(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】分光測定器及び分光測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 3/453 20060101AFI20240314BHJP
G01M 11/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
G01J3/453
G01M11/00 G
(21)【出願番号】P 2020143158
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】岡本 達也
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 文彦
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-012970(JP,A)
【文献】特開2016-145786(JP,A)
【文献】国際公開第2009/145070(WO,A1)
【文献】特開2017-194436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 9/00- G01J 9/04
G01J 1/00- G01J 1/02
G01J 1/42
G01J 3/00- G01J 3/547
G01J 11/00
G01M 11/00
G01N 21/41- G01N 21/45
G02F 2/00
H04B 3/46- H04B 3/493
H04B 10/00- H04B 10/90
H04B 17/00- H04B 17/40
H04J 14/00- H04J 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いの光コムの繰り返し周波数が異なる2台の光周波数コムと、
それぞれの前記光コムから同じ中心光周波数の帯域を切り出し、一方をプローブ光、他方をサンプリング光とするバンドパスフィルタと、
前記サンプリング光と被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第1ビート信号を生成するインパルス応答測定回路と、
単一の光周波数である連続光を出力する連続光源と、
前記連続光と前記被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第2ビート信号、及び前記連続光と前記サンプリング光との第3ビート信号、を生成する基準周波数測定回路と、
前記バンドパスフィルタに設定する前記中心光周波数を変更すること、
前記インパルス応答測定回路に、前記中心光周波数が異なる前記帯域毎に前記第1ビート信号を生成させること、
前記基準周波数測定回路に、前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域毎に、2つの前記帯域の前記中心光周波数の間にある
前記単一の光周波数の前記連続光での前記第2ビート信号及び前記第3ビート信号を生成させること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第2ビート信号と前記第3ビート信号の複素共役を乗算した乗算信号を計算すること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第1ビート信号と前記乗算信号の複素共役を乗算し、前記第1ビート信号を前記連続光の前記
単一の光周波数を原点とする波形に変換すること、及び
ぞれぞれの前記波形を前記原点で連結すること、
を行う制御回路と、
を備える分光測定器。
【請求項2】
互いの光コムの繰り返し周波数が異なる2台の光周波数コムと、
それぞれの前記光コムから同じ中心光周波数の帯域を切り出し、一方をプローブ光、他方をサンプリング光とするバンドパスフィルタと、
前記サンプリング光と被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第1ビート信号を生成するインパルス応答測定回路と、
単一の光周波数である連続光を出力する連続光源と、
前記連続光と前記被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第2ビート信号、及び前記連続光と前記サンプリング光との第3ビート信号、を生成する基準周波数測定回路と、
を備える分光測定装置が行う分光測定方法であって、
前記バンドパスフィルタに設定する前記中心光周波数を変更すること、
前記インパルス応答測定回路に、前記中心光周波数が異なる前記帯域毎に前記第1ビート信号を生成させること、
前記基準周波数測定回路に、前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域毎に、2つの前記帯域の前記中心光周波数の間にある
前記単一の光周波数の前記連続光での前記第2ビート信号及び前記第3ビート信号を生成させること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第2ビート信号と前記第3ビート信号の複素共役を乗算した乗算信号を計算すること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第1ビート信号と前記乗算信号の複素共役を乗算し、前記第1ビート信号を前記連続光の前記
単一の光周波数を原点とする波形に変換すること、及び
ぞれぞれの前記波形を前記原点で連結すること、
を特徴とする分光測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光周波数コムを用いる分光測定器及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2台の光周波数コムの一方をプローブ光、他方をローカル光とし、広帯域かつ高精度な分光測定を行う手法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Coddington, Ian, Nathan Newbury, and William Swann. “Dual-comb spectroscopy.” Optica 3.4 (2016): 414-426.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2台の光周波数コムを用いて分光測定を行う手法では、光周波数コムが広帯域になるほど、2つの光周波数コムの間での光周波数ゆらぎが小さいことが求められる。なお、光周波数ゆらぎに求められる条件は数1で表される。このため、非特許文献1では、2つの光周波数コムの間での同期を行うことで広帯域な測定を行っている。このように、2つの光周波数コムの間での同期を行わない非同期の分光測定には、光周波数コムの周波数ゆらぎのため、広帯域な測定が困難であるという課題があった。
【数1】
【0005】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、2つの光周波数コムが非同期であっても広帯域な測定ができる分光測定器及び分光測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る分光測定器は、非同期である2つの光周波数コムから一部の帯域を切り出し、その帯域ごとに分光測定を行った測定結果を所定の光周波数にて連結することとした。
【0007】
具体的には、本発明に係る分光測定器は、
互いの光コムの繰り返し周波数が異なる2台の光周波数コムと、
それぞれの前記光コムから同じ中心光周波数波長の帯域を切り出し、一方をプローブ光、他方をサンプリング光とするバンドパスフィルタと、
前記サンプリング光と被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第1ビート信号を生成するインパルス応答測定回路と、
連続光を出力する連続光源と、
前記連続光と前記被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第2ビート信号、及び前記連続光と前記サンプリング光との第3ビート信号、を生成する基準周波数測定回路と、
前記バンドパスフィルタに設定する前記中心光周波数を変更すること、
前記インパルス応答測定回路に、前記中心光周波数が異なる前記帯域毎に前記第1ビート信号を生成させること、
前記基準周波数測定回路に、前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域毎に、2つの前記帯域の前記中心光周波数の間にある光周波数の前記連続光での前記第2ビート信号及び前記第3ビート信号を生成させること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第2ビート信号と前記第3ビート信号の複素共役を乗算した乗算信号を計算すること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第1ビート信号と前記乗算信号の複素共役を乗算し、前記第1ビート信号を前記連続光の前記光周波数を原点とする波形に変換すること、及び
ぞれぞれの前記波形を前記原点で連結すること、
を行う制御回路と、
を備える。
【0008】
また、本発明に係る分光測定方法は、
互いの光コムの繰り返し周波数が異なる2台の光周波数コムと、
それぞれの前記光コムから同じ中心光周波数波長の帯域を切り出し、一方をプローブ光、他方をサンプリング光とするバンドパスフィルタと、
前記サンプリング光と被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第1ビート信号を生成するインパルス応答測定回路と、
連続光を出力する連続光源と、
前記連続光と前記被測定光ファイバを通過した前記プローブ光との第2ビート信号、及び前記連続光と前記サンプリング光との第3ビート信号、を生成する基準周波数測定回路と、
を備える分光測定装置が行う分光測定方法であって、
前記バンドパスフィルタに設定する前記中心光周波数を変更すること、
前記インパルス応答測定回路に、前記中心光周波数が異なる前記帯域毎に前記第1ビート信号を生成させること、
前記基準周波数測定回路に、前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域毎に、2つの前記帯域の前記中心光周波数の間にある光周波数の前記連続光での前記第2ビート信号及び前記第3ビート信号を生成させること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第2ビート信号と前記第3ビート信号の複素共役を乗算した乗算信号を計算すること、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第1ビート信号と前記乗算信号の複素共役を乗算し、前記第1ビート信号を前記連続光の前記光周波数を原点とする波形に変換すること、及び
ぞれぞれの前記波形を前記原点で連結すること、
を特徴とする。
【0009】
本発明に係る分光測定器は、バンドパスフィルタでプローブ光とサンプリング光の帯域を分割し、バンドパスフィルタの中心波長とCW光源波長(基準周波数)を変えて、順次測定を行い、その後、各分割帯域の測定結果を別途算出した光周波数にて連結する。
【0010】
光周波数コムの帯域を分割して分光測定し、分割帯域における測定結果を連結することで広帯域な測定を実現することができる。そして、帯域を分割することで広帯域に求められる光周波数コムの周波数揺らぎに求められる条件を緩和することができる。つまり、周波数揺らぎを安定させなくても、広帯域な測定を実現することができる。本分光測定器は、光周波数コムの周波数揺らぎの条件を緩和でき、非同期である2台の光周波数コムで広帯域な測定を可能とする。
さらに、本分光測定器は、非同期の光周波数コムを利用できるため、プローブ光とサンプリング光が互いに遠隔に設置されているような状況(例えば光伝送路)でも測定可能である。
【0011】
従って、本発明は、2つの光周波数コムが非同期であっても広帯域な測定ができる分光測定器及び分光測定方法を提供することができる。
【0012】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、2つの光周波数コムが非同期であっても広帯域な測定ができる分光測定器及び分光測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る分光測定器を説明する図である。
【
図2】本発明に係る分光測定器が使用する光の帯域を説明する図である。
【
図3】本発明に係る分光測定方法を説明する図である。
【
図4】本発明に係る分光測定方法を説明する図である。
【
図5】本発明に係る分光測定器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0016】
図1は、本実施形態の分光測定器301を説明する図である。分光測定器301は、2つの光周波数コムから所定の帯域を切り出し、当該帯域のコムで被測定光ファイバ50の線形光サンプリング測定を行う。そして、分光測定器301は、切り出す帯域を変え、再度線形光サンプリング測定を行う。分光測定器301は、これを任意の回数を繰り返し、得られた測定結果を連結することで広帯域な測定結果を得る。被測定光ファイバ50は、例えば、マルチコア光ファイバであり、各コアへ光コムを配分し、各コアからの光コムを合波するファンインファンアウトも含まれる。
【0017】
分光測定器301の具体的構成は次のとおりである。分光測定器301は、
互いの光コムの繰り返し周波数が異なる2台の光周波数コム(11-1、11-2)と、
それぞれの前記光コムから同じ中心光周波数の帯域を切り出し、一方をプローブ光、他方をサンプリング光とするバンドパスフィルタ(13-1、13-2)と、
前記サンプリング光と被測定光ファイバ50を通過した前記プローブ光との第1ビート信号を生成するインパルス応答測定回路18と、
連続光を出力する連続光源(20-1、20-2)と、
前記連続光と被測定光ファイバ50を通過した前記プローブ光との第2ビート信号、及び前記連続光と前記サンプリング光との第3ビート信号、を生成する基準周波数測定回路28と、
これらの動作を制御するとともに測定結果の演算を行う制御回路30と、
を備える。
【0018】
光周波数コム(11-1、11-2)が出力する光コムのスペクトルは同等の波長域Fに広がっているとする。線形光サンプリングとして被測定光ファイバ50のインパルス応答を測定するため、プローブ光とサンプリング光ともにフーリエ変換限界パルス(各縦モードの位相関係がフラット)であることが理想的な条件である。このため、光周波数コム(11-1、11-2)は、パッシブモードロックファイバレーザであることが好ましい。
【0019】
図1のf
repは、光コムの繰り返し周波数であり、パッシブモードロックファイバレーザの場合、数MHz~数GHz程度である。線形光サンプリングとして等価時間サンプリングを行うため、光周波数コム(11-1、11-2)が出力する光コムは、互いにの繰返し周波数をΔfだけ離調している。つまり、プローブ光を出力する光周波数コム11-1の光コムの繰り返し周波数f
repに対し、サンプリング光を出力する光周波数コム11-2の光コムの繰り返し周波数はf
rep+Δfとする。なお、f
repとΔfとの比率は、Δf/f
rep=1e
-5程度である。
また、光周波数コム(11-1、11-2)は参照周波数にロックしていないため、中心周波数(絶対周波数)は揺らいでいるが、繰り返し周波数f
repと繰り返し周波数はf
rep+Δfは安定しているものとする。
【0020】
線形光サンプリングでは2つの光周波数コムのスペクトルが重なっている領域しか被測定光ファイバの光周波数特性を測定できない。このため、プローブ光とサンプリング光を切り出すBPF(バンドパスフィルタ)(13-1、13-2)の中心周波数は同じとする。
【0021】
インパルス応答測定回路18は、光90度ハイブリッド15とアナログデジタル変換器17を有する。基準周波数測定回路28は、光90度ハイブリッド(25-1~25-4)とアナログデジタル変換器17を有する。
【0022】
連続光源(20-1、20-2)は、制御回路30から指示された光周波数の連続光を出力する。
図2は、BPF(13-1、13-2)に設定される中心周波数と帯域、連続光の光周波数との関係を説明する図である。
まず、連続光源20-1は、出力する連続光として、1回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数と2回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数との間にある光周波数CW#1を設定する。
そして、連続光源20-2は、出力する連続光として、2回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数と3回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数との間にある光周波数CW#2を設定する。
なお、BPF(13-1、13-2)が切り出す帯域が2つ(設定される中心光周波数が2つ(1回目と2回目))だけの場合、連続光源は1つ(連続光の光周波数は1つ)だけでよい。
【0023】
さらに、BPF(13-1、13-2)に4回以上中心光周波数が設定される場合、連続光源20-1は、出力する連続光として、3回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数と4回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数との間にある光周波数CW#3を設定する。連続光源20-2は、出力する連続光として、4回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数と5回目にBPF(13-1、13-2)に設定された中心光周波数との間にある光周波数CW#4を設定する。このように、BPF(13-1、13-2)に中心光周波数が設定される毎に連続光源(20-1、20-2)は出力する連続光の光周波数を切り替えていく。
【0024】
BPF(13-1、13-2)で切り出される帯域は、
図2のように隣接する帯域の一部が重複し、連続光の光周波数は、当該帯域が重複する範囲にあることが望ましい。
【0025】
光分岐部14-1は、被測定光ファイバ50を通過したプローブ光を光90度ハイブリッド15、光90度ハイブリッド25-1、及び光90度ハイブリッド25-2に入力する。
光分岐部14-2は、サンプリング光を光90度ハイブリッド15、光90度ハイブリッド25-3、及び光90度ハイブリッド25-4に入力する。
光分岐部14-3は、連続光源20-1からの連続光を光90度ハイブリッド25-1、及び光90度ハイブリッド25-3に入力する。
光分岐部14-4は、連続光源20-2からの連続光を光90度ハイブリッド25-2、及び光90度ハイブリッド25-4に入力する。
【0026】
インパルス応答測定回路18は、光周波数コム11-2からの光コムをBPF13-2で切り出されたサンプリング光と、光周波数コム11-1からの光コムをBPF13-1で切り出され被測定光ファイバ50を通過したプローブ光との第1ビート信号を生成する。インパルス応答測定回路18は、BPFが切り出した帯域毎、且つ被測定光ファイバ50の伝搬モードの数だけ第1ビート信号を生成する。なお、第1ビート信号は、次のように表現される。
【数2】
である。
【0027】
基準周波数測定回路28は、光周波数コム11-1からの光コムをBPF13-1で切り出され被測定光ファイバ50を通過したプローブ光と、連続光源(20-1、20-2)からの連続光との第2ビート信号を生成する。さらに、基準周波数測定回路28は、光周波数コム11-2からの光コムをBPF13-2で切り出されたサンプリング光と、連続光源(20-1、20-2)からの連続光との第3ビート信号を生成する。インパルス応答測定回路18は、BPFが切り出した帯域毎に第2ビート信号及び第3ビート信号を生成する。なお、第2ビート信号及び第3ビート信号は、次のように表現される。
【数3】
である。
【0028】
制御回路30は、BPF(13-1、13-2)が切り出す帯域及び連続光源(20-1、20-2)が出力する連続光の光周波数を調整し、被測定光ファイバ50の測定を行う。つまり、制御回路30は、BPF(13-1、13-2)に第1の中心光周波数を設定し、光周波数コム(11-1、11-2)の光コムから任意の帯域のプローブ光とサンプリング光を切り出す。そして、制御回路30は、同時に、インパルス応答測定回路18にプローブ光とサンプリング光によるインパルス応答測定をさせ、基準周波数測定回路28に基準周波数の測定をさせる。続いて、制御回路30は、BPF(13-1、13-2)に次の中心光周波数を設定し、同様にインパルス応答測定回路18にインパルス応答測定をさせ、基準周波数測定回路28に基準周波数の測定をさせる。制御回路30は、これをBPF(13-1、13-2)に設定する中心光周波数、及び連続光源(20-1、20-2)を変化させて順次測定させる。最後に、制御回路30は、全ての帯域のインパルス応答測定結果を測定した基準周波数で連結する。
【0029】
図3は、制御回路30の動作を説明する図である。制御回路30は、
BPF(13-1、13-2)に設定する前記中心光周波数を変更すること(ステップS01)、
インパルス応答測定回路18に、前記中心光周波数が異なる前記帯域毎に前記第1ビート信号を生成させること(ステップS02)、
基準周波数測定回路28に、前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域毎に、2つの前記帯域の前記中心光周波数の間にある光周波数の前記連続光での前記第2ビート信号及び前記第3ビート信号を生成させること(ステップS03)、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第2ビート信号と前記第3ビート信号の複素共役を乗算した乗算信号を計算すること(ステップS04)、
前記中心光周波数が異なる2つの前記帯域のそれぞれについて、前記第1ビート信号と前記乗算信号の複素共役を乗算し、前記第1ビート信号を前記連続光の前記光周波数を原点とする波形に変換すること(ステップS05)、及び
ぞれぞれの前記波形を前記原点で連結すること(ステップS06)、
を行う。
【0030】
図4を用いて、
図3の測定方法を詳細に説明する。
(1)ステップS01~S04
BPF(13-1、13-2)に中心光周波数i(本例ではi=1~3とする)を順に設定し、連続光源(20-1、20-2)にそれぞれ光周波数CW#1とCW#2を設定する。そして、それぞれの帯域(BPF#1~BPF#3)で第1ビート信号、第2ビート信号、及び第3ビート信号を測定する。そして、第2ビート信号と第3ビート信号の複素共役を乗算した次式の乗算信号を計算する。
【数4】
ここで、“XY
*”と記載されている“
*”は信号Yの複素共役を示し、“XY”は信号Xと信号Yの乗算を意味する。
【0031】
上記のように測定及び計算された信号(第1ビート信号、乗算信号)をフーリエ変換すると、
図4(A)のようになる。
【0032】
(2)ステップS05
次式の信号を計算する。
【数5】
【0033】
上記のように計算された3信号をフーリエ変換すると、
図4(B)のようになる。数5の第1式及び第2式の信号は、BPF#1及びBPF#2のときのインパルス応答(第1ビート信号)をCW1に対する相対周波数のスペクトルに変換したものである。数5の第3式の信号は、BPF#3のときのインパルス応答(第1ビート信号)をCW2に対する相対周波数のスペクトルに変換したものである。
【0034】
ここで、さらに次の計算を行う。
【数6】
数6のMは、i=2(BPF#2、CW#2)のときの乗算信号(数7、
図4(1)の信号R)をCW1に対する相対周波数のスペクトルに変換したものである。
【数7】
【0035】
(3)ステップS06
図4(2)の上段の信号(数5の第1式)と
図4(2)の中段の信号(数5の第2式)とを、0Hz(CW#1に対する相対周波数)を転結点として連結する。
図4(2)の中段の信号(数5の第2式)と
図4(2)の下段の信号(数5の第3式)とを、数6の周波数(CW#1に対する相対周波数)を転結点として連結する。
図4(3)は、3つの信号を連結した結果を説明する図である。
【0036】
(4)補足
本実施例では、i=1~3の場合を説明したが、
図2のようにi=4以上の場合、次のように処理する。
連続光源20-1に光周波数CW#3を設定し、第1ビート信号、第2ビート信号及び第3ビート信号を測定する。
上述したように、
【数8】
の信号を計算する。数8の信号は、第1ビート信号をCW#3に対する相対周波数のスペクトルに変換したものである。
そして、この信号と
図4(2)の下段の信号(数5の第3式)とを、数9の周波数(CW#2に対する相対周波数)を転結点として連結する。
【数9】
以下、同様にiを増加していく。
【0037】
(発明の効果)
本発明の分光測定器は、光周波数コムの全帯域をそのまま使うのではなく、光周波数コムの帯域を分割してインパルス応答測定を行い、連続光源を分割帯域の連結点の基準として各測定結果を矛盾なく連結する。
本発明の分光測定器は、光周波数コムの帯域を分割し、測定時の帯域を小さくすることで、光周波数コムの周波数揺らぎに求められる条件を緩和できる。また、分割帯域における測定結果を連結することで、広帯域な測定を実現することもできる。すなわち、本発明の分光測定器は、周波数揺らぎを安定させなくても、広帯域な測定を実現できる。
本発明の分光測定器は、光周波数コムの周波数揺らぎの条件を緩和することで、2台の光周波数コムが非同期であっても広帯域な測定を可能にする。このため、プローブ光用の光周波数コムとサンプリング光用の光周波数コムが遠隔に設置されているような状況(例えば、
図5のように被測定光ファイバが光伝送路であるような状況)でも、本発明の分光測定器はそれを測定できる。
【符号の説明】
【0038】
11-1、11-2:光周波数コム
13-1、13-2:バンドパスフィルタ(BPF)
14-1、14-2、14-3、14-4:光分岐部
15:光90度ハイブリッド
17:アナログデジタル変換器
18:インパルス応答測定回路
20-1、20-2:連続光源
25-1、25-2、25-3、25-4:光90度ハイブリッド
28:基準周波数測定回路
50:被測定光ファイバ
301:分光測定器