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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】垂直共振器面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240313BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343 610
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023013952
(22)【出願日】2023-02-01
(62)【分割の表示】P 2019012881の分割
【原出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2023041840
(43)【公開日】2023-03-24
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】長井 仁史
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 顕一
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-186213(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018017(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/103835(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0047481(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光反射膜と、
前記第1光反射膜の上面に、n側半導体層、活性層、及び、電流注入領域を有するp側半導体層がこの順に積層された窒化物半導体の積層体と、
前記電流注入領域の上面に接触し、前記電流注入領域の周囲の表面に延長する透光性のp電極と、
前記p電極の上に配置され、前記電流注入領域の上面から前記電流注入領域の周囲の表面の少なくとも一部に配置されている、誘電体積層膜を含む第2光反射膜と、
前記電流注入領域の上面と離間し、前記積層体の側面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と、
を備え
前記絶縁膜の一部は前記p電極の上に配置される垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項2】
第1光反射膜と、
前記第1光反射膜の上面に、n側半導体層、活性層、及び、電流注入領域を有するp側半導体層がこの順に積層された窒化物半導体の積層体と、
前記電流注入領域の上面に接触し、前記電流注入領域の周囲の表面に延長する透光性のp電極と、
前記p電極の上に配置され、前記電流注入領域の上面から前記電流注入領域の周囲の表面の少なくとも一部に配置されている、誘電体積層膜を含む第2光反射膜と、
前記電流注入領域の上面と離間し、前記積層体の側面の少なくとも一部を被覆する絶縁膜と、
を備え、
前記p側半導体層は、p側光ガイド層及び該p側光ガイド層の上に配置されたp側コンタクト層を有し、
前記電流注入領域は、上面に前記p側コンタクト層を有し、かつ前記電流注入領域の周囲の表面は前記p側光ガイド層の表面である垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記絶縁膜は、前記p側半導体層の前記電流注入領域の周囲の表面の一部を被覆する請求項1又は2に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記絶縁膜は、前記第2光反射膜と離間している請求項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記電流注入領域の側方で前記p電極と接続し、前記絶縁膜上に配置されたpパッド電極をさらに備える請求項1~のいずれか1項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記pパッド電極は前記第2光反射膜から離間している請求項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記第1光反射膜は、半導体多層膜を含む請求項1~のいずれか1項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記第2光反射膜の上方に、さらに放熱基板を備えた請求項1~7のいずれか1項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【請求項9】
前記p側半導体層の上面の側において、前記n側半導体層の一部が露出しており、該n側半導体層にn電極が接続されている請求項1~8のいずれか1項に記載の垂直共振器面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、垂直共振器面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化物半導体を用いて、垂直共振器型面発光レーザとして機能するレーザ素
子の研究が進められており、例えば、半導体積層体に段差を形成することにより電流狭窄
を行う構造が提案されている(特許文献1等参照)。
GaN系の半導体積層体を有する面発光レーザ素子のp型半導体層への電流狭窄構造と
しては、例えば、p型半導体層の表面に開口を有する絶縁膜を形成し、その開口において
露出したp型半導体層の表面にITOなどの透明電極を形成する構造が挙げられる。絶縁
膜の開口においてp型半導体層と透明電極とが接触している部分が面発光レーザ素子の電
流注入領域である。そして、透明電極の半導体層とは反対側の面には、誘電体多層膜から
なる光反射層が絶縁膜の開口の内部から外部にかけて設けられている。すなわち、誘電体
多層膜は段差のある領域に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-035541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、そのような面発光レーザ素子では、段差の凹の部分が電流注入領域であるため
、誘電体多層膜は、層を重ねるほど段差の影響を受けた段差領域が電流注入領域の中央部
に近づく。誘電体多層膜の反射率は平坦な領域と段差領域とでは異なっている。このため
、そのような面発光レーザ素子では、発振するレーザ光の形状を制御し難いという課題が
ある。
本開示は、上記課題に鑑みなされたものであり、発振するレーザ光の形状を安定化する
ことができる垂直共振器面発光レーザ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様における垂直共振器面発光レーザ素子は、第1光反射膜の上面に、n
側半導体層、活性層及び凸部を有するp側半導体層がこの順に積層された窒化物半導体の
積層体と、
前記凸部の上面に接触し、前記凸部の周囲の表面に延長する透光性のp電極と、
前記凸部の上方から側方まで延長し、前記p電極の上に配置され、誘電体積層膜を含む
第2光反射膜と、
前記凸部の上面と離間し、少なくとも前記p側半導体層の前記凸部の周囲の表面の一部
を被覆する絶縁膜を備える。
【発明の効果】
【0006】
上記の一態様の垂直共振器面発光レーザ素子によれば、発振するレーザ光の形状を安定
化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子の構造を説明するための要部の概略平面図である。
図1B図1AのIB-IB線の概略断面図である。
図1C図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の電流狭窄構造における積層構造を示す要部の概略断面図である。
図2図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の変形例を示す要部の概略断面図である。
図3A図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明するための概略平面図である。
図3B図3AのIIIB-IIIB線の概略断面図である。
図4A図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明するための概略平面図である。
図4B図4AのIVB-IVB線の概略断面図である。
図5A図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明するための概略平面図である。
図5B図5AのVB-VB線の概略断面図である。
図6A図2の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明するための概略縦断面図である。
図6B図2の垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法を説明するための概略縦断面図である。
図7図1Aの垂直共振器面発光レーザ素子の上方からの近視野像を示す写真である。
図8】変形例の垂直共振器面発光レーザ素子の要部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施の形態について適宜図面を参照して説明する。ただし、以下に説明
する実施の形態は、本開示の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載が
ない限り、本開示を以下のものに限定しない。また、一の実施の形態、実施例において説
明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。各図面が示す部材の大きさ
、厚み、位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0009】
本発明の一実施形態の垂直共振器面発光レーザ素子は、図1A及び1Bに示すように、
第1光反射膜1と、窒化物半導体の積層体5と、透光性のp電極6と、第2光反射膜8と
、絶縁膜7を備える。積層体5は、第1光反射膜1の上面に配置されており、n側半導体
層2、活性層3及び凸部4aを有するp側半導体層4がこの順に積層されている。p電極
6は、凸部4aの上面に接触し、凸部4aの周囲の表面に延長する。第2光反射膜8は、
凸部4aの上方から側方まで延長し、p電極6の上に配置され、誘電体積層膜を含む。絶
縁膜7は、凸部4aの上面と離間し、少なくともp側半導体層4の凸部4aの周囲の表面
の一部を被覆する。すなわち、絶縁膜7は凸部4aの上面には設けられていない。
このような構成を有する垂直共振器面発光レーザ素子とすることにより、p側半導体層
の凸部の上面を電流注入領域として、第2光反射膜8のうち電流注入領域の直上に位置す
る部分を平坦にすることができる。これにより、電流注入領域の直上において第2光反射
膜8による散乱による光のロスを低減することができる。その結果、垂直共振器面レーザ
素子から発振するレーザ光の形状を安定化することができる。また、垂直共振器面発光レ
ーザ素子の閾値電流の低下を図ることが可能となる。なお、本明細書において、n側半導
体層2からp側半導体層4に向かう方向を上方という。図において上下が逆転した場合で
あっても、n側半導体層2からp側半導体層4に向かう方向を上方として説明する。
【0010】
(窒化物半導体の積層体)
窒化物半導体の積層体5は、例えば、GaN系半導体からなるn側半導体層2、GaN
系半導体からなる活性層3、GaN系半導体からなるp側半導体層4が、第1光反射膜1
上にこの順に積層されて構成されている。GaN系半導体としては、例えば、AlGaN
、GaN、InGaNが挙げられる。
n側半導体層2は、単層又は多層であり、n型不純物、例えば、Si等をドープしたn
型層を1層以上有する。活性層3は、例えば、InGaNよりなる量子井戸層と、GaN
よりなる障壁層とを交互に積層した積層体である。積層数は所望の特性により適宜設定す
ることができる。p側半導体層4は、p側光ガイド層と、その上に配置されたp側コンタ
クト層を有することができる。p側コンタクト層は、p型不純物、例えば、Mg等がドー
プされた層である。p側光ガイド層は、p型不純物を、p側コンタクト層よりもp型不純
物を低濃度でドープした層又はアンドープの層とすることができる。この場合、p側コン
タクト層はp側半導体層4の最上層とする。
【0011】
n側半導体層2、活性層3及びp側半導体層4の各厚みは、適宜設定することができる
。後述する第1光反射膜1の上面から第2光反射膜8の下面までの全膜厚をλ/2nの整
数倍とし、その間に定在波が生じるように設定する。そして、定在波の最も強い部分が活
性層3に、定在波の最も弱い部分が、後述する透光性のp電極6に位置するように配置す
る。
【0012】
窒化物半導体層の積層体5は、p側半導体層4の上面に凸部4aを有する。この凸部4
aの上面が電流注入領域として機能する。電流注入領域の直下が発光部となる。凸部4a
の平面視形状としては、円形、楕円形、多角形等の形状が挙げられるが、窒化物半導体の
積層体5により均一な電流を注入することを考慮して、円形であるものが好ましい。凸部
4aの上面の大きさは、例えば、直径又は一辺の長さ3μm~12μmが挙げられる。凸
部4aの側面は、凸部4aの上面に対して垂直でもよく、傾斜していてもよい。例えば、
凸部4aは錐台形状とすることができる。凸部4aの高さは、例えば、十数nm~数百n
mが挙げられ、50nm~200nmとすることができる。
このように、p側半導体層4の上面に凸部4aを形成することにより発光部を規定する
ことができる。また、凸部4aを形成することにより共振器部分とその周辺部とで屈折率
差を与えることができ、横方向の光閉じ込めが可能となる。
【0013】
凸部4aは上方に突出している。凸部4aは、p側半導体層のなかでも、p型不純物を
最も高濃度にドープしたp側コンタクト層によって上面が形成されていることが好ましい
。p側コンタクト層のみによって凸部4a全体が形成されていてもよいが、高濃度にドー
プするp側コンタクト層は比較的薄膜で形成することが好ましく、一方で凸部4aを安定
して形成するためには凸部4aの高さはある程度高いことが好ましい。このため、凸部4
aはp側コンタクト層よりもp型不純物が低濃度にドープされた又はアンドープの層を有
することが好ましい。凸部4aの周囲に位置するp側半導体層4の表面には、このような
低濃度ドープ又はアンドープの層が配置していることが好ましい。この場合、凸部4aの
下方にも、その低濃度ドープ又はアンドープの層が配置されている。このような低濃度ド
ープ又はアンドープの層は、例えばp側光ガイド層である。言い換えると、凸部4aの上
面を構成する層のp型不純物濃度は、凸部4aの周囲の表面を構成する層のp型不純物濃
度よりも高いことが好ましい。これにより、凸部4aの上面は、透光性のp電極6とコン
タクトをとることができる。また、凸部4aの周囲の表面がp電極6と接触していても、
その部分には電流が実質的に注入されないようにすることができる。したがって、電流を
実質的に凸部4aの上面のみから、効率的に注入することができる。凸部4aの周囲の表
面を構成する層のp型不純物濃度は、例えば1×1017cm-3~1×1019cm-3とする
ことができ、凸部4aの上面を構成する層のp型不純物濃度は、例えば1×1020cm-3
~5×1020cm-3とすることができる。凸部4aの周囲の表面を構成する層は、例えば
p側光ガイド層である。凸部4aの上面を構成する層は、p側コンタクト層である。後述
する第2光反射膜8を平坦に形成するために、凸部4aの上面は平坦な面であることが好
ましい。
【0014】
窒化物半導体層の積層体5は、上述した凸部4aの外周部分、つまり凸部4aの上面の
側において、p側半導体層4及び活性層3が厚み方向に除去されて、n側半導体層2が一
部露出していることが好ましい。これにより、レーザ素子に電流を供給するp電極及びn
電極を積層体の同一面側に配置することができる。
【0015】
窒化物半導体層の積層体5は、第1光反射膜1上に配置されている。第1光反射膜1は
、例えば、半導体多層膜、誘電体多層膜を含んで構成される。屈折率が異なる2種以上の
膜を交互に積層することにより、光反射膜を得ることができる。半導体多層膜としては、
窒化物半導体層、例えば、AlGaInN化合物半導体が挙げられる。具体的には、Ga
N、AlGaN、GaInN、AlGaInNが挙げられる。なかでも、GaNと、それ
と格子整合するAlInNとの組み合わせが好ましい。誘電体積層膜としては、例えば、
Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化
物、窒化物又はフッ化物等が挙げられる。
第1光反射膜1は、意図する反射率を得るために、各層を構成する材料、膜厚、積層数
等を適宜選択することができる。例えば、積層膜を構成する各層の厚さはλ/4n(但し
、λはレーザの発振波長、nは各層を構成する媒質の屈折率である)であり、発振波長λ
、発振波長λでの用いる材料の屈折率nによって適宜設定することができる。具体的には
、λ/4nの奇数倍とすることが好ましい。例えば、発振波長λが410nmの発光素子
において、第1光反射膜を、GaN/AlInNから構成する場合、各層の厚みは、40
nm~70nmが挙げられる。積層膜の積層数は、意図する特性により適宜設定すること
ができる。積層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層~100層とすることが
できる。第1光反射膜1の全体の厚みは、例えば、0.08μm~7μmとすることがで
きる。
第1光反射膜1は、レーザ素子の発光部を覆う限り、大きさ及び形状は、適宜設計する
ことができる。
【0016】
第1光反射膜1及び窒化物半導体層の積層体5は、例えば、半導体成長用の基板11の
上に形成することができ、当該分野で公知の方法によって形成することができる。凸部4
aの形成及びn側半導体層2の一部露出は、窒化物半導体層の積層体5を形成した後、フ
ォトリソグラフィ及びエッチングなどの方法を利用すればよい。
【0017】
(p電極6)
p電極6は、p側半導体層4の凸部4aから電流を注入するための電極であり、少なく
とも凸部4aの上面に接触している電極である。p電極6は、凸部4aの側面まで延長し
ていてもよいし、凸部4aの周囲のp側半導体層4の上面にまで延長していてもよい。例
えば、p電極6は、凸部4aの上面から、凸部4aの側面を通って、凸部4a周囲のp側
半導体層4上にまで配置されている。上述したように、凸部4aの上面がp型不純物を高
濃度ドープしたp側コンタクト層によって形成されている場合には、少なくとも凸部4a
の上面で、p電極6から電流を注入することができる。また、上述したように、凸部4a
の周囲に位置するp側半導体層4の表面が、p型不純物を低濃度ドープした層によって形
成されている場合には、p電極6はこの部分でショットキー接触となる。したがって、電
流はp側コンタクト層のみから注入され、p電極6とp側半導体層4の間に絶縁膜を設け
なくても電流狭窄が可能となる。
【0018】
p電極6は、p側半導体層4にのみ接触しているかぎり、その平面積の大きさは特に限
定されず、例えば、凸部4a上面の平面積よりも大きく、p側半導体層4の上面の外縁よ
り内側にその外縁が配置する大きさとすることができる。
p電極6は、レーザ発振する波長域に対して透光性の材料から形成される導電部材であ
る。透光性の材料としては、インジウム-錫酸化物(ITO、SnドープのIn23、結
晶性及びアモルファスを含む)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO)、IFO(Fドープ
のIn23)、酸化錫(SnO2)、ATO(SbドープのSnO2)、FTO(Fドープ
のSnO2)、酸化亜鉛(ZnO、AlドープのZnO、BドープのZnOを含む)、ガ
リウム酸化物、チタン酸化物、ニオブ酸化物、ニッケル酸化物等を母材とする透明導電材
料が挙げられる。具体的にはITOが挙げられる。膜厚は薄いほうが、p電極6による光
吸収を低減することができる一方、抵抗が上昇するため、これらのバランスを考慮して適
宜調整することができる。p電極6の膜厚は、例えば、5nm~100nmが挙げられる
【0019】
(第2光反射膜8)
第2光反射膜8は、p電極6の上に配置され、凸部4aの上面から凸部4aの周囲の表
面の少なくとも一部に配置されている。このような配置により、第2光反射膜8は、電流
注入領域の直上において平坦に形成することができる。凸部4aの周囲の表面の少なくと
も一部とは、例えば、凸部4aを取り囲む領域であって、凸部4aの直径又は一辺の長さ
の10%~50%程度大きくなる直径又は一辺の長さの領域が挙げられる。凸部4aの上
面の面積は電流狭窄を行なうため小さいことが好ましいが、第2光反射膜8の平面積はあ
る程度大きい方が形成しやすい。このため、第2光反射膜8は凸部4aの上面のみではな
く凸部4aの周囲の表面の少なくとも一部を含む領域にまで設けられていることが好まし
い。
第2光反射膜は、誘電体多層膜を含んで構成することができる。第2光反射膜は、上述
した第1光反射膜1で例示した誘電体多層膜と同様の構成とすることができる。例えば、
SiO2/Nb25、SiO2/Ta25、SiO2/Al23が挙げられる。各層の厚さ
はλ/4n(ここで、λはレーザの発振波長、nは各層を構成する媒質の屈折率である)
である。積層数は意図する特性により適宜設定することができる。具体的には、第2光反
射膜8を、SiO2/Nb23等から構成する場合、各層は、40nm~70nmが挙げ
られる。積層膜の積層数は、2層以上が挙げられ、例えば5層~20層とすることができ
る。第2光反射膜8の全体の厚みは、例えば、0.08μm~2.0μmが挙げられ、0
.6μm~1.7μmとすることができる。
第2光反射膜8は、後述する絶縁膜7とは離間して配置されていることが好ましい。
【0020】
(絶縁膜7)
絶縁膜7は、凸部4aの上面と離間して配置される。絶縁膜7は、少なくともp側半導
体層4の凸部4aの周囲の表面の一部を被覆する。絶縁膜7の形成位置及び厚みは、凸部
4aの上面の直上において第2光反射膜8が平坦であるように設定する。絶縁膜7は第2
光反射膜8と離間して配置されることが好ましい。これにより、より確実に凸部4aの上
面の直上において第2光反射膜8を平坦に配置することができる。また、図8に示すよう
に、絶縁膜7の厚みを凸部4aの上面に達しない程度とし、絶縁膜7を、凸部4aの側面
に接するが凸部4aの側面の一部のみ、例えば半分未満を被覆するように配置してもよい
。このような配置であれば、凸部4aの上面の直上において第2光反射膜8を平坦とする
ことができ、且つ、絶縁膜7によってより確実に凸部4aの周囲のp側半導体層4への電
流注入を防止することができる。また、絶縁膜7は、p側半導体層4のみならず、活性層
3の側面と、露出したn側半導体層2の上面の一部を被覆してもよいし、さらに積層体5
の側面を被覆してもよい。
絶縁膜7は、SiO2を含むSiOX系材料、SiN等のSiNY系材料、SiOXY
材料、Ta25、ZrO2、AlN、Al23、Ga23等の無機材料等によって形成す
ることができる。絶縁膜を構成する材料は、積層体5を構成する材料よりも屈折率が小さ
いことが好ましい。
【0021】
(その他の部材)
(パッド電極9p、n電極9n)
垂直共振器面発光レーザ素子10Aは、さらに、p側半導体層4の上に形成された透光
性のp電極6に電気的に接続されたpパッド電極9pと、露出したn側半導体層2に電気
的に接続されたn電極9nとが配置されていることが好ましい。
これらpパッド電極9p及びn電極9nは、当該分野において通常電極として用いられ
る導電性材料の何れによって形成してもよい。例えば、Ti/Pt/Au、Ti/Rh/
Au等が挙げられる。パッド電極9pは、凸部4aの外周を取り囲む形状で配置すること
が好ましい。これにより、パッド電極9pからp電極6を介して、p側半導体層4により
均一に電流を注入することができる。また、パッド電極9pは、第2光反射膜8と離間し
て配置することが好ましい。このように、pパッド電極9pが第2光反射膜8の直下に配
置されないことにより、電流注入領域の直上における第2光反射膜8の平坦性をより確実
に確保することができる。
n電極9n及びパッド電極9pは、同じ又は異なる材料にて単層構造で形成されていて
もよいし、同じ材料によって、同じ積層構造で形成されていてもよいし、異なる材料で異
なる積層構造で形成されていてもよい。n電極9n及びパッド電極9pを同じ材料によっ
て同じ積層構造で形成する場合、n電極9n及びパッド電極9pを同一工程で形成するこ
とができる。
【0022】
(基板11)
窒化物半導体の積層体5は、通常、半導体成長用基板の上に積層されることから、垂直
共振器面発光レーザ素子は、半導体成長用の基板11を有していてもよい。第1光反射膜
1が窒化物半導体から形成される場合は、基板11の上にまず第1光反射膜1を形成し、
その上に積層体5を形成する。また、積層体5を形成した後に、積層体5から半導体成長
用基板を除去し、除去によって露出した積層体5の表面に第1光反射膜1が形成されてい
てもよい。半導体成長用の基板11としては、例えば、窒化物半導体(GaN等)、サフ
ァイア、炭化珪素、シリコン等の基板が挙げられる。
【0023】
(放熱基板12)
上述した垂直共振器面発光レーザ素子は、図2に示すように、放熱基板12に接合され
ていてもよい。放熱基板12としては、AlN等のセラミックス、炭化珪素等の半導体か
らなる半導体基板、金属単体基板又は2種以上の金属の複合体からなる金属基板等が挙げ
られる。例えば、絶縁性のAlNセラミックスを母材とし、その表面に複数の金属膜15
が形成された基板を放熱基板12として用いることができる。金属膜15は、それぞれ、
pパッド電極9p及びn電極9nと電気的に接続される。p電極とn電極が積層体5を挟
んで配置されている場合や、第1光反射膜1の側を放熱基板12に接合する場合など、p
電極とn電極の両方を放熱基板12に電気的に接続する必要がない場合は、放熱基板12
として金属基板などの導電性の基板を用いてもよい。放熱基板12の膜厚は、例えば、5
0μm~500μm程度が挙げられる。
放熱基板12の形成方法は、当該分野で通常使用される方法を利用することができる。
【0024】
(反射防止膜14)
上述した垂直共振器面発光レーザ素子は、第1光反射膜1側からレーザ光が出射される
が、第1光反射膜1の積層体5とは反対側の面、上述した基板11を有する場合には、基
板11の積層体5とは反対側の面に、反射防止膜14を配置していてもよい。反射防止膜
14としては、上述した第1光反射膜1で例示した誘電体多層膜と同様の材料を用いるこ
とができる。積層数や各層の厚みを光反射膜とは異なるものとすることで反射防止機能を
有する膜を形成することができる。例えば、SiO2/Nb25、SiO2/Ta25、S
iO2/Al23等が挙げられる。その厚みは、例えば、0.4μmが挙げられる。
【0025】
〔垂直共振器面発光レーザ素子の製造方法〕
上述した垂直共振器面発光レーザ素子は、例えば、以下の方法により製造することがで
きる。
まず、図3A及び3B等に示すように、半導体成長用の基板11を準備し、第1光反射
膜1を形成し、さらに、第1光反射膜1の上面に、n側半導体層2、活性層3及び凸部4
aを有するp側半導体層4をこの順に積層して窒化物半導体の積層体5を形成する。窒化
物半導体層の積層体5を形成した後、凸部4aの形成の前後に、p側半導体層4及び活性
層3の一部を除去することにより、n側半導体層2の表面を露出させることができる。
その後、図3A及び3Bに示すように、凸部4aの上面に接触し、凸部4aの周囲の表
面に延長する透光性のp電極6を形成する。
続いて、図4A及び4Bに示すように、p側半導体層4の凸部4aの側方等を被覆する
絶縁膜7を形成する。絶縁膜7は、p電極6と接触しないように形成してもよいが、p電
極6の外周を被覆するように、その一部がp電極6を被覆するように形成することが好ま
しい。
任意に、図5A及び5Bに示すように、絶縁膜7を形成した後、pパッド電極9p及び
n電極9nを形成する。特に、pパッド電極9pを、凸部4aよりも大きく、凸部4aの
上面及びその周りを取り囲むようなリング状で形成することによって、pパッド電極9p
からp電極6を介して、p側半導体層4により均一に電流を注入することができる。
次に、図1A及び1Bに示すように、誘電体積層膜を含む第2光反射膜8を形成する。
第2光反射膜8は、p電極6の上であって、凸部4aの上面から少なくとも凸部4aの周
囲の表面の一部の上に形成する。第2光反射膜8は、絶縁膜7とは離間し、接触しないよ
うに配置することが好ましい。このように、第2光反射膜8を形成することにより、図1
Cに示すように、凸部4aの上面、つまり、電流注入領域Xの直上において、第2光反射
膜8を、より確実に、その領域Xの端部まで平坦に配置することができる。これにより、
発光部にキャリアを効果的に注入することができる。その結果、発光部においてレーザ光
を得ることができる。なお、第2光反射膜8は、電流注入領域Xの端部まで平坦に配置さ
れていればよく、その限りにおいて、絶縁膜7と接触してもよい。
【0026】
このようにして得られた垂直共振器面発光レーザ素子を放熱基板に接合する場合、例え
ば、図6Aに示すように、半導体成長用の基板の第1光反射膜1と反対側の面を薄膜化し
て、薄膜化された基板11aを形成する。この際、半導体成長用の基板を完全に除去して
もよい。薄膜化又は除去は、当該分野で公知の研磨方法やエッチング方法等を利用して行
うことができる。
また、図6Bに示すように、基板11aの第1光反射膜1と反対側の面に反射防止膜1
4を形成してもよい。基板11を完全除去する場合は、反射防止膜14は第1光反射膜1
の表面に形成してよい。
さらに、図2に示すように、得られた積層体5を、放熱基板12に接合する。接合に用
いる接合層13は、例えば、上述したpパッド電極9p及びn電極9n等と同様の材料の
ほか、半田等を用いることができる。接合層13は、pパッド電極9p及びn電極9nに
それぞれに接合し、放熱基板12の金属膜15とそれぞれ接合するように配置することが
できる。この場合、接合層13は導電性であり、接合層13を介して、pパッド電極9p
と1つの金属膜15を電気的に接続し、n電極9nと別の金属膜15を電気的に接続する
。また、放熱基板12と得られた積層体5との間、つまり積層体5における接合層13が
配置される領域以外の領域は、空洞のままであってもよいし、絶縁性の放熱部材等によっ
て埋め込んでもよい。
接合は、例えば、図2に示すように接合層13を配置した後、加熱によって接合層13
を軟化させることによって行うことができる。
なお、放熱基板12への積層体5の接合は、基板11の薄膜化等及び/又は反射防止膜
14の形成の前に行ってもよい。
【0027】
試験例1
垂直共振器面発光レーザ素子10Aとして、図1A及び1Bに示すように、GaN基板
11と、窒化物半導体の積層体5と、ITOからなる透光性のp電極6(30nm厚)と
、誘電体積層膜を含む第2光反射膜8(SiO2/Nb23、λ/4厚、15.5ペア)
と、絶縁膜7(SiO2、100nm厚)を有するレーザ素子を形成した。積層体5は、
第1光反射膜1(GaN/Al0.8In0.2N=46.6nm/51.2nm厚)、n側半
導体層2(SiドープGaN)、活性層3(GaN/InGaN)、p側半導体層4(M
gドープGaN及びアンドープAlGaN)がこの順に積層されている。p側半導体層4
は凸部4a(高さ:70nm、直径:5μm、上面視形状:円形)を有する。p電極6は
凸部4aの上面に接触し、凸部4aの周囲の表面に延長している。第2光反射膜8は凸部
4aの側方まで延長し、p電極6の上に配置されている。絶縁膜7は第2光反射膜8と離
間し、p側半導体層4の凸部4aの周囲の表面の少なくとも一部を被覆している。積層体
5は、一部において、p側半導体層4及び活性層3が除去されてn側半導体層2が露出し
ており、その表面及びp電極6上にはn電極9n及びpパッド電極9p(Ti/Pt/A
u、1.5nm/200nm/500nm)が形成された。
【0028】
このような構成の垂直共振器面発光レーザ素子10Aを、室温にて電流(1mA)を注
入して連続動作させたところ、図1Bにおける上方向にレーザ光が出射された。垂直共振
器面発光レーザ素子10Aの上方からその近視野像(NFP)を観察したところ、図7
示すように、電流注入領域(点線)の中央部で発振したことが確認された。図7において
、レーザ光のNFPの形状は概ね円形であり、その中心部の発光強度が最大であるといえ
る。なお、図7では、白色に近いほど発光強度が大きいことを示している。
このように、本実施形態における垂直共振器面発光レーザ素子10Aは、発振するレー
ザ光の形状を安定化することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 第1光反射膜
2 n側半導体層
3 活性層
4 p側半導体層
4a 凸部
5 窒化物半導体の積層体
6 p電極
7 絶縁膜
8 第2光反射膜
9p、9n パッド電極
10A 垂直共振器面発光レーザ素子
11 半導体成長用の基板
12 放熱基板
13 接合層
14 反射防止膜
15 金属膜
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8