(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導する核酸分子及びベクター、並びに受精を介さず胚乳を発生しうる組換え種子植物及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20240313BHJP
C12N 15/83 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/84 20060101ALI20240313BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20240313BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C12N15/83 Z
C12N15/84 Z
A01H5/00 A
(21)【出願番号】P 2019039714
(22)【出願日】2019-03-05
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2018039033
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、先端的低炭素化技術開発(ALCA)、革新技術領域、人為的アポミクシス誘導技術の開発による植物育種革命、「イネにおける技術検証;実用作物での検証・最適化」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 優
(72)【発明者】
【氏名】池田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】光田 展隆
(72)【発明者】
【氏名】大島 良美
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-143338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0029838(US,A1)
【文献】国際公開第2011/161620(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/113603(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/065446(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/024269(WO,A1)
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q84JD1,1-JUN-2003,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q84JD1>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q8LPH6,1-OCT-2002,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q8LpH6>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q9LFB6,1-OCT-2000,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q9LFB6>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q8GXN7,1-MAR-2003,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q8GXN7>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q9FIL9,1-MAR-2001,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q9FIL9>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q84TG2,1-JUN-2003,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q84TG2>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q0JQS2,3-OCT-2006,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q0JQS2>
【文献】Database UniProtKB/Swiss-Prot[online],Accession No.Q5N9B7,1-FEB-2005,[retrieved on 14-MAY-2019],URL:<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/Q5N9B7>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
A01H 1/00- 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精を介さず胚乳を発生しうる組換種子植物を作製する方法であって、
種子植物のゲノム内に導入して発現させることにより、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導するための核酸分子であって、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸分子、又は、前記核酸分子を担持するベクターを、種子植物細胞内に導入して発現させることを含む方法。
【請求項2】
胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドが、下記式(Ia)又は(Ib)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを含むポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
[F/V][K/Q][A/Q]KLRKGLWSPEED[E/D]KL[L/Y]N[H/Y]I[I/T]RHG[H/V]GCWSSVPKLAGLQRCGKSCRLRWINYLRPDLKRG[A/S]FSQ[D/Q]EE[D/S]LI[I/V][A/E]LH[A/E][A/I]LGNRWSQIA[S/T][H/R]LPGRTDNEIKNFWNSCLKKKLR[Q/R][K/R]G[I/L]DP[A/T]THKP[I/L]
・・・(Ia)
ERKKGVPWTE[E/D]EH[R/K/L][Q/L/R/S]FL[M/L]GLKKYG[K/R]GDWRNI[A/S][R/K][N/S/Y]FV[T/I/Q][T/S]RTPTQVASHAQKYF[I/L]R[Q/L][V/L/N][N/S/T][G/D]GKDKRR[S/A]SIHDITTVN[I/L]
・・・(Ib)
【請求項3】
胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドが、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、及び配列番号19からなる群より選択されるアミノ酸配列と
90%以上の配列相同性を有するポリペプチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、及び、配列番号20からなる群より選択される塩基配列と
90%以上の配列同一性を有する、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸分子が更に、転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列と、転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、インフレームで連結されている、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
転写抑制機能を有するポリペプチドが、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)、又は、(IId)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを含むポリペプチドである、請求項5に記載の方法。
[L/F]DLN[L/F][X]P ・・・(IIa)
[L/V][R/K]LFGVX[M/V/L] ・・・(IIb)
TLXLFP ・・・(IIc)
TLXLFR ・・・(IId)
(但し、上記式(IIa)~(IId)中、Xは任意のアミノ酸残基を表す。)
【請求項7】
転写抑制機能を有するポリペプチドが、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び配列番号27からなる群より選択されるアミノ酸配列と
90%以上の配列相同性を有するポリペプチドである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、配列番号22、配列番号24、配列番号26、及び配列番号28からなる群より選択される塩基配列と
90%以上の配列同一性を有する、請求項5~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸分子が更に、プロモーター領域の塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸分子が更に、ターミネーター領域の塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ベクターが、植物ウイルスベクター又はアグロバクテリウムベクターである、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
種子植物のゲノム内に導入して発現させることにより、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導するための核酸分子であって、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸分子、又は、前記核酸分子を担持するベクターが、細胞内に組み込まれている、受精を介さず胚乳を発生しうる組換え種子植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導する核酸分子及びベクターと、斯かる核酸及びベクターを用いた、受精を介さず胚乳を発生しうる組換え種子植物及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種子植物の種子は、主に胚及び胚乳から構成される。胚は受精卵が発育してなる幼植物個体であり、これが発芽・成長することで次世代の植物となる。胚乳は胚に隣接した組織で、発芽に際して胚の成長に必要な養分を供給する働きを有する。胚乳の構造は、雌性配偶体である胚嚢に由来する内乳と、胞子体組織に由来する周乳とに分けられる。胚及び胚乳は珠皮に包まれて胚珠を構成し、これが成熟して種子を形成する。裸子植物では胚珠は剥き出しで存在するが、被子植物では胚珠が子房に覆われており、子房が成熟して果実を形成する。
【0003】
被子植物において、雌蕊に含まれる胚嚢は、その一端に3つの反足細胞を、他端には単一の卵細胞を含む3つの細胞からなる卵装置を有する。また、胚嚢の中央には2つの極核が存在する。雌蕊が受粉すると、花粉から伸長した花粉管により2個の精細胞が胚嚢内に運ばれ、これらがそれぞれ胚嚢内の卵細胞及び2つの極核と受精する(これを重複受精(double fertilization)と呼ぶ)。一方の精細胞と卵細胞との受精(これを生殖受精と呼ぶ)により核相2nの受精卵が生じ、これが分裂して胚を形成する。また、他方の精細胞と2つの極核との受精(これを栄養受精と呼ぶ)により核相3nの胚乳核が生じ、これが胚嚢内で分裂増殖して内乳を形成すると共に、胚乳を形成する。
【0004】
被子植物においては、精細胞と2つの極核との受精(栄養受精)が生じないと、胚乳が発生しない場合が多い。植物種や個体、更には種々の条件によっては、栄養受精が生じずとも胚乳が発生する場合もあるものの、こうして発生した胚乳は通常、精細胞と卵細胞との受精(生殖受精)により生じた胚を養育する能力を有さない。
【0005】
作物の生産効率向上等の観点からは、種子植物において、受精を経ずに機能的な胚乳を人為的に誘導することができると望ましい。受精を介さない胚乳の発生を促進する遺伝子としては、例えばFIS遺伝子(特許文献1:国際公開第2000/016609号)等が開発されているが、本遺伝子を導入して得られる変異植物体は何れも劣性変異体で、しかも変異体を母方に有するものでしか効果が発揮されないために、実用性に乏しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、種子植物において、受精を経ずに機能的な胚乳を人為的に誘導する手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、特定の遺伝子を胚乳発生誘導因子として種子植物のゲノム内に導入して発現させることにより、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導することが可能となることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、以下に関する。
[1]種子植物のゲノム内に導入して発現させることにより、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導するための核酸分子であって、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸分子。
[2]胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドが、下記式(Ia)又は(Ib)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを含むポリペプチドである、[1]の核酸分子。
[F/V][K/Q][A/Q]KLRKGLWSPEED[E/D]KL[L/Y]N[H/Y]I[I/T]RHG[H/V]GCWSSVPKLAGLQRCGKSCRLRWINYLRPDLKRG[A/S]FSQ[D/Q]EE[D/S]LI[I/V][A/E]LH[A/E][A/I]LGNRWSQIA[S/T][H/R]LPGRTDNEIKNFWNSCLKKKLR[Q/R][K/R]G[I/L]DP[A/T]THKP[I/L]
・・・(Ia)
ERKKGVPWTE[E/D]EH[R/K/L][Q/L/R/S]FL[M/L]GLKKYG[K/R]GDWRNI[A/S][R/K][N/S/Y]FV[T/I/Q][T/S]RTPTQVASHAQKYF[I/L]R[Q/L][V/L/N][N/S/T][G/D]GKDKRR[S/A]SIHDITTVN[I/L]
・・・(Ib)
[3]胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドが、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、及び配列番号19からなる群より選択されるアミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するポリペプチドである、[1]又は[2]の核酸分子。
[4]胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、及び、配列番号20より選択される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する、[1]~[3]の核酸分子。
[5]前記核酸分子が更に、転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列と、転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、インフレームで連結されている、[1]~[4]の核酸分子。
[6]転写抑制機能を有するポリペプチドが、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)、又は、(IId)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを含むポリペプチドである、[5]の核酸分子。
[L/F]DLN[L/F][X]P ・・・(IIa)
[L/V][R/K]LFGVX[M/V/L] ・・・(IIb)
TLXLFP ・・・(IIc)
TLXLFR ・・・(IId)
(但し、上記式(IIa)~(IId)中、Xは任意のアミノ酸残基を表す。)
[7]転写抑制機能を有するポリペプチドが、配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び配列番号27からなる群より選択されるアミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するポリペプチドである、[5]又は[6]の核酸分子。
[8]転写抑制機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、配列番号22、配列番号24、配列番号26、及び配列番号28からなる群より選択される塩基配列と80%以上の配列同一性を有する、[5]~[7]の核酸分子。
[9]前記核酸分子が更に、プロモーター領域の塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、プロモーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、[1]~[8]の核酸分子。
[10]前記核酸分子が更に、ターミネーター領域の塩基配列を含み、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチドをコードする塩基配列が、ターミネーター領域の塩基配列と機能的に連結されている、[1]~[9]の核酸分子。
[11][1]~[10]の核酸分子を担持するベクター。
[12]植物ウイルスベクター又はアグロバクテリウムベクターである、[11]のベクター。
[13]受精を介さず胚乳を発生しうる組換種子植物を作製する方法であって、[1]~[10]の核酸分子、又は、[11]若しくは[12]のベクターを、種子植物細胞内に導入して発現させることを含む方法。
[14][1]~[10]の核酸分子、又は、[11]若しくは[12]のベクターが、細胞内に組み込まれている組換え種子植物。
[15][13]の方法により作製される組換え種子植物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、種子植物において、受精を経ずに機能的な胚乳を人為的に誘導することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、シロイヌナズナAt5g26660及びイネOs05g0543600ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号3、及び13)のアライメントを示す図である。
【
図1B】
図1Bは、シロイヌナズナAt5g01200、At2g38090、At5g58900、イネOs01g0142500、及びイネOs01g0853700ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号5、7、9、15、及び17)のアラインメントを示す図である。
【
図2A】
図2Aは、実施例1~7で作製したキメラ遺伝子A~Gの構成を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、実施例8~11で作製したキメラ遺伝子H~Kの構成を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、形質転換植物体A~Eのつぼみ、さや、及び胚珠の光学顕微鏡写真である。(a)つぼみの外観、(b)さやの外観、(c)さやの内部、及び(d)胚珠を示す。
【
図4】
図4は、形質転換植物体Gのさや及び胚珠の光学顕微鏡写真である。(A)さやの外観(野生型との対比で示す)、(B)さやの内部、並びに(C1)及び(C2)胚珠を示す。
【
図5】
図5A~Cはそれぞれ、形質転換植物体A、C、及びGの胚珠の縦横長を示すグラフである。
【
図6】
図6は、形質転換植物体A、C、及びGの胚乳部分の面積を示すグラフである。
【
図7】
図7は、野生型植物体並びに形質転換植物体A~C及びGの胚珠のバニリン染色後の光学顕微鏡写真である。
【
図8】
図8A~Cは、ココペリ変異体を用いた実験の原理を説明するための図である。
【
図9】
図9は、ココペリ変異体を用いた実験により得られた、野生型並びに形質転換植物体A及びGの雌蕊にココペリ花粉を交配して得られた植物体の胚珠の光学顕微鏡写真(上段)及び赤色蛍光写真(下段)である。
【
図10B】
図10Bは、形質転換体H、I、J、及びKにおいて除雄しても自発的に肥大した胚珠(発達ステージ3)の代表的な写真である。
【
図11A】
図11Aは、形質転換植物体H、Iの自家受粉で得られた子孫、及び野生型植物体を除雄した場合、及び除雄しない場合の胚珠肥大の割合を示すグラフである。
【
図11B】
図11Bは、形質転換植物体Jの自家受粉で得られた子孫、及び野生型植物体を除雄した場合、及び除雄しない場合の胚珠肥大の割合を示すグラフである。
【
図12】
図12は、形質転換植物体K当代及び野生型植物体を除雄した場合、及び除雄しない場合の胚珠肥大の割合を示すグラフである。
【
図13】
図13は、形質転換植物体H、I、J、及びKの除雄しても自発的に肥大した胚珠の内容物のヨウ素液染色前後の胚珠の実体顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0013】
なお、本明細書で引用する特許公報、特許出願公開公報、及び非特許文献は、何れもその全体が援用により、あらゆる目的において本明細書に組み込まれるものとする。
【0014】
[1.種子植物の胚乳発生を誘導するための核酸分子及びベクター]
(1-1.概要)
本発明の一側面によれば、種子植物のゲノム内に導入して発現させることにより、受精を介さず種子植物の胚乳発生を誘導するための核酸分子(以下適宜「本発明の核酸分子」とする)が提供される。
【0015】
本発明の核酸分子は、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチド(以下適宜「胚乳発生誘導ポリペプチド」と呼ぶ)をコードする塩基配列を含む。また、任意ではあるが、転写抑制機能を有するポリペプチド(以下適宜「転写抑制ポリペプチド」と呼ぶ)をコードする塩基配列を含んでいてもよい。加えて、やはり任意ではあるが、プロモーター領域やターミネーター領域、更にはその他の配列を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明の別の側面によれば、本発明の核酸分子を担持するベクター(以下適宜「本発明のベクター」とする)も提供される。
【0017】
(1-2.胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列)
本発明の核酸分子は、胚乳発生誘導機能を有するポリペプチド(胚乳発生誘導ポリペプチド)をコードする塩基配列を有する。
【0018】
本発明において、胚乳発生誘導ポリペプチドのアミノ酸配列は限定されないが、以下から選択されるアミノ酸配列又はこれと類似のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0019】
・シロイヌナズナAt5g07260ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)
・シロイヌナズナAt5g26660ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号3)
・シロイヌナズナAt5g01200ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号5)
・シロイヌナズナAt2g38090ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号7)
・シロイヌナズナAt5g58900ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号9)
・シロイヌナズナAt3g16350ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号11)
・イネOs05g0543600ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号13)
・イネOs01g0142500ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号15)
・イネOs01g0853700ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号17)
・イネOs04g0569100ポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号19)
【0020】
後述する実施例から明らかなように、これらのシロイヌナズナAt5g07260、At5g26660、At5g01200、At2g38090、At5g58900、及びAt3g16350、イネのOs05g0543600、Os01g0142500、Os01g0853700、及びOs04g0569100の各ポリペプチドは、植物細胞内で発現させた場合に胚乳発生誘導を有する。よって、これらのポリペプチドは何れも、本発明における胚乳発生誘導ポリペプチドとして好適に使用できる。
【0021】
また、これらの各ポリペプチドとアミノ酸配列が類似するポリペプチドも、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する蓋然性が高いことから、やはり本発明における胚乳発生誘導ポリペプチドとして好適に使用できる。
【0022】
具体的に、本発明において、胚乳発生誘導ポリペプチドのアミノ酸配列は、前記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、及び、配列番号19からなる群より選択されるアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列相同性を有することが望ましい。
【0023】
また、胚乳発生誘導ポリペプチドのアミノ酸配列は、前記の配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13、配列番号15、配列番号17、及び、配列番号19からなる群より選択されるアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有することが望ましい。
【0024】
ここで、2つのアミノ酸配列の「相同性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一又は類似のアミノ酸残基が現れる比率であり、2つのアミノ酸配列の「同一性」とは、両アミノ酸配列をアラインメントした際に各対応箇所に同一のアミノ酸残基が現れる比率である。
【0025】
なお、2つのアミノ酸配列の「相同性」及び「同一性」は、例えばBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(Altschul et al., J. Mol. Biol., (1990), 215(3):403-10)等を用いて求めることが可能である。
【0026】
ここで、シロイヌナズナAt5g26660及びイネOs05g0543600の各ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号3及び配列番号13)のアラインメントを
図1Aに、シロイヌナズナAt5g01200、At2g38090、及びAt5g58900、並びにイネOs01g0142500及びOs01g0853700の各ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号15、及び配列番号17)のアラインメントを
図1Bにそれぞれ示す。本アラインメントから明らかなように、これらのポリペプチドは相互に高い配列相同性を有することが分かる。
【0027】
特に、シロイヌナズナAt5g26660及びイネOs05g0543600の各ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号3及び配列番号13)は、下記式(Ia)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを、シロイヌナズナAt5g01200、At2g38090、及びAt5g58900、並びにイネOs01g0142500及びOs01g0853700の各ポリペプチドのアミノ酸配列(それぞれ配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号15、及び配列番号17)は、下記式(Ib)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを、それぞれ共有していることが分かる。
【0028】
[F/V][K/Q][A/Q]KLRKGLWSPEED[E/D]KL[L/Y]N[H/Y]I[I/T]RHG[H/V]GCWSSVPKLAGLQRCGKSCRLRWINYLRPDLKRG[A/S]FSQ[D/Q]EE[D/S]LI[I/V][A/E]LH[A/E][A/I]LGNRWSQIA[S/T][H/R]LPGRTDNEIKNFWNSCLKKKLR[Q/R][K/R]G[I/L]DP[A/T]THKP[I/L]
・・・(Ia)
ERKKGVPWTE[E/D]EH[R/K/L][Q/L/R/S]FL[M/L]GLKKYG[K/R]GDWRNI[A/S][R/K][N/S/Y]FV[T/I/Q][T/S]RTPTQVASHAQKYF[I/L]R[Q/L][V/L/N][N/S/T][G/D]GKDKRR[S/A]SIHDITTVN[I/L]
・・・(Ib)
【0029】
但し、上記式(Ia)及び(Ib)では、各アミノ酸残基を1文字コードで表している。また、角括弧([ ])内にスラッシュ(/)で区切って複数のアミノ酸残基を表示している箇所は、これらのアミノ酸残基の何れかであることを表している。
【0030】
よって、前記式(I)で表されるモチーフを有するポリペプチドは、植物細胞内で発現させた場合に胚乳発生誘導を有する蓋然性が高い。従って、前記式(I)で表されるモチーフを有するポリペプチドも、本発明における胚乳発生誘導ポリペプチドとして好適に使用することが可能である。
【0031】
斯かる胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列は限定されないが、以下から選択される塩基配列又はこれと類似の塩基配列を有することが好ましい。
【0032】
・シロイヌナズナAt5g07260遺伝子の塩基配列(配列番号2)
・シロイヌナズナAt5g26660遺伝子の塩基配列(配列番号4)
・シロイヌナズナAt5g01200遺伝子の塩基配列(配列番号6)
・シロイヌナズナAt2g38090遺伝子の塩基配列(配列番号8)
・シロイヌナズナAt5g58900遺伝子の塩基配列(配列番号10)
・シロイヌナズナAt3g16350遺伝子の塩基配列(配列番号12)
・イネOs05g0543600遺伝子の塩基配列(配列番号14)
・イネOs01g0142500遺伝子の塩基配列(配列番号16)
・イネOs01g0853700遺伝子の塩基配列(配列番号18)
・イネOs04g0569100遺伝子の塩基配列(配列番号20)
【0033】
具体的に、本発明において、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列は、前記の配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、及び配列番号20からなる群より選択される塩基配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有することが望ましい。
【0034】
なお、2つの塩基配列の配列同一性は、例えばEMBOSSパッケージ(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(好ましくはバージョン5.00又はそれ以降)のNeedleプログラムにより、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して決定される(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)。
【0035】
(1-3.転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列)
本発明の核酸分子は、前述の胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列に加えて、転写抑制機能を有するポリペプチド(転写抑制ポリペプチド)をコードする塩基配列を有することが好ましい。この場合、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列と、転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列が、インフレームで連結されていることが好ましい。
【0036】
本発明において、転写抑制ポリペプチドのアミノ酸配列は限定されないが、以下から選択されるアミノ酸配列又はこれと類似のアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0037】
・シロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制領域を改変したSRDXポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号21)
・シロイヌナズナAt2g36080遺伝子の転写抑制領域BRDポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号23)
・シロイヌナズナWUSCHEL遺伝子の転写抑制領域WUS-boxポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号25)
・シロイヌナズナAtMYBL2遺伝子の転写抑制領域L2Rポリペプチドのアミノ酸配列(配列番号27)
【0038】
前記のSRDX、BRD、WUS-box、及びL2Rの各ポリペプチドは、本発明者らが開発したCRES-T(Chimeric repressor silencing technology)法に用いられる転写抑制ドメインの発現産物である。具体的に、SRDXポリペプチドについては、例えば国際公開第2003/055993号等に、BRDポリペプチドについては、例えば特開2009-213426号等に、WUS-boxポリペプチドについては、例えばIkeda et al., Plant Cell, (2009), 21:3493-3505等に、L2Rポリペプチドについては、例えばMatsui et al., Plant J., (2008), 55:954-967等に、それぞれ詳細に記載されている。
【0039】
これらのSRDX、BRD、WUS-box、及びL2Rの各ポリペプチドをコードする塩基配列を、前記の胚乳発生誘導ポリペプチドとインフレームで連結し、植物細胞内に導入して発現させると、胚乳発生誘導ポリペプチドの胚乳発生誘導が強化される。よって、これらのポリペプチドは何れも、本発明における転写抑制ポリペプチドとして好適に使用できる。
【0040】
また、これらの各ポリペプチドとアミノ酸配列が類似するポリペプチドも、その構造の類似性ゆえに、植物細胞内で発現させた場合に同様の作用を有する蓋然性が高いことから、やはり本発明における転写抑制ポリペプチドとして好適に使用できる。
【0041】
具体的に、本発明において、転写抑制ポリペプチドのアミノ酸配列は、前記の配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び、配列番号27からなる群より選択されるアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列相同性を有することが望ましい。
【0042】
また、転写抑制ポリペプチドのアミノ酸配列は、前記の配列番号21、配列番号23、配列番号25、及び、配列番号27からなる群より選択されるアミノ酸配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有することが望ましい。
【0043】
また、前記のSRDX、BRD、WUS-box、及びL2Rの各ポリペプチドは、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)、又は、(IId)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを有し、これらがその転写抑制機能を発揮する上で重要な機能を果たしていることが知られている。従って、下記式(IIa)、(IIb)、(IIc)、又は、(IId)で表されるアミノ酸配列を有するモチーフを含むポリペプチドも、転写抑制ポリペプチドとして好適に使用することができる。
【0044】
[L/F]DLN[L/F][X]P ・・・(IIa)
[L/V][R/K]LFGVX[M/V/L] ・・・(IIb)
TLXLFP ・・・(IIc)
TLXLFR ・・・(IId)
【0045】
但し、上記式(IIa)~(IId)では各アミノ酸残基を1文字コードで表している。また、角括弧([ ])内にスラッシュ(/)で区切って複数のアミノ酸残基を表示している箇所は、これらのアミノ酸残基の何れかであることを示す。また、Xは任意のアミノ酸残基を表す。
【0046】
斯かる転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列は限定されないが、以下から選択される塩基配列又はこれと類似の塩基配列を有することが好ましい。
【0047】
・SUPERMAN遺伝子の転写抑制領域を改変したSRDXの塩基配列(配列番号22)
・At2g36080遺伝子の転写抑制領域BRDの塩基配列(配列番号24)
・WUSCHEL遺伝子の転写抑制領域WUS-boxの塩基配列(配列番号26)
・AtMYBL2遺伝子の転写抑制領域L2Rの塩基配列(配列番号28)
【0048】
具体的に、本発明において、転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列は、前記の配列番号22、配列番号24、配列番号26、及び、配列番号28からなる群より選択される塩基配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有することが望ましい。
【0049】
(1-4.プロモーター領域)
本発明の核酸分子は、プロモーター領域を有することが好ましい。プロモーター領域は、通常は胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列の5’側に、胚乳発生誘導ポリペプチドと機能的に連結されるように配置されることが好ましい。
【0050】
プロモーター領域は、ウイルスに由来するプロモーターでもよく、微生物に由来するプロモーターでもよく、植物に由来するプロモーターでもよく、その他の生物に由来するプロモーターでもよい。
【0051】
また、プロモーターの機能部位としては、植物体全体で機能するプロモーターでもよく、雌性配偶体とその始原細胞を含む周辺部位でのみで機能するプロモーターでもよい。さらには、特定の化学物質処理時や特定の生育環境下において、特異的に機能するプロモーターでもよい。
【0052】
プロモーター領域の塩基配列は制限されない。例としては、以下の何れかのプロモーターの塩基配列を有するプロモーター領域が挙げられる。
【0053】
・カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター(配列番号29)。
・シロイヌナズナAt5g07260遺伝子のプロモーター(配列番号30)。
・シロイヌナズナAt5g26660遺伝子のプロモーター(配列番号31)。
・シロイヌナズナAt5g01200遺伝子のプロモーター(配列番号32)。
・シロイヌナズナAt2g38090遺伝子のプロモーター(配列番号33)。
・シロイヌナズナAt5g58900遺伝子のプロモーター(配列番号34)。
・シロイヌナズナAt3g16350遺伝子のプロモーター(配列番号35)。
・イネ・アクチン遺伝子のプロモーター(配列番号36)。
・トウモロコシ・ユビキチン1遺伝子のプロモーター(配列番号37)
・イネOs05g0543600遺伝子のプロモーター(配列番号38)
・イネOs01g0142500遺伝子のプロモーター(配列番号39)
・イネ・FST遺伝子のプロモーター(配列番号40)。
・イネOs01g0853700遺伝子のプロモーター(配列番号41)
・イネOs04g0569100遺伝子のプロモーター(配列番号42)
【0054】
また、配列番号29~配列番号42の各塩基配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の同一性を有する塩基配列からなるプロモーターも、本発明の核酸分子におけるプロモーター領域として好ましく利用できる。
【0055】
(1-5.ターミネーター領域)
本発明の核酸分子は、ターミネーター領域を有することが好ましい。ターミネーター領域は、通常は胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列の3’側に、胚乳発生誘導ポリペプチドと機能的に連結されるように配置されることが好ましい。
【0056】
ターミネーター領域は、ウイルスに由来するターミネーターでもよく、植物に由来するターミネーターでもよく、その他の生物に由来するターミネーターでもよい。
【0057】
また、ターミネーターの機能部位としては、植物体全体で機能するターミネーターでもよく、雌性配偶体とその始原細胞を含む周辺部位でのみで機能するターミネーターでもよい。さらには、特定の化学物質処理時や特定の生育環境下において、特異的に機能するターミネーターでもよい。
【0058】
ターミネーター領域の塩基配列は制限されない。例としては、以下の何れかのターミネーターの塩基配列を有するターミネーター領域が挙げられる。
【0059】
・アグロバクテリウムのノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(配列番号43)。
・シロイヌナズナのヒートショックタンパク質遺伝子のターミネーター(配列番号44)。
【0060】
また、配列番号43又は配列番号44の各塩基配列に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%の同一性を有する塩基配列からなるターミネーターも、本発明の核酸分子におけるターミネーター領域として好ましく利用できる。
【0061】
(1-6.その他の遺伝子要素)
本発明の核酸分子は、その他の1又は2以上の遺伝子要素を有していてもよい。その他の遺伝子要素の例としては、抗生物質耐性遺伝子、制限酵素配列、相同組換え配列等が挙げられる。
【0062】
(1-7.核酸の構成)
本発明の核酸分子は、前述の胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列を有すると共に、好ましくは任意選択要素として転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列を有し、更には任意選択要素として、プロモーター領域、ターミネーター領域、及び/又はその他の遺伝子要素を有する。特に、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列以外の任意選択要素を有する場合には、通常は転写抑制ポリペプチドをコードする塩基配列が胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列とインフレームで連結されると共に、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列の5’側にプロモーター領域が、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列の3’側に転写抑制領域及び/又はターミネーター領域が配置され、それぞれ胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列と機能的に連結される。これにより、本発明の核酸分子が種子植物の植物細胞に導入され、好ましくはゲノム内に組み込まれた場合に、各遺伝子要素が機能的に連関して作動し、胚乳発生誘導ポリペプチドが自律的に発現される。即ち、本発明の核酸分子は、キメラ遺伝子カセットとして構成されていることが好ましい。
【0063】
(1-8.ベクター)
本発明の核酸分子は、通常はこれを植物細胞内に導入してゲノム内に組み込むべく、ベクターに担持した形態で使用される。
【0064】
斯かるベクター(本発明のベクター)の形態は任意であり、直鎖状の形態であっても環状の形態であってもよい。但し、環状の形態、例えばプラスミドの形態であることが好ましい。ベクターの具体的な態様の例としては、植物ウイルスベクター、アグロバクテリウムベクター等が挙げられる。
【0065】
植物ウイルスベクター法は、標的遺伝子を挿入した植物ウイルスゲノムのcDNAを試験管内転写し、得られたRNAをベクターとして植物に接種して感染させ、ウイルス自身の増殖能及び全身移行能を利用して、発現対象遺伝子を植物に発現させる手法である。植物ウイルスベクターの例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)ベクター、キュウリモザイクウイルス(CMV)ベクター、タバコモザイクウイルス(TMV)ベクター、ジャガイモXウイルス(PVX)ベクター等が挙げられる。
【0066】
アグロバクテリウムベクター(T-DNAベクター)法は、アグロバクテリウム(Agrobacterium)のTiプラスミドが有するT-DNA(transfer DNA)配列を利用した手法である。T-DNA配列は右境界配列(right border sequence:RB配列)と左境界配列(left border sequence:LB配列)とを両端に有し、これらの配列に挟まれた領域の遺伝子を植物ゲノムへ組み込む作用を有する。現在は、Tiプラスミドを改変した2種のプラスミド、即ち、バイナリープラスミドとヘルパープラスミドとを組み合わせたT-DNAバイナリー系が確立されており、植物の形質転換による外来遺伝子の導入を行うことが主流である。
【0067】
本発明の核酸分子をベクターに担持させる場合、好ましくは、本発明の胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列が植物ゲノム内に組み込まれ、機能的に発現するように構成する。
【0068】
なお、本発明の核酸分子が、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列に加えて、プロモーター領域やターミネーター領域を有し、植物細胞内で自律的に発現しうるキメラ遺伝子カセットとして構成されている場合には、ベクター側にプロモーターやターミネーター等の調節要素を組み込むことは必須ではなく、植物ゲノムへの組み込みに必要な要素(例えば相同組換えのためのフランキング配列や、T-DNAのLB配列及びRB配列等)のみをベクターに設ければよい。
【0069】
一方、本発明の核酸分子がプロモーター領域やターミネーター領域を欠き、植物細胞内で自律的に発現しうるキメラ遺伝子カセットとして構成されている場合には、ベクターに植物ゲノムへの組み込みに必要な要素のみならず、プロモーターやターミネーター等の調節要素を組み込み、本発明の核酸分子が有する胚乳発生誘導ポリペプチドの発現を誘導するように構成することが好ましい。或いは、本発明のベクターを植物ゲノム内に組み込んだ場合に、本発明の核酸分子が有する胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列を、植物ゲノム内のプロモーターやターミネーター等の調節要素と機能的に連関して作動し、胚乳発生誘導ポリペプチドが発現されるように構成してもよい。
【0070】
本発明のベクターは、必要に応じて、他のヘルパープラスミドと併用してもよい。他のヘルパープラスミドの例としては、T-DNAベクターの場合、vir領域を有するヘルパープラスミド等が挙げられる。
【0071】
本発明のベクターは、当業者に周知の各種の遺伝子組み換え技術を適宜組み合わせて用いることにより、容易に作製することが可能である。
【0072】
[2.受精を介さず胚乳を発生しうる組換種子植物及びその製造方法]
本発明の別の側面によれば、受精を介さず胚乳を発生しうる組換種子植物を作製する方法(以下適宜「本発明の方法」とする)が提供される。
【0073】
本発明の方法は、上述の本発明の核酸分子又は本発明のベクターを、種子植物のゲノム内に導入して発現させることを含む。本発明の核酸分子又は本発明のベクターは、複数種を併用して用いてもよい。
【0074】
種子植物の種類は特に制限されないが、通常は被子植物が対象となる。被子植物の例としては、これらに制限されるものではないが、例えばナス科、マメ科、アブラナ科、イネ科、キク科、ハス科、バラ科、ウリ科、ユリ科等に属する植物種が挙げられる。具体例としては、タバコ、シロイヌナズナ、アルファルファ、オオムギ、インゲンマメ、カノーラ、ササゲ、綿、トウモロコシ、クローバー、ハス、レンズマメ、ルピナス、キビ、オートムギ、エンドウマメ、落花生、イネ、ライムギ、スイートクローバー、ヒマワリ、スイートピー、ダイズ、モロコシ、ライコムギ、クズイモ、ハッショウマメ、ソラマメ、コムギ、フジ、堅果植物、コヌカグサ、ネギ、キンギョソウ、オランダミツバ、ナンキンマメ、アスパラガス、ロウトウ、カラスムギ、ホウライチク、アブラナ、ブロムグラス、ルリマガリバナ、ツバキ、アサ、トウガラシ、ヒヨコマメ、ケノポジ、キクニガナ、カンキツ、コーヒーノキ、ジュズダマ、キュウリ、カボチャ、ギョウギシバ、カモガヤ、チョウセンアサガオ、ウリミバエ、ジギタリス、ヤマノイモ、アブラヤシ、オオシバ、フェスキュ、イチゴ、フクロウソウ、キスゲ、パラゴムノキ、ヒヨス、サツマイモ、レタス、ヒラマメ、ユリ、アマ、ライグラス、トマト、マヨラナ、リンゴ、マンゴー、イモノキ、ウマゴヤシ、アフリカウンラン、イガマメ、テンジクアオイ、チカラシバ、ツクバネアサガオ、エンドウ、インゲン、アワガエリ、イチゴツナギ、サクラ、キンポウゲ、ラディッシュ、スグリ、トウゴマ、キイチゴ、サトウキビ、サルメンバナ、セネシオ、セタリア、シロガラシ、ナス、ソルガム、イヌシバ、カカオ、ジャジクソウ、レイリョウコウ、コムギ、ブドウ等が挙げられる。中でも、シロイヌナズナ、イネ、トウモロコシ、麦類、果実類等が好ましい。
【0075】
上述の本発明の核酸分子又は本発明のベクターを、種子植物のゲノム内に導入する手法は任意である。例えば、本発明のベクターを種子植物に生物的に感染させ、或いはアグロインフィルトレーション、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等の手法で種子植物の各組織に導入し、種子植物のゲノム内に導入することができる。更には本発明のベクターを用いず、CRISPR/Cas9システム等の公知の手法を用いて、本発明の核酸分子を直接植物のゲノム内に組み込むことも可能である。また、本発明の核酸分子又は本発明のベクターを種子植物の組織断片に導入し、これを培養して植物体とすることにより、本発明のベクターがゲノム内に導入された、本発明の核酸分子を恒常的に発現する再分化個体を得ることも可能である。
【0076】
以上の本発明の方法により、胚乳発生誘導ポリペプチドをコードする塩基配列を含む本発明の核酸分子がゲノム内に組み込まれて、胚乳発生誘導ポリペプチドを発現する組換植物が得られる。斯かる組換植物は、胚乳発生誘導ポリペプチドを発現することにより、受精を経ずに胚乳を発生する能力を有する。しかもこうして得られる胚乳は、従来の未受精植物で発生する非機能的な胚乳とは異なり、胚を養育する能力を備えた機能的な胚乳である。
【0077】
なお、前述の本発明の方法により作製される組換種子植物や、本発明の核酸分子又は本発明のベクターをゲノム内に含む組換え種子植物、受精を経ずに機能的な胚乳を発生する能力を有する組換え種子植物等、更にはそれらの植物の子孫又はそれらの部分も、本発明の対象となる。ここで、「植物の子孫」とは、当該植物の有性生殖又は無性生殖により得られる子孫をいい、当該植物のクローンを含む。例えば、当該植物体やその子孫から繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に当該植物の子孫を作出することが可能である。また、本発明において「植物若しくはその子孫、又はそれらの一部」としては、当該植物又はその子孫の植物における、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストが挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例にも束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
なお、以下に記載のプライマー塩基配列の表記のうち、大文字と小文字が混在しているものについては、大文字は増幅対象遺伝子の塩基配列と相補的な領域を意味し、小文字は付加配列を意味する。
【0079】
[概要]
実施例1は、At5g07260遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にカリフラワーモザイクウイルス(CAMV)35Sプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g07260SRDX(キメラ遺伝子A)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトA)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトAのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0080】
実施例2は、At5g26660遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にCAMV 35Sプロモーターで作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g26660SRDX(キメラ遺伝子B)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトB)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトBのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0081】
実施例3は、At5g01200遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にCAMV 35Sプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g01200SRDX(キメラ遺伝子C)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトC)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトCのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0082】
実施例4は、At2g38090遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にCAMV 35Sプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At2g38090SRDX(キメラ遺伝子D)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトD)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトDのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0083】
実施例5は、At5g58900遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にCAMV 35Sプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g58900SRDX(キメラ遺伝子E)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトE)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトEのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0084】
実施例6は、At3g16350遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にCAMV 35Sプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At3g16350SRDX(キメラ遺伝子F)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトF)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトFのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0085】
実施例7は、At5g01200遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にAt5g01200プロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProAt5g01200:At5g01200SRDX(キメラ遺伝子G)を有する形質転換用プラスミド(コンストラクトG)を構築し、これをシロイヌナズナ植物体に導入して得られた形質転換植物の形態を観察すると共に、受精胚の養育能力を解析することにより、コンストラクトFのシロイヌナズナにおける自発的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0086】
実施例8はOs05g0543600遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にZea mays UBQ1プロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os05g0543600SRDX(キメラ遺伝子H)を有する形質転換プラスミド(コンストラクトH)を構築し、これをイネカルスに導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトHのイネにおける自律的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0087】
実施例9はOs01g0142500遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にZea mays UBQ1プロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os01g0142500SRDX(キメラ遺伝子I)を有する形質転換プラスミド(コンストラクトI)を構築し、これをイネカルスに導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトIのイネにおける自律的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0088】
実施例10はOs01g0853700遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にイネFSTプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProOsFST:Os01g0853700SRDX(キメラ遺伝子J)を有する形質転換プラスミド(コンストラクトJ)を構築し、これをイネカルスに導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトJのイネにおける自律的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0089】
実施例11はOs04g0569100遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を直結し、これを更にイネFSTプロモーターの下流で作動するように連結したキメラ遺伝子ProOsFST:Os04g0569100SRDX(キメラ遺伝子K)を有する形質転換プラスミド(コンストラクトK)を構築し、これをイネカルスに導入して得られた形質転換植物の形態を観察することにより、コンストラクトKのイネにおける自律的胚乳発生促進効果を調べたものである。
【0090】
[実施例1]形質転換用コンストラクトA(ProCaMV 35S:At5g07260SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0091】
(1-1)コンストラクトAの構築
(a)プラスミドpBIG2の構築
米国ミシガン州立大学より譲渡された植物形質転換用ベクターpBIG-HYG(Becker, Nucleic Acid Research, (1990), 18(1):203)を制限酵素HindIII及びSstIで切断し、アガロースゲル電気泳動によって分離することで、GUS遺伝子を除いたpBIG-HYGのDNA断片を得た。
【0092】
また、プラスミドp35S-GFP(Clontech社、米国)を制限酵素HindIII及びBamHIで切断し、切断断片をアガロースゲル電気泳動で分離し、CAMV 35Sプロモーター(以下適宜「ProCaMV 35S」とする)を含むDNA断片を回収した。
【0093】
また、以下の配列番号45及び46の塩基配列を有するDNAを常法により合成し、70℃で10分加温した後、自然冷却によりアニールさせて2本鎖DNAとした。このDNA断片は、翻訳効率を高めるタバコモザイクウイルス(TMV)由来のオメガ(omega)配列の5’末端に制限酵素部位BamHI、3’末端に制限酵素部位SmaI及びSalIを結合させた配列を有する。この配列を導入することで、3’側に存在する遺伝子の発現効率を高めるとともに、以降のプラスミド構築に必須な制限酵素サイトを導入した。
【0094】
5’-GATCCACAATTACCAACAACAACAAACAACAAACAACATTACAATTACAGATCCCGGGGGTACCGTCGACGAGCT-3’(配列番号45)
5’-CGTCGACGGTACCCCCGGGATCTGTAATTGTAATGTTGTTTGTTGTTTGTTGTTGTTGGTAATTGTG-3’(配列番号46)
【0095】
前記のProCaMV 35Sを含むDNA断片、及び、前記の合成した2本鎖DNAを、前記のGUS遺伝子を除いたpBIG-HYGのHindIII及びSstI部位に挿入することにより、ProCaMV 35Sを担持する植物形質転換用ベクターを得た。これをプラスミドpBIG2とする。
【0096】
(b)プラスミドp35SRDXの構築
シロイヌナズナSUPERMAN遺伝子の転写抑制ドメインであるSRDXの塩基配列の5’末端にGGGを、3’末端にストップコドンをそれぞれ付与した、以下の配列番号47及び48の塩基配列を有する相補的な二本のDNA断片を作製した。
【0097】
5’-GGGCTCGATCTGGATCTAGAACTCCGTTTGGGTTTCGCTTAAG-3’(配列番号47)
5’-CTTAAGCGAAACCCAAACGGAGTTCTAGATCCAGATCGAGCCC-3’(配列番号48)
【0098】
合成された二本のDNA断片をアニールし、制限酵素SmaIで切断した上記のプラスミドpBIG2に挿入し、シークエンスを確認して、SRDXが順方向に導入されたものを選抜した。これをプラスミドp35SRDXとする。
【0099】
(c)プラスミド35S:At5g07260SRDX(コンストラクトA)の構築
シロイヌナズナAt5g07260遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号49の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号50の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、At5g07260遺伝子の全長配列からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0100】
5’-gATGTATCATCATCTTCAAACGAGGATTTT-3’ (配列番号49)
5’-ACGGTGGACTGGAAGAGCATTTTGGACATT-3’ (配列番号50)
【0101】
なお、PCR反応は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
【0102】
得られたAt5g07260遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドp35SRDXに挿入した。常法に従ってシークエンスを確認し、At5g07260遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt5g07260遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0103】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At5g07260遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g07260SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトA」と略称し、コンストラクトAが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g07260SRDXを適宜「キメラ遺伝子A」と略称する。キメラ遺伝子Aの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0104】
(1-2)形質転換植物体Aの作成
コンストラクトAによるシロイヌナズナ植物体の形質転換は、“Transfomation of Arabidopsis thaliana byvacuum infiltration”(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に記載の方法に従った。但し、感染させるのにバキュームは用いず、単に浸すだけにした。コンストラクトAを、土壌細菌(Agrobacterium tumefaciens)株GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell, Molecular and General Genetics, (1986), 204[3]:383-396)株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を250mLのLB培地で二日間培養した。
【0105】
次いで、培養液から菌体を回収し、500mLの感染用培地(Infiltration medium)に懸濁した。この溶液に、14日間生育したシロイヌナズナを1分間浸し、感染させた後、再び生育させ結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を30mg/lのハイグロマイシンを含む1/2MS選択培地に蒔種した。コンストラクトAにより首尾よく形質転換された植物体は、ハイグロマイシン耐性を獲得する。そこで、上記ハイグロマイシン培地で生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育させた。こうして得られた、コンストラクトAにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体A」と略称する。
【0106】
[実施例2]形質転換用コンストラクトB(ProCaMV 35S:At5g26660SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0107】
(2-1)コンストラクトBの構築
シロイヌナズナAt5g26660遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号51の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号52の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、At5g26660遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0108】
5’-gATGGGAAGACATTCTTGTTGTTTTAAGCA-3’ (配列番号51)
5’-AAGGCTCTGATCAAACACCATGTTATTAAG-3’ (配列番号52)
【0109】
得られたAt5g26660遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)で作製したプロモーターCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドp35SRDXに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、At5g26660遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt5g26660遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0110】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At5g26660遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g26660SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトB」と略称し、コンストラクトBが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g26660SRDXを適宜「キメラ遺伝子B」と略称する。キメラ遺伝子Bの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0111】
(2-2)コンストラクトBを用いた形質転換による形質転換植物体Bの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトBによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトBにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体B」と略称する。
【0112】
[実施例3]形質転換用コンストラクトC(ProCaMV 35S:At5g01200SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0113】
(3-1)コンストラクトCの構築
シロイヌナズナAt5g01200遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号53の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号54の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、At5g01200遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0114】
5’-gATGTCATCGTCGACGATGTACAGAGGAGT-3’ (配列番号53)
5’-ACTCCACTGCGGAAACGCATTATAATAGCT-3’ (配列番号54)
【0115】
得られたAt5g01200遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)で作製したプロモーターCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドp35SRDXに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、At5g01200遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt5g01200遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0116】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At5g01200遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g01200SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトC」と略称し、コンストラクトCが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g01200SRDXを適宜「キメラ遺伝子C」と略称する。キメラ遺伝子Cの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0117】
(3-2)コンストラクトCを用いた形質転換による形質転換植物体Cの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトCによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトCにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体C」と略称する。
【0118】
[実施例4]形質転換用コンストラクトD(ProCaMV 35S:At2g38090SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0119】
(4-1)コンストラクトDの構築
シロイヌナズナAt2g38090遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号55の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号56の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、At2g38090遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0120】
5’-gATGAACAGAGGAATCGAAGTTATGTCACC-3’ (配列番号55)
5’-CATTTGGAGATACGCATTGTACGATTCGAA-3’ (配列番号56)
【0121】
得られたAt2g38090遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)で作製したプロモーターCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドp35SRDXに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、At2g38090遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt2g38090遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0122】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At2g38090遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At2g38090SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトD」と略称し、コンストラクトDが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At2g38090SRDXを適宜「キメラ遺伝子D」と略称する。キメラ遺伝子Dの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0123】
(4-2)コンストラクトDを用いた形質転換による形質転換植物体Dの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトDによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトDにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体D」と略称する。
【0124】
[実施例5]形質転換用コンストラクトE(ProCaMV 35S:At5g58900SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0125】
(5-1)コンストラクトEの構築
シロイヌナズナAt5g58900遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号57の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号58の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、At5g58900遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0126】
5’-gATGGAGGTTATGAGACCGTCGACGTCACA-3’ (配列番号57)
5’-TAGTTGAAACATTGTGTTTTGGGCGTCATA-3’ (配列番号58)
【0127】
得られたAt5g58900遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)で作製したプロモーターCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドp35SRDXに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、At5g58900遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt5g58900遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0128】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At5g58900遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g58900SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトE」と略称し、コンストラクトEが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g58900SRDXを適宜「キメラ遺伝子E」と略称する。キメラ遺伝子Eの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0129】
(5-2)コンストラクトEを用いた形質転換による形質転換植物体Eの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトEによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトEにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体E」と略称する。
【0130】
[実施例6]形質転換用コンストラクトF(ProCaMV 35S:At3g16350SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0131】
(6-1)コンストラクトFの構築
シロイヌナズナAt3g16350遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号59の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号60の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、At3g16350遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0132】
5’-gATGACTCGTCGGTGTTCGCATTGTAGCAA-3’ (配列番号59)
5’-GATAGCCTGAATCGCGCTGTTGCCTTTACT-3’ (配列番号60)
【0133】
得られたAt3g16350遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)で作製したプロモーターCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドp35SRDXに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、At3g16350遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt3g16350遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0134】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProCaMV 35S、At3g16350遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At3g16350SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトF」と略称し、コンストラクトFが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At3g16350SRDXを適宜「キメラ遺伝子F」と略称する。キメラ遺伝子Fの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0135】
(6-2)コンストラクトFを用いた形質転換による形質転換植物体Eの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトFによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトFにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体F」と略称する。
【0136】
[実施例7]形質転換用コンストラクトG(ProAt5g01200:At5g01200SRDX)の構築及びシロイヌナズナ植物体の形質転換
【0137】
(7-1)コンストラクトGの構築
(a)プラスミドp35SRDXの構築
前記の[実施例1](1-1)(a)及び(b)と同様の手順により、プロモーターProCaMV 35S及び転写抑制ドメインSRDXが導入されたプラスミドp35SRDXを構築した。
【0138】
(b)プラスミドProAt5g01200-SRDX-NOSの構築
プラスミドp35SRDXに対して、常法に従い、attL1配列の5’側のHindIIIサイトに変異を導入した。これをHindIII及びSmaIで切断し、マルチクローニングサイトを含むDNA断片を挿入することにより、pSRDX-NOSとした。
【0139】
一方、シロイヌナズナのゲノムを鋳型として、以下の配列番号61の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号62の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、At5g01200遺伝子のコード領域の5’上流域にある約2.3kbpのプロモーター領域を増幅した。
【0140】
5’-GGGAAGCTTCGGACTTCTGATTGATCCATAGTTTGTCC-3’ (配列番号61)
5’-GGGGGATCCAGCTCCTCCTCTGTTTTTGGTGAAAACTTTC-3’ (配列番号62)
【0141】
なお、PCR反応は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
得られたAt5g01200遺伝子のプロモーター領域(以下適宜「ProAt5g01200」とする)の増幅産物を、常法に従ってHindIII及びBamHIで切断し、アガロールゲル電気泳動で回収した。同様に、上記のプラスミドpSRDX-NOSを、常法に従ってHindIII及びBamHIで切断し、アガロールゲル電気泳動で回収した。得られたプラスミドpSRDX-NOSの切断断片に、前記プロモーターProAt5g01200の切断断片を、常法に従って挿入し、シークエンスを確認することにより、At5g01200遺伝子の5’上流域が順方向に導入されており、且つPCRエラーが入っていないものを選抜した。得られたプラスミドをProAt5g01200-SRDX-NOSベクターと呼ぶ。
【0142】
(c)プラスミドへのAt5g01200の挿入によるProAt5g01200:At5g01200SRDXの構築
シロイヌナズナAt5g01200遺伝子のcDNAを鋳型として、前記[実施例3](1-1)と同様に、配列番号53の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号54の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、At5g01200遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0143】
得られたAt5g01200遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、上記の(b)で作製したプロモーターProAt5g01200及び転写抑制ドメインSRDXを有するプラスミドProAt5g01200-SRDX-NOSに、常法により挿入した。シークエンスを確認して、At5g01200遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にAt5g01200遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0144】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProAt5g01200、At5g01200遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProAt5g01200:At5g01200SRDXを担持する。この形質転換用プラスミドを適宜「コンストラクトG」と略称し、コンストラクトGが担持するキメラ遺伝子ProCaMV 35S:At5g01200SRDXを適宜「コンストラクトG」と略称する。キメラ遺伝子Fの構成を
図2Aに模式的に示す。
【0145】
(7-2)コンストラクトGを用いた形質転換による形質転換植物体Gの作成
前記[実施例1](1-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトGによるシロイヌナズナ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトGにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体G」と略称する。
【0146】
[評価1]形質転換植物体の形質の確認
形質転換植物体A~Gのつぼみから雄蕊を取り除き(除雄)、未受精のさや及び胚珠の形質を観察した。また、コントロールとして、野生型のシロイヌナズナ植物体の未受精のさや及び胚珠の形質を同様に観察した。形質転換植物体A~Eについて得られた光学顕微鏡写真を
図3に、形質転換植物体Gについて得られた光学顕微鏡写真を
図4にそれぞれ示す。
図3の写真は、野生型植物体及び形質転換植物体A~Eの各々の(a)つぼみの外観、(b)さやの外観、(c)さやの内部、及び(d)胚珠を示す。
図4の写真は、形質転換植物体Gの(A)さやの外観(野生型との対比で示す)、(B)さやの内部、並びに(C1)及び(C2)胚珠を示す。
図3及び
図4の写真から明らかなように、形質転換植物体A~Gの何れにおいても、野生型植物体と比較して、未受精条件下でのさやの伸長と胚珠の肥大が確認された。このことより、キメラ遺伝子A~Gを有するコンストラクトA~Gは、シロイヌナズナにおいて自発的胚珠肥大(未受精下での胚珠肥大)を誘導することが証明された。
【0147】
また、形質転換植物体A、C、及びGの胚珠の縦横長を測定し、胚乳部分の面積を算出した。形質転換植物体A、C、及びGの胚珠の縦横長を示すグラフを、それぞれ
図5A~Cに、形質転換植物体A、C、及びGの胚乳部分の面積を示すグラフを
図6に示す。形質転換植物体A、C、及びGの何れにおいても、胚乳の発生がみられた。このことより、キメラ遺伝子A、C、及びGを有するコンストラクトA、C、及びGは、シロイヌナズナにおいて自発的胚乳発生(未受精下での胚乳発生)を誘導することが証明された。
【0148】
[評価2]形質転換植物体の胚珠における種皮発生の解析
形質転換植物体A~C及びGの未受精のさやを分解し、取り出した胚珠をバニリン染色液(バニリン0.2gを6N HCl溶液10mlに懸濁したもの)で染色し、染色後の胚珠を光学顕微鏡を用いて観察した。また、コントロールとして、野生型のシロイヌナズナ植物体の胚珠を同様にバニリン染色し、光学顕微鏡を用いて観察した。得られた野生型植物体並びに形質転換植物体A~C及びGの光学顕微鏡写真を
図7に示す。形質転換植物体A~C及びGの何れの未受精胚珠においても、バニリン染色液による赤色の呈色が確認された。
【0149】
バニリン染色液は種皮のプロアントシアニジンを染色し、赤色を呈する。種皮のプロアントシアニジンの蓄積は胚乳の発生によって誘導されることが知られており、よって、バニリン染色は胚乳発生のマーカーとされている。つまり、形質転換植物体A~C及びFの未受精胚珠においてバニリン染色が見られたという事実から、形質転換植物体A~C及びGの胚乳が受精なしに胚乳を発達させていることが分かる。このことより、キメラ遺伝子A~C及びGを有するコンストラクトA~C及びGは、シロイヌナズナにおいて自発的胚乳発達(未受精下での胚乳発達)を誘導することが証明された。
【0150】
[評価3]形質転換植物体の自発的発生胚乳による胚の養育実験
形質転換植物体A及びGのつぼみから雄蕊を取り除き(除雄)、未受精の雌蕊に対してココペリ(kokoperi)変異体(赤色の蛍光マーカーを有する)の花粉を受粉した。
【0151】
ココペリ変異体を用いた実験の原理について、
図8A~Cを用いて説明する。
図8Aに示すように、一般的な花粉は2つの精細胞を含み、受粉時にはこれらの精細胞がそれぞれ卵細胞及び中央細胞と融合することで、それぞれ受精卵及び胚乳を発達させることが知られている(重複受粉:double fertilization)。一方で、
図8B及びCに示すように、ココペリ変異体の花粉は一つしか精細胞を含まないため、ココペリ変異体花粉を受粉した胚珠においては、卵細胞または中央細胞のみが受精する(単一受粉:single fertilization)。
【0152】
そこで、本実施例においては、形質転換植物体A及びGの雌蕊にココペリ花粉を交配し、卵細胞のみが受精した胚珠における胚の発生を観察することで、形質転換植物体A及びGの未受精で発達した胚乳が受精胚を養育しうるかどうかを確認した。
【0153】
野生型並びに形質転換植物体A及びGの雌蕊にココペリ花粉を交配して得られた植物体の胚珠の光学顕微鏡写真(上段)及び赤色蛍光写真(下段)をそれぞれ
図9に示す。野生型の雌蕊にココペリ花粉を受粉した場合(
図9A)においては、胚の発達は球状型で停止し、胚珠は潰れた。一方で、形質転換植物体Aの雌蕊にココペリ花粉を受粉した場合(
図9B)、及び、形質転換植物体Gの雌蕊にココペリ花粉を受粉した場合(
図9C)においては、胚の発達は初期心臓型胚まで進行しても、まだ胚珠に余裕があることが確認された。このことから、形質転換植物体A及びGの未受精で発達した胚乳には、胚の養育能力があることが証明された。
【0154】
[実施例8]形質転換用コンストラクトH(ProZmUBQ1:Os05g0543600SRDX)の構築及びイネ植物体の形質転換
【0155】
(8-1)コンストラクトHの構築
(a)プラスミドpZmUBQ1_SRDX_HSPの構築
Yoshida et al., Front Plant Sci. (2013) 4, 383.に記載のベクターpUBQ1SXGを制限酵素EcoRI及びSacIで切断し、プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ株式会社、日本)を制限酵素EcoRI及びSacIで切断して生じるHeat Shock Proteinターミネーターを含むDNA断片を挿入した。これをプラスミドpZmUBQ1_SRDX_HSPとする。このプラスミドはZeamaysUBQ1プロモーター、転写抑制ドメインSRDXをコードする領域、シロイヌナズナHSP18.2遺伝子のターミネーター領域を含んでおり、それらの両端にattL1、attL2 GATEWAY組換えサイトを有する。
【0156】
(b)コンストラクトHの構築
イネOs05g0543600遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号63の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号64の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、Os05g0543600遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0157】
5’-gATGGGACGGCTGTCGTCGTG-3’ (配列番号63)
5’-GAAGTATTCCAAGTTGAAGTCGAATTGAGC-3’ (配列番号64)
【0158】
得られたOs05g0543600遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドpZmUBQ1_SRDX_HSPに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、Os05g0543600遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にOs05g0543600遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0159】
得られたプラスミドは、Mitsuda et al., Plant Biotech. J., (2006) 4, 325-332. に記載されているpBCKHベクターとGATEAWY LR反応を起こすことによってpBCKHを背景とする形質転換用プラスミドを得た。
【0160】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProZmUBQ1、Os05g0543600遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os05g0543600SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトH」と略称し、コンストラクトHが担持するキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os05g0543600SRDXを適宜「キメラ遺伝子H」と略称する。キメラ遺伝子Hの構成を
図2Bに模式的に示す。
【0161】
(8-2)形質転換植物体Hの作成
コンストラクトHによるイネカルスの形質転換は、“A protocol for Agrobacterium-mediated transformation in rice”(Nishimura et al. 2006, Nature Protocols, 1:2796)に記載の方法に従った。コンストラクトHを、土壌細菌(Agrobacterium tumefaciens)株EHA105(Hood et al., Transgenic Research (1993) 2: 208-218.)株にエレクトロポレーション法で導入した。
【0162】
次いで、菌体を回収し、30mLの感染用培地(AAM containing acetosyringone)に懸濁した。この溶液に、イネ種子から3-4週間誘導した胚発生カルスを1分半間浸し、共存培養用培地(2N6-AS medium)上で48-60時間共存培養した。カルスを洗浄後、ハイグロマイシンを含む選抜培地(N6D-S medium)上で3-4週間培養した。コンストラクトHにより首尾よく形質転換されたカルスは、ハイグロマイシン耐性を獲得する。そこで、上記ハイグロマイシン培地で生育する形質転換カルスを選抜し、ハイグロマイシンを含む再分化培地(MS-NK medium)上で3~4週間、続いてハイグロマイシンを含む植物育成培地(MS-HF medium)上で3~4週間培養することにより形質転換植物体を再生させた。得られた形質転換植物体を土壌に植え換え、生育させた。こうして得られた、コンストラクトHにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体H」と略称する。
【0163】
[実施例9]形質転換用コンストラクトI(ProZmUBQ1:Os01g0142500SRDX)の構築及びイネ植物体の形質転換
【0164】
(9-1)コンストラクトIの構築
イネOs01g0142500遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号65の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号66の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、Os01g0142500遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0165】
5’-gATGATGATGAGGGATGTGTGCATGGAGGT-3’ (配列番号65)
5’-AAACAATATGCTTCGGCTCGCGGCCAACTG-3’ (配列番号66)
【0166】
得られたOs01g0142500遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドpZmUBQ1_SRDX_HSPに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、Os01g0142500遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にOs01g0142500遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。この後pBCKHとGATEWAY LR反応を行い、形質転換用プラスミドを得た。
【0167】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProZmUBQ1、Os01g0142500遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os01g0142500SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトI」と略称し、コンストラクトIが担持するキメラ遺伝子ProZmUBQ1:Os01g0142500SRDXを適宜「キメラ遺伝子I」と略称する。キメラ遺伝子Iの構成を
図2Bに模式的に示す。
【0168】
(9-2)コンストラクトIを用いた形質転換による形質転換植物体Iの作成
前記[実施例8](8-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトIによるイネ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトIにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体I」と略称する。
【0169】
[実施例10]形質転換用コンストラクトJ(ProOsFST:Os01g0853700SRDX)の構築及びイネ植物体の形質転換
【0170】
(10-1)コンストラクトJの構築
(a)プラスミドpOsFSTp-SRDX-HSP_Entryの構築
Mitsuda et al., Plant Cell (2007) 19, 270.に記載のベクターpSRDX-NOS_entryを制限酵素EcoRI及びSacIで切断し、プラスミドpRI201-AN(タカラバイオ株式会社、日本)を制限酵素EcoRI及びSacIで切断して生じるHeat Shock Proteinターミネーターを含むDNA断片を挿入した。これをプラスミドpSRDX-HSP_entryとする。イネゲノムを鋳型として、以下の配列番号67の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び以下の配列番号68の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いてPCR反応を行うことにより、イネFST遺伝子のプロモーター領域を増幅した。
【0171】
5’-GGCCGGCGCGCCTTATATATGGTCATTATATATTTGCTA-3’(配列番号67)
5’-AAATTTGGATCCGCCTGCTATACCTTCCTGATCGAGTTT-3’ (配列番号68)
【0172】
なお、PCR反応は、98℃2分の変性反応の後、変性反応98℃10秒、アニール反応55℃20秒、伸長反応72℃3分を1サイクルとして、30サイクル実施した。
【0173】
得られたFST遺伝子のプロモーター領域の増幅産物を、常法に従って、AscIとBamHIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドpSRDX-HSP_entryに挿入した。常法に従ってシークエンスを確認し、FSTプロモーター領域の塩基配列がゲノム情報と一致しているものを選抜した。これをプラスミドpFSTp-SRDX-HSP_entryとする。このプラスミドはOryza sativa FSTプロモーター、転写抑制ドメインSRDXをコードする領域、シロイヌナズナHSP18.2遺伝子のターミネーター領域を含んでおり、それらの両端にattL1、attL2 GATEWAY組換えサイトを有する。
【0174】
(b)コンストラクトJの構築
イネOs01g0853700遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号69の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号70の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(a)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、Os01g0853700遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0175】
5’-GATGATGGCAGAGGCGCTTCGGGAGGTGCT-3’ (配列番号69)
5’-CAAGTGTCCGCATTGCATCTGCAGGAG-3’ (配列番号70)
【0176】
得られたOs01g0853700遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドpFSTp-SRDX-HSP_entryに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、Os01g0853700遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にOs01g0853700遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。
【0177】
得られたプラスミドは、Mitsuda et al., Plant Biotech. J., (2006) 4, 325-332. に記載されているpBCKHベクターとGATEAWY LR反応を起こすことによってpBCKHを背景とする形質転換用プラスミドを得た。
【0178】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProOsFST、Os01g0853700遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProOsFST:Os01g0853700SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトJ」と略称し、コンストラクトJが担持するキメラ遺伝子ProOsFST:Os01g0853700SRDXを適宜「キメラ遺伝子J」と略称する。キメラ遺伝子Jの構成を
図2Bに模式的に示す。
【0179】
(10-2)コンストラクトJを用いた形質転換による形質転換植物体Jの作成
前記[実施例8](8-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトJによるイネ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトJにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体J」と略称する。
【0180】
[実施例11]形質転換用コンストラクトK(ProOsFST:Os04g0569100SRDX)の構築及びイネ植物体の形質転換
【0181】
(11-1)コンストラクトKの構築
イネOs04g0569100SRDX遺伝子のcDNAを鋳型として、以下の配列番号71の塩基配列を有する5’末端アッパープライマー、及び、以下の配列番号72の塩基配列を有する3’末端ローアープライマーを用いて、前記[実施例1](1-1)(b)と同様の条件でPCR反応を行うことにより、Os01g0142500遺伝子からストップコドンを除いた部分配列を増幅した。
【0182】
5’-GATGCAGTTCCCGTTCTCCGGCGCTGGCCC-3’ (配列番号71)
5’-CACGTCGCAATGCAGCGCCGTCTTGATCTT-3’ (配列番号72)
【0183】
得られたOs04g0569100遺伝子のストップコドンを除く増幅産物を、常法に従って、SmaIで切断してアガロールゲル電気泳動で回収し、前記のプラスミドpFSTp-SRDX-HSP_entryに挿入した。常法によりシークエンスを確認して、Os04g0569100遺伝子が順方向に導入されたものの中から、更にOs04g0569100遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜した。この後pBCKHとGATEWAY LR反応を行い、形質転換用プラスミドを得た。
【0184】
得られた形質転換用プラスミドは、プロモーターProOsFST、Os04g0569100遺伝子、及び転写抑制ドメインSRDXが作動式に連結されてなるキメラ遺伝子ProOsFST:Os04g0569100SRDXを担持する。このプラスミドを適宜「コンストラクトK」と略称し、コンストラクトKが担持するキメラ遺伝子ProOsFST:Os04g0569100SRDXを適宜「キメラ遺伝子K」と略称する。キメラ遺伝子Kの構成を
図2Bに模式的に示す。
【0185】
(11-2)コンストラクトKを用いた形質転換による形質転換植物体Kの作成
前記[実施例8](8-2)に記載の手順と同様にして、コンストラクトKによるイネ植物体の形質転換を実施し、首尾よく形質転換された植物体をハイグロマイシン培地による選抜により取得した。こうして得られた、コンストラクトKにより形質転換された植物体を、適宜「形質転換植物体K」と略称する。
【0186】
[評価4]形質転換植物体の形質の確認
形質転換植物体H、I、J及びKの開花期の花序を温湯(42℃)に7分間浸した後、同日中に開花した花から雄蕊を取り除いた(除雄)。開花が前日までに終了した花と開花前のつぼみは切り落とし、除雄した花において未授精の胚珠の発達を観察した。またコントロールとして、野生型のイネ植物体の花序を同様に除雄し、未授精の胚珠の発達を同様に観察した。また、形質転換植物体H、I、J、及びK、並びに野生型植物体それぞれの除雄しない花序においても、胚珠の発達を同様に観察した。胚珠の発達はステージ0~4に分類した。野生型のイネ植物体の各ステージ、及び、形質転換植物体H、I、J、及びKにおいて除雄しても自発的に肥大したステージ3相当の胚珠外観の代表的な写真を
図10A及びBに示す。ステージ0は開花前と同じ大きさの胚珠であるのに対し、ステージ1~4では胚乳肥大が起こっている。
図10A及びBのステージ3及び4の右側の写真は胚珠の切断面を示す。ステージ4の胚乳は完全に固形であるのに対し、ステージ3の胚乳は一部~全体が液状である。
【0187】
形質転換植物体H、I、及びJの自家受粉で得られた子孫、並びに野生型植物体を除雄した場合、及び除雄しない場合の胚珠肥大の割合を
図11A及びBのグラフに示す。また、形質転換植物体K当代及び野生型再分化植物体を除雄した場合、及び除雄しない場合の胚珠肥大の割合を
図12のグラフに示す。形質転換植物体H、I、J、及びKでは除雄した場合(未授精条件下)でも胚珠の肥大が確認された。このことより、キメラ遺伝子H、I、J、及びKを有するコンストラクトH、I、J、及びKは、イネにおいて自発的胚珠肥大(未受精下での胚珠肥大)を誘導することが証明された。
【0188】
また、形質転換植物体H、I、J、及びKの自発的に肥大した胚珠の内容物をヨウ素液(ヨウ化カリウム0.1gとヨウ素0.5gを蒸留水10mlに懸濁したもの)で染色し、染色後の胚珠を実体顕微鏡を用いて観察した。得られた形質転換植物体H、I、J、及びKのヨウ素液染色前後の実体顕微鏡写真を
図13に示す。ヨウ素液はデンプンを染色し青紫色を呈する。つまり、形質転換植物体H、I、J、及びKの未授精胚珠内容物においてヨウ素デンプン反応が見られたという事実から、形質転換植物体H、I、J、及びKの胚珠は受精なしに固形または液状のデンプンを含む胚乳を発達させていることがわかる。このことにより、キメラ遺伝子H、I、J、及びKをそれぞれ有するコンストラクトH、I、J、及びKは、イネにおいて自発的胚乳発達を誘導することが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明は、種子植物において受精を経ずに機能的な胚乳を人為的に誘導することを可能とする技術であることから、特に農業生産分野等で高い利用可能性を有する。
【配列表】