IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-プロピレン重合体の製造方法 図1
  • 特許-プロピレン重合体の製造方法 図2
  • 特許-プロピレン重合体の製造方法 図3
  • 特許-プロピレン重合体の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-12
(45)【発行日】2024-03-21
(54)【発明の名称】プロピレン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/01 20060101AFI20240313BHJP
   C08F 210/06 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C08F2/01
C08F210/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020023720
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127410
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三谷 昴之
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-231257(JP,A)
【文献】特開2018-021123(JP,A)
【文献】特開2005-220235(JP,A)
【文献】特開2008-247999(JP,A)
【文献】特開2019-043984(JP,A)
【文献】特開2011-116978(JP,A)
【文献】特開2011-153287(JP,A)
【文献】特開2017-132870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60、6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合触媒の存在下、2以上の気相重合反応装置を含む重合システム、または、液相重合反応装置と気相重合反応装置とを含み、液相重合反応装置と気相重合反応装置の合計数が3以上である重合システムを用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン重合体を製造する方法であって、
少なくとも1の前記気相重合反応装置における、
当該気相重合反応装置内の平均滞留時間τ[時間]、
少なくとも1の前記気相重合反応装置に供給されるオレフィン重合触媒を含む粒子の平均粒径Dpi[μm]、並びに
排出パウダーのポリマー中のエチレン由来の構成単位および炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構成単位の合計量C[質量分率(g/g)]から、
下式(A)により定義される運転性評価指標fが、30以上、1250以下であり、
前記少なくとも1の前記気相重合反応装置に供給されるオレフィン重合触媒を含む粒子の平均粒径D pi が100μm以上であり、
前記少なくとも1の気相重合反応装置が、連続式であり、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)を含む、上記製造方法:
【数1】

(式中、a=-0.50、b=2.50、c=0.65である。)。
【請求項2】
(1)オレフィン重合用触媒の存在下、前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)を含む1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程;並びに
(2)上記工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、プロピレン共重合体(II)を製造する工程、を有し、
プロピレン共重合体(I-2)が、プロピレンに由来する構成単位と、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が0.01質量%以上15質量%未満である(但し、プロピレン共重合体(I-2)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
プロピレン共重合体(II)が、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位と、プロピレンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が15質量%以上80質量%以下である(但し、プロピレン共重合体(II)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
製造されるプロピレン共重合体が、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)と、プロピレン共重合体(II)とを含んでなり、プロピレン共重合体(II)の含有量が15質量%以上であるヘテロファジックプロピレン重合材料(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)である、請求項1に記載のプロピレン重合体を製造する方法。
【請求項3】
前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における(共)重合反応に先立ち、液相重合装置においてプロピレンを含む単量体を(共)重合し、得られた(共)重合体の存在下で、前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における(共)重合反応を行なう、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1の気相重合反応装置が、流動層反応装置、噴流層反応装置、または内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料中における上記プロピレン共重合体(II)の含有量が20質量%以上である、請求項2に記載のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法。
【請求項6】
前記プロピレン重合体が、自動車部品、食品/医療容器、家具/電気製品の部品、または土木/建築材料に用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロファジックプロピレン重合材料等のプロピレン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン重合体は、自動車部品、家電製品、食品・医療容器、建材・土木産業材などの分野に広く利用されている。
プロピレン重合体の製造方法としては、例えば、触媒の存在下、プロピレンを含む単量体の重合を、気相中で行う方法(特許文献1参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-168142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、生産性の更なる向上が求められている。しかし、気相重合反応装置、特に最初に気相重合が行われる気相重合反応装置内では、触媒活性が高いため、塊状物が発生する場合があり、高い生産性と塊状物発生の抑制との両立は困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の要求に鑑みてなされたものであり、その目的は、プロピレン重合体を、塊状物の発生を抑制しつつ、高い生産性で安定的に連続製造できる方法を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討の結果、気相重合反応装置、特に最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置における、平均滞留時間、受け込みパウダーの平均粒径等が特定の条件を満たすとき、塊状物の発生を有効に抑制しつつ、高い生産性でプロピレン重合体を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
オレフィン重合触媒の存在下、2以上の気相重合反応装置、もしくは合わせて3以上の液相重合反応装置と気相重合反応装置、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン重合体を製造する方法であって、
少なくとも1の前記気相重合反応装置における、
当該気相重合反応装置内の平均滞留時間τ[時間]、
受け込みパウダーの平均粒径Dpi[μm]、および
排出パウダーのポリマー中のエチレン由来の構成単位および炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構成単位の合計量C[質量分率(g/g)]から、
下式(A)により定義される運転性評価指標fが、30以上、1250以下である、上記製造方法:
【数1】

(式中、a=-0.50、b=2.50、c=0.65である。)である。
【0006】
以下、[2]から[9]は、それぞれ本発明の好ましい態様または実施形態である。
[2]
前記少なくとも1の気相重合反応装置が、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)を含む、[1]に記載の製造方法。
[3]
(1)オレフィン重合用触媒の存在下、前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)を含む1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程;並びに
(2)上記工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、プロピレン共重合体(II)を製造する工程、を有し、
プロピレン共重合体(I-2)が、プロピレンに由来する構成単位と、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が0.01質量%以上15質量%未満である(但し、プロピレン共重合体(I-2)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
プロピレン共重合体(II)が、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位と、プロピレンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が15質量%以上80質量%以下である(但し、プロピレン共重合体(II)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
製造されるプロピレン共重合体が、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)と、プロピレン共重合体(II)とを含んでなり、プロピレン共重合体(II)の含有量が15質量%以上であるヘテロファジックプロピレン重合材料(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)である、[2]に記載のプロピレン重合体を製造する方法。
[4]
前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における(共)重合反応に先立ち、液相重合装置においてプロピレンを含む単量体を(共)重合し、得られた(共)重合体の存在下で、前記最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における(共)重合反応を行なう、[2]又は[3]に記載の製造方法。
[5]
前記少なくとも1の気相重合反応装置が、流動層反応装置、噴流層反応装置、または内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置を有する、[1]から[4]のいずれか一項に記載の製造方法。
[6]
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料中における上記プロピレン共重合体(II)の含有量が20質量%以上である、[3]から[5]のいずれか一項に記載のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法。
[7]
前記プロピレン重合体が、自動車部品、食品/医療容器、家具/電気製品の部品、または土木/建築材料に用いられる、[2]から[6]のいずれか一項に記載の製造方法。
[8]
[1]から[7]のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、プロピレン重合体。
[9]
[8]に記載のプロピレン重合体を含んでなる、自動車部品、食品/医療容器、家具/電気製品の部品、または土木/建築材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、プロピレン重合体を、塊状物の発生を抑制しながら、高い生産性で製造することができる。
一態様において、本発明の製造方法を、プロピレン単独重合体(少量のプロピレン以外のオレフィンとの共重合体を含む。)と、プロピレンおよびエチレン等のプロピレン以外のオレフィンの共重合体とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法に適用すれば、塊状物の発生を抑制しながら、高い生産性でヘテロファジックプロピレン重合材料を製造することができる。ヘテロファジックプロピレン重合材料は、通常、第1段階重合工程でプロピレン単独重合体(又はコモノマー含量の低いプロピレン共重合体)を得、第2段階重合工程でプロピレンとエチレン等とを共重合して、ヘテロファジックプロピレン重合材料を製造する。第2段階重合工程で重合されるプロピレンとエチレン等との共重合体の割合が高いヘテロファジックプロピレン重合材料を重合する場合には、第2段階重合工程まで十分な触媒活性を維持するために、第1段階重合工程の触媒活性が高い必要があり、これが塊状物の発生に繋がることがある。このような場合においても、本発明を適用することで効果的に塊状物の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態である製造方法を示す概略構成図である。
図2図1中の気相重合反応装置(i)の拡大概略断面図である。
図3】本発明の好ましい一実施形態である製造方法を示す概略構成図である。
図4】本発明の他の実施形態である製造方法を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、オレフィン重合触媒の存在下、2以上の気相重合反応装置を含む重合システム、または、液相重合反応装置と気相重合反応装置とを含み、液相重合反応装置と気相重合反応装置の合計数が3以上である重合システムを用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン重合体を製造する方法であって、
少なくとも1の前記気相重合反応装置における、
当該気相重合反応装置内の平均滞留時間τ[時間]、
受け込みパウダーの平均粒径Dpi[μm]、並びに
排出パウダーのポリマー中のエチレン由来の構成単位および炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構成単位の合計量C[質量分率(g/g)]から、
下式(A)により定義される運転性評価指標fが、30以上、1250以下である、上記製造方法である。
【数2】

式(A)中、a=-0.50、b=2.50、c=0.65である。
【0010】
本発明においては、少なくとも1の気相重合反応装置において、上記式(A)により定義される運転性評価指標fが30以上、1250以下であればよいので、複数の気相重合反応装置を用いる場合には、そのうちの1の気相重合反応装置のみにおいて運転性評価指標fが30以上1250以下であってもよく、複数の気相重合反応装置、例えば全ての気相重合反応装置において運転性評価指標fが30以上1250以下であってもよい。
通常、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置において触媒活性が高いため、塊状物の発生を効果的に抑制する観点からは、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(以下、「最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)」ともいう。)において、運転性評価指標fが30以上1250以下であることが好ましい。
【0011】
気相重合反応装置が1のみである場合には、当該気相重合反応装置が、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に該当するので、該気相重合反応装置の運転条件が上記条件を満たすことが好ましく、すなわち運転性評価指標fが、30以上、1250以下である条件下で、運転されることが好ましい。この時、空時収率は高くなる場合が有り、例えば0.5(kg/kg-bed・時間)以上となっても良い。
気相重合反応装置が2以上である場合には、そのうち最上段に配置され、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置が、気相重合反応装置(i)に該当し、該気相重合反応装置(i)が上記条件を満たし、すなわち運転性評価指標fが、30以上、1250以下である条件下で、運転されることが好ましい。この場合、それ以外の気相重合反応装置の運転条件は、上記条件を満たしてもよく、満たさなくともよい。
本発明においては、プロピレンを含む単量体を(共)重合して、プロピレン重合体を製造する。プロピレン重合体は、プロピレン単独重合体、プロピレン共重合体、およびヘテロファジックプロピレン重合材料のいずれであってもよく、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態は、
(1)オレフィン重合触媒の存在下、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)を含む1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程;並びに
(2)上記工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、プロピレン共重合体(II)を製造する工程、を有し、
これらの工程を実施することで、ヘテロファジックプロピレン重合材料を製造する製造方法である。
この実施形態において、プロピレン共重合体(I-2)は、プロピレンに由来する構成単位と、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が0.01質量%以上15質量%未満である(但し、プロピレン共重合体(I-2)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
プロピレン共重合体(II)は、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位と、プロピレンに由来する構成単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する構成単位の含有量が15質量%以上80質量%以下である(但し、プロピレン共重合体(II)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体である。
また、この実施形態において製造されるヘテロファジックプロピレン重合材料は、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)と、プロピレン共重合体(II)とを含んでなり、プロピレン共重合体(II)の含有量が15質量%以上であるヘテロファジックプロピレン重合材料(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)である。
【0013】
すなわち上記好ましい実施形態は、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)と、プロピレン共重合体(II)とを含んでなり、プロピレン共重合体(II)の含有量が15質量%以上であるヘテロファジックプロピレン重合材料(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)の製造方法であって:
(1)オレフィン重合触媒の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程;並びに
(2)上記工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、プロピレン共重合体(II)を製造する工程、を有し、
前記工程(1)において、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における、
当該気相重合反応装置(i)における、下記式(A)により定義される運転性評価指標fが、30以上、1250以下である、上記製造方法である。
【数3】

(式(A)中、a=-0.50、b=2.50、かつc=0.65である。)
【0014】
ここで、
τ[時間]は当該気相重合反応装置内の平均滞留時間であり、
pi[μm]は受け込みパウダーの平均粒径であり、
[質量分率(g/g)]は排出パウダーのポリマー中のエチレン由来の構成単位および炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構成単位の合計量である。
これらのパラメータの詳細は、下記にて詳述するとおりである。
【0015】
本発明において、プロピレン重合体とは、プロピレンに由来する単量体単位を有する重合体である。プロピレン重合体としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン共重合体、及びヘテロファジックプロピレン重合材料が挙げられる。
プロピレン共重合体は、プロピレンに由来する単量体単位とプロピレン以外の単量体(コモノマー)に由来する単量体単位とを含有するものである。プロピレン共重合体は、該プロピレン共重合体の質量を基準として、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を0.01質量%以上20質量%以下含有することが好ましい。
プロピレン以外の単量体としては、例えば、エチレン及び炭素数4以上12以下のα-オレフィンが挙げられる。中でも、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン及び1-オクテンからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、エチレン及び1-ブテンからなる群より選択される少なくとも一種が更に好ましい。
プロピレン共重合体としては、プロピレンランダム共重合体が挙げられる。プロピレンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセンランダム共重合体及びプロピレン-エチレン-1-オクテンランダム共重合体が挙げられる。
【0016】
本発明の好ましい一実施形態においては、特定の構成を有するヘテロファジックプロピレン重合材料を製造することができる。当該ヘテロファジックプロピレン重合材料の構成を、以下に具体的に説明する。
本実施形態に係るヘテロファジックプロピレン重合材料は、(i)プロピレン単独重合体(I-1)とプロピレン共重合体(II)とを含んでなるヘテロファジックプロピレン重合材料、または、(ii)プロピレン共重合体(I-2)とプロピレン共重合体(II)とを含んでなるヘテロファジックプロピレン重合材料であって、プロピレン共重合体(II)の含有量が15質量%以上であるヘテロファジックプロピレン重合材料(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)である。
【0017】
〔プロピレン単独重合体(I-1)〕
本実施形態において、プロピレン単独重合体(I-1)とは、プロピレンに由来する単量体単位からなる単独重合体である。
【0018】
〔プロピレン共重合体(I-2)〕
本実施形態において、プロピレン共重合体(I-2)とは、プロピレンに由来する単量体単位と、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位の含有量が0.01質量%以上15質量%未満である(但し、プロピレン共重合体(I-2)の全質量を100質量%とする)するプロピレン共重合体である。
【0019】
本実施形態において、プロピレン単独重合体(I-1)は、実質的にプロピレンに由来する単量体単位からなる重合体であり、
プロピレン共重合体(I-2)は、プロピレンに由来する単量体単位と、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位の含有量が0.01質量%以上15質量%未満である(但し、プロピレン共重合体(I-2)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体であり、
プロピレン共重合体(II)は、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位と、プロピレンに由来する単量体単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位の含有量が15質量%以上80質量%以下である(但し、プロピレン共重合体(II)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体である。
【0020】
プロピレン共重合体(I-2)における炭素数4以上12以下のα-オレフィンに由来する単量体単位を導く炭素数4以上12以下のα-オレフィンとしては、例えば1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ヘキセン、2,2,4-トリメチル-1-ペンテン等が挙げられ、好ましくは、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンであり、より好ましくは1-ブテンである。
【0021】
プロピレン共重合体(I-2)において、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
プロピレン共重合体(I-2)の具体例としては、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-1-デセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-デセン共重合体等が挙げられ、好ましくは、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体を使用することができる。
【0022】
本実施形態において、プロピレン共重合体(I-2)は、ランダム共重合体であってもよく、その具体例としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィンランダム共重合体が挙げられる。
【0023】
〔プロピレン共重合体(II)〕
本実施形態において、プロピレン共重合体(II)とは、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位と、プロピレンに由来する単量体単位とを含有し、上記エチレンおよび上記炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンに由来する単量体単位の含有量が、合計で15質量%以上80質量%以下である(但し、プロピレン共重合体(II)の全質量を100質量%とする)プロピレン共重合体である。
【0024】
プロピレン共重合体(II)における炭素数4以上12以下のα-オレフィンに由来する単量体単位を導く炭素数4以上12以下のα-オレフィンの具体例としては、先述したプロピレン共重合体(I-2)における炭素数4以上12以下のα-オレフィンの具体例として挙げたものと同様のものが挙げられる。これらの単量体単位の1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよいことも、先述したプロピレン共重合体(I-2)の場合と同様である。
【0025】
プロピレン共重合体(II)としては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-1-デセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-デセン共重合体等が挙げられ、好ましくは、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体である。
【0026】
本実施形態において、ヘテロファジックプロピレン重合材料中におけるプロピレン共重合体(II)の含有量は15質量%以上であり、成形品の耐衝撃性の観点から、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である(但し、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を100質量%とする。)。
【0027】
本実施形態で製造されるヘテロファジックプロピレン重合材料において、プロピレン共重合体(II)の極限粘度[η]IIは、0.1~20dL/gであることが好ましく、1~15dL/gであることがより好ましく、1.5~10dL/gであることがさらに好ましい。
【0028】
〔ヘテロファジックプロピレン重合材料〕
本実施形態の製造方法により得られるヘテロファジックプロピレン重合材料は、通常微粒子状であり、その中位径は好ましくは1000μm以上、より好ましくは1300μm以上、さらに好ましくは1900μm以上である。また、ヘテロファジックプロピレン重合材料の中位径は5000μm以下であることが好ましく、4000μm以下であることがより好ましい。中位径の範囲がこの範囲であることは、パウダー性状の改善、気相重合反応装置の循環ガス用コンプレッサーの負荷等の観点等より好ましい。
ヘテロファジックプロピレン重合材料の中位径は、従来当業界において知られた方法によって測定することができ、例えばレーザー回折式の粒子径分布測定装置により得られる体積基準の中位径として測定することができる。
【0029】
本実施形態の製造方法により得られるヘテロファジックプロピレン重合材料の静止嵩密度は、0.400~0.500g/mLであることが好ましく、0.420~0.500g/mLであることがより好ましく、0.450~0.500g/mLであることがさらに好ましい。
【0030】
続いて、本発明の一実施形態に係るヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法について、具体的に説明する。
【0031】
本実施形態のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法は、
(1)オレフィン重合触媒の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程;並びに
(2)上記工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、プロピレン共重合体(II)を製造する工程、を有する。
【0032】
本実施形態のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法のうち特に好ましい一実施形態の概略構成図を、図1に示す。
図1中11は、工程(1)の気相重合反応を行う気相重合反応装置であり、図1の実施形態においては、工程(1)を行なう気相重合反応装置が11のみなので、11は工程(1)において、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に該当する。
この実施形態においては、プロピレンを含む単量体16が気相重合反応装置11を含む配管を循環しており、気相重合反応装置11の下部からプロピレンを含む単量体16が供給され、上部から排出される。
気相重合反応装置11には、オレフィン重合触媒を含み、好ましくは予備重合されていてもよい、受けこみパウダー13が供給される。
この実施形態においては、気相重合反応装置11においては、流動層で気相重合を行なうために、拡散板および攪拌翼が設けられている。なお、図1では気相重合反応装置11に攪拌翼が設けられているが、攪拌翼が設けられていない気相重合反応装置であってもよい。拡散板上に形成された流動層中で受けこみパウダー13に含まれるオレフィン重合触媒の存在下、プロピレンを含む単量体16を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)が形成される。形成されたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)により成長した、受けこみパウダー13由来のパウダーは、所定の粒子径等に達すると、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)14を含有する排出パウダーとして、工程(2)に供される。
工程(1)において、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に該当する、気相重合反応装置11の運転条件は、本発明に規定する所定の条件を満たし、より具体的には運転性評価指標fが、30以上、1250以下となる。
【0033】
図1中12は、工程(2)の気相重合反応装置を行う気相重合反応装置であり、この実施形態においては、工程(1)を行なう気相重合反応装置11と同様に、単量体を循環させる配管が設けられており、気相重合反応装置12の下部から単量体17が供給され、上部から排出される。但し、単量体17は、プロピレン共重合体(II)を共重合するため、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィン、並びにプロピレンからなる。
【0034】
気相重合反応装置11と同様に、気相重合反応装置12にも、流動層で気相重合を行なうために、拡散板および攪拌翼が設けられている。図1では気相重合反応装置12に攪拌翼が設けられているが、攪拌翼が設けられていない気相重合反応装置であってもよい。拡散板上に形成された流動層中で、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)14を有する排出パウダーに含まれるオレフィン重合用触媒の存在下、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィン、並びにプロピレンからなる単量体17を(共)重合することで、プロピレン共重合体(II)が形成される。
形成されたプロピレン共重合体(II)により成長した、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)14を有する排出パウダー由来のパウダーは、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)と、プロピレン共重合体(II)とを含んでなるヘテロファジックプロピレン重合材料15の粒子であり、所定の粒子径等に達すると、気相重合反応装置12から排出される。
【0035】
本実施形態の製造方法は、上記工程(1)および(2)を有していればよく、それ以外の工程を有していても、有していなくともよい。
それ以外の工程を有する場合には、当該それ以外の工程は、工程(1)の前、工程(1)と工程(2)との間、工程(2)の後、のいずれにおいて実施されてもよい。
工程(1)において得られた、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)が含有するオレフィン重合触媒の触媒活性を維持し、有効に利用する観点からは、工程(1)の後、直接または速やかに工程(2)を実施することが好ましい。
【0036】
工程(1)の前には、オレフィン重合触媒を調製する工程、オレフィン重合触媒で少量のプロピレン等を重合して予備重合触媒成分を得る、いわゆる予備重合工程、および/または、オレフィン重合触媒でプロピレン等を重合して、触媒活性を有するポリオレフィン粒子を得る、いわゆるオレフィン事前重合工程等を有していてもよい。図3に示す実施形態は、工程(1)の前に、オレフィン事前重合工程を行なうための、ループ型の液相重合装置を設けた例である。
【0037】
予備重合工程の条件、方法には特に限定は無いが、例えば、n-ヘキサン等の有機溶媒中、有機アルミニウム化合物および電子供与性化合物等の存在下で、好ましくは固体であるオレフィン重合触媒を用いてプロピレンを重合して、予備重合触媒成分を得ることが好ましく、その際予備重合触媒成分はスラリーの形態で得ることが好ましい。
【0038】
オレフィン事前重合工程の条件、方法にも特に限定は無いが、液相重合を行うことが好ましく、例えば、液相のプロピレン中、有機アルミニウム化合物、電子供与性化合物等の存在下で、オレフィン重合触媒、好ましくは予備重合工程で得られた予備重合触媒成分を用いて、プロピレン(および必要に応じてプロピレン以外のオレフィン)を重合することが好ましい。
オレフィン事前重合工程により所望の粒径、触媒活性等の所望の性状を有するポリオレフィン粒子を得ることで、工程(1)等の、後続する気相重合工程を、均一かつ効率的に実施することができる。
【0039】
オレフィン事前重合を液相で行う場合、下式で定義されるオレフィン事前重合工程の平均重合速度は、好ましくは3000g/(g・時間)以上10000g/(g・時間)以下であり、より好ましくは5000g/(g・時間)以上10000g/(g・時間)以下である。
オレフィン事前重合工程の平均重合速度=固体触媒成分1gあたりのオレフィン事前重合により生成したプロピレン重合体の質量/オレフィン事前重合の合計の平均滞留時間
【0040】
〔工程(1)〕
本実施形態のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法を構成する工程(1)は、オレフィン重合触媒の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、プロピレンを含む単量体を(共)重合し、プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を製造する工程である。
工程(1)は、1以上の気相重合反応装置を用いるものであり、すなわち工程(1)は、1のみの気相重合反応装置を用いて実施してもよく、2以上の気相重合反応装置を用いて実施してもよい。
工程を簡略なものとする観点からは、1のみの気相重合反応装置を用いることが好ましい。
重合の進行、特に重合体粒子の成長、に応じて、最適な重合条件を実現する観点からは、2以上の気相重合反応装置を用いることが好ましい。この場合、3個から10個の気相重合反応装置を用いることがより好ましく、6から10個の気相重合反応装置を用いることが特に好ましい。
【0041】
工程(1)で用いる気相重合反応装置の種類には特に限定はないが、流動層反応装置、噴流層反応装置、または内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置を用いることが好ましい。なお、流動層反応装置、噴流層反応装置、または内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置は、本実施形態において工程(1)で用いる気相重合反応装置に限らず、本発明において用いられる気相重合反応装置として一般的に好ましいものであり、特に運転性評価指標fが30以上1250以下の条件で運転される少なくとも1の気相重合反応装置として、好ましく用いることができる。
【0042】
流動層反応装置は、モノマー等の気体とポリマー粒子等の固体との接触面積が大きいため、反応速度が大きく、また冷却速度も大きいので、高い生産性で重合反応を行うことができる、等の利点を有する。
噴流層反応装置は、大きな粒子や複雑な形状の粒子を比較的簡便な装置でかつ比較的少ない気体で流動化でき、また滞留時間分布が小さく、比較的均質な重合体/粒子が得やすい、等の利点を有する。
内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置は、例えば国際公開第2011/055802 A1号パンフレットなどに記載されたものであり、重合によるポリプロピレンの生成と機械的な撹拌の2つの力により、ポリプロピレン粒子が徐々に成長しながら反応器の軸方向に沿って進んでいくため、やはり滞留時間分布が小さく、比較的均質な重合体、粒子が得やすい、等の利点を有する。
【0043】
工程(1)において、2以上の気相重合反応装置を用いる場合、上記の好ましい反応装置のうち1種のみを2個以上用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
例えば、流動層反応装置の後に噴流層反応装置を設けてもよく、噴流層反応装置の後に流動層反応装置を設けてもよい。
流動層反応装置の後に、複数の噴流層反応装置を設け、その後に更に流動層反応装置を設けてもよい。例えば、図3に示す実施形態は、工程(1)において、7の気相重合反応装置を用い、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に相当する流動層気相反応装置311の後に、噴流層気相重合反応装置312~316を直列に設け、更にその後に、流動層気相反応装置317を配置する。
この様な構成とすることで、ポリプロピレン粒子の均質性が高くなるので、好ましい。
更に、図4に示す実施形態の様に、工程(1)において、複数の内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応装置を直列に配置してもよい。
【0044】
気相重合反応装置(i)
工程(1)で用いる気相重合反応装置のうち、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における重合反応は、後述の条件を満たすものである。
上述の様に、工程(1)を1のみの気相重合反応装置を用いて実施してもよく、2以上の気相重合反応装置を用いて実施してもよいところ、工程(1)を1のみの気相重合反応装置を用いて実施する場合には、当該1のみの気相重合反応装置が、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に該当し、工程(1)を2以上の気相重合反応装置を用いて実施する場合には、当該2以上の気相重合反応装置のうち最も先に気相重合が行なわれる気相重合反応装置が、気相重合反応装置(i)に該当する。
【0045】
気相重合反応装置(i)の種類にも特に限定はないが、上述の利点を有する流動層反応装置、噴流層反応装置、または内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置を用いることが好ましい。気相重合反応装置(i)が流動層反応装置であることが、特に好ましい。
本実施形態のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法においては、工程(1)および工程(2)において、プロピレンを含む単量体の気相重合を行なうため、工程(2)においても十分な触媒活性を実現するため、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)に高い活性を有する触媒を供給する。特に工程(2)で製造するプロピレン共重合体(II)の割合を高めたい場合、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)における空時収率は、0.2kg/(kg・時間)以上である事が好ましい。この様に触媒活性が高いため、気相重合反応装置(i)においては、重合体のゲル化による塊状物の発生が懸念され、その抑制が求められていた。
本実施形態によれば、気相重合反応装置(i)における重合条件を、後述の式(A)により求められる運転性評価指標fが、30以上、より好ましくは30を上回る様に設定することで、空時収率0.2kg/(kg・時間)以上となる高い触媒活性においても、気相重合反応装置(i)における塊状物の発生を有効に抑制することができる。
更に本実施形態によれば、上記運転性評価指標fが1250以下であることで、気相重合反応装置(i)において製造すべき(共)重合体を比較的短時間で製造する事ができるので、これらの条件を同時に満たすことで、ヘテロファジックプロピレン重合材料を、塊状物の発生を抑制しつつ、高い生産性で安定的に連続製造することができる。
なお、以下詳述する好ましい運転性評価指標f及び他の好ましい運転条件、量などは、本実施形態における気相重合反応装置(i)において好ましく採用されるのみならず、本発明において用いられる気相重合反応装置一般においても好ましく採用され得るものであり、特に運転性評価指標fが30以上1250以下の条件で運転される少なくとも1の気相重合反応装置において、好ましく採用することができる。
【0046】
空時収率
ここで、空時収率(kg/(kg-bed・時間))は、重合プロセス中に、気相重合反応装置(i)内に定常的に存在する重合体パウダーの量(ホールドアップ量(kg-bed))に対する、単位時間あたりの重合体の生産量(kg/時間)の比であり、下式により定義され、例えば本願実施例に記載の方法により測定することができる。
空時収率(kg/(kg-bed・時間))=生産量(kg/時間)/ホールドアップ量HU(kg-bed)
空時収率は、0.20(kg/(kg-bed・時間))以上であればよいが、全体的な生産性や工程(2)おける触媒活性を更に向上する、リアクターの小型化等の観点から、空時収率は、0.55(kg/(kg-bed・時間))以上であることが好ましく、0.9(kg/(kg-bed・時間))以上であることがより好ましい。
一方、塊状物発生を一層有効に抑制する等の観点からは、空時収率は、2.5(kg/(kg-bed・時間))以下であることが好ましく、1.7(kg/(kg-bed・時間))以下であることがより好ましい。
空時収率は、重合条件を適宜変更することで調整することが可能であり、より具体的には、触媒の供給量を増やしたり、より活性の高い触媒を使用したりすることで、より高い空時収率を得ることができる。
【0047】
ホールドアップ量HU
ホールドアップ量HU(kg-bed)は、重合プロセス中に、気相重合反応装置(i)内に定常的に存在する重合体パウダーの量である。
気相重合反応装置(i)が流動層重合装置である場合の、ホールドアップ量HUの測定方法を、図2に示す実施形態を例に以下に説明する。
図2中21は、気相重合反応装置(i)の一例であり、図1に示す実施形態における気相重合反応装置11の拡大概略断面図に相当する。気相重合反応装置21中には、流動層29が形成されている。P2は流動層底部の圧力であり、P1は流動層上部の圧力であり、圧力の差(差圧)P2-P1を、流動層による圧力損失Δpf[Pa]とし、これから下式(B)に従い、ホールドアップ量HU(kg-bed)を算出することができる。
【数4】

式(B)中、A(m)は、流動層が存在する高さにおける気相重合反応装置の断面積であり、g(m/s)は、重力加速度である。
気相重合反応装置(i)が噴流層重合装置である場合にも、ホールドアップ量HUは、層による圧力損失Δpf[Pa]、気相重合反応装置の断面積A(m)、および重力加速度g(m/s)から、上式(B)に従って求めることができる。なお、気相重合反応装置の断面積Aは、パウダー層存在部の断面積である。
【0048】
気相重合反応装置(i)が内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置である場合には、圧力損失(差圧)からホールドアップ量HUを求めることができないため、レベル計(γ線式レベル計、アドミッタンス式レベル計(レベルスイッチ)、静電容量式レベルスイッチ等)で測定できる反応装置下面からパウダー層の上面までの高さから求めたパウダー層の体積であるレベルV(m)と、パウダーの静止嵩密度(SBD)(kg/m)から、下式に従って、ホールドアップ量HUを求める。
ホールドアップ量HU(kg)=レベルV(m3)×SBD(kg/m
【0049】
ホールドアップ量HUは、空時収率が0.55(kg/(kg-bed・時間))以上となるものである事が好ましい。また、好適なホールドアップ量は、気相重合反応装置の規模(パイロットスケールであるか、商業スケールであるか等)に依存するので、ホールドアップ量HUの数値自体で、その好適な範囲を特定することは困難であるが、例えば気相重合反応装置(i)が流動層重合装置または噴流層重合装置の場合には、ホールドアップ量HUに依存する分散板から粉面までの高さL(m)と反応装置の直径D(m)の比L/Dによって、好適なホールドアップ量HUを間接的に特定することができる。
ここで、粉面高さL(m)は、ホールドアップ量HU(kg)、パウダーの流動化嵩密度FBD(kg/m)、および気相重合反応装置の断面積A(m)より、下式に従って求めることができる。
粉面高さL(m)=ホールドアップ量HU(kg)÷パウダーの流動化嵩密度FBD(kg/m)÷気相重合反応装置の断面積A(m
スラッギングなどの流動不良を防ぐ観点から、L/Dを10以下にすることが好ましく、5以下にすることがより好ましい。一方、小粒径パウダーの飛散を抑制する観点からは、L/Dを0.1以上にすることが好ましく、0.3以上にすることがより好ましい。
気相重合反応装置(i)が水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応装置の場合には、パウダーのレベルV(m)が、当該反応装置容積に対して40~80容積%となるようなホールドアップ量HUとする事が好ましい(例えば、特許第4391018号公報等参照。)。
ホールドアップ量HUは、気相重合反応装置(i)の設計や、運転条件などにより、適宜調整することができる。
【0050】
生産量
気相重合反応装置(i)における生産量(kg/時間)は、単位時間あたりに気相重合反応装置(i)から抜き出されるポリマーの量を測定してもよいし、気相重合反応装置(i)において発生した反応熱を温度上昇等から求め、これとモノマー反応熱から計算してもよい。具体的には、本願実施例に記載の方法によって求めることができる。
生産量はその性質上大きいほど好ましく、特に最適値は存在しないが、装置や費用上の制約から、通常、気相重合反応装置の容積1mあたり1~100kg/時間の範囲内となる。
また上述の空時収率も、生産スケールに依存しない生産性の指標として用いられ、当業者は空時収率に基づいて気相重合反応装置(i)の生産性を把握することができる。空時収率の好ましい値や調整方法は、既に説明したとおりである。
【0051】
運転性評価指標f
上記運転性評価指標fは、それぞれ気相重合反応装置(i)における重合条件である、平均滞留時間τG[時間]、受け込みパウダーの平均粒径Dpi[μm]、および排出パウダーのポリマー中のコモノマー由来の構成単位の量C質量分率(g/g)]から、下式(A)に従って算出される値である。
【数5】

(式(A)中、a=-0.50、b=2.50、かつc=0.65である。)
運転性評価指標fは、30以上であればよいが、より高い空時収率においても有効に塊状物の発生を抑制する等の観点からは、運転性評価指標fは、35以上であることが好ましい。
気相重合反応装置(i)における空時収率低下を抑制する等の観点からは、運転性評価指標fは、1250以下であることが好ましく、1000以下であることが特に好ましい。
運転性評価指標fは、気相重合反応装置(i)における重合条件を適宜変更することで調整することが可能であり、より具体的には、上記式(A)を構成する各要素を適宜変更することで調整することが可能である。例えば、平均滞留時間τGをより高く設定したり、受け込みパウダーの平均粒径Dpiをより高く設定したりすることで、より高い運転性評価指標fを実現することが可能である。
【0052】
平均滞留時間τ G [時間]
気相重合反応装置(i)内での平均滞留時間τGは、当該反応装置内に触媒成分を含む重合体が存在する時間である。
滞留時間はパウダー毎に若干の差が有るため分布を持つものの、平均滞留時間τ[時間]は以下の計算より求める事ができる。
平均滞留時間τ[時間] = HU [kg] ÷ 合計生産量 [kg/時間]
(ただし、ここで示す合計生産量とは、気相重合反応装置(i)を含む、当該反応装置までに重合されたパウダー量の合計値を指す。)
平均滞留時間τ G は上記式(A)で特定される運転性評価指標fが所定範囲となるものであれば良いが、滞留時間が短いほど空時収率が高くなるため、空時収率の観点からは10時間以下とする事が好ましく、2時間以下とする事がより好ましく、1.5時間以下とする事がさらに好ましく、1.0時間以下とする事が最も好ましい。
【0053】
受け込みパウダーの平均粒径D pi [μm]
受け込みパウダーの平均粒径Dpiは、気相重合反応装置(i)に供給される、触媒粒子、予備重合ポリオレフィン粒子等の粒子の平均粒径(体積基準のメジアン径(D50))である。
例えば、図2に示すような流動層型反応装置21が、最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)である場合には、受け込みパウダーは、図中23からベッド部29に供給される。
受け込みパウダーの平均粒径Dpiは、レーザー回折法等の従来公知の方法で測定することができ、より具体的には、例えば本願実施例に記載の方法によって測定することができる。
受け込みパウダーの平均粒径Dpiは、上記式(A)で特定される運転性評価指標fが所定範囲となるものであればよく、それ以外の限定は特に存在しないが、平均粒径Dpiが大きければ、粒子一粒あたりの熱容量が大きくなり、粒子の温度上昇を抑制しやすくなるので、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがより好ましい。
受け込みパウダーの平均粒径Dpiは、例えば、工程(1)の前に、予備重合工程、オレフィン事前重合工程等を設け、これらの工程の条件を適宜設定すること等で、調整することができる。
【0054】
排出パウダーのポリマー中のコモノマー由来の構成単位の量C [質量分率]
排出パウダーのポリマー中のコノノマー由来の構成単位(エチレン由来の構成単位および炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構成単位)の合計量Cは、IRスペクトル法等の従来公知の方法によって測定することができ、例えば本願実施例に記載の方法により測定することができる。
排出パウダーのポリマー中のコモノマー由来の構成単位の量Cは、上記式(A)で特定される運転性評価指標fが所定範囲となるものであればよく、それ以外の限定は特に存在しないが、塊状物発生の抑制の観点から、例えば50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。コモノマーがエチレンの場合は、エチレン由来の構成単位の量C2’は10質量%以下であることがさらに好ましい。
排出パウダーのポリマー中のコモノマー由来の構成単位の量Cは、気相重合反応装置(i)に供給するコモノマーの量、割合等を変更することで、適宜調整することができる。
【0055】
工程(1)の平均重合速度は、好ましくは10000g/(g・時間)以上25000g/(g・時間)以下である。
工程(1)の平均重合速度=固体触媒成分1gあたり、気相重合により生成したプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の合計質量/工程(1)の気相重合の合計の平均滞留時間
【0056】
〔工程(2)〕
本実施形態に係る工程(2)は、工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)の存在下、1以上の気相重合反応装置を用いて、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとを共重合し、上述したプロピレン共重合体(II)を製造する工程である。
【0057】
工程(2)では、気相重合反応装置に、工程(1)で得られたプロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)を、好ましくは連続的に供給し、そのポリマーの存在下で、エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィンと、プロピレンとの共重合を、気相で行う。
【0058】
工程(2)における平均重合速度は、好ましくは5000g/(g・時間)以上25000g/(g・時間)以下である。
工程(2)における平均重合速度=固体触媒成分1gあたり生成したプロピレン共重合体(II)の質量/工程(2)の合計の平均滞留時間
【0059】
本実施形態の製造方法によれば、通常、工程(2)において、プロピレン単独重合体(I-1)またはプロピレン共重合体(I-2)のマトリックスの中で、プロピレン共重合体(II)が分散した構造を有する混合物として、ヘテロファジックプロピレン重合材料が得られる。
【0060】
本実施形態の工程(1)および(2)の気相重合反応装置における重合温度は、通常、0~120℃であり、好ましくは20~100℃であり、より好ましくは40~100℃である。
【0061】
本実施形態の工程(1)および(2)の気相重合反応装置における重合圧力は、気相重合反応装置内でオレフィンが気相として存在し得る範囲内であればよく、通常常圧~10MPaG、好ましくは0.2~8MPaG、より好ましくは0.5~5MPaGである。
【0062】
本実施形態の工程(1)および(2)において、ヘテロファジックプロピレン重合材料を製造するために使用されるオレフィン重合触媒(好ましくはプロピレン重合用触媒)としては、チーグラー・ナッタ型触媒やメタロセン系触媒等が挙げられ、好ましくは、チーグラー・ナッタ型触媒である。チーグラー・ナッタ型触媒としては、例えば、マグネシウム化合物にチタン化合物を接触させて得られる固体触媒成分等のT i - M g 系触媒、マグネシウム化合物にチタン化合物を接触させて得られる固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および必要に応じて電子供与性化合物等の第3 成分を含有する触媒等が挙げられ、好ましくは、マグネシウム化合物にチタン化合物を接触させて得られる固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および必要に応じて電子供与性化合物等の第3 成分とを含有する触媒であり、さらに好ましくは、マグネシウム化合物にハロゲン化チタン化合物を接触させて得られる固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および電子供与性化合物を含有する触媒である。触媒として、少量のオレフィンを接触させ、予備活性化させたものを用いてもよい。
【0063】
気相重合反応装置の具体例としては、公知の重合反応装置、例えば、特開昭58-201802号公報、特開昭590126406号公報、および特開平2-233708号公報等に記載の反応装置を挙げることができる。
【0064】
<プロピレン重合体の製造方法>
本発明に係るプロピレン重合体の製造方法の好ましい一実施形態として、ヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法を上述したが、本発明に係るプロピレン重合体の製造方法は、当該実施形態のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造方法に限定されない。
すなわち、本発明に係るプロピレン重合体の製造方法は、特定のヘテロファジックプロピレン重合材料の製造に限らず、プロピレン単独重合体、プロピレン共重合体、上記実施態様のもの以外のヘテロファジックプロピレン重合材料等の、各種のプロピレン重合体(プロピレンに由来する単量体単位を有する重合体)の製造に適用することができる。その際に当業者は、製造するプロピレン重合体の種類や特性に応じて、上記好ましい一実施形態についての記載のうち適用可能なものについては、(そのまま、あるいは必要又は好適な改変を行なったうえで、)所望のプロピレン重合体の製造に適宜利用することができる。
また、本発明に係るプロピレン重合体の製造方法は、好ましくは最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)である少なくとも1の気相重合反応器を含む、2以上の気相重合反応装置を含む重合システム、または、液相重合反応装置と気相重合反応装置とを含み、液相重合反応装置と気相重合反応装置の合計数が3以上である重合システムを用いればよく、上述の好ましい一実施形態における様に、工程(1)および工程(2)を要するものではない。当業者は、上述の好ましい一実施形態の範囲外で本発明を実施するにあたって、好ましい一実施形態についての記載のうち(特に工程(1)についての記載等の)適用可能なものについては、(そのまま、あるいは必要又は好適な改変を行なったうえで、)所望の工程で構成されるプロピレン重合体の製造方法に、適宜利用することができる。
【0065】
<プロピレン重合体の用途>
本発明の製造方法によって得られたヘテロファジックプロピレン重合材料等のプロピレン重合体は、例えば、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法、発泡成形法、中空成形法、ブロー成形法、真空成形法、粉末成形法、カレンダー成形法、インフレーション方法、プレス成形等の成形方法により好適に成形することができる。
【0066】
本発明の製造方法によって得られたヘテロファジックプロピレン重合材料等のプロピレン重合体の用途は特に限定されないが、例えば、自動車内装部品および外装部品等の自動車部品、食品・医療容器、家具や電気製品の部品、土木・建築材料等が挙げられる。自動車内装部品としては、例えば、インストルメンタルパネル、トリム、ドアーパネル、サイドプロテクター、コンソールボックス、コラムカバー等が挙げられる。自動車外装部品としては、例えば、バンパー、フェンダー、ホイールカバー等が挙げられる。食品・医療容器としては、例えば、ラップフィルム、食品容器、輸液バッグ、輸液ボトル等が挙げられる。家具や電化製品の部品としては、例えば、壁紙、床材、化粧シート、洗濯機等の排水ホース等が挙げられる。土木・建築材料としては、例えば、防水シート、遮水シート、ホース、ダクト、ガスケット等が挙げられる。
【実施例
【0067】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例により限定されるものではない。
【0068】
以下の各実施例および各比較例に示した測定値は、次の条件によって測定した。
【0069】
(ホールドアップ量 HU:kg-bed)
流動層底部の圧力と、流動層上部との圧力の差(差圧)を流動層による圧力損失Δpf[Pa]とし、これから下式(B)に従い、ホールドアップ量HU(kg)を算出した。
より具体的には、流動層底部側の差圧計取り口を分散板直上 (好ましくは分散板上0.3m以内)に設置し、流動層上部側の取り口を流動層より上部でいわゆるベッドパウダーが存在しない位置(例えばリアクター上端など)に設置し、差圧計を用いて両者の圧力差を測定した。得られた圧力差(圧力損失Δpf[Pa])、流動層が存在する高さにおける気相重合反応装置の断面積A(m)、および重力加速度g(m/s)から、下式(B)に従って、ホールドアップ量HU(kg-bed)を求めた。
【数6】
【0070】
(生産量:kg/時間)
重合器における、循環ガス風量U[kg/時間]、重合器入口ガス温度と重合器内部温度の差」ΔT[℃]、循環ガス比熱 Cp[kcal/kg・℃]、およびモノマー反応熱ΔHr[kcal/kg]を用いて、下式(C)に従って、生産量(kg/時間)を求めた。
【数7】
【0071】
(空時収率:kg/kg-bed・時間)
上記で得られた生産量(kg/時間)を、同じく上記で得られたホールドアップ量HU(kg-bed)で除して、空時収率(kg/kg-bed・時間 )を算出した。
【0072】
(平均滞留時間 τG:時間)
平均滞留時間は以下の計算より求める事ができる。ただし、滞留時間では空時収率と異なり、当該反応装置前段の生産量も含めた合計生産量を計算に用いる。
平均滞留時間τ[時間] = HU [kg] ÷ 合計生産量 [kg/時間]
(ただし、ここで示す合計生産量とは、当該重合反応装置を含む、当該反応装置までに重合されたパウダー量の合計値を指す。)
【0073】
(受け込みパウダーの平均粒径 Dpi
パウダー粒径はレーザー回折式の粒度分布測定装置(機器名:HELOS/KF、サンプル分散器:GRADIS+VIBRI、Sympatec社製)を使用して測定した。サンプル分散条件は「GRADIS vib 50」、測定レンジは「0~3500μm」に設定し、1回当たり約1~10gのサンプルを装置に投入して粒度分布を測定した。(ただし、パウダーの流動性が悪いサンプルは、より分散し易いサンプル分散条件に変更した。)測定データは専用解析ソフト (WINDOX ve5.3.1.0)により解析し、体積基準のメジアン径(D50)を算出した。また、各サンプル3~5回測定し、その平均値をパウダーの平均粒径として採用した。
【0074】
(重合体中のコモノマー由来の構成単位の量C:質量分率(g/g)
高分子ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店刊)の第619頁に記載のIRスペクトル測定に準拠し、IRスペクトル法によって重合体の全構成単位中に占めるエチレン由来の構成単位及び炭素数4以上12以下のα-オレフィン由来の構造単位の合計割合を求めた。
【0075】
(運転性評価指標f)
上述の平均滞留時間τ[時間]、受け込みパウダーの平均粒径Dpi[μm]、および排出パウダーのポリマー中のエチレン由来の構成単位及びC4~12オレフィン由来の構成単位の合計量C質量分率(g/g)]から、
下式(A)に従って求めた。
【数8】

(式(A)中、a=-0.50、b=2.50、かつc=0.65である。)
【0076】
(運転性)
運転性の評価は、以下の通り実施した。
【0077】
運転性○:気相重合リアクター内で、1インチを超える塊化物が発生することがなく、安定的に連続製造ができた。
【0078】
運転性×:気相重合リアクター内の粒子の流動性が悪化し、リアクターからの抜き出し不良や、リアクター内で塊が発生し、安定的に運転できなかった。
【0079】
(実施例1)
[オレフィン重合用触媒(固体触媒成分)の調製]
工程(0-1A):撹拌機、滴下ロート、温度計を備えた100mLのフラスコを窒素で置換した後、該フラスコに、トルエン36.0mL、四塩化チタン22.5mLを投入し、撹拌した。フラスコ内の温度を0℃とした後、同温度でマグネシウムエトキシド1.88gを30分おきに4回投入した後、0℃で1.5時間撹拌した。次いで、2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル0.60mLをフラスコ内に投入した後でフラスコ内の温度を10℃に昇温した。その後、同温度で2時間撹拌し、トルエン9.8mLを投入した。次いで、フラスコ内の温度を1.2K/分の速度で昇温し、60℃の時点でフラスコ内に2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル3.15mLを投入し、110℃まで昇温した。同温度で3時間、フラスコ内に投入した成分を撹拌した。得られた混合物を固液分離して固体を得た。該固体を100℃にてトルエン56.3mLで3回洗浄した。
工程(0-1B):洗浄後の上記固体にトルエン38.3mLを投入し、スラリーを形成した。該スラリーに四塩化チタン15.0mL、2-エトキシメチル-3,3-ジメチルブタン酸エチル0.75mLを投入して混合物を形成し、110℃で1時間混合物を攪拌した。その後、攪拌した混合物を固液分離し、該固体を60℃にてトルエン56.3mLで3回洗浄し、さらに室温にてヘキサン56.3mLで3回洗浄し、洗浄後の固体を減圧乾燥してオレフィン重合用固体触媒成分を得た。この固体触媒成分について、チタン原子含有量は2.53質量%であり、エトキシ基含有量は0.44質量%であり、内部電子供与体含有量は13.7質量%であり、またレーザ回折・散乱法による中心粒径は59.5μmであった。
【0080】
[予備重合(工程(0-2))]
内容積3Lの撹拌機付きSUS製オートクレーブに、充分に脱水および脱気処理したn-ヘキサン1.8L、トリエチルアルミニウム170ミリモル、t-ブチル-n-プロピルメトキシシラン17ミリモルを収容させた。その中に上記重合用固体触媒成分86gを添加し、オートクレーブ内の温度を約10℃に保ちながらプロピレン86gを約50分かけて連続的に供給して予備重合を行った。その後、予備重合スラリーを内容積150Lの攪拌機付きSUS316L製オートクレーブに移送し、液状ブタン100Lを加えて、予備重合触媒成分のスラリーとした。
【0081】

[オレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合]
攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクター2槽を直列に接続し、液相重合を行った。すなわち、プロピレン、エチレン、水素、トリエチルアルミニウム、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシランおよび上記で得られた予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給し、重合反応を行った。反応条件は以下の通りとした。
【0082】
(1槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:56℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:55L、
プロピレンの供給量:86kg/時間、
エチレンの供給量:0.1kg/時間、
水素の供給量:3NL/時間、
トリエチルアルミニウムの供給量:230ミリモル/時間、
t-ブチル-n-プロピルジメトキシシランの供給量:45ミリモル/時間、
予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算):3.6g/時間、
重合圧力:2.6MPa(ゲージ圧)。
(2槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:50℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:60L、
重合圧力:2.4MPa(ゲージ圧)。
(触媒、モノマー、水素などは1槽目からの受込み分のみ)
【0083】
当該リアクターにおいては、2槽を合計したスラリーの平均滞留時間は0.64時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は14kg/時間であり、排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径Dpiは1064μmであった。また、液相で重合したエチレン-プロピレン共重合体中に含まれるエチレンの量は0.5wt%であった。
上記結果から計算された、事前重合における平均重合速度は、5885(g/g/時間)であった。
【0084】
[流動層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)]
流動層反応装置を用いて、気相でエチレンとプロピレンとを共重合した。
【0085】
前段のスラリー重合反応装置から上記流動層反応装置に、ポリプロピレン粒子および液状プロピレン、未反応エチレンを含むスラリーを失活させることなく連続供給した。上述のように当該ポリプロピレン粒子の平均粒径は1064μmであったため、上記流動層反応装置に受け込まれるパウダーの平均粒径Dpiは1064μmである。
【0086】
流動層リアクターの下部からプロピレン、エチレンおよび水素を連続的に供給した。当該ガスを流動化ガスとして流動層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、エチレン、水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらエチレンとプロピレンを共重合させた。反応条件は以下の通りとした。
【0087】
重合温度:70℃、
重合圧力:1.84MPa(ゲージ圧)
ポリプロピレン粒子のホールドアップ量HU:30kg
最初の気相重合反応装置(i)で重合されたエチレン-プロピレン共重合体の生産量:31kg/時間
最初の気相重合反応装置(i)の空時収率:1.0 kg-PP/(kg-bed・時間)
式(A)に従い算出した、最初の気相重合反応装置(i)における運転性評価指標f:33.7
最初の気相重合反応装置(i)の流動層リアクターから排出されるエチレン-プロピレン共重合体の生産量:45 kg/時間
当該リアクターにおいては、平均滞留時間は0.67時間であり、リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+エチレン+プロピレン))は4.9モル%、エチレン濃度比(エチレン/(エチレン+プロピレン))は3.8モル%であり、排出されたポリマー粒子は44.5kg/時間であった。
上記結果から計算された、工程(1)における平均重合速度は、12525(g/g/時間)であった。
【0088】
上記条件および結果を、表1および2に示す。
運転性の評価結果は○であり、最初の気相重合反応装置(i)内で、塊化物が発生することがなく、高い生産性、かつ良好な運転性で、重合を行なうことができた。
また上記空時収率1.0(kg/kg-bed・時間)は、最初の気相重合反応装置(i)における高い触媒活性を示すものであり、最初の気相重合反応装置(i)から排出されたポリマー粒子が、その存在下で更にプロピレン共重合体(II)の気相重合が可能な触媒活性を有していたことを示すものである。例えば、以下の様に、プロピレン共重合体(II)の気相重合を行い、ヘテロファジックプロピレン重合材料を得ることができる。
【0089】
[工程(2):流動層重合反応装置によるプロピレン共重合体(II)の重合)]
流動層反応装置を用いて、気相でプロピレンとエチレンを共重合する。
重合工程(1)で得た粒子を失活させることなく、後段に設置した流動層リアクターに連続供給する。
後段の流動層リアクターの下部からプロピレン、エチレンおよび水素を連続的に供給する。当該ガスを流動化ガスとして流動層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、エチレンおよび水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらプロピレンとエチレンを共重合させ、ヘテロファジックプロピレン重合材料を得る。反応条件は以下の通りとする。
重合温度:70℃、
重合圧力:1.95MPa(ゲージ圧)、
ポリプロピレン粒子のホールドアップ量:159kg
平均滞留時間:1.7時間
リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+エチレン+プロピレン)):25モル%
エチレン濃度比(エチレン/(エチレン+プロピレン)):3.9モル%
重合工程(2)で生成するプロピレン-エチレン共重合体の生産量は、47 kg/時間であり、排出されるヘテロファジックプロピレン重合材料粒子は94kg/時間である。ヘテロファジックプロピレン重合材料粒子中、プロピレン-エチレン共重合体の含有量は51質量%、プロピレン-エチレン共重合体中のエチレン単位含有量は5質量%である。
上記から、工程(2)における平均重合速度は、7645(g/g/時間)と計算される。
【0090】
(比較例1)
実施例1と同製法で製造したオレフィン重合用固体触媒成分を用い、液相重合におけるスラリーの合計平均滞留時間を0.66時間に、液相重合における予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算)を5.2g/時間に変更したことを除くほか実施例1と同様にして、予備重合、およびオレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合を行い、ポリプロピレン粒子を得た。排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径は1071μmであった。
次いで、重合条件を表1に示す点について変更したことを除くほか、実施例1と同様にして流動層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)を行なった。結果を、表1及び2に示す。
運転性の評価結果は×であり、最初の気相重合反応装置(i)内で粒子の流動性が悪化し、反応装置からの抜き出し不良や、反応装置内での塊の発生などにより、安定的に運転できなかった。
【0091】
(実施例2)
[オレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合]
実施例1と同様の方法で予備重合した予備重合触媒成分を用い、攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクター3槽を直列に接続し、液相重合を行った。すなわち、プロピレン、エチレン、水素、トリエチルアルミニウム、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシランおよび上記で得られた予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給し、重合反応を行った。反応条件は以下の通りとした。
【0092】
(1槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:55℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:25L、
プロピレンの供給量:40kg/時間、
エチレンの供給量:0.1kg/時間、
水素の供給量:25NL/時間、
トリエチルアルミニウムの供給量:200ミリモル/時間、
t-ブチル-n-プロピルジメトキシシランの供給量:40ミリモル/時間、
予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算):1.8g/時間、
重合圧力:3.4MPa(ゲージ圧)。
(2槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:53℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:55L、
プロピレンの供給量:40kg/時間、
エチレンの供給量:0.1kg/時間、
水素の供給量:23NL/時間、
重合圧力:2.9MPa(ゲージ圧)。

(記載の無い成分は1槽目からの受込み分のみ)
(3槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:43℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:55L、
重合圧力:2.5MPa(ゲージ圧)。
(触媒、モノマー、水素などは2槽目からの受込み分のみ)
【0093】
当該リアクターにおいては、3槽を合計したスラリーの平均滞留時間は0.98時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は16kg/時間であり、排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径Dpiは1395μmであった。また、液相で重合したエチレン-プロピレン共重合体中に含まれるエチレンの量は1.5wt%であった。
上記結果から計算された、事前重合における平均重合速度は、8696(g/g/時間)であった。
【0094】
[噴流層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)]
本例では流動層反応装置ではなく噴流層反応装置を用いて、気相でエチレンとプロピレンとを共重合した。
【0095】
前段のスラリー重合反応装置から上記噴流層反応装置に、ポリプロピレン粒子および液状プロピレン、未反応エチレンを含むスラリーを失活させることなく連続供給した。
【0096】
噴流層リアクターの下部からプロピレン、エチレンおよび水素を連続的に供給した。当該ガスを流動化ガスとして噴流層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、エチレン、水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらエチレンとプロピレンを共重合させた。反応条件は以下の通りとした。
【0097】
重合温度:70℃、
重合圧力:1.81MPa(ゲージ圧)
ポリプロピレン粒子のホールドアップ量HU:37kg
最初の気相重合反応装置(i)で重合されたエチレン-プロピレン共重合体の生産量:29kg/時間
最初の気相重合反応装置(i)の空時収率:0.8 kg-PP/(kg-bed・時間)
式(A)に従い算出した、最初の気相重合反応装置(i)における運転性評価指標f:65.3
最初の気相重合反応装置(i)の流動層リアクターから排出されるエチレン-プロピレン共重合体の生産量:45 kg/時間
当該リアクターにおいては、平均滞留時間は0.82時間であり、リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+エチレン+プロピレン))は1.5モル%、エチレン濃度比(エチレン/(エチレン+プロピレン))は4.5モル%であり、排出されたポリマー粒子は44.8kg/時間であった。
上記結果から計算された、工程(1)における平均重合速度は、19575(g/g/時間)であった。
【0098】
上記条件および結果を表1および2に示す。
運転性の評価結果は○であり、最初の気相重合反応装置(i)内で、塊化物が発生することがなく、高い生産性、かつ良好な運転性で、重合を行なうことができた。
また上記空時収率0.8kg(kg/kg-bed・時間)は、最初の気相重合反応装置(i)における高い触媒活性を示すものであり、最初の気相重合反応装置(i)から排出されたポリマー粒子は、その存在下で更にプロピレン共重合体の気相重合が可能な触媒活性を有しているものと判断された。
なお、実施例1と同様にして計算した、工程(2)における平均重合速度は、7579(g/g/時間)であった。
【0099】
(実施例3)
【0100】
[オレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合]
実施例2同様、攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクター3槽を直列に接続し、液相重合を行った。ただし、本例ではプロピレン単独で液相重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシランおよび上記で得られた予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給し、重合反応を行った。反応条件は以下の通りとした。
【0101】
(1槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:55℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:25L、
プロピレンの供給量:70kg/時間、
水素の供給量:43NL/時間、
トリエチルアルミニウムの供給量:150ミリモル/時間、
t-ブチル-n-プロピルジメトキシシランの供給量:30ミリモル/時間、
予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算):2.2g/時間、
重合圧力:2.9MPa(ゲージ圧)。
(2槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:51℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:55L、
プロピレンの追加供給量:85kg/時間、
水素の追加供給量:51NL/時間、
重合圧力:2.7MPa(ゲージ圧)。
(記載の無い成分は1槽目からの受込み分のみ)
(3槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:43℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:55L、
重合圧力:2.3MPa(ゲージ圧)。
(触媒、モノマー、水素などは2槽目からの受込み分のみ)
【0102】
当該リアクターにおいては、3槽を合計したスラリーの平均滞留時間は0.50時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は11kg/時間であり、排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径Dpiは1150μmであった。
上記結果から計算された、事前重合における平均重合速度は、9427(g/g/時間)であった。
【0103】
[噴流層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)]
実施例2同様、噴流層重合反応装置を用いて、気相でプロピレンを単独重合した。
【0104】
前段のスラリー重合反応装置から上記噴流層反応装置に、ポリプロピレン粒子および液状プロピレンを含むスラリーを失活させることなく連続供給した。
【0105】
噴流層リアクターの下部からプロピレンおよび水素を連続的に供給した。当該ガスを流動化ガスとして噴流層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらプロピレンを重合させた。反応条件は以下の通りとした。
【0106】
重合温度:80℃、
重合圧力:1.80MPa(ゲージ圧)

ポリプロピレン粒子のホールドアップ量HU:35kg
最初の気相重合反応装置(i)で重合されたプロピレン重合体の生産量:37kg/時間
最初の気相重合反応装置(i)の空時収率:1.0kg-PP/(kg-bed・時間)
式(A)に従い算出した、最初の気相重合反応装置(i)における運転性評価指標f:47.5
最初の気相重合反応装置(i)の噴流層リアクターから排出されるエチレン-プロピレン共重合体の生産量:48kg/時間
当該リアクターにおいては、平均滞留時間は0.75時間であり、リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+プロピレン))は1.4モル%であった。
上記結果から計算された、工程(1)における平均重合速度は、22094(g/g/時間)であった。
【0107】
上記条件および結果を表1および2に示す。
運転性の評価結果は○であり、最初の気相重合反応装置(i)内で、塊化物が発生することがなく、高い生産性、かつ良好な運転性で、重合を行なうことができた。
また上記空時収率1.0kg(kg/kg-bed・時間)は、最初の気相重合反応装置(i)における高い触媒活性を示すものであり、最初の気相重合反応装置(i)から排出されたポリマー粒子は、その存在下で更にプロピレン共重合体の気相重合が可能な触媒活性を有しているものと判断された。
なお、実施例1と同様にして計算した、工程(2)における平均重合速度は、7288(g/g/時間)であった。
【0108】
(実施例4)
実施例1同様、攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクターを2列直列に接続して液相重合した後、流動層リアクターを用いて気相重合した。ただし、実施例1とは、触媒種およびプロピレン単独重合である点が異なる。重合触媒に関し、本例では、特開2016-50316号公報の実施例にて用いた重合触媒と同種の触媒を使用した。

[予備重合]
内容積3Lの撹拌機付きSUS製オートクレーブに、充分に脱水および脱気処理したn-ヘキサン1.8L、トリエチルアルミニウム30ミリモル、t-ブチル-n-プロピルメトキシシラン3ミリモルを収容させた。その中に上記重合用固体触媒成分12gを添加し、オートクレーブ内の温度を約10℃に保ちながらプロピレン24gを約15分かけて連続的に供給して予備重合を行った。その後、予備重合スラリーを内容積150Lの攪拌機付きSUS316L製オートクレーブに移送し、液状ブタン100Lを加えて、予備重合触媒成分のスラリーとした。
【0109】

[オレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合]
攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクター2槽を直列に接続し、液相重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシランおよび上記で得られた予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給し、重合反応を行った。反応条件は以下の通りとした。
【0110】
(1槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:79℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:18L、
プロピレンの供給量:43kg/時間、
水素の供給量:0NL/時間、
トリエチルアルミニウムの供給量:41ミリモル/時間、
t-ブチル-n-プロピルジメトキシシランの供給量:6ミリモル/時間、
予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算):0.6g/時間、
重合圧力:3.6MPa(ゲージ圧)。
(2槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:64℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:60L、
プロピレンの供給量:2kg/時間、
水素の供給量:257NL/時間、
重合圧力:3.4MPa(ゲージ圧)。
(記載の無い成分は1槽目からの受込み分のみ)
【0111】
当該リアクターにおいては、2槽を合計したスラリーの平均滞留時間は0.75時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は7kg/時間であり、排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径Dpiは838μmであった。
上記結果から計算された、事前重合における平均重合速度は、16722(g/g/時間)であった。
【0112】
[流動層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)]
流動層反応装置を用いて、気相でプロピレンを重合した。
【0113】
前段のスラリー重合反応装置から上記流動層反応装置に、ポリプロピレン粒子および液状プロピレン、未反応エチレンを含むスラリーを失活させることなく連続供給した。
【0114】
流動層リアクターの下部からプロピレンおよび水素を連続的に供給した。当該ガスを流動化ガスとして流動層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらプロピレンを重合させた。反応条件は以下の通りとした。
【0115】
重合温度:75℃、
重合圧力:1.80MPa(ゲージ圧)
ポリプロピレン粒子のホールドアップ量HU:45kg
最初の気相重合反応装置(i)で重合されたプロピレン重合体の生産量:9.2kg/時間
最初の気相重合反応装置(i)の空時収率:0.2 kg-PP/(kg-bed・時間)
式(A)に従い算出した、最初の気相重合反応装置(i)における運転性評価指標f:961.5
最初の気相重合反応装置(i)の流動層リアクターから排出されるエチレン-プロピレン共重合体の生産量:17 kg/時間
当該リアクターにおいては、平均滞留時間は2.7時間であり、リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+エチレン+プロピレン))は6.0モル%であり、排出されたポリマー粒子は16.6kg/時間であった。
上記結果から計算された、工程(1)における平均重合速度は、5772(g/g/時間)であった。
【0116】
上記条件および結果を表1および2に示す。
運転性の評価結果は○であり、最初の気相重合反応装置(i)内で、塊化物が発生することがなく、高い生産性、かつ良好な運転性で、重合を行なうことができた。
なお、実施例1と同様にして計算した、工程(2)における平均重合速度は、4592(g/g/時間)であった。
【0117】
(比較例2)
実施例1~3および比較例1と同じ触媒種、および同等の予備重合条件で処理した予備重合触媒スラリーを用いて、攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクターで液相重合した。ただし、本例では、液相重合リアクター1槽のみで事前重合した後、流動層リアクターで気相重合を実施した。
【0118】
[オレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合]
攪拌機付きSUS304製ベッセルタイプのスラリー重合リアクター1槽を直列で液相重合を行った。すなわち、プロピレン、水素、トリエチルアルミニウム、tert-ブチル-n-プロピルジメトキシシランおよび上記で得られた予備重合触媒成分のスラリーをリアクターに連続的に供給し、重合反応を行った。反応条件は以下の通りとした。
【0119】
(1槽目のスラリー重合リアクター)
重合温度:50℃、
攪拌速度:150rpm、
リアクターの液レベル:25L、
プロピレンの供給量:75kg/時間、
水素の供給量:2NL/時間、
トリエチルアルミニウムの供給量:223ミリモル/時間、
t-ブチル-n-プロピルジメトキシシランの供給量:46ミリモル/時間、
予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算):8.3g/時間、
重合圧力:2.6MPa(ゲージ圧)。
【0120】
当該リアクターにおける平均滞留時間は0.15時間であり、排出されたポリプロピレン粒子は4kg/時間であり、排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径Dpiは542μmであった。
上記結果から計算された、事前重合における平均重合速度は、3350(g/g/時間)であった。
【0121】
[流動層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)]
流動層反応装置を用いて、気相でプロピレンを重合した。
【0122】
前段のスラリー重合反応装置から上記流動層反応装置に、ポリプロピレン粒子および液状プロピレン、未反応エチレンを含むスラリーを失活させることなく連続供給した。
【0123】
流動層リアクターの下部からプロピレンおよび水素を連続的に供給した。当該ガスを流動化ガスとして流動層を形成させ、ガス組成および圧力を一定に保つようプロピレン、水素の供給量をコントロールし、過剰ガスをパージしながらプロピレンを重合させた。反応条件は以下の通りとした。
【0124】
重合温度:79℃、
重合圧力:1.94MPa(ゲージ圧)
ポリプロピレン粒子のホールドアップ量HU:44kg
最初の気相重合反応装置(i)で重合されたプロピレン重合体の生産量:78.1kg/時間
最初の気相重合反応装置(i)の空時収率:1.8 kg-PP/(kg-bed・時間)
式(A)に従い算出した、最初の気相重合反応装置(i)における運転性評価指標f:12.5
最初の気相重合反応装置(i)の流動層リアクターから排出されるプロピレン重合体の生産量:82kg/時間
当該リアクターにおいては、平均滞留時間は0.54時間であり、リアクター内ガスの水素濃度比(水素/(水素+エチレン+プロピレン))は1.4モル%であり、排出されたポリマー粒子は82.3kg/時間であった。
上記結果から計算された、工程(1)における平均重合速度は、17545(g/g/時間)であった。
【0125】
上記条件および結果を表1および2に示す。
運転性の評価結果は×であり、最初の気相重合反応装置(i)内で粒子の流動性が悪化し、反応装置からの抜き出し不良や、反応装置内での塊の発生などにより、安定的に運転できなかった。
【0126】
(比較例3)
比較例2と同製法で製造したオレフィン重合用固体触媒成分を用い、液相重合におけるスラリーの合計平均滞留時間を0.16時間に、液相重合における予備重合触媒成分のスラリー供給量(重合触媒成分換算)を6.3g/時間に変更したことを除くほか実施例1と同様にして、予備重合、およびオレフィン事前重合反応装置を用いた液相重合を行い、ポリプロピレン粒子を得た。排出されたポリプロピレン粒子の平均粒子径は675μmであった。
次いで、重合条件を表1に示す点について変更したことを除くほか、比較例2と同様にして流動層重合反応装置による気相重合(最初の気相重合反応装置(i)における気相重合)を行なった。結果を、表1及び2に示す。
運転性の評価結果は×であり、最初の気相重合反応装置(i)内で粒子の流動性が悪化し、反応装置からの抜き出し不良や、反応装置内での塊の発生などにより、安定的に運転できなかった。
【0127】
【表1】

【0128】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の製造方法によって得られるプロピレン重合体は、例えば、自動車内装部品および外装部品等の自動車部品、食品・医療容器、家具や電気製品の部品、土木・建築材料等の原料として利用することができるので、本発明は、産業の各分野において高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0130】
11、31:工程(1)の気相重合反応装置
21、311、411:最初に気相重合が行なわれる気相重合反応装置(i)
312~316:噴流層気相反重合応装置
317:流動層気相重合反応装置
411~412:内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型重合反応装置
12、32、42:工程(2)の気相重合反応装置
13、23、:受けこみパウダー
14、24:プロピレン単独重合体(I-1)および/またはプロピレン共重合体(I-2)
15:ヘテロファジックプロピレン重合材料
16:プロピレンを含む単量体
17:エチレンおよび炭素数4以上12以下のα-オレフィンからなる群から選択される少なくとも一種のオレフィン、並びにプロピレン
38:液相重合装置
29:パウダー床(ベッド部)
P1:上部圧力
P2:底部圧力
図1
図2
図3
図4