(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】音響特性測定装置、音響特性測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
G01H17/00 C
(21)【出願番号】P 2021048501
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】泉 宏明
(72)【発明者】
【氏名】桂 大詞
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-522919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0034869(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成部と、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化部と、
前記粗視画像の輝度の分散度
から前記測定対象の音響特性を測定する測定部と、を備える、
ことを特徴とする音響特性測定装置。
【請求項2】
前記測定対象は、複数の種類の繊維を含む繊維基材である、
ことを特徴とする請求項1に記載の音響特性測定装置。
【請求項3】
前記測定対象は、多孔質材料である、
ことを特徴とする請求項1に記載の音響特性測定装置。
【請求項4】
前記粗視化部は、前記ブロックの輝度の階調を減らして、前記粗視画像を生成する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の音響特性測定装置。
【請求項5】
前記ブロックは、一辺が4mm以上、350mm以下の四角形である、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の音響特性測定装置。
【請求項6】
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成ステップと、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化ステップと、
前記粗視画像の輝度の分散度
から前記測定対象の音響特性を測定する測定ステップと、を含む、
ことを特徴とする音響特性測定方法。
【請求項7】
コンピュータを、
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成部、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化部、
前記粗視画像の輝度の分散度
から前記測定対象の音響特性を測定する測定部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料又は多孔質材料の音響特性測定装置、音響特性測定方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音響材料として不織布等の繊維材料を用いて、音を吸収又は遮断する方法が開発されている。例えば、特許文献1では、空気の流れやすさの異なる繊維材料を積層することにより、吸音、遮音性能を向上させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術のように、繊維材料の吸遮音性能を高めるため、複数の種類の繊維が組み合わされて用いられる。一般的には、複数の種類の繊維を混ぜ合わせて(混綿して)構成される繊維材料が用いられる。混綿された繊維材料が所望の吸遮音性能を発揮するためには、異なる種類の繊維が均一に混ぜ合わされていることが求められる。
【0005】
また、他の音響材料として、ポリウレタンフォーム等の多孔質材料が用いられている。例えば、吸遮音材として多孔質材料を用いる場合、所望の吸遮音性能を発揮するためには、多孔質材料中に孔(空隙)が均一に含まれていることが求められる。
【0006】
繊維材料及び多孔質材料について、吸遮音性能等の音響特性を測定する場合、測定は、防音室、高性能な集音マイク等の専用の設備を用いて行われる。したがって、繊維材料又は多孔質材料の量産現場等で音響特性を測定することは難しい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、繊維材料、多孔質材料等の音響材料に関して音響特性を容易に測定することができる音響特性測定装置、音響特性測定方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る音響特性測定装置は、
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成部と、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化部と、
前記粗視画像の輝度の分散度から前記測定対象の音響特性を測定する測定部と、を備える。
【0009】
また、前記測定対象は、複数の種類の繊維を含む繊維基材である、
こととしてもよい。
【0010】
また前記測定対象は、多孔質材料である、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記粗視化部は、前記ブロックの輝度の階調を減らして、前記粗視画像を生成する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記ブロックは、一辺が4mm以上、350mm以下の四角形である、
こととしてもよい。
【0013】
また、本発明の第2の観点に係る音響特性測定方法は、
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成ステップと、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化ステップと、
前記粗視画像の輝度の分散度から前記測定対象の音響特性を測定する測定ステップと、を含む。
【0014】
また、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
測定対象の画像をグレースケール化してグレースケール画像を生成するグレースケール画像生成部、
前記グレースケール画像を複数のブロックに分割し、前記ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像を生成する粗視化部、
前記粗視画像の輝度の分散度から前記測定対象の音響特性を測定する測定部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の音響特性測定装置、音響特性測定方法及びプログラムによれば、測定対象の画像を用いて、測定対象の均一性を示す輝度の分散度を演算して音響特性を測定するので、容易に繊維材料及び多孔質材料の音響特性を測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る音響特性測定装置を示す機能ブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る音響特性測定処理を示すフローチャートである。
【
図3】測定対象の画像の例を示す図であり、(A)は元画像、(B)はグレースケール画像、(C)はブロックに分割された粗視画像、(D)は(C)の階調を減らした粗視画像である。
【
図4】測定対象の例としての試験片1及び試験片2を示す画像であり、(A)はグレースケール画像、(B)は粗視画像である。
【
図5】試験片1及び試験片2の粗視画像のヒストグラムである。
【
図6】試験片1及び試験片2の特性値の例を示す図であり、(A)は各特性値の表、(B)は標準偏差と流れ抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る音響特性測定装置1について説明する。なお、本実施の形態では、複数の種類の繊維を含む繊維材料を測定対象として、音響特性を測定する音響特性測定装置1を例として説明する。なお、本明細書における音響特性の測定は、測定対象の音響特性が予め定められた所定の許容性能範囲内であるか否かの判定を含む。本実施の形態に係る音響特性測定装置1は、
図1のブロック図に示すように、制御部11、記憶部12、表示部13、入力部14を備える。また、音響特性測定装置1は、撮像部30と接続されている。
【0018】
撮像部30は、音響特性の測定対象となる繊維材料、多孔質材料等の音響材料を撮像するカメラである。撮像部30としてのカメラの種類、画素数等は特に限定されないが、後述する粗視化におけるブロックに複数の画素が含まれる程度の解像度を有することが好ましい。本実施の形態に係る撮像部30としてのカメラは、カラー画像を撮像する。
【0019】
ここで、本実施の形態の測定対象となる繊維材料の繊維基材は、複数の種類の繊維を含むものであり、例えば、太い接着用の繊維(メルトファイバー)と細い繊維(主成分)の2種類の繊維で構成される。一般的に、これら種類の異なる繊維は、色合いが異なり、撮像された画像では、それぞれの繊維に該当する画素の輝度が異なる。本実施の形態では、後に詳述するように、異なる繊維の輝度の違いを利用して、繊維が均一に混合されているか否かを評価する。したがって、繊維ごとの輝度の違いが明確であることが好ましい。例えば、異なる2種類の繊維を含む繊維基材の場合、一方の繊維が黒、他方の繊維が白に予め染色されていること、一方の繊維にのみ多くの蛍光物質が含まれていることなどが好ましい。
【0020】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、音響特性測定装置1の動作を制御する。また、制御部11は、撮像部30で撮影された測定対象の画像に基づいて、測定対象の音響特性の測定、測定対象の音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行う。
【0021】
制御部11は、制御部11のROM、記憶部12等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPU及びGPUを動作させることにより、
図1に示される制御部11の各機能を実現させる。これにより、制御部11は、画像データ取得部111、グレースケール画像生成部112、粗視化部113、測定部114として動作する。
【0022】
画像データ取得部111は、撮像部30を制御して、測定対象の繊維基材の画像(元画像Io)を撮像する。また、画像データ取得部111は、撮像された元画像Ioの画像データを撮像部30から取得する。
【0023】
グレースケール画像生成部112は、画像データ取得部111で取得されたカラー画像である繊維基材の元画像Ioをグレースケール化してグレースケール画像Igを生成する。グレースケール化の方法は特に限定されず、RGBを平均化する方法、ガンマ補正を用いる方法等、公知の方法を用いることができる。また、グレースケール画像Igの階調数は特に限定されず、例えば256階調(8ビット)である。
【0024】
粗視化部113は、グレースケール画像生成部112で生成されたグレースケール画像Igを複数のブロックに分割する。ブロックの大きさ、形状は特に限定されないが、音響特性を適切に測定するため、音響特性測定の対象範囲となる周波数の音波の波長(1波長又は1/4波長)に対応した大きさであることが好ましい。例えば、測定対象の周波数の範囲が1~20kHzである場合、音響特性に影響を与える音波の波長として、1kHzの1波長である約350mm、1/4波長である約90mm、20kHzの1/4波長である約4mm等があげられる。したがって、ブロックは、一辺が繊維基材の4mm以上350mm以下、より好ましくは4mm以上90mm以下に相当する大きさの四角形とすることが好ましい。
【0025】
粗視化部113は、分割されたブロックごとに、ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像Icを生成する。より具体的には、粗視化部113は、ブロック内の画素の輝度の平均値を演算し、ブロック内の画素の輝度を、演算された平均値の輝度に設定する。粗視化部113は、各ブロックについて上述の平均化を行い、輝度が平均化されたブロックの集合としての粗視画像Icを生成する。
【0026】
また、粗視化部113は、ブロックごとの輝度分布の評価を容易にするため、輝度の階調を減らす処理を行う。具体的には、例えば256階調で表現されている粗視画像Icの輝度を、0~42、43~85、86~127、128~170、171~212、213~255の6つの区分に分け、各区分の中央値(21、64、107、149、192、234)を、それぞれの区分の輝度とする。粗視化部113は、各ブロックの輝度に該当する区分の中央値の輝度に、それぞれのブロック内の画素の輝度を修正する。これにより、粗視化部113は、粗視画像Icの階調を、256階調から6階調に減らす。
【0027】
測定部114は、粗視化部113で生成された粗視画像Icの分散度を演算する。測定対象の繊維基材には、複数の異なる種類の繊維が含まれている。これら異なる種類の繊維が均一に混合(混綿)されていれば、粗視画像Icの各ブロックの輝度は均一な状態となる。他方、繊維基材に含まれる異なる種類の繊維に偏り(ばらつき)が生じている場合、粗視画像Icのブロックごとの輝度にばらつきが生じる。したがって、粗視画像Icの輝度の分散度、例えば標準偏差が小さいほど、繊維の混合度合いが均一であり、標準偏差が大きいほど、繊維の混合度合いにばらつきが生じていると推定される。
【0028】
測定部114は、予め設定されている測定対象の均一性と音響特性との関係を示す指標、及び推定された測定対象の均一性に基づいて、測定対象の音響特性の測定、測定対象の音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行う。所定範囲は、測定対象の音響特性について許容可能な範囲として、予め定められた範囲である。本実施の形態では、予め設定されている繊維の混合度合いと音響特性との関係を示す指標、及び推定された繊維の混合度合いに基づいて、測定対象である繊維材料の音響特性の測定、測定対象の音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行う。
【0029】
記憶部12は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、測定対象の元画像Ioの画像データ、グレースケール画像Ig及び粗視画像Icを生成するプログラム、測定対象の均一性と音響特性との関係を示す指標等のプログラム及びデータを記憶する。
【0030】
表示部13は、音響特性測定装置1に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶ディスプレイである。表示部13は、撮像部30で撮像された測定対象の元画像Io、測定部114による音響特性の測定結果等を表示する。
【0031】
入力部14は、測定対象の均一性と音響特性との関係を示す指標の設定、測定の開始、終了指示等を入力するための入力デバイスである。入力部14は、音響特性測定装置1に備えられたキーボード、タッチパネル、マウス等である。
【0032】
続いて、
図2のフローチャートを参照しつつ、音響特性測定装置1を用いた音響特性測定方法について説明する。本実施の形態では、
図3(A)に示すように、円板状の繊維材料を測定対象として撮像し、撮像された画像に基づいて、繊維材料の音響特性を測定する場合を例として説明する。
【0033】
入力部14への測定開始指示の入力等により、音響特性測定処理が開始されると、ステップS11として、画像データ取得部111は、撮像部30を制御して、測定対象の繊維基材の元画像Ioを撮像し、撮像部30から元画像Ioの画像データを取得する。また、画像データ取得部111は、取得した元画像Ioの画像データをグレースケール画像生成部112へ送信する。
【0034】
続いて、グレースケール画像生成ステップとして、グレースケール画像生成部112は、受信した画像データに基づいて元画像I
oをグレースケール化して、グレースケール画像I
gを生成する(ステップS12)。
図3(A)に示すように、本実施の形態に係る元画像I
oは、背景の画像を含んでいる。グレースケール画像生成部112は、まず、背景の画像を削除して、繊維材料のみの画像にする。具体的には、グレースケール画像生成部112は、背景部分を黒(輝度=0)とし輝度値のカウントに含めない処理を行う。背景画像を削除するキーイング処理が適切に行われるように、元画像I
oの背景は緑、青等の単一色であることが好ましい。
【0035】
グレースケール画像生成部112は、繊維材料のみの元画像I
oをグレースケール化する。本実施の形態では、グレースケール画像生成部112は、NTSC加重平均法を用いてグレースケール化を行い、繊維材料のグレースケール画像I
g(
図3(B))を生成する。
【0036】
続いて、粗視化ステップとして、粗視化部113は、グレースケール画像生成部112で生成されたグレースケール画像Igを複数のブロックに分割する(ステップS13)。本実施の形態では、元画像Ioを160×160ピクセルの大きさでブロック化することで、正方形の1ブロックの1辺が、繊維材料の15mm程度となるように設定している。
【0037】
そして、粗視化部113は、分割されたブロックごとに、ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像I
cを生成する(ステップS14)。粗視化部113は、繊維材料と背景との境界を含むブロックでは、背景を示す画素を含めずに、ブロック内の画素の輝度を平均化する。これにより、繊維材料の部分のみについて平均輝度を演算することができる。粗視化部113は、ブロック内の画素の輝度を、演算された平均輝度に設定し、粗視画像I
c(
図3(C))を生成する。
【0038】
さらに、粗視化部113は、粗視画像Icの階調数を減らす処理を行う(ステップS15)。具体的には、上述したように、粗視化部113は、256階調でグレースケール化された画像である粗視画像Icについて、各ブロックの輝度を6つの区分に分ける。そして、粗視化部113は、各ブロックの輝度を、各区分の中央値の輝度に修正する。これにより、粗視化部113は、階調を減らした粗視画像Icを生成する。
【0039】
続いて測定ステップとして、測定部114は、ステップS15で生成された粗視画像Icについて、ブロックごとの輝度のばらつきを示す分散度を演算し、繊維の混合度合いを推定する(ステップS16)。分散度としては、分散、標準偏差等、種々の指標を用いることができ、例えば標準偏差が用いられる。上述したように、演算された分散度は、繊維基材に含まれる複数の繊維の混合度合いを表している。測定部114は、演算された分散度に基づいて、繊維の混合度合いを推定する。混合度合いは、予め設定された任意の指標であり、例えば、輝度の標準偏差の値を、任意の範囲の区分に分けることにより、混合度合いの指標とすることができる。
【0040】
測定部114は、分散度から推定された繊維の混合度合いに基づいて、繊維材料の音響特性を測定する(ステップS17)。繊維材料の音響特性は、予め設定された測定指標に基づいて行われる。測定指標は、実際の測定データ等に基づいて、繊維の混合度合いと音響特性との関係を示す指標として予め設定され、記憶部12に記憶されている。
【0041】
より具体的には、繊維基材がよく混綿され、異なる種類の繊維が均一に混合されているほど、繊維材料の流れ抵抗(空気の流れにくさ)は大きくなり、吸音率は高くなる。他方、うまく混綿されておらず、繊維のばらつき(偏り)が大きいほど、繊維材料の流れ抵抗は小さくなり、吸音率は低くなる。測定指標は、例えば、このような特性に基づいて、繊維の混合度合いと吸音率との関係を示す表として作成され、繊維の混合度合いと音響特性との関係を示す指標として予め記憶部12に記憶される。
【0042】
測定部114は、分散度から推定された繊維の混合度合いに対応する吸音率を、測定対象である繊維材料の音響特性の測定結果として記憶部12に記憶させるとともに、表示部13に表示させ(ステップS18)、音響特性測定装置1は音響特性測定処理を終了する。
【0043】
(測定例)
以下、本実施の形態に係る音響特性測定方法に係る測定例について説明する。本例では、繊維A及び繊維Bの2種類の繊維からなる繊維材料について音響特性の測定を行った。また、本例では、繊維Aと繊維Bとの混合度合いの異なる試験片1及び試験片2を作成し、音響特性の評価を行った。
【0044】
繊維Aは、繊維径が0.5dt、繊維長が約50mmである白色PET繊維である。また、繊維Bは、繊維径が2dt、繊維長が約50mmである黒色低融点PET繊維である。
【0045】
試験片1は、繊維Aと繊維Bとを混合して作製した不織布である。具体的には、まず圧縮された繊維Aと繊維Bとを7:3の重量比率で配合し、サンプルオープナー機((有)竹内製作所、OP-400)で開繊、混合した。その後、開繊、混合された材料をサンプルローラカード機((有)竹内製作所、SRC-400)で混合、梳綿して、幅400mm×長さ900mmの不織布を作製した。そして、不織布をオーブンでプレヒートした後、厚み50mmに保持しつつ冷却して、不織布シートを作製した。さらに不織布シートからφ100mmの大きさで切り出して試験片1とした。
【0046】
試験片2は、試験片1と同様に、繊維Aと繊維Bとを混合して作製した不織布である。具体的には、まず圧縮された繊維Aと繊維Bとを7:3の重量比率で配合し、試験片1の場合と比べて約0.06倍に開繊頻度を下げたサンプルオープナー機((有)竹内製作所、OP-400)で開繊、混合した。その後、開繊、混合された材料を、試験片1の場合と比べてシリンダローラとワーカローラとのギャップを3倍に広げて梳綿性を低下させたサンプルローラカード機((有)竹内製作所、SRC-400)で混合、梳綿して、幅400mm×長さ900mmの不織布を作製した。そして、不織布をオーブンでプレヒートした後、厚み50mmに保持しつつ冷却して、不織布シートを作製した。さらに不織布シートからφ100mmの大きさで切り出して試験片2とした。
【0047】
上述の試験片1及び試験片2について、本実施の形態に係る音響測定方法により混合繊維の分散度を測定した。具体的には、
図4(A)に示すように45mm×30mmの大きさで、試験片1、試験片2について表裏各3枚(合計6枚)の画像を撮影した。このときの解像度は約4.7μm/ピクセルであり、この値は繊維A及び繊維Bの繊維径より小さい。
【0048】
続いて、
図4(B)に示すように、撮影された画像を9×6ブロック(約5mm/ブロック)に分割し、ブロック内の画素の輝度を平均化して粗視画像I
cを生成した。また、生成された6枚の粗視画像I
cから8bit階調のヒストグラムデータを生成し、粗視画像I
cの6枚分の平均である平均ヒストグラムデータを算出した。さらに、平均ヒストグラムデータから、標準偏差を算出した。さらに、標準偏差を8とした場合の、±3σの範囲外となるカウント数の総和を算出した。
図5は、試験片1、試験片2のそれぞれ2つのサンプルの平均ヒストグラムである。
【0049】
上述の試験片1及び試験片2の音響特性を示す指標として、流れ抵抗を測定した。具体的には、試験片1、試験片2の重量を分析天秤((株)島津製作所、AUX320)で測定し、それぞれの嵩密度を算出した。そして、試験片1、試験片2の単位厚みあたりの流れ抵抗を、流れ抵抗測定システム(Mecanum社、SIGMA)で測定した。また、単位厚みあたりの流れ抵抗を嵩密度で除して、嵩密度あたりの流れ抵抗を算出した。
【0050】
図6(A)、(B)は、試験片1及び試験片2に係る上述の測定データを示す図である。
図6(A)、(B)に示すように、画像処理を用いて演算される繊維の混合度合いを表す標準偏差と、音響特性を表す流れ抵抗との間に相関関係が認められ、繊維の混合度合いから測定対象の音響特性が推定できていることがわかる。特に、繊維配合及び狙い嵩密度が明確な繊維材料等については、本実施の形態に係る画像解析によって、流れ抵抗を推定することができる。
【0051】
また、予め任意の閾値(許容標準偏差の倍数範囲等)を設定し、粗視化した測定対象の画像(粗視画像Ic)を用いて、音響特性の許容性能範囲外の製品を容易に検出することが可能となる。
【0052】
図5に示されるように、同じ構成の試験片であっても、試料によって輝度のピークは異なっている。また、画像の撮影再現性が低い場合にも、輝度のピーク、輝度分布等のずれを生じる可能性がある。このような撮影再現性に起因する輝度のピーク、分布のずれは、撮影画像の解像度を適正化することによって低減することができ、試料ごとの輝度のピーク、分布等のずれを、より正確に測定することができる。より具体的には、撮影画像の空間分解能(μm/ピクセル)を多孔質材構成素材の固体部骨格径より小さくすることにより、撮影画像における画素ごとの輝度の再現性のばらつきを補正処理等で低減することができ、輝度ヒストグラムのピーク位置、輝度分布等の撮影再現性を向上させることができる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態に係る音響特性測定装置及び音響特性測定方法では、測定対象である繊維基材の画像を用いて、繊維基材を構成する複数の種類の繊維の混合度合い、すなわち測定対象の均一性を推定することにより音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行う。したがって、容易に繊維材料、繊維複合材料等の音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行うことが可能である。
【0054】
また、本実施の形態では、音響特性測定装置1は、元画像Ioをグレースケール化したグレースケール画像Igに基づいて音響特性を測定することとしているので、簡易な処理で分散度を演算し、音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行うことができる。
【0055】
また、本実施の形態に係る音響特性測定装置1は、グレースケール画像Igをブロックに分けて、ブロック内の画素の輝度を平均化することとしている。さらに、音響特性測定装置1は、ブロックごとの輝度の階調を減らして生成した粗視画像Icに基づいて分散度を演算することとしている。これにより、より簡易な処理で分散度を演算し、音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行うことができる。
【0056】
本実施の形態では、元画像Ioを直接グレースケール化してグレースケール画像Igを生成することとしたが、これに限られない。例えば、グレースケール画像生成部112は、元画像Ioについて階調補正を行った後に、グレースケール化を行うこととしてもよい。これにより、広い範囲の階調で繊維の混合度合いを評価することができるので、より精度の高い混合度合いの推定を行うことが可能となる。
【0057】
また、本実施の形態では、音響特性測定装置1は、撮像部30と接続されており、撮像部30で撮像された繊維基材の元画像Ioを取得することとしたが、これに限られない。例えば、予め撮像され、記憶部12に記憶されている元画像Ioを用いることとしてもよい。
【0058】
また、本実施の形態では、測定対象の繊維基材は、異なる2種類の繊維を含むこととしたが、これに限られず、3種類以上の繊維を含むこととしてもよい。この場合、グレースケール化した際の各繊維の輝度の差が明確になるように、それぞれの繊維は予め染色されていることが好ましい。
【0059】
また、本実施の形態に係る測定対象である音響材料は、繊維材料であることとしたが、これに限られない。例えば、測定対象の音響材料は、ポリウレタンフォーム、フェルト、グラスウール等の多孔質材料であることとしてもよい。この場合、ポリウレタン等の材料が存在する部分と孔(空隙)との輝度の差に基づいて、多孔質材料の均一性、すなわち孔(空隙)の分布度合いを推定し、音響特性の測定、測定対象の音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等を行うこととすればよい。
【0060】
また、上記実施の形態に係る音響特性測定方法は、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、上記実施の形態に係る音響特性測定を実行するためのコンピュータプログラムを、USBメモリ、DVD-ROM等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、コンピュータ装置を上記の音響特性測定を実行する音響特性測定装置として機能させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、不織布等の繊維基材、ポリウレタンフォーム等の多孔質材料の音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等に好適である。特に、色合いの異なる複数の繊維を含む繊維基材の音響特性の測定、音響特性が所定範囲内であるか否かの判定等に好適である。
【符号の説明】
【0062】
1 音響特性測定装置、11 制御部、111 画像データ取得部、112 グレースケール画像生成部、113 粗視化部、114 測定部、12 記憶部、13 表示部、14 入力部、30 撮像部