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特許7454350ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/22 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
C08G73/22
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019181700
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055023
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】福島 智美
(72)【発明者】
【氏名】秋元 真歩
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-148750(JP,A)
【文献】特開2009-230098(JP,A)
【文献】特開2005-321466(JP,A)
【文献】特開2007-106786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶媒中で、ジカルボン酸ジハライド及びビス(o-アミノフェノール)を反応させて、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を得る工程、
得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を、水及びメタノールから選ばれる1種以上の溶媒によって洗浄した後、第一級アルコール(ただし、メタノールを除く)及び第二級アルコールから選ばれる1種以上のアルコールに溶解させて、アルコール溶液を得る工程、及び
得られたアルコール溶液を、水又は有機酸水溶液に加え、ポリベンゾオキサゾール前駆体を沈殿させる工程、
を含み、
ここで、アルコールが、酸素原子を2個以上有するアルコールである、
ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【請求項2】
アルコールが、炭素原子数が2以上10以下のアルコールである、請求項1記載のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【請求項3】
アルコールが、エーテル結合を有するアルコールである、請求項1記載のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【請求項4】
アルコール溶液を、酢酸、ギ酸及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸水溶液に加え、ポリベンゾオキサゾールを沈殿させる、請求項1~3のいずれか1項記載のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【請求項5】
有機酸水溶液の濃度が、50ppm以上500ppm以下である、請求項4に記載のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンゾオキサゾール(以下「PBO」ともいう。)前駆体は、耐熱性及び電気絶縁性に優れた硬化物を与えるため、電子部品の製造などにおいて着目されている。
【0003】
ポリベンゾオキサゾール前駆体の合成方法としては、芳香族ジカルボン酸ジハライドとビス(o-アミノフェノール)を非プロトン性極性溶媒中で反応させる方法が知られている。この合成方法では、得られたポリベンゾオキサゾール前駆体にハロゲン成分が残留するが、電子部品用途として使用する場合、絶縁性等の長期信頼性の観点から残留ハロゲンを低減させる必要がある。
【0004】
残留ハロゲンを低減させるために、反応により得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を水やアルカリ水溶液で洗浄処理を行う方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、反応により得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物に、水と非水溶性溶媒を加えて混合、静置した後、水層を分離する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-106786号公報
【文献】特開2013-64130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、残留ハロゲンを十分に低減させるには、洗浄を繰り返す必要があるため、大量の水やアルカリ水溶液が必要であり、それに伴い大量の廃液が発生するという問題がある。さらに、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物に含まれる残留ハロゲンによって、粗生成物の洗浄開始直後は、洗浄の際の液のpHは7未満であるが、洗浄を繰り返すうち、pHが高くなって、アルカリ可溶性のポリベンゾオキサゾール前駆体の溶解性が高まり、収率が低下してしまう問題もある。
【0008】
一方、特許文献2の方法においても、残留ハロゲンを十分に低減させるには、水層の分離を繰り返す必要があり、繰り返しに伴い、水層のpHが高くなり、水層へのポリベンゾオキサゾール前駆体の溶解性が高まり、収率が低下する問題がある。
【0009】
本発明は、廃液の排出の抑制が可能であり、かつ残留ハロゲンが十分に低減したポリベンゾオキサゾール前駆体を収率よく得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法において、粗生成物を特定のアルコールに溶解させて、アルコール溶液を得、これを水又は有機酸水溶液に投入し、ポリベンゾオキサゾール前駆体を沈殿させることによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]非プロトン性極性溶媒中で、ジカルボン酸ジハライド及びビス(o-アミノフェノール)を反応させて、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を得る工程、
得られたポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を、場合により水及びメタノールから選ばれる1種以上の溶媒によって洗浄した後、第一級アルコール(ただし、メタノールを除く)及び第二級アルコールから選ばれる1種以上のアルコールに溶解させて、アルコール溶液を得る工程、及び
得られたアルコール溶液を、水又は有機酸水溶液に加え、ポリベンゾオキサゾール前駆体を沈殿させる工程、
を含む、ポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
[2]アルコールが、炭素原子数が2以上10以下のアルコールである、[1]のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
[3]アルコールが、酸素原子を2個以上有するアルコールである、[1]又は[2]のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
[4]アルコールが、エーテル結合を有するアルコールである、[3]のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
[5]アルコール溶液を、酢酸、ギ酸及びシュウ酸から選ばれる1種以上の有機酸水溶液に加え、ポリベンゾオキサゾールを沈殿させる、[1]~[4]のいずれかのポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
[6]有機酸水溶液の濃度が、50ppm以上500ppm以下である、[5]のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、廃液の排出の抑制が可能であり、かつ残留ハロゲンが十分に低減したポリベンゾオキサゾール前駆体を収率よく得ることができる方法が提供される。
【0013】
<ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を得る工程>
本発明の製造方法は、非プロトン性極性溶媒中で、ジカルボン酸ジハライド及びビス(o-アミノフェノール)を反応させて、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を得る工程を含む。
【0014】
ジカルボン酸ジハライドとしては、特に限定されないが、低温反応性の点から、ジカルボン酸ジクロリドが好ましい。
【0015】
ジカルボン酸ジハライドのジカルボン酸としては、イソフタル酸、テレフタル酸、5-tert-ブチルイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニル、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’-ジカルボキシテトラフェニルシラン、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(p-カルボキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-カルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等の芳香環を有するジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、ジ(シクロヘキサン)-4,4’-ジカルボン酸等の脂肪族系ジカルボン酸が挙げられる。中でも、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテルが好ましい。ジカルボン酸ジハライドとしては、これらのジカルボン酸のジクロリドが好ましい。
【0016】
ビス(o-アミノフェノール)は、特に限定されないが、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。中でも、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0017】
非プロトン性極性溶媒は、特に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン等の環状エステル系溶媒、アセトン、アセトフェノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。中でも、NMPが好ましい。
【0018】
ジカルボン酸ジハライド及びビス(o-アミノフェノール)の反応の方法は、特に限定されず、例えば、ビス(o-アミノフェノール)を非プロトン性極性溶媒に溶解させ、次に、ジカルボン酸ジハライドを添加して、撹拌する方法が挙げられる。ジカルボン酸ジハライドは、粉末状で添加してもよく、溶媒に溶解させるなどして液状で添加してもよい。
反応後、水、メタノール等の貧溶媒を加え、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を沈殿させ、濾過することにより、粗生成物を回収することができる。
【0019】
反応温度は、例えば、-15℃以上60℃以下とすることができる。
反応時間は、1時間以上24時間以下とすることができる。
ジカルボン酸ジハライドとビス(o-アミノフェノール)は、ジカルボン酸ジハライドのモル数:ビス(o-アミノフェノール)のモル数が1:0.5~1:2となる量とすることができる。
反応系中のジカルボン酸ジハライド及びビス(o-アミノフェノール)の合計の濃度は5質量%以上50質量%以下とすることができる。
ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物の沈殿に使用する貧溶媒の量は、非プロトン性極性溶媒100質量部に対し、50質量部以上1000質量部以下とすることができ、100質量部以上500質量部以下が好ましい。
【0020】
反応により、式(1):
【化1】
(式中、
Xは、4価の有機基であり、ビス(o-アミノフェノール)から2つの-OH基と2つのアミノ基を除いた構造に相当し、
Yは、2価の有機基であり、ジカルボン酸ジハライドから2つのC(=O)X(Xは、ハロゲン原子である。)を除いた構造に相当し、
nは、1以上の整数であり、好ましくは10以上50以下の整数であり、より好ましくは20以上40以下の整数である。)
で示される繰り返し構造を有するポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を得ることができる。
【0021】
<貧溶媒による洗浄工程(任意の工程)>
本発明の製造方法は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を、水、メタノール等の貧溶媒で洗浄する工程を含むことができる。1回の洗浄に使用する貧溶媒の量は、質量で、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物の3倍以上100倍以下とすることができ、5倍以上50倍以下が好ましい。洗浄を行う場合、廃液の排出の抑制の点から、回数は少ない方が好ましい。
【0022】
<ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物のアルコール溶液を得る工程>
本発明の製造方法は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物を、第一級アルコール(メタノールを除く)及び第二級アルコールから選ばれる1種以上のアルコールに溶解させて、アルコール溶液を得る工程を含む。上記のアルコールは、ポリベンゾオキサゾール前駆体の良溶媒であり、室温(25℃)で液体のアルコールが好ましい。
【0023】
第一級アルコールとしては、エタノール、1-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール等が挙げられ、第二級アルコールとしては、2-プロパノール、2-ブタノール等が挙げられる。
【0024】
アルコールは、ポリベンゾオキサゾール前駆体の溶解性の点から、酸素原子を2個以上有するアルコールが好ましく、水酸基を2つ以上有するアルコール、エーテル結合を有するアルコール等が挙げられる。中でも、収率の点から、エーテル結合を有するアルコールがより好ましい。酸素原子を2個以上有するアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレンクリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-イソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-sec-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル、プロピレングリコール1-モノエチルエーテル、プロピレングリコール1-モノn-プロピルエーテル、プロピレングリコール1-モノイソプロピルエーテル、プロピレングリコール1-モノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール1-モノ-イソブチルエーテル、プロピレングリコール1-sec-ブチルエーテル、プロピレングリコール1-モノ-tert-ブチルエーテル等が挙げられ、収率の点から、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル等が好ましい。上記アルコールは、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0025】
アルコール溶液中のポリベンゾオキサゾール前駆体の粗生成物の濃度は、塩化物イオンの除去効率の点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。濃度の上限は、粗生成物が溶解する濃度であれば、特に限定されず、例えば、50質量%以下とすることができる。
【0026】
<得られたアルコール溶液を水又は有機酸水溶液に加える工程>
本発明の製造方法は、得られたアルコール溶液を、水又は有機酸水溶液に加え、ポリベンゾオキサゾール前駆体を沈殿させる工程を含む。水又は有機酸水溶液は、ポリベンゾオキサゾール前駆体の貧溶媒である。
【0027】
収率の点から有機酸水溶液を使用することが好ましい。有機酸としては、特に限定されず、ギ酸、酢酸、シュウ酸、ヒドロキシプロピオン酸、プロパン酸、乳酸、酪酸、クエン酸、アスコルビン酸等が挙げられ、中でも、ギ酸、酢酸、シュウ酸が好ましく、特にシュウ酸が好ましい。有機酸は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0028】
有機酸水溶液中の有機酸の濃度は、硬化膜の絶縁信頼性の点から、10,000ppm以下が好ましく、1,000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましいい。有機酸を使用する効果を十分に得る点から、有機酸水溶液中の有機酸の濃度は1ppm以上とすることができ、20ppm以上が好ましく、50ppm以上がより好ましい。
有機酸水溶液のpHは、ポリベンゾオキサゾール前駆体の収率の点から、7以下が好ましく、4以下がより好ましい。
【0029】
アルコール溶液の水又は有機酸水溶液への添加方法は、特に限定されず、一度に添加しても、分割して添加してもよいが、塩化物イオンの除去効率の点から、滴下することが好ましい。滴下は、10分以上600時間以下の時間をかけて行うことができ、30分以上300時間以以下で行うことが好ましい。
【0030】
水又は有機酸水溶液の量は、アルコール溶液100質量部に対して、例えば、50質量部以上とすることができる。塩化物イオンの除去効率の点から、500質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましい。
【0031】
添加の際の温度は、-10℃以上60℃以下とすることができ、0℃以上30℃以下が好ましい。
添加終了後、溶液を静置することが好ましく、30分以上24時間以下静置することが好ましい。
添加終了後、静置前に、有機酸又は有機酸水溶液を加えて、pHを調整してもよい。
【0032】
沈殿したポリベンゾオキサゾール前駆体は、濾過により回収することができる。
【0033】
本発明の製造方法は、濾過により回収したポリベンゾオキサゾール前駆体について、第一級アルコール(メタノールを除く)及び第二級アルコールから選ばれる1種以上のアルコールに溶解させて、アルコール溶液を得る工程、得られたアルコール溶液を水又は有機酸水溶液に加える工程を繰り返してもよいが、廃液の排出の抑制の点から、これらの各工程の繰り返しは、2回以下が好ましく、繰り返さず、それぞれ1回ずつ行うことがより好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、ポリベンゾオキサゾール前駆体を収率80%以上で得ることができる。収率は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%である。また、得られたポリベンゾオキサゾール前駆体中の残留ハロゲンを30.0ppm以下とすることができる。残留ハロゲンの量は、好ましくは20.0ppm以下であり、より好ましくは7.0ppm以下である。
【実施例
【0035】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0036】
〔実施例1〕
300mLフラスコにN-メチルピロリドン(NMP)を65g加え、60℃に加熱した。粉末状の2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(6-FAP)を9.9777g(0.02724mol)加え、完全に溶解させた。さらにNMPを10g加え、フラスコを氷浴に浸し,液体の温度が10℃以下になるまで撹拌した。次いで、粉末状の4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロリド(DEDC)を、液体の温度を20℃以下に保持しながら、1gずつ合計8.80g(0.02982mol)加えた。室温(25℃)で6時間撹拌を続けた後、イオン交換水を0.32g加え、50℃に昇温し、50℃に保持し30分撹拌した。メタノールを141g加え、均一になるまで撹拌を続けた。
得られた溶液を、イオン交換水282gを入れた800mLビーカーに、2時間かけて滴下し、析出した固体を、濾布を用いて濾過した。
回収した固体を、イオン交換水282gを入れた800mLビーカーに、一度に加え,室温で30分間撹拌し、濾過して固体を回収した。この操作を3回繰り返した。
得られた固体全量を、300mLビーカーに加え、さらに良溶媒としてプロピレングリコール1-モノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール(PGM))206gを加え、完全に溶解するまで撹拌した。
得られた溶液を、貧溶媒としてイオン交換水302g及び有機酸としてシュウ酸0.0605gを入れた800mLビーカーに、2時間かけて添加した。溶液の添加前、ビーカー内の液体のpHは3以下であった。
添加後、800mLビーカーに、さらにシュウ酸0.183g加え、1日放置した。濾過して回収した固体を80℃で減圧乾燥させ、ポリベンゾオキサゾール(PBO)前駆体16.5gを得た。GPCによるポリスチレン換算の分子量は、Mn:12,600、Mw:30,300であった。イオンクロマトグラフィーによる塩素濃度は6.4ppmであった。
【0037】
〔実施例2〕
シュウ酸を酢酸に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0038】
〔実施例3〕
シュウ酸を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0039】
〔実施例4〕
プロピレングリコール1-モノメチルエーテルをエタノールに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0040】
〔実施例5〕
プロピレングリコール1-モノメチルエーテルをエチレングリコールに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0041】
〔比較例1〕
良溶媒としてN-メチルピロリドンを用い、シュウ酸を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0042】
〔比較例2〕
良溶媒としてアセトンを用い、シュウ酸を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、PBO前駆体を調製した。
【0043】
実施例及び比較例について、塩素濃度及び収率を評価した。表1に結果を示す。
【0044】
塩素濃度の評価は、以下のようにして行った。
(1)凍結粉砕装置TI500DX(シーエムティ科学)を用いて、PBO前駆体1.5gを、196℃で10分間振とう粉砕した。
(2)粉砕したPBO前駆体1gを、10gの超純水(電気抵抗値:18.2MΩ)を用いて、121℃、20時間の条件で、ポリテトラフルオロエチレン製の圧力容器で固相抽出した。
(3)(2)で得られた水溶液について、イオンクロマトグラフィー測定を行い、標準液を用いた1点検量線法で各種イオン濃度を算出した。イオンクロマトグラフィーの条件は以下のとおりである。
イオンクロマトグラフィー:Aquion(商標)システム(サーモサイエンティフィック社製)
使用カラム:Dionex IonPac(商標)AS22-Fast(φ4mm×150mm)(サーモサイエンティフィック社製)
カラム温度:30℃
溶離液 :4.5mMNaCO水溶液と1.4mMNaHCO水溶液の1:1(重量比)の混合液
溶離液流量:1.2mL/min
検量線用標準液:イオンクロマトグラフィー用陰イオン標準液(関東化学社製)
【0045】
塩素濃度の評価は、以下のとおりである。
◎◎:7.0ppm以下
◎:7.0ppm超20.0pm以下
○:20.0ppm超30.0ppm以下
×:30.0ppm超
【0046】
実施例における収率の評価は、以下のようにして行った。
収率は、以下の式で算出した。
収率[%]=
実施例のPBO前駆体の重量[g]/(DEDC重量[g]+6-FAP重量[g]-HCl重量[g])×100
PBO前駆体の重量は、各実施例の最終生成物であるPBO前駆体を電子天秤で測定した値である。
DEDC重量及び6-FAP重量は、実施例で使用した4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸クロリド(DEDC)及び2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(6-FAP)の重量である。
HCl重量は、使用したDEDCに含まれる塩素量から換算した値である。
【0047】
収率の評価は、以下のとおりである。
◎◎:95%以上
◎ :90%以上95%未満
○ :80%以上90%未満
× :80%未満
【0048】
【表1】
【0049】
良溶媒として、N-メチルピロリドンを用いた比較例1は、収率が低く、塩素濃度の低減も不十分であった。アセトンを用いた比較例2は、収率が低かった。
一方、実施例1~5は、収率及び塩素濃度の評価結果がともに良好であった。実施例1~3の結果より、有機酸水溶液を貧溶媒として使用することで一層優れた結果となることがわかる。実施例においては、抑制された廃液の排出で、十分な塩素濃度の低減が可能なことがわかる。
【0050】
〔参考例〕
下記表2に示す溶媒について、溶解性及び収率に関する予備実験を行った。
溶解性については、実施例1で得られたPBO前駆体1gを、2cmテフロン被覆撹拌子を加えた50mLビーカーに加え、下記表2に示す溶媒19gを加え、室温25℃、回転数200rpmの条件で2時間撹拌し、目視により評価した。
【0051】
溶解性の評価は、以下のとおりである。
○:完全溶解
△:一部ゲルあり
×:不溶
【0052】
収率については、実施例1で得られたPBO前駆体1gを、2cmテフロン被覆撹拌子を加えた50mLビーカーに加え、下記表2に示す溶媒19gを加え、室温25℃、回転数200rpmの条件で2時間撹拌した。得られた溶液をイオン交換水を20mL加えた100mLに3分間かけて滴下し、さらに10分撹拌した後、10分間精緻した。溶液をあらかじめ重量を測定したろ紙(円形定性ろ紙No.5B、ADVANTEC製)を用いてろ過し、ろ紙ごと85℃送風式乾燥炉で2時間乾燥させた後、重量を測定した。収率を以下の式によってもとめた。
収率[%]=(乾燥後重量[g]-ろ紙重量[g])÷1[g]×100
【0053】
収率の評価は、以下のとおりである。
◎:95%以上
○:90%以上
△:80%以上
-:不溶のため、実施せず。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、No.3及び4、7~8の溶媒を使用した場合も、実施例と同様の効果が期待できることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のポリベンゾオキサゾール前駆体の製造方法によれば、廃液の排出を抑制することが可能であり、かつ残留ハロゲンが十分に低減したポリベンゾオキサゾール前駆体を収率よく得ることができ、産業上の有用性が高い。