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特許7454406積層造形用水硬性組成物及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに二液型水硬性材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】積層造形用水硬性組成物及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに二液型水硬性材料
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240314BHJP
   C04B 28/06 20060101ALI20240314BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20240314BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240314BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B28B1/30
C04B28/06
C04B22/16 A
C04B24/26 E
C04B22/06 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020034286
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133667
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】関 崇宏
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500297(JP,A)
【文献】特許第6521474(JP,B1)
【文献】特表2019-536725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00- 1/54
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合する工程を含む、積層造形用水硬性組成物の製造方法。
【請求項2】
前記セメント含有液が骨材を更に含む、請求項1に記載の積層造形用水硬性組成物の製造方法。
【請求項3】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合してなる、積層造形用水硬性組成物。
【請求項4】
前記セメント含有液が骨材を更に含む、請求項3に記載の積層造形用水硬性組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の積層造形用水硬性組成物の硬化物からなる積層体。
【請求項6】
(A)アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合して積層造形用水硬性組成物を得る工程と、
(B)前記積層造形用水硬性組成物の積層体を造形する工程と、
を含む、積層体の製造方法。
【請求項7】
前記セメント含有液が骨材を更に含む、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、
イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液と、
を備え、これらが分離された状態である積層造形用二液型水硬性材料であって、
前記アルカリ溶液の粘度が20℃及びせん断速度10s-1の条件で、2.0×10~2.0×10mPa・sである、積層造形用二液型水硬性材料。
【請求項9】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、
イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液と、
を備え、これらが分離された状態である積層造形用二液型水硬性材料であって、
前記セメント含有液の粘度が温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で、1.0×10~1.2×10mPa・sである、積層造形用二液型水硬性材料。
【請求項10】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、
イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液と、
を備え、これらが分離された状態である積層造形用二液型水硬性材料であって、
前記セメント含有液が骨材を更に含み、
前記セメント含有液のモルタルフローが0打フローで105mm以上である、積層造形用二液型水硬性材料。
【請求項11】
アルミナセメント、水及びリン酸を含むセメント含有液と、
イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液と、
を備え、これらが分離された状態である二液型水硬性材料であって、
積層造形用である、二液型水硬性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形用水硬性組成物及びその製造方法、積層体及びその製造方法、並びに二液型水硬性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
積層造形法は、目的とする造形物の三次元データを元にして、樹脂、金属、セラミックなどの材料を二次元加工することを繰り返し、積層・造形する方法である。その中で、材料押出方式は、造形材料を直接ノズルなどの開口部を通して選択的に押し出しながら積み重ねていく方法であり、近年では、セメントや粘土鉱物スラリーを用いた押出方式の積層造形技術の研究も積極的に行われている。
【0003】
材料押出方式の積層造形を行うにあたり、積層造形用材料に求められる性能として、例えば、材料の送液し易さ(以下、送液性という。)、ノズルから出た後であり且つ硬化前の材料が自重で変形しないこと(以下、積層性という。)が挙げられる。一般的に材料の送液性と積層性とはトレードオフの関係にあり、例えば、流動性が高く送液性が良好な材料は積層した形状を保持できずに崩壊する可能性が高い。
【0004】
送液性と積層性のトレードオフ関係を解決するために、材料設計の面では粘度に時間やせん断速度依存性がある、高チクソトロピー性を目指すことが一般的である。高チクソトロピー性材料であれば、送液の際にポンプや流路から掛かるせん断応力により粘度が下がるため高い送液性が得られ、吐出後は粘度が回復して積層性を付与することができる。例えば、特許文献1,2は高チクソトロピー性材料をコンセプトとした造形用セメント組成物やそれを用いた積層造形方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-185645号公報
【文献】特開2018-140906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の図6を見ると、造形物にはモルタルのダレが生じており、目的とする形状に対して、正確に造形できているとは言い難い。他方、特許文献2の表8や図3によると、特許文献2に記載の材料は高い積層性を有すると認められるものの、可使時間を確保するために精密な材料設計を必要とする。なお、可使時間は練り混ぜ時間とポンプ圧送に要する時間とを考慮して設定される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みたものであり、送液性と積層性に優れた積層造形用水硬性組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記水硬性組成物の硬化体からなる積層体及びその製造方法、並びに上記水硬性組成物を調製するための二液型水硬性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、セメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含有するアルカリ溶液とを混合することが、送液性と積層性を両立し得る水硬性組成物の製造に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明に係る積層造形用水硬性組成物の製造方法は、セメント、水及び無機酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合する工程を含む。本発明に係る積層造形用水硬性組成物は、セメント、水及び無機酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合してなる。本発明に係る二液型水硬性材料は、セメント、水及び無機酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを備え、これらが分離された状態である。二液型水硬性材料を積層造形に使用する場合、上記セメント含有液と上記アルカリ溶液を使用の直前に混合することが好ましい。
【0010】
上記セメント含有液と、上記アルカリ溶液とが混合されることで、セメントの水和反応が進行する積層造形用水硬性組成物が得られる。本発明者らの試験によると、種々の増粘剤のうち、イオン性エマルション型増粘剤を採用することが優れた送液性を達成するのに有用であり且つイオン性エマルション型増粘剤をアルカリ溶液に配合することが送液性及び積層性を両立するのに有用である。具体的には、本発明によれば、立体造形物を形成すべき場所にセメント含有液及びアルカリ溶液をチューブやパイプで移送する場合でも圧力損失を十分に小さくすることができる。また、立体造形物を製造するための積層工程の直前にこれらの液を混合することで、アルカリ溶液に含まれるイオン性エマルション型増粘剤の作用及びセメントの水和反応の進行によって十分に設計通りの立体造形物を製作することができる。
【0011】
上記アルカリ溶液の粘度は、送液性及び積層性をより一層高度に両立させる観点から、20℃及びせん断速度10s-1の条件で、2.0×10~2.0×10mPa・sであることが好ましい。セメント含有液の粘度は、より一層優れた送液性の観点から、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で、1.0×10~1.2×10mPa・sであることが好ましい。
【0012】
上記セメント含有液は骨材を更に含んでもよい。骨材を含むセメント含有液と上記アルカリ溶液との混合物である水硬性組成物は、例えば、水硬性モルタルである。骨材を含むセメント含有液のモルタルフローは、送液性及び積層性をより一層高度に両立させる観点から、0打フローで105mm以上であることが好ましい。なお、骨材を含まないセメント含有液と上記アルカリ溶液との混合物である水硬性組成物は、例えば、水硬性ペーストである。
【0013】
本発明に係る積層体の製造方法は、(A)セメント、水及び無機酸を含むセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とを混合して水硬性組成物を得る工程と、(B)上記水硬性組成物の積層体を造形する工程とを含む。本発明に係る積層体は、積層造形用水硬性組成物の硬化物からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、送液性と積層性に優れた積層造形用水硬性組成物及びその製造方法が提供される。また、本発明によれば、上記水硬性組成物の硬化体からなる積層体及びその製造方法、並びに上記水硬性組成物を調製するための二液型水硬性材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
<二液型水硬性材料>
本実施形態に係る二液型水硬性材料は、セメント含有液とアルカリ溶液とを備え、これらを混合して使用されるものであり、使用前(例えば、保管時や運搬時)は両液が分離された状態である。両液は別々の容器に収容されていてもよいし、一つの容器の中で互いに隔離された状態で収容されていてもよい。この二液型水硬性材料は、積層造形用のものであり、セメント含有液とアルカリ溶液を使用の直前に混合することが好ましい。以下、セメント含有液及びアルカリ溶液について説明する。
【0017】
(セメント含有液)
セメント含有液は、セメントと、水と、無機酸と、必要に応じて配合される骨材とを含む。セメント含有液は、アルカリ溶液が混合されることによって水硬性を有するセメントスラリー(積層造形用水硬性組成物)となる。なお、セメント含有液が骨材を含まない場合、アルカリ溶液が混合されることによって調製されるセメントスラリーは水硬性ペーストである。他方、セメント含有液が骨材を含む場合、アルカリ溶液が混合されることによって調製されるセメントスラリーは水硬性モルタルである。
【0018】
セメントは特に限定されないが、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等であってよい。セメントは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
セメントの少なくとも一部として、アルミナセメントを用いることが好ましい。アルミナセメントは特に限定されないが、アルミナ含有量が比較的高いものを用いるとよく、例えばアルミナ高含有アルミナセメント、アルミナ中含有アルミナセメントを用いることができる。アルミナ高含有アルミナセメントはアルミナ含有量がアルミナセメントの総質量の60質量%以上であり、アルミナ中含有アルミナセメントはアルミナ含有量が45質量%~60質量%である。
【0020】
水は特に限定されないが、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水等を使用することができる。水の含有量は、セメント100質量部に対して好ましくは20~100質量部、より好ましくは25~90質量部、更に好ましくは30~80質量部である。
【0021】
無機酸は、メタリン酸、亜リン酸、リン酸、又はホスホン酸を含むことが好ましい。メタリン酸、亜リン酸、リン酸、又はホスホン酸を含む無機酸としては、例えば、五酸化二リン、二リン酸、三リン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、テトラメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、N-(ホスホノメチル)イミノ二酢酸、2-カルボキシエチルホスホン酸、2-ヒドロキシホスホノカルボン酸等であってよい。無機酸は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。無機酸の含有量は、セメント100質量部に対して好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.1~15質量部、更に好ましくは0.1~10質量部、特に好ましくは0.3~10質量部である。
【0022】
骨材は、例えば、砂である。砂としては、珪砂、川砂、海砂、山砂及び砕砂等の砂類を使用することができる。砂の粒子径は、水硬性モルタルの押出しやすさの観点から、好ましくは2000μm未満、より好ましくは1180μm未満である。砂の粒子径はJIS Z 8801-2006に規定される目開き寸法の異なる数個の篩を用いて測定することができる。セメント含有液が砂を含む場合、セメント含有液の砂の含有量は、セメントと砂との質量の合計を基準として例えば30~80質量%であり、好ましくは40~70質量%、更に好ましくは50~70質量%である。
【0023】
セメント含有液が骨材を含む場合、流動性確保の面からモルタルフローは0打フローで105mm以上であることが好ましく、更に好ましくは107mm以上である。水硬性モルタルのモルタルフローは0打フローで103mm以下であることが好ましく、更に好ましくは102mm以下である。
【0024】
セメント含有液は、セメント、水、無機酸及び砂の他に、増粘剤、スラグ、石炭灰、インク、顔料、分散剤、凝結調整剤、膨張材、収縮低減剤、石膏、消泡剤、短繊維等を含有してもよい。
【0025】
増粘剤は、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、粘土鉱物系のベントナイトが好ましい。増粘剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また上述の増粘剤に、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、水溶性ポリマー系増粘剤を組み合わせて用いることができる。
【0026】
セメント含有液の粘度は、送液時の良好な流動性を達成する観点から、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で、例えば、1.0×10~1.2×10mPa・sであることが好ましい。温度20℃及びせん断速度0.1s-1の条件で測定されるセメント含有液の粘度は、例えば、1.0×10~5.0×10mPa・sであってよい。セメント含有液の粘度は、例えば、水セメント比や増粘剤の配合量を調節することで調整することができる。
【0027】
(アルカリ溶液)
アルカリ溶液は、アルカリ源とイオン性エマルション型増粘剤とを含む。アルカリ溶液のpHが7より大きく14以下の溶液であれば特に限定されないが、pHが9以上14以下の溶液であることが好ましい。アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、アミン、アルカノールアミン、オルトケイ酸ナトリウム、水酸化リチウム、アミノメチルプロパノール、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アルミン酸ナトリウム等を含む溶液であってよい。
【0028】
イオン性エマルション型増粘剤は、イオン性(アニオン性又はカチオン性)であり且つエマルション型の増粘剤である。イオン性増粘剤としてはアクリル酸金属塩ポリマー、メタクリル酸系金属塩ポリマー、第四級アンモニウム塩系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、アクリル酸系四級アンモニウム塩ポリマー、メタクリル酸系四級アンモニウム塩ポリマー、カルボン酸系ポリマーを例示することができる。エマルションはこれらの高分子が乳化した状態であり、使用時にアルカリ溶液に添加することで可溶化される。
【0029】
アルカリ溶液の粘度は特に限定されず、例えば、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定されるアルカリ溶液の粘度は、例えば、2.0×10~2.0×10mPa・sであり、下限値は2.5×10mPa・s又は3.0×10mPa・sであってよく、上限値は1.80×10mPa・s又は1.90×10mPa・sであってよい。
【0030】
<積層造形用水硬性ペースト>
積層造形用水硬性ペーストは、骨材を含有しないセメント含有液と、イオン性エマルション型増粘剤を含有するアルカリ溶液とを混合することによって調製される。セメント含有液がイオン性エマルション型増粘剤と混合されると、粘度が急激に上昇して積層性に優れる水硬性ペーストが得られる。温度20℃及び10s-1の条件で測定される水硬性ペーストの粘度は、例えば、1.0×10~1.0×10mPa・sである。温度20℃及び0.1s-1の条件で測定される水硬性ペーストの粘度は例えば、5.0×10~6.0×10mPa・sである。
【0031】
セメント含有液とアルカリ溶液を混合した積層造形用水硬性ペーストの可使時間は、セメント含有液及びアルカリ溶液の水セメント比、アルカリ溶液の溶質量、増粘剤の種類、溶質の種類、石膏量、無機酸の濃度、凝結調整剤の量等を変えることにより、調整することができる。上記可使時間は、例えば、10秒~300分であり、下限値は20秒又は30秒であってよく、上限値は250分又は200分であってよい。
【0032】
<積層造形用水硬性モルタル>
水硬性モルタルは、上記セメント含有液が骨材を含み、増粘剤を含有するアルカリ溶液と混合することで製造することができる。水硬性モルタルに用いられる骨材は好ましくは砂である。
【0033】
<積層体>
本実施形態に係る積層体の製造方法は、(A)上記セメント含有液と、上記アルカリ溶液とを混合して水硬性組成物(水硬性ペースト又は水硬性モルタル)を得る工程と、(B)上記水硬性組成物の積層体を例えば押出などの方法によって造形する工程とを含む。本実施形態に係る積層体は、水硬性組成物の硬化物からなり、例えば、立体造形物である。
【0034】
水硬性組成物は、セメント含有液及びアルカリ溶液以外に、着色成分を含んでいてもよい。着色成分としては、ペンキ、顔料等が挙げられる。着色成分は、水硬性組成物を得るまでの任意の工程で投入すればよく、例えば、セメント含有液又はアルカリ溶液に含有していてもよく、両液の混合器に直接投入してもよい。なお、十分に均一に着色されたセメントスラリーを混合器で調製する観点から、アルカリ溶液と比較して使用量の多いセメント含有液に着色成分が予め含まれていることが好ましい。
【実施例
【0035】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0036】
<せん断粘度の測定方法>
材料及び試料のせん断粘度を以下のようにして測定した。すなわち、Anton Paar社製レオメーターReolabQCに共軸二重円筒治具CC27及び羽根型測定治具ST14-4V-35を取り付けた。温度20℃、せん断速度0.1s-1及び10s-1の条件下でそれぞれ180秒測定した。なお、測定には、練り混ぜ後3分経過した試料を用いた。なお、表中で“M-”と表記したものに関しては、粘度が低いために、装置のトルク検出限界以下であったことを示す。
【0037】
<流動性及び積層性評価>
練り混ぜ後3分経過した試料を円筒カップに入れ、135°傾けて10秒保持した。
(流動性の評価基準)
〇:135°傾けた状態で流れた。
×:135°傾けた状態で流れなかった。
(積層性の評価基準)
〇:135°傾けた状態で流れなかった。
×:135°傾けた状態で流れた。
【0038】
<フロー試験>
「JIS R 5201:セメントの物理試験方法」に準拠してフロー試験を実施した。なお、試料は練り混ぜ後3分経過したものを用い、フロー値はフローコーンを取り除いた直後の状態におけるフロー値MF(0打時のフロー)と、15打後のフロー値MF15を測定した。なお、フローコーンの底面の直径はφ100mmである。
【0039】
<使用材料>
以下の材料を準備した。
・水硬性結合材:アルミナ高含有アルミナセメント(Al:68.7%)及び半水石膏(アルミナセメント:半水石膏=70:30)
・無機酸:リン酸(濃度:85wt%)
・セメント含有液A0:上記水硬性結合材100質量部に対して水51.2質量部及び上記無機酸1.6質量部を配合したもの(MF:203mm)
・アルカリ溶液B0:NaOH水溶液(濃度:3mol/L)
・増粘剤C:アクリル酸系ポリマー/アニオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度2.69×10mPa・s)
・増粘剤D:メタクリレート4級アンモニウム塩ポリマー/カチオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度5.20×10mPa・s)
・増粘剤E:4級アンモニウム塩系ポリマー/カチオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分40%の製品の粘度1.03×10mPa・s)
・増粘剤F:アクリルアミド系ポリマー/ノニオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度6.68×10mPa・s)
・増粘剤G:ダイユータンガム/アニオン性/粉末
・増粘剤H:セルロース系/ノニオン性/粉末
・砂:鹿島6号珪砂(高野商事株式会社製)
【0040】
表1に各材料のせん断粘度及び評価結果を示す。なお、増粘剤G,Hは粉末のため、せん断粘度の測定、並びに流動性及び積層性の評価ができなかった。
【0041】
【表1】
【0042】
(セメント含有液A1の調製)
セメント含有液A0(100質量部)及び増粘剤C(0.71質量部)をプラスチック製容器に入れ、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これによりセメント含有液A1(ペースト)を得た。表2にセメント含有液A1のせん断粘度及び評価結果を示す。セメント含有液A1のフロー値MFは102mmであり、MF15は121mmであった。流動性評価とフロー値より、セメント含有液A0に増粘剤Cを入れたセメント含有液A1は流動性が不十分であることが分かった。
【0043】
(セメント含有液A2~A6の調製)
増粘剤Cの代わりに、増粘剤D~Hをそれぞれ使用したことの他は、セメント含有液A1と同様にして、セメント含有液A2~A6を調製した。表2にセメント含有液A1~A6のせん断粘度及び評価結果を示す。増粘剤が添加されたセメント含有液(セメント含有液A4を除く。)は流動性が確保できないことが分かった。
【0044】
【表2】
【0045】
(セメント含有液A7の調製)
セメント含有液A0(100質量部)及び砂(セメント含有液A0に含まれる水硬性結合材と同じ質量)をプラスチック製容器に入れ、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで1分間練り混ぜた。これによりセメント含有液A7(モルタル、水/結合材=0.51、砂/結合材=1.0)を得た。表3にセメント含有液A7のせん断粘度及び評価結果を示す。セメント含有液A7のフロー値MFは163mmであり、MF15は186mmであった。フロー値から流動性が高いことが分かった。
【0046】
(セメント含有液A8の調製)
砂の量を1.5倍に増やしたことの他は、セメント含有液A7と同様にしてセメント含有液A8を調製した。すなわち、セメント含有液A8の水/結合材は0.51とし、砂/結合材は1.5とした。表3にセメント含有液A8の評価結果を示す。セメント含有液A8の流動性評価は○であった。セメント含有液A8のフロー値MFは115mmであり、MF15は150mmであった。
【0047】
(セメント含有液A9の調製)
水及び砂の量を変更したことの他は、セメント含有液A7と同様にしてセメント含有液A8を調製した。すなわち、セメント含有液A9の水/結合材は0.6とし、砂/結合材は2.0とした。表3にセメント含有液A9の評価結果を示す。セメント含有液A9の流動性評価は○であった。セメント含有液A9のフロー値MFは107mmであった。
【0048】
(セメント含有液A10の調製)
セメント含有液A7(100質量部)に増粘剤Cを0.71質量部加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これによりセメント含有液A10(水/結合材=0.51、砂/結合材=1.0)を得た。表3にセメント含有液A10のせん断粘度及び評価結果を示す。セメント含有液A10のフロー値MFは100mmであり、MF15は112mmであった。セメント含有液A10の流動性評価は×であった。セメント含有液に増粘剤を添加すると流動性が確保できないことが分かった。
【0049】
【表3】
【0050】
(アルカリ溶液B1の調製)
100mL容積のガラス製スクリュー管に、アルカリ溶液B0(100質量部)及び増粘剤C(11.6質量部)を入れた後、蓋をして手で振り混ぜた。試料を安定させるため、そのまま24時間静置した。表4にアルカリ溶液B1のせん断粘度及び評価結果を示す。
【0051】
(アルカリ溶液B2~B4の調製)
増粘剤Cの代わりに、増粘剤D~Fをそれぞれ使用したことの他は、アルカリ溶液B1と同様にして、アルカリ溶液B2~B4を調製した。表4にアルカリ溶液B2~B4のせん断粘度及び評価結果を示す。
【0052】
(アルカリ溶液B5)
アルカリ溶液B0(100質量部)をプラスチック製容器に入れ、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて回転数1200rpmで撹拌しながら、増粘剤G(11.6質量部)をダマにならないように加えた。増粘剤Gを全量加えた後に、回転数1200rpmで更に1分間練り混ぜた。試料を安定させるため、水が蒸発しないように蓋をし、そのまま24時間静置した。表4にアルカリ溶液B5のせん断粘度及び評価結果を示す。
【0053】
(アルカリ溶液B6)
増粘剤Gの代わりに、増粘剤Hを使用したことの他は、アルカリ溶液B5と同様にして、アルカリ溶液B6を調製した。表4にアルカリ溶液B6のせん断粘度及び評価結果を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
[実施例1]
セメント含有液A0(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B1(6.83質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性ペーストP1を得た。表5に水硬性ペーストP1のせん断粘度及び評価結果を示す。水硬性ペーストP1のフロー値MFは100mmであり、MF15は126mmであった。
【0056】
以上を整理すると、セメント含有液A0と、アルカリ溶液B1はそれぞれ流動性が○であり、これらを混合した水硬性ペーストP1の積層性が○で、フロー値MFが100mmであることから、積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0057】
[実施例2]
アルカリ溶液B1の代わりに、アルカリ溶液B2を使用したことの他は、実施例1と同様にして水硬性ペーストP2を得た。表5に水硬性ペーストP2のせん断粘度及び評価結果を示す。水硬性ペーストP2も積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0058】
[実施例3]
アルカリ溶液B1の代わりに、アルカリ溶液B3を使用したことの他は、実施例1と同様にして水硬性ペーストP3を得た。表5に水硬性ペーストP3のせん断粘度及び評価結果を示す。水硬性ペーストP3も積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0059】
[比較例1]
セメント含有液A0(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B0(6.11質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性ペーストP4を得た。表5に水硬性ペーストP4のせん断粘度及び評価結果を示す。セメント含有液A0及びアルカリ溶液B0はいずれも流動性が○であるが、混合した後の水硬性ペーストの積層性が×であることから、送液性と積層性の両立は困難である。
【0060】
[比較例2]
セメント含有液A0の代わりに、セメント含有液A4を使用したことの他は、比較例1と同様にして水硬性ペーストP5を得た。表5に水硬性ペーストP5のせん断粘度及び評価結果を示す。セメント含有液A4及びアルカリ溶液B0はいずれも流動性が○であるが、混合した後の水硬性ペーストの積層性が×であることから、送液性と積層性の両立は困難である。
【0061】
【表5】
【0062】
[実施例4]
セメント含有液A7(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B1(4.16質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性モルタルM1を得た。表6に水硬性モルタルM1のせん断粘度及び評価結果を示す。表6に示された結果から、水硬性モルタルM1は積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0063】
[実施例5]
セメント含有液A7の代わりに、セメント含有液A8を使用したことの他は、実施例4と同様にして水硬性モルタルM2を得た。表6に水硬性モルタルM2の評価結果を示す。水硬性モルタルM2も積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0064】
[実施例6]
セメント含有液A7の代わりに、セメント含有液A9を使用したことの他は、実施例4と同様にして水硬性モルタルM3を得た。表6に水硬性モルタルM3の評価結果を示す。水硬性モルタルM3も積層造形プロセスにおいて送液性と積層性との両立が可能である。
【0065】
【表6】