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特許7454471筋萎縮遺伝子の発現を抑制するビフィズス菌
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  • 特許-筋萎縮遺伝子の発現を抑制するビフィズス菌 図1
  • 特許-筋萎縮遺伝子の発現を抑制するビフィズス菌 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-13
(45)【発行日】2024-03-22
(54)【発明の名称】筋萎縮遺伝子の発現を抑制するビフィズス菌
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240314BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240314BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240314BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
A23L2/00 F
A23L33/135
C12N15/09 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020147207
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042041
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-01-05
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-03231
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊木 明美
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】谷井 勇介
(72)【発明者】
【氏名】上原 和也
(72)【発明者】
【氏名】森 綾香
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087280(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A23L 2/52
A23L 33/135
C12N 15/09
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮遺伝子であるMuRF1の発現を抑制するビフィドバクテリウムブレーベN106株(NITE BP-03231)のビフィズス菌。
【請求項2】
請求項に記載のビフィズス菌を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮遺伝子の発現を抑制する乳児腸内由来のビフィズス菌の菌株及びその菌体を含有する飲料、食品に関するものである。特に、ビフィドバクテリウム・ブレーベに関するものである。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)は総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%~14%であれば高齢化社会、14%~21%であれば高齢社会、21%以上であれば超高齢社会と定義している。2019年に総務省が発表したデータによれば、日本の65歳以上の高齢者は推計3588万人で、総人口に占める割合は28.4%となっている。そのため、現在の日本は超高齢社会に該当する。高齢化の進んだ背景としては、医療進歩などにより平均寿命が延びたためと考えられる。
【0003】
一方、平均寿命が延びたとしても、身体は加齢とともに老化していく。老化現象の一例として、筋力(筋量)の低下が挙げられる。筋肉は合成と分解のバランスにより形成されている。筋肉の合成に関与する遺伝子としてはPGC-1αが、筋肉の分解に関与する遺伝子としてはMuRF1遺伝子が、それぞれ知られている。MuRF1は、骨格筋組織を構成する「ミオシン重鎖」の分解を誘導することが明らかとなっている。筋肉の分解が筋肉の合成を上回れば、筋肉の分解が進行し筋量は減少する。さらに、筋肉の分解が進むと筋肉は萎縮していく(筋萎縮)。
【0004】
筋量が一定程度低下すると、サルコペニアと判断される。特に、骨格に沿って分布し、身体の活動を支える骨格筋の筋量が減ると、体が思うように動かせず、転倒による骨折、入院、寝たきり等のリスクを増加させる。そのため、健康的で文化的な生活が送るためには筋量の低下を防ぐ必要がある。
【0005】
そこで、筋量の低下を防ぐために、習慣的な運動が勧められている。しかし、老化により筋肉の萎縮が生じてしまった者、高齢者に限らず臥床や運動器官(骨、関節)や循環器に負担をかけられない者、毎日忙しい者等は、持続的な運動を継続することが難しい。そのため、本人が持続的な運動を望んだとしても実施できない者の筋肉を十分に回復させることは難しい。また、怪我などによりギプスなどで固定してしまった場合も、筋肉が拘縮し、筋肉の萎縮が促進されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-154387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は運動以外の方法による筋萎縮を予防する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、本発明者らは、筋萎縮遺伝子として知られているMuRF1に着目し、MuRF1の発現を食事によって抑制することができないか検討を行った。その結果、乳児糞便を分離源としたビフィズス菌の中にMuRF1の発現を抑制するビフィズス菌が存在することを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、筋萎縮遺伝子の発現を抑制するビフィドバクテリウム属ブレーベ種に属するビフィズス菌であることを特徴とする。ここで、本発明でいう筋萎縮遺伝子とは、直接または間接問わず、筋肉の萎縮に関与するタンパク質をコードした遺伝子配列を含む概念である。さらに、筋萎縮遺伝子がMuRF1であることを特徴とする。
【0010】
また、上記課題解決のため、本発明は、上記ビフィズス菌が、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株(NITE BP-03231)であることを特徴とするビフィズス菌である。
【0011】
さらに、上記課題解決のため、本発明は上記ビフィズス菌を含有する飲食品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のビフィズス菌は、筋萎縮遺伝子の発現を抑制する。これにより、運動困難者であっても食事により筋萎縮を予防し、QOLを高めることができる。また、ビフィズス菌の摂取により腸内環境を整えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明の菌株と比較菌株のMuRF1発現抑制効果を比較した図である。
図2図2は本発明の菌株と基準株のMuRF1発現抑制効果を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株(NITE BP-03231)
本発明のビフィズス菌はビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)である。本発明におけるN106の記号は、日清食品ホールディングス株式会社で独自に菌株に付与した番号である。本発明の菌株は、乳児糞便より本発明者によって初めて分離されたものである。
【0015】
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株は、下記の条件で寄託されている。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(3)受託番号:NITE BP-03231
(4)識別のための表示:N106
(5)寄託日:2020年6月18日
【0016】
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌学的性質は、以下の表1及び表2に示す通りである。本菌学的性質は、Bergey’s manual of systematic bacteriology Vol.2(1986)に記載の方法による。表1は本菌株に関する形状などを、表2はアピ20A(ビオメリュー製)による生理・生化学的性状試験の結果を示す。表2において、「+」が陽性、「-」は陰性を示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
2.MuRF1発現抑制評価試験
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株は、後述する実験例に示すように、筋萎縮遺伝子であるMuRF1の発現抑制について活性が高い菌株である。MuRF1の遺伝子発現抑制評価については、以下の試験方法によって実施した。
【0020】
<ビフィズス菌懸濁液の調製>
MuRF1発現抑制評価に用いた被検体(ビフィズス菌懸濁液)は、ビフィズス菌を表3に示すGAM培地(商品名「GAM Broth」:ニッスイ株式会社)で37℃ ・24時間培養した。培養にはアネロパック(三菱ガス化学株式会社)を用い、嫌気条件下で培養した。次に、増殖した菌体を遠心分離して集菌した。集菌した菌体を滅菌水にて3回洗浄し、加熱殺菌後、凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。得られた乾燥菌体粉末をPBSに懸濁したものをビフィズス菌懸濁液とした。
【0021】
【表3】

【0022】
<MuRF1発現抑制評価試験>
MuRF1発現抑制について評価をするために、In vitro試験を行った。試験にはヒト骨格筋筋芽細胞(ロンザ株式会社)を用いた。まず、メーカーのプロトコルに従い、増殖用培地(商品名「SkBM2」:ロンザ株式会社)中に凍結細胞を添加して培養、増殖させた。次に、96wellプレートの各wellに2.0×104 cellsずつ播種した。CO2インキュベーター(5% CO2、37℃)で3日間培養してプレートに接着・増殖させたのち、分化用培地(商品名「DMEM:F12培地」:ロンザ株式会社に2%ウマ血清を加えて調製したもの)に交換して5日間培養し、筋管細胞に分化させた。その後、分化用培地に上記ビフィズス菌懸濁液を最終濃度が10 μg/mLになるように添加した。また、骨格筋においてMuRF1の発現を上昇させることが知られているデキサメタゾンを0.1 μMになるように培地に添加した。24時間培養後、Rneasy mini kit(QIAGEN社)を用いてRNA抽出した。抽出したRNAから、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡株式会社)を用いてcDNA合成した。RT-PCRによる遺伝子発現測定はTHUNDERBIRD SYBR qPCR mix(東洋紡株式会社)およびLightCycler480 System II(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた。RNA抽出、cDNA合成、RT-PCRは各キットおよび機器のプロトコルに従った。測定に使用したプライマー配列は表4に示す。
【0023】
【表4】
【0024】
3.飲食品
本発明のビフィズス菌は飲食品に含有せしめて使用することができる。本発明のビフィズス菌は特に飲料に好適に用いることができるが、例えば、発酵乳及び乳酸菌飲料が考えられる。現行の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令では、成分規格として発酵乳(無脂乳固形分8.0 %以上のもの)や乳製品乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0 %以上のもの)であれば1.0×107 cfu/mL以上、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3.0 %未満のもの)であれば1.0×106 cfu/mL以上必要とされるが、乳などのはっ酵液中で増殖させたり、最終製品の形態で増殖させたりすることによって上記の菌数を実現することができる。また、ビフィズス菌入りの発酵乳及び乳酸菌飲料以外にも、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等にも利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。上記の他、本発明の食品は、前記ビフィズス菌と共に、必要に応じて適当な担体及び添加剤を添加して製剤化された形態(例えば、粉末、顆粒、カプセル、錠剤等)であってもよい。
【0025】
本発明のビフィズス菌は、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、栄養補助食品等に含有させることも有用である。
【0026】
また、本発明のビフィズス菌は、食品以外にも化粧水等の化粧品分野、整腸剤等の医薬品分野、歯磨き粉等の日用品分野、サイレージ、動物用餌、植物液体肥料等の動物飼料・植物肥料分野においても応用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のビフィズス菌(ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株)は、筋萎縮遺伝子であるMuRF1の発現抑制について高い活性を有する。
【実施例
【0028】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
<試験例1>MuRF1発現抑制評価
本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株と、自社保有の11株の比較菌株についてMuRF1発現抑制についての活性を評価した。
【0030】
まず、本発明の菌株、後述する基準株、及び比較菌株のそれぞれについて、表3に示すGAM培地(商品名「GAM Broth」:ニッスイ株式会社)で37℃ ・24時間培養した。培養にはアネロパック(三菱ガス化学株式会社)を用い、嫌気条件下で培養した。次に、増殖した菌体を遠心分離して集菌した。集菌した菌体を滅菌水にて3回洗浄し、加熱殺菌後、凍結した。その後、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、乾燥菌体粉末を得た。得られた乾燥菌体粉末をPBSに懸濁したものをビフィズス菌懸濁液とした。
【0031】
次に、96wellプレートに2.0×104 cells/wellずつヒト骨格筋筋芽細胞を播種して3日間培養し、さらに分化用培地に交換して5日間培養することで、筋管細胞に分化させた。次に、各試料群を最終濃度が10 μg/mLになるように添加した。また、デキサメタゾンを0.1 μMになるように培地に添加した。24時間培養後、細胞からRNAを抽出し、RT-PCRによる遺伝子発現測定を行った。なお、ビフィズス菌懸濁液を添加せず、デキサメタゾンのみ添加したものをcontrolとした。
【0032】
各試料群を添加した場合における結果を図1に示す。結果はMuRF1/RPLP0の値で示し、controlを『1』として比較した。
【0033】
図1に示すように、ビフィズス菌の中には、MuRF1の発現を促進するものもあれば、抑制するものも存在していることがわかる。このうち、N106, N185株は、MuRF1の発現抑制について高い活性を示した
【0034】
<試験例2>ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の優位性評価
次に、本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の優位性を確認するため、基準株のビフィドバクテリウム・ブレーベJCM1192との比較で評価を行った。試験は試験例1と同様の方法で3回行い、その平均値を用いて比較を行った。結果を図2に示す。
【0035】
図2からも明らかなように、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株を添加した群では、control群と比較してMuRF1の発現が有意に抑制された。
【0036】
以上説明したように、本発明のビフィドバクテリウム・ブレーベN106株は筋萎縮遺伝子であるMuRF1の発現を効果的に抑制する機能を持っていることが明らかとなった。
図1
図2
【配列表】
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