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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】凹凸構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/16 20060101AFI20240312BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
B29C59/16
G03F7/20 501
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020040738
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021142647
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100139941
【弁理士】
【氏名又は名称】川津 幸恵
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 厚
(72)【発明者】
【氏名】小林 吉彰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 彩有里
(72)【発明者】
【氏名】赤松 範久
(72)【発明者】
【氏名】須崎 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 重隆
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034709(JP,A)
【文献】特開2017-198823(JP,A)
【文献】特開2016-071342(JP,A)
【文献】特開2010-179593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00 - 59/18
G03F 7/20 - 7/24
G03F 9/00 - 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸構造体の製造方法であって、
基材上に、オキセタン化合物を含む光重合性組成物の塗膜を形成することと、
前記塗膜が形成された基材を45℃~65℃に加熱しながら、前記塗膜に所定のパターンで照射強度1.5mW/cm~30mW/cmの光を照射して、表面に凹凸を有する高分子膜を形成することと、を含み、
前記オキセタン化合物が、メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物、及び2官能性オキセタン化合物の少なくとも一方であり、
前記オキセタン化合物の前記光重合性組成物全量に対する配合量が30~100質量%であり、
前記所定のパターンは、前記光が前記塗膜に照射される明部と、前記光が前記塗膜に照射されない暗部とから構成され、前記暗部の幅が20μm~200μmである、凹凸構造体の製造方法。
【請求項2】
前記オキセタン化合物の前記光重合性組成物全量に対する配合量が30~99.99質量%である請求項1に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項3】
前記光重合性組成物が、更に界面活性剤を含む、請求項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項4】
前記界面活性剤がフッ素系界面活性剤である、請求項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項5】
前記オキセタン化合物が、前記単官能性オキセタン化合物であるか、又は前記単官能性オキセタン化合物及び前記2官能性オキセタン化合物との混合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項6】
前記単官能性オキセタン化合物と、前記2官能性オキセタン化合物とのモル比が、100:0~50:50である、請求項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項7】
前記塗膜が形成された基材を45℃~50℃に加熱しながら、前記塗膜に対して前記所定のパターンを照射する、請求項1~のいずれか一項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項8】
前記高分子膜の形成において、前記光を前記塗膜に対して動かすことなく照射する、請求項1~のいずれか一項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項9】
前記高分子膜表面の凹凸の凸部が、前記光が照射されない暗部に形成される、請求項1~のいずれか一項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【請求項10】
前記高分子膜表面の凹凸の凸部の高さが1μm~53μmである、請求項1~のいずれか一項に記載の凹凸構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性高分子(液晶ポリマー)を用いて、偏光フィルム等として利用可能な光学異方性高分子膜(光学異方性フィルム)を製造することが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、光の照射パターンを移動させながら重合を行う動的光重合によって、液晶性高分子鎖の配向を制御する技術が開示されている。動的光重合は、配向膜を用いる必要がないため、配向膜を必要とするラビング法及び光配向法に比べて、高分子鎖が一方向に配向した高分子膜を簡易且つ効率良く製造することができる。
【0003】
また、液晶ポリマーを用いて、マイクロニードル、マイクロレンズ等の微細な構造体(凹凸構造体)を製造することも提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2には、液晶ポリマーを用いて製造したマイクロニードルに、薬剤、化粧品等を塗布してヒトの皮膚の角質層を貫通させることで、薬剤や化粧品の経皮的吸収を促進させることが開示されている。特許文献2によれば、このようなマイクロニードルは、金型を用いて、液晶ポリマーを射出成形することで製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-198823号公報
【文献】特表2014-505671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に開示されているマイクロニードルのような微細な凹凸を成形するための金型は、その製造にコストと時間を要する。このため、凹凸構造体を効率良く製造することができなかった。また、微細な凹凸形状を設計変更する毎に金型も製造し直す必要があるため、凹凸構造体の形状の設計変更に直ちに対応することが難しかった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、効率的で、且つ凹凸構造体の形状の設計変更に容易に対応可能な凹凸構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従えば、凹凸構造体の製造方法であって、基材上に、オキセタン化合物を含む光重合性組成物の塗膜を形成することと、前記塗膜が形成された基材を45℃~65℃に加熱しながら、前記塗膜に所定のパターンで照射強度1.5mW/cm~30mW/cmの光を照射して、表面に凹凸を有する高分子膜を形成することと、を含み、前記オキセタン化合物が、メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物、及び2官能性オキセタン化合物の少なくとも一方であり、前記所定のパターンは、前記光が前記塗膜に照射される明部と、前記光が前記塗膜に照射されない暗部とから構成され、前記暗部の幅が20μm~200μm(20μm以上、且つ200μm以下)である、凹凸構造体の製造方法が提供される。
【0008】
前記オキセタン化合物が、前記単官能性オキセタン化合物であるか、又は前記単官能性オキセタン化合物及び前記2官能性オキセタン化合物との混合物であってもよい。前記単官能性オキセタン化合物と、前記2官能性オキセタン化合物とのモル比が、100:0~50:50であってもよい。
【0009】
前記塗膜が形成された基材を45℃~50℃に加熱しながら、前記塗膜に対して前記所定のパターンを照射してもよい。
【0010】
前記光重合性組成物が、更に界面活性剤を含んでもよく、前記界面活性剤がフッ素系界面活性剤であってもよい。また、前記高分子膜の形成において、前記光を前記塗膜に対して動かすことなく照射してもよい。
【0011】
前記高分子膜表面の凹凸の凸部が、前記光が照射されない暗部に形成されてもよい。また、前記高分子膜表面の凹凸の凸部の高さが1μm~53μmであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の凹凸構造体の製造方法は、金型が不要である。このため、コスト削減ができ、効率良く凹凸構造体を製造できる。また、凹凸構造体の形状の設計変更にも容易に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態の凹凸構造体の製造方法を説明するフローチャートである。
図2図2(a)~(c)は、孤立した暗部を有するパターン(照射パターン)の模式図である。図2(a)は暗部が四角形(正方形)のパターンの模式図であり、図2(b)は暗部が三角形(正三角形)のパターンの模式図であり、図2(c)は暗部が六角形(正六角形)のパターンの模式図である。
図3図3(a)及び(b)は、一方向に延在する暗部を有するパターン(照射パターン)の模式図である。図3(a)はラインパターンの模式図であり、図3(b)は格子パターンの模式図である。
図4図4(a)は、実施例8で製造した試料(凹凸構造体)の高分子膜表面の3D画像であり、図4(b)は、図4(a)に示す高分子膜表面のb4-b4線上の2次元断面形状(プロファイル)を示す図である。
図5図5(a)の部分13は、実施例13で製造した試料(凹凸構造体)の高分子膜表面の3D画像であり、図5(b)は、図5(a)に示す高分子膜表面のb5-b5線上の2次元断面形状(プロファイル)を示す図である。
図6図6(a)は、比較例1で製造した試料(凹凸構造体)の高分子膜表面の3D画像であり、図6(b)は、図6(a)に示す高分子膜表面のb6-b6線上の2次元断面形状(プロファイル)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すフローチャートに従い、本実施形態の凹凸構造体の製造方法について説明する。まず、オキセタン化合物を含む光重合性組成物を基材に塗布して塗膜を形成する(図1のステップS1)。
【0015】
本実施形態のオキセタン化合物は、メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物、及び2官能性オキセタン化合物の少なくとも一方である。本明細書において「単官能性オキセタン化合物」とは、分子中にオキセタン基を1つ有する化合物のことを意味し、「2官能性オキセタン化合物」とは、分子中にオキセタン基を2つ有する化合物のことを意味する。
【0016】
メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。本明細書において「メソゲン基」とは、液晶性を発現するための剛直性を有する官能基を意味し、一般的には、シクロヘキサン骨格やベンゼン骨格等の環構造を有する。したがって、メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物は液晶性を示す。メソゲン基の例としては、特に限定されないが、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アニリンベンジリデン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0017】
メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物は、オキセタン基とメソゲン基とがアルキレン鎖などのスペーサーを介して接続された構造を有することが好ましい。その中でも、メソゲン基を有する単官能性オキセタン化合物は、下記の一般式(1)によって表される化合物が好ましい。
【0018】
【化1】
【0019】
式中、Rは、水素、メチル基又はエチル基を表し、Lは、-(CH-(nは1~12の整数)を表し、Xは、単結合、-O-、-S-、-OCH-、-CHO-、-CO-、CHCH-、-CFCF-、-OCO-、COO-、-CH=CH-、CF=CF-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-又は-C≡C-を表し、Mは、式(2)から選択される基を表し、Lは、単結合、-O-、-S-、-OCH-、-CHO-、-CO-、CHCH-、-CFCF-、-OCO-、COO-、-CH=CH-、CF=CF-、-CH=CH-COO-、-OCO-CH=CH-又は-C≡C-を表し、Mは、式(3)から選択される基を表す。
【0020】
【化2】
【0021】
【化3】
【0022】
式(2)及び(3)において、Me、Et、nPr、iPr、nBu及びtBuは、それぞれメチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基及びターシャルブチル基を表す。上記のような構造を有する単官能性オキセタン化合物は、当該技術分野において公知の方法によって製造することができる。また、このような単官能性オキセタン化合物は市販されているため、市販品を用いてもよい。
【0023】
2官能性オキセタン化合物としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。2官能性オキセタン化合物は、単官能性オキセタン化合物と同様に、メソゲン基を有し、液晶性を示すことが好ましい。2官能性オキセタン化合物がメソゲン基を有すると、高分子膜表面に凹凸がより形成され易い。メソゲン基を有する2官能性オキセタン化合物は、オキセタン基とメソゲン基とがアルキレン鎖などのスペーサーを介して接続された構造を有することが好ましい。その中でも、メソゲン基を有する2官能性オキセタン化合物は、下記の一般式(4)によって表される化合物が好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
式中、R、L、L、X、M、Mは上記で定義した通りであり、Mは、式(5)から選択される基を表す。
【0026】
【化5】
【0027】
上記のような構造を有する2官能性オキセタン化合物は、当該技術分野において公知の方法によって製造することができる。また、このような2官能性オキセタン化合物は市販されているため、市販品を用いてもよい。
【0028】
オキセタン化合物は、単官能性オキセタン化合物であるか、又は単官能性オキセタン化合物及び2官能性オキセタン化合物との混合物であることが好ましい。また、単官能性オキセタン化合物と、2官能性オキセタン化合物とのモル比は、特に限定されないが、好ましくは100:0~40:60、95:5~50:50、又は90:10~60:40である。単官能性オキセタン化合物と、2官能性オキセタン化合物とのモル比が上記範囲内であると、高分子膜表面に凹凸がより形成され易い。
【0029】
光重合性組成物全量に対するオキセタン化合物の配合量は、特に限定されないが、例えば、30~100質量%、40~100質量%、又は60~100質量%であることが好ましい。オキセタン化合物の配合量が上記範囲内であると、高分子膜表面に凹凸がより形成され易い。
【0030】
光重合性組成物は、更に界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。その中でも、界面活性剤はフッ素系界面活性剤であることが好ましい。本明細書において「フッ素系界面活性剤」とは、アルキル鎖中の水素原子をフッ素原子で置換した界面活性剤であり、一般的にはパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤のことを意味する。フッ素系界面活性剤は市販されているため、DIC株式会社製のメガファックシリーズ(例えば、メガファックR-40、F-554、F-563)などの市販品をフッ素系界面活性剤として用いることができる。
【0031】
光重合性組成物全量に対する界面活性剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、1 00~20000質量ppm、200~15000質量ppm、又は500~5000質量ppmであることが好ましい。界面活性剤の配合量が上記範囲の下限値未満であると、界 面活性剤による効果が十分に得られないことがある。一方、界面活性剤の配合量が上記範 囲の上限値を超えると、高分子膜表面に凹凸が形成され難くなる虞がある。
【0032】
光重合性組成物は、光重合を効率良く進行させる観点から、光重合開始剤を含むことができる。光重合開始剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。光重合開始剤の例としては、サンアプロ株式会社製のCPI-210S、CPI-100P、CPI-101A、CPI-200K;ダウ・ケミカル日本株式会社製のサイラキュア光硬化開始剤UVI-6990、サイラキュア光硬化開始剤UVI-6992、サイラキュア光硬化開始剤UVI-6976;株式会社ADEKA製のアデカオプトマーSP-150、アデカオプトマーSP-152、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーSP-172、アデカオプトマーSP-300;三新化学工業株式会社製のサンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L、サンエイドSI-110L、サンエイドSI-180L、サンエイドSI-110、サンエイドSI-180;アイジーエムレジン社製のエサキュア1064、エサキュア1187(以上、ランベルティ社製)、オムニキャット550;チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製のイルガキュア250などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールスルホニウム塩タイプの光酸発生剤(光カチオン重合開始剤)であるCPI-210S 、CPI-100P及びCPI-101Aが好ましい。
【0033】
光重合性組成物全量に対する光重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、例えば、1~10質量%、2~9質量%、又は3~8質量%であることが好ましい。光重合開始剤の配合量が上記範囲の下限値未満であると、光重合開始剤による効果が十分に得られないことがある。一方、光重合開始剤の配合量が上記範囲の上限値を超えると、高分子膜表面に凹凸が形成され難くなる虞がある。
【0034】
光重合性組成物は、上記の成分の他に、本発明の効果を適切に奏する範囲において、溶媒、粘度調整剤、可塑剤、重合禁止剤などの当該技術分野において公知の成分を含むことができる。上記の成分を含む光重合性組成物は、当該技術分野において周知の方法に準じて調製することができる。具体的には、上記の成分を混合することによって光重合性組成物を調製すればよい。
【0035】
基材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。基材の例としては、ガラス基材、プラスチック基材などを用いることができる。
【0036】
基材への光重合性組成物の塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。塗布方法の例としては、スクリーン印刷、ロールコーター又はカーテンコーターによる塗布、スプレー塗布、スピンコーティングなどを用いることができる。基材に形成する塗膜の厚さとしては、特に限定されず、目的の設計に応じて適宜設定すればよい。塗膜の一般的な厚さは、0.1μm~200μmであってよい。塗膜の形成後、必要に応じて、塗膜を加熱して乾燥させてもよい。乾燥条件は、特に限定されず、使用する光重合性組成物の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0037】
次に、基材上に形成した塗膜に、所定のパターンで、光を塗膜に照射する(図1のステップS2)。これにより、塗膜中のオキセタン化合物が光重合して塗膜が硬化し、表面に凹凸を有する高分子膜が基材上に形成される。
【0038】
所定のパターン(照射パターン)で、光を塗膜に対して動かすことなく照射してもよい。本願明細書において、所定のパターン(照射パターン)で、光を塗膜に対して動かすことなく照射して、塗膜中の化合物を光重合させることを「静的光重合」と定義する。照射パターンは、光が塗膜に照射される明部と、光が塗膜に照射されない暗部とから構成される。静的光重合では、光の照射中、塗膜上において明部及び暗部の位置及び大きさは変化しない。照射パターンの種類は特に限定されないが、例えば、複数の孤立した暗部を有するパターンであってもよい。暗部の形状は特に限定されず、円形、多角形、ランダム形状であってもよい。孤立した暗部を有するパターンの例として、図2(a)に、暗部11が四角形(正方形)のパターンを、図2(b)に暗部11が三角形(正三角形)のパターンを、図2(c)に暗部11が六角形(正六角形)のパターンを示す。図2(a)~(c)に示すパターンにおいて、暗部11以外の部分が、明部10である。照射パターンにおいて、明部10及び暗部11の配置は特に制限されず、規則的に配置されてもよいし、不規則に配置されてもよい。図2(a)~(c)に示すパターンでは、明部10及び暗部11は規則的に配置されている。明部10及び暗部11は、一方向(Y方向)に沿って交互に配置され、且つ、一方向に垂直な方向(X方向)に沿って交互に配置される。図2(a)に示すパターンは、所謂、市松模様である。
【0039】
また、照射パターンは、例えば、一方向に延在する暗部を複数有するパターンであってもよい。例えば、照射パターンは、図3(a)に示すように、一方向(Y方向)に延びる暗部11を複数有するラインパターンであってもよいし、図3(b)に示すように、一方向(Y方向)に延びる暗部11aと、一方向と交差する方向(X方向)に延びる暗部11bとを有する格子パターンであってもよい。図3(a)及び(b)に示すパターンでは、明部10及び暗部11は規則的に配置されている。
【0040】
照射パターンにおいて、暗部の幅は20~200μmであり、より好ましくは、25~100μm、又は30~50μmである。暗部の幅が上記範囲の下限値未満であっても、上限値を超える場合であっても、高分子膜表面に凹凸が形成され難くなる。ここで、「暗部の幅」とは、孤立した暗部の場合は、最も大きな幅(最大幅)を意味し、また、一方向に延在する暗部の場合は、延在方向に垂直な方向における幅の最大値(最大幅)を意味する。例えば、図2(a)に示す、正方形の暗部11を有するパターンの場合、正方形の一辺の長さ(X方向における幅dx及びY方向におけるdy)が暗部11の幅であり、図2(b)に示す、正三角形の暗部11を有するパターンの場合、正三角形の一辺の長さ(X方向における幅dx)が暗部11の幅であり、図2(c)に示す、正六角形の暗部11を有するパターンの場合、正六角形の一辺の2倍の長さ(X方向における幅dx)が暗部11の幅である。また、例えば、図3(a)に示すラインパターンの場合、暗部11の延在方向(Y方向)に垂直な方向(X方向)における幅dxが暗部11の幅であり、図3(b)に示す格子パターンの場合、暗部11aの幅dx及び暗部11bの幅dyのうち、大きい方が暗部11の幅である。
【0041】
光照射は、例えば、照射パターンに対応したマスクを介して光を塗膜に照射してもよいし、プロジェクタを用いて照射パターンを塗膜に投影してもよい。プロジェクタを用いる光照射は、マスクが不要となり、また、照射パターンの設計変更が容易となるため好ましい。光照射に用いる光源としては、特に限定されず、光重合に利用可能な公知の光源を用いることができる。光源の例としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプ、LEDランプなどが挙げられる。照射する光の波長は、光重合性組成物に含まれるオキセタン化合物の種類に基づいて適宜選択できるが、紫外域の光が好ましく、例えば、250~380nm、300~380nmであってよい。
【0042】
光の照射強度は、1.5~30mW/cmであり、より好ましくは、1.5~20mW/cm、又は1.5~10mW/cmである。照射強度が上記範囲の下限値未満であると、高分子膜表面に凹凸が形成され難くなる。また、照射強度が上記範囲の上限値を超えると、光重合性組成物が硬化し易くなり、凹凸構造が形成され難くなる。
【0043】
光照射は、加熱条件下で行う。即ち、本実施形態では、塗膜が形成された基材を加熱しながら、塗膜に対して所定のパターンで光を照射する。加熱温度は、45~65℃であり、好ましくは、45~60℃、又は45~50℃である。加熱温度が上記範囲の下限値未満、又は上記範囲の上限値を超えると、高分子膜表面に凹凸が形成され難くなる。
【0044】
光の照射時間、即ち、塗膜に光を照射している時間は、特に限定されず、塗膜の種類(光重合性組成物の組成)、厚み等に基づいて適宜設計できる。光の照射時間は、例えば、5~20分、又は5~15分としてよい。
【0045】
塗膜に所定のパターンで光を照射した後、塗膜を十分に硬化させるために、塗膜の全面に対して光照射を行ってもよい。このときの光照射条件は、塗膜が硬化するような条件であればよく特に限定されない。例えば、上述した所定のパターンでの光照射と同じ条件で光照射を行なえばよい。
【0046】
本発明者らは、特定のオキセタン化合物を含む光重合性組成物から形成される塗膜に対して、特定の条件で所定パターンの光照射を行うことで、塗膜が硬化した高分子膜表面に凹凸を形成できることを見出した。凹凸の凸部は、光が照射されない暗部に形成される。このメカニズムは不明であるが、塗膜への光照射時の温度を上述の特定範囲内とすることが、凹凸形成において重要だと推察される。特定の範囲の温度でオキセタン化合物の光重合を行うことにより、光重合時における、重合に伴う塗膜の粘度変化、オキセタン化合物の配向形態等が凹凸形成に何らかの影響を与えると推測される。尚、このメカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲を何ら制限するものではない。
【0047】
高分子膜表面の凹凸の凸部の高さは、特に制限されないが、例えば、1~53μm、2~20μm、又は3~10μmである。高分子膜表面の凹凸の凸部の幅は、特に制限されないが、例えば、5~200μm、10~100μm、又は20~50μmである。凸部の高さ及び/又は幅が上記範囲内である微細な凹凸が形成された凹凸構造体は、例えば、マイクロニードル、マイクロレンズとして、医療機器(器具)、美容機器(器具)、精密機器(器具)として、またはそれらの部品(一部)として利用できる。
【0048】
以上説明した本実施形態の凹凸構造体の製造方法は、塗膜に対して特定の条件で所定のパターンの光を照射することにより、表面に凹凸を有する高分子膜を形成できる。例えば、射出成形等により凹凸構造体を成形する場合は金型が必要であるが、本実施形態の製造方法では金型は不要である。金型が不要であるためコスト削減ができ、また凹凸パターンの設計変更に容易に対応できる。また、本実施形態では、所定のパターン(照射パターン)で、光を塗膜に対して動かすことなく照射して、静的光重合を行ってもよい。静的光重合は、光の照射パターンを移動させながら重合を行う動的光重合と比較して、より微細な光のパターンを塗膜に照射できる。したがって、静的光重合を用いることでより微細な光のパターンを塗膜に照射でき、この結果、より微細な凹凸を高分子膜表面に形成できる。
【実施例
【0049】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
まず、オキセタン化合物と、界面活性剤と、光カチオン重合開始剤と、溶媒とを混合することによって光重合性組成物を調製した。オキセタン化合物としては、下記式(6)で表される単官能性オキセタン化合物(OXT-1)及び下記(7)で表される2官能性オキセタン化合物(OXT-2)をモル比、(OXT-1):(OXT-2)=80:20の比率で混合した混合物を用いた。界面活性剤としてはフッ素系界面活性剤(DIC株式会社製、メガファックR-40)を用いた。光カチオン重合開始剤としては光カチオン重合開始剤(サンアプロ株式会社製、CPI-210S)を用いた。溶媒としてはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いた。光重合性組成物全量に対する各組成物の配合量を以下に記載する。オキセタン化合物の配合量:40質量%、界面活性剤:1000質量ppm、光カチオン重合開始剤:5質量%、溶媒:残部。
【0051】
式(6)で表される単官能性オキセタン化合物は、特許文献1に開示されている合成方法により合成した。
【化6】
【0052】
式(7)で表される2官能性オキセタン化合物は、特許文献1に開示されている合成方法により合成した。
【化7】
【0053】
次に、光重合性組成物をスピンコーティング(400rpmで5秒、その後、800rpmで30秒)によってガラス基板(10cm×10cm)に塗布し、120℃で2分間乾燥させることで膜厚2.0μmの塗膜を形成した。
【0054】
プロジェクタ(DLP)(アスカカンパニー社製、MiLSS MLS-OLBX-LC45365)からの照射光を光学レンズで集光させる機構を用いて、ガラス基板上に形成した塗膜に、図2(a)に示す市松模様(dx=dy=34.5μm)のパターン(照射パターン)で光を照射して静的光重合を行った。即ち、照射パターンの暗部の幅は、34.5μmであった。静的光重合の条件を以下に記す。光の波長:372nm、光の照射強度:1.5mW/cm、照射時間(露光時間):10分、照射中の基材及び塗膜の温度:50℃。
【0055】
静的光重合の後、UV-LEDを用いて基材上の塗膜全体にUV光を照射して後重合を行った。後重合の条件を以下に記す。光の波長:365nm、光の照射強度:10mW/cm、照射時間(露光時間):10分、照射中の基材及び塗膜の温度:50℃。静的光重合及び後重合により、基材上の塗膜が光重合(硬化)して高分子膜となった。以上説明した製造方法により、本実施例の試料(凹凸構造体)を得た。
【0056】
[実施例2~11]
表1に示すように、光重合性組成物の組成(開始剤の配合量、オキセタン化合物のモル比)、市松模様パターンのサイズ及び静的光重合の条件(光の照射強度、温度、照射時間)を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0057】
[実施例12]
照射パターンとして、図2(c)に示す正六角形のパターン(dx=34.5μm、dy=29.9μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0058】
[実施例13]
照射パターンとして、図3(a)に示すラインパターン(dx=69μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0059】
[比較例1]
静的光重合の条件において、光の照射強度を0.9mW/cmとした以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0060】
[比較例2]
照射パターンとして、図3(a)に示すラインパターン(dx=17.3μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。即ち、本比較例では、照射パターンの暗部の幅は、17.3μmであった。
【0061】
[比較例3]
静的光重合の条件において、照射中の基材及び塗膜の温度を40℃とした以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0062】
[比較例4]
静的光重合の条件において、照射中の基材及び塗膜の温度を70℃とした以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0063】
[比較例5]
オキセタン化合物を含む光重合性組成物に代えて、以下に示す組成のアクリル系化合物を含む光重合性組成物を用いた。また、表1に示すように、市松模様パターンのサイズ及び静的光重合の条件(光の照射強度、温度、照射時間)を変更した。それ以外は、実施例1と同様の方法により試料を作製した。
【0064】
<アクリル化合物を含む光重合性組成物の組成>
4-(6-アクリロイルオキシヘキシロキシ)-4’-シアノビフェニル(A6CB):39.1質量部
1,6-ビス-(メタクリロイルオキシ)ヘキサン:0.9質量部
光重合開始剤(IGM Resins製、イノガキュア651):0.3質量部
溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):残部
【0065】
[評価方法]
実施例1~13及び比較例1~5で作製した試料の高分子膜表面の凹凸の有無を以下の方法により評価した。まず、試料の高分子膜の表面をレーザー顕微鏡(OLYMPUS社製、LEXT OLS5000)を用いて観察し、立体画像(3D画像)及び高分子膜表面の2次元断面形状プロファイルを得た。得られた2次元断面形状プロファイルから、高分子膜表面の凹凸の凸部の幅及び高さを測定した。評価では、凸部の高さが1μm以上であるとき、高分子膜表面に凹凸が形成されていると判断した。
【0066】
各試料の凸部の高さ及び幅の測定結果を表1に示す。また、実施例8、13及び比較例1の試料について、高分子膜表面の3D画像を図4(a)、図5(a)の部分13及び図6(a)にそれぞれ示し、高分子膜表面の2次元断面形状(プロファイル)を図4(b)、図5(b)及び図6(b)にそれぞれ示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1~13で製造した試料(凹凸構造体)では、高分子膜の表面に高さ1μm以上の凸部を有する微細な凹凸が形成されていた。図4(a)及び(b)に示すように、照射パターンとして市松模様用いた実施例8の試料の高分子膜の表面には、照射パターンの暗部に対応する位置に複数の孤立した凸部が認められた。また、図5(a)及び(b)に示すように、照射パターンとしてラインパターンを用いた実施例13の試料の高分子膜の表面には、照射パターンの暗部に対応する、一方向に延在する複数の凸部が認められた。これらの結果から、凸部は光が照射されない暗部に形成されることが確認できた。
【0069】
一方、静的光重合の光の照射強度が0.9mW/cmと低かった比較例1では、試料の高分子膜の表面に凹凸は認められず、凸部の高さは測定できなかった(図5(a)及び(b)参照)。照射パターンの暗部の幅が17.3μmと小さかった比較例2においても、試料の高分子膜の表面に凹凸は認められず、凸部の高さは測定できなかった。また、静的光重合中の温度が40℃と低かった比較例3、70℃と高かった比較例4では、試料の高分子膜の表面の凸部の高さは共に1μm以下であり、高分子膜表面に凹凸は無いと判断された。更に、オキセタン化合物に代えて、アクリル系化合物を含む光重合性組成物を用いた比較例4では、試料の高分子膜の表面に凹凸は認められず、凸部の高さは測定できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の凹凸構造体の製造方法は、金型が不要であるためコスト削減ができ、また凹凸構造体の形状の設計変更にも容易に対応できる。本発明の製造方法によって製造される凹凸構造体は、例えば、マイクロニードル、マイクロレンズとして、医療機器(器具)、美容機器(器具)、精密機器(器具)として、又はそれらの部品(一部)として利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6