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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】分子送達用粒子を特徴づけるための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20240315BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20240315BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
C12N15/867 Z
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/88 Z
G01N21/33
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022563446
(86)(22)【出願日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2022014106
(87)【国際公開番号】W WO2022224697
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021070724
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業/遺伝子治療製造技術開発」「遺伝子・細胞治療用ベクター新規大量製造技術開発における高度分析拠点及び技術開発取り纏め」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】内山 進
(72)【発明者】
【氏名】丸野 孝浩
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 哲生
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-505695(JP,A)
【文献】特開2002-086155(JP,A)
【文献】特開2020-161475(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0082541(US,A1)
【文献】特許第4686714(JP,B2)
【文献】特表2011-524449(JP,A)
【文献】特開平03-106931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0299545(US,A1)
【文献】特開平10-082774(JP,A)
【文献】特開2014-010053(JP,A)
【文献】国際公開第2007/129667(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
G01N 15/00-15/1492
C12N 7/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を含有する溶液を、光測定を伴う遠心分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記溶液の屈折率nの変化である屈折率増分(δn)を決定し、
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分(δn)を、濃度あたりの屈折率変化値である比屈折率変化値(dn/dc)で割りつけることによりグラム濃度をそれぞれ得て、さらにそれぞれの分子量で割りつけることにより、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することを含み、
前記分子送達用粒子が第3粒子をさらに含んでいてよく、
前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、前記第2粒子が第2外被を有し、及び前記第3粒子が第3外被及び第3送達分子を有する、方法。
【請求項2】
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を決定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度が、前記分子送達用粒子を複数の測定波長での光測定を伴う遠心分離に供することで、前記複数の測定波長の各測定波長について決定される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1粒子の前記モル吸光係数から、前記第2粒子の前記モル吸光係数を差し引いて、前記第1送達分子のモル吸光係数を、前記複数の測定波長の各測定波長について決定することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第2粒子の前記モル吸光係数と、前記第1送達分子の前記モル吸光係数とが一致する等吸収点を特定し、及び
前記等吸収点での第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の測定波長が、少なくとも3種の測定波長を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記分子量が、前記光測定を伴う遠心分離にて決定される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子送達用粒子が前記第3粒子を含み、
前記第3粒子の分子量が、前記光測定を伴う遠心分離にて決定される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分子送達用粒子が前記第3粒子を含み、
前記分子送達用粒子の光測定を伴う遠心分離により、前記第3粒子の吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長について決定し、及び
前記第2粒子の前記モル吸光係数と前記第1送達分子の前記モル吸光係数との、前記第3粒子の前記吸光度に対する寄与度を決定することを含む、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記寄与度に基づいて、前記第3粒子の構成割合を決定すること、及び/又は前記第3外被及び前記第3送達分子それぞれの濃度を決定することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む、請求項5に記載の方法、或いは
前記第1粒子の前記モル濃度、前記第2粒子の前記モル濃度、前記第3外被の前記濃度、及び前記第3送達分子の前記濃度に基づいて、前記分子送達用粒子に対する、前記第1粒子又は前記第2粒子の量比を決定し、及び前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記分子送達用粒子が、ウイルス粒子、リポソーム、アルブミン粒子、ミセル又はポリ乳酸・グリコール酸共重合体粒子である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルス粒子が、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、ステルスウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルスである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記分子送達用粒子がウイルス粒子であり、
前記第1外被、前記第2外被及び前記第3外被がそれぞれカプシドを含み、
前記第1送達分子が第1ポリヌクレオチドを含み、
前記第3送達分子が第3ポリヌクレオチドを含み、及び
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記分子量が、前記光測定を伴う遠心分離にて決定される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記分子送達用粒子が前記第3粒子を含み、
前記第3粒子の分子量が、前記光測定を伴う遠心分離にて決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コンピュータの制御部にロードされることにより、前記コンピュータに、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子送達用粒子を特徴づけるための方法を提供する。本発明はまた、分子送達用粒子を特徴づけるための方法を実行するプログラムを提供する。
【背景技術】
【0002】
治療用化合物、遺伝子及び栄養素を含む種々の分子を送達するための粒子は、薬物送達システムを含む様々な技術分野で利用されている。薬物送達システム(DDS)は、薬物を効率的に目的とする部位に送り届けることを目的とした技術である。DDSに利用される薬物キャリアには、リン脂質二重層で構成される脂質カプセルであるリポソーム、ポリエチレングリコール(PEG)及びポリ乳酸(PLA)から構成されたミセル、及びポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGAとも称される)で構成される粒子が挙げられる。遺伝子治療の分野では、遺伝子のキャリアとしてウイルスベクターが利用されている。
【0003】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、遺伝子治療のための有望なプラットフォームとなっている。約4.7kbの一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを含むAAVベクターの製造工程において、ssDNAを含まないウイルス粒子(中空粒子)及び不完全なssDNAを含むウイルス粒子(中間粒子)の混入を回避することは困難である。
【0004】
陰イオン交換クロマトグラフィー又は超遠心分析(AUC)が、AAVベクターの特性評価のために、特に中空粒子と完全なssDNAゲノムを含む粒子(完全粒子)の比率の評価のために用いられている。クロマトグラフィー分析では少量(1010vg以下)で短時間に評価を行うことができるが、中空粒子と完全粒子の良好な分離及び定量には、カラム、移動相及び溶出条件を含む分析条件の最適化が必要であり、煩雑である。電子顕微鏡では、中空粒子及び完全粒子を高倍率で直接観察し、数えることができる。しかし、視野内の粒子を評価することは可能であるが、系の全体像を評価することは事実上困難である。
【0005】
超遠心分析沈降速度法(SV-AUC)は、溶液中の高分子のサイズ分布を特徴付けるための強力な技術である。AUC分析、特に計算方法の最近の進歩は、不均一な混合物の沈降過程をモデル化し、溶液中の沈降係数の分布を定量化することを可能にした。AUC分析は、カラムとの相互作用やネガティブ染色のような化学修飾を伴わずに行われる。また、測定後に試料の大部分を回収することが可能である。超遠心分析沈降速度法を用いた組換えウイルス粒子を特徴づけるための方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-505695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AAVベクターベースの製剤において中空粒子及び中間粒子が含まれると、その製剤の全体的な治療効果を低下させ、望ましくない免疫応答を引き起こす可能性がある。また、AAVベクター凝集体のような他の成分も、AAVベクターベースの製剤に含まれ得る。AAVベクターの粒子関連不純物を正確かつ信頼性の高い方法で解析することが必要とされる。しかしながら、従来の方法では組換えウイルス粒子の特徴づけが不十分であった。本開示は、組換えウイルス粒子について、超遠心分析沈降速度法を用いて、従来の方法では達成し得なかった特徴づけを可能とする新規方法を提供することを1つの目的とする。
【0008】
本開示は、分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。本開示は、モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。本開示は、モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。
【0009】
本開示は、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。本開示は、モル吸光係数を用いず、等吸収点での測定に基づいて量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。
【0010】
本開示は、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。本開示は、品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける新規方法を提供することを1つの目的とする。
【0011】
本開示は、前記した分子送達用粒子を特徴づけるための方法を実行する新規プログラムを提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示は、以下の分子送達用粒子を特徴づける方法、前記方法を実行するためのプログラム、第1粒子のモル吸光係数を決定する方法、及び所定鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定する方法を提供する:
[項1]
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を決定し、及び
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することを含む、方法。
[項2]
前記分子送達用粒子を、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長について決定し、及び
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定することを含む、項1に記載の方法。
[項3]
前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、及び前記第2粒子が第2外被を有し、
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を各測定波長について決定し、及び
前記第1粒子の前記モル吸光係数から、前記第2粒子の前記モル吸光係数を差し引いて、前記第1送達分子のモル吸光係数を、各測定波長について決定することを含む、項2に記載の方法。
[項4]
前記第2粒子の前記モル吸光係数と、前記第1送達分子の前記モル吸光係数とが一致する等吸収点を特定し、及び
前記等吸収点での第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む、項3に記載の方法。
[項5]
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を決定した測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定し、及び
前記第1粒子と前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、決定された前記第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む、方法。
[項6]
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、等吸収点での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定し、及び
前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む、方法。
[項7]
前記分子送達用粒子が第3粒子をさらに含み、前記第3粒子が第3外被を有し且つ第3送達分子を有していてよく、
前記分子送達用粒子の光測定を伴う粒子分離により、前記第3粒子の吸光度を、前記各測定波長について決定し、及び
前記第2粒子の前記モル吸光係数と前記第1送達分子の前記モル吸光係数との、前記第3粒子の前記吸光度に対する寄与度を決定することを含む、項3~5のいずれか一項に記載の方法。
[項8]
前記寄与度に基づいて、第3粒子の構成割合を決定すること、及び/又は前記第3外被及び前記第3送達分子それぞれの濃度を決定することをさらに含む、項7に記載の方法。
[項9]
前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む、項4~6のいずれか一項に記載の方法、或いは
前記第1粒子の前記モル濃度、前記第2粒子の前記モル濃度、前記第3外被の前記濃度、及び前記第3送達分子の前記濃度に基づいて、前記分子送達用粒子に対する、前記第1粒子又は前記第2粒子の量比を決定し、及び前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む、項8に記載の方法。
[項10]
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
分子送達用粒子を、第1測定波長及び第2測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記分子送達用粒子の吸光度を、前記第1測定波長及び第2測定波長それぞれについて決定し、及び
前記第1測定波長での前記分子送達用粒子の前記吸光度と、前記第2測定波長での前記分子送達用粒子の前記吸光度とから吸光度比を決定することを含む、方法。
[項11]
前記粒子分離が、遠心分離、クロマトグラフィー、又はフィールド・フロー・フラクショネーションである、項1~10のいずれか一項に記載の方法。
[項12]
分子送達用粒子を特徴づける方法であって、
前記分子送達用粒子と溶媒を含む第1溶液を、光測定を伴う遠心分離に供して、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定し、
前記分子送達用粒子と同位体標識溶媒を含む第2溶液を、光測定を伴う遠心分離に供して、第2溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定し、
第1溶液中の前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中の前記分子送達用粒子の前記沈降係数とに基づいて、前記分子送達用粒子の偏比容を決定し、及び
第1溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、前記分子送達用粒子の前記偏比容とに基づいて、前記分子送達用粒子の分子量を決定することを含む、方法。
[項13]
前記分子送達用粒子が、ウイルス粒子、リポソーム、アルブミン粒子、ミセル又はポリ乳酸・グリコール酸共重合体粒子である、項1~12のいずれか一項に記載の方法。
[項14]
前記ウイルス粒子が、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、ステルスウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルスである、項13に記載の方法。
[項15]
コンピュータの制御部にロードされることにより、前記コンピュータに、項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行させる、プログラム。
[項16]
第1粒子のモル吸光係数を決定する方法であって、
前記第1粒子が、第1外被及び第1鎖長の第1ポリヌクレオチドを含み、
所定鎖長の第2ポリヌクレオチドのモル吸光係数を、前記所定鎖長の値で除して、一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を算出し、
前記一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数に、前記第1鎖長の値を乗じて、前記第1ポリヌクレオチドのモル吸光係数を算出し、
前記第1外被のモル吸光係数と、前記第1ポリヌクレオチドの前記モル吸光係数とをあわせて、前記第1粒子のモル吸光係数を決定することを含む、方法。
[項17]
所定鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定する方法であって、
前記ポリヌクレオチドを含む分子送達用粒子を所定の測定波長で測定する場合に、前記所定の測定波長と同一又は相当する以下の表に記載のいずれか一つの波長における一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数に、前記所定鎖長の値を乗じて、前記いずれか一つの波長における前記ポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定することを含む、方法。

【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1Aは、密度コントラストSV-AUC実験におけるAAV5-EP(左)とAAV5-FP(右)の沈降係数分布の重ね合わせ図である。黒線、赤線、青線は、H 18Oを含む緩衝液の0%、32.5%、65%での分布を示した。分布は、計算された密度と粘度に加えて、実験で決定された各成分の偏比容を用いて規格化した。図1B(左)は、密度コントラストSV-AUC実験から得られた流体力学的パラメータと計算された分子量を示す表である。図1B(右)は、各緩衝液条件で偏比容を変えて得られた沈降係数の残差二乗和のプロットを示す図である。
図2図2Aは、230nmでの吸光度に基づく時間依存的なセル内濃度分布を示す図である。図2Bは、260nmでの吸光度に基づく時間依存的なセル内濃度分布を示す図である。図2Cは、280nmでの吸光度に基づく時間依存的なセル内濃度分布を示す図である。図2Dは、屈折率に基づく時間依存的なセル内濃度分布の図である。
図3図3Aは、230nmでの吸光度測定に基づくAAV5サンプルの沈降係数分布図である。図3Bは、260nmでの吸光度測定に基づくAAV5サンプルの沈降係数分布図である。図3Cは、280nmでの吸光度測定に基づくAAV5サンプルの沈降係数分布図である。
図4図4は、屈折率測定に基づくAAV5サンプルの沈降係数分布図である。
図5図5Aは、中空粒子のモル吸光スペクトルを示す散布図である。図5Bは、完全粒子のモル吸光スペクトルを示す散布図である。
図6図6は、紫外吸光光度計で測定したA260/A280と、SV-AUCによる干渉検出系を用いた純度との相関関係を示す図である。各試料の純度は、干渉検出により得た結果を基に算出した。A260/A280は、SV-AUC実験前のUVスペクトル測定から得た。黒丸、白丸、白三角、黒三角はそれぞれAAV1-FP、AAV2-FP、AAV5-FP、AAV6-FPを表す。また、各血清型AAV1-FP、AAV2-FP、AAV5-FP、AAV6-FPそれぞれの完全粒子と中空粒子のA260/A280が通る線を黒点線、灰色破線、黒破線、灰色点線にて示した。明らかな相関関係は、本研究で試験したサンプルでは見られなかった。
図7図7は、AAV-EPのモル吸光係数スペクトル及びssDNAのモル吸光係数スペクトルを示す図である。AAV-EPモル吸光係数スペクトルとssDNAモル吸光係数スペクトルとの交点は、等吸収点(239nm)を示す(矢印)。
図8図8は、等吸収点239nmでの測定のみで、AAV5サンプル中のAAV5-FPとAAV5-EPとのウイルス粒子の数の絶対的な数の比を示す図である。
図9図9Aは、AAV5-EP及びAAV5-FPのAUC実験で決定された分子量、偏比容及びf/f(=1.32)を用いて計算した、ncapsideとnssDNAとの各組合せについての分子量、偏比容、s値及びヌクレオチドの数の計算値をまとめた表である。2量体及びトライアングル三量体のf/fは、文献(De La Torre JG,Bloomfield VA.Hydrodynamic properties of complex,rigid,biological macromolecules:Theory and applications.Q Rev Biophys.1981;14(1):81-139.)に従って計算したs値とAUC実験で決定された分子量を用いたSEDFITによって算出した。図9Bは、それぞれの会合状態についてのヌクレオチドの数とs値との間の相関を示すグラフである。図9Bのプロットは、図9Aで得られた値を用いた。図9Cは、カプシド内に内包されたヌクレオチド数と沈降係数との相関関係を示す散布図である。白色マークと灰色マークとは、ロットが異なるサンプルであることを示す。
図10図10Aは、下記する式9~式11の偏回帰係数の残差α(左)及びβ(右)と、ssDNAの各分率の11波長での検出から得られた残差とを比較するヒートマップである。図10Bは、ssNDAの各分率における偏回帰係数の残差二乗プロットを示す図である。
図11図11は、本発明の1つの実施形態に係る方法を実行する装置のブロック図である。
図12図12は、複数の測定波長及び屈折率検出を伴うSV-AUCによるAAV-EP、AAV-FP及びそれらの不純物の特性評価のためのワークフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書において「分子送達用粒子」は、分子を送達できる外被を有する小さな物体を意味する。分子送達用粒子の粒子サイズは、例えば、5nm~10,000nm、10nm~5,000μm、20nm~1,000nm、又は30nm~500nmであってよい。分子送達用粒子は、例えばウイルス粒子、リポソーム、アルブミン粒子、ミセル又はポリ乳酸・グリコール酸共重合体(「PLGA」とも称される)粒子であってよい。分子送達用粒子は、ドラッグデリバリーシステムに利用することができる。分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、例えば遺伝子治療又はウイルスベクターワクチンとして利用することができる。ウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、ステルスウイルス、レンチウイルス、又はレトロウイルスであってよい。分子送達用粒子は、公知の方法に従って調製することができる。1つの例において、分子送達用粒子は組換えウイルス粒子であってよい。組換えウイルス粒子は、遺伝子工学を用いて人工的に調製することができる。分子送達用粒子は、遺伝子工学を用いて製造されたウイルス粒子であってよく、培養細胞または卵で製造されたウイルス粒子であってもよい。
【0015】
本明細書において「外被」は、粒子の内部と外部とを隔てる構造体を意味する。外被は、例えばタンパク質又は脂質などの高分子を含む。分子送達用粒子は、例えば外被と、前記外被によって画定される内部空間とを含んでよい。分子送達用粒子は、例えば外被を含み、内部空間を含まなくてもよい。ウイルス粒子又はアルブミン粒子の外被は、例えば実質的にタンパク質から構成される。ウイルス粒子の外被は、例えばタンパク質で構成されるカプシドを含み、場合によりエンベロープをさらに含む。ウイルス粒子がアデノ随伴ウイルス(AAV)粒子である場合、その外被は、3種類のカプシドタンパク質であるVP1、VP2及びVP3を所定の比率で含むカプシドを含む。リポソームの外被は、例えば実質的に脂質から構成された脂質二重層を含んでよい。リポソームの外被は、例えばポリエチレングリコール(PEG)で修飾された脂質二重層を含んでよい。ミセルの外被は、例えば実質的に親水性部分と疎水性部分を有する化合物を含む。PLGA粒子の外被は、例えば実質的に所定の比率の乳酸とグリコール酸とを含む。
【0016】
分子送達用粒子において、外被は、例えば実質的に同一の組成を含む。1つの例において、分子送達用粒子が、第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、前記第2粒子が第2外被を有する場合、前記第1外被と前記第2外被は、実質的に同一の組成で構成される。分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、第1ウイルス粒子の第1外被及び第2ウイルス粒子の第2外被はそれぞれ、実質的に同一のタンパク質で構成される。ウイルス粒子がAAV粒子である場合、第1AAV粒子の第1外被と第2AAV粒子の第2外被はそれぞれ、VP1、VP2及びVP3を含む実質的に同一のタンパク質で構成される。分子送達用粒子がリポソームである場合、第1リポソームの第1外被と第2リポソームの第2外被はそれぞれ、実質的に同一の脂質成分で構成される脂質二重層を含む。本明細書において「実質的に同一の組成」は、主要な成分が同一であることを意味する。1つの例において、実質的に同一のタンパク質は、第1ポリペプチドを主要な成分として含んでよい。1つの例において、実質的に同一のタンパク質は、所定の割合の第1ポリペプチド及び第2ポリペプチドを主要な成分として含んでよい。1つの例において、実質的に同一の脂質は、所定の割合の第1脂肪酸と第2脂肪酸を主要な成分として含んでよい。
【0017】
分子送達用粒子は、例えば外被表面に、外被中に、又は外被の内部に、送達される分子(本明細書において「送達分子」ともいう)を含んでよい。本明細書において、分子送達用粒子の文脈で用いられる「送達分子」は、例えばポリヌクレオチド、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、脂質、有機化合物又は放射性物質、若しくはそれらの組合せであってよい。ポリヌクレオチドは、例えばDNA分子又はRNA分子であってよい。DNA分子又はRNA分子は、例えば一本鎖又は二本鎖であってよい。ポリペプチドは、例えば天然アミノ酸又は非天然アミノ酸、もしくはそれらの組合せで構成されていてよい。ポリペプチドは、例えば酵素又は抗体であってよい。ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、例えば化学修飾されていてよい。有機化合物は、例えば抗がん剤としての利用される薬物であってよい。有機化合物は、例えば栄養素として利用されるものであってよい。放射性物質は、例えば塩化ストロンチウム及び塩化ラジウムであってよい。送達分子は外被であってもよい。
【0018】
分子送達用粒子は、例えば2タイプ以上の粒子(例えば第1粒子及び第2粒子)を含んでよい。分子送達用粒子がウイルス粒子の場合、ウイルス粒子は、例えば、第1粒子として外被であるカプシド及びそのゲノムDNA分子を含む完全ウイルス粒子、及び第2粒子としてカプシドを含むがゲノムDNA分子を含まないカプシド粒子(本明細書において「中空粒子」とも称する)を含んでよい。分子送達用粒子に含まれる2以上のタイプの粒子の組合せは、目的に応じて適宜設定することができる。1つの例において、完全ウイルス粒子を第1粒子とし、カプシド粒子を第2粒子とし、さらにその他のウイルス粒子(例えば完全ウイルス粒子の2量体、カプシド粒子の2量体、完全ウイルス粒子とカプシド粒子の2量体、又はウイルス粒子の凝集体、もしくはそれらの混合物)を第3粒子としてよい。例えば、第3粒子が完全ウイルス粒子とカプシド粒子の2量体である場合、第3粒子は、2個のカプシドを含む第3外被及び1個のゲノムDNAを含む第3送達分子を含む。他の例において、カプシド粒子を第1粒子とし、完全ウイルス粒子を第2粒子とし、及びその他のウイルス粒子を第3粒子としてよい。
【0019】
上記例では、ウイルス粒子のタイプについて説明したが、粒子のタイプはそれらに限定されない。例えば、分子送達用粒子がリポソームである場合、リポソームは、外被である脂質二重層及びカプセル化された分子を含む完全粒子を第1粒子として、脂質二重層を含むが前記分子を含まない中空粒子を第2粒子として含んでよい。他の例において、リポソームは、完全粒子を第1粒子として、中空粒子を第2粒子として、その他の粒子(例えばリポソームの凝集体)を第3粒子として含んでよい。分子送達用粒子がアルブミン粒子である場合、アルブミン粒子は、第1の分子量を有する粒子を第1粒子として、第2の分子量を有する粒子を第2粒子として含んでよい。
【0020】
分子送達用粒子は、例えば、動物の体内の所定の場所に分子を送達するために用いることができる。動物は、例えば爬虫類、鳥類又は哺乳動物であってよい。哺乳動物は、例えばヒト又はヒト以外の哺乳動物であってよい。ヒト以外の哺乳動物は、例えばマウスなどの齧歯類、チンパンジーなどの非ヒト霊長類、ウシなどの偶蹄目、ウマなどの奇蹄目、又はイヌ及びネコなどの愛玩動物であってよい。1つの実施形態において、哺乳動物は非ヒト霊長類又はヒトである。所定の場所は、例えば動物の臓器又は細胞であってよい。所定の臓器は、例えば心臓、肺、肝臓、胃、膵臓又は腎臓であってよい。所定の細胞は、例えば正常な細胞又は異常な細胞であってよい。正常な細胞は、例えば心筋細胞、肝細胞又は血球細胞であってよい。異常な細胞は、例えばがん細胞であってよい。
【0021】
分子送達用粒子の分子量は、例えば静的光散乱法、動的光散乱法及び遠心分離法と動的光散乱法との組合せなどの公知の方法を利用して測定することができる。また、分子送達用粒子の分子量は、公知の値であってよく、又は理論的に算出した値であってよい。例えば、粒子がAAV粒子である場合、AAV粒子のカプシドの分子量は、3種の構造タンパク質(VP1、VP2及びVP3)それぞれのアミノ酸組成と、それら構造タンパク質の比率に基づいて算出することができる。組換えAAVは、例えば所定の目的を奏するように改変されたゲノムRNAを含む。改変されたゲノムRNA分子の分子量は、設計したヌクレオチド配列に基づいて算出することができる。組換えAAVの分子量は、カプシドの分子量とゲノムRNA分子の分子量とを足し合わせることで算出することができる。他の例において、分子送達用粒子の分子量は、例えば、公知の分子量を決定する方法、又は本明細書に開示した方法(例えば後述する“分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”)に従って決定することができる。
【0022】
本明細書において「光測定」は、測定対象に光を照射して、前記測定対象からの光シグナルを記録した光学データを取得できる方法を意味する。光測定は、光測定手段によって実施することができる。光測定手段は、例えば発光装置と、光検出装置と、光学データを記録し、且つ出力できる装置とを含んでよい。発光装置は、例えば、目的に応じて1種又は複数の波長の光を発することができる。発光装置は、例えば発光ダイオード、レーザー光、キセノンランプ及びハロゲンランプなどの光源、及び場合により所定の波長を分光するための分光器又は所定の波長を透過もしくは反射させる光学フィルターを含む。光検出装置は、例えば光電子増倍管、シリコンフォトダイオード又はアバランシェフォトダイオード(APD)、もしくはそれらの組合せを含んでよい。光検出装置は、例えば干渉計、示差屈折率検出器(RID)、分光光度計又は吸光度計、もしくはそれらの組合せを含んでよい。光学データを記録し、且つ出力できる装置は、例えばハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)であってよい。光測定手段は、光検出装置と発光装置と光学データの記録及び出力ができる装置とが一体となった1ユニットの装置、又はそれらが分離した複数ユニットの装置であってよい。そのような1ユニットの装置又は複数ユニットの装置は、商業的に入手可能である。
【0023】
光測定に用いられる波長は、例えば分子送達用粒子に応じて設定することができる。光測定に用いられる波長は、例えば分子送達用粒子を構成する外被成分又は送達される分子の極大吸光波長及び/又はその周辺の波長を用いてよい。光測定では、目的に応じて、1種又は複数の測定波長の光が用いられてよい。光測定では、例えば1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種又は11種以上の波長の光が用いられてよい。1つの例において、光測定では、5種、7種、9種、11種又は13種の波長の光が用いられる。1つの例において、光測定では、9種、11種又は13種の波長の光が用いられる。
【0024】
本明細書において「光学データ」は、測定対象に光を照射して測定された光シグナルの記録を含む情報を意味する。光学データは、例えば、透過光、散乱光、反射光、吸収、屈折率又は吸光度、もしくはそれらの組合せに関するデータを含む。1つの例において、光学データは、吸光度に関するデータ(本明細書において「吸光度データ」という)及び屈折率に関するデータ(本明細書において「屈折率データ」という)を含む。屈折率データは、例えば干渉計を用いて得ることができる。吸光度データは、例えば吸光度計を用いて得ることができる。光測定が所定の時間間隔で所定回数、行われる場合、光学データは、測定時間の情報及び所定回数分のデータを含んでよい。光測定が複数の測定波長を用いて行われる場合、光学データは、前記複数の測定波長のうちの各波長についての光学データを含んでよい。
【0025】
本明細書において「粒子分離」は、2タイプ以上の粒子を含む粒子集団から、各タイプの粒子を区別可能にする方法を意味する。粒子分離は、例えば粒子の特性に基づいて、2タイプ以上の粒子を含む粒子集団から、各タイプの粒子分布におけるピークを区別可能にする方法であってよい。粒子分離は、例えばクロマトグラフィー(例えばイオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー又はアフィニティークロマトグラフィー、もしくはそれらの組合せ)、遠心分離法又はフィールド・フロー・フラクショネーション(FFF)であってよい。本明細書において超遠心分離法は10,000G以上の加速度を生み出す遠心分離法である。粒子分離は、1つのタイプの粒子を含む粒子集団、2つのタイプの粒子を含む粒子集団、又は3タイプ以上の粒子を含む粒子集団に適用することができる。1つの例において、粒子分離により区別可能に分離された粒子群のうち、数の多い順に第1粒子、第2粒子などとしてよい。他の例において、粒子分離により区別可能に分離された粒子群のうち、所定の沈降係数などの物理量付近の値を示す粒子を第1粒子としてよい。分子送達用粒子は、粒子分離の方法に適した溶媒中に溶解又は分散される。分子送達用粒子を含有する溶液又は分散液が、光測定を伴う粒子分離に供される。粒子分離は、粒子分離手段を用いて実施することができる。粒子分離手段は、例えば遠心分離装置又はクロマトグラフィー装置(例えばHPLC)であってよい。1つの実施形態において、粒子分離は遠心分離である。1つの実施形態において、粒子分離はクロマトグラフィーである。1つの実施形態において、粒子分離はFFFである。
【0026】
「光測定を伴う粒子分離」は、粒子分離中に又は粒子分離後に光測定を行うことを含む。1つの例において、分子送達用粒子を遠心分離に供する場合、遠心分離中の分子送達用粒子に対して光測定を行ってよい。1つの例において、分子送達用粒子をクロマトグラフィーに供する場合、クロマトグラフィーにより分画された分子送達用粒子を含む液滴または分割された溶液に対して光測定を行ってよい。後述する“分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”の文脈で用いられる「光測定を伴う遠心分離」は、1つのタイプの粒子を含む分子送達用粒子を、遠心分離中に光測定することを含む。
【0027】
光測定を伴う粒子分離は、光測定手段を備えた粒子分離手段を用いて実施することができる。光測定手段を備えた粒子分離手段は、例えば粒子分離手段と光測定手段とが一体となった1ユニットの装置であってよく、粒子分離手段と光測定手段とが分離した2ユニット又は3ユニット以上の装置であってもよい。光測定手段を備えた粒子分離手段では、粒子分離手段にて分子送達用粒子がそのタイプに分離されている間に、あるいは分離された後に、光測定手段を用いて光学データが取得されてよい。光測定を伴う粒子分離は、例えば光測定を伴う遠心分離又はクロマトグラフィーであってよい。
【0028】
粒子分離の文脈で用いられる「粒子の特性」は、例えばモル吸光係数、拡散係数、沈降係数、又はバルク特性(例えば粒子サイズ、形状、分子量、密度又は偏比容)、もしくはそれらの組合せであってよい。粒子の特性は、光測定を伴う粒子分離に分子送達用粒子を供して得られる光学データ(例えば屈折率データ又は吸光度データ、もしくはそれらの組合せ)から直接的に又は間接的に得ることができる。粒子分離が遠心分離である場合、溶液中の粒子は遠心力が負荷される遠心方向に向かって沈降し、溶液中に粒子が存在しなくなった領域と存在する領域との間に移動境界面が生じる。この移動境界面の形状及び時間変化は、粒子の沈降係数及び拡散係数を反映する。粒子の沈降係数及び拡散係数から、公知の関係式を用いて、例えば式(3)を用いて粒子の分子量を算出することができる。移動境界面に関する情報は、例えば屈折率データ及び吸光度データに含まれる。他の例において、屈折率データから粒子のモル濃度を得ることができる。他の例において、屈折率データ及び吸光度データから粒子のモル吸光係数を得ることができる。
【0029】
本明細書において「屈折率増分」は、分子送達用粒子を含む溶液の屈折率nの変化を示す。1つの例において、屈折率増分は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子のタイプごとに決定される。1つの例において、屈折率増分は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプ及びその他の粒子タイプの混合物について決定される。
【0030】
本明細書において「比屈折率変化値」は、分子送達用粒子を含む溶液の粒子濃度cの変化に対する屈折率nの変化の割合を意味し、例えば微分係数dn/dcで表される。1つの例において、比屈折率変化値は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子のタイプごとに決定される。1つの例において、比屈折率変化値は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプ及びその他の粒子タイプの混合物について決定される。
【0031】
本明細書において「吸光度」は、測定光が分子送達用粒子を通過した際に、光の強度が減弱した程度を示す値である。1つの例において、吸光度分は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子のタイプごとに決定される。1つの例において、吸光度は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプ及びその他の粒子タイプの混合物について決定される。
【0032】
本明細書において「モル濃度」は、単位体積の溶液中の分子送達用粒子の濃度を示す値である。1つの例において、モル濃度は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子のタイプごとに決定される。1つの例において、モル濃度は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプ及びその他の粒子タイプの混合物について決定される。
【0033】
本明細書において「偏比容」は1グラムの分子送達用粒子を多量の溶媒に溶かしたときの溶液の容積増加である。偏比容は、ほぼ密度の逆数に相当する。1つの例において、偏比容は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子のタイプごとに決定される。1つの例において、偏比容は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプ及びその他の粒子タイプの混合物について決定される。
【0034】
本明細書において「モル吸光係数」は、光路1cmあたりの1M溶液の光学濃度である。1つの例において、モル吸光係数は、本明細書に開示した方法により、分子送達用粒子に含まれる粒子の成分ごとに決定される。例えば、分子送達用粒子が第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、第2粒子が第2外被を有する場合、モル吸光係数は、第1外被、第2外被及び第1送達分子について決定される。
【0035】
本明細書において「等吸収点」は、目的とする2種以上の物質が同じの吸光度又はモル吸光係数を示す光の波長を意味する。1つの例において、分子送達用粒子が第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を含み、第2粒子が第2外被を有する場合、等吸収点は、第1送達分子のモル吸光係数と第2外被のモル吸光係数とが一致する波長であってよい。1つの例において、等吸収点は、本明細書に開示した方法により、特定することができる。具体的には、等吸収点は、例えば、前記第1粒子及び前記第2粒子を含む前記分子送達用粒子を、本明細書に開示した光測定を伴う粒子分離に供し、前記第1送達分子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を複数の測定波長にて決定し、前記複数の測定波長での前記第1送達分子のモル吸光係数の近似曲線と、前記複数の測定波長での前記第2粒子のモル吸光係数の近似曲線との交点を特定することによって、決定することができる。
【0036】
本明細書において「量比」は、所定の物質の量に対する他の物質の量の割合を示す。1つの例において、分子送達用粒子が第1粒子及び第2粒子を含む場合、量比は、第1粒子の量に対する第2粒子の量の比あってよい。1つの例において、量比は、第1粒子の数に対する第2粒子の数の比であってよい。1つの例において、量比は、分子送達用粒子に含まれる1つの粒子タイプに対する他の粒子タイプの混合物の数の比であってよい。1つの例において、量比は、分子送達用粒子が第1粒子、第2粒子及び第3粒子を含む場合、分子送達用粒子の量(第1粒子の量+第2粒子の量+第3粒子の量)に対する第1粒子の量の百分率(%)であってよい。
【0037】
後述する第1溶液の文脈で用いられる「溶媒」は、分子送達用粒子に適合する溶媒であれば特に制限なく用いることができる。前記溶媒は、例えば軽水(HO)であってよい。後述する第2溶液の文脈で用いられる「同位体標識溶媒」は、前記溶媒と同一の化学式を有するが、1つ又は複数の元素が対応する元素の同位体で置換されている。前記同位体は、例えば非放射性同位体又は放射性同位体であってよく、好ましくは非放射性同位体である。同位体での置換は、例えば水素原子Hを重水素原子Hに交換すること、又は酸素原子16Oを18Oに交換することであってよい。前記溶媒が軽水(HO)である場合、同位体標識溶媒はH 18Oであってよい。第1溶液は、前記溶媒に加えて、同位体標識溶媒を第1比率でさらに含んでもよい。溶媒に対する同位体標識溶媒の第1比率(同位体標識溶媒:溶媒)は、例えば0:100であってよく、または10:90であってもよい。第2溶液は、前記同位体標識溶媒に加えて、溶媒を第2比率でさらに含んでもよい。第1比率と第2比率とは異なる。溶媒に対する同位体標識溶媒の第1比率(同位体標識溶媒:溶媒)は、例えば35:65であってよく、または60:40であってよい。第1溶液及び第2溶液は、リン酸若しくはその塩などの緩衝剤、塩化ナトリウムなどの無機塩類をさらに含んでいてよい。
【0038】
分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、分子送達用粒子と溶媒とを含む第1溶液を、光測定を伴う遠心分離に供して、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定すること;及び分子送達用粒子と同位体標識溶媒とを含む第2溶液を、光測定を伴う遠心分離に供して、第2溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定することを含む。
【0039】
第1溶液中の分子送達用粒子の沈降係数を決定する工程と、第2溶液中の分子送達用粒子の沈降係数を決定する工程とは、同時に実施されてもよく、順次に実施されてもよい。1つの実施形態において、前記2つの工程は同時に実施される。
【0040】
分子送達用粒子と溶媒とを含む第1溶液を、光測定を伴う遠心分離に供することで、第1溶液の光学データ(例えば吸光度データを含む)が得られる。前記光学データから、実施例に記載の方法に従って、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数が決定される。具体的には、前記光学データから、例えば商業的に利用可能なプログラム(例えばプログラムGUSSI又はMicrosoft Excel)を用いて、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数分布を得て、公知のモデル式(例えばプログラムSEDFITのc(s)分布モデル)をグローバルフィットさせることで、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数が決定される。同様にして、分子送達用粒子と同位体標識溶媒とを含む第2溶液を、光測定を伴う遠心分離に供することで、第2溶液の光学データ(例えば吸光度データを含む)が得られ、前記光学データから、第2溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数が決定される。
【0041】
本方法により決定された沈降係数は、例えば分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、分子送達用粒子の分子量、摩擦係数比(f/f)、偏比容、溶媒密度及び溶媒粘度から計算された沈降係数と比較することができる。摩擦係数、溶媒密度及び溶媒粘度から、沈降係数を算出する方法は公知であり、例えばAnalytical Ultracentrifugation Instrumentation, Software, and Applicationsを参照することができる。
【0042】
分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1溶液中での分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中での分子送達用粒子の前記沈降係数とに基づいて、前記分子送達用粒子の偏比容を決定する工程をさらに含む。分子送達用粒子の偏比容は、実施例に記載されている方法に従って決定することができる。具体的には、第1溶液及び第2溶液中の分子送達用粒子の沈降プロファイル(例えば図2に示される時間依存的なセル内濃度分布)に、公知のモデル式(例えばSEDPHATの“Hybrid Global Discrete Species Global Continuous Distribution”モデル)をグローバルにフィットさせて、偏比容が決定される。
【0043】
分子送達用粒子が中空粒子である場合、中空粒子の偏比容は、アミノ酸組成から算出される分子量及びプログラムSEDNTERPを用いて得ることができる。分子送達用粒子が完全粒子である場合、完全粒子の偏比容は、式1を用いて算出することができる。
【0044】
分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、前記分子送達用粒子の前記偏比容とに基づいて、前記分子送達用粒子の分子量を決定する工程をさらに含む。沈降係数及び偏比容に基づいて分子量を決定する方法は、公知であり、例えば蛋白質科学会アーカイブ,1,e043(2008)(http://www.pssj.jp/archives/protocol/measurement/XLA_01/XLA_01.html)及びAnalytical Ultracentrifugation Instrumentation, Software, and Applicationsを参照することができる。具体的には、分子送達用粒子の分子量は、粒子の沈降係数及び偏比容を以下の数式に代入することで算出することができる。
【数1】
式中、sは粒子の沈降係数であり、Mは粒子の分子量であり、vbarは粒子の偏比容であり、ρは溶媒密度であり、Nはアボガドロ数であり、fは摩擦係数である。摩擦係数fは以下の数式から算出することができる。
【数2】
ηは溶媒粘度であり、Rsは粒径である。粒径Rsは以下の数式から算出することができる。
【数3】
【0045】
1つの実施形態において、分子送達用粒子を特徴づける方法は、光測定を伴う遠心分離によって得られた分子送達用粒子と溶媒とを含む第1溶液の光学データ(吸光度データを含む)から、第1溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定し、光測定を伴う遠心分離によって得られた分子送達用粒子と同位体標識溶媒とを含む第2溶液の光学データ(吸光度データを含む)から、第2溶液中の前記分子送達用粒子の沈降係数を決定し、第1溶液中の前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中の前記分子送達用粒子の前記沈降係数とに基づいて、前記分子送達用粒子の偏比容を決定し、及び第1溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、第2溶液中での前記分子送達用粒子の前記沈降係数と、前記分子送達用粒子の前記偏比容とに基づいて、前記分子送達用粒子の分子量を決定することを含む。
【0046】
本態様における分子量を決定する方法によると、分子量が未知の分子送達用粒子、理論的に分子量の算出が難しい分子送達用粒子(例えば、天然由来の不活化ウイルスや弱毒化ウイルス、mRNAを脂質に内包した脂質ナノ粒子(LNP)等)であっても分子量を決定することができる。また、本実施形態における分子量を決定する方法によると、光測定を伴う遠心分離において、他の粒子の特性と併せて分子量を決定することができる。
【0047】
分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法における光測定では、例えば1種または複数の測定波長を用いて、分子送達用粒子の吸光度に関するデータ、場合により他の光学データが取得される。前記光測定では、例えば1種の波長が用いられてよい。前記方法に係る光測定を伴う遠心分離には、例えば超遠心分析装置OPTIMA(ベックマン・コールター、米国)を用いることができる。
【0048】
モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を決定すること;及び、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することを含む。
【0049】
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、光測定を伴う粒子分離に供することで、前記分子送達用粒子についての光学データ(例えば屈折率データを含む)が得られ、第1粒子と第2粒子とが区別できるように分離される。前記光学データは、第1粒子及び第2粒子それぞれの屈折率増分に関する情報を含む。前記光学データから、例えば実施例に記載の方法に従って、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を決定することができる。具体的には、前記光学データから、例えば、プログラムSEDFITにて解析することで、前記分子送達用粒子の沈降係数分布又は溶出成分のピーク面積を得て、商業的もしくは無料で利用可能なプログラム(例えばMicrosoft Excel又はプログラムGUSSI)を用いて、第1粒子及び第2粒子それぞれの屈折率増分を決定することができる。沈降係数分布は、例えば光測定を伴う遠心分離により得ることができる。溶出成分のピーク面積は、例えば光測定を伴うクロマトグラフィーにより得ることができる。
【0050】
モル濃度を決定する工程では、第1粒子及び第2粒子それぞれについての屈折率増分(δd)を、濃度あたりの屈折率変化値である比屈折率変化値(dn/dc)で割り付けることによりグラム濃度をそれぞれ得て、さらにそれぞれの分子量で割りつけることにより、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することができる。
【0051】
第1粒子及び第2粒子それぞれの比屈折率変化値(dn/dc)は、例えば、実施例に記載の方法又は公知の方法に従って、決定することができる。具体的には、粒子のアミノ酸組成からSEDFITを用いて決定することができる。または、第1粒子及び第2粒子それぞれの比屈折率変化値は、公知の値を用いてもよい。例えば、リン脂質及び脂質の比屈折率変化値は、Optical characterization of liposomes by right-angle light scattering and turbidity'' Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes 1467, 1, 219-226 (2000)に記載の値を用いることができる。また、リン脂質又は脂質などの成分の比屈折率変化は、タンパク質の比屈折率変化とほぼ同じ値となることから、タンパク質について決定された比屈折率変化値を用いることができる。
【0052】
第1粒子及び第2粒子それぞれのモル濃度は、例えば前記した“分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って決定した分子量を用いて、又は場合により第1粒子及び第2粒子の組成から理論的に推定される分子量を用いて、決定することができる。
【0053】
1つの実施形態において、モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、光測定を伴う粒子分離によって得られた前記分子送達用粒子の屈折率データから、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値に基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することを含む。
【0054】
前記した実施形態では、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、3つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、及び第3粒子)または4つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0055】
1つの実施形態において、前記第1粒子は第1外被及び第1送達分子を含み、前記第2粒子は第2外被を含む。1つの例において、前記第2外被は、前記第1外被の組成と実質的に同一の組成を含む。1つの例において、前記第2粒子は、送達分子を含まない。1つの実施形態において、前記第1粒子は第1外被及び第1送達分子を含み、前記第2粒子は、前記第1外被の組成と実質的に同一の組成で構成される第2外被を含むが、送達分子は含まない。1つの例において、分子送達用粒子が、第3粒子を含む場合、前記第3粒子は、前記第1外被の組成と実質的に同一の組成で構成される第3外被を含み、第1送達分子と実質的に同一組成の第3送達分子を含む。1つの例において、分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、第1ウイルス粒子は、第1外被としてカプシドを含み、第1送達分子として所定の鎖長の第1ポリヌクレオチドを含む。この例において、第2ウイルス粒子は、第2外被として前記カプシドを含むが、送達分子としてのポリヌクレオチドを含まない。この例において、第3ウイルス粒子は、例えば、第3外被として前記カプシドを含むが、第3送達分子として第1ポリヌクレオチドの鎖長よりも短い鎖長の第3ポリヌクレオチドを含んでよい。他の例において、第3ウイルス粒子は、例えばウイルス粒子の凝集体であってよく、前記ウイルス粒子の凝集体は、例えば、第3外被として3つの前記カプシドを含み、第3送達分子として第1ポリヌクレオチドの鎖長よりも長い総鎖長の第3ポリヌクレオチドを含んでよい。
【0056】
前記方法における光測定では、例えば1種または複数の測定波長を用いて、分子送達用粒子の屈折率に関するデータ、場合により他の光学データが取得される。前記光測定では、例えば1種の波長が用いられてよい。前記方法に係る光測定を伴う遠心分離には、例えば超遠心分析装置OPTIMA(ベックマン・コールター、米国)を用いることができる。
【0057】
モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長について決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定することを含む。
【0058】
第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離に供することで、前記分子送達用粒子についての光学データ(例えば吸光度データを含む)が得られ、第1粒子と第2粒子とが区別できるように分離される。前記光学データは、各測定波長について第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度に関する情報を含む。前記光学データから、実施例に記載の方法に従って、第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度が各測定波長について決定される。具体的には、前記光学データのうちある測定波長の光学データから、例えば商業的に利用可能なプログラム(例えばプログラムGUSSI)を用いて、前記分子送達用粒子の沈降係数分布を得て、公知のモデル式(例えばプログラムSEDFITのc(s)分布モデル)をグローバルフィットさせることで、その測定波長における第1粒子及び第2粒子の吸光度がそれぞれ決定される。決定された第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度は、沈降係数分布において観察される第1粒子及び第2粒子それぞれに対応するピークのピーク面積に相当する。他の測定波長の光学データについても、同様に処理することで、用いた複数の測定波長について、第1粒子及び第2粒子の吸光度がそれぞれ決定される。
【0059】
モル吸光係数を決定する工程で用いられる第1粒子及び第2粒子それぞれのモル濃度は、前記した“モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”を用いて得ることができる。この工程は、ある測定波長での第1粒子の吸光度を、前記第1粒子のモル濃度とで割りつけることで、その波長での第1粒子のモル吸光係数を得ることができる。同様にして、その測定波長での第2粒子の吸光度を、前記第2粒子のモル濃度で割りつけることで、その波長での第2粒子のモル吸光係数を得ることができる。他の測定波長の光学データについても、同様に処理することで、用いた複数の測定波長について、第1粒子及び第2粒子のモル吸光係数がそれぞれ決定される。
【0060】
1つの実施形態において、モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を特定の波長について決定すること;前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を複数の測定波長について決定すること;前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定することを含む。前記実施形態において、屈折率増分を決定するための光測定を伴う粒子分離と、吸光度を決定するための光測定を伴う粒子分離とは、同時に実施されてもよく、順次に実施されてもよい。1つの実施形態において、前記2つの光測定を伴う粒子分離は同時に実施される。
【0061】
1つの実施形態において、モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、光測定を伴う粒子分離によって得られた前記分子送達用粒子の屈折率データから、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分を決定すること;前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定すること;複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離によって得られた分子送達用粒子の吸光度データから、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長について決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定することを含む。前記屈折率データ及び前記吸光度データは、1つの光学データに格納されていてもよく、2つの異なる光学データにそれぞれ格納されていてよい。1つの実施形態において、前記2つのデータは、1つの光学データに格納されている。
【0062】
前記した実施形態では、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、3つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、及び第3粒子)または4つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0063】
前記方法における光測定では、複数の測定波長を用いて、分子送達用粒子の吸光度に関するデータ、場合により他の光学データが取得される。前記光測定では、例えば2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種又は12種以上の波長の光が用いられてよい。1つの例において、光測定では、5種、7種、9種、11種又は13種の波長の光が用いられる。他の例では、9種、11種又は13種の波長の光が用いられる。前記方法に係る光測定を伴う遠心分離には、例えば超遠心分析装置OPTIMA(ベックマン・コールター、米国)を用いることができる。
【0064】
第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。前記方法では、第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、及び前記第2粒子が第2外被を有する、分子送達用粒子を用いることができる。1つの例において、前記第1粒子は第1外被及び第1送達分子を含み、前記第2粒子は、前記第1外被と実質的に同一組成の第2外被を含むが、送達分子を含まない。前記方法は、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を各測定波長について決定すること;及び前記第1粒子の前記モル吸光係数から、前記第2粒子の前記モル吸光係数を差し引いて、前記第1送達分子のモル吸光係数を、各測定波長について決定することを含む。第1粒子及び第2粒子それぞれのモル濃度は、前記した“モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って決定することができる。第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数は、前記した“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って決定することができる。
【0065】
前記第1粒子及び前記第2粒子はそれぞれ、実質的に同一組成の第1外被及び第2外被を含む。実質的に同一組成の外被は、例えば、タンパク質性(例えばカプシドタンパク質又はアルブミン)の外被、脂質二重層の外被、又は高分子(例えばPEG又はPLGA)の外被であってよい。各粒子の外被は、好ましくは同一組成で、且つ同一のサイズである。前記外被の1つの例として、分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、外被は実質的に同一のタンパク質性のカプシドであり、実質的に同一のサイズ(例えばカプシド単量体)である。1つの例において、前記第1粒子は第1送達分子を含み、前記第2粒子は送達分子を含まない。第1送達分子は、例えば分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、核酸(例えばDNA又はRNA)を送達分子としてよい。前記例では、分子送達用粒子としてウイルス粒子を例示したが、分子送達用粒子はこれに限定されない。例えば、分子送達用粒子がリポソームである場合、第1送達分子は薬物成分(例えば抗がん剤)又は栄養素を送達分子として含んでよい。
【0066】
具体的には、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子に対して、前記した“モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”及び“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”を行うことで、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度及びモル吸光係数を各測定波長について決定することを含む。次いで、ある測定波長について決定した第1粒子(第1外被及び第1送達分子を有する)のモル吸光係数から、その測定波長について決定した第2粒子(第2外被を有する)のモル吸光係数を差し引くことで、その測定波長での第1送達分子のモル吸光係数を得ることができる。他の測定波長についても同様に処理することで、用いた複数の測定波長それぞれについて、第1送達分子のモル吸光係数が決定される。
【0067】
より具体的には、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分及び吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長についてそれぞれ決定することを含む。次いで、前記方法は、決定した前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定することを含む。さらに、前記方法は、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定することを含む。加えて、前記方法は、前記第1粒子の前記モル吸光係数から、前記第2粒子の前記モル吸光係数を差し引いて、前記第1送達分子のモル吸光係数を、各測定波長について決定することを含む。前記した屈折率増分及び吸光度を決定するための光測定を伴う粒子分離は、同時に実施されてもよく、順次に実施されてもよい。1つの実施形態において、前記した光測定を伴う粒子分離は、同時に実施される。
【0068】
1つの実施形態において、第1粒子がカプシドとゲノムDNAを有する完全ウイルス粒子であり、第2粒子がカプシドを有する中空ウイルス粒子である場合、前記方法に基づいて、完全ウイルス粒子のモル吸光係数から、中空ウイルス粒子のモル吸光係数を差し引くことで、ゲノムDNAのモル吸光係数を決定することができる。前記した実施形態では、完全ウイルス粒子及び中空ウイルス粒子を分子送達用粒子として用いたが、第1粒子及び第2粒子は、これらに限定されない。他の例において、外被としての脂質二重層及びそれにカプセル化された薬物を含む完全リポソーム粒子、及び脂質二重層を含むが薬物を含まない中空リポソーム粒子を分子送達用粒子として用いることができる。
【0069】
1つの実施形態において、第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、及び前記第2粒子が第2外被を有し、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離によって得られた分子送達用粒子の光学データ(例えば吸光度データ及び屈折率データを含む)から、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの屈折率増分及び吸光度を、前記複数の測定波長の各測定波長についてそれぞれ決定すること;前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記屈折率増分と、分子量と、比屈折率変化値とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル濃度を決定すること;前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記モル濃度とに基づいて、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれのモル吸光係数を、前記各測定波長について決定すること;及び前記第1粒子の前記モル吸光係数から、前記第2粒子の前記モル吸光係数を差し引いて、前記第1送達分子のモル吸光係数を、各測定波長について決定することを含む。
【0070】
前記した実施形態では、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、3つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、及び第3粒子)または4つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0071】
量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。前記方法では、第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、及び前記第2粒子が第2外被を有する、分子送達用粒子を用いることができる。1つの例において、前記第2粒子は、送達分子を含まない。
(1)等吸収点を決定して、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
1つの実施形態に係る前記方法は、第2粒子のモル吸光係数と、第1送達分子のモル吸光係数とが一致する等吸収点を特定すること;及び前記等吸収点での第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む。第2粒子及び第1送達分子それぞれのモル吸光係数は、前記した“第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って決定することができる。等吸収点での第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度は、実施例に記載した方法又は前記した“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”のうちの“吸光度を決定する工程”に従って決定することができる。本実施形態において、等吸収点を特定するために用いた分子送達用粒子と、量比の決定に用いられる分子送達用粒子とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。異なる分子送達用粒子である場合、量比の決定に用いられる分子送達用粒子は、例えば、等吸収点を特定するために用いた分子送達用粒子と実質的に同一組成の外被及び送達分子を含むが、未知の比率で第1粒子及び第2粒子を含む。
【0072】
等吸収点は、例えば、複数の測定波長での第2粒子のモル吸光係数の近似曲線と、複数の測定波長での第1送達分子のモル吸光係数の近似曲線との交点の波長としてよい。一例において、複数の測定波長での第2粒子のモル吸光係数を、横軸を測定波長とし、縦軸をモル吸光係数としたグラフにプロットして散布図を得て、その散布図中の各モル吸光係数に対応するプロットの第2粒子に関する近似曲線を得る。同様にして、複数の測定波長での第1送達分子のモル吸光係数の散布図を得て、その散布図中の各モル吸光係数に対応するプロットの第1送達分子に関する近似曲線を得る。前記第2粒子に関する近似曲線と、前記第1送達分子に関する近似曲線との交点を特定し、その交点の波長を等吸収点とすることができる。
【0073】
第1粒子と第2粒子との量比は、例えば第1粒子がカプシドとゲノムDNAとを含む完全ウイルス粒子であり、第2粒子がカプシドを含むがゲノムDNAを含まない中空ウイルス粒子である場合、以下の式を用いて、完全ウイルス粒子の数と、中空ウイルス粒子の数の比を算出することができる。本方法で得られる量比は、相対的な濃度比ではなく、ウイルス粒子の数の比(絶対的な比)である点が特徴である。
【数4】

ここで、Nempty及びNfullはそれぞれ中空ウイルス粒子及び完全ウイルス粒子の粒子数を示し、Areaempty及びAreafull(=Areaempty+AreaDNA)はそれぞれ、沈降係数分布における完全ウイルス粒子に対応するピークの面積及び中空ウイルス粒子に対応するピーク面積を示す。
【0074】
上記例では、第1粒子と第2粒子の量比は、第1粒子としての完全ウイルス粒子及び第2粒子としての中空ウイルス粒子を用いて算出したが、これら以外の粒子についても前記量比を算出できる。例えば、分子送達用粒子がリポソームの場合、外被の分子量と送達分子の分子量とから、前記数式中の分子に記載の定数「2」を適宜変更したうえで、外被としての脂質二重層及びそれにカプセル化された薬物を含む完全リポソーム粒子を第1粒子とし、及び脂質二重層を含むが薬物を含まない中空リポソーム粒子を第2粒子として、変更した前記数式を用いて、それらの量比を算出することができる。例えば、前記した“分子量を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って、送達分子及び外被を含む完全粒子と、送達分子を含まない外被で構成される中空粒子の分子量を決定し、完全粒子に含まれる送達分子の分子量が、設計した一分子又は所望の一分子の分子量に相当すれば、「2」と設定し、その分子量が設計した二分子又は所望の二分子の分子量に相当すれば、「3」と設定することができる。
【0075】
(2)等吸収点にて、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
特定の分子送達用粒子について、等吸収点が決定されると、その特定の分子送達用粒子と実質的に同一組成の外被及び送達分子を含む分子送達用粒子については、モル吸光係数を用いることなく、前記等吸収点での光測定を伴う粒子分離によって、その分子送達用粒子中の第1粒子と第2粒子との量比を決定することができる。特定の分子送達用粒子は、等吸収点を決定するために用いられた分子送達用粒子と同一であってもよく、異なっていてもよい。異なる分子送達用粒子である場合、量比が決定される第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子は、例えば、等吸収点を特定するために用いられた分子送達用粒子と実質的に同一組成の外被及び送達分子を含むが、未知の比率で第1粒子及び第2粒子を含む。
【0076】
従って、本発明の1つの態様は、モル吸光係数を用いない、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。具体的には、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、等吸収点での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む。前記方法の各ステップは、上記した方法の対応するステップについてした説明及び実施形態が適宜適応される。
【0077】
1つの実施形態は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、等吸収点での光測定を伴う粒子分離によって得られた分子送達用粒子の吸光度データから、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定すること;及び前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの前記吸光度を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む。
【0078】
(3)粒子のモル吸光係数を決定した測定波長にて、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
特定の測定波長にて特定の分子送達用粒子について、モル吸光係数が決定されると、その特定の分子送達用粒子と実質的に同一組成の外被及び送達分子を含む分子送達用粒子については、その特定の測定波長での光測定を伴う粒子分離により、その分子送達用粒子中の第1粒子及び第2粒子それぞれの吸光度を決定することで、第1粒子と第2粒子との量比を決定することができる。特定の分子送達用粒子は、特定の測定波長でのモル吸光係数を決定するために用いられた分子送達用粒子と同一であってもよく、異なっていてもよい。異なる分子送達用粒子である場合、特定の分子送達用粒子は、特定の測定波長でのモル吸光係数を決定するために用いられた分子送達用粒子と実質的に同一組成の外被及び送達分子を含むが、未知の比率で第1粒子及び第2粒子を含む。
【0079】
従って、本発明の1つの態様は、粒子のモル吸光係数を決定した測定波長にて、量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。具体的には、前記方法は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を、第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を決定した測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定すること;及び前記第1粒子と前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、決定された前記第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む。この実施形態における量比の決定は、例えば、吸光度に関する沈降係数分布における前記第1粒子に対応するピーク面積を、前記第1粒子のモル吸光係数で割り付けることで、前記第1粒子のモル濃度が得られる。同様にして得られた前記第2粒子のモル濃度と前記第1粒子の前記モル濃度とから、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することができる。1つの実施形態において、予めモル吸光係数が決定された第1粒子及び第2粒子と、量比が決定される第1粒子及び第2粒子とは、それぞれ実質的に同一組成又は同一組成の外被及び送達分子を含む。
【0080】
1つの実施形態は、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、前記第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を決定した測定波長での光測定を伴う粒子分離によって得られた分子送達用粒子の吸光度データから、前記第1粒子及び前記第2粒子それぞれの吸光度を決定すること;及び前記第1粒子と前記第2粒子それぞれの前記吸光度と、決定された前記第1粒子及び第2粒子それぞれのモル吸光係数を用いて、前記第1粒子と前記第2粒子との量比を決定することを含む。
【0081】
前記した実施形態では、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、3つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、及び第3粒子)または4つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0082】
前記した方法は、分子送達用粒子の品質管理に用いることができる。1つの例において、本方法は、遺伝子治療用の分子送達用粒子である組換えウイルス粒子の品質を管理するために用いることができる。具体的には、組換えウイルス粒子には、所定のゲノムを含む所望のウイルス粒子の他に、所定のゲノムを含まない所望しないウイルス粒子が含まれる場合がある。本方法を用いて、全ウイルス粒子の数に対する所望のウイルス粒子又は所望しないウイルス粒子の数の比を決定することで、その組換えウイルス粒子の品質を管理することができる。
【0083】
第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。前記方法では、第1粒子、第2粒子及び第3粒子を含む、分子送達用粒子を用いることができる。前記第3送達分子は、第3外被を有し、且つ第3送達分子を有していてもよく有していなくてもよい。前記方法は、前記分子送達用粒子の複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離により、前記第3粒子の吸光度を、前記各測定波長について決定すること;及び前記第2粒子の前記モル吸光係数と前記第1送達分子の前記モル吸光係数との、前記第3粒子の前記吸光度に対する寄与度を決定することを含む。第3粒子の吸光度を決定するための光測定を伴う粒子分離と、屈折率増分を決定するための光測定を伴う粒子分離と、吸光度を決定するための光測定を伴う粒子分離とは、同時に実施されてもよく、順次に実施されてもよい。1つの実施形態において、前記3つの光測定を伴う粒子分離は同時に実施される。
【0084】
前記第1粒子、前記第2粒子及び前記第3粒子はそれぞれ、例えば実質的に同一組成の第1外被、第2外被及び第3外被を含む。実質的に同一組成の外被は、例えば、タンパク質性(例えばカプシドタンパク質又はアルブミン)の外被、脂質二重層の外被、又は高分子(例えばPEG又はPLGA)の外被であってよい。各粒子の外被は、例えば実質的に同一組成で、且つ実質的に同一のサイズであってよい。前記外被の1つの例として、分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、外被は実質的に同一のタンパク質性のカプシドであり、同一のサイズ(例えばカプシド単量体)である。前記外被の他の例として、分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、外被は同一のタンパク質性のカプシドであり、3つのタイプの粒子のうちの2つのタイプが同一サイズの外被(例えばカプシド単量体)を有し、残りの1つのタイプが異なるサイズの外被(例えば凝集体)を有してもよい。前記例では、分子送達用粒子としてウイルス粒子を例示したが、分子送達用粒子はこれに限定されない。分子送達用粒子がリポソームである場合、その外被は同一組成の脂質二重層であり、そのサイズは略同一(例えば1つのピークで示される粒径分布)であってよい。
【0085】
1つの例において、前記第1粒子、及び前記第3粒子は、例えば実質的に同一組成の第1送達分子及び第3送達分子を含んでよい。実質的に同一組成の送達分子は、例えばポリヌクレオチド、ポリペプチド、有機化合物又は放射性物質、若しくはそれらの組合せであってよい。分子送達用粒子がウイルス粒子である場合、送達分子はポリヌクレオチドである。1つの例において、第1粒子は、所望のサイズのポリヌクレオチドを含み、第3粒子は所望のサイズより小さいポリヌクレオチド(例えば所望のポリヌクレオチドの断片)又は大きいポリヌクレオチド(例えば所望のポリヌクレオチドの凝集体)を含んでよい。前記例では、第1送達分子と実質的に同一組成の第3送達分子を例示したが、本態様に用いられる第3送達分子はこれに限定されない。1つの例において、本態様に用いられる第3粒子は、第1送達分子と異なる組成(例えば分子の種類が異なる分子)の第3送達分子を含んでもよい。この例において、第3送達分子の波長依存的なモル吸光係数は、公知の方法にて決定することができる。
【0086】
各測定波長での第3粒子の吸光度は、例えば第1粒子、第2粒子及び第3粒子を含む分子送達用粒子を、複数の測定波長での光測定を伴う粒子分離に供することで得られた前記分子送達用粒子についての光学データ(例えば吸光度データを含む)から、実施例に記載の方法又は“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”における“吸光度を決定する工程”に関する説明に従って、決定することができる。従って、第3粒子の濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、分子送達用粒子についての光学データ(例えば吸光度データを含む)から、第3粒子の吸光度を、各測定波長について決定することを含む。
【0087】
第3粒子(第3外被及び第3送達分子を有し得る)の吸光度に対する、第2粒子(第2外被を有する)のモル吸光係数と第1成分のモル吸光係数の寄与度は、実施例に記載の方法に従って決定することができる。具体的には、第3粒子の吸光度は、第3外被と同一組成の第2粒子(第2外被)のモル吸光係数に寄与度αを乗じた値に、第3送達分子と同一組成の第3送達分子のモル吸光係数に寄与度βを乗じた値を加えた合計値であるから、各測定波長での第3粒子の吸光度について、各測定波長での第2粒子のモル吸光係数と第1送達分子のモル吸光係数とを用いて重回帰分析することで、寄与度α及びβを決定することができる。
【0088】
1つの実施形態において、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、吸光度データから、前記第3粒子の吸光度を、各測定波長について決定すること、及び第2粒子のモル吸光係数と第1送達分子のモル吸光係数との、第3粒子の前記吸光度に対する寄与度を決定することを含む。
【0089】
1つの実施形態において、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、前記寄与度(α及びβ)に基づいて、第3送達分子の構成割合を決定することをさらに含んでよい。1つの例において、第3粒子(第3外被及び第3送達分子を有し得る)における、第2外被と同一組成の第3外被に対する、第3送達分子の構成割合(=β/α)を算出することができる。他の例において、前記第3粒子(第3外被及び第3送達分子を有する)における第3外被の割合(=α/(α+β))又は第3送達分子の割合(=β/(α+β))を算出することができる。
【0090】
1つの実施形態において、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、前記寄与度に基づいて、第3外被及び第3送達分子それぞれのモル濃度を決定することをさらに含んでよい。第3外被及び第3送達分子それぞれの濃度は、実施例に記載の方法に従って決定することができる。具体的には、第3粒子における第3外被の濃度は、外被(空粒子)のモル吸光係数にその寄与度αを乗じて第3粒子のピーク面積(第3粒子の吸光度)に占める外被のピーク面積(外被の吸光度)を得て、得られた外被のピーク面積を、外被(空粒子)のモル吸光係数で割りつけ、光測定の際の光路長を換算することによって、第3外被の濃度を得ることができる。同様にして、第3粒子における第3送達分子の濃度は、送達分子(完全粒子に含まれる送達分子)のモル吸光係数にその寄与度βを乗じて第3粒子のピーク面積(第3粒子の吸光度)に占める送達分子のピーク面積(送達分子の吸光度)を得て、得られた送達分子のピーク面積を、送達分子(完全粒子に含まれる送達分子)のモル吸光係数で割りつけ、光測定の際の光路長を換算することによって、第3送達分子の濃度を得ることができる。
【0091】
1つの実施形態において、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第3粒子に対応するピークにおける第3外被の含量に対する第3送達分子の含量の比(=[第3送達分子の含量]/[第3外被の含量])を決定することをさらに含んでよい。第3外被の含量に対する第3送達分子の含量は、前記した実施形態に従って得られる第3送達分子の濃度を、第3外被の濃度で割り付けることによって得ることができる。
【0092】
1つの実施形態において、第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、分子送達用粒子が組み換えウイルス粒子であり、送達分子がポリヌクレオチドである場合、完全粒子に含まれるポリヌクレオチドの長さに対する、第3粒子に含まれるポリヌクレオチドの長さの比(=[第3粒子のポリヌクレオチドの長さ]/[完全粒子のポリヌクレオチドの長さ])を決定することをさらに含んでよい。完全粒子に含まれるポリヌクレオチドの長さに対する、第3粒子に含まれるポリヌクレオチドの長さの比は、寄与度β及びカプシド(空粒子)の濃度(Ccapsid)を、式13及び式14に用いて算出することができる。
【0093】
前記した実施形態では、第1粒子、第2粒子及び第3粒子を含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、4つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、第3粒子、及び第4粒子)または5つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0094】
品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。1つの実施形態において、前記方法は、第1粒子と第2粒子との量比に基づいて、分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む。前記方法では、第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子が第1外被及び第1送達分子を有し、及び前記第2粒子が第2外被を有する、分子送達用粒子を用いることができる。第1粒子と第2粒子との量比は、前記した“量比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って、決定することができる。
【0095】
分子送達用粒子の品質は、前記第1粒子と第2粒子との量比が、所定の閾値を超えるか否かにより判定される。閾値は、本態様における分子送達用粒子の用途などの事情に応じて適宜設定される。1つの例において、第1粒子と第2粒子との量比(好ましくは百分率)が閾値を超える場合、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子は、所定の品質があると判定される。所定の品質は、分子送達用粒子を用いる用途に応じて、適宜設定される。前記した判定の表現として、“所定の品質がある”が例示されたが、本体の判定の表現はこれに限定されない。判定は、例えば“品質が高い”であってよい。
【0096】
1つの例において、分子送達用粒子が遺伝子治療用の組換えウイルス粒子であり、第1ウイルス粒子が第1外被であるカプシド及び第1送達分子である所望サイズのDNAを有し、及び第2ウイルス粒子が前記カプシドを第2外被として有し、且つDNAを有しない場合、第1ウイルス粒子及び第2ウイルス粒子を含む組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第1ウイルス粒子の数の百分率が、第1閾値(例えば95%)を超える場合に、所定の品質があると判定される。前記例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第1ウイルス粒子の数の百分率が、前記第1閾値以下である場合、所定の品質を満たさないと判定される。他の例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第2ウイルス粒子の数の百分率が、第1閾値(例えば95%)を超える場合に、所定の品質があると判定される。前記例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第2ウイルス粒子の数の百分率が、前記第1閾値以下である場合、所定の品質を満たさないと判定される。
【0097】
前記した例では、1つの閾値(例えば第1閾値)を用いる場合を例示したが、本実施形態に用いられる閾値の数は1つに限定されない。1つの例において、閾値は、2つの閾値(例えば第1閾値、及び前記第1閾値よりも高い値の第2閾値)を含んでよい。1つの例において、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子の数に対する、所望の第2粒子の数の割合が、第1閾値を超えており、かつ第2閾値以下である場合、その分子送達用粒子は所定の品質があると判定される。この例において、前記した割合が、第2閾値を越えている場合、その分子送達用粒子は優れた品質を有すると判定される。
【0098】
1つの実施形態において、品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1粒子、第2粒子及び第3粒子(第3外被及び第3送達分子を有する)を含む分子送達用粒子について、前記第1粒子のモル濃度、前記第2粒子のモル濃度、前記第3外被の濃度、及び前記第3送達分子の濃度に基づいて、前記分子送達用粒子に対する、前記第1粒子又は前記第2粒子の量比を決定すること、及び前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む。第1粒子のモル濃度、及び第2粒子のモル濃度は、前記した“モル濃度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って、決定することができる。第3外被の濃度、及び第3送達分子の濃度は、前記した“第3粒子の吸光度に対する寄与度を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”に従って、決定された寄与度に基づいて決定することができる。1つの例において、第3外被の濃度と、第3送達分子の濃度とを併せて、第3粒子の濃度とすることができる。従って、1つの実施形態に係る品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1粒子のモル濃度、第2粒子のモル濃度、第3粒子の濃度に基づいて、それらの粒子を含む分子送達用粒子に対する、第1粒子又は第2粒子の量比を決定し、及び前記量比が、第1閾値を超える場合に、前記分子送達用粒子が所定の品質があると判定することを含む。本体の他の実施形態についてした閾値及び判定の表現についての説明は、本実施形態に適宜提供される。
【0099】
1つの例において、分子送達用粒子が遺伝子治療用の組換えウイルス粒子であり、第1ウイルス粒子が第1外被であるカプシド及び第1送達分子である所望サイズのDNAを有し、第2ウイルス粒子が前記カプシドを第2外被として有し、且つDNAを有さず、及び第3粒子が第3外被であるカプシド及び第3送達分子としてDNA(例えば所望サイズのDNA断片又は前記DNAの凝集体)を有する場合、第1ウイルス粒子、第2ウイルス粒子及び第3ウイルス粒子を含む組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第1ウイルス粒子の数の百分率が、第1閾値(例えば95%)を超える場合に、所定の品質があると判定される。前記例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、望ましくない第2ウイルス粒子の数の百分率が、前記第1閾値よりも小さい値の第2閾値(例えば5%)以下である場合、優れた品質を有すると判定される。他の例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、望ましくない第2ウイルス粒子と第3ウイルス粒子の合計数の百分率が、第1閾値よりも小さい値の第3閾値(例えば3%)以下である場合、優れた品質を有すると判定される。前記例において、前記組換えウイルス粒子の数に対する、所望の第1ウイルス粒子の数の百分率が、前記第1閾値以下であり、且つ前記第3閾値以上である場合、所定の品質を満たさないと判定される。
【0100】
前記した実施形態では、第1粒子及び第2粒子を含む分子送達用粒子又は第3粒子を更に含む分子送達用粒子を例示したが、本態様に用いられる分子送達用粒子はこれに限定されない。本態様に用いられる分子送達用粒子は、4つのタイプの粒子(例えば第1粒子、第2粒子、第3粒子及び第4粒子)または5つ以上のタイプの粒子を含んでいてもよい。
【0101】
吸光度比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法
本発明の1つの態様は、吸光度比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法を提供する。前記方法は、分子送達用粒子を、第1測定波長及び第2測定波長での光測定を伴う粒子分離に供して、前記分子送達用粒子の吸光度を、前記第1測定波長及び第2測定波長それぞれについて決定すること;及び前記第1測定波長での前記分子送達用粒子の前記吸光度と、前記第2測定波長での前記分子送達用粒子の前記吸光度とから吸光度比を決定することを含む。
【0102】
前記方法における“吸光度を決定する工程”は、前記した“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”のうちの“吸光度を決定する工程”と同様にして実施することができる。具体的には、分子送達用粒子を、第1測定波長及び第2測定波長での光測定を伴う粒子分離に供することで、前記分子送達用粒子についての光学データ(例えば吸光度データを含む)が得られる。前記光学データは、第1測定波長及び第2測定波長それぞれについて分子送達用粒子の吸光度に関する情報を含む。前記光学データから、実施例に記載の方法又は“モル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”における“吸光度を決定する工程”に関する説明に従って、分子送達用粒子の吸光度が第1測定波長及び第2測定波長それぞれについて決定される。例えば、決定された第1測定波長での前記分子送達用粒子の吸光度を、決定された第2測定波長での前記分子送達用粒子の吸光度を割り付けることで、吸光度比を算出することができる。
【0103】
1つの例において、分子送達用粒子が組換えウイルス粒子であり、第1粒子として完全ウイルス粒子及び第2粒子として中空ウイルス粒子を含む場合、前記分子送達用粒子を260nm及び280nmでの光測定を伴う粒子分離に供して、完全ウイルス粒子及び中空ウイルス粒子の吸光度を260nm及び280nmそれぞれについて決定すること;及び前記260nmでの前記完全ウイルス粒子及び前記中空ウイルス粒子の吸光度(A260)を、280nmでの前記完全ウイルス粒子及び前記中空ウイルス粒子の吸光度(A280)でそれぞれ割り付けることで、前記完全ウイルス粒子及び中空ウイルス粒子それぞれの吸光度比(=A260/A280)を決定することを含む。この例で得られた吸光度比は、分子送達用粒子に含まれる第1粒子及び第2粒子それぞれの純度を示す。従って、吸光度比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、分子送達用粒子の純度を判定する方法として利用できる。上記した例では、分子送達用粒子として組換えウイルス粒子を例示したが、前記方法に利用できる分子送達用粒子は、これに限定されない。分子送達用粒子は、例えばリポソーム、アルブミン粒子、ミセル又はPLGA粒子であってよい。方法で用いる測定波長は、測定対象の外被又は送達される分子の吸収極大を考慮して、当業者により適宜設定される。
【0104】
1つの実施形態において、吸光度比を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法は、光測定を伴う遠心分離によって得られた分子送達用粒子の光学データ(吸光度データを含む)から、前記分子送達用粒子の吸光度を、前記第1測定波長及び第2測定波長それぞれについて決定すること;及び前記第1測定波長の前記吸光度と、前記第2測定波長での前記吸光度とから吸光度比を決定することを含む。
【0105】
1つの実施形態において、分子送達用粒子を特徴づける方法は、第1測定波長及び第2測定波長での光測定を伴う粒子分離によって得られた分子送達用粒子の吸光度データから、前記分子送達用粒子の吸光度を、前記第1測定波長及び前記第2測定波長それぞれについて決定すること;及び前記第1測定波長の前記吸光度と、前記第2測定波長での前記吸光度とから吸光度比を決定することを含む。
【0106】
第1粒子のモル吸光係数を決定する方法
本発明の1つの態様は、第1粒子のモル吸光係数を決定する方法を提供する。前記方法では、第1粒子は、第1外被及び第1鎖長の第1ポリヌクレオチドを含む。前記方法は、第2ポリヌクレオチドのモル吸光係数を、その鎖長に対応する値で除して、一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を算出すること;及び前記第1外被のモル吸光係数と、前記第1ポリヌクレオチドの前記モル吸光係数とを足しあわせて、前記第1粒子のモル吸光係数を決定することを含む。第2ポリヌクレオチドが500ヌクレオチド長である場合、その鎖長に対応する値は「500」である。前記方法は、所定鎖長の第2ポリヌクレオチドのモル吸光係数を、前記所定鎖長の値で除して、一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を算出すること;及び前記第1外被のモル吸光係数と、前記第1ポリヌクレオチドの前記モル吸光係数とを足しあわせて、前記第1粒子のモル吸光係数を決定することを含む。
【0107】
本態様に用いられる第2ポリヌクレオチドは、所定の鎖長となるように設計されている。第2ポリヌクレオチドは、例えば、公知のポリヌクレオチド合成方法、PCR、又は遺伝子工学技術、若しくはそれらの組み合わせを用いて調製することができる。本態様に用いられる第1ポリヌクレオチドは、第1鎖長となるように設計される。第1鎖長は、第2ポリヌクレオチドの所定鎖長と同じであってよく、異なってよい。1つの実施形態において、第1鎖長は、第2ポリヌクレオチドの所定鎖長とは異なる。第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドは、DNA分子又はRNA分子であってよい。DNA分子又はRNA分子は一本鎖又は二本鎖であってよい。第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドの鎖長は、特に限定されない。1つの例において、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドは、500~10,000ヌクレオチド長、1,000~8,000ヌクレオチド長、2,000~6,000ヌクレオチド長のポリヌクレオチドであってよい。
【0108】
前記第2ポリヌクレオチドのモル吸光係数は、例えば、“第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”によって決定することができる。1つの例において、第2ポリヌクレオチドのモル吸光係数は、前記第1外被と実質的に同一組成であって、実質的に同一サイズの第2外被と、第2ポリヌクレオチドを含む第2粒子と、前記第1外被と実質的に同一組成であって、実質的に同一サイズの第3外被を含む第3粒子とを含む分子送達用粒子について、“第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”を実施することで決定することができる。この工程で、第2外被のモル吸光係数も決定される。上記のようにして決定された第2ポリヌクレオチドの吸光係数を、その鎖長に対応する値で除することで、一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を算出することができる。算出した一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光に、第1鎖長の値を乗じて、第1ポリヌクレオチドのモル吸光係数を算出することができる。第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドのいずれか一方が一本鎖ポリヌクレオチドであり、他方が二本鎖ポリヌクレオチドである場合、一本鎖ポリヌクレオチドのモル吸光係数を2倍にして0.9を乗じて得た値を、二本鎖ポリヌクレオチドのモル吸光係数とすることができる。これは、淡色効果によって、二本鎖DNA分子のモル吸光係数が、それを構成する2つの一本鎖DNA分子それぞれのモル吸光係数の合計値より約10%低下するためである。
【0109】
上記した“第1送達分子のモル吸光係数を決定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”でそのモル吸光係数が決定された第2外被は、第1外被と実質的に同一組成であって、実質的に同一サイズであるから、第2外被のモル吸光係数を、第1外被のモル吸光係数とすることができる。この第1外被のモル吸光係数と、以上で算出された第1ポリヌクレオチドのモル吸光係数とを足し合わせて、第1粒子のモル吸光係数を決定することができる。
【0110】
1つの例において、第2粒子は、設計されたゲノムDNA分子及びカプシドを含む組換えウイルス粒子であってよく、第1粒子は、遺伝子治療のために設計され、前記ゲノムDNA分子と異なる鎖長のDNA分子及び前記カプシドを含む組換えウイルス粒子であってよい。前記例では、組換えウイルス粒子が例示されたが、本態様に用いられる粒子は、これに限定されない。1つの例において、第2粒子は、設計されたDNA分子及び脂質二重層を含むリポソームであってよく、第1粒子は、遺伝子治療のために設計され、前記DNA分子と異なる鎖長のDNA分子及び脂質二重層を含むリポソームであってよい。
【0111】
所定鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定する方法
本発明の1つの態様は、所定鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定する方法を提供する。前記方法は、前記ポリヌクレオチドを含む分子送達用粒子を所定の測定波長で測定する場合に、前記所定の測定波長と同一又は相当する以下の表に記載のいずれか一つの波長における一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数に、前記所定鎖長の値を乗じて、前記いずれか一つの波長における前記ポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定することを含む。
【表1】
【0112】
所定鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を決定する方法は、例えば、前記した“品質を判定することを含む分子送達用粒子を特徴づける方法”のように、前記ポリヌクレオチドを含む分子送達粒子を、所定の測定波長で前記分子送達用粒子の吸光度を測定することで、その品質を判定する場合に用いることができる。本態様に係る用語「所定の測定波長」は、220~320nmのいずれか一つの波長である。1つの例において、所定の測定波長は、例えば220~310nm、220~300nm、または220~290nmのいずれか一つの波長であってよい。本明細書に記載の用語「所定の測定波長に相当する波長」は、前記表に示された波長のうち、所定の測定波長に最も近い波長を意味する。所定の測定波長に最も近い波長が2つある場合、所定の測手波長に相当する波長は、その2つの波長のうち、短波長側の波長である。1つの例において、所定の測定波長が220~232.5nmのいずれか一つの波長である場合、所定の測定波長に相当する波長は、前記表に示された波長のうち、前記所定の測定波長に最も近い230nmである。1つの例において、所定の測定波長が232.5nmである場合、前記表に示された波長のうち、所定の測定波長に最も近い波長は、230nmおよび235nmの2つの波長がある。前記例において、所定の測定波長(即ち232.5nm)に相当する波長は、2つの波長のうち、短波長側の波長230nmである。
【0113】
1つの例において、1,000ヌクレオチド長のポリヌクレオチドの波長280nmにおけるモル吸光係数は、5.06×10-4[×10L mol-1 cm-1]に鎖長の値1,000を乗じて得られた値5.06×10-1[×10L mol-1 cm-1]となる。
【0114】
上記した表に示される各波長における一ヌクレオチドあたりのモル吸光係数は、所定の鎖長の一本鎖DNAのモル吸光係数から得られた値である。1つの例において、所定鎖長のポリヌクレオチドが二本鎖DNAである場合、前記所定鎖長の二本鎖DNA分子のモル吸光係数は、上記した表に示された一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数に所定鎖長の値を乗じて得た値を2倍にして0.9を乗じて得た値である。1つの例において、所定鎖長のポリヌクレオチドが一本鎖RNAである場合、前記所定鎖長の一本鎖RNA分子のモル吸光係数は、上記した表に示された一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数に所定鎖長の値を乗じて得た値である。これは、DNAの平均モル吸光係数と、RNAの平均モル吸光係数とは、ほぼ等しいためである。
【0115】
本開示により提供される用語及び実施形態の説明は、特に言及がない限り、本開示により提供する態様及び実施形態の間で適宜適用される。
【0116】
以下、具体的な実施例を記載するが、それらは本発明の好ましい実施形態を示すものであり、添付する特許請求の範囲に記載の発明をいかようにも限定するものではない。
【0117】
[実施例]
[材料および方法]
試料
完全なベクターゲノムを含むアデノ随伴ウイルス血清5型(AAV5)ベクター(完全粒子、AAV5-FP)及び前記ベクターゲノムを含まないAAV5ベクター(中空粒子、AAV5-EP)は、次世代バイオ医薬品製造技術研究組合(東京)により提供された。18O水(H 18O)は、大陽日酸株式会社(東京)より、98%に濃縮されたものを購入した。PBSのストック溶液(×10)はThermo Scientific社(米国)から購入した。ポロキサマー188(欧州薬局方標準物質)はSigma-Aldrich社(米国)から購入した。その他の試薬は富士フイルム和光純薬株式会社(大阪)から購入した。
【0118】
サンプル調製
密度コントラスト超遠心分析沈降速度法(SV-AUC)の実験については、最終的にAAV5-EPは280nmで0.95、AAV5-FPは260nmで0.75の光路長1cmでの吸光度にまで30kDaのフィルターメンブレン(Merck Millipore,US)を備えたAmicon Ultra0.5を用いて濃縮した。濃縮したサンプルを溶媒又はH 18Oを含む溶媒で希釈して1.2cm光路長で約0.3の吸光度を有する0、32.5及び65%H 18Oを含むサンプル溶液を調製した。他のSV-AUC実験については、各AAVストック溶液を濃縮又は希釈して、1.2cmの光路長で約0.3の吸光度を有する試験溶液を調製した。
【0119】
UVスペクトル測定
UV測定は、UV-1900 UV-VIS分光光度計(島津製作所製)を用いて行った。
【0120】
計算
分子量の計算
プログラムSEDNTERP(Laue,M.T.Computer-aided interpretation of analytical sedimentation data for proteins.Anal Ultracentrifugation Biochem Polym Sci 1992;90-125.)を用いて、AAV-EPの分子量を算出した。具体的には、AAVのカプシドを構成する3種類の構造タンパク質であるVP1、VP2、VP3のアミノ酸組成から各構造タンパク質の分子量を算出した。AAV-EPが、構造タンパク質VP1:VP2:VP3を5:5:50の割合で含むと仮定して、AAV-EPの分子量を算出した。ssDNAの分子量は、設計されたDNA配列に基づいて801507.6Daと計算された。
【0121】
偏比容の計算
AAV-EPの偏比容は、プログラムSEDNTERP(Laue,M.T.Computer-aided interpretation of analytical sedimentation data for proteins.Anal Ultracentrifugation Biochem Polym Sci 1992;90-125.)を用いてそれらのアミノ酸組成から得た。AAV-FPの偏比容は、以下の式を用いて算出した。


ここで、vbarAAV-FP、vbarAAV-EP及びvbarssDNAはそれぞれAAV-FP、AAV-EP及びssDNAの偏比容(cm-1)である。MwAAV-FP、MwAAV-EP、及びMwssDNAは、それぞれAAV-FP、AAV-EP、及びssDNAの偏比容(cm-1)である。vbarssDNAは、先行研究(Durchschlag H.Determination of the partial specific volume of conjugated proteins.Colloid Polym Sci 1989;267:1139-1150.)で報告されている0.54cm-1を用いた。
【0122】
比屈折率変化値(dn/dc)計算
AAV-EPの比屈折率変化値は、SEDFIT(Schuck P.Sedimentation analysis of noninteracting and self-associating solutes using numerical solutions to the Lamm equation.Biophys J 1998;75:1503-1512)プログラムを用いてアミノ酸組成から計算した。AAV-FPのdn/dcは、以下の式を用いて算出した。


ここで、dn/dcAAV-FP、dn/dcAAV-EP及びdn/dcssDNAはそれぞれAAV-FP、AAV-EP及びssDNAの比屈折率変化値(mL g-1)である。ssDNAのdn/dcは先行研究(Davis TM,Wilson WD.Determination of the refractive index increments of small molecules for correction of surface plasmon resonance data.Anal Biochem 2000;284:348-353.)で報告されているように0.21mL g-1とした。
【0123】
拡散係数、摩擦係数、ストークス半径の計算
AAV-FP及びAAV-EPの拡散係数は、Svedberg式を用いて計算した。

ここで、sは沈降係数(S)、Dは拡散係数(cm sec-1)、Mは分子量(g mol-1)、vbarは(cm/g)、ρは溶媒密度(g mL-1)、Rは気体定数(8.314J K-1)、Tは絶対温度(K)である。AAV-FP及びAAV-EPのストークス半径は、ストークス-アインシュタイン方程式を用いて計算した。


ここで、Dは拡散係数(cm/sec)、kはボルツマン定数(1.38×10-23J/K)、Tは絶対温度(K)、ηは溶媒粘度、Rはストークス半径(m)である。AAV-FP及びAAV-EPの摩擦係数は、以下の式を用いて算出した


ここで、Dは拡散係数(cm/sec)、Rは気体定数(8.314J/K)、Tは絶対温度(K)、Nはアボガドロ数(6.02×1023mol-1)、fは摩擦係数(g sec-1)である。
【0124】
沈降係数、慣性半径、摩擦比の計算
AAV5の原子座標(PDBコード:3ntt)から、HYDROPRO(Ortega A,Amoros D,Garcia De La Torre J.Prediction of hydrodynamic and other solution properties of rigid proteins from atomic- and residue-level models.Biophys J 2011;101:892-898.)プログラムを用いてAAV5-EPの沈降係数と半径を求めた。
【0125】
超遠心分析沈降速度法(SV-AUC)
SV-AUC実験は、AAV5-FP及びAAV5-EPを溶媒(0.001w/v%ポロキサマー188のPBS(pH7.4))又は種々の濃度のH 18Oを含む溶媒に溶解したものを用いて行った。サファイアウインドウと12mmのダブルセクターセンターピースを備えた測定セルのサンプルセクターに390μLのサンプルをそれぞれ充填し、各測定セルのリファレンスセクターに400μLの溶媒を充填した。サンプルセクター及びリファレンスセクターの光路長はそれぞれ1.2cmである。前記測定セルを超遠心分析装置OPTIMA(ベックマン・コールター、米国)にセットし、温度20℃、10,000rpmにてSV-AUCに供した。
【0126】
UV検出については、H 18Oを含まないサンプルについては、230nmから280nmの範囲で5nmごとに測定波長を設定した。H 18Oを含むサンプルについては、AAV-FPとAAV-EPの両方について230nmで検出を行った。データは、10μmの半径方向の増分で遅延なく取得した。遠心分離中の測定セル内の時間依存的な沈降挙動は、同一の測定セルを3分間隔で多波長を用いてスキャンする紫外線(UV)及び2分間隔で干渉(IF)検出システムにて測定することによって得た。多波長の検出システムを用いるSV-AUCをMW-SA-AUCとも称する。UV検出システム及びIF検出システムにて測定することによって、吸光度データ及び屈折率データがそれぞれ得られる。
【0127】
SV-AUCのデータ解析
SV-AUCで取得したデータは、プログラムSEDFIT(バージョン16.2b)(Schuck P.Sedimentation analysis of noninteracting and self-associating solutes using numerical solutions to the Lamm equation.Biophys J 1998;75:1503-1512)のc(s)分布モデルを用いて、摩擦比、メニスカス、時間非依存ノイズ、半径非依存ノイズをフィッティングし、0.68の正則化レベルを用いて解析した。沈降係数範囲は0~250Sで、500の分解能で評価した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の密度及び粘度は、それぞれ1.00500g mL-及び1.0171cPであった。
【0128】
32.5%及び65%H 18Oを含む緩衝液の密度及び粘度は、文献(Brown PH,Balbo A,Zhao H,et al.Density Contrast Sedimentation Velocity for the Determination of Protein Partial-Specific Volumes.6.Epub ahead of print 2011.DOI:10.1371/journal.pone.0026221.)に記載されている値から得られた以下の式を用いて計算した。



ここで、FH 18OはH 18Oの分率、ρはPBSの密度(g mL-1)、ηはPBSの粘度(cP)である。サンプルの偏比容は初期値として0.68cm/gとした。偏比容を見積もるため、Brownら(Brown PH,Balbo A,Zhao H,et al.Density Contrast Sedimentation Velocity for the Determination of Protein Partial-Specific Volumes.6.Epub ahead of print 2011.DOI:10.1371/journal.pone.0026221.)によって述べられているように、SEDPHATの“Hybrid Global Discrete Species Global Continuous Distribution”モデルを用いて様々な密度の溶液中のAAV5-EP又はAAV5-FPの沈降プロファイルは、グローバルにフィットさせた。得られた偏比容を用いて、沈降係数分布を定義した。そして、各成分の沈降係数と摩擦係数比(f/f)から分子量を計算した。c(s)分布の図は、プログラムGUSSI(Brautigam CA.Calculations and Publication-Quality Illustrations for Analytical Ultracentrifugation Data.1st ed.Elsevier Inc..Epub ahead of print 2015.DOI:10.1016/bs.mie.2015.05.001.)を用いて作成した。本研究で得られた沈降係数は、標準条件(s20,w)に規格化した値として報告した。
【0129】
AAV-FP及びAAV-EPの波長対ピーク面積プロットの特性評価
AAV-FP及びAAV-EPの各測定波長におけるピーク面積As(λ)は、それぞれAAV-FP及びAAV-EP試料のC(s)分布におけるメインピークを積分して求めた。
【0130】
モル吸光係数の決定
各波長におけるAAV5-FP、AAV5-EP及びその他のAAV5-FPのモル吸光係数は、以下の式を用いて決定した。


ここで、εはモル吸光係数(L mol-1cm-1)を示し、dn/dcは比屈折率変化値(mL g-1)を示し、Mwは分子量(kg mol-1)を示し、ΔJはフリンジ変位を示し、及びλIFは干渉シグナルの波長(cm)を示す。各波長におけるssDNAのモル吸光係数は、AAV5-FPの値からAAV5-EPの値を差し引いて推定した。本実施例ではカプシドに内包されたDNA配列は他のAAV血清型に共通して設計されているため、各波長における他の血清型のAAV-EPのモル吸光係数はAAV-FPの値からssDNAの値を差し引いて算出した。
【0131】
上記のようにして得られた各測定波長でのssDNAのモル吸光係数を、以下の表にまとめる。
【表2】
本実施例で用いたssDNAの鎖長は2599ヌクレオチド長であった。各測定波長でのssDNAのモル吸光係数を、ssDNAの鎖長の値2,599で除して、一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を算出した。各測定波長についての一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数は、上記した表の1番右の列の括弧内に示す。ここで得られた一ヌクレオチドあたりの平均モル吸光係数を用いれば、所定の鎖長のポリヌクレオチドのモル吸光係数を算出することができる。
【0132】
SV-AUCによる中間粒子/凝集体の同定
沈降係数分布において完全粒子と中空粒子のピーク間の領域で観察される中間粒子、又は完全粒子より沈降係数が大きい領域で観察される凝集体の同定では、11種の測定波長に対する各AAV-FP及びssDNAのモル吸光係数のプロットを用いて重回帰分析を行い、後述する係数(α及びβ)を求めた。




ここで、Aobsは観測された中間粒子又は凝集体に対応するピークの面積を示し、Areacapsid及びAreassDNAはそれぞれ式10及び式11に基づいて計算されたウイルス粒子のカプシド(=AAV-EP)及びssDNAのピーク面積を示し、εcapsid及びεssDNAはそれぞれウイルス完全粒子のカプシド(=AAV-EP)及びssDNAのモル吸光係数(L mol-1cm-1)を示す。ここでカプシドの濃度をCcapsid、未知粒子におけるカプシドとssDNAの数をそれぞれncapsidとnssDNAとすると、αとβは下記のようになる。



完全粒子の場合、ncapsidとnssDNAは両方とも1となり、カプシド1つに全長の半分の鎖長のssDNAが入っている中間粒子の場合にはncapsidは1、nssDNAは0.5となる。また、完全粒子が2つ会合した凝集体の場合にはncapsidは2、nssDNAは2、完全粒子と中空粒子が1つずつ会合した凝集体の場合にはncapsidは2、nssDNAは1となる。
【0133】
中間粒子又は凝集体に内包されたヌクレオチドの鎖長は、以下の式を用いて算出される。


ここで、Nnucleotideは中間粒子又は凝集体に内包されたヌクレオチドの鎖長を示し、NAAV-FPは完全粒子に内包されたヌクレオチドの鎖長を示す。
【0134】
SV-AUC実験における最適測定波長の選択
式9で表される係数(α及びβ)を決定するための測定波長数の最小化及び最適化の可能性を評価するために、2波長での検出から得られたデータを用いて両係数を算出し、11波長での検出から得られたデータを用いた場合と比較した。さらに、選択された3つの波長(230nm、260nm及び280nm)での検出に由来するデータを用いた重回帰分析を行った。
【0135】
[結果]
AAVサンプル中の成分の特性評価
AAV-5-EP及びAAV5-FPの偏比容を決定するために、HO及びH 18Oの濃度を変化させて異なる密度の緩衝液を用いたSV-AUC実験を行った(図12の1.1及び1.2)。AAV5-EPでは、SEDPHATを用いた主成分へのグローバルフィットの結果として得られた偏比容は0.722cm g-であった。予想通り、この値は計算値(0.718cm g-)とよく一致している。沈降係数の分布を図1(A)に示した。f/f、溶媒密度、溶媒粘度を用いて計算した主成分(67.3S)の分子量は3695.9kDaであり、計算値(3705.5kDa)とよく一致している。AAV5-FPについては、主成分へのSEDPHATを用いたグローバルフィットの結果として得られた偏比容は0.686cmg-であり、計算値(0.687cm g-)とよく一致していた。主成分(93.7S)の分子量は、f/f、溶媒密度、溶媒粘度、偏比容を用いて計算した結果、4914.2kDaであり、これは、SV-AUCからの分子量の典型的な誤差の範囲内でFPの分子量(4507.0kDa)の計算値に対応する。得られたパラメータを図1(B)にまとめた。以上の結果から、67.3S及び93.7Sの成分は、それぞれAAV5の中空粒子及び完全粒子であると結論づけた。
【0136】
偏比容とf/f の実験値と三次元座標からの計算値との比較
SV-AUCから実験的に決定されたs値、分子量、偏比容から、Svedbergの式(式3)を用いて、AAV5-EPのD値を1.54×10-7cm sec-1、AAV5-FPのD値を1.46×10-7cm sec-1と推定した。その結果、f値はAAV-EPで2.62×10-7g sec-1、AAV5-FPで2.78×10-7g sec-1と計算され、ストークス半径はAAV5-EPで13.7nm、AAV5-FPで14.5nmとなった。SV-AUCとの偏差を考慮すると、その差は重要ではないと結論づけられる。AAV5-EPとAAV5-FPの流体力学的挙動が類似していることは、動的光散乱法の観測結果と一致しており、AAV5-EPとAAV5-FPのストークス半径が類似していることがわかった。また、AAV5-EPとAAV5-FPのf値が一致していることから、AAV5-EPもAAV5-FPと同様に、溶液中での並進拡散の際に水分子との摩擦を発生させていることが示唆された。
【0137】
近年の生物物理学ソフトウェア(Ortega A,Amoros D,Garcia De La Torre J.Prediction of hydrodynamic and other solution properties of rigid proteins from atomic- and residue-level models.Biophys J 2011;101:892-898.及びRocco M,Byron O.Hydrodynamic Modeling and Its Application in AUC.1st ed.Elsevier Inc..Epub ahead of print 2015.DOI:10.1016/bs.mie.2015.04.010.)の開発により、タンパク質、タンパク質複合体、ウイルス粒子の三次元座標から流体力学的パラメータを計算できるようになった。
【0138】
HydroPRO(Ortega A,Amoros D,Garcia De La Torre J.Prediction of hydrodynamic and other solution properties of rigid proteins from atomic- and residue-level models.Biophys J 2011;101:892-898.)プログラムを用いて座標から計算したAAV5-EPの沈降係数は65.7S(s20,w=67.7S)であり、これは実験で得られた値(67.3S)とよく一致している。
【0139】
AAV5-EPとAAV5-FPのf/f値は明らかに異なっており、AAV5-EPでは1.35、AAV5-FPでは1.24であったが、これらの実験的なs値は先の研究で報告されているT=1ウイルスカプシドの値であるf/f=1.3に近い値であった(Caston JR,Ghabrial SA,Jiang D,et al.Three-dimensional structure of Penicillium chrysogenum virus:A double-stranded RNA virus with a genuine T=1 capsid.J Mol Biol 2003;331:417-431.及びGomez-Blanco J,Luque D,Gonzalez JM,et al.Cryphonectria nitschkei Virus 1 Structure Shows that the Capsid Protein of Chrysoviruses Is a Duplicated Helix-Rich Fold Conserved in Fungal Double-Stranded RNA Viruses.J Virol 2012;86:8314-8318.)。f値は球状で未加水状態の粒子の摩擦係数であるため、f/fが1.0にならないことに注意が必要である。
【0140】
SV-AUCからのAAV5-EP粒子及びAAV5-FP粒子のUV吸収の波長依存性の決定
AAV5-EP及びAAV5-FPの各測定波長におけるc(s)分布の総ピーク面積の波長依存性は、紫外分光光度計を用いて測定したAAV5-EP及びAAV5-FPの紫外スペクトルと完全に重なった。このように、SV-AUC c(s)分析による各成分の吸収スペクトルの取得に成功したことが示された。
【0141】
(1)AAV5サンプルの多波長での吸光度データ及び屈折率データ
AAV5-FPベクター及びAAV5-EPベクターがそれぞれトランスフェクトされた宿主細胞から、AAV5-FP(完全粒子)及びAAV5-EP(中空粒子)をそれぞれ産生させて精製した。精製したAAV5-EPを光路長1cmで280nmの吸光度にて0.95まで30kDaのフィルターメンブレン(Merck Millipore、US)を備えたAmicon Ultra0.5を用いて濃縮した。同様に、回収したAAV5-FPを260nmの吸光度にて0.75まで濃縮した。AAV5-EPに対するAAV5-FPの粒子数の比(=[AAV5-EPの粒子数]/[AAV5-FPの粒子数])が1.2となるように混合し、PBS中のAAV5サンプルを調製した。
【0142】
調製したAAV5サンプルを測定セルに充填し、密度コントラスト超遠心分析沈降速度法(SV-AUC)に供した。遠心分離中の測定セル内の時間依存的な沈降挙動は、11種の測定波長(230nm、235nm、240nm、245nm、250nm、255nm、260nm、270nm、275nm、280nm)でスキャンする紫外線(UV)及び干渉(IF)検出システムで測定することによって取得した(図12の2.1)。図2は、11種の測定波長のうち、タンパク質又は核酸の特性を反映する波長、すなわちペプチド結合吸収領域(230nm付近)、核酸吸収領域(260nm付近)及び芳香族アミノ酸吸収領域(280nm付近)の測定波長から得られた時間依存的な沈降挙動の測定結果を示す。
【0143】
(2)沈降挙動解析によるAAV5サンプルの沈降係数分布
“SV-AUCのデータ解析”の項目に記載した解析方法に従い、前記UV検出システムでの測定によって得られた吸光度データから沈降係数C(s)の分布をそれぞれ得た(図12の2.2)。図3A~Cは、測定波長230nm、260nm及び280nmでの沈降係数分布を示す。同様にして、前記干渉検出システムでの測定によって得られた屈折率データから沈降係数分布を得た(図4)。
【0144】
図3Aは、主として沈降係数が67.3Sのピークと、沈降係数が97.3Sのピークとを示す。AAV5-EP(中空粒子)単独のサンプルについて、本実施例と同様にして沈降係数分布を得たところ、主として67.3sのピークが観察された。また、AAV5-FP(完全粒子)単独のサンプルについて沈降係数分布を得たところ、主として97.3Sのピークが観察された。これらの結果は、図3Aで観察された2つの主たるピークがAAV5-EP及びAAV5-FPに対応するピークであることを示す。本実施例は、AAV5-EPとAAV5-FPとの混合物であるAAV5サンプルを遠心力場での沈降させることにより、AAV5-EPとAAV5-FPとをそれぞれ分離して特定可能であることを示す。
【0145】
図3A~Cは、AAV5-FP及びAAV5-EPのピークの沈降係数が230nm、260nm及び280nmのように異なる測定波長であっても同じ値となることを示す。図3A~C及び図4は、AAV5-FP及びAAV5-EPのピークの沈降係数がUV検出システム及びIF検出システムのように異なる検出システムであっても対応する値となることを示す。
【0146】
(3)屈折率データに基づくAAV5-FP及びAAV5-EPそれぞれのウイルス粒子の濃度
AAV5-FP及びAAV5-EPそれぞれについての屈折率増分(δ)を、それぞれの濃度あたりの比屈折率変化値(dn/dc)で割りつけて、AAV5-FP及びAAV5-EPそれぞれのグラム濃度を得て、さらにそれぞれの分子量で割り付けることにより、各ウイルス粒子のモル濃度を決定した(図12の2.4)。
【0147】
(4)吸光度データに基づくAAV5-FP及びAAV5-EPそれぞれの吸光度スペクトル
特定の測定波長での沈降係数分布におけるAAV5-FPに対応するピークの面積を算出することで、その測定波長でのAAV5-FPの吸光度を得た(図12の2.3)。同様にして、各測定波長でのAAV5-FPの吸光度を得た。得られた吸光度(ピーク面積)を測定波長に対してプロットすることで、吸光度スペクトルを得た(図5A、左縦軸)。同様にして、AAV5-EPの吸光度スペクトルを得た(図5B、左縦軸)。
【0148】
上記で得た各測定波長でのAAV5-FPの吸光度を上記のステップ(3)で得た各測定波長でのAAV5-FP粒子のウイルス粒子濃度で割りつけることで、各測定波長でのAAV5-FPの吸光係数を算出した。算出した吸光係数を各測定波長に対してプロットすることで、吸光係数スペクトルを得た(図5A、右縦軸)。同様にして、AAV5-EPの吸光係数スペクトルを得た(図5B、右縦軸)。
【0149】
AAVサンプルのSV-AUCとA260/A280比の純度評価の比較
A260/A280は、ウイルス純度の評価に一般的に使用されている。同様に、AAVサンプルについて、Sommerらは、このパラメータを用いて全粒子中の完全粒子の割合を推定する方法を提案している(Sommer JM,Smith PH,Parthasarathy S,et al.Quantification of adeno-associated virus particles and empty capsids by optical density measurement.Mol Ther 2003;7:122-128.)。これはUV測定に基づいて純度を決定するという単純な方法であるが、他の先行研究(Dobnik D,Kogovsek P,Jakomin T,et al.Accurate quantification and characterization of adeno-associated viral vectors.Front Microbiol;10.Epub ahead of print2019.DOI:10.3389/fmicb.2019.01570.、Lock M,Alvira MR,Wilson JM.Analysis of particle content of recombinant adeno-associated virus serotype 8 vectors by ion-exchange chromatography.Hum Gene Ther Methods 2012;23:56-64.、及びLock M,Alvira MR,Chen S,et al.Absolute Determination of Single-Stranded.2014;125:115-125.)で指摘されているように、この方法は高純度のサンプルを必要とし、完全粒子及び中空粒子以外の分子(例えば、DNA不純物やタンパク質汚染物質)が含まれている場合、A260/A280から純度を推定することは困難である。
【0150】
本実施例のSV-AUCでは、AAV5-EP粒子及びAAV5-FP粒子のA260とA280の比(A260/A280)はそれぞれ0.58及び1.27であった。この値は、AUC実験前に紫外分光光度計を用いて観察したサンプル全体のAAV5-FPのA260/A280の比(A260/A280=1.28)に近い値であったが、わずかに小さい値であった。また、他の血清型(AAV1、AAV2及びAAV6)についても、約90%の完全粒子を含むサンプルを分析した。その結果、紫外吸光光度計で測定したA260/A280とSV-AUCによる干渉検出系を用いた純度との相関性は低かった(図6)。これらの結果は、中空粒子及び完全粒子以外の未知の成分を含む試料の純度を紫外線吸収測定で推定することの難しさを示す。これに対して、SV-AUCでは遠心力場での沈降により高い溶質分離が可能であるため、AAV試料の純度判定の精度が高いと言える。
【0151】
(5)中空粒子及びゲノムDNAそれぞれのモル吸光係数スペクトル
“モル吸光係数の決定”の項目に記載した方法に従って、各測定波長におけるAAV5-FP及びAAV5-EPそれぞれのモル吸光係数を算出した(図12の2.5)。算出したAAV5-EPのモル吸光係数を各測定波長に対してプロットして、AAV5-EPのモル吸光係数スペクトルを得た(図7、〇)。
【0152】
AAV5-FPは、ウイルス粒子のカプシド(AAV5-EP)とゲノムである一本鎖DNA(ssDNA)とを含む。各測定波長におけるAAV5のゲノムDNAのモル吸光係数は、AAV5-FPのモル吸光係数からAAV5-EPのモル吸光係数を差し引くことで推定した。推定したssDNAのモル吸光係数を各測定波長に対してプロットして、ssDNAのモル吸光係数スペクトルを得た(図7、△)。
【0153】
(6)AAV5のカプシドとssDNAとの等吸収点
ウイルス粒子のカプシド(AAV5-EP)とゲノムであるssDNAとの等吸収点は、AAV5-EPのモル吸光係数スペクトルとssDNAのモル吸光係数スペクトルとの交点から得ることができ、その値は239nmであった(図7及び図12の2.6)。
【0154】
等吸収点では、ウイルス粒子のカプシドのモル吸光係数とゲノムであるssDNAのモル吸光係数とは等しくなるため(εcapsid=εssDNA)、ウイルス粒子のカプシド及びゲノムDNAから成るAAV5-FPと、ウイルス粒子のカプシド(AAV5-EP)との混合物中のそれぞれの吸光度(AreaAAVfull及びAreaAAVempty)を算出し、以下の式を用いることで、AAV5-FP及びAAV5-EPのモル吸光係数を算出することなく、AAV5-FPのウイルス粒子とAAV5-EPのウイルス粒子との比率(粒子数の比)を決定することが可能となる。


ここで、NAAVempty及びNAAVfullはそれぞれAAV-EP及びAAV-FPの粒子数を示し、AreaAAVempty(=Areacapsid)及びAreaAAVfull(=Areacapsid+AreassDNA)はそれぞれ、沈降係数分布におけるAAV5-EPに対応するピークの面積及びAAV-FPに対応するピーク面積を示す。
【0155】
(7)AAV5サンプル中のAAV5-FPとAAV5-EPとの量比
上記のステップ(6)で得られた等吸収点(=波長239nm)を用いて、モル吸光係数を用いることなく、AAV5-EPとAAV5-FPとのウイルス粒子の数の比を決定する(図12の3.1及び3.2)。具体的には、等吸収点でAAV5サンプルを測定して吸光度データを取得し(部分的にステップ(1)に対応する)、前記吸光度データから沈降係数C(s)の分布を得て、AAV5-FPに対応するピーク及びAAV5-EPに対応するピークをそれぞれ特定し(部分的にステップ(2)に対応する)、各ピークの面積からAAV5-FPの吸光度及びAAV5-EPの吸光度を得ることで(部分的にステップ(4)に対応する)、AAV5サンプル中のAAV5-FPとAAV5-EPとのウイルス粒子の数の絶対的な量比を得ることができる(図8)。図8は、AAV5-FPに対するAAV5-EPの粒子数の比が1.2となるように混合したAAV5サンプル中のAAV5-FPとAAV5-EPとの比が実際に1.2となったことを示す。このように、本実施例は、等吸収点を利用することで、等吸収点以外の波長で吸光度データを取得することも、干渉データを取得することも、モル吸光係数を算出することもなく、AAV5-EPとAAV5-FPとのウイルス粒子数の比を決定することができることを示す。
【0156】
SV-AUCで得られた吸光度データに基づいて沈降係数分布を作成した場合に、中空粒子に対応する沈降係数67.3Sのピークと完全粒子に対応する沈降係数97.3Sのピークとの間の範囲70S~90Sにピークが観察されることがある。この範囲に観察されるピークは、AAV5のカプシド内部にゲノムDNA断片を含む中間粒子に対応すると考えられる。加えて、完全粒子に対するピークよりも大きい範囲110S~120Sにピークが観察されることがある。この範囲に観察されるピークは、AAV5-FPを含む凝集体に対応すると考えられる。以下では、上記したステップ(5)で得られたAAV5-EP及びssDNAの吸光係数スペクトルを用いて、中間粒子及び凝集体の同定を試みた。
【0157】
(8)AAV5-FP及びAAV5-EP以外の成分(中間粒子及び/又は凝集体)の吸光度スペクトル
上記したステップ(4)と同様にして、各測定波長での沈降係数分布における中間粒子に対応する沈降係数のピークの面積を算出することで、各測定波長での中間粒子の吸光度を得た(図12の4.2)。得られた吸光度を測定波長に対してプロットすることで、中間粒子の吸光度スペクトルを得た。同様にして、各測定波長での凝集体の吸光度を得て、それらを測定波長に対してプロットすることで、凝集体の吸光度スペクトルを得た。
【0158】
(9)中間粒子及び/又は凝集体に内包されたssDNA塩基数
上記のステップ(8)で得られた中間粒子の吸光度スペクトルに対して、上記のステップ(5)で得られたssDNAのモル吸光係数スペクトル及びAAV5-EP(ウイルス粒子のカプシド)のモル吸光係数スペクトルを用いて式9に基づいた重回帰分析を行った(図12の4.3)。重回帰分析の結果、式9中のα及びβが決定された。決定されたα及びβをそれぞれ式10及び式11に用いることで、ウイルス粒子のカプシドのピーク面積及びssDNAのピーク面積が得られた。得られたウイルス粒子のカプシド(=AAV-EP)のピーク面積を、そのモル吸光係数及び光路長の値(1.2)で割ることによって、中間粒子に対応するピーク中のウイルス粒子のカプシドの濃度を算出した。同様にして、得られたssDNAのピーク面積から、中間粒子に対応するピーク中のssDNAの濃度を算出した。このようにして、中間粒子に対応するピーク中のssDNA塩基数を得ることができる(図12の4.4)。ssDNAの塩基数が得られれば、塩基の平均分子量(300M.W.)を乗じることで、ssDNAの重量(mg)を算出することができる。また、算出されたssDNA濃度を算出されたウイルス粒子のカプシドの濃度で割ることによって、中間粒子に対応するピークにおけるウイルス粒子のカプシド塩基数に対するssDNA塩基数の比(=[ssDNA塩基数]/[カプシド塩基数])を得ることもできる(図12の4.4)。中間粒子に対応するピークに含まれるウイルス粒子の各カプシドがそれぞれ1本のssDNAを含む場合、ウイルス粒子のカプシド塩基数に対するssDNA塩基数の比は、中間粒子に対応するピーク中の中間粒子が含むssDNA断片の平均のヌクレオチド長の完全なゲノムssDNAのヌクレオチド長に対する比(=[ssDNA断片のヌクレオチド長]/[完全なゲノムssDNAのヌクレオチド長])に対応する。
【0159】
中間粒子について記載したステップ(9)と同様にして、上記のステップ(8)で得られた凝集体の吸光度スペクトルから、凝集体に対応するピーク中のssDNA塩基数、及び凝集体に対応するピークにおけるウイルス粒子のカプシド塩基数に対するssDNA塩基数の比を得ることができる(図12の4.4)。
【0160】
カプシド(=AAV-EP)の数(ncapside)とssDNAの数(nssDNA)との各組合せについての分子量、偏比容、s値及びヌクレオチドの数を算出した(図12の1.3)。前記分子量、偏比容、s値及びヌクレオチドの数は、AAV5-EP及びAAV5-FPを用いたAUC実験で決定された分子量、偏比容及びf/f(=1.32)を用いて計算した(図9A)。また、カプシドまたは核酸の分子数から、沈降係数を推定した(図9A)。沈降係数の推定のために、60個のウイルスタンパク質から構成されるカプシドを1に規格化し、完全粒子(=AAV-FP)に含まれる核酸の鎖長を1に規格化した。沈降係数は、分子量、偏比容、及び分子の摩擦係数から算出できるため、これらのパラメータの値を仮定すれば沈降係数を推定することができる。ssDNAの数(nssDNA)を0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0に設定し、カプシドの数(ncapsid)を1.0、2.0、3.0に設定して、それらの各組合せについて沈降係数を推定した(図9A)。この推定値は、実験値であるカプシドと核酸の比(図12の4.3)と比較することで、沈降係数分布において観察される未知の粒子タイプ(例えば凝集体)に対応し得るピークについて、その粒子タイプにおけるカプシド及び/又はssDNAの構成割合を算出することができる。
【0161】
ヌクレオチドの数(又はssDNAの塩基数)での推定した沈降係数を、横軸を沈降系巣とし、縦軸をヌクレオチドの数としたグラフにプロットして散布図を得た(図9B)。図9Bは、沈降係数65~95Sに観察される粒子タイプはカプシド単量体+ssDNA(完全粒子)であることを示唆し、95~120Sに観察される粒子タイプはカプシド単量体+ssDNA(完全粒子)又はカプシド二量体+ssDNAであることを示唆し、120~140Sに観察される粒子タイプはカプシド二量体+ssDNA又はカプシド三量体+ssDNAであることを示唆し、140~160Sに観察される粒子タイプはカプシド三量体+ssDNAであることを示唆する。
【0162】
図9Bから理解されるように、複数種類の粒子の会合状態が存在し得る沈降係数の範囲(例えば95S以上)では、沈降係数の値からssDNAの数に対するカプシドの数の絶対的な比を決定することは、通常、できない。また、多波長超遠心分析でも、取得される沈降係数のピーク面積をプロットしたスペクトル分解だけではssDNAに対するカプシドのモル比は決定することができるが、核酸の数に対するカプシドの数の絶対的な比(カプシドと核酸の化学量論)を決定することができない。そこで、上述したssDNAの塩基数と沈降係数との関係を示す散布図(図9B)と、多波長超遠心分析により取得される不純物(例えばカプシドの凝集体、遊離核酸、タンパク質)ついてのピーク面積プロットに対するスペクトル分解から得られる核酸塩基数(図9C及び図12の4.3)とを組みわせて、不純物の同定を行う。これにより、複数種類の粒子の会合状態が存在し得る沈降係数の範囲であっても、ssDNAの数に対するカプシドの数の比を決定することが可能となる。実際、115S付近に観察された粒子タイプ(図9C)は、カプシド単量体に1分子以上のssDNAが含まれる粒子タイプではなく、中間粒子-中間粒子からなる二量体又は中間粒子-完全粒子からなる二量体であると決定された。
【0163】
さらに、式14を用いて、中空粒子(AAV5-EP)、中間粒子、完全粒子(AAV5-FP)及び凝集体に対応するピークに含まれるヌクレオチドの数を、それぞれ算出した(図12の4.5)。算出したヌクレオチドの数を、各ピークの沈降係数に対してプロットした(図9C)。AAVの沈降係数と内包されたヌクレオチドの数との間には良好な相関関係があることが知られている(Burnham B,Nass S,Kong E,et al.Analytical Ultracentrifugation as an Approach to Characterize Recombinant Adeno-Associated Viral Vectors.Hum Gene Ther Methods 2015;26:228-242.、及びNass SA,Mattingly MA,Woodcock DA,et al.Universal Method for the Purification of Recombinant AAV Vectors of Differing Serotypes.Mol Ther - Methods Clin Dev 2018;9:33-46.)。図9Cで示されるように、本実施例で算出されたAAV5(図9C、△及び▲)の中空粒子、中間粒子及び完全粒子における沈降係数と内包されたヌクレオチドの数との関係は、既報の相関関係(図9C、破線)と整合した。この結果は、本実施例で用いたSV-AUC解析方法が適切であることを示す。
【0164】
AAV5の他の血清型であるAAV1、AAV2及びAAV6について、AAVの沈降係数と内包されたヌクレオチドの数との関係を調べた。図9Cで示されるように、AAV5だけでなく、AAV1(○及び●)、AAV2(□及び■)及びAAV6(◇)についても、本実施例の解析手法で算出された中空粒子、中間粒子及び完全粒子における沈降係数と内包されたヌクレオチドの数との関係は、既報の相関関係と整合した。これらの結果は、本実施例で用いたSV-AUC解析手法が、AAVの血清型に関係なく、適切であることを示す。
【0165】
沈降係数110S~120Sの範囲にあるウイルス粒子群については、沈降係数とヌクレオチド数との間に明確な相関関係は確認されなかった(図9C)。この結果は、110S~120Sの範囲の沈降係数を示したウイルス粒子群が、2分子以上のssDNAを含むAAVモノマー(例えばssDNAダイマー)ではないことを示唆する。これらの粒子群は、Garciaら(De La Torre JG,Bloomfield VA.Hydrodynamic properties of complex,rigid,biological macromolecules:Theory and applications.Q Rev Biophys 1981;14:81-139.)によって与えられた沈降係数とオリゴマー状態との関係を記述する式を用いて計算されたAAVサンプルの沈降係数がEP-EP二量体では97S、FP-FP二量体では136S、FPの線形三量体では165S又はFPの三角形三量体では175Sであることを考慮すると、均質な二量体集合体(中空粒子-中空粒子、完全粒子-完全粒子、又は中間粒子-中間粒子)又は不均質な二量体集合体(例えば、中空粒子-中間粒子、中空粒子-完全粒子、中間粒子-完全粒子のようなもの)であると推測される。
【0166】
本実施例で用いた重回帰分析とSV-AUCとの組合せによる解析アプローチが、カプシドと核酸の比率を直接決定することを可能にし、且つ110S~120Sの範囲にあるウイルス粒子群がどのようなウイルス粒子であるかを推測することを可能性にし得る有用な方法であることが、本実施例で示された。本実施例で用いた方法によれば、SV-AUCによって分離して検出できる成分であれば、中空粒子、中間粒子、完全粒子及び凝集体だけでなく、ゲノムssDNA又は中空粒子の凝集体であってもそれらを特徴づけることができる。
【0167】
上記のステップ(9)で行った重回帰分析に適切な測定波長を検討した。いくつかのssDNA分率の2種の波長検出で得られたデータを用いて、式9に示す偏回帰係数(カプシドに関するα及びssDNAに関するβ)を算出した。算出された係数を11波長検出法に由来するデータを用いた場合と比較した。その結果、ssDNAの0.25~0.6分率の範囲では11波長検出法から得られたデータを用いて算出した係数とよく一致した(図10B、○及び●)。ssDNA分率が0.7以上になると、αの残差増加が観察された(図10B、○)。この結果は、未知の中間体粒子中のssDNA含有量を決定するには、3種以上の波長検出を用いることが好ましいことを示す。
【0168】
このような検討を行うことで、測定波長選択の妥当性を評価できる。例えば、タンパク質又は核酸の特性を反映する波長、即ちペプチド結合吸収領域(230nm付近)、核酸吸収領域(260nm付近)、芳香族アミノ酸吸収領域(280nm付近)からそれぞれ3つの波長を選択することで、比較的高い精度で偏回帰係数を決定できることが分かる(図10B、×及び+)。
【0169】
上述したとおり、本実施の形態では、SV-AUCにて取得されたデータがプログラムSEDFITによって処理された後、その処理結果に基づいて各種の解析が行われている。この解析を自動的又は半自動的に実行するためのコンピュータプログラムがあると便宜である。例えば、SEDFITにより得られた沈降係数分布が入力された場合に、その沈降係数分布を用いて、上記ステップ(3)~(9)の少なくとも一部を自動的に実行したり、ユーザの指示を受けながら半自動的に実行したりするコンピュータプログラムが想定される。なお、このコンピュータプログラムがSEDFITと同様の機能を有することにより、SEDFITを介さずに上記の各種の解析を行ってもよい。
【0170】
上記のコンピュータプログラムは、処理結果に基づいて、図1図10に示されるような各種のグラフを作成し、これを表示装置に表示させる機能を有する。これにより、ユーザは、処理結果を視覚的に容易に確認することができる。
【0171】
また、上記のコンピュータプログラムは、処理結果を、他の処理結果と識別可能にして記憶装置に記憶させる機能を有する。この場合、当該コンピュータプログラムは、記憶装置に記憶されている処理結果の中から特定の複数の処理結果を抽出し、それらの処理結果に係る上記の各種のグラフを対応づけて表示装置に表示させることなどが可能になる。これにより、ユーザは、各サンプルの処理結果を比較したり、同一のサンプルについて処理結果の経時的な変化を確認したりすることができる。
【0172】
なお、上記のコンピュータプログラムは、SV-AUCとは別装置であるパーソナルコンピュータ及びタブレット端末などの情報処理装置にインストールされて使用されることが想定される。ただし、当該コンピュータプログラムがSV-AUCにインストールされて使用されてもよい。
【0173】
図11は、上記実施の形態の方法を実行する装置(コンピュータ)1のブロック図である。
【0174】
装置1は、制御部(プロセッサ)2、入力部3、表示部4、および記憶部5を備える。制御部2は、演算処理および装置全体の制御を行う。入力部3は、装置1に対する入力データを生成する若しくは受け取る部位であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等により構成される。表示部4は、制御部2による処理結果等を表示する部位であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等により構成される。記憶部5は、制御部(プロセッサ)2で稼働するプログラムや本実施形態の方法を実行するために必要なパラメータデータ等が記録されている。これらの制御部2、入力部3、および表示部4は、図示しない適切なバスにより相互に接続されている。装置1は、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ワークステーション、又はタブレット端末のような情報処理装置で構成される。
【0175】
制御部2は、例えば、ソフトウェアと協働して所定の機能を実現するCPU(Central Processing Unit)又はMPU(Micro Processing Unit)を含む。制御部2は、記憶部5に格納されたデータやプログラムを読み出して制御部2にロードされることにより、装置1に上記実施形態の方法を実行させる。制御部2にロードされるプログラムは、所定の通信規格にしたがい通信を行う通信部等から提供されてもよいし、可搬性を有する記録媒体(コンピュータ可読媒体)に格納されていてもよい。
【0176】
制御部2は、入力データとして前述の各種光学データを取得し、上記実施の形態の方法に示す各処理を実行し、出力データとして前述のモル濃度、モル吸光係数、量比、寄与度、構成割合、濃度、吸光度比、分子量等を算出し、又は品質の判定を提示し、表示部4に表示させる。即ち、上記のコンピュータプログラムは、処理結果に基づいて、図1図10に示されるような各種のグラフを作成し、これを表示部4に表示させる機能を有する。これにより、ユーザは、処理結果を視覚的に容易に確認することができる。
【0177】
また、上記のコンピュータプログラムは、処理結果を、他の処理結果と識別可能にして記憶部5に記憶させる機能を有する。この場合、当該コンピュータプログラムは、記憶部5に記憶されている処理結果の中から特定の複数の処理結果を抽出し、それらの処理結果に係る上記の各種のグラフを対応づけて表示部4に表示させることなどが可能になる。これにより、ユーザは、各サンプルの処理結果を比較したり、同一のサンプルについて処理結果の経時的な変化を確認したりすることができる。
【0178】
なお、上記のコンピュータプログラムは、SV-AUCとは別装置であるパーソナルコンピュータ及びタブレット端末などの情報処理装置にインストールされて使用されてもよい。また、当該コンピュータプログラムがSV-AUCにインストールされて使用されてもよい。
【符号の説明】
【0179】
1 装置(コンピュータ)
2 制御部(プロセッサ)
3 入力部
4 表示部
5 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12