(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】メッシュ生成方法、解析方法、設計方法、コンピュータプログラム及び解析装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20240313BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20240313BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F119:14
(21)【出願番号】P 2020104201
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【氏名又は名称】清水 敏
(72)【発明者】
【氏名】麻 寧緒
(72)【発明者】
【氏名】タイン リン アン
【審査官】堀井 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-85532(JP,A)
【文献】特開2000-132582(JP,A)
【文献】特開平7-55656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00-30/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する第1算出ステップと、
前記応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、前記解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する第1特定ステップと、
前記初期メッシュにおいて、前記応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成ステップと、
前記適応的微細メッシュを用い、数値計算により応力分布を算出する第2算出ステップとを含む、解析方法。
【請求項2】
前記第1特定ステップは、前記相当応力が所定値より大きく、且つ、前記平均応力が正である部分を特定する第2特定ステップを含み、
前記第1特定ステップは、前記第2特定ステップにより特定された前記部分を、前記応力集中部分として特定する、請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
前記生成ステップは、
制御点の追加数を受付けるステップと、
前記応力集中部分において、既に前記制御ノットが追加された位置を除いて、前記相当応力が最大である位置に新たに制御ノットを追加する処理を、Bスプライン曲線のパラメトリック方程式により決定される前記制御点が前記追加数だけ追加されるまで繰返すステップとを含む、請求項2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記生成ステップは、
前記初期メッシュよりも多くの制御ノットを含む微細メッシュを生成するステップと、
前記微細メッシュに含まれる制御ノットのうち、前記応力集中部分に含まれる制御ノットを、前記生成ステップにおいて追加する前記制御ノットとして決定するステップとを含む、請求項2に記載の解析方法。
【請求項5】
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルをメッシュとして用い、NURBSの基底関数として3次以上の関数を適用することにより制御点を生成するステップと、
前記メッシュ及び前記制御点を用いて数値計算により応力分布を算出するステップとを含む、解析方法。
【請求項6】
設計対象物におけるパラメータの値を指定する指定ステップと、
請求項1から請求項5のいずれか1つの解析方法を用い、前記設計対象物を前記解析対象物とし、前記指定ステップにより指定された前記パラメータの前記値を前記CADデータのNURBSジオメトリモデルに適用して、相当応力の最大値である最大相当応力を算出する算出ステップと、
前記指定ステップにより前記パラメータの前記値が変更される度に、前記算出ステップを繰返し実行する繰返しステップと、
前記繰返しステップにより算出された前記最大相当応力と、当該最大相当応力に対応する前記パラメータの前記値と、前記設計対象物の設計強度を表す設計応力とを用いて、前記最大相当応力が前記設計応力を超えないように、前記パラメータの設計値を決定する決定ステップとを含む、設計方法。
【請求項7】
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出ステップと、
前記応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、前記解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定ステップと、
前記初期メッシュにおいて、前記応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成ステップとを含む、メッシュ生成方法。
【請求項8】
コンピュータに、
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する第1算出機能と、
前記応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、前記解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定機能と、
前記初期メッシュにおいて、前記応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成機能と、
前記適応的微細メッシュを用い、数値計算により応力分布を算出する第2算出機能とを実現させる、コンピュータプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルをメッシュとして用い、NURBSの基底関数として3次以上の関数を適用することにより制御点を生成する機能と、
前記メッシュ及び前記制御点を用いて数値計算により応力分布を算出する機能とを実現させる、コンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
設計対象物におけるパラメータの値を指定する指定機能と、
請求項8又は請求項9に記載のコンピュータプログラムにより、前記設計対象物を前記解析対象物とし、前記指定機能により指定された前記パラメータの前記値を前記CADデータのNURBSジオメトリモデルに適用して、相当応力の最大値である最大相当応力を算出する算出機能と、
前記指定機能により前記パラメータの前記値が変更される度に、前記算出機能を繰返し実行する繰返し機能と、
前記繰返し機能により算出された前記最大相当応力と、当該最大相当応力に対応する前記パラメータの前記値と、前記設計対象物の設計強度を表す設計応力とを用いて、前記最大相当応力が前記設計応力を超えないように、前記パラメータの設計値を決定する決定機能とを実現させる、コンピュータプログラム。
【請求項11】
コンピュータに、
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出機能と、
前記応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、前記解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定機能と、
前記初期メッシュにおいて、前記応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成機能とを実現させる、コンピュータプログラム。
【請求項12】
解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出部と、
前記応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、前記解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定部と、
前記初期メッシュにおいて、前記応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成部とを含み、
前記算出部はさらに、前記適応的微細メッシュを用いて、数値計算により応力分布を算出する、解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力分布の数値解析に関し、メッシュ生成方法、解析方法、設計方法、コンピュータプログラム及び解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、数値構造解析においては、主として有限要素法が利用されている。有限要素法により対象構造を形状近似する場合、その流れは次のようになる。
(1)形状設計を行い、設計データとしてCAD(Computer Aided Design)データを生成する。
(2)有限要素法で計算できるように、CADデータをメッシュに変換する。
(3)有限要素法(ソフトウェア)により応力ひずみを計算する。
(4)計算結果を可視化する等して、評価する。
その後、評価結果に応じて設計を変更して(1)に戻り、(1)~(4)の工程を繰返す。したがって、人的コストが増大する(特に(1)及び(2)の工程において人的コストが大きい)だけではなく、数値解析に伴う期間も長くなってしまう問題がある。その他にも、CADデータをメッシュに変換するために、形状近似の精度が低下する問題もある。
【0003】
上記の問題を解決するために、2005年に、CADデータをそのまま利用するIGA(Iso-Geometric Analysis)手法がHughesらにより提案された(下記非特許文献1参照)。IGA手法においては、上記の(2)の工程が削減され、上記の(1)→(3)→(4)が繰返される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hughes T.J.R., Cottrell J.A., Bazilevs Y.: Isogeometric analysis: CAD, finite elements, NURBS, exact geometry and mesh refinement, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering, Volume 194, Issues 39-41, 1 October 2005, Pages 4135-4195
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IGA手法は、有限要素法に対して、人的コストの低減、数値解析期間の短縮、及び、形状近似精度の向上が可能である。しかし、数値構造解析において、より一層、解析精度及び解析効率を向上することが求められている。また、解析結果を用いて、設計強度等の設計条件を満たすように構造物(製品を構成する部品等)のパラメータ(寸法等)を決定できれば好ましい。
【0006】
したがって、本発明は、従来よりも解析精度及び解析効率を向上できるIGA手法における制御メッシュ(以下、メッシュという)生成方法、解析方法、設計方法、コンピュータプログラム及び解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の第1の局面に係る解析方法は、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する第1算出ステップと、応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する第1特定ステップと、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成ステップと、適応的微細メッシュを用い、数値計算により応力分布を算出する第2算出ステップとを含む。これにより、従来よりも高精度の解析が可能になり、解析時間を短縮でき、解析効率が向上する。
【0008】
(2)好ましくは、第1特定ステップは、相当応力が所定値より大きく、且つ、平均応力が正である部分を特定する第2特定ステップを含み、第1特定ステップは、第2特定ステップにより特定された部分を、応力集中部分として特定する。これにより、応力集中部分を精度よく特定できるので、より高精度の解析が可能になる。
【0009】
(3)より好ましくは、生成ステップは、制御点の追加数を受付けるステップと、応力集中部分において、既に制御ノットが追加された位置を除いて、相当応力が最大である位置に新たに制御ノットを追加する処理を、Bスプライン曲線のパラメトリック方程式により決定される制御点が追加数だけ追加されるまで繰返すステップとを含む。これにより、ユーザが、追加する制御点の数を指定可能になるので、解析精度及び解析時間をバランスさせた解析が可能になる。
【0010】
(4)さらに好ましくは、生成ステップは、初期メッシュよりも多くの制御ノットを含む微細メッシュを生成するステップと、微細メッシュに含まれる制御ノットのうち、応力集中部分に含まれる制御ノットを、生成ステップにおいて追加する制御ノットとして決定するステップとを含む。これにより、自動的に、応力集中部分に微細にメッシュを生成できるので、人的コストを低減できる。
【0011】
(5)本発明の第2の局面に係る解析方法は、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルをメッシュとして用い、NURBSの基底関数として3次以上の関数を適用することにより制御点を生成するステップと、メッシュ及び制御点を用いて数値計算により応力分布を算出するステップとを含む。これにより、
できる。これにより、従来よりも高精度の解析が可能になり、解析時間を短縮でき、解析効率が向上する。
【0012】
(6)本発明の第3の局面に係る設計方法は、設計対象物におけるパラメータの値を指定する指定ステップと、上記のいずれか1つの解析方法を用い、設計対象物を解析対象物とし、指定ステップにより指定されたパラメータの値をCADデータのNURBSジオメトリモデルに適用して、相当応力の最大値である最大相当応力を算出する算出ステップと、指定ステップによりパラメータの値が変更される度に、算出ステップを繰返し実行する繰返しステップと、繰返しステップにより算出された最大相当応力と、当該最大相当応力に対応するパラメータの値と、設計対象物の設計強度を表す設計応力とを用いて、最大相当応力が設計応力を超えないように、パラメータの設計値を決定する決定ステップとを含む。これにより、設計強度を満たすように構造物(設計対象物)のパラメータを自動的に決定できるので、人的コストを低減できる。
【0013】
(7)本発明の第4の局面に係るメッシュ生成方法は、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出ステップと、応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定ステップと、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成ステップとを含む。これにより、生成された適応的微細メッシュを、数値解析用ソフトウェアに適用できる。
【0014】
(8)本発明の第5の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する第1算出機能と、応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定機能と、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成機能と、適応的微細メッシュを用い、数値計算により応力分布を算出する第2算出機能とを実現させる。これにより、従来よりも高精度の解析が可能になり、解析時間を短縮でき、解析効率が向上する。
【0015】
(9)本発明の第6の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルをメッシュとして用い、NURBSの基底関数として3次以上の関数を適用することにより制御点を生成する機能と、メッシュ及び制御点を用いて数値計算により応力分布を算出する機能とを実現させる。これにより、従来よりも高精度の解析が可能になり、解析時間を短縮でき、解析効率が向上する。
【0016】
(10)本発明の第7の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、設計対象物におけるパラメータの値を指定する指定機能と、上記のコンピュータプログラムにより、設計対象物を解析対象物とし、指定機能により指定されたパラメータの値をCADデータのNURBSジオメトリモデルに適用して、相当応力の最大値である最大相当応力を算出する算出機能と、指定機能によりパラメータの値が変更される度に、算出機能を繰返し実行する繰返し機能と、繰返し機能により算出された最大相当応力と、当該最大相当応力に対応するパラメータの値と、設計対象物の設計強度を表す設計応力とを用いて、最大相当応力が設計応力を超えないように、パラメータの設計値を決定する決定機能とを実現させる。これにより、設計強度を満たすように構造物(設計対象物)のパラメータを自動的に決定できるので、人的コストを低減できる。
【0017】
(11)本発明の第8の局面に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出機能と、応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定機能と、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成機能とを実現させる。これにより、生成された適応的微細メッシュを、数値解析用ソフトウェアに適用できる。
【0018】
(12)本発明の第9の局面に係る解析装置は、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する算出部と、応力分布から算出される、応力の大きさを表す相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において応力が集中する応力集中部分を特定する特定部と、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する生成部とを含み、算出部はさらに、適応的微細メッシュを用いて、数値計算により応力分布を算出する。これにより、従来よりも高精度の解析が可能になり、解析時間を短縮でき、解析効率が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来よりも精度の高い解析が可能である。また、従来よりも解析時間を短縮でき、解析効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る解析装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1実施形態に係る解析方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図3に示した解析対象に関する初期メッシュ及び制御点の例を示す図である。
【
図5】
図5は、内挿メッシュとマークされたノットスパンとを示す図である。
【
図8】
図8は、
図6に示した3種類のメッシュを用いて計算した相当応力を
図3の弧OPに沿って示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図6に示した3種類のメッシュを用いて計算した応力のX成分を弧OPに沿って示すグラフである。
【
図10】
図10は、
図6に示した3種類のメッシュを用いて計算した相当応力を
図3の線分PQに沿って示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図6に示した3種類のメッシュを用いて計算した応力のX成分を線分PQに沿って示すグラフである。
【
図12】
図12は、a=b=1000(mm)の場合の計算結果を示す図である。
【
図13】
図13は、a=1000(mm)及びb=300(mm)の場合の計算結果を示す図である。
【
図14】
図14は、a=1000(mm)及びb=380(mm)の場合の計算結果を示す図である。
【
図15】
図15は、(a,b)の組合せに対してプロットした最大相当応力の3次元分布を示す図である。
【
図16】
図16は、
図15に示した3次元分布において、a=1000(mm)の場合における最大相当応力の変化を示すグラフである。
【
図18】
図18は、
図17に示した解析対象に関する一様微細メッシュと、それに対応する相当応力の分布とを示す図である。
【
図21】
図21は、半径rを変化させて応力を数値計算した結果を示す図である。
【
図22】
図22は、半径rに対する相当応力の変化を示すグラフである。
【
図23】
図23は、本発明の第2実施形態に係る解析方法を示すフローチャートである。
【
図24】
図24は、2次、3次及び4次の基底関数を用いて計算した相当応力を
図3の弧OPに沿って示すグラフである。
【
図25】
図25は、2次、3次及び4次の基底関数を用いて計算した応力のX成分を弧OPに沿って示すグラフである。
【
図26】
図26は、2次、3次及び4次の基底関数を用いて計算した相当応力を
図3の線分PQに沿って示すグラフである。
【
図27】
図27は、2次、3次及び4次の基底関数を用いて計算した応力のX成分を
図3の線分PQに沿って示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施の形態では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。それらの名称及び機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
(第1実施形態)
(解析装置)
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る解析装置100は、制御部102、メモリ104及びI/F部106を含む本体110と、操作部120と、表示部122とを含む。解析装置100は、例えばコンピュータである。各部間のデータ交換は、バス108を介して行われる。制御部102は、例えばCPU(Central Processing Unit)を含み、各部を制御し、解析装置100の機能を実現する。メモリ104は、書換可能な不揮発性の半導体メモリ及びHDD等の大容量記憶装置を含む。
【0023】
メモリ104は、制御部102により実行されるプログラムを記憶している。制御部102は、後述する解析(例えば、応力分布の数値計算)を実行するためのプログラムをメモリ104から読出し、メモリ104の一部の領域をワークエリアとして利用してプログラムを実行する。制御部102は、実行結果をメモリ104に記憶する。また、制御部102は、受信したデータ(外部からの指示等)を適宜、メモリ104に記憶する。
【0024】
操作部120は、本体110(制御部102)に対する指示を入力するための装置であり、例えば、コンピュータ用キーボード(以下、単にキーボードいう)及びコンピュータ用マウス(以下、単にマウスという)である。表示部122は、画像を表示するための装置であり、例えば、液晶ディスプレイである。
【0025】
I/F部106は、本体110の外部装置とのインターフェイスを担う。I/F部106は、操作部120とのインターフェイスとして、操作部120から入力される信号(例えば、キーボードであれば、押下されたキーのコード、マウスであれば、位置座標及びクリック操作を表すデータ)を制御部102に伝送する。I/F部106は、表示部122とのインターフェイスとして、後述するように、メモリ104に記憶されている制御部102による解析結果の画像データ(デジタルデータ)を読出し、表示部122の入力信号の形式(アナログRGB、HDMI(登録商標)、DVI等)に変換して出力する。表示部122は、制御部102による解析結果を画像として表示する。
【0026】
(解析方法)
図2を参照して、解析装置100が実行する解析方法に関して説明する。
図2に示した処理は、制御部102が、所定のプログラムをメモリ104から読出して実行することにより実現される。解析装置100は、解析対象の応力分布を解析する。なお、予めメモリ104には、解析対象に関する情報(形状データ、材質データ、境界条件等)が記憶されているとする。解析対象に関する情報は、複数記憶されていてもよい。例えば、異なる形状データが複数記憶されていても、同じ形状データに関して、複数の境界条件等が記憶されていてもよい。形状データは、例えば解析対象の形状を表すCADデータである。
【0027】
ステップ200において、制御部102は、解析対象のジオメトリを読込む。ジオメトリは、解析対象の形状に関するデータであり、具体的にはCADデータである。
図3を参照して、一例の解析対象は、一様な材質であり、1辺が5000mm、厚さtが10mmの正方形の平板の1つの角(頂点A参照)を楕円形(円形を含む)に切り欠いた部材である。境界条件として、面300及び面302は半固定であり、面304には、左向きの矢印で示すように、合計2500kNの外力306(引張力、圧力50MPa)が加えられる。面300においてはY軸方向には変位せず(Y軸方向の変位uy=0、X軸方向には変位可能)、面302においてはX軸方向には変位しない(X軸方向の変位ux=0、Y軸方向には変位可能)。
【0028】
ステップ202において、制御部102は、ステップ200で読込んだジオメトリに対して、初期メッシュ(Initial mesh)を生成し、解析のための境界条件をメモリ104から読出して設定する。
図3に示した解析対象の場合、境界条件は、面300に関してuy=0、面302に関してux=0、及び、面304の面に関して引張圧力50MPaが設定される。初期メッシュは、公知のIGA手法により生成される。即ち、CADのNURBS(非均一B-スプライン:Non-Uniform Rational B-spline)ジオメトリモデルを、数値解析用の初期メッシュとして使用する。
【0029】
IGA手法においては、Bスプライン又はNURBS関数が、ジオメトリ及び解析場を表すための基底関数(形状関数)として使用される。次数pのBスプラインの基底関数Ni,p(ζ)は、次式(Cox-de Boor再帰式)により定義される。
【0030】
【数1】
ξはパラメータ値を表し、ξ
iはノットベクトル{ξ
1,ξ
2,…,ξ
(n+p+1)}のi番目のノット値を表す。ノットベクトルは、メッシュ境界を定義する、パラメータ空間内の実数のセットである。IGAでは、ノットベクトルは通常0から1の範囲に正規化される。
【0031】
p次の区分的Bスプライン曲線は、次のパラメトリック方程式によって定義される。
【0032】
【数2】
Uはパラメータξを変更することによってトレースされる曲線上の点の位置ベクトルであり、B
iはi番目の制御点の位置ベクトルを表す。制御点は、形状面上に規定しないため、形状面上に存在するノットを導入して面上の座標変形(変位)を表示し、変形及び応力を可視化する。上記のU(ξ)の式により表される曲線上のノットの位置は、パラメータξにより表される。なお、ノットには制御の役割はないが、本明細書においては、有限要素法の節点と明確に区別するために、ノットを「制御ノット」という。制御ノットはメッシュ境界上に位置する。
【0033】
NURBS基底関数は、Bスプライン基底関数を使用して定義される。即ち、NURBS基底関数は、各制御点に追加の重みパラメータwiを追加し、次式に示すようにBスプライン関数の加重平均をとることによって計算される。
【0034】
【0035】
3次元のNURBS基底関数は、重みパラメータwi,j,kを用いて次式で表される。
【0036】
【0037】
さらに、上式のNURBS基底関数Rを用い、V(ξ,η,ζ)をソリッド(対象物)内の位置ベクトルとし、Bi,j,kを制御点の位置ベクトルとして、Bスプラインソリッドは次式で定義される。
【0038】
【0039】
図3に示した解析対象に関する初期メッシュの例を、
図4に示す。
図4において、黒丸で強調して示している各点は、制御点である。NURBSの基底関数としては、ξの2次関数を使用している。
【0040】
ステップ204において、制御部102は、ステップ202で生成した初期メッシュ及び境界条件を用いて、解析対象に関して応力を数値計算する。計算結果(応力分布等)は、メモリ104に記憶される。
【0041】
ステップ206において、制御部102は、メッシュサイズ(制御メッシュの境界の長さ)を読込み、内挿メッシュ(Interpolation mesh)を生成する。メッシュサイズは予め設定され、メモリ104に記憶されている。具体的には、制御部102は、平均メッシュサイズ(長さ)が指定サイズを満たすまで、新たに制御ノットを追加して、初期メッシュを修正することにより、内挿メッシュを生成する。平均メッシュサイズは、ノットベクトル及びBスプライン基底関数から直線近似により各制御メッシュの境界の長さを計算し、解析対象全体に関して平均した値である。直線近似とは、各境界を定める制御ノットを順に直線で結んで形成される折れ線により、各境界を近似することを意味する。指定サイズはメッシュサイズである。例えば、制御部102は、所定数の制御ノットを追加する度に、平均メッシュサイズを計算し、平均メッシュサイズ≦指定サイズ となれば、制御ノットを追加する処理を停止する。追加される制御ノットの数Nは、N=現在のメッシュ境界長/要求メッシュ境界長-1 となる。ここで、メッシュ境界長は、解析対象全体に関する制御メッシュ境界の長さであり、要求メッシュ境界長はメッシュサイズである。
図3に示した解析対象に関しては、例えば、
図5に示すような内挿メッシュが生成される。これは、ほぼ一様に、微細に形成されたメッシュ(以下、一様微細メッシュ(Uniform refined mesh)という)と言える。
【0042】
ステップ208おいて、制御部102は、内挿メッシュに応力場(応力分布)を対応させる。具体的には、制御部102は、ステップ206で生成した内挿メッシュに、ステップ204で計算され、メモリ104に記憶されている応力分布を対応させ、内挿メッシュの各制御メッシュの位置(例えば、制御メッシュの中央)における応力値を特定する。
【0043】
ステップ210において、制御部102は、制御ノットを追加する2種類の方法のいずれを実行するかを判定する。第1の方法においては、追加する制御ノットの数をユーザが指定する。第2の方法においては、制御ノットは自動的に追加される。第1の方法及び第2の方法のいずれを実行するかは、例えば、ユーザが選択すればよい。第1の方法を実行する場合、制御はステップ211に移行する。第2の方法を実行する場合、制御はステップ216に移行する。
【0044】
ステップ211において、制御部102は、追加する制御ノットの数(追加数)の入力を受付ける。例えば、制御部102は、表示部122に、追加数の入力を促すメッセージを表示し、操作部120の操作を待受ける。操作部120を介して制御ノットの追加数が入力された後、制御はステップ216に移行する。
【0045】
ステップ212において、制御部102は、ステップ208の処理結果(内挿メッシュの各制御メッシュの位置における応力値)を用いて、相当応力(Equivalent stess)Seqが、限界応力Scrよりも大きく、且つ、平均応力Savが正である領域において、相当応力Seqが最大である位置(内挿メッシュ上の位置)を特定する。そして、制御部102は、特定された位置に対応する初期メッシュ上の位置に、制御ノットを挿入(追加)する。限界応力Scrは、予め定められたしきい値である。後述するように、ステップ212は、追加する制御ノットの数(ステップ210でユーザにより入力された数)に応じて繰返されるので、2回目以降においては、既に制御ノットが追加された位置を除いて、相当応力Seqが最大である位置に、制御ノットを追加する。なお、制御ノットが追加されることにより追加される制御点は、上記の式1及び式2により決定される。
【0046】
2次元の相当応力Seq及び平均応力Savは、応力テンソルの成分を用いて、次のように表される。
Seq=[(S11)2-S11S22+(S22)2+3(S12)2]1/2
Sav=(S11+S22+S33)/3
3次元の場合には、次のように表される。
Seq={[(S11-S22)2+(S22-S33)2+(S33-S11)2]/2+6[(S12)2+(S23)2+(S31)2]}1/2
Sav=(S11+S22+S33+S12+S23+S31)/6
なお、以下において、相当応力を、Von Mises stress(ミーゼス応力)とも記載する。
【0047】
限界応力Scrは、任意の値に設定できる。例えば、限界応力Scrは、ステップ208で算出された相当応力の最大値である最大相当応力Seq_maxの約70%に設定できる。限界応力Scrを適切な値に設定することにより、後述するように、応力集中部分を精度よく特定でき、高精度の解析結果を得ることができる。
【0048】
ステップ214において、制御部102は、ユーザにより指定された追加数だけ、制御ノットを追加する処理が完了したか否かを判定する。完了したと判定された場合、制御はステップ220に移行する、そうでなければ、制御はステップ212に戻る。これにより、相当応力Seqの大きい位置から順に、ユーザにより指定された追加数だけ制御ノットが追加される。
【0049】
一方、第2の方法を実行する場合、ステップ216において、制御部102は、ステップ208の処理結果(内挿メッシュの各制御メッシュの位置における応力値)を用いて、内挿メッシュにおいて、相当応力Seqが限界応力Scr(しきい値)よりも大きく、且つ、平均応力Savが正である制御メッシュを特定する。例えば、該当するノットスパン(knot span)をマークする(印を付ける)。ノットスパンは、隣接する制御ノット間(線分)を意味する。
図5において、黒又は灰色で示した領域は、マークされたノットスパンを示す。
【0050】
ステップ218において、制御部102は、ステップ216でマークされたノットスパンの制御ノット(各ノットスパンの両端の制御ノット)を、初期メッシュに挿入(追加)する。その後、制御はステップ220に移行する。
【0051】
ステップ220において、制御部102は、ステップ202で用いた初期メッシュと、ステップ212又はステップ218により追加された制御ノットとを用いて、ステップ200で読込んだジオメトリに対して新たにメッシュ及び制御点を生成し、それに応じて境界条件を更新する。新たに生成されたメッシュは、上記したように、初期に計算された応力分布における応力集中部分を考慮して、適応的に形成された、より微細なメッシュ(以下、適応的微細メッシュ(Adaptive refined mesh)という)である。生成された適応的微細メッシュはメモリ104に記憶される。
【0052】
ステップ222において、制御部102は、ステップ220で決定した適応的微細メッシュ及び境界条件を用いて、解析対象に関して応力を数値計算する。計算結果(応力分布等)は、メモリ104に記憶される。なお、ステップ222はなくてもよい。例えば、後述するように、適応的微細メッシュを生成し、それを別の解析ソフトで使用する場合には、応力を数値計算する必要はない。
【0053】
ステップ224において、制御部102は、必要に応じて、ステップ222による計算結果をメモリ104から読出し、例えば表示部122に表示する。これにより、計算された応力の分布を目視により確認できる。なお、ステップ222がなければ、ステップ224において、制御部102は、ステップ220の結果をメモリ104から読出し、例えば表示部122に表示する。これにより、適応的微細メッシュを目視により確認できる。
【0054】
ステップ226において、制御部102は、終了する指示を受けたか否かを判定する。終了の指示は、例えば、ユーザが操作部120を操作することにより成される。終了する指示を受けた場合、本プログラムは終了する。同じ解析対象に対して、異なる条件で解析を行う場合等、終了しない場合には、制御はステップ206に戻る。
【0055】
以上により、解析対象のCADデータから生成された初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより、応力集中部分を細かく分割したメッシュを持つ適応的微細メッシュを生成できる。後述するように、適応的微細メッシュは、制御点の数及び制御メッシュの数のいずれも、一様微細メッシュよりも少ないので、解析時間は短く、解析効率が高い。それにも拘わらず、適応的微細メッシュを用いることにより、一様微細メッシュを用いた解析精度と同等の解析精度を実現できる。
【0056】
ユーザが、制御ノットの追加数を指定することにより、解析精度及び解析時間をバランスさせた解析が可能になる。また、自動的に、応力集中部分に制御ノットを追加することにより、自動的に適応的微細メッシュを生成できるので、人的コストを低減できる。
【0057】
例えば、
図3に示した解析対象に関して、
図6に示すように、初期メッシュから適応的微細メッシュが生成される。
図6において、左上には、初期メッシュとそれを用いた解析結果(応力分布)を示す(ステップ202及び204参照)。右上には、ステップ206の処理により生成された一様微細メッシュ(内挿メッシュ)と、ステップ208の処理により特定された応力値の分布を示す(参照)。左下には、適応的微細メッシュとそれを用いた解析結果(応力分布)を示す(ステップ220及び222参照)。応力分布は、輝度が低い(暗い)ほど、応力が大きいことを表している。
【0058】
図7に、ステップ216及び218によりマークされた領域(応力が集中する領域(相当応力Seq>75(MPa)(限界応力Scr)、及び、平均応力Sav>0))を示す。
図6の左下に示した画像において、破線で示した領域は、応力が集中する部分が細かくメッシュ分割され、初期メッシュに対して新たにメッシュが追加された領域を表す。
【0059】
各メッシュタイプに関する制御点の数及び制御メッシュの数を表1に示す。ここでは、初期メッシュ、一様微細メッシュ及び適応的微細メッシュの生成において、NURBSの基底関数としてξの2次関数を用いた。適応的微細メッシュは、一様微細メッシュと比較して、制御点の数及び制御メッシュの数のいずれも非常に少ないが、後述するように、一様微細メッシュを用いた解析結果に近い解析結果が得られる。即ち、適応的微細メッシュを用いることにより、より短い解析時間で、高精度の解析結果が得られる。
【0060】
【0061】
図8~
図11を参照して、適応的微細メッシュの有効性を具体的に示す。
図8は、
図3に示した解析対象(境界条件は上記したとおり)において、点O及び点Pを両端とする弧OP(楕円弧又は円弧)に沿った相当応力の変化を示す。
図9は、
図3に示した解析対象において、弧OPに沿った応力のX成分の変化を示す。
図10は、
図3に示した解析対象において、点P及び点Qを両端とする線分PQに沿った相当応力の変化を示す。
図11は、
図3に示した解析対象において、線分PQに沿った応力のX成分の変化を示す。破線、実線及び点線のグラフはそれぞれ、初期メッシュ、適応的微細メッシュ及び一様微細メッシュを用いて応力を計算した結果を表す。対応する制御点の数及び制御メッシュの数は、表1に示したものである。
【0062】
制御点の数及び制御メッシュの数から分かるように、一様微細メッシュが、最も計算時間はかかるが、最も計算精度が高い。
図8~
図11から分かるように。適応的微細メッシュの計算結果は、一様微細メッシュの計算結果によく一致していることが分かる。一方、適応的微細メッシュでは、一様微細メッシュよりも制御点の数が少なく、したがって計算量も少なくてすむ。即ち、適応的微細メッシュを用いることにより、より短い解析時間で、高精度の解析結果が得られることが分かる。
【0063】
(設計方法)
適応的微細メッシュを用いて応力分布を数値計算することにより、設計対象が所定の条件を満たすように、精度よく設計値を決定できる。
【0064】
(第1設計例)
図3に示した部材(設計対象)に関して、上記のように生成した適応的微細メッシュを用いて応力分布を数値計算した結果に基づいて、安全条件を満たすように設計パラメータを決定する方法に関して説明する。
図3に示した設計対象に関して、長さa及びbを変化させて適応的微細メッシュを生成し、それを用いて応力分布を数値計算し、最大相当応力が設計強度を超えないように設計した。
図12~
図14に、計算結果の一例を示す。
図12は、a=b=1000(mm)として計算した結果である。
図13は、a=1000(mm)及びb=300(mm)として計算した結果である。
図14は、a=1000(mm)及びb=380(mm)として計算した結果である。
【0065】
各図において、左上の画像は、初期メッシュと、それを用いて計算した相当応力の分布とを示す。各図において、右上の画像は、初期メッシュと、それを用いて計算した平均応力の分布とを示す。各図において、左下の画像は、
図2のステップ216及び218により特定された応力集中部分(矢印で示す領域)を示す。応力集中部分は、上記したように、内挿メッシュを用いて制御ノットを追加する領域であり、ここでは、Seq>70MPa、及び、Sav>0である領域である。各図において、右下の画像は、左下の画像の応力集中部分が細かくメッシュ分割(制御ノットの追加)されて生成された適応的微細メッシュと、それを用いて計算された相当応力の分布とを示す。
【0066】
上記と同様にして、長さa及びbを、200~1000(mm)の範囲で変化させて応力分布を計算し、各分布における最大相当応力を座標上にマップすると、
図15に示す3次元分布を得ることができる。
図15においては、分布が3次元的な曲面であることを示すために輝度に変化を持たせているが、輝度と最大相当応力とは1対1には対応していない。
【0067】
図16は、
図15の3次元分布を、a=1000(mm)の平面で切断して得られるグラフを示す。安全な構造を設計するためには、最大応力Smaxが設計強度Sdesignを超えないようにする必要がある。例えば、設計条件として、a=1000(mm)及びSdesign=100(MPa)が与えられた場合、安全な設計として、
図16に破線で示すように、長さbの設計値を約380mm以下にすればよいことが分かる。
【0068】
長さaが1000(mm)と異なる場合にも、同様にして、安全な設計になるように、長さbの範囲を決定できる。設計条件として長さbが指定されている場合には、
図15に示した3次元分布を、長さbが一定値(指定値)の面で切断して得られるグラフを用いて、最大相当応力が設計強度以下になるように、長さaの設計値を決定すればよい。
【0069】
(第2設計例)
図3とは異なる解析対象に関する設計例を示す。
図17を参照して、解析対象は、一様な材質で形成されたL字型の部材であり、辺320及び辺322が100mm、辺324及び辺326が20mm、並びに、厚さtが1mmである。曲線328は、半径r(mm)の円弧状(1/4円)に形成されている。境界条件として、辺320及び辺324は半固定であり、点Bには、左方向の矢印で示すように60kNの外力330(引張力)が加えられる。辺320においてはY軸方向には変位せず(Y軸方向の変位uy=0、X軸方向には変位可能)、辺324においてはX軸方向には変位しない(X軸方向の変位ux=0、Y軸方向には変位可能)。
【0070】
図17に示した解析対象に関して、
図3に示した解析対象に関する解析と同様に解析した結果を、
図18~
図21に示す。
図18は、適応的微細メッシュを用いて数値計算した結果である相当応力の分布を示している。Seq_maxを付した矢印で示す部分に引張応力が集中している。
図19は、
図18に対応する平均応力の分布を示す。Sav<0を付した領域には圧縮応力が発生し、Sav>0を付した領域に引張応力が発生している。
図20において、相当応力Seqが70MPaを超える部分をグレー表示している。領域340内のグレー部分は、Sav>0であり引張応力が生じている部分であり、領域342内のグレー部分は、Sav<0であり圧縮応力が生じている部分である。ここでは、Seq>70(MPa)及びSav>0(引張応力)である領域340内のグレー部分が、安全設計上の対象(関心部分)である。したがって、領域340内のグレー部分が、
図2のフローチャートで示したように微細に分割されて、適応的微細メッシュが生成される。
【0071】
図21は、半径rを3~12mmの範囲で変化させて、応力分布を計算した結果の相当応力の分布を示す。
図22は、
図21に示した各分布における最大相当応力を、半径rに対してプロットしたグラフを示す。例えば、設計条件として、設計強度Sdesign=100(MPa)が与えられた場合、安全な設計とするには、
図22のグラフから、半径rの設計値を約8mm以下にすればよいことが分かる。
【0072】
第1設計例及び第2設計例として示したように、設計対象におけるパラメータ(設計変数)を変化させて応力分布を数値計算し、パラメータと各応力分布における最大相当応力との対応関係を求めれば(例えば、
図16及び
図22に示したグラフ)、それを用いて、設計強度Sdesignを超えないようにパラメータの設計値を自動的に決定できる。即ち、設計条件を満たす形状寸法を自動的に決定できる。上記した適応的微細メッシュを用いることにより、短い解析時間で、高精度に応力分布を計算できるので、設計効率及び設計精度が向上する。
【0073】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、応力集中部分を微細にメッシュ分割して適応的微細メッシュを生成し、それを用いて応力を数値計算する場合を説明したが、これに限定されない。解析精度を向上し、解析時間を短縮するために、第2実施形態においては、適応的微細メッシュを生成する代わりに、NURBSの基底関数としてξの3次以上の関数を用いる。
【0074】
即ち、CADデータのNURBSジオメトリモデルから、NURBSの基底関数として3次以上の関数を用いることにより新たなジオメトリモデルを生成し、それを数値計算用のメッシュとして用いる。これにより、上記において、CADデータのNURBSジオメトリモデルを用いた初期メッシュ(NURBSの基底関数に2次関数を使用)とは異なる制御点が追加される。
【0075】
(解析方法)
解析装置としては、
図1に示した解析装置100を使用する。
図23を参照して、本実施形態の解析方法に関して説明する。
図23に示した処理は、制御部102が、所定のプログラムをメモリ104から読出して実行することにより実現される。解析装置100は、解析対象の応力分布を解析する。第1実施形態と同様に、予めメモリ104には、解析対象に関する情報(形状データ、材質データ、境界条件等)が記憶されている。形状データは、例えば解析対象の形状を表すCADデータである。
【0076】
ステップ400において、制御部102は、解析対象のジオメトリを読込む。この処理は、ステップ200(
図2)と同じ処理である。
【0077】
ステップ402において、制御部102は、ステップ400で読込んだジオメトリに対して、初期メッシュを生成し、解析のための境界条件をメモリ104から読出して設定する。この処理は、ステップ202(
図2)と同じ処理である。初期メッシュは、公知のIGA手法により生成される。即ち、CADのNURBS(非均一B-スプライン:Non-Uniform Rational B-spline)ジオメトリモデルを、数値解析用の初期メッシュとして使用する。NURBSの基底関数には、例えば、2次関数を使用する。
図3に示した解析対象の場合、初期メッシュは
図4と同じである。
【0078】
ステップ404において、制御部102は、ステップ402で生成した初期メッシュ及び境界条件を用いて、解析対象に関して応力を数値計算する。この処理は、ステップ204(
図2)と同じ処理である。計算結果(応力分布等)は、メモリ104に記憶される。
【0079】
ステップ406において、制御部102は、前回応力の数値計算に用いたメッシュの生成に使用した基底関数の次数(n)よりも1だけ大きい次数(n+1)の基底関数を特定する。具体的には、上記の式1及び式2により基底関数を特定する。後述するように、ステップ406は繰返し実行され得る。ステップ406が最初に実行される場合、ステップ402において初期メッシュの生成に使用した基底関数の次数nは2であるので、制御部102は、3次の基底関数を特定する。
【0080】
ステップ408において、制御部102は、ステップ406で特定した基底関数を用いて、応力の数値計算のための制御点を生成(決定)し、それを用いて応力を数値計算する。メッシュは初期メッシュと同じもの(例えば、
図4)が使用される。但し、(n+1)次の基底関数を用いるので、制御点は、ステップ404の計算で使用した制御点とは異なる。計算結果(応力分布等)は、メモリ104に記憶される。
【0081】
ステップ410において、制御部102は、今回の応力の計算結果と前回の計算結果との差を評価する。具体的には、次式が成り立つか否かを判定する。
【0082】
【0083】
Seq(n)は、前回、n次関数を用いて生成したメッシュ及び制御点を用いて算出した相当応力である。Seq(n+1)は、今回、(n+1)次関数を用いて生成したメッシュ及び制御点を用いて算出した相当応力である。Ωに関する積分は、解析対象全体にわたる積分を意味する。2次元であれば面積分、3次元であれば体積積分である。εは、例えば、予め指定され、メモリ104に記憶されていればよい。上記の式が成り立つと判定された場合、制御はステップ412に移行する。そうでなければ、制御はステップ406に戻り、ステップ406以降の処理を繰返す。このとき、ステップ406においては、次数を1だけ大きくして基底関数を特定する。
【0084】
ステップ412において、制御部102は、必要に応じて、ステップ408による計算結果をメモリ104から読出し、例えば表示部122に表示する。その後、本プログラムは終了する。
【0085】
以上により、解析対象のCADデータから生成された初期メッシュのまま、より高次(3次以上)の基底関数を用いて新たに決定した制御点を用いて、応力を数値計算できる。これにより、後述するように、制御点の数及び制御メッシュの数のいずれも、一様微細メッシュよりも少ないので、解析時間は短く、解析効率が高い。それにも拘わらず、高次の基底関数を用いて決定した制御点を用いることにより、一様微細メッシュを用いた解析精度に近い解析精度を実現できる。
【0086】
3次の基底関数を用いて生成したメッシュの制御点の数及び制御メッシュの数を、表2において、メッシュタイプを3次メッシュとして示す。表2には、対比が容易になるように、表1の値も示している。
【0087】
【0088】
図24~
図27を参照して、高次の基底関数を使用することの有効性を具体的に示す。
図24~
図27は、
図3に示した解析対象(境界条件は上記と同じ)に関して、それぞれ
図8~
図11に対応する位置における計算結果を示す。即ち、
図24及び
図25は、点O及び点Pを両端とする弧OP(楕円弧又は円弧)に沿った計算結果を示しており、それぞれ相当応力の変化及び応力のX成分の変化を示す。
図26及び
図27は、点P及び点Qを両端とする線分PQに沿った計算結果を示しており、それぞれ相当応力の変化及び応力のX成分の変化を示す。破線、実線及び点線のグラフはそれぞれ、2次の基底関数、3次の基底関数及び4次の基底関数を用いた場合の計算結果を表す。2次の基底関数を用いた場合の制御点の数及び制御メッシュの数は、表2において、初期メッシュとして示したものである。3次の基底関数を用いた場合の制御点の数及び制御メッシュの数は、表2において、3次メッシュとして示したものである。4次の基底関数を用いた場合、制御メッシュの数は2次及び3次の場合と同じ(8)であるが、制御点の数は、3次の基底関数を用いた場合よりも多い。
【0089】
制御点の数及び制御メッシュの数から分かるように、一様微細メッシュが、最も計算時間はかかるが、最も計算精度が高い。
図24~
図27のグラフと、
図8~
図11における一様微細メッシュによる計算結果のグラフとを比較すると、基底関数の次数が大きくなるほど、一様微細メッシュによる計算結果に近い値が算出できていることが分かる。即ち、より高次の基底関数を用いることにより、高精度の解析結果が得られる。
【0090】
3次の基底関数を用いた場合の制御点の数及び制御メッシュの数はいずれも、一様微細メッシュの値と比較して非常に少ない。したがって、3次の基底関数を用いることにより、より短い解析時間で、高精度の解析結果を得ることができる。なお、NURBSの基底関数としてξの4次以上の基底関数を用いてもよい。
【0091】
第1実施形態において、制御ノットの追加数をユーザが直接指定する場合を説明したが、いくつかの候補を表示部122に提示して、ユーザに選択させてもよい。また、上記では、追加する制御ノットの数が指定される場合を説明したが、追加する制御点の数が指定されてもよい。制御点の数及び制御ノットの間には、基底関数の次数により決まる一定の関係がある。したがって、追加する制御点の数が指定された場合、基底関数の次数を考慮して、追加する制御ノットの数を求めることができる。
【0092】
上記では、1台の解析装置において、適応的微細メッシュを生成し、それを用いて応力を計算する場合を説明したが、これに限定されない。解析装置は複数の装置により構成されてもよい。例えば、与えられたメッシュを用いて応力を計算する装置と、適応的微細メッシュを生成する装置とにより構成されてもよい。同様に、解析方法に関しても、複数のプログラムにより実現されてもよい。例えば、与えられたメッシュを用いて応力を計算するプログラムと、適応的微細メッシュを生成するプログラムとにより構成されてもよい。
【0093】
上記では、引張応力(Sav>0)が集中する部分を細かくメッシュ分割する場合を説明したが、これに限定されない。圧縮応力(Sav<0)が集中する部分を細かくメッシュ分割して、適応的微細メッシュを生成してもよい。
【0094】
上記した解析装置の機能(解析方法)は、解析装置100の制御部102がプログラムを実行することにより実現される場合を説明したが、これに限定されない。
図2に示した処理の全て又は一部を、専用のハードウェア(回路基板、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等)により実現してもよい。例えば、算出部、特定部及び生成部の機能をASICにより実現してもよい。算出部は、解析対象物のCADデータのNURBSジオメトリモデルを初期メッシュとして用い、数値計算により応力分布を算出する。特定部は、応力分布における相当応力及び平均応力を用いて、解析対象物において引張応力が集中する応力集中部分を特定する。生成部は、初期メッシュにおいて、応力集中部分に制御ノットを追加することにより適応的微細メッシュを生成する。算出部はさらに、適応的微細メッシュを用いて、数値計算により応力分布を算出する。
図2に示した処理に関しても、その全て又は一部を、専用のハードウェア(回路基板、ASIC等)により実現してもよい。
【0095】
また、
図2又は
図23に示した処理をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録媒体(光ディスク(DVD(Digital Versatile Disc)等)、着脱可能な半導体メモリ(USB(Universal Serial Bus)メモリ等))を提供してもよい。
【0096】
以上、実施の形態を説明することにより本発明を説明したが、上記した実施の形態は例示であって、本発明は上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。
【符号の説明】
【0097】
100 解析装置
102 制御部
104 メモリ
106 I/F部
108 バス
110 本体
120 操作部
122 表示部
300、302、304 面
320、322、324、326 辺
328 曲線
306、330 外力
340、342 領域
A、B、O、P、Q 点
a、b 長さ
r 半径
t 厚さ