(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ケイ素系材料、ケイ素系材料を含む複合材料、二次電池用負極物質および二次電池
(51)【国際特許分類】
C01B 32/907 20170101AFI20240313BHJP
C01B 21/082 20060101ALI20240313BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240313BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240313BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20240313BHJP
【FI】
C01B32/907
C01B21/082 L
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01G11/50
(21)【出願番号】P 2023525063
(86)(22)【出願日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2023001429
(87)【国際公開番号】W WO2023149214
(87)【国際公開日】2023-08-10
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2022014469
(32)【優先日】2022-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】武田 紘太朗
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】武久 敢
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/016280(WO,A1)
【文献】特開2007-045689(JP,A)
【文献】特開2015-160762(JP,A)
【文献】特開2004-273377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00
C01B 21/00
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下、押し込み弾性率が10GPa以上110GPa以下、および弾性変形仕事率が20%以上90%以下からなる群より選択される少なくとも1の物性を有する
ケイ素系材料であって、
前記ケイ素系材料は、ケイ素元素、酸素元素、炭素元素を含む
化合物を90質量%以上含み、前記ケイ素元素、酸素元素、炭素元素を含む化合物はシリコンオキシカーバイド/カーボン複合体であるケイ素系材料。
【請求項2】
ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下で且つ、押し込み弾性率が10GPa以上110GPaである請求項1に記載のケイ素系材料。
【請求項3】
ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下で且つ、弾性変形仕事率が20%以上90%以下である請求項1に記載のケイ素系材料。
【請求項4】
ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み弾性率が10GPa以上110GPa以下で且つ、弾性変形仕事率が20%以上90%以下である請求項1に記載のケイ素系材料。
【請求項5】
前記シリコンオキシカーバイド/カーボン複合体は、SiOxCy (1≦x<2、1≦y≦80)
で表される化合物を含有する請求項1に記載のケイ素系材料。
【請求項6】
窒素元素を含む請求項5に記載のケイ素系材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のケイ素系材料を主成分とするマトリクス相に平均粒径200nm以下のシリコン粒子が分散された複合材料。
【請求項8】
請求項7に記載の複合材料を含む二次電池用負極活物質。
【請求項9】
請求項8に記載の二次電池用負極活物質を含む負極。
【請求項10】
請求項9に記載の負極を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素系材料およびケイ素系材料を含む複合材料に関する。また本発明は前記複合材料を含む二次電池用負極物質、前記二次電池用負極物質を含む負極、前記負極を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられており、電気容量、安全性、作動安定性など複数の特性をバランスよく有することが要求されている。
さらに近年、各種電子機器・通信機器の小型化およびハイブリッド自動車等の急速な普及に伴い、これら機器等の駆動電源として、より高容量であり、かつサイクル特性や放電レート特性等の各種電池特性が更に向上したリチウムイオン二次電池の開発が強く求められている。
【0003】
そこで理論容量が高く、リチウムイオンを吸蔵および放出可能なシリコンが注目されている。シリコン粒子は、充放電における膨張収縮率が体積比で4倍と高いため、充放電時の膨張収縮によるシリコン粒子の破壊を抑制することが課題である。
非特許文献1には150nm以下のシリコン粒子は、表面亀裂が生じにくく、その構造が破壊されにくいとされている。しかしながら、繰り返しの充放電により機械的強度が低下し、最終的には、シリコン粒子の構造が破壊され、結果として電池性能の劣化要因となっている。
【0004】
特許文献1にはシリコン粒子の膨張収縮を抑制する方法として、炭素源をシリコン表面に被覆し複合体とする方法が提案されている。得られる複合体は電気化学的に安定であるが、炭素はシリコンに比較して柔らかく、シリコン粒子の膨張収縮を十分に抑えるまでには至っていない。
【0005】
特許文献2にはシリコン粒子の膨張収縮を抑える方法として、ナトリウムシリケート相とシリコン粒子からなる複合体による方法が報告されており、ビッカース硬度計の測定による硬さが大きいほど電池性能が向上することが報告されている。
しかしながらビッカース硬度計による硬度の測定のみでは、Si粒子の繰り返しの膨張収縮に対する指標としては十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-183043号公報
【文献】WO2019-107032号
【非特許文献】
【0007】
【文献】ACS NANO,6,1522-1531,(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがってシリコン粒子の膨張収縮、および繰り返しの充放電によるシリコン粒子の構造破壊を抑制し、二次電池の容量維持率の改良の評価方法については未だ十分ではなかった。
【0009】
本発明者らはシリコン粒子の膨張収縮を抑制する方法を検討した。その結果、ナノインデンテーション法を用いた力学測定した各種物性を有するケイ素系材料がシリコン粒子の膨張収縮の抑制効果を有することを見出し、本発明に至った。
即ち本発明は、リチウムイオン二次電池に用いられる二次電池用負極活物質および前記二次電池用負極活物質を負極に含む二次電池に関し、容量維持率が改良された二次電池を与えるケイ素系材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の態様を有する。
[1] ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下、押し込み弾性率が10GPa以上110GPa以下、および弾性変形仕事率が20%以上90%以下からなる群より選択される少なくとも1の物性を有するケイ素系材料。
[2] ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下で且つ、押し込み弾性率が10GPa以上110GPaである前記[1]に記載のケイ素系材料。
[3] ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下で且つ、弾性変形仕事率が20%以上90%以下である前記[1]に記載のケイ素系材料。
[4] ナノインデンテーション法を用いた力学強度測定において、押し込み弾性率が10GPa以上110GPa以下で且つ、弾性変形仕事率が20%以上90%以下である前記[1]に記載のケイ素系材料。
[5] 主成分としてケイ素元素、酸素元素、炭素元素を含む前記[1]から[4]のいずれかに記載のケイ素系材料。
[6] 主成分としてSiOxCy (1≦x<2、1≦y≦80)を含む前記[5]に記載のケイ素系材料。
[7] 窒素元素を含む前記[6]に記載のケイ素系材料。
【0011】
また本発明は下記の態様を有する。
[8] 前記[1]から[7]のいずれかに記載のケイ素系材料を主成分とするマトリクス相に平均粒径200nm以下のシリコン粒子が分散された複合材料。
【0012】
さらに本発明は下記の態様を有する。
[9] 前記[8]に記載の複合材料を含む二次電池用負極活物質。
[10] 前記[9]に記載の二次電池用負極活物質を含む負極。
[11] 前記[10]に記載の負極を含む二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池に用いられる二次電池用負極活物質および前記二次電池用負極活物質を負極に含む二次電池に関し、容量維持率が改良された二次電池を与えるケイ素系材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のケイ素系材料(以下、「本ケイ素系材料」とも記す。)はナノインデンテーション法(以下、「NI法」とも記す。)を用いた力学強度測定において、押し込み硬度が1GPa以上11GPa以下(以下、「物性1」とも記す。)、押し込み弾性率が10GPa以上110GPa以下(以下、「物性2」とも記す。)、および弾性変形仕事率が20%以上90%以下(以下、「物性3」とも記す)からなる群より選択される少なくとも1の物性を有する。
前記のとおり、シリコン粒子は高容量であるが充放電における膨張収縮による体積変化が大きく、繰り返しの充放電による機械的強度の低下によるシリコン粒子の構造破壊が起こると考えられる。その結果、二次電池の容量維持率の低下に繋がると考えられる。
【0015】
本発明者らは、前記シリコン粒子の体積変化を抑えるために、シリコン粒子が分散しているマトリクス相に用いるケイ素系材料の強度に着目した。その結果、前記物性1、前記物性2および前記物性3からなる群より選択される少なくとも1つの物性を有するケイ素系材料をマトリクス相に用いると、シリコン粒子の体積変化の抑制に効果があることを見出した。このようなケイ素系材料を用いたマトリクス相とシリコン粒子を組み合わせた複合材料を二次電池用負極活物質として負極に用いることで、容量維持率に優れた二次電池が得られたと考えられる。
【0016】
NI法とは測定装置に、先端に極小のダイヤモンドを使用した突起状のダイヤモンド圧子を取り付け、圧子を押し込むことで微小領域の硬さやヤング率等の力学的強度を測定する方法である。NI法によれば従来の硬さ試験では測定できなかった微小試料や薄膜試料の力学的特性を測定することができる。
NI法の測定方法はISO14577により規格化されている。
【0017】
従来、粒子状物質の機械的強度を測定する手段として、マイクロビッカース硬度測定法がある。しかしながら、マイクロビッカース硬度測定法では粒子表面の押し込み硬度のみ測定が可能であり、押し込み弾性率や弾性変形仕事率の測定を行うことは不可能である。また、押し込み弾性率は原子間力顕微鏡などで測定できるが、同様にその他の物性を同時に測定することは不可能である。したがって、粒子状物質の前記物性1から3の評価を行なうためには、これらの異なる測定方法を組合わせる必要があるため、評価が煩雑となる。
一方、NI法では粒子表面に一度圧子を押し込むことで押し込み硬度、押し込み弾性率、および弾性変形仕事率の3つの物性を測定することが可能である。即ち、同じ押し込み位置での押し込み硬度、押し込み弾性率、および弾性変形仕事率の3つの物性について同時に測定を行うことが可能であることから、NI法により前記物性1から3を効率よく評価することができる。
さらに、ケイ素元素以外の酸素元素や炭素元素を含むマトリクス相と、シリコン粒子が混在しているケイ素系材料においては、マトリクス相とシリコン粒子の押し込み硬度、および押し込み弾性率が異なることがあり、そのため同一箇所を測定する方法以外では、弾性変形仕事率の正確な値を測定することが困難となる。
【0018】
前記物性1、物性2および物性3はNI法で測定した値であり、本ケイ素系材料は前記物性1、物性2および物性3の少なくとも一つの物性を有する。物性1、物性2および物性3はISO14577で規定されている方法で求めることができる。
本ケイ素系材料を二次電池の負極に用いた場合の二次電池の容量維持率の観点から、前記物性1は5GPa以上が好ましく、6GPa以上がより好ましい。また前記物性1は容量維持率の観点から、9GPa以下が好ましい。
【0019】
本ケイ素系材料を二次電池の負極に用いた場合の二次電池の容量維持率の観点から、前記物性2は40GPa以上が好ましく、50GPa以上がより好ましい。また前記物性2は容量維持率の観点から、100GPa以下が好ましく、80GPa以下がより好ましい。
【0020】
本ケイ素系材料を二次電池の負極に用いた場合の二次電池の容量維持率の観点から、前記物性3は30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。また前記物性3は容量維持率の観点から、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
【0021】
前記物性1を満たすケイ素系材料を構成する物質は、珪素元素と炭素元素と酸素元素を含む物質が好ましく、電池性能に影響の少ない範囲で珪素元素の含有率が高い方がより好ましい。これら元素が結合してマトリックス構造になっている物質がさらに好ましい。
【0022】
前記物性2を満たすケイ素系材料を構成する物質は、珪素元素と炭素元素と酸素元素を含む物質が好ましく、珪素元素と炭素元素が均一に混合している物質が好ましい。これら元素が結合してマトリックス構造になっている物質がさらに好ましい。
【0023】
前記物性3を満たすケイ素系材料を構成する物質は、珪素元素と炭素元素と酸素元素を含む物質が好ましく、珪素元素と炭素元素を均一に混合している物質がより好ましく、炭素元素を珪素元素より多く含む物質がさらに好ましい。これら元素が結合してマトリックス構造になっている物質が特に好ましい。
【0024】
本ケイ素系材料は前記物性1、物性2および物性3の内、少なくとも2つの物性を有するのが好ましく、物性2と物性3を有するのがより好ましい。
【0025】
なおケイ素系材料とはケイ素元素を有する化合物を主成分として含有する材料であり、ケイ素系材料の全質量を100質量%として、ケイ素元素を有する化合物の含有量が少なくとも50質量%である。ケイ素元素を含有する化合物はケイ素そのものでもよい。
本ケイ素系材料中のケイ素元素を有する化合物の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
本ケイ素系材料中のケイ素元素を有する化合物の含有量は100質量%が好ましい。
【0026】
本ケイ素系材料中、主成分としてケイ素元素、酸素元素および炭素元素を含むのが、物性1から3の特性を示す観点から好ましく、ケイ素元素、酸素元素および炭素元素を含む化合物を含むのがより好ましい。本ケイ素系材料は、ケイ素系材料の全質量を100質量%として、ケイ素元素、酸素元素および炭素元素を含む化合物を90質量%以上含有するのがさらに好ましい。ケイ素元素、酸素元素および炭素元素を含む化合物としてシリコンオキシカーバイド/カーボン複合体が挙げられる。
前記複合体は、主成分として下記式(1)で表される化合物を含有するのが好ましい
SiOxCy (1)
前記式(1)中、xはケイ素に対する酸素のモル比、yはケイ素に対する炭素のモル比を表す。
前記式(1)で表される化合物において、前記物性1、物性2および物性3の少なくとも1の物性を有するためには、1≦x<2が好ましく、1≦x≦1.9がより好ましく、1≦x≦1.8がさらに好ましい。
また、前記物性1、物性2および物性3の少なくとも1の物性を有するためには、1≦y≦80が好ましく、1.2≦y≦70がより好ましい。
【0027】
本ケイ素系材料の主成分がケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造を有する場合、本ケイ素系材料をマトリクス相に用いた時に、マトリクス相のケイ素-酸素-炭素骨格は化学安定性が高く、フリー炭素との複合構造をとり、このマトリックス構造の変形度合いは小さく、割れにくい。
後述するシリコン粒子がケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素との複合構造体に密に包まれることで、リチウムの吸蔵および放出に対するシリコン粒子の体積変化及び膨張が抑制され、ケイ素の膨張に対しても、マトリックスの構造自体が割れにくくケイ素の表面副反応を抑えることが出来る。その結果、本ケイ素系材料を含む複合材料を負極に用いた場合、負極中のシリコン粒子が充放電性能発現の主要成分とする役割を果たしながら、充放電時に本シリコン粒子の体積変化に伴う粒子の破壊を抑制し、リチウム二次電池の容量維持率が改良される。
このマトリックス相の変形度合いとシリコン粒子の体積変化に伴う粒子の破壊を抑制するのは、押し込み弾性率と弾性変形仕事率が影響するパラメータであり、この値を制御することによってリチウム二次電池の容量維持率が改良される。
【0028】
前記xおよびyはそれぞれの元素の質量含有量を測定した後、モル比(原子数比)に換算することにより求めることができる。この際、酸素と炭素は無機元素分析装置を使用することによって、その含有量を定量でき、ケイ素の含有量はICP発光分析装置(ICP-OES)を使用することによって定量できる。
なお、前記xおよびyの測定は上記記載方法によって実施することが好ましいが、本ケイ素系材料の局所的な分析を行い、それにより得られた含有比データの測定点数を多く取得して、本活物質全体の含有比を類推することでも可能である。局所的な分析としては、例えばエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)や電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)が挙げられる。
【0029】
また本ケイ素系材料の主成分がケイ素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造とフリー炭素を含む構造を有していると、ケイ素-酸素-炭素骨格は、リチウムイオンの接近によりケイ素-酸素-炭素骨格の内部の電子分布に変動が生じ、ケイ素-酸素-炭素骨格とリチウムイオンの間に静電的な結合や配位結合などが形成される。この静電的な結合や配位結合によりリチウムイオンがケイ素-酸素-炭素骨格中に貯蔵される。一方、配位結合エネルギーは比較的低いため、リチウムイオンの脱離反応が容易に行われる。つまりケイ素-酸素-炭素骨格が充放電の際にリチウムイオンの挿入と脱離反応を可逆的に起こすことができると考えられる。
【0030】
前記式(1)で表される化合物はケイ素元素、酸素元素、炭素元素以外に窒素元素を含んでもよい。窒素は後述する本活物質の製造方法において、使用する原料、例えばフェノール樹脂、分散剤、ポリシロキサン化合物、その他の窒素化合物、および焼成プロセスで用いる窒素ガス等がその分子内に官能基として窒素を含む原子団を有することで、前記式(1)で表される化合物に導入することができる。前記式(1)で表される化合物が窒素を含むことで、本ケイ素系材料をマトリクス相に用い負極活物質とした時の充放電性能や容量維持率に優れる傾向にある。
前記式(1)で表される化合物が窒素元素を含む場合、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
SiOaCbNc (2)
式(2)中、aおよびbは前記と同じ意味であり、cはケイ素に対する窒素のモル比を表す。
マトリクス相が前記式(2)で表される化合物を含む場合、前記式(2)で表される化合物において、前記物性1、物性2および物性3の少なくとも1の物性を有するためには、1≦a≦2、1≦b≦80、0<c≦0.5が好ましく、1≦a≦1.9、1.2≦b≦70、0<c≦0.4がより好ましい。
【0031】
前記a、bおよびcは前記xおよびyと同様、元素の質量含有量を測定した後、モル比(原子数比)に換算することにより求めることができる。
前記xおよびyと同様、a、bおよびcの測定は上記記載方法によって実施することが好ましいが、本活物質の局所的な分析を行い、それにより得られた含有比データの測定点数を多く取得して、本活物質全体の含有比を類推することでも可能である。局所的な分析としては、例えばエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)や電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)が挙げられる。
【0032】
前記本ケイ素系材料を主成分とするマトリクス相(以下、「本マトリクス相」とも記す。)に平均粒径が200nm以下のシリコン粒子(以下、「本シリコン粒子」とも記す。)を分散させ複合材料(以下、「本複合材料」とも記す。)とすることができる。
複合材料におけるマトリクス相はリチウムイオンを吸蔵放出が可能な物質である。吸蔵放出が可能な物質とは、電池の充電時にリチウムイオンをマトリクス相内に吸蔵し、放電時にリチウムイオンをマトリクス相内から放出することができる物質である。リチウム二次電池はこの充電と放電によるリチウムイオンの吸蔵と放電のサイクルが繰り返される。
【0033】
本マトリクス相は前記本ケイ素系材料を主成分であり、リチウムイオンを吸蔵放出する。主成分とはマトリクス相の全質量を100質量%として、本ケイ素系材料の含有量が少なくとも50質量%である。
本マトリクス相中の本ケイ素系材料の含有量は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
本ケイ素系材料中のケイ素元素を有する化合物の含有量は100質量%が好ましい。
【0034】
本マトリクス相が本ケイ素系材料以外の物質を含有する場合、含有する物質はリチウムイオンを吸蔵放出が可能な物質であるのが好ましく、リチウムイオンを吸蔵放出が可能な物質としては黒鉛、二酸化ケイ素および酸化チタンが挙げられる。
【0035】
本マトリクス相中に分散される本シリコン粒子は0価のケイ素から構成され、平均粒径は200nm以下である。
ここで平均粒径はレーザー回折式粒度分析計などを用いて測定することができるD50の値である。D50はレーザー粒度分析計などを用い動的光散乱法により測定することができる。本シリコン粒子の平均粒径は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。
【0036】
300nmを超える大サイズのシリコン粒子は、大きな塊となり、本複合材料を負極活物質とした時、充放電時に微粉化現象が起りやすいため、負極活物質の容量維持率が低下する傾向がある。
したがって、本シリコン粒子は300nmを超える大サイズのシリコン粒子および10nm未満の小サイズのシリコン粒子の含有割合が出来るだけ小さいことが好ましい。
前記の観点から、平均粒径は120nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。平均粒径は10nm以上が好ましい。
【0037】
本シリコン粒子は、例えばシリコンの塊を平均粒径が前記範囲となるように粉砕などで粒子化し、得ることができる。
シリコンの塊の粉砕に用いる粉砕機としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどの粉砕機が例示できる。また、粉砕は有機溶剤を用いた湿式粉砕であってもよく、有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類などを好適に用いることができるが、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレンなどの芳香族炭化水素系溶剤も用いることができる。
得られたシリコンの粒子を、ビーズ粒径、配合率、回転数または粉砕時間などのビーズミルの条件を制御し、分級等することで本シリコン粒子の平均粒径を前記範囲とすることができる。
【0038】
本シリコン粒子の形状は前記平均粒径を満たす範囲であれば、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよいが、フレーク状が取り扱いの観点から好ましい。本シリコン粒子がフレーク状の場合、X線回折スペクトルにおける2θが28.4°のピーク半値幅から得られる結晶子サイズが35nm以下であれば、初期クーロン効率および容量維持率の観点から好ましい。結晶子サイズは25nm以下がより好ましい。
【0039】
本シリコン粒子は、本複合材料を負極活物質とした時の充放電性能の観点から、長軸方向の長さが70から300nmが好ましく、厚みは15から70nmが好ましい。負極活物質とした時の充放電性能の観点から、長さに対する厚みの比である、いわゆるアスペクト比が0.5以下であることが好ましい。
本シリコン粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、前記アスペクト比のサンプルをより容易かつ精密に同定することができる。本発明の二次電池用材料を含有する負極活物質の場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察することができ、またはサンプルをスライス加工してTEM観察により本シリコン粒子の状態を同定することができる。
なお前記本シリコン粒子のアスペクト比は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。
【0040】
本複合材料は前記本マトリクス相中に前記本シリコン粒子が分散している。本マトリクス相中に分散している本シリコン粒子の数は1つでもよいが、複数の本シリコン粒子が本マトリクス相中に分散しているのが好ましい。
【0041】
本複合材料の平均粒径が小さすぎると、比表面積の大幅な上昇につれ、本複合材料を活物活物質として二次電池とした時、充放電時に固相界面電解質分解物の生成量が増えることで単位体積当たりの可逆充放電容量が低下することがある。本複合材料の平均粒径が大きすぎると、電極膜作製時に集電体から剥離するおそれがある。
したがって本複合材料の平均粒径は0.5μm以上50μm以下が好ましい。本複合材料の平均粒径は1μm以上がより好ましく、5μm以上が特に好ましい。また、本複合材料の平均粒径は30μm以下がより好ましく、15μm以下が特に好ましい。平均粒径は前記D50の値である。
【0042】
本複合材料の比表面積は0.1m2/g以上50m2/g以下が好ましい。本複合材料の平均粒径は0.2m2/g以上がより好ましく、0.3m2/g以上が特に好ましい。また、本複合材料の平均粒径は30m2/g以下がより好ましく、20m2/g以下が特に好ましい。比表面積が前記範囲であると、電極作製時における溶媒の吸収量を適切に保つことができ、結着性を維持するための結着剤の使用量も適切に保つことができる。なお前記比表面積はBET法により求めた値であり、窒素ガス吸着測定により求めることができ、例えば比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【0043】
本マトリクス相が前記式(1)で表される化合物を主成分とする場合、ケイ素-酸素-炭素骨格構造とともに炭素元素のみで構成される前記フリー炭素を有しているのが好ましい。本複合材料がフリー炭素を有する場合、本複合材料のラマンスペクトルにおいて、グラファイト長周期炭素格子構造のGバンドに帰属される1590cm-1と、乱れや欠陥のあるグラファイト短周期炭素格子構造のDバンドに帰属される1330cm-1付近の散乱ピークが観測される。Dバンドの散乱ピーク強度、I(Gバンド)、に対するGバンドの散乱強度、I(Dバンド)、の強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)が、0.7以上2以下が好ましい。前記散乱ピーク強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)は0.7以上1.8以下がより好ましい。前記散乱ピーク強度比、I(Gバンド)/I(Dバンド)が前記の範囲であるということは、マトリクス中のフリー炭素において以下のことが言える。
【0044】
フリー炭素の一部の炭素原子は、ケイ素-酸素-炭素骨格中の一部のケイ素原子と結合している。このフリー炭素は、充放電特性に影響を与える重要な成分である。フリー炭素は主に、SiO2C2,SiO3C、およびSiO4で構成されるケイ素-酸素-炭素骨格中に形成しているものであり、ケイ素-酸素-炭素骨格の一部のケイ素原子と結合しているため、ケイ素-酸素-炭素骨格内部、および表面のケイ素原子とフリー炭素間の電子伝達がより容易となる。このため本複合材料を二次電池の負極活物質として用いた時の充放電時のリチウムイオンの挿入および離脱反応が速やかに進行し、充放電特性が向上すると考えられる。また、リチウムイオンの挿入および脱離反応によって、負極活物質は僅かではあるが膨張および収縮することがあるが、フリー炭素がその近傍に存在することで負極活物質全体の膨張および収縮が緩和され、容量維持率を大きく向上させる効果があると考えられる。
【0045】
フリー炭素は、前記式(1)で表される化合物を製造する際に後述する前駆体であるケイ素含有化合物および炭素源樹脂の不活性ガス雰囲気中の熱分解に伴い形成する。具体的にはケイ素含有化合物および炭素源樹脂の分子構造中にある炭化可能な部位が不活性化する雰囲気中で高温熱分解によって炭素成分となる。これらの一部の炭素がケイ素-酸素-炭素骨格の一部と結合する。炭化可能な成分は、炭化水素が好ましく、アルキル類、アルキレン類、アルケン類、アルキン類、芳香族類がより好ましく、その中でも芳香族類であることがさらに好ましい。
【0046】
また、フリー炭素が存在することにより、本複合材料の抵抗低減効果が期待され、二次電池の負極として本複合材料を使用した場合、本複合材料内部の反応が均一かつスムーズに起こり、充放電性能と容量維持率のバランスに優れた二次電池用材料が得られると考えられる。フリー炭素の導入はケイ素含有化合物由来だけでも可能であるが、炭素源樹脂を併用することにより、フリー炭素の存在量とその効果の増大が期待される。炭素源樹脂の種類は、特に限定されてないが、炭素の六員環を含む炭素化合物が好ましい。
【0047】
前記フリー炭素の存在状態は、ラマンスペクトル以外に熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)でも同定することが可能である。ケイ素-酸素-炭素骨格中の炭素原子と異なり、フリー炭素は、大気中で熱分解されやすく、空気存在下で測定した熱重量減少量により炭素の存在量を求めることができる。つまり炭素量は、TG-DTAを用いることで定量できる。
また、熱重量減少挙動より、分解反応開始温度、分解反応終了温度、熱分解反応種の数、各熱分解反応種における最大重量減少量の温度などの熱分解温度挙動の変化も容易に把握できる。これら挙動の温度値を用いて炭素の状態を判断することができる。一方、ケイ素-酸素-炭素骨格中の炭素原子、すなわち前記SiO2C2、SiO3C、およびSiO4を構成するケイ素原子と結合している炭素原子は、非常に強い化学結合を有するために熱安定性が高く、熱分析装置測定の温度範囲内では大気中で熱分解されることがないと考えられる。また、本マトリクス相が前記式(1)で表される化合物を主成分として構成される場合、前記式(1)で表される化合物中の炭素は、非晶質炭素と類似する特性を有しているため、大気中において約550℃から900℃の温度範囲に熱分解される。その結果、急激な重量減少が発生する。TG-DTAの測定条件の最高温度は特に限定されないが、炭素の熱分解反応を完全に終了させるために、大気中、約25℃から約1000℃以上までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。
【0048】
また本複合材料は被覆材により表面が被覆されていてもよい。被覆材としては、電子伝導性、リチウムイオン伝導性、電解液の分解抑制効果が期待出来る物質が好ましい。
前記被覆材としては、炭素、チタン、ニッケル等の電子伝導性物質が挙げられる。これらの中でも、負極活物質の化学安定性や熱安定性改善の観点から、炭素が好ましく、低結晶性炭素がより好ましい。
【0049】
被覆材が低結晶性炭素の場合、被覆層の平均厚みは10nm以上300nm以下、または、低結晶性炭素の含有量は本活物質の全量を100質量%として、1から30質量%が好ましい。
被覆材が炭素の場合、炭素の被膜は気相沈積法により本活物質表面に作成するのが好ましい。炭素の被膜の量は本複合材料の質量と炭素の被膜の質量の合計量を100質量%として、1質量%以上10質量%以下が本複合材料の化学安定性や熱安定性の改善の観点から好ましい。
なお本複合材料の質量とは、本複合材料を構成する本マトリクス相および本シリコン粒子の合計量である。本ケイ素系材料が窒素を含む場合は、窒素も含む合計量である。また本複合材料は前記以外に他の必要な第三成分を含んでもよく、本複合材料が他の第三成分を含む場合、第三成分も含む合計量である。
【0050】
本シリコン粒子は、有機溶媒を用いシリコン粒子を湿式粉末粉砕装置にて粉砕しながら行うことでシリコン粒子スラリーとして調整することができる。有機溶媒においてシリコン粒子の粉砕を促進させるために分散剤を用いても良い。湿式粉砕装置としては、例えば、ローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
湿式粉砕ではシリコン粒子が本シリコン粒子の粒径となるまで粉砕するのが好ましい。
【0051】
湿式法で用いる有機溶媒は、シリコンと化学反応しない有機溶媒が挙げられる。例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0052】
前記分散剤の種類は、水系や非水系の分散剤が挙げられる。本シリコン粒子の表面に対する過剰酸化を抑制するため、非水系分散剤の使用が好ましい。非水系分散剤の種類は、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系などの高分子型、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系などの低分子型、ポリリン酸塩系などの無機型が例示される。ケイ素(0価)スラリーにおけるケイ素の濃度は特に限定されないが、前記溶媒および、必要に応じて分散剤を含む場合は分散剤とケイ素の合計量を100質量%として、ケイ素の量は5質量%から40質量%の範囲が好ましく、10質量%から30質量%がより好ましい。
【0053】
前記で得られた本シリコン粒子のスラリーを、本ケイ素系化合物物質と混合し、焼成することで本複合材料が得られる。
例えばマトリクス相が主成分として前記式(1)の化合物を含む場合、前記のようにして調整された本シリコン粒子とポリシロキサン化合物と炭素源樹脂との混合物と混合して懸濁液とし、脱溶媒して前駆体が得られる。得られた前駆体を焼成して焼成物を得、必要に応じて粉砕することで本活物質が得られる。
本シリコン粒子のスラリーは、有機溶媒を用い、シリコン粒子を湿式粉末粉砕装置にて粉砕しながら調整することができる。シリコン粒子の粉砕を促進させるために有機溶媒に分散剤を添加して用いても良い。湿式粉砕装置としてはローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
有機溶媒は、前記と同じ化合物が例示できる。
分散剤の種類も前記と同じ化合物が例示でき、好ましい分散剤の種類も前記のとおりである。またスラリー中のシリコン粒子の濃度も前記のとおりである。
【0054】
前記ポリシロキサン化合物としては、ポリカルボシラン構造、ポリシラザン構造、ポリシラン構造およびポリシロキサン構造を少なくとも1つ含む樹脂が挙げられる。これらの構造のみを含む樹脂であっても良く、これら構造の少なくとも一つをセグメントとして有し、他の重合体セグメントと化学的に結合した複合型樹脂でも良い。複合化の形態はグラフト共重合、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などがある。例えば、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントの側鎖に化学的に結合したグラフト構造を有する複合樹脂があり、重合体セグメントの末端にポリシロキサンセグメントが化学的に結合したブロック構造を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0055】
ポリシロキサンセグメントが、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)で表される構造単位を有するポリシロキサン化合物が好ましい。なかでもポリシロキサン化合物が、シロキサン結合(Si-O-Si)主骨格の側鎖または末端に、カルボキシ基、エポキシ基、アミノ基、またはポリエーテル基を有することがより好ましい。
【0056】
【0057】
【化2】
(前記一般式(S-1)および(S-2)中、R
1は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基またはアルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを表す。R
2およびR
3は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基、エポキシ基、カルボキシ基などを示す。)
【0058】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。前記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0060】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0061】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとしては、例えば、アクリル重合体、フルオロオレフィン重合体、ビニルエステル重合体、芳香族系ビニル重合体、ポリオレフィン重合体等のビニル重合体セグメントや、ポリウレタン重合体セグメント、ポリエステル重合体セグメント、ポリエーテル重合体セグメント等の重合体セグメント等が挙げられる。中でも、ビニル重合体セグメントが好ましい。
【0062】
ポリシロキサン化合物が、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントとが下記の構造式(S-3)で示される構造で結合した複合樹脂でもよく、三次元網目状のポリシロキサン構造を有してもよい。
【0063】
【化3】
(式中、炭素原子は重合体セグメントを構成する炭素原子であり、2個のケイ素原子はポリシロキサンセグメントを構成するケイ素原子である)
【0064】
ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメントは、ポリシロキサンセグメント中に重合性二重結合など加熱により反応が可能な官能基を有していてもよい。熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0065】
重合性二重結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。重合性二重結合は、ポリシロキサンセグメント中に2つ以上存在することが好ましく3から200個存在することがより好ましく、3から50個存在することが更に好ましい。また、ポリシロキサン化合物として重合性二重結合が2個以上存在する複合樹脂を使用することによって、架橋反応が容易に進行させることができる。
【0066】
ポリシロキサンセグメントは、シラノール基および/または加水分解性シリル基を有してもよい。加水分解性シリル基中の加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基はシラノール基となる。前記熱硬化反応と並行して、シラノール基中の水酸基や加水分解性シリル基中の前記加水分解性基の間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0067】
本発明でいうシラノール基とはケイ素原子に直接結合した水酸基を有するケイ素含有基である。本発明で言う加水分解性シリル基とはケイ素原子に直接結合した加水分解性基を有するケイ素含有基であり、具体的には、例えば、下記の一般式(S-4)で表される基が挙げられる。
【0068】
【化4】
(式中、R
4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基等の1価の有機基を、R
5はハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基またはアルケニルオキシ基である。またbは0から2の整数である。)
【0069】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0070】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0071】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0072】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0073】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等が挙げられる。
【0074】
アシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、フェニルアセトキシ基、アセトアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基、ナフトイルオキシ基等が挙げられる。
【0075】
アリルオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等が挙げられる。
【0076】
アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0077】
前記一般式(S-1)および/または前記一般式(S-2)で示される構造単位を有するポリシロキサンセグメントとしては、例えば以下の構造を有するもの等が挙げられる。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
重合体セグメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて各種官能基を有していても良い。かかる官能基としては、例えばカルボキシル基、ブロックされたカルボキシル基、カルボン酸無水基、3級アミノ基、水酸基、ブロックされた水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、1級アミド基、2級アミド、カーバメート基、下記の構造式(S-5)で表される官能基等を使用することができる。
【0082】
【0083】
また、前記重合体セグメントは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合を有していてもよい。
【0084】
上記ポリシロキサン化合物は、例えば、下記(1)から(3)に示す方法で製造することが好ましい。
【0085】
(1)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0086】
(2)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0087】
(3)前記重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物と、ポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
前記方法によりポリシロキサン化合物が得られる。
ポリシロキサン化合物としては、例えば、セラネート(登録商標)シリーズ(有機・無機ハイブリッド型コーティング樹脂;DIC株式会社製)やコンポセランSQシリーズ(シルセスキオキサン型ハイブリッド;荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0088】
前記炭素源樹脂は、ポリシロキサン化合物との混和性が良く、また、不活性雰囲気中、高温焼成により炭化され、芳香族官能基を有する合成樹脂や天然化学原料が好ましい。
【0089】
合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられるが、安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0090】
特に、炭素源樹脂が芳香族炭化水素部位を含む樹脂であることが好ましく、芳香族炭化水素部位を含む樹脂がフェノール樹脂、エポキシ樹脂、または熱硬化性樹脂が好ましく、フェノール樹脂はレゾール型が好ましい。
フェノール樹脂としては、例えばスミライトレジンシリーズ(レゾール型フェノール樹脂,住友ベークライト株式会社製)が挙げられる。
本複合材料の製造においては、前記物性1から3の少なくともいずれか1の物性を有する本ケイ素系材料が得られるという観点から、前記ポリシロキサン化合物を炭素源樹脂としてフェノール樹脂との組合せが好ましい。
【0091】
本シリコン粒子のスラリーを前記ポリシロキサン化合物と前記炭素源樹脂との混合物と混合し、脱溶媒して前駆体が得られる。
ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂を含む混合物は、ポリシロキサン化合物と炭素源樹脂とが均一に混合した状態であることが好ましい。前記混合は分散および混合の機能を有する装置を用いて行われる。分散および混合の機能を有する装置としては、例えば、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
【0092】
前駆体はポリシロキサン化合物の固形分を15質量%から85質量%、炭素源樹脂の固形分を15質量%から85質量%含有するのが好ましく、ポリシロキサン化合物の固形分を20から70質量%、炭素源樹脂の固形分を20質量%から70質量%含有するのがより好ましい。さらに本前駆体には、Si粒子を1から90質量%含んでもよい。
【0093】
前記で得られた前駆体を不活性雰囲気中、焼成して熱分解可能な有機成分を完全分解させて焼成物が得られる。焼成温度は、例えば、最高到達温度が900℃から1200℃の範囲の温度で焼成することで、熱分解可能な有機成分を完全分解することができる。またポリシロキサン化合物および炭素源樹脂が高温処理のエネルギーによってケイ素-酸素-炭素骨格とフリー炭素を有するシリコンオキシカーバイド相に転化される。
【0094】
焼成は昇温速度、一定温度での保持時間等により規定される焼成のプログラムに沿って行われる。なお最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物の構造や性能に強く影響を与えるものである。最高到達温度により、シリコンオキシカーバイド相のケイ素と炭素の化学結合状態を保有する本活物質の微細構造が精密に制御でき、より優れた充放電特性が得られる。
【0095】
焼成方法は、特に限定されないが、不活性雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0096】
得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで本複合材料が得られる。粉砕は目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば10mm以上の塊または凝集粒子の焼成物を、10μm程度の活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μm程度とし、ビーズミル、ジェットミル等で10μm程度まで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。尚、焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で焼成を行った場合は、粉砕工程を省くことも可能である。
【0097】
本複合材料を含む二次電池用負極活物質は容量維持率に優れており、本複合材料を含む二次電池用負極活物質を負極として用いた二次電池は良好な特性を発揮する。
具体的には、本複合材料と有機結着剤と、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含む二次電池用負極活物質のスラリーを集電体銅箔上へ薄膜状に塗付して負極とすることができる。また、前記のスラリーに黒鉛など炭素材料を加えて負極を作製することもできる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボンまたはソフトカーボンのような非晶質炭素などが挙げられる。
【0098】
例えば、本複合材料と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、二次電池用負極活物質のスラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで負極を得ることができる。また、ペースト状の二次電池用負極活物質のスラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
【0099】
前記有機結着剤としては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(以下、「SBR」とも記す。);メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、および、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸からなる(メタ)アクリル共重合体等の不飽和カルボン酸共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(以下、「CMC」とも記す。)などの高分子化合物が挙げられる。
【0100】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1質量%から30質量%であることが好ましく、2質量%から20質量%であることがより好ましく、3質量%から15質量%であることがさらに好ましい。
【0101】
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性がより良好で、充放電時の膨張および収縮によって負極構造の破壊がより抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇がより抑えられる。
かかる範囲において、得られる二次電池用負極活物質は、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても取り扱い容易である。
【0102】
また、前記二次電池用負極活物質のスラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1質量%から15質量%程度とすればよい。
【0103】
また前記集電体の材質および形状については、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用できる。
【0104】
前記二次電池用負極活物質のスラリーを集電体に塗布する方法としては、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などが挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
【0105】
また、前記二次電池用負極活物質のスラリーをシート状またはペレット状等として、これと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等により行うことができる。
【0106】
前記集電体上に形成された負極層または集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100から130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150から450℃で熱処理することが好ましい。
【0107】
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間および粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0108】
また、熱処理した後に、負極は加圧処理しておくことが好ましい。本複合材料を用いた負極では、電極密度が1g/cm3から1.8g/cm3であることが好ましく、1.1g/cm3から1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2g/cm3から1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性および電極の体積容量密度が向上する傾向がある。一方、電極密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することでケイ素など体積膨張の抑制効果が弱くなり、容量維持率が低下することがある。そのため電極密度の最適な範囲が選択される。
【0109】
本発明の二次電池は前記二次電池用負極活物質を負極に含む。前記二次電池用負極活物質を含む負極を有する二次電池としては、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池が好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
【0110】
前記本発明の二次電池は、例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の二次電池用負極活物質を含む負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
【0111】
正極は、負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0112】
正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(ただし、MはCo、Ni、MnまたはFe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0113】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0114】
電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0115】
本発明の二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本複合材料を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0116】
本複合材料を用いた二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。上述した本発明の負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【0117】
前記のとおり、本複合材料を二次電池用負極活物質とした時、容量維持率が改良された二次電池を与える。
本複合材料は前記方法により負極として用い、前記負極を有する二次電池とすることができる。
【0118】
以上、本ケイ素系材料、本複合材料、本複合材料含む二次電池用活物質、前記二次電池用活物質を含む負極および前記負極を含む二次電池に関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本ケイ素系材料、本複合材料、本複合材料含む二次電池用活物質、前記二次電池用活物質を含む負極および前記負極を含む二次電池は前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例】
【0119】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本発明のケイ素含有活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。
【0120】
合成例1:ポリシロキサン化合物1の作製
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、150質量部のn-ブタノール(以下、「n-BuOH」とも記す。)、249質量部のフェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」とも記す。)、263質量部のジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」とも記す。)を仕込んで、80℃まで昇温した。次いで、同温度で18質量部のメチルメタアクリレート(以下、「MMA」とも記す。)、14質量部のブチルメタアクリレート(以下、「BMA」とも記す。)、7質量部の酪酸(以下、「BA」とも記す。)、1質量部のアクリル酸(以下、「AA」とも記す。)、2質量部のメタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下、「MPTS」とも記す。)、6質量部のn-BuOHおよび0.9質量部のブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(以下、「TBPEH」とも記す。)を含有する混合物を、前記反応容器中へ5時間で滴下した。滴下終了後、更に同温度で10時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が20,100のビニル重合体(a2-2)の有機溶剤溶液を得た。
【0121】
次いで、0.05質量部のiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)と147質量部の脱イオン水との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間撹拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a2-2)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMSおよびDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基およびシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液に76質量部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、231質量部の合成例1で得られたMTMSの縮合物(a1)、56質量部の脱イオン水を添加し、同温度で15時間撹拌して加水分解縮合反応させたものを、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノールおよび水を除去した。次いで、250質量部のn-BuOHを添加し、ケイ素系材料として不揮発分が60.0質量%の硬化性樹脂組成物(2)を1,000質量部得た。
【0122】
合成例2:ポリシロキサン化合物2の作製
攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、55質量部のイソプロパノール(以下、「IPA」とも記す。)、952質量部のメチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」とも記す。)と180質量部のPTMS、152質量部のDMDMSを仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中にiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)0.17質量部と脱イオン水150質量部との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40から60℃および40から1.3kPaの減圧下で蒸留し前記反応過程で生成したメタノール及び水を除去することによって、ケイ素系材料として数平均分子量1,200の縮合物を含有する、有効成分が70質量%の液を1,000質量部得た。
なお、「40から1.3kPaの減圧下」とは、メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaであり、最終的に1.3kPaとなるまで減圧することを意味する。以下の記載においても同様である。
また、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値、〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕、により算出したものである。
【0123】
合成例3:シリコン粒子の作製
150mlの小型ビーズミル装置の容器中に60%の充填率で粒径が0.1mmから0.2mmのジルコニアビーズおよび100mlのメチルエチルケトン(以下、「MEK」とも記す。)溶媒を入れた。その後、平均粒径が5μmのシリコン粉体(市販品)とカチオン性分散剤液(ビックケミー・ジャパン株式会社:BYK145)を入れ、表1に記載の条件下にてビーズミル湿式粉砕を行い、固形物濃度が30質量%の濃い褐色液体状のシリコンスラリーを得た。TEM観察で得られたシリコン粒子の形態およびサイズを確認し、表1に示したように、それぞれをSi1、Si2およびSi3とした。
【0124】
【0125】
実施例1
上記合成例1で作製したポリシロキサン化合物1とフェノール樹脂(スミライトレジン:PR-53570、住友ベークライト社製)を樹脂固形物重量比で1:9の割合で撹拌機中にて十分に混合させ脱溶媒を行た。その後、プレート型に成形し、減圧乾燥を行い、プレート型成形乾燥物を得た。成形物を窒素雰囲気中、1050℃で6時間、高温焼成して、黒色固形物を得た。
【0126】
前記のように作製した黒色固形物をナノインテンダー測定装置(ENT-2100:エリオ二クス(株)社製)を用いて、力学的物性の測定を行った。測定はISO14577に準拠した方式で実施した。試料形状は、測定圧子に対して垂直であり、局所的に平面である構造体で、凹凸面を少なくする為、試料は厚さを3mm以下とし、場合に応じて表面を粒度2000、5000およびバフ研磨を行ったものを用いた。測定条件は、開始荷重0mN、終了荷重100mN、分割数500、ステップ間隔20msの負荷、除荷試験を任意の箇所で20点測定し、平均値を算出した。押し込み硬度は1.2GPaであった。
【0127】
ポリシロキサン化合物1とフェノール樹脂(スミライトレジン:PR-53570、住友ベークライト社製)を混合し、合成例3で作製し平均粒径が50nmのSi1を50重量%となるように調整した液体状シリコンスラリーを添加し、撹拌機中にて十分に混合させた。その後、脱溶媒、減圧乾燥を行い、前駆体を得た。窒素雰囲気中、1050℃で6時間、高温焼成して、遊星型ボールミル装置(ボールミルP-6クラシックライン:FRITSCH社製)で粉砕後に黒色粉体を得た。得られた黒色粉体を活物質粉末として充放電測定に用いた。活物質粉末の平均粒径が約7.0μm±1.0μmであり、比表面積は15m2/gを示した。
ハーフセルの評価は、8質量部の負極活物質と導電助剤として1質量部のアセチレンブラックと1質量部の有機結着材を混合して、自転公転式の泡取り錬太郎で10分間攪拌することでスラリーを調整した。なお有機結着材は0.75質量部のSBR(市販品)と0.25質量部のCMCとの混合物である。アプリケーターを用いて厚み20μmの銅箔へ得られたスラリーを塗膜後、110℃、減圧条件下で乾燥し、厚みが約40μmの電極薄膜を得た。
【0128】
得られた電極薄膜を直径14mmの円状電極に打ち抜き、露点-40℃以下である水分含有量の極低であるドライルームにおいてLi箔を対極にし、25μmのポリプロピレン製セパレータを介して本発明の電極を対向させた。炭酸ジエチルと炭酸エチレンを容量比で1:1に1mol/LのLiPF6を含有する電解液(キシダ化学製)を吸着させ評価用ハーフ電池(CR2032型)を作製した。二次電池充放電試験装置(北斗電工製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005-1.4Vに、1から3サイクル目までは充電レートを0.1C、4サイクル目以後は0.2Cとし、定電流・定電圧式の充放電および定電流式充放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替えには、30分間、開回路で放置した。
【0129】
フルセルの評価は、正極材料としてLiCoO2を正極活物質、集電体としてアルミ箔を用いた単層シートを用いて、正極膜を作製し、450mAh/g放電容量設計値にて黒鉛粉体や活物質粉末とバインダーを混合して負極膜を作製した。活物質粉体はハーフセルの充電容量が1500mAh/gになるように組成を調整し、非水電解質には六フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1/1の混合液に1mol/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレータに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いたラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。ラミネート型リチウムイオン二次電池を室温下、テストセルの電圧が4.2Vに達するまで1.2mA(正極基準で0.25c)の定電流で充電を行い、4.2Vに達した後は、セル電圧を4.2Vに保つように電流を減少させて充電を行い、放電容量を求めた。室温下300サイクルの容量維持率は72%であった。結果を表3に示した。
【0130】
実施例2、3、6から8、11から13、16から18、25、26
実施例1と同様にして、表2に示した樹脂構成比で活物質を作製し、各材料の力学的測定と充放電特性などを評価した。評価結果を表2、3に示した。
【0131】
実施例4、5、9、10、14、15、19、20
フェノール樹脂2(スミライトレジン:PR-54387、住友ベークライト社製)を用いて、表2に示した樹脂構成比で活物質を作製し、各材料の力学的測定と充放電特性などを評価した。評価結果を表2、3に示した。
【0132】
実施例21および22
合成例2に示したポリシロキサン化合物を用いて、表2に示した樹脂構成比で活物質を作製し、材料の力学的測定と充放電特性などを評価した。評価結果を表2、3に示した。
【0133】
実施例23および24
実施例1との同様にして、表2に示した樹脂構成比とSiの平均粒径を100nmおよび200nmに変えた活物質を作製し、材料の力学的測定と充放電特性などを評価した。評価結果を表2、3に示した。
【0134】
実施例27および28
実施例1との同様にして、表2に示した樹脂構成比に窒素元素源として、メラミンを加えて活物質を作製し、各材料の力学的測定と充放電特性などを評価した。評価結果を表2、3に示した。
【0135】
比較例1および2
実施例1において、ポリシロキサン樹脂単独またはフェノール樹脂単独で前駆体を乾燥後、窒素雰囲気、1050℃にて6時間焼成して活物質を得た。活物質の押し込み弾性率はそれぞれ114GPa、4.5GPa、弾性変形仕事率は18%、105%であった。フルセルの充放電測定結果は、室温下300サイクル後の容量維持率がそれぞれ50%、65%であり、大幅に低下した。評価結果を表2、3に示した。
【0136】
【0137】
【0138】
[評価方法]
平均粒径および比表面積は以下の方法で求めた。
平均粒径:レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製、マスターサイザー3000)を用いて測定しD50の値を平均粒径とした。
比表面積:比表面積測定装置(BELJAPAN社製、BELSORP-mini)を用いて窒素吸着測定より、BET法で測定した。
【0139】
押し込み硬度、押し込み弾性率、および弾性変形仕事率は以下の方法で求めた。
測定サンプルの力学的物性測定をナノインテンダー測定装置(ENT-2100:エリオ二クス(株)社製)を用いて行った。測定はISO14577に準拠した方式で実施した。試料形状は、測定圧子に対して垂直であり、局所的に平面である構造体で、凹凸面を少なくする為、試料は厚さを3mm以下とし、場合に応じて表面を粒度2000、5000およびバフ研磨を行ったものを用いた。測定条件は、開始荷重0mN、終了荷重100mN、分割数500、ステップ間隔20msの負荷、除荷試験を任意の箇所で20点測定し、平均値を算出した。
【0140】
電池特性評価:二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005から1.4Vに、1から3サイクル目までは充放電レートを0.1C、4サイクル目以後は0.2Cとし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。25℃でフルセルを300サイクル充放電後の容量維持率は以下のようにして、フルセル(ラミネートセル)の測定で求めた。容量維持率(%@300回目)=300回目の負極放電容量(mAh/g)/負極初回放電容量(mAh/g)
【0141】
前記結果から明らかなように、前記物性1から3のいずれかを満たす珪素系材料を含む本活物質を負極活物質として用いた場合、容量維持率に優れる。また本活物質を負極活物質として含む二次電池はその電池特性に優れると考えられる。