(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240314BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240314BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240314BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240314BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20240314BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20240314BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20240314BHJP
C08K 5/1515 20060101ALI20240314BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20240314BHJP
C08K 5/16 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L63/00 A
C08L63/00 C
C08L101/00
C08K3/013
C08K3/016
C08K3/20
C08K3/24
C08K5/1515
C08K5/12
C08K5/16
(21)【出願番号】P 2019140904
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
(72)【発明者】
【氏名】牛島 隆二
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-041651(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069489(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/199915(WO,A1)
【文献】特開平06-157873(JP,A)
【文献】特許第5143419(JP,B2)
【文献】特許第6100983(JP,B1)
【文献】特開2002-128998(JP,A)
【文献】特開2010-006937(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007663(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/038075(WO,A1)
【文献】特開平08-127723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、
(B)
有機溶媒の総含有量が50ppm以下であるハロゲン化エポキシ系難燃剤と、
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂5~100質量部と、
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤10~200質量部と、
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤0.1~30質量部とを含有し、
組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂が、オレフィン系エラストマ、コアシェル系エラストマ、ジエン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、シリコーン系エラストマ、及びスチレン系エラストマ、ポリアミド系エラストマから選択される1以上を含み、
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤が、無機系充填剤及び金属系充填剤から選択される1以上を含み、
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上を含有し、
(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量が30,000g/eq以上43,200以下である、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤が、エポキシ化合物と、カルボジイミド化合物及び芳香族多価カルボン酸エステルから選択される1種以上と、を含有する、請求項1に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、3~50質量部である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
ハロゲン化エポキシ系難燃剤が臭素化エポキシ系難燃剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤をさらに含有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項7】
金属及び/又は無機固体をインサート成形してなる、請求項6に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、機械的特性、電気的特性、耐熱性など各種特性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして自動車部品や電気・電子機器部品など種々の用途に広く利用されている。これらのうち、電気・電子機器部品用途では、トラッキング等による発火を防ぐため、使用される材料には難燃性が要求されており、また自動車部品についても、近年のハイブリッド化や電動化に伴い、種々の電気・電子部品が搭載されるようになっていることから、難燃性材料の要求が広がっている。ここで、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、それ自体では難燃性が不足するため、難燃剤を添加した難燃性樹脂組成物として使用されている。
【0003】
このようなポリブチレンテレフタレート樹脂に添加される難燃剤の一種として、ハロゲン化エポキシ系難燃剤があり、特許文献1には、臭素化エポキシ化合物系難燃剤の製造方法が紹介されている。この製造方法は、芳香核含有アルコール類のジグリシジルエーテル、多価フェノール類のジ-もしくはポリグリシジルエーテル、芳香族二塩基酸のジグリシジルエステル、アルキルフェノール類のモノグリシジルエーテル、ヒドロキシ安息香酸のモノグリシジルエーテルエステル、p-アミノフェノールの(β-メチル)エピクロルヒドリン付加生成物、または芳香族ジ-もしくはポリアミン類などをベースとするポリグリシジルアミンなどの芳香族を有するエポキシ化合物、あるいはそれらの前駆体であるクロルヒドリン化合物に対して臭素添加による臭素化を行い、得られた臭素化ブロムヒドリン化合物または臭素化クロルヒドリン化合物を、アルカリ金属の水酸化物を用いて、脱臭化水素または脱塩化水素を経て閉環エポキシ化することを特徴としている。
【0004】
また特許文献2には、エンジニアリング熱可塑性プラスチック用の臭素化エポキシ化合物系難燃剤が紹介されている。この難燃剤の分子量は7,000~50,000ダルトンであり、エポキシ当量は10,000g/eqを超えることが好ましいとされている。
【0005】
さらに臭素化エポキシ化合物系難燃剤は、それ自体の反応により増粘しうることが知られており、溶融混練時の増粘によりスクリューへの付着物が生成し、その炭化物が成形品に混入することによる黒色異物(BS:Black Speck)の発生を抑制するため、分子量やエポキシ当量の範囲を調整するということがなされていた。例えば特許文献3では、エポキシ当量が600~1500g/eqのエポキシ化合物を用いることにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形品における異物の発生を抑制できることが紹介されている。
【0006】
ところでポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶性の熱可塑性樹脂であるため、成形後の結晶化に伴う成形収縮や使用環境での後収縮が発生しやすく、また、金属に対し線膨張係数が大きい。そのため、金属部材と組み合わせて用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が、加熱冷却を繰り返す環境下に曝される場合には、樹脂の成形収縮及び後収縮の発生と、金属と樹脂の線膨張係数の違いに起因して発生する歪とが相俟って、成形品にクラック等の破損(いわゆるヒートショック破壊)が生じやすくなる。そこで、ポリブチレンテレフタレート樹脂の耐ヒートショック性を向上させる技術として、特許文献4では、ポリブチレンテレフタレート等を用いたインサート成形品の耐ヒートショック性を向上させるために、成形品の脆弱部近傍に応力集中部を設ける技術が開示されているが、成形品中に上述したような異物が混入していると、そこが応力集中部あるいは脆弱部といった破壊の起点となり、耐ヒートショック性が低下するおそれがある。このため、耐ヒートショック性向上の観点から異物の混入を抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭60-016952号
【文献】特許第5143419号
【文献】特許第6100983号
【文献】特開2013-103472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、難燃剤としてハロゲン化エポキシ系難燃剤を用いる難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該組成物からなる成形品中への異物の混入を抑制し、当該成形品が加熱冷却を繰り返す環境下で使用される際のヒートショックによる破壊を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記を課題とする研究の過程で、難燃剤としてハロゲン化エポキシ系難燃剤を用い、特定の耐ヒートショック性向上剤を含む難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、ハロゲン化エポキシ系難燃剤中の有機溶媒の含有量を一定量以下とし、かつ難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量を一定量以下とすることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)~(7)に関する。
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部と、(B)トルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量が50ppm以下であるハロゲン化エポキシ系難燃剤と、(C)耐ヒートショック性向上用樹脂5~100質量部と、(D)耐ヒートショック性向上用充填剤10~200質量部と、(E)耐ヒートショック性向上用添加剤0.1~30質量部とを含有し、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量が0.0155mol/kg以下の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であり、前記耐ヒートショック性向上剤が、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステル、及びこれらの組み合わせから選択される1種以上を含有することを特徴とする、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(2)(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤のエポキシ当量が30,000g/eq以上である、(1)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(3)(B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、3~50質量部である、(1)または(2)に記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(4)ハロゲン化エポキシ系難燃剤が臭素化エポキシ系難燃剤である、(1)から(3)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(5)五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤をさらに含有する、(1)から(4)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
(7)金属及び/又は無機固体をインサート成形してなる、(6)に記載の成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難燃剤としてハロゲン化エポキシ系難燃剤を用いるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、当該難燃剤中の有機溶媒の含有量を一定量以下とし、かつ難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量を一定量以下とすることで、当該難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた成形品中への異物の混入を抑制することができ、かつ当該成形品の加熱冷却を繰り返す環境下におけるヒートショック破壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】耐ヒートショック性試験で用いた試験片を示す図であって、(A)は斜視図であり、(B)は上面図である。
【
図2】
図1に示す試験片のインサート部材を示す図であって、(A)は斜視図であり、(B)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0014】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物]
以下、本実施形態の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の各成分の詳細を例を挙げて説明する。
【0015】
((A)ポリブチレンテレフタレート樹脂)
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であってもよい。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.5dL/g以下であるのが好ましく、0.65dL/g以上1.2dL/g以下であるのがより好ましい。このような範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0018】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0020】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0022】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0023】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の10~90質量%であることが好ましく、20~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
((B)ハロゲン化エポキシ系難燃剤)
本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤に用いられるエポキシ化合物は、1分子中にエポキシ基を1つ以上含有している。エポキシ化合物としては、熱安定性と耐加水分解性を高める観点から、芳香族エポキシ化合物を用いることが好ましい。芳香族エポキシ化合物の例としては、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物などが挙げられる。 またエポキシ化合物として、2種以上の化合物を任意に組み合わせて使用することも可能である。
【0025】
上記のエポキシ化合物のエポキシ当量は30,000g/当量(g/eq)以上であることが好ましく、32,000g/eq以上であることがより好ましく、34,000g/eq以上であることがさらに好ましく、36,000g/eq以上であることがよりさらに好ましく、36,500g/eq以上であることが特に好ましい。エポキシ当量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0026】
また、本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤は、臭素化エポキシ系難燃剤であることが好ましい。
【0027】
上述した通り、本発明のハロゲン化エポキシ系難燃剤中のトルエン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトンからなる群から選択される有機溶媒の含有量は50ppm以下である。また、有機溶媒の含有量は40ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることがよりさらに好ましく、8ppm以下であることが特に好ましい。ハロゲン化エポキシ系難燃剤中の有機溶媒の含有量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生、ひいてはその炭化物の混入を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0028】
(難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量)
上述した通り、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0155mol/kg以下である。また、組成物全体におけるエポキシ基の総含有量は、0.0150mol/kg以下であることが好ましく、0.0145mol/kg以下であることがより好ましく、0.0130mol/kg以下であることがよりさらに好ましく、0.0100mol/kg以下であることが特に好ましい。難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体におけるエポキシ基の総含有量をこの範囲にすることにより、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の外観を良好なものとすることができ、成形時の押出機や成形機のスクリューへの付着物の発生、ひいてはその炭化物の混入を抑制することができる。また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品の機械的特性を良好な値とすることができる。
【0029】
(難燃助剤)
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃助剤をさらに含有することが好ましい。難燃助剤としては特に限定されないが、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムからなる群から選択される難燃助剤が好ましく、五酸化アンチモン、三酸化アンチモンがより好ましい。
【0030】
さらに、燃焼した樹脂が滴下することによる延焼を防ぐ目的で、ポリテトラフルオロエチレン等の滴下防止剤をあわせて使用することも好ましい。
【0031】
上記のハロゲン化エポキシ系難燃剤及び難燃助剤の樹脂に対する添加の範囲は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して前記ハロゲン化エポキシ系難燃剤3~50質量部であることが好ましく、5~40質量部であることがより好ましく、10~30質量部であることがさらに好ましい。なお、エポキシ基の総含有量は、ハロゲン化エポキシ系難燃剤以外に、後述する耐ヒートショック性向上用添加剤として添加するエポキシ系化合物(エポキシ樹脂等)の含有量を考慮して決定すれば良い。また、難燃助剤は1~40質量部の範囲が好ましい。ハロゲン化エポキシ系難燃剤及び難燃助剤の添加量が過少であると十分な難燃性を付与することができず、過大であると成形品としての機械的特性を悪化させることがある。
【0032】
((C)耐ヒートショック性向上用樹脂)
本発明に用いられる(C)耐ヒートショック性向上用樹脂は、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形品が加熱冷却を繰り返す環境下で使用される場合において要求される、耐ヒートショック性を向上させるために添加される。
【0033】
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に靱性を付与することで、成形品に発生する歪を吸収できるようにする意味で、ゴムやエラストマ等の弾性体を用いることが好ましく、具体的には、オレフィン系エラストマ、コアシェル系エラストマ、ジエン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ウレタン系エラストマ、シリコーン系エラストマ、スチレン系エラストマ、ポリアミド系エラストマ等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
オレフィン系エラストマとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体(EP共重合体)、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPD共重合体)、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、EP共重合体およびEPD共重合体から選択された少なくとも一種の単位を含む共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、α-オレフィン・α,β-不飽和カルボン酸(エステル)・α,β-不飽和カルボン酸グリシジルエステル系三元共重合体、エチレン(共)重合体に無水マレイン酸又はメタクリル酸グリシジルを共重合したエチレン系共重合体等が含まれる。好ましいオレフィン系エラストマには、EP共重合体、EPD共重合体、オレフィンと(メタ)アクリル系単量体との共重合体が含まれ、特にエチレンエチルアクリレートが好ましい。これらのオレフィン系エラストマは単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
コアシェル系エラストマは、コア層がゴム成分(軟質成分)、シェル層が硬質成分で構成されるポリマーであり、コア層のゴム成分としてはアクリル系ゴム等を用いるものである。コア層に用いるゴム成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃未満(例えば-10℃以下)であるのが好ましく、-20℃以下(例えば-180℃以上-25℃以下)であるのがより好ましく、-30℃以下(例えば-150℃以上-40℃以下)であるのが特に好ましい。
【0036】
ゴム成分としてアクリル系ゴムを用いる場合、アルキルアクリレート等のアクリル系モノマーを主成分として重合して得られる重合体が好ましい。アクリル系ゴムのモノマーとして用いるアルキルアクリレートは、ブチルアクリレート等のアクリル酸のC1~C12のアルキルエステルが好ましく、アクリル酸のC2~C6のアルキルエステルがより好ましい。
【0037】
アクリル系ゴムは、アクリル系モノマーの単独重合体でもよく、共重合体でもよい。アクリル系ゴムがアクリル系モノマーの共重合体である場合、アクリル系モノマー同士の共重合体でも、アクリル系モノマーと他の不飽和結合含有モノマーとの共重合体であってもよい。アクリル系ゴムが共重合体である場合、アクリル系ゴムは架橋性モノマーを共重合したものであってもよい。
【0038】
シェル層には、ビニル系重合体が好ましく用いられる。ビニル系重合体は、例えば、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも一種の単量体を重合あるいは共重合させて得られる。かかるコアシェル系エラストマのコア層とシェル層は、グラフト共重合によって結合されていてもよい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、コア層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、コア層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤として、シリコーン系ゴムを使用する場合は、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいはチオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはアクロキシシロキサン、メタクリロキシシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0039】
ポリエステル系エラストマとしては、ハードセグメントとソフトセグメントにいずれもポリエステル系単位構造を有するエステル-エステル型と、ソフトセグメントをポリエーテル系単位構造としたエステル-エーテル型の、いずれも好ましく用いることができるが、耐熱性面では前者、寸法精度面では後者が、それぞれより好ましい。ハートセグメントのポリエステル単位構造としてはポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートといった芳香族ポリエステル単位を好ましく用いることができ、ソフトセグメントのポリエステル単位としてはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトンといった脂肪族ポリエステル単位を好ましく用いることができ、ソフトセグメントのポリエーテル単位としてはポリエチレングリコールやポリテトラメチレングリコールといったものを好ましく用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0040】
ウレタン系エラストマーの例としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のグリコールとを反応させることによって得られるポリウレタンをハードセグメントとし、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルもしくはポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステルをソフトセグメントと
するブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0041】
スチレン系エラストマとしては、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-エポキシ基含有ビニル系共重合体等が挙げられ、これらを単独又は二種以上組み合せて用いることができる。
【0042】
ポリアミド系エラストマの例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体が挙げられるが、これに限定されるものではない。また、厳密にはエラストマに分類されないが、本発明におけるポリアミド系エラストマとして脂肪族ポリアミドも用いることができる。
【0043】
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、5~100質量部であり、10~90質量部または20~80質量部であっても良い。ただし、難燃性の低い樹脂では、多量に添加することで組成物としての燃焼性を悪化させるおそれがあるため、寸法精度向上用アロイ樹脂の含有量は、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物全体に対し、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0044】
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂の収縮率や線膨張係数を低減することにより、成形品に発生する歪を小さくする意味で、樹脂成形品の加工温度範囲や使用温度範囲における収縮率や線膨張係数の小さい、無機系充填剤、金属系充填剤が好ましく、金属部材と組み合わせる絶縁部材として用いる成形品においては、絶縁性を確保する意味で無機系充填剤を用いることが特に好ましい。
【0045】
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤の形状としては、繊維状充填剤、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤、曲面状充填剤、不定形充填剤及びこれらの組み合わせのいずれも用いることができるが、ヒートショックによる破壊を抑制するためには、収縮や線膨張の異方性も低減することが好ましいため、充填剤自体も異方性の小さいものであることが望ましく、板状充填剤、球状充填剤、粉状充填剤等、特にアスペクト比が1に近い充填剤を用いることがより好ましい。一方、ガラス繊維等の繊維状充填剤を用いる場合、引張強度等の機械的特性の向上効果は大きいが、繊維状充填剤の配向に起因して、収縮率の異方性が大きくなる傾向にあるため、繊維状充填剤としては、ミルドファイバやウィスカ等の短繊維や、断面が繭型や長円形・楕円形といった扁平形状(例えば断面の長径÷短径の比が1.3~10)の繊維といった、アスペクト比が比較的小さいものを用いることがより好ましい。特に、断面が扁平形状のガラス繊維を用いる場合、耐ヒートショック性と機械的特性がともに向上できるため好ましい。
【0046】
板状充填剤の具体例としては、板状タルク、マイカ、ガラスフレーク、金属片及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、球状充填剤の具体例としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、球状シリカ及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、粉状充填剤としてはガラス粉、タルク粉、石英粉末、石英粉末、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト、炭化珪素、窒化珪素、金属粉、無機酸金属塩(炭酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、スズ酸亜鉛、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)の粉末、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等)の粉末、金属水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、アルミナ水和物(ベーマイト)等)の粉末、金属硫化物(硫化亜鉛、硫化モリブデン、硫化タングステン等)の粉末、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。なお、金属腐食性の観点では、これら(D)耐ヒートショック性向上用充填剤中に含まれる遊離無機酸の含有量がそれぞれ0.5質量%以下のものであることが好ましい。
【0047】
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤のサイズについては、反り低減効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。例えばタルクとしては、体積平均粒子径が1~10μmのタルク、または嵩比重が0.4~1.5の圧縮微粉タルクを好適に用いることができ、マイカとしては、体積平均粒子径が10~60μmのマイカを好適に用いることができる。
【0048】
これらの(D)耐ヒートショック性向上用充填剤は、無機化合物および/または有機化合物で表面処理(表面被覆)されていてもよく、表面処理に用いられる無機化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ、シリカ、ジルコニア、水酸化ジルコニウム、ジルコニア水和物、酸化セリウム、酸化セリウム水和物、水酸化セリウム等のアルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、セリウム等の無機酸化物、水酸化物が好ましく挙げられる。また、これらの無機化合物は水和物であってもよい。これらの中でも、水酸化アルミニウム、シリカが好ましく、シリカを用いる場合は、SiO2・nH2Oで表されるシリカ水和物であることが特に好ましい。また、表面処理に用いられる有機化合物としては特に限定されず、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジクロルヘキシルアミンといったアミン化合物等、公知の化合物を用いることができる。
【0049】
(D)耐ヒートショック性向上用充填の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、10~200質量部であり、20~180質量部または30~150質量部であっても良い。(D)耐ヒートショック性向上用充填剤の添加量は、耐ヒートショック性向上効果と機械的特性や流動性等とのバランスを考慮して適宜選択することができる。
【0050】
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤としては、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、芳香族多価カルボン酸エステルなどが挙げられ、これらの1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
カルボジイミド化合物としては、分子内に少なくともひとつの(-N=C=N-)で表されるカルボジイミド基を有する化合物を用いることができ、このようなカルボジイミド化合物は、例えば適当な触媒の存在下に、有機イソシアネートを加熱し、脱炭酸反応で製造できる。
【0052】
カルボジイミド化合物の例としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-o-トルイルカルボジイミド、ジ-p-トルイルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-o-トルイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミド、ヘキサメチレン-ビス-シクロヘキシルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-o-トリイルカルボジイミド、N,N´-ジフェニルカルボジイミド、N,N´-ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N´-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-2,6-ジ-tert -ブチルフェニルカルボジイミド、N-トルイル-N´-フェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´-ジ-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´-ジ-p-トルイルカルボジイミド、N,N′-ベンジルカルボジイミド、N-オクタデシル-N′-フェニルカルボジイミド、N-ベンジル-N′-フェニルカルボジイミド、N-オクタデシル-N′-トリルカルボジイミド、N-シクロヘキシル-N′-トリルカルボジイミド、N-フェニル-N′-トリルカルボジイミド、N-ベンジル-N′-トリルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-エチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-エチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-o-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-p-イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2-エチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2-イソブチル-6-イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′-ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどのモノ又はジカルボジイミド化合物、ポリ(1,6-ヘキサメチレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-メチレンビスシクロヘキシルカルボジイミド)、ポリ(1,3-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(1,4-シクロヘキシレンカルボジイミド)、ポリ(4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,3′-ジメチル-4,4′-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)、ポリ(メチル-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)などのポリカルボジイミドなどが挙げられる。また、ポリカルボジイミドには、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシレンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-テトラメチルキシレンジイソシアネート等から合成されるキシリレン系ポリカルボジイミドも用いることができる。さらに、ジイソシアネート化合物を、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、シリコーンジオール、ポリオレフィンポリオール、ポリウレタンポリオール、アルキレン(炭素数21~)ジオール等のジオール化合物と反応させたカルボジイミド化合物を用いることもできる。これらの中でも、耐熱性の観点から、N,N´-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、2,6,2′,6′-テトライソプロピルジフェニルカルボジイミドなどの芳香族カルボジイミドが好ましく、また、ポリカルボジイミドが好ましい。
【0053】
エポキシ化合物としては、分子構造中にエポキシ基を含む化合物であればよく、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、グリシジルアミン化合物、グリシジルイミド化合物、脂環式エポキシ化合物を好ましく使用することができる。
【0054】
グリシジルエーテル化合物の例としては、ブチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシドラウリルアルコールグリシジルエーテル、エチレンオキシドフェノールグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノール類とエピクロルヒドリンとの縮合反応から得られるビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などを挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0055】
グリシジルエステル化合物の例としては、安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、ナフタレンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ビ安息香酸ジグリシジルエステル、メチルテレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、ドデカンジオン酸ジグリシジルエステル、オクタデカンジカルボン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル、ピロメリット酸テトラグリシジルエステルなどを挙げることができる。なかでも、安息香酸グリシジルエステルやバーサティック酸グリシジルエステルが好ましい。
【0056】
グリシジルアミン化合物の例としては、テトラグリシジルアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロモアニリン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン、トリグリシジルシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0057】
グリシジルイミド化合物の例としては、N-グリシジルフタルイミド、N-グリシジル-4-メチルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-3-メチルフタルイミド、N-グリシジル-3,6-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-4-エトキシフタルイミド、N-グリシジル-4-クロルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジクロルフタルイミド、N-グリシジル-3,4,5,6-テトラブロムフタルイミド、N-グリシジル-4-n-ブチル-5-ブロムフタルイミド、N-グリシジルサクシンイミド、N-グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N-グリシジル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、N-グリシジルマレインイミド、N-グリシジル-α,β-ジメチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-エチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-プロピルサクシンイミド、N-グリシジルベンズアミド、N-グリシジル-p-メチルベンズアミド、N-グリシジルナフトアミド、N-グリシジルステラミドなどを挙げることができる。なかでも、N-グリシジルフタルイミドが好ましい。
【0058】
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-エチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-フェニル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-ナフチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-トリル-3-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミドなどを挙げることができる。
【0059】
また、その他のエポキシ化合物として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化鯨油などのエポキシ変性脂肪酸グリセリド、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノゾラック型エポキシ樹脂などを用いることができる。
【0060】
さらに、エポキシ化合物としては、α,β-不飽和酸のグリシジルエステル、例えばアクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等のエポキシ化合物を、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合により他のモノマーと共重合させた、エポキシ変性樹脂あるいはエポキシ変性エラストマー、具体的には、α-オレフィンと、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルからなるグリシジル基含有共重合体や、エポキシ基含有ビニル系単量体をグラフト重合してなるポリオルガノシロキサン/ポリアルキル(メタ)アクリレ-ト複合ゴムグラフト共重合体、主鎖にエポキシ基を有するスチレン/ブタジエン共重合体エラストマー等を用いることもできる。
【0061】
オキサゾリン化合物の例としては、2-メトキシ-2-オキサゾリン、2-エトキシ-2-オキサゾリン、2-プロポキシ-2-オキサゾリン、2-ブトキシ-2-オキサゾリン、2-ペンチルオキシ-2-オキサゾリン、2-ヘキシルオキシ-2-オキサゾリン、2-ヘプチルオキシ-2-オキサゾリン、2-オクチルオキシ-2-オキサゾリン、2-ノニルオキシ-2-オキサゾリン、2-デシルオキシ-2-オキサゾリン、2-シクロペンチルオキシ-2-オキサゾリン、2-シクロヘキシルオキシ-2-オキサゾリン、2-アリルオキシ-2-オキサゾリン、2-メタアリルオキシ-2-オキサゾリン、2-クロチルオキシ-2-オキサゾリン、2-フェノキシ-2-オキサゾリン、2-クレジル-2-オキサゾリン、2-o-エチルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-o-プロピルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-o-フェニルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-m-エチルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-m-プロピルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-p-フェニルフェノキシ-2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-エチル-2-オキサゾリン、2-プロピル-2-オキサゾリン、2-ブチル-2-オキサゾリン、2-ペンチル-2-オキサゾリン、2-ヘキシル-2-オキサゾリン、2-ヘプチル-2-オキサゾリン、2-オクチル-2-オキサゾリン、2-ノニル-2-オキサゾリン、2-デシル-2-オキサゾリン、2-シクロペンチル-2-オキサゾリン、2-シクロヘキシル-2-オキサゾリン、2-アリル-2-オキサゾリン、2-メタアリル-2-オキサゾリン、2-クロチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2-o-エチルフェニル-2-オキサゾリン、2-o-プロピルフェニル-2-オキサゾリン、2-o-フェニルフェニル-2-オキサゾリン、2-m-エチルフェニル-2-オキサゾリン、2-m-プロピルフェニル-2-オキサゾリン、2-p-フェニルフェニル-2-オキサゾリン、2,2′-ビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-エチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4,4′-ジエチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-プロピル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ブチル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-フェニル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-シクロヘキシル-2-オキサゾリン)、2,2′-ビス(4-ベンジル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-o-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-m-フェニレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-エチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-テトラメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ヘキサメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-オクタメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-デカメチレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-エチレンビス(4-メチル-2-オキサゾリン)、2,2′-テトラメチレンビス(4,4′-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2′-9,9′-ジフェノキシエタンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-シクロヘキシレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-ジフェニレンビス(2-オキサゾリン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサゾリン化合物なども挙げることができる。
【0062】
オキサジン化合物の例としては、2-メトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-エトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-プロポキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ブトキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ペンチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ヘキシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ヘプチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-オクチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-ノニルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-デシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-シクロペンチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-シクロヘキシルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-アリルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-メタアリルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン、2-クロチルオキシ-5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジンなどが挙げられ、さらには、2,2′-ビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-メチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-エチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-プロピレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ブチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ヘキサメチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-p-フェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-m-フェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-ナフチレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)、2,2′-P,P′-ジフェニレンビス(5,6-ジヒドロ-4H-1,3-オキサジン)などが挙げられる。さらには、上記した化合物をモノマー単位として含むポリオキサジン化合物などが挙げられる。
【0063】
上記オキサゾリン化合物やオキサジン化合物の中では、2,2′-m-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、2,2′-p-フェニレンビス(2-オキサゾリン)が好ましい。
【0064】
芳香族多価カルボン酸エステルとしては、例えばトリメリット酸エステルやピロメリット酸エステルが好適な例として挙げられ、特にアルキルエステルが好ましい。このアルキルエステルを構成するアルキル基としては、例えばトリオクチル基、トリイソデシル基、トリス(2-エチルヘキシル)基、トリブチル基等が挙げられ、これらのいずれか又は二種以上を組み合わせて用いても良い。このような芳香族多価カルボン酸エステルは一種または二種以上を併用することができる。
【0065】
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、0.1~30質量部であり、0.2~20質量部であることが好ましく、0.3~10質量部であることがより好ましい。
【0066】
また、(E)耐ヒートショック性向上用添加剤の添加量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物中の末端カルボキシル基量を1として、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、オキサジン環、エステル基の合計官能基含有量が0.3~5当量となるように設定しても良い。好ましい合計官能基含有量は0.5~3当量、より好ましくは0.8~2当量である。
【0067】
(添加剤) 本発明の組成物には必要に応じて、難燃性と耐ヒートショック性以外の所望の特性を付与するために、一般に熱可塑性樹脂等に添加される、耐ヒートショック性向上用添加剤に該当するもの以外の公知の物質を添加併用することができる。例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の安定剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料や顔料等の着色剤、可塑剤、流動性向上剤、靱性向上剤、耐衝撃性向上剤、耐ヒートショック性向上用樹脂に該当するもの以外の樹脂、耐ヒートショック性向上用充填剤に該当するもの以外の充填剤等、いずれも配合することが可能である。
【0068】
なお、着色剤としてカーボンブラック等の無機顔料を用いる場合、耐ヒートショック性の低下を抑制できる点で、平均一次粒子径が10~100nmのものを用いることが好ましく、25~50nmのものを用いることがより好ましい。なお、ここでいう平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の着色剤1000個の電子顕微鏡観察により求めた算術平均粒子径である。
【0069】
また着色剤を添加する際は、いったん(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂又は(C)耐ヒートショック性向上用樹脂として用いる樹脂、あるいはポリブチレンテレフタレート樹脂と相溶性の高い他の樹脂と溶融混練した、マスターバッチの状態で添加すると、耐ヒートショック性の低下をさらに抑制できる点で好ましい。
【0070】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の形態は、粉粒体混合物であってもよいし、ペレット等の溶融混合物(溶融混練物)であってもよい。本発明の一実施形態のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0071】
また、本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、上述の溶融混練に供給する各成分(原料)の段階、及び/又は、成形品を成形する際のペレットの段階で、真空乾燥を行い(真空乾燥工程)水分を除去することが好ましい。真空乾燥には、一般的に用いられているエバポレーターや、オーブンなどを用いることができる。
【0072】
[難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から得られた成形品]
本発明の難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、例えば、リレー、スイッチ、コネクタ、アクチュエータ、センサー、トランスボビン、端子台、カバー、スイッチ、ソケット、コイル、プラグ等の電気・電子部品、特に電源周り部品として好ましく使用できる。さらに、ECUボックス、コネクターボックス等の車載部品ケース・車載電装部品等の自動車部品の成形材料としても、好適に使用される。
【0073】
この難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いて成形品を得る方法としては、特に限定はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、難燃性ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を押出機に投入して溶融混練してペレット化し、このペレットを所定の金型を装備した射出成形機に投入し、射出成形することで作製することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例 により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、特性評価は以下の方法により行った。
【0075】
(1)難燃性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて射出成形し、UL94に準拠し、厚さ1/32インチの試験片を作製して燃焼性を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
(2)耐ヒートショック性
表1に示す成分、組成(質量部)でドライブレンドした材料を、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)に供給して260℃で溶融混練し、得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥後、シリンダ温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、
図1,2に示す試験片をインサート成形し、耐ヒートショック性を評価した。
図1は、インサート成形した試験片10を示す図であり、
図2は、インサート部材2を示す図である。試験片10は、
図1に示すように、熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂組成物からなる四角柱状の樹脂部材1に金属からなる四角柱状のインサート部材2が埋設されたものである。樹脂部材1は、上記のようにして得られた樹脂組成物ペレットを用いて成形されたものである。インサート部材2は、
図2に示すように、四角柱状の上部2aと四角柱状の下部2bとこれらの間において両者を接続する円柱状の括れ部2cとを備えた構成とされている。インサート部材2は、下部2b及び括れ部2cが、樹脂部材1内に埋設され、上部2aが樹脂部材1の上面から露出している(
図1(A)参照)。さらに、
図1(B)に示すように、樹脂部材1の角部とインサート部材2の角部は、互いに異なる方向に位置するように配置されている。すなわち、インサート部材2の角部は、樹脂部材1の側面に向かうように配置されている。そして、インサート部材2の角部の先端と、樹脂部材1の側面との距離は約1mmである。樹脂部材1において、インサート部材2の角部(シャープコーナー)の先端近傍が肉薄部となっている。上記の試験片10に対し、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製)を用い、-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するというサイクルを繰り返し、20サイクル毎にウェルド部を観察した。ウェルド部にクラックが発生したときのサイクル数を耐ヒートショック性の指標として、200サイクル以上を◎、100サイクル以上を○、100サイクル未満を×として評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(3)スクリュー付着物
難燃性の評価と同様にして得たポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、以下の手順で溶融混練し、黒色付着物の量を目視観察し、付着物の発生が著しいものを「×」、比較的少ないものを「○」、少ないものを「◎」とした。結果を表1に示す。
手順1:東洋精機社製ラボプラストミルを用いて、シリンダー温度275℃、スクリュー回転数20rpmにて、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を10分間押し出す。
手順2:シリンダー温度275℃のままスクリューを停止し、シリンダー内のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を120分間滞留させる。
手順3:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数21rpmとして、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物にて10分間パージする。
手順4:シリンダー温度275℃、スクリュー回転数60rpmとして、ポリエチレン樹脂にて5分間パージする。
手順5:シリンダー温度200℃、スクリュー回転数60rpmとして、トーヨーカラー社製パージ材「リオクリン-Z」にて5分間パージする。
手順6:スクリューを引き抜き、綿ネルで軽く拭き、パージ材を除去した後、スクリューの黒色付着物の量を観察する。
【0078】
(4)曲げ弾性率
難燃性の評価と同様にして得たポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを、140℃で3時間乾燥させた後、シリンダー温度250℃、金型温度70℃にて、80mm×10mm×4mmの曲げ試験片を射出成形し、ISO178に準じて、加圧速度2.0mm/min、支点間距離64mmにて曲げ試験を行い、曲げ弾性率が8,000MPa以上のものを「○」、8,000MPa未満のものを「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
表1に記載の各成分の詳細は下記の通りである。
(A)PBT樹脂:ウィンテックポリマー株式会社製、末端カルボキシル基濃度20meq/kg、固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂
(B-1)臭素化エポキシ系難燃剤1:エポキシ当量36800g/eq、有機溶媒量5ppm、重量平均分子量約18000の臭素化エポキシ化合物
(B-2)臭素化エポキシ系難燃剤2:エポキシ当量43200g/eq、有機溶媒量0ppm、重量平均分子量約20000の臭素化エポキシ化合物
(B-3)臭素化エポキシ系難燃剤3:エポキシ当量28600g/eq、有機溶媒量60ppm、重量平均分子量約9000の臭素化エポキシ化合物
(B-4)臭素化エポキシ系難燃剤4:エポキシ当量19900g/eq、有機溶媒量4ppm、重量平均分子量約23000の臭素化エポキシ化合物
(B’-1)臭素化ポリアクリレート難燃剤:ICL JAPAN株式会社製、ペンタブロモベンジルポリアクリレート FR-1025(エポキシ当量0g/eq)
(C)耐ヒートショック性向上用樹脂
EEA:NUC社製、エチレンエチルアクリレート共重合体 NUC-6570
EEA-g-BAMMA:日油社製、エチレンエチルアクリレートとブチルアクリレート-メチルメタクリレートのグラフト共重合体 モディパーA5300
(D)耐ヒートショック性向上用充填剤
円形断面GF:日本電気硝子社製、ECS03T-127(平均繊維径13μm、平均繊維長3mm)
扁平断面GF:日東紡社製、CSG3PA830(長径28μm、短径7μmの長円形断面(長径÷短径比=4)、平均繊維長3mmの長円形断面ガラス繊維)
(E)耐ヒートショック性向上用添加剤
カルボン酸エステル:ADEKA社製、ピロメリット酸エステル アデカイザーUL100
カルボジイミド:ラインケミージャパン社製、芳香族ポリカルボジイミド STABAXOL P
エポキシ樹脂:三菱化学株式会社製、jER 1004K(エポキシ当量925g/eq)
三酸化アンチモン:日本精鉱社製、PATOX-M
滴下防止剤:ポリテトラフルオロエチレン樹脂