(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240315BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20240315BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L9/20
(21)【出願番号】P 2020024669
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2019029832
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591152584
【氏名又は名称】高梨乳業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】青木 祐子
(72)【発明者】
【氏名】西 俊郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 世里子
(72)【発明者】
【氏名】小笠 勇馬
(72)【発明者】
【氏名】窪田 耕一
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-068171(JP,A)
【文献】特開2018-068152(JP,A)
【文献】特開2017-079737(JP,A)
【文献】特開2015-142570(JP,A)
【文献】特開2010-148471(JP,A)
【文献】Tateo MURUI et al.,“Determination of Triacylglycerol Composition of Vegetable Oil and Application to Identifying the Components of Oil-Admixture.”,Journal of Japan Oil Chemists' Society,1996年,Vol. 45, No. 1,p.29-36,DOI: 10.5650/jos1996.45.29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00
A23L 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
24質量%以上48質量%以下の、植物性油脂を含む油脂を含有する起泡性水中油型乳化物であって、
前記植物性油脂が、油脂A及び油脂Bを含み、かつ、前記植物性油脂中のUUU型トリグリセリド含有量が14質量%以上24質量%以下である、起泡性水中油型乳化物。
(ただし、油脂A、油脂B、及びUUU型トリグリセリドは、以下を意味する。
油脂A:構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%以上であり、ヨウ素価が3~30である、
ラウリン系油脂であって、パーム核油、ヤシ油、ババス油、及びこれらの分別油からなる群から選択される少なくとも1種である、ラウリン系油脂。
油脂B:構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%未満であり、ヨウ素価が18~48である、
パーム系油脂とラウリン系油脂のエステル交換油脂
であって、前記ラウリン系油脂がパーム核油、ヤシ油、ババス油、及びこれらの分別油からなる群から選択される少なくとも1種である、エステル交換油脂。
UUU型トリグリセリド:炭素数16以上の不飽和脂肪酸(U)を構成脂肪酸とするトリグリセリド。)
【請求項2】
前記油脂A及び/又は前記油脂Bにおけるラウリン系油脂が、パーム核油を含む、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項3】
前記パーム系油脂が、パーム油、パーム分別油、パームエステル交換油、及びパーム極度硬化油からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項4】
前記油脂Aにおいて、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が40質量%以上55質量%以下であり、ヨウ素価が、13以上23以下である、請求項1または2に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項5】
前記油脂Bにおいて、前記エステル交換油脂は、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が10質量%以上25質量%以下であり、ヨウ素価が、34以上46以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項6】
前記植物性油脂中のS2U型トリグリセリド含有量が6.0質量%以下である、請求項1
~5のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
(但し、S2U型トリグリセリドは、以下を意味する。
S2U型トリグリセリド:2つの炭素数16以上の飽和脂肪酸(S)と1つのUとを構成脂肪酸とするトリグリセリド。)
【請求項7】
前記植物性油脂中の前記油脂Aの含有量が前記油脂Bの含有量よりも多い、請求項1
~6のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項8】
前記植物性油脂が、油脂Cをさらに含有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
(ただし、油脂Cは、以下を意味する。
油脂C:UUU型トリグリセリド含有量が60質量%以上である油脂。)
【請求項9】
前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、レシチン及び/又はポリソルベートをさらに含有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項10】
前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、有機酸モノグリセリドをさらに含有する、請求項1~
9のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項11】
前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、ベヘン酸モノグリセリドをさらに含有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の起泡性水中油型乳化物を起泡してなる、ホイップドクリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化物に関する。また、該起泡性水中油型乳化物を起泡してなるホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
植物性油脂を主原料とするホイップドクリームは、生クリームの代替として、ケーキやパンなどのベーカリー食品への、ナッペ、サンド、トッピングなどの用途に使用されてきた。ホイップドクリームに使用される植物油脂としては、例えば、ラウリン系油脂を主体としたタイプ(例えば、特許文献1、2参照)や、パーム油の中融点分別油などのSUS型トリグリセリドを主体としたタイプ(例えば、特許文献3、4参照)が考案されている。
【0003】
上記ラウリン系油脂を主体としたタイプは、冷涼感のある良好な口どけを有するが、乳化が不安定でホイップ前のクリームが保存中に増粘しやすいという課題があった。また、上記SUS型トリグリセリドを主体としたタイプは、良好な口どけを有するが、ラウリン系油脂を主体としたタイプと比較して、冷涼感に劣るものであった。また、ホイップドクリームは、サンド等の用途によっては冷涼感とともに瑞々しさが求められるが、両タイプともにドライな食感になりやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-304713号公報
【文献】特開2009-50235号公報
【文献】特開2006-223176号公報
【文献】特開2010-68716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物の開発が望まれている。
【0006】
本発明の課題は、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、起泡性水中油型乳化物において、特定の植物性油脂を併用し、かつ 該植物性油脂中のUUU型トリグリセリド含有量を調節することで、上記課題を解決できることを見出した。これにより本発明は完成された。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
[1]24質量%以上48質量%以下の、植物性油脂を含む油脂を含有する起泡性水中油型乳化物であって、
前記植物性油脂が、油脂A及び油脂Bを含み、かつ、前記植物性油脂中のUUU型トリグリセリド含有量が14質量%以上24質量%以下である、起泡性水中油型乳化物。
(ただし、油脂A、油脂B、及びUUU型トリグリセリドは、以下を意味する。
油脂A:構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%以上であり、ヨウ素価が3~30である、非硬化非エステル交換油脂。
油脂B:構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%未満であり、ヨウ素価が18~48である、エステル交換油脂。
UUU型トリグリセリド:炭素数16以上の不飽和脂肪酸(U)を構成脂肪酸とするトリグリセリド。)
[2]前記植物性油脂中のS2U含有量が6.0質量%以下である、[1]に記載の起泡性水中油型乳化物。
(但し、S2U型トリグリセリドは、以下を意味する。
S2U型トリグリセリド:2つの炭素数16以上の飽和脂肪酸(S)と1つのUとを構成脂肪酸とするトリグリセリド。)
[3]前記植物性油脂中の前記油脂Aの含有量が前記油脂Bの含有量よりも多い、[1]または[2]に記載の起泡性水中油型乳化物。
[4]前記植物性油脂が、油脂Cをさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物。
(ただし、油脂Cは、以下を意味する。
油脂C:UUU型トリグリセリド含有量が60質量%以上である油脂。)
[5]前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、レシチン及び/又はポリソルベートをさらに含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物。
[6]前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、有機酸モノグリセリドをさらに含有する、(1)~(5)のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物。
[7]前記起泡性水中油型乳化物が、乳化剤として、ベヘン酸モノグリセリドをさらに含有する、(1)~(6)のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物。
[8](1)~(7)のいずれかに記載の起泡性水中油型乳化物を起泡してなる、ホイップドクリーム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[定義]
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに、3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1、2、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。なお、トリグリセリドの構成脂肪酸の略称として、以下を用いる。S:炭素数16以上の飽和脂肪酸、U:炭素数16以上の不飽和脂肪酸。
【0011】
本発明において、飽和脂肪酸Sは、炭素数が16以上であり、好ましくは16~24であり、より好ましくは16~18である。また、トリグリセリド分子に2つの飽和脂肪酸Sが結合するS2U型トリグリセリドの場合、飽和脂肪酸Sは同一の飽和脂肪酸であってもよいし、異なる飽和脂肪酸であってもよい。具体的には、飽和脂肪酸Sとしては、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、およびリグノセリン酸(24)が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0012】
本発明において、不飽和脂肪酸Uは、炭素数が16以上であり、好ましくは16~24であり、より好ましくは16~18である。また、トリグリセリド分子に3つの不飽和脂肪酸Uが結合するUUU型トリグリセリドの場合、不飽和脂肪酸Uは同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。具体的には、不飽和脂肪酸Uとしては、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0013】
[起泡性水中油型乳化物]
本発明の起泡性水中油型乳化物は、少なくとも油脂及び水を含むものであり、乳化剤やその他の添加剤をさらに含んでもよい。本発明の起泡性水中油型乳化物は、主に製菓製パン領域で使用されるものである。
【0014】
(油脂)
起泡性水中油型乳化物中の油脂含有量は、24質量%以上48質量%以下であり、好ましくは32質量%以上45質量%以下であり、より好ましくは34質量%以上42質量%以下である。起泡性水中油型乳化物中の油脂含有量が上記数値範囲内であれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0015】
上記油脂は植物性油脂を含み、前記植物性油脂は、少なくとも下記の油脂A及び油脂Bを含み、油脂Cをさらに含んでもよく、油脂A~C以外のその他の油脂をさらに含んでもよい。起泡性水中油型乳化物に含まれる油脂中の植物性油脂の割合は、好ましくは45~100質量%であり、より好ましくは70~100質量%であり、さらに好ましくは、80~100質量%であり、ことさらに好ましくは95~100質量%である。なお、本発明において植物性油脂は、植物油脂(植物から得られる油脂)および植物油脂を原料とした加工油脂を意味する。前記加工油脂としては、例えば、合成油脂、エステル交換油脂、水素添加油脂、分別油脂等が挙げられる。
【0016】
(油脂A)
油脂Aは、非硬化非エステル交換油脂であって、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%以上であり、好ましくは37質量%以上60質量%以下、より好ましくは40質量%以上55質量%以下であり、さらに好ましくは42質量%以上52質量%以下である。また、ヨウ素価が3以上30以下であり、好ましくは7以上27以下であり、より好ましくは10以上25以下であり、さらに好ましくは13以上23以下である。油脂Aは、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合およびヨウ素価が上記数値範囲内であれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0017】
油脂Aとしては、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%以上であるラウリン系油脂を用いることができる。ラウリン系油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、及びこれらの分別油等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
植物性油脂中の油脂Aの含有量は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量以上65質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以上60質量%以下である。また、植物性油脂中の、油脂Aの含有量は、下記の油脂Bの含有量よりも多いこと(油脂Aの含有量/油脂Bの含有量>1)が好ましい。油脂Aの含有量が油脂Bの含有量よりも多いことで、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0019】
(油脂B)
油脂Bは、エステル交換油脂であって、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合が35質量%未満であり、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上20質量%である。また、ヨウ素価が25以上55以下であり、好まし28以上52以下であり、より好ましくは31以上49以下であり、さらに好ましくは34以上46以下である。油脂Bは、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の割合およびヨウ素価が上記数値範囲内であれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0020】
油脂Bは、パーム系油脂と上記のラウリン系油脂を含む混合油脂をエステル交換反応することによって得ることができる。ここで、パーム系油脂は、パーム油およびパーム油を原料とする加工油脂(分別油脂、エステル交換油脂、硬化油脂など)を意味する。パーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、パームエステル交換油、パーム極度硬化油等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0021】
上記のパーム分別油は、好ましくはヨウ素価10~70のパーム分別油であり、より好ましくはヨウ素価30~60のパーム分別油である。ヨウ素価10~70のパーム分別油の具体例としては、例えば、パームオレイン(パーム油を分別して得られる低融点部)、パームスーパーオレイン(パームオレインを分別して得られる低融点部)、パームステアリン、ハードパームステアリン(パームステアリンを分別して得られる高融点部)、パーム中融点部、ハードPMF等が挙げられる。パーム分別油は、2種以上を併用して使用することもできる。
上記のパームエステル交換油は、パーム油やパーム分別油をエステル交換したものである。パームエステル交換油は、2種以上の混合油をエステル交換したものでもよい。パームエステル交換油は、好ましくはパームオレインのランダムエステル交換油であり、より好ましくはヨウ素価50~60のパームオレインのランダムエステル交換油である。
上記のパーム極度硬化油は、パーム油やパーム分別油を完全水素添加したものである。パーム極度硬化油は、2種以上の混合油を完全水素添加したものでもよい。パーム極度硬化油は、好ましくはパーム油の極度硬化油である。
【0022】
植物性油脂中の油脂Bの含有量は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量以上50質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上40質量%以下である。
【0023】
油脂Bを得るためのエステル交換反応は、特に制限されない。しかし、好ましくはランダムエステル交換反応(非選択的エステル交換反応又は位置特異性の低いエステル交換反応とも言う。)である。エステル交換反応は、通常の方法により行うことができる。エステル交換反応は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、リパーゼ(位置特異性の低いリパーゼ)を触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも行うことができる。
【0024】
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1~1質量%添加した後、減圧下、80~120℃で0.5~1時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0025】
酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末又は固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02~10質量%、好ましくは0.04~5質量%添加した後、40~80℃、好ましくは40~70℃で0.5~48時間、好ましくは0.5~24時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0026】
(油脂C)
油脂Cは、UUU型トリグリセリド含有量が60質量%以上であり、好ましくは65質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上85質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上80質量%以下である。
【0027】
油脂Cとしては、従来公知の植物性液状油脂を用いることができる。植物性液状油脂としては、例えば、ナタネ油(キャノーラ油等)、米油、大豆油、コーン油、綿実油、ヒマワリ油、ゴマ油、オリーブ油などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
植物性油脂中の油脂Cの含有量は、好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは10質量以上30質量%以下であり、さらに好ましくは13質量%以上27質量%以下である。
【0029】
(その他の油脂)
その他の油脂は、上記油脂A~C以外であれば特に限定されず、従来公知の油脂を用いることができる。その他の油脂としては、例えば、上記のパーム系油脂や、乳脂等を用いることができる。
【0030】
起泡性水中油型乳化物の原材料として、生クリーム、バター、チーズ等を配合することにより、起泡性水中油型乳化物に乳脂を含有させることができる。
【0031】
起泡性水中油型乳化物に含まれる油脂中の乳脂の含有量は、良好な冷涼感と瑞々しさを得るために、1質量%以上55質量%以下であることが好ましく、1質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上20質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
(植物性油脂中のトリグリド組成)
植物性油脂中のUUU型トリグリセリド含有量は、14質量%以上24質量%以下であり、好ましくは15質量%以上23質量%以下である。植物性油脂中のUUU型トリグリセリド含有量が上記数値範囲内であれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0033】
植物性油脂中のS2U型トリグリセリド含有量は、好ましくは6.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以下であり、さらに好ましくは4.0質量%以下である。また、油脂中にS2U型トリグリセリドは含まれていなくてもよいが、植物性油脂中のS2U型トリグリセリド含有量は、0.1質量%以上でもよく、1.0質量%以上でもよく、2.0質量以上でもよい。植物性油脂中のS2U型トリグリセリド含有量が上記数値範囲内であれば、乳化安定性が良好であり、冷涼感と瑞々しさを有するホイップドクリームが得られる、起泡性水中油型乳化物を製造できる。
【0034】
(乳化剤)
乳化剤としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)等が用いられる。これらの中でもモノグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましく、モノグリセリン脂肪酸エステルに、レシチン及び/又はポリソルベートを併用することがより好ましい。
【0035】
モノグリセリン脂肪酸エステルは、結晶核を形成しやすいという観点からは、構成脂肪酸として飽和脂肪酸を含むものが好ましく、中でも、ベヘン酸、ステアリン酸、パルミチン酸がより好ましく、ベヘン酸がさらに好ましい。このようなモノグリセリン飽和脂肪酸エステルを使用すると、核形成が起こりやすく、乳化安定性の良い起泡性水中油型乳化物が得られ易い。上記モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、理研ビタミン社製のエマルジーMS、エマルジーP-100、ポエムB-100などを使用できる。
【0036】
120℃以上で殺菌する超高温殺菌(UHT)を行う場合には、乳タンパクの凝集を抑え乳化安定性を高める観点から、モノグリセリン脂肪酸エステルと、有機酸モノグリセリドとを組み合わせることが好ましい。有機酸モノグリセリドとは、モノグリセリドの水酸基にさらに有機酸が結合したものである。有機酸としてはクエン酸、コハク酸、酢酸、および乳酸等が挙げられ、クエン酸およびコハク酸が好ましく、クエン酸がより好ましい。有機酸モノグリセリドとしては、例えば、太陽化学社製のサンソフト621B(クエン酸モノグリセリド)、サンソフト681SPV(コハク酸モノグリセリド)を用いることが好ましい。
【0037】
レシチンは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン等のリン脂質が主成分であり、大豆、卵等から得られるペースト状のレシチンや、これを粉末化した高純度レシチン、溶剤で分画した分画レシチン、酵素処理したリゾレシチン等を使用できる。
【0038】
起泡性水中油型乳化物における乳化剤の含有量は、起泡性水中油型乳化物全量に対して好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上1.5質量%以下である。
【0039】
また、本発明の起泡性水中油型乳化物は、良好な風味及び乳化安定性を得るために、無脂乳固形分を含んでいてもよい。無脂乳固形分は、無脂肪牛乳、低脂肪牛乳、加工乳、脱脂乳、脱脂粉乳、脱脂濃縮乳、クリーム等の各種乳製品に含まれており、これらの乳製品を配合することにより、本発明の起泡性水中油型乳化物に所定量の無脂乳固形分を含ませることができる。
【0040】
起泡性水中油型乳化物における無脂乳固形分の含有量は、起泡性水中油型乳化物全量に対して好ましくは3質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは4質量%以上6質量%以下である。
【0041】
[起泡性水中油型乳化物の製造方法]
本発明の起泡性水中油型乳化物は、例えば、殺菌、均質化、冷却、エージングを順次行う手順で製造することができる。
【0042】
まず、油脂、乳化剤、水などの各成分を混合して予備乳化する。予備乳化には、攪拌可能なタンクやホモミキサーなどを用いることができる。乳化剤は水相、油相のいずれに添加してもよいが、油相に添加しておくことが好ましい。また、脱脂濃縮乳や塩類等を用いる場合、これらは予め水に溶解して用いる。予備乳化は、油相については配合油脂が完全に溶解する温度に加温し、水相については混合後の油相が温度低下を起こさない温度に加温し、油相と水相を混合し、例えば60~75℃で行うことができる。
【0043】
予備乳化した後、均質化を行う。均質化は、ホモジナイザーを用いて、従来より起泡性水中油型乳化物の製造に用いられている圧力等の条件を適宜に設定して行うことができる。この均質化の工程において油滴のメディアン径を調整することができる。なお、均質化については、殺菌前に行う前均質であっても、殺菌の後に行う後均質であってもよく、また、前均質及び後均質の両者を組み合わせた二段均質であってもよい。なお、殺菌の方法については、バッチ殺菌、直接加熱殺菌(インジェクション式、インフュージョン式)、間接加熱殺菌(プレート式、チューブラー式、シェル&チューブ式、バッチ式)等の従来公知の殺菌方法を用いることができ、殺菌のレベルとしては、高温短時間殺菌法(HTST)や120℃以上で殺菌する超高温殺菌(UHT)等を適宜選択すればよい。
【0044】
その後、乳化物を冷却することにより、本発明の起泡性水中油型乳化物を製造することができる。冷却は、短時間で目的の温度まで冷却できる設備を用いて行うことが好ましく、このような設備としては、例えば、プレート式熱交換器、チューブ式熱交換器、掻き取り式熱交換器などを挙げることができ、このような設備を用いて短時間で1~7℃の温度範囲まで冷却することが好ましい。このような温度範囲であると、製品の粘度増加も抑制できる。冷却後、例えば1~2日程度放置し安定化させる(エージング)。その後、充填され、製品となる。
【0045】
[ホイップドクリーム]
本発明のホイップドクリームは、本発明の起泡性水中油型乳化物を起泡してなるものである。具体的には、例えば、本発明の起泡性水中油型乳化物を、泡立器具、または専用のミキサーを用いて空気を抱き込ませるように攪拌することによって、起泡状態を呈するホイップドクリームを製造することができる。なお、ホイップする際に、グラニュー糖、砂糖、液糖などの糖類や、アルコール類、香料、増粘安定剤、生クリーム等を添加してもよい。
【0046】
上記のようにして得られたホイップドクリームは、食品の各種用途、例えば、ショートケーキ等のナッペ用や、ロールケーキ、パン、パイ、シュー、デニッシュ、クッキー、ビスケット等のサンド用等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されない。
【0048】
<分析>
油脂中のUUU型トリグリセリド含有量及びS2U型トリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))に準じて測定した。
ヨウ素価は、基準油脂分析試験法(2.3.4.1-1996)に従い、ウィイス-シクロヘキサン法により測定した値である。
【0049】
<油脂原料>
油脂A:
パーム核油(ヨウ素価18.1、ラウリン酸含有量46.2質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を油脂A-1として使用した。
油脂B:
60質量部のパーム油と40質量部のパーム核油との混合油をランダムエステル交換した油脂(ヨウ素価39.1、ラウリン酸含有量18.8質量%)を油脂B-1として使用した。
油脂C:
菜種油(UUU型トリグリセリド含有量81.5質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を油脂C-1として使用した。
ハイオレイック菜種油(UUU型トリグリセリド含有量81.3質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を油脂C-2として使用した。
その他油脂:
パーム油(S2U型トリグリセリド含有量44.9質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を、その他油脂(略号:PMO)として使用した。
パーム油中融点画分(S2U型トリグリセリド含有量67.5質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を、その他油脂(略号:PMF)として使用した。
パーム核部分硬化油(ヨウ素価6.9、ラウリン酸含有量46.2質量%、日清オイリオグループ株式会社製)を、その他油脂(略号:PHPKO)として使用した。
【0050】
<乳化剤>
ベヘン酸モノグリセリド(商品名:ポエムB-100、理研ビタミン株式会社製)
ステアリン酸モノグリセリド(商品名:エマルジーMS、理研ビタミン株式会社製)
ソルビタンステアリン酸エステル(商品名:ポエムS-250K、理研ビタミン株式会社製)
クエン酸モノグリセリド(商品名:サンソフト621B、太陽化学株式会社製)
ショ糖ステアリン酸エステル(商品名:リョートーシュガーエステルS-1670、三菱ケミカルフーズ株式会社製)
ポリソルベート(商品名エマゾールO-120V、花王株式会社製)
リゾレシチン(商品名:EMULTOP IP、カーギルジャパン株式会社製)
レシチン(商品名:YELKIN、Archer Daniels Midland Company社製)
【0051】
<油脂の配合>
油脂原料を、表1および2に示す配合(質量%)で混合し、例1~12の油脂を調製した。調製した油脂の分析値を表1及び2に示した。
【0052】
【0053】
【0054】
<起泡性水中油型乳化物の製造1>
41.5質量部の例1~12の各油脂に、0.04質量部のレシチン、0.08質量部のベヘン酸モノグリセリド及び0.08質量部のリゾレシチン、を溶解させて油相を調製した。同時に、39.0質量部の水に、16.0質量部の脱脂濃縮乳(無脂乳固形分含有量32質量%)、3.12質量部の粉飴、0.1質量部のリン酸塩及び0.08質量部のポリソルベート、を溶解させて水相を調製した。次に、水相に油相を加え、60~70℃に調温しながら、ホモミキサーにて予備乳化を行い、予備乳化後6MPaの圧力下で均質化した。その後、85℃、15分のバッチ殺菌を行い、約10℃まで冷却した。その後5℃の冷蔵庫にて約18時間エージングを行い、例1~12の起泡性水中油型乳化物を得た。
【0055】
<起泡性水中油型乳化物の分析・評価1>
例1~12の起泡性水中油型乳化物について、それぞれ、以下のホイップ適性の指標となる分析・評価を行った。結果を表3及び4に示した。
【0056】
1.瑞々しさ
十分立てにした各起泡性水中油型乳化物(ホイップドクリーム)を食して、各サンプルの瑞々しさを、以下に示す4段階基準に従い、専門パネラー(6名)により点数付けした。平均点に応じて、以下の通り◎、○、△、×の4段階で各サンプルの瑞々しさを評価した。
〔点数付けの基準〕
3:非常に瑞々しかった。
2:瑞々しかった。
1:瑞々しさが乏しかった。
0:ドライであった。
〔評価基準〕
評価◎:2.5点以上
評価○:1.5点以上2.5点未満
評価△:0.8点以上1.5点未満
評価×:0.8点未満
【0057】
2.冷涼感
十分立てにした各起泡性水中油型乳化物(ホイップドクリーム)を食して、各サンプルの冷涼感を、以下に示す4段階評価基準に従い、専門パネラー(6名)により点数付けした。平均点に応じて、以下の通り◎、○、△、×の4段階で各サンプルの冷涼感を評価した。
〔評価基準〕
3:非常に冷涼感が感じられた。
2:冷涼感が感じられた。
1:やや冷涼感が感じられた。
0:冷涼感が感じられなかった。
〔評価基準〕
評価◎:2.5点以上
評価○:1.5点以上2.5点未満
評価△:0.8点以上1.5点未満
評価×:0.8点未満
【0058】
3.乳化安定性
5℃で一晩以上保存した60gの各起泡性水中油型乳化物を100mlビーカーに入れ、20℃恒温槽で2時間静置し、調温した。プロペラ撹拌翼を付けたスリーワンモーターを用いてビーカー中の起泡性水中油型乳化物を20℃下、160rpmで撹拌し、起泡性水中油型乳化物が凝固・増粘するまでの時間を計測した。
〔評価基準〕
評価◎:非常に良好(50分以上)
評価○:良好(30分以上50分未満)
評価△:可(15分以上30分未満)
評価×:不可(15分未満)
【0059】
【0060】
【0061】
<起泡性水中油型乳化物の製造2>
例4の油脂配合を使用して、ベヘン酸モノグリセリドをステアリン酸モノグリセリドに置き換えた以外は、<起泡性水中油型乳化物の製造1>と同様にして起泡性水中油型乳化物を調製した(例13)。また、例4の油脂配合を使用して、乳化剤を、0.25質量%のレシチン、0.0625質量%のベヘン酸モノグリセリド、0.0625質量%のソルビタン脂肪酸エステルおよび0.125質量%のショ糖脂肪酸エステルに置き換えた以外は、<起泡性水中油型乳化物の製造1>と同様にして起泡性水中油型乳化物を調製した(例14)。
【0062】
<起泡性水中油型乳化物の分析・評価2>
例13および例14の起泡性水中油型乳化物について、<起泡性水中油型乳化物の分析・評価1>と同様の評価を行った。結果、例13および例14とも、例4の評価結果と比較して、乳化安定性が○であった(例4は◎)以外は変わらなかった。
【0063】
<起泡性水中油型乳化物の製造3>
上記<起泡性水中油型乳化物の製造1>において、例3の油脂配合を使用して、予備乳化した乳化物100質量部に対して、生クリーム(乳脂含有量35質量%、高梨乳業株式会社製)を5、20、30、57質量部の割合でそれぞれ混合した。各混合乳化物を6MPaの圧力下で均質化し、その後、85℃、15分のバッチ殺菌を行い、約10℃まで冷却した。その後5℃の冷蔵庫にて約18時間エージングを行い、例15~18の起泡性水中油型乳化物を得た。
【0064】
<起泡性水中油型乳化物の分析・評価3>
例15~18の起泡性水中油型乳化物について、<起泡性水中油型乳化物の分析・評価1>と同様の評価を行った。結果を表5に示した。
【0065】
【0066】
<起泡性水中油型乳化物の製造4>
例3および例4の油脂配合をそれぞれ使用して、油脂の含有量を35.0質量%とし、水の含有量を45.5質量%に変更した以外は、<起泡性水中油型乳化物の製造1>と同様にして起泡性水中油型乳化物を調製した(例19および例20)。
【0067】
<起泡性水中油型乳化物の分析・評価4>
例19および例20の起泡性水中油型乳化物について、<起泡性水中油型乳化物の分析・評価1>と同様の評価を行った。結果、例19および例20とも、例3および例4と同様の評価結果が得られた。
【0068】
<起泡性水中油型乳化物の製造5>
38.5質量部の例4の油脂に、0.13質量部のレシチン、0.11質量部のステアリン酸モノグリセリド、0.08質量部のクエン酸モノグリセリド及び0.12質量部のソルビタンステアリン酸エステルを溶解させて油相を調製した。同時に、55.39質量部の水に、5.38質量部の脱脂粉乳(無脂乳固形分含有量95質量%)、0.10質量部のリン酸塩及び0.16質量部のポリソルベート及び0.03質量部のショ糖脂肪酸エステルを溶解させて水相を調製した。仕込みタンク内で水相に油相を加え、混合物を68℃~72℃で15分間程度、撹拌しながら分散混合して予備乳化した。次いで、得られた予備乳化物を8.0Mpaで均質化し、続けて130℃10秒で間接殺菌(プレート式UHT殺菌)した。間接殺菌後にプレートで5℃まで冷却し、更に5℃の冷蔵庫で約18時間エージングすることにより、例21の起泡性水中油型乳化物を得た。
【0069】
<起泡性水中油型乳化物の分析・評価5>
例21の起泡性水中油型乳化物について、<起泡性水中油型乳化物の分析・評価1>と同様の評価を行った。結果、例21は、例4と同様の評価結果が得られた。また、プレート式UHT殺菌を行った例21の起泡性水中油型乳化物において、凝固や著しい増粘は観察されず、乳化安定性は良好であった。