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特許7453496動物用治療器、光治療器、および人間以外の動物の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】動物用治療器、光治療器、および人間以外の動物の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61D 1/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
A61D1/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020553993
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042636
(87)【国際公開番号】W WO2020090919
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018206015
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019139154
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】川原井 晋平
(72)【発明者】
【氏名】塚本 篤士
(72)【発明者】
【氏名】久保田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】藤川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 智大
(72)【発明者】
【氏名】山岸 真貴子
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0361125(US,A1)
【文献】特開2018-086108(JP,A)
【文献】特開2017-047219(JP,A)
【文献】実開昭52-089875(JP,U)
【文献】国際公開第2007/066657(WO,A1)
【文献】特表2008-539808(JP,A)
【文献】特表2010-516334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 1/00
A61N 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を、人間以外の動物の患部に1回または複数回照射するステップを含み、
前記ステップは、
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を予め定めた照射量、人間以外の動物の皮膚に照射する第1ステップと、
前記皮膚に照射してから1日以上経過した後に、前記光を前記第1ステップの照射量よりも大きい他の照射量、または前記光のピーク波長を短波長化して前記皮膚に照射する第2ステップと、
を含む人間以外の動物の治療方法。
【請求項2】
前記予め定めた照射量は、300mJ/cm2以下であり、
前記他の照射量は、300mJ/cm2よりも大きく、かつ前記皮膚においてサンバーンが起こらない大きさである請求項記載の人間以外の動物の治療方法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいては、ピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある光を前記皮膚に照射し、
前記第2ステップにおいては、ピーク波長が315nm乃至325nmの範囲にある光を前記皮膚に照射する
請求項または記載の人間以外の動物の治療方法。
【請求項4】
前記ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光における波長315nm未満の光の相対照度が30%以下である、請求項1乃至のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法。
【請求項5】
前記ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光における波長315nm未満の光の相対照度が5%以下である、請求項1乃至3のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項6】
治療される疾患がMrgprX2遺伝子により媒介される疾患である、請求項1乃至5のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法。
【請求項7】
治療される疾患がアレルギー性皮膚炎、皮膚型リンパ腫、白斑、創傷、脱毛症、感染症、皮膚膿瘍および膿皮症からなる群より選択される、請求項1乃至6のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法。
【請求項8】
前記ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、パルス光である、請求項1乃至7のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項9】
前記パルス光は、パルス幅が100ms以下である、請求項8記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項10】
前記パルス光は、デューティー比が50%以下である、請求項8または9記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項11】
前記ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、発光ダイオードまたはレーザダイオードを光源とする光である、請求項1乃至10のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項12】
前記第2ステップの後に、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光を前記皮膚に照射する第3ステップを有する、請求項1乃至11のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法
【請求項13】
前記皮膚が0.2mm以下の厚さの表皮を有する皮膚である、請求項1乃至12のいずれか1項記載の人間以外の動物の治療方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患治療などに用いられる動物用治療器、光治療器、および人間以外の動物の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、患部にUV-B光線の波長範囲にスペクトルを有する治療用光を照射する光線治療器であって、治療用光のスペクトルは、少なくとも303nm以下の波長領域において連続的であり、かつ、その下限値が297nm以上の波長範囲にあるものであることが開示されている。この光線治療器においては、300~315nmの波長範囲に発光ピークを有すると共に、当該発光ピークから少なくとも295nmまでの波長領域において連続的であるスペクトルを有する光源光を放射する光源と、この光源からの光源光が入射されて治療用光を放射する光放出窓とが備えられ、光放出窓から放射される治療用光が、その下限値が297~303nmの波長範囲にあるスペクトルを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-267936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人の表皮は平均0.2mmの厚さで8~14層の細胞からなるが、イヌやネコは、多くの種が0.2mm以下の厚さで2~3層の核を持つ細胞からなる(参考文献、新しい皮膚科学, 清水宏著, 中山書店、Muller and Kirk's Small Animal Dermatology, Miller, Griffin, and Campbell, 7th eds. Elserver、Theerawatanasirikul S., et al., J.Vet.Sci, 13(2), 2012.)。このような違いにより、人間の治療用の光を動物の治療に照射すると、紅斑などの副反応が起きることが懸念される。
そこで、本発明は、人間の治療用の光を照射する場合と比較して、副反応を抑制した動物用治療器などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明の動物用治療器は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にあり動物に照射される光を出力可能な光源と、前記光源を支持する支持体とを備える。
また、本発明の光治療器は、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある第1光およびピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある第2光を患部に向けて出力可能な発光部と、前記発光部が前記患部に向けて出力する光を、前記第1光と前記第2光とで切り替える制御を行う制御部とを備える。
また、本発明の人間以外の動物の治療方法は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を、人間以外の動物の患部に1回または複数回照射するステップを含む。
また、本発明の人間以外の動物の治療方法は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を予め定めた照射量、人間以外の動物の皮膚に照射する第1ステップと、前記皮膚に照射してから1日以上経過した後に、前記光を前記第1ステップの照射量よりも大きい他の照射量、または前記光のピーク波長を短波長化して前記皮膚に照射する第2ステップとを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、人間の治療用の光を照射する場合と比較して、副反応を抑制した動物用治療器などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】動物用光線治療器の実施形態1の概略構成図である。
図2】動物用光線治療器の実施形態1のブロック図である。
図3】LEDの発光スペクトルを示す図である。
図4】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態1の変形例1および2を説明するための図である。
図5】(a)乃至(c)は、動物用光線治療器の実施形態1の変形例3を説明するための図である。
図6】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態2の概略構成図である。
図7】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態2の変形例を説明するための図である。
図8】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態3の概略構成図である。
図9】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態4の概略構成図である。
図10】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態4の変形例を説明するための図である。
図11】(a)および(b)は動物用光線治療器の実施形態4の変形例を説明するための図である。
図12】動物用光線治療器の実施形態5の概略構成図である。
図13】動物用光線治療器の実施形態6の概略構成図である。
図14】治療プロトコルを示すフローチャートである。
図15】最小紅斑量試験の試験結果を示すテーブルである。
図16】(a)および(b)はアレルギー反応抑制試験の試験結果を示すグラフである。
図17】アレルギー反応抑制試験の試験結果を示すテーブルである。
図18】(a)は、ピーク波長が305nm乃至335nmの範囲にある光のアレルギー性皮膚炎に対する治療効果を説明する図であり、(b)はアレルギー性皮膚炎の治療における患部の変化を説明する図である。
図19】(a)は皮膚リンパ腫の治療における照射条件を説明する図であり、(b)は皮膚リンパ腫の治療における患部の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、後述のとおり、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光が人間以外の動物(特にイヌ)における疾患の治療に有効であるという新たな知見に基づく。315nm乃至335nmという波長範囲は、(特に人間において)有効であるとされる波長範囲(310nm乃至315nm)より、DNA(デオキシリボ核酸)を損傷し易いとされる波長(260nm)から更に長波長側にある。よって、本発明によれば、動物の治療を当該動物および該治療を行う獣医師の双方にとって安全に行うことができる。
【0009】
<動物用治療器>
本発明の動物用治療器は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を出力可能な発光部を少なくとも1つ備えることを特徴とする。
【0010】
(発光部)
発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある1種または2種以上の光を出力可能である。
発光部は、315nm乃至335nmの範囲の光を出力可能な光源を少なくとも1つ備える。光源は、支持体により支持されていてもよい。
光源は、315nm乃至335nmの範囲の光を出力可能であれば特に限定されない。光源として、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、ハロゲンランプや水銀ランプなどを挙げることができるが、LEDまたはLDが特に好ましい。LEDまたはLDを用いる場合、治療に際して意図していない波長または波長域の光の照射を回避することが容易となる。また、LEDまたはLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率および経済性の観点からも好ましい。加えて、照度または照射量の制御または管理が容易になる。
発光部は、2以上の光源、例えば、光源のアレイ、マトリクス若しくはクラスタを備えていてもよい。発光部はまた、2種または3種の光源から構成される光源モジュールを1または複数備えるものであってもよい。発光部を構成する複数の光源または光源モジュールは、独立して点灯および消灯を制御されてもよい。複数の光源または光源モジュールの点灯および消灯を各々独立して制御することにより、非照射部(患部以外の正常部位)への不必要な照射を低減させることができる。
【0011】
発光部は、光源が、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を出力可能であることにより、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を出力可能な構成とされていてもよい。よって、或る実施形態において、発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を出力可能な光源を備えていてもよい。
或いは、発光部は、光源が出力する光から、315nm未満の波長の光および335nmを超える波長の光の透過を抑制する抑制部材を用いて抽出された光を、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光として出力してもよい。よって、別の実施形態において、発光部は、315nm乃至335nmの範囲の光を出力可能な光源と、315nm未満の波長の光および/または335nmを超える波長の光の透過を抑制する抑制部材とを備えていてもよい。この場合、抑制部材は、光源から出力される光の経路上に設けられる。抑制部材の具体例は、光学フィルタ(例えばカットフィルタ)である。
【0012】
発光部は、その出力光における波長315nm未満の光の相対発光強度が、例えば50%以下、好ましくは40%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
光源の出力光における波長315nm未満の光の相対発光強度が所望の割合(例えば、前述の値)より高い場合、発光部は、光源からの光の経路上に、波長315nm未満の光の透過を抑制する抑制部材を有していてもよい。波長315nm未満の光の相対発光強度を低下させるための抑制部材は、光源が出力する光からピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を抽出するための抑制部材を兼ねていてもよい。
【0013】
発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある2種以上の光を出力可能であり、該2種以上の光から選択された1種の光を出力する構成であってもよい。選択された光に切り替える切替手段は、発光部内に設けられていてもよいし、発光部外(例えば、後述する制御部内)に設けられていてもよい。
【0014】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある2種以上の光は、波長域315nm乃至335nm内の複数の連続区間のそれぞれにピーク波長がある光である。ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある1種または2種以上の光は、例えば、ピーク波長が315nm乃至325nmの範囲にある光であってもよいし、ピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある光であってもよく、ピーク波長が315nm乃至325nmの範囲にある光およびピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある光であってもよい。
例えば、ピーク波長が315nm乃至325nmの範囲にある光は、ピーク波長が320nm付近(例えば、320nm±3nm内または320nm±1nm内)にある光であり得、ピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある光は、ピーク波長が330nm付近(例えば、330nm±3nm内または330nm±1nm内)にある光であり得る。
【0015】
発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある1種または2種以上の光に加えて、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光を出射可能であり、前記の光から選択された1種の光を出力する構成であってもよい。例えば、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光は、ピーク波長が310nm付近(例えば、310nm±3nm内または310nm±1nm内)にある光であり得る。選択された光に切り替える切替手段は、発光部内に設けられていてもよいし、発光部外(例えば、制御部内)に設けられていてもよい。
発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある1種または2種以上の光と、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光とを同時に出力可能であってもよい。
発光部は、2種以上の光を出力可能な場合、出力可能な光ごとに対応する光源を備えていてもよいし、光源と抑制材料との組合せによって2種以上の光を出力可能な構成とされていてもよい。後者の場合、発光部は、出力可能な光の種類より少ない数の種類の光源と、少なくとも1つの抑制材料とを備える。
【0016】
本発明の動物用治療器は、2以上の発光部を備えていてもよい。この場合、複数の発光部は、独立して点灯および消灯を制御されてもよい。複数の発光部の点灯および消灯を独立して制御することにより、非照射部(患部以外の正常部位)への不必要な照射を低減させることができる。
発光部は、レンズ、反射鏡、マスク、導光体および/または拡散板などの任意の光学部品と組み合わせられてもよい。
発光部は、動物に直接接触し得る場合、発光面上に透明な保護部材が設けられてもよい。
【0017】
(駆動部)
本発明の動物用治療器は、発光部を駆動する駆動部を更に備えていてもよい。
駆動部は、発光部を駆動する駆動回路を含んで構成され得る。駆動部は、発光部と電気的に接続されており、発光部に電力を直接または間接に供給する。
駆動部は、所与の発光条件で発光部を発光させ得る。発光部が複数の光源を含んでなる場合、駆動部は、発光すべき光源のみを所与の発光条件で発光させ得る。
発光条件には、発光部から出力される光の波長、照度、点灯時間、点灯態様(連続または間欠)、パルス幅、デューティ比などが挙げられる。
駆動部への発光条件の入力は、例えば、後述する制御部から直接受信する制御信号によるか、または発光条件が予め記憶された記憶手段(例えばメモリ)からの制御信号により得る。よって、或る実施形態において、駆動部は記憶手段を備える。
【0018】
駆動部への電力の供給は、制御部から行われてもよいし、バッテリから行なわれてもよい。バッテリは充放電可能であってもよく、この場合、バッテリへの充電は制御部から供給される電力により行われてもよい。よって、本発明の動物用治療器の或る実施形態は、発光部を駆動する駆動部と、該駆動部に電力を供給するためのバッテリ(好ましくは、充放電可能なバッテリ)を収容し得るバッテリ収容部を更に備えていてもよい。バッテリ収容部に適切に収容されたバッテリは、駆動部に電力を供給し得る。駆動部への電力の供給は、後述する制御部を介して行なわれてもよい。
駆動部は、一般には、発光部と近接してまたは発光部の近傍に配置されるが、発光部から遠隔に配置することもできる。後者の場合、発光部の配置に関する自由度が増すため、本発明の治療器を種々の形態で構成することが可能となる。例えば、駆動部は、発光部と共に同一の筐体内に配置されていてもよいし、発光部を含まない筐体内に配置されていてもよい。
駆動部は、発光部の点灯および消灯を切り替えるためにユーザにより操作される切替スイッチを含んでいてもよい。
【0019】
(制御部)
本発明の動物用治療器は、駆動部を制御する制御部を更に備えていてもよい。
制御部は、制御回路を含んで構成され得る。制御回路は、発光部の照射条件に従う制御信号を生成し、駆動部に出力する。制御回路は、パルス幅変調回路および/またはタイマを含んでいてもよい。制御部はまた、照射条件を記憶する記憶手段(例えばメモリ)を備えていてもよい。
制御部は、駆動部と電気的に接続され得る。より詳細には、制御部は、駆動部と、常時、電気的に接続されていてもよいし、必要に応じて、例えば一対のアダプタを介して、電気的に接続されてもよい。
制御部は、発光部の発光条件に関する制御信号を駆動部に送信し得る。制御部はまた、電力を駆動部または(該当する場合)充放電可能なバッテリに供給し得る。
【0020】
制御部は、発光部の発光条件に関する入力を受け付けるためのインターフェースを備えていてもよい。インターフェースは、ユーザによる入力を受け付けるユーザインターフェース(UI)であってもよく、通信インターフェースであってもよい。インターフェースを介して入力される発光条件は、記憶装置に記憶されてもよい。
UIは、例えば、液晶タッチパネルの形態であってもよいし、各種スイッチ(例えば、ロータリスイッチおよび/または押ボタンスイッチ)の形態であってもよい。インターフェースは制御回路に近接している必要はなく、制御回路から遠隔して配置されていてもよい。特に、UIは、本発明の治療器において、ユーザが最もアクセスし易い位置に設けることが好ましい。
通信インターフェースは、例えば、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)または近距離通信インターフェースなどの無線インターフェースであり得る。
【0021】
発光部が複数の光源を含んでなる場合または本発明の治療器が複数の発光部(例えば、発光部のアレイ、マトリクスまたはクラスタ)を備える場合、制御部は、発光すべき光源または発光部を指定してもよい。
制御部は、例えば、駆動部と共に同一の筐体内に配置されていてもよいし、発光部も駆動部も含まない筐体内に配置されていてもよい。後者の場合、発光部または発光部および駆動部の配置に関する自由度が増すため、本発明の治療器を種々の形態で構成することが可能となる。よって、本発明の治療器は、例えば、動物用のグルーミング器具(例えば、櫛、ブラシ、手袋など)、医療・衛生器具(例えば、歯ブラシ、マウスピース)、玩具、被服などの形態で提供され得る。
制御部は、必要に応じて電源またはバッテリ保持部を更に備えていてもよい。電源は、例えば、AC/DCアダプタ、バッテリ(好ましくは、充放電可能なバッテリ)であり得る。
制御部は、発光部が、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある1種または2種以上の光と、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光とを同時に出力可能である場合、出力される混合光において、波長315nm未満の光の相対発光強度が例えば50%以下となるようにそれぞれの光の発光強度を制御してもよい。
【0022】
(その他の構成)
本発明の動物用治療器は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光の照射領域と略同一の領域を照射可能に設けられた可視光光源を備えていてもよい。この場合、ユーザは、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光(不可視光)の照射領域を容易に視認できるため、不必要な領域へのUV照射の回避が容易となる。可視光光源としては、当該分野において公知のもの(例えば、青色光光源、緑色光光源、赤色光光源または白色光光源)を使用できる。可視光光源は、発光部に配置されていてもよいし、発光部とは別に設けられていてもよい。可視光は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光と同時に出力可能であってもよいし、別々に出力可能であってもよい。同時出力可能な場合、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光が出力中であることを容易に認識できるため、安全性が高まる。
本発明の動物用治療器は、動物を保持する保持機構または動物を拘束する拘束機構を備えていてもよい。保持機構または拘束機構は、動物の自由な移動を制限し、動物を所定の領域内に留まらせ得るものであれば特に制限されない。保持または拘束に際して、動物に恐怖や苦痛を与えないものが望ましい。保持機構または拘束機構は、例えば、ベルト、ハーネス若しくはハンモックタイプのものまたは囲い(ゲージ)であり得る。
本発明の動物用治療器は、少なくとも一部が動物に直接接触し、または動物に接触した手で接触するので、使用毎に、当該接触部分を例えば次亜塩素酸ナトリウムまたは消毒用エタノールで消毒することが好ましい。よって、衛生上の観点から、本発明の動物用治療器のうち、少なくとも動物に接触し得る部分は耐薬品性の材料で形成され得る。
【0023】
具体的実施形態の説明
以下、必要に応じて添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(実施形態1)
動物用光線治療器1の構成
図1は、動物用光線治療器1の概略構成図である。
図2は、動物用光線治療器1のブロック図である。
まず、図1および図2を参照しながら、動物用光線治療器1の概略構成について説明する。
本実施の形態が適用される動物用光線治療器1は、治療器本体10と、コントローラ30と、ケーブル50とを有する。以下、治療器本体10、コントローラ30、およびケーブル50の各々について説明をする。
【0024】
治療器本体10は、予め定められた範囲の波長を有する光を出力する。本実施の形態においては、治療器本体10からの光を動物(患畜)に照射することにより、動物の治療が行われる。図示の治療器本体10は、筺体11と、ハンドル13と、照射窓15と、切替スイッチ17と、押当面19とを有する。
【0025】
筺体11は、光源であるLight Emitting Diode21(LED21、後述)などの機能構成部材を内部に収容する。この筺体11は、LED21からの光が通過する開口14を有する。
ハンドル13は、筺体11の一部であり、獣医師などのユーザが把持する部分である。ユーザは、ハンドル13を把持しながら治療器本体10を動物に向け、動物に光を照射する。さらに説明をすると、図示の例においては、動物の体における患部の位置に応じて、治療器本体10を任意の向きに変更することが可能である。
【0026】
照射窓15は、筺体11に設けられた開口14を覆う覆い部材である。この照射窓15は、筺体11内部に設けられたLED21からの光を透過可能なカバーガラスなどにより構成される。なお、図示の例の開口14および照射窓15は、平面視略長方形状であるが、その形状は特に限定されない。また、図示の照射窓15は、照射窓15の外面に設けられた枠体18によって支持されている。
切替スイッチ17は、筺体11の外面に突出して設けられる。この切替スイッチ17は、ユーザに押されることにより、LED21の点灯および消灯を切り替える。
【0027】
押当面19は、筺体11の外面の一部であり、動物の患部あるいは患部周辺に押し当てられる部分である。図示の例における押当面19は、開口14の外周に形成される。この押当面19を動物の患部などに押し当てることにより、LED21から患部までの距離が予め定めた距離となる。すなわち、押当面19を動物の患部などに押し当てることにより、被照射野に対するLED21の位置決めがなされる。
【0028】
次に、図2を参照しながら、筺体11内部に設けられる機能構成部材について説明をする。
筺体11は、筺体11内部に、LED21と、LED基板23と、冷却機構25と、リフレクタ27と、LED駆動基板29とを有する。
【0029】
LED21は、互いの波長が異なるLED群により構成されている。図示の例のLED21は、第1LED211、第2LED212、および第3LED213により構成される。詳細は後述するが、第1LED211乃至第3LED213は、各々310nm、320nm、330nmのピーク波長を有する光を照射する。
【0030】
LED基板23は、LED21を搭載する基板である。LED基板23は、基板面に搭載されたLED21に対して電力を供給する。
冷却機構25は、LED基板23に設けられ、LED21が発光することにともなう温度上昇を抑制する。冷却機構25は、ヒートシンクや空冷ファンなどにより構成される。
リフレクタ27は、LED21からの光を反射させるとともに、LED21からの光を被照射野、すなわち動物の患部に集光させる。図示のリフレクタ27は、底面にLED21が設けられたすり鉢状に形成されており、照射窓15側に進むに従い内寸法が大きくなる向きに傾斜した内周側面271を有する。
【0031】
LED駆動基板29は、コントローラ30、切替スイッチ17、およびLED基板23と電気的に接続される基板である。このLED駆動基板29は、コントローラ30および切替スイッチ17から制御信号や電力を受けるとともに、LED基板23を介してLED21に電力を供給する。さらに説明をすると、LED駆動基板29は、切替スイッチ17がオンの状態においては、コントローラ30で設定された照射条件(後述)でLED21を点灯させる。また、LED駆動基板29は、切替スイッチ17がオフの状態においては、LED21の照射を強制的に停止させる。さらに、LED駆動基板29は、第1LED211乃至第3LED213のうち点灯させるLEDを切り替える。
【0032】
LED駆動基板29は、図示しないモーメンタリスイッチを介してLED基板23と電気的に接続されていてもよい。この場合、モーメンタリスイッチは、押当面19(または後述するノズル付き押当部材300)に連動して開放位置と閉鎖位置との間で移動可能であり、押当面19(またはノズル付き押当部材300)は、筺体11に対して、LED21からの光の光軸(またはLED21から動物の被照射部位への軸)に略平行に、動物の患部等に押し当てられていないときの位置と押し当てられているときの位置との間をスライド可能に設けられている。すなわち、本構成によれば、LED21は、押当面19(またはノズル付き押当部材300)が動物に押し当てられている間にのみ点灯される。このため、本構成によれば、動物の不意の動きなどにより、押当面19(またはノズル付き押当部材300)が動物から離れて開口14(またはノズル305)が動物の患部以外に向き、該動物の患部以外の部位または本治療器を操作する獣医師もしくはその補助者に照射されるおそれがなくなり、治療の安全性が更に高まる。
【0033】
次に、コントローラ30について説明をする。コントローラ30は、治療器本体10へ電力を供給する。また、コントローラ30は、LED21が出力する光の照射条件を設定可能である。具体的に説明をすると、コントローラ30は、照射条件として、例えば照度、照射時間、点灯態様(連続点灯あるいはパルス点灯)、波長、パルス幅、デューティ比などを設定可能である。
【0034】
図示のコントローラ30は、ユーザーインターフェース(UI)31と、制御基板33と、電源35とを有する。
UI31は、液晶パネルなどにより構成される。このUI31は、ユーザに操作されることにより、LED21が出力する光の波長などの照射条件に関する入力を受け付ける。
【0035】
制御基板33は、UI31および電源35と接続されるとともに、ケーブル50を介して、治療器本体10のLED駆動基板29と接続される。制御基板33は、UI31が受け付けた照射条件に従う制御信号、および電源35からの電力をLED駆動基板29に供給する。
電源35は、制御基板33などに電力を供給する。なお、電源35は、家庭用電源(例えば、日本などの国では100ボルト、米国などの国では120ボルト、中国などの国では220ボルト)などに直結する構成であってもよい。
【0036】
ケーブル50は、治療器本体10およびコントローラ30の間において制御信号および電力を送る信号線である。なお、図示の構成においては、治療器本体10が光を出力している状態においてもケーブル50を介して電力が供給され、治療器本体10が光を出力している状態を長時間継続させることが可能となる。
【0037】
発光スペクトル
図3は、LED21の発光スペクトルを示す図である。
次に、図2および図3を参照しながら、LED21の発光スペクトルについて説明をする。上記のように、LED21は、第1LED211乃至第3LED213を有する。第1LED211乃至第3LED213は、紫外線を出力する点において共通する。一方で、第1LED211乃至第3LED213各々の光のピーク波長は、互いに相違する。具体的には、図3に示すように、第1LED211乃至第3LED213各々の光におけるピーク波長は、約310nm、約320nm、約330nmである。
【0038】
ここで、第1LED211のピーク波長は、305nm乃至315nmの範囲内にある。また、第2LED212のピーク波長は、315nm乃至325nmの範囲内にある。また、第3LED213のピーク波長は、325nm乃至335nmの範囲内にある。すなわち、第1LED211乃至第3LED213は、各々におけるピーク波長が許容される範囲が、互いに異なるように構成されている。
【0039】
これらの第1LED211乃至第3LED213のうちのいずれを点灯させるかに応じて、LED21が出力する光のピーク波長が変化する。具体的には、第1LED211乃至第3LED213のうちのいずれか1つを点灯させると、ピーク波長が310nm、320nm、および330nmのいずれかの光が治療器本体10から出力される。また、第1LED211乃至第3LED213のうちの2つまたは3つを点灯させると、ピーク波長が2つまたは3つある光が治療器本体10から出力される。なお、第2LED212および/または第3LED213を点灯させると、315nm乃至335nmの範囲内にピーク波長がある光が治療器本体10から出力される。
【0040】
ここで、図示の例においては、第1LED211乃至第3LED213を照射する照射条件として、上記のようにパルス幅やデューティ比を設定可能である。例えば第1LED211乃至第3LED213のいずれかを、パルス幅10ms以下、デューティ比を10%以下でパルス発光させてもよい。この照射条件で照射することにより、被照射野である動物の皮膚における熱上昇が緩和される。
【0041】
なお、以下の説明においては、第1LED211乃至第3LED213の各々から出力される光を、単に「310nmの光」、「320nmの光」、「330nmの光」ということがある。
【0042】
(実施形態1の変形例1、2)
図4(a)および(b)は、動物用光線治療器1の変形例を説明するための図である。
次に、図4(a)および(b)を参照しながら、動物用光線治療器1の変形例について説明をする。
上記の実施形態においては、ユーザが治療器本体10を把持する所謂ハンディ型の構成を説明したが、これに限定されない。
【0043】
例えば、図4(a)に示すような動物用光線治療器100を用いてもよい。動物用光線治療器100は、第1照射器111と、第2照射器113と、拘束機構130とを有する。ここで、第1照射器111および第2照射器113は、各々第1LED121および第2LED123を有する。また、第1照射器111および第2照射器113は、ユーザによって把持されずに、床面190に設置される。さらに説明をすると、第1照射器111および第2照射器113は、第1LED121および第2LED123が設けられた面を対向させて、床面190に配置される。そして、第1照射器111および第2照射器113によって挟まれる空間内に、動物Anが配置される。この動物Anは、例えば天井などに固定された拘束機構130によって拘束され、移動が制限された状態である。
【0044】
ここで、第1LED121および第2LED123は、第1照射器111および第2照射器113の各々において面状に設けられている。また、第1LED121および第2LED123は、310nmの光、320nmの光、および330nmの光を出力可能である。この構成により、動物Anの全身など、動物Anの体の広い範囲に、予め定めた波長の光を照射することが可能となる。
【0045】
また、例えば図4(b)に示すように、動物Anを内部に収容する動物用光線治療器200を用いてもよい。動物用光線治療器200は、収容体210と、第1LED221乃至第6LED226と、拘束機構230とを有する。収容体210は、内部に動物Anを収容する空間を有し、不図示の扉を介して内部に動物Anを配置可能である。また、収容体210の内面には、第1LED221乃至第6LED226が設けられる。収容体210は集中治療BOXであってもよい。
【0046】
具体的には、第1LED221は収容体210内部の床面215に設けられ、第2LED222および第3LED223は収容体210内部の側面216に設けられ、第4LED224乃至第6LED226は収容体210内部の天面217に設けられる。また、第1LED121乃至第6LED126は、収容体210内部の各面(床面215、側面216、天面217)に面状に設けられている。さらに、第1LED121乃至第6LED126は、310nmの光、320nmの光、および330nmの光を出力可能である。この構成により、動物Anの全身など、動物Anの体の広い範囲に、予め定めた波長の光を照射することが可能となる。
【0047】
なお、図4(a)に示す動物用光線治療器100は、動物Anを開放された空間に配置して治療を行うことから、オープン型の治療器として捉えることができる。一方、図4(b)に示す動物用光線治療器200は、動物Anを閉鎖された空間に配置して治療を行うことから、クローズ型の治療器として捉えることができる。なお、オープン型およびクローズ型のいずれの治療器においても、動物Anの眼に紫外線が照射されることを抑制するために、動物Anに紫外線をカットする保護メガネを装着してもよい。保護メガネはゴーグル構造であり得る。保護メガネに代えて、シールのような保護部材を装着してもよい。
【0048】
また、上記においては、図4(a)に示す動物用光線治療器100はハーネス型の拘束機構130を有し、図4(b)に示す動物用光線治療器200はハンモック型の拘束機構230を有することを説明したが、治療中に動物Anが移動することが制限される構成であれば、図示の拘束機構130、230の構成に限定されない。例えば、ゲージ(囲い)などによって動物Anの移動を制限してもよい。なお、拘束機構130、230によって動物Anを拘束することにより、ユーザが動物Anの体を押さえることなく治療を行うことが可能となる。したがって、動物用光線治療器100,200などのユーザへの影響が抑制され得るとともに、治療が容易となる。
【0049】
動物用光線治療器100または200は、各LEDから動物Anまでの距離を計測する測距装置を備えていてもよい。図示しない制御部は、計測した距離に基づいて当該LEDから動物への照射量を見積もり、必要に応じて、当該LEDの照度を増減する。例えば、制御部は、該LEDから動物までの距離が所定値より大きくなると(すなわち、当該LEDからの照射量が所定値より低下すると)、当該LEDの照度を増大させ、逆に所定値より小さくなると(すなわち、当該LEDからの照射量が所定値より増大すると)、当該LEDの照度を減少させる。
照射量は、動物に貼り付けた紫外線光量分布測定フィルム(例えば、富士フイルム製UVスケール)により測定した積算光量を用いて確認してもよい。
【0050】
(実施形態1の変形例3)
図5(a)乃至(c)は、動物用光線治療器1の変形例を説明するための図である。
次に、図5(a)乃至(c)を参照しながら、動物用光線治療器1の変形例について説明をする。
上記の実施形態においては、ユーザが治療器本体10の押当面19を動物の患部あるいは患部周辺に押し当てながら光を照射することを説明したが、治療器本体10を動物に接触させることなく、光を照射させてもよい。すなわち、治療器本体10の押当面19を動物の患部などから離間させた位置で、患部に対して光を照射させてもよい。
【0051】
ここで、例えば被照射野である動物の患部が、耳、鼻、口など凹部(孔部)である場合においては、治療器本体10の押当面19を接触させた状態で光を照射させること自体ができないことがある。このような場合においては、光がユーザに照射されることも想定され得る。
【0052】
そこで、図5(a)乃至(c)に示すようなノズル付き押当部材300を治療器本体10に対して着脱可能としてもよい。ノズル付き押当部材300は、治療器本体10の開口14に取り付けられることで、治療器本体10から出射される光の通過領域を絞る。
図示のノズル付き押当部材300は、覆い部301と、貫通孔303と、ノズル305とを有する。
【0053】
覆い部301は、開口14および押当面19を覆う部材である。図示の例における覆い部301は、平面視略長方形状の平板部材である基部306と、基部306の外周から立ち上がる縁部307とを有する。また、基部306の板面中央には、貫通孔303が形成されている。そして、基部306および縁部307によって形成される空間内に治療器本体10の先端が挿入されることにより、覆い部301が治療器本体10に対して位置決めされた状態となる。また、位置決めされた覆い部301においては、貫通孔303が開口14と対向する位置に配置される。
【0054】
ノズル305は、貫通孔303の外周から立ち上がる略円筒状の部材である。また、ノズル305の内周面には、例えばアルミ膜などにより形成された反射層309が設けられている。
【0055】
上記のように構成されたノズル付き押当部材300を治療器本体10に取り付けると、貫通孔303およびノズル305を介して、光が出射される状態となる。言い替えると、ノズル305の先端からのみ、LED21からの光が出射される。このノズル305の先端を動物の耳などに挿入した状態でLED21を発光させることにより、患部以外の部分に光が漏れることが抑制される。その結果、漏れた光のユーザへの照射が低減される。
【0056】
なお、患部の形状にあわせて、ノズル付き押当部材300を形成してもよい。例えば、患部ごとにノズル305の外径を変化させてもよい。具体的には、患部が耳の穴である場合にはノズル305の外径を20mmとし、患部が鼻の穴である場合にはノズル305の外径をより小さな直径7mmとしてもよい。
【0057】
また、図示の例においてはノズル305の内周面に反射層309を設けることにより、多くの光を患部に照射させることができる。ここで、ノズル305の内周面に反射層309を設けることは必須ではない。すなわち、ノズル305が反射層309を有しない構成であってもよい。
【0058】
動物の口周りまたは吻部などに照射する場合には、ノズル付き押当部材300に代えて、お椀型または円錐台型押当部材を治療器本体10に装着してもよい。お椀型または円錐台型押当部材は、治療器本体10の開口14に取り付けられることで、治療器本体10から出射される光が外部へ漏れることを防ぐ。
お椀型または円錐台型押当部材は、治療器本体の先端に嵌合可能な嵌合部または該先端を受容可能な受容部と、お椀型または円錐台型のリフレクタ部とを有する。リフレクタ部の内側面には、例えばアルミ膜などにより形成された反射層が設けられている。
リフレクタ部の開口部は、治療対象の動物における被照射部の形状に対応するサイズおよび形状で形成されていてもよいし、該照射部の形状に対応して変形可能に構成されていてもよい。例えば、リフレクタ部の開口部は、治療対象の個体用にオーダーメイドで(例えば3Dプリンタを用いて)作製されてもよいし、スポンジのような弾性部材または型取りケージのような部材が取り付けられていることにより被照射部の周囲に密着可能とされていてもよい。
【0059】
(実施形態1の他の変形例)
さて、図示は省略するが、動物用光線治療器1は、ケーブル50を設けない構成であってもよい。すなわち、治療器本体10とコントローラ30とが物理的に接続されていない構成であってもよい。この構成においては、例えば治療器本体10およびコントローラ30の各々にアダプタが形成される。そして、一方のアダプタは、他方のアダプタに着脱することが可能である。さらに説明をすると、一方のアダプタを他方のアダプタに装着することにより、治療器本体10の充電、および治療器本体10の制御信号の伝達などが可能である。この構成においては、治療器本体10が、コントローラ30で設定された照射条件を記憶する記憶手段を有する。このことにより、治療器本体10がコントローラ30から分離した状態においても、治療器本体10が、記憶手段に記憶された照射条件に従って動作することが可能である。
【0060】
また、本発明の治療器1は、LEDの点灯時に、音または臭いを発する機構を備えていてもよい。音または臭いは、動物を安らがせて落ち着かせる効果を有するので、動物のストレスを抑制し得る。加えて、ユーザがLEDの点灯を認識することができる。音または臭いを発する機構は、動物が飽きないように、複数の音楽または臭いを選択できることが好ましい。音は、音楽(例えば、クラシック)、飼い主の声、波の音、菓子袋の音(カサカサ音)などであり得る。
【0061】
なお、下記((治療プロトコル)および<試験>の項)の説明においては、動物用光線治療器100の光をイヌの皮膚に照射すること説明したがこれに限定されない。例えば、イヌ以外の動物に光を照射してもよい。具体的には、哺乳類(ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ウサギなど)、鳥類(鶏など)、爬虫類(トカゲなど)などの治療に動物用光線治療器1を用いてもよく、人間以外であれば治療の対象となる動物に特に限定はない。また、動物の体に対して照射するのであれば、動物の皮膚に限らず、動物の耳や口の内部などの粘膜に照射してもよいし、さらに動物の体の一部を切開することにより露出する部分に照射してもよく、動物の体に対する照射方法に特に限定はない。
【0062】
また、上記ならびに下記((治療プロトコル)および<試験>の項)の説明においては、動物用光線治療器1などが310nm、320nm、330nmの光を出力することを説明したが、これに限定されない。例えば、UV-B(280nm乃至315nm)およびUV-A(315nm乃至400nm)の範囲内にピーク波長があればよい。より好ましくは、280nm乃至340nmの範囲内にピーク波長があればよい。
【0063】
具体的には、例えば315乃至335nmに1つあるいは複数のピーク波長を有し、かつ315nm未満の光の相対発光強度が30%以下でもよい。ここで、人間への影響を抑制するためには、315nm未満の光の相対発光強度が低いほうがよい。そこで、例えば315乃至335nmに1つあるいは複数のピーク波長を有し、かつ315nm未満の光の相対発光強度が15%以下であることが好ましく、より好ましくは315nm未満の光の相対発光強度が5%以下であり、さらに好ましくは315nm未満の光の相対発光強度が0%である。
【0064】
なお、上記315nm未満の光の相対発光強度が30%以下の光は、例えばピーク波長が315nmの光を出力するLEDと、ピーク波長が326nmの光を出力するLEDとを発光させることにより得ることができる。なお、これらのLEDは放射照度が一致するものとする。同様に、上記315nm未満の光の相対発光強度が15%以下の光は、例えばピーク波長が320nmの光を出力するLEDと、ピーク波長が326nmの光を出力するLEDとを発光させることにより得ることができる。また、上記315nm未満の光の相対発光強度5%以下の光は、例えばピーク波長が326nmの光を出力するLEDを発光させることにより得ることができる。また、上記315nm未満の光の相対発光強度が0%の光は、例えばピーク波長が315nmの光を出力するLEDと、ピーク波長が335nmの光を出力するLEDとを発光させ、かつ波長が315nm未満の光を吸収または反射するカットフィルタを透過させることで得ることができる。なお、LEDからの光の経路に設けられる照射窓15をカットフィルタとしてもよい。
【0065】
また、例えば315乃至325nmに1つあるいは複数のピーク波長を有し、315nm未満の光の相対発光強度が50%以下でもよい。また、315乃至325nmに1つあるいは複数のピーク波長を有し、315nm未満の光の相対発光強度が20%以下であることが好ましく、より好ましくは315nm未満の光の相対発光強度が5%以下であり、さらに好ましくは315nm未満の光の相対発光強度が0%である。
【0066】
なお、上記315nm未満の光の相対発光強度が50%以下の光は、例えばピーク波長が315nmの光を出力するLEDを発光させることにより得ることができる。同様に、上記315nm未満の光の相対発光強度が20%以下の光は、例えばピーク波長が320nmの光を出力するLEDを発光させることにより得ることができる。また、上記315nm未満の光の相対発光強度5%以下の光は、例えばピーク波長が325nmの光を出力するLEDを発光させることにより得ることができる。また、上記315nm未満の光の相対発光強度が0%の光は、例えばピーク波長が320nmの光を出力するLEDを発光させ、かつ波長が315nm未満の光を吸収または反射するカットフィルタを透過させることで得ることができる。
【0067】
さて、動物用光線治療器1から出力する光の波長を決定する際に、被照射野の皮膚の厚みに応じて、照射する光の波長を選択してもよい。例えば、イヌの体のうち、鼻や趾肉球などの厚い皮膚に照射をする場合には短波長(310nmの光)とし、背中や腹部などの薄い皮膚に照射をする場合には長波長(320nmの光)としてもよい。腋窩などのさらに薄い皮膚に照射する場合にはさらに長波長(330nmの光)とすることもできる。
【0068】
ここで、イヌアトピー性皮膚炎などの病変部では皮膚の肥厚が生じることが報告されている(参考文献、Nimmo JS., et al., Vet. Pathol., 27, 1990.)。そこで、光線治療の反応性において、適宜、320nmの光、310nmの光などを選択可能とすることもできる。また、波長315nm未満の光の相対発光強度が例えば50%以下となるような発光強度の組合せで、310nmの光と320nmまたは330nmの光を同時に照射することもできる。この時、310nm光は最小紅斑量未満であることが好ましい。例えば、310nm光は300mJ/cm2以下、200mJ/cm2以下、100mJ/cm2以下、50mJ/cm2以下の照射量であり、320nmまたは330nmの光は、400mJ/cm2以上、600mJ/cm2以上、1000mJ/cm2以上、1500mJ/cm2以上の照射量である組合せであり得る。
また、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある照射光は視認できないため、任意の可視光線(360nmから830nm)を、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光と同時に照射する仕組みにして、照射光の視認性を良くすることも考えられる。可視光線はヒトが視認しやすい青色や緑色、赤色であり得る。この仕組みにより光線治療器の光源の消し忘れ等を防ぎ、獣医師の安全性を確保できる。
【0069】
また、例えばコントローラ30のUI31に、被照射野が厚い皮膚および薄い皮膚のいずれであるかを選択する画像を表示し、その画像を操作することにともない、出力される光の波長が決定されてもよい。また、例えばコントローラ30のUI31に、被照射野の部位(鼻や背中など)や皮膚の肥厚の程度を選択する画像を表示し、その画像を操作することにともない、出力される光の波長が決定されてもよい。
【0070】
また、上記の説明においては、光源としてLED21などを用いることを説明したが、特に限定されない。例えば、UVランプなど、LED以外の光源を用いてもよい。なお、上記の説明のように、光源としてLED21などを用いることにより、照度の制御が容易となる。
【0071】
また、本実施の形態において、出力する波長が互いに異なる複数の光源を設けることは必須ではない。例えば、1つの光源と、透過させる光の波長が異なる複数のカットフィルタとを設ける構成でもよい。そして、1つの光源からの光を透過させるカットフィルタを切り替えることで、出力する波長を切り替えてもよい。なお、動物用光線治療器1を、光の波長を切り替えることができない構成、すなわち単一の波長の光を出力する構成としてもよい。
【0072】
なお、動物用光線治療器1は、動物用治療器および光治療器の一例である。LED基板23は、支持体の一例である。カットフィルタは、抑制部材の一例である。第2LED212は、光源の一例である。第3LED213は、他の光源の一例である。第1LED211は、さらに他の光源の一例である。LED駆動基板29は、切替手段の一例である。制御基板33は、制御部の一例である。310nmの光は、第1光の一例である。320nmの光は、第2光の一例である。LED21は、発光部の一例である。
【0073】
(実施形態2)
図6および7は、実施形態2の動物用治療器400の概略構成図である。
図6および7を参照しながら、動物用治療器400の概略構成について説明する。
動物用治療器400は、動物の肢(特に肢先)Alを載置する台部440と、前記台部上面415に設けられた照射領域に紫外光を照射する発光部421、422、423、424と、前記台部を上方から覆うカバー部442であって、前記動物の肢を通過させるための開口部または切欠部444を有するカバー部とを備える。
本実施形態によれば、被照射部たる患部を台部上で所定の位置に保定することで、患部と発光部との間の距離を一定に保持することが可能となり、結果として、被照射部に照射する光の照度のバラツキを抑制することができる。発光部が台部の下方に配置される場合には特に、動物の大小に関わらず、患部(例えば、肢裏部または蹠球間の患部)に照射する光の照度のバラツキを抑制することができる。
【0074】
発光部421~424は、台部の上方および/または下方および/または側方および/または(開口部または切欠部444に関して)後方から台部上面415に設けられた照射領域に向けて照射可能なように配置されるが、好ましくは台部の上方および/または下方から、より好ましくは下方から照射可能なように配置される。より具体的には、発光部は、台部の下面に面して、並びに/或いはカバー部442の天面形成部417および/または1若しくは2若しくは3の側面形成部416に形成され得る。
発光部421が台部440の下方に配置される場合、台部は、少なくとも照射領域に対応する部分が、発光部から出力される光に対して透過性を有する材料で形成されている。このような材料としては、石英ガラスなどのUV透過性ガラス、アクリル樹脂またはシリコーン樹脂、フッ素系樹脂などのUV透過性樹脂などが挙げられる。台部は、発光部の発光面の保護部材として機能してもよい。
台部440には、動物の肢(特に肢先)を照射領域に関して適切な位置に誘導するガイド(例えば、凹部または凸部で構成されるもの)が設けられていてもよい。ガイドは、例えば、照射領域を区画する凹部または凸部であり得る。台部の下方は、存在する場合には、発光部421と共に、下方カバー部446に覆われていてもよい。
【0075】
駆動部は、発光部と近接してまたは発光部の近傍に配置されることが好ましいが、本治療器の任意の場所に適宜配置し得る。
制御部は、本治療器内の任意の場所に適宜配置し得る。UIは、例えば、カバー部の上方または側方の外側面に設けることができる。或いは、制御部は、台部440と発光部421~424とカバー部442と必要に応じて下方カバー部446を備えて構成される治療器本体の外部に位置するコントロールユニット内に配置され、UIはコントロールユニットの上面および/または側面に設けられていてもよい。この場合、治療器本体とコントロールユニットとはケーブルにより電気的に接続される。
カバー部の開口部または切欠部444のサイズは、治療対象の動物の1つまたは2つの肢を通すことが可能であれば特に限定されない。開口部または切欠部は例えば略矩形であり得る。開口部が略矩形である場合、その下辺は台部の上面と同一水平面上またはより下方に位置することが好ましい。
【0076】
この治療器は、台部に載置された動物の肢を台部上面415に対して押し付けて保定する保定機構450を備えていてもよい。図6に示すように、保定機構450は、ベルトであり得る。ベルトは、2つの端部を固定するための面ファスナを有していてもよい。この場合、台部はベルトの通し用の2条のスリットを有していてもよいし、ベルトの端部が台部に固定されていてもよい。ベルトは、例えば、内側(動物の肢に接する側)に弾性部材を備えていてもよい。
或いは、図7に示すように、保定機構450は、カバー部に設けられた開閉可能な蓋体446の開閉動作と連動する押圧部452を備えて構成され、蓋体446を閉じると、押圧部452が押し下げられて動物の肢を台部上面に押圧し、蓋体446を開けると、押圧部452が引き上げられて動物の肢を開放するものであってもよい。押圧部452は、弾性体、より具体的にはスポンジ(例えば、ゴムまたは合成樹脂の発泡体)であり得る。この場合、蓋体を引き上げた状態で動物の肢を台部上面に載置した後、蓋体を閉じるだけで動物の肢(被照射部)が台部上面415に位置決めされるので、ユーザによる位置決め操作が容易となり得る。
或いは、保定機構は、膨縮可能なエアバッグと、台部に対して上方へのエアバッグの膨張を制限する制限部材とを備えるものであってもよい。エアを注入することにより膨張したエアバッグは、制限部材により上方への膨張が制限される結果、下方への付勢力を働かせる。制限部材は、台部に固定された帯状体またはカバー部天面であり得る。保定機構の具体例はカフタイプのものである。
【0077】
この治療器は、動物の肢が台部上面の照射領域内に位置するか否かを検知するセンサ460を備えていてもよい。センサ460は制御部と電気的に接続され、動物の肢が照射領域内に位置することを検知したとき、制御部は、発光部をユーザ等の入力(例えば、実施形態1において説明した発光部の点消灯を切替える切替スイッチ)に従って点灯できる状態にし、動物の肢が照射領域内にないことを検知したときには、発光部をユーザ等の入力に従って(例えば、切替スイッチが点灯状態であっても)点灯できない状態とするように構成されていてもよい。制御部がタイマを備える場合には、タイマは、発光部が消灯したとき停止して、発光部が点灯した時間、すなわち治療光が患部に実際に照射された時間を計時する構成であってもよい。この構成によれば、照射距離が一定であることに加えて、照射時間をより正確に測定できるため、より厳密な照射量の制御が可能となる。
本実施形態の治療器は、動物の肢、特に指または指間(蹠球間)の患部への照射に効果的である。
【0078】
(実施形態3)
本発明の動物用治療器の或る実施形態は、治療器本体が手袋の形態、例えばグルーミング手袋の形態で提供される。この形態によれば、動物をなでながら光照射ができるため、治療中の動物のストレスを低減することが可能となる。
図8は、動物用治療器の一実施形態の概略構成図である。
図8を参照しながら、本実施形態の動物用治療器の概略構成について説明する。
この形態の治療器本体510は、人間の手を挿入できる手袋本体502と、該手袋本体の掌側外部504に配置された少なくとも1つの発光部521と、駆動部523とを備える。
発光部521は、手袋の掌部分および/または手指部分に配置され得る。駆動部523は手袋本体の甲側外部506に配置されていてもよい。
治療器本体510は、例えば手袋本体の甲側外部506に、バッテリ収容部525を備えていてもよい。この場合、バッテリ収容部に収容されるバッテリから電力供給を受けられるため、使用時に、治療器本体を外部電源に接続する必要がなくなる。
制御部は、治療器本体(手袋本体)に配置されていてもいなくてもよい。制御部が手袋本体に配置されない場合、手袋本体上に配置された駆動部523は、治療器本体外の制御部530と一対のアダプタ541、542を介して電気的に接続され得る。よって、この場合、手袋本体502には、駆動部523および必要に応じてバッテリ収容部525に電気的に接続した一対のアダプタの一方541が配置され得、他方のアダプタ542が手袋本体外に設けられた制御部530にケーブル550により電気的に接続され得る。
【0079】
一対のアダプタ541、542を介して制御部530と駆動部523(および必要に応じてバッテリ収容部525)とが電気的に接続したとき、駆動部523に備わるメモリに、制御部530から送信された発光部521の発光条件に関する情報が格納され、場合により、制御部530から供給された電力により、バッテリ収容部525に収容されたバッテリが充電される。
手袋本体の甲側外部506には、発光部521の点消灯、必要に応じて発光波長を切り替える切替スイッチ527が設けられていてもよい。
手袋本体の掌側外部504には、毛繕い用または毛すき用の突起560が配置されていてもよい。突起560は、手袋の掌部分および/または手指部分に配置され得る。突起を有する場合、体毛をめくりながら光を照射できるので、疾患部位(特に、体毛を有する患部、例えばアトピー性皮膚炎の初期段階の患部)への光照射が効率的に実現できる。
突起の材質は、毛繕い用または毛すき用に利用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、樹脂(例えば、アクリル樹脂またはシリコーン樹脂、フッ素系樹脂などのUV透過性樹脂)であり得る。突起の形状およびサイズは、対象の動物に応じて適宜決定できる。突起は櫛歯状であってもよい。
【0080】
(実施形態4)
本発明の動物用治療器の或る実施形態は、治療器本体がブラシまたは櫛の形態で提供される。この形態によれば、体毛を梳きながら光照射ができるため、治療中の動物のストレスを低減することができ、加えて、体毛を有する患部(例えば、アトピー性皮膚炎の初期段階の患部)への光照射が効率的に行える。
図9は、動物用治療器700の概略構成図である。
図9を参照しながら、本実施形態の動物用治療器700の概略構成について説明する。
動物用治療器700は、複数のブラシピン760と、ブラシピンを支持する支持体770と、該支持体上に設けられた複数の発光部721とを備える。
【0081】
動物用治療器700において、発光部721は、該発光部からの光がブラシピン760の間から出射可能なように支持体770上に設けられる。例えば、ブラシピンが数条の列状に設けられている場合、発光部は列間に配設され得る。或いは、ブラシピンは、例えば、発光部の周囲に配設され得る。
発光部721は、支持体770に設けられた凹部に設けられていてもよい。この場合、凹部の開口部は、発光部から出力される光に対して透過性(本明細書中で、単に「透明」ともいう。)である部材で覆われていてもよい。
ブラシピン760の形状およびサイズは、対象の動物に応じて適宜決定できる。ブラシピンが或る程度の剛性を有する場合、発光部を被照射部たる患部から所定の距離に保持することが容易となる。ブラシピン760は導光体(例えば、石英ガラスなどのUV透過性ガラスまたはアクリル樹脂またはシリコーン樹脂、フッ素系樹脂などのUV透過性樹脂)であり得、すなわち発光部から出力される光の導光路として機能し得る。ブラシピンが導光体である場合、発光部から出力される光は、ブラシピンに遮られることなく、広範囲の照射が可能となり、結果として、被照射部に照射する光の照度のバラツキを抑制することが容易となる。
【0082】
動物用治療器700は、更に、支持体770の背面(ブラシピンが設けられていない面)を覆う背面カバー部780を有していてもよく、把持部またはハンドル部790を更に備えていてもよい。背面カバー部は、把持部またはハンドル部と一体化していてもよい。
駆動部は、各発光部とセットで配置されていてもよいし、支持体と背面カバー部とにより区画される内部空間内にまとめて配置されていてもよい。必要に応じて、バッテリ収容部を、前記内部空間内に配置してもよいし、把持部またはハンドル部の内部空間内に配置してもよい。
制御部は、背面カバー部の外面に配置することもできるし、一部(例えば、制御回路)を前記内部空間内に配置し、一部(例えば、UI)を背面カバー部の外面に配置することもできる。
制御部がブラシ形態の治療器本体に配置されない場合、治療器本体に配置された駆動部は、治療器本体外の制御部と一対のアダプタを介して電気的に接続され得る(実施形態3の説明および図8を参照)。
治療器本体(例えば、背面カバー部または把持部若しくはハンドル部の外面)には、発光部の点消灯、必要に応じて発光波長を切り替える切替スイッチが設けられていてもよい。
【0083】
(実施形態4の変形例1)
図10は、動物用治療器900の概略構成図である。
図10を参照しながら、本実施形態の動物用治療器900の概略構成について説明する。
動物用治療器900は、複数のブラシピン960と、ブラシピンを支持する支持体970と、該支持体に関してブラシピンと反対の側に設けられた複数の発光部921とを備える。
図10において、発光部921は、支持体970を挟んでブラシピン960の基部に対向して設けられている。ここで、支持体970は透明であり、ブラシピン960は導光体である。
発光部921から出力された光は、支持体970を透過し、更にブラシピン960の内部を伝導してブラシピン側に出射される(その結果、動物に照射され得る)。発光部921から出力された光は、一部は、支持体970を透過してブラシピン側に出射されてもよい。
或いは、発光部は、支持体が有する複数の開口部(または照射窓)に対向して設けられ、発光部から出力された光は、開口部(または照射窓)を通過してブラシピン側に出射されてもよい。
【0084】
(実施形態4の変形例2)
図11は、動物用治療器1000の概略構成図である。
図11を参照しながら、動物用治療器1000の概略構成について説明する。
動物用治療器1000は、複数のブラシピン1060と、ブラシピンを支持し、且つ導光体である支持体1070と、該支持体の1以上の端部に配された1または複数の発光部1021とを備える。
治療器1000において、発光部から出力された光は、支持体(導光体)にその端部から入射し、ブラシピンが設けられた面1071から出射する。支持体のブラシピンが設けられていな面1972には、反射面が設けられていてもよい。ブラシピンも導光体であり得る。

(実施形態4の他の変形例)
上記において、ブラシ形態を説明したが、櫛形態である場合には、発光部は、列状に設けられた櫛歯の片側または両側に列状に設けることができる。
【0085】
(実施形態5)
図12は、実施形態5の動物用治療器1100の概略構成図である。
図12を参照しながら、動物用治療器1100の概略構成について説明する。
動物用治療器1100は、動物の肢患部を包囲または収容する筒体1110と、筒体の内腔1112を照射可能に配置された発光部1121とを備える。
筒体1110は、内腔軸に関して垂直な断面における内形および/または外形が円形または多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、八角形)であり得る。筒体の1つの具体例は、円筒であり得る。筒体は、2つの半割体が合体して筒形状となるように構成されていてもよい。例えば、2つの半割体は連結機構(例えばヒンジ)で連結され、係止機構(例えば、面ファスナ、パッチン錠)により合体状態に保持される。
筒体は底を有していてもいなくてもよい。筒体が底を有していない場合、本実施形態の治療器を装着した動物は、移動を制限されず、よって使用時のストレスが軽減され得る。
図12において、筒体1110は、その内腔軸が鉛直軸と平行に配置されているが、鉛直軸から傾斜して配置されていてもよい。
筒体1110は台部1140により支持されていてもよい。
【0086】
発光部1121は、動物の肢患部が筒体1110の内腔1112に包囲または収容されたとき該患部を照射可能なように筒体内腔1112の少なくとも一部を照射可能なように配置されていればよい。発光部1121は、筒体内腔1112の側面1114に設けることができる。また、図9のように、筒体1110が有底筒体である場合、側面1114に加えてまたは代えて、内腔1112の底面1116に設けることができる。複数の発光部が内腔1112を囲むように側面1114に設けられていてもよい。例えば、複数(例えば、2~10、より具体的には2、3、4、5、6、7または8)のライン状発光部が内腔軸に平行に設けられていてもよい。
発光部の内腔側には透明な保護部材1148が設けられていてもよい。
【0087】
駆動部は、発光部1121と近接してまたは発光部の近傍に配置されることが好ましいが、治療器1100の任意の場所に適宜配置し得る。
制御部は、治療器1100内の任意の場所に適宜配置し得る。UIは、例えば、筒体1110の外側面または台部1140の上面に設けることができる。或いは、制御部は、動物の肢患部を包囲または収容する筒体1110と筒体の内腔1112を照射可能に配置された発光部1121とを備えて構成される治療器本体の外部に位置するコントロールユニット内に配置され、UIはコントロールユニットの上面および/または側面に設けられていてもよい。この場合、コントロールユニットから治療器本体への制御信号の送信および電力の供給は、有線またはワイヤレスで行なわれる。治療器本体へ供給された電力は、治療器本体がバッテリ収容部を備える場合、該バッテリ収容部に収容されたバッテリの充電に用いられてもよい。
【0088】
筒体の内腔には、膨張可能なエアバッグが備えられていてもよい。エアを注入することにより膨張したエアバッグは、筒体内腔内で、動物の肢を所定の位置に保定することができる。その結果、患部と発光部との間の距離を一定に保持することが可能となり、被照射部に照射する光の照度のバラツキを抑制することができる。エアバッグの材料は、透明であることが好ましい。透明であることにより、発光部から出力される光の被照射部への照射が、膨張したエアバッグにより遮られることがなくなる。エアバッグは発光部の保護部材として機能してもよい。
筒体には、発光部が出力する光が筒体の1または2つの開口部から外部に漏れることを防止するための遮光性カバーが設けられていてもよい。遮光性カバーは、例えば、中央に動物の肢を通すための貫通孔を有する蓋である。筒体が2つの半割体で構成されている場合、遮光性カバーは、合体したとき、中央に動物の肢を通すための貫通孔が形成され、それぞれ筒体半割体に付属する2つの半割体から構成されていてもよい。
筒体内腔の開口部近傍に、不透明材料で作製された膨張可能なエアバッグが設けられていてもよい。この場合、エアバッグは、動物肢の保定機構および遮光機構として機能し得る。
本実施形態の治療器は、動物肢の患部への照射に効果的であり、特に、治療器本体が有底筒体であって内底面に発光部を備えるものである場合には、指または指間(蹠球間)の患部への照射に効果的である。
【0089】
(実施形態6)
本発明の動物用治療器は、治療器本体がウェアラブルな構成であってもよい。このような治療器本体は、例えば、被服タイプ、ベルトタイプ、ブーツタイプのものであり得る。
被服タイプの治療器本体は、被服部がベスト形状、パンツ形状、セータ形状などであり得る。
ベルトタイプの治療器本体は、ベルト部が動物の胴体または肢に巻き付けられることにより該動物に装着される。ベルト部には、両端部に係止機構が設けられていてもよい。係止機構が例えば面ファスナの場合、面ファスナを張り合わせることにより、容易に治療器本体を動物に装着させることができる。
ブーツタイプの治療器本体は、ブーツ部が動物の肢先を収容できる形状であり得る。
被服部、ベルト部またはブーツ部の材料は、発光部から出力される紫外光に対して非透過性であるものが好ましい。
【0090】
図13は、被服形態の動物用治療器1200の概略構成図である。
図13を参照しながら、動物用治療器1200の概略構成について説明する。
動物用治療器1200は、被服本体1210と、被服本体の内側(着用時動物に面する側)部分に配置された発光部1221とを備える。
発光部1221は特定の位置に固着されていてもよいが、患部に対応して任意の位置に配置し得るよう着脱可能な機構(例えば、面ファスナ)により固定されていてもよい。図においては、発光部は左右の片側(右身頃)のみに設けられているが、患部(被照射部)に応じて両側に設けられてもよい。
発光部1221の周辺には少なくとも1つのエアバッグ1280が配置されていてもよい。エアが充填されたエアバッグは、被照射部である患部と発光部との間を一定の距離で保持するように機能し得る。このため、被照射部に照射する光の照度のバラツキを抑制することができる。エアバッグはまた、発光部から出力される紫外光に対して非透過性の材料で作製されている場合、非照射部(患部以外の皮膚等)に面するように配置されると、当該非照射部への不必要な照射を低減させるように機能する。発光部が着脱可能である場合、エアバッグも着脱可能であることが好ましい。
被服本体1210には、バッテリ収容部1225が設けられていてもよい。設けられる場合、バッテリ収容部は、被服本体の外側(着用時動物に面しない側)の背中部分に設けられることが好ましい。
被服本体の形状は、治療対象の動物が着用可能である限り任意である。被服本体には、前肢通穴1218が設けられていてもよい。
【0091】
駆動部は、発光部と近接してまたは発光部の近傍に配置されることが好ましいが、治療器本体の任意の場所に適宜配置し得る。制御部は、治療器本体に含まれていてもよいし、治療器本体に含まれていなくてもよい。
治療器本体への電力の供給は、有線またはワイヤレスで行なわれる。治療器本体へ供給された電力は、治療器本体がバッテリ収容部を備える場合、該バッテリ収容部に収容されたバッテリの充電に用いられてもよい。
本実施形態の治療器は、治療器本体がウェアラブルな形態であることにより、治療対象動物が自由に行動することができ(例えば、散歩中にも治療可能である)、拘束等により受けるストレスを低減させることができる。
【0092】
(実施形態7)
本実施形態の動物用治療器は、病変部を含む領域を撮像する撮像部と、発光部および駆動部を有する治療器本体と、制御部とを備え、制御部は、撮像部から受領した画像情報に基づいて病変部を特定し、該特定した病変部に向けて光を照射するよう発光部および/または駆動部を制御する。
発光部はプロジェクタ光学系(例えば、デジタルマイクロミラーデバイスを利用するもの)を有し得る。
撮像部は例えばデジタルカメラなどのカメラであり得る。カメラは、例えば、発光部のプロジェクタ光学系の照射画角と同一の画角となるように配置される。
制御部は、画像処理回路を有し得、撮像部が撮像した画像を画像処理して病変部を特定し得る。制御部は、人工知能または機械学習により、病変部の画像に基づいて照射条件を決定してもよい。この場合、病変部の症状に応じて照度を自動的に調整できる。制御部は、治療器本体内に配置されていてもよい。
【0093】
この形態の治療器によれば、紅斑や脱毛、皮膚の色素沈着、苔癬化が生じている領域(病変部)のみに紫外光を照射できる。また、この形態の治療器によれば、広範囲に位置する皮膚疾患部位への照射が容易に可能となる。加えて、照射中も撮像しているので、動物が多少動いても、病変部を追従して照射可能であり、正常部位への不必要な照射を回避することができる。
【0094】
(実施形態8)
本実施形態の動物用治療器は、動物を収容する動物収容部と、発光部および駆動部を有する治療器本体と、治療器本体を水平方向及び/または垂直方向に揺動させる揺動機構と、患部の位置を特定する患部位置特定部と、制御部とを備え、発光部は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を高指向性で出射可能であり、制御部は、発光部の光軸が、患部位置特定部により特定された患部位置に向くよう揺動機構を制御し、且つ、患部位置に光照射するよう発光部および/または駆動部を制御する。
動物収容部は1または複数の動物を内部に収容できるものであれば特に限定されない。例えば、動物収容部は、産業用動物を収容する施設(例えば、牛舎、豚舎、鶏舎など、またはそれらの中の区画された空間)であり得る。
患部位置特定部は、例えば、カメラまたは検知器であり得る。患部位置特定部は、例えば、患部に付着されたまたは埋め込まれた発光物質、磁性物質、マイクロチップ、ペイントなどを検知して患部の位置を特定し得る。或いは、患部位置特定部は、予め記憶させた患部画像に基づいて、画像処理により患部の位置を認識し特定してもよい。
揺動機構は公知のものを使用できる。
制御部は治療器本体内に配置されていてもよい。
【0095】
本実施形態の治療器は、動物の目の位置および/または動物の動きを検知する(第2の)検知器(例えばカメラ)を更に備えていてもよい。当該検知器によって動物の目の位置および/または動物の動きを検知することにより、紫外光が目に照射されることを防止する。
本実施形態の治療器は、接近が困難である大型動物または猛獣、動きが素早い小形動物、人間との接触がストレスとなる動物の治療に適切であり得る。本実施形態の治療器はまた、紫外光による消毒、殺菌、殺カビ、殺ウイルスにも用いることができ、よって鳥インフルエンザ、豚コレラなどの感染症対策を兼ねて用いることもできる。
【0096】
(実施形態9)
本発明の動物用治療器の或る実施形態は、LED光源を有する発光部と、LED駆動回路を有する駆動部と、制御部と、通信インターフェースとを備える。
この形態の治療器は、照射条件を、通信インターフェースを介して治療器外部から受け取る。照射条件は、例えば、遠隔地の獣医師から電話回線またはインターネット回線などの公衆通信回線により送られてくる照射条件であり得る。照射条件は、例えば、動物の飼い主が撮影し、通信回線により獣医師に送られた患部画像に基づいて獣医師が決定し得る。
【0097】
通信インターフェースは、公衆通信回線へ接続可能な通信端末(例えば、スマートフォンまたはコンピュータ)との通信用のインターフェースである。通信インターフェースは、例えば、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)または近距離通信インターフェースなどの無線インターフェースであり得る。
制御部は、CPU回路であり、例えばリアルタイムクロック付きのマイクロコンピュータボードであり得る。制御部は、通信端末から送信された照射条件を、通信インターフェースを介して受信する。制御部は、受信した照射条件に基づいて、駆動部を介して、発光部からの光出力を制御する。
制御部が記憶装置を備える場合、照射条件は記憶装置に記憶されてもよい。この場合、制御部は、治療器を使用している間じゅう、通信末端と通信している必要がない。
【0098】
制御部は、所定の位置に被照射体が位置しない場合には発光部の光源を点灯させないインターロック機構を備えていてもよい。インターロック機構は、接触式または非接触式であり得、接触式としてはプッシュスイッチが挙げられ、非接触式としてはフォトインタラプタおよび赤外線距離計が挙げられる。
制御部はまた、LED電流設定用D/Aコンバータ(DAC)、必要に応じて、LED積算光量設定タイマおよび/または総LED点灯時間カウンタを備えていてもよい。LED電流設定用DACは、照射条件(特に照度条件)に基づいて、LED点灯に必要な電流を駆動部に供給する。LED積算光量設定タイマは、照射条件(特に照射量条件および照度条件、または照射時間条件)に基づいて、治療のためにLEDを点灯させるべき時間に設定され、LEDの点灯時間が設定時間に達すると、駆動部へのLED電流の供給を停止して、LEDを消灯させる。総LED点灯時間カウンタは、LEDの総点灯時間を計測することによりLEDの寿命を管理する。
【0099】
治療器は、被照射部の温度および/または発光部の温度を検知する温度センサを備えていてもよい。この場合、制御部は、温度センサ読取用A/Dコンバータ(ADC)を有していてもよい。制御部は、温度センサにより測定された被照射部の温度および/または発光部の温度が所定値を超えた場合、発光部の発光を強制的に停止させ得る。
制御部は、例えば赤外線距離計により計測された被照射部位との距離情報に基づいて、発光部に備わる光学系を制御して照射エリアを設定してもよい。
制御部は、通信インターフェースを介して、通信端末に、照度および照射時間、若しくは積算光量、ならびに/または総照射時間に関する情報を送信してもよい。通信端末に送られた前記情報は、当該通信端末に備わる表示装置に表示されてもよく、および/または、獣医師に送信されてもよい。
【0100】
(他の実施形態)
本発明の動物用治療器は、治療器本体がマットの形態であってもよい。マットの形態であることにより、治療対象動物が拘束等により受けるストレスを低減させることができる。
本発明の動物用治療器は、治療器本体が、リング状またはドーナツ状の支持体と、該支持体上に配置された複数の発光部とを備え、発光部は円柱状または櫛歯状の導光体を有する形態であってもよい。この形態の治療器は、目の周囲の患部の治療に適切であり得る。円柱(例えばピン)状または櫛歯状の導光体は、発光部の光源または光源モジュールから出力される光を患部表面に導く導光路として機能し得る。支持体のサイズは、例えば、外径40mmおよび内径20mmであり得る。
本発明の動物用治療器は、治療器本体がマウスピースまたは動物が口に銜えるか若しくは口中に含むタイプの玩具の形態であってもよい。この場合、マウスピースまたは玩具は少なくとも一部が導光体で形成され、発光部の光源または光源モジュールから出力される光が歯肉または口腔内に導かれてもよい。マウスピースまたは玩具は好ましくは弾性部材で形成される。この形態の治療器は、歯肉または口腔粘膜における患部の治療に適切であり得る。
本発明の動物用治療器は、内視鏡に組み込まれた形態であってもよい。内視鏡はカプセル内視鏡であってもよい。この形態の治療器は、消化器などの粘膜の疾患の治療に有効であり得る。
【0101】
<治療方法>
本発明の治療方法は、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を、人間以外の動物の患部に1回または複数回照射するステップを含む人間以外の動物の治療方法である。
本発明の治療方法により治療され得る動物は、人間以外の動物であれば限定されず、伴侶動物、愛玩動物、動物園動物、産業動物(例えば、家畜)、野生動物など獣医学上の治療対象となり得る動物である。動物は、例えば、哺乳類、鳥類または爬虫類の動物であり、好ましくは、哺乳類または鳥類の動物である。動物の具体例としては、イヌ、ネコ、サル、チンパンジー、ウサギ、リス、モルモット、ハムスター、ネズミ、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ハト、インコ、オウム、キュウカンチョウ、アヒル、カモ、シチメンチョウ、ホロホロ鳥、ガチョウ、ダチョウ、トカゲなどが挙げられる。
【0102】
後述するように、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を照射された動物の被照射領域においては、アレルギー反応が抑制される。よって、本発明の治療方法により治療され得る疾患は、アレルギー性疾患、例えば、アレルギー性皮膚疾患、アレルギー性鼻炎および炎症性腸疾患などである。好ましくは、疾患は、アレルギー性皮膚疾患であり、より具体的には、アトピー性皮膚炎、アトピー様皮膚炎、食物有害反応(食物アレルギー)が関与する皮膚炎などである。
また、被照射領域においては、概して、MrgprX2(Mas関連Gタンパク質受容体X2)の発現量が減少する。ここで、MrgprX2は、肥満細胞の脱顆粒応答促進因子の標的分子であり(Tatemoto K et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006, 349(4):1322-1328)、MrgprX2に対応するマウスMrgprB2の遺伝子欠損マウスでは、偽アレルギー症状を起こす医薬品に対する反応が消失することが知られ(McNeil BD et al., Nature, 2015, 519(7542):237-241)、ヒトの場合、重症の慢性じんま疹患者の皮膚組織ではMrgprX2の発現が亢進していることも知られている(Fujisawa D et al., J. Allergy Clin. Immunol., 2014, 134(3):622-633)ことから、MrgprX2の発現量の抑制は、アレルギー症状の治療または改善をもたらすと考えられる。よって、本発明の治療方法により治療され得る疾患は、MrgprX2により媒介される疾患、より具体的にはMrgprX2の発現亢進により引き起こされる疾患(特にアレルギー性皮膚疾患)であり得る。
【0103】
また、被照射部位においては、ケラチンおよびFBN2等の上皮成長因子の遺伝子の発現量が増加していること、および、筋線維芽細胞または線維芽細胞の分化または新生に関与する遺伝子の発現量が変化していることも観察されていることから、本発明の治療方法は、皮膚創傷にも有効であり得る。
更に、後述するように、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光の照射により、紅斑、白斑、脱毛、苔癬化および表皮剥離の症状が改善される。ここで、中波長紫外光(UVB)、例えばナローバンドUVBは、人間において、アトピー性皮膚炎、白斑、乾癬、掌蹠膿疱症、類乾癬、結節性痒疹、脱毛症、皮膚T細胞性リンパ腫などに有効であり得ることが知られている。そして、後述するように、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、人間以外の動物において、ピーク波長が310nmの光と同程度の治療効果を奏する。よって、本発明の治療方法も、アトピー性皮膚炎、白斑、乾癬、掌蹠膿疱症、類乾癬、結節性痒疹、脱毛症、皮膚T細胞性リンパ腫の治療に有効であると考えられる。
加えて、皮膚炎の症状が改善すると細菌繁殖を抑制できることが知られており、本発明の方法により皮膚炎を治療することで、皮膚細菌叢のバランスが改善または回復するため、膿皮症のようなブドウ球菌および/またはレンサ球菌などの細菌繁殖が原因となる疾患にも本発明の治療方法は有効であると考えられる。
また、紫外線による殺菌効果に起因して、皮膚糸状菌症、マラセチア感染症、ウイルス性皮膚感染症の治療にも有効であると考えられる。
したがって、本発明の治療方法により治療され得る疾患は、好ましくは、アレルギー性皮膚炎、皮膚リンパ腫、白斑、創傷、脱毛症、感染症、皮膚膿瘍および膿皮症からなる群より選択され得る。
更には、肥満細胞腫や、メラノサイト腫瘍および腫瘍様病変、具体的にはメラノアカントーマ、悪性黒色腫、メラノサイト過形成にも効果が期待される。
【0104】
患部または被照射部位は、動物の頭部(鼻、耳および吻部を含む)、胴部および脚部のいずれに存在してもよく、動物の体外から非侵襲的に照射可能な部位であってもよいし、外科手術などの侵襲的手段により照射可能となる部位であってもよい。患部または被照射部位は、例えば、皮膚または粘膜であり得る。
【0105】
波長315nm未満の光は、DNAおよびタンパク質に吸収され易いそれぞれ260nmおよび280nmの光を相当量含む可能性が高いため、その照射は、動物および人間において悪影響をもたらすことが懸念される。よって、波長315nm未満の光の照射は、必要な場合以外には、できる限り回避しまたはその照射量を低減することが望ましい。したがって、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、当該光における波長315nm未満の光の相対照度が50%以下であるように動物に照射されることが好ましい。ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光における波長315nm未満の光の相対照度は、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがより好ましい。
【0106】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光の動物への照射量は、当該動物において治療対象の疾患の治癒または症状改善に効果的な量(治療有効照射量)であって、当該動物において副作用(例えば、皮膚のサンバーン)を起こさない量であれば特に限定されない。例えば、照射量の下限は、10mJ/cm2、20mJ/cm2、30mJ/cm2、50mJ/cm2、80mJ/cm2、100mJ/cm2、200mJ/cm2または300mJ/cm2であり得、照射量の上限は、2000mJ/cm2、1500mJ/cm2、1000mJ/cm2、800mJ/cm2、500mJ/cm2または400mJ/cm2であり得る。照度が10mJ/cm2未満である場合、治療対象の疾患の治癒または症状改善を達成できないことがある。照度が2000mJ/cm2を超える場合、被照射部位に副作用を生じる可能性が高くなる。具体的照射量は、患部の状態および/または動物の全身状態などを考慮して獣医師が適宜決定し得る。
前記光の照度は、特に限定されないが、治療効率および/または照射量管理の容易性の観点から、例えば、0.1mW/cm2乃至300mW/cm2の範囲内、より具体的には0.5mW/cm2乃至200mW/cm2範囲内、より具体的には1mW/cm2乃至100mW/cm2範囲内、より具体的には5mW/cm2乃至50mW/cm2範囲内、より具体的には5mW/cm2乃至20mW/cm2範囲内から適宜選択される。
照射量は、本発明の治療器またはその光源からの被照射領域までの距離(照射距離)をおおよそ一定とすることができる場合、照度および照射時間から推定できる(照射量=照度×照射時間)。この場合、照射量の管理は容易である。照射距離が変動し得る場合、例えば、UV積算光量測定用フィルムまたはシート(例えば、富士フイルム製UVスケール)を用いて照射量を管理し得る。
【0107】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、連続光として照射されてもよいし、間欠光(例えば、パルス光)として照射されてもよい。間欠光を用いる場合、照射される部位(被照射部(すなわち患部)およびその周辺)および/または前記光を射出する光源の温度上昇を回避または低減することができる。パルス光は、パルス幅が例えば100ms以下、より具体的には50ms以下、より具体的には20ms以下、より具体的には10ms以下、より具体的には5ms以下であり得る。パルス光はまた、デューティ比が例えば50%以下、より具体的には40%以下、より具体的には30%以下、より具体的には20%以下、より具体的には10%以下、より具体的には5%以下であり得る。
【0108】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、ハロゲンランプや水銀ランプのような広範な波長スペクトルを有する光を射出する光源から光学フィルタの使用により抽出された光であり得る。ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は発光ダイオード(LED)またはレーザダイオード(LD)を光源とする光であってもよい。LEDまたはLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率および経済性の観点からも好ましい。加えて、照射量の制御または管理が容易になる。
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、主ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にあることが、エネルギー効率および経済性の観点から好ましい。
【0109】
本発明の治療方法において、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光の照射は1回以上行われるが、良好な治療効果を得るためには2回以上であることが好ましい。照射回数の上限は限定されないが、例えば、21回、20回、15回、14回、10回、7回、5回、4回、3回であり得る。
照射が複数回行われる場合、2回目以降において動物に照射される光の照射量は、前回の照射時の照射量と同一であっても異なってもよい。2回目以降において、前回の照射時における照射量と異なる照射量で照射する場合、より高い照射量で照射することも、より低い照射量で照射することもできるが、より高い照射量で照射することが好ましい。より高い照射量は、前回の照射時における照射量より、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2高い照射量であり得る。或いは、より高い照射量は、前回の照射時における照射量より、例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%高い照射量であり得る。高照射量化は、より高い治療効果を奏すると期待できる。
【0110】
また、照射が複数回行われる場合、2回目以降において動物に照射される光の波長は、前回の照射時における波長と同一であっても異なってもよい。2回目以降において、前回の照射時に照射した光の波長と異なる波長の光を照射する場合、より短い波長の光を照射することも、より長い波長の光を照射することもできるが、より短い波長の光を照射することが好ましい。より短い波長は、前回の照射時における波長より、例えば1nm乃至20nm、より具体的には5nm乃至10nm短い波長であり得る。短波長化は、より高い治療効果を奏すると期待できる。
各照射ごとに波長および照射量のいずれかを変化させてもよいし、両者を同時に変化させてもよい。両者を同時に変化させる場合、照射量は、より低い照射量に変化させることが好ましい。
照射が2回以上行われる場合、照射間隔は、患部の状態および/または動物の全身状態などを考慮して獣医師が適宜決定し得る。照射間隔は、例えば、1回/日乃至1回/週であり得る。
【0111】
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光と同時に照射されてもよい。この場合、混合光において、波長315nm未満の光の相対照度が例えば50%以下となるように、それぞれの光の照度を調整することが好ましい。また、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光は最小紅斑量未満の照射量で照射することが好ましい。例えば、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光は300mJ/cm2以下、200mJ/cm2以下、100mJ/cm2以下、50mJ/cm2以下の照射量であり、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、400mJ/cm2以上、600mJ/cm2以上、1000mJ/cm2以上、1500mJ/cm2以上の照射量の組合せであり得る。
【0112】
本発明の治療方法の1つの実施形態は、
ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を予め定めた照射量、人間以外の動物の皮膚に照射する第1ステップと、
前記皮膚に照射してから1日以上経過した後に、前記光を前記第1ステップの照射量よりも大きい他の照射量、または前記光のピーク波長を短波長化して前記皮膚に照射する第2ステップと
を含む。
【0113】
この実施形態において、第1ステップにおける予め定めた照射量は、患部の状態および/または動物の全身状態などを考慮して獣医師が適宜決定し得る。予め定めた照射量は、例えば300mJ/cm2以下であり、特に10mJ/cm2以上300mJ/cm2以下であり、具体的には、10mJ/cm2、20mJ/cm2、30mJ/cm2、50mJ/cm2、80mJ/cm2、100mJ/cm2、200mJ/cm2または300mJ/cm2であり得る。或いは、予め定めた照射量は、治療対象の動物において測定した最小紅斑量に基づいて決定することができる。この場合、予め定めた照射量は、例えば、最小紅斑量の5%以上60%以下の量であり得、より具体的には、最小紅斑量の50%、40%、30%、20%または10%の量であり得る。
【0114】
他の照射量は、治療対象である動物の皮膚においてサンバーンが起こらない大きさであって、予め定めた照射量より、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2高い照射量であり得、或いは、予め定めた照射量より、例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%高い照射量であり得る。
【0115】
この実施形態において、第1ステップにおけるピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、ピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある光であり得、第2ステップにおけるピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、ピーク波長が315nm乃至325nmの範囲にある光であり得る。
【0116】
本発明の治療方法の1つの具体的実施形態は、
(a)315nm乃至335nmの範囲にピーク波長を有する光を予め定めた第1の照射量で人間以外の動物の皮膚に1回または複数回照射するステップと、
(b)前記ピーク波長を有する光を第1の照射量より大きい第2の照射量で前記皮膚に1回または複数回照射するステップと、
(c)ステップ(b)を繰り返すステップであって、繰り返すごとに第2の照射量は漸増するステップ
をこの順で含む。
【0117】
この実施形態の方法は、ステップ(c)の後に、
(d)315nm乃至335nmの範囲内であって前記ピーク波長(第1のピーク波長)より短いピーク波長(第2のピーク波長)を有する光を予め定めた第3の照射量で前記皮膚に1回または複数回照射するステップ
を更に含んでもよい。
【0118】
この実施形態の方法は、ステップ(d)の後に、
(e)ステップ(d)を繰り返すステップであって、繰り返すごとに第3の照射量は漸増するステップ
を更に含んでもよい。
【0119】
この実施形態の方法は、ステップ(e)の後に、
(f)305nm乃至315nmの範囲にピーク波長(第3のピーク波長)を有する光を予め定めた第4の照射量で前記皮膚に1回または複数回照射するステップ
を更に含んでもよい。
【0120】
この実施形態の方法は、ステップ(f)の後に、
(g)ステップ(f)を繰り返すステップであって、繰り返すごとに第4の照射量は漸増するステップ
を更に含んでもよい。
【0121】
この具体的実施形態において、ステップ(a)におけるピーク波長(以下、「第1のピーク波長」ともいう)は、315nm乃至335nmの範囲内にある限り特に限定されないが、例えば(特に、治療方法がステップ(d)を含む場合)、315nm乃至335nmの範囲の長波長側の範囲、具体的には325nm乃至335nmの範囲にあり得る。
ステップ(a)における第1の照射量は、第1ステップにおける予め定めた照射量について上述したとおりである。
ステップ(b)における第2の照射量は、第1の照射量より、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2高い照射量であり得、或いは、第1の照射量より、例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%高い照射量であり得る。第2の照射量は、当該動物の皮膚においてサンバーンが起こらない照射量である。
【0122】
ステップ(c)においては、第1のピーク波長を有する光が1回または複数回の照射ごとに漸次増量する照射量で動物の皮膚に照射される。
ステップ(c)における漸増量は、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2であり得、或いは、第1の照射量の例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%であり得る。
ステップ(c)において漸増する照射量の上限は、第1のピーク波長を有する光が当該動物の皮膚においてサンバーンを引き起こさない照射量である。すなわち、ステップ(c)は、照射量が前記上限量に達するまで繰り返すことができる。
【0123】
ステップ(d)における第2のピーク波長は、315nm乃至335nmの範囲内にあって、第1のピーク波長より短い限り特に限定されない。第2のピーク波長は、第1のピーク波長より、例えば5nm、10nm、15nmまたは20nm短い波長であり得る。例えば、第1のピーク波長が325nm乃至335nmの範囲にある場合、第2のピーク波長は315nm乃至325nmの範囲にあり得る。
ステップ(d)における第3の照射量は、第1ステップにおける予め定めた照射量について上述したとおりである。第3の照射量は第1の照射量と同じであってもよい。
【0124】
ステップ(e)においては、第2のピーク波長を有する光が1回または複数回の照射ごとに漸次増量する照射量で動物の皮膚に照射される。
ステップ(e)における漸増量は、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2であり得、或いは、第3の照射量の例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%であり得る。
ステップ(e)において漸増する照射量の上限は、第2のピーク波長を有する光が当該動物の皮膚においてサンバーンを引き起こさない照射量である。すなわち、ステップ(e)は、照射量が前記上限量に達するまで繰り返すことができる。
【0125】
ステップ(f)における第3のピーク波長は、305nm乃至315nmの範囲内にある限り特に限定されない。
ステップ(f)における第4の照射量は、第1ステップにおける予め定めた照射量について上述したとおりである。第4の照射量は第1の照射量と同じであってもよい。
【0126】
ステップ(g)においては、第3のピーク波長を有する光が1回または複数回の照射ごとに漸次増量する照射量で動物の皮膚に照射される。
ステップ(g)における漸増量は、例えば30mJ/cm2乃至200mJ/cm2、より具体的には50mJ/cm2乃至150mJ/cm2であり得、或いは、第4の照射量の例えば5%乃至50%、より具体的には10%乃至20%であり得る。
ステップ(g)において漸増する照射量の上限は、第3のピーク波長を有する光が当該動物の皮膚においてサンバーンを引き起こさない照射量である。すなわち、ステップ(g)は、照射量が前記上限量に達するまで繰り返すことができる。
【0127】
各ステップにおける照射回数は、患部の状態および/または動物の全身状態などを考慮して獣医師が適宜決定し得るが、例えば、1回乃至14回であり得る。照射回数は各ステップで同じであってもよいし、ステップごとに異なってもよい。
照射間隔は、患部の状態および/または動物の全身状態などを考慮して獣医師が適宜決定し得るが、例えば24時間(1日)以上であり得、より具体的には1日乃至7日であり得る。照射間隔は治療期間を通じて同じであってもよいし、ステップごとに異なってもよい。
【0128】
本発明の治療方法は、上述した本発明の治療器を用いて実施することができる。
【0129】
(治療プロトコル)
図14は、本発明の治療方法に用いられる1つの具体的治療プロトコルを示すフローチャートである。
次に、図14を参照しながら、動物用光線治療器1を用いた動物の治療プロトコルについて説明をする。なお、図14に示す治療プロトコルの概略を説明すると、まず、患部に光を照射してから予め定めた期間経過後に治療効果を確認し、未治癒の場合には照射量を増量して患部に光を照射することを繰り返す。また、図14に示す治療プロトコルにおいては、まず330nmの光を用いて治療を行うとともに、照射量を増量しながら照射を繰り返しても未治癒の場合には、より短波長である320nmの光(あるいは310nm)の光へと切り替えて、照射が繰り返される。
【0130】
以下、治療プロトコルを具体的に説明する。
まず、患部に対して、照射量300mJ/cm2が照射される(S801)。このとき照射されるのは、330nmの光である。また、300mJ/cm2の照射量は、例えば、放射照度が6.5mW/cm2の光を46秒照射することにより実現される。
【0131】
そして、予め定めた期間(1日乃至14日)経過後に、治癒しているかの判断(診断)を行う(S802)。治癒している場合(S802でYES)には、治療が完了したとして治療プロトコルを終了する。一方、治癒していない場合(S802でNO)には、照射量を400mJ/cm2に増量して患部に照射がなされる(S803)。すなわち、増量前(S801)と比較して、100mJ/cm2照射量が増量される。
【0132】
そして、詳細な説明は省略するが、増量した照射量の光を照射した後の診断において、治癒していないことが確認されると、100mJ/cm2照射量を増量することが繰り返される。そして、照射量の増量が繰り返され、1400mJ/cm2の照射量が患部に照射された(S804)後、治癒しているかの判断を行う(S805)。治癒している場合(S805でYES)には、治療が完了したとして治療プロトコルを終了する。一方、治癒していない場合(S805でNO)には、最大照射量である1500mJ/cm2に増量されて患部に照射される(S806)。そして、治癒しているかの判断を行う(S807)。治癒している場合(S807でYES)には、治療が完了したとして治療プロトコルを終了する。
【0133】
また、治癒していない場合(S807でNO)には、より短波長の光が出力可能であるかを判断する(S808)。そして、より短波長の光が出力可能である場合(S808でYES)、短波長を出力する設定を行う(S809)。この例においては、330nmの光から320nmの光に切り替えることが可能であるため、短波長化された320nmの光に切り替えられる(S809)。そして、320nmの光が、患部に対して300mJ/cm2照射される(S801)。
【0134】
その後、320nmの光を用いたステップ(S802乃至S805)が実行された後、320nmの光が1500mJ/cm2に増量されて患部に照射され(S806)、治癒しているかの判断を行う(S807)。治癒していない場合(S807でNO)には、より短波長の光が出力可能であるかを判断する(S808)。そして、より短波長の光が出力可能である場合(S808でYES)、短波長化された光を出力する設定を行う(S809)。この例においては、320nmの光から310nmの光に切り替えられる。そして、310nmの光が患部に対して300mJ/cm2照射される(S801)。
【0135】
その後、310nmの光を用いたステップ(S802乃至S805)が実行された後、310nmの光が1500mJ/cm2に増量されて患部に照射され(S806)、治癒しているかの判断を行う(S807)。そして、治癒していない場合(S807でNO)には、より短波長の光が出力可能であるかを判断する(S808)。ここで、動物用光線治療器1においては310nmの光よりも短波長の光は出力不可能である。したがって、より短波長の光が出力可能でないと判断され(S808でNO)、治療を中止して、治療プロトコルは終了する。
【0136】
さて、一般的には、人間のUV-B治療規格において、320nm以上の範囲では、320nm未満と比較して、人間への影響が小さいことが知られている。したがって、動物用光線治療器1によって出力可能な310nmの光、320nmの光、および330nmの光のうち、320nmの光および330nmの光によれば、動物用光線治療器1のユーザである人間への影響が抑制され得る。そこで、上記治療プロトコルでは、ユーザへの影響が最も小さくかつ動物の治療効果がある330nmの光を用いてまず治療を行う。そして、治療効果が弱い場合は、ユーザへの影響が次に小さくかつ動物の治療効果がある320nmの光を用いて治療を行う。そして、まだ治療効果が弱いようなら、310nmの光を用いて治療を行う。このように、330nmの光を用いてまず治療を行うことで、人間のUV-B治療で用いられる光よりも、DNA損傷の影響が小さくなり、結果として動物やユーザに対して安全な光で治療を実行し得る。
【0137】
付言すると、動物用光線治療器1が治療対象とするイヌなどの動物は、動物用光線治療器1によって光を照射している間、治療者であるユーザが動物の体を押さえていることがある。このようにユーザが抑えている状態において、治療中に動物が突然動き出すと、ユーザの腕や顔などに光が照射される状況が起こり得る。このような状況が発生したとしても、ユーザの体への影響を抑制するため、上記治療プロトコルにおいては長波長の光を優先して用いている。
【0138】
ここで、上記では説明を省略したが、治療プロトコルにおける治癒しているかの判断(S802など)においては、紅斑などの有害事象の発生の有無についてもあわせて確認する。すなわち、上記治療プロトコルにおいては、紅斑などの有害事象が発生しない範囲で、照射量が増量される。
【0139】
ここで、有害事象が認められた場合、以下のようなプロトコルが適用されてもよい。
まず、有害事象として淡い紅斑が認められた場合は、前回の照射の際と同じ照射量で患部を照射する。すなわち、有害事象として淡い紅斑が認められた場合は、照射量の増量は行わないものの、光の照射自体は行われる。
また、有害事象として境界明瞭な紅斑が認められた場合は、その日は光の照射をせず、次回、すなわち予め定めた期間(1日乃至14日)経過後に、前回と同じ照射量を照射する。
【0140】
また、有害事象として痛みを伴う紅斑、浮腫性紅斑、あるいは水疱が認められた場合、これらの症状が治まる(改善する)のを待つ。すなわち、治療プロトコルを中断する。そして、症状の改善後は、照射量を半減させて、治療プロトコルを再開する。
また、上記図14の説明においては、治療プロトコルを終えることを説明したがこれに限定されない。例えば、症状を観察しながら、7日乃至14日間隔で継続して実施し、治癒ではなく症状の維持を目的とした治療を施してもよい。
【0141】
また、図14に示す治療プロトコルにおいては、100mJ/cm2ずつ照射量を増量することを説明したが、照射量を段階的に増量する構成であれば、これに限定されない。例えば、300mJ/cm2ずつ照射量を増量させてもよい。また、照射量の増量分は毎回一定でなくてもよい。
【0142】
また、図14に示す治療プロトコルにおいては、330nmの光から320nmの光に切り替えた後(S809)、320nmの光を300mJ/cm2照射する(S801)ことを説明したが、これに限定されない。例えば、330nmの光を最大照射量である1500mJ/cm2照射しても治療効果が得られなかった場合、320nmの光に切り替えた後(S809)、300mJ/cm2よりも大きな照射量、例えば1000mJ/cm2照射するなどしてもよい。300mJ/cm2よりも大きな照射量を照射することにより、治療期間を短縮し得る。
また、上記の説明とは異なり、330nmの光を予め定めた照射量(例えば1000mJ/cm2)照射し、予め定めた期間(1日乃至14日)経過後に治療効果が確認できなければ、より短波長の光(例えば、320nmの光)を予め定めた照射量(例えば1000mJ/cm2)照射してもよい。
【0143】
治療プロトコルにおける照射量300mJ/cm2を照射するステップ(S801)は、第1ステップの一例である。治療プロトコルにおける照射量400mJ/cm2を照射するステップ(S803)は、第2ステップの一例である。治療プロトコルは、人間以外の動物の治療方法の一例である。
【0144】
本発明の治療方法(例えば上記治療プロトコル)は、PUVA療法におけるソラレンのような光増感剤を用いた後にピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光を照射してもよい。すなわち、内服、注射または外用などにより光増感剤を処方した後に照射してもよい。また、治療対象の疾患がアレルギーまたは免疫系疾患である場合には、ステロイド剤、ヤヌスキナーゼ阻害剤および/またはシクロスポリン剤を用いる治療と、治療対象の疾患が肥満細胞腫またはリンパ腫である場合には、分子標的薬(例えば、パラディア(登録商標)錠;ZOETIS社製)を用いる治療と併用されてもよい。
【0145】
<試験>
図15は最小紅斑量試験の試験結果を示すテーブルである。
図16(a)および(b)はアレルギー反応抑制試験の試験結果を示すグラフである。
図17はアレルギー反応抑制試験の試験結果を示すテーブルである。
次に、図15図16(a)および(b)、図17を参照しながら、本発明の治療方法を、動物用光線治療器1を用いて実施した試験結果として、最小紅斑量試験の試験結果、およびアレルギー反応抑制試験の試験結果について説明をする。
【0146】
(最小紅斑量試験)
まず、図2および図15を参照しながら、最小紅斑量試験の試験結果について説明をする。ここで、最小紅斑量とは、紫外線を皮膚に照射することにより急性症が発生する、最小の照射量である。なお、ここでの急性症状は、サンバーンである。そして、サンバーンは、DNA損傷が主因となり、毛細血管が炎症反応として充血を起こすことによって、皮膚が赤くなる状態である。付言すると、サンバーンが起こることにともない、皮膚ガンのリスクが生じることが知られている。
【0147】
また、図15に示す試験においては、あらかじめ、イヌの背中の毛を部分的に剃り皮膚を露出させた。そして、露出した皮膚に対して照射量を変化させながら波長の異なる光を照射し、その反応を確認した。具体的には、第1LED211からの光、すなわち310nmの光を、イヌA乃至イヌEの計5頭に照射した。このとき、イヌA乃至イヌEの各々に4つの被照射野を確保し、各被照射野を200mJ/cm2、400mJ/cm2、800mJ/cm2、1500mJ/cm2の照射量で照射した。また、第2LED212からの光、すなわち320nmの光を、イヌDおよびイヌEの計2頭に照射した。このとき、イヌDおよびイヌEの各々に4つの被照射野を確保し、各被照射野を200mJ/cm2、400mJ/cm2、800mJ/cm2、1500mJ/cm2の照射量で照射した。
【0148】
上記条件での照射後に、各被照射野におけるサンバーンを確認した。そして、各イヌにおけるサンバーンが確認された被照射野のうち、最も小さい照射量を最小紅斑量とした。なお、サンバーンの確認においては、照射前および照射から24時間経過後の各々におけるイヌの皮膚を撮像し、各画像における赤味を算出することにより判定を行った。
【0149】
図15に示すように、310nmの光においては、個体差が大きいものの、最小紅斑量が400~1500mJ/cm2であることが確認された。一方、320nmの光においては、1500mJ/cm2でも紅斑が確認されなかった。このことから、310nmの光よりも、320nmの光の方が、サンバーンが起こりづらいことが確認された。すなわち、310nmの光よりも、320nmの光の方が、紫外線を皮膚に照射することによる副反応が抑制されることが確認された。さらに言い替えると、310nmの光よりも、320nmの光の方が、イヌの安全性が高まることが確認された。また、320nmの光においては、1500mJ/cm2でも紅斑が確認されなかったことから、光を照射することによる皮膚ガンの発生リスクも抑制されることが確認された。
【0150】
なお、上記の最小紅斑量試験においては、いずれの波長においても、最小紅斑量が400mJ/cm2以上であることが確認された。そこで、以下で説明するアレルギー反応抑制試験においては、400mJ/cm2よりも小さい照射量、具体的には300mJ/cm2とし、サンバーンが発生することを抑制した。なお、ここでは照射量を300mJ/cm2としたが、300mJ/cm2よりも小さくてもよい。すなわち、照射量を300mJ/cm2以下として設定してもよい。
【0151】
(アレルギー反応抑制試験)
次に、図2図16(a)および(b)、図17を参照しながら、アレルギー反応抑制試験の試験結果について説明をする。
まず、図16(a)および(b)、図17に示す試験においては、あらかじめ、イヌの背中の毛を部分的に剃り露出した皮膚に対して光を照射した。具体的には、第1LED211乃至第3LED213の各々からの光、すなわち310nmの光、320nmの光、および330nmの光をそれぞれ4頭のイヌ(健常ビーグル)に対して毎日300mJ/cm2、単回照射することを4日間にわたって行った。そして、5日目に、アレルギー誘発剤を上記被照射野および被照射野以外(非照射野)に皮内注射した。また、アレルギー誘発剤は、各々の濃度が1桁異なる2つの濃度(生理食塩水中10-6g/mLおよび10-5g/mL)、すなわち低濃度および高濃度のアレルギー誘発剤を用い、0.05mLの容量を皮内注射した。
【0152】
ここでのアレルギー誘発剤は、ポリ硬化オキシひまし油60(HCO‐60)を指す。HCO‐60は脂溶性注射溶剤の可溶化剤であるが、1.25mg/kg以上の用量でイヌに静脈内注射をすると用量依存性に血圧低下、紅潮、浮腫と掻痒を生じ、血漿中ヒスタミン濃度が上昇する。そして、この反応は、抗ヒスタミン剤により抑制されることが報告されている(参考文献、Hisatomi A., et al., J toxicol sci., 18(Suppl3), 1993)。また、イヌの皮膚に皮内注射すると15分以内に紅斑と膨疹が形成され、その注射部位では肥満細胞の脱顆粒が観察される。そして、この紅斑と膨疹の形成は、抗ヒスタミン剤により抑制される(Sugiyama Y., Kawarai S., et al., Vet dermatol.,27(suppl 1) 2016)。すなわち、ヒスタミン依存性のアレルギー反応を生じさせるものである。
【0153】
なお、図16(a)および(b)、図17に示す試験においては、アレルギー誘発剤が皮内注射された後、被照射野と非照射野の皮膚を撮像し、各画像における赤味を算出した。図16(a)および(b)に示す数値は、皮内注射する前の部位を1とした際に、皮内注射された部位の赤味値を算出した値である。また、図16(a)および(b)においては、1頭について3か所測定をし、その平均値を示している。また、図16(a)および(b)、図17においては、統計解析として、反復測定分散分析を行い、有意な結果を認めた場合は、Post hoc testとしてDunnet t検定を実施した。なお、p値<0.05である場合、比較した群に違いがあることを示す。すなわち、有意差が認められた群において一方の値が低い場合、低い群ではアレルギー反応(アレルギー誘発剤によって紅斑と膨疹が形成される反応)が抑制されたことを示す。
【0154】
図16(a)および(b)、図17に示すように、アレルギー誘発剤が低濃度の場合には、非照射野と310nmの光(310nm光)、320nmの光(320nm光)、および330nmの光(330nm光)のいずれかの赤味値の結果間に違いがあることが、反復測定分散分析のp値が0.01未満であることから確認された。そして、Dunnet t検定によって、p値が0.01未満であることから非照射野に対していずれの波長も違いがあることが確認された。一方で、アレルギー誘発剤が高濃度の場合には、反復測定分散分析ではp=0.18であり、有意差が認められなかった。しかし、アレルギー誘発剤が高濃度の場合において、Dunnet t検定を行った結果、320nmの光を照射した場合は非照射野の結果と比較して、p値が0.05未満であることが確認された。
【0155】
このことから、320nmの光は、アレルギー誘発剤が薄い場合において顕著に、アレルギー誘発剤が濃い場合において比較的、アレルギー反応の抑制効果があることが示された。また、310nmの光および330nmの光は、アレルギー誘発剤が薄い場合において、アレルギー反応の抑制効果があることが示された。さらに説明をすると、310nmの光、320nmの光、および330nmの光のいずれにおいても、アレルギー反応の抑制効果が確認された。すなわち、動物の免疫異常が関与する皮膚疾患に対して、動物用光線治療器1を用いて実施した本発明の治療方法による治療効果が期待できることが確認された。
【0156】
さて、図15に示すように、320nmの光を照射した場合において、サンバーンが起こりづらい理由は、次のようにも考えられる。まず、DNAの吸収ピークは260nmであり、蛋白質の吸収ピークは280nmであり、さらに両者の吸収スペクトルの裾野は320nm程度までであることが知られる。また、イヌの表皮(皮膚の最表層の組織)の厚みは、人間の表皮(例えば、0.2mm)の半分の厚みであり、人間の表皮と比べて薄い。したがって、人間よりもイヌの方が、紫外線が真皮に達しやすく、結果としてDNA損傷が発生しやすい。また、320nmの光は、310nmの光に比べてサンバーンが起こるほどのDNA吸収がないため、1500mJ/cm2であってもDNA損傷が発生せず、結果としてサンバーンが起こらなかったと考えられる。
【0157】
また、図16(a)および(b)、図17に示すように、アレルギー反応抑制試験においてアレルギー反応の抑制効果が確認された理由は、次のようにも考えらえる。すなわち、310nmの光、320nmの光、および330nmの光を照射することによって、アレルギー反応に寄与する表皮角化細胞から産生される因子を減少させたためと考えられる。
【0158】
なお、人間の乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患治療の1つであるUV-B治療の規格においては、ピーク波長が308nm乃至313nmの波長範囲と定められることがある。人間の場合、この波長範囲より短波長であると皮膚ガンの発生リスクがあり、この波長範囲より長波長であると治療効果が著しく減少するとされている。一方で、図16(a)および(b)、図17に示す試験結果においては、308nm乃至313nmの波長範囲に含まれる310nmの光だけでなく、313nmを超える320nmの光および330nmの光でも、アレルギー反応の抑制効果が確認された。このことは、イヌの表皮が人間の表皮よりも薄いため、320nmの光および330nmの光でも、肥満細胞の脱顆粒による毛細血管の拡張を減少させるのに十分な効果が得られたためとも考えられる。
【0159】
(遺伝子発現解析)
アレルギー反応抑制試験においてアレルギー抑制剤を皮内注射する前に、3頭のイヌ(イヌB、DおよびE)の照射野および非照射野から得た皮膚パンチバイオプシ試料から、トータルRNAを、RNAisoPlus(MACHEREY-NAGEL GmbH & Co.)により粗抽出した後、NucleoSpin(登録商標)RNA Clean-up XS(MACHEREY-NAGEL GmbH & Co.)を用いて精製した。粗抽出および精製は製造業者の取扱説明書に準じて行った。
次に、調製したトータルRNAについてRNA-seq解析を行った(タカラバイオ株式会社)。シーケンス解析には、NovaSeqシステム(イルミナ株式会社)を用い、情報解析は既知遺伝子のみについて行った。
表1に、MrgprX2の発現量(FPKM;Fragments Per Kilobase of exon per Million mapped reads)について、照射野についての値を非照射野についての値で除算して対数変換した得られた値を示す。
【0160】
【表1】
【0161】
表1のデータから、ピーク波長が310nm、320nmまたは330nmである光の照射は、MrgprX2の発現量を概して低減させることが分かる。
理論により拘束されることは意図していないが、遺伝子発現解析の結果を、アレルギー反応抑制試験の結果と、MrgprX2が肥満細胞の脱顆粒応答促進因子の標的分子であること(Tatemoto K et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2006, 349(4):1322-1328)、MrgprX2に対応するマウスMrgprB2の遺伝子欠損マウスでは、偽アレルギー症状を起こす医薬品に対する反応が消失すること(McNeil BD et al., Nature, 2015, 519(7542):237-241)、ヒトの場合、重症の慢性じんま疹患者の皮膚組織ではMrgprX2の発現が亢進していること(Fujisawa D et al., J. Allergy Clin. Immunol., 2014, 134(3):622-633)と併せて考えると、ピーク波長が305nm乃至335nmの範囲にある光は、被照射部位においてMrgprX2の発現量を抑制することにより、該部位におけるアレルギー物質と肥満細胞細胞との反応を阻害し、ヒスタミンなどの生理活性物質の放出を低下させ、結果として、アレルギー性疾患を治療するという機序が示唆される。
【0162】
また、被照射部位においては、ケラチンおよびフィブリリン(FBN2)などの上皮成長因子の遺伝子の発現量が増加していることも確認できた。すなわち、ピーク波長が315nm乃至335nmの範囲にある光は、ピーク波長が305nm乃至315nmの範囲にある光と同様に皮膚創傷治療効果を奏すると推論できる。
【0163】
加えて、310nm、320nm、330nm光の照射により、次の遺伝子の発現量の増加傾向を確認した。
・アルカリホスファターゼ、肝臓/骨/腎臓(ALPL)
・コラーゲンタイプVIアルファ5鎖(COL6A5):人間では表皮基底細胞直上の細胞に発現しており、アトピー性皮膚炎患者では発現が消失していることから、その病態に関連が示唆される
・マトリリン3(MATN3):この遺伝子は皮膚真皮の間質ネットワークの形成に関わる。
・セルピンファミリーEメンバー1(SERPINE1):この遺伝子は線維芽細胞の新生に関与する。
・アグマチナーゼ(AGMAT):この遺伝子はウイルス感染の抑制に関与する。
・MARCO(Macrophage receptor with collagenous structure):この遺伝子は、体内の異物を認識して細胞内に取り込む作用を持つスカベンジャ受容体である。マクロファージに発現して細菌の排除に重要なI型インターフェロンの産生に関わる。
・心筋症関連5(CMYA5):この遺伝子は筋線維芽細胞への分化因子である。
・トロポニンC1およびトロポニンI1:心筋細胞の収縮を調節する因子。すなわち、皮膚における筋線維芽細胞における収縮に関与することが考えられる。
【0164】
また、310nm光の照射により、次の遺伝子の発現量の増加傾向を確認した。
・インターロイキン17B(IL17B):この遺伝子は、線維芽細胞からケモカインを産生して細胞浸潤を誘発する。
・インターロイキン1アルファ(IL1A):炎症性サイトカインであり、紫外線照射により表皮ケラチノサイトより産生が促進される。
【0165】
一方、310nm、320nm、330nm光の照射により、次の遺伝子の発現量の減少傾向を確認した。
・インターロイキン20受容体サブユニットベータ(IL-20RB)
・マトリックスメタロペプチダーゼ1(MMP1)
これらの遺伝子の発現亢進は、皮膚線維芽細胞を障害し、光老化を促進する。
また、310nm光の照射により、次の遺伝子の発現量の減少傾向を確認した。
・中胚葉後部bHLH転写因子1(MESP1)
特に、320nm光の照射により、次の遺伝子の発現量の増加傾向を確認した。
・コラーゲンタイプXIXアルファ1鎖(COL19A1):皮膚プロテオグリカンに関与する3重らせん構造阻害フィブリル関連コラーゲン(FACITコラーゲン)に分類される。皮膚組織の維持に関わると推察され得る。
・筋細胞エンハンサ因子2C(MEF2C):筋細胞分化に関わる遺伝子
・IL-26:この遺伝子は血管形成に関与、すなわち、傷害からの回復を促進する。
【0166】
上記の結果から、310nm、320nmおよび330nm付近の光(特に、320nmおよび330nm付近の光)は、筋線維芽細胞および/または線維芽細胞の分化および/または新生を促進することにより、皮膚再生に関与していると考えられる。そして、320nm付近の光は310nm付近の光より炎症反応が抑制される。
【0167】
(イヌアトピー性皮膚炎の治療結果)
図18(a)はイヌにおけるアトピー性皮膚炎の治療結果を説明する図であり、図18(b)はアトピー性皮膚炎の治療における患部の変化を説明する図である。
イヌアトピー性皮膚炎と診断されて、症状が維持されているイヌ5頭(ビーグル種2頭、ヨークシャーテリア種1頭、トイプードル種1頭、ポメラニアン種1頭)に対する、ピーク波長がそれぞれ310nmおよび320nmにある光の有効性を二重盲検法により比較検討した。動物への各波長の光の照射には、動物用光線治療器1を用いた。
各症例において、LED光照射部位を2か所、ステロイド外用剤塗布部位を1か所、無処置部位を1か所を設定した。
LED光照射による治療は、1週間に1回行い、300mJ/cm2の照射量で開始し、1週間後に紅斑など有害事象が起こらないことを確認の上、100mJ/cm2ずつ照射量を増量し、合計4週間すなわち4回の治療を行った。
ステロイド外用剤による治療は、ステロイド外用剤を1週間に1回、患部に直接塗布する方法で、合計4週間、すなわち4回の治療を行った。
【0168】
有効性を評価するにあたり、症例の各部位の紅斑、脱毛、苔癬化および表皮剥離を指標にアトピー性皮膚炎重症度をスコア化した。
図18(a)は、イヌアトピー性皮膚炎の治療結果を示す。イヌ5頭の各々の治療前の重症度を1としたときの治療期間経過後の重症度(相対値)を評価し、5頭についての平均値および標準偏差として図示した。
図18より明らかなとおり、無処置の部位では、アトピー性皮膚炎は変化なかったが、310nm光または320nm光による治療部位およびステロイド外用剤による治療部位では、アトピー性皮膚炎の症状改善が観察された。すなわち、310nm光または320nm光による治療は、ステロイド外用剤による治療と同様に、アトピー性皮膚炎に対して有効であった。Dunnet t検定を行った結果、320nmの光を照射した場合のみ無処置の結果と比較して、p値が0.05未満であることが確認された。
図18(b)に、310nm光または320nm光による治療部位の治療前後での写真を示す。紅斑・脱毛・苔癬化・表皮剥離のいずれの症状も顕著に改善した。
以上の結果から、本発明の治療方法を、動物用光線治療器1を用いて実施することによりイヌアレルギー性皮膚炎を治療できることが確認された。
【0169】
(皮膚リンパ腫の治療結果)
図19(a)は皮膚リンパ腫の治療における照射条件を説明する図であり、図19(b)は皮膚リンパ腫の治療における患部の変化を説明する図である。
次に、図19(a)および(b)を参照しながら、動物用光線治療器1を用いた皮膚リンパ腫の治療結果について説明をする。なお、以下では、イヌ(チワワ)の鼻腔に発生した皮膚リンパ腫に対して、動物用光線治療器1を用いて行った治療の結果について説明をする。
【0170】
この治療においては、320nmの光を週1回の頻度で患部に照射した。そして、紅斑などの副反応がなければ、毎回100mJ/cm2ずつ照射量を増量しながら照射を繰り返した。具体的には、図19(a)に示すように、1回目は300mJ/cm2の照射量で320nmの光を照射した。さらに説明をすると、図示の例の320nmの光は放射照度が6.5mW/cm2であることから、46秒間患部を照射した。
【0171】
そして、2回目乃至6回目においては、100mJ/cm2ずつ照射量を増量しながら照射した。具体的には、各々400mJ/cm2乃至800mJ/cm2の照射量、すなわち62秒間乃至123秒間患部を照射した。そして、7回目においては、6回目と同じ800mJ/cm2の照射量を照射した。
【0172】
図19(b)に示すように、照射前は、肉眼上、一部灰白色にみられる部位において左鼻腔内に多数のリンパ球浸潤を伴う脱色素(白斑)と炎症像が確認された(「照射前」の円内参照)。この病変が、照射を繰り返すことで軽減され、照射7回目を経た後には肉眼上の脱色素が改善した(「照射7回」の円内参照)。イヌの皮膚リンパ腫は抗癌剤治療を行うことが一般的であり、進行期の余命は3か月程度とされる不治の病気である。動物用光線治療器1を用いて光を照射することで維持が可能であり、イヌの皮膚リンパ腫に対する動物用光線治療器1を用いた本発明の治療方法の治療効果が確認された。
【0173】
<メカニズム>
理論により拘束されることは意図していないが、発明者らは、ピーク波長315nm乃至335nmの波長範囲の光による皮膚疾患治療効果のメカニズムを次のように考えている。
炎症性皮膚疾患は、表皮・真皮に過度な量の炎症細胞(好酸球、Tリンパ球、肥満細胞、好中球、好塩基球)が湿潤・遊走することで発生する。
一般にピーク波長308nm乃至313nmの波長範囲の光を用いるヒトの中波長紫外線療法は、表皮だけに作用するとされる。具体的には、DNAの光吸収を利用し炎症細胞のDNAにダメージを与えて、細胞間質などのタンパク質、特に芳香族アミノ酸の光吸収により一重項酸素や活性酸素種を発生することで、表皮に遊走してきた過度の量の炎症細胞を細胞死させ減少させる。また同様に、表皮中の抗原提示細胞(樹状細胞、単球・マクロファージ、B細胞)の減少や、アレルギー反応に寄与する表皮角化細胞から産生される因子の減少も考えられる。
更には、表皮ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞や、真皮に存在する制御性リンパ球や肥満細胞、線維芽細胞などに光が直接的あるいは間接的に作用して、皮膚に存在する細胞間の情報伝達に影響を与えていることも考えられる。
【0174】
一方、中波長紫外線療法は正常細胞もDNAダメージを受けるという懸念がある。特に、表皮の薄いイヌやネコは、紫外線が真皮にも到達しやすく、表皮・真皮の正常細胞がDNAダメージを受け、最悪の場合、皮膚ガンに至るなどのリスクがある。
そこで、本発明はDNAの光吸収がほとんどないピーク波長315nm乃至335nmの波長範囲の光を用いることで、DNAダメージを与えずに、細胞間質などのたんぱく質の光吸収により一重項酸素や活性酸素種を発生させ、表皮中の炎症細胞や抗原提示細胞、その他アレルギー反応に寄与する因子を減少させる効果があると考える。
【0175】
また、ピーク波長315nm乃至335nmの波長範囲の光を用いることで、一部の光が表皮だけでなく真皮にも到達すると考えている。よって、真皮中の炎症細胞や抗原提示細胞、その他アレルギー反応に寄与する因子を減少させる効果もあると考える。
また、真皮に多く存在する肥満細胞をピーク波長315nm乃至335nmの波長範囲の光が直接的および間接的に減少させたり、肥満細胞の脱顆粒応答促進因子の受容体(MrgprX2など)の発現量を抑制したりすることにより、アレルギー物質と肥満細胞との反応を阻害し、ヒスタミンなどの生理活性物質の放出を低下させ、アレルギー性疾患を治療するとも考えている。
【0176】
さて、上記では種々の実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態や変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。
【0177】
本明細書において、数値範囲「a~b」(a、bは具体的数値)は、両端の値「a」および「b」を含む範囲を意味する。換言すれば、「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0178】
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書または添付図面に記載された具体的な構成および配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法および装置は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解し、容易に認識する。また、1つの実施形態に関して記載された本発明の態様を、そのように具体的に記載されていなくとも、異なる実施形態に組み込んでもよいことに留意すべきである。すなわち、全ての実施形態および/または任意の実施形態の全ての特徴を、如何なる様式および/または組合せでも組み合わせることができる。
【0179】
この出願は、2018年7月11日に出願された日本国特許出願 特願2018-131677号および2019年1月8日に出願された日本国特許出願 特願2019-1243号に関する。
本明細書に記載された学術文献および特許文献の全てを、本明細書に参考文献として援用される。
本明細書に引用した特許、特許出願およびその他の文献は、適用される法が許す範囲内で、言及によって、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容全体が本明細書に組み込まれているものとみなされる。
【符号の説明】
【0180】
1…動物用光線治療器、10…治療器本体、17…切替スイッチ、21…LED、30…コントローラ、211…第1LED、212…第2LED、213…第3LED
図1
図2
図3
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図5
図6
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