IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

<>
  • 特許-酸化ガリウム基板研磨用組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】酸化ガリウム基板研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240315BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240315BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240315BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622W
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020549238
(86)(22)【出願日】2019-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2019037362
(87)【国際公開番号】W WO2020067057
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018185526
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019062384
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】平子 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】野口 直人
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-94510(JP,A)
【文献】特開2014-641(JP,A)
【文献】特開2008-105883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム基板の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
砥粒と、水と、酸とを含み、
前記砥粒は、シリカであり、
前記シリカの含有量は10重量%以上50重量%以下であり、
前記砥粒の平均一次粒子径は5nm以上1000nm以下であり、
前記砥粒の平均二次粒子径は10nm以上1500nm以下であり、
前記砥粒の、平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比は、1.05以上10以下であり、
pHが5.0以上8.0未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記酸は、硝酸、塩酸、塩素酸および臭素酸からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記酸は、リン酸を含む、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
請求項1からのいずれか一項に記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該基板を研磨することを含む、酸化ガリウム基板の研磨方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載の研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該基板を研磨する研磨工程を含む、酸化ガリウム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関し、詳しくは酸化ガリウム基板の研磨に用いられる研磨用組成物に関する。本出願は、2018年9月28日に出願された日本国特許出願2018-185526号および2019年3月28日に出願された日本国特許出願2019-062384号に基づく優先権を主張しており、それらの出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
光学デバイス用基板やパワーデバイス用基板などの化合物半導体基板の材料として、例えば、酸化アルミニウム(典型的にはサファイア)、酸化ケイ素、酸化ガリウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ガリウムなどの窒化物、炭化ケイ素などの炭化物が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の化合物半導体基板のなかでも、酸化ガリウム基板は、他の材料からなる基板と比較して、耐久性が高い、結晶成長が容易であるなどの利点を有している。しかし、酸化ガリウム基板は未だ研究段階であり、特に基板平坦・平滑化を目的とした研磨加工技術は確立されていない。
そこで、本発明は、酸化ガリウム基板の研磨において高研磨レートと高面品質との両立を実現することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。関連する他の目的は、上記研磨用組成物を用いた酸化ガリウム基板の研磨方法および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この明細書によると、酸化ガリウム基板の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、砥粒と、水とを含む。かかる研磨用組成物を用いた研磨によると、酸化ガリウム基板に対する研磨レートを向上し、かつ、良好な面品質を実現することができる。
【0005】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒は、シリカおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも一種を含む。砥粒としてシリカやアルミナを用いることにより、酸化ガリウム基板の研磨を好適に行うことができる。
【0006】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒の平均一次粒子径は5nm以上である。このような平均一次粒子径を有する砥粒を含む研磨用組成物によると、研磨レートを向上させやすい。
【0007】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒の平均一次粒子径は1000nm以下である。このような平均一次粒子径を有する砥粒を含む研磨用組成物を用いた研磨によると、良好な面品質が得られやすい。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒の平均二次粒子径は10nm以上である。このような平均二次粒子径を有する砥粒を含む研磨用組成物によると、研磨レートを向上させやすい。
【0009】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記砥粒の平均二次粒子径は1500nm以下である。このような平均二次粒子径を有する砥粒を含む研磨用組成物を用いた研磨によると、良好な面品質が得られやすい。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様はさらに酸を含む。当該酸は、pH調整等のための成分として研磨用組成物に含まれ得る。
【0011】
また、前記酸は、硝酸、塩酸、塩素酸および臭素酸からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これらの酸を含む研磨用組成物を用いた研磨によると、良好な面品質が得られやすい。
【0012】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、研磨用組成物のpHは4.0以上12.0未満である。かかる研磨用組成物を用いた研磨によると、酸化ガリウム基板の研磨を好適に行うことができる。
【0013】
ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、前記酸は、リン酸を含むことが好ましい。例えば、前記酸としてリン酸を含み、pHが0.5以上8未満である態様が好ましい。かかる研磨用組成物を用いた研磨によると、酸化ガリウム基板の研磨を好適に行うことができる。
【0014】
また、この明細書によると、酸化ガリウム基板の研磨方法が提供される。この研磨方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該基板を研磨することを含む。かかる酸化ガリウム基板の研磨方法によると、研磨レートと面品質との両立を実現することができる。
【0015】
加えて、この明細書によると、酸化ガリウム基板の製造方法が提供される。この製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を研磨対象基板に供給して該基板を研磨する研磨工程を含む。かかる製造方法によると、良好な面品質を有する酸化ガリウム基板が効率的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、試験Cにおける研磨量と表面粗さ(Ra)の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
<研磨対象物>
ここに開示される研磨用組成物は、酸化ガリウム基板の研磨に用いられる。酸化ガリウム基板は、実質的に酸化ガリウム(Ga)からなる基板である。酸化ガリウムには、α、β、γ、δ、εの構造の異なる5つの形態が存在し、典型的には、最も安定な構造である単斜晶系のβ-Gaが用いられる。また、酸化ガリウム基板には、酸化ガリウム単結晶の他に不純物元素が含まれていてもよい。この不純物元素は、例えば、導電性の制御等のためにドープされた元素であり得る。また、酸化ガリウム基板は、適宜の下地層の上に、実質的に酸化ガリウムからなる層が形成されたものであってもよい。そのような下地層の例としては、サファイア基板、シリコン基板、SiC基板等が挙げられる。
なお、本明細書において、基板の組成について「実質的にXからなる」または「実質的にXから構成される」とは、当該基板に占めるXの割合(Xの純度)が、重量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0019】
特に限定されるものではないが、この酸化ガリウム基板の表面(研磨対象面)は、(100)面以外の面、例えば(-201)面、(101)面、または(001)面であり得る。例えば、酸化ガリウム基板の(-201)面におけるビッカース硬度は12.5GPa程度であり、(101)面におけるビッカース硬度は9.7GPa程度である。
【0020】
<研磨組成物>
(砥粒)
ここに開示される酸化ガリウム基板用の研磨用組成物は砥粒を含む。かかる研磨用組成物を用いた研磨によると、酸化ガリウム基板に対する研磨レートを向上し、かつ、良好な面品質を実現することができる。砥粒は、他の化合物半導体基板の研磨で用いられ得る砥粒のなかから適宜選択して使用することができる。砥粒としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化チタニウム、酸化クロム、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物;炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物;等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。また、上記した各種の砥粒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本明細書において、砥粒の組成について「実質的にXからなる」または「実質的にXから構成される」とは、当該砥粒に占めるXの割合(Xの純度)が、重量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0021】
また、上述した砥粒のなかでも、実質的にシリカからなるシリカ砥粒や、実質的にアルミナからなるアルミナ砥粒は、入手が比較的容易であることに加え、酸化ガリウム基板の研磨を好適に行うことができ、良好な面品質を得られやすいため好ましく用いることができる。
【0022】
シリカ砥粒としては、例えば、コロイダルシリカ、乾式法シリカ等が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカの使用が好ましい。コロイダルシリカを含む砥粒によると、高い研磨レートと良好な面品質とが好適に達成され得る。ここでいうコロイダルシリカの例には、Na、K等のアルカリ金属とSiOとを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いて製造されるシリカや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるシリカ(アルコキシド法シリカ)が含まれる。また、乾式法シリカの例には、四塩化ケイ素やトリクロロシラン等のシラン化合物を典型的には水素火炎中で燃焼させることで得られるシリカ(フュームドシリカ)や、金属シリコンと酸素の反応により生成するシリカが含まれる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
アルミナ砥粒としては、例えば、α-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、κ-アルミナ等を含む砥粒が挙げられる。これらのなかでも、α-アルミナを主成分とするアルミナ砥粒によると、高い研磨レートを容易に実現し得る。このα-アルミナを主成分とするアルミナ砥粒は、砥粒中のアルミナのα化率が20%以上であると好ましく、40%以上であるとより好ましい。なお、アルミナ砥粒中のアルミナのα化率は、X線回折測定による(113)面回折線の積分強度比から求められる。また、製法による分類に基づきフュームドアルミナと称されるアルミナ(典型的にはアルミナ塩を高温焼成する際に生産されるアルミナ微粒子)を使用してもよい。さらに、コロイダルアルミナまたはアルミナゾルと称されるアルミナ(例えばベーマイト等のアルミナ水和物)も好ましく用いることができる。これらは一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
なお、ここに開示される研磨用組成物では、表面改質した砥粒を使用してもよい。砥粒の表面改質は、具体的には、砥粒表面に砥粒表面とは異なる電位を有する物質を付着または結合させ、砥粒表面の電位を変えることにより行われる。砥粒表面の電位を変えるために使用される物質には制限はないが、例えば砥粒がシリカ砥粒であった場合には、界面活性剤や、無機酸、有機酸の他、アルミナなどの金属酸化物を使用することができる。
【0025】
また、研磨用組成物中の砥粒の平均一次粒子径DP1は適宜調整することができる。砥粒の平均一次粒子径DP1が大きくなるにつれて、研磨レートが向上する傾向がある。そのような観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、凡そ、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、15nm以上であってもよく、18nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。また、砥粒の平均一次粒子径DP1が小さくなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、砥粒の平均一次粒子径DP1は、凡そ、1000nm以下であってもよく、1000nm未満であってもよく、500nm以下であってもよく、200nm以下であってもよく、100nm以下であってもよく、90nm以下であってもよい。
なお、本明細書において平均一次粒子径DP1とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、BET径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。例えばシリカ砥粒の場合、BET径(nm)=2727/BET値(m/g)によりBET径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0026】
また、砥粒の平均二次粒子径DP2が大きくなるにつれて、研磨レートが向上する傾向がある。そのような観点から、砥粒の平均二次粒子径DP2は、凡そ、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、30nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。一方、砥粒の平均二次粒子径DP2が小さくなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、砥粒の平均二次粒子径DP2は、凡そ、5000nm以下であってもよく、1000nm以下であってもよく、500nm以下であってもよく、400nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、200nm以下であってもよい。
なお、本明細書において平均二次粒子径DP2とは、動的光散乱法に基づく体積平均粒子径(体積平均径D50)をいう。砥粒の平均二次粒子径DP2は、市販の動的光散乱法式粒度分析計を用いて測定することができ、例えば、日機装社製の型式「UPA-UT151」またはその相当品を用いて測定することができる。
【0027】
また、砥粒の平均二次粒子径DP2は、一般に砥粒の平均一次粒子径DP1と同等以上(DP2/DP1≧1)であり、典型的にはDP1よりも大きい(DP2/DP1>1)と好ましい。特に限定するものではないが、砥粒のDP2/DP1が大きくなるにつれて、研磨レートが向上する傾向がある。そのような観点から、砥粒のDP2/DP1は、1.05以上であってもよく、1.1以上であってもよく、1.2以上であってもよく、1.3以上であってもよい。また、砥粒のDP2/DP1が小さくなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、砥粒のDP2/DP1は、10以下であってもよく、5以下であってもよく、3以下であってもよく、2.5以下であってもよく、2.3以下であってもよく、2.2以下であってもよい。
【0028】
砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなす砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。
【0029】
(水)
ここに開示される研磨用組成物は、必須成分として水を含む。水としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0030】
(酸)
ここに開示される研磨用組成物は酸を含んでいてもよい。使用する酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、塩素酸、臭素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホウ酸等の無機酸;酢酸、イタコン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、グリコール酸、マロン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、リンゴ酸、グルコン酸、アラニン、グリシン、乳酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。なお、上記酸のなかでも、硝酸、塩酸、塩素酸、臭素酸、リン酸を好ましく用いることができる。また、上記した各種の酸は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの酸は、研磨用組成物のpHを調整する手段として用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、上記酸として、硝酸、塩酸、塩素酸および臭素酸からなる群から選択される少なくとも一種の酸を含む態様で実施することができる。また、ここに開示される研磨用組成物は、上記酸として少なくともリン酸を含む態様で実施することができる。
【0031】
(アルカリ)
また、ここで開示される研磨組成物はアルカリを含んでいてもよい。使用するアルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属由来の無機アルカリ化合物、またはアンモニア、アミン等の有機アルカリ化合物を用いることができる。なお、上記した各種のアルカリは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルカリは、研磨用組成物のpHを調整する手段として用いることができる。
【0032】
(pH)
ここに開示される研磨用組成物のpHは特に制限されない。例えば、研磨用組成物のpHは、0.5以上であってもよく、1.0以上であってもよく、2.0以上であってもよく、3.0以上であってもよく、4.0以上であってもよい。ここに開示される研磨用組成物は、pHが5.0以上、6.0以上または6.5以上である態様でも好ましく実施され得る。また、研磨用組成物のpHは、例えば13.0以下であってよく、12.5以下であってもよく、12.0以下でもよく、12.0未満でもよい。いくつかの態様において、該研磨用組成物のpHは、例えば11.0未満であってよく、9.5未満でもよく、8.0未満でもよく、7.0未満でもよく、6.0未満でもよく、5.0未満でもよい。
なお、本明細書において、液状の組成物(研磨用組成物、研磨液等)のpHは、pHメーター(例えば、堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を測定対象の組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0033】
ここに開示される研磨用組成物のいくつかの態様において、上記pHは、好ましくは4.0以上12.0以下、例えば4以上12未満であり、より好ましくは4.0以上12.0未満である。pHが4.0以上12.0以下である研磨用組成物を用いた研磨によると、酸化ガリウム基板に対する研磨レートをより好適に向上させ、かつ、良好な面品質を容易に実現することができる。特に限定的に解釈されるものではないが、このような効果が得られる理由は、例えば以下のように考えられる。酸化ガリウム基板は、サファイア基板や炭化ケイ素基板などの他の化合物半導体基板よりも化学的な反応性が高く、研磨用組成物の化学的性質の影響を受け易い。このため、強酸性や強アルカリ性の研磨用組成物を用いて研磨を行うと、基板表面が荒れて、研磨後の基板表面の平滑性の低下や、ピットなどの微小な欠陥の発生などの原因となる。ここに開示される技術では、pHが4.0以上12.0以下に調整された研磨用組成物を用いることによって、酸化ガリウム基板の表面の荒れを防止し、良好な面品質を実現できると考えられる。また、研磨用組成物のpHを4.0以上12.0以下に調整することにより、砥粒の凝集が促進されて、好適な粒子径を有する砥粒の二次粒子が多数形成されるため、研磨レートを向上できると考えられる。好ましい一態様として、硝酸、塩酸、塩素酸および臭素酸からなる群から選択される少なくとも一種の酸を含み、かつpHが上述したいずれかの範囲にある態様が挙げられる。
【0034】
ここに開示される研磨用組成物の他のいくつかの態様において、上記pHは、好ましくは0.5以上12.0以下であり、より好ましくは0.5以上8未満であり、例えば0.5以上7.0未満であり得る。例えば、酸として少なくともリン酸を含む態様の研磨用組成物において、上述したいずれかのpHを好ましく採用し得る。
【0035】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0036】
(キレート剤)
キレート剤の例としては、研磨用組成物中に含まれ得る金属不純物と錯イオンを形成してこれを捕捉することにより、金属不純物による基板の汚染を抑制する働きをする。キレート剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。キレート剤の例としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましく、なかでも好ましいものとしてアミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0037】
(表面保護剤)
表面保護剤は、砥粒表面または基板表面に吸着し、基板表面の欠陥を防止する働きを高める。表面保護剤としては、砥粒または基板の表面に対し吸着性を示し、基板表面の欠陥を低減する作用を示す化合物であれば特に限定されない。例えば、表面保護剤は、所定の水溶性高分子化合物の一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。この水溶性高分子化合物としては、例えば、オキシアルキレン単位を含むポリマー、窒素原子を含有するポリマー、カルボキシル基を含有するポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、セルロース誘導体、デンプン誘導体等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物を表面保護剤として添加することによって、良好な面品質を得られやすくなる。
【0038】
オキシアルキレン単位を含むポリマーとしては、ポリエチレンオキサイド(PEO)や、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)またはブチレンオキサイド(BO)とのブロック共重合体、EOとPOまたはBOとのランダム共重合体等が例示される。そのなかでも、EOとPOのブロック共重合体またはEOとPOのランダム共重合体が好ましい。EOとPOとのブロック共重合体は、PEOブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体等であり得る。上記トリブロック体の例には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。なかでも、PEO-PPO-PEO型トリブロック体がより好ましい。
EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性等の観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(例えば5以上)であることがさらに好ましい。
【0039】
窒素原子を含有するポリマーとしては、主鎖に窒素原子を含有するポリマーおよび側鎖官能基(ペンダント基)に窒素原子を有するポリマーのいずれも使用可能である。主鎖に窒素原子を含有するポリマーの例としては、N-アシルアルキレンイミン型モノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。N-アシルアルキレンイミン型モノマーの具体例としては、N-アセチルエチレンイミン、N-プロピオニルエチレンイミン等が挙げられる。ペンダント基に窒素原子を有するポリマーとしては、例えばN-ビニル型のモノマー単位を含むポリマー等が挙げられる。例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体等を採用し得る。ここに開示される技術においては、N-ビニルピロリドンが50モル%以上の割合で重合されたN-ビニルピロリドンの単独重合体および共重合体の少なくとも一種が好ましく用いられる。
【0040】
カルボキシル基を含有するポリマーとしては、該ポリマーを構成する繰返し単位として(メタ)アクリル酸型の構造単位を含有するポリマーが例示される。ここで「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占める(メタ)アクリル酸型の構造単位のモル数の割合は、水への溶解性等の観点から、50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上でもよく、95%以上でもよい。カルボキシル基含有ポリマーの全繰返し単位が実質的に(メタ)アクリル酸型の構造単位から構成されていてもよい。なかでも、当該ポリマーにおいて、全繰返し単位のモル数に占めるアクリル酸型の構造単位のモル数の割合が、50%以上、例えば80%以上、典型的には90%以上を占めるアクリル酸系ポリマー(ポリアクリル酸)が好ましい。
カルボキシル基を含有するポリマーは、該ポリマーに含まれるカルボキシル基が、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン等のカチオン(好ましくは、一価のカチオン)と塩を形成していてもよい。例えば、ポリアクリル酸ナトリウムやポリアクリル酸アンモニウム等のポリアクリル酸塩は、ここでいうカルボキシル基を有するポリマーの例に含まれる。
カルボキシル基を含有するポリマーは、水溶性と吸着性とのバランス調整等の目的で、該ポリマーを構成する繰返し単位として、カルボキシル基を有しない構造単位をさらに含んでいてもよい。カルボキシル基を含有するポリマーは、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル(好ましくは、アクリル酸エステル)から選択される一種または二種以上のモノマーと(メタ)アクリル酸との共重合体またはその塩であってもよい。
【0041】
ポリビニルアルコール(PVA)系ポリマーとしては、変性されていないPVA(非変性PVA、例えば、けん化度が95%以上または98%以上であるポリビニルアルコール)であってもよく、VA単位および非VA単位を含むPVAである変性PVAであってもよい。非変性PVAと変性PVAとを組み合わせて用いてもよい。変性PVAの含有量は、ポリビニルアルコール系ポリマー全量に対して、例えば50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは30重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、5重量%以下であってもよく、1重量%以下であってもよい。なお、ポリビニルアルコール系ポリマーとしては、実質的に非変性PVAからなるポリビニルアルコール(PVA)を好ましく採用し得る。
【0042】
また、セルロース誘導体は、主繰返し単位としてβ-グルコース単位を含むポリマーである。セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。また、デンプン誘導体は、主繰返し単位としてα-グルコース単位を含むポリマーである。デンプン誘導体としては、例えば、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0043】
ここに開示される技術において、表面保護剤として用いられる水溶性高分子の分子量は特に限定されない。基板表面の保護性や研磨性能向上の観点からは、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)を大きくすると好ましい。そのような観点から、上記Mwは、凡そ、5×10以上であってもよく、1×10以上であってもよく、2×10以上であってもよく、2.5×10以上であってもよく、3×10以上であってもよく、5×10以上であってもよい。また、濃縮効率等の観点からは、水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)を小さくすると好ましい。そのような観点から、上記Mwは、凡そ、100×10以下であってもよく、50×10以下であってもよく、35×10以下であってもよく、20×10以下であってもよい。なお、上記Mwは、ポリビニルアルコールに対して特に好ましく採用され得る。
【0044】
なお、本明細書において水溶性高分子化合物および界面活性剤の重量平均分子量(Mw)としては、水系のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10~8/0~2
流速:1mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:200μL
【0045】
また、研磨用組成物における水溶性高分子化合物の含有量が多くなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、水溶性高分子化合物の含有量は、凡そ、0.01重量%以上であってもよく、0.05重量%以上であってもよく、0.1重量%以上であってもよく、0.15重量%以上であってもよい。また、水溶性高分子化合物の含有量が少なくなるにつれて、研磨レートが向上する傾向がある。そのような観点から、水溶性高分子化合物の含有量は、1重量%以下であってもよく、0.7重量%以下であってもよく、0.5重量%以下であってもよく、0.4重量%以下であってもよく、0.3重量%以下であってもよく、0.25重量%以下であってもよい。
【0046】
(界面活性剤)
また、ここで開示される研磨組成物は、界面活性剤(典型的には、Mwが5×10未満の水溶性有機化合物)を含み得る。界面活性剤は、研磨組成物の分散安定性向上に寄与し得る。界面活性剤としては、アニオン性またはノニオン性のものを好ましく採用し得る。低起泡性やpH調整の容易性の観点から、ノニオン性の界面活性剤がより好ましい。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のオキシアルキレン重合体;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリルエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のポリオキシアルキレン付加物;複数種のオキシアルキレンの共重合体(例えば、ジブロック型共重合体、トリブロック型共重合体、ランダム型共重合体、交互共重合体);等のノニオン性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
また、界面活性剤のMwが大きくなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、界面活性剤のMwは、凡そ、200以上であってもよく、250以上であってもよく、300以上であってもよく、500以上であってもよい。また、界面活性剤のMwが小さくなるにつれて、研磨組成物の濾過性や研磨対象物の洗浄性が向上する傾向がある。そのような観点から、界面活性剤のMwは、5×10未満であってもよく、4500以下であってもよく、4000以下であってもよい。
【0047】
<研磨用組成物の製造>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0048】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分のうち一部の成分を含むA液と、残りの成分を含むB液とが混合されて研磨に用いられるように構成されていてもよい。例えば、砥粒や種々の添加剤を含むA液と、酸やアルカリなどのpH調整剤を含むB液とを別途調製し、pHが4.0以上12.0未満になるように、これらを混合すると好ましい。
【0049】
ここに開示される研磨用組成物は、酸化ガリウム基板に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で、1.2倍~50倍程度とすることができる。
【0050】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を酸化ガリウム基板に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒(例えば、水)を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
このとき、研磨液における砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨レートが向上する傾向がある。そのような観点から、研磨液における砥粒の含有量は、凡そ、1重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよく、7.5重量%以上であってもよく、10重量%以上であってもよい。研磨液における砥粒の含有量が少なくなるにつれて、良好な面品質を得られやすくなる傾向がある。そのような観点から、上記含有量は、凡そ、50重量%以下であってもよく、45重量%以下であってもよく、40重量%以下であってもよく、35重量%以下であってもよく、30重量%以下であってもよい。
【0051】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、酸化ガリウム基板の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物を希釈することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
次いで、その研磨液を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて研磨対象物の表面(研磨対象面)に上記研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。
【0052】
この明細書によると、酸化ガリウム基板を研磨する研磨方法および該研磨方法を用いた酸化ガリウム基板の製造方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示される研磨用組成物を用いて酸化ガリウム基板の表面を研磨する工程を含むことによって特徴づけられる。ここに開示される研磨方法の好ましい一態様は、粗研磨工程(ラッピング工程)と、仕上げ研磨工程(ポリシング工程)と、を含んでいる。ここでいう粗研磨工程とは、仕上げ研磨工程の前に配置される研磨工程であり、酸化ガリウム基板の厚みを調整するために実施される。例えば、この粗研磨工程では、ダイヤモンド砥粒を含む研磨用組成物を使用した研磨が行われる。また、ここでいう仕上げ研磨工程は、砥粒を含む研磨用組成物を用いて行われる研磨工程の最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう。なお、ここに開示される研磨方法は、粗研磨工程の前や、粗研磨工程と仕上げ研磨工程との間に追加の工程(洗浄工程や予備研磨工程)を含んでもよい。
【0053】
ここに開示される研磨用組成物を用いた研磨によると、表面粗さRa[nm]が0.1nm以下という平滑性の高い表面を有する酸化ガリウム基板を得ることができる。このため、ここに開示される研磨用組成物は、研磨工程の最後に配置される仕上げ研磨工程に特に好ましく使用され得る。なお、上記の記載は、ここに開示される研磨用組成物を仕上げ研磨工程で使用することに限定するものではない。すなわち、ここに開示される研磨用組成物は、粗研磨工程で用いられてもよいし、粗研磨工程および仕上げ研磨工程の両方で用いられてもよい。また、粗研磨工程と仕上げ研磨工程の他に研磨工程(例えば、予備研磨工程)を配置した場合には、当該他の研磨工程に、ここで開示される研磨組成物を用いることもできる。
【0054】
なお、仕上げ研磨工程は、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物(酸化ガリウム基板)を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、研磨用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方より研磨用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0055】
また、仕上げ研磨工程に使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、軟質発泡ポリウレタンタイプ、硬質発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプの研磨パッドを用いることができる。これらのなかでも、軟質発泡ポリウレタンタイプの研磨パッドを好ましく用いることができる。この軟質発泡ポリウレタンタイプの研磨パッドとしては、少なくとも研磨対象物に押しつけられる側が軟質発泡ポリウレタンにより構成されている研磨パッドであり、例えばスウェードタイプの研磨パッドが挙げられる。また、スウェードタイプの研磨パッドのなかでも、ショアA硬度が60以下の研磨パッドを好ましく用いることができる。なお、ショアA硬度は、研磨パッドを湿度20~60%の乾燥状態で室温に60分以上置いた後に、JIS K6253に準拠したゴム硬度計(A型)を用いて測定された値である。
【0056】
<酸化ガリウム基板の製造方法>
ここに開示される技術には、酸化ガリウム基板の製造方法および該方法により製造された酸化ガリウム基板の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を酸化ガリウム基板に供給して該酸化ガリウム基板を研磨する研磨工程を含む、酸化ガリウム基板の製造方法および該方法により製造された酸化ガリウム基板が提供される。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。
【実施例
【0057】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0058】
≪試験A≫
<研磨用組成物の調製>
(実施例1A)
コロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm)と脱イオン水とを含む砥粒濃度20%の混合液を調製し、この混合液に硝酸を添加してpHを7.0に調整して、本例の研磨用組成物を調製した。
【0059】
(実施例2A)
コロイダルシリカ(平均一次粒子径:72nm)を使用した他は、実施例1Aと同様の条件で本例に係る研磨用組成物を調製した。
【0060】
(実施例3A)
ヒュームドシリカ(平均一次粒子径:30nm)と脱イオン水とを含む砥粒濃度40%の混合液を調製し、この混合液に塩酸を添加してpHを11.5に調整して、本例の研磨用組成物を調製した。
【0061】
(実施例4A)
α-アルミナ(平均二次粒子径:440nm)と脱イオン水とを含む砥粒濃度40%の混合液を調製し、この混合液に48%の水酸化カリウム水溶液を添加してpHを7.0に調整して、本例の研磨用組成物を調製した。
【0062】
(比較例1A)
本例の研磨用組成物としては、脱イオン水を使用した。
【0063】
<研磨レートの評価>
各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用してβ酸化ガリウム基板に対する研磨試験を行い、研磨レートを評価した。研磨対象物としては、表面(研磨対象面)の面積が1.5cmのβ酸化ガリウム基板を使用し、この基板の表面を以下の研磨条件で研磨した。そして、以下の計算式(1)、(2)に従って研磨レートを算出した。なお、本試験では、3枚のβ酸化ガリウム基板の研磨を行い、その平均値を算出した。結果を表1に示す。
(1)研磨取り代[cm]=研磨前後の酸化ガリウム基板の重量の差[g]/酸化ガリウムの密度[g/cm](=5.88g/cm)/研磨対象面積[cm](=1.5cm
(2)研磨レート[nm/分]=研磨取り代[cm]×10/研磨時間(=30分)
【0064】
[研磨条件]
研磨装置:宇田川鐵工株式会社製のレンズ研磨機
研磨荷重:500g/cm
定盤の回転速度:130rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:130rpm
研磨パッド:フジミインコーポレーテッド株式会社製 「SURFIN SSW-1」
研磨液の供給レート:100mL/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:30min
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、実施例1Aから実施例4Aの研磨用組成物を用いた研磨では、比較例1Aの研磨用組成物を用いた研磨に比して、良好な研磨レートを得ることができた。このことから、酸化ガリウム基板の研磨には当該基板と研磨パッドとの摩擦以上の負荷を与える必要があることが分かり、砥粒を含有する研磨用組成物を用いて研磨することが好ましいことがわかる。
【0067】
≪試験B≫
<研磨用組成物の調製>
(実施例1B~4B)
硝酸の添加量を変更した他は実施例1Aと同様にして、実施例1AとはpHが異なる実施例1B~4Bの研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物のpHは表2に示すとおりである。
【0068】
(比較例1B)
本例の研磨用組成物としては、比較例1Aと同様に、脱イオン水を使用した。
【0069】
<研磨レートの評価>
各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、以下の条件でβ酸化ガリウム基板の研磨を行い、研磨レートを評価した。結果を表2に示す。
【0070】
[研磨条件]
研磨装置:日本エンギス株式会社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨荷重:280g/cm
定盤の回転速度:60rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:60rpm
研磨パッド:フジミインコーポレーテッド株式会社製 「SURFIN 019-3」
研磨液の供給レート:10mL/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:30min
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、実施例1Bから実施例4Bの研磨用組成物を用いた研磨では、比較例1Bの研磨用組成物を用いた研磨に比して良好な研磨レートが得られた。このことからも、酸化ガリウム基板の研磨では砥粒を含有する研磨用組成物を用いて研磨することが好ましいことがわかる。
【0073】
≪試験C≫
<研磨用組成物の調製>
本試験では、試験Bの実施例1Bと同じ研磨用組成物を用いた。
【0074】
<研磨量>
実施例1Bに係る研磨用組成物を研磨液として使用して、β酸化ガリウム基板の研磨試験を実施した。なお、本試験では、研磨時間を1時間に変更した他は、試験Aと同じ条件で研磨を行い、研磨開始後30分と1時間の時点での研磨量[μm]を測定した。結果を図1のグラフの四角のプロットで示す。
【0075】
<表面粗さRa>
また、研磨開始後30分と1時間の時点でのβ酸化ガリウム基板の表面粗さRa[nm]も測定した。結果を図1のグラフのひし形のプロットで示す。なお、表面粗さRaの測定条件は以下のとおりである。
[Ra測定条件]
評価装置:Bruker社製 原子間力顕微鏡(AFM)
装置型式:Nanoscope V
視野角:10μm角
走査速度:1Hz(20μm/秒)
走査あたりの測定点数:256(点)
走査本数:256(本)
測定部位:5(ウェーハ中心部の1か所と、該ウェーハの1/2半径部の周上における90°間隔の4か所について測定を行い、上記5か所における測定結果の平均をRaとして記録した。)
【0076】
図1に示すように、実施例1Bの研磨用組成物を用いた研磨では、研磨開始後1時間での研磨量が5.3μmとなり、良好な研磨効率が得られた。また、研磨開始後30分の間に表面粗さRaの大幅な低下が確認され、1時間後には表面粗さRaが0.1nmという平滑な表面を有する酸化ガリウム基板が得られた。
【0077】
≪試験D≫
<研磨用組成物の調製>
(実施例1D~4D)
添加する酸の種類をリン酸に変更した他は実施例1Aと同様にして、実施例1D~4Dの研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物のpHは表3に示すとおりである。
【0078】
(比較例1D)
本例の研磨用組成物としては、比較例1Aと同様に、脱イオン水を使用した。
【0079】
<研磨レートの評価>
各例に係る研磨用組成物を研磨液として使用し、以下の条件でβ酸化ガリウム基板の研磨を行い、研磨レートを評価した。研磨レートは、上記(2)の計算式において研磨時間を60分として算出した。結果を表3に示す。
【0080】
[研磨条件]
研磨装置:日本エンギス株式会社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨荷重:240g/cm
定盤の回転速度:60rpm
ヘッド(キャリア)の回転速度:60rpm
研磨パッド:ニッタハース株式会社製 「SUBA 800」(不織布タイプ)
研磨液の供給レート:10mL/min
研磨液の温度:20℃
定盤冷却水の温度:20℃
研磨時間:60min
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示すように、実施例1Dから実施例4Dの研磨用組成物を用いた研磨では、比較例1Dの研磨用組成物を用いた研磨に比して良好な研磨レートが得られた。このことからも、酸化ガリウム基板の研磨では砥粒を含有する研磨用組成物を用いて研磨することが好ましいことがわかる。実施例1D,2Dでは特に良好な結果が得られた。
【0083】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図1