(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】高分子材料及びその製造方法、並びに高分子組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
C08L101/02
(21)【出願番号】P 2020560031
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2019047720
(87)【国際公開番号】W WO2020116590
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018228568
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 基史
(72)【発明者】
【氏名】朴 峻秀
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108342048(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料であって、
ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を機械混練する工程と、
を備える方法によって得られ
、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基であり、
前記ホスト基を有する高分子化合物は、下記一般式(h1)、(h2)又は(h3)
【化1】
(前記式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R
H
は前記ホスト基を表し、R
1
はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)
【化2】
(前記式(h2)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ前記式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。)
【化3】
(前記式(h3)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。nは1~20の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基を示す。)
で表されるホスト基含有重合性単量体単位を含み、
前記混合物に含まれる前記ホスト基を有する高分子化合物及び前記ゲスト基を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、高分子材料。
【請求項2】
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料であって、
ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程
を備える方法によって得られ
、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基であり、
前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、下記一般式(h1)、(h2)又は(h3)
【化4】
(前記式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R
H
は前記ホスト基を表し、R
1
はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)
【化5】
(前記式(h2)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ前記式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。)
【化6】
(前記式(h3)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。nは1~20の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基を示す。)
で表されるホスト基含有重合性単量体単位を含み、
前記原料に含まれる前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、高分子材料。
【請求項3】
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料の製造方法であって、
ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を機械混練する工程と、
を備え
、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基であり、
前記ホスト基を有する高分子化合物は、下記一般式(h1)、(h2)又は(h3)
【化7】
(前記式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R
H
は前記ホスト基を表し、R
1
はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)
【化8】
(前記式(h2)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ前記式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。)
【化9】
(前記式(h3)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。nは1~20の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基を示す。)
で表されるホスト基含有重合性単量体単位を含み、
前記混合物に含まれる前記ホスト基を有する高分子化合物及び前記ゲスト基を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、製造方法。
【請求項4】
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料の製造方法であって、
ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程を備え
、
前記ホスト基は、シクロデキストリン又はその誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基であり、
前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、下記一般式(h1)、(h2)又は(h3)
【化10】
(前記式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R
H
は前記ホスト基を表し、R
1
はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)
【化11】
(前記式(h2)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ前記式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。)
【化12】
(前記式(h3)中、Ra、R
H
及びR
1
はそれぞれ式(h1)のRa、R
H
及びR
1
と同義である。nは1~20の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基を示す。)
で表されるホスト基含有重合性単量体単位を含み、
前記原料に含まれる前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料及びその製造方法、並びに高分子組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ホスト-ゲスト相互作用に代表される非共有結合的相互作用を巧みに利用して、様々な機能性を付与した超分子材料の開発が盛んに行われている。例えば、特許文献1には、ホスト-ゲスト相互作用を利用した高分子材料が開示されている。このようなホスト-ゲスト相互作用を利用した高分子材料は、従来にはない優れた特性、例えば、優れた機械特性を有することから、新規な材料として、各分野から注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近では、高分子材料自体に様々な機能性を付与することが求められているところ、例えば、機械的特性をさらに向上させる高分子材料の開発が強く求められている。しかしながら、従来のホスト-ゲスト相互作用を有する高分子材料は、一定の機械的強度は有するものの、近年のさらなる高い要望の域までは達しておらず、さらなる改善が求められていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、機械的強度に優れる高分子材料及びその製造方法、並びに高分子組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を供える製造方法を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料であって、
ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を機械混練する工程と、
を備える方法によって得られる、高分子材料。
項2
前記混合物に含まれる前記ホスト基を有する高分子化合物及び前記ゲスト基を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、項1に記載の高分子材料。
項3
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料であって、
ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程
を備える方法によって得られる、高分子材料。
項4
前記原料に含まれる前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、項3に記載の高分子材料。
項5
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料の製造方法であって、
ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、
前記混合物を機械混練する工程と、
を備える、製造方法。
項6
前記混合物に含まれる前記ホスト基を有する高分子化合物及び前記ゲスト基を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、項5に記載の製造方法。
項7
ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料の製造方法であって、
ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程を備える、製造方法。
項8
前記原料に含まれる前記ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解している、項7に記載の製造方法。
項9
溶媒に膨潤又は溶解したホスト基を有する高分子化合物と、溶媒に膨潤又は溶解したゲスト基を有する高分子化合物とを含む、高分子組成物。
項10
前記溶媒が有機溶媒を含む、項9に記載の高分子組成物。
項11
ホスト基を有する高分子化合物であって、
ゲスト基を有する高分子化合物と機械混練するために使用され、
前記ゲスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成する、ホスト基を有する高分子化合物。
項12
ゲスト基を有する高分子化合物であって、
ホスト基を有する高分子化合物と機械混練するために使用され、
前記ホスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成する、ゲスト基を有する高分子化合物。
項A
ホスト基を有する高分子化合物であって、
前記ホスト基を有する高分子化合物とゲスト基を有する高分子化合物を含む被膜をキャスト法で形成するために使用され、
前記ゲスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成する、ホスト基を有する高分子化合物。
項B
ゲスト基を有する高分子化合物であって、
前記ゲスト基を有する高分子化合物とホスト基を有する高分子化合物を含む被膜をキャスト法で形成するために使用され、
前記ホスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成する、ゲスト基を有する高分子化合物。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高分子材料は、優れた機械的強度を有する。
【0009】
本発明に係る高分子材料の製造方法によれば、優れた機械的強度を有する高分子材料を得ることができる。
【0010】
本発明に係る高分子組成物は、前記高分子材料を製造するための原料として適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は合成例2-1で行った重合反応スキームを示し、(b)は合成例3-1で行った重合反応スキームを示す。
【
図2】実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験の結果であり、(a-1)、(b-1)及び(c-1)は応力-歪曲線を示し、(a-2)、(b-2)及び(c-2)は破壊エネルギーの算出結果を示す。
【
図3】実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出したヤング率の測定結果を示す。
【
図4】実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した最大応力を示す。
【
図5】実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した破断伸びを示す。
【
図6】実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した破壊エネルギーを示す。
【
図7】実施例1-2で得られた高分子材料のリサイクル特性の結果を示す。
【
図8】実施例2-1で得られた高分子材料をバインダーとして使用した電池の充放電結果を示す。
【
図9】実施例1-2、実施例2-2及び比較例2で得られた高分子材料の破壊エネルギーの算出結果を示す。
【
図10】実施例1-1、実施例2-1及び比較例2で得られた高分子材料の破壊エネルギーの算出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.高分子材料
本発明の高分子材料は、ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する。以下、本発明の高分子材料を単に「高分子材料」と表記する。高分子材料は、例えば、次の第一形態及び第二形態を包含することができる。
【0014】
高分子材料の第一形態は、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、前記混合物を機械混練する工程とを備える方法によって得られるものである。第一形態の高分子材料は、好ましくは、溶媒に膨潤又は溶解したホスト基を有する高分子化合物及び溶媒に膨潤又は溶解したゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程と、前記混合物を機械混練する工程とを備える方法によって得られる。
【0015】
高分子材料の第二形態は、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程を備える方法によって得られる。第二形態の高分子材料は、好ましくは、溶媒に膨潤又は溶解したホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を調製する工程と、前記膨潤又は溶解した高分子化合物を機械混練する工程とを備える方法によって得られる。
【0016】
まず、高分子材料の第一形態のホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物、並びに高分子材料の第二形態のホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を説明する。
【0017】
(ホスト基を有する高分子化合物)
ホスト基を有する高分子化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のホスト基を有する高分子化合物を広く採用することができ、例えば、側鎖にホスト基を有する高分子化合物を挙げることができる。「ホスト基を有する高分子化合物」とは、例えば、ホスト基が高分子化合物の主鎖又は側鎖に化学結合していることを意味することができる。
【0018】
ホスト基を有する高分子化合物は、例えば、ホスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合することで得ることができる。この単量体には、ホスト基含有重合性単量体の他、後記する第3の重合性単量体が含まれることがある。第3の重合性単量体はホスト基含有重合性単量体及びゲスト基含有重合性単量体以外の単量体である。
【0019】
つまり、ホスト基を有する高分子化合物は、ホスト基含有重合性単量体単位と、第3の重合性単量体単位とを構成単位として含むことができる。第3の重合性単量体単位はホスト基含有重合性単量体単位及びゲスト基含有重合性単量体単位以外の単量体単位である。
【0020】
ホスト基の種類は特に限定されず、公知のホスト基を広く例示することができる。ホスト基としては、例えば、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1個の水素原子又は水酸基が除された1価の基を挙げることができる。ここで、念のための注記に過ぎないが、本明細書でのシクロデキストリンなる表記は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及びγ-シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも1種を意味する。従って、シクロデキストリン誘導体は、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体及びγ-シクロデキストリン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0021】
前記シクロデキストリン誘導体は特に限定されず、例えば、シクロデキストリンが有する少なくとも1個の水酸基が炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基で置換された構造を有することができる。この構造を有する場合、ホスト基含有重合性単量体は、例えば、親水性の重合性単量体及び疎水性の重合性単量体のいずれに対しても高い親和性を示すことができるので、種々の単量体との共重合が可能となる。なお、本明細書において、「炭化水素基、アシル基及び-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種の基」を便宜上、「炭化水素基等」と表記することがある。
【0022】
ここで、シクロデキストリン1分子が有する水酸基の全個数をNとした場合、α-シクロデキストリンはN=18、β-シクロデキストリンはN=21、γ-シクロデキストリンはN=24である。
【0023】
仮に、ホスト基がシクロデキストリン誘導体から1個の「水酸基」が除された1価の基である場合は、シクロデキストリン誘導体は、1分子あたり最大N-1個の水酸基の水素原子が炭化水素基等で置換され得る。他方、ホスト基がシクロデキストリン誘導体から1個の「水素原子」が除された1価の基である場合は、シクロデキストリン誘導体は、1分子あたり最大N個の水酸基の水素原子が炭化水素基等で置換され得る。
【0024】
前記ホスト基は、前記シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基数のうちの70%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、前記シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基数のうちの80%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基数のうちの90%以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0025】
前記ホスト基は、α-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの13個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、α-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの15個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの17個の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0026】
前記ホスト基は、β-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの13個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、β-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0027】
前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの17個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換された構造を有することが好ましい。この場合、ホスト基含有重合性単量体は、疎水性の重合性単量体に対してより高い親和性を示すことができる。前記ホスト基は、γ-シクロデキストリン誘導体1分子中に存在する全水酸基のうちの19個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることがより好ましく、全水酸基のうちの22個以上の水酸基の水素原子が前記炭化水素基等で置換されていることが特に好ましい。
【0028】
炭化水素基の種類は特に限定されない。前記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基を挙げることができる。
【0029】
前記炭化水素基の炭素数の数は特に限定されない。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用が形成されやすいという観点から、炭化水素基の炭素数は1~4個であることが好ましい。
【0030】
炭素数が1~4個である炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基を挙げることができる。炭化水素基がプロピル基及びブチル基である場合は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0031】
炭化水素基は、本発明の効果が阻害されない限りは、置換基を有していてもよい。なお、本明細書でいう「置換基」とは、例えば、置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基、シアノ基等を挙げることができる。
【0032】
アシル基は、アセチル基、プロピオニル、ホルミル基等を例示することができる。アシル基は、さらに置換基を有することもできる。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用を形成しやすく、また、靭性及び強度に優れる靭性及び強度に優れる高分子材料を得やすいという観点から、アシル基は、アセチル基であることが好ましい。
【0033】
-CONHR(Rはメチル基又はエチル基)は、メチルカルバメート基又はエチルカルバメート基である。ホスト基含有重合性単量体が親水性及び疎水性の重合性単量体の両方に対してより高い親和性示し、かつ、ホスト-ゲスト相互作用が形成されやすいという観点から、―CONHRは、エチルカルバメート基であることが好ましい。
【0034】
ホスト基含有重合性単量体の種類は特に限定されず、例えば、公知のホスト基含有重合性単量体を広く適用することができる。例えば、ホスト基含有重合性単量体としては、ホスト基を有し、かつ、重合性を示す官能基を有している限りは、特にその種類は限定されない。重合性を示す官能基の具体例としては、アルケニル基、ビニル基等の他、-OH、-SH、-NH2、-COOH、-SO3H、-PO4H、イソシアネート基、エポキシ基(グリシジル基)等が挙げられる。これらの重合性を示す官能基は、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体において、シクロデキストリンが有する1個以上の水酸基の水素原子に置換されることで、シクロデキストリン誘導体に導入され得る。これにより、重合性を示す官能基を有するホスト基含有重合性単量体が形成される。
【0035】
ホスト基含有重合性単量体としては、ラジカル重合性を有する官能基を有するビニル化合物にホスト基が結合(例えば、共有結合)した化合物を挙げることができる。
【0036】
ラジカル重合性を有する官能基は、炭素-炭素二重結合を含む基を挙げることができ、具体的には、アクリロイル基(CH2=CH(CO)-)、メタクリロイル基(CH2=CCH3(CO)-)、その他、スチリル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。これらの炭素-炭素二重結合を含む基は、ラジカル重合性が阻害されない程度であればさらに置換基を有していてもよい。
【0037】
ホスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ホスト基が結合したビニル系の重合性単量体を挙げることができる。例えば、ホスト基含有ビニル系単量体は、下記の一般式(h1)
【0038】
【0039】
(式(h1)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、RHは前記ホスト基を表し、R1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表す。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0040】
あるいは、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h2)
【0041】
【0042】
(式(h2)中、Ra、RH及びR1はそれぞれ式(h1)のRa、RH及びR1と同義である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0043】
さらには、ホスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(h3)
【0044】
【0045】
(式(h3)中、Ra、RH及びR1はそれぞれ式(h1)のRa、RH及びR1と同義である。nは1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5の整数である。Rbは、水素又は炭素数1~20のアルキル基(好ましくは炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基)を示す。)
【0046】
なお、式(h1)、(h2)及び(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体におけるホスト基RHは、シクロデキストリン誘導体から1個の水酸基が除された1価の基である場合の例である。
【0047】
また、ホスト基含有重合性単量体は、式(h1)、式(h2)及び式(h3)で表される化合物のうちの1種単独とすることができ、あるいは2種以上を含むことができる。この場合、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRaは互いに同一又は異なる場合がある。同様に、式(h1)、式(h2)及び式(h3)のRH、並びに式(h1)、式(h2)及び式(h3)のR1は各々互いに同一又は異なる場合がある。
【0048】
式(h1)~(h3)で定義される置換基は、特に限定されない。例えば、置換基としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、ハロゲン原子、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、スルホン基、シアノ基等を挙げることができる。
【0049】
(h1)~(h3)において、R1が1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0050】
(h1)~(h3)において、R1が1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0051】
(h1)~(h3)において、R1がアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アルデヒド基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0052】
(h1)~(h3)において、R1がカルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、カルボキシル基の炭素原子がC=C二重結合の炭素原子と結合し得る。
【0053】
(h1)~(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体(すなわち、R1が-COO-)、(メタ)アクリルアミド誘導体(すなわち、R1が-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすく、また、得られる高分子材料の靭性及び強度もより高くなり得る。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルのいずれかを示す。
【0054】
前記-CONR-のRとしては、例えば、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましく、炭素数1~6のアルキル基が特に好ましい。
【0055】
式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h1-1)~(h1-6)を挙げることができる。
【0056】
【0057】
式(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物は、式(h1)において、R1が-CONR-(R=メチル基)であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。なお、これら(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物では、後記するシクロデキストリン誘導体における水酸基の水素原子のメチル置換と同じ反応により、各化合物中のアミド部位の窒素原子のメチル置換を行うことができる。つまり、一段階の反応で、シクロデキストリン部位のメチル化及びアミド部位のメチル化を行うことでき、式(h1-1)、(h1-2)及び(h1-3)で表される化合物を容易に得ることができるという利点がある。後記式(h2-1)、(h2-2)及び(h2-3)も同様である。
【0058】
式(h1-4)、(h1-5)及び(h1-6)で表される化合物は、式(h1)において、R1が-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0059】
さらに、式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h1-7)~(h1-9)を挙げることができる。
【0060】
【0061】
式(h1-7)、(h1-8)及び(h1-9)で表される化合物は、式(h1)においてR1が-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がアセチル基(各式において「Ac」と表示)で置換されている。
【0062】
さらに、式(h1)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記式(h1-10)を挙げることができる。
【0063】
【0064】
式(h1-10)において、少なくとも1個のXは水素原子であり、また、少なくとも1個のXは-CONHC2H5(エチルカルバメート基)である。nは5,6又は7である。
【0065】
式(h1-10)で表される化合物は、式(h1)においてR1が-CONH-であって、シクロデキストリン誘導体から1個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子が前記Xで置換されている。
【0066】
式(h2)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h2-1)~(h2-9)を挙げることができる。
【0067】
【0068】
式(h2-1)、(h2-2)及び(h2-3)で表される化合物は、式(h2)においてR1が-CONR-(R=メチル基)であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0069】
式(h2-4)、(h2-5)及び(h2-6)で表される化合物は、式(h2)においてR1が-CONH-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0070】
式(h2-7)、(h2-8)及び(h2-9)で表される化合物は、式(h2)においてR1が-COO-であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がメチル基で置換されている。
【0071】
式(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体の具体例として、下記(h3-1)~(h3-6)を挙げることができる。
【0072】
【0073】
式(h3-1)、(h3-2)及び(h3-3)で表される化合物は、式(h3)においてR1が-COO-、n=2及びRbが水素原子であって、それぞれ、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、γ-シクロデキストリン誘導体から一個の水酸基が除されたホスト基を有している。また、いずれも、シクロデキストリン誘導体におけるN-1個の水酸基の水素原子がアセチル基(Ac)で置換されている。式(h3-1)、(h3-2)及び(h3-3)において、Rbの位置の水素原子は、メチル基で置き換えられてもよい。
【0074】
上記(h1-1)~(h1-9)、(h2-1)~(h2-9)及び(h3-1)~(h3-3)で表されるホスト基含有重合性単量体はいずれもアクリル系であるが、メタ位の水素がメチル基に置き換えられた構造、すなわちメタクリル系であっても本発明の効果は阻害されない。
【0075】
本発明のホスト基含有重合性単量体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法を広く採用することができる。
【0076】
第3の重合性単量体は、前記ホスト基含有重合性単量体及び後記するゲスト基含有重合性単量体と共重合可能な各種の化合物を挙げることができる。例えば、第3の重合性単量体としては、公知である各種のビニル系重合性単量体を挙げることができる。
【0077】
ビニル系重合性単量体の具体例としては、下記一般式(a1)
【0078】
【0079】
(式(a1)中、Raは水素原子またはメチル基、R3はハロゲン原子、ヒドロキシル基、チオール基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基又はその塩、1個の置換基を有していてもよいカルボキシル基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基又はその塩、1個以上の置換基を有していてもよいフェニル基を示す)
で表される化合物を挙げることができる。
【0080】
式(a1)中、R3が1個の置換基を有するカルボキシル基である場合、カルボキシル基の水素原子が炭化水素基、ヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基)、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)、エトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールのユニット数は1~20、好ましくは1~10、特に好ましくは、2~5)等で置換されたカルボキシル基(すなわち、エステル)が挙げられる。
【0081】
式(a1)中、R3が1個以上の置換基を有するアミド基、すなわち、第2級アミド又は第3級アミドである場合、第1級アミドの1個の水素原子又は2個の水素原子が互いに独立に炭化水素基又はヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシエチル基)で置換されたアミド基が挙げられる。
【0082】
式(a1)中、R3が、1個の置換基を有するカルボキシル基;1個以上の置換基を有するアミド基;アミノ基;アミド基;カルボキシル基;であることが好ましい。この場合、高分子材料を構成する架橋重合体の構造が安定となり、高分子材料の物性が向上しやすい。
【0083】
中でも、式(a1)中、R3が、水素原子が炭素数1~10のアルキル基で置換されたカルボキシル基、1個以上の水素原子が炭素数1~10のアルキル基で置換されたアミド基であることが好ましい。この場合、第3の重合性単量体は比較的疎水性が高く、ホスト基重合性単量体との共重合が進行しやすい。より好ましくは、置換基である前記アルキル基の炭素数2~8、特に好ましくは2~6であり、この場合、得られる高分子材料の靭性及び強度も向上しやすい。このアルキル基は直鎖及び分岐のいずれであってもよい。
【0084】
式(a1)で表される単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングルコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、スチレン等が挙げられる。これらは1種単独で使用でき、又は2種以上を併用できる。
【0085】
第3の重合性単量体は、前記ホスト基含有重合性単量体のホスト基とホスト-ゲスト相互作用しないこと、つまり、第3の重合性単量体の一部又は全部がホスト基と包接錯体を形成しない構造を有していることが好ましい。このような第3の重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等を挙げることができる。
【0086】
前記第3の重合性単量体の具体例としては、前記一般式(a1)で表される化合物以外に、例えば、ジエン化合物を挙げることができる。ジエン化合物の具体例としては、イソプレン、1,3-ブタジエンを挙げることができる。
【0087】
ホスト基を有する高分子化合物は、前記ホスト基含有重合性単量体に基づく単量体単位と、前記第3の重合性単量体に基づく単量体単位を含む。
【0088】
ホスト基を有する高分子化合物において、ホスト基含有重合性単量体単位の含有量は特に限定されない。例えば、ホスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位を0.01~10モル%含むことができる。この場合、高分子材料において、ホスト-ゲスト相互作用が生じやすく、機械的強度が向上しやすい。ホスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位は、0.05モル%以上含むことが好ましく、0.1モル%以上含むことがより好ましく、0.5モル%以上含むことがさらに好ましく、1モル%以上含むことが特に好ましい。また、ホスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位は、8モル%以下含むことが好ましく、6モル%以下含むことがより好ましく、5モル%以下含むことがさらに好ましく、4モル%以下含むことが特に好ましい。
【0089】
ホスト基を有する高分子化合物は、前記ホスト基含有重合性単量体単位及び前記第3の重合性単量体以外の単量体単位を含むこともできる。ホスト基を有する高分子化合物は、前記ホスト基含有重合性単量体単位及び前記第3の重合性単量体以外の単量体単位を含む場合、その含有割合は、前記ホスト基含有重合性単量体単位及び前記第3の重合性単量体の総量に対し、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下とすることができる。
【0090】
ホスト基を有する高分子化合物は、ランダムポリマー、ブロックポリマー、交互共重合体等のいずれの形態であってもよく、中でもホスト-ゲスト相互作用が起こりやすいという観点から、ホスト基を有する高分子化合物はランダムポリマーであることが好ましい。
【0091】
ホスト基を有する高分子化合物を、ホスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合して製造する場合、その重合方法は特に限定されず、例えば、公知のラジカル重合法等を広く採用することができる。
【0092】
高分子材料において、ホスト基を有する高分子化合物のホスト基には、後記ゲスト基が包接される。これにより、ホスト-ゲスト相互作用が生じて、高分子材料がホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有することができる。高分子材料において、ホスト基とゲスト基とが包接化合物(包接錯体)を形成している態様のみならず、例えば、ホスト基をゲスト基が貫通する場合もある。
【0093】
ホスト基を有する高分子化合物は、後記するように、ゲスト基を有する高分子化合物と機械混練するために用いることができる。この機械混練により、ホスト基を有する高分子化合物はゲスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成することができ、これにより、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とを含む高分子材料が得られる。得られる高分子材料は、優れた強靭性を有することができ、機械的強度に優れる。従って、ホスト基を有する高分子化合物は、ゲスト基を有する高分子化合物と機械混練する目的で好適に使用することができる。
【0094】
さらに、ホスト基を有する高分子化合物は、機械混練のみのための使用だけでなく、いわゆるキャスト法による被膜を形成するための原料としても適している。キャスト法とは、例えば、高分子化合物の溶液を用いて塗膜を形成し、該塗膜から揮発成分(溶媒等)を除去することで被膜を形成するための方法である。例えば、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とが溶解した溶液を用いてキャスト法によって得られる被膜(高分子材料)は、優れたヤング率を有することができ、特に、機械混練によって形成した高分子材料を上回るヤング率を有することができる。従って、ヤング率が優れる高分子材料を得るという観点で、ホスト基を有する高分子化合物はキャスト法で被膜を形成するための原料として好適に使用することができ、中でもゲスト基を有する高分子化合物と組み合わせてホスト-ゲスト相互作用を形成する高分子材料をキャスト法で得るための原料として好適に使用することができる。
【0095】
高分子材料の第一形態では、ホスト-ゲスト相互作用は、ホスト基を有する高分子鎖と、当該高分子鎖とは異なる他の高分子鎖とで形成される。他の高分子鎖は、後記するゲスト基を有する高分子化合物である。
【0096】
(ゲスト基を有する高分子化合物)
ゲスト基を有する高分子化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のゲスト基を有する高分子化合物を広く採用することができ、例えば、側鎖にゲスト基を有する高分子化合物を挙げることができる。「ゲスト基を有する高分子化合物」とは、例えば、ゲスト基が高分子化合物の主鎖又は側鎖に化学結合していることを意味することができる。
【0097】
ゲスト基を有する高分子化合物は、例えば、ゲスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合することで得ることができる。この単量体には、ゲスト基含有重合性単量体の他、前記第3の重合性単量体が含まれることがある。
【0098】
つまり、ゲスト基を有する高分子化合物は、ゲスト基含有重合性単量体単位と、前記第3の重合性単量体単位とを構成単位として含むことができる
【0099】
ゲスト基は、前記ホスト基とホスト-ゲスト相互作用をすることができる基である限りはその種類は限定されず、公知のゲスト基を広く例示することができる。
【0100】
ゲスト基としては、炭素数3~30の直鎖又は分岐状の炭化水素基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体等が挙げられ、これらは一以上の置換基を有していてもよい。より具体的なゲスト基としては、炭素数4~18の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。炭素数4~18の鎖状のアルキル基は直鎖及び分岐のいずれでもよい。環状のアルキル基は、かご型の構造であってもよい。置換基としては、前述の置換基と同様であり、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等を挙げることができる。
【0101】
ゲスト基は、その他、例えば、アルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示されるゲスト分子から一個の原子(例えば、水素原子)が除されて形成される1価の基を挙げることもできる。
【0102】
ゲスト基のさらなる具体例としては、t-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基及びこれらに前記置換基が結合した基を挙げることができる。
【0103】
ゲスト基含有重合性単量体の具体例としては、前記ゲスト基が結合(例えば、共有結合)したビニル系の重合性単量体を挙げることができる。
【0104】
例えば、ゲスト基含有重合性単量体は、下記の一般式(g1)
【0105】
【0106】
(式(g1)中、Raは水素原子またはメチル基を示し、RGは前記ゲスト基を示し、R2は式(h1)のR1と同義である。)
で表される重合性単量体を挙げることができる。
【0107】
式(g1)で表される重合性単量体の中でも、(メタ)アクリル酸エステル又はその誘導体(すなわち、R2が-COO-)、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体(すなわち、R1が-CONH-又は-CONR-であり、Rは前記置換基と同義である)であることが好ましい。この場合、重合反応が進みやすく、また、得られる高分子材料の靭性及び強度もより高くなり得る。
【0108】
ゲスト基含有重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアダマンチル、1-(メタ)アクリルアミドアダマンタン、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸t-ブチル、1-アクリルアミドアダマンタン、N-(1-アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、N-ベンジル(メタ)アクリルアミド、N-1-ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0109】
ゲスト基含有重合性単量体は、公知の方法で製造することができる。また、ゲスト基含有重合性単量体は、市販品を使用することもできる。
【0110】
ゲスト基を有する高分子化合物に含まれる第3の重合性単量体単位を形成するための第3の重合性単量体の種類としては、ホスト基を有する高分子化合物を構成する第3の重合性単量体と同様の種類を例示することができる。
【0111】
ゲスト基を有する高分子化合物においても、前述のホスト基を有する高分子化合物と同様、第3の重合性単量体は、当該第3の重合性単量体が重合して形成される単量体単位の全部又は一部が前記ホスト基に包接されない構造を有していることが好ましい。このような第3の重合性単量体は、前記同様である。
【0112】
具体的にゲスト基を有する高分子化合物における第3の重合性単量体としては、前記式(a1)で表されるビニル系重合性単量体を挙げることができる。このような第3の重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、アリルアミン、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等を挙げることができる。
【0113】
ゲスト基を有する高分子化合物は、前記ゲスト基含有重合性単量体に基づく単量体単位と、前記第3の重合性単量体に基づく単量体単位を含む。
【0114】
ゲスト基を有する高分子化合物において、ゲスト基含有重合性単量体単位の含有量は特に限定されない。例えば、ゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位を0.01~20モル%含むことができる。この場合、高分子材料において、ホスト-ゲスと相互作用が生じやすく、機械的強度が向上しやすい。ホスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位は、0.1モル%以上含むことが好ましく、0.5モル%以上含むことがより好ましく、1モル%以上含むことがさらに好ましく、1.5モル%以上含むことが特に好ましい。また、ゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ゲスト基含有重合性単量体単位は、15モル%以下含むことが好ましく、10モル%以下含むことがより好ましく、8モル%以下含むことがさらに好ましく、6モル%以下含むことが特に好ましい。
【0115】
ゲスト基を有する高分子化合物を、ゲスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合して製造する場合、その重合方法は特に限定されず、例えば、公知のラジカル重合法等を広く採用することができる。
【0116】
ゲスト基を有する高分子化合物は、ホスト基を有する高分子化合物と機械混練するために用いることができる。この機械混練により、ゲスト基を有する高分子化合物はホスト基を有する高分子化合物とホスト-ゲスト相互作用を形成することができ、これにより、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とを含む高分子材料が得られる。得られる高分子材料は、優れた強靭性を有することができ、機械的強度に優れる。従って、ゲスト基を有する高分子化合物は、ホスト基を有する高分子化合物と機械混練する目的で好適に使用することができる。
【0117】
さらに、ゲスト基を有する高分子化合物は、機械混練のみのための使用だけでなく、いわゆるキャスト法による被膜を形成するための原料としても適している。キャスト法とは、例えば、高分子化合物の溶液を用いて塗膜を形成し、該塗膜から揮発成分(溶媒等)を除去することで被膜を形成するための方法である。例えば、ゲスト基を有する高分子化合物と、ホスト基を有する高分子化合物とが溶解した溶液を用いてキャスト法によって得られる被膜(高分子材料)は、優れたヤング率を有することができ、特に、機械混練によって形成した高分子材料を上回るヤング率を有することができる。従って、ヤング率が優れる高分子材料を得るという観点で、ゲスト基を有する高分子化合物はキャスト法で被膜を形成するための原料として好適に使用することができ、中でもホスト基を有する高分子化合物と組み合わせてホスト-ゲスト相互作用を形成する高分子材料をキャスト法で得るための原料として好適に使用することができる。
【0118】
(ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物)
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物の種類は特に限定されず、例えば、公知のホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を広く採用することができ、例えば、側鎖にホスト基とゲスト基とを有する高分子化合物を挙げることができる。「ホスト基とゲスト基とを有する高分子化合物」とは、例えば、ホスト基及びゲスト基が高分子化合物の主鎖又は側鎖に化学結合(例えば、共有結合)していることを意味することができる。例えば、高分子化合物は、ホスト基が結合した単量体単位と、ゲスト基が結合した単量体単位との両方を有する。
【0119】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物は、例えば、ホスト基含有重合性単量体及びゲスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合(共重合)することで得ることができる。この単量体には、ホスト基含有重合性単量体及びゲスト基含有重合性単量体の他、前記第3の重合性単量体が含まれることがある。
【0120】
つまり、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物は、ホスト基含有重合性単量体単位と、ゲスト基含有重合性単量体単位と、前記第3の重合性単量体単位とを構成単位として含むことができる。
【0121】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物に含まれるホスト基含有重合性単量体単位を形成するためのホスト基含有重合性単量体の種類としては、ホスト基を有する高分子化合物にけるホスト基含有重合性単量体と同様の種類を例示することができる。
【0122】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物に含まれるゲスト基含有重合性単量体単位を形成するためのゲスト基含有重合性単量体の種類としては、ゲスト基を有する高分子化合物にけるホスト基含有重合性単量体と同様の種類を例示することができる。
【0123】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物に含まれる第3の重合性単量体単位を形成するための第3の重合性単量体の種類としては、ホスト基を有する高分子化合物にける第3の重合性単量体と同様の種類を例示することができる。
【0124】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物においても、前述のホスト基を有する高分子化合物と同様、第3の重合性単量体は、当該第3の重合性単量体が重合して形成される単量体単位の全部又は一部が前記ホスト基に包接されない構造を有していることが好ましい。このような第3の重合性単量体は、前記同様である。
【0125】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物において、ホスト基含有重合性単量体単位及びゲスト基含有重合性単量体単位の含有量は特に限定されない。例えば、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位を0.01~10モル%含むことができ、ゲスト基含有重合性単量体単位を0.01~10モル%含むことができる。この場合、高分子材料において、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物どうしのホスト-ゲスと相互作用が生じやすく、機械的強度が向上しやすい。ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位及びゲスト基含有重合性単量体単位は共に、0.05モル%以上含むことが好ましく、0.1モル%以上含むことがより好ましく、0.5モル%以上含むことがさらに好ましく、1モル%以上含むことが特に好ましい。また、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を構成する単量体単位の全モル数に対して、ホスト基含有重合性単量体単位及びゲスト基含有重合性単量体単位は共に、8モル%以下含むことが好ましく、6モル%以下含むことがより好ましく、5モル%以下含むことがさらに好ましく、4モル%以下含むことが特に好ましい。
【0126】
ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を、ホスト基含有重合性単量体及びゲスト基含有重合性単量体を含む単量体を重合して製造する場合、その重合方法は特に限定されず、例えば、公知のラジカル重合法等を広く採用することができる。
【0127】
(高分子材料)
高分子材料の第一形態は、前記ホスト基を有する高分子化合物と、前記ゲスト基を有する高分子化合物と含む。高分子材料の第一形態では、前記ホスト基を有する高分子化合物は、その側鎖にゲスト基を有していないことが好ましい。また、高分子材料の第一形態では、前記ゲスト基を有する高分子化合物は、その側鎖にホスト基を有していないことが好ましい。
【0128】
高分子材料の第一形態において、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物との含有比率は特に限定されない。高分子材料の機械的強度が向上しやすいという観点から、ホスト基と、ゲスト基との比率がモル比で1:0.01~1:100になるように、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物との含有割合を調節することが好ましい。より好ましいホスト基とゲスト基との比率は、1:0.02~1:50であり、さらに好ましくは、1:0.05~1:20であり、特に好ましくは、1:0.1~1:10である。
【0129】
高分子材料の第一形態では、ホスト基を有する高分子化合物のホスト基と、ゲスト基を有する高分子化合物のゲスト基とが互いにホスト-ゲスト相互作用を生じる。この場合、例えば、ゲスト基がホスト基に包接されて包接錯体を形成し得る。加えて、ホスト基を有する高分子化合物のホスト基とゲスト基を有する高分子化合物の末端がホスト-ゲスト相互作用を生じることもある。この場合、ゲスト基を有する高分子化合物の末端がホスト基に包接されて包接錯体を形成し得るか、もしくは、ゲスト基を有する高分子化合物の末端がホスト基を貫通する。
【0130】
高分子材料の第二形態は、前記ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を含む。高分子材料の第二形態では、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物どうしが互いにホスト-ゲスト相互作用を生じる。この場合、例えば、ゲスト基がホスト基に包接されて包接錯体を形成し得る。加えて、ホスト基と、高分子化合物の末端とがホスト-ゲスト相互作用を生じることもある。この場合、ゲスト基を有する高分子化合物の末端がホスト基に包接されて包接錯体を形成し得るか、もしくは、ゲスト基を有する高分子化合物の末端がホスト基を貫通する。
【0131】
本発明の高分子材料(第一形態及び第二形態を包含する)において、高分子材料の機械強度が特に優れるという観点から、ホスト基を構成するホスト分子がα-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基及びn-ドデシル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がβ-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はアダマンチル基及びイソボルニル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がγ-シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn-オクチル基及びn-ドデシル基、シクロドデシル基等が好ましい。
【0132】
高分子材料は、本発明の効果が阻害されない限りは、他の添加剤又は他の高分子化合物を含むこともできる。高分子材料が添加剤を含む場合、添加剤の含有量は、高分子材料の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。
【0133】
高分子材料の形状は特に限定されない。例えば、高分子材料は、膜状、フィルム状、シート状、粒子状、板状、ブロック状、ペレット状、粉末状等の各種の形態を取り得る。
【0134】
高分子材料は、従来の高分子材料よりもホスト-ゲスト相互作用が生じやすく、つまりは、包接錯体の形成率が従来よりも高いため、架橋点が多い。この結果、高分子材料は優れた強靭性を有することができ、機械的強度に優れる。
【0135】
加えて、高分子材料は自己修復性を有することができる。つまり、高分子材料の成形体を切断等した場合であっても、その切断面どうしを再接触させることで、接触面において再度、ホスト-ゲスト相互作用が生じ、高分子材料の成形体が修復され得る。特に、高分子材料は、後記する製造方法で製造されるものであることから、従来よりもホスト-ゲスト相互作用が生じやすい。これにより、従来の高分子材料に比べて、自己修復性能も発揮されやすい。また、自己修復をさせる場合、切断面どうしの接触のみならず、切断された高分子材料の一方の切断面と、切断された他方の高分子材料の切断面以外の部分とを接触させた場合にも、接触面においてホスト-ゲスト相互作用が生じ、高分子材料の成形体が接合され得る。
【0136】
高分子材料は、各種の用途に使用することができ、例えば、電池用途、自動車用途、電子部品用途、建築部材用途、食品容器用途、輸送容器用途等の各種の部材に好適に使用することができる。電池用途としては、例えば、リチウムイオン電池等の各種電池のバインダーに、高分子材料を適用することができる。
【0137】
本発明の高分子材料は、後記する高分子材料の製造方法によって製造される。具体的に、高分子材料の第一形態は、後記する製造方法Aにより製造され、高分子材料の第二形態は、後記する製造方法Bによって製造される。
【0138】
2.高分子材料の製造方法
本発明の高分子材料の製造方法では、ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料を製造することができる。本発明の高分子材料の製造方法は、下記の製造方法A及び製造方法Bを包含する。
【0139】
製造方法Aは、ホスト-ゲスト相互作用によって架橋された構造を有する高分子材料の製造方法であって、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程A1と、前記混合物を機械混練する工程A2とを備える。好ましくは、製造方法Aは、溶媒に膨潤又は溶解したホスト基を有する高分子化合物及び溶媒に膨潤又は溶解したゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する工程A1と、前記混合物を機械混練する工程A2とを備える。
【0140】
製造方法Bは、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を機械混練する工程を備える。好ましくは、製造方法Bは、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を溶媒に膨潤又は溶解させる工程B1と、前記膨潤又は溶解した高分子化合物を機械混練する工程B2とを備える。
【0141】
(製造方法A)
製造方法Aにおいて、工程A1では、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を含む混合物を調製する。当該混合物を「混合物A」と略記する。混合物Aは、例えば、粉末状のホスト基を有する高分子化合物及び粉末状のゲスト基を有する高分子化合物の混合物とすることができ、好ましくは、混合物Aに含まれる前記ホスト基を有する高分子化合物及び前記ゲスト基を有する高分子化合物は、溶媒に膨潤又は溶解していることである。
【0142】
工程A1で使用するホスト基を有する高分子化合物は、前述のホスト基を有する高分子化合物と同様である。また、工程A1で使用するゲスト基を有する高分子化合物は、前述のゲスト基を有する高分子化合物と同様である。
【0143】
工程A1で使用するホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物は、固体状(例えば、粉末等)とすることができる。
【0144】
工程A1で使用するホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物との含有比率は特に限定されない。得られる高分子材料の機械的強度が向上しやすいという観点から、ホスト基と、ゲスト基との比率がモル比で1:0.01~1:100になるように、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物との混合割合を調節することが好ましい。より好ましいホスト基とゲスト基との比率は、1:0.02~1:50であり、さらに好ましくは、1:0.05~1:20であり、特に好ましくは、1:0.1~1:10である。
【0145】
工程A1で使用する溶媒は、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を膨潤又は溶解させることができる限り、その種類は特に限定されず、例えば、各種の有機溶媒を使用することができる。
【0146】
有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;酢酸エチル等のエステル化合物;ジエチルエーテル等のエーテル化合物;N-メチル2-ピロリドン等の含窒素有機化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールおよびt-ブタノール等のアルコール、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素;等が挙げられる。有機溶媒は、単独又は2種以上の混合物として使用することができる。
【0147】
中でも有機溶媒は、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物を容易に膨潤又は溶解させることができる点で、ケトン化合物、含窒素有機化合物、芳香族炭化水素、塩素系炭化水素であることが好ましい。特に、有機溶媒は、アセトン、N-メチル2-ピロリドン、トルエン及びジクロロメタンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0148】
工程A1で使用する有機溶媒の使用量は特に限定されない。例えば、ホスト基を有する高分子化合物及びゲスト基を有する高分子化合物の総重量100重量部あたり、有機溶媒の使用量を50~10000重量部とすることができ、80~5000重量部とすることが好ましく、100~2000重量部とすることが特に好ましい。
【0149】
工程A1において混合物Aを調製する方法は特に限定されず、適宜の方法を採用することができる。例えば、所定量のホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とを容器等に収容し、そこへ所定量の有機溶媒を添加することにより、混合物Aを得ることができる。
【0150】
混合物Aには、ホスト基を有する高分子化合物、前記ゲスト基を有する高分子化合物、及び、溶媒以外に他の添加剤が含まれていてもよく、その場合、斯かる添加剤の含有割合は、混合物Aに対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下とすることができる。
【0151】
ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物と、有機溶媒とを混合した後は、静置した状態で保持してもよいし、必要に応じて攪拌や振動を与えてもよい。
【0152】
上記膨潤又は溶解をするにあたっての、温度及び時間は特に限定されず、例えば、室温(10~35℃)で1分~48時間(好ましくは5分~24時間)とすることができる。
【0153】
なお、念のための注記に過ぎないが、高分子化合物が溶媒に膨潤するとは、高分子化合物が溶媒に溶解せずに、視認できる程度に残存している状態を示し、高分子化合物が溶媒に溶解するとは、溶媒中に高分子化合物が視認されずに、例えば、透明となった状態を示す。
【0154】
工程A2は、工程A1で得られた混合物Aを機械混練する工程である。
【0155】
工程A2において、機械混練の方法は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。本明細書でいう「機械混練」とは、例えば、各種の混練装置又は粉砕装置を使用して混合物にせん断を与えながら混合を行うことをいう。
【0156】
機械混練を実施するための装置としては特に限定されず、混練又は粉砕を行うための公知の装置を広く使用することができる。具体的には、自転公転型混練機等の各種混練装置、ボールミル等の各種湿式粉砕機、超音波分散機、自動乳鉢、ホモジナイザー等を挙げることができる。
【0157】
機械混練をする条件は特に限定されず、例えば、公知の条件と同様とすることができる。例えば、自転公転型混練機を使用する場合であれば、1800rpm以上の回転速度で、30秒~10分とすることができる。この混錬を2回以上繰り返し行うこともできる。
【0158】
遊星型ボールミルを使用する場合であれば、例えば、直径0.1~3mmのジルコニアボールを使用し、-40~20℃(好ましくは-20~0℃)の温度範囲で10秒~30分(好ましくは30秒~10分)の処理とすることができる。この処理を2回以上繰り返し行うこともできる。
【0159】
工程A2において、混合物を機械混練した後は、残存する有機溶媒等の揮発成分を乾燥させることができる。乾燥方法及び乾燥条件は特に限定されない。
【0160】
工程A2で混合物Aを機械混することで、高分子材料を得ることができる。この製造方法Aでは、前述の第一形態の高分子材料が得られる。
【0161】
混合物Aにおいて、工程A2に供する前にあってはホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とのホスト-ゲスト相互作用は生じにくい。しかし、当該混合物Aを前記工程A2に付すことで、つまり、当該混合物Aを機械混練することで、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とのホスト-ゲスト相互作用が促進され、前述の本発明の高分子材料が形成され得る。
【0162】
(製造方法B)
製造方法Bにおいて、工程B1では、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を含む原料を溶媒に膨潤又は溶解させる。斯かる原料には、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物以外に他の添加剤が含まれていてもよく、その場合、斯かる添加剤の含有割合は、混合物Aに対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%以下とすることができる。
【0163】
製造方法Bで使用するホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、前述のホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物と同様である。
【0164】
工程B1で使用する前述のホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物は、固体状(例えば、粉末等)とすることができる。
【0165】
工程B1で使用する溶媒は、ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を膨潤又は溶解させることができる限り、その種類は特に限定されず、例えば、前記製造方法Aの工程A1で例示した各種有機溶媒を使用することができる。
【0166】
中でも工程B1で使用する有機溶媒は、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を容易に膨潤又は溶解させることができる点で、ケトン化合物、含窒素有機化合物、芳香族炭化水素、塩素系炭化水素であることが好ましい。特に、有機溶媒は、アセトン、N-メチル2-ピロリドン、トルエン及びジクロロメタンからなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0167】
工程B1で使用する有機溶媒の使用量は特に限定されない。例えば、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物の総重量100重量部あたり、有機溶媒の使用量を50~10000重量部とすることができ、80~5000重量部とすることが好ましく、100~2000重量部とすることが特に好ましい。
【0168】
工程B1において高分子化合物を膨潤する方法は特に限定されず、適宜の方法を採用することができる。例えば、所定量のホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物を容器等に収容し、そこへ所定量の有機溶媒を添加する方法が挙げられる。
【0169】
ホスト基及びゲスト基の両方を有する高分子化合物と、有機溶媒とを混合した後は、静置した状態で保持してもよいし、必要に応じて攪拌や振動を与えてもよい。
【0170】
上記膨潤をするにあたっての、温度及び時間は特に限定されず、例えば、室温(10~35℃)で1分~48時間(好ましくは5分~24時間)とすることができる。
【0171】
工程B2は、工程B1で得られた膨潤又は溶解した高分子化合物を機械混練する工程である。
【0172】
工程B2において、機械混練する方法は、前記製造方法Aの工程A2で行われる機械混練する方法と同様であり、工程A2と同様の条件及び手順で行うことができる。
【0173】
工程B2において、膨潤又は溶解した高分子化合物を機械混練した後は、残存する有機溶媒等の揮発成分を乾燥させることができる。乾燥方法及び乾燥条件は特に限定されない。
【0174】
工程B2で膨潤した高分子化合物を機械混練することで、高分子材料を得ることができる。この製造方法Bでは、前述の第二形態の高分子材料が得られる。
【0175】
製造方法A及び製造方法Bで得られた高分子材料は、優れた機械的強度を有する高分子材料を得ることができる。
【0176】
本発明の製造方法によれば、高分子化合物を得るための重合反応を、高分子材料を形成する際に行わなくとも(つまり、その場で重合反応を行わずとも)、高分子材料を形成することができる。言い換えれば、あらかじめ重合反応によって得た高分子化合物を準備して、前述の製造方法A又は製造方法Bで使用するだけで所望の高分子材料を得ることができ、その場で重合反応を行う必要がない。よって、本発明の製造方法は、従来のホスト-ゲスト相互作用を有する高分子材料の製造方法に比べて簡便に行うことができる。さらに、本発明の製造方法では、従来の製造方法に比べて高分子材料を再現性良く製造することもできる。
【0177】
また、高分子材料はリサイクル特性にも優れる。つまり、高分子材料を所望の用途に使用して目的を果たした後、再度、高分子材料を回収して、再生した場合であっても、物性の低下、特に機械的強度の低下が起こりにくく、繰り返し使用することができる。
【0178】
高分子材料の再生方法は特に限定されず、例えば、回収した高分子材料を用いて、工程A1又は工程B1と同様の方法で、溶媒に膨潤又は溶解させ、その後、工程A2又は工程B2と同様の方法で、機械混練することで、高分子材料を再生することができる。
【0179】
その他の製造方法として、前述のキャスト法でも高分子材料を得ることができる。例えば、例えば、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とを溶媒に溶解させて溶液を調製し、この溶液を基板等にキャストすることで被膜(高分子材料)を形成することができる。使用する溶媒の種類は特に限定されず、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物との両方を溶解することができる溶媒を使用することができる。溶液濃度もキャスト膜を形成できる限りは特に制限はない。このように得られる被膜(高分子材料)は、優れたヤング率を有することができ、特に、機械混練によって形成した高分子材料を上回るヤング率を有することができる。
【0180】
3.高分子組成物
本発明の高分子組成物は、前記溶媒に膨潤又は溶解したホスト基を有する高分子化合物と、溶媒に膨潤又は溶解したゲスト基を有する高分子化合物とを含む。つまり、本発明の高分子組成物は、前記工程A1で調製される混合物Aである。
【0181】
高分子組成物において、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とのホスト-ゲスト相互作用は生じにくいが、例えば、当該組成物を前記工程A2に付すことで、つまり、当該組成物を機械混練することで、ホスト基を有する高分子化合物と、ゲスト基を有する高分子化合物とのホスト-ゲスト相互作用が促進され、前述の本発明の高分子材料が形成され得る。従って、高分子組成物は、前記高分子材料を製造するための原料として適している。
【実施例】
【0182】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0183】
(合成例1-1;ホスト基含有重合性単量体の製造)
200mLガラス製丸底フラスコにβシクロデキストリン5g(3.9mmol)、N-ヒドロキシメチルアクリルアミド700mg(6.9mmol)及びp-トルエンスルホン酸一水和物95mg(0.6mmol)を秤量し、これらを25mLのN,N-ジメチルホルムアミドに加えて反応液を調製した。反応液をオイルバスで90℃に加熱し、1時間にわたって加熱撹拌することで反応液を得た。次いで、該反応液を放冷し、激しく撹拌しているアセトン45mLに注ぎこんだ。生じた沈殿をろ別した後、10mLのアセトンで三回洗浄し常温で一時間減圧乾燥することで反応物を得た。反応物を蒸留水100mLに溶解し、多孔質ポリスチレン樹脂(三菱化学ダイヤイオンHP-20)を充填したカラム(見かけ密度600g/L)に通じ、30分間吸着させた。なお、前記カラムを使用する代わりに、分取型高圧液体クロマトグラフィーを用いて分離精製を行う場合もあった。その後溶液成分を除去し、カラムに新たに10%メタノール(もしくはアセトニトリル)水溶液50mLを3回通じ、ポリスチレン樹脂を洗浄することで未反応βシクロデキストリンを除去した。続いてカラムに25%メタノール水溶液500mLを二回通ずることで、目的物であるアクリルアミドメチルβシクロデキストリン(以下、「βCDAAmMe」と表記)を溶出させた。溶媒を減圧除去することで、白色粉末である式(7-2)で表される化合物809mgを得た。収率は約15%であった。
【0184】
次いで、βCDAAmMe20gをピリジン300mLに溶解し、無水酢酸170.133gを加え、55℃で12時間以上撹拌した。その後、メタノール50mLを加えクエンチし、内容量が200mLになるまでエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液を、水2000mLに滴下し、沈殿を回収した。沈殿をアセトン200mLに溶解し、水2000mLに滴下し、生成した沈殿物を回収し、これを減圧乾燥することにより目的物であるN-H―TAcβAAmMe(
図1参照)を単離した。マススペクトル及び、NMRスペクトルの結果から、目的の化合物(N-H―TAcβAAmMe)が生成していることを確認した。N-H―TAcβAAmMeにおけるシクロデキストリン誘導体1分子中に存在していた全水酸基数のうちの100%がアセチル基に置換されていることを確認し、前記式(h1-8)で表されるホスト基含有重合性単量体であることを確認した。
【0185】
(合成例2-1;ホスト基を有する高分子化合物の製造)
図1(a)に示す合成スキームに従って、重合反応を行った。合成例1-1で得られたホスト基含有重合性単量体であるN-H―TAcβAAmMeを0.5297gと、光重合開始剤として「IRGACURE184(登録商標)」0.00528gとを、エチルアクリレート2.553gに溶解させた重合性単量体の混合物を調製した。該重合性単量体の混合物において、ホスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して1モル%であった。該重合性単量体の混合物に紫外線(λ=365nm)を30分間照射することでバルク重合を実施した。得られたポリマーを60℃の雰囲気下で23時間乾燥することで、ホスト基を有する高分子化合物を得た。得られたホスト基を有する高分子化合物を「ホストポリマーH1」と表記した。
【0186】
(合成例2-2;ホスト基を有する高分子化合物の製造)
合成例1-1で得られたホスト基含有重合性単量体であるN-H―TAcβAAmMeを1.0043gに、光重合開始剤を0.00501gに、エチルアクリレート2.3866gに変更したこと以外は、合成例2-1と同様の方法でホスト基を有する高分子化合物を得た。なお、重合性単量体の混合物において、ホスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して2モル%であった。得られたホスト基を有する高分子化合物は、「ホストポリマーH2」と表記した。
【0187】
(合成例2-3;ホスト基を有する高分子化合物の製造)
合成例1-1で得られたホスト基含有重合性単量体であるN-H―TAcβAAmMeを1.5861gに、光重合開始剤を0.00528gに、エチルアクリレート2.5038gに変更したこと以外は、合成例2-1と同様の方法でホスト基を有する高分子化合物を得た。なお、重合性単量体の混合物において、ホスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して3モル%であった。得られたホスト基を有する高分子化合物は、「ホストポリマーH3」と表記した。
【0188】
(合成例3-1;ゲスト基を有する高分子化合物の製造)
図1(b)に示す合成スキームに従って重合反応を行った。アダマンチルアクリルアミドを0.4768と、光重合開始剤として「IRGACURE184(登録商標)」0.0475gとを、エチルアクリレート23.0002gに溶解させた重合性単量体の混合物を調製した。該重合性単量体の混合物において、ゲスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して1モル%であった。該重合性単量体の混合物に紫外線(λ=365nm)を30分間照射することでバルク重合を実施した。得られたポリマーを60℃の雰囲気下で16時間乾燥することで、ホスト基を有する高分子化合物を得た。得られたホスト基を有する高分子化合物を「ゲストポリマーG1」と表記した。
【0189】
(合成例3-2;ゲスト基を有する高分子化合物の製造)
アダマンチルアクリルアミドを0.6275gに、光重合開始剤を0.0312gに、エチルアクリレート15.0004gに変更したこと以外は、合成例3-1と同様の方法でゲスト基を有する高分子化合物を得た。なお、重合性単量体の混合物において、ゲスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して2モル%であった。得られたゲスト基を有する高分子化合物は、「ホストポリマーG2」と表記した。
【0190】
(合成例3-3;ゲスト基を有する高分子化合物の製造)
アダマンチルアクリルアミドを0.3019gに、光重合開始剤を0.0100gに、エチルアクリレート4.7572gに変更したこと以外は、合成例3-1と同様の方法でゲスト基を有する高分子化合物を得た。なお、重合性単量体の混合物において、ゲスト基含有重合性単量体は、重合性単量体の総モル数に対して3モル%であった。得られたゲスト基を有する高分子化合物は、「ホストポリマーG3」と表記した。
【0191】
(合成例4-1;ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物の製造)
合成例1-1で得られたN-H―TAcβAAmMeを0.5モル%と、アダマンチルアクリルアミド0.5モル%と、エチルアクリレート99モル%とで構成される重合性単量体の混合物を調製した。この重合性単量体の混合物の超音波処理を1時間行った後、重合開始剤として「IRGACURE184(登録商標)」を該単量体に対して0.1mol%加え、紫外線(λ=365nm)を30分間照射し、重合反応を行った。その後、100℃雰囲気下で12時間乾燥することにより、ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を得た。得られたホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を「ホストゲストポリマーHG1」と表記した。
【0192】
(合成例4-2;ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物の製造)
重合性単量体の混合物を、合成例1-1で得られたN-H―TAcβAAmMeを1モル%と、アダマンチルアクリルアミド1モル%と、エチルアクリレート98モル%とで構成される重合性単量体の混合物に変更したこと以外、合成例4-1と同様の方法でホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を得た。得られたホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を「ホストゲストポリマーHG2」と表記した。
【0193】
(合成例4-3;ホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物の製造)
重合性単量体の混合物を、合成例1-1で得られたN-H―TAcβAAmMeを1・5モル%と、アダマンチルアクリルアミド1.5モル%と、エチルアクリレート97モル%とで構成される重合性単量体の混合物に変更したこと以外、合成例4-1と同様の方法でホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を得た。得られたホスト基及びゲスト基を有する高分子化合物を「ホストゲストポリマーHG3」と表記した。
【0194】
<実施例1-1>
(実施例1-1-1)
合成例2-1で得られたホストポリマーH1を308.3mgと、合成例3-1で得られたゲストポリマーG1を261.2mgとを混合し、全ポリマー重量(ホストポリマーH1とゲストポリマーG1との総重量)の1.2倍量のアセトン(1708μL)を加え、30分間保持することでホストポリマーH1とゲストポリマーG1との混合物を膨潤させた。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも1モル%とした。
その後、膨潤したポリマーを自転公転型混練機(THINKY社製「あわとり練太郎ARE-310」(登録商標))を用いて、機械混練を行った。この装置による混練条件は、回転数を2000rpm、混練時間を5分間の混練を1サイクルとし、混練後のポリマーの状態を目視して、塊等が視認される場合は、必要に応じて2サイクル以上実施した。2サイクル以上実施する場合は、適宜、アセトンを追加した。この実施例では、サイクル数が8、追加アセトンを854μLとした。
【0195】
これにより得られた粘性流体を30℃で10時間真空乾燥した後、100℃の雰囲気下で12時間保持することで、目的の高分子材料を得た。
【0196】
(実施例1-1-2)
ホストポリマーH1の代わりに合成例2-2で得られたホストポリマーH2を309.6mgに変更し、ゲストポリマーG1の代わりに合成例3-2で得られたゲストポリマーG2を228.9mgに変更し、混練の1サイクル目のアセトン量を1616μLに変更したこと以外は、実施例1-1-1と同様の方法で粘性流体を得た。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも2モル%とした。この実施例では、サイクル数を16、追加アセトンを1290μLとした。得られた粘性流体を30℃で13時間真空乾燥した後、100℃の雰囲気下で12時間保持することで、目的の高分子材料を得た。
【0197】
(実施例1-1-3)
ホストポリマーH1の代わりに合成例2-3で得られたホストポリマーH3を309.6mgに変更し、ゲストポリマーG1の代わりに合成例3-3で得られたゲストポリマーG3を228.9mgに変更し、混練の1サイクル目のアセトン量を1616μLに変更したこと以外は、実施例1-1-1と同様の方法で粘性流体を得た。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも3モル%とした。この実施例では、サイクル数を16、追加アセトンを1290μLとした。得られた粘性流体を30℃で8時間真空乾燥した後、100℃の雰囲気下で12時間保持することで、目的の高分子材料を得た。
【0198】
<実施例1-2>
(実施例1-2-1)
合成例2-1で得られたホストポリマーH1を310.4mgと、合成例3-1で得られたゲストポリマーG1を262.3mgとを混合し、全ポリマー重量(ホストポリマーH1とゲストポリマーG1との総重量)の18倍量のN-メチル-2-ピロリドン(10110μL)を加え、24時間保持することでホストポリマーH1とゲストポリマーG1との混合物を膨潤させた。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも1モル%とした。
【0199】
その後、膨潤したポリマーに、その総重量の25倍のジルコニアボール(直径3mm)を加え、-20℃に保持した後、遊星型ボールミル(THINKY社製「粉砕ナノ太郎NP-100」(登録商標))を用いて粉砕を行った。この装置による粉砕条件は、回転数を2000rpm、粉砕時間を1分間とした。その後、ろ過により得られた粘性流体をテフロン(登録商標)製シャーレにキャストしてフィルムを形成し、該フィルムを100℃の雰囲気下で12時間保持することで、目的の高分子材料を得た。
【0200】
(実施例1-2-2)
ホストポリマーH1の代わりに合成例2-2で得られたホストポリマーH2を303.1mgに変更し、ゲストポリマーG1の代わりに合成例3-2で得られたゲストポリマーG2を223.7mgに変更し、N-メチル-2-ピロリドンを9296μLに変更したこと以外は、実施例1-2-1と同様の方法で目的の高分子材料を得た。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも2モル%とした。
【0201】
(実施例1-2-3)
ホストポリマーH1の代わりに合成例2-3で得られたホストポリマーH3を369.3mgに変更し、ゲストポリマーG1の代わりに合成例3-3で得られたゲストポリマーG3を240mgに変更し、N-メチル-2-ピロリドンを10750μLに変更したこと以外は、実施例1-2-1と同様の方法で目的の高分子材料を得た。全ポリマーに対して、ホスト基及びゲスト基はいずれも3モル%とした。
【0202】
<実施例2-1>
(実施例2-1-1)
ホストポリマーH1及びホストポリマーG1の代わりに合成例4-1で得られたホストゲストポリマーHG1単独に変更したこと以外は、実施例1-1-1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0203】
(実施例2-1-2)
ホストポリマーH2及びホストポリマーG2の代わりに合成例4-2で得られたホストゲストポリマーHG2単独に変更したこと以外は、実施例1-1-2と同様の方法で高分子材料を得た。
【0204】
(実施例2-1-3)
ホストポリマーH3及びホストポリマーG3の代わりに合成例4-3で得られたホストゲストポリマーHG3単独に変更したこと以外は、実施例1-1-3と同様の方法で高分子材料を得た。
【0205】
<実施例2-2>
(実施例2-2-1)
ホストポリマーH1及びホストポリマーG1の代わりに合成例4-1で得られたホストゲストポリマーHG1単独に変更したこと以外は、実施例1-2-1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0206】
(実施例2-2-2)
ホストポリマーH2及びホストポリマーG2の代わりに合成例4-2で得られたホストゲストポリマーHG2単独に変更したこと以外は、実施例1-2-2と同様の方法で高分子材料を得た。
【0207】
(実施例2-2-3)
ホストポリマーH3及びホストポリマーG3の代わりに合成例4-3で得られたホストゲストポリマーHG3単独に変更したこと以外は、実施例1-2-3と同様の方法で高分子材料を得た。
【0208】
<参考例1>
(参考例1-1)
合成例2-1で得られたホストポリマーH1を306.3mgと、合成例3-1で得られたゲストポリマーG1を260.8mgとを混合し、全ポリマー重量(ホストポリマーH1とゲストポリマーG1との総重量)の71.5mLのアセトン(ポリマー濃度が1重量%となるように)を加えて溶液を調製した。この溶液を、テフロン(登録商標)製シャーレにキャストしてフィルムを形成し、該フィルムを100℃の雰囲気下で12時間保持することで高分子材料を得た。
【0209】
(参考例1-2)
ホストポリマーH1を合成例2-2で得られたホストポリマーH2に変更しゲストポリマーG1を合成例3-2で得られたゲストポリマーG2に変更したこと以外は参考例1-1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0210】
(参考例1-3)
ホストポリマーH1を合成例2-3で得られたホストポリマーH3に変更し、ゲストポリマーH3を合成例3-3で得られたゲストポリマーG3に変更したこと以外は参考例1-1と同様の方法で高分子材料を得た。
【0211】
<比較例2>
(比較例2-1)
合成例4-1で得られたホストゲストポリマーHG1を用い、後記引張試験を行った。
【0212】
(比較例2-2)
合成例4-2で得られたホストゲストポリマーHG2を用い、後記引張試験を行った。
【0213】
(比較例2-3)
合成例4-3で得られたホストゲストポリマーHG3を用い、後記引張試験を行った。
【0214】
<評価方法>
(引張試験)
(1)引張試験用試験片の作製(プレス成型と打ち抜き)
厚みが0.4mmの平らなアルミ板の上に、0.1mmテフロン(登録商標)シートを固定し、該シート上に高分子材料を載せた。厚さ0.2mmのスペーサー(4cm×4cmの鋳型)を高分子材料の周囲に配置した。同じく0.1mmテフロン(登録商標)シートを張った0.4mmアルミ板をテフロン(登録商標)面が前記高分子分子材料に接するように、前記高分子分子材料の上に載せて積層体を形成した。
次いで、前記積層体を、100℃の真空加熱プレス機を用いて、2kNの力4分間プレスし、フィルムを得た。該フィルムを室温(25℃)で15時間静置し、その後、フィルムをトムソン刃でダンベル状に打ち抜いて試験片(厚み0.2mm目標)を得た。
(2)引張試験
引張試験には、「ストローク-試験力曲線」試験(島津製作所社製「AUTOGRAPH」(型番:AGX-plus)を用い、室温で5mm/sの引張速度(破断するまでの一軸伸長。応力変化を記録)で行うことで、試験片の破断点を観測した。また、この破断点を終点として、終点までの最大応力を高分子材料の破断応力とした。この引張り試験は、高分子材料の下端を固定し上端を引張り速度5mm/秒で稼動させるアップ方式で実施した。また、その際のストローク、すなわち、試験片を引っ張った際の最大長さを、引張り前の試験片長さで除した値を延伸率(歪率といってもよい)として算出した。
なお、「ストローク-試験力曲線」(応力-歪曲線)試験において、破断応力及び破断歪(単に歪ともいう)の一方又は両方が高い値を示す材料は、高分子材料の靭性及び強度が優れると判断できる。特に、破断応力及び歪の両方が高い値を示す材料は、破壊エネルギーが優れる材料であると判断できる。
【0215】
<試験結果>
以下に表記する「実施例1-1」は、実施例1-1-1、実施例1-1-2、実施例1-1-3を意味する。同様に、「実施例1-2」は、実施例1-2-1、実施例1-2-2、実施例1-2-3を意味し、「実施例2-1」は実施例2-1-1、実施例2-1-2、実施例2-1-3を意味し、「実施例2-2」は実施例2-2-1、実施例2-2-2、実施例2-2-3を意味し、「参考例1」は、参考例1-1、参考例1-2、参考例1-3を意味し、「比較例2」は、比較例2-1、比較例2-2、比較例2-3を意味する。
【0216】
図2は、実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験の結果であり、(a-1)、(b-1)及び(c-1)は応力-歪曲線を示し、(a-2)、(b-2)及び(c-2)は、それらの応力-歪曲線からの面積から算出した破壊エネルギーの算出結果のグラフを示す。
【0217】
図3は、実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出したヤング率を示す。当該ヤング率は、応力-歪曲線の0.5%における応力と、5.5%における応力とを結ぶ線分の勾配から算出した。
【0218】
図4は、実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した最大応力を示す。当該最大応力は、応力-歪曲線の最高点から求めた。
【0219】
図5は、実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した破断伸びを示す。当該破断伸びは、応力-歪曲線の急降下点から求めた。
【0220】
図6は、実施例1-1、実施例1-2、参考例1及び比較例2で得られた高分子材料の引張試験で得られた応力-歪曲線から算出した破壊エネルギーを示す。
【0221】
図2~6から、ホスト基(又はゲスト基)の含有割合が同じものどうしで対比した場合、実施例1-1、1-2で得られた高分子材料は、参考例1、比較例2で得られた高分子材料に比べて、靭性及び強度が優れると判断でき、優れた破壊エネルギーを有していたがわかった。この結果は、実施例1-1、1-2で得られた高分子材料は、優れた機械的強度を有していることが示している。さらに、
図3から、実施例1-1、1-2及び参考例1で得られた高分子材料は、比較例2で得られた高分子材料に比べて、ヤング率が高く、中でも参考例1で得られた高分子材料は、機械混練した実施例1-1、1-2で得られた高分子材料のヤング率よりも高かった。
【0222】
図7は、実施例1-2で得られた高分子材料のリサイクル特性の結果である。このリサイクル特性では、引張試験後の高分子材料を回収して、再度、実施例1-2と同様の方法で高分子材料を再生し、再生後の高分子材料を用いて、前記引張試験を行った。
図7中、「1st」は、実施例1-2で得られた初期の引張試験結果(つまり、引張試験が未実施のサンプル)であり、「2nd」は1回目の引張試験後に再生されたサンプルの測定結果、「3rd」は2回目の引張試験後に再生されたサンプルの測定結果、「4th」は3回目の引張試験後に再生されたサンプルの測定結果、「5th」は4回目の引張試験後に再生されたサンプルの測定結果である。
【0223】
図7から、実施例1-2で得られた高分子材料は、繰り返し使用しても優れた機械的強度が維持されていることが看取でき、リサイクル特性に優れるものであった。
【0224】
(自己修復性)
実施例1-1、1-2で得られた高分子材料の自己修復性能を確認したところ、いずれも自己修復性が確認された。なお、自己修復性能は次の手順で評価した。高分子材料を剃刀で切断し、切断面同士を合わせた後、これを80℃雰囲気で2時間静置した。室温まで冷却した後、サンプルの両端をピンセットで引っ張ることで自己修復性を確認した。
【0225】
(電池用バインダー評価)
図8は、実施例2-1で得られた高分子材料をバインダーとして使用した電池の充放電結果を示している(
図8(B)は
図8(A)の一部拡大図)。なお、比較として、ポリエチルアクリレート(PEA)をバインダーとして使用して同様の評価をした結果も
図8に示している。この評価は、次のように行った。
【0226】
高分子材料と、活性炭と、アセチレンブラック(DENKA Black Li-400(登録商標))とをN-メチル-2-ピロリドン中で均一になるまで混錬してサンプル液を調製した。このサンプル液を、20μm厚みの銅箔に75μmのブレードを用いて塗布した後、100℃雰囲気で2時間乾燥後、直径11mmに打ち抜いて、これをアルゴン充填したグローブボックスに移した。その後、アルドリッチ社製の1.0M LIPF6 EC/DEC=1/1(v/v%)を電解液として用い(LiPF6 in Ethyl carbonate(EC)/Diethyl carbonate(DEC) 1/1(v/v)」)、セルガード#2400(登録商標)をセパレータとして、Li金属を用いて半電池を組み立てた。この半電池を12時間以上アルゴン雰囲気下で静置した後、充放電実験を行った。充放電試験は、プレサイクルを0.05Cで1回、本サイクルを0.5Cで30回として測定し、電圧範囲を0.02V~1.5Vとした。
【0227】
図8の結果から、実施例2-1で得られた高分子材料は、PEAと比較しても優れたサイクル特性を有していることがわかった。
【0228】
図9は、実施例1-2、実施例2-2及び比較例2で得られた高分子材料の破壊エネルギーの算出結果のグラフを示す(
図2の試験と同様の方法で算出)。
【0229】
図10は、実施例1-1、実施例2-1及び比較例2で得られた高分子材料の破壊エネルギーの算出結果のグラフを示す(
図2の試験と同様の方法で算出)。
【0230】
図9及び10から、実施例2-1で得られた高分子材料も優れた破壊エネルギーを有していることがわかった。