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特許7454171野菜又は果実の味付け方法、並びに、調味された飲食品及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】野菜又は果実の味付け方法、並びに、調味された飲食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240314BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240314BHJP
   A23L 5/30 20160101ALI20240314BHJP
【FI】
A23L19/00 A
A23L5/00 H
A23L5/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019139512
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021019557
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-11-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(72)【発明者】
【氏名】猪原 悠太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 志織
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-049431(JP,A)
【文献】特開2021-000003(JP,A)
【文献】業務用商品ご案内,ヒガシマル醤油,2015年
【文献】ポン酢とよく合う★くずし豆腐サラダ~♪ レシピ・作り方,楽天レシピ,2013年08月06日,[online]レシピID:1160009234,[2022年12月14日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜又は果実の味付け方法であって、
当該味付けは、調味液(但し、フィチン酸の含有量0.3質量部以上のもの、及び、酢酸を0.05質量%以上5.0質量%以下の惣菜を除く。)の浸透により行われ、
前記味付け方法を構成するのは、少なくとも、次の工程である:
高圧処理:ここで、高圧処理されるのは、調味液の中の野菜又は果実であり、
前記調味液のpHは、4.6以下であり、かつ、
前記調味液のBrixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、
0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935であり、
前記高圧処理の条件は、更に、次のとおりである:
処理時間は、1分以上5分未満である。
【請求項2】
請求項1の方法であって、
前記調味液が満たす条件は、
-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、
である。
【請求項3】
請求項1又は2の方法であって、それを構成するのは、更に、以下の工程である:
切開:ここで切開されるのは、野菜又は果実の表皮の一部又は全部であり、その時期は、前記高圧処理の前である。
【請求項4】
請求項1又は2の方法であって、
前記高圧処理の条件は、少なくとも、次のとおりである:
圧力は、400MPa以上であり、かつ、
処理開始時の温度は、0℃以上20℃以下である。
【請求項5】
調味された野菜又は果実(但し、フィチン酸の含有量0.3質量部以上のもの、及び、酢酸を0.05質量%以上5.0質量%以下の惣菜を除く。)の製造方法であって、それを構成するのは、少なくとも、次の工程である:
高圧処理:ここで、高圧処理されるのは、調味液の中の野菜又は果実であり、
前記調味液のpHは、4.6以下であり、かつ、
前記調味液のBrixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、
0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935であり、
前記高圧処理の条件は、更に、次のとおりである:
処理時間は、1分以上5分未満である。
【請求項6】
請求項5の製造方法であって、
前記調味液が満たす条件は、
-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、
である。
【請求項7】
請求項5又は6の製造方法であって、それを構成するのは、更に、以下の工程である:
切開:ここで切開されるのは、野菜又は果実の表皮の一部又は全部であり、その時期は、前記高圧処理の前である。
【請求項8】
請求項5又は6の製造方法であって、
前記高圧処理の条件は、少なくとも、次のとおりである:
圧力は、400MPa以上であり、かつ、
処理開始時の温度は、0℃以上20℃以下である。
【請求項9】
請求項5又は6の製造方法であって、それを構成するのは、更に、以下の工程
である:
包装:ここで包装されるのは、前記調味液の中の野菜又は果実であり、その時期は、前記高圧処理の前である。
【請求項10】
請求項5又は6の製造方法であって、
前記野菜又は果実は、トマトである。
【請求項11】
調味された飲食品(但し、フィチン酸の含有量0.3質量部以上のもの、及び、酢酸を0.05質量%以上5.0質量%以下の惣菜を除く。)であって、それが含有するのは、次のとおりである:
1又は2種類以上の野菜又は果実、及び、調味液であり、
前記調味液のpHは、4.6以下であり、かつ、
前記調味液のBrixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、
0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935であり、
前記調味液の用途は、高圧処理される野菜又は果実の調味であり、
前記高圧処理の条件は、更に、次のとおりである:
処理時間は、1分以上5分未満
【請求項12】
請求項11の飲食品であって、
前記調味液が満たす条件は、
-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、
である
【請求項13】
請求項11又は12の飲食品であって、
黄色ブドウ球菌に対する殺菌価は、5 L o g 以上である。
【請求項14】
請求項11又は12の飲食品であって、
前記野菜又は前記果実の一部又は全部は、剥皮されている。
【請求項15】
請求項11又は12の飲食品であって、
前記野菜又は果実が、トマトである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明が関係するのは、野菜又は果実の味付け方法、並びに、調味された飲食品及びその製造方法である。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者が加工食品に求めているのは、素材の美味しさである。素材の美味しさとは、加熱により失われる食材の好ましい食味、風味及び食感である。また、調味料を適度に組み合わせることにより、素材の美味しさを引き立てることができるため、調味液を食材に浸み込ませるために加熱を行うことは、頻繁に行われている。
【0003】
しかしながら、加熱して中心部まで味が浸み込む程の熱履歴を与えると、加熱臭等の好ましくない香味が発生し、食感も保持されない。加熱の影響は、食材の固形サイズが大きいほど、顕著である。一方、圧力は熱と異なり、食品の内部まで瞬時に伝わる性質がある。
【0004】
以上の観点から、食品の加工において、短時間で調味液を食品の内部まで含浸させるために高圧処理を行うことは、これまでに検討されている。例えば、特許文献1が開示するのは、食品に対する脱気・加熱・高圧処理方法である。より具体的には、野菜又は畜肉の漬物、果実のシロップ漬、豆腐の漬物及びキノコの加工品等の製造において、300MPa以下且つ20℃以上90℃以下で所定時間処理を行う方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017‐79729号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、高圧下でも、野菜又は果実への調味液の浸透時間を短くすることである。従来、野菜又は果実に調味液を浸透させるための高圧処理は300MPa以下で行われており、20℃前後の処理温度で内部まで調味液を浸透させるには、長時間を要していた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上を踏まえて、本願発明者が鋭意検討して見出したのは、高圧下でも短時間で、野菜又は果実に味付けする方法、調味された飲食品、並びに、その製造方法である。すなわち、野菜又は果実に調味液を浸漬させて400MPa以上の高圧処理を行うことにより、野菜又は果実への調味液の浸透時間を短くすることである。また、pH4.6以下の条件で、調味液のBrix及び水分活性を特定の範囲に調整することにより、固形の野菜又は果実に対して高圧処理による殺菌効果を発揮させることができる。この観点から、本発明を定義すると、以下のとおりである。
【0008】
本発明に係る野菜又は果実の味付け方法を構成するのは、少なくとも、高圧処理である。高圧処理において、調味液中の野菜又は果実は、高圧処理される。調味液は、pHが4.6以下であり、かつ、Brixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935、好ましくは-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、より好ましくはb≦-0.0021a+1.0178である。本発明に係る野菜又は果実の味付け方法を構成するのは、更に、切開である。高圧処理の前に、野菜又は果実の表皮の一部又は全部は、切開される。高圧処理の圧力は、400MPa以上であればよく、好ましくは500MPa以上であり、より好ましくは600MPa以上である。高圧処理開始時の温度は、0℃以上20℃以下であることが好ましく、高圧処理中の温度条件は、特に限定されないが、30℃以下であることが好ましい。高圧処理時間は、1分以上であればよく、特に限定されないが15分未満であることが好ましく、3分以上5分以下であることがより好ましい。
【0009】
本発明に係る調味された野菜又は果実の製造方法を構成するのは、少なくとも、高圧処理である。高圧処理において、調味液中の野菜又は果実は、高圧処理される。調味液は、pHが4.6以下であり、かつ、Brixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935、好ましくは-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、より好ましくはb≦-0.0021a+1.0178である。本発明に係る調味された野菜又は果実の製造方法を構成するのは、更に、切開である。高圧処理の前に、野菜又は果実の表皮の一部又は全部は、切開される。高圧処理の圧力は、400MPa以上であればよく、好ましくは500MPa以上であり、より好ましくは600MPa以上である。高圧処理開始時の温度は、0℃以上20℃以下であることが好ましく、高圧処理中の温度条件は、特に限定されないが、30℃以下であることが好ましい。高圧処理時間は、1分以上であればよく、特に限定されないが15分未満であることが好ましく、3分以上5分以下であることがより好ましい。加えて、本発明に係る調味された野菜又は果実の製造方法を構成するのは、包装である。調味液の中の野菜又は果実は、高圧処理の前に包装される。なお、野菜又は果実が、トマトであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る調味液は、pHは、4.6以下であり、かつ、Brixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935、好ましくは-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0028a+1.0421、より好ましくは、b≦-0.0021a+1.0178である。また、本発明に係る調味液の用途は、高圧処理される野菜又は果実の調味である。
【0011】
本発明に係る調味された飲食品が含有するのは、1又は2種類以上の野菜又は果実、並びに、前述の調味液である。調味された飲食品の黄色ブドウ球菌に対する殺菌価は5Log以上である。さらに、野菜又は果実の一部又は全部が剥皮されていることが好ましく、野菜または果実がトマトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明が可能にするのは、短時間で野菜又は果実に調味液を浸透させることである。高圧処理することで、熱履歴を低く抑えることができ、加熱により失われる食材の好ましい食味、風味及び食感を保持することができる。加えて、調味液が野菜又は果実の内部まで浸透することにより、調味液の味が十分に感じられ、素材の美味しさを引き立たせることができる。また、400MPa以上の高圧処理を行うことにより、短い処理時間で効率的に野菜又は果実へ調味液を浸透させることができる。さらに、本発明では高圧処理の殺菌効果が高い調味液の条件を見出したことにより、流通に適した野菜又は果実の加工品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係る調味された飲食品の製造方法の流れ図
図2】本実施の形態に係る調味液のBrix及び水分活性範囲を表す図
図3】固形内部への殺菌効果を示す図
図4】トマトにレーザーを照射した際の味浸み効果を示す図
図5】レーザー照射面積と味浸み率の相関を示す図
図6】高圧処理による野菜への味浸み効果を示す図
図7】高圧処理による野菜の組織への溶液の浸透具合を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本実施の形態に係る調味された飲食品>
本実施の形態に係る調味された飲食品(以下、「本飲食品」という。)が少なくとも含有するのは、1又は2種類以上の野菜又は果実、及び、調味液である。当該野菜又は果実、及び、調味液の詳細は、後述する。本飲食品が流通する温度は、チルド帯であることが好ましい。チルド帯とは、0℃以上10℃以下の条件のことをいう。
【0015】
<野菜又は果実>
野菜又は果実は、固形であり、その大きさは5mm以上であればよく、好ましくは10mm角以上、より好ましくは20mm角以上である。
【0016】
<野菜>
野菜は、可食部が固形のものであればよい。野菜を例示すると、ナス科の野菜、アブラナ科、セリ科の野菜、アカザ科の野菜、キク科の野菜、ヒガンバナ科の野菜、ウリ科の野菜、クサスギカズラ科、ショウガ科等であり、これらの中から一種又は二種以上が選択される。念のため、ナス科の野菜を例示すると、トマト、ナス、パプリカ、ピーマン等である。アブラナ科の野菜を例示すると、ダイコン等である。セリ科の野菜を例示すると、ニンジン等である。アカザ科の野菜を例示すると、ビート等である。キク科の野菜を例示すると、ゴボウ等である。ヒガンバナ科の野菜を例示すると、タマネギ、ニンニク、ネギ等である。ウリ科の野菜を例示すると、キュウリ、ニガウリ、トウガン等である。クサスギカズラ科を例示すると、アスパラガス等である。ショウガ科を例示すると、ショウガ、ミョウガ等である。なお、調味液の原材料としての野菜は、これに限定されず、葉物野菜も含まれる。
【0017】
<果実>
果実は、可食部が固形のものであればよい。果実を例示すると、柑橘類、リンゴ、ウメ、モモ、サクランボ、アンズ、プラム、プルーン、カムカム、ナシ、洋ナシ、ビワ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、カシス、クランベリー、ブルーベリー、メロン、スイカ、キウイフルーツ、ザクロ、ブドウ、バナナ、グァバ、アセロラ、パインアップル、マンゴー、パッションフルーツ、レイシ等であり、これらのうちのから一種又は二種以上が選択される。柑橘類を例示すると、レモン、オレンジ、ネーブルオレンジ、グレープフルーツ、ミカン、ライム、スダチ、ユズ、シイクワシャー、タンカン等である。なお、これらの果実は、調味液の原材料としても使用可能である。
【0018】
<調味液>
調味液の配合目的は、調味及び殺菌価の向上である。調味液は、pHが4.6以下の条件では、Brixをa(%)、水分活性をb(Aw)とすると、0≦a≦34.4、かつ、b≧0.935を満たすものであればよく、好ましくは、-0.0001a+0.9701≦b≦-0.028a+1.0421、より好ましくは、-0.0001a+0.9701≦b≦-0.0021a+1.0178を満たすものである。ここで、水分活性(Aw)は、食品中の自由水の割合を示す指標であり、食品を入れた密封容器内の水蒸気圧(P)とその温度における純水の蒸気圧(P0)の比(P/P0)で表される。水分活性の最大値は、純水1Awである。自由水とは、分子が自由に動き回ることのできる水であり、一般的な圧力下ではBrixが高く自由水が少ないほど、つまり水分活性が小さいほど、微生物が増殖しにくい。一方、高圧処理を行う場合は、Brixが低いほど、また、水分活性が高いほど、細菌が増殖しにくい。pH及び酸度も殺菌価に関わる要素であり、pHが低いほど、また、酸度が高いほど細菌が増殖しにくい。調味液の原材料は、一般的に食用に使用されるものであればよく、特に限定されないが、野菜又は果実、砂糖、塩、酢、醤油等の調味料、サラダ油、オリーブオイル、胡麻油等の食用油、食品添加物等が挙げられる。調味液は液体又はゲル状のものであればよく、例示すると、ドレッシング、ソース、スープ、糖液、野菜汁、果汁等である。
【0019】
<食品添加物>
食品添加物を例示すると、香料、着色料、pH調整剤、酸化防止剤、保存料、乳化剤、栄養強化剤、ゲル化剤等である。
【0020】
<本飲食品の製造方法の概要>
図1が示すのは、本飲食品の製造方法(以下、「本製法」という。)の流れである。本製法を構成するのは、主に、切開(S010)、包装(S020)、高圧処理(S030)である。このうち、包装(S020)の採用は、任意である。
【0021】
<切開(S010)>
野菜又は果実を切開する目的は、調味液を浸透し易くすることである。硬い皮を有する野菜又は果実の場合は、皮を完全又は一部除去することにより食べ易くすることも目的とする。切開の方法としては、公知の方法で良い。野菜又は果実を完全に剥皮してもよく、一部を剥皮、切込又は穿孔してもよい。剥皮する方法を例示すると、刃物で皮を剥く方法、薬品を用いる方法があり、トマトの場合は、冷凍、蒸気加熱、湯剥き等の方法を用いても良い。切込方法を例示すると、刃物又はレーザー等を用いて切込を入れる方法が挙げられるが、本発明においては、野菜又は果実を切断して皮を除去ことも切込に含む。穿孔方法を例示すると、刃物又はレーザー等を用いて表皮に微小な穴を形成する方法である。
【0022】
<包装(S020)>
野菜又は果実、及び、調味液を包装する目的は、次に行う高圧処理において、効率的に高圧をかけられるようにすることである。本製法において、野菜又は果実、及び、調味液が包装されるのは、高圧処理の前であり、野菜又は果実、及び、調味液は、密封される。包装に用いる容器を例示すると、樹脂製のパウチ、プラスチックカップ、紙容器、ペットボトル等であり、高圧処理を行っても破裂しない程度の適度な弾性があり、内容物が漏れ出ないものであればよい。包装の実施時期は、切開(S010)の後である。
【0023】
<高圧処理(S030)>
高圧処理の目的は、野菜又は果実へ調味液を浸透させること及び野菜又は果実及び調味液を殺菌することである。高圧処理により、野菜又は果実に調味液が浸透し、同時に野菜又は果実および調味液は、殺菌される。包装後の野菜又は果実、及び調味液を高圧処理機に投入し、高圧処理に供する。高圧処理機は食品用のものを使用することが好ましい。高圧処理の圧力は、400MPa以上であればよく、好ましくは500MPa以上、より好ましくは、600MPa以上である。処理時間は、1分以上であれば良いが、15分未満であることが好ましく、3分から5分であることがより好ましい。高圧処理開始時の温度は、0℃以上20℃以下であることが好ましく、10℃前後であることがより好ましい。高圧処理中は特に限定されないが、30℃以下であることが好ましい。なお、300MPa以下の高圧殺菌では、長時間の処理を要し、短い時間では病原性微生物に対して十分な殺菌ができないと推察される。ここで、十分な殺菌とは、米国食品医薬品局(FDA)で定められている病原微生物に対して、5Log以上の殺菌効果を有していることを意味する。すなわち、初発菌数から5Log以上の菌数低減が確認される範囲であることを、安全に商品開発が可能な領域という。高圧処理の実施時期は、切開(S010)及び包装(S020)の後である。
【0024】
<殺菌対象菌>
FDAで定められている病原性微生物を例示すると、腸管出血性大腸菌О157、サルモネラ、リステリア、黄色ブドウ球菌等である。この中から、pH4.6以下でも増殖する可能性があるのは、サルモネラ及び黄色ブドウ球菌であるが、より高い耐圧性を有していた黄色ブドウ球菌を今回は殺菌対象菌とした。
【実施例
【0025】
<実施例1>
調味液のBrix及び水分活性が、高圧処理の殺菌効果に与える影響を調べた。黄色ブドウ球菌をプレートカウント寒天(PCA)培地(日水製薬社製、56201)にて35℃で5日間培養した。0.85%生理食塩水に当該菌を懸濁し、これを接種菌液とした。接種媒体としてはpH4.6に調整した0.85%生理食塩水にポリエチレングリコールおよびスクロースを添加し、パウチに30ml加えたものを準備した。この接種媒体の水分活性(Aw)およびBrixは表1に示す。接種媒体に接種菌液100μlをシリンジで接種し、空気が入らないように密封包装した。密封包装後は10℃条件下にて保存し、24時間以内に高圧処理した。高圧処理は600MPaで5分間行い、処理開始時の温度は10℃で実施した。高圧処理後は10℃条件下で保存し、PCA培地を用いて24時間以内に表面塗抹法にて菌数測定を実施した。35℃で48時間培養し、コロニーをカウントした。初発菌数から5Log以上の菌数低減が確認された区分を安全に商品開発が可能な領域と設定した。(図2)。
【0026】
<比較例1>
pH4.6に調整した0.85%生理食塩水を、水分活性(Aw)およびスクロース濃度(Brix)が表1の値となるように調整し、ポリエチレングリコールおよびスクロースを添加して接種媒体を調製した。それ以外の操作は、実施例1と同じであった。
【0027】
【表1】
【0028】
<実施例2>
黄色ブドウ球菌をPCA培地にて35℃で5日間培養した。0.85%生理食塩水に当該菌を懸濁し、これを接種菌液とした。約100gの中玉トマトを用意し、注射器を用いてトマトの中心部に前述の菌液100μlをシリンジで接種した。接種した際の孔を塞ぐために、6%の寒天溶液を孔及びその周囲に注いだ。寒天が固まった後に、プラスチック容器にトマトを移し、さらに6%の寒天溶液を注ぎトマトを寒天中に埋没させた。このトマトを真空シーラーを用いてPAPP素材のパウチ(熊谷社製)で密封包装後、600MPaで5分間高圧処理した。高圧処理開始時の温度は10℃で実施した。高圧処理後は10℃で保存し、24時間以内にPCA培地を用いて表面塗抹法にて菌数測定を実施した。試料は、寒天から外したトマトをストマッカー袋(アテクト社製)に入れ、ストマッカー機(オルガノ社製)で処理したものを用いた。35℃で48時間培養し、コロニー数を計測した(図3)。なお、ストマッカーとは、試料を粉砕・均質化するための装置である。
【0029】
<比較例2>
高圧処理を行わないこと以外は、実施例2と同じ操作を行った(図3)。
【0030】
<実施例2の対照>
菌株を接種しないこと及び高圧処理を行わないこと以外は、実施例2と同じ操作を行った(図3)。
【0031】
<実施例3>
皮付きの中玉トマトをレーザーマーカー(キーエンス製、3-Axis CO2レーザーマーカーML-Z9500)でトマト表面全体に微細な孔をあけ、高圧処理による溶液の浸透しやすさを調べた。レーザー照射法は穴を選択し、穴の間隔は1mmで処理した。照射面積は、トマトの表面積の約80%であった。レーザー処理したトマトをグルコース20%溶液、塩化ナトリウム5%溶液、穀物酢5%溶液にそれぞれ浸漬するようにPAPP素材のパウチ(熊谷社製)で密封包装した。10℃条件下で保存し、24時間以内に高圧処理を実施した。高圧処理の条件は600MPa、5分間で、処理開始時の温度は10℃とした。処理後は10℃で保存し、24時間以内にBrix、塩分、酸度をそれぞれ測定した。また、順位法によりパネラー6人で官能評価を行った。評価方法は、甘味、塩味、酸味をより強く感じるものから順に各人が1位から4位まで順位付けを行い、1位は4点、2位は3点、3位は2点、4位は1点とし、各順位の人数で乗じたものを合計点とした(図4)。
【0032】
<比較例3>
高圧処理を行わないこと以外は、実施例3と同じ操作を行った(図4)。
【0033】
<実施例4>
皮付きの中玉トマトをレーザーマーカーでレーザー処理し、トマト表面に微細な孔をあけ、レーザーの照射面積と高圧処理による調味液の浸透率との相関を評価した。レーザー照射面積は、トマトの表面積の0%から83%まで段階的に設定した。レーザー処理したトマトをグルコース20%溶液に浸漬させてパウチで密封包装した。10℃条件下で保存し、24時間以内に高圧処理を実施した。高圧処理の条件は600MPa、5分間で、処理開始時の温度は10℃とした。処理後は10℃で保存し、24時間以内にBrixを測定した。また、パネラー10人での官能評価を行い、比較例4の試料との食味の違いを確認した。官能評価は、1対2点法によりより甘味を感じる方を選ぶ方法と採用し、1人あたり1点として実施例4と回答した人数を点数化した(図5)。
【0034】
<比較例4>
レーザー照射を行わないこと以外は、実施例4と同じ操作を行った(図5)。
【0035】
<実施例5>
トマト、人参、大根、じゃが芋について、調味液の浸透し易さを検証した。トマトは約100gの中玉を使用し、沸騰水中で15秒間茹でた後、冷水に取り湯剥きした。人参、大根は皮を剥いた後、3cm程度の輪切りにした。じゃが芋は4つ切りにした。処理した野菜はグルコース20%溶液、塩化ナトリウム5%溶液、穀物酢5%溶液にそれぞれ浸漬してパウチで密封包装した。10℃条件下で保存し、24時間以内に高圧処理を実施した。高圧処理の条件は600MPa、5分間で、処理開始時の温度は10℃とした。処理後は10℃で保存し、24時間以内にBrix、塩分、酸度を測定した。なお、大根に関しては、輪切りした断面を上にして側部から調味液を浸透させた際の中心部および外縁部の浸透度合いをBrixにて評価した(図6)。
【0036】
<比較例5>
高圧処理を行わないこと以外は、実施例5と同じ操作を行った(図6)。
【0037】
<実施例5の対照>
調味液を用いないこと及び高圧処理を行わないこと以外は、実施例5と同じ操作を行った(図6)。
【0038】
<実施例6>
大根を5cm幅で輪切りにし、青色の食紅で着色した水に浸して600MPaで5分間、高圧処理を行った。その後、大根の皮を剥いて側面及び上面から青色食紅溶液の浸透具合を確認した。
【0039】
<比較例6>
高圧処理を行わないこと以外は、実施例6と同じ操作を行った(図7)。
【0040】
<Brix>
本測定で採用したBrixの測定器は、屈折計(NAR-3T ATAGO社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0041】
<pH>
測定で採用したpHの測定器は、pH計(pH METER F-52 HORIBA社製)である。測定時の品温は、20℃であった。
【0042】
<酸度>
本測定で採用した酸度の算出方法は、0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液を用いた滴定法であり、滴定値よりクエン酸当量に換算して算出した。
【0043】
<塩分>
本測定で採用した塩分の算出方法は、0.05mol/L硝酸銀標準液を用いたモール法であり、滴定値より算出した。
【0044】
<評価結果>
図2が示すのは、高圧処理による殺菌効果と調味液のBrixと水分活性の関係である。この試験結果によれば、殺菌価が5Log以上となる範囲は、Brixをa(%)及び水分活性をb(Aw)とすると、pH4.6以下であれば、0≦a≦34.4かつb≧0.935好ましくは、b≦-0.0028a+1.0421の範囲であり、より好ましくは、b≦-0.0021a+1.0178の範囲であった。なお、400MPa及び500MPaでも実施例1と同じ範囲で殺菌の効果が確認された。また、pH4.0に調整した0.85%生理食塩水を用いて実施例1と同様の試験をおこなった場合も、pH4.6と同じ結果となった。
【0045】
図3が示すのは、菌液をトマトに接種した際の殺菌価である。この試験結果によれば、600MPaで5分間高圧処理を行えば、殺菌価が5Log以上となり、十分な殺菌効果が得られた。なお、実施例1では全て酸度を0%の条件下で実施しているが、一般的には酸度が高いほど殺菌効果は高くなるため、酸度の値が高い場合でも同様の範囲で効果があるものと推察される。
【0046】
図4が示すのは、高圧処理及びレーザー処理の有無によるトマトへの甘味、塩味、酸味の浸透しやすさを評価した結果である。この試験結果によれば、甘味、塩味、酸味のいずれも、高圧処理を行った実施例3の方が高圧処理を行わない比較例3よりも強く感じられた。さらに、レーザー処理を行うと味の浸透しやすさが格段に高まるが、高圧処理を行うことにより、より味が浸透することが分かった。
【0047】
図5が示すのは、レーザー照射面積あたりのグルコース溶液の浸透しやすさである。この試験結果によれば、レーザーの照射面積が大きいほど野菜に浸透したBrixの上昇度合いは大きくなった。また、官能評価については、照射面積がいずれの場合であっても、レーザーを照射したものの方が照射しなかったものよりも甘味を強く感じる結果となった。
【0048】
図6が示すのは、トマト、人参、大根、じゃが芋について、溶液の浸透し易さを検証した結果である。この試験結果によれば、高圧処理を行うと野菜に含まれる塩分、酸度、Brixが高くなり、味が野菜内部まで浸透している結果となった。
【0049】
図7が示すのは、高圧処理による青色食紅溶液の組織への浸透度合いを大根で確認した結果である。この試験結果によれば、高圧処理したダイコンでは、青色食紅溶液が通道組織の内部及び外部に万遍なく浸みこんでいた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明が有用な分野は、飲食品の製造である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7