(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】シリカゾルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
C01B33/141
(21)【出願番号】P 2019171827
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】芦▲高▼ 圭史
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 雄介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌明
(72)【発明者】
【氏名】篠田 潤
(72)【発明者】
【氏名】坪田 翔吾
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022552(WO,A1)
【文献】特開平08-026716(JP,A)
【文献】特開2019-172558(JP,A)
【文献】国際公開第2008/015943(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)ならびに水を含む液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記液(A)に、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)と、前記液(C)と、を混合して反応液を作製する第2工程と、
を含み、
前記液(C)は、水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)であり、
前記有機酸が、マレイン酸およびメタンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、シリカゾルの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、前記液(A)、前記液(B)および前記液(C)または前記液(C2)の温度が、それぞれ独立して0~70℃である、請求項
1に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項3】
アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)ならびに水を含む液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記液(A)に、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)と、前記液(C)と、を混合して反応液を作製する第2工程と、
を含み、
前記液(C)は、水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)であり、
前記液(C1)が、アルカリ触媒を含まず、
前記有機酸が、マレイン酸およびメタンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、シリカゾルの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記液(A)、前記液(B)および前記液(C)または前記液(C1)の温度が、それぞれ独立して0~70℃である、請求項
3に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項5】
前記アルコキシシランが、テトラメトキシシランである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項6】
前記液(A)に含まれる前記アルカリ触媒が、アンモニアおよびアンモニウム塩の少なくとも一方である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項7】
前記液(A)に含まれる前記アルカリ触媒が、アンモニアである、請求項
6に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項8】
前記第1および第2の有機溶媒が、メタノールである、請求項1~
7のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【請求項9】
走査型電子顕微鏡により観察される画像に基づいて算出されるシリカ粒子の平均円形度が、0.60以下である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のシリカゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカゾルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属、半金属、非金属、およびこれらの酸化物等の材料表面に対して研磨用組成物を用いた化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)が行われている。この研磨用組成物には、化学的研磨の作用を有する水溶液と、機械的研磨の作用を有する粒子(砥粒)とを混合・分散させた構成が一般的であり、砥粒としてシリカゾルを使用することが知られている。
【0003】
シリカゾルは、シリカ粒子の粒子径や形状により研磨時の性能が変化することが知られており、例えば、他のシリカ粒子と会合していない球状シリカ粒子よりも、2つ以上のシリカ粒子が会合した異形シリカ粒子の方が研磨対象物の研磨速度がより高くなることが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
一方、特許文献1では、アルカリ触媒を含む液(A)、アルコキシシランまたはその縮合物を含む液(B)、および水を含む液(C)を混合して反応液を作製する工程を含む、シリカゾルの製造方法が開示されている。この方法によれば、シリカ粒子の粒子径がいかなる大きさであっても、シリカ粒子の粒子径の揃ったシリカゾルを安定して生産できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】2007年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集 p.1147~1148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法で得られたシリカゾルに含まれるシリカ粒子の円形度は大きく、研磨性能を向上させるような円形度が小さい異形シリカ粒子を得るという点において、いまだ改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シリカ粒子の平均円形度がより小さいシリカゾルを安定して生産できるシリカゾルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を積み重ねた。その結果、アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)ならびに水を含む液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程と、前記第1工程の後に、前記液(A)に、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)と、前記液(C)と、を混合して反応液を作製する第2工程と、を含む、シリカゾルの製造方法により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリカ粒子の平均円形度がより小さいシリカゾルを安定して生産できるシリカゾルの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】
図2は、実施例で製造したシリカゾルを走査型電子顕微鏡で観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
本発明は、アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)(本明細書中、単に「液(A)」とも称する)ならびに水を含む液(C)(本明細書中、単に「液(C)」とも称する)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程と、前記第1工程の後に、前記液(A)に、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)(本明細書中、単に「液(B)」とも称する)と、前記液(C)と、を混合して反応液を作製する第2工程と、を含む、シリカゾルの製造方法である。第1工程において、有機酸が液(A)および液(C)の少なくとも一方に添加される。これにより、第2工程では、反応液において、有機酸の存在下、アルコキシシランまたはその縮合物が加水分解および重縮合してシリカゾルが生成される。かかる構成により、本発明のシリカゾルの製造方法では、シリカ粒子の平均円形度がより小さいシリカゾルを安定して生産できる。
【0014】
本発明の製造方法により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。第1工程において液(A)および液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加することにより、第2工程においては、液(B)は有機酸の存在下で、液(A)および液(C)と混合される。すなわち、アルコキシシランまたはその縮合物が液(A)のアルカリ触媒と接する際には有機酸が存在しており、これにより、アルコキシシランまたはその縮合物が局所的に大量のアルカリ触媒と接することが緩和され、急激な粒成長を抑制することにより、平均円形度がより小さい(好ましくは0.60以下)のシリカ粒子が形成されるのではないかと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、液(C)は、水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)であるか、または水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)である。すなわち、好ましくは、反応の律速となる3つの成分のうち、局所的にアルカリ触媒の濃度が濃くならないように、モル比で最も量の多い「加水分解のための水」を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)を用いて、シリカゾルを製造する。または、好ましくは、局所的にアルカリ触媒の濃度が濃くならないように、添加側に水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)を用いて、シリカゾルを製造する。これにより、3液以上の多液反応において、円形度がより小さいシリカ粒子を形成しつつ、かつシリカ粒子の粒子径の揃ったシリカゾルを安定して生産することができる。
【0016】
本発明においては、得られるシリカゾルの純度(高純度化)の観点から、ゾルゲル法によってシリカゾルの製造が行なわれることが特に好ましい。ゾルゲル法とは、金属の有機化合物溶液を出発原料として、溶液中の化合物の加水分解および重縮合によって溶液を金属の酸化物あるいは水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、更に反応を進ませてゲル化してできた非晶質ゲルを得る方法であり、本発明では、アルコキシシランまたはその縮合物を、水を含む有機溶媒中で加水分解してシリカゾルを得ることができる。
【0017】
ただし、本発明の製造方法は、シリカゾルに限定されず、ゾルゲル法を用いるシリカゾル以外の金属酸化物の合成においても適用可能である。
【0018】
≪シリカゾルの製造方法≫
本発明のシリカゾルの製造方法においては、アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)ならびに水を含む液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程と、第1工程の後に、液(A)に、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)と、液(C)と、を混合して反応液を作製する第2工程と、を含む。作製された反応液中で、アルコキシシランまたはその縮合物が加水分解および重縮合することでシリカゾルが生成される。以下、本発明のシリカゾルの製造方法の構成要件を説明する。
【0019】
本発明では、液(C)は、好ましくは、水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)であるか、または水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)である。以下では、水を含む液(C)を用いる形態を第1の実施形態、液(C)として水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)を用いる形態を第2の実施形態、液(C)として水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)を用いる形態を第3の実施形態と称する。
【0020】
[アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)]
本発明の第1~第3の実施形態の(A)液は、共通しており、以下の説明も共通である。
【0021】
本発明のアルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)は、アルカリ触媒と水と第1の有機溶媒とを混合して調製することができる。(A)液は、アルカリ触媒、水、有機溶媒、および必要に応じて添加される有機酸に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含むことができる。
【0022】
(A)液に含まれるアルカリ触媒としては、従来公知のものを使用することができる。アルカリ触媒は、金属不純物等の混入を極力低減できるという観点から、アンモニア、テトラメチル水酸化アンモニウムその他のアンモニウム塩などの少なくとも1つであることが好ましい。これらの中でも、優れた触媒作用の観点から、アンモニアがより好ましい。アンモニアは揮発性が高いため、シリカゾルから容易に除去することができる。なお、アルカリ触媒は、単独で用いてもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0023】
(A)液に含まれる水は、金属不純物等の混入を極力低減する観点から、純水または超純水を使用することが好ましい。
【0024】
(A)液に含まれる第1の有機溶媒としては、親水性の有機溶媒が用いられることが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。
【0025】
特に本発明では、第1の有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。アルコール類を用いることで、シリカゾルを後述する水置換する際に、加熱蒸留によりアルコール類と水とを容易に置換することができるという効果がある。また、有機溶媒の回収や再利用の観点から、アルコキシシランの加水分解により生じるアルコールと同一種類のアルコールを用いることが好ましい。
【0026】
アルコール類の中でもとりわけ、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールなどの少なくとも一種がより好ましいが、アルコキシシランとしてテトラメトキシシランを用いる場合、第1の有機溶媒は、メタノールであることが好ましい。
【0027】
第1の有機溶媒は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
(A)液中のアルカリ触媒、水および第1の有機触媒の含有量は、特に制限されないが、所望の粒子径に合わせて用いるアルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を変更でき、それぞれの含有量も用いるものにより適宜調整できる。本発明の製造方法において、(A)液中のアルカリ触媒の含有量を制御することにより、シリカ粒子の粒子径を制御できる。
【0029】
例えば、アルカリ触媒としてアンモニアを用いる場合、アンモニアの含有量の下限は、加水分解触媒としての作用またはシリカ粒子の成長の観点で、(A)液全量(100質量%)に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、アンモニアの含有量の上限は特に制限はされないが、生産性とコストの観点で、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
水の含有量の下限は、反応に用いるアルコキシシランまたはその縮合物の量に合わせて調整されるが、アルコキシシランの加水分解の観点から、(A)液全量(100質量%)に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。また、水の含有量の上限は、(B)液に対する相溶性の観点で、(A)液全量(100質量%)に対して、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。第1の有機溶媒としてメタノールを用いる場合、メタノールの含有量の下限は、(B)液に対する相溶性の観点で、(A)液全量(100質量%)に対して、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、第1の有機溶媒の含有量の上限は、分散性の観点で、(A)液全量(100質量%)に対して、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
[アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)]
本発明の第1~第3の実施形態の(B)液は、共通しており、以下の説明も共通である。
【0032】
本発明のアルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒を含む液(B)は、アルコキシシランまたはその縮合物と第2の有機溶媒とを混合して調製することができる。アルコキシシランまたはその縮合物の濃度が高すぎることにより反応が激しく、ゲル状物が発生しやすくなること、そして混和性の観点で、アルコキシシランまたはその縮合物を有機溶媒に溶解して調製することが好ましい。
【0033】
(B)液は、アルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含むことができる。
【0034】
(B)液に含まれるアルコキシシランまたはその縮合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、またはそれらの縮合物が挙げられる。これらは、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも適当な加水分解反応性を有する観点から、テトラメトキシシランが好ましい。
【0035】
(B)液に含まれる第2の有機溶媒としては、親水性の有機溶媒が用いられることが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。
【0036】
特に本発明では、第2の有機溶媒としては、アルコール類が好ましい。アルコール類を用いることで、シリカゾルを後述する水置換する際に、加熱蒸留によりアルコール類と水とを容易に置換することができる。また、有機溶媒の回収や再利用の観点から、アルコキシシランの加水分解により生じるアルコールと同一種類のアルコールを用いることが好ましい。アルコール類の中でもとりわけ、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールなどがより好ましいが、例えば、アルコキシシランとしてテトラメトキシシランを用いる場合、第2の有機溶媒は、メタノールであることが好ましい。第2の有機溶媒は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。また、(B)液に含まれる第2の有機溶媒は、有機溶媒の回収や再利用の観点から、(A)液に含まれる第1の有機溶媒と同じであることが好ましい。よって、より好ましい形態としては、第1および第2の有機溶媒が、メタノールである。
【0037】
(B)液中のアルコキシシランまたはその縮合物および第2の有機溶媒の含有量は、特に制限されず、所望の形状や粒子径などに合わせて適宜調整できる。例えば、アルコキシシランとしてテトラメトキシシランを、および第2の有機溶媒としてメタノールを用いた場合、テトラメトキシシランの含有量の上限は、(B)液の全量(100質量%)に対して、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。また、テトラメトキシシランの含有量の下限は、(B)液の全量(100質量%)に対して、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。アルコキシシランの含有量が50質量%以上98質量%以下であれば、(A)液と混合した際の混和性が高まり、ゲル状物を生成しにくく、高濃度のシリカゾルを作製できる。
【0038】
[水を含む液(C)]
本発明の第1の実施形態における水を含む液(C)は、水を含む。(C)液は、水、および必要に応じて添加される有機酸に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を含むことができる。
【0039】
[水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)]
本発明の第2の実施形態における水を含むpH5.0以上8.0未満の液(C1)は、水を含む。(C1)液は、水、および必要に応じて添加される有機酸に加え、本発明の効果を損なわない範囲およびpH5.0以上8.0未満の範囲で、他の成分を含むことができる。
【0040】
(C1)液のpHは、5.0以上8.0未満である。(C1)液のpHが8.0未満であると、反応液中において局所的に水酸化物イオンの濃度が高まることを抑制できるため、安定的に反応することができる。また、pHが5.0以上であると、反応液のゲル化を抑えることができる。(C1)液のpHは、反応液のゲル化をより抑えるとの観点から、好ましくは5.5以上であり、より好ましくは6.0以上である。(C1)液のpHの測定は、実施例で測定した方法によって得られる値に準ずる。
【0041】
(C1)液に含まれる水は、金属不純物等の混入を極力低減する観点から、純水または超純水が好ましい。
【0042】
本発明の第2の実施形態において、(C1)液は、アルカリ触媒を含んでもよいし含まなくてもよい。しかしながら、得られるシリカ粒子の大きさを揃える、およびシリカ粒子の濃度を高濃度化できる等の観点から、アルカリ触媒を含まないことが好ましい。
【0043】
[水を含み、かつアルカリ触媒を含まない、液(C2)]
本発明の第3の実施形態における(C2)液は、水を含み、かつアルカリ触媒を含まない。(C2)液がアルカリ触媒を含まないことで、反応液中のアルカリ触媒の濃度が局所的に高くなることを抑制できるため、粒子径の揃ったシリカ粒子を得ることができる。
【0044】
(C2)液に含まれる水は、金属不純物等の混入を極力低減する観点から、純水または超純水が好ましい。
【0045】
[有機酸を添加する第1工程]
本発明の製造方法では、アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)ならびに水を含む液(C)の少なくとも一方に有機酸を添加する第1工程を含む。第1工程において、有機酸は、アルカリ触媒、水および第1の有機溶媒を含む液(A)に添加されるのが好ましい。第1工程における(C)液は、好ましくは(C1)液または(C2)液である。
【0046】
第1工程で添加される有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。これらのうち、汎用性が高いとの観点から、好ましくはマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸、メタンスルホン酸である。より好ましくはマレイン酸およびメタンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0047】
有機酸の添加量としては、液(A)または液(C)のどちらに添加する場合であっても、粒子形状に作用しなくなるとの観点から、液(A)、液(B)および液(C)の全成分を混合後の液全量(100質量%)に対して、0.003質量%以上であることが好ましく、0.006質量%以上であることがより好ましい。また、有機酸の添加量の上限は、合成中に凝集物が発生するとの観点から、0.600質量%以下であることが好ましく、0.300質量%以下であることがより好ましく、0.150質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
[反応液を作製する第2工程]
本発明の製造方法では、(A)液に、(B)液と、(Cx)液(本明細書中、(Cx)液とは、(C)液、(C1)液および(C2)液からなる群より選択される少なくとも一種を含む、包括的な概念とする)と、を混合して反応液を作製する第2工程を含む。作製された反応液中でアルコキシシランまたはその縮合物が加水分解および重縮合することでシリカゾルが生成される。よって、前記シリカゾルは、用途に応じてそのままの状態で用いてもよいし、後述する水置換工程や濃縮工程を行った後に得られた液、または有機溶媒に分散させたオルガノゾルとして用いてもよい。
【0049】
本発明のシリカゾルの製造方法により、シリカ粒子の粒子径の揃ったシリカゾルを安定して得ることができる。
【0050】
(A)液に、(B)液と(Cx)液とを混合する際の、(B)液および(Cx)液の添加方法は特に制限されない。それぞれほぼ一定量を同時に(A)液に添加してもよいし、(B)液と(Cx)液とを交互に(A)液に添加してもよい。あるいは、(B)液と(Cx)液とをアトランダムに添加してもよい。これらの中で、反応液中の合成反応に用いる水の量の変化を抑制する観点から、(B)液および(Cx)液を同時に添加する方法を用いることが好ましく、(B)液および(Cx)液をそれぞれ一定量で同時に添加する方法を用いることがより好ましい。
【0051】
また、(A)液への(B)液および(Cx)液の添加方法は、反応液中のアルカリ触媒の濃度が局所的に高くなることを抑制できるとの観点から、好ましくは(A)液に(B)液および(Cx)液を分割添加または連続添加する。
【0052】
分割添加とは、(A)液に(B)液および(Cx)液を添加するに際し、(B)液および(Cx)液の全量を一括して添加するのではなく、2回以上に分けて非連続的にまたは連続的に添加することを意味する。分割添加の具体例としては、滴下が挙げられる。
【0053】
連続添加とは、(A)液に(B)液および(Cx)液を添加するに際し、(B)液および(Cx)液の全量を一括して添加するのではなく、添加を中断せずに連続的に添加することを意味する。
【0054】
(B)液や(Cx)液の液量によっても異なるが、(B)液および(Cx)液の全量を(A)液に添加する際に要する時間は、例えば10分以上であればよく、所望の粒子径に合わせて適宜調整することができる。(B)液および(Cx)液の全量を(A)液に添加する際に要する時間は、反応液中のアルカリ触媒の濃度が局所的に高くなることを抑制するとの観点から、好ましくは15分以上であり、より好ましくは20分以上である。(B)液および(Cx)液を(A)液に添加する際に一定以上の時間をかけずに短時間で全量を投入すること、または(B)液および(Cx)液の全量を一気に(A)液に投入することは、反応液中での各成分の濃度の偏りが生じるという点で、好ましくない。また、(B)液および(Cx)液の全量を(A)液に添加する際に要する時間の上限は、特に制限されず、生産性を考慮し、且つ、所望の粒子径に合わせて適宜調整することができる。
【0055】
(A)液に、(B)液と(Cx)液とを混合する際の、(B)液と(Cx)液の好ましい添加方法は、シリカ粒子の粒子径を揃えるとの観点から、(B)液と(Cx)液とを、それぞれほぼ一定量で同時に、且つ一定以上の時間で添加が完了する方法である。
【0056】
反応液を作製する際の(A)液、(B)液および(Cx)液の温度は、特に制限されない。ここで、反応液を作製する際の(A)液、(B)液および(Cx)液の温度とは、(A)液に、(B)液と(Cx)液とを添加する際の各液の温度である。反応液(各液)の温度を制御することにより、シリカ粒子の粒子径を制御できる。
【0057】
各液の温度の下限は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。また、前記各液の温度の上限は、同じであってもよいし、異なってもよいが、70℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、50℃以下がさらに好ましい。つまり、(A)液、(B)液および(Cx)液の温度は、それぞれ独立して、0~70℃であることが好ましい。温度が0℃以上であると、アルコキシシランの凍結を防ぐことができる。一方で温度が70℃以下であると、有機溶媒の揮発を防ぐことができる。
【0058】
また、上記のように、(A)液と(B)液と(Cx)液との温度は、同じでもよく、異なってもよいが、シリカ粒子の粒子径を揃える観点から、(A)液と(B)液と(Cx)液との温度の差が、20℃以内であることが好ましい。ここで、温度の差は、3液の中で、最も高い温度と、最も低い温度との差を意味する。
【0059】
本発明の実施形態のシリカゾルの製造方法において、加水分解および重縮合反応は、減圧下、常圧下、加圧下のいずれの圧力条件下で行なうことも可能である。ただし、生産コストの観点から、常圧下で実施することが好ましい。
【0060】
反応液中のアルコキシシランまたはその縮合物、水、アルカリ触媒ならびに第1および第2の有機溶媒のモル比は、特に制限されず、(A)液に含まれるアルカリ触媒や(B)液に含まれるアルコキシシランまたはその縮合物の含有量により、適宜調整することができる。
【0061】
本明細書中、「反応液」とは、(A)液に(B)液と(Cx)液とを混合した液であり、アルコキシシランまたはその縮合物の加水分解および重縮合がこれから進行する状態(進行する前)の液を意味する。一方で、「シリカゾル」とは、加水分解および重縮合が終了した液を意味する。
【0062】
つまり、モル比は、反応に用いられる(A)液、(B)液および(Cx)液のすべて、すなわち(A)液、(B)液および(Cx)液の全量を混合したときの反応液全量に含まれるアルコキシシランまたはその縮合物、水、アルカリ触媒および有機溶媒(第1および第2の有機溶媒の合計量)のモル比である。平たく言えば、(A)液に、(B)液と(Cx)液を添加した後の反応液全量((A)液+(B)液+(Cx)液)中のモル比ということである。
【0063】
当該反応液に含まれる水のモル比は、アルコキシシランのモル数を1.0とした場合、好ましくは2.0~12.0モルであり、より好ましくは3.0~6.0モルである。水のモル比が2.0モル以上であると、未反応物の量を少なくすることができる。水のモル比が12.0モル以下であると、得られるシリカゾルのシリカ粒子の濃度を高くすることができる。なお、N量体(Nは2以上の整数を表す)のアルコキシシランの縮合物を用いる場合、反応液中の水のモル比は、アルコキシシランを用いる場合と比べて、N倍となる。つまり、2量体のアルコキシシランの縮合物を用いる場合、反応液中の水のモル比は、アルコキシシランを用いる場合と比べて、2倍となる。
【0064】
当該反応液に含まれるアルカリ触媒のモル比は、アルコキシシランまたはその縮合物のモル数を1.0とした場合、好ましくは0.1~1.0モルである。アルカリ触媒のモル比が0.1以上であると、未反応物の量を少なくすることができる。アルカリ触媒のモル比が1.0以下であると、反応安定性をよくすることができる。
【0065】
当該反応液に含まれる第1および第2の有機溶媒の合計量のモル比は、アルコキシシランまたはその縮合物のモル数を1.0とした場合、好ましくは2.0~20.0モルであり、より好ましくは4.0~17.0モルである。有機溶媒のモル比が2.0モル以上であると、未反応物の量を少なくすることができ、20.0モル以下であると、得られるシリカゾルのシリカ粒子の濃度を高くすることができる。
【0066】
つまり、反応液中のアルコキシシラン、水、アルカリ触媒ならびに第1および第2の有機溶媒のモル比が、(アルコキシシラン):(水):(アルカリ触媒):(有機溶媒)=(1.0):(2.0~12.0):(0.1~1.0):(2.0~20.0)であることが好ましい。また、反応液中のアルコキシシランの縮合物、水、アルカリ触媒ならびに第1および第2の有機溶媒のモル比が、アルコキシシランの縮合物をN量体とする場合(Nは2以上の整数を表す)、(アルコキシシランの縮合物):(水):(アルカリ触媒):(有機溶媒)=(1.0):(2.0×N~12.0×N):(0.1~1.0):(2.0~20.0)であることが好ましい。
【0067】
シリカゾル中のシリカ粒子の形状は、非球状であるのが好ましい。具体的には、シリカゾル中のシリカ粒子の平均円形度は0.60以下であることが好ましい。本明細書において、平均円形度とは、シリカゾルに含まれるシリカ粒子の円形度の平均を算出した値を意味する。本明細書中、平均円形度は、後述の実施例に記載の方法で算出した値を意味する。円形度が1に近いほど、球状に近いことを表し、よって、平均円形度が1に近いほど、シリカゾルに含まれる球状に近い粒子の割合が多いことを示す。本発明の製造方法により、走査型電子顕微鏡により観察される画像に基づいて算出されるシリカ粒子の平均円形度が0.60以下であるシリカゾルを安定して得ることができる。すなわち、本発明は、円形度がより小さい非球状のシリカ粒子を多く含むシリカゾルが製造できる。よって、本発明の製造方法により得られたシリカゾルを研磨組成物の砥粒として用いることにより、ディッシングの抑制や研磨速度の向上といった研磨性能をより優れたものとすることができる。
【0068】
シリカゾル中のシリカ粒子の平均アスペクト比は、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.1以上、最も好ましくは1.2以上である。本明細書において、平均アスペクト比は、シリカゾルに含まれるシリカ粒子のアスペクト比の平均を算出した値を意味する。本明細書中、平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法で算出した値を意味する。アスペクト比が1に近いほど、非偏平状に近いことを表し、よって、平均アスペクト比が1に近いほど、シリカゾルに含まれる非偏平状に近い粒子の割合が多いことを示す。
【0069】
本発明の製造方法により得られるシリカゾルは、シリカ粒子の平均アスペクト比が1または1に近い場合であっても平均円形度が小さいため、高い研磨性能が発揮できる理由を
図1に基づき説明する。
図1(a)には、3つの粒子が結合したような三角状の異形シリカ粒子(以下、「三角状異形シリカ粒子」と称する)、
図1(b)には、2つの粒子が結合したような楕円状の異形シリカ粒子(以下、「楕円状異形シリカ粒子」と称する)とが示されている。三角状異形シリカ粒子および楕円状異形粒子は、どちらも粒子径が78nm程度であるが、三角状異形シリカ粒子のアスペクト比は1.00であり、楕円状異形シリカ粒子のアスペクト比は1.54である。しかしながら、楕円状異形シリカ粒子よりも会合度が高い三角状異形シリカ粒子は、ディッシングの抑制や高研磨速度等の研磨性能を向上させる形状である。このことから、アスペクト比だけでは研磨性能を向上させるシリカ粒子の形状は判断できないと考えられる。本発明においては、シリカ粒子の円形度に着目し、有機酸の添加タイミングを工夫することで研磨性能を向上させることができる円形度が小さいシリカ粒子を含むシリカゾルが得られることを見出し、新規なシリカゾルの製造方法を完成させたものである。
【0070】
シリカゾル中のシリカ粒子の大きさは特に制限されないが、シリカ粒子の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、シリカ粒子の平均一次粒子径の上限は、120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0071】
本発明の製造方法により得られるシリカゾル中のシリカ粒子の平均二次粒子径は、所望の粒子径を選択でき、好ましくは5.0~1000.0nmである。なお、シリカ粒子の平均二次粒子径の値は、例えば、動的光散乱法により体積平均粒子径として測定できる。具体的には、動的光散乱法により、シリカ粒子の粒子径を測定し、それぞれd1、d2・・・di・・・dkの粒子径を持つ粒子がそれぞれn1、n2、・・・ni・・・nk個あるとする。また粒子1個あたりの体積をviとする。この際、体積平均粒子径は、Σ(vidi)/Σ(vi)で算出され、体積で重みづけられた平均径である。
【0072】
本発明の製造方法で製造されたシリカゾル中のシリカ粒子の濃度は、得られるシリカ粒子の粒子径により異なるが、例えば平均二次粒子径が50~350nmである場合、好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは7質量%以上25質量%以下である。
【0073】
本発明の製造方法で製造されたシリカゾルのpHは、好ましくは7.0~13.0であり、より好ましくは8.0~12.0である。
【0074】
本発明の製造方法によれば、シリカゾルに含まれる金属不純物、例えば、Al、Ca、B、Ba、Co、Cr、Cu、Fe、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、Sr、Ti、Zn、Zr、U、Thなどの金属不純物の合計の含有量を1ppm以下とすることができる。
【0075】
<後工程>
本発明のシリカゾルの製造方法では、上述した反応液を作製する工程に加えて、以下に説明する後工程を施してもよい。
【0076】
具体的には、シリカゾル中に存在する有機溶媒を水で置換する水置換工程や、シリカゾルを濃縮する濃縮工程の少なくとも一工程を行ってもよい。より詳しくは、シリカゾルを濃縮する濃縮工程のみを行ってもよいし、シリカゾル中の有機溶媒を水で置換する水置換工程のみを行ってもよいし、濃縮工程後、濃縮した液中の有機溶媒を水で置換する水置換工程を行ってもよいし、水置換工程した後に、水で置換した液を濃縮する濃縮工程を行ってもよい。また、濃縮工程を複数回行ってもよく、その際濃縮工程と濃縮工程の間で水置換工程を行ってもよく、例えば、濃縮工程後、濃縮した液中の有機溶媒を水で置換する水置換工程を行い、さらにその水で置換した液を濃縮する濃縮工程を行ってもよい。
【0077】
[水置換工程]
本発明のシリカゾルの製造方法は、本発明の一実施形態として、前記シリカゾルに含まれる有機溶媒を水で置換する工程を有してもよい(本明細書中、単に「水置換工程」とも称する)。この形態のシリカゾルには、濃縮工程を経たシリカゾル(濃縮したシリカゾル)である形態も含まれる。
【0078】
シリカゾル中の有機溶媒を水で置換することによって、アンモニアをアルカリ触媒として選択した場合、前記シリカゾルのpHを中性域に調整することができるとともに、前記シリカゾル中に含まれていた未反応物を除去することにより、長期間安定な水置換したシリカゾルを得ることができる。
【0079】
シリカゾル中の有機溶媒を水で置換する方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、前記シリカゾルの液量を一定量以上に保ちながら、水を滴下して加熱蒸留によって置換する方法が挙げられる。この際、置換操作は、液温および塔頂温が置換する水の沸点に達するまで行なうことが好ましい。
【0080】
本工程で用いる水は、金属不純物等の混入を極力低減する観点から、純水または超純水を用いることが好ましい。
【0081】
また、シリカゾル中の有機溶媒を水で置換する方法としては、シリカゾルを遠心分離によりシリカ粒子を分離後、水に再分散させる方法も挙げられる。
【0082】
[濃縮工程]
本発明のシリカゾルの製造方法は、本発明の一実施形態として、シリカゾルをさらに濃縮する工程を有してもよい(本明細書中、単に「濃縮工程」とも称する)。なお、本形態のシリカゾルには、水置換工程を経たシリカゾル(水置換したシリカゾル)である形態も含まれる。
【0083】
シリカゾルを濃縮する方法は、特に制限されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、加熱濃縮法、膜濃縮法などが挙げられる。
【0084】
加熱濃縮法では、シリカゾルを常圧下または減圧下で加熱濃縮することで、濃縮されたシリカゾルを得ることができる。
【0085】
膜濃縮法では、例えば、シリカ粒子を濾過することができる限外濾過法による膜分離により、シリカゾルを濃縮することができる。限外濾過膜の分画分子量は、特に制限されないが、生成する粒径に合わせて分画分子量を選別することができる。限外濾過膜を構成する材質は、特に制限されないが、例えばポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどが挙げられる。限外濾過膜の形態は、特に制限されないが、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型などが挙げられる。限外濾過法では、操作圧力は、特に制限されないが、使用する限外濾過膜の使用圧力以下に設定することができる。
【実施例】
【0086】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0087】
<実施例1>
(シリカゾル調製工程;第1工程および第2工程)
メタノール1222gに純水121gおよび29wt%アンモニア水溶液73gを混合した(A)液に、マレイン酸0.28gを混合した。その後、この(A)液に、メタノール190gにテトラメトキシシラン(TMOS)507gを溶解した(B)液および純水120gの(C)液を、各液の温度を35℃に保ちながら、60分かけて滴下し、反応液を作製して、シリカゾルを得た。
【0088】
反応液中のTMOS、純水、アンモニアおよびメタノールのモル比は、TMOS:純水:アンモニア:メタノール=1.0:4.0:0.37:13であった。
【0089】
(シリカゾル濃縮工程)
上記シリカゾル調製工程で得られたシリカゾル2233gを加熱容器に添加し、マントルヒータースターラー 型式:MS-ES10により加熱容器を常圧下で加熱し、濃縮を行い、濃縮されたシリカゾルを得た。
【0090】
(シリカゾル水置換工程)
シリカゾル濃縮工程で得られたシリカゾルに対して加熱蒸留を行うことによりシリカゾル水置換工程を行った。シリカゾルの加熱蒸留を行う際に、水を添加することによりシリカゾルの液量を一定量以上に保ち、シリカゾル中のメタノールを水で置換し、実施例1のシリカゾルを得た。
【0091】
<実施例2>
(A)液に添加するマレイン酸0.28gをメタンスルホン酸0.28gに変更した以外は、実施例1と同様に操作して、反応液を作製しシリカゾルを得た。その後、シリカゾル濃縮工程およびシリカゾル水置換工程も実施例1と同様に操作して、実施例2のシリカゾルを得た。
【0092】
<比較例1>
(A)液にマレイン酸0.28gを添加しなかった以外は、実施例1と同様に操作して、反応液を作製しシリカゾルを得た。その後、実施例1と同様にシリカゾル濃縮工程およびシリカゾル水置換工程を行い、比較例1のシリカゾルを得た。
【0093】
<比較例2>
(A)液にマレイン酸0.28gを添加せず、(B)液および(C)液の滴下を15分で行った以外は、実施例1と同様に操作して、反応液を作製し、比較例2のシリカゾルを得た。なお、比較例2では、シリカゾル濃縮工程およびシリカゾル水置換工程は行っていない。
【0094】
<比較例3>
(A)液にマレイン酸0.28gを添加せず、反応液を調製する際の各液の温度を25℃に変更した以外は、実施例1と同様に操作して、反応液を作製し、比較例3のシリカゾルを得た。なお、比較例3では、シリカゾル濃縮工程およびシリカゾル水置換工程は行っていない。
【0095】
<比較例4>
(A)液にマレイン酸0.28gを添加しなかった以外は、実施例1と同様に操作して、反応液を作製した後、得られたシリカゾルに対して、マレイン酸0.28gを添加した。その後、実施例1と同様にシリカゾル濃縮工程およびシリカゾル水置換工程を行い、比較例4のシリカゾルを得た。
【0096】
実施例1、2および比較例1~4の原料および反応条件を表1に示す。なお、表1において、反応温度は、ラコムテスタpH&導電率計PCWP300(株式会社ユーテック製)を用いて、この装置の電極を反応液中に浸し、添加開始時(合成開始時)からの反応液の温度を測定した値である。この反応温度は、(A)液の温度を示す。なお、(B)液および(C)液は室温(20~25℃)にて(A)液に添加されていることにより、(B)液および(C)液の各液の温度は室温(20~25℃)である。
【0097】
[物性値の測定]
上記調製した実施例および比較例のシリカゾル中のシリカ粒子について、以下の物性値を測定した。
【0098】
(平均二次粒子径)
平均二次粒子径は、粒子径分布測定装置(UPA-UT151、日機装株式会社製)を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径として測定した。
【0099】
(画像観察)
走査型電子顕微鏡SU8000(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、以下の手順に従ってシリカゾルの画像観察を行った。
【0100】
上記得られたシリカゾルをアルコール中に分散させた後、乾燥させたものを走査型電子顕微鏡に設置し、5.0kVにて電子線照射を行い、倍率50000倍から200000倍で観察視野を数点撮影した。
【0101】
(円形度およびアスペクト比)
撮影されたSEM画像を画像解析式粒度分布測定ソフトウェアMac-View Ver.4(株式会社マウンテック製)を用いて、以下の式にて円形度(平均円形度)、アスペクト比(平均アスペクト比)を算出した。
【0102】
なお、円形度およびアスペクト比は、SEMにより150個以上のシリカ粒子についてSEM画像を撮影し、その画像を解析したものである。よって、平均円形度は、個々の粒子の面積(S)と個々のシリカ粒子の周囲長(L)とを求め、各粒子の円形度を下記式より(各)円形度を算出して、平均したものである。また、平均アスペクト比は、個々の粒子において、面積が最小となる外接する四角形の短径および長径を求め、各粒子のアスペクト比を下記式より(各)アスペクト比を算出して、平均したものである。なお、平均円形度および平均アスペクト比の算出に用いるシリカ粒子は、撮影されたSEM画像のすべての粒子を対象とする。
【0103】
円形度=4πS/L2 (S=円面積、L=周囲長)
アスペクト比=(面積が最小となる外接する四角形の短径)/(面積が最小となる外接する四角形の長径)
(シリカ濃度)
シリカ濃度は、具体的には、シリカゾルを蒸発乾固後、その残量より算出した値とした。
【0104】
なお、濃縮工程および水置換工程を行っていない場合のシリカ濃度は、(A)液に、(B)液と(C)液とを混合して反応液を作製し、得られたシリカゾルを用いて、シリカゾル中のシリカ粒子の濃度を測定した。
【0105】
また、濃縮および水置換後のシリカ濃度は、(A)液に(B)液と(C)液とを混合して反応液を作製して得られたシリカゾルに対して濃縮工程および水置換工程を行い、当該工程後に得られたシリカゾルを用いて、シリカゾル中のシリカ粒子の濃度を測定した。
【0106】
(粘度)
シリカゾルの粘度は下記の方法により測定した。柴田科学株式会社製、粘度計キャノン・フェンスケ100号(粘度計定数0.015)、同200号(粘度計定数0.1)、および同300号(粘度計定数0.25)を100℃のエアバスで十分に乾燥させたのち、室温に戻した。なお、実施例1、2および比較例4のシリカゾルには75号を用い、比較例1のシリカゾルには300号を用いた。
【0107】
室温に戻したキャノン・フェンスケを逆さまにして、装置内にシリカゾルを充填した。25℃のウォーターバスを用意したのち、液温も同温となるよう、ウォーターバス内に十分浸漬させた。その後、流出時間を計測するため、キャノン・フェンスケの上下を元に戻し、装置記載の測時標線間の移動時間をストップウォッチで計測した。また、別途アントンパール社製の携帯密度・比重・濃度計にてシリカゾルの密度を測定した。得られた値から、下記式により粘度を算出した。
【0108】
動粘度(mm
2/s)=粘度計定数×流出時間(秒)
粘度(mPa・s)=動粘度(mm
2/s)×密度(g/cm
3)
上記物性値の測定の結果を表2に記載する。表2において、「-」は、算出していないことを示す。また、
図2に、走査型電子顕微鏡により観察した実施例1のシリカゾルの画像(100,000倍)を示す。
【0109】
【0110】
【0111】
表2に示すように、比較例1~3のシリカ粒子は、平均アスペクト比が1.2以上となっているが、平均円形度が0.60以下とはならなかった。反応液の作製後に有機酸を添加した比較例4では、シリカ粒子の平均円形度は0.60を超えた。このことから、円形度の低いシリカ粒子を得るためには有機酸が反応液の作製時に存在することが必要なことが示唆された。
【0112】
実施例1、2で得られたシリカ粒子は、平均アスペクト比が1.2以上であり、かつ平均円形度が0.60以下となった。また、
図2より、実施例1のシリカゾルに含まれるシリカ粒子の多くが非球状であることがわかる。
【0113】
実施例1、2においては、シリカゾル作製時の反応系に有機酸が存在していても反応時間や反応温度に対する影響はなく、好適にシリカゾルが製造できた。また、実施例1、2により得られたシリカゾルに凝集等が生じることはなく、有機酸がシリカゾルの安定性に影響を及ぼすことがないことも確認できた。