(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/50 20060101AFI20240314BHJP
B29B 15/12 20060101ALI20240314BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20240314BHJP
B29C 48/34 20190101ALI20240314BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240314BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240314BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
B29C70/50
B29B15/12
B29C48/21
B29C48/34
B29C48/88
B29K105:08
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020063785
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-041220(JP,A)
【文献】特開平05-278031(JP,A)
【文献】特開2012-153839(JP,A)
【文献】特開2016-172322(JP,A)
【文献】特開平10-305490(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29B 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程1と工程2とを含む繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法:
(工程1)強化繊維シートをクロスヘッドダイに通し、該強化繊維シートをダイ内にて溶融状態にある熱可塑性樹脂と複合化し、ダイ通過後に該熱可塑性樹脂の固化温度以下の加圧面に接触させて加圧することにより繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を得る工程。
(工程2)該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体中の熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該前駆体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る工程。
【請求項2】
前記工程2が、該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の少なくとも1方の面に繊維シートを積層した積層体を得、次いで該積層体中の熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該積層体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る工程である請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
前記工程1または工程2において、加圧面に接触させる際に、前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を離型紙もしくは離型フィルムで挟む請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
前記工程1または工程2において、加圧面に接触させる際に、前記積層体を離型紙もしくは離型フィルムで挟む請求項2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
前記繊維シートが、前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体もしくは強化繊維シートである、請求項2
又は4に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の空隙率が、10%以上90%以下である請求項1から
5のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記繊維強化熱可塑性樹脂シートの空隙率が、0%以上5%以下である請求項1から
6のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
前記強化繊維シートが、開繊された強化繊維シートである請求項1から
7のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項9】
前記強化繊維シートが、強化繊維が一方向に配向している一方向シートである請求項1から
8のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項10】
前記強化繊維シートが、織物である請求項1から
8のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項11】
前記工程1で得られた繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体をロールに巻き取り、前記工程2において、該ロールから繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を引き出して使用する請求項1から
10のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項12】
前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の強化繊維の体積含有率(Vf)が、40~60%である請求項1から
11のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維で強化された繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性複合材料は、その優れた靭性、成形性、貯蔵安定性、リサイクル性などから、付加価値のある材料として着目されている。
繊維強化熱可塑性複合材料を用いた成形品は、強化繊維中に熱可塑性樹脂が含浸した繊維強化熱可塑性樹脂シートを用い、このシートを積層して所定の形状に成形することにより得られる。従って、強化繊維中に熱可塑性樹脂が均一に含浸し、かつ厚み精度の優れた繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造することは、品質に優れた繊維強化熱可塑性複合材料成形品を得る上で重要な技術となる。
【0003】
従来、繊維強化熱可塑性樹脂シートを連続して製造する方法として、ダイを用いる方法、加熱ロールを用いる方法、熱板プレスを用いる方法、ダブルベルトプレスを用いる方法などが知られている。
【0004】
(1)ダイを用いる方法
特許文献1には圧縮部を設けたダイを用い強化繊維シート中に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含浸させる方法が示されている。しかしながらこの方法では比較的粘度の高い熱可塑性樹脂を強化繊維シートの内部まで含浸せしめることは困難である。また含浸を促進するためには強化繊維の含有率を低くする必要があり、強化繊維が高含有率で高い機械的特性をもつシートを得ることが困難である。
【0005】
(2)加熱ロールを用いる方法
特許文献2の実施例には、1mm径のダイスを用いて強化繊維束にポリアミド6が付着した付着物を作り、これらを5本並べ、間隔0.3mmで250℃のロール間を通過させ、さらに間隔0.25mmで200℃のロール間を通過させて10mm幅のシート状物を得る方法が開示されている。この方法ではダイスからの引き出し後に直ちに熱可塑性樹脂の溶融温度に加熱されたロール間を通過させている。そのため、並べた複数の繊維束間に樹脂だまりができやすいため、繊維束をシート内部で均一に分散させることが難しく、機械的特性の低下が避けられない。
【0006】
(3)熱板プレスを用いる方法
特許文献3には熱可塑性樹脂フィルムと強化繊維シートを積層し、熱板プレス間を間欠走行することにより繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造する方法が開示されている。しかしながらこの方法では、熱可塑性樹脂フィルムを含浸するには多大な時間が必要となるために製造速度が上げられないという問題があった。
【0007】
(4)ベルトプレスを用いる方法
特許文献4には、強化繊維シートに溶融粘度が20000ポアズ(2000Pa・s)以下の熱可塑性樹脂が付着した付着物を作り、これらを多数本並べ、加熱領域と冷却領域を有する板状物により加熱加圧して樹脂を含浸し、冷却した後に剥離する方法が記されている。樹脂の付着直後に溶融状態にあるままで引き続く工程、すなわち加熱加圧する含浸工程に供することが効率的であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-022886号公報(特許第6451891号)
【文献】特開昭59-62114号公報
【文献】特開2003-181832号公報(特許第3876276号)
【文献】特開昭60-36136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の技術では製造工程の効率化は図れるものの、機械的特性の点では十分優れているとは言い難い。特に、機械的特性を高めようとして強化繊維の含有率を高くすると、樹脂量を減らす必要があり、空隙率が高くなって機械的特性が所望するほどには高められないという問題がある。そこで、優れた機械的特性を持つ繊維強化熱可塑性樹脂シートを効率的に生産する方法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者はクロスヘッドダイで得られた、比較的空隙率の高い繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を製造する工程1と、該前駆体中の熱可塑性樹脂を加熱溶融させ、この溶融状態を維持したまま加圧して、強化繊維と熱可塑性樹脂を密着させ、空隙率を低下せしめる工程2とを組み合わせることで高性能な繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造するに至った。また、クロスヘッドダイ含浸の課題である強化繊維の含有率を上げられないという問題に対して、第2工程で繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体に別の強化繊維シートを積層することで、強化繊維の高含有率化を達成することができる。
【0011】
本発明の要旨は以下の[1]~[11]に存する。
[1] 工程1と工程2からなるとを含む繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法:
(工程1)強化繊維シートをクロスヘッドダイに通し、該強化繊維シートをダイ内にて溶融状態にある熱可塑性樹脂と複合化し、ダイ通過後に前記熱可塑性樹脂の固化温度以下の加圧面に接触させて加圧することにより繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を得る工程。
(工程2)該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体中の熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該前駆体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る工程。
【0012】
[2] 前記工程2が、該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の少なくとも1方の面に繊維シートを積層した積層体を得、次いで該積層体を加熱することにより前記熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該積層体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る工程である、1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【0013】
[3]前記繊維シートが前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体もしくは強化繊維シートである、2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【0014】
[4]前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の空隙率が、10%以上90%以下である1から3のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[5]前記繊維強化熱可塑性樹脂シートの空隙率が、0%以上、5%以下である1から4のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[6] 前記強化繊維シートが、開繊された強化繊維シートである1から5のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[7] 前記強化繊維シートは、強化繊維が一方向に配向している一方向シートである1から6のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[8] 前記強化繊維シートが織物である1から6のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[9]前記工程1又は工程2において、加圧面に接触させる際に、前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体、もしくは前記積層体を離型紙もしくは離型フィルムで挟む1から8のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[10]前記工程1で得られた繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体をロールに巻き取り、前記工程2において、該ロールから繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を引き出して使用する1から9のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
[11]前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の強化繊維の体積含有率(Vf)が、40~60%である1から10のいずれか一項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ダイを用いる方法と加圧含浸方法とを組み合わせる際に、一旦熱可塑性樹脂の溶融温度以下に低下させながら加圧することで前駆体の表面を平滑化し、平滑化した前駆体を使用することで繊維束間の樹脂だまりを抑制して、機械的特性の低下を抑制することができる。また、前駆体を複数積層あるいは別の強化繊維シートを積層する場合にも、前駆体表面の平滑化により樹脂のバラツキが少ない繊維強化熱可塑性樹脂シートを製造できる。さらに、前駆体を別の強化繊維シートと積層することで強化繊維の高含有化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る製造工程の概要を示す概略図。
【
図2】本発明の第2の実施形態の工程2の概要を示す概略図。
【
図3】本発明の第3の実施形態の工程2の概要を示す概略図。
【
図4】本発明の第4の実施形態に係る製造工程の概要を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(繊維強化熱可塑性樹脂シート)
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂シートとは、強化繊維シートと熱可塑性樹脂とからなる複合材料であり、本発明では特に強化繊維が連続繊維であるものが好ましく、一方向(uni-direction:UD)プリプレグ、クロスプリプレグ等が挙げられる。また、複数のプリプレグ等が積層されていてもよい。
【0018】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂シートに含まれる強化繊維の含有率は、機械的強度を高めるということと、最終的に成形品を得るための賦形性を持つという観点から、体積含有率で30%以上70%以下が好ましく、40%以上60%以下がさらに好ましい。
【0019】
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂シートの幅は積層の容易性の観点から、5mm以上1000mm以下が好ましく、10mm以上、500mm以下がさらに好ましい。またシートの厚みは賦形の容易さの観点から30μm以上、500μm以下が好ましく、さらに50μm以上、300μm以下が好ましい。前記繊維強化熱可塑性樹脂シートの空隙率が、0%以上10%以下であることが好ましく、0%以上5%以下であることがより好ましい。
【0020】
(熱可塑性樹脂)
本発明で用いられる熱可塑樹脂としては、一般的な熱可塑性樹脂の何れも使用可能である。例えば、熱可塑性の結晶性樹脂として、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトンやポリエーテルケトンケトンなどのポリアリールエーテルケトン樹脂、熱可塑性の非晶性樹脂として、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン等が挙げられ、また、これらを2種類以上併用し樹脂組成物とする事も可能である。成形性と機械特性のバランスの観点から、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドが好ましい。
【0021】
これらの熱可塑性樹脂には、さらに必要に応じて、公知の安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、加工助剤、離型剤、着色剤、カーボンブラック、帯電防止剤、難燃剤、フルオロオレフィン等の添加剤を配合してもよい。その含有率は添加剤の種類により異なるが、強化繊維および樹脂ないし樹脂組成分の特性を損なわない範囲内で、必要に応じて配合でき、強化繊維と樹脂ないし樹脂組成分の合計100質量部に対して20質量部以下であり、好ましくは5質量部以下である。生産性をより向上しやすくするために、離型剤を0.1質量部以上0.5質量部以下含んでもよい。
【0022】
(強化繊維シート)
本発明に用いられる強化繊維シートとは、複数の連続強化繊維束を並べてシート状にしたものを指す。強化繊維を一方向に並べた一方向シート(UDシート)の場合は、シート目付(FAW)で10g/m2~300g/m2が好ましく、20g/m2~200g/m2がさらに好ましい。また織物の場合は、平織、綾織、朱子織など一般的な織物は何れも使用可能である。これらの場合、シート目付(FAW)は、100g/m2~600g/m2が好ましく、100g/m2~400g/m2がさらに好ましい。
【0023】
(強化繊維)
本発明に用いられる強化繊維はガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、樹脂繊維等が挙げられるが、機械的強度の観点から炭素繊維が好ましい。
【0024】
(炭素繊維)
本発明で用いる炭素繊維は、繊維径が5μm以上15μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは、5μm以上12μm以下であり、特に好ましくは6μm以上12μm以下である。繊維径が5μm以上であれば、繊維の表面積が大きくなり過ぎることがなく、成形性の低下が抑制できる。繊維径が15μm以下であれば、繊維のアスペクト比が小さくなりすぎることがなく、補強効果に優れる。なお、炭素繊維の繊維径は、電子顕微鏡等を用いて測定することができる。
【0025】
炭素繊維としては、上記繊維径を有するものであれば特に制限なく使用することができ、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維のいずれも用いることができる。また、市販品を用いてもよく、具体例としては、例えば、PAN系炭素繊維としては、パイロフィル(三菱ケミカル株式会社登録商標)CFトウ TR50S 6L、TRH50 12L、TRH50 18M、TR50S 12L、TR50S 15L、MR40 12M、MR60H 24P、MS40 12M、HR40 12M、HS40 12P、TRH50 60M、TRW40 50L(以上、三菱ケミカル社製)が挙げられる。好ましくは、TR50S 15L、TRH50 18M、TRW40 50Lである。
【0026】
ピッチ系炭素繊維としては、ダイアリード(三菱ケミカル株式会社登録商標)K1352U、K1392U、K13C2U、13C6U、K13D2U、K13312、K63712、K13916、K63A12等(以上、三菱ケミカル社製)が挙げられ、好ましくはK63712、K13312である。
【0027】
また、炭素繊維は表面処理されたものであることが好ましい。表面処理剤としては、サイジング剤が挙げられ、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。
【0028】
上記の繊維径の炭素繊維は、単繊維で取り扱うのが困難なため、炭素繊維束(トウ)の状態で用いるのが好ましい。炭素繊維束に含まれる単繊維は、3,000本以上が好ましく、12,000本以上がより好ましく、特に好ましくは15,000本以上である。また、100,000本以下が好ましく、60,000本以下がより好ましい。炭素繊維束に含まれる単繊維の本数が少なすぎると生産効率が低くなる場合がある。多すぎると炭素繊維束に樹脂ないし樹脂組成分の含浸がし難くなり、品質が低くなる場合がある。
【0029】
(繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体)
繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体とは、強化繊維シートと熱可塑性樹脂とが複合化された状態を表し、該複合化とは以下の状態を表す。
(A)強化繊維シートの一部もしくは全部が熱可塑性樹脂で濡れた状態、強化繊維シートと熱可塑性樹脂が層状に積層された状態で強化繊維シートの一部もしくは全部が熱可塑性樹脂と溶着された状態、または
(B)強化繊維シート中に樹脂が含浸した状態。
繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の空隙率の空隙率は、10%以上90%以下が好ましい。また、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体中の強化繊維の体積含有率(Vf)は、20~75%が好ましく、40~60%がより好ましい。
【0030】
本発明における(工程1)とは、上記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を得る工程である。つまり、強化繊維シートをクロスヘッドダイに通し、該強化繊維シートをダイ内にて溶融状態にある熱可塑性樹脂と複合化し、ダイ通過後に前記熱可塑性樹脂の固化温度以下の加圧面に接触させて加圧するものである。
熱可塑性樹脂を溶融状態にする方法は、クロスヘッドダイに接続された押出機にて熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度で溶融させ、この溶融状態の熱可塑性樹脂をクロスヘッドダイに供給することで達成される。
【0031】
(クロスヘッドダイ)
本発明で用いられるクロスヘッドダイは、熱可塑性樹脂と強化繊維シートを複合化させるためのダイであり、クロスヘッドダイの中に強化繊維シートを通しながら押出機等からクロスヘッドダイに熱可塑性樹脂を供給して複合化させる。例えば、ひとつの入り口から強化繊維、その入り口と異なる方向にある別の入り口から溶融状態の樹脂を供給し、クロスヘッドダイの内部で強化繊維と樹脂を合流させて複合化する。さらにクロスヘッドダイ出口の開口部からを引き抜く事により、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を得る。クロスヘッドダイとは押出機と直交方向に取り付けられたダイのことであり、押出機より溶融した熱可塑性樹脂をT状もしくはコートハンガー状のマニホールドを用いて拡幅して樹脂を押出すダイを表す。本発明のクロスヘッドダイは拡幅後に樹脂だまりを設け、その樹脂だまりを強化繊維シートが通過することで、熱可塑性樹脂と強化繊維シートを複合化させる。この樹脂だまりの形状には特に制限はないが、強化繊維シートを容易に通過させるためには、最大隙間が1mm以上あることが好ましい。また樹脂だまりの下流側には熱可塑性樹脂と強化繊維を密着させるための縮小部を設けることが好ましい。この縮小部の形状には特に制限はないが、最大隙間を1mm未満にすることが好ましい。
ここで、「複合化」とは上記(A)、(B)の状態である。
固化温度以下の加圧面とは、非加熱あるいは冷却されたローラを用いるのが一般的である。
【0032】
このように形成された繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体は、熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却されているため、ロールに巻き取ることができる。なお、前駆体の状態は空隙が多く、また前駆体中の強化繊維の体積含有率(Vf)も低い場合がある。そのため本発明では、(工程2)として、空隙を減らすために一旦固化温度以下まで冷却された熱可塑性樹脂を再溶融し、加圧して強化繊維に樹脂を含浸させる。Vfが低い場合は、強化繊維シートを追加して、Vfを高めることができる。
(工程2)とは、該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体中の熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該前駆体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得る工程である。
溶融状態にする方法の代表例としてIRヒーター、熱板、加熱ロール、加熱プレス、加熱ベルトプレス、などで外部より加熱して溶かす方法が挙げられる。より好ましくは、IRヒーター等により非接触で加熱した後、溶融状態を維持したまま加圧面となる加熱ロール、加熱プレス、加熱ベルトプレスによる加熱を組み合わせる。
ここで加圧面としては、加熱ロール、加熱プレス、加熱ベルトプレスなどの加熱機構付きの加圧手段でもよく、また、また、通常のローラ、プレス板、プレスベルトなど加熱機構のない加圧手段でもよい。
溶融状態の樹脂は加圧面となる加熱ロール、加熱プレス、加熱ベルトプレス等の加圧手段に付着しやすいため、これらの表面を離型処理するか、離型フィルムあるいは離型紙を挟んでこれらの手段により加圧することが好ましく、加圧手段への離型処理を不要とする点で後者の離型フィルムあるいは離型紙を挟んで加圧する方法が好ましい。
また、固化温度以下に冷却する手段として、代表例として冷却ロール、冷却プレス、冷却ベルトプレス、などで加圧しながら冷却することが好ましい。ベルトプレスの場合、熱伝導性の良好なベルト部材と加熱ローラと冷却ローラを組み合わせて、加熱と冷却を行うこともできる。
また、工程2において、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体の少なくとも1方の面に繊維シートを積層した積層体を得、次いで該積層体中の熱可塑性樹脂を溶融状態にせしめた状態で、該積層体を加圧面に接触させ、次いで前記熱可塑性樹脂の固化温度以下に冷却して繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることも可能である。
ここで繊維シートとは、別の繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体であってもよく、樹脂未含浸の強化繊維シートであってもよい。さらには、繊維シートは別の積層体であってもよい。積層のさせ方としては、後述の実施形態に示すように、工程1で得た繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体のロールからそれぞれ巻きだして積層する方法、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体のロールから巻きだした面の熱可塑性樹脂を少なくとも溶融し、強化繊維シートをその溶融した面と合わせて加熱加圧する方法などがある。
【0033】
(空隙率)
本発明における繊維強化熱可塑性樹脂シートの空隙率は、シートの厚み方向断面を以下のように観察して求めることができる。
シートをアクリル樹脂で包埋したサンプルを用意し、シートの厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨する。この研磨したサンプルを、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VHX-9500(コントローラー部)/VHZ-100R(測定部)((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率500倍で撮影する。撮影範囲は、サンプルの厚み×500μm幅の範囲とする。撮影画像において、サンプルの断面積および空隙となっている部分の面積を求め、次式により空隙率を算出することができる。
空隙率(%)=(空隙が占める部分の総面積)/(サンプルの総断面積)×100
【0034】
(開繊)
本発明における開繊とは、強化繊維束を幅方向に広げて厚みが均一なシート状にせしめることであり、一般的な手法はいずれも使用可能である。開繊方法の例としては、擦過開繊、揺動開繊、空気開繊などが挙げられる。
【0035】
(離型紙または離型フィルム)
離型紙として、紙の片面、或いは両面に離型効果を有する物質を塗布した物が例示される。離型効果を有する物質としてシリコーン系、フッ素系(例えば、テフロン(登録商標))、セラミクス系が例示される。
離型フィルムとして、樹脂フィルムの片面、或いは両面に離型効果を有する物質を塗布した物が例示される。樹脂フィルムとしてポリエステルフィルム、フッ素樹脂フィルム(例えば、テフロン(登録商標))等が例示される。樹脂フィルム自体に離型効果を有すればそのフィルムに離型処理を施す必要はないが、離型効果が不十分な場合には、離型処理を施しても良い。離型効果を有する物質としてシリコーン系、フッ素系(例えば、テフロン(登録商標))、セラミクス系が例示される。
【0036】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法の第1の実施形態の概要を示す図である。
下記工程1と工程2より繊維強化熱可塑性シートを得る。
(工程1)クリール1より巻き出された強化繊維2はヒーター3で加熱された後に開繊ゾーン4を経て強化繊維シート5となる。開繊ゾーン4では複数のローラで摺擦することで開繊しているがこれに限定されない。次いで該強化繊維シート5をクロスヘッドダイ6に通し、押出機7等から供給された熱可塑性樹脂と複合化する。複合化したものは、熱可塑性樹脂の固化温度以下の温度に設定された引き取りローラ対8によりクロスヘッドダイ出口の開口部から引き抜く。その際、引き取りローラ対8により加圧されることにより、強化繊維内部に樹脂が含浸されると共に、表面が平滑化された繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9を得る。得られた該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9は一旦ロール9Rに巻き取る。開繊される強化繊維としては、主にUDプリプレグを製造する強化繊維の束(トウ)であることが好ましい。また、織物などを開繊織物とすることもできる。
【0037】
このようにして形成される繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9は空隙が多く存在していてもよく、好ましくは、空隙率が10%以上90%以下となるようにクロスヘッドダイにおける接触時間や温度、引き取りローラ対8での加圧力及び温度等を調整する。
ここでは引き取りローラ対を用いて、固化温度以下の加圧面に接触させて加圧することを実施しているが、引き取りローラとは別の冷却ローラを設けたり、平板プレスにより加圧したりする方法でもよい。
このように、本発明では、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体をダイからの引き出し直後に熱可塑樹脂の固化温度以下まで冷却して加圧することで、前駆体の表面を平滑にする点に特徴がある。前駆体の表面を平滑にすることで、樹脂だまりの発生を抑制し、また、ロール9Rへの巻き取りが容易となる。従来は、さらに樹脂を強化繊維に含浸させるため、ダイからの引き出し後の温度が固化温度以下に低下する前に加圧する追含浸と呼ばれる操作が実施されている。また、ロールへ巻き取ることを想定した場合、離型フィルム等をロール巻き上げ面に配置してロール化していたが、本実施形態では、熱可塑性樹脂の固化温度以下まで冷却して巻き上げているため、前駆体への離型フィルム付与は不要となる。
【0038】
(工程2)該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9をロール9Rより巻き出し、ヒーター10により予備加熱を行った後、上下面に離型フィルム11を配置し、次いで、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した加熱ローラ12で加圧することで該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体内の熱可塑性樹脂を溶融状態とし、強化繊維シートを密着させる。その後冷却ローラ13で冷却後に離型フィルム11を除去して、繊維強化熱可塑性シート14を得る。得られた繊維強化熱可塑性シート14はロール14Rとしてまとめておく。冷却ローラでは、繊維強化熱可塑性シートを樹脂の固化温度以下に冷却するのと同時に加圧によりさらに樹脂を強化繊維へ含浸させてもよい。
このように熱可塑性樹脂の溶融状態を維持したまま加圧することで前駆体内の空隙を減らし、強化繊維シートに熱可塑性樹脂を密に接触させる。得られた繊維強化熱可塑性シート13における空隙率はより少ないことが好ましく、5%以下がより好ましく、実質0%となるまで処理することもできる。
【0039】
[第2の実施形態]
図2は、本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法の第2の実施形態の概要を示す図である。
第1の実施形態の前記工程1に次いで下記工程2より繊維強化熱可塑性シートを得る。
【0040】
(工程2)前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9を複数のロール9Rより巻き出した後に圧着ローラ21を経由して積層体22とし、ヒーター10により予備加熱を行った後、第1の実施形態と同様に積層体22の上下面に離型フィルム11を配置し、次いで、高温側を熱可塑性樹脂の融点以上に、低温側を固化温度以下に設定したベルトプレス23で加圧することで該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体内の熱可塑性樹脂と強化繊維シートを密着させる。その後離型フィルムを除去して、繊維強化熱可塑性シート24を得る。
【0041】
本実施形態では、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体を複数積層した積層体とすることで、厚みのある繊維強化熱可塑性シートを得ることができる。特に、前駆体表面を一旦平滑にすることで、積層体とした際に樹脂厚みのバラツキが少なくなる。又、ベルトプレスによる方法は、熱可塑性樹脂を溶融状態から固化状態まで連続して押圧しているため、得られる繊維強化熱可塑性樹脂シートの表面平滑性がさらに改善される。積層する枚数は、図では2層であるがこれに限定されず、必要な積層数で積層することができる。又、積層は一度に行う必要は必ずしもなく、同じ操作を複数回繰り返し、積層体の外側にさらに積層する構成としてもよい。このとき、溶融される樹脂は、積層される層間の密着性が確保されればよく、最初の積層体(厚み方向に中心となる部分はすでに溶融密着されている)の樹脂は溶融状態とならなくてもよい。
また、例えば、UDシートを中心にクロスシートを外側にして、UDシートの繊維方向と平行とならない方向にクロスシートの繊維方向を合わせると、より撓みの少ない繊維強化熱可塑性樹脂シートを得ることもできる。
【0042】
[第3の実施形態]
図3は、本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法の第3の実施形態の概要を示す図である。
第1の実施形態の前記工程1に次いで下記工程2より繊維強化熱可塑性シートを得る。
【0043】
(工程2)強化繊維シート5をロールより巻き出し、複数のロール9Rより巻き出した前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体9と圧着ローラ31を経由して積層して複合積層体32を形成し、ヒーター10により予備加熱を行った後、上下面に離型フィルム11を配置し、次いで、融点以上に加熱した熱板プレス35により加圧し、固化温度以下に冷却した冷却プレス36により加圧することにより複合積層体内の熱可塑性樹脂と強化繊維シートを密着させる。その後離型フィルムを除去して、繊維強化熱可塑性シート37を得る。離型フィルムの貼着及び剥離は貼着ローラ33と剥離ローラ34を用いる。
【0044】
本実施形態では、樹脂含浸していない強化繊維シート5を樹脂含浸しているシート前駆体の少なくとも1方の面に積層することで強化繊維の含有率を高めることができる。
図3では、シート前駆体の間に強化繊維シートを挟み込む構成としたが、逆に強化繊維シートの間にシート前駆体を挟み込む構成、すなわち、シート前駆体の両面に強化繊維シートを積層する構成でもよい。又、第2の実施形態と組み合わせて、複合積層体の複数を積層して多層の複合積層体とすることも可能である。その際も、複合積層体の外側シート前駆体の間に強化繊維シートを挟み込む構成としてもよい。
【0045】
[第4の実施形態]
図4は、本発明に係る繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法の第4の実施形態の概要を示す図である。
下記工程1と工程2より繊維強化熱可塑性シートを得る。
【0046】
(工程1)あらかじめ開繊した、もしくは織物である強化繊維シート41をロールより巻き出し、ヒーター3で加熱した後に、該強化繊維シートをクロスヘッドダイ6に通し、押出機等7から供給された熱可塑性樹脂と複合化し、クロスヘッドダイ出口の開口部から引き抜くことにより、繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体42を得る。得られた該繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体42を一旦ロール42Rに巻き取る。
【0047】
(工程2)複数のロール42Rより巻き出した前記繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体42を圧着ローラ43を経由して積層し積層体44とする。次に積層体44は、ヒーター10により予備加熱を行った後、上下面に離型フィルム11を配置し、次いで、熱可塑性樹脂の融点以上に加熱した熱板プレス47により加圧し、固化温度以下に冷却した冷却プレス48により加圧することにより積層体内の熱可塑性樹脂と強化繊維シートを密着させる。その後離型フィルムを除去して、繊維強化熱可塑性シート49を得る。離型フィルムの貼着及び剥離は貼着ローラ45と剥離ローラ46を用いる。
本実施形態では、第1の実施形態の工程1から開繊工程を省略あるいは強化繊維として織物を用いる場合について説明している。その他は、第1~第3の実施形態と同様の組み合わせを適宜実施できる。
【符号の説明】
【0048】
1 クリール
2 強化繊維
3、10 ヒーター
4 開繊ゾーン
5、41 強化繊維シート
6 クロスヘッドダイ
7 押出機
8 引き取りローラ対
9、42 繊維強化熱可塑性樹脂シート前駆体
9R、42R 前駆体ロール
11 離型フィルム
12 加熱ローラ
13 冷却ローラ
14、24、37 繊維強化熱可塑性シート
14R、24R ロール
21、31、43 圧着ローラ
22、44 積層体
23 ベルトプレス
32 複合積層体
33、45 貼着ローラ
34、46 剥離ローラ
35、47 熱板プレス
36、48 冷却プレス