド鎖を合成する場合、ネイティブケミカルライゲーション法を用いて、2つのペプチド鎖を結合させる事により合成することが可能である。本願の核タンパク質またはその断片ペプチドは、該タンパク質またはペプチドの医薬上許容される塩の形態であってもよい。医薬上許容される塩としては、塩酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本願の核タンパク質またはその断片ペプチドは、該タンパク質またはペプチドの溶媒和物、または、該タンパク質またはペプチドの医薬上許容される塩の溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物とは、溶質分子に任意の数の溶媒分子が配位しているものをいい、例えば水和物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0059】
本願における核タンパク質またはその断片ペプチドのアミノ酸長としては、例えば25~35アミノ酸、20~40アミノ酸、10~50アミノ酸、10~70アミノ酸、10~100アミノ酸等の範囲が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本願における核タンパク質またはその断片ペプチドとしては、例えば以下から選択される核タンパク質またはそれに由来する断片ペプチドが挙げられる:
1. BTF3タンパク質(Basic transcription factor 3);
2. SUPT16Hタンパク質(Suppressor of Ty 16 Homolog; またはFacilitates chromatin transcription complex subunit SPT16);
3. YBX1タンパク質(Y-Box binding protein 1; またはNuclease-sensitive element-binding protein 1);
4. NPM1タンパク質(Nucleophosmin 1);
5. PA2G4タンパク質(Proliferation-associated protein 2G4);
6. PFDN5タンパク質(Prefoldin subunit 5);
7. PSMC3タンパク質(Proteasome (Prosome, Macropain) 26S subunit, ATPase 3; または26S proteasome regulatory subunit 6A);
8. HNRNPKタンパク質(Heterogeneous nuclear ribonucleoprotein K);および
9. 1から8より選択されるタンパク質と機能的に同等な核タンパク質。
【0061】
本願実施例に記載の断片ペプチドの例に照らして、上記1から8より選択される核タンパク質は、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有すると考えられる。よって、上記9に記載の「機能的に同等」とは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性に関する機能的同等を意味する。そのため、上記9に記載の核タンパク質は、1から8より選択されるタンパク質と同等な活性(同等な間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性)を有する核タンパク質と表現できる。また、上記1から9より選択される核タンパク質に由来する断片ペプチドは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有する断片ペプチドである。
【0062】
上記1から9より選択される核タンパク質またはその断片ペプチドは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するため、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する効果、ならびに炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血または壊死を伴う疾患、および線維性疾患の治療効果を有すると考えられる。
【0063】
本願において、核タンパク質またはその断片ペプチドとしては、例えば以下から選択される核タンパク質またはそれに由来する断片ペプチドが挙げられる:
(I)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(II)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列からなる、核タンパク質;
(III)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(IV)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、核タンパク質;
(V)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質;
(VI)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、核タンパク質;
(VII)配列番号:57から90より選択される塩基配列からなるDNAによりコードされる、核タンパク質;および
(VIII)配列番号:57から90より選択される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされる、核タンパク質。
【0064】
また本願において、核タンパク質の断片ペプチドとしては、例えば以下から選択される断片ペプチドが挙げられる:
(i)配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(ii)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(iii)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(iv)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列の一部からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(v)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(vi)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(vii)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、核タンパク質の断片ペプチド;
(viii)配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列と約80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる、核タンパク質の断片ペプチド;
(ix)配列番号:91から112より選択される塩基配列からなるDNAによりコードされる、核タンパク質の断片ペプチド;および
(x)配列番号:91から112より選択される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによりコードされる、核タンパク質の断片ペプチド。
【0065】
本願において、「複数個」としては、例えば1個~10個、1個~9個、1個~8個、1個~7個、1個~6個、1個~5個、1個~4個、1個~3個、または1個若しくは2個が挙げられる。
【0066】
本願において、「約80%以上」としては、例えば約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上または約99%以上が挙げられる。
【0067】
本願において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば 6×SSC、40%ホルムアミド、25℃でのハイブリダイゼーションと、1×SSC、55℃での洗浄といった条件を示すことができる。ストリンジェンシーは、塩濃度、ホルムアミドの濃度、あるいは温度といった条件に左右されるが、当業者であればこれらの条件を必要なストリンジェンシーを得られるように設定することができる。
【0068】
ハイブリダイゼーションをストリンジェントな条件下で実施すれば、塩基配列として相同性の高いDNAが選択され、その結果として単離されるタンパク質には、配列番号:1から34より選択されるアミノ酸配列からなるタンパク質と機能的に同等なタンパク質(例えばホモログ)、配列番号:35から56より選択されるアミノ酸配列からなる断片ペプチドと機能的に同等な断片ペプチドが含まれる可能性が高まる。相同性の高い塩基配列とは、例えば約60%以上、約70%以上、または、約80%以上の同一性を示すことができる。
【0069】
また本願において、核タンパク質の断片ペプチドとしては、例えば以下から選択される断片ペプチドが挙げられる:
(1)配列番号:1から2より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:35に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(2)配列番号:3に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:36に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(3)配列番号:4に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:37から39より選択されるアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(4)配列番号:5から7より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:40から41より選択されるアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(5)配列番号:8に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:42に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(6)配列番号:9に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:43に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(7)配列番号:10に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:44に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(8)配列番号:11から16より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:45に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(9)配列番号:17から18より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:46に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(10)配列番号:19に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:47に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(11)配列番号:20に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:48から50より選択されるアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(12)配列番号:21、23および24より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:51に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(13)配列番号:21から26より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:52に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(14)配列番号:27に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:53に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(15)配列番号:28から29より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:54に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;
(16)配列番号:30に記載のアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:55に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド;および
(17)配列番号:31から34より選択されるアミノ酸配列の一部からなる断片ペプチドであって、配列番号:56に記載のアミノ酸配列を含む断片ペプチド。
【0070】
上記(I)から(VIII)より選択される核タンパク質は、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有する核タンパク質である。また、上記(I)から(VIII)より選択される核タンパク質に由来する断片ペプチド、上記(i)から(x)より選択される核タンパク質の断片ペプチド、および、上記(1)から(17)より選択される核タンパク質の断片ペプチドは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有する断片ペプチドである。よって、これら核タンパク質及び断片ペプチドは、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する効果、ならびに炎症性疾患、自己免疫疾患、組織の損傷、虚血または壊死を伴う疾患、および線維性疾患の治療効果を有すると考えられる。
【0071】
本願は、上記1から9より選択される核タンパク質またはそれに由来する断片ペプチド、上記(I)から(VIII)より選択される核タンパク質またはそれに由来する断片ペプチド、上記(i)から(x)より選択される核タンパク質の断片ペプチド、および、上記(1)から(17)より選択される核タンパク質の断片ペプチドもまた提供する。
【0072】
配列番号:1から56に記載のアミノ酸配列は、以下の表1-1および表1-2に記載のタンパク質またはペプチドのアミノ酸配列である。
【0073】
【表1-1】
【0074】
【表1-2】
【0075】
配列番号:57から112に記載の塩基配列は、以下の表2-1および表2-2に記載のタンパク質またはペプチドをコードするDNAの塩基配列の一例である。以下の表2-1および表2-2に記載のタンパク質またはペプチドをコードする他のDNA配列は、当業者に公知のコドン表を用いて、該タンパク質または該ペプチドのアミノ酸残基を対応するコドンに変換する方法(逆翻訳)によって作成することができる。逆翻訳は、所望により、アミノ酸および核酸配列の解析用に開発されている種々のソフトウェア(プログラム、アルゴリズム等を含む)を利用して行うことができる。
【0076】
【表2-1】
【0077】
【表2-2】
【0078】
本願において、核タンパク質またはその断片ペプチドは、例えば核移行シグナルを含む、核タンパク質またはその断片ペプチドである。核移行シグナル(NLS)とは、ある一定のパターンを持ったアミノ酸配列であって、それを有するタンパク質/ペプチドを核内へ移行させる機能を持ったものをいう。
【0079】
例えば、多くの核タンパク質は、そのアミノ酸配列中にNLSを持っていることが知られており、当該NLSを認識する核輸送受容体(核輸送タンパク、核輸送因子とも称される)と結合することによって核内へと移動する。
【0080】
現在知られているNLS(以下、既知NLS)の例としては、以下の表3-1および表3-2に記載のものが挙げられる:
【0081】
【表3-1】
【0082】
【表3-2】
【0083】
また、既知NLSとしては、NLSdbデータベース(https://rostlab.org/services/nlsdb/)に登録されている配列を挙げることもできる。NLSdbに登録されている配列は、上記webサイトにおいて閲覧およびダウンロードすることができる。NLSdbに登録されているNLSの配列のうちAnnotation typeが「Experimental」または「By Expert」であるものは、タンパク質/ペプチドを核内へ移行させる機能を有していると評価できるため、本願において既知NLSとして扱う。
【0084】
本願におけるNLSは、特定のプログラムを用いて予測されるNLS(以下、予測NLS)であってもよい。所望のアミノ酸配列中に予測NLSが含まれるかどうかは、次のプログラム:SeqNLS(Lin et al., PLoS One. 2013 Oct 29;8(10):e76864)またはNLStradamus(Nguyen et al., BMC Bioinformatics. 2009 Jun 29;10:202)を用いて決定することができる。
【0085】
一つの態様において、NLSは既知NLSである。一つの態様において、NLSは、cNLS、PY-NLS、BIBドメインおよびBIBドメイン様配列からなる群より選択される既知NLSである。一つの態様において、cNLSはmonopartite cNLSである。一つの態様において、monopartite cNLSはKKEK(配列番号:130)である。
【0086】
本願の核タンパク質もしくはその断片ペプチド、または、それを含有する医薬組成物(以下、医薬組成物等と称する)の有効量が、本明細書に記載の疾患や症状の治療のために対象に投与される。
【0087】
本願における有効量とは、本明細書に記載の疾患または病的状態の治療に十分な量をいう。本願における治療には、軽減、遅延、阻止、改善、寛解、治癒、完治などが含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
本願の医薬組成物等の投与部位に制限はなく、疾患または病的状態の症状が現れる部位もしくはその近傍、それらとは異なる部位(それら以外の部位)、疾患または病的状態の症状が現れる部位から離れた部位、疾患または病的状態の症状が現れる部位から遠位にある部位、または、疾患または病的状態の症状が現れる部位に対して遠位かつ異所である部位など、いかなる部位に投与されても、本願の医薬組成物等は、その効果を発揮することができる。
【0089】
また本願の医薬組成物等は、疾患または病的状態の症状が現れる組織とは異なる組織、疾患または病的状態の症状が現れる組織から離れた組織、疾患または病的状態の症状が現れる組織から遠位にある組織、または、疾患または病的状態の症状が現れる組織に対して遠位かつ異所にある組織など、いかなる組織に投与されても、その効果を発揮することができる。
【0090】
本願の医薬組成物等の投与方法としては、経口投与または非経口投与が挙げられ、非経口投与方法としては、血管内投与(動脈内投与、静脈内投与等)、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、腹腔内投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられるが、これらに限定されない。また、本願の医薬組成物等を、注射投与、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって全身または局部的(例えば、皮下、皮内、皮膚表面、眼球あるいは眼瞼結膜、鼻腔粘膜、口腔内および消化管粘膜、膣・子宮内粘膜、または損傷部位など)に投与できる。
【0091】
また、本願の核タンパク質またはその断片ペプチドに代えて、該核タンパク質またはその断片ペプチドを分泌する細胞、該核タンパク質またはその断片ペプチドをコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクター、およびこれらを含有する医薬組成物を用いることもできる。
【0092】
また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。本願の医薬組成物等を投与する場合、例えば、一回の投与につき、体重1 kgあたり0.0000001mgから1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.00001から100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。本願の核タンパク質またはその断片ペプチドを分泌する細胞や該核タンパク質またはその断片ペプチドをコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクターを投与する場合も、該核タンパク質またはその断片ペプチドの量が上記範囲内となるように投与することができる。しかしながら、本願における医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0093】
本願の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0094】
なお、本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0095】
本発明は、下記の実施例によってさらに例示されるが、それらに限定されるものではない。
【実施例
【0096】
実施例1
核タンパク質の断片ペプチドによる間葉系幹細胞の動員
【0097】
(1)材料および方法
i)ペプチドの製造
以下の表に示す核タンパク質の断片ペプチドを、固相法により化学的に合成した(得られたペプチドは、いずれもトリフルオロ酢酸(TFA)塩の形態である)。
【0098】
【表4】
【0099】
ii)ペプチドの投与
C57BL/6Jマウス(8週齢、雄、体重25g)を用意し、前出の表に記載のペプチドNP-1~11を投与する群と対照群に分けた。ペプチドの投与は、生理食塩水を溶媒として1μg/μLの濃度に調整した各ペプチドの溶液を100μL/匹の量(ペプチドの投与量としては4mg/kg)で尾静脈に注入することにより行った。対照群には、生理食塩水を100μL/匹の量で尾静脈に注入した。
【0100】
iii)末梢血からの細胞回収
生理食塩水またはペプチドNP-1~11の投与から一定時間後(NP-1~6および8は14時間後、NP-7、10および11は16時間後、NP-9は24時間後)に、全身麻酔下で心臓から末梢血を約800-1000μL採取した(ヘパリンを含有する1 mLシリンジを使用)。赤血球を除去するため、採取した血液と等量のHetasep(STEMCELL Technologies社、Cat No. ST-07906)を加え、100Gで2分間遠心し、室温で15分間インキュベートした後、上清を回収した。当該上清を、末梢血中の有核細胞を含むサンプルとして次の実験に供した。
【0101】
iv)コロニーアッセイ
上記の手順によって得た上清(末梢血由来細胞含有サンプル)を、コラーゲンIでコートされた6ウェルプレート(Corning社、Cat No. 356400)に播種し、MesenCult Expansion Kit(STEMCELL Technologies社、Cat No. ST-05513)を利用して当該キットのマニュアル通りに調製したExpansion Mediumに1% L-glutamine(ナカライテスク社)、10μM ROCK inhibitor(Y27632、Tocris Bioscience社)および 1% ペニシリン/ストレプトマイシン(ナカライテスク社)を含有させた培地(数値はいずれも終濃度)を用いて、37℃、5%CO2、5%O2の条件下で10日間培養した。培養期間中は1週間に2回、培地を新鮮なものに交換した。培養10日目に、Differential Quik Stain Kit(シスメックス株式会社、Cat No. 16920)を用いてプレート上の細胞を染色し、50個以上の細胞を含むコロニーの数をカウントした。
【0102】
本発明者らがこれまでに行った実験において、末梢血をディッシュやプレート等の固相上で培養した結果得られるコロニーは全て、固相への付着性と自己複製能を有することに加えて、PDGFRα陽性であり、骨、軟骨、脂肪、上皮等への分化能を有することが確認できている。
【0103】
また、間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有するヒトHMGB1タンパク質のアミノ酸残基1-44からなるペプチド(以下、HMGB1ペプチド1-44)を投与した後の末梢血を固相上で培養した結果得られるコロニーも全て、固相への付着性と自己複製能を有し、PDGFRα陽性であることが確認できており、かつ、トランスクリプトーム解析のデータをクラスタリングし、gene ontology解析を行った結果から、間葉系幹細胞に特徴的な遺伝子発現プロファイルを有することが確認できている。
【0104】
さらに、生理食塩水投与後の末梢血よりも、HMGB1ペプチド1-44を投与した後の末梢血の方が、固相培養で得られるコロニーの数が多いことも確認済みである。
【0105】
したがって、末梢血を固相上で培養した結果得られるコロニーは間葉系幹細胞であり、末梢血の固相培養で検出されるコロニー数の増加は、末梢血中の間葉系幹細胞数の増加を示すと考えられる。
【0106】
また、通常、間葉系幹細胞は末梢血中にはほとんど存在しないため、増加した分の間葉系幹細胞は末梢血以外の組織(例えば骨髄)から末梢血中に動員されたものと考えられる。
【0107】
以上のことから、被験物質投与後の末梢血の固相培養で検出されるコロニーの数は、当該被験物質が間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性の指標として用いることができる。
【0108】
(2)結果
ペプチドNP-1~11のいずれを投与したマウスにおいても、生理食塩水を投与したマウスと比較して、末梢血由来細胞の培養によってプレート上に得られるコロニーの数が多かった(図1~4)。
【0109】
上述の通り、本明細書に記載のコロニーアッセイで検出されるコロニー数の増加は、末梢血中の間葉系幹細胞数の増加を示すから、これらの結果は核タンパク質の断片ペプチドが間葉系幹細胞を末梢血中に動員する活性を有することを実証するものである。
【0110】
実施例2
炎症性腸疾患に対する核タンパク質由来ペプチドの有効性
【0111】
(1)材料および方法
i)薬剤
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)(分子量5,000~6,000、ナカライテスク社製、カタログ番号10930-94)を水に溶解し、2.5%(w/v)のDSS水溶液を調製した。また、実施例1に記載のペプチドNP-1~4(いずれもTFA塩)を被験物質として用いた。
【0112】
ii)炎症性腸疾患(IBD)モデルマウスの作成
C57BL/6Jマウス(8週齢、オス、体重約20g)に精製水(RO水)に代えて2.5%DSS水溶液を自由飲水させることにより、大腸炎を誘発した(DSS水溶液の飲水は10日間継続した)。
【0113】
iii)ペプチドの投与
上記の通り作成したIBDモデルマウスをペプチド投与群(NP-1~4、各n=3)および対照群(n=3)に分けた。各ペプチドの投与は、DSS水溶液の飲水開始後1、3、5および7日目に、生理食塩水を溶媒として0.5mg/mLの濃度に調整したペプチド溶液を200μL/匹の量(ペプチドの投与量としては5mg/kg)で尾静脈に注入することにより行った。対照群には、DSS水溶液の飲水開始後1、3、5および7日目に、生理食塩水を200μL/匹の量で尾静脈に注入した。
【0114】
iv)ペプチドの投与による効果の評価
DSS水溶液の飲水開始から10日間、毎日、マウスの体重を測定した。
【0115】
(2)結果
試験期間中におけるマウスの体重変化を図5~8に示す(対照群について「Saline」、ペプチドNP-1~4投与群について「NP-1」、「NP-2」、「NP-3」および「NP-4」参照)。対照群の体重は日数経過に伴って減少し、DSS水溶液の飲水開始後10日目ではDSS飲水開始前に比較して約87%となった。これに対し、ペプチドNP-1~4投与群ではいずれも、対照群と比較して体重減少が抑制されており、DSS水溶液の飲水開始後10日目の体重は対照群より顕著に大きかった。
【0116】
IBDの症状の一つとして体重の減少が起こることが知られており、その原因は腸管の粘膜に生じる炎症や組織損傷(潰瘍等)による栄養状態の悪化にあると考えられている。また、動物のIBDモデルにおいて間葉系幹細胞を静注すると、体重減少ならびに腸管における上皮の損傷および炎症細胞の浸潤等を含む種々の症状が改善することが知られている。かかる症状の改善は、間葉系幹細胞の抗炎症作用によって腸管粘膜の炎症が抑制されること、およびその結果として粘膜組織の再生が促進されること等によるものである。
【0117】
今回、本願の核タンパク質の断片ペプチドをIBDモデルマウスに投与することにより、体重の減少が抑制された。これは、核タンパク質の断片ペプチドの作用によって間葉系幹細胞が末梢血中に動員され、当該細胞により炎症抑制効果と組織再生効果が発揮された結果であると考えられる。
【0118】
実施例3
乾癬に対する核タンパク質由来ペプチドの有効性
【0119】
(1)材料および方法
i)薬剤
イミキモドによる乾癬誘発のために、5%イミキモド含有クリーム(ベセルナクリーム5%、持田製薬株式会社製)を用いた。なお、本願実施例に対応する図面においてはイミキモドをIMQと表記する。また、実施例1に記載のペプチドNP-3(TFA塩)を被験物質として用いた。
【0120】
ii)乾癬モデルマウスの作成
C57BL/6マウス(7週齢、メス、体重約20g)を用意した。乾癬を誘発するため、5%イミキモド含有クリームを当該マウスの耳介皮膚に25mg/片耳/日の量(イミキモドとして1.25mg/片耳/日)で1日1回、7日間塗布した。また、イミキモドの塗布を行わなかったマウス(以下、「正常マウス」と称する)を比較対象として用いた。
【0121】
iii)ペプチドの投与
上記の通り作成した乾癬モデルマウスをペプチド投与群(n=4)および対照群(n=4)に分けた。被験物質の投与は、イミキモド塗布開始1日目(Day 1)から7日間、生理食塩水を溶媒として1μg/μLの濃度に調整したNP-3ペプチドの溶液を100μL/日の量(ペプチドの投与量としては5mg/kg/日)で尾静脈に注入することにより行った。対照群には、イミキモド塗布開始1日目から7日間、生理食塩水を100μL/日の量で尾静脈に注入した。正常マウス(n=4)には物質の投与を行わなかった。
【0122】
iv)ペプチドの投与による効果の評価
試験期間中、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製、製品番号CLM1-15QM)を用いてマウスの耳介厚を毎日測定し、イミキモド塗布開始前(Day 0)における耳介厚からの変化量を算出し、当該変化量を指標として皮膚の肥厚の程度を評価した。
【0123】
(2)結果
試験期間中におけるマウスの耳介厚の変化を図9に示す(正常マウスについて「Non treat」、対照群について「IMQ/saline」、ペプチドNP-3投与群について「IMQ/NP-3」参照)。乾癬モデルマウス(対照群およびペプチドNP-3投与群)の耳介厚は日数経過に伴って増大した。ペプチドNP-3投与群では、対照群と比較して耳介厚の増大が抑制されていた。
【0124】
尋常性乾癬の症状は皮膚の紅斑、肥厚、鱗屑/落屑等であり、これらは免疫系の異常とそれに起因する炎症、および角化細胞の増殖亢進によって生じる。今回、実験に用いたマウスは、イミキモドを耳の皮膚へ塗布することにより、尋常性乾癬様の症状(紅斑や肥厚)を生じさせるモデルである。実験の結果、イミキモドにより誘発された皮膚の肥厚が、本願の核タンパク質の断片ペプチドを投与することによって抑制された。これは、核タンパク質の断片ペプチドの作用によって間葉系幹細胞が末梢血中に動員され、当該細胞により免疫調節効果と炎症抑制効果が発揮された結果であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本願の核タンパク質またはその断片ペプチドは、炎症性疾患、自己免疫疾患、線維性疾患、および組織の損傷/虚血/壊死を伴う疾患の治療薬として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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